新潟大学脳研究所 「脳神経病理標本資源活用の先端的共同研究拠点」 共同利用・共同研究報告書 C57BL/6ES 細胞を用いた相同組換えクローンの樹立 赤間智也 1)、崎村建司 2) 1)関西医科大学薬理学講座、2)新潟大学脳研究所細胞神経生物学分野 研究要旨 ケラタン硫酸プロテオグリカン(KS-PG)は角膜や軟骨、脳などの組織に検出される糖タンパク質である。申請 者らは KS-PG の糖鎖部分であるケラタン硫酸グリコサミノグリカン(KS-GAG)の生合成経路の研究を進めてお り、生体内における KS-GAG の生物学的機能を解析するため、KS-GAG 合成にかかわる糖転移酵素遺伝子 である B3gnt7 のノックアウトマウスを作成してその表現型、特に角膜や脳組織構築に与える影響を解析するこ とを計画した。申請者らは B3gnt7 を全身性あるいは組織特異的にノックアウトできるように構築したコンディシ ョナルノックアウト用のベクターを作成し、実験用マウスとして標準とされている C57BL/6 の ES 細胞に導入し て相同組換え体を得た。さらにこれを桑実胚に導入してキメラマウスを作成した。現在ヘテロ接合体マウスの 作成を行なっている。 A.研究目的 B.研究方法 KS-PG は角膜や軟骨、脳などの組織に検出される糖 始めに申請者らは KS-GAG 生合成に必須な糖転移 タンパク質であり、角膜では角膜実質組織の高透明 酵素遺伝子である B3gnt7 を含む C57BL/6 マウス 度と高屈折率を維持するのに重要な機能を示してい BAC クローンを入手し、この BAC クローンの B3gnt7 ると考えられている。一方で脊髄損傷などの神経切 上にネオマイシン耐性遺伝子カセットや loxP 配列、 断が生じた時に損傷治癒に伴って KS-PG を含む糖 FRT 配列を recombineering を用いた方法で導入した。 タンパク質が産生されて蓄積し、この糖タンパク質の 次にこの改変 B3gnt7 を含む DNA 断片を上記の方法 蓄積が神経細胞の伸展を阻害するため元通りの軸 でプラスミド DNA に回収しこれをノックアウトベクター 索再生が行われないことが実験的に示されおり、神 とした。このノックアウトベクターを電気穿孔法にて 経回路再編への KS-PG の関与が示唆されている。 C57BL/6 由来の ES 細胞に導入し、相同組換えにて 申請者らは KS-PG の糖鎖部分である KS-GAG の生 生じた変異 ES 細胞を抗生物質による選択とサザンブ 合成経路の研究を進めており、これまでに KS-GAG ロッティングによる確認で同定した。こうしてクローン 合成に必須と考えられる糖転移酵素、糖鎖修飾酵素 化した変異 ES 細胞をマウス桑実胚に注入、凝集させ を同定してきた。本共同研究では生体内における ることでキメラマウスを作成した。なお本共同研究は KS-GAG の生物学的機能を解析することを目的とし、 関西医科大学実験動物委員会にて承認されている。 KS-GAG 合成にかかわる酵素のノックアウトマウスを 作成してその表現型、特に角膜や脳組織構築に与 C.研究結果 える影響を調べることを計画した。 ノックアウトベクター導入後の抗生物質による選択で 107 個の抗生物質耐性 ES クローンを得た。このクロ ーン化した ES 細胞からそれぞれゲノム DNA を調製し て制限酵素で切断し、サザンブロット法にて相同組 換え体を確認したところ 3 クローンの変異 ES 細胞株 を得た。このうち 2 つの変異 ES 細胞を野生型マウス の桑実胚に導入することで一つのクローンからは 2 匹、 もう一つのクローンからは 12 匹の高キメラ率マウスを 得た。現在 C57BL/6 野生型マウスとの掛け合わせを 行なっている。 D.考察 ES 細胞のスクリーニングにおいて相同組換え体の割 合は薬剤耐性クローン中の約 3%と一般的な値であっ た。しかしながらそれぞれの相同組換え ES クローン から得られたキメラマウスは ES 細胞の寄与率が 50% からほぼ 100%と非常に高いものであった。マウスにお け る ES 細 胞 の 寄 与 率 が 高 け れ ば gernline transmission の割合も高いと考えられるので、高キメラ 率のマウスからはヘテロ接合体の仔マウスが生まれる 可能性が非常に高いものと思われる。 E.結論 C57BL/6 由来 ES 細胞を用いてコンディショナルノッ クアウトマウスを作成するべくノックアウトベクターを構 築し、これを ES 細胞に導入することで相同組換え体 ES 細胞を作成した。さらにはこの ES 細胞由来のキメ ラマウスの作成に成功した。これらを用いることで B3gnt7 ノックアウトマウスを作成出来、今後の研究に 用いることができるものと考えている。 F.研究発表 1.論文発表 なし 2.学会発表 なし G.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む) 1.特許取得 未定 2.実用新案登録 未定 3.その他 未定
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