[成果情報名]飼料作物栽培における放射性セシウム(Cs)含有堆肥の適正施用技術の開発 [要約]放射性 Cs 含有堆肥(8,000Bq/kg 以下)を飼料用トウモロコシ及び秋播きイタリアン ライグラス(1番草)に栃木県農作物施肥基準に従って施用しても、植物体中の放射性 Cs は牛用飼料中の放射性 Cs の暫定許容値 100Bq/kg(水分 80%補正)を大幅に下回る。 [キーワード]放射性セシウム、堆肥、飼料作物 [担当]栃木畜酪研・環境飼料部・畜産環境研究室 [代表連絡先]電話 0287_36_0768 E-mail:[email protected] [区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境・草地) [分類]技術・普及 -------------------------------------------------------------------------------[背景・ねらい] 県内の一部の畜産農家においては、原子力発電所事故に起因する放射性 Cs 含有堆肥の取 り扱いに苦慮している。そこで、自給粗飼料生産に利用可能な堆肥(8,000Bq/kg 以下)を 施用した場合の飼料作物(県内で主に生産されている飼料用トウモロコシ及び秋播きイタ リアンライグラス)への影響について明らかにする。 [成果の内容・特徴] 1.堆肥の放射性 Cs 濃度は、一般作物の利用可能上限値である 400Bq/kg、自給飼料生産 の利用可能上限値である 8,000Bq/kg、及び中間域の 3,000Bq/kg の3種類の牛ふん堆肥を 試験対象としている。また、施用の方法は一般的な農家の栽培管理を想定し、堆肥はロ ータリー耕による全層施用とし、化学肥料は表層施肥としている(表1、2)。 2.試験実施場所の土壌は、放射性 Cs 濃度が比較的高いため、8,000Bq/kg の堆肥を3t/10a 施用して も、土 壌の 放 射性 Cs は 、施 用前と 比較して ほとん ど変 化 しない。 しかし、 8,000Bq/kg の堆肥を4t/10a 以上施用すると土壌の放射性 Cs 濃度が数百ベクレル上昇す る(表1、2)。 3.放射性 Cs 含有堆肥を施用した土壌で生産された飼料用トウモロコシ(栽培期間 2012.4.17~2012.8.20)の放射性 Cs は 4.6~7.7Bq/kg(水分 80%補正値)である。また、 秋播きイタリアンライグラス1番草(栽培期間 2012.10.5~2013.5.1)の放射性 Cs は 3.9 ~7.8Bq/kg(水分 80%補正値)であり、両方の作物において、放射性 Cs 含有堆肥を施用 しても対照区と大きな差は認められず、牛用飼料の放射性 Cs 暫定許容値 100Bq/kg を大 幅に下まわる(表1、2)。 4.放射性 Cs 含有堆肥(8,000Bq/kg)の施用により、土壌中放射性 Cs 濃度も僅かに上昇 するが、飼料用トウモロコシ及び秋播きイタリアンライグラス(1番草)に対する放射 性 Cs の移行抑制効果がある交換性加里(K2 O)濃度も上昇する。また、堆肥施用後、丁 寧に耕起を行うことで施用した堆肥が作土層全体に渡り均一に混和される(表1、2)。 [成果の活用面・留意点] 1.畜産農家が保有する放射性 Cs 含有堆肥を飼料作物栽培に施用する際、農家が抱いてい る不安の解消となる成果である。 2.放射性 Cs 含有堆肥の施用にあたっては、栃木県農作物施肥基準を遵守し、過剰施用を 避ける。 3.土壌中の交換性 K2 O が不足する場合は、別途、K2 O 資材を施肥する。 4.堆肥散布後に耕起し、かたまりがないように十分に混和する。 [具体的データ] 表1 飼料用トウモロコシ栽培試験データ 試験区 堆肥 施用量 施用した堆肥 (現物中) 化学肥料 施肥量 化学肥料及び堆肥施用 直後の土壌(乾土中) 飼料用 トウモロコシ (t/10a) 放射性 Cs (Bq/kg) 加里 (K 2 O) (%) N-P 2 O 5 -K 2 O (㎏/10a) 交換性 K2O (mg/100g) 放射性 Cs (Bq/kg) 放射性 Cs (水分 80%補正 Bq/kg) 0 - - 22-22-22 62 1,818 7.7 A 4 400 0.7 20-0-0 28 1,797 7.2 B 4 3,000 2.4 18-0-0 75 1,757 5.7 C 4 8,000 0.7 15-0-0 34 2,109 5.3 D 8 8,000 0.7 7-0-0 58 2,209 4.6 対照区 試験区 注)施用した堆肥 試験区 A,B,C は異なる生産事業者、試験区 C 及び D は同じ生産事業者 試験区 D は試験のため栃木県農作物施肥基準の2倍の堆肥を施用 施肥前の乾土中放射性 Cs 1,756Bq/kg、施用前の交換性 K 2 O 10mg/100g 乾土 使用した化学肥料の種類 対照区:化成肥料、試験区:尿素肥料 表2 秋播きイタリアンライグラス1番草栽培試験データ 試験区 堆肥 施用した堆肥 化学肥料 化学肥料及び堆肥施用 イタリアン 施用量 (t/10a) (現物中) 施肥量 直後の土壌(乾土中) ライグラス 放射性 Cs (Bq/kg) 加里 (K 2 O) (%) N-P 2 O 5 -K 2 O (㎏/10a) 交換性 K2O (mg/100g) 放射性 Cs (Bq/kg) 放射性 Cs (水分 80%補正 Bq/kg) 0 - - 13-13-13 53 1,629 5.5 A 3 400 0.5 11-0-0 50 1,730 4.8 B 3 3,000 2.0 10-0-0 81 1,762 7.8 C 3 8,000 0.8 8-0-0 55 1,827 4.4 D 6 8,000 0.8 2-0-0 56 2,125 3.9 対照区 試験区 注)施用した堆肥 試験区 A,B,C は異なる生産事業者、試験区 C 及び D は同じ生産事業者 試験区 D は試験のため栃木県農作物施肥基準の2倍の堆肥を施用 施肥前の乾土中放射性 Cs 1,732Bq/kg、施用前の交換性 K 2 O 34mg/100g 乾土 使用した化学肥料の種類 対照区:化成肥料、試験区:尿素肥料 (栃木県畜産酪農研究センター) [その他] 研究課題名:飼料作物栽培における堆肥の適正施用技術の開発 予算区分:県 単 研究期間:2012-2014 研究担当者:前 田 綾 子
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