1.標題:フラーレンに内包されたリチウムイオンのダイナミクス解明 区分

1.標題:フラーレンに内包されたリチウムイオンのダイナミクス解明
区分
学内公募
所属
システム自然科学研究科
補職
准教授
氏名
青柳忍
分担者
2.要旨:
フラーレンに内包された金属原子のダイナミクスを制御することで、 単分子メモリ機能な
どの、金属内包フラーレンに特有の新しい機能と物性の発現が期待される。本研究では、
誘電率測定、中性子散乱、X 線回折などを駆使して、フラーレンに内包されたリチウムイ
オ ン の ダ イ ナ ミ ク ス を 多 角 的 に 解 明 す る と 共 に 、 C60 内 部 の ポ テ ン シ ャ ル 制 御 を 目 指 し た
基礎研究を行った。
キーワード:内包フラーレン、結晶構造解析、ナノ材料、分子素子
3.概要
①研究目的:
本 研 究 で は 、 誘 電 率 測 定 、 中 性 子 散 乱 、 X線 回 折 な ど を 駆 使 し て 、 フ ラ ー レ ン に
内 包 さ れ た リ チ ウ ム イ オ ン の ダ イ ナ ミ ク ス を 多 角 的 に 解 明 す る と 共 に 、C 6 0 内 部 の ポ
テンシャル制御を目指した基礎研究を行う。そのために、本研究では以下のことを
明らかにする。
1. 誘 電 率 の 温 度 及 び 周 波 数 依 存 性 の 測 定 に よ り 、 C 6 0 内 の リ チ ウ ム イ オ ン が 電 場 印
加に対してどのように応答するのか、誘電特性の面から明らかにする。
2. X 線 回 折 に 比 べ て リ チ ウ ム イ オ ン に 対 す る 散 乱 能 が 大 き い 中 性 子 回 折 に よ り 、C 6 0
内のリチウムイオンの位置の温度変化を、従来より詳細に明らかにする。
3. Li + @C 6 0 に 官 能 基 を 付 加 さ せ た 化 学 修 飾 体 に 対 し て 、リ チ ウ ム イ オ ン の C 6 0 内 の 占
有 位 置 を 調 べ る こ と で 、 官 能 基 付 加 に よ る C60 内 の ポ テ ン シ ャ ル 変 化 を 明 ら か に
する。
② 研究方法:
1. 誘 電 率 の 温 度 及 び 周 波 数 依 存 性 の 計 測
誘 電 率 の 温 度 及 び 周 波 数 依 存 性 の 測 定 に よ り 、C 6 0 内 の リ チ ウ ム イ オ ン が 電 場 印 加
に 対 し て ど の よ う に 応 答 す る の か 、誘 電 特 性 の 面 か ら 明 ら か に す る 。Li + @C 6 0 の 単 結
晶に対して、誘電率の温度及び周波数依存性の測定を行う。
2. 中 性 子 結 晶 構 造 解 析 に よ る 分 子 構 造 の 温 度 変 化 の 精 密 計 測
X線 回 折 に 比 べ て リ チ ウ ム イ オ ン に 対 す る 散 乱 能 が 大 き い 中 性 子 回 折 を 用 い て 、
C 6 0 内 の リ チ ウ ム イ オ ン の 位 置 の 温 度 変 化 を 、従 来 よ り 詳 細 に 明 ら か に す る 。実 験 は
大 強 度 陽 子 加 速 器 施 設 J-PARCで 行 う 。
3. 化 学 修 飾 に よ る 分 子 構 造 の 変 化 の 計 測
Li + @C 6 0 の 化 学 修 飾 体 の 結 晶 を 作 製 し 、 そ の 分 子 構 造 を 放 射 光 X 線 回 折 に よ り 決 定 す
る 。 そ れ に よ り 、 官 能 基 付 加 が C60 内 部 の ポ テ ン シ ャ ル に 及 ぼ す 変 化 を 明 ら か に す る 。
③ 究成果及び考察とまとめ:
1. リ チ ウ ム イ オ ン 内 包 フ ラ ー レ ン Li + @C 6 0 と PF 6 − と の 塩 [Li@C 6 0 ](PF 6 )に 対 す る 誘 電
率測定の結果、低温でキュリー・ワイス則に従う誘電率の増大が観測された。こ
れは、電場によって誘起される内包リチウムイオンのダイナミクスが温度によっ
て 変 化 す る こ と を 証 明 す る 。 誘 電 率 は 18 K 付 近 で 極 大 を 示 し 、 そ れ よ り 低 温 で
減 少 し た 。6 K で 行 っ た 大 型 放 射 光 施 設 SPring-8 で の X 線 単 結 晶 構 造 解 析 の 結 果
から、この誘電率の異常は反強誘電的な相転移によるものであると結論づけられ
た 。 今 後 、 18 K 以 下 で の D-E 曲 線 の 測 定 に よ り 、 物 性 面 か ら 反 強 誘 電 性 の 検 証
を 行 う 予 定 で あ る 。こ の 研 究 成 果 の 一 部 は 、第 46 回 フ ラ ー レ ン・ナ ノ チ ュ ー ブ ・
グラフェン総合シンポジウムにて口頭発表した。
2. [Li@C 6 0 ](PF 6 )に 対 し て 、 大 強 度 陽 子 加 速 器 施 設 J-PARC に て 、 TOF 中 性 子 粉 末 回
折実験を行った。試料の量及びマシンタイムが十分に確保できず、内包リチウム
イオンの原子核位置の決定に十分な精度のデータは得られなかったが、基礎的な
データ収集に成功した。今後、試料の量及びマシンタイムをそれぞれ倍以上に増
や し て 、再 度 実 験 を 行 う 予 定 で あ る 。こ の 研 究 成 果 の 一 部 は 、日 本 物 理 学 会 2013
年秋季大会にて口頭発表した。
3. シ ク ロ ヘ キ サ ジ エ ン を 付 加 し た Li + @C 6 0 と [B{3,5-(CF 3 ) 2 C 6 H 3 } 4 ] − と の 塩
[Li@C 6 0 (C 6 H 8 )](TFPB) に 対 し て SPring-8 で X 線 単 結 晶 構 造 解 析 を 行 な っ た 。
[Li@C 6 0 ](PF 6 ) の リ チ ウ ム イ オ ン は 100K で も 非 局 在 性 が 強 い の に 対 し て 、
[Li@C 6 0 (C 6 H 8 )](TFPB)で は リ チ ウ ム イ オ ン が 150K で 官 能 基 に 近 い 1 つ の 6 員 環 の
中 心 近 傍 に 局 在 す る こ と が 分 か っ た 。今 後 、官 能 基 付 加 し て い な い [Li@C 6 0 ](TFPB)
の結晶構造解析も行い、詳細な構造比較を行う予定で ある。この研究成果の一部
は 論 文 に ま と め 、 現 在 J. Am. Chem. Soc. 誌 に 投 稿 中 で あ る 。