論 氏 名 学位論文の 題 目 1 2 3 4 文 内 容 要 梶ヶ谷 徹 旨 提出年 平成 25 年 Variational problems of Lagrangian submanifolds in Kähler manifolds (ケーラー多様体におけるラグランジュ部分多様体の変分問題) 論 文 目 次 Introduction A survey of Hamiltonian minimal Lagrangian submanifolds in Kähler manifolds and Hamiltonian stability 2.1 H-minimal Lagrangian submanifolds 2.1.1 Hamiltonian deformations 2.1.2 H-minimal Lagrangian submanifolds 2.2 Hamiltonian stability 2.2.1 Stability criterion 2.2.2 H-stability of minimal Lagrangian submanifolds in certain generalized flag manifolds 2.2.3 Real forms in Hermitian symmetric spaces 2.2.4 H-stability of parallel Lagrangian submanifolds in Cn and CPn 2.3 H-minimal Lagrangian submanifolds in Kähler manifolds with symmetries 2.3.1 Moment maps and G-invariant isotropic submanifolds 2.3.2 Homogeneous Lagrangian submanifolds in the complex hyperquadric Qn(C) and isoparametric hypersurfaces in Sn+1(1) 2.4 Hamiltonian volume minimizing problem 2.4.1 Hamiltonian volume minimizing property 2.4.2 The case RPn in CPn 2.4.3 Real forms in Qn(C) Hamiltonian minimality of normal bundles over the isoparametric submanifolds 3.1 Preliminaries for normal bundles in TRn+k 3.2 H-minimality of the normal bundle over an isoparametric submanifold 3.2.1 Lemmas on isoparametric submanifolds 3.2.2 Isoparametric hypersurfaces in Rn+1 3.2.3 Isoparametric hypersurfaces in Sn+1(1) 3.2.4 Principal orbits of s-representations 3.3 Main theorem 3.4 Non-complete examples On the minimality of normal bundles and austere submanifolds 4.1 Preliminaries 4.1.1 Tangent bundles and the Sasaki metric 4.1.2 Lemmas in the general setting 4.2 On the minimality of normal bundles in tangent bundles of the real space forms 4.3 Unit normal bundles 4.4 On the minimality of normal bundles in the tangent bundle of the complex space form A A.1 Special Lagrangian submanifolds A.2 Proof of Lemmas in Chapter 3 A.2.1 Proof of Lemma 3.2.9 A.2.2 A lemma for a basis of a root system A.3 Some properties of D-homothetic deformations B Tables 論 文 要 旨 リーマン多様体の部分多様体に対し, その体積に関する変分問題は, 古くから興味深く重要な問題で ある. 本博士論文では, ケーラー多様体におけるラグランジュ部分多様体の体積に関する変分問題につ いて論じる. 実 次元シンプレクティック多様体 の 次元部分多様体 がラグランジュであるとは, シン プレクティック形式ωの 上への制限が消えるときを言う. 以下, をωと両立する複素構造 をもつケーラー多様体とする. のラグランジュ部分多様体の外在的性質は, これまで様々な形で調べ られてきた. 例えば, Calabi-Yau 多様体上の複素体積要素 に関して, によりキャリブレー トされるラグランジュ部分多様体はホモロジー類内で体積最小という顕著な性質を持ち, phaseθの特 殊ラグランジュ部分多様体とよばれる. しかし, 一般のケーラー多様体には, このようなよいキャリブ レーションが定義できると限らないため, 体積最小性を持つラグランジュ部分多様体の例はほとんど知 られていない. 一般にケーラー多様体のラグランジュ部分多様体は, ハミルトンフロー, すなわちハミルトンベクト ル場の生成するフローによりラグランジュという性質が保たれる. そこで, ハミルトンイソトピーの中 で体積を最小化する(または, 最適な代表元としての)ラグランジュ部分多様体を考えることは自然であ る. 特殊ラグランジュ部分多様体は当然この性質を持つが, 一般には各ハミルトンイソトピー類に常に 極小部分多様体が存在するとは限らない. そこで, 極小部分多様体の一つの拡張として, ハミルトン極 小( H-極小)の概念を導入する. ラグランジュ部分多様体 の無限小変形を考える. その変分ベクトル場が, ハミルトンベクトル場に なるとき, それをハミルトン変形とよぶ. すべてのハミルトン変形のもとで, 体積汎関数の第一変分の 停留値をとるものをハミルトン極小(H-極小)と呼ぶ. また, その第二変分が非負になるものを H-安定と 呼ぶ. さらに, 上のあらゆるハミルトン微分同相 のもとで, を満たすとき, を H-体積最小と呼ぶ. これらの概念は, 90 年代に Y.G.Oh により導入され, 研究され始めた. 例えば, 複 素射影空間 内の実射影空間 は H-体積最小である. しかし, H-体積最小性を持つラグランジュ 部分多様体の他の例は 2, 3 を除き, ほとんど知られていない. H-体積最小ならば H-極小, H-安定である ため, H-極小な具体例や安定性の判定法を数多く発見することが最初の課題となる. 第2章では, H-極小ラグランジュ部分多様体に関する既知の事実と具体例を簡潔に紹介する. 特に, コンパクト型エルミート対称空間のラグランジュ部分多様体について知られている事実を多く述べる. ケーラー多様体のコンパクト等質ラグランジュ部分多様体は常に H-極小であり, その H-安定性は調和 解析を用いて詳しく調べられている. 等質ラグランジュ部分多様体の分類問題は H-体積最小化問題の 観点からも重要であるため, 既に知られているいくつかの分類結果についてもまとめた. 最も単純な Calabi-Yau 多様体である複素ユークリッド空間 においても, 多くの H-極小や H-安定 なラグランジュ部分多様体の族が知られているわけではない. ここでは, ラグランジュ部分多様体が極 小であることと特殊ラグランジュであることは同値である. 標準的なトーラス や, 既約な対称 R 空 間の への標準埋め込みが極小でない H-安定な H-極小ラグランジュ部分多様体の例として知られて いる. そこで第3章では, 複素ユークリッド空間 内に, 非コンパクト完備な H-極小ラグランジュ部分多 様体の新しい族を構成する. を標準的な内積を持つ実ユークリッド空間 の部分多様体とする. の接束 には, と同一視することにより Kähler 構造が入る. この同一視のもと, の法 束 は のラグランジュ部分多様体になることが知られている. Harvey- Lawson は, 法束 が ある phase の特殊ラグランジュであることの必要十分条件が, の(点 における 方向の)形作用素の 固有値 が, 任意の に対し, 倍不変になることであることを示し, そのような を austere 部分多様体と呼んだ. 極小曲面や複素部分多様体が典型的な例であるが, 具体例を含め多くの ことが知られているわけではない. このことについては, 再び第4章でも触れる. 本論文では, 法束の構成法を用いて, H-極小ラグランジュ部分多様体の族を次のように与えた: 主定理 1. をコンパクト半単純 Lie 群とし, をその Lie 環とする. を の随伴作用に関する 内の主軌道とすると, の法束 は 内の H-極小ラグランジュ部分多様体になる. ここで, 主軌道 ( は 上の 1 点)は等質多様体 ( は の極大トーラス)に微分 同相であり, それは, 複素旗多様体または C-space と呼ばれる. また, の法束 は自明なベクトル束 と同相になる. は極小でもなく, 平行な平均曲率ベクトルも持たない. 一方, 主軌道 は等径部分多様体の例としても知られている. ここで, 等径部分多様体を 次で定義する. (i) 上の区分的滑らかな曲線上の任意の平行な法ベクトル場に沿って形作用素の固有値 が一定である, (ii) は平坦な法束を持つ . 等径部分多様体は, その余次元により次のクラスに分かれることが知られている: のとき: . のとき: 超球面内の等径超曲面. 例えば, 等質超曲面(階数 2 リーマン対称空間の線形イソトロ ピー表現の主軌道), OT-FKM 型等径超曲面(非等質なものを無数に含む). 分類は未完. のとき: s-表現(リーマン対称空間の線形イソトロピー表現)の主軌道. これら等径部分多様体のうち, 法束が H-極小になるのは, 本質的に主定理 1 で与えた例だけである ことも示した. 主定理 2. を 内の full かつ既約な等径部分多様体とする. このとき, 法束 が 内で H-極小となる必要十分条件は, があるコンパクト単純 Lie 群の随伴作用による主軌道になるこ とである. これらの定理の証明には, 等径部分多様体論(特に, 球面内の等径超曲面論)および対称空間論を用い る. さらに, これ以外の例を, 球面内の等径超曲面の錐の法束で H-極小性を持つものを分類することに より与えた. 一般のリーマン多様体 に対し, その接束 の構造については様々なことが知られており, ユーク リッド空間のaustere部分多様体 と特殊ラグランジュ法束 との関係を示すHarvey-Lawsonの結果 はいくつかの場合に拡張されている. 例えば, Stenzelは階数1のコンパクト型対称空間 上の余接束 上にRicci-flatなKähler計量 を構成したが, Karigiannis-Min-Ooは, の場合に 内の austere部分多様体 を, その余法束 が 内のあるphaseの特殊ラグランジュ部分多様体 になることとして特徴付けた. しかし, 一般のリーマン多様体のaustere部分多様体に対しては, 幾何学 的な解釈や性質, 応用はほとんど知られていない. 第4章では, Harvey-Lawsonの結果や主定理1, 2を動機として, 一般のリーマン多様体 の部分多様 体 に対し, 「佐々木計量 を伴う接束 の法束 」を考えることで, の外在的性質と の austere性などとの関連を調べてまとめた. ここで, には計量と両立する自然な概Kähler構造 を入れる. このとき, 上のシンプレクティック構造は, 余接束 に入る標準的なシンプレクティ ック構造と計量を通じて同一視できる. 始めに が単連結対称空間のとき, が 内で全測地 的であることは が鏡映部分多様体であることと同値であることを示した. 次に, 一般の場合に の 平均曲率形式を導出し, の極小性と の性質との関係を調べた. 例えば, Harvey-Lawsonの結果を が実空間形の場合に拡張して, の極小性と のaustere性が同値であることを示した. この系とし て, austere部分多様体から への極小ラグランジュはめ込みが得られる. が非平坦な複素空 間形のときは, 全測地的部分多様体, 複素部分多様体, austere Hopf超曲面などが極小法束を持つが, 一 般にはaustere性は の極小性にとって十分条件ではない. 例えば, が実曲面の場合, が極小にな ることは, が全測地的であるか複素曲線であることと同値である. 今後は, 佐々木計量を伴う 内の法束と, Stenzel計量を伴う 内の余法束の性質の間に類似点があることに着目し, 以上の考察を, Stenzel計量を伴う余接束 の特殊ラグランジュ部分多様体の研究に応用させること を目指している. 論文審査の結果の要旨 梶ヶ谷徹氏の学位論文の主たる成果は,ケーラー多様体の部分多様体の体積変分問題において重要な役割を 持つ H-極小ラグランジュ部分多様体の構成である. ケーラー多様体の複素部分多様体は常に体積が安定極小であるという著しい性質を持つ.他方,ラグランジ ュ部分多様体は「全実」とよばれるように,接空間が複素構造で法方向に移され,複素部分多様体とは対極 的特徴付けをもつ. よってラグランジュ部分多様体の極小性については,特殊な場合を除き存在を含め明 らかではない.例えば複素射影空間においては,安定極小なものは複素部分多様体に限られ,ラグランジュ 部分多様体ではあり得ない.従って体積極小性の定義を弱め,ハミルトン変形のみの下での体積極小となる ラグランジュ部分多様体を H-極小ラグランジュ部分多様体,更にその体積の第2変分が非負のときに H-安 定とよび,研究対象とする. H—極小ラグランジュ部分多様体の例はエルミート対称空間の実型がその主たるもので,多くは知られていな い.梶ケ谷氏は球面 Sn の等径超曲面 M を Rn の部分多様体ととらえ,その法束が H-極小になる場合を調べ, 主曲率の重複度が 2 となる事実を得た.このとき M がすべて複素旗多様体となる事から,他の複素旗多様体 (単純リー群のリー環における随伴主軌道)についても法束を調べた所,これらもすべて H-極小になる事 が示された.更に,s 表現とよばれる対称空間に付随する表現の軌道で法束が H-極小になるものはこれらに 限る事を示した.手法は s 表現の解析で,主曲率に対応するルートのルート空間の次元が2である事と法束 の H-極小性が対応づけられた. 一般のリーマン多様体 M の接束 TM にも自然なシンプレクティック構造が入ることから,よい計量を入れる ことで上記の議論が拡張される.例えば Sn の接束 TSn に Stenzel 計量を入れて Sn の部分多様体の法束の H極小性が考察できる.更には複素空間形においても部分多様体の法束が H-極小になる場合の特徴付けに言 及した. 既に取り組み始めている次の課題は H-安定性の評価である.これは Jacobi 作用素の固有値と固有空間の考 察を要するが,複素旗多様体の法束に限れば表現論が使えるので今後の展開が期待される. 以上の成果は,自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力と学識を有することを示している.し たがって,梶ヶ谷徹氏提出の博士論文は,博士(理学)の学位論文として合格と認める.
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