3.ミニゴボウ収穫方法に関する研究

概要
ミニゴボウ収穫方法に関する研究
(引抜き収穫のための力学的検討)
小林
起 ( 工 学 部 平 成 16 年 度 入 学 )
KeyWords:Agricultural Machinery, Burdock, Mini Vegetable, Harvest Machine, Tensile Properties
1.
緒論
近 年 の 食 生 活 を み る と ,家 庭 に お け る 食 事 に つ い て は ,都 心 部 を 中 心 に 核 家 族 や 単 身 者
世 帯 の 増 加 等 に よ っ て 食 の 個 食 化 が 進 み ,一 度 の 食 事 で 消 費 さ れ る 食 材 の 量 も 減 尐 す る 傾
向 を み せ て い る .さ ら に は ,鮮 度 の 低 い も の は ,う ま み が 落 ち る と 同 時 に 日 も ち が 悪 く な
る た め ,家 庭 内 で 生 じ る ロ ス を な く し た い と す る 節 約 傾 向 の ほ か ,量 と 価 格 と の バ ラ ン ス
や 環 境・衛 生 へ の 関 心 の 高 ま り な ど ,食 品 に 対 す る 消 費 者 ニ ー ズ は 極 め て 多 様 化 か つ 高 度
化 し て き て い る . そ の 中 で 従 来 の よ う な 大 型 野 菜 に 代 わ り , 大 き さ と し て 1 /3 か ら 1/2 程
度 で 成 熟 す る ミ ニ 野 菜 へ の 注 目 が 高 ま っ て い る .こ の ミ ニ 野 菜 は 小 分 け の た め に カ ッ ト す
る 必 要 は な く ,カ ッ ト 野 菜 の よ う な 切 り 口 か ら の 鮮 度 低 下 や 不 要 な 過 剰 梱 包 を 省 く こ と が
で き る .そ の た め 消 費 者 に と っ て は ,ミ ニ 野 菜 は 高 鮮 度 か つ 日 も ち の よ さ ,調 理 し や す さ
などのメリットがあり,近年ミニ野菜の売り上げは急激に増加している.
一方,ミニ野菜の生産に関しては,それ自体が小ぶりであるという特性から通常の野菜
と同じ播種を行う場合では収穫量が減尐してしまう.収穫量を等しくするためにはミニ野
菜の播種密度を上げることが必要となる.播種密度を上げた場合による作業ができないこ
ともあり,ミニ野菜の生産方法に合わせた農機の開発が望まれている.
本 研 究 で は ,ミ ニ 野 菜 の 中 で 長 さ 500 mm 以 下 の ミ ニ ゴ ボ ウ に 着 目 し ,そ の 収 穫 用 農 機 の
開発を目的とし,そのための基礎的設計の技術的要求としてミニゴボウの収穫時の引抜き
抵抗力と,ミニゴボウ自身の引張破断力について調べた.
2.
ゴボウとミニゴボウの栽培・収穫方法
ゴボウの栽培と収穫方法を図 1 に示す.
引抜きベルト
通常のゴボウの場合,ロータリートレンチ
ャ ー を 使 用 し 1m 以 上 深 く 土 壌 を 掘 り 起 こ
し,その上に紐状になった種子を播種用農
栽培用ベルト
機に取り付け,1 畝に 2 列の種の植え付け
をする.
収 穫 は 図 1a )に 示 し た 収 穫 機 の ル ー ト デ
ィガーを用い,ゴボウ周囲の畝の土壌を深
く掘り,ゴボウの根と土壌との接合状態を
緩めてから,引抜きベルトでゴボウを狭持
して収穫する方法で行っている.収穫作業
ルートディガー
a)ゴボウの収穫法
図1
ルートディガー
b)ミニゴボウの収穫法(検討案)
ゴボウとミニゴボウの収穫法
は 1 条刈であるため 1 畝のゴボウを 1 往復で片道 1 列ずつ行う.
一方,ミニゴボウの場合,生産量の維持のため 1 畝に 4 列以上のマルチ栽培法が取られ
る.このため,現有の収穫機ではミニゴボウを収穫することはできない.そこで,ミニゴ
ボウは前にも述べたように普通のゴボウに比べ全長が短いという特性から,ミニゴボウを
土壌から離脱するために必要な力は普通のゴボウを引抜く力と比べ低くなることが予想さ
れ る . そ の 栽 培 と 収 穫 方 法 は , 例 え ば , 図 1 b) に 示 す よ う に 栽 培 用 の ベ ル ト を 用 い た 植 え
付けと収穫方法が考えられる.栽培用の特殊なベルトに穴を開け,ミニゴボウの種をベル
ト の 穴 に 入 れ て 播 種 す る . 収 穫 は 収 穫 機 の “ U” 型 の ル ー ト デ ィ ガ ー に て ゴ ボ ウ 底 部 の 土
を掘り,ベルトを巻き上げて複数列のミニゴボウを収穫できると考える.
3.
ゴボウの破断力
b)瓶口結び
図 1 に示すミニゴボウの引抜き式収穫法に
て 収 穫 す る た め ,ミ ニ ゴ ボ ウ の 引 張 破 断 力 が ,
ゴボウの引抜き抵抗力より大きくなることが
必要となる.然すれば,ミニゴボウが土中で
折れることはない.ミニゴボウと通常のゴボ
ウは材料の性質が同じと考え,現段階で入手
可能な通常のゴボウを用い引張試験を行い,
a)万能引張試験機
図 2
ゴボウの破断力を測定した.
c)破断したゴボウ
ゴボウの引張試験
引 張 試 験 の 外 観 を 図 2a )に 示 す .ま た 供 試
1200
形態であるものを選定した.しかし,ゴボウ
1000
自体が通常の標準引張試験片と違い,非常に
柔らかいものであるため,万能試験機のチャ
ックを使用して固定することができない.本
ゴボウの破断 Fσ N
するゴボウは,直径の変化が尐ない円柱状の
800
600
400
実 験 で は 紐( タ コ 糸 2 0 号 )を 使 用 し 中 国 古 来
200
の“瓶口結び”を用いアダプターを介しゴボ
0
ウ を 固 定 す る こ と に し た .図 2b )に 瓶 口 結 び
により緊縛したゴボウを示す.ゴボウの片側
に 約 12 本 の 紐 を 用 い た .
5
10
15
20
25
ゴボウの直径 d mm
図 3
ゴボウの破断力
30
引 張 試 験 後 の 破 断 し た ゴ ボ ウ を 図 2 c) に 示 す . ま た , ゴ ボ ウ は , 通 常 の 引 張 標 準 試 験 片
のような破断部を細くすることができないため,その破断部は緊縛部に発生している.こ
れは,緊縛部に応力が集中するためだと考えられる.従って,本実験で得られた破断力は
緊縛による応力集中の影響を含めた破断力である.
図 3 に ゴ ボ ウ の 直 径 d mm と 破 断 力 の 関 係 を 示 す . ゴ ボ ウ の 直 径 に は , 破 断 断 面 の 直 径
を用いた.測定した破断力の値から最小2乗法により算出した 1 次式で近似すると
F σ =36.3d-115
( 1)
が 得 ら れ る . た だ し F σ は ゴ ボ ウ の 破 断 力 ( N), d は ゴ ボ ウ の 直 径 ( mm) で あ る . 破 断 力
と ゴ ボ ウ の 直 径 と の 相 関 係 数 r は 0.8 1 で あ っ た .両 者 の 間 に は ,強 い 関 連 性 が あ る こ と が
35
脚立
言 え る .図 3 か ら ,ゴ ボ ウ の 直 径 が 10 mm か ら 30 mm
手動ウィンチ
程度の範囲では,破断力は直径の増加に伴い増加す
ることがわかった.また,破断力には,ばらつきが
大 き く , 直 径 10 mm か ら 30 mm の ゴ ボ ウ の 破 断 力 は
出力電圧測定用テスター
最 低 で 200N か ら 最 高 1100N で あ り , ゴ ボ ウ の 生 長
直尺
状況によってその機械的性質の変動が大きいことが
わかった.
4.
ひずみアンプ
データレコーダー
ロードセル
ゴボウの引抜き抵抗力
瓶口結び部
ゴボウの収穫は通常,引抜き方法で行う,ミニゴ
ゴボウ
ボウを引抜くために必要な力を調べることにした.
ゴボウの引抜き力の測定装置を図 4 に示す.引抜き
力は慣性を無視できるように手動ウィンチ
図 4 ゴボウの引抜き抵抗力測定装置
で極低速にて引き抜けることにした.引抜
ドセル及びデータレコーダーを用いた.ま
た,引抜き距離による引抜き力の変化も同
時に測定することにした.ゴボウの引抜き
距離測定方法は,直尺を用いロードセルに
取り付けた計測用針とで目測する.引抜き
ゴボウの引抜き抵抗力 Fp N
き力の測定記録には,ひずみゲージ式ロー
250
ルートディガー無
200
150
ルートディガー有
100
50
0
抵抗力の推定のため,ゴボウの全長と根身
20
図5
最 大 値 に 達 し て か ら 8 0 mm ま で 急 激 に 減 尐
し,その後は穏やかに減尐する特徴が見ら
れ た .ま た ,ル ー ト デ ィ ガ ー を 用 い た 場 合 ,
引抜き抵抗力が約半分に減尐していること
がわかる.
最大引抜き抵抗力 F pmax N
関係を図 5 に示す.引抜き抵抗力は,引抜
き 開 始 直 後 に 増 加 し , 30 mm か ら 40 mm で
60
80
100
120
140
160
ゴボウの引抜き距離 l mm
直径も測定した.
ゴボウの引抜き抵抗力と引抜き距離との
40
ゴボウ最大引抜き抵抗力と表面積の関係
900
800
700
600
500
400
300
200
ルートディガー使用無
100
ルートディガー使用有
0
0.0
最大引抜き抵抗力とゴボウの表面積との
2.0
4.0
6.0
4 2
ゴボウの表面積 S ×10 mm
8.0
関係を図 6 に示す.ゴボウの表面積は,ゴ
ボウの全長を 5 等分して各部の直径を測り,
図6
ゴボウの引抜き抵抗力と引抜き距離の関係
それを用いて算出した.最大引抜き抵抗力
Fp ma x と ゴ ボ ウ の 表 面 積 S と の 関 係 を 最 小 2 乗 法 に よ り 算 出 し た 1 次 式 で 近 似 す れ ば ,
F p m a x =0. 0095S+84. 5
( 2)
が 得 ら れ , 両 者 の 相 関 係 数 r は 0. 87 で あ り , 強 い 相 関 が あ る こ と が 考 え ら れ る . 一 方 , ゴ
ボ ウ の 引 抜 き 抵 抗 力 を ゴ ボ ウ の 全 長 及 び ゴ ボ ウ の 上 部 根 径 と の 相 関 係 数 r は そ れ ぞ れ 0.73
と 0.75 で あ り ,ゴ ボ ウ の 引 抜 き 抵 抗 力 の 推 定 に は ,ゴ ボ ウ の 表 面 積 を 用 い た 方 が よ い こ と
1200
最大引抜き抵抗力 Fpmax
破断力 Fσ N
が言える.また,ルートディガーを用いるこ
破断力
1000
とによって,ゴボウの引抜き抵抗力の低下に
ついても図 6 に示す.ルートディガーを用い
ることでゴボウの引抜き抵抗力が大幅に低下
することがわかった.一方,ゴボウを引抜く
方法で収穫する場合,ゴボウの破断力は,引
ルートディガー無
800
600
400
200
ルートディガー有
0
抜き抵抗力より大きくなることが必要である.
5
10
15
20
25
30
35
ゴボウの直径 d mm
両者の比較を図 7 に示す.図 7 から,ゴボウ
の破断力がその引抜き抵抗力より大きく,ゴ
図7
最大引抜き抵抗力と破断力の関係
ボウの強度の面から,ルートディガーを用い
らなくても,収穫が可能である.しかし,図 6 に示す引抜き抵抗力のばらつきを考慮すれ
ば,引抜き抵抗力がゴボウの破断力より大きくなることもあり,確実に破断せずに引抜き
収穫を行うためにはルートディガーの使用が望ましいことがわかる.
5.
結論
本研究では,ミニゴボウの引抜き式収穫においての技術条件としてゴボウの破断力と,
土壌から引抜く際の引抜き抵抗力を測定し,ならびに土壌の作溝による引抜き抵抗力への
影響を調べ,得られた実験結果を以下に示す.
( 1)
ゴ ボ ウ の 破 断 力 は ゴ ボ ウ の 直 径 10 mm か ら 30 mm の 範 囲 で , 最 低 200N か ら 最 高
1100N で あ る こ と が わ か っ た .
( 2)
ゴ ボ ウ の 最 大 引 抜 き 抵 抗 力 は ,ゴ ボ ウ の 表 面 積 が 約 2×10 4 mm 2 以 下 の ミ ニ ゴ ボ ウ の
場 合 . 最 大 引 抜 き 抵 抗 力 は 350N 以 下 で あ る こ と が わ か っ た .
( 3)
最 大 引 抜 き 抵 抗 力 と ゴ ボ ウ の 各 測 定 値 と の 間 に は 相 関 性 が あ り ,表 面 積 が 最 も 強 い
相関関係が認められた.よって,最大引抜き抵抗力を推定には表面積を用いるべき
ことを示した.
( 4)
ゴ ボ ウ の 引 抜 き 抵 抗 力 は , 引 抜 き 開 始 直 後 で 増 加 し , 30 mm か ら 5 0 mm で 最 大 値 に
達 し て か ら 8 0 mm ま で 急 激 に 減 尐 し ,そ れ 以 降 は 穏 や か に 減 尐 す る 特 徴 が わ か っ た .
( 5) ゴ ボ ウ の 破 断 力 が 引 抜 き 抵 抗 力 よ り 大 き く ,強 度 の 面 で は 引 抜 き が 可 能 で あ る こ と ,
ルートディガーを用いるとより確実に引抜くことができることがわかった.
謝辞
終わりに,本研究を行うにあたり,有限会社新福青果社長新福秀秋様,渡辺克己様,木之
下広幸助教,ならびに院生各位のご指導・ご援助に深く感謝します.
参考文献
( 1)
濱 田 千 裕・青 木 弘 二・宮 下 陽 里・山 口
豊 ・ 田 辺 仁 志 ,ゴ ボ ウ の 機 械 化 栽 培 に つ い
て ( 第 2 報 ) ,愛 知 農 総 試 研 報 16,( 19 84) 1 38-146
( 2)
岩崎正美・石原
昂 , 根 菜 類 の 引 抜 き 抵 抗 力 , 農 機 誌 37 , 76-80
( 3)
古谷
正 , 根 菜 収 穫 に 関 す る 研 究 , 農 機 誌 38, 2 96, 303
( 4)
古谷
正 , 根 菜 の 引 抜 き 力 に 関 す る 研 究 ( 第 1 報 ), 農 機 誌 40, 47-5 2