October 2015 - Merchant & Gould

October 2015
Dow Chemical Co. v. Nova Chemicals Corp.事件1
最高裁における明確性新基準の適用
米国特許法第112条第2パラグラフの明確性要件は、一般的に明細書の記載と審査経過とに照
らして当業者がクレームの範囲を理解できるのであれば、充足される。そして、2014年6月以
前においては、クレームが不明確であるとして特許を無効とすることは極端なケースを除いて困
難であると考えられていた。これは主として、合衆国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が、10年
以上にわたり厳格な基準を常時適用していたためである。CAFCはクレームが「解釈不能に多義的
(insolubly ambiguous)」であり「解釈可能(amenable to construction)」でないほどに不明確であ
ることの立証を、特許無効を主張する者にしばしば課していた。 2しかしこの基準は、昨年の最高
裁の判決(Nautilus, Inc. v. Biosig Instruments, Inc.事件)3において再検討され、最近の判決において
は、CAFCは、「Nautilus事件により明確性の規定が変更された」としている。
ここで、米国特許法第112条第2パラグラフを見てみると、明確性要件は次のように規定され
ている。
「明細書は、出願人が自己の発明とみなす主題を特定し、明確に請求する1つ以上のクレームで
完結しなければならない。」4
Nautilus事件において最高裁は、この規定により許容される不明確さの程度について、特許権者が
クレームで発明の範囲を公衆に示す義務を負うことと衡量しつつ、言及した。Nautilus事件において
特許無効が主張されたクレームは、「互いに間隔を空けて(in spaced relationship with each other)」配
置された電極を備える心拍計に関するものであるが、最高裁は、CAFCの合議体を構成する裁判官の
間での様々な議論及び意見の不一致を踏まえて、上記の記載は複数の解釈の余地があるので、特許
発明の範囲が一義的に理解されないことが明らかであると述べた。最高裁はまたCAFCの「解釈不能
に多義的(insolubly ambiguous)」及び「解釈可能(amenable to construction)」の分析は、明確性要
件に適切に対応していなかったとの判断も下した。具体的には、クレームから何等かの意味を汲み
取ることが可能であるだけでは十分でなく、寧ろクレームは合理的明瞭性(reasonable clarity)をも
って発明を記載しなければならないと述べた。ゆえにNautilus事件は、最高裁が新たに提言した基準
の観点(即ち、明細書および審査経過を踏まえた上で、合理的明瞭性とともに、発明の範囲につい
ての情報を当業者に対して提供し損ねていないか)からクレームを再検討すべく、CAFCに差し戻さ
れた。そして差し戻し審においては、CAFCは差し戻し前と同じ結論、即ちクレームは不明確ではな
い、との結論に達した。
Nautilus事件におけるCAFCの結論が一貫していることから、当初、最高裁判決が明確性要件に大
きなインパクトを与えるものではなかったとも考えられた。しかし、一方で、最近のDow Chemical
1 Dow Chemical Co. v. Nova Chemicals Corp., 2014-1431, 2014-1462, 判決速報(CAFC、 2015年8月28日).
2 Exxon Research & Eng’g Co. v. United States, 265 連邦判例集第3シリーズ 1371, 1375 (CAFC. 2001)を参照
3 134最高裁判所判例集2120 (2014).
4 この文言は、米国特許改正法制定後に成文化した112条(a)のそれとほぼ同一である。
Co. v. Nova Chemicals Corp.事件におけるCAFCの判決は、逆に、明確性要件の判断に重要なシフトが
生じたと判示した。
ここで、Dow Chemical事件において特許無効が主張されたクレームは、「加工硬化係数の傾きが1
.3以上である」等の物理的性質を有するポリマー組成物に関するものであって、この係争において
は、「加工硬化係数の傾き」の測定方法が明確にされているかが主として争われた。この測定方法と
して、発明の属する技術分野では、3つの方法が知られており、特許権者であるDow Chemical側の専
門家は、自身で4つめの測定方法を開発したと証言した。この専門家は、4つの方法をそれぞれ用い
れば測定結果は異なりうるとの点を認めたが、明細書および審査経過のいずれにも、使用すべき測定
方法については何ら示されていなかった。故にCAFCは、異なる結果となる複数の測定方法が存在す
る場合に、クレームが不明確となりうるかを争点として、この争点に取り組むに際し、Nautilus事件
前と後では結論が異なると述べた。具体的には、Nautilus事件前では、クレームの用語は不明確では
ないと決定したであろうと述べた。何故ならば、当業者がクレームによりカバーされる方法を解釈し
実施することは可能だからである。一方でCAFCは、Nautilus事件後では反対の結論に達する旨述べ
た。即ちCAFCは、「加工硬化係数の傾き」の測定方法が明確には特定できないので、クレームの用
語は合理的明瞭性もって発明の範囲を伝達しておらず、そのためクレームされたポリマー組成物の範
囲も不明確であるとの結論に達した。CAFCによれば、当該クレームは、その範囲を当業者が「個々
人の意見の予測のつかない変動(unpredictable vagaries of any one person’s opinion)」を頼りに見定め
るように仕向ける書き様なので、不明確であるとのことである。
この結論に至る過程で、CAFCは、Dow Chemical 事件の法廷は Nautilus 事件後のもう1つの
事件、Teva Pharms. USA Inc. v. Sandoz, Inc.事件5にも言及している。この事件において、CAFC
は、Nautilus事件の基準を適用し、「分子量」とのみ規定するクレームは不明確であるとの結論に達
している。何故ならば、「分子量」は複数の異なる測定方法を意味する余地があり(例えば、平均分
子量、数平均分子量、及び重量平均分子量)、また審査経過を参酌しても、「分子量」の意味を明確
に定義することができなかったからである。
結論
今後特許無効を試みる場合は、不明確性を十分に考慮し、そしてクレームの用語がNautilus事件の
新たな基準を真に満たすかを検討すべきである。特に物理的又は化学的特性の値を特定したクレー
ムを有する特許は、仮にそれらの特性が複数の測定方法により測定でき、且つそれら複数の測定方法
により異なる値が導出されるものであっても、明細書及び審査経過の何れにおいても測定方法の特定
が行われていない場合に、攻撃を受ける虞が大きいと言える。例えば、特定の溶解プロファイルを有
する経口薬剤組成物に関するクレームは、典型的には複数の溶解プロファイルを特定しなければなら
ず、故にこれらの状態が十分に説明されていなければ、無効とされるリスクが高いと言える。一方、
出願人及び実務者は、可測特性に関する特許出願の、係属中のクレームの用語を注意深く検討すべき
5 789連邦判例集第3シリーズ 1335 (CAFC 2015).
である。特に、異なる測定方法/条件が採用された場合に異なる測定結果となるか否か、同一の測定
結果を得るためには適切に較正した装置の使用が必要となるか否かについて、十分に吟味する必要が
ある。また特許権者は、測定可能な化学的又は物理的特性を特定するクレームで権利行使する前に、
クレームの明確性に疑念がある場合には、当該特性を測定する方法が明細書中に開示されていること
を前提として査定系再審査(ex parte reexamination)の請求を検討してもよいであろう。
執筆者:Dianna G. El Hioum
Merchant & Gouldの日本チーム
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