Almost sure global well-posedness for the periodic fourth order Sch¨odinger equation 加藤 孝盛(名古屋大学高等研究院) 以下の 4 次 Schr¨ odinger 型方程式を考える. i∂t u + c0 ∂x4 u = c1 |u|4 u + α¯ u(∂x u)2 + 2βu|∂x u|2 + βu2 ∂x2 u¯ + (α + β)|u|2 ∂x2 u. (1) ここで c0 , c1 , α, β ∈ R, c0 ̸= 0 及び u : R × T → C. 本研究では u(0, x) = φ(x) と して初期値問題を考察する. スケール変換 u(t, x) → |8c1 /3c0 |1/4 u(t/c0 , x) によって c0 = 1, c1 = −3γ/8 とできるため, 以下この条件を仮定する. ただし γ = −1, 0 ま たは 1. (1) は, 渦糸の運動を記述するモデルとして 2000 年に Fukumoto-Moffatt に よって提唱された. また解が十分滑らかな場合, (1) は次の 3 つの保存量を持つ. ∫ ∫ 1 1 2 E1 (u) := |u| dx, P (u) := Im u¯∂x u dx, 2π T 2π T ∫ 1 γ H(u) := |∂ 2 u|2 + |u|6 + (α + β)|u|2 |∂x u|2 + β Re u¯2 (∂x u)2 dx. 4π T x 8 特に係数が (α, β, γ) = (±3/2, ±1/2, 1) を満たすとき, (1) は可積分系とよばれ無限 個の保存則を持つことが知られている. 本研究の目的は, 初期値を確率変数で与え た場合に Gibbs 測度が (1) の flow の下で不変であることと a.s. 意味で大域適切性 (GWP) が成立することを証明することである. ここで Gibbs 測度とは, 形式的には 上述のハミルトニアン H(u) = H(u, u ¯) を用いて, e−H(u,¯u) dud¯ u と定義される測度を 正規化したものを指す. これを定数 Z を用いて Z −1 e−H(u,¯u) dud¯ u と書く. このハミ ルトニアンから誘導される初期値の確率変数 φω : Ω → H s (T) は ω 7→ φω := ∑ gn (ω) einx + a, (a : 定数) n2 n∈Z\{0} で与える. ここで {gn } は独立同分布の複素数値ガウス型確率変数である. ω を固定 するごとに φω が定義できる空間は, H s (T), s < 3/2 であることに注意する. そこ で H s (T), s < 3/2 で局所適切性 (LWP) を示す. この際に逐次近似法を用いてある 意味で「良い」評価を構成することができれば, 1994 年に Bourgain([Bo]) が構築し た手法を応用することができ, Gibbs 測度の不変性を証明できる. 一方 LWP をエネ ルギー法で導き, その際に得られるアプリオリ評価だけではこの手法を適用するこ とが難しい. まず (1) の LWP を逐次近似法で示す. この証明のアイデアは津川光太郎氏の概要 に詳細なものが書かれているため, ここでは簡単に述べる. T 上では線形部分から従 う平滑化効果が存在しないため, (1) には可微分性の損失が生じる. そのためどのよ うな H s (T), s ∈ R に対しても直接的な逐次近似法は機能しない. この問題を解消す 1 るため, 保存量 E1 と P を用いて (1) を以下の方程式に書き換えることによって最も 評価の難しい微分の損失を持つ「共鳴部分」を相殺する. i∂t u + ∂x4 u − (α + β)E1 (φ)∂x2 u − 2i(α − β)P (φ)∂x u (2) 3 = − γ|u|4 u + N (3) (u, ∂x u, ∂x2 u) − (α + β)E1 (u)∂x2 u − 2i(α − β)P (u)∂x u. 8 ここで N (3) (u, ∂x u, ∂x2 u) = α¯ u(∂x u)2 + 2βu|∂x u|2 + βu2 ∂x2 u¯ + (α + β)|u|2 ∂x2 u. 方程 式の対称性に着眼して, (2) に「normal form reduction」を用いることで本質的に微 分の損失を含まない以下の方程式に帰着できる. ∫ t [ ′ ]t ′ Gφ,L (v(t′ )) dt′ v(t ) + Fφ,L (v(t )) 0 = 0 ここで v は解 u の線形作用素による引き戻しである. また Fφ,L (v) は 5 次以下, Gφ,L (v) は 9 次以下の非線形項であり, 本質的に微分の損失を含まないため Sobolev の埋め込 みによって以下の評価が得られ, 逐次近似法から s ≥ 1 で LWP を証明できる. 命題 1. s ≥ 1 とする. このとき, ある a, b > 0 が存在し, 次の評価が成立する. ( ) Fφ,L (v1 (t′ )) − Fφ,L (v2 (t′ )) s ≤ CL−a 1 + ∥v1 ∥H s + ∥v2 ∥H s 4 ∥v1 − v2 ∥H s , H ( ) ′ ′ Gφ,L (v1 (t )) − Gφ,L (v2 (t )) s ≤ CLb 1 + ∥v1 ∥H s + ∥v2 ∥H s 8 ∥v1 − v2 ∥H s . (3) H 定理 2. s ≥ 1 とする. 初期値を φ ∈ H s (T) としたとき T = T (∥φ∥H 1 ) > 0 が 存在し, (2) の解 u ∈ C([−T, T ] : H s (T)) が一意的に存在する. さらに flow map H s (T) ∋ φ 7→ u(t) ∈ H s (T) が一様連続である. この結果と Bourgain([Bo]) の結果を組み合わせることによって, L2 cut-off を施 した Gibbs 測度 ρ := Z −1 e−H(u,¯u) χ{∥u∥L2 ≤R} dud¯ u が X := ∩1≤s<3/2 H s (T) において 確率測度として厳密に定義することができ, 次の主定理が得られる. 定理 3. X 上の測度 ρ は, (2) の flow の下で不変である. さらに ρ に関して a.s. の 意味で (2) の GWP が成立する. この証明の概要は, まず SN (φ)(x) = ∑ |n|≤N einx φ(n) b によって定義される射影作 用素 SN を (2) に施すことで, 有限次元の ODE に近似する. 次にこの有限次元の近 似方程式の Gibbs 測度が不変であることを Liouville の定理を用いて証明する. そ してこの不変性と (3) を組み合わせることによって a.s. の意味で (2) の局所解を時 間大域的に延長することができ, Gibbs 測度 ρ の不変性を示すことができる. この 証明の中で有限次元に近似された方程式の解が (2) の解に一様収束することが鍵と なり, それを得るために (3) のような「良い」評価を構築する必要がある. 参考文献 [Bo] Bourgain, Periodic nonlinear Schr¨odinger equation and invariant measures, Comm. Math. Phys. 166 (1994), 1–26.
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