ベクトル解析 演習問題 13 2014 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ※レポートを提出したい人は、以下の注意点を守って提出して下さい。 (ⅰ) 必ず分かるところに学籍番号、学科、氏名を書いて下さい。 (ⅱ) A4 の紙を用いて、複数枚になる場合はホチキスや針無しステープラーで綴じて下さい。 (ⅲ) 提出期限は 次回の講義の開始前迄 とします。 問題 13-1. xyz 空間内の微分形式に関する以下の設問に答えなさい。 (1) 以下の微分形式 ω の外微分を計算しなさい。また、ω が閉形式となるための定数 a, b, c の条 件を求めなさい。 (1) ω = axyz dx + bx2 z dy − 3x2 y dz (2) ω = (2xey − aex ) dy ∧ dz + (5yez − bey ) dz ∧ dx + (−3zex − cez ) dxdy A1 (x, y, z) (2) 空間ベクトル場 A(x, y, z) = A2 (x, y, z) に対して 1 次微分形式 A3 (x, y, z) ωA = A1 (x, y, z) dx + A2 (x, y, z) dy + A3 (x, y, z) dz および 2 次微分形式 ηA = A1 (x, y, z) dy ∧ dz + A2 (x, y, z) dz ∧ dx + A3 (x, y, z) dx ∧ dy を定めるとき、以下の等式を示しなさい (空間ベクトル場 B に対しても同様に ωB , ηB を定 めるものとします)。 (1) ωA ∧ ωB = ηA×B (3) dωA = ηrot A (2) ωA ∧ ηB = (A · B) dx ∧ dy ∧ dz (4) dηA = (div A) dx ∧ dy ∧ dz 問題 13-2. (チャレンジ問題) ポアンカレの補題は “穴の空いた” 空間では成り立たない。そのことを示すために、R2 から原点 (0, 0) を除いた (穴あき) 領域 D 上定義された 1 次微分形式 ω = −y x dx + 2 dy を考え 2 +y x + y2 x2 よう。 (1) ω が閉形式であること (つまり dω = 0 ∫となること) を証明しなさい。 (2) C を円周 x2 + y 2 = 1 として、線積分 ω を計算しなさい。 C (3) ω = df となるような D 上の無限階微分可能な関数 f が存在しないこと (つまり ω が完全形 式ではないこと) を (2) の結果とストークスの定理を用いて背理法により示しなさい。 1 【略解】 問題 13-1. (1) (1) dω = d(axyz) ∧ dx + d(bx2 z) ∧ dy − d(3x2 y) ∧ dz = (ayz dx+axz dy + axy dz) ∧ dx + (2bxz dx + bx2 dz) ∧ dy − (6xy dx + 3x2 y dy) ∧ dz = axz dy ∧ dx+axy dz ∧ dx + 2bxz dx ∧ dy + bx2 dz ∧ dy − 6xy dx ∧ dz − 3x2 dy ∧ dz = (−bx2 − 3x2 ) dy ∧ dz + (axy + 6xy) dz ∧ dx + (2bxz − axz) dx ∧ dy. したがって ω が閉形式となるためには dy ∧ dz, dz ∧ dx, dx ∧ dy の係数が全て 0 になる 必要があるから、求める a, b の条件は a = −6, b = −3 となる。 (2) dω = d(2xey − aex ) ∧ dy ∧ dz + d(5yez − bey ) ∧ dz ∧ dx + d(−3zex − cez ) ∧ dx ∧ dy = {(2ey − aex ) dx + 2xey dy} ∧ dy ∧ dz + {(5ez − bey ) dy + 5yez dz} ∧ dz ∧ dx + {−3zex dx + (−3ex − cez ) dz} ∧ dx ∧ dy = (2ey − aex ) dx ∧ dy ∧ dz + (5ez − bey ) dy ∧ dz ∧ dx + (−3ex − cez ) dz ∧ dx ∧ dy = {(−a − 3)ex + (−b + 2)ey + (−c + 5)ez } dx ∧ dy ∧ dz. したがって ω が閉形式となるためには ex , ey , ez の係数が全て 0 となれば良いので、求 める a, b, c の条件は a = −3, b = 2, c = 5 となる。 (2) 以下 A1 (x, y, z) 等を A1 と略記することとする。 (1) ωA ∧ ωB = (A1 dx + A2 dy + A3 dz) ∧ (B1 dx + B2 dy + B3 dz) = A1 B2 dx ∧ dy+A1 B3 dx ∧ dz + A2 B1 dy ∧ dx + A2 B3 dy ∧ dz + A3 B1 dz ∧ dx + A3 B2 dz ∧ dy = (A2 B3 − A3 B2 ) dy ∧ dz + (A3 B1 −A1 B3 ) dz ∧ dx ( = det A2 A3 + (A1 B2 − A2 B1 ) dx ∧ dy ) B2 dy ∧ dz B3 ( A3 + det A1 B3 B1 ) ( A1 dz ∧ dx + det A2 B1 B2 ) dx ∧ dy = ηA × B . (2) ωA ∧ ηB = (A1 dx+A2 dy + A3 dz) ∧ (B1 dy ∧ dz + B2 dz ∧ dx + B3 dx ∧ dy) = A1 B1 dx ∧ dy ∧ dz + A2 B2 dy ∧ dz ∧ dx + A3 B3 dz ∧ dx ∧ dy = (A1 B1 + A2 B2 + A3 B3 ) dx ∧ dy ∧ dz = (A · B) dx ∧ dy ∧ dz. 2 (3) dωA = dA1 ∧ dx + dA2 ∧ dy + dA3 ∧ dz ( ) ( ) ∂A1 ∂A1 ∂A2 ∂A2 = dy + dz ∧ dx+ dx + dz ∧ dy ∂y ∂z ∂x ∂z ( ( = ∂A3 − ∂y ∂ = det ∂y ∂ ∂z ) ∂A3 ∂A3 + dx + dy ∧ dz ∂dx ∂y ) ( ) ∂A2 ∂A1 ∂A3 dy ∧ dz+ − dz ∧ dx ∂z ∂z ∂x ( ) ∂A2 ∂A1 + − dx ∧ dy ∂x ∂y ∂ A2 A3 ∂z dy ∧ dz + det dz ∧ dx ∂ A3 A1 ∂x ∂ ∂x A1 dx ∧ dy + det ∂ A2 ∂y = ηrot A . (4) dηA = dA1 ∧ dy ∧ dz + dA2 ∧ dz ∧ dx + dA3 ∧ dx ∧ dy ∂A2 ∂A3 ∂A1 dx ∧ dy ∧ dz + dy ∧ dz ∧ dx + dz ∧ dx ∧ dy ∂x ∂y ∂z ( ) ∂A1 ∂A2 ∂A3 = + + dx ∧ dy ∧ dz ∂x ∂y ∂z = (div A) dx ∧ dy ∧ dz. = 【解説】 微分形式の計算問題。微分形式の魅力は、その計算法則は驚く程単純 (「ウェッジ積は入れ替 えると −1 倍になる」「外微分は係数を全微分に置き換えてウェッジ積にする」の二つの法則だけ!!) にも拘らず、ベクトル解析で登場する様々な概念を全て網羅してしまっているという点にあります。 したがって、例えば「回転ベクトル場の定義を忘れてしまった………」と言う場合も、焦らずに 1 次 微分形式の外微分を計算すればさほど苦労せずに回転ベクトル場の計算を思い出せる、といったご利 益もあります。通常のベクトル解析の講義では微分形式は扱わない場合が多いですが、折角ここまで 難しい概念をたくさん学んで来たのですから、それらが「微分形式」という単純なルールで計算出来 る対象を用いて美しく統合されて行く様をじっくり観察していただければ幸いです。 (1) は外微分の計算の練習問題。2 題くらい解けば微分形式の計算ルールにも直ぐになれるのでは ないかと思います (大体数問解けば、どんな人でも微分形式の計算ルールは身に付くのではないかと 思います)。 (2) がこの問題のハイライトで、これまで出て来たベクトルの内積、外積、回転ベクトル場、発散ベ クトル場と言った対象が全て微分形式のウェッジ積や外微分の言葉で表されてしまうことを確認する 問題です。しっかり復習して、微分形式という概念が如何に強力であるかを存分に堪能して下さい。 3 問題 13-2. (1) ( dω = d ∂ = ∂y −y 2 x2 + y 2 ( ) ( ∧ dx + d −y x2 + y 2 ) x 2 x + y2 ∂ dy ∧ dx + ∂x ( ) ∧ dy x x2 + y 2 ) dx ∧ dy { ( ) ( )} ∂ ∂ x −y = − dx ∧ dy ∂x x2 + y 2 ∂y x2 + y 2 ( ) (1 · (x2 + y 2 ) − x · 2x) − 1 · (x2 + y 2 ) − y · 2y = = 0. (x2 + y 2 )2 ( ) cos t (2) 円周 C のパラメータ表示として r(t) = (但し 0 ≤ t ≤ 2π) が取れる。r ′ (t) = sin t ( ) − sin t に注意して、 cos t ∫ ∫ ( ) −y x ω= dx + 2 dy x2 + y 2 x + y2 C C ) ∫ t=2π ( − sin t cos t = · (− sin t) + · (cos t) dt cos2 t + sin2 t cos2 t + sin2 t t=0 ∫ t=2π = 1 dt = 2π. t=0 (3) ω が完全形式であるとして、ω = df と書けたとすると、(2) の積分経路 C においてストーク スの定理により ∫ ∫ ω= df ∫C C = d(df ) ((一般化) ストークスの定理より) D =0 (d(df ) = 0 より) が従う (但し C で囲まれる領域 0 < x2 + y 2 ≤ 1 を D とおいた)。しかし (2) より ∫ ω = 2π ̸= 0 となる筈なので、これは矛盾。したがって ω は完全形式ではない。 C 【解説】 「穴の空いた空間」ではポアンカレの補題 (つまりポテンシャルの存在) が必ずしも成り 立たないことを確認する問題。最終回の講義や本文の (3) で論じている様に、もし 1 次閉形式 ω が ∫ 完全形式であれば、ストークスの定理からどんな閉曲線 C に沿っても線積分 ω が 0 となる筈で C すが、実際には問題文中で扱われている ω は 穴の周りを回る閉曲線 に沿って積分すると 0 とはなら ないことが簡単に計算出来ます。つまり ω は閉形式ではあるけれど、完全形式ではない ( スカラー ポテンシャルを持たない ) 微分形式である と言うことになります (!) 4 このような性質を持つ ω は実は「本質的に」これしかないことが知られています。そして、この様 な「閉曲線に沿って積分すると 0 でない値となる様な閉形式」の存在は逆に 考えている領域に「穴 があいている」こと を示唆していると考えることが出来ます。このようにして、領域上の微分形式 を調べればその領域の「形」( 穴があいているか、等 ) が分かる という驚くべき事実が徐々に明らか にされてきました。こうして微分形式は単なる「線積分」や「面積分」の記号としての立場を離れ、 広大な ド・ラーム理論 de Rahm theory の世界へと羽搏いてゆくのです。 以上でベクトル解析の演習問題は全て終了です。半年間お疲れさまでした。 それでは学力考査での皆様の御武運をお祈りしております。 5
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