インパルスジェネレータのリニューアルについて ○黒川 1 2 1 2 正明 ,松本 隆宇 静岡大学 静岡大学 技術部 工学研究科 1. はじめに インパルスジェネレータ(IG)は、図 1(リニューアル前)に示すが、 IG は送電線や配電線等に使用しているがいし、トランスや高電圧を建物内 に導入する際に使用しているブッシング等の電力機器への雷に対する絶縁 強度の有無を試験するために、人工雷を発生する装置である。 静岡大学工学部には、1965 年頃に設置され学生実験を中心に高電圧実 験・研究に活用されている。しかし、経年劣化により図1にある無誘導巻 き抵抗、オイル入り電力用コンデンサなどに支障が生じてきた。 PCB は 1972 年に通商産業省(現環境省)通達により、全面使用禁止に なった。IG に使用しているコンデンサには、導入された頃は良好な絶縁オ イルとして PCB が使用されていた時期で有るため、PCB の含有の可能性 が有る。このためオイル検査を行い、結果に応じて交換の可能性がある。 各種抵抗とコンデンサとの接続については、図 1 から分るように双方に 無理な力が加わるため、配置と接続法を考える必要がある。 コントロールボックスにおいても耐用年数をはるかに超えて、いろいろ な所に経年劣化が生じてきているので見直す必要が出てきた。 今回、工学部の学科再編による学生実験改訂を前に IG の全面的なリニュ 図1 I G本 図2 I G 等 体 ーアルを進めることにした。その準備、経過、結果等を報告する。 2. IG について IG 実験装置の構成は、充電部と放電部、制御部から成り立っている。使 用されている受動電気部品は、高電圧トランス 1 台、ダイオード 2 個、コ ンデンサ 8 個、波形整形用コンデンサ 1 個、抵抗(無誘導巻抵抗 12 個、充 電抵抗 12 本、電圧測定用高抵抗等)、コイル 1 個、φ6.25cm 球ギャップ 5 対、不平等ギャップ 1 対、支持がいし 16 個、ケーブル(充電用 2 本、課電 用)、課電バー1 本、アース棒 3 本となっている。 図 2(1)に倍電圧充電方式の IG の等価回路を示す。この回路の動作は、 左側にあるコンデンサは整流用ダイオード、充電抵抗 r を介して負の電荷、 右側にあるコンデンサには同じく整流用ダイオード、充電抵抗rを介して 正の電荷がトランスよりチャージされる。次に最下段の球ギャップ間を放 電すると、最下段の正負に充電されたコンデンサが直列につながり、2 段 目の球ギャップ間に 2 倍の電圧が発生する。この球ギャップ間が放電する と 3 段目の球ギャップ間に 4 倍の電圧が発生する。以下同じことを繰り返 すと、抵抗 Ro の両端には 8 倍の電圧が発生することになる。 価 回 路 コンデンサ、抵抗、コイルや充電用ケーブルなどは最大使用電圧に耐え られるように設計されている。Rs、Ro、L は Ro の両端に発生する出力電 圧の波形を成形するためにある。規格 JEC213 では出力電圧の波形は波頭 長/波尾長が 1.2/50μS と規定されている。 3.コンデンサについて 充電する電圧はコンデンサ一個当たり最高 50kV であり、コンデンサは 8 個有り IG の最終出力電圧は 400kV となる。しかし 1964 年に製作されたコ ンデンサであるため、経年劣化に伴いコンデンサより鈍い音やオイル漏れ のような気配がある様子なので取り換えを考えていた。 PCB の含有の有無を調査するため、2013 年に専門の業者に 8 個のコンデ 図3 コンデンサの保管状況 ンサの PCB オイル検査を依頼した。検査期間は 1 週間要した。試験結果、 含有率の高いものでは 4100mg/kg の PCB が含有していることが判明した。 環境省の通達では、0.5mg/kg 以下で有る場合は廃棄に該当しないとなっ ているが、今回は IG 用の 8 個全てのコンデンサが基準値を超えているた め、オイル漏れを防ぐためにプラスチックのボックスに入れ、大学構内に ある PCB 保管用倉庫に格納した。図 3 はコンデンサの保管庫に有る状態を 示したものであり、保管庫のドアには「保管場所」の表示が貼ってある。 図 4 に示すようにオイル自体はほぼ透明であり、コンデンサの充放電等 による酸化劣化により茶色に変化している様子が無いことが目視で分かる。 コンデンサの代替品を使用していたコンデンサのメーカに問い合わせた 図4 コンデンサ内のオイル 図5 充 図6 無誘導巻き抵抗 図7 I ところ、オイル検査・取り換え込みのコストは五百万円ぐらいの見積もり が出てきた。インターネット上で高電圧・電力用コンデンサを製作してい るメーカを探し出した。耐電圧、静電容量や繰り返しの時間間隔等を打ち 合わせた結果、このメーカではコンデンサの予備を含む 9 個で、百万円ぐ らいで製作できることが分かった。サイズは使用していたコンデンサとほ ぼ同じであり、重量も同じくらいであるため、使用している IG のフレー ムを加工、コンデンサの固定する位置等の変更作業等なしで使用できるこ とが分かった。コンデンサの取り替えを進めていった。 4.各種抵抗について IG に使用している抵抗は 2 種類あり、図 1 に示すコンデンサの充電部に 取りつけてある丸棒の形が充電抵抗、板状の形が制動抵抗である。 図 5 に示す充電抵抗は、定格として最高使用電圧が充電電圧 50kV に耐 える電力用抵抗を使用している。抵抗は塩ビ製のチャンネル内に専用のホ ルダーを使用して固定し、接続用ジョイント金具はコロナ発生を抑制する 形状にしてある。コンデンサとの接続は平編み線を使用し、接続に自由度 を持たせた。従来は図1に示すようにコンデンサと各抵抗がコンデンサの 充電部一点で固定されていて、安定が悪く、抵抗に応力が加わる配置とな っていた。塩ビ製のチャンネルには、充電抵抗から発生する熱を大気に放 電 抵 抗 出できるようにするため蓋等をしないようにした。 一段目のコンデンサの容量が 0.35μF、充電電圧が 50kV の時、エネルギ ーは 437.5J である。一段目の充電抵抗が 20W 程度に推定できるので、充 電時間は約 22 秒以上必要となるので、経年劣化と安全を見て約 1 分以上時 間をかけて充電する必要がある。 充電抵抗の帰還側についても、以前は IG にある上下のフレーム間に固 定されていたため抵抗に応力がかかっていたが、塩ビ製のチャンネルを使 用し抵抗に歪がかからないようにした。決まる 制動抵抗は、IG の出力波形が定義内になるようコイルのインダクタンス とコンデンサの静電容量との関係で決まる抵抗値で無誘導巻き抵抗を使用 している。図 6 に制動抵抗を示すが、左側に有る接続部端子に接触不良に よる放電痕が見られた。抵抗の固定と配置については図 5 に示すように塩 ビ製のチャンネル材の側面に金属のスペーサを用いて固定をした。以前に 比べ抵抗に無理な力が加わることなく安定した接続ができるように配置し た。また、端子における接触不良による放電の発生を防ぐことができる。 8 個ある制動抵抗中に、1 個断線が見つかり今回はスリーブを使用して修 理をした。もし、無誘導抵抗を作製する場合は完成までに 1 カ月ぐらい時 間を要する。作製は必要とする抵抗値に基づき、抵抗線(ニクロム線)の 単位長さ当たりの抵抗値と発生熱量(電力)を考慮して線材を決定する。 巻きつけるベーク板の厚さは加工し易く、ニクロム線を巻く力に耐えるこ とができるよう 3m/m 以上のものを選ぶ。図 6 に示すように、ベーク板の 両端に溝を掘り(数百個)ニクロム線を溝に入れ巻いていくが、電流が流 G コントロールボックス れた時インダクタンスが出来る限り発生しないようにエアトンペリー巻き(2)をする。出来あがった抵抗の表面にテフ ロンのフィルム(図 6 ではオイル含浸した絶縁紙)を巻きつけて絶縁と抵抗線の保護を確保して完成する。 今回は予算の確保ができたので、ベーク板で作られた制動抵抗については、市販の高電圧インパルス用無誘導巻き抵 抗を購入し取り換える予定である。 5.制御盤について コントロールボックスは、トランスの一次側、二次側 AC 電圧、DC 電圧・二次側 AC 電流の表示、IG への充電電圧制 御、安全管理、放電始動等の機能を持っている。耐用年数をはるかに超え ているため種々の劣化が見られる。今回は各メータ動作が不安定なため取 +I り換えと、台数を増やすことによる動作確認、IG の放電始動のシーケンス を変えることにした。 以前は、メータは 4 個によりトランスの一次側、二次側高流電圧、直流 充電電圧、二次側交流電流を表示していたが、今回はトランス二次側整流 後に正極用と負極用の直流電圧計を追加取り付けし、同時にトランス内部 にある整流の動作確認ができるようにした。 図 7 に示す新規のパネルには全部でメータ 5 個取りついている。CAD で 作成した図面を図 12 に示す。従来のメータのサイズでは、コントロールボ ックスからはみ出てしまう。このため重要となるメータは、従来のサイズ を選択し、残りのメータをボックス長さ方向のサイズに入るように合わせ た。数ミリの余裕もなく 5 個取り付けができた。新規のパネルの取りつけ については、現在使用しているボックスを利用することにし、厚さ 2 ㎜の 鉄板を電動ジグソーで必要とするサイズにカットし空けた。パネルはアル ミ製の 1.5mm 厚の板を取付けることにした。複数個所にタッピングビスで 取り付けをすれば、メータ付きのパネルはしっかりと固定する。 それぞれのメータの決定は、IG の資料集についている図面とメータに表 示してある規格をもとに行った。しかし、交流電流計については取り付け -I 後電流の振れ幅が小さく原因が不明であった。このためコントロールボッ クスの配線を全てチェックしたところ、図面には無い変流比 200:100 の CT が使用されていた。このため電流計を 50mA 仕様で、表示を 100mA にし 図 8 直流電圧計の回路図 て取り替えをした。 図 8 は直流電圧を測定する回路である。+HV、-V 側はトランス内部に 550MΩの直列の抵抗がある。この抵抗が倍率器として動作し、100μA の 直流電流計により 50kV の電圧が測定できる。今回は電圧 50kV 最大値で メータをフルスケールとし表示を視覚的にした。直流電流計 50μA を使用 した。抵抗 R1、R2 は電流計の内部インピ―ダンスで、R3、R6 により分流 を行い、メータに流れる最大電流を 50μA とした。R1、R2 については、 メータによりばらつきがある可能性があるため、それぞれ実測を行った。 R3、R6 については、計算値に近くなるよう抵抗を並列にして数値を合わ せたが、数値は大きくなる方を選び、実際の電圧がメータの指示より大き く出ないように配慮した。これらにより使用する最大電圧までを正負の電 図 9 トランスの出力電圧の確認 圧計により同時に表示できることができた。 IG 始動用シーケンスは、既存の押しボタン接点の空きを利用して、IG 最下段の球ギャップに約 10kV の電圧(トリガー)を課電するために、ト リガーボタンをオンにすると同時にコンデンサ充電用の電源回路が切れ るようにした。従来の操作手順である充電回路を OFF し放電用トリガー ボタンを ON することを簡便化するとともに誤操作防止の安全を図った。 図 8 示すようにコンデンサの充電電圧を計測するために抵抗を取りつ け、ディジタルマルチメータについては、コントロールボックスのパネ ルからメータ本体に接続できるようした。 6. IG の動作試験、学生実験について リニューアルした IG の動作実験は、トランスより発生している電圧の 図 10 I G 動作確認試験 確認を行うため図 9 に示す直流分圧器を使用して、IG の初段の正極側のコ ンデンサ充電部の電圧を計測した。次にコントロールボックスの正負の直 流電圧計のメータ振れと二次側交流電圧計のメータ振れと比較をした。 その結果 20%位電圧が低く出ていることが分かった。トランスとコント ロールボックス間の配線の確認、コントロールボックス内の配線と接続確 認等を調査し検討した結果、トランス内部に使用している抵抗値が IG の資 料にある抵抗値と異なっている可能性が出てきた。この抵抗は高抵抗 550M Ωであるため、抵抗値を正確に測定することは困難であった。最終的には 絶縁抵抗計を使用し、測定した結果は約 800MΩであった。このため直流電 圧計が指示する値は低く出ることが分かった。再度分流器の抵抗値を調整 図 11 学生実験の様子 した。また、直流電圧計の指示が正負により異なっていた。原因はトラン ス内部にある低圧側の 1MΩの抵抗が断線していることがテスター、絶縁抵抗計による測定で分かった。トランスにある 接続端子に1MΩの抵抗を取りつけた。このことにより、正負の直流電圧計の表示がほぼ同じになった。 φ100 の球ギャップを使用して、ギャップ間隔を 30mm と 50mm で昇降試験法(2)、(3) (誤差±3%)により実験を行い、 IG の正常動作を確認した。コントロールボックスからの充電動作は、各メータを見て正常に働いていることが分かった。 また、IG 始動用シーケンスもスムーズに行えていることが分かった。 図 11 に示すように、現在、電気電子学生実 験Ⅱ後期コース別「インパルス放電」の学生実 験で使用している。 IG の各電気部品の配置と定数を変更したた め、学生は実験の最初に実際に IG を見て、等価 回路図と比較を行い、次に各定数の数値を調べ る。この結果より、IG の利用率を計算する。 昇降法による学生実験のデータ結果を図 13 示す。グラフの X 印が放電、○印が非放電を示 すが、回数が 10 回まで放電をしているが、その 後放電、非放電を繰り返している。放電・非放 電の電圧値が以前は大きくばらついていたが、 今回は s/V50 は 1.2%でありばらつきが小さく、 図 12 メータの配置図 放電が安定していることが分かった。この間 IG 始動用シーケンスは正常に働いていた。 7. まとめ 1)コンデンサの取り換え、各種の抵抗の配 置替え、コントロールボックスのメータ取り替 え、シーケンスの手順の変更等による IG のリ ニューアルを行い、学生実験で活用できている。 2)今後の課題として、トランスの出力電圧 がリニアでないため、ディジタルメータの値と 実際の電圧との比を決めることができていない。 参考文献 図 13 昇降法による結果 (1)現代 高電圧工学 家田正之 (2)高電圧試験ハンドブック オーム社 電気学会 (3)電気電子学生実験Ⅱ後期コース別指導書 インパルス放電
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