2014年6月24日 慈恵ICU勉強会 研修医2年目 田邉 菜摘 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 ICUにて筋力低下を来す疾患 ギランバレー症候群 重症筋無力症 ポルフィリン症 イートンランバー症候群 血管性神経障害 頸椎損傷 ボツリヌス神経障害 しかし、、、原疾患だけでは説明のつかない重症患者の 神経筋障害が報告され、、、 ⇒近年、ICU-‐Acquired Weaknessという概念が 提唱されるようになった ICU-‐AWが提唱されるきっかけとなった報告1 • 1956年Oslenらの報告(JAMA 1956; 160:39-‐41) • 昏睡状態の重症患者の単神経障害と多発神経障害の合併が複 数報告された. • 昏睡に至った原因は多種多様であった. • Oslenらは、この原因を長期圧迫による圧迫性単神経障害と低酸 素血症による多発神経障害の合併と結論づけた. しかし、これはICU-‐Acquired Weaknessだったの ではないか?? ICU-‐AWが提唱されるきっかけとなった報告2 • 1977年MacFarlaneらの報告( Lancet 1977; 2:615) • 24歳女性,喘息発作を主訴に入院. • 高容量ステロイドと筋弛緩薬を使用し,人工呼吸器管理により加療された. • 呼吸器症状改善後も遠位筋の筋力低下が著しく、2ヶ月以上にわたる筋力 低下により治療に難渋した. この症例も、今日のICU-‐Acquired Weakness であったのではないか?? ICU-‐AWが提唱されるきっかけとなった報告3 • 1984年Boltonらの報告(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1984; 47) • 重症患者における筋力低下は、脱髄を伴わない軸索変性であり、 特異的な電気生理学的結果を呈する. • 感覚神経よりも主に運動神経を障害するということに重点的な研 究が報告された ⇒ICU-‐AWが特異的な病態で生じていることが 注目されるようになった 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 ICU-‐AWの特徴 ICU-‐AWの概念的特徴 重症疾患筋障害 高頻度 回復率高い 重症疾患 神経障害 低頻度 回復率低い オーバーラップすることも多い 重症疾患罹患していること自体が神経筋障害の原因となるが、その他の 薬剤や代謝障害、関節拘縮や異化亢進もICU-‐AWに寄与している. ICU-‐AWの特徴 ICU-‐AWの電気生理学的特徴 重症疾患多発神経障害 神経伝達速度:正常〜低下 CMAP振幅:低下 SNAP振幅:低下 重症疾患筋障害 神経伝達速度:正常〜やや低下 直接刺激による筋収縮の減弱 CMAP持続時間:長い SNAP:正常 CMAP: compound muscle acRon potenRal SNAP: sensory nerve acRon potenRal ICU-‐ AWの特徴 ICU-‐AWの臨床的特徴 • 四肢(下肢優位)が対称的に障害されることが多く、近位筋に生じやすい. • さらには、呼吸筋が障害されることもあり、呼吸器からの離脱を遅らせる. • CKの上昇は認められず、脱髄が認められないことから、Guillain-‐Barre症 候群とも区別される. • ICU重症患者は意識障害を伴っていることも多く、感覚障害の有無につい ては評価し難いが、電気生理学的検査にて、CMAPの振幅が小さく、持続 時間は長い.また、組織学的検査において太い筋フィラメントの喪失が認 められている. 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 診断 そもそも各種検査を用いて診断する意義はあるのか? • 電気的筋電図や神経伝達検査は重症患者に施行するのが困難 であり、各種検査よりICU-‐AWを診断、定義するのは難しい. • 電気的筋電図を測定するためには患者の意識があり、意図的に 筋収縮してもらう必要があり、困難である. • 神経伝達検査では患者の浮腫が著しく行えない場合が多々ある. • そもそもICU-‐AWを電気生理学的に診断する意義については疑問 視する声もある. 学問的診断をつけるため、今後の研究のため診断基準が設けられた 診断 StevensらによるICU-‐AWの診断基準 ICU-‐AWとは、重症患者が筋力低下を来した場合、その原疾患である重症疾 患以外に筋力低下を来す誘因がない場合に定義されるとしている. Crit Care Med 2009; 37[Suppl.]:S299 –S308 1)重症疾患罹患後の全身の筋力低下 2)びまん性の筋力低下(近位、遠位筋)対称性、弛緩性、脳神経は障害 されない 3)MRCスコア<48 4)人工呼吸器管理 5)原疾患以外に筋力低下を来す原因がない ⇒診断: 1), 2), 3)もしくは4), 5) Medical Research Council(MRC) scale • ICU-‐AWを診断する際に用いられるスケール. • 0〜5段階で評価され、点数が高い程筋力が強い. • 上下肢のあらゆる筋力で計測され、合計スコアが48点未満 であるとICU-‐AWの診断に有用であるとされている. • MRCによってICU-‐AWの可能性があるとされた患者で、筋力 低下が持続する場合は電気生理学的検査や筋生検等を行 う必要がある. 診断アルゴリズム 鎮静、鎮痛剤の中止 患者は覚醒しており指 示に従えるか? 継続して鎮静、 鎮痛剤の中止 MRCスコア 正常 対称性 限局性 意識障害の遷延 各種検査と理 学療法 理学療法、作業療法、 経過観察 改善あり 末梢性 中枢性 画像、脳波、CSF評価 不変 NCS, EMG, 筋生検 神経伝達速度:正常 脱髄所見:なし CMAP, SNAP振幅:低下 重症疾患多発神経障害 CMAP: 振幅↓、持続時間↑ 筋組織の太いフィラメントの 虚脱.筋組織の壊死. 重症疾患筋障害 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 重症状態から救命した患者と 比べて亡くなった患者はミトコ ンドリアの傷害度が高かった Am J Respir Crit Care Med 2010; 182 病態生理 重症敗血症患者では特に骨格筋の 異化が亢進して筋力低下をきたす Intensive Care Med 2001; 27 全身性炎症や酸素ストレスにより筋 力低下をきたす J Physiol 2011; 589 人工呼吸器による横隔膜不使用に よってプロテアーゼが活性化し、蛋 白異化亢進が起きる Am J Respi Crit Care Med 2011; 183 絶対安静や鎮静剤による無動 JAMA 1944; 125 ナトリウムチャネルの不 活性化により神経、筋が 傷害される J Physiol 2003; 547 敗血症などで内皮細胞が活性化 すると微小血管が障害されて、神 経細胞の循環障害を来たし神経 が傷害される Acta Neuropathol 2003; 106 糖毒性により神経が傷害される Neurology 2005; 64 病態生理 Levineらは、人工呼吸器装着時間が長い患者(18-‐69時間)と短い患 者(2-‐3時間)の横隔膜生検をしたところ、長時間装着した患者の方 が遅筋・速筋ともに萎縮していることが分かった. NEJM 2008; 358: 1327-‐35 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 発症リスクと回復不良因子 発症リスク 回復予後不良因子 長 期 重 症 疾 患 発 症 わ ICU-‐AW発症 身 体 機 能 回 復 身 体 機 能 低 下 ICU-‐AW発症のリスク因子 女性 敗血症 異化亢進 多臓器不全 全身炎症性疾患 長期間の人工呼吸器管理 無動 高血糖 糖質コルチコイドの使用 筋弛緩薬の使用 JAMA; 2002 Intensive Care Med; 2001 Clin Neurophysiol; 2001 Intensive Care Med; 2001 JAMA; 2002 Am J Respi Crit Care Med; 2011 2002 JAMA; NEJM; 2008 Am J Respi Crit Med; 2011 NEJM; 2001 JAMA; 2002 Lancet; 1977 Am J Respi Crit Care Med; 1996 重症患者の身体機能予後 ICU-‐AWを発症してしまった場合の身体機能の予後 • 臓器不全(特に呼吸不全)により臓器補助装置を必要とした重 症患者では安静期間が長く、身体能力の低下につながる. • Herridgeらは、ARDS患者を5年後まで追跡調査した結果、1年 後には高頻度に筋力低下が認められ、5年後においても身体 能力の回復は不完全であったと報告している. NEJM 2011; 364: 1293-‐304 • Scanellaらは、高齢の生存患者では著明な身体機能の低下を 認めたとしている. Crit Care 2011; 15(2): R105 ICU-‐AWからの回復不良因子 • 高齢者 • 呼吸不全や循環不全に至った患者 • 長期にわたって人工呼吸器を使用していた患者 • 血糖管理不良 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 重症患者の早期回復のために ICU-‐AWを防ぐために過去にされた研究 • 呼吸不全を合併した患者に対する短期間の筋弛 緩はICU-‐AWを減らす NEJM 2010; 363: 1107-‐16 • 筋弛緩薬を使用した患者の下肢を受動的に動かし た場合、動かさないよりも筋力低下は防げる NutriRon 1995; 11: 428-‐32 重症患者の早期回復のために ICU-‐AWを防ぐために過去にされた研究 • 従来は鎮静剤の使用や患者の絶対安静がICUでのルー チーンの管理として行われていたが、近年は過鎮静を避 ける方向にある. NEJM 2010; 363: 1176-‐80 • ICU患者の過鎮静を避け、リハビリはICU入室時から始め て退院するまで継続するべきと言われ始めている. • 多くの研究者たちが、患者重症度に関わらず早期の身体 活動の最適化(=鎮静剤の最小化と早期リハビリ)を測る 研究を行っている. ICU-‐AWの予防 1. 過鎮静の防止 2. 血糖管理 3. 早期からの運動介入 ICU-‐AWの予防 鎮静剤の最小限化と血糖管理 • いくつかの研究では、人工呼吸使用中の鎮静剤の過剰投与をやめた ところ、患者の意識状態がよく指示に従える日が増えたとしている NEJM 2000; 342:1471-‐7 • De Jongheらは鎮静剤の最小限化を行ったところ、褥瘡の数が減った と報告している Crit Care Med 2003; 31: 2344-‐54 • Needhamらは鎮静剤の減量によってICU患者の院内での活動性が上 がったと報告している Arch Phys Med Rehabil 2010; 91:536-‐42 • Van Den Bergheらは,血糖管理の不良がICU-‐AWの発症の一つの原因因子 であるとして有意差をもって報告した. NEJM 2001; 345:1359-‐67 ICU-‐AWの予防 早期からの運動介入 臥床した状態で使用できる自転車エルゴ メーターを開発し、使用 ⇒使用群で有意に 退院時の身体能力の向上が認められた しかし、入院日数や退院後の死亡率に関しては有意差は認められなかった. Crit Care Med 2009; 37: 2499-‐2505 ICU-‐AWの予防 早期からの運動介入 人工呼吸器を使用した患者の早期運動介入についての前向き非ランダム化試験施行 ü ü 早期介入群の方が離床が早く 入院日数も短かった 人工呼吸器装着期間や退院 時の患者状態は変わらなかっ た 1年後フォローアップでは、早期介入群の方が死亡率と再入院率が半減していた Crit Care Med 2008; 36: 2238-‐2243 ICU-‐AWの予防 早期からの運動介入 Lancet 2009;373: 1874-‐82 ü 介入群で有意に自宅退院が多かった. ü ICU退室時の身体機能自立度向上因子は、若年、 敗血症の有無、早期の理学作業療法介入であっ た. ü 早期介入の妨げとなった大きな要因は鎮静から の覚醒不良、鎮静減量による興奮、予定検査で あった. ⇒退院時の身体能力 の自立度は介入群で 約2倍の効果があった 介入群では人工呼吸器使用期間が短く、せん妄の発症率 が低かった 入院日数は介入群と非介入群で変わらず 目次 ☆ICU-‐AWという概念が生まれるまで ーICUにて筋力低下を来す疾患とこれまでの報告 ☆ICU-‐AWとは ー分類と特徴 ☆診断基準とアルゴリズム ☆病態生理 ☆リスク因子ー発症リスクと回復不良因子 ☆予防と早期回復 ☆まとめと私見 まとめ • ここ20年の間でICUに在室した患者の予後が改善しており、それに伴ってICUで の身体能力低下(ICU-‐Acquired Weakness)の存在が認識されるようになってきた. • 今まではICUでの筋力低下を定義づけるものはなかったが、患者数の増加と、 身体機能低下が回復予後を悪化させることから、概念化することに意義が出て きた. • ICU患者の救命率が上がっている今、身体機能の低下を伴う患者数は今後更 に増えることが予想され、ICUにおける身体機能低下の概念化が測られている. まとめ • ICU-‐AWのリスク因子としては敗血症や多臓器不全,血糖管理不良である. • 近年ICU患者の早期運動介入が奨められている. • しかし、早期運動介入によって退院後のADLや予後が改善しているかは定かで はない. • 早期より介入するため、鎮静剤の使用は最小限にとどめるべきである. • ICUでの治療者は他職種で患者の早期運動介入の重要性を理解しなければな らない. • 今後早期運動介入の効果が退院後にも出ているのか研究を進めていく必要が ある. 私見 • ICU患者の生存率が上昇している現在,ICU-‐AW を発症する患者は増えることが予想される. • 重症疾患に罹患している患者に対しては早期に 運動介入を開始し、ICU-‐AWの診断を付ける状況 を作らないことが重要である. • そのためには,ICU-‐AWのリスク因子を理解し, 早期運動介入や栄養血糖管理を含めた全身の 管理をすることによって発症を未然に防ぐことが 重要であると考える.
© Copyright 2025 ExpyDoc