金属原子内包フラーレンの 選択的堆積技術 東洋大学 理工学部生体医工学科 本橋 健次 教授 1 原子内包フラーレンの生成例と応用分野 内包フラー 応用 レン 論文 内包原子 Li Li@C60 Li+@C60 有機太陽電池 強誘電体 Simon et al., Chem. Phys. Lett. 383 (2004) 362. N@C60 N@C80 N@C82 He@C60 He@C70 超伝導材料 Kaneko et al., Phys. Plasmas 14 (2007) N 110705. 単分子メモリー/スイッチ/ トランジスター Yasutake, et al., Nano. Lett. 5 (2005) He 1057. Morinaka et al, Nature Communications 4 (2013) 1554. RI@C60 RI@C80 RI@C82 ドラッグデリバリーシステム 中性子捕捉療法 Ohtsuki et al., Phys. Rev. B 72 (2005) 153411. RI = Gd M@C82 M@C80 MRI造影剤 Mikawa et al., Bioconjugate. Chem. 12 (2001) 510. M = Gd, Ce, Y, Sc, Er, Lu 特に磁性金属原子(Fe, Co, Ni等)内包フラーレンが注目されている。 →医療分野での応用に期待 →しかし、生成法が確立していない。 2 従来技術 ① アーク放電法:金属を練りこんだグラファイトを低圧の希 ガス雰囲気でアーク放電させ、煤に含まれる微量のフ ラーレン混合物を精製する。 ② イオン注入法(プラズマ放電法):真空中でフラーレン分 子を昇華させ、窒素やリチウムを含むプラズマを作用さ せる。 ③ 高温高圧処理法:フラーレンに高温(650℃以上)高圧 (3000気圧程度)のガスを接触させる。 ④ 分子手術法:有機化学反応によりフラーレン分子に開口 を開け、原子や分子を挿入してから開口部を修復する。 3 従来技術の問題点 1.特定の元素に対してのみ有効(汎用性 に乏しい。) 2.所望の分子に所望の原子を内包させる ことが難しい。(反応選択性に乏しい。) 3.生成物から内包フラーレンだけを単離・ 精製することが難しい。(多段階のプロ セスが必要。) 4 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術では、特定の元素に対してのみ有効であった が、新技術では内包したい元素を表面に持つ薄膜を使 えば、原理的には様々な元素に適用可能。 • 従来技術では、反応選択性が乏しく、特定の内包フラー レンだけを効率的に合成することが難しかったが、新技 術では所望の元素を所望のフラーレン分子だけに効率 よく内包させることが可能。 • 従来技術では、合成・単離・精製を別々のプロセスによ り行う必要があったが、新技術では合成・単離・精製を 同時に行うことが可能。 5 新技術の概要 内壁に金属分子薄膜を有するイオン流路にフラーレンイオンビー ムを入射し、出射した内包フラーレンを選別しながら基板に堆積 新技術の例 例)フェロセン (Fe(C5H5)2)終端 自己組織化単分子膜 例)円筒面間イオン流路 円筒凸面 鉄原子 チオール単分子膜 CH3(CH2)11SH C60 イオンビーム Fe@C60 円筒凹面 6 実証試験の概要 ① 鉄原子内包フラーレンの合成 フェロセン被覆円筒面間イオン流路 g = 1.2mm フェロセン被覆円 Cylindrical-convex glass lens フェロセン被覆円筒 Cylindrical-concave glass lens (R=155.7mm) 凹面ガラス アルミ製ハウ ジング(側面) 筒凸面ガラス (R=155.7 mm) θ フェロセン被覆 円筒凸面ガラス LH = 20mm フェロセン被覆 円筒凹面ガラス Aperture アルミ製ハウ (Al) ジング(前面) LD = 20mm フェロセン終端 チオール自己組 織化単分子膜 Ion Beam d = 1.0mm D = 1.5mm SUS 1.2 mmΦベアリング 7 実証試験の概要 ②鉄原子内包フラーレンの同時合成・単離・ 精製の原理 120 mm 50 mm 91 mm 20 mm 144 mm 飛行時間 T 変位 y 30 mm 質量電荷比 m/q 8 実証試験の概要 ③実験セットアップ Fullerene oven 2+ 1.20 C60 [ 10-8] C602+ (4.8 keV) IF~10 nA 4.8 keV 1.00 0 45 Irradiation Chamber (10Φ) 入射フラーレンイオンビームのパルス化電極 出射粒子の質量・電荷選別用電極 出射粒子の検出器(二次元位置画像) 2+ C52 2+; C54 2+ C56 2+ C58 C50 2+ C48 2+ C46 0.20 2+ 0.40 2+ 0.60 C44 IFC (A) 0.80 50 55 60 IAM (A) イオン入射穴(1Φ) 円筒面間イオン流路 (イオンビーム軸に対してチルト可能:チルト角θ) 真空容器圧力 P= 5.0×10-7 Pa 東洋大学 Bio-Nano ECRIS Beam Line 9 実証試験の結果 ①円筒面間イオン流路出射粒子の y 分布 チルト角 θ = 0º チルト角 θ = ‒2º 91.6% 2+ 2+ 5.6% 1+ 1+ 2.8% EPP = 0 V/cm EPP = 112 V/cm 0 0 y分布 10 実証試験の結果 ②円筒面間イオン流路出射粒子のT分布とm/q分布 T分布 C602+ (360 u) C482+ Cn+ (1 ≤ n ≤ 20) Cn2+ (1 ≤ n ≤ 40) C462+ C442+ (FeC60)2+ (388 u) C44+ C46+ C42+ C48+ m/q分布 11 実証試験の結果 ③円筒面間イオン流路出射粒子の質量選別 同時合成・単離・精製の原理実証に成功 12 想定される用途 • 鉄原子内包フラーレン(Fe@C60)に適用できれば、 安全で効果的なMRI(磁気共鳴画像診断)の造 影剤生成法の開発につながると考えられる。 • また、中性子を吸収しやすい原子(Gd,B等)や 各種の放射性原子を内包させる技術へ展開でき れば、ドラッグデリバリーシステムや中性子捕捉 療法のための創薬技術開発に発展させることも 可能であると考えられる。 13 実用化に向けた課題 • 現在、合成粒子を単離・精製しながら基板に 堆積可能であることを実証した。しかし、鉄原 子内包フラーレンの同時合成・単離・精製を実 証する点は未解決である。 • 今後、鉄原子内包フラーレンの同時合成・単 離・精製を実験的に検証すると共に、効率よく 生成するための条件を探索していく。 • 実用化に向けて、大強度のフラーレンイオン ビームが必要である。 14 企業への期待 • 未解決の鉄原子内包フラーレンの同時合成・ 単離・精製は、大強度のフラーレンイオンビー ムにより克服できると考えている。 • フラーレンイオンビームの生成技術を持つ企 業との共同研究を希望。 • 同様の手法により、フラーレン・金属原子混合 プラズマからの金属原子内包フラーレンの同 時合成・単離・精製も可能。 15 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :金属原子内包フラーレン生成装置 • 出願番号 :2014-264024 • 公開番号 :2016-124712 • 出願人 :学校法人東洋大学 • 発明者 :本橋 健次、吉田 善一、内田 貴司 16 お問い合わせ先 東洋大学 産官学連携推進センター (研究推進部 産官学連携推進課) TEL:03− 3945 − 7564 FAX:03− 3945 − 7906 e-mail:ml-chizai@toyo.jp 17
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