世界は金余りだがまだバブルでないと考える理由

リサーチ TODAY
2014 年 8 月 20 日
世界は金余りだがまだバブルでないと考える理由
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今日、世界的な金余りが指摘されることが多い。世界の株高、債券高の背景には先進国を中心とした大
規模な金融緩和にともなう潤沢なマネーの存在があると考えられる。みずほ総合研究所は、世界の金余り
に関するリポートを発表している 1 。下記の図表は、米国、日本のマーシャルのk(マネーサプライ÷名目
GDP)である。これが2000年代以降右肩上がりで上昇し、リーマンショック以降、さらに名目GDPとマネーサ
プライの乖離が大きくなっている。こうした状況の継続が、世界的な金余りによる資産市場のより一層の膨
張を生じさせやすいと考えられる。
■図表:米国のマーシャルのkの推移
(%)
【米国】
0.75
35
マーシャルのk
0.70
0.65
日本のマーシャルのkの推移
30
【日本】
1.8
1.6
0.60
20
0.55
15
0.50
10
0.45
5
トレンドからの乖離
(右目盛)
0.35
‐5
(年/四半期)
‐10
0.30
00
02
04
06
08
10
12
15
1.4
10
1.2
5
1.0
0
0
0.40
20
マーシャルのk
25
トレンド
(1990Q1~2008Q2)
(%)
トレンド
(1990Q1~2008Q2)
トレンドからの乖離
(右目盛)
0.8
‐5
(年/四半期)
0.6
14
‐10
00
02
04
06
08
10
(注)マーシャルのk=M2/名目GDP
(注)マーシャルのk=M2/名目GDP
(資料)米商務省、FRB
(資料)日本銀行、内閣府
12
14
マーシャルのkが示すように、中央銀行のバランスシートの拡大によるベースマネーや銀行の預金拡大
によってM2は拡大するが、本質的な問題としては貸出や証券化等の市場型間接金融による信用拡大が
実際に生じているかが重要なメルクマールになる。2013年以来、レバレッジドローン(低格付け企業向けの
協調融資)の拡大が目立っている。2013年のレバレッジドローン総組成額は4,552億ドルと、景気後退前の
2007年(3,875億ドル)を上回る水準となり、なかでも引き受け基準が緩和されたコベナントライトローンの組
成額が5割以上を占めている。レバレッジドローンの拡大は、リスクの高い裏付け資産が含まれることに問
題があるものの、裏付け資産が相応にはっきりしているので、まだリスクが限定されている。
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2014 年 8 月 20 日
次の図表は、グローバルなCDOの種類別の発行額の推移である。2000年代半ばのグレートモデレーシ
ョンとされた時期に問題化したのは、こうした複数の証券化商品を束ねて再証券化したストラクチャードファ
イナンスCDOとされる商品が急拡大していたことである。足元、こうしたCDOを中心とした商品は再び拡大
の流れにあるものの、その水準は2000年代半ばと比べてまだ低い水準に止まっている。
■図表:グローバルCDOの種類別発行額推移
600
(10億ドル)
500
その他
SF
CLO
400
300
200
100
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(年)
(注)SF:ストラクチャードファイナンスCDO。その他はCBOなど。2014 年は第 1 四半期末値。
(資料)米国証券業金融市場協会
振り返れば、2000年代半ばに米国を中心として生じた資本市場の動きは、原債権である住宅ローンがサ
ブプライムローンとして急伸し、その債権を束ねたMBSに加え、更なる証券化、再証券化やストラクチャード
プロダクトの急伸につながった。同時に、欧州においても南欧を中心に住宅ブームを背景として住宅ロー
ンを原債権とする証券化の急拡大が生じていた。足元、企業セクターが生み出す金融商品については、
先述のレバレッジドローンとして増加する兆しが生じたものの、2000年代半ばを支えた住宅ローンや住宅価
格上昇に伴うホームエクイティローン等の債権については慎重なままである。
前ページに示したように、中央銀行の資金供給により、需要サイド・投資家側に投資資金は潤沢にあり、
既に市場にある金融商品を購入して利回りを求める「サーチ・フォー・イールド」の動きは進むものの、新た
な金融商品の創出に伴った信用拡張の迫力は今一つの状態だ。また、こうした金融商品を束ねたストラク
チャードプロダクトをファイナンスするレポ市場やABCPの伸びも限られており、レバレッジがかかりにくい状
況にある。まだ、10年前のように欧米そろってバブルに踊る状況にはないように見える。
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武内浩二 「ゴルディロックスか、それともグレートモデレーションの再来か」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 8 月
13 日)
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