有機化学Ⅱ レポート4標準解答

有機化学Ⅱ
レポート4標準解答
1 RMgX や RLi の R-Mg 間あるいは R-Li 間の結合は共有結合性が強いとされているが、これら
をイオン的な反応に用いた場合は【R-供与剤】として機能する。たとえば R’CH2Br と反応させる
と、R-が C を背面攻撃する SN2 形式で R-CH2R’(+MgXBr or LiBr)を生じ、一種のクロスカッ
プリングが成立する。しかしながら、この反応の効率は低く、その理由の一つが E2 反応の並立で
ある。特にハロアルカン側が二級ないし三級であると、
(RO-を用いる Williamson 反応と同様に)
E2 主力となり、クロスカップリング生成物は得られない。
ハロアルカン側が二級ないし三級でも成立するクロスカップリング反応を2例以上文献調査せ
よ。(ヒント 1)教科書に既に出てきている、(ヒント 2)日本人のノーベル化学賞
日本人の名前が冠せられた有機金属試薬を用いたカップリングの人名反応は種々ある。概ね調
べたようなので略する。教科書 p.385 には、有機銅試薬[Gilman 試薬:Li(CuR2)]を用いる例が
出ている。この試薬は、脱離基-X(X=ハロゲン、-OSO2R など)を有する母体炭化水素と反応し
てカップリング生成物を与える(この反応はラジカル的なのではないかと言われている)。
Ex.) CH3I + 2Li → LiI + CH3Li ,2CH3Li + Cu(I)I → LiI + Li[Cu(I)(CH3)2]
Gilman 試薬(ジメチル銅(I)酸リチウム)
Li[Cu(I)(CH3)2] + BrCH2R → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-CH2R
Li[Cu(I)(CH3)2] + Br-CHR(R’) → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-CHR(R’)
Li[Cu(I)(CH3)2] + Br-CR(R’)(R”) → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-CR(R’)(R”)
Li[Cu(I)(CH3)2] + Br-CH=CH-R’ → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-CH=CH-R’
Li[Cu(I)(CH3)2] + Br-C≡C-R’ → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-C≡C-R’
Li[Cu(I)(CH3)2] + Br-Ph → LiBr + Cu(I)(CH3) + CH3-Ph(Ph はフェニル基)
このように相手が一級・二級・三級・不飽和炭化水素・芳香族炭化水素の何れであっても反応す
るので、極めて価値が高い。なお上記の例では Br-で示したが、-Cl,-I や-OSO2R などでも同様。
2 炭化水素源としてはエタノールしか与えられていない。次の化合物を合成する反応式を示せ。
これらの一部は、アルキン(R-C≡CH or R-C≡C-R’)の章まで予習しないと解けない。なお、無機
試薬、触媒類は、明示すれば任意に用いてよい。
(1) butan-2-one [ CH3C(=O)CH2CH3 ]
EtOH → 1-ブロモエタン → EtMgBr or LiEt[A],
EtOH+PCC → PyHCl + Cr(=O)(OH)2 + CH3CHO[B],
A+B -HClaq.中和→ CH3CH(OH)CH2CH3 -PCC 酸化→ CH3C(=O)CH2CH
により合成できる
(2) 2-bromobutane
(1)の途中の CH3CH(OH)CH2CH3 と PBr3 または HBr との反応で合成できる
(3) 1-bromobutane
CH3C(=O)CH2CH3 と[A]を反応させて中和すると CH3(Et)2COH が得られる(=t-BuOH の代役)
ので、これをカリウム塩にする(=KOR と略する)。2-bromobutane を KOR と Hofmann-E2 反
応させて CH2=CHCH2CH3 とする。これに、ラジカル発生剤存在下で HBr を反 Markovnikov 付
加させればよい。
(4) 2-ethoxyethan-1-ol
EtOH+濃硫酸(170℃以上) → CH2=CH2
① CH2=CH2 -①過酸と反応→ 1-oxacyclopropane → KOEt と反応させて中和、により得ら
れる。
② CH2=CH2 - ② Br2+H2O と 反 応 → HOCH2CH2Br - KOH と 反 応 ( 分 子 内 SN2) →
1-oxacyclopropane → KOEt と反応させて中和、により得られる。
なお、①では過酸(=有機物)を勝手に使っているので主題に則していない。②の方が正しい。
(5) trans-but-2-ene [ trans-CH3CH=CHCH3 ] :何を経由すれば trans-体のみに限定できるか?
2-bromobutane+KOEt で Saytev-E2 反応させ、trans-but-2-ene を得る。ただし、若干量の cis体が混じる。これを trans-に変更するには、Br2 を付加して 2,3-dibromobutane とし、2KNH2(カ
リウムアミド)と反応させて CH3-C≡C-CH3 に変換する。これを液体アンモニア中、Na と反応させる
(教科書 p.708,709)と trans-but-2-ene になる。
(6) cis-but-2-ene [ cis-CH3CH=CHCH3 ]
:何を経由すれば cis-体のみに限定できるか?
上記の CH3-C≡C-CH3 を、Lindlar 触媒存在下に水素添加すると cis-体のみに限定できる。
(7) propionic acid [ CH3CH2COOH ] : EtOH 原料では偶数炭素生成物しかできない。奇数炭素
にするには?⇒分解反応(分子を割る反応)が必要
CH2=CH2+Br2 → BrCH2CH2Br - +2KNH2 → HC≡CH (+2KBr+2NH3) - +2KNH2 →
KC≡CK (+2NH3) -(+2EtBr)→ Et-C≡C-Et -(+Jones 試薬:Cr2O72-, H2SO4)→ 2EtCOOH