(書式12) 氏 名 かじわら たいき 梶原 大輝 学 位 の 種 類 博士(医学) 学位授与年月日 平成 26 年 3 月 26 日 学位授与の条件 学位規則第 4 条第 1 項 研 究 科 専 攻 東北大学大学院医学系研究科(博士課程)医科学専攻 学位論文題目 5-FU による消化管障害が免疫へおよぼす影響についての腫瘍 免疫学的検討 — S-1 隔日投与法の有用性 — 論文審査委員 主査 教授 教授 海野 富岡 倫明 佳久 教授 神宮 啓一 論 文 内 容 要 旨 5-FU (5-fluorouracil) は消化器癌をはじめ様々な癌腫に使用され、現在の抗癌剤治療において 重要な薬剤である。しかし、その消化管障害により減量、休薬を余儀なくされることが少なくな い。S-1 (TS-1®) はテガフール、ギメラシル、オキソン酸の 3 剤合剤で、5-FUの効果をより高め つつ消化管障害を軽減する目的で開発された。S-1 は様々な癌腫で有用性が認められ、今後の抗 癌剤治療の中心的薬剤となる可能性のある薬剤である。現在、4 週間連日投与し 2 週間休薬 (連 日投与法) で使用されているが、やはり他の 5-FU製剤同様に消化管障害が問題となっている。 さらなる消化管障害の軽減を目的としてS-1 隔日投与法が提案され、この投与法は抗腫瘍効果を 保ちつつ消化管粘膜障害を抑えることが報告されている。また近年、腫瘍免疫学が発展し、免疫 が腫瘍に及ぼす影響が徐々に解明されつつあり、なかでもTリンパ球群が重要な役割を果たして いることが明らかになってきた。しかし、癌治療で抗癌剤 (特に 5-FU製剤) が免疫におよぼす影 響はあまり検討されておらず、消化管障害などの副作用が免疫におよぼす影響もあまり分かって いない。5-FUによる消化管障害は、腸管の炎症を惹起し、炎症は抗腫瘍免疫に悪影響を及ぼす 可能性がある。そのため、5-FUによる消化管障害が抗腫瘍免疫におよぼす影響を評価する必要 があると考え、また、消化管障害を抑制すれば抗腫瘍免疫を改善し、5-FUの治療効果をより高 められる可能性があると考えた。今回の実験では、5-FUによる消化管障害と免疫への影響を明 らかにするために、マウスで 5-FU消化管障害モデル (S-1 連日投与法) と 5-FU非消化管障害モ デル (S-1 隔日投与法) を作成し、それらについて消化管障害と免疫への影響を検討した。雄性 8 週のBALB/cAマウスを使用し、以下に記す三群に対照薬、あるいはS-1 (テガフール換算で 12mg/kg/day) を経口投与した。対照群は、対照薬を 28 日間投与し 28 日目に屠殺した。連日投 与群は、S-1 を 14 日間連日投与しその後 14 日間対照薬を投与し、14 日目または 28 日目に屠殺 181 (書式12) した。隔日投与群は、対照薬とS-1 を交互に 28 日間投与し、28 日目に屠殺した。評価項目は、 理学所見 (体重、下痢)、血液検査 (血算)、回腸粘膜の病理形態学的評価、免疫学的評価 (脾臓、 腸間膜リンパ節、腸管関連リンパ組織でのTリンパ球サブセットのフローサイトメトリーによる 評価) とした。結果について、理学所見、血液検査、回腸粘膜の病理形態学的評価では、連日投 与群の 14 日目で対照群と比較し、有意な体重減少および白血球減少を認め、小腸粘膜の萎縮も 認めたが、隔日投与群は体重減少、白血球減少も認めず小腸粘膜にも変化を認めなかった。免疫 学的評価については、連日投与群の 14 日目で対照群と比較し、リンパ球数が各リンパ組織で減 少する傾向、Treg (制御性T細胞) の比率が粘膜固有層リンパ球と腸上皮細胞間リンパ球において 約 6 倍に増加、 さらにTh1 の比率およびTh1/Th2 比が各リンパ組織でおよそ半分近くまで低下す る傾向を、それぞれ認めた。しかし、隔日投与群では若干の変化はあったものの、投与による影 響はほぼ見られなかった。Tregはその強い免疫抑制作用から抗腫瘍免疫を抑制し、また、Th1 や Th1/Th2 比の低下は細胞性免疫の低下により抗腫瘍免疫が減弱している可能性を示している。以 上から、5-FUによる消化管障害は、粘膜固有層などの腸管局所でのTregの増加や各リンパ組織 でのTh1 およびTh1/Th2 比の低下を起こし、抗腫瘍免疫に悪影響をおよぼす可能性が高いことが 示唆された。一方、5-FUによる消化管障害の少ないS-1 隔日投与法は、免疫にほぼ影響は見られ ず、腫瘍免疫学的観点から消化管障害を伴う 5-FUの連日投与より有用である可能性が高いこと が示唆された。 182
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