江戸っ子PCB ~バッテリーが消える

企業に研究開発してもらいたい未来の夢
コンテスト企画書
江戸っ子 PCB
~バッテリーが消える日~
タイトルの意味:江戸っ子は裏地にこだわると言うこところから
参加企業(株式会社村田製作所)
大学名及び所属
チーム名:メカエレ連合
電気通信大学大学院 電子工学専攻 古平晃洋
電気通信大学大学院 知能機械工学専攻 長谷川信
1、提案の背景
モバイル製品の 10 年 20 年後を考えたときにモバイル機器に対する給電方法を考えてみ
る。例えば携帯電話で考えれば今までのような充電器に置いて定期的に充電する、という
形をとっているだろうか。それは、否であると私は考える。なぜなら、人は怠惰な方向に
流れる物である。また、充電が切れることによって通話できない、メールできないという
状況に陥る人が多いほど携帯電話のキャリア側にとっても損失となってしまうからだ。
それでは、どのような給電が期待されるのか。それは無線による定期的な給電であろう。
そのような給電ポイントは携帯電話のアンテナのように日本中を覆うであろう。そうなっ
たときにモバイル機器のバッテリーのあり方は変わってくる。バッテリーの容量は尐なく
ても良い。しかし、モバイル機器の設計において重要な要素の一つであるサイズを解決す
るためにスペースはなるべくとらないと言う要求が出てくるのだ。
図 1 .低容量バッテリーの利用形態の変化
これらの問題を解決するには単純に
・バッテリーを小型化する。
という手段がある。しかし、これには大きな技術的改良を必要とし開発に多大なコストを
要求するだろう。そこで本提案では
・既存の無駄に使用されている空間内にバッテリーを実装する。
という方法を提案する。
2、本提案の目標、目的
基板のレイヤー間を利用したバッテリー(キャパシタ)の研究開発をおこなう。これは図 2
のように基板のレイヤーとレイヤーの間にある空間にバッテリーおよびキャパシタを実装
しバッテリーとして使用できるようにしてしまおうというものである。
・既存のバッテリーの問題点
多くのモバイル機器はバッテリーを搭載している。しかし、バッテリーを積むと言う
ことはそれだけスペースをとることになる。また、バッテリーの容量は単純にバッテリ
ーの大きさに比例すると言っても過言ではない。つまり、モバイル機器の場合、バッテ
リー持続時間と大きさはトレードオフにならざるを得ない。これは、モバイル機器にと
って両方とも重要な要因である。
・本提案のねらい
モバイル電子機器用に“バッテリーによってスペースをとらずにバッテリーを実装可
能”にするというものである。それがキャパシタを基板のレイヤー間に実装する提案を
したもとである。
図 2 .基板間のスペースの利用方法
3、実現方法
3.1 実装の概要
キャパシタに関する技術などは我々が説明するべきではないと判断し、今回は割愛する。
基板と基板の間にあるスペースは図 3 のようにそこに Via や Through Hole を使用しな
い限りは基本的には外形を保つための、ガラスエポキシや紙フェノールといった材質のた
だの空間である。つまり、高周波回路において GND 配置などを考慮しなければならないシ
ビアな設計を要求する基板でない限り、今までは無駄に使用される空間となっていた。そ
のような空白部分を利用してキャパシタを実装することは従来無駄にしていた空間の再利
用を可能とし且つ従来のバッテリースペースを削ることを可能とする。
図 3 .本提案に使用できる空間
3.2 現実的な実装方法
3.1 で示したキャパシタを実装するために以下のような仕組みをとる。
1)基板のレイヤー間にある空間に微細なキャパシタを敷き詰める
2)各キャパシタ間は並列接続されている
3)スルーホール周りのキャパシタは基板加工時に削除される仕組みをもうける
4)キャパシタの端子は隣接したキャパシタを一つととらえ、まとまりごとに 2 端子でパ
ターンに接続できるようにする。
まず、この提案の基礎となることは図 4 のように微細なキャパシタを基板の空間内に実
装し図 5 のようにパラレルに接続することである。あとはエッチング処理されたときにス
ルーホールとして利用されない部分だけキャパシタが残って他の部分は自動的にキャパシ
タモードが回避されるようになっている必要がある。一般的な PCB の化学処理の際にスル
ーホールの周囲のキャパシタのみ並列に接続されているキャパシタの接点が溶解する用に
設計する。また、キャパシタをパターンに接続する必要があるが、これは各キャパシタの
まとまりに対して 2 つの端子を出せるような考慮をしなければならない。これは、基板設
計の時点からこの基板を利用する前提で設計してもらう必要がある。
図 4 .基板にキャパシタを実装した様子
図 5 基板を上面から見た状態。各キャパシタは接触しており並列に接続される
3.3 本提案における解決すべき課題
・スルーホールの周囲のみキャパシタを回避する方法
・高容量の確保
の以上 2 点が本開発を行う際に解決していかなければならない課題であろう。
3.4 技術的な問題
以上のような実装をする際に回避丌可能な課題は以下のようになると考えられる。
本提案の使用可能な領域は
・一般的な基板を利用した回路
となり、本提案の使用丌可能な領域は
・高周波回路を実装している基板周り
・フレキシブル基板上の回路
となると考えられる。
4、本提案の有効な領域
4.1 社会的に利用可能な領域
実際基板間に実装できるキャパシタの容量に現在の携帯電話などで使われているような
リチウムイオン電池の代わりをしろというのは無理がある。今現在で、現実的なことを考
えれば、内蔵時計や家電製品の液晶表示部などのバックアップバッテリーが妥当な線とし
て使用することが可能であろう。しかし、低容量だがスペースをとらない物がこれからの
モバイル機器のあり方の変動により重要な地位を示す可能性が高い。はじめの章で説明し
たように、今後は無線給電システムが普及し製品は常時充電可能なデバイスへと進化する。
そこで、本提案のバッテリーが生きてくるのである。スペースをとらずにバッテリーを
実装できると言うことはモバイル製品にとっては大きなメリットである。現代ではバック
アップ電力程度にしかならなしかなりえないのが問題だが、長期的なスパンで考えれば
様々な電子機器にとって確実に有効なデバイスとして生きてくるだろう。
4.2 市場
本提案が市場に対して受け入れられやすい要素として
1) 既存の設計システムを変更しない
2) 過去の基板データなどを流用しほとんど設計変更なしで基板データを利用できる
3) スペース削減によって設計者の自由度をあげるサポートをする
などが考えられる。これらは、どれもこのデバイスの有効性さえ証明できればスムーズな
市場への参入を可能とすると考えられるものである。
5、技術的な実用化のプロセス
本提案を実用化するための流れとしては以下のようになるだろう。
1) キャパシタを基板内に実装する技術の開発研究。
2) 低消費電力製品への実装
3) 容量、耐電圧及びコストの削減
4) 無線給電システムに最適化した技術の開発研究
実際に本提案のデバイスが本領を発揮するのは前述のようにだいぶ先になる可能性は高
い。しかし、現在でも十分有効なデバイスである。例えば、現在バックアップバッテリー を
利用しているような電子機器やデジタルのソーラー時計など低消費電力で実装できるもの
の参考アプリケーションを設計する。それによって、バッテリーとしての信頼性、有用性
を証明し来たる時に備える。いざ、無線給電のシステムが普及し実用レベルになれば本提
案のキャパシタは共に現実的なバッテリーの選択肢の一つとして採用が進むであろう。
6、既存製品との違い
既存の製品として基板にキャパシタを埋め込むというシステムは既に存在する。
その特徴としては
・キャパシタを基板の中に埋め込む
・薄膜キャパシタを基板に埋め込む
という物であった。これらは以下のような問題があり本提案ではそれらを解決する。
従来
問題
キャパシタを基板の 部品としてしか
中に埋め込む
使用できない
薄膜キャパシタを基 基板設計に制約
板に埋め込む
を与える
本提案
単体のキャパシタを埋め込むので
なく並列化することで容量を確保する
キャパシタの端支部以外は制約を与えない
従来の物は、キャパシタをパスコンなどに使うための部品として実装する程度にとどま
っており、将来的に有効に活用されるようなバッテリーにはなり得ない。また、薄膜キャ
パシタは大容量を目的としているがそもそも基板設計の段階からキャパシタが埋まってい
ることを考慮しなければならない。
これに対して今回の提案ではあくまでバッテリーとなり得るものの研究開発を提案する
物である。さらに、基板設計の自由度もキャパシタの端子部分以外は制約を不えない。
7、まとめ
電子機器がいわゆるモバイルという世界に踏み込んだときからバッテリーの存在は電子
機器から切っても切れない関係を続けてきた。それは、今後も当分変わることはないだろ
う。しかし、バッテリーを持つということはそれだけバッテリーの体積分だけスペースを
とってしまうとういう問題がある。モバイルというデバイスにおいて最も考慮しなければ
ならないのは大きさと、バッテリーの持続時間であろう。つまり、これまではスペースと
持続時間はトレードオフにならざるを得ない関係であった。今回の実装ではいままでの技
術から考えればバッテリーを導入する際に必要な面積が実質 0 であるという大きな革命を
達成することができる。また、将来的なことを考えれば今回のような技術が完成すればモ
バイル機器の運用に必要十分なバッテリーを提供することもできるだろう。この技術はモ
バイル製品というものに対してイノベーションを起こすことを可能にする。