キャピラリーゾーン電気泳動法による環境水中ピリジンの分析 服部 考成,福士 惠一 (神戸大学大学院海事科学研究科) キャピラリー電気泳動法(CE)は液相における分離分析法である高速液体クロマトグラフ ィーやイオンクロマトグラフィーにはない高い分離能を有し,分析所要時間も短く,必要な 試薬や試料量の少ない環境に優しい分析法である.溶液中で電荷をもつ分析目的成分は電場 中において,電荷の種類により陽陰いずれかの電極方向へ電気泳動する.CE において最も一 般的な分離モードであるキャピラリーゾーン電気泳動法(CZE)では,分析目的成分は電気 泳動移動度の違いによって分離される.一方,電荷をもたない中性成分の分離には,泳動液 中ミセルとの相互作用を利用するミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)という分離モー ドが使われる.MEKC においては,キャピラリーに充填する泳動液に臨界ミセル濃度以上の イオン性界面活性剤を添加し,生成されるミセルを疑似固定相とすることで,中性成分の分 離を可能にする.泳動液に添加する界面活性剤の種類・濃度,有機溶媒の種類・割合等によ り分離の選択性が変わる.MEKC による PCB の分析では,図 1 に示すようにミセルを含む泳 動液にシクロデキストリン(CD)を添加することで, PCB とミセルあるいは CD との相互作用を利用し, PCB のキラル分離が可能となる(CD-MEKC)1) 2). CE は,前述のようにキャピラリー内に注入可能な 試料量が少量(nL レベル)であり,濃度感度が低い という問題点がある.我々が開発したカウンターイオン 図 1. CD-MEKC による PCB の分離 増 幅 電 気 的 注 入 法 ( Counter-ion boosted electrokinetic injection(EKI))は,中性試料溶液で電気泳動しにくい アミノ酸や弱電解質成分を泳動液中のカウンターイオ ンの働きにより,効率的に電気的注入させる方法で,こ れらの成分の高感度分析を可能にする 3).図 2 に示すよ うに,両性イオン(A1±)や弱電解質(A2)の分析目的 成分を電気的注入する際,泳動液中のカウンターイオン (Cl-)が試料バイアルに移動して試料の pH が変化し, その結果,分析目的成分の移動度が増大し試料を効率的 図 2. Counter-ion boosted EKI 法の原理 に注入できる.発表では,ピリジンを含む試料の真空吸 引法及び Counter-ion boosted EKI 法による分析例及び環 境水中ピリジン分析への応用例を紹介する. 【参考文献】 1) S. Terabe et al: J. Chromatogr. A., 516, 23 (1990). 2) W.-C. Lin, F.-C. Chang, C.-H. Kuei: J. Micro. Sep., 11, 231 (1999). 3) T. Hattori, K. Fukushi, T. Hirokawa: J. Chromatogr. A., 1326, 130 (2014).
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