最前線 Silicon Valleyの半導体企業 《Apple/QuickLogicの半導体戦略》 スマホに多様なセンサを搭載 センサハブIC の需要が急拡大 服部コンサルティング・インターナショナル 代表 服部 毅(本誌編集顧問) スマートフォンに多様なセンサが搭載されるようになると、常時オン状態を保たなければなら ない。このため、消費電力の大きなMPUとは別に、超低消費電力センサハブICが必須となる。 米Appleは専用センサハブIC「モーション・プロセッサー」を採用している。米QuickLogicは、 韓国Samsung Electronicsをはじめ有力スマートフォンベンダ―向けのプログラマブルセンサ ハブICに社運を賭けて注力している。センサハブICの需要は、ハイエンドモバイル向けからミ ドルレンジを経て、ローエンドへと急速に浸透するだろう。 センサ個数/台 ●ポストスマホはやはりスマホ? スマートフォン(スマホ)は、今や電話やメー ルの送受信に使われるだけではなく、TVやエアコ ン、照明のリモコン、カメラのリモートシャッタ、 ビデオゲームのコントローラ、スマートハウスの 電力量モニタ、ヘルスケア端末を近距離無線で結 んだハブなど、様々な新しい用途が急速に拓けつ つある。 ポストスマホはウェアラブル端末やIoT端末だと いう人もいるが、スマホ自身がウェアラブル端末 やIoT端末になろうとしている。この意味で、ポス トスマホは、やはりスマホとの見方もできよう。 もちろん、外部のヘルスケア/IoT端末のハブとして の役割もますます重要になるだろう。 現在、スマホには多様なセンサが搭載されてい るが、新機種が発売されるたびにその種類は増加 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 してきている。図1(a)に、世界トップシェア争い を続けてきた米Appleと韓国Samsung Electronicsの1 台当たりのスマホに搭載されているセンサ個数の 推移を示す。最新機種には、すでに2桁の種類のセ ンサが搭載されている。「iPad」などのタブレット でも同様である。 イメージセンサ、GPSシステム(位置センサ)、 マイク(音声センサ)などは、従来型携帯電話の 時代からお馴染みの機能だったが、最新機種には、 これらに加えて、加速度、地磁気、ジャイロ、気 圧、標高、温度、湿度、周囲光、近接、心拍数、 指紋、ジェスチャなどのセンサが搭載されている。 ●センシングのためスマホは常時オン状態 スマホにこれほどまでに多様なセンサが搭載さ れ始めると、センサからの情報を常時受信し信号 アプリケーション プロセッサ または マイコン センサ ハブIC iPhoneシリーズ Galaxyシリーズ 2008 2009 2010 2011 2012 (a)センサ個数の変遷 2013 (年) 2014 (b)M7を発表するApple社のPhilip Schiller上席副社長 様々な種類の センサ群 (c)QuickLogicのセンサハブIC 図1 スマホに搭載されているセンサ個数の変遷(a) 、Appleの「M7コプロセッサー」(b) 、ICのブロック図(c) 64 Electronic Journal 2015 年 1 月号 最前線 Silicon Valleyの半導体企業 表1 QuickLogicのセンサハブIC用に認定されたセンサ センサの種類 ・QuickLogicのスマホ用センサハブIC評価キット 左はスマホに接続するためのUSBボード、 右はセンサボード 図2 QuickLogicの評価キット センサのサプライヤー 加速度センサ 米Analog Devices、独Bosch、米InvenSense 米Kionix、伊仏STMicroelectronics 地磁気センサ 旭化成エレクトロニクス、独Bosch、米Honeywell ジャイロスコープ 独Bosch、米InvenSense 圧力センサ 独Bosch、伊仏STMicroelectronics 周囲光センサ オーストリアams、村田製作所 近接センサ オーストリアams、村田製作所 心拍計 米Analog Devices ジェスチャセンサ オーストリアams 温度センサ 独Bosch 湿度センサ 独Bosch 処理しなければならなくなる。つまり、スマホを らに各ユーザーの仕様に基づいて回路構成を変え “Always ON”(常時オン)状態にして常時稼働させ られるプログラマブルロジック回路を集積してい ておかねばならない。 る(図1(c))。2013年に発表した第1世代品はロジ スマホ用半導体というと、米 Qualcommや台湾 ッ ク が 固 定 だ っ た が 、 2014年 発 表 の 第 2世 代 品 MediaTekのアプリケーションプロセッサを思い浮 「ARCTICLINK3-S2」からはプログラマブル回路を かべる人が多いだろうが、上述のセンシング信号 集積した。チップ製造はTaiwan Semiconductor Man処理を従来通りアプリケーションプロセッサで処 ufacturing(TSMC)に委託して、枯れた65nmプロ 理しようとすると、消費電力が跳ね上がり、ただ セスを採用し、コストダウンを図っている。すで でさえ短いバッテリー寿命がさらに短くなってし に、スマホ用およびウェアラブル端末用のセンサ まう。そこで登場したのが、センサからの信号処 ハブ評価キットが発売されている(図2) 。 理専用のセンサハブと呼ばれる超低消費電力半導 このセンサハブICは、Android OSに準拠しなが 体チップだ。 ら、独自の動作も認識できるようなアルゴリズム 米 Appleが 2013年の「iPhone 5S」の発表時に、 が組み込まれている。これにより、スマホの所有 「Apple A7プロセッサー」に加えて、「M7コプロセ 者が、静止しているのか歩いているのか、ランニ ッサー」(図1(b) )と呼ぶ独自のセンサハブチップ ングしているのか自動車に乗っているのか、エレ (Appleでは「モ―ション・プロセッサー」と呼ん ベータに乗っているのか、どのようなジェスチャ でいる)の搭載を公表して以来、広くその存在が をしているのかを識別し、記録する。 知られるようになった。実際には、すでに2012年 QuickLogicは、スマホやタブレットのOEMメー からセンサハブのiPhoneへの搭載は始まっており、 カー向けに、このセンサハブICに接続するセンサ 最新機種は「M8」へ進化している。 を認定するQVL(Qualified Vendor List)プログラ ムを立ち上げた。このプログラムで認定されたセ ●QuickLogicがセンサハブICに注力 ンサは、このセンサハブICと確実に通信でき、シ 一方、Samsungをはじめいくつかの有力スマホメ ステムレベルの互換性を保つことが保証される。 ーカーは、アンチヒューズ式FPGAベースのCSSP すでにQuickLogicがQVL 認定した、センサのサプ (Customer Specific Standard Product:特定顧客向け ライヤー一覧表を表1に示す。 標準半導体製品)1)で知られる米QuickLogicのセン ハイエンドのスマホやタブレットから導入され サハブICを採用している。 たセンサハブICも、今年からはミドルレンジを経 このICには、センサインターフェース(Sensor てローエンド製品へと急速に浸透していくだろう。 Manager)と、センサ信号の意味を理解するハード ウェア信号処理(Flexible Fusion Engine) 、そして通 参考文献 信インターフェース(Communication Manager)、さ 1)服部毅:Electronic Journal(2013. 9)pp.50-51 Electronic Journal 2015 年 1 月号 65
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