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直交座標から球座標への下準備
1
球座標での偏微分の関係式を導出するために、まずは必要となる準備を行う。
1.1
座標変換
直交座標 (x, y, z) から球座標 (r, θ, ϕ) への変換を行う。両者の関係は
x = r sin θ cos ϕ, y = r sin θ sin ϕ, z = r cos θ
√ 2
√
x + y2
y
r = x2 + y 2 + z 2 , tan θ =
, tan ϕ =
z
x
となる。θ と ϕ は逆関数を用いて
θ = tan
(√
−1
)
(1)
(2)
( )
y
x2 + y 2
, ϕ = tan−1
z
x
(3)
と書いておく。
1.2
単位ベクトルの変換
直交座標での単位ベクトル (ex , ey , ez ) と、球座標での単位ベクトル (er , eθ , eϕ ) の変換を導出する。
球座標の単位ベクトルはそれぞれ、
er =
∂r ∂r
∂r ∂r
∂r ∂r
/
/
/
, eθ =
, eϕ =
∂r ∂r
∂θ ∂θ
∂ϕ ∂ϕ
(4)
から求めることができる。r = r sin θ cos ϕ ex + r sin θ sin ϕ ey + r cos θ ez より (4) 式を計算する。分
母はそれぞれ偏微分したあとのベクトルの絶対値をとったものである。計算すると、
er = sin θ cos ϕ ex + sin θ sin ϕ ey + cos θ ez
eθ = cos θ cos ϕ ex + cos θ sin ϕ ey − sin θ ez
(5)
eϕ = − sin ϕ ex + cos ϕ ey
となる。これが、直交座標の単位ベクトル (ex , ey , ez ) と、球座標の単位ベクトル (er , eθ , eϕ ) の関係
式である。行列形式で (5) 式をまとめて書くと、





sin θ cos ϕ sin θ sin ϕ cos θ
ex
er





 e  =  cos θ cos ϕ cos θ sin ϕ − sin θ   e 

 y 
 θ 
ez
eϕ
− sin ϕ
cos ϕ
0
(6)
と書くことができる。行列部分は、直交座標から球座標への座標変換に対応している。この行列部分
を A とし、行列式を計算してやると、
detA = sin θ cos ϕ(sin θ cos ϕ) − sin θ sin ϕ(− sin θ sin ϕ) + cos θ(cos θ cos2 ϕ + cos θ sin2 ϕ)
= 1
(7)
1
となることが分かる。従って、A の逆行列 A−1 は、A の転置行列 At と等しいため、逆行列が容易に
求められる。転置行列とは、対角成分に対して対称に要素を入れ替えた行列の事である。(6) 式の両
辺に左から A の逆行列 (すなわち転置行列) をかけてやれば、球座標から直交座標への逆変換の式が
求められる。





ex
sin θ cos ϕ cos θ cos ϕ − sin ϕ
ex





 e  =  sin θ sin ϕ cos θ sin ϕ


cos ϕ   ey 
 y 


ez
cos θ
− sin θ
0
ez
(8)
(8) 式が、球座標の単位ベクトルと直交座標の単位ベクトルの関係である。
1.3
偏微分演算子の変換
次に、直交座標での偏微分演算子と球座標での偏微分演算子の変換を行う。ある関数 f (r, θ, ϕ) を
x で偏微分する時、式は
∂r ∂f
∂θ ∂f
∂ϕ ∂f
∂f
=
+
+
∂x
∂x ∂r ∂x ∂θ ∂x ∂ϕ
(9)
と書くことができる。偏微分演算子のみを考えた場合は、
∂
∂r ∂
∂θ ∂
∂ϕ ∂
=
+
+
∂x
∂x ∂r ∂x ∂θ ∂x ∂ϕ
(10)
となる。ここで、演算子の係数部分を計算する。(r, θ, ϕ) には、(2) 式や (3) 式のような関係性がある
のでそれを代入する。なお、tan の逆関数の微分が
d
1
tan−1 x = 2
dx
x +1
(11)
となることを用いる。
(
)
∂r
∂ √ 2
x
x
=
x + y2 + z2 = √ 2
=
= sin θ cos ϕ
2
2
∂x
∂x
r
x +y +z
(√
)
∂θ
∂
x2 + y 2
x
1
z2
1
1
√ 2
= x2 +y2
= 2
= cos2 θ cos ϕ
2
2
2
∂x
z
x +y +z z x +y
r cos θ
+ 1 ∂x
z2
cos θ cos ϕ
=
r
( )
∂ϕ
1
∂ y
y
y2 1
sin2 ϕ
sin ϕ
= ( )2
=− 2
=− 2
=−
= −
(12)
y
∂x
x + y2
x + y2 y
r sin θ sin ϕ
r sin θ
+ 1 ∂x x
x
となるので、(10) 式は
∂
cos θ cos ϕ ∂
sin ϕ ∂
∂
= sin θ cos ϕ +
−
∂x
∂r
r
∂θ r sin θ ∂ϕ
2
(13)
と書くことができる。同様の操作を、
∂
∂r ∂
∂θ ∂
∂ϕ ∂
=
+
+
∂y
∂y ∂r ∂y ∂θ ∂y ∂ϕ
∂
∂r ∂
∂θ ∂
∂ϕ ∂
=
+
+
∂z
∂z ∂r ∂z ∂θ ∂z ∂ϕ
(14)
(15)
に対しても行う。
(
)
∂r
∂ √ 2
y
y
=
x + y2 + z2 = √ 2
=
= sin θ sin ϕ
2
2
∂y
∂y
r
x +y +z
(√
)
1
1
1
∂θ
∂
x2 + y 2
z2
y
√ 2
= x2 +y2
= cos2 θ sin ϕ
= 2
2
2
2
∂y
z
x +y +z z x +y
r cos θ
+ 1 ∂y
z2
cos θ sin ϕ
=
r
( )
∂ϕ
1
∂ y
x2 1
cos2 ϕ
cos ϕ
= 2
= ( )2
=
=
y
∂y
x + y2 x
r sin θ cos ϕ
r sin θ
+ 1 ∂y x
(16)
x
(
)
∂r
∂ √ 2
z
z
=
x + y2 + z2 = √ 2
=
= cos θ
2
2
∂z
∂z
r
x +y +z
(√
)
√ 2
√ 2
∂θ
∂
x2 + y 2
x + y2
x + y2 1
1
z2
sin θ
= x2 +y2
=− 2
=
−
=
−
∂z
z
x + y2 + z2
z2
r
r
r
+ 1 ∂z
z2
∂ϕ
= 0
∂z
(17)
となるため、
∂
∂
cos θ sin ϕ ∂
cos ϕ ∂
= sin θ sin ϕ +
+
∂y
∂r
r
∂θ r sin θ ∂ϕ
∂
∂
sin θ ∂
= cos θ −
∂z
∂r
r ∂θ
(18)
(19)
となる。(13)(18)(19) 式が、極座標での偏微分演算子と、直交座標での偏微分演算子の関係式である。
この関係式は、注意深く見てやると次のように行列形式で表すことができることが分かる。




∂
∂x
∂
∂y
∂
∂z



sin θ cos ϕ cos θ cos ϕ − sin ϕ



 =  sin θ sin ϕ cos θ sin ϕ

cos ϕ 



cos θ
− sin θ
0
∂
∂r
1 ∂
r ∂θ
1
∂
r sin θ ∂ϕ




(20)
行列部分は (8) 式のものと全く同じになっている。
1.4
単位ベクトルの微分
直交座標では単位ベクトルの微分は 0 になるが、球座標の場合はそうではないため、球座標での単
位ベクトルの座標微分がどうなるかを先に導出しておく。球座標での単位ベクトルは (5) 式のように
3
書き表す事ができる。(5) 式を (r, θ, ϕ) で偏微分し、球座標の単位ベクトルで書き直すと、
∂
er
∂r
∂
er
∂θ
∂
er
∂ϕ
∂
eθ
∂r
∂
eθ
∂θ
∂
eθ
∂ϕ
∂
eϕ
∂r
∂
eϕ
∂θ
∂
eϕ
∂ϕ
= 0
= cos θ cos ϕ ex + cos θ sin ϕ ey − sin θ ez = eθ
= − sin θ sin ϕ ex + sin θ cos ϕ ey = sin θ eϕ
(21)
= 0
= − sin θ cos ϕ ex − sin θ sin ϕ ey − cos θ ez = −er
= − cos θ sin ϕ ex + cos θ cos ϕ ey = cos θ eϕ
(22)
= 0
= 0
= − cos ϕ ex − sin ϕ ey = − sin θ er − cos θ eθ
(23)
の 9 つの関係式が得られる。球座標では、単位ベクトルの座標微分も値を持っていることがわかる。
このことが、球座標での微分の形が非常に複雑になることの原因となる。
1.5
単位ベクトル同士の外積
球座標系では、単位ベクトルについて以下のような関係がある。
er × eθ = eϕ
eθ × eϕ = er
(24)
eϕ × er = eθ
(r, θ, ϕ) で右手系になっている。左辺の外積の順序が逆であれば右辺にはマイナスが付く。
2
球座標系での勾配
任意の関数 f の勾配 (gradient) を導出する。勾配は、微分ベクトル演算子を用いて ∇f と表現され
る。あるいは、gradf と表現されることもある。直交座標での勾配は、直交座標での単位ベクトルを
用いて表すと、
(
∇f =
)
(
∂f
∂f
ex +
∂x
∂y
)
(
ey +
∂f
∂z
)
ez =
4
(
ex ey

)
ez 

∂
∂x
∂
∂y
∂
∂z


f

(25)
と書くことができる。ここで、(20) 式を利用して球座標への変換を行う。(6) 式の行列 A やその逆量
列を用いると、

(
ex ey ez
)


∂
∂x
∂
∂y
∂
∂z


(

= e
r

)
eθ eϕ

A A−1 

∂
∂r
1 ∂
r ∂θ
1
∂
r sin θ ∂ϕ




(26)
A A−1 は単位行列になることから、球座標系での勾配は

∇f =
(
er eθ eϕ
)


∂
∂r
1 ∂
r ∂θ
1
∂
r sin θ ∂ϕ


∂f
1 ∂f
1 ∂f
f =
er +
eθ +
eϕ

∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(27)
と書き表すことができる。また、(27) 式の演算子部分のみ抜き出してやると、球座標系での微分ベ
クトル演算子ナブラは
∇ = er
∂
1 ∂
1 ∂
+ eθ
+ eϕ
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(28)
という式で表すことができる事も分かる。単位ベクトルを演算子の前に置いているが、演算子の後ろ
に単位ベクトルを置いてしまうと単位ベクトルを微分するという式になってしまうため間違った式
になってしまう。(27) 式のように既に演算子が関数にかかっている場合は単位ベクトルは後ろでも問
題ない。
3
球座標系での発散
続いて、球座標における任意のベクトル A の発散 (divergence) を導出する。発散は、微分ベクト
ル演算子を用いると ∇ · A と書くことができる。また、divA と表記されることもある。球座標系で
のベクトル演算をしたいため、ベクトル A を次のように成分表記する。
A = (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
(29)
球座標系での微分ベクトル演算子の表記は (28) 式で求めたので、これを用いて内積を計算していく。
直交座標であれば同じ成分の係数同士をかけ算してしまえば計算出来るが、球座標系では単位ベク
トルの座標微分は値を持つ事に十分注意して計算を行う。((21)(22)(23) 式を参照)
(
)
1 ∂
1 ∂
∂
+ eθ
+ eϕ
· (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
∇ · A = er
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
∂
1 ∂
1 ∂
= er
· (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ ) + eθ
· (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ ) + eϕ
· (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(30)
途中計算は非常に煩雑であるが、ここ以降は地道に微分していけば計算可能である。まとめると、
∇·A=
cos θ
1 ∂Aϕ
∂Ar 2Ar 1 ∂Aθ
+
+
+
Aθ +
∂r
r
r ∂θ
r sin θ
r sin θ ∂ϕ
5
(31)
という形が得られる。Ar の項は 1/r2 で括り、Aθ の項は r sin θ で括って形を整理してやる事でさら
に項をまとめることができる。例として、
)
(
(
(
)
)
1
1
∂ 2
1 ∂ ( 2 )
2 ∂Ar
2 ∂Ar
r
+
2rA
=
r
+
r
A
=
r Ar
r
r
r2
∂r
r2
∂r
∂r
r2 ∂r
(32)
このようにして最終的に、
∇·A=
1 ∂ ( 2 )
1 ∂
1 ∂Aϕ
(sin
θA
)
+
r
A
+
r
θ
r2 ∂r
r sin θ ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(33)
となる。これが球座標系での発散である。
4
球座標系での回転
続いて、球座標における任意のベクトル A の回転 (rotation) を導出する。発散は、微分ベクトル
演算子を用いると ∇ × A と書くことができる。また、rotA と表記されることもある。基本的な方針
は発散を求めた時と同様で成分ごとに計算していくことになるが、外積の計算は入るためさらに煩
雑なものとなる。先ほどと同じく、
A = (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
(34)
と置いて計算を行うと、
(
)
∂
1 ∂
1 ∂
∇ × A = er
+ eθ
+ eϕ
× (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
∂
1 ∂
= er
× (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ ) + eθ
× (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
∂r
r ∂θ
1 ∂
+eϕ
× (Ar er + Aθ eθ + Aϕ eϕ )
r sin θ ∂ϕ
(35)
と書ける。先ほどと同様に、単位ベクトルの微分を忘れないように注意する。また、単位ベクトル同
士の外積は (24) 式から計算出来る。試しに全ての項を書き下すと、
∇×A
∂Ar
∂er ∂Aθ
∂eθ ∂Aϕ
∂eϕ
=
er × er + Ar er ×
+
er × eθ + Aθ er ×
+
er × eϕ + Aϕ er ×
∂r
∂r
∂r
∂r
∂r
∂r
1 ∂Ar
Ar
∂er 1 ∂Aθ
Aθ
∂eθ 1 ∂Aϕ
Aϕ
∂eϕ
+
eθ × er +
eθ ×
+
eθ × eθ +
eθ ×
+
eθ × eϕ +
eθ ×
r ∂θ
r
∂θ
r ∂θ
r
∂θ
r ∂θ
r
∂θ
1 ∂Ar
Ar
∂er
1 ∂Aθ
Aθ
∂eθ
eϕ × er +
eϕ ×
+
eϕ × eθ +
eϕ ×
r sin θ ∂ϕ
r sin θ
∂ϕ
r sin θ ∂ϕ
r sin θ
∂ϕ
Aϕ
∂eϕ
1 ∂Aϕ
eϕ × eϕ +
eϕ ×
(36)
+
r sin θ ∂ϕ
r sin θ
∂ϕ
6
となる。もちろん全て書き下す必要は無い。同じ成分の外積は 0 なので消去し、単位ベクトルの微分
と単位ベクトル同士の外積を適切に計算してやると、次の項が残る。
(
∇×A=
)
(
)
1 ∂Aϕ Aϕ cos θ
1 ∂Aθ
1 ∂Ar ∂Aϕ Aϕ
+
−
er +
−
−
eθ
r ∂θ
r sin θ
r sin θ ∂ϕ
r sin θ ∂ϕ
∂r
r
(
)
∂Aθ 1 ∂Ar Aθ
+
−
+
eϕ
∂r
r ∂θ
r
(37)
先ほどと同様に項を整理してやると、
)
(
1 ∂
1 ∂Aθ
∇×A =
(sin θAϕ ) −
er
r sin θ ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(
)
(
)
1 ∂Ar 1 ∂
1 ∂
1 ∂Ar
+
−
(rAϕ ) eθ +
(rAθ ) −
eϕ
r sin θ ∂ϕ
r ∂r
r ∂r
r ∂θ
(38)
と書くことができる。これが球座標でのベクトルの回転である。
5
球座標系でのラプラシアン
最後に、球座標系でのラプラシアンの導出をする。ラプラシアンは ∆ と書き表され、関数にラプ
ラシアンを作用させたものは ∆f という形で書かれる。球座標系のラプラシアンの導出は非常に煩雑
なのは有名だが、これまでの計算を利用して若干の近道をすることは出来る。ラプラシアンは以下の
ように書く事が出来る。
∆f = ∇2 f = ∇ · (∇f )
(39)
括弧の中は既に計算をした「勾配」に他ならない。よって、球座標系での微分ベクトル演算子と勾配
の式を用いて、以下のようにラプラシアンを計算することができる。
∆f = ∇ · (∇f )
(
) (
)
∂f
∂
1 ∂
1 ∂
1 ∂f
1 ∂f
= er
+ eθ
+ eϕ
·
er +
eθ +
eϕ
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
∂r
r ∂θ
r sin θ ∂ϕ
(40)
これまでと同様の計算を行う。0 にならない項のみを書き下すと、
∆f =
∂2f
1 ∂f ∂er
1 ∂ 2f
1 ∂f ∂er
1 ∂f ∂eθ
1
∂ 2f
+
e
+
+
e
+
e
+
θ
ϕ
ϕ 2
∂r2
r ∂r ∂θ
r2 ∂θ2
r sin θ ∂r ∂ϕ
r sin θ ∂θ ∂ϕ
r2 sin2 θ ∂ϕ2
(41)
適宜計算し、同様に項をまとめて整理すると、球座標のラプラシアンが以下の通り得られる。
(
1 ∂
∂f
∆f = 2
r2
r ∂r
∂r
)
(
1
∂f
∂
+ 2
sin θ
r sin θ ∂θ
∂θ
7
)
+
1
∂ 2f
r2 sin2 θ ∂ϕ2
(42)