分子内にカルボキシレートを持つ求核触媒の創製と触媒活性

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分子内にカルボキシレートを持つ求核触媒の創製と触媒
活性
古田, 巧
京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステム研究
成果報告書 (2014), 2014: 9-10
2014
http://hdl.handle.net/2433/186413
Right
Type
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Article
publisher
Kyoto University
平成25年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
分子内にカルボキシレートを持つ求核触媒の創製と触媒活性 Synthesis and catalytic activities of DMAP catalysts with an internal carboxylate
京都大学化学研究所
物質創製化学研究系 精密有機合成化学研究領域 古田 巧
背景と目的
DMAP (1) と酸無水物 2 を組み合わせるアルコールのアシル化
Scheme 1
Me
は代表的な求核触媒反応で、エステル合成に広く用いられている。
この反応ではまず DMAP と酸無水物との反応によりアシルピ
RCOOR'
+
RCOO H-B
Me
核攻撃でエステルが生成するが、その際 3 のカウンターアニオ
N
O
Me
Me
R
4
されている (Scheme 1,TS-A)。本触媒反応の律速段階は、このア
N
Me
O
N
O
3
O
R R'
TS-A
で水酸基を脱プロトン化することで、反応を促進していると推測
R
O
H
N
O
O
2
N
1
O
ンであるカルボキシレート 4 が一般塩基として働き、遷移状態
Me
R
B:
リジニウムイオン 3 が生成する。次いで 3 へのアルコールの求
N
O
3
O
R
4
R
R'OH
ルコールの求核攻撃にあることから、活性化に寄与するカルボキ
シレートの塩基性や遷移状態での位置がアシル化の結果に影響を及ぼすと考えられる。実際にアシル
化剤として塩化アセチルを用いるより、塩基性の強いカルボキシレートを生じる酸無水物を用いる方
が、より速くアシル化が進行することが知られている。
当研究室では、官能基化した求核触媒
(iPrCO)2O
Scheme 2
6 によるグルコース誘導体 7 の 4 位
第二級水酸基選択的アシル化を開発して
いる。本反応ではアシル化剤として酸無
水物を用いることが重要で、酸塩化物を
HO 6
4
O
HO
OC8H17
HO
2
3 HO
7
C8H17O
H
N
H
N
OC8H17
N
HN
O
NH
O
N
6 (10 mol%)
2,4,6-collidine, CHCl3, –20 °C
iPrCOCl
用いると 4 位選択性は低下し、6 位アシ
O HO
4
O
HO
O
OC8H17
HO 8
97%
6-O : 4-O : 3-O : 2-O
(0 : 98 : 2 : 0)
O
6
O
iPr
O
OC8H17
HO
HO
HO 9
47%
6-O : 4-O : 3-O : 2-O
(60 : 35 : 5 : 0)
iPr
O
O
ル化体 9 が主生成物となる (Scheme 2)。
この結果は、カルボキシレートがアシル化の効率のみならず位置選択性にも影響を及ぼすことを示し
ている。
このようにアシル化反応の鍵となるカルボキシレートであるが、一般塩基として働くその存在位置
は、これまで実験的に解明されていなかった。今回、遷移状態 (TS-A) でのイオンペアの相対位置と
距離の制御を目的に、ピリジン環とカルボキシレートを種々のスペーサーで連結した触媒 10a-13a
(Figure 1) を設計、
Figure 1
合成した。これらの
Me
N
nBu
Me
触媒活性を評価する
ことで、アシル化反
応に寄与するカルボ
N
N
N
Me
O
nBu
N
Me
4N
COO
Me
N
Me
nBu
N
4N
COO
Me
4N
COO
Me
N
Me
N
Me
COO
N
O
11a
10a
キシレートの位置を明らかにすべく研究を行った。
9
12a
13a
nBu4N
検討内容・結果
触媒活性は、無水酢酸 10 当量を用いる擬一次反応条件下 (Scheme 3)、
Scheme 3
OH
cat (5 mol%)
Ac2O (10 equiv)
シクロヘキサノールのアセチル化の反応速度で評価した。ビフェニル
型触媒 10a の場合、対応するメチルエステル 10b と同等の活性を示
OAc
Et3N (3 equiv)
CDCl3, 20 °C
(0.05M)
し、カルボキシレートによる加速効果は見られなかった (k10a = 1.2 x
10–2 min–1, k10b = 1.2 x 10–2 min–1; k10a/k10b = 1.0) (Figure 2a)。またカルボキシル基を持たない 10c も含め、
これらの触媒は DMAP に比べ活性が低いことから、DMAP 3 位への置換基導入は触媒活性の低下を招
くこともわかった。一方、ナフタレン環上にカルボキシレートが直結した 11a は、対応するメチルエ
ステル 11b や、置換基を持たない 11c に比べ高い活性を示した (k11a = 1.3 x 10–1 min–1, k11b = 1.0 x 10–2
min–1; k11a/k11b = 13, k11c = 1.4 x 10–2 min-1; k11a/k11c = 10) (Figure 2b)。またその触媒活性は、DMAP と同程
度まで向上することがわかった。触媒 10a と同様、DMAP 3 位に置換基を持つ 11a は、本来触媒活
性が低下する構造を持つ。それにも関わらず DMAP と同程度の活性を示すことは、ペリ位のカルボ
キシレートが触媒活性の向上に寄与していることを如実に表している。
よ び 13a に
Figure 2
(a) 3.0
2.5
の触媒活性を
比較したが顕
著な差は見ら
–ln(1–conv.)
エステル体と
10b
DMAP
ついても、対
応するメチル
(b) 3.0
N
Me
N
Me
2.5
3
10a
10b
10c
1.0
N
Me
0.5
0
50
100
150 200
(min)
250
Me
N
Me
11c
COOMe
2.0
1.5
N
11b
11a
N
Me
3
300
–ln(1–conv.)
触 媒 12a お
COOMe
2.0
10c
DMAP
1.5
11b
N
1.0
Me
N
Me
0.5
0
50
10c
れず、これら
100
150 200
(min)
250
300
11c
の分子内カルボキシレートは活性の向上に寄与しないことも明らかにした。 高い触媒活性を持つ 11a に由来する N-アセチルピリジニウムイオンの立体構造を DFT 計算
{B3LYP/6-31G(d)} で求めた (Figure 3)。その結果、分子内のカルボキシレートは、ピリジニウムイオ
ンの真上に位置し、これら両官能基は向かい合って近傍に固定されていることがわかった(カルボキ
シル基炭素−ピリジン 3 位:2.8 Å, カルボキシル基酸素−N-アセチル基炭素:3.7 Å)。すなわち、ピリ
ジン環上約 2.8 Å の距離にあるカルボキシレートは一般塩基として機能し、遷移状態 (TS-B) でアル
コールを活性化することでアシル化を加速すると考えら
Figure 3
2.8 Å
れる。
O
以上の検討から、DMAP 触媒アシル化において、反応
加速に寄与するカルボキシレートの位置を明らかにする
ことが出来た。本研究は求核触媒の活性をカルボキシレ
Me
3
O
Me N H
3.7 Å
N
TS-B
O
R
O
Me
ートの位置で制御できることを示しており、触媒設計の観点からも有用な知見と考えられる。
参考文献
Nishino, R.; Furuta, T.; Kan, K.; Sato, M.; Yamanaka, M.; Sasamori, T.; Tokitoh, N.; Kawabata, T.
Angew. Chem. Int. Ed. 52, 6445-6449 (2013).
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