文部科学省研究開発局 局長 田中 敏 (PDF/837KB)

平成27年1月 第733号
年頭の辞
文部科学省研究開発局
局長 田中 敏
平成27年の新春を迎え、謹んでご挨拶申し
上げます。
でで最も長い約90分間の慣性飛行を実現する
ために開発されたロケット高度化技術を適用
し、無事に成功いたしました。こうした宇宙
新たな時代を迎え、科学技術創造立国を目
輸送技術は、我が国が自立的に宇宙開発利用
指す我が国において、宇宙・航空分野をはじ
を行い、熾烈な国際競争を勝ち抜く上で必要
めとするフロンティアの開拓は、社会経済全
不可欠な国家基幹技術です。世界的な衛星打
体の持続的成長や安全・安心を実現するため
ち上げ需要や海外ロケットの開発動向を見通
のみならず、国際的プレゼンスの維持・向上
すと、確実な打ち上げはもとより、多様なニー
に重要な意義を持つものです。文部科学省と
ズにいかに柔軟かつ迅速、そして低コストで
しては、我が国の成長実現に向けて、宇宙・
応えるかが重要です。そこで、昨年度より、
航空分野を国が責任を持って進める技術開発
能力向上、コスト低減及び運用性向上を目指
として位置付けるとともに、幅広い分野の組
した革新的な新型基幹ロケット(H-X)の開
織人材の活力を引き出し、国際競争力を高
発に着手し、2020年度の初号機の打ち上げを
め、国内外に発展的・革新的展開をもたらす
目指しています。H-Xそして改良型イプシロ
イノベーションの根幹として引き続き推進し
ンロケットをそろえることにより、我が国の
てまいります。
宇宙輸送体系は国際的にも十分な競争力を有
することになります。
衛星等の自立的打ち上げ能力の確保を第一
義とする宇宙輸送分野においては、中国やイ
また、新たな宇宙基本計画においても「安
ンドの台頭など、国際的な競争が近年増々激
全保障・防災」が3つの重点課題の一つに位
化している中、我が国の基幹ロケットについ
置づけられているように、昨今、安全保障分
ては、昨年4機のH-ⅡAロケットの打ち上げ
野における宇宙利用がより重要視されつつあ
成功により25機連続の打ち上げ成功を達成
ります。衛星観測データの利活用やロケット
し、96%を上回る世界最高水準の成功率を獲
技術高度化等を含めた広義の安全保障分野に
得いたしました。また、12月に打ち上げられ
おいて、宇宙は研究開発段階にあり、新たな
たH-ⅡAロケット26号機においては、これま
宇宙利用市場の創造が期待されます。人工衛
11
年頭の辞
星による観測としては、防災、環境監視、国
りますが、各方面からの御期待に応えられる
土管理など、ニーズが高い分野で活用できる
よう、取組を進めてまいります。宇宙科学につ
多様な宇宙システムの開発、実証、利用に向
いては、これまで世界のX線天文学を牽引し
け、運用中の水循環変動観測衛星「しずく」
て き た 我 が 国 が 主 導 す る 衛 星「ASTRO-H」
(GCOM-W)による地球規模での降水量、水
を今年度に打ち上げ予定です。また、国民の
蒸気量などの継続的に観測を行っています。
夢や希望を醸成する日本人宇宙飛行士の活躍
また、昨年は、米国航空宇宙局(NASA)と
も常に話題を呼び、若田宇宙飛行士は昨年3
の共同プロジェクトであり、高精度で降水量
月∼5月、アジア出身者としては初のISSコマ
を観測することが可能な全球降水観測/二周
ンダー(船長)を務めました。ISS計画につい
波降水レーダ(GPM/DPR)を2月に、また、
ても、貴重な外交資源であるとの認識の下、
平成23年5月に運用を終了した陸域観測技術
有人宇宙技術の蓄積や、新たな科学的知見の
衛 星「だ い ち」(ALOS)の 後 継 機 で あ る 陸
獲得を図るとともに、その成果が社会経済活
域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)
動の発展につながっていくよう、宇宙先進国
を5月に打ち上げました。これら地球観測衛
としての地位の向上を目指してまいります。
星網の構築により、今後衛星データの活用が
見込まれる宇宙新興国のニーズに対応し、衛
今後20年で3倍の成長が見込まれる航空産
星データユーザとして新たな市場開拓が期待
業分野では新型機が着々と導入されており、
されます。安全保障上の観点からは、昨年打
我が国の企業が開発に参画したボーイング
ち上げた陸域観測技術衛星2号「だいち2号」
787型機も世界的に機数を伸ばし、国内では
(ALOS-2)や開発中の衛星により、海洋及び
MRJ(三菱リージョナルジェット)のロール
地上の広域かつ高分解な監視が可能となる社
アウトが昨年10月に行われました。航空機産
会の実現を目指すほか、防衛省と協力して実
業のさらなる発展のため、文部科学省では、
施していく赤外センサも搭載予定の先進光学
10年、20年先を見据えて優位性のあるエンジ
衛星や衛星が取得したデータをいち早く地上
ンの効率化および翼の高性能化に資する技術
に転送するための光データ中継衛星の新規開
に重点的に取り組み、革新的なエネルギー消
発も計画しています。今後も、安全保障に係
費量削減を目指すことで、航空機産業の発展
わる技術の向上に貢献してまいります。
に貢献していきます。また、革新的技術シー
ズを航空分野で利用可能なものとするため、
また、「はやぶさ」等の宇宙探査技術、X
風洞等の大型基盤設備の整備にも取り組み、
線天文学等の最先端宇宙科学技術、国際宇宙
産業界の方々と研究開発との一層の連携等に
ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」
貢献していきます。
を利用した革新的研究など、我が国における
宇宙の技術力は高いものがあり、これを海外
宇宙航空分野の人材育成も重要です。能力
にアピールしていくことも重要と考えており
ある若い人材が多様な技術や知見を生かし、
ます。特に、昨年は生命の起源に迫る小惑星
本分野で活躍することができるよう、大学等
探査機「はやぶさ2」の打ち上げに成功いたし
と広く連携した人材育成等を進めて参りま
ました。国民から高い御関心を頂いた「はやぶ
す。
さ2」については、2020年に地球に戻ってまい
12
平成27年1月 第733号
本年も、文部科学省としては、貴工業会を
力を賜りますようお願いいたします。
含め、産業界とより一層連携・協力し、宇宙
最後に、貴工業会及び会員各位のより一層
航空分野の開発利用を通じた我が国の成長実
の発展を祈念いたしまして、新年の御挨拶と
現を牽引する取組を進めてまいる所存でござ
させていただきます。
いますので、引き続き皆様方の御支援と御協
平成27年1月1日
13