第36号ニュースレターを発行しました。

36
2014 January
http://www.molecular-activation.jp
研 究 紹 介 用いない芳香族ニトリルの有益なワンポット合成法で、
メチルアレーンの芳香族ニトリルへのワンポッ
ト変換反応 A01 班(千葉大院理)東郷 秀雄 一部は工場で芳香族ニトリル合成に実用化されている
チル基をもつ種々の芳香族化合物から、Wohl-Ziegler反
芳香族ニトリルは、医薬品や医薬品中間体、及び液
応を利用して、不活性メチル基(sp 混成C-H結合)を臭
晶など機能材料として数多く知られている。芳香族ニ
素原子で活性化し、さらに単体ヨウ素とアンモニア水
トリルの合成は、芳香環や芳香族臭化物から、多段階
の作用で、対応する芳香族ニトリルへのワンポット合
を経て合成されているが、最近は芳香族臭化物にCuCN 成を確立した(式3)。1) (式2)。 本学術領域研究では、新しい芳香族ニトリルの合成
法として、臭素とヨウ素の化学的特性を活かして、メ
3
(Rosenmund-von Braun Reaction) あるいは
Pd(dba)3•Zn(CN)2 等を用いた高温下の反応による芳香
族ニトリルの合成研究が活発に行われている (式1)。 Ar CH3
1) BPO or AIBN, DBDMH or NBS,
2) I2, aq. NH3, 60 °C
Ar
CN 3)
(Ar = Aryl)
Ar
CuCN, DMF 155°C,
Pd(OAc)2, K4[Fe(CN)6] 120°C,
あるいは
Pd-C•CuI•K4[Fe(CN)6] 150°C
Br
本手法はFebuxostat (nonpurine selective inhibitor of xanthine
Ar
oxidase)合成にも展開できた。なお、本手法は無機物である
CN 1)
(Ar = Aryl)
1) HBr, H2O2 2) I2, aq. NH3を用いたメチルアレーンの対応す
る芳香族ニトリルへの変換へと改良できた。2)
これら何れの手法も危険な金属あるいは高価なレア
最後に本研究課題とは関連しないが、ヨウ素関連として、
メタル、危険なシアン化物を用いていることから、医
アルコールを酸化できる爆発性のないヨウ素3価[I(III)]を
薬品等の合成には大きな問題がある。先に私ども,危
開発し、
平成26年初めに試薬として販売される予定である。
険なシアン化物を用いない臭化アルキル(RCH2Br)の単
R'
体ヨウ素とアンモニア水による対応するニトリル
R
(RCN) (炭素数保持)へのワンポット変換反応(特願
2008- 233460)を報告した。また、比較的電子密度の高
OH
R, R' =
aryl and
alkyl
い芳香族炭化水素に1) POCl3, DMF, 2) I2, aq. NH3 の
DMF or CHCl3, 60 °C, 24 h
AcO
I
O
O
処理で対応する芳香族ニトリルが高収率で得られるこ
X
とを見出し(特願2010-035162)、加えて、芳香族臭化物
に1) n-BuLi, 2) DMF, 3) I2, aq. NH3 あるいは1) Mg, 2) DMF, 3) I2, aq. NH3 の処理で対応する芳香族ニト
R'
I(III)
I(III)
R
O
4)
X =NO2 (ANBX),
Br (ABBX),
Cl (ACBX),
F (AFBX),
H (ABX)
Reactivity: ANBX > ABBX > ACBX, AFBX > ABX
リルが高収率で得られることを見出した(特願
2010-116777)。これらは、危険な金属やシアン化物を 1) Tsuchiya, D.; Kawagoe, Y.; Moriyama, K.; Togo, H.
Org. Lett. 2013, 15, 4194.
Ar
X
1) BuLi, 2) DMF, 3) I2, aq. NH3, r.t.
1) POCl3, DMF, 2) I2, aq. NH3, r.t.
あるいは
1) Mg, 2) DMF, 3) I2, aq. NH3, r.t.
X = H, Br, I (Ar = Aryl)
2) to be submitted.
3) Iinuma, M.; Moriyama, K. Togo, H. Eur. J. Org. Chem.,
Ar
2014, in press.
CN 2)
計算化学的手法による不活性結合活性化反応の
解析 A02 班(茨城大理)森 聖治 量子化学計算は、近年有機合成反応の解析に不可欠なツー
ルになっている。この計算では、Schrodinger 方程式を解く
ことで、波動関数を近似的に知ることができ、電子密度、
構造、電磁波のスペクトル(UV-vis、IR, NMR、ラマンな
ど)や反応性を予測することができる。近年の量子化学計
算手法の発展は著しく、今年度のノーベル化学賞の受賞対
まず、Os(V)オキソ錯体 2 では、tpa の三級アミン窒素とオ
キソ酸素が trans 位に位置する方が cis 位に位置する異性体
に比べてエネルギー的に 15 kJ/mol 程度安定であり、X 線結
晶構造解析の結果と矛盾しないことを明らかにした。
なお、
スピン密度を調べたところ、Os=O 結合は、ビラジカル的で
あることがわかった。さらに、2 とスチレンとの反応経路
について検討を行ったところ、協奏的に反応が進行するこ
とが明らかになった。もっともエネルギー的に安定な遷移
状態 TS の構造を右図に示す。触媒とスチレンに対して反
応速度が二次であること、
活性化エントロピーが大
きな負の値(–169 ± 26
象になったように、分子力学(MM)計算を組み合わせた
J/mol K)を示すことと矛
QM/MM 法の大規模計算に則したアルゴリズムの改良や、
盾しない。 密度汎関数(density functiuinal theory, DFT)法の長距離補正
(ii) 銅(I)―アルコール
(long-range corrections)の導入など、大規模系・複雑系に対
共同触媒によるアルデヒ
してより精度の高い予測が可能になっている。以上の理
ドの不斉アルキニル化反
論・計算化学の進歩が、将来的に触媒や医薬品ターゲット
応(2)
の合理的予測に対しても影響を及ぼすだろう。われわれの
銅(I)塩に対し、プロリン
研究室では、実験系研究室との共同研究を積極的に行い、
由来の不斉アミノアルコール触媒存在下で、アルデヒドと
C-H 結合および C-C 結合活性化など変換反応の解析を行っ
アルケンを反応させると、高いエナンチオ選択性で、光学
ている。本稿では、代表的な二例について述べる。いずれ
活性な2級のアルキニルアルコールを得る(図2)
。配位子
の研究成果も、SYNFACTS に取り上げられている。
に OH 基を含み、かつ溶媒に tBuOH を用いたとき、高いエ
(i) アルケンの Os(V)-TPA 触媒 cis-1,2-ジオール化反応
ナンチオ選択性が発現した。以上の原因を明らかにするた
に関する研究(1) めに、DFT 計算を行った。その結果、配位子の OH 基と基
OsO4 触媒によるアルケンの cis-1,2-ジオール化は、有機合
質のアルデヒドとの間の水素結合およびプロリンの
成などによく用いられている重要な反応であるが、OsO4
C-H⋅⋅⋅ O 相互作用が起きている炭素―炭素結合生成の遷
の毒性が強いという問題点がある。一方、毒性の弱い
tris(2-pyridylmethyl)amine (tpa)配位子が結合したカチオン性
Os 錯体[OsIII(CF3SO3)2(tpa)]CF3SO3(1)に対してH2O2 を用いて
酸化させることにより、アルケンに対して cis-1,2-ジオール
化 が 起 き る ( 図 1 )。 さ ら に 、 錯 体 1 お よ び
[OsV(O)(OH)(tpa)]2+(2)の結晶構造解析、同位体効果、各種ス
ペクトル、pH に依存した cyclic voltammogram などの測定
が、大阪大学の伊東忍教授らにより行われた。これにより
反応活性種は 2 であることを明らかにした。そこで、伊東
教授らとの共同研究により、スチレンに対する cis-1,2-ジオ
ール化反応メカニズムを、密度汎関数法計算により検討し
た。 移状態を経由していることがわかった。
図2 アルデヒドの銅(I)触媒による不斉アルキニル化
(1) Sugimoto, H.; Kitayama, K.; Mori, S.; Itoh, S. J. Am. Chem.
Soc. 2012, 134, 19270–19280 (Highlighted in Synfacts, 2013, 9,
0176). (2) Ishii, T.; Watanabe, R.; Moriya, T.; Ohmiya, H.; Mori,
S.; Sawamura, M. Chem. Eur. J. 2013, 19, 13547–13553
図1 触媒 1 によるアルケンの cis-1,2-ジオール化
(Highlighted in Synfacts, 2013, 9, 1305).
報 告 お知らせ 第四回若手セミナー 新学術領域研究「分子活性化」 第6回公開シンポジウムプログラム A01 班(京大院工)中尾 佳亮 平成 26 年 1 月 29 日(水)〜30 日(木) 東京工業大学
(大岡山西 9 号館 ディジタル多目的ホール)
11 月 14 日(木)および 11 月 15 日(金)の 2 日間、鹿
児島市の KKR 鹿児島敬天閣にて本新学術領域研究の第四
回若手セミナーを開催いたしました。本年度は、30~40 代
の公募班員および計画班員の連携研究者 25 名と、
外国人若
手招待講演者として Nicolai Cramer 先生(スイス連邦工科
大学ローザンヌ校)と Guangbin Dong 先生(テキサス大学
オースティン校)の 2 名にご参加いただき、昨年度に続き
国際学会形式で行ないました。(1) 鉄触媒 C–H 官能基化に
おける有機金属触媒および生体触媒からのアプローチにつ
いて、(2) 触媒的不斉 C–H 官能基化に関して有機金属触媒
および超原子価ヨウ素触媒を用いるアプローチについて、
(3) C–H および C–C 結合活性化の天然物合成への展開につ
いて討議する合計 3 つのセッションを企画しました。いず
れのセッションにおいても極めて高レベルの最新の研究成
果が未発表データを含めて披露され、質疑応答や懇親会
を通じて多くの参加者が積極的に議論して、国際的な研究
交流が大いに深まりました。特に 2 件の外国人招待講演で
は、同年代の若手研究者がキャリアを開始してわずか数年
の間に挙げた研究成果とその研究哲学に大いに刺激を受け、
今後の研究活動に役立つ大きなモチベーションを得る機会
となりました。
1 月 29 日(水曜日) 13:30~13:40 領域代表挨拶 13:40~14:10 面性不斉の構築手法としての炭素―炭素結合切
断 村上 正浩(京大院工) 14:10~14:30 炭素結合切断による芳香族トリフルオロメチル
化とその関連反応の開発 網井 秀樹(群馬大理工) 14:30~14:50 電子不足カチオン性 Rh(III)錯体触媒を用いた
室温空気下での C-H 結合官能基化反応 田中 健(東京農工大院工)
14:50~15:10 銅触媒—単体カルコゲンを用いる芳香族化合物の
炭素―水素結合酸化的直接カルコゲニド化 芝原 文利(岐阜大工) 15:10~15:30 カルボン酸類および関連化合物の触媒的直截変
換反応 佐藤 哲也(阪大院工) 15:50~16:10 ヘテロ原子-水素結合を起点とする不活性結合
の活性化 髙井 和彦(岡山大院自然)
16:10~16:30 炭素―水素結合切断を経る極性官能基をもつア
ルキル基導入法の開発 垣内 史敏(慶應大理) 16:30~16:50 アルキルニトリルを求核種前駆体とする触媒的
不斉 C–C 結合形成反応 熊谷 直哉(微化研) 16:50~17:40 二酸化炭素を C1 資源として利用するために (班友講演) 野崎 京子(東大院工) 17:40~17:50 講評 18:00~ 20:00 懇親会(東工大蔵前会館 3 階手島精一記念会議
室) 1 月 30 日(木曜日) 9:30~10:00 コバルト―サレン錯体を触媒とするアルデヒド
からの酸化的ラジカル生成―脱ホルミルを伴うヒドロペルオキシ
ド合成― 岩澤 伸治(東工大院理工)
10:00~10:20 求核的 Co 活性種を活用した複素環 C-H 官能基化 松永 茂樹(東大院薬) 10:20~10:40 金属アミド触媒を用いる立体選択的分子骨格構
築反応の開発 山下 恭弘(東大院理) 10:40~11:00 イリジウム触媒による C–H 活性化を利用した環
化反応 西村 貴洋(京大院理) 11:00~ 11:20 炭素―フッ素および炭素―酸素結合の切断を
経る触媒的炭素―炭素結合形成反応 神戸 宣明(阪大院工) 11:20~11:40 ジアリールヒドロボランの B-H/C-H 脱水素化に
よる環化反応 河内 敦(広大院理) 13:10~13:40 生体反応場の高特異性の解析と機能変換:生体内
での一酸化窒素の生成と消去 城 宜嗣(理研播磨) 13:40~14:00 自己組織的多層状金属ナノ粒子の開発とその応
用 有澤 光弘(阪大院薬) 14:00~14:20 光触媒ハイブリッドパラジウム触媒によるベン
ゼンの直接シアノメチル化 吉田 寿雄(京大院人間・環境)
14:20~14:40 生体触媒の誤作動状態を逆手に取る物質変換 荘司 長三(名大院理) 14:40~15:00 配位不飽和錯体のルテニウム−硫黄部位を反応場
とする E-H(E = H, Si, B)結合活性化反応 大木 靖弘(名大院理) 15:00~15:10 事務連絡・閉会 発行・企画編集
新学術領域研究「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」
連
領域代表 茶谷直人([email protected])
広報担当 伊東 忍([email protected])
絡
先