最前線 Silicon Valley の半導体企業 《Google/CKの企業戦略》 Googleの自動運転車が殿堂入り CKはスマホ用MEMS技術に注力 服部コンサルティング・インターナショナル 代表 服部 毅(本誌編集顧問) 米Googleの自動運転車は、Silicon Valleyの街中を走り回っているだけではなく、すでに博物館 に殿堂入りしている。自動車とは無縁に見えるGoogleが、保守的な既存自動車メーカーを尻 目に新しい流れを作った。一方、MEMSファブレスの米Cavendish Kinematics(CK)の高性能 MEMSアンテナチューナが、世界で初めて中国スマートフォン(スマホ)メーカーに採用され、 最新技術は中国製スマホからという新たな流れを生み出した。 ●Googleの自動運転車を博物館に展示 米国カリフォルニア州Silicon Valleyの街中を米 Googleが開発した自動運転車(英語ではDriverless CarあるいはSelf-Driving Car、図1(a) )が走り回っ ている。州法では万一に備えて運転免許証を保持 した人が同乗していることを条件に、自動運転車 が公道を走行することが許可されており、その総 走行距離はすでに 100 万 km を超えている。現在、 カリフォルニア州の他、ネバダ州とフロリダ州で も自動運転車の公道での運転が許可されている。 このGoogleのプロジェクトは、スタンフォード 大学人工知能研究所の元ディレクターと Google Street Viewの発明者の2名の幹部社員が共同で主導 し、実用化を目指して、全盲の運転手による運転 や荒天下での運転など、様々な実験が続いている。 Driverless Carは、自動運転に必要な情報を収集する レーザ・レーダをはじめ、複数のハードウェアと 「Google Chauffeur(グーグル・ショーフェ)」と呼 ばれる自動運転制御ソフトウェアを搭載して、コ ンピュータが自動でハンドルを回し、アクセル、 (a) ブレーキを踏む。 日本では、自動車業界がどんな運転支援車を開 発すべきか議論されている時に、自動車開発とは 無縁に思えるIT企業のGoogleが自動運転技術の開 発競争を圧倒的にリードし、新たな流れを作ろう としている。保守的な自動車メーカーは、うかう かしていられない状況だ。 Silicon Valleyでは、こんな自動運転車が街中で走 行運転を繰り返しているどころではなく、“The First 2000 Years of Computing”(コンピューティン グに関する最初の2000年分の展示)”という洒落た キャッチフレーズで有名な、カリフォルニア州 Mountain Viewにあるコンピュータ歴史博物館(図 1(b) )にすでに殿堂入りし、展示されている。 展示車(トヨタ自動車のレクサス)は動かない が、来場者は誰でも、運転席や助手席に乗って、 巨大スクリーンを見ながら自動運転の実感を味わ える(図3)。Silicon Valleyの魅力は“Tomorrow's Technology Today(明日の技術を今日手にすること ができること)”であろう。 (b) (c) 図1 公道を走るGoogle自動運転車(a) 、コンピュータ歴史博物館(b)、博物館に展示されたGoogle自動運転車(c) 50 Electronic Journal 2014 年 12 月号 最前線 (a) 図2 Silicon Valley の半導体企業 (b) MEMSアンテナチューナの断面模式図(a)、LTEスマートフォン「nubia Z7」 (b) 往復動作させても不良は発生しなかっ たという。中空構造のデバイスはウェ ーハレベルパッケージング(WLP)で 封止し、後で2mm角のチップに切り出 す。CKは、ウェーハ製造はイスラエル TowerJazzグループに、組立はOSATに それぞれ委託し、ファブレスに徹して いる。 CKは、世界中のスマホメーカーにこ のSamrtTuneを売り込んできたが、今秋、 ZTEのLTEスマホのハイエンドブラン ・右からアンテナチューナ(開発済み)、スイッチ素子、同調フィルタ、同調パワーアンプ ド「nubia Z7」(図2(b) )に初めて採用 図3 Cavendishのスマホ用RF-MEMS開発計画概要 された。これを機に、世界中のスマホ メーカーへの販売攻勢をかける。 ●MEMSに賭けるCavendish Kinematics ZTEのトップは、「スマホ用の最新技術を世界で MEMSファブレスの米Cavendish Kinematics(CK、 初めて採用したのは中国メーカーであることに注 本社はカリフォルニア州San Jose)はかねてよりス 目して欲しい。これからは中国がスマホを牽引す マートフォン(スマホ)用MEMSアンテナチュー る。5.5型の大型HDスクリーン搭載のnubia Z7は ナ「SmartTune」を開発してきたが、ついに中国 LTE/3G/2Gの全ての周波数帯域(850M∼2.7GHz) Shenzhenを本拠地とする大手スマホメーカーであ に対応するためにSamrtTuneを採用することで周波 る中興通訊(ZTE、旧社名Zhong Xing Telecommu数ごとにベストチューニングができ、電池寿命も nication Equipment)の最新機種に採用された。 伸ばせる」と自慢気だ。 携帯電話の機能が向上し、2.5G、3G、LTE、4G スマホ内部では、RF信号はアンテナチューニン と進化するにつれて、接続性能が低下してきてお り、従来のブロードバンドアンテナを使う限り、 グだけではなく、スイッチ素子やフィルタでも損 失が生じる。CKは今後、アンテナチューナに続い 損失が大きく、効率低下に歯止めがかからない。 て、RF信号ロスの少ないスイッチ素子、同調フィ そこで、CKはRF-MEMS技術を応用して、2枚の ルタ、同調パワーアンプを次々と開発していくと 金属薄膜を並べて、その距離を調節しチューニン いう。これらの部品をMEMSに置き換えて信号ロ グするMEMSチューナを開発した(図2(a) )。いわ スを減らすとともに、消費電力を減らし、電池を ゆるバリアブルコンデンサ(バリコン)のMEMS 長持ちさせるロードマップを描いている(図 3)。 版である。これにより、700M∼2.7GHzまでほぼフ スマホをさらに使いやすくするために、半導体企 ラットなアンテナ性能が得られる。MEMSは、機 業がやることは山ほどある。 械的動作に強く、薄膜メンブレンを繰り返し50億回 Electronic Journal 2014 年 12 月号 51
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