イラク最新動向: - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

イラク最新動向:
クルド自治政府との間で原油輸出
に関し合意
2015年2月19日(木)
増野 伊登
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好調に伸びるイラクの生産量
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2014年12月の輸出量294万b/dは2003年以降の最高記録
(南部輸出量276万b/dも過去最高記録)
しかし2015年1月の南部輸出量は、悪天候で
6日間出荷作業が停止し、240万b/dに減少
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生産量の変動につながる主要なファクター
●治安状況
●南部油田の生産
●南部におけるインフラ整備の遅れ
●クルド自治区における生産
●輸出に関するイラクとクルドの合意
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出所:Institute for the Study of War
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2015年2月2日現在
●ISILの活動はクルド以
南の北西部地域が中心
●北部では米主導の空
爆作戦が進行中。キル
クーク油田周辺はクル
ド自衛軍の防衛下
●今のところ、生産量
の9割を産出する南部
への影響は限定的
各種情報を基にJOGMEC作成
主要生産地帯
ファオ
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南部油田の増産見込み
主力生産油田
①ルメイラ:130万b/d
②西クルナ1:40万b/d
③ズベイル:30万b/d強
→南部生産量の半分以上
今後は、30万b/d強を生
産する西クルナ2(2014年3
月に生産開始)が増産を牽引
2015年には300万b/d台
を維持し、2016年以降も
伸びていくと見られる。
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バスラ・ライトの重質化問題
しかし新たな問題が浮上・・・
ここ数年で、西クルナ油田、ミサン油田、ハルファヤ油田から産出され
る原油の一部のAPI比重が、かつての33~34゜から28~31゜に。最近で
は27゜さえ下回るようになった。
油田名
API
西クルナ油田
26゜
ミサン油田
22~24゜
ミサン油田の生産能力は1万b/d、ハルファヤは2~3
万b/d減少したとも言われ、今後の動向が注目される。
各種情報を基に作成
➣引き取りを拒否するバイヤーも?
→輸出量の減退が生産量の抑制につながる恐れ
ただし価格引き下げなどの対応で新バイヤーの開拓は容易との見方もあり
➣IOCに対する現物での報酬払いに及ぼす影響も懸念される
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南部におけるインフラ整備の遅れ
➣ファオにおける貯蔵タンク増設事業の遅れ
・500万バレルの拡張計画
・計画16基中、稼働しているのは4基のみ
➣油田圧入用の海水輸送インフラ不足
イラクの出荷能力は、3基目となるSPM(一点係留ブイ)の稼働開始に
伴い、名目上は500万b/d近くに膨れ上がっているはずだが・・・
現状は300万b/dを下回るレベル
中期的には、北部でのISILの勢力拡大よりもむしろ、南部油
田のインフラ整備こそが増産目標における最大の障害となる
(IEA 2014年7月Oil Market Report)
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南部出荷施設の概要
イラク南部の原油出荷系統図
バスラ・オイルターミナル
コール・アル・アマヤ・オイルターミナル
既存出荷施設(約170万BD出荷)
←今後増設予定
←稼働中のSPM
←稼働中のSPM
←稼働中のSPM
新設SPM
円借款にて事業実施中
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【参考】SPMとは?
SPM(Single Point Mooring:一点係留方式の洋上原油輸出設備)
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油価の下落が国家歳入を直撃
油価下落による国家歳入の減少が、インフラ事業に与える
影響は・・・
➣IOCに対する報酬金支払い
が滞るとの懸念が高まる
↓
コスト回収が困難に
緊急性の低い事業を延期す
ることでコスト削減を狙う
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クルド自治区における増産
●約50社の外資企業が参入
ExxonMobil、Chevron、Total、Genel
Energy、DNO、Gulf Keystoneなど
●生産量
2008年以降好調な伸び
2014年1‐8月は30万b/d弱
現在は約30‐40万b/dと見られ、
2015年は50万b/dに到達?
●輸出量
2014年第1四半期は5.7万b/d
同年4‐9月は10万b/d弱‐20万b/d辺りで推移
同年12月のPLによる輸出量は約40万b/dに達する勢い
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イラクとクルドの合意①
➤2014年9月に新内閣発足
親クルド派のマハディ氏(シーア派)が石油大臣に就任
出所:マハディ石油大臣公式HP
➤11月13日 暫定合意を締結
マハディ大臣がエルビルを訪問、クルド自治区のバルザーニ首相と会談
①クルド自治区が、イラク政府に対し15万b/dの原油を引き渡す
②その見返りとして、イラク政府がクルド自治区に5億ドルを支払う
出所:クルディスタン地域政府公式HP
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イラクとクルドの合意②
➤12月2日 包括的な合意
出所:クルディスタン地域政府公式HP
バルザーニ首相がバグダードを訪問、イラク政府アバディ首相と会談
①クルド自治区がイラク政府に少なくとも25万b/dの原油を引き渡す
②キルクーク油田からの30万b/dを、イラク石油輸出公社SOMOを介
し、クルド自治区のパイプラインで輸出
③イラク政府は、国家収入の17%をクルド自治区に配当
④イラク政府は、クルド自衛軍に国防予算の一部(10億ドル)を配当
合意に基づき、2015年1月より、イラクの輸出量は25万b/d(将来
的には55万b/d)増加する見込み
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しかし課題も残る
以下の点については両者の見解に隔たり
①輸出権限
25万b/dを超える輸出から得られた収入について、配分方
法は取り決められていない
②キルクークおよび周辺油田の帰属問題
Avana DomeとBai Hassan油田はクルド自治政府が占領中
③石油開発費用
クルド自治区における開発コストの支払いをどちらが受け
持つべきか、見解の一致を見ていない
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2月15日に協議が行われたが・・・
シャハリスターニ前副首相
マハディ石油大臣
アバディ首相
出所:クルディスタン地域政府公式HP
バルザーニKRG首相
ハウラミKRG天然資源大臣
“During the meeting, it became apparent that due to the financial crisis in Iraq and the lack of liquidity, the Iraqi government is unable to pay the Kurdistan Region’s share of January and February from the federal budget.” (クルド自治区政府HP)
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地域別に見たイラクの生産見通し
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直近の生産実績は見通しを下回る
2015年のIEA中期報告によれば、
2020年の生産見通しは470万b/d
実際の生産量(クルド含む)
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各種情報を基に作成
まとめ
●治安状況
特に北部において下振れ要因となる懸念があるが、もし状況が改善され
れば、キルクーク油田の増産につながる可能性あり。
●南部油田の増産
西クルナ2が生産増を牽引していくと見られる。
しかし、一部油田の重質化問題で輸出が減退する可能性も。
●南部における出荷能力問題
インフラ整備が進捗すれば上振れ要因となり得るが、油価下落による設
備投資の停滞を受け、当分現状維持の可能性も高い。
●クルド自治区における増産
投資が維持され、自治区内の出荷網強化が進めば、更なる増産の可能
性あり。しかし、イラク政府との関係がネック。
●輸出に関するイラクとクルドの合意
イラク・クルド関係の良化・悪化により、上振れ要因とも下振れ要因とも
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なり得る。