応力複屈折の3次元的評価に関する実験結果

2014.04
王子計測機器株式会社
応力複屈折の3次元的評価に関する実験結果
● はじめに
高分子フィルムに引張荷重を負荷したときの位相差変化を測定することにより、応力と複屈折
の比例定数である光弾性係数の決定ができます。これまでにも、フィルムに荷重を負荷したとき
の実験を行い、その結果を「光弾性係数に関する実験結果」(2012.04)に報告しました。
ここでは、今まで行っていない荷重負荷状態で光を垂直と斜めに入射したときの位相差を測
定し、応力複屈折の3次元的解析を試みた結果を報告します。
● 結論
応力複屈折分の3次元屈折率の荷重に対する変化は、材料によって異なることが分かりまし
た。しかし、今回試みた3次元的評価はわずかの変化量であり、入射角も15°と小さいので
正確な解析を行うには、位相差測定分解能を一桁向上する必要があると考えられます。今回の
ような評価がフィルム物性とどのように関連付けできるかは今後の課題です。
● 使用した装置と試料
・ 装置
:位相差測定装置 KOBRA-WR
使用ソフト:位相差測定REソフト
・ 専用治具 :試料引張治具(分銅型、15°傾斜機能付き)
図1 試料引張治具 (入射角15°の状態)
1
・ 試料
:表1の各フィルムを測定
表1
実験に用いた試料
記 号
厚さ(μm)
備 考
pc136
70
PC、1軸延伸
pva400
60
PVA、1軸延伸
pet175
12
PET、2軸延伸
pa146
14
PA、2軸延伸
※
記号欄の材料記号のあとの数値は面内位相差の値
● 実験方法
各フィルムを、遅相軸Nx が寸法15×60mmの長手方向になるように切り出し、その一端
にOHP用のPETフィルムをリードフィルムとして貼り合せ、図1のようにリードフィルム
にフィルムクランプ(重さ150g)を取り付けて分銅を吊り下げました。試料引張治具を水
平(入射角θ=0°)にしたときと、θ=15°に傾斜した場合について、それぞれ荷重を1
50~650gの範囲、100gずつ変えて波長590nmでの位相差を測定しました。した
がって、15°傾斜時は傾斜中心軸を進相軸Ny にして測定したことになります。
● 測定結果
1)荷重負荷による位相差の変化量
荷重負荷による位相差の変化量を求めるために、荷重150~650gの範囲での測定値を
直線近似し、そのときのY切片の値を無負荷時の位相差値としました。ただし、図2のpva
400のθ=15°のような場合は、2次近似式を用いてY切片の値を求めました。
398
396
y = 0.002x + 396
R2 = 1
位相差 (nm)
394
θ =0°
θ =15°
392
390
y = 2E-06x2 + 0.0003x + 386.41
2
R = 0.9981
388
386
384
0
100
200 300 400 500
荷重 (g/幅15mm)
600
図2 pva400の荷重負荷による位相差変化
2
700
荷重負荷時の位相差の変化量をまとめると図3のようになり、荷重に対して位相差はほぼ直
線的に変化し、その傾きは光弾性係数の大きさに相当します。
pc136 0°
pc118 15°
pva400 0°
pva400 15°
pet175 0°
pet175 15°
pa146 0°
pa146 15°
位相差の変化量 (nm)
30
25
20
15
10
5
0
0
100
200
300
400
500
600
700
荷重 (g/幅15mm)
図3 荷重負荷時の位相差の変化量
2)応力複屈折分の3次元屈折率
荷重負荷によって増加する位相差は応力複屈折分の位相差ですので、図3の位相差変化量が
それに相当します。したがって、θが0°と15°の位相差値と平均屈折率、フィルム厚さか
ら3次元屈折率を算出できます。このとき、荷重負荷方向の屈折率が大きいと仮定し、傾斜中
心軸をNy として計算しました。各試料の計算結果は図4のようになり、以下のような特徴が見
出せます。
① 3次元屈折率の大小は、すべての試料でNx>Ny>Nz である
② pet175はNy がほぼ平均屈折率と同じで、荷重を増加しても殆ど変化しない
③ pc136、pva400は荷重350g(幅1m当たり約23kg)以下と、それ
以上での挙動が大きく異なる
1.5858
1.50010
Nx
Ny
Nz
1.5856
1.5854
1.50005
Nx
Ny
Nz
1.50000
1.5850
屈折率
屈折率
1.5852
1.5848
1.5846
1.49995
1.49990
1.5844
1.49985
1.5842
1.5840
0
100
200
300
400
500
1.49980
600
0
荷重 (g/幅15mm)
100
200
300
400
500
荷重 (g/幅15mm)
(a)pc136
(b)pva400
3
600
700
1.662
1.5310
Nx
Ny
Nz
1.5305
屈折率
屈折率
1.661
1.660
1.5300
Nx
Ny
Nz
1.5295
1.659
1.5290
1.5285
1.658
0
100
200
300
400
500
600
0
700
100
200
荷重 (g/幅15mm)
300
400
500
600
700
荷重 (g/幅15mm)
(c)pet175
(d)pa146
図4 応力複屈折分の位相差から3次元屈折率を計算した結果
3次元屈折率の値を基に、厚さ方向から見たときの複屈折ΔNyz とΔNxz を算出すると図5
のようになります。当然ですが荷重方向がNx 軸であるため、X-Z面の複屈折ΔNxz の変化
がY-Z面の複屈折ΔNyz よりも大きくなります。
2.5
2.5
pc136
pva400
pet175
pa146
2.0
Δ Nxz ×10-3
Δ Nyz ×10-3
2.0
pc136
pva400
pet175
pa146
1.5
1.0
1.5
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
0
100
200
300
400
500
600
0
700
100
200
荷重 (g/幅15mm)
300
400
500
600
700
荷重 (g/幅15mm)
(a)ΔNyz
(b)ΔNxz
図5 厚さ方向から見た応力分の複屈折
● おわりに
荷重と位相差の関係から光弾性係数を求めるのは比較的容易ですが、今回の実験のように、
光を垂直入射と斜め入射の2つの状態で荷重を変えて位相差を測定し、応力複屈折分の3次元
的評価をする場合、屈折率の違いが表れるのは小数点以下4桁目あるいは5桁目という微小な
差となるので、位相差測定を慎重に行う必要があります。測定値の位相差が0.1nm異なる
と結果に影響することが分かりましたので、測定に際しては分銅を100gずつ追加するとき
に、フィルムクランプを手で支えたりして荷重が一時的に減少するような状態にしないこと、
また分銅を乗せるときにリードフィルムに大きな振動が伝わらないようにすること等の注意が
必要です。
以上
4