最前線 Silicon Valley の企業動向 《米国Silicon Valleyの有能技術者と起業家精神》 発展し続けるSilicon Valley 有能技術者と起業家精神が相乗 服部コンサルティング・インターナショナル 代表 服部 毅(本誌編集顧問) 米国カリフォルニア州Silicon Valleyのビジネス景況調査によると、昨年は6割の企業が雇用を 増やし、今年も過半が増やす予定である。起業家精神の風土、有能な技術者の確保のしやすさ、 近くにいる競争相手との切磋琢磨、起業家を支えるベンチャーキャピタリスト、数多くの人材 を輩出する世界一流大学の存在などが、Silicon Valley隆盛の源泉となっている。今後、当地は 変貌を続けながらさらに発展を続けるだろう。 ●過半の企業が有能人材の雇用拡大 米国カリフォルニア州San Francisco近郊のSilicon Valleyに本拠を置く企業の経営者団体であるSilicon Valley Leadership Group(SVLG)が最近、当地のビ ジネス景況調査を行った。今回のアンケート調査 では、365社の会員企業のうち、188社のCEOから 回答を得て、その結果を「Silicon Valley CEO Business Climate Survey 2012」として発表した。 回答者の業種別内訳は、ハイテク36名、エネル ギー34名、財務・投資家31名、ソフトウェア20名、 通信・インターネット16名、バイオ・ヘルスケア 12名などである。SVLGには、米Intel、米Applied Materials、米AT&Tなどの大企業と並んで小さなス タートアップ企業が多く集っている点に特徴があ る。米Hewlett-Packardの共同創業者のDavid Packard 氏が1978年に設立した経済団体で、当地のビジネ スをしやすくする公共政策提言を行うとともに、 従業員の働きやすい環境整備にも力を入れている。 図1 米国カリフォルニア州Silicon Valley 68 Electronic Journal 2012 年 6 月号 この調査で真っ先に取り上げているのは、米国 で多くの人々にとって最大の関心事である雇用動 向である。 “昨年、あなたは自社の雇用を増やしましたか、 減らしましたか? ”との問いに、63%の企業が増 やしたと答え、従業員を減少させた企業はわずか 7%に留まった。“今年、雇用を増やす予定がありま すか? ”の問いには、46%が増やすと答え、減らす と答えたのは13%に留まった。 “今年、Silicon Valley全体で雇用は増えると思いますか? ”との問い には、55%が増えると予想している。 “あなたの会社は、昨年来、雇用を海外に移しま したか? ”の問いに、8割がNoと答えており、Silicon Valleyの雇用は確実に増加しており、海外シフ トは少ない。また、Silicon Valleyの失業率は9%で 全米平均の11%よりも低い。SiliconValleyの隆盛は、 今後も当分続くことは間違いないとSVLG広報担当 副会長のSteve Wright氏は見ている。 最前線 ・昨年、あなたは自社の雇用を 増やしましたか、減らしましたか? 減らした 7% 無回答 2% ・今年、自社の雇用を 増やす予定がありますか? 増やした 63% ・今年、Silicon Valley全体で 雇用は増えると思いますか? 分からない 4% 未定 5% 変わらない 36% 増やす 46% 変わらない 36% ・あなたの会社は、昨年来、 雇用を海外に移しまたか? 無回答 6% はい 15% 減る 14% 減らす 13% 変わらない 28% Silicon Valley の企業動向 増える 55% いいえ 79% 図2 「Silicon Valley CEO Business Climate Survey 2012」の一部 ●CEOや技術者の過半は外国生まれ 得しやすくして欲しいと望んでいる背景には、次 のような事実があるとWright氏は説明する。「Sili“Silicon Valleyでビジネスを行うメリットは何で con ValleyのCEOの過半は米国以外の出身で、Intel すか?(3項目まで選択)”との問いに、回答者は以 下のような項目を選んでいる。 の Andrew Grove 氏 は ハ ン ガ リ ー 、 米 Google の 熟練した労働力へのアクセスのしやすさ(69%)、 Sergey Brin氏はロシア、米YahooのJerry Yang氏は 台湾出身だ。エンジニアや大学教授の過半も海外 起業化精神の風土(67%)、顧客および競争相手が で生れ、米国にやってきた人達だ」(同氏)。 近くにいる環境(42%)、ベンチャーキャピタルへ のアクセスしやすさ(26%)、世界一流の大学がい ●現状維持で変化しなければ負け くつも存在する環境(20%)、成果主義の労働環境 Wright氏は、 「Silicon Valleyは240万人の人口を抱 (20%)、気候の良さ(18%)。やはり、世界で一番 え、そのうち就業人口は約100万人。世界の一流大 能力のある優秀な人材が確保しやすく、起業家精 神に充ち満ちた雰囲気が、Silicon Valleyを活性化さ 学がいくつもあり、とびきり優秀な人材を供給し 続けるだけでなく、大学教授自身が起業している。 せている。近隣の多くの競争相手と切磋琢磨して 成長し、ベンチャーキャピタルからの資金も得や 昨年、全米でベンチャーキャピタリストが3700の 案件に、284億ドルを投じたが、そのうち4割が当 すい。 “Silicon Valleyでビジネスを行う上での問題点 地に投資され、全米注目の的となっている」と補 は?(5つまで選択)”との問いかけには、従業員採 足する。 用・維持コストの高さ(69%)、従業員の住宅コス Silicon Valleyは変化を続けながら、今後も発展し トの高さ(63%)、ビジネス上の規制(46%)、ヘ 続け、世界中から若い頭脳が夢と希望を携えて結 ルスケアのためのコスト(37 %)、法人税の高さ 集するだろう。 (37%)、交通渋滞(31%)、就労ビザ(専門職用の 調査報告書は、次のような文章で終わっている。 H-1Bビザ)・永住権(Green Card)取得の難しさ 「この調査で明らかになったことは、将来にわたり、 (24%)などを挙げている。 Silicon Valleyが成功し続けるために、多くのビジネ “米国政府に何を望みますか? ”との問いには、 スチャンスが存在するということだ。当グループ 総 合 税 制 改 革 ( 5 3 % )、就 労 ビ ザ ・ 永 住 権 改 革 の創設者David Packard氏が言っていたように、“現 (31%)、STEM(科学・技術・工学・数学)教育の 状に留まり、変化しないということは、負けること に等しい(To remain static is to lose ground)”。Sili充実(29%)、総合エネルギー政策(28%)、研究開 con Valleyは、今後さらに経済的発展を遂げるため 発費の税額控除(22%)と答えている。 に大胆な行動をとり続けなければならない」。 3割以上のCEOが、もっと就労ビザや永住権を取 Electronic Journal 2012 年 6 月号 69
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