特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) 航 空 【要約】 ■ 2015 年度の国内線旅客動向は、北陸新幹線の延伸に伴う北陸方面発着便の供 給量調整、スカイマークの規模縮小等を要因に、需給両面で減少局面に転じると 予想。中長期的には人口減少トレンドに入っており、国内線事業は拡大から縮小 への過渡期に移りつつあると考えられる。イールドについては、LCC のシェアが 高まること等に伴い低下すると予想。 ■ 2015 年度の国際線旅客動向は、円安基調の継続、中国向けビザ発給要件の緩 和、航空会社の生産規模の拡大、等を主因に需給両面で増加すると予想。安定 的な事業拡大に向け、ビジネス需要や、乗り継ぎ需要の取り込みに資する路線 展開を行う等、ネットワーク戦略の高度化が求められる。 ■ 2015 年度の航空大手 2 社の企業収支は、国際線を中心とした輸送量増加を主 因に、前期比+1.1%の増収となる見通し。利益面では、円安懸念はあるものの、 国際線での生産規模拡大、燃油価格の下落、等を要因に増益となる見通し。 Ⅰ.産業の動き 【図表23−1】 航空需給概要 【実数】 13fy (単位) 国内線 15fy (見込) 848 (予想) 840 旅客キロ (需要) (億㎞) 座席キロ (供給) (億㎞) 1,307 1,304 1,288 (%) 64.4% 65.0% 65.2% (億㎞) 666 727 782 (億㎞) 885 982 1,058 75.3% 74.0% 73.9% ロ ー ト ゙フ ァクター 旅客キロ (需要) 国際線 14fy (実績) 841 座席キロ (供給) ロ ー ト ゙フ ァクター (%) 【増減率】 13fy (単位) 国内線 国際線 15fy (実績) + 8.0% (見込) + 0.8% (予想) ▲ 1.0% ▲ 0.2% ▲ 1.2% (pt) + 6.9% + 0.7 + 0.7 + 9.1% + 0.2 + 7.6% + 10.9% ▲ 1.2 + 7.8% ▲ 0.2 旅客キロ (需要) (%) 座席キロ (供給) (%) ロ ー ト ゙フ ァクター 増減 14fy 不 定 旅客キロ (需要) (%) + 6.8% 座席キロ (供給) (%) ロ ー ト ゙フ ァクター 増減 (pt) + 7.3% ▲ 0.4 (出所)国交省「航空輸送統計年報」よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)2015 年度以降は、みずほ銀行産業調査部予想 みずほ銀行 産業調査部 198 特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) 1.国内線旅客動向 2014 年度の国内線 ASK1は、1,304 億㎞(前期比▲0.2%)と微減となる見通し。 2014 年度は、大 2010 年の荷動き 手 2 社を中心とし は、主要航路で た供給調整によ + 12.6% 増 加 の り、ASK 横這い、 見通し LF 改善の見通し 春秋航空日本の新規就航(2014 年 8 月)、スカイマークの機材大型化、等に 伴う増加要因はある一方、大手 2 社を中心に、機材の小型化、路線の組換、 等の供給量調整の動きもあることが要因として挙げられる。需要面においては、 日本の景気回復、LCC の浸透・新規需要喚起、等もあり、国内線旅客数は 93.6 百万人(同+1.0%)、国内線 RPK2は 848 億㎞(同+0.8%)と増加し、LF3も 65.0%(同+0.6pt)に上昇する見通し。一方で、イールド4については、大手 2 社 が需要喚起の為にプロモーション系運賃を積極的に導入していることを主因 に低下する見通し。なお、2014 年度上期の RPK における LCC シェアは 8.5% であり、徐々にシェアを高めている(【図表 23-1∼5】)。 2015 年度の国内線は、RPK は 840 億㎞(前期比▲1.0%)、ASK は 1,288 億 2015 年度は、北 陸新幹線の延伸 等を要因に需給 両面で減少する と予想 ㎞(同▲1.2%)と需給両面ともに小幅減少し、結果的に LF は 65.2%(同+0.2pt) に上昇すると予想。春秋航空日本の通年寄与、エアアジア・ジャパンの再参 入(予定)という増加要因はあるものの、北陸新幹線の延伸(2015 年 3 月)に伴 う北陸方面発着便の供給量調整、スカイマークの路線縮小、更には日本の人 口減少という中長期的なトレンドもあり、需給両面で減少傾向に転じる転換点 の年になると予想する。イールドについては、LCC のシェアが高まること、等か ら低下傾向で推移すると予想。 【図表23−2】 国内線旅客数の推移 RPK ASK RPK前期比 ASK同 20% 1,200 10% 2015e 2013 2014e (FY) 2012 -20% 2011 0 2010 -10% 2009 400 2008 0% 2007 800 2006 2015e 2013 -10% 2014e 0.0 2012 -5% 2011 25.0 2010 0% 2009 50.0 2008 5% 2007 75.0 2006 10% 2005 100.0 2004 (億㌔) 1,600 15% 2005 国内線旅客数 前期比 2004 (百万人) 125.0 【図表23−3】 国内線需給の推移 (FY) (出所)【図表 23-2、3】とも、国交省「航空輸送統計年報」よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)2014 年度以降はみずほ銀行産業調査部予想 1 2 3 4 Available Seat Kilometer :提供座席数×輸送距離 供給量を図る指標 Revenue Passenger Kilometer :有償旅客数×輸送距離 需要量を図る指標 Load Factor :RPK÷ASK Yield :旅客収入÷RPK みずほ銀行 産業調査部 199 特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) 【図表23−5】 国内線 RPK シェアの推移 【図表23−4】 国内線イールドの推移 (円) 20.0 100% 0.0% 0.2% 2.2% 4.9% 6.8% 7.0% 8.5% JAL 16.0 80% ANA SKY 33% 33% 32% 30% 30% 30% 29% 60% その他 LCC APJ 12.0 SKY 40% JJP JAL WAJ 8.0 SJO ANA 50% 50% 48% 47% 46% 46% 45% 20% 14/上 13/下 13/上 12/下 (FY) 12/上 11/上 14/上 13/下 13/上 12/下 12/上 11/上 2013 2012 2011 2010 2009 2008 11/下 0% 11/下 平均 4.0 (FY) (出所)【図表 23-4、5】とも、国交省「航空輸送サービスに係る情報公開」よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)APJ:ピーチ、JJP:ジェットスタージャパン、WAJ:バニラエア、SJO:春秋航空日本 2.国際線旅客動向 2014 年度は、政府の積極的な観光施策、羽田空港国際線発着枠の昼間時 2014 年度は、羽 田増枠効果を主 因に需給両面で 大幅増加となる 見通し 間帯における増加(年間 3 万回、1 日当り 40 便)に伴う大手 2 社の積極的な 路線開設、及び LCC の国際線拡大、等を背景に本邦航空各社による輸送量 は 16.3 百万人(前期比+8.2%)、RPK は 727 億㎞(同+9.1%)、ASK は 982 億 ㎞(同+10.9%)と増加する見通し(【図表 23-1、6、7】)。 2015 年度についても、需給両面での増加基調は継続すると予想。円安基調 2015 年度は、円 安、政策効果を 主因に増加基調 継続と予想 の継続、中国向けビザ発給要件の緩和を主因に、更なる訪日外国人の増加 が期待できること、燃油価格低下に伴い燃油サーチャージ負担の軽減が見込 めること、また大手 2 社や LCC の新規路線開設は続く見通しであること、が要 因として挙げられる。然しながら、長引く円安は日本人の海外旅行抑制にも繋 がることから、本邦航空各社は目的需要のみならず、アジア⇔北米間での乗 り継ぎ需要の取り込みに資する路線展開を行う等、ネットワーク戦略の高度化 が求められよう。 【図表23−7】 国際線需給の推移 【図表23−6】 国際線旅客数推移 RPK ASK RPK前期比 ASK同 20% 1,200 10% 2015e 2014e (FY) 2013 -20% 2012 0 2011 -10% 2010 400 2009 0% 2008 800 2007 2015e 2014e 2013 -20% 2012 0.0 2011 -10% 2010 4.0 2009 0% 2008 8.0 2007 10% 2006 12.0 2005 20% 2004 16.0 (億㌔) 1,600 2006 30% 2005 国際線旅客数 前期比 2004 (百万人) 20.0 (FY) (出所)【図表 23-6、7】とも、国交省「航空輸送統計年報」よりみずほ銀行産業調査部作成 (注)2014 年度以降はみずほ銀行産業調査部予想 みずほ銀行 産業調査部 200 特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) Ⅱ.企業業績 1.2014 年度決算 円安影響はある が、輸送量増加、 燃料価格低下、 等に伴い増収増 益の見通し 2014 年度の航空大手 2 社の決算は、円安効果により訪日外国人が増加して いること、国際線中心に生産規模を拡大していること、等を主因に輸送量は増 加すると想定され、増収となる見通し(大手 2 社売上高計 30,387 億円、前期比 +4.4%)。利益面では、円安影響による外貨建てコストの負担増加はあるもの の、増収効果に加え、燃油価格自体の大幅な下落、LF 上昇に伴う採算性の 向上、等の要因により増益となる見通し(同営業利益合計 2,635 億円、同 +13.3%)。 2.2015 年度決算予想 国際線の生産量 拡大、燃油価格 下落の進展、等 に伴い増収増益 の見通し 2015 年度の決算も、引き続き増収増益になると予想する。国内線は、需給両 面で頭打ちとなる懸念はある一方、国際線生産規模拡大の継続、羽田空港 国際線発着枠拡大を活用した単価の高いビジネス客の取り込み、訪日外国 人の増加期待、等から増収となる見通しである(同売上高計 30,944 億円、前 期比+1.8%)。利益面については、円安基調の継続はあるものの、生産規模 拡大に加え、機材更新に伴う燃費効率の改善、燃油価格下落の更なる進展、 等を要因に増益となる見通しである(同営業利益合計 2,893 億円、同+9.8%) (【図表 23-8】)。 【図表23−8】 航空大手 2 社の企業収支 【 実額】 ( 単位) 売 上 高 営業利益 航空大手 2社合計 ( 億円) 13fy 14fy 15fy ( 実績) ( 見込) ( 予想) 29,103 30,387 30,944 2,326 2,635 2,893 【 増減率】 ( 単位) 売 上 高 ( %) 営業利益 13fy 14fy 15fy ( 実績) ( 見込) ( 予想) + 6.9% + 4.4% + 1.8% ▲ 22.2% + 13.3% + 9.8% (出所)各社決算資料よりみずほ銀行産業調査部作成 (注 1)連結ベース (注 2)航空大手 2 社…日本航空、ANA ホールディングス(証券コード順) (注 3)2014 年度以降は、みずほ銀行産業調査部予想 みずほ銀行 産業調査部 201 特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) Ⅲ.トピックス 中国経済・中国企業の動向を踏まえた日本企業のあるべき戦略 ∼航空∼ 中国路線は有 望だが、ボ ラテ ィリティは高い 2014 年の訪日外国人は 1,341 万人(前年比+29%)に増加した。中でも中国か 本邦 LCC の国 際線展開では 中国含む東アジ ア路線が重要 また、本邦大手航空会社傘下の本邦 LCC にとって、更なる事業拡大を展望 らの訪日外国人数は 240 万人(同+83%)と大幅に伸長しており、本邦大手航 空会社の国際線事業拡大に一役買っている(【図表 23-9】)。然しながら、ここ 数年の中国からの訪日外国人数の変動は日中関係を色濃く反映した姿とも 言え、本邦大手航空会社にとって、中国路線は、需要の太い有望な路線であ る一方、地政学リスクを内包したボラティリティの大きな路線とも言えよう。 する上で国際線進出は重要な要素であり、その中心は東アジア(韓国・中国・ 台湾等)への就航である。然しながら、上述のような中国路線のボラティリティ の高さを勘案し、未だ中国路線は開設されていない(2014 年末時点)5。 【図表23−9】 訪日外国人の推移 (百万人) 16.0 14.0 【図表23−10】 訪日外国人の旅行消費額 (億円) 100% 合計 中国 前年比(合計) 前年比(中国) (万円/人) 旅行消費額 6,000 一人当たり旅行支出額 30 80% 5,000 25 4,000 20 3,000 15 12.0 60% 10.0 40% 8.0 20% 6.0 0% 2,000 4.0 -20% 1,000 5 -40% 0 0 こうした中国路線のボラティリティリスク解消に向けた特効薬は日中関係の改 善であろうが、一方で航空会社としての能動的な取組も求められる。 本邦 LCC は、足 許では台湾路 線等に注力する のも選択肢 本邦大手航空会社であれば、非航空系事業を拡大し事業リスク分散を図ると いう戦略が考えられる。2014 年の訪日外国人旅行者の消費額は約 2.0 兆円、 かつ今後も更なる拡大が期待でき、航空会社からみれば大きな市場が周辺 に存在している(【図表 23-10】)。こうした観点に鑑みれば、旅行企画、免税店、 空港経営等、航空輸送以外での事業機会もあり得ると筆者は考えている。勿 論こうした事業への取組は本業である航空事業とのシナジーも期待できよう。 また、本邦 LCC においては、当面は中国路線開設を回避し、台湾・香港等の 安定重要が見込める路線に経営資源を集中投下し資本蓄積を図る戦略が有 効ではないだろうか。黎明期の本邦 LCC にとって中国路線のリスクは現状で は取りきれないのでは、と筆者は考えている。各社の取組に注目していきたい。 (社会インフラチーム 大野 輝義) [email protected] 5 ロシア (出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査 2014 年年間値(速報)」より みずほ銀行産業調査部作成 (出所)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」より みずほ銀行産業調査部作成 大手航空会社 は、非航空系事 業の強化も一考 インドネシア インドネシア ドイツ フィリピン カナダ ベトナム フランス シンガポール イギリス マレーシア タイ オーストラリア 2010 香港 2009 米国 2008 韓国 2007 (CY) その他 2006 -60% 台湾 1.0 中国 1.0 2.4 2014 0.9 1.3 2013 0.8 1.4 2012 0.7 1.0 2011 0.6 2005 0.0 1.4 2004 2.0 10 合計約 2.0 兆円 中国系 LCC としては、春秋航空日本の親会社である春秋航空が、2010 年より、上海⇔茨城便等を開設している。 みずほ銀行 産業調査部 202 特集: 2015 年度の日本産業動向(航空) /49 2015 No.1 平成 27 年 2 月 26 日発行 ©2015 株式会社みずほ銀行 本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。 本資料は、弊行が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、弊行はその正 確性・確実性を保証するものではありません。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にてなされま すよう、また必要な場合は、弁護士、会計士、税理士等にご相談のうえお取扱い下さいますようお願い申し上 げます。 本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他如何なる手段において複製すること、②弊 行の書面による許可なくして再配布することを禁じます。 編集/発行 みずほ銀行産業調査部 東京都千代田区大手町 1-5-5 Tel. 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