講演要旨(492KB)(PDF文書)

第 40 回
環境保全・公害防止研究発表会 講演要旨集(2013.11)
広島市における有害大気汚染物質(1,2-ジクロロエタン)の挙動
広島市衛生研究所
○小中ゆかり 市川恵子 福田 裕 細末次郎
1
は じ め に
μg/㎥
1.2
平成 9 年から,有害大気汚染物質調査を継続実
安佐南
1.0
井口
施する中で,平成 24 年 5 月に,前年度の年平均値
比治山
0.8
の 5 倍以上の 1,2-ジクロロエタンが観測された。
楠那
0.6
通常広島市では,その大気中濃度は高くはなく,
この値は異常値であるのか否かの判断を迫られる
こととなった。この事例を機に,1,2-ジクロロエ
南原
0.4
0.2
0.0
タンに注目し,その挙動把握に努め,若干の知見
4月
が得られたので報告する。
2
方
5月
6月
図2
法
7月
8月
9月 10月 11月 12月 1月
2月
3月
平成 24 年度調査結果
5 月に,調査開始以降の最高濃度である 0.90~
(1) 調査期間と調査地点
1.1μg/㎥を観測した。なお,比治山は,再測定と
平成 13 年度から平成 24 年度までの調査結果を
もとに解析を行った。
なり調査日が異なる。全地点で変動傾向が類似し,
その濃度も南原を含め同レベルである。
調査地点の位置を図 1 に示す。①~④は調査定
なお,各地点の年平均濃度は,0.14~0.23μg/
点である。⑤はバックグラウンドの試行地点とし
㎥であり,指針値(1.6μg/㎥)は達成している。
て,平成 24 年 8 月より調査を開始した。
(2) 経年および経月変化
(2) 調査方法
各地点の年平均濃度の経年変化を図 3 に,月別
1,2-ジクロロエタンを対象とし,調査は,
「有害
大気汚染物質測定方法マニュアル」に準拠した。
平均濃度の経月変化を図 4 に示す。
平成 20 年度以降,ほぼ全国平均濃度レベルで推
移し,全体的に増加傾向にある。このことは,1,2ジクロロエタン外の有害大気汚染物質(VOCs)が減
5
少傾向にある 1)中,特徴的である。経月変化では 3
~7 月が高い傾向にある。
経年・経月変化共に,全地点で変動傾向が極め
て類似し,その濃度も同レベルである。
1
また,過去 3 年間の測定値の各地点間の相関係
2
3
数は,いずれも 0.98 以上であり極めて相関が高い。
4
(3) 発生源の推定
平成 23 年度 PRTR データを検索した結果,市内
に大気への排出届出事業所はなかった。大気中の
①
②
③
④
⑤
調査地点名
住所
安佐南区役所(以下「安佐南」という) 安佐南区
井口小学校(〃「井口」〃)
西区
比治山測定局(〃「比治山」〃)
南区
楠那中学校(〃「楠那」〃)
南区
南原峡(〃「南原」〃)
安佐北区
図1
3
地域分類
一般環境
一般環境
沿道
発生源周辺
-
調査地点
結果と考察
3-1
1,2-ジクロロエタンの挙動
(1) 平成 24 年度調査結果
各地点別に,各月の濃度を図 2 に示す。
μg/㎥
0.25
0.20
0.15
0.10
安佐南
井口
比治山
楠那
全国平均
0.05
0.00
H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24
図3
経年変化
第 40 回
環境保全・公害防止研究発表会 講演要旨集(2013.11)
調査期間
μg/㎥
μg/㎥
150
0.30
安佐南
0.25
井口
100
比治山
0.20
楠那
0.15
50
0.10
0.05
0
5/6:01
5/6:05
5/6:09
5/6:13
5/6:17
5/6:21
5/7:01
5/7:05
5/7:09
5/7:13
5/7:17
5/7:21
5/8:01
5/8:05
5/8:09
5/8:13
5/8:17
5/8:21
5/9:01
5/9:05
5/9:09
5/9:13
5/9:17
5/9:21
5/10:01
5/10:05
5/10:09
5/10:13
5/10:17
5/10:21
0.00
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
図4
経月変化
三篠小学校 (一般局)
皆実小学校(一般局)
井口小学校(一般局)
安佐南区役所(一般局)
可部小学校(一般局)
福木小学校(一般局)
伴小学校(一般局)
紙屋町(自排局)
比治山(自排局)
庚午(自排局)
古市小学校(自排局)
図6
SPM 濃度
1,2-ジクロロエタンは,ほぼ 100%が届出事業所か
らの排出とされていることから,市内に発生源は
硫酸アンモニウム粒子または,その前駆物質を含
ないものと思われる。
む気塊が流入したためと推測されたとしている。
市内全域がほぼ同濃度であり,半減期が約 1~2
平成 24 年 5 月 8~9 日の事例は,大陸からの越
カ月と長く分解速度が遅いことから,近傍の影響
境汚染の影響や市外発生源で排出された物質が気
を受けず,市外発生源からの移流・拡散により,
塊に乗り,拡散することなく高濃度のまま市内に
その汚染が広域化していく中で市内全域が均一濃
到達した可能性が推察される。
度となっているものと推測できる。
3-2
高濃度事例の検証
4
平成 24 年 5 月 8~9 日の事例について検証する。
(1) 濃度分布
ま
と
め
1,2-ジクロロエタンは,他の有害大気汚染物質
(VOCs)が経年的に減少している中,増加傾向にあ
12 年間の各月の測定値の濃度分布を図 5 に示す。
る。また,市内全域その濃度が均一化されている。
9 割以上が 0.3μg/㎥以下であり,0.5μg/㎥超
通常時は,広域の発生源の移流・拡散により汚染
は約 2%である。平成 24 年 5 月の 0.90~1.1μg/
が希釈され,均一濃度で市内に到達していると推
㎥は,過去に例のない高濃度事例であった。
察される。今回の高濃度事例は,気塊に乗って発
(2) 主要因の検証
生源から高濃度のまま市内に到達するなどの可能
調査日を含む 5 月 7~9 日は,視界が霞んだ状況
が続き,気象庁は煙霧と発表している。
性が考えられ,大陸からの移流や煙霧などの影響
による極めて特異な事例であったと考えられる。
7~9 日は,中国四国地方及び九州北部において
1,2-ジクロロエタンは,①市内に発生源がない,
浮遊粒子状物質(SPM)と微小粒子状物質(PM2.5)の
②市内全域がほぼ均一濃度である,③分解速度が
高濃度現象が観測され,広島市でも,全域で SPM
遅い,などの挙動を示すことから,大気中濃度を
と PM2.5 の濃度が 100μg/㎥前後まで上昇した。
的確に捉えることで,広域的な発生源の状況や移
その期間の SPM 濃度を図 6 に示す。 調査時は,二
流・越境汚染の状況変化などを探知する物質とな
つ目の高濃度ピーク時に一致している。
るのではないかと考えられた。
2)
日浦ら は,この SPM 濃度の増加は,大陸から
今後,近県の調査結果等を広く収集し,有害大
気汚染物質と SPM,PM2.5 の関係や大陸からの移
流・越境汚染との関係など,更に検討を進めてい
100
安佐南
80
きたいと考えている。
井口
比治山
60
楠那
5
40
文
献
1)小中ゆかり他:広島市における有害大気汚染物
20
質調査,広島市衛生研究所年報,30,58~73(2011)
0
2)日浦盛夫
μg/㎥
図5
濃度分布
他:広島県における浮遊粒子状物質
高濃度事例の解析,広島県立総合技術研究所保健
環境センター研究報告,20,23~28(2012)