sinA+sinB+sinC から見えるもの

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特集 教材研究
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sin A+sin B+sin C から見えるもの
すず き
鈴木
たかひろ
崇裕
伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊伊
§0.はじめに
三角比や三角関数の授業で sin A+sin B+sin C
=4 cos
A
B
C
cos cos
などの証明問題を扱うと
2
2
2
き,公式の確認や式の変形に終始してしまい素気な
さを感じていた。三角関数で表された式ならば,何
か図形とつながるのではないかと思い,三角形と関
定理 1.2
I は傍心三角形 XYZ の垂心である。
3 直線 AX,BY,CZ は,△ABC の内心 I で
証明
1 点で交わっている。
直線 BX は ∠B の外角の二等分線より,
∠CBX=
π−B
であるから,
2
∠YBX=∠YBC+∠CBX
連付けて考察した。
=
B π−B
+
2
2
=
π
2
§1.sin A+sin B+sin C の広がり
△ABC において,a=BC,b=CA,c=AB とし,
以下 △DEF 等においても同様とする。また,
△ABC の垂心を H,内心を I,内接円の半径を r,
外接円の半径を R とする。
定義 1.1 (傍心三角形)
△ABC における 3 つの傍心に対して,∠A
の内角の二等分線上の傍心 (∠A 内の傍接円の
中心) を X,∠B の内角の二等分線上の傍心を
Y,∠C の内角の二等分線上の傍心を Z とする。
このとき,△XYZ を △ABC の傍心三角形と
呼ぶこととする。
よって,I は △XYZ の垂心である。
補題 1.3
終
△ABC において,次の等式が成り立
つ。
sin A+sin B+sin C
=4 cos
証明
A
B
C
cos cos =4 sin X sin Y sin Z
2
2
2
∠CBX=
π−B
π−C
,∠BCX=
なので,
2
2
△BXC に着目して,
π−C
B+C π−A
+
=
=
 π−B
2
2 
2
2
X =π−
である。他も同様に,
Y=
C+A π−B
A+B π−C
=
,Z=
=
2
2
2
2
sin X sin Y sin Z
=sin
 π2 − A2  sin  π2 − B2  sin  π2 − C2 
=cos
A
B
C
cos cos
2
2
2
一方,
sin X sin Y sin Z
10
=sin
 π2 − A2  sin  π2 − B2  sin A+B
2
=cos
A
B
A+B
cos sin
2
2
2


1
1 1
=  sin (A+B)+ (sin A+sin B)
2
2 2
他も同様に,EF⫽YZ,FD⫽ZX
1
A+B
A−B
A+B
cos
+cos
sin
2
2
2
2
=
=
1
{sin (π−C)+sin A+sin B}
4
=
1
(sin A+sin B+sin C)
4
ゆえに,直線 DE,DF のなす角と直線 XY,XZ
のなす角は等しく
同様に,E=Y ,F =Z なので,
△DEF△XYZ
定理 1.5
△ABC,△DEF において,次の等式
R a+b+c
=
def
r
A
B
C
cos cos
2
2
2
=4 sin X sin Y sin Z
補題 1.4
終
が成り立つ。
以上より,
sin A+sin B+sin C=4 cos
D=X
終
△ABC の内接円と辺 BC,CA,AB
証明
よって,補題 1.3 から
sin A+sin B+sin C=4 sin X sin Y sin Z
との交点をそれぞれ D,E,F とする。このと
き,次の関係が成り立つ。
補題 1.4 より,X =D,Y =E,Z=F
=4 sin D sin E sin F
ここで,△ABC の外接円の半径は R,△DEF の
△DEF△XYZ
外接円の半径は r であるから,正弦定理より
a
b
c
d e f
+
+
=4∙ ∙ ∙
2R 2R 2R
2r 2r 2r
a+b+c def
= 
2R
2r
R a+b+c
=
r
def
補題 1.6
△ABC の面積を S とする。
R=
証明
S=
abc
abc
,a+b+c=
4S
2rR
1
2S
bc sin A から,sin A=
2
bc
正弦定理より,sin A=
証明
DE と CI の交点をMとする。
△CDM と △CEM において,CD=CE (接線の
長さ),CM は共通,∠DCM=∠ECM=
C
より,
2
2 辺とその間の角がそれぞれ等しいので,
△CDM≡△CEM
対応する角は等しいから,∠CMD=∠CME
よって
∠CME=
π
2
……①
また,定理 1.2 より,I は △XYZ の垂心であるか
π
ら,∠ZCX=
2
……②
①,②より,錯角が等しいので,DE⫽XY である。
a
a
2S
だから,
=
2R
2R bc
となり,R=
abc
が成り立つ。
4S
さらに,S=
1
r(a+b+c) より,
2
abc 1
abc
= r(a+b+c) となり,a+b+c=
4R
2
2rR
である。
定理 1.7
終
△ABC,△DEF において,次の等式
が成り立つ。
R
1 abc
=
∙
r  2 def
(換言すれば,CD=CE,ID=IE=r より,IC は
線分 DE の垂直二等分線である。)
終
証明
定理 1.5,補題 1.6 より
R a+b+c
=
r
def
R
1 abc
=
∙
r  def 2rR
11
R
abc
=
r
2def
とする。
△HHH を △ABC の垂足三角形と呼ぶこと
R>0,r>0 より
とする。
R
abc
=
r  2def
終
§2.a cos A+b cos B+c cos C と
垂足三角形
補題 2.1
△ABC において,次の等式が成り立
つ。
sin 2A+sin 2B+sin 2C=4 sin A sin B sin C
証明
sin 2A+sin 2B+sin 2C
補題 2.4
=2 sin (A+B) cos (A−B)+2 sin C cos C
する。H は垂足三角形 HHH の内心である。
=2 sin (π−C) cos (A−B)+2 sin C cos C
証明
=2 sin C{cos (A−B)+cos C}
=2 sin C{cos (A−B)+cos (π−A−B)}
=2 sin C∙2 cos
=4 sin C cos
補題 2.2
H は同一円周上にある。円周角の定理より,
∠HHC=∠HBC
終
△ABC において,次の等式が成り立
つ。
証明
π
2
なので,円周角の定理の逆から,4 点 B,C,H,
 π2 −B cos  A− π2 
a cos A+b cos B+c cos C=
H は △ABC の垂心より,AH,BH,CH
は 1 点で交わっている。∠BHC=∠BHC=
π−2B
2A−π
cos
2
2
=4 sin A sin B sin C
以下,△ABC は鋭角三角形であると
また,∠BHH+∠BHH=π であるから, 4 点
B,H,H,H は同一円周上にある。円周角の定
理より,
∠HBH=∠HHH
8S 
abc
……①
……②
∠HBC と ∠HBH は同じ角なので①,②から,
正弦定理より,a=2R sin A,b=2R sin B,
c=2R sin C であるから,
∠HHH=∠HHC
ゆえに,H は △HHH の内心である。
補題 2.5
a cos A+b cos B+c cos C
終
直線 AB,AC に関して,点 H と対
称な点をそれぞれ H′,H″ とする。4 点 H′,
=2R sin A cos A+2R sin B cos B
+2R sin C cos C
H,H,H″ は,この順に同一直線上にある。
=R(sin 2A+sin 2B+sin 2C)
=4R sin A sin B sin C
=4R∙
(∵補題 2.1)
a b c
∙
∙
2R 2R 2R
=
abc
2R 
=
abc 4S
2 abc
=
8S 
abc
 

(∵補題 1.6)
終
定義 2.3 (垂足三角形)
△ABC は鋭角三角形とし,A,B,C から対
辺に下ろした垂線の足をそれぞれ H,H,H
12
証明
まず,3 点 H′,H,H が同一直線上にある
ことを示す。
H と H′ は AB に関して対称な点だから,
∠H′HB=∠BHH
補題 2.4 より,∠HHC=∠CHH
CH は AB の垂線だから ∠CHB=
π
。よって,
2
∠H′HB+∠BHH+∠HHC+∠CHH
=2∠BHH+2∠HHC
=2∠CHB
AH>0,sin A>0 より
H′H″=2AH sin A
ここで,S=
また,S=
=π
ゆえに,3 点 H′,H,H は同一直線上にある。
2S
1
BC∙AH より,AH=
a
2
1
2S
bc sin A より,sin A=
2
bc
これらを代入して
次に,3 点 H′,H,H がこの順にあることを示
H′H″=2∙
す。2 点 H,H は直線 AB に関して同じ側にあ
り,H′ は AB に関して H と対称な点であるか
この順にある。
a cos A+b cos B+c cos C
=(△HHH の周の長さ)
証明
以上より,3 点 H′,H,H はこの順に同一直線上
にある。同様に,3 点 H,H,H″ もこの順に同
一直線上にあることが言えるので,4 点 H′,H,
H,H″ は,この順に同一直線上にある。
終
定理 2.8
ら,H′ は AB に関して H の反対側となる。さ
らに,H は AB 上の点より,3 点 H′,H,H は
2S 2S 8S 
∙
=
a bc abc
補題 2.2,2.7 より
a cos A+b cos B+c cos C=H′H″
H′,H″ はそれぞれ直線 HB,HC に関して点
H と対称な点だから,HH′=HH,
終
HH″=HH
H′H″=H′H+HH+HH″
補題 2.6
=HH+HH+HH
AH′=AH″=AH,∠H′AH″=2A
したがって,
acos A+bcosB+ccosC=HH+HH+HH
つまり,a cos A+b cos B+c cos C の値は垂足三
角形 HHH の周の長さに等しい。
終
§3.傍心三角形 XYZ と 茨ABC,茨DEF
証明
H′,H″ の定義より,AH=AH′=AH″
は明らか。
また,∠HAB=∠BAH′,∠HAC=∠CAH″
であるから
定理 3.1
△ABC,△XYZ の外接円の半径を
それぞれ R,L としたとき,次の等式が成り立
つ。
L=2R
∠H′AH″=∠H′AH+∠HAH″
=2∠BAH+2∠HAC
=2A
補題 2.7
証明
H′H″=
終
8S 
abc
△AH′H″ において余弦定理から
(H′H″)=(AH′)+(AH″)
−2AH′∙AH″ cos ∠H′AH″
=AH+AH−2AH cos 2A
(∵補題 2.6)
=2AH(1−cos 2A)
=4AH sin A
13
証明
定理 1.2 より,I は △XYZ の垂心だから,
△ABC は △XYZ の垂足三角形である。また,
0<A,B,C<
π
π−A
で,補題 1.3 から X =
,
2
2
△XYZ で正弦定理を用いると,X =
証明

=2L=4R
π A
sin
−
2
2
定理 3.1 から

π−B
π−C
Y=
,Z=
なので,X,Y,Z はとも
2
2
に鋭角である。よって,△XYZ において,定理
2.8 を用いると
………(☆)
つまり,R=
a
2S
bc sin A
,r=
=
2 sin A
a+b+c a+b+c
きる。,z,e,f も同様に示せる。
=2L sin X cos X +2L sin Y cos Y
+2L sin Z cos Z
=L sin 2X +L sin 2Y +L sin 2Z
=L sin (π−A)+L sin (π−B)+L sin (π−C)
=L(sin A+sin B+sin C)
一方で右辺は,△ABC において正弦定理より
定理 3.4
z=4R cos
△XYZ=
=
したがって,等式 (☆) をおき換えると
L(sin A+sin B+sin C)
π A
B
− ,=4R cos ,
2
2
2
C
から
2
=2R(sin A+sin B+sin C)

π A
1
−
z sin
2
2
2

1
B
C
A
∙4R cos ∙4R cos ∙cos
2
2
2
2

=2R  4 cos
=2R(sin A+sin B+sin C)
L=2R
終
△XYZ=R(a+b+c)
系 3.3 より,X =
証明
a+b+c=2R sin A+2R sin B+2R sin C
A
B
C
cos cos
2
2
2


=2R (sin A+sin B+sin C)
終
(∵補題 1.3)
△DEF と △XYZ の相似比は
=R(a+b+c)
r:2R= def : 2abc
補題 1.4 より △DEF△XYZ で,相似比は
外接円の半径の比と等しく r:L=r:2R であ
る。定理 1.7 より
r:2R=r:2∙
A
2
などから,,d は △ABC の辺と角だけで表現で
(☆) の左辺
証明
r
A
∙4R cos
2R
2
=2r cos
左辺に着目すると,△XYZ の外接円の半径は L
系 3.2
A
2
系 3.2 より,
d=
z=2L sin Z である。ゆえに

=4R cos
 cos X + cos Y + z cos Z=a+b+c
より,正弦定理から,=2L sin X,=2L sin Y ,
π A
− ,
2
2
abc
r= def : 2abc
 2def
系 3.5
終
△ABC と △XYZ の面積比は r:2R
△ABC:△XYZ
証明
=
1
r(a+b+c):R(a+b+c)
2
=r:2R
終
終
《参考文献》
系 3.3
14
=4R cos
A
B
C
,=4R cos ,z=4R cos
2
2
2
d=2r cos
A
B
C
,e=2r cos , f =2r cos
2
2
2
なぜ初等幾何は美しいか−三角形幾何学−
Yvonne Sortais,Rene Sortais 著
クシ哲訳
戸田アレ
東京出版
(静岡県
静岡雙葉高等学校・中学校)