15. 肝臓内自律神経線維と肝病理

15 . 肝臓内自律神経線維と肝病理
山形大学 医学部 消化器内科
水野 恵、勝見 智大、冨田 恭子、
佐藤智佳子、奥本 和夫、西瀬 雄子、
渡辺 久剛、斎藤 貴史、上野 義之
東北大学 大学院 移植再建内視鏡外科
村上 圭吾、川岸 直樹
【背景と目的】近年、食生活の欧米化に伴って生活習慣病が増え、肝疾
患においては NASH が占める比重が増加している。肝臓の代謝はいわゆ
る「メタボリックハイウェイ」と称される自律神経によって制御されて
いることが明らかになっており、神経支配と代謝性疾患の関連が示唆さ
れている。一方、神経線維は肝門部から肝内に入り、肝動脈・門脈・胆
管の周囲に分布するが、神経線維を同定するには免疫組織化学的な分析
が有用である。我々は、正常肝、ウイルス性肝炎、NASH において、肝
内の神経線維の分布と線維量を測定し、炎症や代謝における神経線維支
配の役割を明らかにすることを目的として検討を進めた。
【方法】正常肝症例として、肝疾患の既往がない転移性肝腫瘍の手術標
本や、肝腫瘍の背景肝として肝生検行った標本から、組織学的に正常と
みなされた 5 例を使用した。ウイルス性肝疾患としては、当科で肝生検
を行った症例からB 型肝炎10 例、C 型肝炎10例を用いた。NASH は当科
で肝生検を行った症例から 18 例を用意した。それぞれ、神経細胞接着分
子( N-CAM)
、S100 に対する抗体を用いて免疫染色を行った。門脈域を
門脈の太さにより 3 群(小門脈域;門脈径≦50μm、中門脈域;50~ 100
μm、大門脈域;>100 μm)に分類し、門脈域ごとの免疫染色陽性の神
経線維数を比較検討した。
【結果】正常肝において、小門脈域の中で神経線維が陽性の門脈域は
28.57% であった。中門脈域では 50 . 91%、大門脈域では85. 19%であり、
門脈域が大きくなるほど神経線維が多かった。NASH では小門脈域で
23.44%、中門脈域で 66 .67 %、大門脈域で92. 31% であり、ウイルス性
肝炎ではそれぞれ 55 . 88 %、80 . 65 %、100 % であった。
【考案】ヒトの肝臓内では、炎症に伴って神経線維が増生していること
が明らかになった。神経線維の増生の程度は、疾患ごとに異なっている
可能性があり、今後は各疾患の病態形成と神経増生の関係をさらに明ら
かにする必要があると考えられた。