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ニッセイ基礎研究所
基礎研
レター
2015-03-16
介護経験の有無別にみた
自分の介護のための準備状況
村松 容子
e-mail: [email protected]
保険研究部 研究員
1――はじめに
高齢期において、
「自分自身の介護」は不安事項の1つだ。生命保険文化センターの「平成 25 年度
生活保障に関する調査」によると、自分の介護に対する不安を持つ人の割合はおよそ9割1となってい
る。しかし、ニッセイ基礎研究所が 50~69 歳の人を対象に実施した高齢期をテーマとするアンケー
ト調査2において、老後の生活設計を行う上で考慮に入れたことを尋ねた結果、
「自身の介護」を考慮
に入れた割合は、
「健康維持・管理」
、
「生きがい・過ごし方」
、
「収入・支出」
、
「資産・負債」
、
「住まい」
を考慮に入れた割合と比べて低かった(図表2参照)
。69 歳までの人にとって、自分自身の介護は、
やや遠い話のようだ。この結果を、これまでに介護経験がある人と介護経験がない人で比較すると、
介護経験がある人は、
「自身の介護」を含めて多くの項目を老後の生活設計を行う上で考慮に入れてい
た。
そこで、現在の生活設計状態や介護についての準備状況を介護経験の有無による差に注目して分析
をした。
2――自分自身の介護についての準備状況
1|「自分自身の介護」について、介護経験がない人はあまり考えていない
まず、
「老後の生活設計」を行っているのは、介護経験がある人では、
「具体的に立てている」が 5.1%、
「漠然と考えている」が 53.0%、
「特にしていない」が 42.0%となっている。一方、介護経験がない
人では、それぞれ 2.3%、40.6%、57.1%となっている。
「生活設計をしている人(
「具体的に立てて
いる」と「漠然と考えている」の合計とする。
)
」は、介護経験がある人が 58.0%であるのに対し、介
1
2
生命保険文化センターの「平成 25 年度生活保障に関する調査」によると、自分の介護に対して不安感がある割合は男女
とも 30 歳代以上でおよそ9割を超える。そのうち、
「非常に不安を感じる」の割合は、50~60 歳代男性で 30%、女性で
40%を超える。
2014 年6~7月実施した調査で、対象は全国の 50~69 歳の男女個人。サンプル数は、介護経験ありが 2047 サンプル、
介護経験なしが 1005 サンプル。
1|
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護経験がない人は 42.9%と、およそ 15 ポイントの差
図表1 老後の生活設計の有無
があり、介護経験の有無によって、老後の生活設計実
0%
施割合は大きく異なる(図表1上)
。
介護経験あり
(N=2047)
性別、年代別に詳しくみると、介護経験の有無によ
10%
20%
30%
5.1
介護経験なし
(N=1005)
介
護
経
験
あ
り
介
護
経
験
な
し
護経験がない中では、女性と 60~69 歳で「生活設計
をしている人」がやや高い(図表1下)
。
つづいて「生活設計をしている人」を対象に、生活
設計をする際に考慮した項目を尋ねた3結果、すべての
60%
70%
80%
90%
100%
42.0
40.6
57.1
具体的にたてている
比べて、それぞれ生活設計をしている割合が高い。介
50%
53.0
2.3
らず、女性は男性と比べて、60~69 歳は 50~59 歳と
40%
漠然と考えている
特にしていない
全体
生活設計
特にしていな
N
をしている 具体的にた 漠然と考え
(%)
い
計
てている
ている
2047
58.0
5.1
53.0
42.0
男性
1130
57.0
5.8
51.2
43.0
917
59.3
4.1
55.2
40.7
50~59歳
1259
55.2
4.2
51.0
44.8
60~69歳
788
62.6
6.5
56.1
37.4
全体
1005
42.9
2.3
40.6
57.1
男性
631
41.8
2.7
39.1
58.2
女性
374
44.7
1.6
43.0
55.3
50~59歳
675
38.7
1.5
37.2
61.3
60~69歳
330
51.5
女性
3.9
47.6
48.5
※全体±5ポイント以上に網掛け
項目において介護経験がある人はない人と比べて考慮
に入れた割合が高くなっている(図表2上)
。特に、
「ご
図表2 老後の生活設計の項目
自身の介護」に関しては、介護経験がある人の 29.1%
に対して介護経験がない人では 16.2%と、10 ポイン
100
(%)
75
ト以上の差がある。
76.4
介護経験あり(N=1188)
75.6
62.5
59.9 55.6
50
介護経験なし(N=431)
55.0
33.1
25
性別、年代別に、介護経験の有無による老後の生活
の生活設計を行う上で考慮した項目として上位にあが
ったものでは差が小さいが、
「資産・負債」
、
「住まい」
、
「ご自身の介護」等の下位のものでは差が大きい(図
29.1
16.2
0.9 0.7
0
設計で考慮に入れる項目の差をみると、
「健康維持・管
理」
、
「生きがい・過ごし方」
、
「収入・支出」等の老後
27.8
29.8
22.7
N
介
護
経
験
あ
り
介
護
経
験
な
し
健
康
管
維
理
持
・
生
過
き
ご
が
し
い
方
・
収
入
・
支
出
資
産
・
負
債
住
ま
い
ご
介自
護身
の
そ
の
他
(%)
全体
1188
76.4
62.5
55.6
33.1
29.8
29.1
0.9
男性
644
74.1
61.6
55.3
35.4
24.8
25.3
0.6
女性
544
79.2
63.6
55.9
30.3
35.7
33.6
1.3
50~59歳
695
73.2
62.7
57.6
33.5
32.2
30.8
0.9
60~69歳
493
80.9
62.3
52.7
32.5
26.4
26.8
1.0
全体
431
75.6
59.9
55.0
27.8
22.7
16.2
0.7
男性
264
71.6
57.2
52.7
27.7
22.3
14.4
1.1
女性
167
82.0
64.1
58.7
28.1
23.4
19.2
0.0
50~59歳
261
71.3
55.6
55.9
25.3
23.0
16.5
0.4
60~69歳
170
82.4
66.5
53.5
31.8
22.4
15.9
1.2
※全体±5ポイント以上に網掛け
表2下)
。
2|介護経験がない人は、自分の介護の準備として「何をしていいかわからない」
介護経験がない人は、老後の生活設計を行っている割合も、老後の生活設計をする際に自分自身の
介護を考慮に入れる割合も、介護経験がある人と比べて低いことから、自分自身が介護が必要となっ
た時の準備を行っている割合も、介護経験がない人は低い(図表略)
。
そのため、自分自身の介護に対する準備をしていない人を対象に、今後の準備意向を尋ねると、や
はり介護経験がある人が、介護経験がない人と比べてすべての項目で準備意向が高い(図表3上)
。
介護経験の有無それぞれについて性別、年代別に今後、準備する意向をもつ項目をみると、
「公的介
護保険制度に関する知識習得」
、
「介護費用に関する情報収集」、
「公的介護保険制度以外の自治体等の
支援サービスに関する情報収集」等の情報収集については、介護経験がない人でも、女性と 60~69
歳を中心に高い(図表3下)
。しかし、
「介護費用の蓄え」
、
「希望する介護の方法や場所についての家
族・親族への依頼」
、
「介護施設に関する情報収集」については、介護経験の有無によって差があり、
介護経験がある人で高くなっている。
3
「その他」を含む6項目をあげて考慮に入れた項目を複数回答で尋ねた。
2|
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さらに、今後も自分自身の介護のための準
図表3 今後の介護準備の予定
備をする予定はない人に対して、その理由を
80
(%)
60
尋ねると、
「まだ若いから」
、
「自分に介護が必
26.4
17.4 14.1 12.5 12.4 12.1
13.0 10.9
8.9 10.5 8.2
20
制度で十分と思っているから」といった準備
介
護
費
用
の
蓄
え
関公
す的
る介
知護
識保
習険
得制
度
に
関民
す間
るの
情介
報護
収事
集業
所
に
つ希
い望
てす
のる
家介
族護
・の
親方
族法
へや
の場
依所
頼に
み家
替の
えリ
のフ
計ォ
画ー
・ム
実や
行住
1046 26.4 14.1 12.5 12.4 12.1
601 19.8 11.8 10.8 10.5 10.8
8.2
6.8
7.3
3.5
4.6
3.7
4.0
3.7
2.0
1.0
0.9 54.6
1.0 62.7
女性
50~59歳
60~69歳
445 35.3 17.1 14.8 15.1 13.9 10.1 12.4
661 27.2 16.0 12.9 11.3 12.0 8.8 7.4
385 24.9 10.6 11.9 14.3 12.5 7.3 7.0
5.8
4.7
4.4
4.5
3.9
4.2
3.4
1.8
2.3
0.7 43.6
0.5 54.8
1.6 54.3
全体
男性
女性
50~59歳
753
480
273
529
13.0 10.9 8.9 10.5
10.2 8.3 5.4 7.5
17.9 15.4 15.0 15.8
11.7 10.0 8.3 8.7
6.2
4.2
9.9
6.0
3.3
1.9
5.9
2.5
3.3
3.1
3.7
2.8
3.5
2.9
4.4
3.4
1.1
0.8
1.5
0.6
0.7
0.4
1.1
0.8
60~69歳
224 16.5 16.1 12.9 10.3 14.7
6.7
5.4 4.5 3.6 2.2 0.4 68.8
※全体±5ポイント以上に網掛け
N
よらず、いずれ準備が必要と考えているよう
情介
報護
収費
集用
に
関
す
る
情介
報護
収施
集設
に
関
す
る
だ(図表4)
。
にあがったのに対し、介護経験がない人では
「何をしていいかわからないから」
、
「きっか
けがないから」
、
「興味がない・関心がないか
介
護
経
験
あ
り
介
護
経
験
な
し
7.3
3.3 4.6 3.3 4.0 3.5 2.0
1.1 0.90.7
の公
支的
援介
サ護
ー保
ビ険
ス制
に度
関以
す外
るの
情自
報治
収体
集等
の有無による差は小さく、介護経験の有無に
精神的、時間的に「余裕がないから」が上位
6.2
0
を不要とする考え方は少ないほか、介護経験
しかし、介護経験がある人では、経済的、
54.6
介護経験なし(N=753)
40
要になるとは思わないから」
、
「公的介護保険
70.1
介護経験あり(N=1046)
全体
男性
17.4
12.9
25.3
17.8
民
間
の
介
護
保
険
へ
の
加
入
生趣
活味
体嗜
験好
のや
伝過
達去
の
そ
の
他
す 今 (%)
るの
予と
定こ
はろ
な準
い備
70.1
76.5
59.0
70.7
ら」が介護経験がある人に比べて高くなって
図表4 準備をしない理由
いる。
特に
「何をしていいかわからないから」
は、
介護経験がない人の理由として最も高い。
40 35.2 33.1
35.6
(%)
28.7
27.5
25.9
30
23.5
18.4
20
11.9 12.1
3――まとめ
10
活設計を行っている割合が高く、自分自身が
介護を必要とする状態になった場合の準備を
N
行っている割合が高かった。介護経験があっ
向がない人もいたが、その理由は現在の生活
において、準備するための経済的、精神的、
時間的な余裕がないことによるようだ。
介護経験なし(N=528)
10.8
5.4
5.4
4.2 4.5
1.7
1.6 2.3
0
以上より、介護経験がある人は、老後の生
ても、自分自身の介護のための準備をする意
介護経験あり(N=571)
15.9
10.3
介
護
経
験
あ
り
介
護
経
験
な
し
経
済
的
な
余
裕
が
無
い
か
ら
で と 介 余時
は き 護 裕間
準の が が的
備状必 な ・
の 態要 い 精
し が に か神
よ わな ら的
う か る
が ら時
なな期
い い や
か な そ
ら か の
わ
か
ら
な
い
か
ら
何
を
し
て
い
い
か
ま
だ
年
齢
が
若
い
か
ら
き
っ
か
け
が
な
い
か
ら
全体
男性
571
377
35.2
32.9
28.7
29.2
27.5
25.2
25.9
27.1
11.9
13.8
女性
194
39.7
27.8
32.0
23.7
8.2
50~59歳
362
39.0
25.4
30.7
26.5
10.5
60~69歳
209
28.7
34.4
22.0
24.9
14.4
全体
528
33.1
23.5
18.4
35.6
12.1
男性
367
32.4
19.9
17.7
32.2
女性
161
34.8
31.7
19.9
50~59歳
374
36.1
21.1
22.7
60~69歳
154
26.0
29.2
7.8
興
味
が
な
い
・
関
心
が
な
い
か
ら
な自
る分
と に
は介
思護
わ が
な必
い要
か に
ら
十公
分的
と 介
思護
っ保
て険
い制
る度
か で
ら
そ
の
他
(%)
10.3
12.2
5.4
7.2
4.2
4.2
1.6
1.9
5.4
5.6
6.7
2.1
4.1
1.0
5.2
8.3
6.6
3.6
1.4
4.1
13.9
3.3
5.3
1.9
7.7
15.9
10.8
4.5
2.3
1.7
12.5
17.4
12.3
4.6
2.7
1.4
43.5
11.2
12.4
7.5
4.3
1.2
2.5
35.3
13.4
15.2
12.0
2.7
1.9
1.6
36.4
9.1
17.5
7.8
9.1
3.2
1.9
※全体±5ポイント以上に網掛け
一方、介護経験がない人は、老後の生活設
計をしている人が少なかったほか、老後の生活設計をしている人でも自分自身の介護についてはあま
り考慮していなかった。今後も自分自身の介護のための準備をする意向がない理由は、介護のための
準備を不要と考えているわけではなく、
「何をしていいかわからない」や「きっかけがない」ことによ
るようだ。
今後の準備については、介護経験がない人でも、公的介護保険制度に関する情報や、介護費用につ
いての情報などの情報収集をする意向が、女性と 60~69 歳で介護経験がある人と同様に高かった。
しかし、介護経験がある人は、情報収集のほか、介護費用の蓄えや希望する介護の方法や場所につい
ての家族・親族への依頼を行う意向も高かった。
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|ニッセイ基礎研レター 2015-03-16|Copyright ©2015 NLI Research Institute
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こういった介護経験の有無によって、自分の介護のための準備状況や今後の意向が異なるのは、介
護経験がある人は身近に介護を要する高齢者がいる(いた)ことから、自分自身の介護を含めて高齢
期について考える機会が多いほか、介護に必要な費用等の目処も立ちやすいのではないかと考えられ
る。また、50~69 歳では、まだ、親世代の生活の手助けをしている人も多いと考えられ、自分自身の
介護についてまで考慮が及んでいない可能性がある。特に、男性と 50 歳代は、老後の生活設計をし
ている割合が低く、自分自身の介護の準備をしている割合も低かったが、これはまだ就労中である人
も多いと考えられ、自分自身の介護についてまで考慮が及んでいないと考えられる。
冒頭でも紹介したとおり、
現在、
9割の人が自分の介護に対する不安を持っているにもかかわらず、
実際に準備を行っている人は一部にとどまっている。自分の介護のための準備を行える期間が健康な
間だけに限られていることを踏まえれば、介護が身近でない人であっても準備を進めていけるような
情報提供が望まれる。
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