隠匿情報検査における裁決項目と自己関係項目の識別

隠匿情報検査における裁決項目と自己関係項目の識別
―事象関連脳電位を指標として―
○花山愛子 1・山元修一 2・渋谷友祐 3
(1 青森県警察本部刑事部科学捜査研究所・2 宮崎県警察本部刑事部科学捜査研究所・3 鳥取県警察本部刑事部科学捜査研究所)
キーワード:隠匿情報検査,事象関連脳電位,自己関係性
Discrimination between a critical item and a self-relevant item on the concealed information test: Using event-related brain potentials
Aiko HANAYAMA1, Shuichi YAMAMOTO2 and Yusuke SHIBUYA3
(1 Scientific Inv.
Lab., Aomori Pref. Police H.Q., 2 Forensic Sci. Lab., Miyazaki Pref. Police H.Q., 3 Forensic Sci. Lab., Tottori Pref. Police H.Q.)
Key Words: concealed information test (CIT), event-related brain potentials (ERPs), self-relevance
目 的
警察実務では,
被疑者等が犯罪の詳細事実に認識を有するか否か
を鑑定する方法として,隠匿情報検査(concealed information test;
CIT)が用いられている。CIT では,犯罪事実と一致する一つの項
目(裁決項目)と,犯罪事実と異なるが同じカテゴリに含まれる複
数の項目
(非裁決項目)
を組み合わせた質問表を用いて検査を行い,
裁決項目に非裁決項目と異なる反応(弁別反応)が生じたとき,犯
罪事実に認識が有ると判断できる。一方,花山(2011)では,非裁
決項目に被検査者自身と関係する項目(自己関係項目)が含まれて
いた場合,自律神経系の一部の指標では,裁決項目に対するものと
同様の弁別反応が見られ,
誤判定を引き起こす可能性が示唆された。
そこで本研究では,事象関連脳電位を指標として CIT における自
己関係項目の影響を検討した。
方 法
参加者 男性 24 名(19-33 歳)
。
手続き 参加者には三つの封筒から一つを選択させ,
実験者が不在
の部屋で,封筒の中の指示書に従って窃盗を経験させた。参加者に
は「三つの封筒にはそれぞれ違う指示書が入っている」と説明した
が,実際には全て同じ指示書が入っており,ネックレスか,封筒に
入った現金のいずれか一つを窃取するようになっていた。その後,
機器の装着を行い,
「窃取した装飾品の種類(サングラス,ネック
レス,ピアス,リング)
」
,
「窃取した現金の入れ物(手提げ金庫,
小銭入れ,貯金箱,封筒)
」及び「窃取した献血カードに書かれて
いた血液型(A 型,B 型,O 型,AB 型)
」の 3 質問表について CIT
を実施した。模擬窃盗の内容と条件設定は表 1 のとおりであった
(窃取品目及び 3 条件の実施順序は参加者間でカウンタバランス
した)
。CIT において,各質問項目は黒地に白文字で提示し,提示
持続時間は 0.5s,提示間隔は 1.5-3.0s でランダムとした。各項目を
ランダムな順序で 1 回ずつ提示する試行を 30 試行実施し,参加者
には,各項目が提示される度に手持ちのボタンを押させた。また,
参加者には,
「無実を装うことができたら最後に報酬がある」と動
機づけを行い,
「項目が提示される度にできるだけ早くボタンを押
すこと」
「検査中はできるだけ瞬きを我慢すること」を教示した。
模擬窃盗内容
パターン1:
ネックレスを
窃取する
パターン2:
現金を
窃取する
表1 模擬窃盗内容と各条件設定
陽性条件
陰性条件
陰性自己関係条件
「窃取した
「窃取した
「窃取した献血カードに
装飾品の種類」
現金の入れ物」
書かれていた血液型」
(裁決項目=
(分析上の仮裁決
(自己関係項目=
ネックレス)
項目=封筒)
参加者自身の血液型)
「窃取した
「窃取した
現金の入れ物」
装飾品の種類」
同上
(裁決項目
(分析上の仮裁決
=封筒)
項目=ネックレス)
測定 ティアック製ポリグラフ装置(PTH-347 Mk2)を用いて,頭
皮上 4 箇所(Fz,Cz,Pz,Oz)から脳波を 500Hz で記録し,0.1-
30Hz のバンドパスフィルタをかけた。また,眼窩上下に装着した
電極から眼電図を記録した。刺激提示から-200-1040ms を切り出
して,
脳波又は眼電図に±80μV 以上の変動がある試行を除外した。
分析 100Hz にリサンプリングしたデータについて時間主成分分
析を行い,寄与率の大きな時間成分について,各成分の負荷量の大
きな区間における加算平均波形の平均値を算出した。条件,測定部
位及び区間ごとに裁決項目と非裁決項目又は自己関係項目と無関
係項目について対応のある t 検定を実施し,対応のある平均値の差
の効果量 dd を算出した。
結 果
参加者のうち,裁決項目又は自己関係項目の加算回数が 20 回未
満であった陽性条件の 3 名,陰性自己関係条件の 1 名を除外した。
平行分析の結果から成分数を 10 に固定し,時間主成分分析を行
った。寄与率の大きな 4 つの時間成分の負荷量から,それぞれの成
分の区間を,270-370ms (区間 1)
,430-580ms(区間 2)
,700-770ms
(区間 3)
,930-1040ms(区間 4)と設定した。
対応のある t 検定の結果,陽性条件では,区間 1 及び 2 の Fz,
Cz,Pz,並びに区間 3 の Pz で,裁決項目が非裁決項目より大きい
傾向が見られた(ts > 1.77, ps < .10, dds > .38)
。陰性条件ではいずれ
の区間,測定部位でも項目間に差は見られなかった(ts < 1.51, ps
> .10, dds < .31)
。陰性自己関係条件では,区間 1 及び 3 の Fz で,自
己関係項目が無関係項目より大きい傾向が見られた(ts > 1.92, ps
< .10, dds > .40)
。Fz 及び Pz の加算平均波形を図 1 に示す。
10μV
5μV
Fz-positive
Fz-self-relevant
CR ave
nCR ave
self-relevant ave
non-relevant ave
Pz-positive
Pz-self-relevant
0μV
-5μV
10μV
5μV
0μV
0
-5μV
200 400 600 800 1,000
ms
0
200 400 600 800 1,000
ms
図 1 Fz 及び Pz の加算平均波形
考 察
反応潜時等から,
区間2はP3,
区間3はLPP(late positive potential)
と考えられる。P3 は陽性条件の裁決項目のみに対して生じたこと,
LPP は陽性条件の裁決項目に対しては頭頂部に,
自己関係項目に対
しては前頭部に反応が生じたことから,
反応成分や反応部位の違い
によって両項目を識別できる可能性が示唆された。
引用文献
花山愛子・山元修一・渋谷友祐 (2011). 非裁決項目の自己関係性が
隠匿情報検査における生理反応に及ぼす影響 心理学研究, 82,
459-466.
本研究は JSPS 科研費 25906009 の助成を受けたものです。