親密な関係の社会心理学 (1): 共同的関係と交換的関係

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http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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親密な関係の社会心理学(1) : 共同的関係と交換的関係
諸井, 克英
人文論集. 44(1), p. A1-A36
1993-07-30
http://doi.org/10.14945/00002871
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親密 な関係 の社会 心理 学 (1):
共 同的関係 と交換的関係
諸
l。
井
克 英
は じめ に
われわれは,日 常生活の中で,さ まざまな人たちとの関係を営んでいる。そ
のよ うな対人関係 は,経 済的市場 に似た一種の市場 を形成 していると考えられ
る。対人関係市場では,さ まざまな対人的相互作用が報酬的価値に還元され
一定の規範や原理に従 って交換 の公正さが判断される。そのよ うな問題 を扱 う
,
代表的理論 として衡平理論を挙げることがで きる (Walster ο
ιαι
.,1978)。 経
済的交換 と類比 し易 い仕事上の関係や未知者 との相互作用 などとは異な り,恋
愛関係や夫婦関係 に代表 される親密 な関係 においては,衡平原理が適用 されな
いとい う立場がある。つまり,関 係 に伴 う利得 とコス トヘの注意はむ しろ関係
の維持・ 発展 の妨げとな り,親密な二者 の間の交換 は,別 の原理 によって支配
されていると考えられる。
Rubin(1973)に よれば,交 換原理 は対人的絆が強固になった段階 よ りも関
係進展 の初期段階 によ くあてはまる。 Walster aι α (1978)も ,短 期 の関係
のほうが,a)自 他のイ ンプ ットおよびアウ トカムの査定が容易であり,b)具
J。
体的,特 殊的な ものが交換 されるので査定 の値が明確である,と い う理由で
つ きあいの浅 い関係のほうが衡平計算が簡単であると提起 している。 したがっ
,
て,つ きあいの浅 い関係 にのみ,衡 平理論が適用可能であるとも考えられる。
Lloyd θ
ια (1982)は ,男 女大学生を対象 として,親 密 な関係 よ りもつ き
あいの浅 い関係のほうで TMI(TOtal M∞ d lndex)に 対す る衡平性 の予測力
J。
が高 いことを認 めた。夫婦を被験者 とした Matthews&Clark(1982)の 研究
では,自 己に対する相手の理解 0受 容 についての認知が希薄であるときにのみ
衡平性の認知 と関係満足度との間に 2次 的関係が生 じた。直接 に衡平性の問題
を扱 っているわけではないが,Murstein aι αJ.(1977)も 以上 の研究 と一致
,
-1-
した知見 を提出 している。社会的交換志向の強い者同士 の組み合わせは,夫 婦
関係 には結婚上 の不適応をもたらし(た だ し,夫 のみ),大 学生 の同性友人関
係ではむしろ友情を高めた。
しか し,関 係進展 の初期段階でのみ衡平理論が適用可能であるとい う考えや
それを支持する研究知見 は,恋 愛 0夫 婦関係を対象 とした諸研究での結果 と矛
盾す る (諸 井 0小 川,1987参 照)。 さらに,家 族 の ライ フ・ サイクルの後期 に
なるほど夫婦関係を衡平であると認知す る者 の割合が増加する傾向にあること
を見出 した研究 もあることから(Schafer&Keith,1981), この二者 の関係進
展度の影響 は衡平理論 にとつて重要な問題 といえる。
連帯性志向集団における平等分配選好 を指摘 した Deutsch(1975)に 従 って
も,親密 な関係では衡平性 よ りもむ しろ自他 のアウトカムの一致度である平等
ια (1982)は TMI,Michaels
性 のほうが支配的であると考えられる。Cate ο
となり
aι α (1984)は 関係満足度 について,衡 平性 とともに平等性 も予測子
J。
J。
得 ることを見出 した。既婚 の男女大学生を被験者 とす る Peterson(1981)の 研
究では,衡平利得者の うちアウトカムに加えイ ンプ ットも自他同一である者 の
幸福感および関係の安定性が高か った。
本論文では,親 密な関係では親密 さに乏 しい関係 とは異なる関係規範 が作用
しているという Clarkの 考えに焦点をあてる。つまり,共 同的関係 と交換的
関係の区別 に関する一連 の実験的研究を詳細 に レビューすることによって,親 、
密 な関係 における社会的交換過程を維持する心理学的機制 に関する有益 な視座
を得 る。
‖.共 同的関係 と交換的関係
Clark&Mills(1979)は ,二 者 の交換 (利 得を与えることと受け取 ること)
を支配する規則あるいは規範 に基づ き,2つ のタイプの関係,す なわち共 同的
関係 と交換的関係を区別 している。共同的関係 は,相 手 の安寧 に対す る責任 の
相互的感情 によって特徴づけられる。利得が,相 手 の欲求 に応 じて与え られた
り,特 定の見返 りを期待せずに相手を満足 させるために与えられる。 このよ う
な関係 は,家 族関係,恋 愛関係,あ るいは親友関係 によって代表 される。一方
交換的関係では,お 互 いの欲求 に対す る特別の責任が感 じられない。 む しろ
過去 に受け取 った何 らかの利得 によつて生 じた借 りを返すためや,将 来 に特定
,
,
のお返 しを受 け取ることを期待 して,利 得が供与 される。 このような関係 は
,
-2-
未知者,ち ょっとした知 り合 い,お よび仕事上のつ きあいな どによ って,代 表
される。
ここでは,2つ の関係 タイプに対す る経験的証拠が,次 の観点 か ら詳細 に レ
ビューされる。a)交 換的関係 に適切な行動,b)共 同的関係 に適切 な行動。
1.交 換 的関係 に適切 な行動
交換的関係 における公正さや正当性の認知 は,関 係当事者双方の間で交換 さ
れる利得 のバ ランスを配慮する行動 と結 びついているはずである。そのよ うな
行動 として,a)供 与 された特定の利得 に対す る即座 の返報 ,b)供 与 した利得
に対す る返報 の要求 ,c)相 応する利得 の供与,d)共 同課題での個々のイ ンプッ
トを覚えてお くこ_と ,な どが挙げられる。 これ らの行動 は,共 同的関係 よ りも
むしろ交換的関係に対する願望を示すと,関 係当事者によって解釈される。 し
たがって,共同的関係における交換的行動は,ネ ガティブな反応を生 じ,ふ つ
うは回避されるだろう。
(1)供 与 された特定の利得 に対する即座の返報
供与 された特定の利得 に対す る即座の返報は,交 換的関係 においては正当性
の認知を促進するが,共 同的関係ではむ しろ苦悩 をもたらすだろう。
① Clark&Mills(1979,実 験 1)の 研究
この研究 は,Fig。 1に 示す手続 きで行われた。Table lに 示すように,交換
的関係を望むように導かれた被験者は返報が生 じたときに,共 同的関係を望む
ように導かれた被験者は返報がないときに,サ クラに対する好意を表明 した。
ところで,こ れらの結果は,“男性が利得を女性に与え,女性は,そ れを喜ん
で受け入れ,返報 しようとすべきでない"と いう伝統的規範によっても説明可
能である。また,男性被験者は,相手の女性から何らかの性的返報を期待 して
いるのか もしれない。 しかし,次 に述べる実験では,共 同的関係が同性に対 し
て期待される条件が設定されている。
② Clark&Waddell(1985)の 研究
この研究では,2つ の関係 タイプによって搾取 の認知が異なることが明 らか
にされた。仮説 は,次 の通 りである。仮説 a:も しも相手 と共同的関係 が期待
されるならば,与 えられた好意 に対す る返報を相手が申し出ないことは,搾 取
の認知 に影響 しない。仮説 b:も しも相手 と交換的関係 が期待 されるな らば
,
-3-
語彙課題 :
1束 の文字カー ドから4文 字単語を10個 つ くる.
る
て
くよ
り
題
割
当
課
uこ
思
1量
:〔
目
]13露 3語 i31三 ::撃
タ
フ
=朧
:
被験者は ,先 に課題に取り組み ,終 了する。
サクラが課題に取 り組む。被験者は ,自 分のカー ドをサクラに提供できる.<全 員が何枚か提供する>
被験者に 1ク レジット与える。相手は ,完成すれば4ク レジット受け取 る。
:
サクラが課題を完成する。
サ
ク
ラ
か
ら
の
伝
言
1逼
し
Tl息謝
百
[[惜 TT'357?晨 穫
お
源
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出
臭
典
輝
詈
霧
第 2課 用に入る前に 。実験者がサクラに関する次の情報を提供する。
「
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コ
』
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信
i蕃[l肇 Ii篤
篤 Ψ 斃│:鑽
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曜爾ポ鮮:[葱]楡 l拇
Fig.1 91ark&Mills(1979,実 験 1)に よる実験の概略図
3oOJ● I
サクラに対する好意度 の条件別平均値
返 報
共同的関係
交換的関係
(Clark&Mtts,1979,実 験 1よ り)
返報 な し
177 -a→
[分 散分析 ]
交互作用 p<。 01
T位検定 a,bと もにp<.05
194
193(― a―→ 176
各 セル :N=24
240〉 ∼ 〈
0〉 低好意度
得点範囲 :高好意度 〈
-4-
与えられた好意 に対す る返報を相手が申 し出ないことは,搾取 の認知を高める。
ここでは,搾取認知が高 まるほど,相 手 に対す る魅力が低下すると予測 された。
実験では,女性被験者 は,交 換的関係あるいは共同的関係を望むよ うに操作
された魅力的な女性のサクラとペアにされた。サクラは,ク ラス 0プ ロジェク
トのための長 い質問紙 に回答するように被験者 に頼んだ。その後 に,協 力 に対
する金銭的謝ネLの 有無が操作された。結果を Table 2に 示す。交換的条件 で
は,金 銭的謝礼 は,搾 取感情を妨 げ,相 手 に対する好意 を高 めた。対照的 に
共同的関係が望まれているときには,金銭的謝礼は,搾 取の感情や好意に対 し
て何の影響 もおよぼさなかった。
,
%bι ●2
搾取認知 とサ クラに対する魅力 に関する条件別平均値
(Cl劉 止 &Wadden,1985よ り)
共同的関係
交換的関係
[分 散分析 ]
《
搾取認知》
返 報
返報なし
儘
返報
11.5
152.0
10。
7 ‐
14。 1
a→
19。 3
返報性 の主効果 ρ<.o5
下位検定 a:′ <.01
力》
返報なし
152.0
168.3 ‐ 1)― ■138。 2
返報性 の主効果 ,交互作用 ρ<.05
下位検定 b:′ <.025
各セル :N=lo
得点範囲 :[搾 取認知]高 搾取〈
40〉 ∼〈
0〉 低搾取 ;[魅 力]高 好意度〈
200〉 ∼〈
0〉 低好意度
したがって,仮 説 bに ついては,Clark&Mills(1979)の 研究 と同様 に支
された
持
。 しか し,仮 説 aに ついては,Clark&Mills(1979)と 一致す る結
果が得 られなかった6 clark&Waddell(1985)は ,こ の理由として,先 行
研究 との 3つ の差異を指摘 している。a)返 報 の申 し出を相手 が行 って い るた
め,返 報 による拒絶感や困惑が小 さい。b)返 報 は授業予算 に基づいてお り,個
人的なコス トを伴わない。c)だ れにで も返報を行 っている。
(2)供 与 した利得に対する返報の要求
相手 に与えた利得 に対 して返報を要求す ることは,交 換的関係 において は適
切 とみられるが,共 同的関係 においてはそうでない。
Clark&Mills(1979,実 験 2)の 研究では,Fig。 2に 示すよ うな手続 きで
次の 4つ の仮説が検討 された。仮説 a:fLIに よって援助 された後 にその他者
,
に利得を要求す ることは,交 換的関係が期待 されているときには,高 い魅力を
-5-
課題に入る前に ,実験者がサクラに関する次の情報を提供する。
II僣1滑 計発ミI:糎
軍 1交 枇
:言 :Lと に関陀崎増夕鈍
第 2課 題 (討論)説 明
1驚 1雛
雛:菫霞鯛離│コ 涯嘉:象
語彙課題 : 実験 1と ほぼ同じ
て
に
じ
よ
る
り
当
課
題
割
く
1長
:機 ふ
ζ
;1霞 静
ま
‖
し
国
li多 じ
肇
:
サクラは ,先 │こ 課題終了
サクラからのカー ド提供の申し出の有無
の
ク
ラ
か
ら
サ
伝
言
│[コ
伍 報要求の操作》
《 離園敗の測定》
1雛
制
ぶ
が
鰤
°
「
ス
ιZ曇よ
τ
環
T験 フ
じ
t臭 鷹
言
糞
雷
`【
`口
Fig.2 Clark&Mills(1979,実 験2)に よる実験の概略図
もたらす。仮説 b:他 者 によつて援助 された後にその他者 に利得 を要求 す るこ
とは,共 同的関係が期待 されているときには,魅 力を低下 させる。仮説 C:他
者からの援助がないのに利得を要求することは,交 換的関係が期待 されて い る
ときには,魅 力を低下 させる。仮説 d:他 者からの援助がないのに利得 を要求
することは,共 同的関係が期待 されているときには,高 い魅力をもたらす。
結果を Table 3に 示す。相手からの援助があ った場合 に関す る仮説 aと b
については支持 された。つまり,交 換的関係が望 まれている場合 には返報 を要
求 されたときに,共 同的関係が望 まれている場合 には返報の要求がないときに
サクラに対する好意が生 じた。また,相 手からの援助がない場合 は,次 のよ う
,
-6-
な傾向が得 られた。交換的関係が期待 されているときの援助要求 は,相 手 の魅
力 を低下 させ,仮説 Cが 支持 された。 しか し,共 同的関係が期待 されるときの
仮説 dに ついては,支 持 されなか った。 これは,先 に自分を援助 して くれなかっ
たにもかかわらず,援 助を要求 している相手 の意図に関す る疑念 が,被 験者 に
生 じたため と考えられる。
3obJo 3
サクラに対する好意度 の条件別平均値 (Clark&Mills,1979,実 験 2よ り)
援助 ―
援助 ―
援助なし― 援助なし―
返報要求 返報要求なし 返報要求
返報要求なし [分 散分析]
C
共同的関係
156- a ・― 191
交換的関係
173‐ b-149
_
179
177
b _
下位検定
149- b-173
L……
…………………………
各 セル
関係 タイプの主効果 p<.05
二重交互作用 P<.∞ 1
b
a:p<.01
b:p<.05
C:p<.06
:N=10
240〉 ∼ 〈
0〉 低好意度
得点範囲 :高 好意度 〈
に)相 応する利得の供与
交換的関係 においては,供 与 された利得が過去 に受け取 った利得の返報 であ
るように知覚させるどのよ うな変数 も,ポ ジティブな反応 を生 じるはずである。
たとえば,過 去 に受けた利得 に完全 に相応 している利得を与えることは,返 報
としてみられるであろう。交換的関係では,特定の負債が返報 されることが期
待 されているのである。対照的に,相 応 していない利得 は,共 同的関係 におい
て好 まれるだろう。 とい うのは,返 報 として認知されることはな く,相 手 の欲
求 を充たすために与えられたと見倣されるか らである。
Clark(1981)の 一連 の研究 (実 験 1,2,3)は ,こ れらの考えを支持する
証拠 を提供 している。最初の 2つ の研究では,被 験者 は,一 方 の人物 が他方 に
何かを与え,そ れから他方が一方 に何かを与えるというシナリオを読 み,二 者
の関係を推測す る (二者 は友だちではない く
の ∼ ←〉二者 は親友 である)。
実験 1で は,車 で家 まで送ることと昼食をお ごることを用 い,二 者 の間 で相
応 した利得の交換 (車 →車,昼 食→昼食)と 相応 していない利得 の交換 (車 →
昼食 ,昼 食⇒車 )の いずれか が生 じて い る 4つ の エ ピソー ドを作成 した
(Table 4参 照)。 大学生 にこれ らの うちの 1つ のエ ピソー ドを呈示 し,二 者 の
関係 を推測 させると,相 応 しない利得の場合 のほうがそうでない場合 よりも二
-7-
者が親 しい関係にあると認知された (非相応利得条件2.6;相 応利得条件 0;p
<.∞5)。 しかし,こ の実験で用いた利得が仕事仲間同士 に特有の ものである
ために,こ のような結果になったのかもしれない。
2。
3α bJ●
イ
エ ピソー ドの例 :非 相応利得 ―ランチ先行条件 (Clark,1981,実 験 1よ り)
ジョン 0ク ラーク氏が時計を見ると,12時 15分 であった。昼食時間であった。彼 は,ス ティー
プ・ ス ミスのところに電話をした。スミス氏が電話 に出た。
“やぁ,ス ティープ・ ス ミスだけれど。'
“あぁ, ジョン 0ク ラークだけれど,昼 食を取 ったかい。"
“まだだ "と スティープ 0ス ミスが答えた。
"と ,彼 は言 った。
“それでは,昼 食をお ごってあげよう。15分 後 に角で待ち合わせよう。
“じゃあ,す ぐに 'と 言 って,彼 は,電話を切 った。
次の日に,ス ティープは,夕 方の 5時 にジョンに電話をかけた。
“スティープ・ スミスだけれど,今 日は,家 まで車で送 ってあげるよ。 5時 半 にど うだ い。"
とスティープは,尋 ねた。
“いいよっ じゃあ,す ぐに "と ,ジ ョンは答えた。
次の実験では,同 じ寮 に居住する学生同士 (男 性同士 ,女 性同士 )で の利得
の交換 (ペ ン,メ モ帳,コ ー ヒー,キ ャンデ ィー)を 対象 とした (Table 5参
照)。 さらに,返 報 の遅延 も操作 された (同 じ日,5日 後)。 しか し,Table 6
に示すように,遅 延 の効果 はなく,実 験 1と 同様 に相応性 の効果 のみが認 め ら
れた。
ZabJ● 5
エ ピソー ドの例 :非 相応 …中程度遅延条件 (Clark,1981,実 験 2よ り)
フレッ ドとジムは,寮 の同 じ階 に住んで いる。月曜 日に,フ レッ ドは,疲 れ たので, イ ンス
さな コー ヒーポ ッ トを渡 した 。 土曜
・ コー ヒーを ジムに頼 んだ。 ジムは,フ レッ ドに月ヽ
タン ト
日に,フ レッ ドは, 2本 のフェル トペ ンを与えた。
物 bJe`
二者 の親 しさに関す る条件別平均値 (Clark,1981,実 験 2よ り)
短期遅延
相応利得
非相応利得
9。 10
10.48
中程度遅延
9。 07
9。 95
各 セル :N=40
0〉 友 だちでな い
得点範囲 :親友である 0〉 ∼ 〈
-8-
[分 散分析 ]
相応性 の主効果 p<.03
実験 3で は,実 験 2で 用 いたエ ピソー ドを大学生 に呈示 し,返 報 の理 由 を挙
げさせた。実験条件を知 らない 2人 の判断者 によって,こ れらの反応 の共同的
関係志向性 と交換的関係志向性が評定 された。Table 7に 示すように,相 応 し
ていない返報は共同的関係志向性 に基づ く反応であると判断 され,相 応 した返
報 は交換的関係志向性 に基づ く反応であると見倣される傾向がみ られた。
以上 にみたように,相 応する利得の交換 は,交 換的関係 における正 当性 の感
覚を達成することにとって重要であるが,共 同的関係 においてはそうではない。
rし らJ.π
交換志向性得点 と共同志向性得点 に関する条件別平均値 (Clark,1981,実 験 3よ り)
相応性
非相応
相 応
短
期糞
喜
喬
呂
糧
層
奮
長
期糞
喜
喬
日
瞳
信
曇
ll認
[分 散分析 ]
2:::
―
――
―
――
――
――
―
―
――
―
――
―
―
――
―
―
――
―
―
―
――
―
――
―
―
――
―
―
―
―
―
・ 両得点 ともに
鎚
肇砲
重 ―
,
相応性 の主効果 p<.001
l:冨
2:翼
各 セル :N=18
得点範囲 :4つ の エ ピソー ドの うち,当 該 の志向性 に判断 された数 (4∼0)
に)共 同課題での個々のインプ ッ トを覚えておくこと
交換的関係規範によれば,人 々は,課 題へのイ ンプ ットに比例 して利得 を受
け取 るべ きである。 このよ うに利得を分配す るためには,イ ンプ ットを覚 えて
おくことが必要である。対照的に,共 同的規範 は,必要度 の高 い人 がよ り多 く
の利得を受け取ることや,欲 求 が同 じときには利得が平等 に分配 されるべ きで
あることを示 している。 この規範 に従 うためには,個 々のイ ンプ ッ トを覚 えて
お く必要 はない。
① Clark(1984,実 験 1,2,3)の 研究
次 の 2つ の仮説 を検証す るために,一 連 の実験 が行 われた。仮説 a:交 換的
関係 を営 んでいた り望 んでい る人 々 は,共 同課題 へ のイ ンプ ッ トを覚え よ うと
試 みるだ ろう。仮説 b:共 同的関係 を営 んでいた り望 んでい る人 々 は,共 同課
題 へ のイ ンプ ッ トを覚 えよ うと試みな いであろう。
実験 1が ,次 のよ うに行 われた。男性被験者 は,魅 力的 な女性 (サ クラ)と
共同報酬課題 に従事 した。課題 は,数 字 マ トリックスか ら特定 の数字連 鎖 を探
し,カ ラーペ ン (赤 色 ,黒 色 )で ○印 をつ けることであった。 くじによ ってサ
-9-
クラが別室で先 に数字連鎖課題 に従事することにな り,そ の間,被 験者 は別 の
課題 に取 り組 まされた。その後,個 人的属性 などに関する質問紙への記入 を求
め られ,サ クラの回答 を添付す ることによ って関係 タイプの操作 が行 われた
(共 同的関係条件 :独 身,大 学新入生,人 々に会 うのに興味 があるために実験
参加 ;交 換的関係条件 :既 婚 ,1年 間大学で過 ごした,夫 が迎えに来 るのを待
つ間に実験参加)。 被験者 は,こ の後,サ クラが取 り組 んだ数字連鎖課題 の続
きを行 うように支持 された。従属変数 は,そ の時にサクラが使用 した色 と同 じ
のカラーペ ンで被験者が○印をつけたかどうかである。結果 をTable 8に 示
す。交換的関係条件 におかれた被験者 は,課 題での個々のイ ンプ ットが明確 に
なるように,サ クラが使用 した色とは異なるカラーペンを使用 する傾向 にあ つ
た。逆 に,共 同的関係 を望むように操作 された被験者 は,お 互 いのイ ンプ ッ ト
が曖昧になるような仕方で行動 した。つまり,仮 説 aと bが 支持 された。
3α bι ●8
サクラとは異なる色 のカラーペンを使用 した被験者 の割合 (Clark,1984よ り)
共同的関係
実験
12.5%
1
←
p<.01 →
←
p<.01 →
↑
rr=33・
≠50%,p<.01
42.0%
実験 2
実験 3
各 セル
88.2%
↑
≠50%,p<.01
94。 4%
↑
≠50%,p<.01
N=17
30.0%
←
p<.01 →
N=18
90.0%
↑
≠50%,p<.01
:N=10ペ ア
*:各 セルヘの配分は不明
しか し,実 験 1の 共同的関係条件の被験者の行動 について,次 の代替仮説 が
考 えられる。彼 らは,交 友形成 を促進す るためにお互 いのイ ンプットを覚 える
ことを回避 しているのであり,交 友が形成 された後の段階では交換的関係規範
に従 いお互 いのイ ンプットを覚えるよ うに行動するかもしれない。 この代替解
釈 の可能性 を検討す るために,次 の 2つ の実験が行われた。実験 2と 3で は
被験者 は,友 人 と参加 した (共 同的関係)。 未知者 と組 み合わされた条件 も設
定 された (交 換的関係)。 ただ し,実 験 2で は別室 で課題 に取 り組 むが,実 験
,
-10-
3で は同 じ部屋で同時に課題 に取 り組んだ。Table 8に 示すように,こ れ らの
実験でも,交 換的関係 にある者 は,共 同的関係 にある者 に比べて,課題での個々
のイ ンプ ッ トを明確 にするように行動 した。つまり,代 替解釈が棄却 された。
しか し,共 同的関係 にある被験者 の傾向 は,仮 説 bを 支持 していなかった。 こ
れは,次 のことを示唆する。交換的行動 (こ こでは,個 々のイ ンプ ッ トの明確
化)の 回避 は,共 同的関係が未確立であるときには重要であるが,そ のよ うな
関係が確立 しているときにはもはや重要ではな くなる。
《
関係タイプの操作》
課燿磁確蒟膨檬れために男攀
翻
力珈
1鶉
:鶴
窯
:
同 じ部屋で作業するか 。別 々の部屋で作業す
るかとい う2条 件がある。→ このセッションで
は .別 々の部屋で作業する。
IttT曇 加
の獣bl:
壁に面した机に座らされる。
反対側の壁には郵硬箱があり。2つ のライ
ト (緑 ,赤 )力 射 けられている。
数字が書かれたマ トリックスから特定の数字
連鎖を探す。→相手が先に行 う。
《ライ トの議 の欄誦講
相手が課題に取 り組んでいる間 .被験者は休憩するが ,そ の間に教示用紙を読む。
欲求条件
: 実験者は ,参加者がどのようなときに課題に困難を感じ,援助を必要とするか
に関 心がある。参加者が援助を必要 とするとポタンを押す。‐緑ライ トが消え
赤ライ トが点灯する。ただし,こ のセッションでは援助暉きないが ,条 件統制の
,
ためにそのようにする。
インプット条件 : 課題への動機づけとして ,集団報酬を出す。数字通鎖をЮ固見つけるた
びに余分の報酬を与える。10固 見つけるたびに 。相手はボタンを押す。→緑ライ
トが消え ,赤 ライ トが点灯する。ただし。このセッションでは集団報酬はないけ
れども ,条 件統制のためにそのようにする。
いずれの条件でも ,ラ イ トを観察する必要はないと述べられる。
実験者は ,退室後 ,ハ ーフミラーで観察する。‐被験者がライ トを見た回数
Fig。
3 Clark eι α (1989)に よる実験 の概略図
J。
―
H―
ια (1989)の 研究
② Clark ο
この研究では,友 人同士 と未知者同士 のペアを用 いることによって ,交 換的
関係でのイ ンプ ットの明確化 とともに,共 同的関係 においては相手 の欲求 に注
a:
意を向ける傾向があることも示 された。仮説 は,以 下の通 りである。仮説
進行中の交友関係の成員 は,未 知者同士 よりも,相 手 の欲求 を覚 えようとす る
J。
傾向にある。仮説 b:未 知者同士 は,進 行中の交友関係 の成員 よりも,共 同報
酬課題への相手 のイ ンプ ッ トを覚えようとする傾向にある。
a,
実験 は,Fig。 3に 示す手続 きで行われた。Table 9に 示すように,仮 説
bは ,明 確 に支持 された。
3● らJ●
θ
,1989よ り)
ライ トを見た回数 に関す る条件別平均値 (Clark eι 。
友
未知者
人
イ トの意味 ]
イ ンプ ッ ト 1。 31(N=13)
4。 36(N=11)
欲 求
[ラ
←
←
a→ 3.78(N=9)
a→ 1.00(N=9)
[分 散分析 ]
対数変換 :Jog(X+I)
交互作用 p<。 001
下位検定 aF<.01
2.共 同的関係 に適切 な行動
共同的関係 においては,相 手 の欲求や期待 に対する特別 な義務感情 を反映 し
ている行動が適切であると見倣 される。 これ らの行動 として,以 下の ものが挙
げられる。a)援 助供与,b)援 助供与 による気分 と自己評価 の高揚 ,c)相 手 の
欲求 を覚えておくこと,d)相 手の情動表出 に肯定的 に反応す ること,e)相 手
に対す る積極的な情動表出。
`
(1)援 助供与
よ りも共
ので
を証明する
換的関係
,交
の
に
する関心
は
対
安寧
援助供与 ,他 方
同的関係 において,よ り期待 され,よ りしばしば生起す るはずである。さらに
交換的関係での援助供与 は,相 手が同 じやり方で返報できるかに関わ っている
が,共 同的関係ではそうでない。
ια (1987,実 験 2)の 研究では,魅力 的 な異性 と共同的関係 を望
Clark ο
むように操作 された被験者 は,交 換的関係 を望むように操作 された被験者 よ り
も,そ の相手を援助するために多 くの時間を費や した。 この実験 の詳細 は,後
,
J。
-12-
述の “
相手 の情動表出に肯定的に反応すること"の 箇所で述べ られる。
に)援 助供与による気分 と自己評価の高揚
(1)で
は,交換的関係 よりも共同的関係を望んで いる者 が相手 の欲求を充た
したいとい う大 きな動機づけをもつことが示唆された。また,先 にみた交換的
関係規範への遵守に関する研究は,次 のことを示唆する。交換的関係よりも共
同的関係を望んでいる者 は,援 助 した後 に相手 に返報を期待 しない傾向にある。
これ らの理由から,次 のよ うに推測される。共同的関係 を望んでいる者 は,相
手への援助供与に対 して肯定的に反応するはずである。同様 に,共 同的関係を
望んでいる者 は,相 手を援助 しないことに対 して悪 い気持 ちを抱 くはずである。
WilliamsOn&Clark(1989a)は ,2つ の実験
(実 験 1,2)で 援助供与 が
や
の
気分 自己評価 高揚 をもたらす ことを確認 したうえで,次 の実験では (実 験
3),援助供与 と気分 0自 己評価 の高揚 との間 に二者 の関係 タイプが仲介 して
いるかどうかを検討 した。つまり,共 同的関係を望んでいる者 には,相 手 を援
助 したいとい う願望があり,相 手 を援助 した結果 としての気分 0自 己評価 の高
揚が生 じる。一方,交 換的関係を望んでいる者 の場合 ,援 助供与 が二者 の間 に
不衡平 の認知を生 じることにな り,そ のよ うな認知に伴 う苦悩が生 じる。
実験手続 きと結果を Fig。 4と Table loに 示す。女性のサクラと交換的関係
を望むよ うに操作 された男性被験者では,援助供与 も援助供与を妨げられ るこ
とも気分や自己評価 にあまり影響 をおよぼさなかった。 しか しながら,共 同的
関係 を望むように操作された被験者では,援助供与 による気分 と自己評価 の高
揚がみ られるとともに,援助 の妨げによる気分 と自己評価 の悪化が生 じた。
物 bル ″θ
気分・ 自己評価 の変化 に関する条件別平均値
(Willialmson&Clark,1989a,実 験 3よ り)
侃 分変化》
援
交換的関係
共同的関係
[分 散分析
]
得
点
範
囲
援助 な し
助
-1.8(N=13)
8.3(N=12)←
援
0.4(N=12)
a→
4.3
-7.9(N=13)
援助 の主効果 _p<.08
交互作用 p<.02
下位検定 ap<.01
《自己評価変化》
助
援助 な し
6.6
1.5
←―a→
-8.4
援助 の主効 果 p<.02
交互作用 ρ<。 lo
下位検定 ap<.01
せ21認 堪下
筆
絲
炉
装
雇
晉
修お
ゞ
1鱈 貧
0と
-13-
男子大学生が実験室に来る。‐テープルに座らされる。
2束のタイルがテープルの上に置かれている (1つ は被験者側 。もう1つ は向い側)。
のものであり。電
ハンドバッグや女性用セーターが椅子に置かれている。→もうlA―
話のために部屋を出ていつたことが告げられる。
:
課題 : 文字タイルから単語をつくることなどの単純課題
その時の気分が重要であることが強調される。
額 膨
属性質問紙 。気分 。自己評価測定
(事 前)‐ 記入後にフォルダーに入れるように指示 した後,
実験者は退室する。
‐《
関係タイプの船
フォルダーの中にもう 1人の被験者の回答済質問紙 と写真が入っている。
魅力的な女性の写真
先行研究 と同様な情報
回答済質問紙
1羹 量出雛 │‐
(捌
―
膿
わ
実験者が戻つて来て ,次 のように告げる。「もう1人 の被験者を探 し出したが ,彼女は ,電 話中
で家族問題に苦慮 しているようだつた。彼女は,実 験を終 える前に帰 らなくてはならないだろ
う。」 そして ,次のように付け加える。
援助なし条件 : 「彼女は ,あ なたが次の課用のために彼女の分の文字を分類することによ
って援助できないかと,私に尋ねた。しかし,文字を分類することも課題の一部である
ので ,そ れはできないと言つた。J
援助条件 : 「彼女は ,あ なたが次の課題のために彼女の分の文字を分類けることによって
援助できないかと ,私 に尋ね た。しかし。文字を分類することは課題の一部ではないの
で ,あ なたが望めばよろしいと言つた。あなたが援助 したければ 。この表に従つて ,こ
れらのお盆にタイルを置いてください。それから 。自分自身の課題に取 り組んでくださ
い。J
実験者は ,損 富する。援助条件では .全員が援助を行 う。
:
動
し自E鋼 眼
Fig。
(難)lヵ
ヨ
Y用 昆準[繁 :言 籾
す汗笏薔河1颯
路認刊度
4 Williamson&Clark(1989a,実 験 3)に よる実験の概略図
(3)相 手 の欲求 を覚えてお くこと
共同的関係規範 は,利 得 が相手 の欲求 に応 じて与 え られることを含んでいる。
したが って,共 同的関係 では,相 手 の観点 に立 ち,相 手 の欲求 の兆候 に注意す
ることが必要 とされる。
-14-
ια (1986,実験 1)の 研究
① Clark ο
この実験では,次 の 3つ の仮説が検討 された。仮説 a:相 手が同様な仕方 で
返報で きる機会がないときには,相 手の欲求 を覚えてお くことは,交 換的関係
よ りも共同的関係が望まれている場合 に,大 きくなる。仮説 b:交 換的関係 が
J。
望まれている場合 には,相 手の欲求 を覚えておくことは,相 手が同様 な仕方 で
返報で きないときよりもで きるときに,大 きくなる。仮説 C:共 同的関係 が望
まれている場合 には,相 手が同様 な仕方で返報で きる機会の存在 は,相 手 の欲
求 を覚えることに影響 をもたらさない。実験手続 きと結果を Fig.5と Table
llに 示す。結果のパ ターンは,3つ の仮説 を支持 している。
《
関係タイプの操作》
課題に入る前に ,質問紙への記入を求められる。サクラによって回答済の部分をみる。
1重
曾
器
冨
段
奏
練
と
先
行
研
究
同
様
│→
: 与えられた文字を使 つて4-単
こ
日
よ
る
て
く
剛り
当
語彙課題
│こ
語をつ くる.
し
は鰍
:こ
iI:I:[酎
輩
が未使用の文字を交換する条件があるが ,こ のセッシ
実験者は ,次のように告げる。「途中で2人
―
ョンはその条件ではない。」「文字を要求できるか尋ねる者がいる。難解な課題に取 り組んでいる者が文字を
要求しても 。実験の妨げにならないと決定 した。あなたの課題は易しいので ,文 字を要求できない。」
次に ,被験者の部屋と相手の部屋の間の壁に取 りつけられた箱を示 して ,次 のように述べる。「相手が文字
を必要としたときには .ス ロットからメモを差し込み 。この箱に落ちるようになっている。J
かどうかを見るためには ,被験者は立ち上がらなければならない。
:
伍 報機会操作》
│[朧 :蹴
:
この課題の後 ,2人 の課題を取 り替える。
何も告げられない。
実験者は ,退室後 ,ハ ーフミラーで観察する。―
者がメモを見るために箱を覗いた回数
Fig.5 Clark eι α (1986,実 験 1)に よる実験の概略図
J。
-15-
要求があった
物
bJ●
II
メモを見るために箱を覗 いた回数 に関する条件別平均値
(Clark e,cJ.,1986,実 験 1よ り)
返報機会 な し
験係alill:{N=l:;← a→
羹
展
1関
返報機会あ り
:│::〔 N=l:;
[分 散分析 ]
1ミ
あ
じプ
長
り
鰹
漢
躍
霧馨
>
1蛮
×返報機会
関係 タイプ ×返報機会 ρ<.05
下位検定 ap<.05
この実験結果 について,次 の 3つ の代替解釈が検討 された。代替解釈 1:共
同的関係では相手が被験者 に依存 していると知覚 されるため。代替解釈 2:共
同的関係では相手 との類似性が知覚 されるため。代替解釈 3:関 係 の持続 に関
する予想が異なるため。
代替解釈 1と 2は ,こ の実験での関係 タイプの主効果を説明で きるが,交 互
作用効果を説明で きない。代替解釈 3で は,関 係のタイプにかかわ らず同一の
交換規範が存在 していると考えられる。交換的関係 一返報機会 なし条件では
,
関係が将来 に も存続するとは期待 されないために,相 手の欲求 に注意が払 われ
ないことにな り,実 験結果 と一致す る。 しかし,共 同的関係 において も同様 な
交換規範が作用 しているならば,即 座に返報す る機会がないのに相手 を援助す
ることは,不 衡平をもたらす ことになる。つまり,共 同的関係 において も返報
の有無の効果が生 じるはずであるが,実 験結果 はそのような効果を示 して いな
い。 したが って,3つ の代替解釈 は,棄 却 される。
ια (1986,実 験 2)の 研究
② Clark ο
この実験 は,被 験者が相手 を援助することを禁止 した場合 に も,共 同的関係
を望むように操作された被験者が,相 手 の欲求 に注意を向けるかどうかを確か
めるために行われた。実験手続 きの大筋 は,先 の実験 1と 同 じであるが,次 の
J。
部分が異なる。難 しい課題 に取 り組む被験者が易 しい課題 に取 り組む被験者 か
ら文字 を要求で きる条件がある,と 告 げられた。その条件では,箱 に赤色 と緑
色 のライ トが取 りつけられ,赤色のライ トを点灯 させるボタンを押す ことによっ
て文字 の要求 に関す るメモを送 った合図 をする ことになっていた。 しか し
「 今回のセ ッションは,そ のよ うな条件 ではないが,実 験条件 を統制す るため
にそのよ うにする」 と告 げられた。なお,返報機会の有無の操作は行われなかっ
,
た。10分 間に被験者がライ トを見るために振 り向いた回数 に関する分散分析 を
-16-
行 ったところ (対 数変換 Jog(X+I),関 係タイプ×被験者 の性 ),関 係 タイプ
の主効果のうが有意であ った o<.05)。 共同的関係条件が2.31回 ,交 換的関
係条件が1.29回 であった。共同的関係においては,援 助で きなくて も相手 の欲
求 に注意を向ける傾向があった。 したがって,関 係 のタイプにかかわらず同一
の規範が存在 しているという説明や将来 の相互作用の期待 における差異 による
説明が棄却 される。
ια (1989)の 研究
③ Clark θ
先述 したよ うに,友 人同士 と未知者同士のペアを用 いた,こ の研究 では,現
実の共同的関係 (友 人)に おいて も相手 の欲求 に注意を向ける傾向があること
J。
が認 め られた。
(4)相 手の情動表出に肯定的に反応すること
交換的関係 よりも共同的関係が望まれているときに,相 手 の欲求 に対す る注
意が高まるならば,共 同的関係 にある相手 による情動表出 (欲 求 についての情
報伝達)は ,肯 定的に受け取 られるだろう。
ια (1987,実験 2)の 研究
① Clark ο
共同的関係志向性をもつ者 にとって,悲 しみの情動 を表出する他者 と直面す
ることは,援助 を高めると思われる。第 1に ,悲 しみの表出 は,そ の人 が他者
J。
依存的であることを意味 し援助 の必要性が高 いと知覚される。共同的関係志向
性 をもつ者 は,相 手の欲求 に応 じることを望んでいるので,そ の よ うな人を援
助 しようと動機づけられる。第 2に ,そ のよ うな情動表出は,共 同的関係志向
性 をもつ者 に共感を引き起 こし,そ れが援助 をもたらす。相手 との関係 タイプ
を操作 したこの実験では,次 の仮説が検討された。仮説 a:相 手 と交換的関係
よりも共同的関係を望むように操作 された被験者 は,そ の相手をより援助する。
仮説 b:相 手の悲 しみの表出は,共 同的関係を望むように操作 されている場合
には援助を促進するが,交 換的関係を望むように操作 されている場合 にはそ う
でない。 これ らの仮説 を検討す るための実験が Fig。 6に 示す手続 きで行われ
た。結果は,Table 12に 示す ように,2つ の仮説が明確 に支持 された。 しか し
次のよ うな代替解釈が可能であろう。関係タイプにかかわらず,同 一の規範 が
,
作用 してお り,関 係操作 に伴 う将来 の相互作用期待 の差異によって結果を説明
で きるかもしれない。つまり,共 同的関係操作 によって将来 も相手から特定 の
利得 を引き出す ことがで きるという期待が生 じたが,交 換的関係条件ではそう
ではなかった。 さらに,情動的に動揺 している人物から返報を引き出す ことが
-17-
創造性の実験に男女大学生が参加
実験室には ,2つ のテープルがある。一方には ,異性の持ち物が置いてある。
創造性が気分にどのように影響されるかに関する実験である。
被験者の写真を撮る。
もう1人の被験者は ,す でに他の課題を終えており, 朝調調骸J"課 題に取り組むために戻って来
るはずである。
《
関係タイプと情動表出の操作》
気分質問紙 と創造性に関わる属性についての質問紙に回答を求められる。‐実験者退室
相手の写真 (魅 力的な異性)と 回答済の質問紙を見てしまう。
《
関係タイプの操作》
質問紙への回答で 。先行研究 と同様な情報を与える。
《
情動表出の操作》
上
ベインティング 。他方には 制
とラ
実験者が 。2つ の盆を持つて戻って来る。 方には “
ベルがわけられている。→被験者のテープルには前者 。相手のテープルには後者の盆が置かれる。
被験者は,30分 間絵を描 くように言われる。別の実験のために退室すると言いながら ,彫 刻の材
料を見て,「 風船が膨らませてなければならないのに」とつぶや く。→被験者に次のように告げ
る。「 よければ ,風船を膨 らませておいてもらえないだろうか。そうしたくなければ ,あ なたの課
題を開始してください。課題を始めたら 。相手を助けるのはやめてください。J
:
実験者は ,退室後 .ハ ーフミラーで観察する。‐被験者が風船を膨らませるのに費や した時間
Fig。
J.(1987,実 験2)に よる実験の概略図
6 Clark eι ●
容易であると思われたのか もしれない。 しかし,こ の代替解釈 は,次 の 2つ の
理由で棄却 される。第 1に ,未 返報 の負債の存在が苦悩 を生起させ るので,共
同的関係を望む相手 にわざわざそのような苦悩 を生起 させる理由はない。第 2
に,他 の研究で相手 の欲求 に応 じることが不可能である場合で も相手 の欲求 に
注意を向けるという先 に述べた研究知見を,こ の代替解釈 は説明できない。
-18-
四αbJ● 12
被験者が風船を膨 らませるのに費や した時間<秒 >
(Clark eι αJ.,1987,実 験 2よ り)
出された情
悲 」軍
∝ Ю
共同的関係
交換的関係
鷲 性
粉 散分用
対数変換 :Jog(X+I)
<関 係タイプ×表出された情動 X被験者の性>
関係タイプの主効果 p<.∞ 01
関係 タイプ×表出された情動の交互作用 p<.02
表出された情動の主効果 p<.06
被験者の性の主効果 p<.08
二重交互作用 p<。 10
下位検定 a:p<.01
各セル :Ⅳ =12
② Clark&Taraban(1991,実 験 1)の 研究
共同的関係 においては,情動の表出が相手 も自分 と同 じように感 じて い ると
い う相手からの価値あるコ ミュニケーションであると考えられる。 したがって
,
情動表出の種類 にかかわらず,交 換的関係 よりも共同的関係が望まれて い ると
きには,よ り肯定的に反応されることになる。 この仮説 を検討す るために男女
大学生を被験者 とする実験が行われた。
被験者が実験室 に来 ると,TVモ ニター上 に もう 1人 の被験者 (中 程度 に魅
力的な男性か女性)が 映 っていた。印象形成 に関す る実験 であ り,先 に来 た
ほうが刺激人物 になると告げられ,次 の手順で実験が行われると説明 された。
1)相 手が回答 した質問紙 を見て,相 手の第 1印 象 を形成す る,2)相 手 といっ
しょになって単語課題 に取 り組む,3)別 々になって相手 の印象 を答 える。 こ
の説明の後,被 験者 は,相 手が回答済の質問紙を受け取 った。 その中 には,先
行研究 と同様 に関係タイプの操作 に関す る情報が含 まれていた。また,次 のよ
うに して情動表出の操作が行われた。相手は,そ の時の気分 (幸 せ,悲 しみ
い らだち)を 両極尺度上で答えているが (ま った く感 じて いない く1〉 ∼ 〈
7〉
,
ひじょうに感 じる),情 動表出に関す る4つ の条件が設定 された。a)幸 せ条件
b)悲 しみ条件,c)い らだち条件,d)情 動表出なし条件。a),b),c)の 条件 で
は,該 当する気分では “7"に ,他 の気分 については “1"に それぞれ○印 をつ
けていた。d)の 条件では,す べての気分で “1"に ○印をつけていた。その後
被験者 は,9個 の特性で被験者を評定 した く
好 ましさ次元 6項 目,依 存性次元
3項 目)。 結果を Table 13に 示す。
,
,
-19-
rabJ.コ3
サクラに対する印象評定 に関す る条件別平均値
(Clark&Taraban,1991,実 験 1よ り)
《
好 ま しさ》
共同的関係
幸せ条件
悲 しみ条件
い らだち条件
情動 な し条件
36:6f
交換的関係
33.7o
29。
7cd
24.7ag
25。
9bg
22.la
28.4bc
28。
5bc
《
依 存 性》 ヽ
交換的関係
共同的関係
8.5ab
12.7ch
9。
10。
13.Oo
14.2f
2a
13.Od
lag
ll.6bdegh
[分 散分析](対 数変換 ,Jog(X+I))一 被験者や相手の性の効果なし
<関 係 タイプ×表出された情動>
関係 タイプの主効果 p<.0001
関係タイプの主効果 p<.001
表出された情動の主効果 p<.001 表出された情動の主効果 p<.01
交互作用 ′<.07
交互作用 ′<.10
下位検定 N四″厖所妬餡お検定 し<.05)一 異なる英数字
N=183,各 セルヘの配分数不明
好 ましさと依存性 ともに,交 換的関係 よ りも共同的関係を望むように操作 さ
れた被験者 は,相 手の情動表出を肯定的に評価する傾向にあった (好意的であ
り,依 存的でない)。 また,両 測度 ともに,有 意な情動表出の主効果 と交互作用
の傾向性が得 られた。 これ らの効果の方向 は,測 度 により異なっていた。
まず,好 ましさについてみると,何 も情動が表出されない ときには,関 係 タ
イプの効果が生 じない。 しか し,何 らかの情動が表出されたときには,交 換的
関係 よ りも共同的関係を望むように操作 された被験者が肯定的に評価する。ま
た,情動 を表出 しない条件 との比較から,情 動の種類 による差異が認 め られた。
幸せの表出は,関 係 タイプにかかわらず,好 ましさ評価を高める。 しか し,悲
しみやい らだちの表出は,交 換的関係条件では評価 を低 めるが,共 同的関係条
件では何 の効果 ももたらさない。
次 に,依 存性 についてみると,何 の情動 も表出されないときや悲 しみを表出
したときには,関 係 タイプの差異が生 じない (Table 13か らは,悲 しみ条件 で
は関係条件差がみられるが,報告の本文 に従 った)。 しか し,幸 せや い らだち
の表出は,共 同的関係条件 よりも交換的関係条件での依存性評価を高める。 ま
た,情 動 を表出 しない条件 との比較 をすると,悲 しみの表出 は,関 係 タイプに
かかわらず依存性評価 を高める。
以上 の結果から,次 のように結論 された。好 ましさに関する結果 は,次 のこ
-20-
とを意味する。a)情 動表出が共同的関係規範 に一致す る,b)情 動表出 は,相
手が共同的関係を望んでいることの表示 としてみられる,c)情動を表出する人々
は,人 間的で傷つ き易 いよ うにみられ,自 分自身の情動や欲求 を理解・ 共感 じ
て くれると思われる。一方,依 存性 に関す る結果 は,不 適切 な文脈 での情動表
出がその人物が情動的で依存的であるという知覚をもたらす ことを,示 唆 して
いる。
6)相 手 に対する積極的な情動表出
共同的関係規範は,相 手 の欲求 に対 して自分が敏感であるべ きであるばか り
でな く,自 分自身 の欲求 に対 して相手が敏感であることを規定 している。 これ
を促進す るために,相 手 に対 して自分自身 の欲求 に関す る情報 を積極的 に伝達
し,返 報 を試みることなしに相手からの援助 を受容す る。
Clark&Taraban(1991,実 験 2)に よる研究では,交 換的関係 よ りも共同
的関係 において自分 の情動 を積極的に表出されるかどうかが検討 された。その
際,進 行中の自然 に生起 している共同的関係 にある者 ,す なわち友人同士 が対
象 とされた。
男女大学生が同性の友人 と 2人 で実験室 に来 た。 2組 のペアが同時に来 るよ
うに計画 されてお り,自 分の友人か他のペアの 1人 (未 知者)と 組み合わされ
,
10分 間の私的会話 に従事す ると説明 された。被験者 は,そ れぞれ話題 の リス ト
を渡され,自 分の好みによって話題を順序づけるように求め られる。渡 された
リス トには,情動的な話題 (平静 に感 じるとき,恐 れ,悲 しくさせる もの,怒
らせるもの,幸 せにさせるもの)と 非情動的な話題 (将来 の計画,好 みの レス
トラン,Pittsburghの 気候 に関す る意見,園 芸 についての意見,Pittsburghの
政治 に関す る意見,Carnegie Mellonに 関する意見,野 生生物 に関す る見解
好みの映画,今 までに最 もよか ったパ ーティー,合 衆国における産業 )が あ っ
,
た。その後,被 験者をそれぞれ別室に連れて行 き,関 係操作のチェ ックの ため
に,他 の 3人 それぞれとの関係 の親密 さを評定 させた (ま った く親 しくない
0〉 ∼ く
7〉 ひじょうに親 しい)。
く
親密さ評定 に基づ き,関 係操作の有効性 を確認 したうえで (友 人条件5。 48;
未知者条件 1。 06;p<。 ∞01),組 み合わされた相手 と情動的話題を論議 しようと
する意志 の強さが関係 タイプによってどの くらい異なるか比較 された。 5つ の
情動的話題 の順位 を合計 したところ (得 点が低 いほど意志が高 いことになる),
未知者同士 (41。 00)よ りも友人同士 (31.57)の ほうで情動的話題 が好 まれる
-21-
傾向にあった 0<.004)。 また,Table 14に 示すように,話 題別 にみて も,全
体的傾向に同様なパ ターンが現れた。情動的話題 と非情動的話題の比較では
次の興味深い差異があった。友人同士では,幸 せや怒りに関する話題が他の非
情動的話題よりも好まれた 0<.∞ 2)。 未知者同士では,幸 せに関す る話題 は
同 じ差異を示 したが 0<.004),平 穏さに関する話題 は他の非情動的話題 より
も回避された CP<.008)。 つまり,幸 せに関する話題は,関 係 タイプにかかわ
,
らず,好 まれる。友人同士での怒りに関する話題は,相手が同情 を示 し,問 題
解決の方法を示唆 してくれるかもしれないので,好 まれるかもしれない。また
未知者同士での平穏 さに関する話題 は,論議するのに非日常的で困難な情動で
,
あるために,論議をためらうのであろう。
賀abJ●
Iイ
情動的話題の順位に関する条件別平均値
(Clark&Taraban,1991,撲 調癸2よ り)
友人同士
rr==15
平静 に感 じるとき
恐れ
悲 しくさせ るもの
怒 らせ るもの
幸 せにさせ るもの
8.5
7.1
7.6
4.7
3.8
未知者同士
rr=16
t検 定
7
9.4
9,2
p<.08
p<.05
6。
9
p<.01
4。
1
10。
サイ ン検定
すべて p<.03
ところで,先 述 したように,Clark&Mills(1979,実 験 2)は ,人 々が交
換的関係 よ りも共同的関係 において援助を好意的に受容す る傾向に もあるとい
う証拠を得た。つまり,交 換的関係 とは逆 に,共 同的関係が望 まれて い るとき
には,返 報できない援助を受けることが好意を高めた。 これは,共 同的関係 で
の情動 の積極的表明 と対応する知見といえる。返報できない援助の受容 は,自
分の欲求 を相手 に伝えることと対応 しているからである。
3.関 係 タイプ操作 の適切 さ
これまでに レビュー した研究での 2つ の関係 タイプの操作 は,典 型的 には次
のように行われる。被験者 は,身 体的に魅力 のあるサクラと研究 に参加 して い
ると思 い込まされる。その際,被 験者がそのサクラについて受け取 る情報 が操
作 される。共同的関係条件では,サ クラは,独 身であり (ほ とんどす べての被
-22-
験者 と同様 に),大 学新入生であ り,新 しい人 々 とつ きあいたがっている。交
換的関係条件では,サ クラは,既 婚であ り,す でに数年大学 にお り,新 しい人々
に出会 うことに関心 をもっていない。 この操作では,次 のことが仮定 されて い
る。大学生被験者,す なわち,研 究 に典型的に参加 している 1年 生や 2年 生は
一般的に,新 たな共同的関係を獲得することが可能であ り,そ れを切望す らす
る。一方,魅力的な目標人物 に自分が類似 しておらず共同的関係を獲得 で きな
いことを示す と,交 換的関係が望まれるはずである。 しか し,こ のよ うな操作
が共同的関係規範あるいは交換的関係規範 に従 いたいとい う願望 をもたらすか
,
どうかという疑間が生じる。したがって,こ のような操作の有効性を確認する
ことが必要 である。
① Clark&Waddell(1985)の 研究
先述 した搾取認知を取り扱 った研究において,Clark&Waddell(1985)は
関係タイプ操作の有効性を確認するために,関係 タイプ操作後に,Table 15に
示す尺度を被験者に回答させた。主成分分析を行 ったところ,第 I因 子 には共
同性因子 《1)か ら5)ま での共同的関係項目が高い負荷),第 Ⅱ因子には交換性
因子 (す べての交換的関係項目が高い負荷)が それぞれ現れたので,共 同的関
係 5項 目の合計得点から交換的関係 6項 目の合計得点を減 じた指標を求めた。
交換的関係条件よりも (-9.2),共 同的関係条件の被験者 のほうが (-2.2),
相手 との共同的関係を望む傾向が認められた 0<.05)。
,
3α bJe r5
相手 と望む関係タイプに関する質問項 目 (Clark&Waddell,1985よ り)
《
共同的関係項 目》
(1)被 験者 と相手 は,将 来,友 だちになれそ うか。
(a被 験者 は,相 手 の欲求 を充 た しそ うであるか。
(31相 手 は,被 験者 の欲求 を充 た しそ うであるか。
14)被 験者 は,相 手 を喜 ばす ことを与 えそ うであるか。
幅)相 手 は,被 験者 を喜 ばす ことを与 えそ うであるか。
(0被 験者 は,相 手 と同 じ気分 になれ るか どうか。
17)相 手 は,被 験者 と同 じ気分 になれるかど うか。
《
交換的関係項 目》
(1)・ 0)被 験者 と相手 は,受 けた援助 にと くに返報す る義務を感 じるか。
(310(4)被 験者 と相手 は,援 助 を受 けた後,で きるだけ相応 した援助を返報 す るか 。
(5)・ (61被 験者 と相手 は,援 助 を受 けた後,で きるだけすばや く援助 を返 報 す るか 。
7点 尺度 :否定的 〈1〉 ∼ 〈7〉 肯定的
-23-
② Clark(1987)の 研究
この実験 には,男 女大学生が印象形成研究の名日で参加 した。被験者 は,ま
ず写真を撮 られ,属 性 に関す る質問紙 に回答 した。その後,相 手 (異 性 )の 写
真 と相手 によって回答 された質問紙 を見せられた。写真 には,予 備調査 によ っ
て選別 された魅力的な異性かあるいは魅力的でない異性が写 っていた。回答済
の質問紙 によって,先 に述べたように関係 タイプ (共 同的関係,交 換的関係 )
に関す る情報が操作 された。そして,被 験者 は,共 同的関係 に対す る願望 に関
する 7項 目と交換的関係 に対する願望 に関す る 7項 目か ら成 る尺度 に回答 し
(Table 16参 照),相 手 ともちたい関係の選択 (友 人,恋愛関係,知 り合 い,ビ
ジネスライクな関係,つ きあいたくない)を 行 った。
四αbル
J6
`
相手 と望む関係 タイプ に関する質問項 目 (Clark,1987よ り)
供 同的関係項 目》
(1)被 験者 は,相 手 の欲求 に喜 んで応 じるか。
(2)被 験者 は,相 手 を喜 ばす ことをす るのが好 きか。
(31被 験者 は,相 手を喜 ばす ことを したいか。
(4)相 手 に被験者 自身 の欲求 に応 じて もらいたいか。
(5)相 手 は,被 験者 の困 り事 をは っきりとは伝えた くない類 の人物 か。
(0被 験者 は,他 のだれよりもとくに相手 の欲求 に敏感 になるとい うことが ないか 。
F)相 手 の欲求 に注意 を向けるように しないほうが被験者 にとってよいか。
《
交換的関係項 目》
(1)も しも相手か ら何か価値あるものを受 け取 った ら,被 験者 は,す ぐに相応す る
ものを返報す るか。
(21も しも相手 が被験者 を援助 した ら,被 験者 は,相 手 にす ぐに返報 しなければな
らないと思 うか。
(31相 手 との関係 では,で きるだけ物事 を均等 に してお くことが最良 であるか。
(41も しも相手 に価値あ る何 かを与 えた ら,被 験者 は,相 手 がす ぐ後 に返報 して く
れることを期待す るか。
(D被 験者 は,相 手 に与 えた利得をわざわざ覚えてお くことを しないか。
(0も しも,相 手 が被験者 に何か好意 を して くれ,そ の後 に返報を求 めた ら,被験
者 は腹 を立て るか。
(つ もしも被験者 が した ことに対 して相手 が返報を した ら,被 験者 は断 わ るか。
7点 尺度 :否 定的 〈1〉 ∼ 〈7〉 肯定的
∼ (η :い ずれも逆転項目
(励
共同的関係得点 か ら交換的関係得点 を減 じた得点 と相手 と共同的関脈 (友 人
恋愛関係 )を 望 んだ被験者 の割合 を ,そ れぞれ Table 17に 示す。共 同的関係
をどの程度望 むかをみると,関 係 タイプの操作 は有効 であるといえる。直接 的
に望 む関係 を選択 させた場合 に も,有 意 ではなか ったが,操 作 の有効性 を示唆
,
して い る。
-24-
露αbス タ17
差異得点 (共 同得点 ―交換得点 )に 関する条件別平均値 と
共同的関係を望んだ者 の割合 (Clark,1987よ り)
差異得Ю
《
共同的関係
交換的関係
-1。 6
-7.8
-2.4
低 一魅力度
高 ―魅力度
[分 散分析
1.8
]関
係操作の主効果 p<.05
魅力の主効果 p<.09
《
共同的関係を望んだ者 の割合 (%)》
共同的関係
交換的関係
[ロ
ジスティック重回帰分析]
有意 な効果なし
各セル :N=12(交 換 一高魅力条件のみⅣ=11)
差異得点の範囲 :共 同的 〈+42〉 ∼ 〈-42〉 交換的
Ⅲ.関 係志向性 にお ける個人差
ここまでは,操作 された関係 タイプに応 じて,あ たか もすべての人 々が同程
度 に共同的関係規範あるいは交換的関係規範に従 って行動 しているかのよ うに
論 じた。 しかし,被 験者 にとっての外的条件 としてではな く,被 験者 の個人的
な傾性 として 2つ のタイプの関係志向性を考えることがで きる。
1.共 同的関係志向性
共同的関係志向性が高 いことは,共 同的関係規範を支持 しそれに従 って行動
する ことを意味す る。 この志 向性 の程度 を測定す るために,Clark θ
ι αJ.
(1987,実 験 1)は ,共 同的関係志向性尺度を開発 した。 これ を Table 18に 示
す。それは,他者 に自分自身 の欲求 に応 じて もらいたいという願望 を測定する
項目と同様 に,他者 の欲求 に応 じたいという願望 を測定する項目を含んでいる。
共同的関係志向性尺度は,適 切 な心理測定上 の属性 を もつ。561名 の大学生 の
サ ンプルに基づ き尺度 の検討が行われた。当該項目と他 の項目の総和得点 との
相関をみると,項 目の等質性を十分に示 していた (.23‐ .50)。 主成分分析 にお
いて も,14項 目すべてが第 I因 子で正の負荷量を示 した (.29‐ .64)。 さらに
,
その尺度 に関す るCrOnbachの αは,78で あった。128名 の学生 の11週 間隔 での
再検査信頼性は,「 =.68で あった。 また,尺 度得点 は,CrOwne― Marloweの
社会的望ましさ尺度 との間に有意 な相関がなかったが,BerkO宙 tz_Lutterman
-25-
の社会的責任性尺度や Mehrabian‐ Epsteinの 共感性尺度 などの概念的 に重複
する測度 との間には有意な相関を示 した。
四αbJ● 18
共同的関係志向性尺度 の試訳 (Clark eι αJ.,1987よ り)
1.他 の人 々が私 の欲求 を無視すると,私 は心配になる。
2.私 は,決定をす るときには,他 の人 々の欲求 や気持 ちを考慮 に入れる。
3.a私 は,他 の人 々の気持 ちにとりたてて敏感 であるとい うわけではない。
4.・ 私 は,自 分 自身 が とくに援助的 な人物 だ とは思わない。
私 は,手 間 がかか って も人 々が援助的 であるべ きだ と,信 じて いる。
,他 の人 々に援助 を与 えることをと くに好 きだ とい うわけではない。
7。 私 は,知 り合 いが私 の欲求 や気持 ちに敏感 であることを望 んでいる。
8.私 は, しば しば,手 間がかか って も他 の人 を援助す る。
9.a私 は,他 の人々の個人的欲求 に注意を払わないよ うにすることが最善であると
5。
6.・ 私 は
,
信 じている。
10。・私 は,他 の人々をしばしば援助するような類の人物ではない。
11.私 は,必要なことがあるときには,知 り合いに援助 して くれるように頼む。
12.a気持 ちがろうばい している人々がいるときには,私 は,そ の人々を避けるよう
にする。
13.3自 分の困 り事 は,自 分で処理すべきである。
14.私 は,自 分の欲求を他の人々に無視 されると,傷 つ く。
で
る"〈 ま
に
て
は
ま
い か
あ
ら
全
“
完
管
菅』藻罪肇寡霞
員
菖
≦
"く 1〉
1努
a:
5〉
│
逆転項目
ια (1987,実 験 1)は ,個 人的傾性 として の共
この尺度を用 いて,Clark θ
同的関係志向性 と援助行動 との関係を検討 した。実験 の手続 きとその結果 を
それぞれ Fig。 7と Table 19に 示す。共同的関係志向性が援助 を促進 す る傾向
が得 られたものの,関 係志向性 ×表出された情動の交互作用 は有意でなかった。
しかし,平 均値の方向 は,共 同的関係志向性をもつ者 にとって,相 手 による悲
J。
,
しみの表出が援助を高めることを示唆 した。
別の研究では(Williamson&Schulz,cited in Williamson&Clark(1989b)),
アルツハイマー病の家族成員の介護者 として働いている人々の苦悩が査定 され
た。共同的関係志向性が低 い介護者 に比べ,共 同的関係志向性が高 い介護者は
,
アルツハイマー病患者の介護 の重荷によつて苦悩 に陥 ることはなか った。 とり
わけ,時点 1で の高 い共同的志向性得点 は,時 点 1と 6カ 月後の時点 2で の う
つ とあまり結 びついていなかった。
-26-
:
(情動表出の操作》
別の部屋に連れて行かれる。助手が本や紙でごちゃごちゃになつた机の後ろに座っている。
助手は ,「 論文のために忙しかったJと 実験者に詫びる。
教示用紙 ,1杯 の水 .絵の具 ,大 きな紙 .ス トップウォッチが置かれた別の机に座らされる。
助手による課題の説明 : 芸術に関わる属性についての簡単な質問紙に回答し,15分 間描きたい
ものを描 くこと。
:
実験者は,だ れかに会うことを告げ.机 からl16枚 のインデックスカー ドを取 り出し,次 のように述べ
る。「タイビス トのために ,こ れらをアルファベ ット順にしておかねばならなかった。彼女は ,数 分後に取
りに来る。実験を始める前に ,こ れらをアルファベ ット順にしておいてくれませんか。彼女が来る前にすべ
て終えるには多すぎるので ,少 しでも助かります。もちろん 。しないといけないとい うことはありません。
もしも ,あ なたが絵をすぐに始めたければ 。彼女に明日来るように言います。J
実験者は ,退室後 ,ハ ーフミラーで観察する。‐被験者がアルファペ ット順にしたカー ドの枚数
Fig.フ Clark eι α (1987,実 験 1)に よる実験の概略図
J。
Zα bJ●
I,
被験者が アルフ ァベ ッ ト順 に したカー ド枚数 に関す る条件別平均値
。
(Clark eι α′
,1987,実 験 1よ り)
《
表出された情動》
悲 しみ
中 性
[分 散分析 ]
高 一共同的志向性群 61.300=1の 25,電 α =9) 対数変換 :Jog(X+r)
低 ―共同的志向性群 3.10K2V=1の 1■ 300=10) <関 係志向性 X表 出された情動 X被 験者の性>
関係志向性の主効果 p<.05
-27-
2.交 換 的関係志向性
交換的関係志向性が高 いことは,交 換的関係規範 を支持 しそれに従 って行動
することを意味す る。 この志向性 における個人差を測定す るために,未 公刊 の
ια (cited in Williamson&Clark(1989b))は ,9
研究ではあるが,Clark ο
項目から成 る交換的関係志向性尺度 を開発 した。 この尺度 は,与 えられた利得
に対す る返報 の期待 (た とえば,電 は,他 の人に何かを与えると,一 般的にお
返 しの ものを期待する"),受 け取 った特定 の利得 に対 して他者 に返報 したい
J。
とえば,“ だれかが私 に贈 り物をくれると,私 は,で きるだけ相
応 した贈 り物 をその人 に買 ってあげようとする"),そ して,で きるだけ与 え ら
れた利得 と受 け取 った利得を覚えておきたいとい う願望 (た とえば,電 は,自
分が他者 に与えた利得をわざわざ覚えてお こうとしない"(逆 転項目))を 測定
とい う願望
(た
するための項目を含んでいる。その妥当性 を支持す る十分 な証拠 がある。366
名 の学生 サ ンプルに基づ くと,Cronbachの α係数 は,.73で あ った。 7週 間隔
での110名 の大学生 の再検査信頼性 は,r=.71で あ った。同 じサ ンプルを用 い
66)。
た主成分分析では,す べての項目が第 I因 子で正 の負荷量 を示 した (。 32‐ 。
CrOwlle_Marlowe
や
α
J.の
社会的不安尺度
また,こ の尺度 は,Fenigstein aι
の社会的望 ましさ尺度 とは無関連 であ ったが,Murstein‐ Azarの 交換志向性
尺度 とは正 の相関を示 した。
この尺度での得点 は,い くつかの交換的行動をうまく予測 もした。 この尺度
によって交換的関係志向性が高いとされた者 は,次 のよ うな特徴的傾向 をみせ
ια ,cited in Williamson&Clark(1989b))。 a)共 同の報酬 が
た (Clark ο
Z。
ある課題での個々のイ ンプ ッ トをより覚えようと努力す る,b)イ ンプ ットに
従 って報酬 を分割することに対す る大きな選好を示す,c)返 報できない援助 を
受 け取ることによって,気 分を悪化 させ,援 助者 に対す る魅力を低める。
3.共 同的関係 志向性 と交換的関係志向性 との 関係
共同的関係志向性尺度 と交換的関係志向性尺度 は無相関を示 し,せ いぜい小
さな負の相関 しか得 られ ない (cited in williamson&Clark(1989b))。 つ
まり,2つ の尺度 が経験的に独市であ り,た とえば高 い共同的得点 が低 い交換
的得点 を必ず しも意味 しない。
これは,興味深 い傾向である。共同的関係 と交換的関係 に対す る願望 を操作
-28-
している研究では,共 同的関係規範 に従 う願望 は,交 換的関係規範 に従 う願望
の欠如と明確に結 びついてお り,交 換的関係規範に従 う願望 は,共 同的関係規
範 に従 う願望 の欠如としばしば明確 に結 びついているか らである。つまり,個
人差 において も,同 じパ ター ンすなわち2つ の関係志向性 における負の関係 が
期待 される。
しか しながら,経験的に 2者 が独立的であるとい うことは,次 のことを意味
する。 2つ の関係志向性が同時に高 いこともあり得 る。 これ らの人々は,他 者
を援助す るが,迅速な返報を期待 しないか もしれない。あるいは,彼 らは,共
同的関係ではきわめて共同的であり,交 換的関係においてはきわめて交換的で
あるかもしれない。また,2つ の関係志向性が同時に低 いこともあり得 る。 こ
れらの人 々は,ど のような種類の正当性 について も配慮せず,主 に自己利益的
である。 このよ うに考えれば,2つ の関係志向性が独立であるとい う事実 は
特定の他者 との共同的 (交 換的)関 係 に対する願望 が同 じ他者 との交換的 (共
同的)関係 に対す る願望 と負の関係 にあることを示す初期 の知見と論理的に矛
盾 しないだろう。
,
Ⅳ。 2つ の 関係 タイプ論 にお ける意 義 と問 題点
1.家 族 の正 当性 に関する意義
Williamson&Clark(1989b)に 従 って,2つ の関係 タイプ論 が家族内で
の正当性 にどのよ うな意義 をもつかを論 じる。
家族内における交換的行動は,不 満足感や不公正感を生 じる。たとえば,自
動車を買 うための金を成人 した子 どもに与えた親 は,そ の金が ビジネス ライク
な仕方で返されたら,傷 ついた気持 ちになるだろう。同様 に,各 人 が どの くら
い金を使 うことができるかを決めるために各人の稼 ぎを注意深 く覚えている夫
や妻 は,苦 悩 に陥 るだろう。そのよ うな場合 ,当 事者 は,自 分 の苦悩 を解消す
るのに困難を感 じる。つまり,一 般的には,共 同的関係と交換的関係 の区別 は
,
明確 に抱かれているわけではないが,返報やイ ンプ ットの記憶は少なくとも交
換的関係 においては “
公正 な"行 動である。それで も,人 々は,暗 黙 には,何
か間違 っていると思 うであろう。つまり,間 違 っていることは,苦 悩 している
人が共同的関係を好んでいるにもかかわらず,相 手が交換的関係を好んでいる
とい うことでぁる。
-29-
ここで,結 婚契約や,特 定 の家事遂行 に対 して特定 の報酬を子 どもに与 える
ことなどの家庭内における交換的行動 について述べ る。夫婦間でのお互 いの役
割や遂行義務 などをあらか じめ詳細 に決めてお く結婚契約 は,結 婚 を交換的関
係化する。また,特 定の家事遂行 に対 して特定の報酬を子 どもに与えることは
,
短期間 は効果的である。 しか し,そ のような報酬 を与えられた子 どもは,自 分
の子 どもの幸福 に対する親 の義務 と同 じように子ども自身 も他の家族成員 の欲
求 に応 じる義務があることを学習 しないか もしれない。 これ も,長 期的 には
,
共同的関係規範の使用 を低めることになる。
次 に,苦 悩 している家族の臨床的治療 のための意義 を考察する。お互 いに満
足 している夫婦 は,共 同的関係規範を遵守 していると考えられる。 これ らの関
係 は,一方が他方 の欲求 を無視す ることによって共同的関係規範 に違反 し始 め
たならば,悪化す る。そして,夫 婦 は,苦 悩 を感 じ,交 換的関係 に移行 す るだ
ろう。 しか しながら,交 換的関係規範 は,大 半の人々が夫婦 において理想的 と
考えるものと一致 しておらず,共 同的関係規範 と同 じ安心感 (す なわ ち,他 方
が一方 の欲求 に責任を感 じることを知 っていることから生 じる安心感)を 提供
できない。その結果,夫 婦 は,不 満足を感 じ続 けるだろう。 これ らは,い わゆ
る夫婦 セ ラピーに対 して有益な示唆をもたらす。つまり,相 手が特定 の欲求 の
1つ を充たしたときに,相 手 に特定の報酬を与えるように夫婦 を訓練す る こと
は (つ まり,交 換的関係規範への方向づけ),短 期的 にはうま く行 くか もしれ
ないが,長 期的改善 をもたらさないと思われる。
ところで,2つ の関係 タイプの間の区別 と同様 に,関 係志向性 の個人差 も家
族内の正当性 にとつて重要 な意義をもつ。
家族 の個々の成員の関係志向性 は,家 族関係をそれに応 じた方向に向ける。
たとえば,家 族成員が共同的関係志向性 において高 いほど,家 族関係 での共同
的関係規範への遵守が強まるはずである。
また,2人 の家族成員の間で生起する関係志向性 における一致・ 不一致 も重
要であろう。たとえば,も しも,夫 婦が共同的志向性 と交換的志向性 において
一致 しているならば,彼 らがうまくや っていけると予測 されるだろう。共同的
関係志向性 において高 く,同 時に交換的関係志向性 において低 い夫婦が最 も高
い調和 を示す。逆に双方 の交換的関係志向性が高 い (そ して共同的志向性 にお
いて低 い)夫 婦 も機能的にうまく行 くかもしれない。関係志向性 における不一
致 は,双 方 の不満足感をもたらすだろう。たとえば,一 方 の共同的関係志向性
が高 く他方の共同的関係志向性が低 い夫婦では,双 方が不幸 になる。共同的関
-30-
係志向性が高 い者 は,自 分自身 の欲求が十分 に充たされていないと感 じ,他 方
の欲求 に対する自分自身の注意が十分 には評価 されていないと思 う。対照的に
,
共同的関係志向性が低 い者 は,他 方 によって息苦 しくされると感 じるだろう。
そのよ うな関係 は,う まく行かない。最悪 の組み合わせは,一 方 が共同的関係
志向性 において高 く,同 時に交換的関係志向性 において低 いが,他 方 が交換的
関係志向性 において高 く,同 時に共同的関係志向性において低 いときである。
2.研 究枠組 と しての一 般的意義 と問題点
共同的関係 と交換的関係 の区別 とそれぞれの関係内での心理学的機制 の差異
を実証的に明 らかにしようとする Clarkら の一連 の試みを一般的 な研究枠組
として評価 しよう。
まず,2つ の関係 タイプの区別 に類比できる有力な社会心理学的モデル とし
て,Deutsch(1975)と Lerner(1975)に よってそれぞれ提起されたモデルを
挙げることがで きる。Deutsch(1975)に よれば,正 当性 の 自然 な価値 は,個
人 の安寧 を促進す るための効果的な社会的協同を助長す る価値である。 この前
提 に基づ き,TaЫ e20に 示すよ うに,集 団によって抱かれている目標 によって
,
遵守 される分配規範が異なると考えられた。 たとえば,斎 藤 0佐 々木 (1987)
は,彼 のモデルに実験的検討を加えた。また,Lerner(1975)は ,自 らの正当世
界仮説を発展 させる中で (諸 井,1983参 照),Table 21に 示す モデルを提起 し
た。彼 によれば,ど のよ うな原理が正当とされるかは,a)他 者をどのように知
覚す るかと,b)他 者 との知覚された関係 によって異 なる。a)に ついては,他
者 を 1つ の人格 としてみるか,あ るいは,そ の他者が占めている役割や位置 に
注目するかである。b)に ついては,次 の 3つ に分類 される。 自己 と他者 との
間に体験 の融合があり,最低の区別 しかない同一性関係,自 己と他者 が重要 な
点で類似 していた り,共属 していると見倣 されるユニ ット関係,他 者 が類似 し
ていないと知覚されたり,劣 っていると見倣 される非ユニ ッ ト関係。
3α bル ″
関係 の主要 目標 と分配規範 (Deutsch,1975よ り)
関係 の主要 目標
経済的生産性
心地 よい社会的関係 の促進 と維持
個人的発達 と個人的幸福感 の促進
衡平性規範
平等性規範
必要性規範
-31-
露αらル 21
正当性の形態 (Leme■ 1975よ り)
《
知覚対象》
同 一 性
《
知覚 され た関係》
ユニ ツ ト
lFa: v l.
類似性 や相手 との共属 競合す る利益 や要求 に関す
の知覚
る個人的差異 の知覚
→法律,ダ ー ウィ ン的正当性
→平等性規範
人
物
自 己 と して の相 手
の知覚
→必要性規範
立
場
等価性 の知覚
相手 の欲求環境 に 相手 との・
おける自己の知覚
→ 資格,社会的義務 ⇒衡平性規範
“規則 "内 で 同等 に合法的
に要求 で きる乏 しい資源
→正当化 された自己利益
Clarkの 2つ の関係 タイプをこれ らのモデルに適用 してみよう。Deutsch
(1975)の モデルでは,交 換的関係 は経済的生産性 が主要 目標 となる場合 に
共同的関係 は個人的発達 と個人的幸福感の促進が主要目標である場合 に,そ れ
ぞれ対応 していると考えられる。 しか しながら,心地 よい社会的関係 の促進 と
維持 も共同的関係の重要 な目標 の 1つ である。 したが って,共 同的関係 におけ
る平等性規範 の役割 について,曖 昧 となる。次 に,Lerner(1975)の モデルに
,
対応させる。共同的関係 は,相 手の人格を認 め,自 己と相手が同一化 して い る
状態 に対応する。また,交 換的関係 は,相 手自体 よりも相手が占めている立場
に注意が向けられ,自 己 と相手 との等価性が知覚されている場合である。要す
るに,Clarkの 2つ の関係 タイプ論 は,こ れらのモデルと比較す ると,限 定的
であると言わざるを得ない。
Clarkら の一連の研究においては,初 対面の魅力的な独身女性 を用 いること
によって操作的に共同的関係がもたらされている。また,現 実 に進行中 の友人
関係 も共同的関係の典型 とされている。 しか しながら,魅力的な対象 との間 に
共同的関係志向があたかも突然生起することが一般的だろうか。つまり,2つ
の関係 タイプの生起 0維 持 の機制 に関す る時間的観点が欠如 しているのである。
たとえば,Levinger(1974)は ,二 者の関係進展 に関す る基本的図式 を提起 し
ている。a)無接触 :二 者が無関係であるib)覚 知 :相 手 に対す る一方向的 な
態度 0印 象 はあるが,相 互作用は存在 しない,c)表 面的接触 :相 手 に対す る態
度が双方 にあり,若 干 の相互作用が存在す る,d)相 互性 :若 千 の相互的な自己
開示の段階から十分な自己開示の段階 まである。 この観点 からは,初 対面 の魅
力的な独身女性 との関係 はせいぜいb)か c)の 水準 であ り,友 人同士 であれば
d)の 水準 に含 まれるだろう。 したが つて,2つ の関係 タイプは,関 係 の発展 モ
-32-
デルの中に位置づけることによって,精緻化 されたモデルにされるべ きであろ
つ0
ところで,個 人的傾性 としての共同的関係志向性 と交換的関係志向性 が独立
的であることが見出されている。 これは,関 係の進展 とい う視点 の欠如 の問題
と関連す る重要 な問題である。つまり,2つ の関係志向性が関係の段階 によっ
て交互に優勢 になることがあるからである。たとえば,関 係の初期段階では
,
交換的関係志向性 と共同的関係志向性が交互に優勢 となるか もしれない。関係
の深まりとともに,共 同的関係志向性が高 まり,交 換的関係志向性が低下す る
だろう。さらに,関 係が安定 した段階では,交 換的関係志向性 も状況 に応 じて
優勢 になるかもしれない。さらに,過 度 な交換的関係志向性 は,関 係 の崩壊 を
もたらすかもしれない。また,二 者 それぞれの志向性 の変化の対応 も重要 であ
ろう。
V.お わ りに
Clarkら の一連 の研究 は,統 計的には甘 い点があるが
(有 意な交互作用 がな
くて も下位検定を行 うなど),次 の点では,卓越 した研究 といえる。つまり,い
paper&pencil研 究"に 陥りがちな研究領域であるにもかかわ らず
わゆる “
終始づ実験的方法によって親密 な関係 の基底 にある心理学的機制 を因果的 に明
確 にしよ うとする方向性 は,親 密 な関係 に関す る諸研究の中で も,評 価す べ き
,
であろう。
今後 は,2つ の関係タイプ論 の実験的再検討とともに,先 述 したよ うに他 の
関連 モデルとの対応づけ作業 の中での精緻化が必要 とされる。
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