年頭に寄せて - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会

平成27年1月 第733号
年頭に寄せて
経済産業省製造産業局
局長 黒田 篤郎
平成27年の新春を迎え、謹んでお慶び申し
上げます。
市場の獲得や、新たな産業の担い手の育成が
重要です。特に地域に根付きながら海外へ展
アベノミクスが始動してから約二年が経
開し、グローバルなシェアを持つグローバル
ち、経済の好循環が回り始めています。少子
ニッチトップ(GNT)企業を支援していきま
高齢化や、国内市場の縮小が進む一方、国内
す。GNT企業や、将来GNT企業に飛躍する可
でのものづくり再評価や、ビッグデータ・IT
能性のある全国の中堅企業に対して、オープ
の活用等による製品や工程の革新など、もの
ンイノベーションの促進、企業OB等を活用し
づくり産業の新たな胎動も感じられる昨今、
た現場における生産性の向上、ジェトロによ
この好循環を確かなものにするためにも、我
る海外販路開拓の支援などを積極的に行って
が国産業のいわば稼ぎ頭である製造業の競争
まいります。
力強化策を積極的に進めていくことが不可欠
第三に、円高是正や、中国・タイなどにお
です。経済産業省としては、以下の施策に特
ける人件費の上昇等を契機に、国内でのもの
に注力してまいります。
づくりを再評価する動きがあります。こうし
第一に、少子高齢化への対応やものづくり
た動きを後押しするため、我が国の立地競争
現場の生産性向上のため、ロボットの活用を
力を高め、世界のヒト、モノ、カネを日本に
支援していきます。有識者等を集めた「ロボッ
惹きつけるため、法人税について数年で二十
ト革命実現会議」において、ロボットの更な
パーセント台まで引き下げるなど、成長志向
る活用に向けた実効性のある計画を策定し、
に重点を置いた諸改革に取り組んでいきま
実用化段階にある技術の導入加速、現場ニー
す。
ズに即応した市場化技術開発、広い分野で利
また、製造業の競争力向上を目指すドイツ
用可能な次世代ロボット技術開発、ロボット
のイニシアチブであるインダストリ4.0にも見
を効果的に活用するための規制緩和及び新た
られるように、デジタル化によって、製造業
な法体系・利用環境の整備、消費者保護の観
を巡る状況が大きく変わって来ています。製
点から必要となる枠組みの整備を行ってまい
品データを解析することによる保守サービス
ります。
の高度化や、生産ラインにはりめぐらせたセ
第二に、国内市場が縮小する中、海外成長
ンサーの情報を活用した生産の効率化などが
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年頭の辞
その一例です。こうした動きに対応した新た
会の拡大を目指します。
な製造業の姿を模索していくことも重要な課
さらに、我が国の航空機部品・素材産業が
題と認識し、必要な対策を検討してまいりま
これらの機会を確実に事業につなげていくた
す。
め、昨年7月には航空機部品・素材産業室を
設置しました。サプライヤー間の生産一貫体
航空宇宙分野は、成長産業としての期待が
制の構築、自動車等他産業からの新規参入を
高く、経済産業省としては、その競争力強化
促進するための認証取得支援、航空機製造技
のための施策を一層強化してまいります。
術者の人材育成等に取り組んでまいります。
民間航空機分野は、年率5%程度で成長し、
防衛航空機の分野では、これまで完成機で
今後20年間で倍増すると予測される世界の航
あるUS-2などの防衛省機の海外展開を防衛省
空需要を背景に活況を呈しております。こう
とも連携して進めてきました。さらに、昨年
した中で、LCCの台頭や燃料高等を背景とし
の4月の防衛装備移転3原則の閣議決定や民生
たコスト競争が加速し、より競争力のある機
技術と防衛技術のボーダレス化などを背景と
材が求められており、また、リースファイナ
して、外国政府、外国企業から我が国産業界
ンス活用の増加、新素材の開発・適用の急速
の優れた技術、製品への関心が高まってきて
な進展、MRO事業の拡大など、大きく産業構
います。例えば、防衛航空機でも、完成機、
造が変化しています。我が国航空機産業が、
装備品、部品、素材などの各分野で海外にお
こうした国際的なバリューチェーンの中で競
ける事業展開の可能性が出てまいりました。
争力を発揮し、勝ち抜いていくことが必要で
す。
経済産業省としては防衛装備協力に関する
政府全体の方針に基づき、また、我が国産業
そのための最大の挑戦となる完成機事業に
界での海外における防衛関連事業の経験が十
ついては、YS-11以来約半世紀ぶりのプロジェ
分ではない現状等も踏まえ、外国政府とも連
クトであるMRJが、昨年10月にロールアウト
携した産業間対話の実施や個別企業とのマッ
し、本年はいよいよ初飛行の日を迎える予定
チング、産業団体間の交流、協力への支援な
です。今後、開発段階から量産、受注拡大へ
どを進めてまいります。
と軸足が移っていきますが、ファイナンスや
さらに、無人航空機の分野も今後取組の加
カスタマーサービス、MRO等にしっかりと取
速が求められます。無人航空機は、防衛用途
り組み、MRJの事業を成功に導いて、次世代
のみならず、小型、廉価な無人航空機の普及
機、次々世代機へと繋げていくことが必要で
に伴い民間での利用も増えています。欧米で
す。国際共同開発事業についても、昨年、ボー
は、新たな産業分野として無人航空機をとら
イング777X及びGE9Xプロジェクトへの日本
え、事業環境整備を進めています。我が国で
企業の参画が発表されました。引き続き、欧
もこうした欧米の動きも注視しつつ、企業の
米OEMメーカーのパートナーとしての地位を
皆様や関係省庁とも議論を重ね、無人航空機
向上させるべく支援いたします。
産業の在り方を検討していくことが必要と
また、これまで限定的な参入にとどまって
なっています。
いた装備品分野についても、日米、日加、日
宇宙分野においては、昨年9月に安倍総理
仏及び日欧等の協力枠組みを活用しつつ、我
から、政権の新たな安全保障政策を十分に反
が国企業が海外装備品メーカーと連携する機
映し投資の「予見可能性」を高め、宇宙産業
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平成27年1月 第733号
基盤を強化するために宇宙基本計画を改訂す
強化・海外展開が確実に進展していることを
るよう指示があり、現在、年初の策定を目指
確認できました。こうした取り組みをより確
した検討を行っています。今年は、新たな計
実かつ継続可能なものとするべく、政府とし
画に基づき、宇宙産業の競争力強化や民生分
て、しっかりと支援してまいります。
野における宇宙利用の拡大に向けた取り組み
をより一層進めてまいります。
昨年は、経済産業省の研究開発事業である
以上のような施策を遂行していくことで経
済産業省は我が国製造業のさらなる発展に寄
与していきたいと考えています。
小型高性能地球観測衛星ASNARO-1の打上が
末筆ながら、本年の皆様の御健康と御多幸
成功し、またトルコから受注を受けた通信衛
を、そして我が国製造業の着実な発展を祈念
星の打上にも成功、更に新たにカタールから
いたしまして、新年の御挨拶とさせていただ
商業通信衛星を受注するなど、ここ数年官民
きます。
挙げて目指してきた我が国宇宙産業の競争力
平成27年元旦
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