1 8 新潟医学会雑誌 第1 25巻 第 1号 平成 2 3年 ( 2 01 1 )1月 5肥満と肝疾患 ―非アルコール性脂肪性肝炎を中心に― 川合 弘一 新潟大学医蘭学総合病院検査部 Obesity-Associated Liver Disease with Special Reference to Nonalcoholic Steatohepatitis Hirokazu De pぬ KAWAI e I 2 t O fCl l ' nj c a l L abo r a t o z y, Nl l ' gat aU nI ' v e t ・ S l 一 軒Me d L ' c a la ndDe nt a l Ho s pぬ1 辛 非 アル コ-ル性脂肪性肝疾患 ( nona l coho l i cf a t t yl i verdi s ea s e:NAFLD)の うちで進行性の病 nona l c ohol i cs t ea t ohe pa t i t i s :MASH) は,肥満に伴 ったイ 態 を示す非 アル コ-ル憧脂肪性肝炎 ( Hの肥満合併頻度 は高 く,新潟大学医 ンス リン抵抗性 を基盤 と して発症 す る.NAFLD ・NAS 2例の うち BMI≧ 25の割合 は,男性:61 . 9%,女僅 歯学総合病院第 3内科での NASH 日額 例 4 し 76. 2% と高率だった.NASH の発症機序 や病態進展 には,特 に内臓脂肪型肥満が密接 に関 与てお り,治療法 として食事 ・運動療法による減量が最 も重要である.しか し肥満人目が増加 し ている現在,社会全体で生活習慣改善による肥満防止に取 り組み,NAFLD を未然に防 ぐことが 最 も根本的かつ効率的な解決策 と思われ る. 考-ワ- ド :WASH,NAFLD,内臓脂肪型肥満,インス リン抵抗性,減量 は じめ に cohol i cs t ea t ohepa t i t i s:NASH)で あ る.NAFLD I NASH の発症機序 や病態 はい まだ正確 に解 明 され 近年,本邦 において も肥満 入 日の増加 に伴 い脂 肪肝 が増加 してお り,その有病率 は 3割 に達 す る と もいわれ てい る.脂肪肝 の約 半数 は飲 酒 が誘 因 とな って い るが,残 りの半 数 は飲 酒 歴 に乏 し く, 非 アル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝疾 患 ( nonal eohol i cf a t t y てい ないが,肥満 は その病態 に最 も根 源的 に関与 してい ると考 え られ て い る. 本稿 で は,肥満 と NAFLD ・NASH との関連 に つ いて,主 に 日本人 を対 象 と した研 究報告 を もと に概説 す る. l i vel ・di s eas e:NAFI J r ) ) と称 され て い る.NAFLD の 9割 は非進行性 の病態 で あ る単純性脂肪肝 で あ るが ,1割 は肝硬 変 や肝 細 胞癌 発癌へ と進展 しう る病態 を示 す非 アル コール性 脂肪性肝 炎 ( nona ト t, l WAI Repr i ntr e que s t st o: Hi r o ka z ul De pa r t me nto fCl i ni c a lI Abo r a t o T y Ni i ga t aUni v e r s i t yMe di c la a ndDe nt a lHos pi t a l 1-7 5 4As a hi ma c hi -do r iChuo-ku, Ni i ga t a9 51-8 5 2 0J a pa n NAFLD は肝 にお け るメ タポ リッタ シ ン ドロ別 刷 請 求先 :〒9 51-8 5 2 0 析出 I l 叫l 火区I L u . E l f r 通 1-7 5 4 新潟大学医歯学総合病院検査部 川合弘 一 - 1 9 肥満の臨床 5 443 3 05 0 √ ≡ ● 2 5-!- -:- T l リ4 0 郡 山 ■1 m a) 20 ; ● T. ざ ■・ ● 日 .∼ - '・5 - ・ ・ ・ Femal e 50 5050 5 0 4 4 3 3 2 2 1. ー 一 芝山 Ma 一 e ● " "負 " i -・ 軋 : 5 0 0. 2 93 0⊥ 3 94 0495 05 96 069707 9 802 20293 03 94 0・ 49 50■ 596 0497 07 9 80・ Ag e Age 図 1 NASH の性別 .年齢別 BMI分布 ムの表現型 と考 えられてお り,肥満者 に好発す る. 尿病,脂質異常症 などを伴 ったインス リン抵抗性 BMIが高いほど NAFLD の合併頻度 は高 く,また NAFLD は健常者 よ り肥満合併頻度 が高い ことが を基盤 とした肝脂肪沈着であ り,そこになん らか eL I Ondhi tが加 わ ると NASHへ進展 す る と 考 のs 確認 されている.Ha ma guc hiらの報吉では,入閣 ドックを受診 した非飲酒者の うち 1 8% にエ コ- えられている.それ らの発生機序 としては,まず 過栄養,運動不足 などにより内臓脂肪の蓄積が起 上 NAFLD を認めている 1).正常肝だった症例の こると,肝への遊離脂肪酸の流入増加や,脂肪組 平均 BMIは男性 が 2 2, 5,女性 が 21 . 3だったの に TNF-α, 織 にお け るアデ ィポ カ イ ン分泌 異 常 ( 6,25. 7と有 対 し,NAFLD症例 ではそれ ぞれ 25. I L-6 ,MCP-1 ,レプチ ンなどの産生増加 ,アデ 意に高 く,肥満 を高頻度 に合併 していた. NASH もまた肥満 を高頻度に合併す る.薪潟大 イポネクチ ンの産生低下)などを介 してインス リ ン抵抗性が惹起 され る.インス リン抵抗性 によ り, か ら2 01 0年 2月 までの期 間で,NASH と診断 さ REBP末梢脂肪組織 か らの脂肪酸の分泌噌取 S l cなどの転写因子活性 化 を介 した中性脂肪 の合 学区蘭学総合病院第 3内科 において,2 0 0 0年 1月 れた 20歳以上の症例 は 4 2例 ( 男性 :21例,女 刀L合成低下 による肝 か らの 中性脂肪 成克進,ⅤⅠ 0, 0± 1 6. 3歳 ( 男 性 :21例 ) で,平 均年齢 は 6 放 出低 下 が起 こ り,肝 へ の 脂 肪 蓄 積 を きたす 5. 7± 1 9, 2歳,女性 :6 4. 2± 1 1 . 6歳)だっ 性 :5 5. 5± 3. 6、女性 :2 7. 8± た.平均 BMIは男性 :2 な脂肪酸 によって ミ トコン ドリア,ベルキシゾ- 4. 4で,BMI≧ 25の割合 は,男性:61 . 90 / 0,女性 : 7 6. 2%で高率 に肥満 を伴 っていた.西原 らの検討 TNF-αな どの アデ ィポ カイ ン,CYP2Elの巽常, に よ る と,BM王に よ る NASH の相 対 危険 率 は, 鉄代謝 異常などが加わ り,NASH を発症す ると考 BMI< 25と比 べ て ,25≦ BM王< 3 0で 6. 7倍 , 3 0≦ BMIでは 51 . 2倍 と著 しく高値 となる 2). 内臓脂肪型肥満 といえる. ( Br s thi t ) .そこに s e c ondhi tとして,肝内の過剰 ム , ミク ロ ゾ - ム で 生 じ る酸 化 ス トレ ス や , えられている.よって,NASH 発症機構の基盤 は Suzt l kiらによる.検診受診 した健常者 287名を 肥満 と NASI Iの発症 ・病態進展 メカニズム 対象 とした 5年間の追跡調査では,インス リン抵 抗性 に関連する各因子 と トランスア ミナ-ゼ上昇 NASH の発症 メカニズムとして,t wohi tt he or y 3) が広 く受 け容 れ られてい る.Fi r s thi tは肥満,糖 の出現す る時間的順序 は,統計学的解析 か ら ( 体 重 増 加 )- ( 低 HDLコ レステ ロ-ル 血 症 )-+ 2 0 新潟 医学 会雑誌 第1 2 5巻 第 1号 平成 2 3年 ( 2 01 1 )1月 : _ 与 0二二 準25≦ <3 0 ′ 22≦ ′<25 # Mal e <22 F emal e 図2 NASHの性別 BMI割合 (トランスア ミナ-ゼ J ・ . L l l f l .高中性 服肋I r ' I L 症.高血 き検 討 した 7 ) .中心性 肥満の ない非肥満者 と比較 症)- ( 耐糖能 異常)であった 4 ) .臨床的にあて して,中心僅肥満のない過体 重者の脂肪肝合併 リ も,体感増加 が NAFL D発症の契機 になってい る OR) は 2. 57だ った.日 日 = 方,罪 スクのオ 、 ソズ比 ( ことを示唆 している. 肥 満 者で あ って もF 恒に 、 性 肥 満 を伴 う場 合 に は さらに,これ まで 多 くの登吉 で,肥満 はインス OR :1 . 8 9,過 体重かつ 中心性 肥 満 がある場合 に リン抵 抗 性 や糖 尿 病 な ど とな らんで NAFLD ・ は OR :5. 6 4で あり, 中 心 性肥満 は脂肪肝合併の NASH における肝線維化進行の危険因子の 一 つと リスクであることを示 している. されてお り5 ) ,病態進行 にも深 く関 与一 す ると考 え られている. 肥満治療 による効果 _ D 内臓脂肪型肥満 と NAFl NAFLD ・NASH に対す る治療 はテ生活習慣 の 改善 による減 量 が基本 と されてい る.Ue noらの 肥満の様式 は,皮下脂肪型肥満 と内臓脂肪型肥 報告では,肥満 を伴 った NAFL D1 5例 に対 して食 D には内臓脂肪型肥満 満 に分類 され るが,NAFL 事 ・運動療 法 を 3か 月間 行 った結果,平均 BMI が 密 接 に 関 係 す る .Tho ma sら の MRs p e c は 31か ら 2 8に低下 し,ALTの低下 とともに肝組 t r os c o p yを用いた報告 では,全脂肪 または全皮下 脂肪の 1%の増加 に対 しては肝内脂肪量の増加 は omr a tらは NASH 織 所 見 も改善 した 8).また Pr 0% に とどまるが,腹腔 内脂 肪 の lO / Oの増加 約2 によ り肝内脂肪量 は約 1 0 0%増加す る 6).す なわ 30 / Oの体重減 少 が達成 され た群 で は, い,平 均 9. AI J のみ な らず組織 学 的 な炎症 所 見の改尊 も認 ち,内臓脂肪 はわずかな増加で も,肝 の 脂肪蓄積 めたと報告 している 9). - , を対象 と して食事 ・運動 ・行動療法 を 48週間行 を きた しやすい. Hs i e hらは,検診受 診 者の うち ,2 0≦ BMI< 24の非肥満者 と,24≦ BM王< 26. 4の過体重 番の ま と め 合計 2, 6 68名 を対象 と して,腹 囲身長比 を用いた 肥満 は,様 々な肝疾患の病態 に関与 しているこ 率心性肥満の有無 による脂肪肝の合併 リスクにつ LD ・NASHに とが明 らかになって きたが,NAF 2 1 肥満の臨床 おいてほぞの発症の碁盤であるとともに病態進 展 o fe l e v a t e da mi no t r a ns f e r a s e si nanona 豆 c o ho i i e の危険因子で もあるとい う点で,特 に関わ りが深 , 2 0 05. po pul a t i or l . He pa t o l o gy41 : 6 4-71 5)Ma r c hes 豆 niG,Mos c a t i e l l oS,DiDomi z i oSa nd For 豆 a I iら:Obe s i t y-a s s o c i a t e dl i ve rdi s e a s e.I C重 量 nF J ndoc r i r i O IMe t a b9 3: S7 4-8 0, 2 0 0 8. い .NAFLD ・NASH に対 す る治療 法 と して,食 事 ・運動療 法 による減量 は非常 に重要 で あるが, 肥満 人口が増加 してい る現在,社会全体で生活習 慣 改善 による肥満防止 に取 り組 み ,NAFLD を未 然 に防 ぐことが,最 も根本的かつ効率的 な解決策 と思 われ る. 文 献 1)Ha ma gt l e hi M, Ko j i maT, Ta ke daN, Na ka ga waT, Ta ni guc hiH,F頑iK,Oma t s uT,Na ka j i maT, Sa r u豆H,Shi ma z 漉iM,Ka t eT,OkudaIa ndI da K Th eme t a bo l i cs yndr o mea sapr e di c t o ro f no ma l c o ho l i cf a t 抄I i v e rdi s e a s e.Annl nt e r nMe d 1 4 3: 7 2 2-7 2 8, 2 0 05. 2)西原利治,大西三郎 :Ⅰ INASH は決 してまれで はない.石井裕正,大西三部,坪内博仁楓 NASH 診 療 Upt oDa t e,南江堂,東京,pp7-1 0, 2 0 0 4. 3)Da yCP a ndJ a mesOF:St e a t ohe pa t i t i s :at a l e o ftwo いhi t s "?Ga s t r o e nt e r o 豆 o gy1 1 4:8 42-8 4 5, 1 9 9 8. An酢l l oP, LympJ , StSa t 又 Ve rJ , Mut o丸 4)Suz ukiA, Oka daTa ndLi ndor :Chr o no l o gi c a lde v e l op me nt rho ma sEL,Ha mi l t onG,Pa t e lN,0サ Dwye rA, 6)r 1 1 or L 'C. I 、Gol di l lRI ) .t ミ t l l lJ I )a l l d Tl l yl oT ・ Ro bi ns onSD:He pa t i et r i gl ye e r i deC ont e nta ndi t s r e l a t i o nt obod ya di pos i 庫:ama gne t i cr e s ona nc e i ma gi nga ndpr o t o nma gne t i cr es ona nc es pe ct r os c o p ys t udy. Gut5 4: 1 2 2-1 2 7, 2 0 05 . 7)Hs i e hSD,Yos hi na gaH,Mut oT,Sa kur a iYa nd Kos a ka K:Hea l t hr i s ksa mo ngJ a pa ne s eme n wi t bmode T a も ebodyma s si nde x.I ntIObesRe l a t Me t a bD豆 s or d2 4: 3 5 8-3 6 2, 2 0 0 0. 8)Ue noT,Suga wa r aH,Su j a kuK,Ha s hi mo t o0, Ts t l j i良, Ta ma kiS, To r i mt l r aT, I nuz ukaS, Sa t aM a ndTa ni ka waK: Ⅵl e r a pe ut i ce f f e c t sofr es t r i c t e d d豆 e ta nde xe r c i s ei no be s epa t i e nt sw it hf a t t yl i ve r . JHe pa t o ま27:1 0 3-1 07 ,1 9 97 . 9)Pr o mT a t紘,和e i ne rDE,Ni e me i e THM, J a c kvony E,Ke a r nsM,Wa ndsJ R,Fa v aJ La ndWi ng配R: Ra ndo mi z edc o nt r o l l e dt r i lt a es t i ng t hee f f e c t s o fwe i ghtl os son no na l c o hol i cs t e a t o he pa t i t i s . He pa t o l o gy51 :1 21-1 2 9, 2 01 0. 6 小児の肥満 病態 と治療 菊池 透 ・内山 聖 新潟 大学 大学院医歯学総合研究科 内部環境医学講座小児科学分野 Chi l dhoodObes i t . V,Pi l t hophys i ol ogyi l ndTrc壬 I t ment Re pr intr e que s t st o: To r uKI KUCHi Di v i s i o no fPe d i a t r i c sDe p a r t me n to fHo me o s t a t 主 c Re g la u t i o na ndDe v e l o p me n t Ni i ga t aUni v e r s i t yGr a d ua t eS c ho o l o fMe d i c i ne a ndDe n t a l S c i e nc e s l , 巨7 5 7As a hi ma e hi -d o r i Chuo-kt Ni i ga t a9 5 1-8 51 0J a p a n 別剰請求先 :〒9 51-8 5 1 0 新潟市 中央区旭町適 1-7 5 7 新潟大学大学院 医 歯学総合研 究科 内部環境 医学講座 小児科学分野 菊池 透
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