「実質年金改定率」、昨年から今年の大きな転換

リサーチ TODAY
2015 年 3 月 16 日
独自概念「実質年金改定率」、昨年から今年の大きな転換
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2015年度の年金改定率は+0.9%と、1999年度以降16年ぶりのプラス改定になる。「現役人口の減少」や
「平均余命の伸び」に応じて年金額の伸びを調整する「マクロ経済スライド」が初めて実施されることから、本
来の改定率よりも0.9%抑制され、2015年度はさらに特例水準の段階的な解消のため0.5%の抑制も実施さ
れる。みずほ総合研究所では、マクロ経済スライドに関するリポートを発表している1。本論では、昨年の改定
が日本経済に予想以上のマイナスの影響を与えたのに対し、今年は一転しプラスの影響が及ぶ可能性を、
実質年金改定率というみずほ総合研究所による独自の概念を用いることによって考えることにする。
下記の図表は、日本の年金改定率の推移である。2015年度の年金額改定に関する指標は、賃金上昇
率が2.3%、マクロ経済スライドによる「スライド調整率」は0.9%である。ここでスライド調整率は、「公的年金
の被保険者の減少率(0.6%)」と「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」の合計であり、その合計で
ある0.9%がスライド調整額になった。加えて、特例水準解消のため、0.5%を差し引く必要がある。従って、
2015年度は賃金上昇率2.3%からスライド調整額0.9%と特例水準解消分0.5%を引いて、0.9%が改定率
になる。
■図表:年金改定率の推移
(%)
2.0
1.8
1.5
0.9
1.0
0.6
0.5
0.0
-0.5
▲ 0.3
-1.0
▲ 0.3
▲ 0.4
▲ 0.3
▲ 0.9
▲ 1.0
-1.5
98
99
00
01
02
03
04
▲ 0.7
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
4月 10月
15 (年度)
(資料)厚生労働省
ここで、年金受給者の実質的な年金額の変化をみるために、実際の年金改定率から物価変動率を考慮
した「実質年金改定率」というみずほ総合研究所の独自の概念を考えることにする。年金額は、2013年10
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2015 年 3 月 16 日
月に特例水準解消により1.0%減額されるとともに、2014年4月に0.7%減額された。ただし、その間、物価
上昇率が大きかったことから、実質年金改定率は、それぞれ、2.5%減、3.8%減とかつてない大幅なマイナ
スとなった。一方、2015年度は、年金改定率が0.9%とプラス改定が実施されるのに加え、物価下落が見込
まれることから、実質年金改定率は2010年度以降6年ぶりにプラスに転じると展望される。ここで注目すべき
は、実質的な年金改定率が▲3.8%から0.9%へと5%Pt近く大幅に変化することである。
■図表:実質年金改定率の推移
3
2
(%)
実質的な年金改定率 1.7
1.6
1.1
0.6
1
年金改定率
1.1
0.6
0.9
0.5
0.2
0
0
▲ 0.2
▲ 0.7
-1
-2
▲ 0.3
▲ 0.4
▲ 0.3
▲ 1.1
▲ 0.5
-3
物価
要因
▲ 2.5
-4
▲ 3.8
-5
98
99
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
4月 10月
15 (年度)
(注)2013 年度は、4 月の年金改定率は 0%だったが、10 月に特例水準の解消 1.0%の引き下げが実施された。
物価は当該年度の前年比。2013 年度は 4~9 月、10~3 月、2014 年度は 4~12 月の前年比。
2015 年度はみずほ総合研究所予測。
(資料)厚生労働省、総務省「消費者物価指数」よりみずほ総合研究所作成
昨年4月に消費税率が引上げられて以降、日本経済に下方屈折が生じた要因としては、実質賃金の下
落2が指摘されることが多かった。さらに、その要因に加え、本論における「実質年金改定率」の大幅なマイ
ナスが日本経済の下方屈折を招いたとも考えられる。昨年4月以降の消費低迷については、低所得者層
の消費性向の落ち込みが原因とされた。年金の受給層の6割程度は、生活を年金のみに依存しているとさ
れるだけに、本論の「実質年金改定率」の大幅マイナスが低所得者層に影響を及ぼしたと考えられる。一
方、2015年度に向けては、実質賃金も、実質年金改定率も一転してプラスになるだけに、消費にはプラス
の影響が及ぶだろう。消費税率引上げについては、1997年の引上げと比較されることが多かった。当時も、
消費税率引上げに加え、社会保険負担の引上げが加わったことが日本経済の下方屈折の一因とされた。
今回も、単純に消費税負担に加え、年金の面でも負担が加わった共通点があったと考えることもできる。総
括すると、2014年の消費低迷は起こるべくして起きたと考えることもできるが、その反面、今年は消費にプラ
スの要因がある。
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堀江奈保子 「マクロ経済スライド初めて実施へ」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 5 日)
「今年の転換は実質賃金が上がること」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2015 年 2 月 26 日)
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