2014 年度跡見学園女子大学講義「日本宗教論」 1.ガイダンス―「日本人は無宗教」か? 2014.10. 2. 大橋 幸泰 はじめに 私たち(現代人)の秩序・価値観は歴史的産物 →ここでは、「宗教」概念のイデオロギー性について考える: 「日本人は無宗教」か? 1.「宗教」という語のイデオロギー性 「日本人は無宗教」という言説:二つの問題点 a.「日本人」とは誰か? →国家の範囲・内実は歴史的可変性をもっているから、自明ではない b.「宗教」とは何か? → religion の訳語: 「宗旨」「宗門」(practice 系)か、「教法」「宗教」(belief 系)か *明治初期、自明ではなかった:近世では、「宗教」は「仏の教え」「究極の真理」を意味する仏教語 で、仏教関係者が使う特殊な語だった *一般の近世人にとってなじみのある語は、むしろ practice 系の「宗旨」「宗門」 → 1870 年代後~ 80 年代、知識人層の「宗教的なもの」の理解が belief 系へ傾斜 *背景に、浦上キリシタン問題やキリスト教との接触 → religion の訳語は、最終的に belief 系の「宗教」へ統一 *近代以降、「宗教」理解のモデル=キリスト教:文明の象徴 (←→民間信仰:未開の象徴) 2.歴史的産物としての「宗教」概念 「日本人は無宗教」という認識:近代的(西洋中心的)価値判断 *西洋社会の常識を通じて東洋社会を規定(E.W.サイード『オリエンタリズム』) →ただし、だからといって「宗教的なもの」を「宗教」以外の言葉で言い表すのは難しい →宗教とは:「人間がその有限性に目覚めたときに活動を開始する、人間にとってもっとも基本的な営み」 (阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』205 頁) 【参考文献】 E.W.サイード『オリエンタリズム』(平凡社、1986 年[原著は 1978 年刊][平凡社ライブラリーに 1993 年 再刊]) 阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』(筑摩書房[ちくま新書]、1996 年) 磯前順一『近代日本の宗教言説とその系譜―宗教・国家・神道』(岩波書店、2003 年) 2014 年度秋学期「日本宗教論」講義予定 [概 要] 日本列島における宗教をめぐる諸問題(近世を中心に)を材料に、現代を再考する。 [参考文献] 大橋幸泰『検証 島原天草一揆』(吉川弘文館、2008 年) 大橋幸泰『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』(講談社、2014 年) 歴史科学協議会編「特集 近世日本の治者の宗教、民の宗教」(『歴史評論』743、2012 年 3 月号) [予 定] 10 月 2 日 10 月 9 日 10 月 16 日 10 月 23 日 10 月 30 日 11 月 6 日 11 月 13 日 11 月 20 日 11 月 27 日 12 月 4 日 12 月 11 日 12 月 18 日 12 月 25 日 1 月 15 日 1 月 22 日 1.ガイダンス―「日本人は無宗教」か? 2.原始宗教から古代宗教へ 3.顕密仏教と中世の国家・社会 4.宗教と近世国家 5.宗教と近世社会 6.島原天草一揆と近世国家・社会(1)―経済闘争か宗教戦争か 7.島原天草一揆と近世国家・社会(2)―記憶の継承 8.近世人とキリシタン(1)―「伴天連門徒」から「切支丹」へ 9.近世人とキリシタン(2)―「異宗」「異法」「切支丹」 10.近世人とキリシタン(3)―信仰共同体と生活共同体 11.近世人とキリシタン(4)―隠し念仏と京坂切支丹一件 12.近世宗教の「邪正」 13.近代移行期民衆宗教の登場 14.神仏分離と近代の国家・社会 15.総括―歴史における民衆の宗教世界 【付 記】 1.期末試験のほか、小レポートを求める。小レポートの詳細は別途指示する。なお、小レ ポートを提出した者が期末試験の受験資格を得る。 2.大橋と受講生との間の緊張関係を維持するため、毎回、講義の要約を記した講義記録の 提出を求める。箇条書きではなく、必ず文章にまとめること。ただし、講義記録そのも のは評価対象にはしない。 3.大橋のホームページに講義済みのレジュメを公開する。欠席した場合、ここからダウン ロードのこと。 http://www.f.waseda.jp/yohashi/
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