ATA e-Business Forumと TESConf2014に参加して

平成27年1月 第733号
ATA e-Business Forumと
TESConf2014に参加して
1.全体概要
ファレンススポンサーになっていた。
本年度、ATA e-Business Forum(S1000D User
Forum共催)(米国サンアントニオ)、並びに
TESConf 2014(3rdInternational Conference On
3.各カンファレンスにおける講演内容
以下そのトピックを紹介する。
Through-life Engineering Services英国、ロンド
ン)に参加したので、これらについて報告す
る。
3.1 RFIDに関する講演
RFIDに関しては、3件の講演が行われた。
ATA e-Business Forumは2年ぶり、S1000D
それぞれ、エアバス社、デルタ航空、製造業
User Forumは1年ぶりの開催となる。会議は6
者から各1件の講演が行われた。また、メー
月23日からの3日間米国テキサス州サンアン
カー展示についてはRFIDについて日本の富士
トニオの会議場で実施された、また、TESConf
通を含む、複数社の展示が行われており、競
2014は11月5、6日の2日間、ロンドン郊外の
争が激しい様子がうかがえた。
Cranfield大学で実施された。TESConfの背景
については、本会誌平成25年2月号に記載さ
この中で、機体メーカでは従来ボーイング
れているので参照されたい。何れの会議も
社が比較的に活動していたが、今回の会議で
200人を超える参加者で盛況であった。
見る限り、エアバス社の積極的な姿勢が目に
付いた。前回の講演で、ヘリコプタを含むす
2.各会議の概要
ATA e-Business Forumは、2つの会議の共催
であったが、2対1でATA e-Business Forumへ
の参加者が多い状況であった。
ATA e-Business ForumではRFID、EDI等の
話が中心であった。RFIDについては前回積極
的であったボーイング社に代わり、エアバス
社の積極的な報告が目を引いた。S1000D User
Forumについては使い方の話が主題であった。
べての機体で今後RFIDタグを活用する旨の報
告があった同社は今回その運用面での実施要
領を中心に報告を行った。
また、線表(図1)を示し、2019年以降に
は全ての機体に取り付けることを想定してい
る。
一方、運航会社のRFIDに関する姿勢を調べ
たのが図2である。
現状では、RFIDに対応している割合が10
Sシリーズの規格については来年度に規格の
数%であるのに対して将来は、その割合が入
改版が行われる予定であることもあり、規格
れ替わることを示している。このことからエ
そのものに関する報告は少なかった。
アバス社はRFIDに対する将来需要は大きなも
TESConfは学術寄りの会議である、今回第3
回となるが、その傾向はますます強くなって
のであると想定しており、2∼3年で数倍の需
要があると考えている(図3)。
いた。今後もその傾向が強くなるものと思わ
取付けられた、RFIDタグによりトレーサビ
れる。そういった中で今回DMG森精機がカン
リティのペーパレス化・自動化運用ができる
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工業会活動
とエアバス社は提案している。また、デルタ
のと同様であった。デルタ航空の保安装置の
航空からの報告でもRFIDを実装することによ
点検例(図4)では2時間かかっていたものが
り点検が自動化され短時間で実現できるとし
10分で完了しており、運航上も利点があるこ
ている点は従来ボーイング社が提案していた
とが示されていた。
図1 RFID機体実装の計画
図2 RFID対応の現状と将来
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図3 RFIDの需要動向
図4 デルタ航空における保安装置点検事例
また、エアバス社は、RFIDを将来のSMART
が構築される。ここを流れるデータについて、
バリューチェーンの要素の一助とすることを
各会社内でも同様に活用することが出来れ
考えて提案している(図5)。これにより、ラ
ば、さらに産業の強化に繋がる。
イフサイクル全体を通じ、機体メーカ、運航
会社、MRO、サプライヤを通じた情報の流れ
この考え方は、現在SJACも参加している、
ISOの産業用データの標準化の流れにも通じ
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工業会活動
図5 エアバス社が考えるSMARTバリューチェーン
るものがあり、様々な業界が、同様のことを
考える状況にあることが窺える。
能なシステム
EDIについては、今後、現状をベースにこ
れらの項目の検討を進める予定である。
3.2 EDIに関する講演
EDIに関しては、今回もLufthansa Technikが
3.3 S1000Dに関する講演
講演を行っていた。ここでは、EDIに関する
来年以降に大きな改版を控えている事から
要件が示されていた。これは、次の世代の航
目立った講演はなかった。ボーイング社が
空機業界のEDIについて示唆に富んでおり、
行ったS1000Dの有用性についての講演につい
基本的な方向性について、確認できた。
て簡単に述べる。
>容易なデータ共有と分析できる可能性
>高速の情報交換と高いデータ品質
従来、防衛機材は国単位、民間機は国際共
>容易なユーザインタフェース
同開発というのが一般的であったが、現在は、
>様々なITシステムが有機的に結合される
防衛機材も国際共同開発が主流となりつつあ
>加入会社の信用度
り、調整は複雑化し、また、技術の交流も必
>安全で信頼度の高いメッセージ交換
要となっている。複数の国が絡み、多くの組
これを日本における次世代の航空機業界
EDIに置き換えると以下のようになる。
織が絡むことになった。また、軍・民の技術
交流も進むこととなった。一方、開発費の低
①セキュアなネットワークと加入者認証
減と要求の向上によりデータはより複雑化す
②EDIに連携できる様々なITシステムの構
ることとなった。この為、共通の技術的なベー
築と組込み
スを活用することにより、設計要員の増加を
③Webベース等のユーザインタフェースで
防ぎ、全体のコスト低減に寄与することが必
使用者環境によらない継続的な利用が可
要となった。これには欧米の航空機製造者団
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体、米国の航空会社の団体が協力している
等が行われていた。バーチャルリアリティに
S1000Dが有用である。現在のところS1000Dを
関する研究は、整備等の教育に利用する目的
利用して設計されている民間機では、ボーイ
で、実際に手に触れる感覚で教育できること
ング787、エアバスA350、ボンバルディアC-
を目標にしているとのことであった。
シリーズ、民間機をベースとした軍用機では
ここの研究所は単なる一例であろうが、こ
P-8Aポセイドン、KC-46Aタンカー、AWACS
のような基礎研究に対する先行投資は日本の
E-3等がある。
企業にも必要なものと考える。
3.4 TESConf 2014に関して
4.おわりに
冒頭に記述した通り、本カンファレンスは
RFIDの活用については、従来のボーイング
具体的な規格等に関する話が講演された訳で
社からエアバス社にその主体が変わり、エア
はない。ライフサイクルに関する研究を規格
バス社の積極的な動きが垣間見えた。部品と
化する必要があるとして幾つかの発表が行わ
してのタグについてはコストの低下が著しく
れた。但し、これはこの講演会の主催者であ
競争は激化している。しかしその活用の場は
るEPSRCの性格があるものと考えられる。す
これからであり今後の動きに目が離せない。
なわち、
規格に関する戦略として、基礎から始
今後はセキュアなネットワーク上にEDIを始
めて規格を作り、それに基づいて産業を育て
め、タグ上に保存された様々なデータを活用
ていくという考え方であり、この点はドイツ
する場が広がっていくものと思われる。これ
のインダストリー4.0等にも共通する考え方が
らの動きは、航空機製造メーカ、機体運用会
見 え る。今 回、会 議 の 中 で 会 場 と な っ た
社、整備会社、各部品メーカを巻き込んだ動
Cranfield大学に設置された、研究所の見学が
きとなるのでその対応には充分注意を払って
行われた。3Dバーチャルリアリティに関する
いく必要がある。
研究あるいは、航空機の点検等に関する研究
図6 IVHM研究室(ボーイング社出資)
〔(一社)日本航空宇宙工業会 EDIセンター事務局 部長 土橋 俊夫〕
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