環状ホスファチジン酸(cPA)に基づく 多発性硬化症(MS)治療薬の開発 お茶の水女子大学 お茶大アカデミック・プロダクション ヒューマンウェルフェアサイエンス寄附研究部門 教授 室伏 きみ子 1 従来技術とその問題点 多発性硬化症(Multiple Sclerosis, MS)は、「自己免 疫性」と「神経炎症性」を併せ持つ神経変性疾患で、 再発・寛解を繰り返す「再発寛解型MS」と慢性進行 する「進行型MS」に大別される。 国内および国外における現状 ○患者数は全国に約12,000人 ○欧米では若年成人を侵す 神経疾患の中で最も多い疾患 ○近年における我が国での 患者数も急激な増加傾向にある 2 従来技術とその問題点 現在実用化されているMS治療薬は自己免疫 抑制作用が主流であり、免疫抑制作用による 副作用が問題となっている。 現在のMS治療薬は、根本的な治療薬とは言え ず、次ぎに述べるいずれの薬剤も、進行型MS に対する効果が低い。 3 従来技術とその問題点 現状、MS治療には、IFNβが第一選択薬として用いら れる。しかし、副作用の問題があり、IFNβ単独での治 療は困難である。 他に、アザチオプリン、シクロホスファミド、メトトレキ サートなど免疫抑制剤が用いられており、臨床治験の 報告もあるが、効果は限定的で、いずれも保険適応で はない。 IFNβより有効性が高い経口内服薬として、フィンゴリモ ドが開発されているが、リンパ球を標的とし、結果的に 末梢血リンパ球数が減少するため、細菌・真菌・ウイル スなどによる感染症が懸念される。 4 新技術の特徴・従来技術との比較 環状ホスファチジン酸(cPA, cyclic phosphatidic acid)およびその誘導体2カ ルバ環状ホスファチジン酸(2ccPA)は神経 炎症抑制効果に基づく MS治療薬候補化合 物である。 (新規メカニズム) cPAは、クプリゾン(CPZ)誘導MSモデルマ ウスの脱髄を顕著に抑制する。 cPAは生体由来の物質で、生体毒性が低く 非GLP試験で安全性が確認されている。 神経炎症が主因である進行型MSに対して も、cPAは効果が期待される。 cPAは、経皮投与も可能であり、よりQOLの 高い治療が期待される。 他剤との併用も可能である。 5 環状ホスファチジン酸(cPA ) 独特な環状リン酸構造を持つ新規脂質メディエーター 最初、真性粘菌 Physarum polycephalum のミクソアメーバから単離 動物臓器(脳で高濃度≈1μM程度)やヒト血清中(≈0.1μM)にも存在 神経細胞生存や分化促進に働く。 NGF神経栄養因子と同等の 神経細胞生存効果を持つ Fujiwara、Murofusi et al. J. of Neurochem. (2003) cPA 2ccPA 2ccPAは生体内でより安定な 化学合成されたcPA誘導体 虚血モデルラットにおけるCA1神経細胞死を抑制 Gotoh、Murofushi et al . European Journal of Pharmacology (2010) 6 クプリゾン誘導脱髄モデルマウス MS動物実験モデルであるクプリゾン(Cuprizone : CPZ) 投与マウス は、経口投与数週間に脱随が進行するため、脱髄疾患の動物実験モ デルとして広く利用される Journal of neuroscience (1973) C57BL/6 マウスを 0.2%CPZ を含んだ餌で飼育すると、5週間後に 最も顕著な脱髄が起こる Control Glenn K. Matsushima et.al Brain Pathology (2001) CPZ 5weeks CPZ 投与5週間後の脳梁のミエリン染色 Yoshikawa et.al Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids 85 (2011) 7 cPAは神経炎症を抑制する GFAP Astrocyte marker Iba1 microglia marker PDGFR-a Oligodendrocyte precursor cell marker *: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001 ##: p<0.01 (n=5 ; mean with S.E.M.) 8 cPAはCPZ誘導運動機能障害を改善する *: p<0.05, ***: p<0.001 #: p<0.05, ##: p<0.01 (n=5 ; mean with S.E.M.) 9 ***: p<0.001, ###: p<0.001 (n=5 ; mean with S.E.M.) CPZ+2ccPA CPZ + Saline Control 2ccPAはCPZ誘導脱髄を抑制する :脳梁 10 2ccPA は神経炎症を抑制する GFAP Astrocyte marker Iba1 microglia marker PDGFR-a Oligodendrocyte precursor cell marker **: p<0.01, ***: p<0.001 #: p<0.05, ##: p<0.01, ###: p<0.001 (n=5 ; mean with S.E.M.) 11 2ccPAはCPZ誘導運動機能障害を改善する ***: p<0.001 #: p<0.05, ##: p<0.01 (n=5 ; mean with S.E.M.) 12 想定される用途 既に、高純度のcPA および より効果の高い 誘導体(2カルバcPA)の合成法を確立してお り、薬剤としての十分な供給が可能である。 MS治療薬としてだけでなく、MS以外の脱髄 疾患に対する効果も期待される。 神経炎症抑制効果により、アルツハイマー病 やパーキンソン病といったあらゆる神経変性 疾患への治療効果も期待できる。 13 実用化に向けた課題 現在、マウス実験において脱髄抑制効果が明 らかとなっており、そのメカニズムについても 研究が進んでいる。 しかし、研究費面での支援・助成を受けていな いことから、資金不足により、臨床応用に向け た検討が進められない状況にある。 今後、詳細な投与方法等の実験データを取得 し、臨床治験に適用していく場合の条件設定 が必要 14 企業への期待 安全性試験を含めた臨床応用のノウハウを 持った企業との共同研究を希望する。 優れたドラッグデリバリーシステムを開発中の 企業との共同研究により、cPAの治療薬開発 が革新的に進化する可能性がある。 15 本技術に関する知的財産権 発明の名称 : 脱髄疾患治療薬 出願番号 : 特願2013-012859 出願人 : お茶の水女子大学、埼玉医科大学 発明者 : 室伏きみ子, 後藤真理, 丸山敬, 吉川圭介, 山本梓司 16 お問い合わせ先 お茶の水女子大学 研究協力・社会連携チーム 社会連携係 中内 TEL : 03-5978-5162 FAX : 03-5978-2732 e-mail: [email protected] 17
© Copyright 2025 ExpyDoc