2016 年度跡見学園女子大学講義「日本宗教論」 1.ガイダンス―「日本人は無宗教」か? 2016.10. 3. 大橋 幸泰 はじめに 私たち(現代人)の秩序・価値観は歴史的産物 →ここでは、 「宗教」概念のイデオロギー性について考える: 「日本人は無宗教」か? 1.「宗教」という語のイデオロギー性 「日本人は無宗教」という言説:二つの問題点 a.「日本人」とは誰か? 国家の範囲・内実は歴史的可変性をもっているから、自明ではない b.「宗教」とは何か? religion の訳語: 「宗旨」「宗門」(practice 系)か、「教法」「宗教」(belief 系)か *明治初期、自明ではなかった:近世では、「宗教」は「仏の教え」「究極の真理」を意味する仏教語 で、仏教関係者が使う特殊な言葉 *一般の近世人にとってなじみのある語は、むしろ practice 系の「宗旨」 「宗門」 1870 年代後~ 80 年代、知識人層の「宗教的なもの」の理解が belief 系へ傾斜 *背景に、浦上キリシタン問題やキリスト教との接触 → religion の訳語は、最終的に belief 系の「宗教」へ統一 *近代以降、 「宗教」理解のモデル=キリスト教:文明の象徴 (←→民間信仰:未開の象徴) 2.歴史的産物としての「宗教」概念 「日本人は無宗教」という認識:近代的(西洋中心的)価値判断 *西洋社会の常識を通じて東洋社会を規定(E.W.サイード『オリエンタリズム』) →ただし、だからといって「宗教的なもの」を「宗教」以外の言葉で言い表すのは難しい →宗教とは: 「人間がその有限性に目覚めたときに活動を開始する、人間にとってもっとも基本的な営み」 (阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』205 頁) 【参考文献】 E.W.サイード『オリエンタリズム』(平凡社、1986 年[原著は 1978 年刊][平凡社ライブラリーに 1993 年 再刊]) 阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』(筑摩書房[ちくま新書]、1996 年) 磯前順一『近代日本の宗教言説とその系譜―宗教・国家・神道』(岩波書店、2003 年) 2016 年度秋学期「日本宗教論」講義予定 [概 要] 日本列島における宗教をめぐる諸問題(近世を中心に)を材料に、現代を再考する。 [参考文献] 大橋幸泰『検証 島原天草一揆』(吉川弘文館、2008 年) 大橋幸泰『潜伏キリシタン 江戸時代の禁教政策と民衆』(講談社、2014 年) 深谷克己『民間社会の天と神仏 江戸時代人の超越観念』(敬文舎、2015 年) [予 定] 10 月 3 日 10 月 10 日 10 月 17 日 10 月 24 日 10 月 31 日 11 月 7 日 11 月 14 日 11 月 21 日 11 月 28 日 12 月 5 日 12 月 12 日 12 月 19 日 12 月 26 日 1月 9日 1 月 16 日 1 月 23 日 1 月 30 日 2月 6日 1.ガイダンス―「日本人は無宗教」か? 2.原始宗教から古代宗教へ 3.顕密仏教と中世秩序 4.近世の神仏信仰と秩序維持 5.島原天草一揆と近世国家・社会(1)―経済闘争か宗教戦争か 休講 6.島原天草一揆と近世国家・社会(2)―近世人の一揆認識と近世秩序 7.近世人とキリシタン(1)―キリシタンの表記と禁教の論理 8.近世人とキリシタン(2)―異端的宗教活動と潜伏キリシタン 9.近世人とキリシタン(3)―京坂「切支丹」一件 10.異端的宗教活動と近世秩序(1)―隠し念仏と隠れ念仏 11.異端的宗教活動と近世秩序(2)―近世人の宗教的属性 12.近代移行期における宗教(1)―民衆宗教の登場 休講 13.近代移行期における宗教(2)―神仏分離と秩序の変容 休講 14.総括―歴史における民衆の宗教世界 15.試験 【付 記】 1.試験のほか、小レポートを求める。小レポートの詳細は別途指示する。なお、小レポー トを提出した者が試験の受験資格を得る。 2.大橋と受講生との間の緊張関係を維持するため、毎回、講義の要約を記した講義記録の 提出を求める。箇条書きではなく、必ず文章にまとめること。ただし、講義記録そのも のは評価対象にはしない。 3.大橋のホームページに講義済みのレジュメを公開する。欠席した場合、ここからダウン ロードのこと。 http://www.f.waseda.jp/yohashi/
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