新米国特許法(AIA) - 知財翻訳研究所

米国特許ニュース
新米国特許法(AIA)は憲法違反であると
米国特許商標庁を訴えた MADSTAD 社の仮処分差し止めは認められるか
(速報)
2013 年 3 月 4 日
1. MADSTAD 社の憲法違反訴訟
新米国特許法の先願主義は 2013 年 3 月 16 日の出願から始まるが、この規定は憲
法違反であるとフロリダの小さな会社である MADSTAD エンジニアリング社(特許 3 件
しか有していない)が 2012 年 7 月 18 日に提訴しており、仮処分差し止めを要求して
いる。
MadStad Engineering Inc et al. v. USPTO
USDC for MD of Florida Tampa Division
No. 8:12–cv-01589-SDM-MAP
2. MADSTAD 社の主張の要旨は以下の通りである。
(1) 新法は First-inventor-to-file というラベルがついているが、特許は最初の出願者
に与えられ、最初の発明者ではないので虚偽表示である。
(2) 従来法の 102 条(f)には「発明していない者が出願した場合は特許が与えられない」
という条項があったが新法では削除され発明者でない者にも特許が与えられる事
になったことは違法である。
(3) 先願主義はこれまでの米国の新技術開発を担ってきた個人発明家、新興企業(ス
タートアップ)、小規模企業、研究開発団体には出願予算がとかくないので不利で
ある。米国の特許法がこのような新法であったらライト兄弟やヒューレッド・パッカー
ド社は特許を取れなかったであろう。
(4) 新法は登録後レビュー等の余計な行政手続があり米国特許商標庁の仕事は更に
遅れ、滞質が増加するだろう。
(5) 米国特許法は 1970 年の最初の特許法から歴史的に先発明者に特許を与えてき
た。新法はこの基本原則に反するものである。
(6) 新法特許取得のためにコストと時間がよりかかり、また、発明は盗まれ易くなってい
るため、MADSTAD 社は自社を技術を守るため余計な経費の支払いを余儀なくさ
れており、既に被害が生じており、MADSTAD 社は原告適格がある。
(7) 仮出願の制度は 12 ヶ月しかないため、十分は保護ができない。
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(8) 3 月 16 日からの先願主義導入を阻止するために判事は直ちに仮処分差し止めを
認めるべきである。
3. フロリダ連邦地裁
フロリダ連邦地裁において、米国特許庁/司法省は、原告にはまだ被害が生じておら
ず原告適格はない、先願主義は憲法違反ではない、仮処分差し止めは不当であると
いう訴訟却下モーションを提出し、MADSTAD 社も更に反駁書を提出している。判事
は 2012 年 10 月 12 日にケース・マネジメント・レポートを作成し、現在審議中である。
両当事者は、本件の問題は純粋な法律問題であることを認めているので事実認定関
係のディスカバリは行われておらず、更に和解はあり得ない、仲裁もあり得ないことも
認めている。
地裁判事は 3 月 16 日までに仮処分をどのように処理するか注目を集めている。また、
もし地裁判事が憲法違反の可能性が非常に少ないと考えれば 3 月 16 日までに何も
せずに今後ゆっくり審議することも考えられる。いずれにせよこの訴訟は最低 CAFC
まで控訴されよう。最高裁は憲法違反の可能性が多少あれば受理する事になろう。
4. 米国議会は新法制定後に必ず憲法違反の問題が提起される事を予測してか、新法
自体の中に、「議会の認識:Sense of Congress」として「先願主義の特許法は憲法の
規定された通り科学を発展させる(よって、憲法違反ではない)、そして更に、ハーモ
ナイゼーションも促進させる、と理解している」という文言を挿入している。
拙著「新米国特許法(American Invents Act)対訳付き」45~47 ページ、354 ページ参
照。
AIA の中のこの米国議会の文言がどの程度憲法違反でない解釈に役に立つかは今
後の地裁判事の解釈の仕方を待つ必要がある。
5. なお両者の主張、特に米国特許庁/司法省の憲法違反でないという主張は米国特許
法の根本を理解する上で非常に役に立つ資料である。このような訴訟の内容につい
ては 3 月の知財翻訳研究所主催のセミナーでより詳しく紹介する予定である。
服部 健一
米国特許弁護士
WHDA 法律事務所
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