米国連邦最高裁判決の紹介 ① Octane Fitness, LLC v. Icon Health

担当:外国情報部 黒田 薫
米国連邦最高裁判決の紹介
① Octane Fitness, LLC v. Icon Health & Fitness, Inc. (No.12-1184)
② Highmark Inc. v. Allcare Health Management System, Inc. (No.12-1163)
判決日(両事件とも) 2014 年 4 月 29 日
1. ①事件
1-1. Brooks Furniture Mfg., Inc. v. Dutailier Int’l, Inc., 393 F.3d 1378 (Fed. Cir. 2005) (「Brooks 判決」)
裁判所は、「例外的な」場合に、勝訴当事者のために合理的な弁護士費用を裁定することができる(米国特
許法 285 条)。本条が 1952 年に施行されてからしばらくの間は、例外的な状況において弁護士費用の転嫁を
認める裁量を裁判所に与える規定と解釈されていたが、2005 年の Brooks 判決を機に、CAFC は「例外的な場
合」を以下の2つの場合に限定し、裁判所の裁量を大きく制限した。
(1): 著しく不適切な行為があったこと (例えば、故意侵害、詐欺、不正行為等があった場合)
(2): 主観的に悪意に基づく訴訟であり、かつ、訴訟に客観的に根拠がないこと1
併せて、285 条の立証責任を「明瞭かつ確信的証拠(clear and convincing evidence)」によるとした。
1-2. 事件の概要
大手フィットネスマシンメーカーである Icon は、Octane のフィットネスマシンが Icon の特許権を侵害するとして、
ミネソタ州連邦地裁に訴訟を提起したが、非侵害とのサマリージャッジメントが下された。これを受けて、Octane
は、特許法 285 条に基づいて弁護士費用の支払いを求め、Octane のマシンを一目見れば、本訴訟に客観的な
根拠がないことは明らかであり、かつ、Icon は本特許権を実施しておらず、商業的に圧力をかける戦略の下、
本訴訟を悪意で提起した、と主張した。同地裁は、Brooks 判決を根拠にこれを拒絶し、CAFC も支持した。最高
裁は、CAFC 判決を破棄し、事件を CAFC に差し戻した。
1-3. 争点
Brooks 判決が示した基準は、285 条の文言と整合するか。
1-4. 本判決の概要
最高裁は、地裁は、事案が「例外的」であるかについて、状況を総合考慮したうえ、個々の事件ごと、裁量に
よって判断できると判示し、Brooks 判決の示した厳格な基準を、以下の理由から否定した。
(1)⇒制裁の対象となる行為と考えるべきでなく(所定行為に対して、制裁として弁護士費用の転嫁を認める規
則が別に存在する)、不合理な行為が弁護士費用の転嫁を正当化するほど例外的であれば十分。
(2)⇒訴訟が悪意でなされ、又は、客観的に根拠がない場合であれば、明らかに「例外的な」場合にあたる。本
要件は、反トラスト法の Noer-Pennington 法理を取り入れたものだが、同法理は、基本的人権(表現や宗
教の自由)の行使が委縮されることを回避するためのものであって、285 条には適用されない。
また、最高裁は、285 条は裁量に関わる規定であり、高度な立証責任を要していないこと、特許訴訟は一般
的に「証拠の優越」によって決せられることを根拠に、Brooks 判決の「明瞭かつ確信的な証拠」基準を、「証拠
の優越」基準に変更した。
1
別事件において、合理的な訴訟当事者が勝訴する見込みがないと考える場合であって、かつ、原告がそれ
を現に知っている場合にのみ(2)を満たすと判示した(iLOR, LLC v. Google, Inc., 631 F.3d 1372)。
1
2. ②事件
2-1. CAFC での審理基準について(Pierce v. Underwood, 487 U.S. 552, 558 (1988))(「Pierce 判決」)
事実問題 ⇒ 「明らかな誤認(clear error)」基準。
法律問題 ⇒ 「新たに(de novo)」基準。
地裁裁判官に裁量権がある場合 ⇒ 判断をより尊重した「裁量権の濫用(abuse of discretion)」の基準。
2-2. 事件の概要
保険会社である Highmark は、Allcare から警告を受けたため、特許の無効性、非侵害、権利行使不能を理由
に確認訴訟をペンシルバニア州西部地区連邦地裁に提起したところ、事件が移管されたテキサス州北部地区
連邦地裁により、特許は有効だが非侵害とのサマリージャッジメントが下され、CAFC もこれを支持した。これを
受けて、Highmark は、285 条に基づき、弁護士費用の支払いを求める申立てを行い、本侵害訴訟は大規模な
パテントトロール計画の一部をなし、Allcare は著しく不適切な行為に従事しているうえ、Allcare は、訴訟提起前
に侵害性の調査を適切にしていなかったと、主張した。同地裁は、Highmark の主張を認め、Allcare の侵害主張
は根拠がなかったと認定して、弁護士費用の賠償を認めた。CAFC は、2012 年の Bard Peripheral Vascular, Inc.
v. W. L. Gore & Associates., 682 F.3d 1003, 1005 (Fed. Cir. 2012)判決を根拠に、「客観的に根拠がない」の要件
は事実問題が付随する法律問題であるとして、「新たに(de novo)」審理し、一部認容一部棄却した。最高裁は、
CAFC 判決を破棄し、事件を CAFC に差し戻した。
2-3. 争点
CAFC は、「客観的に根拠がないこと」についての地裁判決に対し、その判断を尊重すべきか。
2-4. 本判決の概要
最高裁は、285 条についての地裁の判断は裁量に関わるため(Octane 判決)、Pierce 判決に従い、285 条の
地裁判断のすべての側面において、「裁量権の濫用」基準を適用すべきであるとし、「新たに」基準を否定した。
3.
所感
①事件判決により、「例外的な」場合の判断基準、立証責任の基準が大幅に緩和された。このため、285 条
に基づく申立てが増えることが予想される。但し、事実関係を踏まえた、ケースバイケースによる判断が許され
るため、結論が見通しにくい側面もあり得る。
また、②事件判決により、地裁裁判官の判断が尊重され、上訴審で覆されにくくなった。②事件判決は、285
条の裁量性を強調する①事件判決を踏まえれば、自然な結論といえる。
4.
ご参考:Reasonable Attorney Fees の認定方法
裁判所は、「ハイブリット指標(hybrid lodestar)」法を用いて、合理的な弁護士費用を計算する。本法は、以
下の2つのステップによって構成される。
① 指標を計算する(=同じ状況におかれた合理的な弁護士がチャージしたであろう仮定の額)
⇒「合理的な時間」×「合理的なレート」
「合理的な時間」:勝訴した件についての時間であって、過度な時間、不必要な時間は除かれる
「合理的なレート」:関連する地域における広くいきわたっているレート
② 状況に応じて、得られた額を増減させる。
ちなみに、Highmark は、285 条の申立てをするにあたり、$4,846,710.02 を請求していたが、Highmark 地裁判
決は、無効及び権利行使不能の抗弁等に使った時間が含まれていたとして、この時間分を差し引き、
$4,694,727.40 の弁護士費用を認めた。
以上
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