2014 年 10 月 14 日 Octane Fitness v. Icon Health 及び Highmark v. Allcare Health 最高裁判決と 同判決後の CAFC 及び地裁の動向 龍華明裕 RYUKA 国際特許事務所 Stephen Hamon, RYUKA 米国法律事務所 最高裁判所の事件 1. Octane Fitness v. Icon Health & Fitness 米国特許法第 285 条:裁判所は例外的事件においては合理的な弁護士費用を勝訴当事者へ支払うことを命じ ることができる。 a. 「例外的事件」 (i) 旧 CAFC 解釈:以下の場合のみ (Brooks Furniture Mfg. v. Dutailier Int’l, (2005)) (1) 不正行為を示す材料がある場合、又は (2) 主観的悪意をもって、かつ客観的根拠なく提訴されている場合 (ii) 新解釈: 単に、以下の点で他の事件と際立って異なる事件 (1) 訴訟当事者の立場の実質的な強さの点、又は (2) 訴訟が非合理的な態様で提起されているという点 地裁は、事件が例外的であるか否かを、全体的な状況を考慮して個別具体的に、裁量により 決定することができる。 b. 地裁における立証基準 (i) 旧 CAFC 基準:明白かつ確信を抱くに足る証拠 (ii) 新基準: 証拠の優劣 参考)立証基準:合理的疑いがない証拠(Beyond reasonable doubt) 例)刑事罰 明白で確信を持てる証拠(Clear and convincing evidence) 例)裁判での特許無効、USPTO に対するフロード 優位な証拠(Preponderance of the evidence) 例)IPR での特許無効(35USC316) (行政行為、特に警察行為の妥当性には更に下位の基準も多数使われる) 2. Highmark Inc. v. Allcare Health Management System Inc. 弁護士費用の支払い命じる地裁判決を CAFC が棄却する場合の基準 (i) 旧 CAFC 基準:全面見直し(De novo)基準 (ii) 新基準: 裁量権の濫用(Abuse of discretion)基準 参考)棄却基準: 裁量権の濫用(Abuse of discretion) ← 地裁の裁量事項 明白な誤り(Clear error) ← 事実認定 全面見直し(De novo) ← 法律問題 両判決後の地裁判決の動向(かっこ内は下記判決の連番) 1. 弁護士費用の支払い命令の割合は上昇しており Brooks Furniture 判決前のレベルをも上回っている (Kramer Levin Naftalis & Frankel による所見 “Recent Supreme Court Decision Takes Us Back to the Future: Attorney Fees Award Rate Increases in Patent Cases.”i)。 2. 原告が非侵害を認識していた場合(1)はもちろん、出願経過の確認(2)や対象製品の基礎的な調査 (4)を行えば非侵害であることが分かったはずの場合、並びに弁護士または弁理士から侵害という見 3. 4. 5. 6. 7. 解を得られていない場合(6)にも敗訴した原告に弁護士費用の支払いが命じられている。一方で訴訟 前に十分に調査を行い、その結果、特許権侵害と判断する客観的な根拠を得ていた場合(10)は、そ の後に非侵害と判断されてもなお、弁護士費用の支払い請求は棄却されている。 故意侵害が認められた場合に、被告に弁護士費用の支払が命じられている(7, 8)。このため故意侵害 のリスクは以前より大きくなった。 訴訟の進行方法、例えば不備のある宣誓書を訂正していたか否か(3)、訴訟を提起した数(3, 4)、ディス カバリーにおける開示(5)なども考慮されている。誠意をもって訴訟を進行することが重要である。 費用負担責任の転換は「不正又は非合理的な行為」がなくても起こり得るので、主張に根拠があるこ とが重要である。特に、根拠のある主張と根拠に欠ける主張をひとまとめに行うのではなく、根拠の ある主張を選ぶことが重要である。 CreAgri v. Pinnaclife において、裁判所は、弁護士費用の支払請求をした側の行為を考慮した。弁護士費 用の支払請求を意図する場合は、自分も根拠のない主張及び不正行為を避ける注意が必要である。 裁判所は、根拠のない申立てへの対応費用等、全支出額の一部のみを支払いの対象とする場合がある。 しかし、弁護士費用の支払いが認容されるか否かは、事件全体が例外的か否かに応じて決定される。 従って例えば、合理的に提訴された事件において、根拠のない申立てが 1 つだけ含まれていることを 理由に、その申立てに関する弁護士費用の支払いを受けることは考えにくい。 Octane/Highmark 判決後の CAFC 判決:(2014 年、全て非先例(non-precedential)) 1. Icon Health & Fitness v. Octane Fitness (8 月 16 日): 最高裁からの差戻し ⇒ 地裁へ差戻し 2. Highmark v. Allcare Health Management (9 月 5 日) : 最高裁からの差戻し ⇒ 地裁へ差戻し 3. Checkpoint v. All-Tag (9 月 4 日) : 最高裁からの差戻し ⇒ 地裁へ差戻し 4. Site Update Solutions v. Accor North America (5 月 14 日) 弁護士費用支払い請求を棄却する CA 州北部地裁判決の控訴 ⇒ 地裁へ差し戻し 5. Innovative Biometric Technology v. Toshiba America Information Systems (5 月 15 日) 弁護士費用支払いを命じる FL 州南部地裁判決の控訴 ⇒ 原判決維持 6. Homeland Housewares v. Sorensen (9 月 8 日) 弁護士費用支払いを命じる CA 州中部地裁判決の控訴 ⇒ 原判決維持 Octane/Highmark 判決後の地裁判決(2014 年)で「考慮された事実 または理由付け」 弁護士費用の支払請求を認容した判決 <色:意図・侵害(の明白さ)・訴訟の進め方> 被告による請求 1. Classen Immunotherapies v. Biogen Idec (メリーランド州地裁、5 月 14 日) - Classen は、侵害品との主張に係るワクチンを Biogen が開発、製造又は販売していないことを認識 していた。Biogen はワクチンのライセンスを他社に許諾していたが、この行為は Classen の特許出 願よりも前に行われていた。 2. Home Gambling Network v. Piche (ネバダ州地裁、5 月 21 日) - 原告による侵害の主張は、有名な NTP v. Research in Motion 判決の後になされたものであり、原告 による侵害の主張が認容できないことは明らかである。 - 原告は、先行技術との差別化のために非対話型のカジノゲームをクレームから削除しており、侵害 の主張が出願経過禁反言により認容されないことを認識していたはずである。 - 原告が悪意で侵害を主張したことは、特許の濫用(クレームを審査中に限定し、特許査定後に拡張 した)という裁判所の認定から明らかである。 3. Intellect Wireless v. Sharp (イリノイ州北部地裁、5 月 30 日) - 原告は、宣誓による発明日遡及を目的として、発明の完成について虚偽の陳述を PTO に対して行 うという(異なる被告に対する先の訴訟で認定された)不正行為を行った。原告は事実と異なる宣 誓を訂正することなく、24 の企業を相手に訴訟を提起した。 - 原告は、被告の訴訟費用を軽減するための措置を講じた。これは支払額の算定には関連するが、本 件が例外的事件であるとの判断には影響しない。 - 原告は、先の Motorola との和解について十分な情報を開示しなかった。 4. Lumen View Tech. v. Findthebest.com (NY 州南部地裁、5 月 30 日) - 被告の「AssistMe」機能は、一利用者のみの嗜好データを利用するのに対し、Lumen 特許は複数利 用者の嗜好データの入力を必要とする。当該事実は訴訟前に基礎的な調査を実施すれば明らかとな ったはずである。 - ほぼ同様の訴訟が、短期間に極めて多数提起された。 5. Precision Links v. USA Products Group (差戻審:ノースカロライナ州西部地裁、6 月 24 日 - クレーム 6 及び 8 の侵害の主張には、(クレーム 1 の侵害の主張に根拠があったとしても)根拠が 認められない。 - 原告による仮差し止め請求には、根拠が認められない。 - 原告は期限後に控訴し、却下回避のために措置を講じたが、この処置には根拠がない。 6. Kilopass Technology Inc. v. Sidense (再審理:8 月 12 日) - Kilopass は、ある代理人からは文言侵害がなかったとの見解を、別の代理人からは文言侵害の可能 性は考えられるが、さらなる調査が必要との見解を得ていたにも関わらず、文言侵害を主張した。 - 略式判決に至るまでの間 Kilopass は文言侵害の主張を断念していた。 - Kilopass は審判において、裁判におけるクレーム解釈での主張と矛盾する主張を行った。 - Kilopass は、均等論について、ある代理人からは助言を受けず、別の代理人からは十分な助言を受 けなかったにも関わらず、均等侵害を主張した。 - Kilopass は、代理人から得た証拠を公表しなかった。 - Kilopass は、訴訟終盤に侵害の根拠を変更するための正当な理由がなかった。 原告による請求 7. AGSouth Genetics v. Georgia Farm Services (ジョージア州中部地裁、5 月 21 日) - 故意による侵害 – 被告は、AGS 2000 に該当するとの主張に係る種が種苗法による登録品種である ことを知りながら、原告の種苗法に基づく権利を侵害する態様でこれを販売した。 8. Cognex v. Microscan Systems (NY州南部地裁) - 故意による侵害 – 審理での答弁は説得力がなく、証拠も提出されなかった。また被告による非合理 的な申立てのために、時間と費用が浪費された。例えば、被告の審理後の申立ては、既に判決が下 された事項を繰り返して述べたに過ぎない。 弁護士費用の支払請求を棄却した判決: <色:相手の行為・侵害(の明白さ)・訴訟の進め方> 被告による請求 9. EON. IP Holdings v. FLO TV (デラウェア州地裁、5 月 27 日) - EON 事件は(弁護士費用の支払請求が認容されるだけの)強さに不足はない。EON 事件は、ミー ンズ・プラス・ファンクション・クレームによるソフトウェア関連発明の解釈という、特許法の中 で複雑かつ変化する領域が対象である。裁判所は口頭弁論、補助的証拠調べを行い、この問題に関 する審理後の理由補充を命じた。 - 訴訟費用は回収可能額を上回る可能性があるが、これは原告が金銭的制裁を受けなければならない ことを意味するものではない。 10. CreAgri v. Pinnaclife (CA州北部地裁、6 月 3 日) - 提訴前の調査において、CreAgri 側代理人は、 (1) 訴訟対象特許、明細書及び出願経過を検証し、クレーム解釈を行った。 (2) 訴訟対象製品、及び当該製品と関連する可能性のある Pinnaclife の係属中の特許出願につい て、公開された情報を全て検証した。 (3) 訴訟対象特許の各クレーム構成要素と訴訟対象製品とを、上記検証結果に照らして比較した 結果、Pinnaclife は訴訟対象特許を侵害しているとの最終結論を得た。 - 「根拠のない提訴」という Pinnaclife の主張は、クレーム解釈において CreAgri の主張がほぼ認め られたことから、認容される可能性は低い。また、上記主張の理由はいずれも、本件が合理的な訴 訟当事者には勝ち目がない程に「客観的根拠がない」ことを裏付けるものではない。 - Pinnaclife は、CreAgri が訴訟対象製品の化学的分析を行わなかったことを批判するが、Pinnaclife も このような分析を行っていない。 - CreAgri のみならず、いずれの当事者もディスカバリでの主張において過剰に攻撃的であった。 11. Stragent, v. Intel (TX州東部地裁、8 月 6 日) - Stragent の主張は多くが失当だったが、このことをもって本事件を例外的とするものではない。 - Intel は、非侵害の略式判決を請求しなかったことから、Stragent による侵害の主張を、必ずしも 「根拠のない提訴」と考えている訳ではない。Intel が略式判決で主張しなかったことを後で主張す るための弁護士費用を Intel に負担させることは、不当であるとは言い難い。 - Stragent は、ディスカバリの数々の手続きにおいて対応が遅れたものの、これは不正行為とはいえ ない。Intel は Stragent に対しディスカバリでの制裁を請求しておらず、ディスカバリの範囲を限定 する判決も請求していない。 - 両当事者の代理人は、事件全体にわたる付帯的な問題に関して、合意及び係争の収束に向けて協力 的であった。 ii その他 i ii BNA’s Patent, Trademark & Copyright Journal®--Daily Update, October 8, 2014, Number 195, ISSN 1522-4325. 被告による請求 1. Bianco v. Globus Medical (TX州東部地裁、5 月 12 日) 裁判所は Dr. Bianco の発明者認定に関する主張を退けたが、このことは Dr. Bianco の請求を根拠がないとするものではな い。発明者認定に関する略式判決の請求が棄却されたという事は、本件が「根拠のある提訴」であることの裏付けである。 Dr. Bianco の発明者認定に関する主張が、「係属中の特許出願から得られる全ての特許」を対象としていることを考慮す ると、本件は主観的悪意をもって提訴されたものではない。 2. Kaneka v. Zhejiang Medicine. (CA州中部地裁、5 月 23 日) 製品は、ITC において非侵害と判断されたが、当該判断は裁判所の判断を拘束するものではなく、当該判断をもって Kaneka の主張を根拠がない又は特異であるとするものではない。 Kaneka は略式判決において敗訴したが、この事実のみをもって事件を例外的とするものではない。 原告による請求: 3. Shire v. Amneal Pharmaceuticals (ニュージャージー州地裁、6 月 23 日) 本件は、典型的な Hatch-Waxman 法違反であり、JM(Johnson Matthey Inc.)ら被告が行ったとされる行為は、ジェネリッ ク医薬品の販売を目的とする典型的な行為である。 JM は、被告らによる FDA 医薬品簡略承認申請までの一連の行為において主導権を握っていた。JM の行為は特許法 271(e)(1)に該当するので特許侵害に該当しない。 - 被告による将来的な供給契約/販売の申し出は、FDA による承認及びジェネリック製品の市場参入を条件とする行為であ るから、本件は特許法第 271(e)(1)により特許侵害に該当しない。
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