Zeldovich の反ダイナモ定理 陰山 聡 神戸大学 システム情報学研究科計算科学専攻 ver.140811 このメモは文献 [1] の証明を簡素化したものである。 定理 1 完全導体壁で囲まれた3次元領域 V の中の非圧縮流 u を考える。u が2次元流(ど の位置においても流れがある平面に平行)ならば、t = 0 に与えた任意の磁場 B0(た だし壁面上で B0 = 0)はいずれ減衰する。つまり u = (ux (x, y, z), uy (x, y, z), 0) [ここで ∂x ux +∂y uy = 0]はダイナモではない。これは Zeldovich の anti-danamo と呼ばれる [2]。 補題 2 境界 ∂V 上で f = 0 という境界条件を満たす場 f (x, y, z) の時間発展が ( ) ∂ + u · ∇ f = η∇2 f ∂t (1) で与えられるとき、t → ∞ で f = 0 である。ここで η は定数。 証明:式 (1) の両辺に f をかけて V で積分すると ∫ ( 2) ∫ ∫ ∫ D f dV = η f ∇f · n dS − η (∇f )2 dV = −η (∇f )2 dV Dt 2 (2) ここで f = 0 on ∂V を使った。式 (2) の右辺は常に負なので、この補題が成 り立つ。 3 3.1 Zeldovich の定理の証明 誘導方程式 磁場の誘導方程式は ∂B = ∇ × (u × B) + η ∇2 B, ∂t (3) ∂B = −(u · ∇)B + (B · ∇)u + η∇2 B ∂t (4) 特に非圧縮流に対しては 1 である。ベクトルポテンシャル A B =∇×A (5) を使うと、 ∂A = u × B + η∇2 A (6) ∂t と書ける。ここで式 (6) では右辺に ∇ϕ という形の項が現れないようなゲージを とった。完全導体壁に対する A の境界条件は A=0 on ∂V (7) ととることができる。 3.2 Bz 成分の減衰 式 (4) の z 成分は ∂Bz + (u · ∇)Bz = η∇2 Bz ∂t である。第 2 章の補題より、t → ∞ で Bz = 0, つまり Bz は減衰する。 3.3 (8) 全成分の減衰 十分大きな t に対して Bz = 0 であり、さらにもともと uz = 0 なので式 (6) の右 辺第一項 u × B は z 成分しか持たない。従ってこの式の各成分は次のように書 ける。 ∂Ax = η∇2 Ax ∂t ∂Ay = η∇2 Ay ∂t ∂Az = (u × B)z + η∇2 Az ∂t (9) (10) (11) 境界条件 (7) の下では、式 (9) と (11) から明らかに t → ∞ で Ax = Ay = 0 であ る。また、u × B = −(u · ∇)Az と書けるので、式 (11) は ∂Az + (u · ∇)Az = η∇2 Az ∂t (12) となる。第 2 章の補題より t → ∞ で Az = 0 である。結局、式 (5) より、B = 0 (t → ∞) である。証明終了。 4 定理の応用とその他の反ダイナモ定理 この定理から、完全導体壁に囲まれた球内部の流れが経度方向成分 uφ しか持た ない場合、たとえその流れが作動回転を持つ(∂r uφ ̸= 0, ∂θ uφ ̸= 0)としてもダ イナモにはならないことがわかる。また、球内の流れが(z 成分ではなく)r 成 分を持たない場合にもダイナモにならないことも同様に示すことができる。 完全導体壁という条件を外した上で、 「軸対称流が軸対称磁場を作らない」と いうのが Cowling の反ダイナモ定理である。 2 References [1] Paul Charbonneau. Solar and stellar dynamos. Springer, Berlin ; New York, 2013. [2] Ya. B. I. A. B. Zel’dovich and A. A. Ruzmaikin. Magnetic field of a conducting fluid in two-dimensional motion. Sov. Phys. JETP, 51:493–497, 1980. 3
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