【資源エネルギー庁長官賞】 機械制御式船舶用ディーゼル主機関(6CXB-GT) ヤンマー株式会社 大阪府大阪市 1. 機器の概要 これまでの国内漁船市場では、漁場への往復にかかる時間が、漁獲高・魚価に 大きく影響を与えるとして、船速を強く求められた結果、軽量高出力を最重視し 開発・商品化がおこなわれてきた。しかし、2008 年の燃油価格高騰以降、顧客の 要望も変化し、高出力だけでなく、低燃費要求が非常に強くなっていた。また、 漁船市場だけでなく、旅客船及び運搬船市場においても低燃費思考が強く、同じ 出力要求でもエンジンのダウンサイジング化による低燃費およびコストダウンが 望まれていた。 一方、2011 年よりIMO(国際海事局)が規定する窒素酸化物の排出量の規制 が強化された。また、本機関は、欧州への新規市場開拓をするため、前出のIM O規制より、さらに厳しい欧州 の環境規制の一つである欧州ラ イン川規制(CCNR)に対応 する必要があった。さらには、 地球温暖化対策として二酸化炭 素の排出量低減に対しての市場 のニーズが高まっていた。しか し、これらの低燃費、低エミッ ション、高出力化は、通常、お 互いにトレードオフの関係にあ り、同時に達成することは非常 に困難である。また、船舶用主 図1 6CXB-GT形外観 — 14 — 機関として信頼性の確保は、海の上での安全・人命を守る上で必須であり、高信 頼性が求められていた。 そこで、我々は本機関の開発コンセプトを「地球にやさしい機関の開発」とし、 上記に挙げた4大テーマ「低燃費」 「低エミッション」 「高出力」「高信頼性」を達 成すべく開発に着手した。電子制御を取り入れることで、 「低燃費」「低エミッシ ョン」は達成できるかもしれないが、業務用船舶用主機関として実績の低い電子 制御を採用せず、「高信頼性」を第一に考え、あえて機械制御式にこだわった。こ れまで、船舶用主機関メーカーとして先陣を切ってきたヤンマーの最大限の技術 投入を行い、3年間の開発期間を費やして、これらの4大テーマを克服した。「低 燃費」においては、従来機の8~10%低減し、環境高度対応機関合格書を取得し た。 「低エミッション」においては、大気汚染防止鑑定書(IMO2次)の取得、 欧州ライン川規制(CCNR)の適合を達成した。「高出力」においては、国内漁 船法A階層での最高出力を達成した。 「高信頼性」においては機械制御式による燃 焼マッチングを実現した。 2. 機器の技術的特徴および効果 表1 6CXB-GTと従来機の機関要目表 機関名称 形式 シリンダー数 ボア×ストローク 排気量 実用最大出力 正味平均有効圧 減速逆転機 燃焼方式 冷却方式 潤滑方式 過給方式 全長×全幅×全高 乾燥質量 単位 mm リットル kW/min-1 MPa mm kg 申請機 従来機 6CXB-GT 6CXA-GT 4 サイクルディーゼル 6 110×130 7.413 363/2700 331/2850 2.18 1.88 YX-75 YX-71 直接噴射式 清水間接冷却 全密閉強制潤滑 インタークーラ付排気ガスタービン過給 1451×901×979 1424×914×964 1060 — 15 — 2.1 技術的特徴 [Deg.] (1) 機械制御式の採用 進角度 エンジンの燃焼性能の根幹とな る燃料噴射系に電子制御を採用せ ず、すべてに機械制御式を採用し 6CXA-GT (従来機) た。そのため動的噴射時期を決定 6CXB-GT する新規の噴射時期タイマー(図 [rpm] 機関回転数 2)の採用および燃料の微粒化に 図2 噴射時期タイマーの特性 よる燃焼効率化を図るため、高圧 噴射ポンプを採用した。 (2) 低λ※1燃焼の採用 過去の燃焼方式では空気量の低 下により、出力の低下、スモーク の悪化を招く。しかし本機関にお 図3 スキッシュリップ燃焼室 いては、ピストンの燃焼室にスキ ッシュリップ(図3)と呼ばれる 6CXB-GT 6CXA-GT 特殊形状を採用し燃焼効率をあげ バルブリフト ることで、低λ燃焼を実現した。 低λ燃焼を実現したことにより 給排気バルブタイミング及びバル ブリフト(図4)を見直し、ポン 120 ピングロスを低減し低燃費・低エ 240 360 480 600 クランク角度 図4 給排気バルブタイミング ミッションを実現した。 ※1 空気過剰率を意味し、λ=実空 燃比/理論空燃比で計算される。 (3) 多変量解析の実施 燃焼スペックの設定に関しては、上記だけでなく多くの項目があり、マトリ ックスでは莫大な量となる。本機関の開発では約 140 ある説明変数(性能に影 響を及ぼす可能性のあるパラメータ)から、多変量解析を実施し、NOx、燃費な どを定量的に数式化した。この式から影響を及ぼす因子とその影響度合いに着 目し、最適化試験を実施した。 — 16 — 2.2 効果 [g/kWh] (1) 低燃費・低エミッションの達成 IMO(国際海事局)が規定す る排出量を達成し、従来機の排出 量の 20%以上の低減に成功した。 燃料消費率 る NOx 排出量規制値を大きく下回 6CXA-GT (従来機) 燃費 10%以上減 NOx 20%以上減 6CXB-GT また、トレードオフの関係にある 燃費に関しても従来機と比較し、 NOx 燃料消費率で 10%以上の低減に [g/kWh] 図5 NOxと燃費の関係 成功した(図5)。 (2) 高出力の達成 漁船法A階層排気量 10L未 満にて、排気量あたりの出力に おいて最高出力を達成し、同階 層にて NO.1 のコンパクト・高出 力を達成した。 (図6) 図6 排気量あたりの出力比較 3. 用途 2009 年6月より生産を開始し、船舶用主機関として、漁船、旅客船、運搬船、 警備艇等へ搭載され、該当する馬力ゾーンにおいて 50%以上の高いシェアを確 保・維持している。また、海外業務用を含めると年間 200 台以上出荷され、総計 700 台以上の出荷実績がある。6000 時間以上稼働している機器もあり、顧客より 十分な信頼性を得ている。 表2 年度別販売実績及びシェア 年度 6CXB-GT 形 401-495PS 総需要 国内市場シェア 2008 275 45.1% 2009 61 249 51.0% — 17 — 実績台数 2010 2011 125 114 347 234 61.7% 56.0% 2012 128 243 51.9%
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