研究の概要[PDF:393KB]

栗焼酎粕の豚飼料化
畜産試験場
[背景・ねらい]
県内のある酒造メーカーでは、年間を通じて栗を主原料とした焼酎を製造販売しており、その
際発生する焼酎粕(800t/年)の処理にかかる経費負担が大きいことから製造量を制限している。
一方、最近の飼料価格高騰で厳しい経営を強いられている畜産農家に対し、飼料として食品残
さを安価かつ安定的に供給できれば、経費節減による経営の安定化に役立てることができる。
そこで、豚に対する食品残さ飼料として栗焼酎粕の利用方法を検討し、畜産的利用による新た
な特産品開発の可能性を探る。
[新技術の内容・特徴]
1. 栗焼酎粕の保存
1)栗焼酎粕に糖蜜と乳酸菌製剤を添加すると、無添加と比較して低いpHで推移し、乳酸菌
数が増加して一般細菌数は減少するため長期間保存が可能である(図1)。
2)乳酸発酵させた栗焼酎粕で継代培養すると、乳酸菌製剤を使用した場合とほぼ同様の低
いpHで推移する結果が得られ(図2)、発酵経費の削減は1円/kg程度と試算した(データ省
略)。
3)栗焼酎粕の脂肪酸組成はドングリの成分値と類似し、豚の発育に必要な10種類の必須ア
ミノ酸のほか、ビタミン類(葉酸、B6ほか)、ミネラル類(マンガン、マグネシウムほか)
や機能性成分のポリフェノールが多く含まれていた(図3、表1)。
2. 肥育豚への栗焼酎粕給与
1)乳酸発酵させた栗焼酎粕を配合飼料に30~60%添加して給与すると、DG、1日あたりの採
食量、飼料要求率及び飼料効率が対照区と比較して同等または上回り、2日間程度の出荷
日数が短縮されて約500円/頭の生産費を削減できる(図4、図5、表2)。
2)栗焼酎粕を給与した豚肉の食味構成要素を分析した結果、旨味や風味等に関する遊離ア
ミノ酸やペプチド量の増加、オレイン酸や飽和脂肪酸の増加、リノール酸等多価不飽和
脂肪酸の減少が認められたほか、赤身中の総脂質の増加が認められた(表3)。
3)一般消費者を対象とした食味アンケート調査(660人)では、栗焼酎粕無給与の豚肉と比較
して半数以上の回答者が栗焼酎粕を給与した豚肉を好む傾向があった(図6)。
4)市販のパイプや撹拌機等を用いて、自然落下式で貯蔵タンクから給餌器まで栗焼酎粕を
供給するシステムが約9万円で作成できる(6豚房、搬送距離20m)。
3. 子豚への栗焼酎粕給与
1)乳酸発酵させた栗焼酎粕を配合飼料に60%添加して離乳後の子豚に給与すると、対照区
と比べてDG、1日あたりの採食量、飼料要求率及び飼料効率が同等または上回った(図7、
図8)。
2)成長にともない対照区の糞中大腸菌群数は増加したのに対し、試験区では減少して乳酸
菌数は増加し、軟便の発生が軽減できる(表4)。
[留意点]
1. 保存試験は10~35℃の範囲で行い、2ヶ月間以上保存可能であった。継代培養は2代目まで
確認した。
2. 肥育豚への給与は90日齢から開始し、平均体重が115kgに達するまで、また子豚への給与
は60日齢まで調査した。
[評
価]
栗焼酎粕には豚に必要な栄養成分が多く含まれ、乳酸発酵させることで長期保存が可能である。
肥育豚や子豚に対し30~60%の添加割合で給与すると発育良好で生産費が削減できる。栗焼酎粕
を給与した豚肉中には食味に関連する遊離アミノ酸や脂肪酸組成が良好に変動する。
[具体的データ]
(pH)
14日目における菌数(単位:CFU/g)
(pH)
区分 一般細菌 乳酸菌
無添加 3.1×104 1.1×108
糖蜜+乳酸菌 2.1×104 2.1×108
無添加
4.5
糖蜜+乳酸菌
無添加
継代培養
5.0
4.5
4.0
4.0
3.5
3.5
0
7
14
21
28
35
42
49
56
63
0
7
14
(日目)
表1
パルミチン酸
オレイン酸
リノール酸
60
50
40
30
20
10
0
栗焼酎粕
日本栗
どんぐり
図3 栗焼酎粕等の脂肪酸組成(2011)
DG
2.65
2.50
2.64
2.6
2.5
0.99
0.99
0.8
56
栗焼酎粕中の栄養成分(2011)
(㎏)
2.4
対照区
49
採食量/日
2.7
0.86
42
充足率(%)
肥育豚
子豚
備 考
30%給与 60%給与 30%給与 60%給与
アルギニン
30.2
60.3
20.1
39.2
リジン
6.6
13.1
3.9
7.5
ヒスチジン
11.9
23.8
7.0
13.7
フェニルアラニン+チロシン
13.9
27.8
8.2
16.0
ロイシン
10.5
20.9
6.2
12.0
アミノ酸
必須アミノ酸(10種類)
イソロイシン
10.4
20.8
6.1
11.8
メチオニン+シスチン
11.6
23.1
6.9
13.4
バリン
10.6
21.2
6.3
12.3
スレオニン
9.7
19.3
5.8
11.3
トリプトファン
14.3
28.5
8.0
15.6
ビタミンB1
17.6
35.2
17.6
34.3
炭水化物の代謝
ビタミンB2
14.7
29.4
10.7
20.8
代謝
ビタミン類
ビタミンB6
27.6
55.2
22.1
43.1
アミノ酸の代謝
葉酸
36.2
72.4
35.9
70.0
貧血予防、産子数増加
パントテン酸
13.9
27.7
11.4
22.2
代謝
マグネシウム
15.8
31.5
15.9
31.0
代謝
銅
15.7
31.4
10.5
20.4 発育促進、鉄吸収アップ
ミネラル類
亜鉛
2.5
5.0
1.8
3.5
代謝
マンガン
72.3
144.6
57.9
112.9
代謝、骨の成長
機能性成分
ポリフェノール
66.0
132.0
41.6
81.1
暑熱ストレス緩和
1.0
0.9
28
35
(日目)
栄養成分
採食量/日(㎏)
(%)
21
図2 継代培養した栗焼酎粕のpHの推移(2011)
図1 栗焼酎粕のpHの推移等(2010)
DG(㎏)
糖蜜+乳酸菌
試験区
(30%)
試験区
(60%)
飼料要求率
3
2.92
2.67
2
1
0.34
図4 栗焼酎粕給与肥育豚のDG等(2010)
注) 試験区:栗焼酎粕30および60%添加、対照区:無添加
2.65
0.37
0.38
0
対照区
(各区n=3)
飼料効率
試験区(30%)
試験区(60%)
(各区n=3)
図5 栗焼酎粕給与肥育豚の飼料要求率等(2010)
注)試験区:栗焼酎粕30および60%添加、対照区:無添加
表2
区分
飼料費
労働費
採食量
単価
合計 対照区との差額
(㎏/頭) (円/㎏) (円/頭)
(円/頭)[A]
単価
短縮日数 不要労働費
(円/日・頭)
(日)
(円/頭)[B]
対照区
120.00
試験区(30%) 112.91
試験区(60%) 115.58
表3
遊
離
ア
ミ
ノ
酸
栗焼酎粕給与による費用効果(2010~2012)
60.00
59.17
58.38
7,200
6,681
6,748
-
▲519
▲452
-
20
20
-
▲2
▲2
(㎏)
2.5%
劣る
-
▲559
▲492
DG
採食量/日
0.9
3.2%
やや劣る
0.6
20.5%
やや好き
32.3%
好き
0.87
0.83
18.2%
変わらない
0.56
0.53
0.3
23.2%
0%
10%
20%
30%
40%
0
対照区
図6 食味アンケート調査結果(2010~2012)
(㎏)
飼料要求率
飼料効率
1.57
図7 栗焼酎粕給与子豚のDG等(2010)
表4
1.6
栗焼酎粕給与子豚糞便中の微生物数の比較(2010)
1.55
1.2
区分
0.8
0.64
0.4
対照区
対照区
0.64
0
試験区(60%添加)
(各区n=6)
栗焼酎粕給与子豚の飼料要求率等(2010)
試験区
(60%添加)
研究課題名:栗焼酎粕の豚飼料化に関する検討
研 究 期 間:平成22~24年度、 予 算 区 分:県単
研 究 担 当:養豚担当
考
菌種
菌数
40日目
60日目
大腸菌
2
1.5×10
4.3×104
乳酸菌
1.2×109
2.9×109
大腸菌
9.3×105
4.3×104
乳酸菌
6.6×109
7.1×109
※(単位)大腸菌:CFU/100g、乳酸菌:CFU/g
[その他]
類:参
試験区(60%添加)
(各区n=6)
注)栗焼酎粕60%給与豚肉と無給与豚肉をホットプレートで加
熱して、一般消費者を対象に実施
分
-
▲40
▲40
栗焼酎粕60%給与豚肉の食味構成要素の変動【比較:無給与豚肉】(2010~2012)
アスパラギン酸 108.0%
カルノシン 101.8%
ペプチド
グルタミン酸
108.9%
アンセリン 103.0%
旨味
グルタミン
124.5%
一価不飽和
オレイン酸 103.0%
アスパラギン
129.5%
脂肪酸
総量
119.3%
パルミチン酸 102.3%
飽和脂肪酸
甘味
アラニン
117.1%
総量
100.9%
リジン
113.5%
多価不飽和
リノール酸
84.0%
イソロイシン
107.5%
脂肪酸
総量
82.7%
赤身中の総脂質
ロイシン
113.0%
132.6%
風味
バリン
106.5%
破断応力
115.9%
アルギニン
113.4%
歯応え
136.4%
物理特性
総量
109.2%
加圧保水力 100.6%
特定
タウリン
130.8%
圧搾肉汁率 102.6%
機能性
総量
129.5%
総量
119.2%
不明
図8
効果費
(円/頭)
[A+B]
柑橘残渣を活用した高付加価値卵及び豚肉生産
(1) 採卵鶏(土佐ジロー)の飼料にユズ果皮を適量添加したところ、生産性への悪影響は見
られず、卵の鮮度持続性及び食味性の向上が示唆された(表1、図1、図2)。
(2) 肥育豚にユズ果皮を一定量給与すると、良好な発育成績が認められ、豚肉の軟らかさや
脂質に影響を及ぼす可能性が示唆された(表2、図3)。
表1
生産性調査結果
区分
生存率
(%)
ヘンデー
産卵率(%)
飼料
要求率
卵重
(g)
卵殻強度
(kg/cm2)
CF値**
卵黄率*
(%)
試験区
97.4
46.9
3.70
41.5±3.3
3.99±0.78
9.6±0.8
30.9±2.2
対照区
97.4
50.5
3.57
41.8±3.6
3.93±0.76
9.3±1.0
30.4±2.1
試験区は通常飼料にユズ果皮を2.5%添加
有意差あり**(p<0.01), *(p<0.05)
図1
(卵質項目 n=346
HU(鮮度指標値)の経時的変化
図2
平均±S.D.) 官能評価結果(ゆで卵)
表2 対照区を基準とした肥育豚の発育等成績
増体量/日
104.4%
採食量/日
102.3%
飼料要求率
97.7%
飼料効率
103.8%
必要飼料量
99.6%
出荷日数
△1日
費用効果
232円/頭
113.8
赤身中の…
94.8
破断応力
85.6
歯応え
66.7
リノレン酸
83.1
リノール酸
103.3
オレイン酸
0
40
80
図3 対照区を基準とした豚肉の食味構成要素の比率
120 (%)