大手航空会社の子会社 LCC における ネットワーク戦略について

177
大手航空会社の子会社 LCC における
ネットワーク戦略について
―豪ジェットスターを例にして―
水 谷 淳
要 旨
本稿では,就航路線,各路線の供給量(便数・座席数),競合路線におけるスケジューリング
といったネットワーク戦略の面からカンタス航空の子会社 LCC であるジェットスターの行動を
考察した。そして,ジェットスターのネットワーク戦略は,基本的にヴァージン・オーストラリ
アに対抗するもので,競合路線数や供給量に現れるカンタスとジェットスターの競合関係の多く
は,カンタスグループのライバルであるヴァージンとの競合関係の強化の結果として,副次的に
生じたものである可能性が高いことが示された。
1.はじめに
各国の大手航空会社は,新興 LCC(Low Cost Carrier)に対抗するための手段として,1990 年
代以降,子会社 LCC を設立してきた。しかしながら,それらの多くは短期間で運航を停止し,
イギリス・オランダ・スペインでは,いずれも子会社 LCC を設立するきっかけとなった新興
LCC に統合されるという皮肉な結果を生んでいる(表 1)。わが国でも子会社 LCC として,日
本航空がジェットスター・ジャパンを,全日空がピーチ・アビエーションとエアアジア・ジャ
パンを設立し,いずれも 2012 年に運航を開始させたが,エアアジア・ジャパンは翌 2013 年に
全日空とエアアジアの提携が解消され,同社は全日空 100% 出資子会社のバニラ・エアとして
再出発するなど,試行錯誤が続いている。
そのような中,大手航空会社の子会社 LCC として設立され,堅調な業績を推移させている
のが,豪ジェットスターである。同社は,2000 年 8 月にオーストラリアの国内線に参入した
LCC のヴァージン・ブルー(現ヴァージン・オーストラリア)に対抗するために,カンタス
航空が 100% 出資して 2003 年に設立した子会社で,2004 年 3 月に運航を開始した。その後,
〔キーワード〕
子会社 LCC,ネットワーク戦略,代替関係・補完関係,フライトスケジューリング
178
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
表 1 運航を停止した欧米の主な LCC 子会社
子会社 LCC
親会社
Continental Lite
Continental
1993–1995
Shuttle by United
United
1994–2001
TED
United
2003–2004
Delta Express
Delta
1996–2003
SONG
Delta
2003–2006
MetroJet
US Airways
1998–2001
イギリス
GO
British Airways
1998–2003(easyjet に統合)
オランダ
Buzz
KLM
2000–2004(Ryanair に統合)
スペイン
Clickair
Iberia
2006–2009(Vueling に統合)
アメリカ
運航期間
アジア地区において,ジョイント・ベンチャー方式でジェットスター・アジア(シンガポール),
ジェットスター・パシフィック(ベトナム),ジェットスター・ジャパン(日本),ジェットス
ター・香港(香港)を設立し,ジェットスターグループを形成している。カンタスグループの
Annual Report によると,ジェットスターグループの収入は 2012 年度で 3,288 百万豪ドルと親
会社であるカンタス(カンタスリンク,Network Aviation を含む)の 11,714 百万豪ドルに比べ
れば 3 割程度しかない。その一方で,利潤(EBIT:税引前利子払前利益)を見ると,ジェッ
トスターの 138 百万豪ドルに対し,カンタスは,欧州路線における中東エアラインとの競合で
不調の国際線が影響して 119 百万豪ドル(国内線は 365 百万豪ドルの黒字,国際線は 246 百万
豪ドルの赤字)にとどまり,ジェットスターの利潤の方が大きい。このようにカンタスグルー
プにおけるジェットスターの重要度は,年々高くなっている。くわえてカンタスの国内線は黒
字であり,オーストラリア国内におけるジェットスターとの共存にも成功している。
本稿では,ジェットスターを例に子会社 LCC のネットワーク戦略を定量的に分析し,カン
タスグループとしてのジェットスターの位置づけを考察する。子会社 LCC に関する先行研究
としては,Morrell(2005),Graham and Vowles(2006),Gillen and Gados(2008)や Ko and
Hwang(2011),海保(2013)などがある。本稿は,これらで行われたビジネスモデルの定性
分析,シミュレーション分析,財務分析による研究成果に,実証的なネットワーク分析の研究
結果を加えたい。以下では,第 2 節でオーストラリアの国内航空市場を概観した後,第 3 節で
はジェットスターの路線ネットワーク戦略について OAG(Official Airline Guide)のフライト
データを用いて分析する。そして第 4 節で結論が述べられる。
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
179
2.オーストラリアの国内航空市場
2.1 輸送量と輸送属性
図 1 と 2 で 1990 年度から 2011 年度のわが国とオーストラリアの国内線輸送量と輸送属性を
比較する 1)。オーストラリア国内線の市場規模は,図 1 にあるように,輸送人員が 2011 年度
で 4800 万人とわが国の 7800 万人の 6 割程度であるが,オーストラリアの平均輸送距離が長い
ため,輸送人キロベースでは 600 億人キロとわが国の 700 億人キロに近い値となる。また
2006 年度をピークに減少し始めたわが国とは対照的に,オーストラリアでは,9.11 テロのあっ
た 2001 年度を除いて一貫して増加し,20 年間で輸送人員は 3 倍,輸送人キロは 4 倍と著しい
成長を見せている。図 2 で平均輸送距離を見ると,オーストラリアはわが国よりも絶対的に長
いことに加え,20 年間に 1.3 倍に大きく伸びている。また,オーストラリアの平均ロードファ
クターは約 80% とわが国よりも 15% 以上高い。
2.2 航空事業者
航空事業者は,カンタス航空とアンセット・オーストラリア航空の 2 強時代が長らく続いて
いたが,2000 年代に入って,LCC のヴァージン・ブルー(現ヴァージン・オーストラリア)
図 1 豪州とわが国の輸送量(国内線)
出所)わが国:国土交通省「航空輸送統計年報」,豪州:DoIT “Domestic Aviation Activity” より作成。
1) オーストラリアの会計年度は 7 月 1 日から,わが国の会計年度は 4 月 1 日から始まるため,たとえ
ば 2011 年度の数値はオーストラリアでは 2011 年 7 月 1 日~ 2012 年 6 月 30 日,わが国では 2011 年
4 月 1 日~ 2012 年 3 月 31 日と,年度の期間が異なっている。
180
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
図 2 豪州とわが国の輸送属性(国内線)
出所)わが国:国土交通省「航空輸送統計年報」,豪州:DoIT “Domestic Aviation Activity” より作成。
が参入(2000 年),アンセットが経営破綻(2001 年)と,事業者間の競争構造は大きく変化す
ることになった。カンタスは低価格運賃を武器に急成長するヴァージンへの対抗策として,
2003 年に 100% 出資子会社として LCC のジェットスターを設立した。また 2008 年にはシンガ
ポール航空の子会社 LCC であるタイガーエアウェイズ・オーストラリアが参入したものの,
2013 年には同社の株式の 60% がヴァージン・オーストラリアに譲渡され,同社はヴァージン
傘下に入ることとなった。
表 2 は OAG のデータを用いて 2003 年~ 2012 年の各年 10 月の 1 か月間における 4 社(カ
ンタス(QF),ジェットスター(JQ),ヴァージン(DJ),タイガー(TT))のオーストラリア
国内線の就航状況を調べたものである。なお当該月において片道 31 便以上(1 日 1 便以上)
の路線のみを対象とした 2)。まず合計は 2003 年から 2012 年の間に便数で 1.4 倍,座席数で 1.7
倍と大幅に増加している。事業者別では,カンタスの便数は 2009 年までは減少傾向にあり,
2010 年からは増加に転じたものの,2012 年の便数も 2003 年を若干下回っている。一方,座席
数は,2006 年から増加傾向を示し,2012 年には 2003 年を上回った。ヴァージンは便数,座席
数ともに倍増し,ジェットスターも 2004 年の参入後,2012 年までに倍増している。市場シェ
アで見ると,カンタスは 2003 年には便数,座席数ともにシェア 7 割を超えていたが,2012 年
には約半分にまで低下した。しかしながら,カンタスとジェットスターを合わせたカンタス
グループとしては,2012 年においても概ね 2/3 を維持している。2008 年に参入したタイガー
2) 本研究で用いられている OAG データは,すべてこの基準で抽出している。
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
181
表 2 4 社のオーストラリア国内線供給量(各年 10 月)
年
便数
座席数
QF
JQ
DJ
TT
合計
QF
JQ
DJ
TT
合計
2003
21,521
(77.2%)
―
6,343
(22.8%)
―
27,864
2,531,171
(73.5%)
―
913,392
(26.5%)
―
3,444,563
2004
18,530
3,510
8,307
(61.1%)(11.6%)(27.4%)
―
30,347
2,299,090
470,990 1,196,208
(58.0%) (11.9%) (30.2%)
―
3,966,288
2005
18,164
3,688
8,751
(59.4%)(12.1%)(28.6%)
―
30,603
2,218,933
570,096 1,251,351
(54.9%) (14.1%) (31.0%)
―
4,040,380
2006
18,532
3,782
9,138
(58.9%)(12.0%)(29.1%)
―
31,452
2,384,457
669,414 1,306,734
(54.7%) (15.4%) (30.0%)
―
4,360,605
2007
19,129
4,061
9,573
(58.4%)(12.4%)(29.2%)
―
32,763
2,501,096
724,719 1,367,899
(54.4%) (15.8%) (29.8%)
―
4,593,714
2008
19,172
4,714
11,702
632
2,561,247
825,586 1,567,645 113,760
36,220
5,068,238
(52.9%)(13.0%)(32.3%)(1.7%)
(50.5%) (16.3%) (30.9%) (2.2%)
2009
11,245
1,133
2,397,038
862,828 1,440,916 203,940
17,869
5,052
35,299
4,904,722
(48.9%) (17.6%) (29.4%) (4.2%)
(50.6%)(14.3%)(31.9%)(3.2%)
2010
18,790
5,738
11,998
1,577
2,515,148
973,344 1,548,430 283,860
38,103
5,320,782
(49.3%)(15.1%)(31.5%)(4.1%)
(47.3%) (18.3%) (29.1%) (5.3%)
2011
18,895
5,610
11,745
620
2,498,092
955,132 1,560,584 111,600
36,870
5,125,408
(51.2%)(15.2%)(31.9%)(1.7%)
(48.7%) (18.6%) (30.4%) (2.2%)
2012
20,122
6,300
12,996
972
2,750,106 1,079,490 1,897,028 175,140
40,391
5,991,764
(49.8%)(15.6%)(32.2%)(2.4%)
(45.9%) (18.0%) (33.2%) (2.9%)
注)カッコ内はシェア。他に 20 社を超えるリージョナルエアラインがある。
出所)OAG データより作成。
は 2010 年には便数が 4.1%,座席数が 5.3% まで拡大したものの,その後は縮小し 2012 年には
両方とも 2% 台となり,前述のように 2013 年にはヴァージン傘下となった。結果,現在のシェ
アは,便数,座席数ともカンタスグループが 2/3,ヴァージングループが 1/3 となっている。
表 3 は,2007 年から 2012 年におけるタイガーを除いた大手 3 社の営業指標である。カンタ
スの輸送人員と輸送人キロを見ると,両指標とも国内線では大きな変化がない一方,国際線は
輸送人員では 30%,輸送人キロでも 20% と大きく減少している。国際線・国内線別に利潤が
公表されている 2011 年,12 年では,2 年間とも国際線が赤字となっている。国際線の不振は
特に欧州路線における中東のエアラインとの競合が影響している。そして 2013 年には,不振
の原因となった中東のライバル,エミレーツ航空とコードシェアを開始するに至り,ライバル
のエミレーツのオーストラリア国内フィーダー輸送を担うべく経営方針を転換したことが窺え
る。ジェットスターは 2008 年のリーマンショック以降も着実に輸送量,収入を伸ばし利潤を
確保している。ここで注目すべきは,ジェットスターもカンタスの国内線も 2011 年,2012 年
と黒字を計上しており,親会社と子会社の共存に成功している点である。一方のヴァージンは
27,742
26,863
27,907
28,017
27,881
2009
2010
2011
2012
8,367 6,198 9,753 6,796 19,300
19,400
18,600
18,600
18,200
23,720
9,060 9,080 18,140
34,570
国内 28,352 国内 13,958 国際 47,983 国際 20,612 76,335
32,353
27,812
国内 28,714 国内 12,798 国際 51,165 国際 19,555 79,339
78,947
国内 27,943 国内 11,369 国際 51,004 国際 16,443 国内 27,028 国内 9,456 国際 49,979 国際 14,264 77,007
81,036
国内 26,699 国内
国際 54,337 国際
8,602 7,099 JQ
15,701
国内 27,285 国内
国際 59,030 国際
86,315
QF
DJ
31,300
31,100
29,569
26,894
21,800
18,764
輸送人キロ(百万人キロ)
国内 6,218 国際 5,496 11,714
国内 6,063 国際 5,770 11,833
11,315
10,609
11,624
12,971
QF
3,288
3,076
2,613
2,197
1,851
1,564
JQ
4,020
3,920
3,271
2,982
2,635
2,335
DJ
収入(百万豪ドル)
注)QF の国内線はカンタスリンクを含む。JQ の国際線はジェットスター・アジアを含む。DJ は国内線・国際線を含む。
出所)Qantas Data Book, Qantas Annual Report, Virgin Australia Annual Report より作成。
国内 22,116 国内 11,610 国際 5,765 国際 8,785 20,395
国内 21,983 国内 10,697 国際 6,034 国際 7,994 18,691
国内 21,930 国内
国際 5,977 国際
16,549
国内 20,963 国内
国際 5,900 国際
14,565
8,110 2,586 10,696
国内 20,499 国内
国際 7,243 国際
2008
16,700
9,174
7,596 1,578 DJ
JQ
輸送人員(千人)
国内 21,309 国内
国際 8,138 国際
29,447
QF
2007
年
表 3 3 社の営業指標
292
DJ
548
78
-18
138
-37
117
国内 365(5.9%) (4.2%)(-0.9%)
国際 -246(-4.5%)
119(1.0%)
203
(6.5%)(-0.6%)
169
(6.0%) (2.6%)
131
(5.8%)(20.8%)
107
(6.5%)(12.5%)
102
JQ
国内 463(7.6%) (6.6%) (3.0%)
国際 -484(-8.4%)
-21(-0.2%)
228(2.0%)
67(0.6%)
4(0.0%)
1,358(10.5%)
QF
利潤(EBIT)
(百万豪ドル)
(利益率)
182
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
183
表 4 出発便数の上位 10 空港(各年 10 月)
順位
(2012 年)
空港
2003
2006
2009
2012
1位
SYD(シドニー)
6,585(100) 7,128(108) 7,629(116) 8,422(128)
2位
MEL(メルボルン タラマリン)
5,053(100) 5,634(111) 5,602(111) 6,488(128)
3位
BNE(ブリスベン)
3,938(100) 4,745(120) 5,262(134) 6,113(155)
4位
PER(パース)
1,443(100) 1,513(105) 2,040(141) 2,653(184)
5位
ADL(アデレード)
1,580(100) 1,755(111) 1,771(112) 2,158(137)
6位
CBR(キャンベラ)
1,421(100) 1,521(107) 1,790(126) 1,777(125)
7位
CNS(ケアンズ)
1,084(100) 1,236(114) 1,211(112) 1,430(132)
8位
OOL(ゴールドコースト)
728(100) 1,050(144) 1,146(157) 1,322(182)
9位
TSV(タウンズビル)
489(100)
530(108)
743(152)
790(162)
MKY(マッカイ)
306(100)
379(124)
492(161)
601(196)
10 位
注)括弧内は 2003 年を 100 とした指数。
出所)OAG データより作成。
輸送量,収入ともに増加して来たものの 2010 年,2012 年には赤字を計上している。またヴァー
ジンもエティハド航空とコードシェアを行い,カンタス同様に中東エアラインのオーストラリ
ア国内フィーダー輸送を担っている。
2.3 空港
2012 年 10 月における出発便ベースでの上位 10 空港について,2003 年からの推移が表 4 に
示されており,1 位シドニー,2 位メルボルン(タラマリン),3 位ブリスベンの順となっている。
3 位ブリスベンの便数は 4 位アデレードの 2.3 倍(2012 年)で,上位 3 空港の便数は圧倒的で
ある。またメルボルンにはプライマリー空港としてのタラマリン空港とセカンダリー空港とし
てのアバロン空港があり,後者には便数は多くないもののジェットスターが就航している。括
弧内は 2003 年を 100 とした指数であるが,特にパース,ゴールドコースト,マッカイでの増
加が著しい。図 2 で平均輸送距離の増加が確認されたが,これらにはパース便の増加も大きく
影響している。ゴールドコーストは,2008 年にカンタスが撤退したが,ジェットスターがハ
ブ空港として利用していることが影響している。
3.ジェットスターのネットワーク戦略
3.1 就航路線
まずは,各社の就航路線と競合状況を見てゆきたい。表 5 は 4 社の就航路線数の推移を示し
ているが,総路線数は 2003 年の 88 路線から 2012 年の 100 路線に増加している。2003 年には
184
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
表 5 4 社の就航路線数(各年 10 月)
競合路線数
就航路線数
4社
3社
2社
1社
QF
JQ
DJ
TT
合計
QF
JQ
DJ
TT
2003
87
0
27
0
88
0
0
0
0
26
0
0
61
0
1
2004
82
20
35
0
95
0
9
0
0
18
6
0
55
5
2
QF
JQ
DJ
QF
DJ
TT
JQ
DJ
TT
QF
DJ
JQ
DJ
QF
JQ
QF
JQ
DJ
2005
77
25
37
0
93
0
11
0
0
16
8
0
50
6
2
2006
78
27
38
0
95
0
14
0
0
13
7
0
51
6
4
2007
79
31
39
0
98
0
15
0
0
12
8
1
51
7
4
2008
76
32
46
6
99
4
10
1
1
14
9
2
45
6
7
2009
74
37
55
8
99
6
13
0
2
16
9
2
37
5
9
2010
77
39
55
14
104
7
11
2
5
13
8
2
41
6
9
2011
76
37
52
4
98
3
16
0
1
16
10
2
39
5
6
2012
78
37
57
4
100
3
18
0
1
18
11
0
39
4
6
出所)OAG データより作成。
カンタスは 87 路線に就航し,そのうち単独路線は 61,ヴァージンとの競合路線は 26 である。
ヴァージン単独路線は 1 路線(アデレード⇔ゴールドコースト)しかない。ヴァージンとジェッ
トスターが路線拡大を続ける中,カンタスは,純粋な路線撤退とジェットスターへの路線移管
によって,2012 年には 78 へ路線数を減らしている。カンタスとヴァージンの競合路線は増加
し続け,2012 年では 39 路線(4 社競合 3,3 社競合 18,2 社競合 18)で競合する。カンタス
とジェットスターとの競合路線も 2012 年で 21 路線(4 社競合 3,3 社競合 18)ある。カンタ
スとジェットスターによる親子 2 社のみの競合路線は,2006 年までは存在しなかった。2007
年は 1 路線(ダーウィン⇔ケアンズ),2008 年から 20011 年は 2 路線(2008 年はダーウィン⇔
ケアンズとダーウィン⇔アデレード,2009 ~ 2011 年はダーウィン⇔ケアンズとダーウィン⇔
シドニー)が存在したが,2012 年にはダーウィン⇔ケアンズからジェットスターが撤退して
カンタスの独占路線,ダーウィン⇔シドニーにはヴァージンが参入して 3 社競合路線となり,
再び消滅した。タイガーは,4 社もしくは 3 社競合路線にのみ就航している。
つぎに,表 6 には乗入空港数と 1 日 1 空港当りの平均便数が示されているが,上で見た路線
数と同じく,カンタスの乗入空港数が非常に多い。2003 年(もしくは 2004 年)から 2012 年
までの推移を見ると,カンタスとジェットスターには大きな変化がないが,ヴァージンの乗り
入れ地点数は倍増し,ネットワークの面的な拡大が示唆される。1 日 1 空港当りの平均便数に
ついて見ると,カンタスとヴァージンには大きな変化がない一方,ジェットスターは 1.4 倍に
増えている。このことから,ジェットスターでは,まずはネットワークの拡大よりも既存地点
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
185
表 6 4 社の乗入空港数(各年 10 月)
乗入空港数
1 日 1 空港当り平均便数
QF
JQ
DJ
TT
合計
QF
JQ
DJ
TT
合計
2003
46
0
16
0
46
15.1
0
12.8
0
19.5
2004
46
14
19
0
49
13.0
8.1
14.1
0
20.0
2005
45
16
20
0
49
13.0
7.4
14.1
0
20.1
2006
47
18
21
0
51
12.7
6.8
14.0
0
19.9
2007
46
19
21
0
50
13.4
6.9
14.7
0
21.1
2008
46
19
24
7
51
13.4
8.0
15.7
2.9
22.5
2009
44
19
28
7
49
13.1
8.6
13.0
5.2
22.5
2010
47
18
29
12
52
12.9
10.3
13.3
4.2
22.7
2011
47
17
28
5
52
13.0
10.6
13.5
4.0
22.5
2012
49
18
31
5
54
13.2
11.3
13.5
6.3
23.5
出所)OAG データより作成。
間を結ぶフライトの高頻度化に努めていることが窺える。タイガーは他の 3 社よりも事業規模
が小さく,乗入地点・便数ともに少ない。
最後にタイガーを除く 3 社による供給座席数(往復ベース)の上位 10 路線を表 7 で見ると,
上位 3 路線は 1 位がメルボルン⇔シドニー,2 位がブリスベン⇔シドニー,3 位がブリスベン
⇔メルボルンで,表 4 における上位 3 空港をそれぞれ結んだものである。これら 3 路線の座席
供給量は,全供給量の 33.8%(2004 年),28.8%(2012 年)を占めている。またこれらの上位路
線に関して,参入直後のジェットスターは,メルボルンのプライマリー空港であるタラマリン
を使用せず,セカンダリー空港のアバロン空港のみを使用していたが,近年では両方に就航し
ている。またカンタスのシェアが低く,ジェットスターのシェアが高い路線を見ると,2004 年
では 5 位のゴールドコースト⇔シドニー,7 位のブリスベン⇔ケアンズ,9 位のホバート(タ
スマニア)⇔メルボルン,2012 年では 4 位のゴールドコースト⇔シドニー,10 位のメルボル
ン⇔ゴールドコーストと観光地への路線が目立つ。一方でビジネス需要が旺盛であろうと推察
されるキャンベラ⇔シドニー(2012 年 9 位)にはジェットスターは就航していない。
3.2 各路線の供給量指標の変化
タイガーを除く 3 社について,代表的な供給量指標である便数,座席数の前年からの変化分
に注目し,各社のネットワーク戦略を考察したい。そこで,オーストラリアの国内線全路線に
おける便数と座席数について前年からの変化分を路線ごとに求め,それぞれの変化分について
3 社間での相関分析を行った。その結果が表 8 と 9 である。なお便数,座席数とも 2004~2006 年
(前期),2007~2012 年(後期)に分けて相関係数を求めた3)。2007 年で分割した理由は,表 5
426,290
OOL ⇔ SYD
ADL ⇔ SYD
BNE ⇔ CNS
MEL ⇔ PER
HBA ⇔ MEL
PER ⇔ SYD
5位
6位
7位
8位
9位
10 位
106,241
108,486
110,475
117,474
146,311
167,785
178,034
QF
JQ
事業者別シェア
DJ
発着地
座席数
(IATA コード) (往復)
65.7%
0.0%
34.3%
BNE ⇔ SYD
483,040
2.7%
2.7%
2.8%
3.0%
3.7%
4.2%
4.5%
66.5%
13.6%
67.5%
45.1%
69.4%
9.5%
62.9%
0.0%
54.8%
0.0%
24.5%
0.0%
40.2%
0.0%
33.5%
31.6%
32.5%
30.4%
30.6%
50.3%
37.1%
MEL ⇔ OOL
CBR ⇔ SYD
PER ⇔ SYD
ADL ⇔ SYD
MEL ⇔ PER
ADL ⇔ MEL
OOL ⇔ SYD
145,119
148,450
194,855
205,049
210,149
225,044
256,736
6.0%
63.2%
0.0%
36.8%
BNE ⇔ MEL
318,332
(0.6%) (0.0%) (100.0%) (0.0%) (AVV ⇔ BNE) (10,974)
10.7%
15.8%
67.9%
0.0%
32.1%
MEL ⇔ SYD
815,619
(0.7%) (0.0%) (100.0%) (0.0%) (AVV ⇔ SYD) (43,896)
路線別
シェア
注)IATA コードは表 4 を参照のこと。表 4 に無い空港名は次の通り。AVV(メルボルン アバロン),HBA(ホバート)。
出所)OAG データより作成。
ADL ⇔ MEL
BNE ⇔ MEL
238,936
(AVV ⇔ BNE) (23,250)
BNE ⇔ SYD
MEL ⇔ SYD
626,785
(AVV ⇔ SYD) (29,698)
4位
3位
2位
1位
発着地
座席数
(IATA コード) (往復)
2004 年 10 月
表 7 供給座席数上位 10 路線(2004 年 10 月と 2012 年 10 月)
QF
JQ
事業者別シェア
DJ
51.6%
6.7%
41.7%
2.5%
2.6%
3.3%
3.5%
3.6%
3.9%
4.4%
0.0%
75.2%
55.9%
51.4%
53.8%
46.9%
0.0%
46.3%
0.0%
8.3%
16.1%
14.5%
14.3%
49.4%
53.7%
24.8%
35.8%
32.6%
31.7%
38.8%
50.6%
5.5%
45.0%
11.3%
43.7%
(0.2%) (0.0%) (100.0%) (0.0%)
8.3%
14.0%
50.5%
11.5%
37.9%
(0.8%) (0.0%) (100.0%) (0.0%)
路線別
シェア
2012 年 10 月
186
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
187
表 8 3 社の便数変化の相関関係
n=453
2004 ~ 2006 年
DJ
JQ
QF
DJ
1.00
―
―
JQ
0.40***
1.00
QF
-0.29***
-0.55***
2007 ~ 2012 年
n=868
DJ
JQ
QF
DJ
1.00
―
―
―
JQ
0.07**
1.00
―
1.00
QF
0.10***
-0.06
1.00
注)*** は 1% 有意水準,** は 5% 有意水準,* は 10% 有意水準を意味する。
表 9 3 社の座席数変化の相関関係
n=554
2004 ~ 2006 年
DJ
JQ
QF
DJ
1.00
―
―
JQ
0.40***
1.00
QF
-0.41***
-0.59***
n=1,035
2007 ~ 2012 年
DJ
JQ
QF
DJ
1.00
―
―
―
JQ
0.25***
1.00
―
1.00
QF
0.34***
-0.02
1.00
注)*** は 1% 有意水準,** は 5% 有意水準,* は 10% 有意水準を意味する。
表 10 カンタスとジェットスターのコードシェア(各年 10 月)
年
QF 便に JQ コード付与
JQ 便に QF コード付与
便数
路線数
便数
路線数
2004
0
0
3,510(100.0%)
20(100.0%)
2005
0
0
3,688(100.0%)
25(100.0%)
2006
0
0
3,782(100.0%)
27(100.0%)
2007
1,264(6.6%)
11(13.9%)
4,061(100.0%)
31(100.0%)
2008
4,507(23.5%)
13(17.1%)
4,714(100.0%)
32(100.0%)
2009
1,641(9.2%)
12(16.2%)
5,052(100.0%)
37(100.0%)
2010
1,885(10.0%)
13(16.9%)
5,738(100.0%)
39(100.0%)
2011
1,721(9.1%)
12(15.8%)
5,610(100.0%)
37(100.0%)
2012
1,751(8.7%)
12(15.4%)
6,300(100.0%)
37(100.0%)
注)括弧内は,全便数に対するコードシェア便のシェアと全就航路線数に対するコードシェア便就航路線数
のシェア。
出所)OAG データより作成。
で見たようにカンタスとジェットスターのみの 2 社競合路線が 2007 年から設定されたり,表 10
にあるように,カンタス便にジェットスター便のコードを付与する形でのコードシェアが2007 年
3) たとえば 2004 年の便数変化分は,2004 年の便数-2003 年の便数である。データは路線×年のパネ
ルデータとなる。また表 8 と 9 に示されるサンプルサイズ n が同期間において,便数と座席数で異な
るのは,全サンプルから 3 社すべての変動がゼロのサンプルをそれぞれ除いたためである。
188
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
から開始されたりするなど,それまでのグループ間での行動に変化が見られるためである 4)。
相関分析の結果,便数,座席数の両方で,前期については,ヴァージンとジェットスターは
補完関係(相関係数が正)を,ヴァージンとカンタス,ジェットスターとカンタスは代替関係
(相関係数が負)を持つこと,その一方で,後期では,ヴァージンとジェットスターに加えて
ヴァージンとカンタスも補完関係を持つ一方,ジェットスターとカンタスは有意な相関関係を
持たないことが分かった。すなわちヴァージンとジェットスターの関係は,前期,後期とも補
完的で一貫しているものの,ヴァージンとカンタス,ジェットスターとカンタスの関係は前期
と後期で異なっている。相関関係から因果関係を直ちに導くことは出来ないが,ここで,代替
関係は戦略的代替性(一つの企業が生産量を増大させた時,他の企業は産出量を引き下げて融
和的に対応する),補完関係は戦略的補完性(一つの企業が生産量を増大させた時,他の企業
は産出量を引き上げて対立的に対応する)を各社がとった結果であると解釈すると,前半と後
半でカンタスのヴァージンに対する行動が融和的なものから対立的なものに変化した可能性が
示唆される。またカンタスとジェットスターの関係は,融和的からどちらとも言えない状態に
変化,ヴァージンとジェットスターは常に対立的と判断される。
さらに相関分析においては,自社運航便の便数,座席数のみを考慮し,コードシェア便の数
は考慮していないが,表 10 にあるようなジェットスターとカンタスにおけるコードシェア便
の増加もカンタスグループとして,ヴァージンに対する競合関係に拍車をかけることになろう。
実際,コードシェア便の就航路線にはすべてヴァージンが就航している。
3.3 競合路線におけるスケジューリング戦略
2012 年 10 月におけるフライトスケジュールをメルボルン(タラマリン,アバロン)⇒シド
ニー,ブリスベン⇒ケアンズ,アデレード⇒シドニーの例で見てゆきたい。表 11 にあるよう
にメルボルン⇒シドニーはオーストラリア最大の路線で 4 社が合計 78 便(そのうち 4 便はア
バロン空港発)を供給している。四角で囲んだタイムスケジュールは,たとえばメルボルン⇒
シドニーでは,ジェットスターのタラマリン空港発とその前後 20 分間に出発する他社便で,
スケジュール的にもジェットスター便と競合する可能性の高い便である。これらの競合便数を
カウントするとカンタスは 30 便中 7 便,ヴァージンは 30 便中 9 便,タイガーは 7 便中 3 便で
あり,ジェットスターとヴァージンの競合便が最も多い。供給座席数が 12 位のブリスベン⇒
ケアンズ,7 位のアデレード⇒シドニーにおいても,同じ基準でジェットスター便との競合便
をカウントすると,両路線ともカンタスには競合便が無く,競合便はヴァージンにのみ存在す
る。このように,フライトスケジュールから見ても,ジェットスターとヴァージンの競合程度
は,ジェットスターとカンタスのそれよりも高いことが窺える。
4) 反対にジェットスター便にカンタス便のコードを付与するコードシェアは,ジェットスターの参入
直後から,ジェットスター全便で行われている。
大手航空会社の子会社 LCC におけるネットワーク戦略について
189
表 11 フライトスケジュールの設定例(2012 年 10 月)
路線と当該月
の供給座席数
発時間
MEL(AVV)⇒ SYD
(往復)859,515 席(1 位)
QF
JQ
DJ
TT
6 時台
06:00
06:00
06:00
06:15
06:30
(AVV) 06:30
06:45
06:45
7 時台
07:00
07:30
07:45
8 時台
08:00
08:30
9 時台
09:00
09:30
09:00
09:00
10 時台
10:00
10:20
10:00
10:35
11 時台
11:00
11:30
11:35
11:00
11:50
12 時台
12:00
12:05
12:00
13 時台
13:00
13:30
14 時台
14:00
14:40
14:00
14:30 (AVV)
15 時台
15:00
15:50
15:00
15:30 (AVV)
16 時台
16:00
16:30
16:00
16:30
16:15
17 時台
17:00
17:15
17:30
17:00
17:30
17:45
17:00
17:50
18 時台
18:30
18:00
18:30
18:45
18:50
19 時台
19:00
19:30
20 時台
20:45
20:00
20:00 (AVV)
20:30
20:50
21 時台
21:00
07:10
07:00
07:15
07:30
07:45
07:40
BNE ⇒ CNS
ADL ⇒ SYD
(往復)129,386 席(12 位)(往復)205,049 席(7 位)
QF
JQ
DJ
QF
06:10
06:20
06:00
07:00
08:05
09:50
出所)OAG データより作成。
06:00
06:30
09:45
08:40
09:00
09:30
11:10
11:30
12:15
13:20
13:00
19:00
19:15
19:30
DJ
07:00
07:00
08:30
18:00
JQ
13:40
14:00
13:05
14:50
15:20
16:55
17:00
17:45
18:50
19:55
19:40
21:20
18:25
18:20
190
経済学雑誌 第114巻 第 3 号
4.おわりに
本稿では,就航路線,各路線の供給量(便数・座席数)の変化,競合路線におけるスケジュー
リングといったネットワーク戦略の面からジェットスターとカンタスの行動を考察した。その
結果,2004 年から 2012 年の間に,両社の競合路線数は一貫して増加し,両社の競合関係は強
まっていることが窺える。供給量ベースでの競争を見ても両社の便や座席数は,当初は代替的
(融和的)であったが,近年では,有意な代替関係が見られなくなっている。その一方で,就
航路線別で競合の詳細を分析すると,ジェットスターのシェアが高い路線には観光路線が多い
こと,また競合路線におけるスケジューリング事例から,ジェットスターはカンタスよりも
ヴァージンと競合している便が多いこと分かった。カンタスとジェットスター間でのコード
シェア便の増加もカンタスグループとしてのヴァージンとの競合が念頭にあろう。すなわち,
ジェットスターのネットワーク戦略は,基本的にヴァージンに対抗するもので,競合路線数や
供給量に現れるカンタスとジェットスターの競合関係の多くは,カンタスグループのライバル
であるヴァージンとの競合関係の強化の結果として,副次的に生じたものである可能性が高い。
少なくとも,ネットワーク戦略において,カンタスとジェットスターはヴァージンとのし烈な
競争の中でも親子間競争(カニバリゼーション)を緩和させる努力をしているように見える。
謝辞
私の大学院経済学研究科在学中から現在まで変わることのない松澤俊雄先生の熱心なご指導
に対し,心から感謝申し上げます。ジェットスター本社のネットワーク本部長の Alistair Hartley
氏,アビエーション・チャージ部長の Tim Castine 氏,ネットワークマネージャーの Jim Fuoco
氏にはインタビューを快く引き受けて頂きました。記してお礼申し上げます。また本研究は,
2011–13 年度科学研究費助成事業基盤研究(C)(大手航空会社の子会社 LCC における経営戦
略と市場競争への影響について 研究課題番号:23530554)による研究成果の一部であります。
参 考 文 献
Gillen, D. and A. Gados (2008) “Airlines within airlines: Assessing the vulnerabilities of mixing business
models” Research in Transportation Economics, Vol. 24, No. 1, pp. 25–35.
Graham, B. and T. M. Vowles (2006) “Carriers within Carriers: A Strategic Response to Low-cost Airline
Competition”, Transport Reviews, Vol. 26, No. 1, pp. 105–26.
海保英孝(2013)「カンタス航空の戦略経営」『成城・経済研究』第 201 号,pp. 27–45.
Ko, Y. and H. Hwang (2011) “Management strategy of full-service carrier and its subsidiary low-cost carrier”,
International Journal of Advanced Manufacturing Technology, Vol. 52, No. 1–4, pp. 391–405.
Morrell, P. (2005) “Airlines within airlines: An analysis of US network airline responses to Low Cost Carriers”,
Journal of Air Transport Management, Vol. 11, No. 5, pp. 303–312.