Chapter 2

複素関数論
3
3.1
複素関数とは
複素数の変数 z = x + iy に対して
複素関数 f (z) = f (x + iy) = 実質的には x、y の2変数関数
(z のみならず、f (z) 自体も複素数)
3.1.1
複素平面
複素数 z = x + iy に対して、実軸 x、虚軸 y で与えられる2次元平面
複素関数 f (z) → 複素平面上の一点 z に対応する関数 f (z)
オイラーの公式を用いて、
z = x + iy = r cos θ + ir sin θ = reiθ
(71)
と書けるので、f (z) は原点からの距離 r および偏角 θ の関数と見ること
もできる。
3.2
3.2.1
複素関数の微分
極限値と微分可能性
実関数 fr (x) の場合
x = x0 での極限値は、x0 の正負両側から以下で定義
lim fr (x) = fr (x0 )
x→x0 ±0
(72)
複素関数 fc (z) の場合
複素平面において z → z0 とするとき、方向によらず fc (z) → fc (z0 ) なら
ば、z = z0 での極限値を以下で定義。
lim fc (z) = fc (z0 )
z→z0
15
(73)
複素関数の極限 → 様々な方向からの z = z0 への近付き方が問題
例えば z = z0 + ∆r · eiθ とおけば z → z0 = ∆r → 0
⇒ lim∆r→0 f (z) が θ によらない = 極限値をもつ
問1)f (z) = z 2 が任意の z0 で極限値を持つことを示せ。
特に複素関数 f (z) に対して、
F (z) =
f (z) − f (z0 )
z − z0
(74)
が z = z0 で極限値をもつとき、f (z) は z = z0 で微分可能であるという。
その極限値を
f (z) − f (z0 )
df (z0 )
=
z→z0
z − z0
dz
とかき、f (z) の微分と呼ぶ。
lim
(75)
問2)f (z) = z 2 が任意の z0 で微分可能であることを示せ。
問3)f (z) = 1/(z − z0 ) において、z = z0 で極限値を持つかを調べよ。
複素関数 f (z) が、領域 D のいたるところで微分可能であるとき、
「f (z) は D で正則である」という。
3.2.2
コーシー・リーマンの関係
z = x + iy の複素関数を実部と虚部に分割:f (z) = u(x, y) + iv(x, y)
f (z) が z = z0 = x0 + iy0 で微分可能であるとする。
このとき、実軸に平行な直線上での極限として微分を求めれば、
lim
x→x0
f (x + iy0 ) − f (x0 + iy0 )
∂u(x0 , y0 )
∂v(x0 , y0 )
=
+i
x − x0
∂x
∂x
(76)
微分は極限の取り方にはよらないので、
(76)式は、以下の虚軸に平行な
直線上における微分の定義と等値であるべき。
lim
y→y0
f (x0 + iy) − f (x0 + iy0 )
1
=
iy − iy0
i
16
∂v(x0 , y0 )
∂u(x0 , y0 )
+i
∂y
∂y
(77)
よって、f (z) が微分可能であるための条件は、
∂u
∂v
=
,
∂x
∂y
∂v
∂u
=−
∂x
∂y
(78)
これをコーシー・リーマンの関係式とよぶ。
問4)f (z) = z 2 がコーシー・リーマンの関係を満たすことを確認せよ。
問5)f (z) = z n の微分を求めよ。
コーシー・リーマンの関係は、複素関数 f (z) の微分が以下を満たすこと
でもある。
df (z)
∂
1 ∂
=
f (x + iy) =
f (x + iy)
(79)
dz
dx
i dy
3.2.3
様々な複素関数
指数関数
ez = ex+iy = ex (cos y + i sin y)
(80)
三角関数
1 iz
1
(e + e−iz ) = (eix−y + e−ix+y )
2
2
= cos x cosh y − i sin x sinh y
1 iz
i
sin(z) =
(e − e−iz ) = − (eix−y − e−ix+y )
2i
2
= sin x cosh y + i cos x sinh y
cos(z) =
(81)
(82)
これらは加法定理に似ていることに注意。
対数関数
log z = log(|z|eiθ ) = log |z| + iθ
(83)
ただし、複素対数関数は多価関数であることに注意。このため、通常 0 <
θ < 2π と定義する。
17
複素関数の積分
3.3
複素積分 = 複素平面上の線積分
複素関数 f (z) に対して複素平面における経路 C に沿った積分を
f (z)dz =
C
(u + iv)(dx + idy) =
C
C
(udx − vdy + i(vdx + udy)) (84)
とかく。
例)経路 C を z0 = 0 と z2 = 1 + i をつなぐ直線上とするとき、z 2 の C 上
での積分は、
1
z 2 dz =
(x + iy)2 (dx + idy) =
C
C
(x + ix)2 (dx + idx)
0
1
= (1 + i)3
0
−2 + 2i
x2 dx =
3
(85)
問)経路 C を、複素平面上で z0 = 0 と z1 = 1 をつなぐ実軸上の直線 C1
と z1 = 1 から z2 = 1 + i を虚軸に平行につなぐ直線 C2 の組み合わせとす
るとき(C=C1 +C2 )、z 2 の C 上での積分を求めよ。
3.3.1
ストークスの定理*
複素平面上の閉曲面 C の積分経路を考える。
このとき、α、β を x、y の任意関数として、以下のような線積分を曲面
内(領域 D とする)の面積分に変換することができる。
(αdx + βdy) =
C
D
∂β ∂α
−
∂x
∂y
dxdy
(86)
これをストークスの定理とよぶ。
少し複雑であるが、重要定理であるので以下に証明を記す。
(閉曲面およ
び記号については図 3.3.1 を参照。)
1)左辺第1項:
D
∂β
dxdy =
∂x
b
x1 (y)
dy
a
x2 (y)
∂β
dx
=
∂x
b
a
dy(β(x1 (y), y) − β(x2 (y), y))
(87)
18
ここで、上式において、
b
b
β(x1 , y)dy =
β(x1 , y)dy,
a
C1
a
β(x2 , y)dy = −
β(x2 , y)dy
C2
(88)
を用いれば、
D
∂β
dxdy =
∂x
β(x1 , y)dy +
C1
β(x2 , y)dy =
C2
βdy
(89)
C
2)左辺第2項:
D
d
∂α
dxdy =
∂y
y1 (x)
dx
c
dy
y2 (x)
∂α
=
∂y
d
dx(α(x, y1 (x)) − α(x, y2 (x)))
c
(90)
ここで、
d
c
d
α(x, y1 )dx = −
α(x, y1 )dx,
α(x, y2 )dx =
C3
c
α(x, y2 )dx
C4
(91)
を用いれば、
D
∂α
dxdy = −
∂y
C3
α(x, y1 )dx −
C4
α(x, y2 )dx = −
αdx
(92)
C
これらを組み合わせれば(86)式が成り立つことが分かる。
3.3.2
コーシーの積分定理
ストークスの定理において、(α, β) = (u, −v) とおき直せば、
C
(udx − vdy) =
D
−
∂v ∂u
−
∂x ∂y
dxdy
(93)
一方、(α, β) = (v, u) とおけば
(vdx + udy) =
C
D
∂u ∂v
−
∂x ∂y
dxdy
(94)
これより、(84)式と組み合わせて、
f (z)dz =
C
D
−
∂v ∂u
−
+i
∂x ∂y
19
∂u ∂v
−
∂x ∂y
dxdy
(95)
ここで、複素関数 f (z) が、閉曲面の内部で正則であるとき、コーシー・
リーマンの関係式(78)が成り立つので、このとき(95)式右辺はゼロ。
f (z)dz = 0
(96)
C
このように「正則な複素平面における閉曲線上の積分がゼロとなること」
をコーシーの積分定理とよぶ。
例)f (z) = z 2 に対して、z = reiθ として、原点を中心とする半径 r = a
の円の円周上で線積分を行い、コーシーの積分定理を確認せよ。
3.3.3
留数定理
g(z) = 1/(z − z0 ) の複素積分を考える。これは z = z0 に特異点をもつの
で、z0 を囲む経路での積分については、コーシーの積分定理を適用でき
ない。
例として、z0 を中心とした半径 r の円周上を一回転する経路での積分を
行う。z = z0 + reiθ とおけば
C
1
dz =
z − z0
2π
0
1
ireiθ dθ = 2πi
iθ
re
(97)
となり、確かにコーシーの積分定理が成り立たない!
これを一般化して考えよう。
z = z0 で微分可能な複素関数 f (z) に対して、以下の g(z) を考える。
g(z) =
f (z)
z − z0
(98)
(g(z) は、z0 で微分可能ではないことに注意)
g(z) に対して、z0 を含む領域において、コーシーの積分定理はどう変わる?
g(z) を z0 を中心とした半径 r の円周上の経路 C0 で積分
その際、まず f (z) を z0 の周りでテイラー展開して
1
f (z) = f (z0 ) + f (z0 )(z − z0 ) + f (z0 )(z − z0 )2 + · · ·
2
20
(99)
と見れば、
C0
f (z)
dz =
z − z0
C0
f (z0 )
dz +
z − z0
C0
f (z0 )dz + · · ·
(100)
第2項目以降は、コーシーの積分定理によりゼロとなるので、
C0
f (z)
dz = 2πif (z0 )
z − z0
(101)
ここまでは、積分経路として円周上を想定したが、特異点を含まない積
分領域を連結し任意の閉曲線上の積分に変更しても、コーシーの積分定
理により積分値は不変
したがって、z = z0 を含む任意の閉曲線 C において、
C
f (z)
dz = 2πif (z0 )
z − z0
(102)
が成り立つ。ここで、f (z0 ) を被積分関数 g(z) = f (z)/(z − z0 ) の留数と
よび、(101)式を留数定理とよぶ。
より一般に、関数 g(z) が領域 C の内部に複数の特異点 z0 、z1 、
・
・
・をもつ
とき、領域 C の周における線積分は、各特異点の周りの線積分の和に置
き換えらるので、
g(z)dz =
C
C
f (z)
dz = 2πif (z0 ) + 2πif (z1 ) + · · · (103)
(z − z0 )(z − z1 ) · ··
問)以下の積分を、複素平面上において、原点を中心とした半径 r = 4 の
円周を一周する経路で行え。
1) C
3.3.4
z2
dz 2) z−2
C
ez
dz,
z − iπ
複素積分の応用
例1)a を任意の実数として、実軸上の無限区間の積分を計算する。
+∞
I=
−∞
x2
21
1
dx
+ a2
(104)
この種の積分に対しては、まず被積分関数を以下のように複素関数に拡
張する。
1
1
−→
(105)
x2 + a 2
z 2 + a2
z → ∞ で 1/(z 2 + a2 ) → 0 であるから、複素平面の上半面に対して、半
径無限大の半円の積分経路を付け加えても値は変わらない。したがって、
+∞
I=
−∞
x2
1
dx =
+ a2
C
z2
1
dz
+ a2
(106)
とおける。ここで、1/(z 2 + a2 ) は ±ia に特異点を持ち、+ia は半円内に
入ることに注意し、留数定理を適用すれば、
1
1
dz
=
dz
2
2
C z +a
C (z + ia)(z − ia)
1
π
= 2πi lim
dz =
z→ia (z + ia)
a
I =
(107)
例2)a > b > 0 として、以下の角度積分を計算する。
2π
I=
0
1
dθ
a + b cos θ
(108)
しかし通常の手法では困難。そこで
z = eiθ とおけば dz = izdθ,
また cos θ =
1
2
z+
1
z
より
z 積分に変換して、
I=
C
1
iz a +
b
2
1
z+
1
z
dz = −2i
C
1
dz
2az + b(z 2 + 1)
ここで、2次方程式 bz 2 + 2az + b = 0 の解を
√
1
α± = (−a ± a2 − b2 )
b
(109)
(110)
とおき、−1 < α+ < 0 および α− < −1 より、α+ のみ半径 1 の面内の点
であることに注意すれば、
2i
2i
1
1
dz = − 2πi lim
z→α+ (z − α− )
b C (z − α+ )(z − α− )
b
4π
1
2π
(111)
=
=√
2
b (α+ − α− )
a − b2
I = −
22