卵巣チョコレート囊胞および帝王切開瘢痕部の膿瘍に対し

日エンドメトリオーシス会誌
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147
〔一般演題/症例
〕
卵巣チョコレート囊胞および帝王切開瘢痕部の膿瘍に対し,手術を要した
症例
手稲渓仁会病院産婦人科
和田真一郎,常松
川嶋
篤,比嘉
中島亜矢子,林
緒
梨紗,山本
雅恵,福士
義将,長
たまき
健,簔輪
郁,鈴木
幸雄,鈴木
徹平
正路,松田
琢磨,藤野
敬史,佐藤
力
では,
Prevotella bivia および P. asaccharolyticus
言
卵巣チョコレート囊胞患者の付属器膿瘍は,
が検出され,入院
日目に報告された感受性試
日常の臨床において比較的頻繁に経験される
験で,と も に sulbactam / cefoperazone(SBT
が,同時に帝王切開瘢痕部に膿瘍が形成される
/CPZ)に感受性があった.
例はまれである.われわれは下腹痛・発熱・不
血液検査で は,白 血 球
/μl,CRP .
正性器出血の訴えで来院し,左卵巣膿瘍および
mg/dl と炎症反応が著明な高値を示し,下腹痛
子宮頸部の帝王切開瘢痕部膿瘍の診断で腹腔鏡
も強かったため,左卵巣チョコレート囊胞破裂
下のドレナージを施行したが改善しないため,
または左付属器膿瘍を疑い入院となった.入院
全腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)および左付属器
後は SBT/CPZ 投与を開始し,翌日腹腔鏡を施
摘除(LSO)を施行し,治癒した症例を経験し
行した(図
たので報告する.
腔内を観察し,ダグラス窩に腫大した左卵巣と
症
症例は 歳,G=P=
例
子宮後面・直腸との強固な癒着を認めた.癒着
回の帝王切開の
を一部剝離すると卵巣がラプチャーし,黄土色
既往のある挙児希望のない女性で,下腹痛・発
の膿瘍とチョコレート状の液体が混ざった内容
熱・不正性器出血を訴えて前医を受診した.経
液が漏出したので吸引した.さらに腫大した左
腟超音波断層法にて付属器領域の微細顆粒状の
卵管を切開し,同様の液体を吸引した.強固な
囊胞を認め,MRI を撮影した(図
)
.左付属
癒着があり,かつ易出血性であったため付属器
cm の不整形および蛇行した囊
摘出は行わず,十分な洗浄の後,膿瘍部位にド
器領域に長径
,
)
.全身麻酔下で,気腹法にて腹
胞を認め,T 強調画像でやや高信号,脂肪抑
レーンを留置して閉創した.同時に経腟的に帝
制画像で高信号を示した.また,子宮頸部前壁
王切開の瘢痕部と思われる部位に貯留した膿汁
cm の囊胞を認めた.卵巣チ
を吸引した.手術時間は 分,出血は少量であ
ョコレート囊胞の破裂を疑い,翌日に当院に紹
っ た.左 卵 巣 膿 瘍 の 細 菌 培 養 検 査 か ら Pep-
介,受診となった.
tostreptococcus anaerobius が 検 出 さ れ,同 様
筋層内にも長径
来院前は ℃台の発熱があったが,来院時は
.℃であり,下腹痛を訴えていた.内診にて,
に SBT/CPZ に感受性があった.
回目の手術後に SBT/CPZ の投与を継続し
子宮頸部および左付属器領域の圧痛を認め,腟
ていたが, ℃台の発熱は継続し,疼痛も続い
鏡診にて子宮口より悪臭のある血液混じりの黄
たため,入院
色分泌物を認めた.経腟超音波断層法で前医の
酔下,気腹法で施行した(図
MRI と同様に子宮頸部および左付属器の囊胞
は,子宮後壁,左右付属器,直腸が強固に癒着
を認めた.子宮口からの分泌物の細菌培養検査
し,さらに膀胱が子宮体部まで広範囲に癒着し
日目に
回目の腹腔鏡を全身麻
)
.ダグラス窩
148 和田ほか
T 強調画像
脂肪抑制画像
図
初回術前の MRI 画像
左付属器に脂肪抑制でも高信号の囊胞状・および蛇行した管状の腫瘤が認
められる.また子宮頸部前壁筋層内にも囊胞の形成を認めている.
ていた.左右付属器・直腸・子宮の癒着を剝離
(℃)
39
し,左卵巣提索を切断した.後腹膜腔は線維化
38.5
がきわめて強く,尿管や子宮動脈の同定は困難
38
cm
37.5
であった.膀胱を子宮から剝離する際に
ほど膀胱を損傷したが,そのまま剝離を進め,
前腟円蓋部を確認できたので,前腟壁を切開し
た.子宮頸部側方と後方は尿管や直腸を損傷し
ないよう,子宮腟部を頭側に牽引しながら筋膜
内を削るように,いわゆる Aldridge 法で子宮
(mg/dL)
1stope
2ndope
30
20
37
36.5
36
10
CRP
Tmax
SBT/CPZ
35.5
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617
図
入院後の経過
卵巣チョコレート囊胞および帝王切開瘢痕部の膿瘍に対し,手術を要した
属器は g で,手術時間は
症例 149
時間 分であった.
病理所見は子宮内膜症を伴う左卵巣卵管膿瘍お
よび子宮筋腫であり,悪性所見は認められなか
った.術後はすぐに ℃台まで解熱し,炎症反
応の低下,疼痛軽減を認め,入院 日目に SBT
/CPZ の投与を中止し,膀胱のリークがないこ
とを確認し,入院 日目に退院した.その後は
感染の再燃を認めていない.
ダグラス窩は癒着しており,左卵巣腫瘍内には
膿瘍が貯留していた.
考
察
卵巣膿瘍は比較的よく遭遇する疾患である
が,重症例では治療に苦慮し,致命的になるこ
ともありうる疾患である.その臨床的背景は子
宮内膜症であることが多く,卵巣チョコレート
囊胞の内容液が細菌の増殖に寄与していると予
想される.自験例の卵巣膿瘍で手術を要した
症例は,すべて子宮内膜症を罹患しており,内
膜細胞診や採卵・胚移植などの操作が誘引にな
ることが多かった〔 〕
.治療は抗生剤の投与が
膀胱の剝離の際に膀胱が
孔した.
中心であるが, 膿瘍径が .cm 以上であれば,
抗生剤のみでは治癒せず,ドレナージや手術を
要するという報告があり〔 〕
,膿瘍径が治療方
針を決定するうえで重要なファクターである.
本症例では,膿瘍径は
cm 程度であり,ドレ
ナージが必要であると考え,早期に腹腔鏡下ド
レナージを施行した.今回は挙児希望はなかっ
たが,挙児希望があるケースにおける卵巣卵管
膿瘍については,内科的治療のみでその後の妊
前腟壁切開後に,子宮腟部を頭側に牽引しなが
ら,子宮頸部側方および後方の筋膜下を切開した.
図
娠率は
∼ %であるのに対し,早期に腹腔鏡
下ドレナージを併用すると ∼ %となるとし
たレビューがあり〔 〕
,今後の妊娠を希望する
回目の術中所見
場合には早期のドレナージを行うなど,治療方
頸部を周囲から分離した.経腟的に子宮および
左付属器を体外に搬出し,腟断端と損傷した膀
針の決定の参考になる.
帝王切開術は最も行われている産婦人科の手
胱壁を縫合し,十分に腹腔内洗浄を行って,ド
術の
レーンを留置し閉創した.直腸内に空気を注入
なった近年は増加している.帝王切開後のリス
し,さらにインジゴカルミン静注後に膀胱鏡施
クとしては,子宮破裂,癒着胎盤などの次回妊
行し,直腸
孔・膀胱のリーク・尿管閉塞が認
娠時の異常のほか,瘢痕部に発生した憩室のた
められないことを確認した.術式は全腹腔鏡下
めに,帝王切開瘢痕部妊娠,不妊症などをきた
子宮全摘術および左付属器摘除であった.易出
すことも知られている.瘢痕部の憩室は死腔に
血性で,出血量は
ml あり,濃厚赤血球
単位を輸血した.摘出子宮重量は
g,左付
つで,分
時のリスク回避の傾向が強く
なりやすいので,月経血の停滞などにより膿瘍
形成を誘発する可能性があるが,その報告は少
150 和田ほか
ない.Diaz-Garcia らは帝王切開の
年後に,
た.このように,子宮頸部が直腸・膀胱・尿管
子宮頸部の瘢痕部膿瘍に対し,子宮鏡下の憩室
のどれからも分離されないときに,Aldridge 法
内の焼
は臓器損傷のリスクを避けるために選択すべき
で治癒した症例を報告している〔 〕
が,そのほかの症例は英語文献では PubMed
手術手技であると考えられた.
で検索されなかった.
結
論
本症例は,卵巣卵管膿瘍に帝王切開瘢痕部膿
卵巣チョコレート囊胞の卵巣卵管膿瘍に帝王
cm と大きいた
切開瘢痕部膿瘍を合併したまれな症例を経験し
め,早期に腹腔鏡下のドレナージと経腟的な子
た.抗生剤やドレナージが無効な場合は,感染
宮頸管の洗浄を施行したが,感染はコントロー
の制御には子宮全摘と付属器摘除が治療の op-
ルできなかったため,感染巣の完全摘除をはか
tion として挙げられるが,手術はかなり難易度
るには膿瘍を形成している左付属器と子宮頸部
の高いものになることを想定しなければならな
を切除する必要があった.侵襲を考えると,腹
い.
瘍を併発しており,膿瘍径が
腔鏡にて TLH および左付属器摘出術を行うの
が妥当と考えた.しかしながら,もともとあっ
たと思われるダグラス窩閉塞を伴う重症内膜症
に加え,
回の既往帝王切開,感染の進行に伴
い子宮周囲は癒着が強固で易出血性であり,と
くに子宮頸部周囲は,前方は帝王切開の癒着お
よび感染,側方・後方は子宮内膜症および感染
により分離が困難で,後腹膜腔の線維化も著し
く,尿管や子宮血管の同定もできない状況であ
った.膀胱の損傷はあったが剝離し,腟壁が露
出できたので前腟壁を切開後,子宮腟部を頭側
に牽引することができ,Aldridge 法にて子宮頸
管筋膜内で切断して子宮を摘出することができ
文
献
〔 〕川嶋 篤ほか.卵巣膿瘍にて手術を要した子宮内
膜症 症例の検討.日エンドメトリオーシス会誌
; : −
〔 〕Dewitt J et al. Tuboovarian abscesses : is size
associated with duration of hospitalization & complications ? Obstet Gynecol Int
;
:
〔 〕Rosen M et al. Tubo-ovarian abscess management options for women who desire fertility. Obstet Gynecol Surv
; : −
〔 〕Diaz-Garcia C et al. Scar abscess six years after
cesarean section : Laparoscopic and hysteroscopic
management. J Minim Invasive Gynecol
;
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