テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在ゲート編 ID

テンプレ…まじで?(リメイクしてみた) ※現在ゲート編
onekou
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
気づけばゲームで使用していた自キャラになっていた俺は、神様転
生なんていうテンプレでチートを貰ってしまった。
チートだけど幼女じゃなきゃダメだっ
ただし貰うだけでは済まないのもまたテンプレ。
え、これホントにチート
たの
?
3:原作名に関して助言を頂きましたので変更しました。
el01 です。少しでも成長できていれば良いなと思います。
ana.net/index.php/page/kou︳nov
様に置かせていただいています。URLはhttp://nijik
現在元作品は﹃Over The Rainbow∼虹の彼方∼﹄
ト物語となっています。
プラスアルファで能力をもらって世界を回るというのが主軸のチー
ターポータブル2︶﹄というPSP用ゲームソフトの設定をベースに
ていただいていた作品のリメイクで、﹃PSPo2︵ファンタシース
2:この作品は某二次小説サイトの方でもkouという名で書かせ
どよろしくお願いいたします。
1:この作品は多数の地雷がありますので、苦手な方はご注意のほ
※注意事項
あのあの⋮、幼女のマスターも幼女なんですけど⋮。
ともかく俺はよくわからないまま召喚されてしまう。
?
このSSは世界を渡るという設定で書いていますので、ややこしい
ですが元ネタであるPSPo2を使わせて頂いております。渡る世
界に関しては規約にあるようにクロスオーバー等という括りでタグ
の方に追加しました。
4:Fate編完結しました。現在ゲート編執筆中です。
5:入れたイラストは﹃stage0:おかえりなさい︵行ってらっ
しゃい︶﹄の後書きにあります。
目 次 ﹃stage1:召喚されました﹄ ││││││││││││
﹃Fate/stay night﹄の世界
﹃stage0:チートな転生物語﹄ │││││││││││
﹃stage3:主とサーヴァント﹄ │││││││││││
﹃stage4:アインツベルン城﹄ │││││││││││
﹃stage5:ちーとぱうあー﹄ ││││││││││││
﹄ │││││││││││││││
﹃stage6:できること、やりたいこと﹄ │││││││
:孔明の罠だった⋮
﹄ │││││││││││││
﹄ │││││
27
34
39
52
59
︵開き直
﹄ │││
﹄ ││││││││
﹄ │││││││││
プランBはなんだ
コウジュ
?
64
﹃
﹃stage7:一気に本編
﹃stage8:やぁってきました冬木市﹄ ││││││││
﹃stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話です﹄ │
﹃stage10:月下の邂逅﹄ │││││││││││││
﹃stage11:白の主従﹄ ││││││││││││││
﹃stage12:コウジュのパーフェクトチート教室﹄ ││
﹃stage13:O☆SHI☆O☆KI﹄ ││││││││
バーサーカー
﹃stage14:幼女逃走中﹄ │││││││││││││
﹃stage15:やっちゃう
﹃stage16:戦争なんさ しょうがないだろう
﹃stage18:跳べ
﹃stage17:プランB
り﹄ ││││││││││││││││││││││││││
!
!!
﹃stage20:In der Nacht, wo alles
﹃stage19:バーサーカーは見た
!
71
﹃stage2:Fate/stay nightの世界﹄ │
1
!
!
19
6
?
?
84
?
!
155 148 136 126 112 96
206 198 183 167
!?
???
schl
﹄ ││││││││
ft﹄ │││││││││││││││││││
﹃stage21:敵のマスターを発見
﹃stage27:歓迎しよう
盛大にな
﹄ ││││││
!
﹄ ││││
?
349 334 319 307 296 279 259 243 233 218
﹄ ││││││││││││││││││││││││││
﹃stage32:宝の持ち腐れと言わないで﹄ ││││││
よね﹄ │││││││││││││││││││││││││
﹃stage34:めでぃあ☆マギカ﹄ ││││││││││
﹃stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ﹄ ││││││
﹃s t a g e 3 8:聖 杯 っ て 大 体 ち ゃ ん と 使 わ れ な い よ ね
﹃stage39:デート・ア・ライブ的な⋮﹄ ││││││
546
﹄ ﹃stage37:ジュディス姐さんは色々とすごかったですね﹄ 479
﹃stage35:5000円/グラム位でいけるかな⋮あれ⋮﹄ 437 422
﹃stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔するフラグだ
406 386 368
﹃stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッとお見通しだ
﹃stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて
﹃stage28:衛宮家の憂鬱﹄ ││││││││││││
!
﹃stage26:折り返し地点﹄ ││││││││││││
﹃stage25:繋がり︵意味深﹄ │││││││││││
﹃stage24:目指すモノ﹄ │││││││││││││
﹃stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす﹄ │││
﹃stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど﹄ │││
!
ä
﹃stage31:厨二病は不治の病﹄ ││││││││││
!
454
?
505
527
│
657 637 616 596 566
﹃stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き抜けちゃうだ
ろうけど﹄ │││││││││││││││││││││││
﹄ │
﹄ ││││
﹄ ││││││
﹃stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らしい
﹃stage42:昨日はお楽しみでしたね
!!
﹄ ││││││││││
﹃stage43:おわかりいただけただろうか
﹃stage44:思い⋮出した⋮
?
?
﹂だな﹄ │││││││││││││││││││││││
684
﹃stage45:やっぱここは、﹁最初っからクライマックスだぜ
!!
﹄ ││││││││││
﹃stage47:劇的○フォー○フター﹄ ││││││││
﹃stage48:ハッピーエンド
﹃stage50
:if...﹄ │││││││││││││
﹃stage49:うん、ハッピーエンド‼‼﹄ ││││││
?
﹃stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らしい﹄ ││
﹃stage1:夏の祭典前﹄ ││││││││││││││
﹃stage0:おかえりなさい︵行ってらっしゃい︶﹄ ││
﹃ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり﹄の世界
?
﹄ │││││││
││││││││││││││││││││││││││││
﹃stage4:そうだ、異世界へ行こう
﹃stage6:ドラゴンさんがログインしました﹄ ││││
﹃stage5:門を越えるとそこは⋮⋮﹄ ││││││││
!
﹃stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃるようです﹄ 839 822 810 802
﹃stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食べられかけた﹄
793 786 777
765 755 731 717
﹃stage46:なんというか救われてなきゃぁダメなんだ﹄ !!!
701
850
│
﹃stage8:一狩り行こうぜ
﹄ ││││││
﹄ │││││││││││
﹃stage9:炎龍は居なかった。良いね
?
!!
︵ガタ﹄ ││││││││││││
﹃stage10:この世全ての食材に感謝して⋮⋮﹄ │││
﹃stage11:夜戦
!?
﹃stage12:いたりかこうぼうせんはたいへんでしたね﹄ 905 891 872 859
﹃stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘ですね﹄ │
﹃stage14:地球へ﹄ │││││││││││││││
﹃stage15:ハナシアイ﹄ │││││││││││││
形式 ││││││││││││││││││││││││││
﹃stage16:○○ホイホイ﹄ ││││││││││││
﹃stage17:報われない男たち﹄ ││││││││││
﹃stage18:遅かったな、言葉は不要か⋮⋮﹄ ││││
﹄ ││
!!!
﹄ │││││││││││
﹃stage19:メイド服って⋮メイド服って⋮⋮
﹃stage20:俺は悪くねぇ
!!
﹃stage22:幼女の正体﹄ │││││││││││││
﹃stage24:悪所と前兆﹄ │││││││││││││
﹃stage25:穏やかじゃないですね﹄ ││││││││
﹃stage26:狂化の行方﹄ │││││││││││││
﹃stage27:一条さん﹄ ││││││││││││││
1180116711551141
﹃stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘ですけどね﹄ 1110
﹃s t a g e 2 1:い や ぁ 壮 絶 な 戦 い で し た ね。ま さ に 紙 一 重﹄ 10841073104710331020 972
﹃stage15.5:
︵某掲示板での︶ハナシアイ﹄ ※注 掲示板
958 944 932
918
1097
1127
│
﹃s t a g e 2 8:己 の タ ー ン
っ て、も う 終 わ り か よ ぅ
﹄ 1207
!
﹃stage29:それぞれの行方﹄ │││││││││││
1192
!!
│
﹃Fate/stay night﹄の世界
﹃stage1:召喚されました﹄
﹁時間ね・・・﹂
自らの内に眠る魔力を喚起させ、予め用意していた魔術陣へと流し
ていく。失敗は許されない。するつもりもない。
丁寧に、正確に、そして迅速に、陣の中央に置かれた大剣へと目を
やりながら意識を集中させていく。
場所も時間も自らのスペックも、全てを最高の状態で用意した。出
きる限りの準備は行ったはずだ。
その最たる物が眼前の、今回の儀式において要となる大剣だろう。
岩をそのまま切り出したような無骨な大剣。斧剣と言い変えても
良いだろうそれは常人ではとうてい持ち上げることすら不可能であ
ろう重量を誇っている。この場所へと運ぶだけでも容易にはいかな
かった。
〝剣〟と呼ばれるものであるのに持ち上げることすら困難とはど
ういうことかと疑問が浮かぶだろうがそれは仕方がない。答えは簡
単、常人ではないものが使っていたからだ。
これの本来の主は英雄ヘラクレス。
ギリシャ神話に登場する半神半人の英雄で、数多くの伝説を残す英
雄の中の英雄だ。
その英雄を、私は今から召喚する。
それは私が、聖杯戦争と呼ばれる文字通り聖杯を掛けて争う大規模
儀式に参加するためだ。
﹃聖杯戦争﹄│││。
﹃聖杯﹄と呼ばれるあらゆる願いをかなえる願望器を賭けて、7人の
魔 術 師 が そ れ ぞ れ サ ー ヴ ァ ン ト を 召 喚 し て 殺 し あ う デ ス ゲ ー ム。
サーヴァントにはクラスが存在し、セイバー、アーチャー、ランサー、
1
ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの7クラス。そして
クラスに応じて過去、現在、未来において英雄と呼ばれ、死後英霊と
なった者が召喚される。
どのクラス、どの英雄が召喚されるかは基本的にはランダム。だけ
ど、例外はある。
そ の 英 雄 に 関 係 す る 物 を 召 喚 の 儀 式 の 際 に 媒 体 と し て 使 う こ と。
それが召喚したい英雄になじみ深いものならそれだけ召喚の確率は
上がる。アーサー王ならエクスカリバー、クーフーリンならゲイボル
グといった感じだ。
もちろん英雄にも強さの位はある。強さの基準は、英雄そのものの
力と、知名度。召喚した時点で聖杯戦争に勝てるかどうかが決まると
言っても過言ではない。故に、この媒体として用意するものはとても
慎重に選ばなければならない。
その点ヘラクレスは実力、知名度共に最高位と言える。
・・・
私は・・・、私のためにも、何よりも母のためにも聖杯を手に入れ
る。そして冬木市に行き、あの子を見極める。
│││アイリスフィールは失敗だった│││
│││おまえの父は我々を裏切ったんだ。聖杯も得ず、ここに
帰って来なかったのが何よりの証拠だ│││
│││お主は捨てられたのだ。養子をとってのうのうと奴は生
きておるぞ│││
│││アインツベルンの本懐を遂げよ│││
│││お主まで失敗すれば、まさしくアイリスフィールの生は無
意味になるな│││
2
違う
違う違う違う
そんなことがある訳が無い
でも⋮⋮。
裏切られたなんて信じない
!!
私 は 私 だ。ホ ム ン ク ル ス と 人 間 の 間 に 生 ま れ た 半 端 も の な ん か
れる刻を破却する│││﹂
よ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。繰り返すつどに五度。ただ、満たさ
﹁│││閉じよ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。閉じよ︵みたせ︶。閉じ
〝イリヤスフィール〟としてこの聖杯戦争に参加したい。
正直に言えば、アインツベルンの悲願など二の次だ。ただただ私は
﹁素に銀と鉄。礎に石と契約の大公│││﹂
で来た。だから歌うように、願うように、言葉を紡いでいく。
場は整った。多少の寄り道はしてしまったが、あとは実行する所ま
出せない。これではダメだ。振り切ってしまおう。
しかし一度考えてしまうと、なかなかその思考のループからは抜け
内心でため息をついてしまう。何をやっているんだろう私は。
術式を再構成、魔力の流れも綺麗に整えていく。
大丈夫。少しずれただけ。この程度ならすぐに立て直せる。
に乱れが生じた。
ズキリと頭の中で痛みが走る。しまった、意識がそれたせいで術式
﹁⋮っ﹂
言ったことなんて、今は忘れないと⋮⋮。
たじゃない。あの人が
いや、ダメよ弱気になっては⋮。自らの力で決着をつけるって決め
!!!
じゃない。アインツベルンの道具でもない。ただ私は、私を、私とし
3
!!!
!
て見てくれる誰かを│││。
﹁誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷
く者│││﹂
﹂
よし、あとほんの少しだ。手ごたえはある。あと少し詠唱を続けれ
ば良いだけ。
﹁汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ
成功した
これで目的を達成させることが出来る
なっていく。
召喚陣から漏れる光が増えていき、目を開けていられないほどに
!!!
抉った言葉の続きを思い出してしまう。
同時に、先ほど洗い流したつもりでいた、以前に剣のごとく自らを
ではないのに。
まったのだ。全ての詠唱を終えたからといって、儀式が終わったわけ
そ こ で 私 は ミ ス を 犯 し て し ま っ た こ と に 気 付 く。気 を 抜 い て し
!!
私は、私は
│││お前は最高傑作だ。聖杯たる役目を果たせ│││
私は物なんかじゃない
!!!
でしまうなんて。しかもあの時私は何を思っていた
何を願って
初心者でもあるまいに、苦手分野とはいえ力任せに魔力をつぎ込ん
しかし今更遅い。
そもそも魔術を行使する上で気を他にやるなど⋮⋮。
けにはいかないのに⋮。
全く私は何をやってるんだろうか。大事な儀式なのに、失敗するわ
⋮ズキリ。再び頭の中で痛みが走る。
!!
?
4
!
いた
小聖杯たる私が召喚される者に対して何かを願っては術式が歪ん
でしまう。
英雄の中の英雄たるヘラクレスを、更に強化するためにバーサー
カーのクラスで呼ぼうとしていたのに、私は押さえきれない気持ちの
ままに、﹃全てをブチ壊す何か﹄を願ってしまった。
術式陣から生れ出る光が、目も開けられないほどに強くなった。そ
して魂のどこかで、ナニかと繋がった感覚が生まれる。
どうやら良くも悪くも召喚には成功したようだ。問題は目的通り
の相手を召喚できたかどうか。
﹂
極光とも言える眩さが消えていく。細めた視界の中に人影が映る。
結果は│││
│││現実は非常であったようだ。
﹂
﹂
﹁いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌
﹁え
﹁あれ、外した
!!
だって目の前に居るの、私と変わらない幼女なんだもの⋮。
れの敗北です。
天国に居るであろうお母様、申し訳ありません。この戦い、われわ
これ、駄目なやつだ⋮。
?
5
?
?
﹃stage0:チートな転生物語﹄
ふにふにふにふに│││。
ふぁっさふぁっさふぁっさ│││。
﹁やわらかい⋮。それにふっさふさやし⋮﹂
自らの二の腕を摘み、続いて視界の端でふぁっさふぁっさと自分が
動くのに合わせて自己主張してる髪を触る。なんか耳がもぞもぞす
﹂
る。垂れ下る長い髪を見れば仕方ないか。
﹁つまり、どういうことだってばよ
次は手を腰の辺りに持っていき⋮、そこで嫌な予感がして手を前に
持っていく。
﹁無い。というか見えない﹂
触 覚 だ け で な く 視 覚 に お い て も そ の 状 況 を 確 認 す る た め │ │
ひょっとしたら勘違いかもしれないし││目線を下にやると大きな
双子山が邪魔をして状況を確認できない。ただ、その双子山が別の証
拠として俺の目の前に立ちはだかってる訳だが。文字通り。
﹁なん⋮だと⋮﹂
そこそこにアニメやらのオタク文化に手を染めている20歳大学
生な俺。もちろん男。しかし明らかに、なにゆえにか女の子なう。い
や、よく見ると手や足が短いし、元の身長から考えて130センチ有
るか無しか。つまり幼女
上衣は、着物のように前腕部に対して大きく開いている袖口、それ
の縦筋がアクセント程度について
が胸の高さで前後の紐によってぶら下げられ、後はそれとは別にピッ
チリ体に張り付くようなゴム製
に来るようにしている。立っていても身長が低いため垂れたリボン
下衣は、白のミニスカートを大きなリボンで結んでおり結び目が腰
いるインナーが臍より上までの丈であるのみ。
?
6
?
﹁というか、何か見覚えがあるなこの服﹂
?
が地面で擦れそうになっている。靴は膝まであるレザー系のブーツ
で、それによって無駄に絶対領域が作られている。
﹂
おお、全体の確認には丁度良いな。
﹁ふむふむ、いやーな予感がする件⋮。お
視界の端で何かが光る。鏡
何という親切設計。
耳
みたいな獣耳がついている。これはKoujuがゲーム内で
なぁっと思ってたんだが、本来人間の耳がある場所に垂れた犬耳⋮狐
そ し て、さ っ き か ら な ん で か 耳 も と で ふ ぁ っ さ ふ ぁ っ さ し て る
ん、この無駄にでかくした胸部も⋮⋮︵汗︶
ぶってるし⋮。服もやはり画面越しにだが見覚えがあるものだ。う
ロリで銀髪、そして紅目。見覚えのある大きな丸い帽子も確かにか
﹁これは⋮Koujuになってるってことか⋮﹂
さておき││。
ねぇか。あ、これナルシストになるのか⋮
てしまったわけだから。くそう、泣きそうになった顔がかわいいじゃ
いや、これはある意味心折設計だ。だって幼女化した自分が確定し
﹁⋮⋮﹂
?
?
﹃Kouju﹄は、携帯ゲーム機PSPにて発売された、ファンタ
シースターポータブル2︵PSPo2︶というSFファンタジーのア
クションゲーム内で作った自キャラだ。
PSPo2は自分でキャラクターを作ることができ、そのキャラと
物語のヒロインであるエミリアと共に世界を襲う陰謀に巻き込まれ
ていく話なんだが、これがなかなかにはまるんだ。シナリオモードも
あるんだが、ネット経由でのonlineミッションやバトルがなか
なかに熱い。かく言う俺もかなりはまってて家に帰ってはやってい
る。レア武器を出すためにゲーム仲間と何時間も遊んだものだ。
それでまぁ、PSPo2での自キャラ作製においてまず最初に選ぶ
ものが種族だ。ヒューマン︵人間︶、ビースト︵獣人︶、ニューマン︵エ
ルフっぽい︶、キャスト︵機械族︶、の四種族。俺が選んだのはビース
トで耳を垂れた犬耳みたいなのに設定した。
7
?
ビースト種という種族をベースに作られたからだ。
?
見た目に関してあれなのはまぁ理由がある。無印︵PSPo︶の時
から俺はやり始めたんだが、元々動物好きなのもあって獣人にすると
決めた訳だ。しかし
獣人の男と言うのが個人的にこうしっくりくるものが無かったん
だ。毛むくじゃらでむさくて、なんか顔の輪郭と自分のイメージが合
ホント
わない。それで性別を女にした訳だが、大人の女もなんか微妙で、そ
普通に大人のお姉さんが好きですよ
いやまぁ、幼女が
の結果獣幼女になったんだなこれが。言いわけちゃうよ
ですよ
?
報を整理することにした。
ま ず 今 い る こ こ。宇 宙
で も 地 面 は あ る ん だ よ な。鑑 置 い て あ
しばらくorzな姿勢を続けていたら少し落ち着いてきたんで情
まったね。
ない。なのに幼女なう。俺は思わず地面に手を着いて、うなだれてし
とはいえ、自分が幼女になりたいとか思ったことなど一度たりとも
げふんげふん⋮。
なぁとは思うけどさぁ⋮。
でかい武器振りまわして実は強キャラとかいうのは結構ロマンある
?
││││
│││あれ
なくね
がテンプレなわけだ。つまりは自分にも何かがあったかもしれない
ラックに轢かれるやら、通り魔に襲われるやらと何かがあって死ぬの
なんでこんな体になったかだけど、転生or憑依と言えば転生ト
るし。まぁよくわからんので次。
?
?
布団の中に居たことってのを考えると原因はPSP⋮
?
Koujuになってることと、最後の記憶がPSPo2やりながら
い。いつも通りの寝落ちな一日だよな。うーん⋮。
スターポータブル2︵PSPo2︶をして⋮ってそこからの記憶が無
暮らし︶に帰ってきて、何やかんやして、布団に入って、ファンタシー
朝起床、日中は大学、終わって夜までバイト、家︵両親と妹の4人
昨日の一日を振り返ってみる。
?
8
?
︻速報︼PSP持って寝たら幼女ったww
ハハッ⋮。乾いた笑いしか出ねぇよ⋮。まったく意味が分からな
いよ。
﹁いやいやいやいやでもホントどうせぇと言うんですか⋮﹂
orz
さっきからこの体勢しかしてない。神様ヘルプミー。テンプレ的
﹂
にもここらで出てきてください、まじで。
﹁よびましたカ
驚き半分wktk半分で振り向く。
!?
﹂
﹁って、ちょっと待て
﹁
﹂
﹂
エミリア⋮
ああ、かわいく首を傾げるな。
﹁えっと⋮誰です
﹁いエ、神デす﹂
﹁紙︵ザ・ペーパー︶
?
﹁GOD
﹂
﹁Yes,I am god
﹂
﹁読書狂いデハありませン。神でス﹂
?
!!?
?
﹂
つまり、エミリア︵PSPo2のヒロイン︶だった。
たものを着た少女。
さくくくった髪に赤い瞳、そして赤と黒を基調としたセーラー服に似
そこに居たのは、肩に掛からない程度の金髪を片方だけ頭の上で小
どホントに神様が
声が突然背後から聞こえた。ま、さ、か。呼びかけたのは脳内だけ
?
エミリア︵仮︶さん。普通にかわいいなおい。というかノリが良い。
片足を後ろに上げながらウィンクと共にグッジョブをしてくれる
!
?
9
!?!?
???
あ、そうだ。
ハッ
﹂
﹁次にあんたは私は神だ
﹁私は神ダ
という﹂
ディスって
?
ただちょっと不器用な子と言うか、うん。エミリ
?
さ、最後にはデレてくれるけどね︵震え声
﹁失礼ナことヲ考エてくレまスネ﹂
!!?
これでいい
﹂
?
痛い人を装ってた人に何バカなこと言ってんのって目で見られた
﹁そんなわけないじゃない。何その痛い人﹂
﹁あ、流石にあれが地じゃなかったんすね⋮﹂
の方が断然やりやすい﹂
﹁いやぁ、私も声を変えるの面倒だったので丁度よかったわ。こっち
﹁おおぉ⋮エミリアっぽい﹂
﹁おヤ⋮、う、うウンっ
動きと声質がエミリアである分、余計に違和感が強いのだろう。
台無し⋮﹂
﹁まあ確かに好きなキャラではあるけれどもさ⋮。そのしゃべり方で
心を読んだことはスルーですか。あ、ここまでテンプレ⋮。
ヲ選びマシた﹂
﹁ちナみに、コノ姿はあナたの心ノ中かラ適当に嫌悪ヲ抱かない相手
﹁ナチュラルに人の心を読まないでくれませんかねぇ
﹂
ジョンみたいなところに無理やり放り込まれるほど働かない。
ウ ェ イ な 子 だ。あ と 働 か な い。ニ ー ト 過 ぎ て 親 代 わ り の 人 に ダ ン
アはもっと天真爛漫ってキャラで、よくいる天才系のゴーイングマイ
る訳じゃないよ
てくれる訳が無いんだ。いや、優しい良い子なんだよ
本的に気配り出来る子じゃない。ネタに乗ってくれるなんて事をし
知ってるエミリアでは決してないということか。まずエミリアは基
ふむ、とりあえずわかったのは目の前にいるエミリアがゲームで
﹁イエイエ⋮﹂
﹁ありがとうございます﹂
!?
!
!!
10
!
﹁それじゃあ、まず何があなたに起こっているかを言うわね。あ、別に
!?
敬語は無理に使わなくてもいいわよ それと私の事はとりあえず
浮かぶかの如く空気が重くなる。なんだこのプレッシャーは
そして彼女の口はゆっくりと開かれていき│││。
﹂
﹁││あんたは死んだわ﹂
﹁な、なんだってー
﹁なんで
死因は
﹂
だのは俺らしいけど。
驚愕の事実を突きつけられてしまった⋮。神は死んだ。いや死ん
!?
そうして自らに言い訳してる間にも、背景にゴゴゴゴゴ⋮と文字が
とか言っちゃだめです。
上醜態をさらすのも恥ずかしいし神妙に聞くことにする。もう遅い
ここまでだけでも向こうのペースに巻き込まれてるんだ。これ以
何か、いきなりエミリア︵神︶が話し始めた。
ように﹂
﹁ぎこちないけどまぁ良いわ。じゃ、今から説明するから心して聞く
﹁え、あ、はい、うん⋮﹂
エミリアって呼んでくれると良いわ。当然偽名だけど﹂
?
﹁は
﹂
じゃ⋮。HAHAHA,まさかそんなことあるわけないよね
ね
亡くなりに⋮⋮﹂
﹁な、なんだってー
テンプレ乙⋮。
﹂
⋮⋮
ちょっとした書類ミスで本来死ぬはずじゃなかったのがめでたくお
﹁え っ と こ う い う の っ て 確 か テ ン プ レ っ て 言 う と 思 う ん だ け ど、
?
﹂
じゃあつまり何か 俺はあんたらに殺さ
﹁さっきからそればっかりね。実は結構余裕あるでしょ﹂
!!?
﹁あるわけないっての
れたと
!?
!
!?
11
!!?
!!?
﹁え、あ∼うん、やっちゃったZE☆﹂
!?
まさか、よくある書類ミスとかそんなしょうもないことってオチ
?
?
﹁そうなっちゃう⋮ね
﹂
﹂
あと可愛いから首かしげないでくださいます
それで結局死因は
﹁なにゆえに疑問系
か
?
!?
﹁PSP
死因PSP
﹂
あれのバッテリーって確か数ボルトしか
なかったような気がするんだけど
っていうかIT革命があったのか
﹁あはははっ、やっちゃった︵笑︶﹂
﹂
!!?
白いことにさっきほど焦ってはいないかな
さっきからネタばっかしだ
?
﹂
ど ん な 知 り 合 い な の か 気 に な っ て 仕 方 が 無 い 件 ⋮。サ ブ カ ル
﹁まぁ知り合いに勧められて、ね⋮﹂
﹁おっと、ご存知で﹂
﹁というかバカテスネタ
やぷにぷにしてるモノやぷるぷるモノが現実だと証明してくる。
けどほんと残念ながら、自身の各所でふぁっさふぁっさしてるモノ
﹁ああ、5度分まだ焦ってはいるのね﹂
きなり言われても現実感が無いというか。ついネタを言ってしまう﹂
﹁いや、まぁ、365度回って落ち着いてきたというか⋮。なんだかい
し﹂
﹁ねぇ、やっぱり結構余裕あるでしょ
この妙に頭の中がすっきりしてるってのも要因だろうけど。
?
まぁでも逆にそれらが変に現実感を俺の前に叩きつけてる訳で、面
ちゃったもの。
な っ た 証 で も あ る し、な ん だ ろ う、涙 が 出 ち ゃ う。女 の 子 に な っ
塊 二 つ が ゆ さ っ て 揺 れ て も の す っ ご い 違 和 感。元 の 身 体 じ ゃ な く
また項垂れてしまう。けどその度に、さっきから胸部に付属してる
﹁絶望した⋮ずさんな神社会の情報処理に絶望した⋮﹂
!!?
﹁その自動設定とやらで末代までの恥ですよ
ど、その設定自体を管理者になった神がミスっちゃった﹂
⋮、それでもって基本的なシステムの情報処理は自動設定なんだけ
﹁なんていうか⋮最近の冥界や天国での魂管理でもIT化が進んでて
!?
!?
﹁感電死。PSPからの漏電で⋮⋮﹂
!?
!?
?
12
!?
チャーに詳しい神様も居るんだな。漫画の神様
様
ことになりましたとさ、おしまい﹂
次回の俺の人生にご期待ください
いや、ラノベの神
﹁って、おしまいにしないでくださいませんかねぇ
﹂
理だからあなたが好きそうなシチュエーションで転生させてあげる
﹁それでまあ、あなたの死は確定しちゃったんで生き返らせるのは無
?
ら端数ってことなのかね
単位が跳んだ件について。地球で言えば約六十億とか居るんだか
ろで、世界は揺らぐほど軟じゃないのよ﹂
﹁いやー、そもそもなんだけど、人の一人や千人が間違って死んだとこ
理性が欠片も見当たらないんですが⋮﹂
﹁あれ、でも間違って死んだ人間をわざわざ転生させるって部分に合
てね﹂
どこまでも合理性を求めるから、感情なんて仕事するのには不必要っ
管理するシステムでしかないから、感情を持ってるのは少ないんだ。
﹁うーん、それがそうでもないんだよね。基本的に神ってのは世界を
﹁芸人じゃないし普通な掛け合いな気がするんだけど⋮﹂
﹁ふふっ、いいツッコミね。神界では居ないから新鮮だわ﹂
!?
!?
くなる。更にその世界の中で有名であればあるほど力は増す。眷属
そうだ。そして神様は基本的に担当する世界の数に比例して力が強
神様に力を与えられた転生者というのは、その神の眷属扱いになる
を全て聞いて頭の中で整理したのがこれだ。
しかし目の前のエミリア︵神︶様は話を続けていく。なんとかそれ
ん。
て頭が燃え尽きるほどヒートしちゃってるので認識が追いつきませ
軽く語られてるが、流しちゃいけないことをバンバン続けて言われ
ことね。子供みたいに言うこと聞かないやつら全般のこと﹂
みに邪神ってのはさっき言った合理性を無くして感情を持った神の
た人を転生させるって方法を違う形で利用していこうかと。あ、ちな
﹁けど、時代はリサイクルなわけなのよ。それでどっかの邪神が始め
?
13
?
が有名となってもそれは同じで、良くも悪くも眷属の名が広がれば神
様への見返りも増えるのだそうだ。転生者って基本やらかすから丁
度いいのだとか。
そして最終的にその世界に神様の力が満ちれば目出度くその神様
の支配地域になると。
﹁おお⋮、そんなカラクリが⋮﹂
﹁この事業を始めてからはがっぽがっぽと信仰が集まって良い感じな
のよ。ロキっちとにゃるちゃんもたまにはいいことを思いつくわよ
ねー﹂
﹁お、おう⋮﹂
あれ、でもそうなると俺もそのパターン
い部分が違うというのは
﹂
﹁よくある転生ものだと願いを何個か叶えて転生とかでしょ
﹁まぁそうっすね﹂
﹂
﹁あー、つまりは、楔として俺は違う世界に送られるわけだ。でも細か
とね﹂
﹁こんぐらっちゅれいしょーん 細かい部分は違うけどそういうこ
?
﹂
﹂
﹂
ね ぇ 待 っ て く だ さ い ま せ ん か ね ぇ
で身体を用意しました
﹁待 っ て
だったの
﹁え﹂
﹁え﹂
﹁まぁさておき﹂
﹁置かないで下さいませんかねぇ
何 で 男 じ ゃ 駄 目
﹁けど今回は眷属じゃなくて〝大元〟が欲しかったの。だからこちら
?
?
した﹂
﹁ちなみに、あんたの職業はこの度めでたく神みならい︵笑︶になりま
﹁ぐぬぬ⋮﹂
項らしいわ。ご愁傷さま﹂
﹁しょうがないでしょ。用意したの私じゃないんだから。もう決定事
!
!
14
!
!?
!? !
﹁だから過程が飛んでるよね
﹁色々と⋮
﹂
というかかっこわらいとか何で態々
﹂
んたにはこれから色々と役立ってもらわないといけないからね﹂
﹁かっこわらいはさておき、神見習いってのはほんとだよ。なにせあ
声に出してまで言っちゃった
!? !?
﹂
?
﹂
﹂
暴れて欲しいわけ﹂
﹁な、なるほど
﹁じゃあお待ちかねのチート内容に行くわよ﹂
﹁まぁ一応⋮﹂
﹁とりあえず納得はできなくても意味は理解した
?
﹂
具は⋮面倒だから一番強い奴に全属性付けといたげるわ﹂
ビリティか⋮これは命大事にって感じのを詰め合わせておくわ。防
イザー︵自分以外対象の復活アイテム︶はさすがに無しね。あとはア
得、アイテムはすべて保持で使っても補充される。あ、ムーンアトマ
強化具合は任意にしておくわ。それから全フォトンアーツを完全習
所持限界解除、全武器所持でもちろんSランク化済み⋮、面倒だから
成長限界のMAXでもちろんLV200状態のステータス。道具の
﹁とりあえずそこに書かれてるのがあなたに与えるチートよ。身体の
いるそれには幾つかの箇条書きがされてあった。
の前に半透明のスクリーンみたいなのが出現する。空中に浮かんで
そう言いながら、エミリアはパチンと指を鳴らした。すると俺の目
?
﹁いや、これはこっちの事情だから関係ないわね。ともかくチートで
﹁身体は
﹁簡単に死んでもらったら困るし、何よりもその身体は│││﹂
えー⋮、幼女どころか神様見習いって、えー⋮。
け。種族ビースト、職業神見習いみたいな
なのよね⋮。まぁそんなわけで人間ではない者になってもらったわ
けないのよ。最近人手不足で⋮。ちょっと若い子粛清しすぎて大変
らわないといけない。その上で眷属を作る側になって貰わないとい
﹁さっきも言ったように色々な世界で今から与える力をぶっ放しても
?
スケープドール︵持っていたら自動復活する使い捨てアイテム︶ま
15
?
であるのか。おいおい、どんだけチートなんだよ。
まだあるの
﹂
﹁│││ここまでがPSPo2からの分ね。﹂
﹁え
にまだあると
ここまでだけでもラスボスを片手間で殺せるくらいにチートなの
?
﹁それそれ﹂
チートここに極まれり
﹂
﹁それで最後に⋮﹂
﹁まだあるのかよ
!!
﹂
﹂
!!!
っじゃなくて、﹃幻想を現実に変える程度の能
!!
!?
﹁そうだと良いわね﹂
目を反らしながら言われた
﹂
?
さっきから端々に不安要素が見え
いくとチートに磨きがかかるとか
﹁じゃあ、俺の方の能力も最初はザコみたいなものだけど、使い慣れて
ど強くなる。その力の強さで神の位が決まるの﹂
理状態に左右されたりっていう欠点もあるわ。そして使えば使うほ
この能力を持ってるからなわけ。けどこの能力にも強弱があるし、心
﹁詳しく説明すると、あなたたち人類が全知全能の神様って言うのは
﹁ひ、卑怯くせぇ⋮⋮﹂
﹁簡単に言えば、心で思った事を実際に起こしたり、具現化する能力﹂
力﹄って何さ
﹁程度って東方かよ
現実に変える程度の能力﹄をプレゼント
﹁ふっふっふ、聞いて驚きなさい。神様見習いの特典として、
﹃幻想を
!?
自分も使えるようになるっていう⋮﹂
﹁ラーニング機能って技を食らったりしたらなぜかその技を理解して
能を覚えるための制限とかが無い上にラーニング機能を備えてるわ﹂
﹁なんとその身体は、基本的な技能もチートだし、不老不死、様々な技
態のやつとか群れで来ると速攻で死んでしまうマゾ使用だった。 できる。逆に雑魚はどれだけ自キャラを育ててもブースト︵強化︶状
なにせBOSSって基本一匹だからパターンさえ読めば何とでも
あ、ちなみにラスボスはLVが100もあればいけたりする。
?
?
16
?
隠れして居る件について
﹂
!
﹄的な展開ないですよね
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁とにかく異世界で頑張って
誤魔化しやがった
ね
﹂
終わったらご褒美もあるし
?
明らかに誤魔化しやがった
!!
?
﹂
﹁あ、ちなみに一つの世界じゃないわよ
﹂
ってことはつまり多次元世界
﹂
﹂
﹁若い子が足りないとか言ってなかったっけ
界を渡る状況になるの
?
﹂
上の人の考えることなんて分かんないし﹂
﹁あんた下の人
﹁部長﹂
﹂
だから。所持アイテムの取り出しもそれからできるよ。私のメール
﹁ふっふっふ、それはただの携帯とは比べ物にならない位高機能なん
﹁携帯
そう言い、うれしそうにしながらポケットから何かを取り出す。
﹁その意気その意気っ﹂
﹁まあ、わかった。とりあえずやらなきゃ始まらないしな﹂
うわ、ごっさ中間管理職。色々と苦労してそうだ︵偏見
!?
﹁さあ
盾するよな。
IT関係に強い人が必要だからこんなことをしたとかいう話と矛
?
そんなほいほいと世
﹁そうよ。そしていろんな世界を回り神様としての力を蓄えて来てね
﹁はい
?
﹁と、とにかく次の世界で頑張ればいい訳だな﹂
力って訳は無いか。⋮そう思っとこう。
けどまぁ、異世界で俺が力をぶっぱするのが目的ならしょぼい能
!!!!!
﹂
﹁ねぇこれホントにチート ﹃チートだといつから錯覚していた⋮
あるけど使いようかな。頑張って
﹁想像しちゃったものが具現化されちゃうわけだから、向き不向きは
!!
?
?
?
?
17
!!
?
!!
?
?
アドレスも入ってるから緊急時はメールしてきてね。あ、あと訪れた
世界の情報とかをその世界経由である程度引き出せるようになって
﹂
!
るからやってみてね﹂
﹂ちょ、ま
﹁それってアカシックレコー﹁それじゃ、まずはFateの世界ね
行ってらっしゃい
!?
足元に魔法陣的なものが現れる。続けての浮遊感。
そして意識が遠のいていく。
?
!?
え、ってか、まじでFateの世界
救いは無いんですか
18
!
﹃stage2:Fate/stay nightの
世界﹄
場を和ませようとしてニャル子さんのセリフを借りて召喚に応じ
たんだけど、失敗したようだ。色合いは似てるし、いけると思ったん
だけどなぁ⋮。でもよく考えればこのネタがこの世界で知られてい
るわけ無いか⋮。
﹂
とりあえずは召喚完了だ。俺は目の前の少女、いや幼女へと目を向
ける。
﹁あなたが⋮⋮、私のサーヴァント
なんだろう、すごく残念そうな表情で幼女がこちらを見ている。雪
︶b
を思わせる真っ白な髪に、ルビーのような紅い瞳、状況から言ってこ
の子はイリヤだろう。
うん、美幼女です︵`・ω・
サーヴァントとしてやっていけるのだろうか。
そもそもFate世界でやっていけるかも謎だけどね
知ってる︶、現代の情報︵元から現代人ですしおすし︶、自らのクラス
ちなみに流れてきた情報ってのは、聖杯戦争の情報︵原作知識で
かね。
るものがイリヤと繋がってる気がするからこれがパスってやつなの
るってことはまだ冬木市じゃないんだろうし、なんか身体に流れてく
本来は魔力供給も聖杯からあるはずだけど、目の前にイリヤが居
で必要な知識を聖杯から渡されるんだったかな。
たしかサーヴァントは召喚される際にその時代において過ごす上
入ってきていた。
さておき、こちらへと召喚された際に、ある程度の情報が脳内に
!!
19
?
ふむ、それにしてもイリヤかー⋮。好きなキャラだけど、イリヤの
´
︵バーサーカー︶、といった感じ。思ったより少ない。
聖杯役にたたねぇなおい
!!?
まぁ他のクラスよりは、Koujuが持ってるある種族特性的
・・・・
唯一役立つ情報は自らのクラスがバーサーカーだってことくらい
か
にお似合いだろうけどもさ。
⋮⋮ゲーム内で俺が近接武器持って敵によく突っ込んでたからっ
あ、でもバーサーカーとして召喚したんだから口
て理由ではないと信じたい。
﹁ねぇ、聞いてる
﹂
?
;ω;`︶
は、話せるなら早く言葉にしてよ。心臓に悪いわね⋮﹂
スフィール・フォン・アインツベルン。あなたの真名を教えて貰える
﹁あなたバーサーカーのクラスなのに話せるのね。私の名前はイリヤ
し。
のだ。仲良くなっておくにこしたことは無い。俺も悪い部分あった
素直に謝っておく。これからパートーナーになるであろう少女な
﹁ごめんなさい﹂
﹁っ
ごめんなしあ︵
そ う 言 う や 否 や 少 女 は ビ ク ッ と 驚 く。思 わ ず 俺 も ビ ク ッ と す る。
﹁大丈夫、話せるよ﹂
とりま返事をしておこう。
いる。メイビー⋮。
からバーサーカーのクラス特性を得られない代わりに理性を保って
けど俺の場合は、元々﹃狂化﹄に当たるであろうスキルを持ってる
代わりに基礎ステータスのランクを上昇させることができる。
本来バーサーカーのクラスは、理性を失わせ魔力消費が膨大になる
バーサーカーのクラスではあるけど、イレギュラーってことかな。
んのセリフ言ったし。
は成り立たないはず。でも俺は普通に話せる。というかニャル子さ
でも確かに本来のバーサーカーとして召喚されたのであれば、会話
問自答していた。
俺が一人で自問自答していると、目の前のイリヤ︵仮︶もなんか自
とかいってたような⋮、あれ
頭での意思伝達は不可能か⋮。あれ、でもさっき這い寄る混沌がどう
?
´
20
?
!?
かしら
﹂
﹁俺は⋮﹂
﹂
待て、俺はなんて名乗ればいいんだろう。中の人の名前
ひょっとして反英霊
体の元になったキャラの名前
﹁⋮名前を言えないの
﹁いや、そういう訳じゃないんだけど⋮⋮﹂
どう説明しよう。
﹂
たようだ。
﹁えっと携帯電話
﹁そうそう﹂
﹂
この身
に使われる音楽だ。どうやらさっきもらった携帯電話に着信があっ
そう決めた途端、ポケットから軽快な音が鳴り響いた。某最終幻想
﹁おう⋮
テテテテーテーテッテッテテー♪
この外見で日本名は変だから、コウジュって名乗っておくかな。
ソフトは樹里 庵︵元俺︶、ハードはKouju︵今の俺︶。
の元大学生。見た目はただの幼女。
ペックで言えば原作バーサーカーよりも上だろうけど、中の人はただ
本来召喚しようとしていたヘラクレスと違い、出てきたのは俺。ス
?
?
≪バーサーカー≫
真名:コウジュ/
???
﹁メール、か。何々│││﹂
がらの携帯電話だ。
そう頭の中で先送りにしつつ、携帯を取り出す。中折れ式の、昔な
もこの現状がまだ受け入れ切れてないんだし。
す﹄ってみどりの人が言ってた気がするし、流しておこうよ。何せ俺
何 が セ ー フ か わ か ら な い が﹃常 識 に と ら わ れ て は い け な い の で
﹁気のせい気のせい。スマートホンではないからセーフ﹂
﹁英霊が携帯⋮何かがおかしい⋮﹂
?
21
?
?
?
?
属性 混沌・善
筋力: A
魔力: C ︶ 耐久: C︵D∼A︶
幸運: E︵
敏捷: A
宝具: EX
○クラススキル
獣化︵凶化︶: B∼A+
○保有スキル
獣の本能: A+
幻想を現実にする程度の能力: EX
○宝具
ポケットの中の幻想︵ファンタシースターポータブル︶
:対人︵
がるならチートでいいんだけどもさ。
﹂
︶
﹁コウジュ、ね。聞いたことがない名前だけど、何を為した英雄なの
?
というかハテナが多い。あと何さこの幸運の低さ。
﹂
﹂
﹄って口元押さえながら言えばいいの
画面を見て固まってるけどどうしたの
﹃うわ、私の幸運低すぎ
﹁⋮
﹁
?
?
ただの大学生なので歴史に残るようなことは何もしてないんです
がそれは⋮。
とはいえ普通に中身の話をするわけにはいかないし⋮、とりあえす
Koujuの話をするかね
?
22
宝具
頭が刺々してなくてもそう
!!
言いたくなるレベルのひどさを見た。あ、いや、生き残れる確率が上
こんなんチートや チーターや
!!
?
?
﹁なんというか、ナンデサーって感じで⋮﹂
?
﹁ともかく、俺のことはコウジュって呼んでくれ﹂
???
?
﹂
﹁えっとですね、う⋮﹂
﹁う
﹂
﹁宇宙を⋮救いました⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮本当は
﹁古代神
﹂
﹂
?
味がよくわかる。
という謎よくあるパターン︵笑︶ 戦いは数だよ兄貴
って言葉の意
スボスがいるところまでの、雑魚敵に群がられた時の方が面倒だった
スは割と簡単だった。パターンさえ読めば割とちょろい。むしろラ
ちなみにこれはPSPo2のラスボスの話ね。ぶっちゃけラスボ
ださい死んでしまいます。主に羞恥心的なダメージで。
あ、痛い子を見る目だ。痛いこと言ってる自覚はあるのでやめてく
際の悪い奴﹂
んだのに、再び現代に生きる人々を乗っ取って支配しようとした往生
りの祖であり、古代を統べた王であり、神みたいなの。1度肉体が滅
﹁えっと、現代に生きる人々の⋮あぁ、俺の元の世界のね⋮。その始ま
﹁なんで疑問形
﹂
﹁じゃあ質問を変えるわ。何から宇宙を救ったの
一応嘘は言ってない。ゲームの中でという注約はつくが。
﹁でも、確かにこの身は宇宙を救ったんだ⋮⋮﹂
﹁宇宙って⋮⋮いくらなんでも⋮⋮﹂
﹁いや、本当だって﹂
?
?
?
う。どこかで戦闘面での能力チェックをしないとだな。生存率に大
でも中が中だから戦闘経験なんて当然無いし、怪しいのは当然だろ
い。そういうことにしておいてくださいお願いします。
としてBOSSを何回もぬっ殺しに行ってるくらいだから嘘ではな
さらに胡散臭いものを見る目に⋮。でもゲームの中でKouju
﹁へぇ⋮⋮。とりあえずは異世界の英雄ということで良いのね﹂
﹁ほ、ほんとだって、確かにこの身は宇宙を救ったんだって﹂
!
23
?
きくかかわるから最優先事項だろう。
けど改めて考えると、よくある転生オリ主チートものの主人公た
︶してきたわけだけど
まったく訳が分からないよ。
ちってすごいよね。死んで、チート貰って、転生して、そしたらもう
そのチートを感覚で使うんだぜ
実際に今俺がチートをもらって転生︵憑依
も、全く使える気がしない。もう少し転生初心者に優しいチュートリ
アルとかは貰えなかったんですかねぇ⋮。
厨二病恐るべし⋮。
ほんとなんで世のオリ主たちはチートを⋮⋮、まさか、脳内修行︵妄
想︶の賜物だとでも言うのか⋮
最近の子は感受性豊かだっていうからな。頭の中で何と戦ってい
ても不思議ではないな︵遠い目
それにしても、ふむ、こう手を振ったら武器出てこないかな。こう
宝具チックな神々しいやつ。
それくらい簡単なら苦労はしないか︵笑︶
﹂
た⋮orz
│││
﹁それが⋮あなたの宝具なの⋮
﹁ソッスネ﹂
﹂
す。こんな古そうな建築様式の床って直すのに御幾ら万円要るんだ
答えられない俺。だってこの床をどうするかで頭がいっぱいなんで
イリヤが恐る恐る俺に聞いてくる。それに対して投げやりにしか
?
24
?
?
?
でもそう言いつつブンっと手を振り下ろしてみる俺。
﹂
│││ッズパァ
﹁キャッ
﹁ファッ
!!
出 た よ。宝 具 チ ッ ク な の。た だ し 禍 々 し い や つ ⋮。あ と 床 が 斬 れ
えー⋮⋮。
!? !?
ろうか。あ、ここ日本じゃないか。あとで請求書回されたりしないよ
ね
?
さ、さておき、俺はこの武器に見覚えがある。現実逃避言うなし。
﹁ルカ⋮⋮﹂
俺が思わずそうつぶやくと、手に適度な重さを与えてくれている目
の前の武器が怪しく脈動した気がした。
キャリガインルゥカ。通称ルカ。
俺がPSPo2で愛用していたレア武装の一つになる。両剣とい
う、持ち手の両側に刃がある武器カテゴリーに入る物の一つで、ゲー
ム内エネミーのキャリガインの両腕から作られたという設定のもの
だ。
見た目は鎌のように内側に反った刃が両側に付いていて、持ち手は
どこか生物的な曲線を描いている。
同種の武器の中で言ってもレア度・攻撃力ともにさらに上回るもの
があったにも関わらず俺はこれを愛用していた。
それが今、実際に腕の中にある。
床のこと置いといてこっちについて
﹂
?
25
え、これどうしたらいいの
考えたけどこっちもどうしたらいいかわからない。教えて偉い人
﹁わ、わかった﹂
﹁そろそろそれを収めてくれないかしら⋮
まぁ持ち主が持ってる武器に圧倒されてちゃ世話がないか。
レッシャーに当てられているようだ。俺は全然感じないけど︵震え声
イ リ ヤ の 額 に 汗 が 滲 ん で い く の が 見 え る。確 か に ル カ か ら の プ
のに⋮⋮﹂
るんだもの⋮。そこにあるだけでこんなにもプレッシャーを感じる
﹁あなたが、確かに英霊なのはわかったわ。そんなものを平然と持て
!
?
これのなおし方がわかりません
26
先生大変です
この際EROい人でもいいから教えて
!!!
!!
!!!
﹃stage3:主とサーヴァント﹄
ところ変わって、イリヤの部屋なう。
あれって可愛いのか
おおぅ、ファンシーなぬいぐるみがいっぱいだな。かわいらしい少
女チックな部屋だ。
って、あれ、あのぬいぐるみ内臓出てない
あ れ は
言わないよな
テ ッ ○
テ ○ ド じ ゃ な い か 下 ネ タ は さ す が に
ありゃ、あっちのは懐かしいな、ゴリラがシンバル持ってる。な
?
!!
クマのぬいぐるみ抱えてるのが似合
!!!
﹁そうだなぁ、まずは種族か。この獣耳見ればわかると思うけど、俺の
いからあなたのことを教えてほしいの﹂
﹁さてコウジュ。さっきの続きと行きましょう。いえる範囲で構わな
るぜ⋮。
ください浄化されてしまいます。今のイリヤの瞳は俺には眩しすぎ
なんか訂正しづらい勘違いされた。そんな慈しむように見ないで
﹁アッハイ﹂
わけないわね﹂
﹁そうよね⋮。英雄になるほどだもの。年齢通りの生活なんて送れた
いそうな容姿だけどおt︵ry
だけど男の精神なんですが
中身は20歳間近な男なんですが。無駄に美幼女なうってな状況
﹁俺は、えっと⋮﹂
﹁いや、あなた自身女の子でしょうに﹂
﹁あ、ごめん。どうにも女の子らしい部屋って入ったことなくて﹂
﹁あまり見られると恥ずかしいのだけれど⋮⋮﹂
!
﹂
﹂
体には動物の因子が混ざっている。元の世界ではビーストって言わ
れる種だな﹂
﹁尻尾は無いの
﹂
﹁無いなぁ⋮﹂
﹁なんで
?
﹁そういうものなんじゃないかな
?
?
27
!!
?
!? ?
もしくは大人の事情です。ゲームの設定なんだから仕方ない。
﹁ちなみに他の種族は、文字通りのヒューマン、機械生命のキャスト、
どしたん
﹂
魔法適性の高いエルフっぽいニューマンが居たりする。
ん
カーのクラスたる由縁らしいよ﹂
?
﹁クラス要素が否定された
﹂
うん、とりあえず獣化禁止ね﹂
﹁なるほど、確かにバーサーカーね。見た目からは想像できないけど、
でどうしようもなくなる感じ﹂
﹁敵味方関係なしとか、ダメージを受けないから幾らか時間が経つま
﹁暴走って⋮、また物騒な能力ね。どんな風になるの
﹂
があって特定条件で暴走しちゃうわけなんよ。それが、俺がバーサー
﹁話を戻すよ。ビースト種にはナノブラストっていう獣化するスキル
嫌すぐる。
チャー的なものだと思うよ。そっちの知識を与えてくる聖杯なんて
あと、現代においてエルフの知識が使われるのってきっとサブカル
うっかり変なことを言わないように気を付けないとな。
知識やらが混じった所為で起きた矛盾にすぐ気付くとは。
変なところに気づくイリヤさんぱない。俺の現代知識やらゲーム
必要になる可能性があるという事かしら・・・・・・﹂
れにしても聖杯も変な知識まで一緒に与えるのね。いや、現実として
﹁それもそうよね。いくらイレギュラーな英霊でもそれ位は⋮⋮。そ
アップ位は受けてるさ﹂
サーヴァントとして呼ばれたわけだし、聖杯から現代情報のバック
﹁い、いや、それはあれだよ。元の世界にはないけど、一応この身は
フという単語も存在するのね﹂
﹁ちょっと気になったのだけど、ニューマンって言葉があるのにエル
話の途中で軽く首を傾げたイリヤ。気になったので問うてみる。
?
きる自信はあるけど、令呪で縛ったり出来そう
﹂
﹁本来のバーサーカーのクラススキルである狂化ならある程度操作で
!?
?
28
?
﹁ムリダナ﹂︵・
・︶
﹂
?
やん
があるんだけど、後者にならなければ大丈夫なはずだ﹂
﹂
ボルテージを上げる
いし、ダメージ受けてボルテージを上げるマゾでもないし、仕方ない
いやだって、一般的な日本人な中の人に戦闘行為に興奮する感性な
よし、獣化は一旦放置だな︵キリ
いておくしかない。
んでリセットの件は確かめ様が無いというか確かめたくないから置
言うなれば戦闘行為によって興 奮 す る 必要があるということ。死
いうことだろう。
一定以上の戦闘行為か、一定以上のダメージ、当然死ぬとリセットと
おそらくだけど、俺の能力がゲーム準拠であるならば獣化の条件は
だが、現実にはそんなものあるわけない。
ゲ ー ム 内 で は 獣 化 使 用 時 は 専 用 ゲ ー ジ を 貯 め る 必 要 が あ っ た。
ナノブラスト
ま、まぁ、積極的に獣化したいわけではないから良いけどさ。
そんな殺生な⋮。
﹁⋮⋮﹂
﹁獣化は私の居ないところで⋮とか⋮
﹁どないせぇと⋮﹂
﹁猫⋮苦手なんだけど⋮﹂
なやつ
﹁えっと、獣化には何パターンかあってだな、猫、狐のような狼のよう
視できるのはうれしいわ。その方法は簡単にできるものなの
﹁あら、なら大丈夫じゃない。バーサーカーとしてのデメリットを無
﹁あ、でも獣化しても暴走しない方法はあるんよ﹂
かといって試すわけにはいかないからなぁ。
思わず棒読みになる。まぁ多分でしかないんだけど。
×
しい。
・・
サー
ちょっと想像してみる。俺がゲームでやってたように、近接武器を
オブツハショウドクダー
!
!
持って敵に嬉々として向かっていく今の自分。ヒャッハー
ヴァントが何ぼのもんじゃい
!
29
?
?
ただ、スキルにあった﹃獣の本能﹄ってのが怪しい。ものっそい怪
?
うわぁ、バーサーカーだわ。これバーサーカー。あかんあかん。あ
﹂
る程度は戦闘に慣れないとだけど、弾けないように気を付けないとい
けないな。
﹁え、えっと、そんなに落ち込まないで⋮
獣化を否定されたことより、自分の想像が微妙
だったからこんな感じになってるだけなんだ
でもごめんね
ながらそんなことを言ってきた。
さっきから俯いてしまっていたからか、イリヤが俺の顔を覗き込み
?
﹂
さっきの宝具は近接戦闘用武器に見えたけど、実
なんて言えるわけもない。
初戦闘すら済ませていませんが何か
ちょっと調子を確認したい
﹁あ、そうだ。どこか広い所ないかな
使うとしたら外なのだけど
俺に気を使ってか、態々言い方を変えてくれるイリヤ。
の。その所為で⋮、いえ、その御陰であなたを召還出来たのだけどね﹂
﹁いえ、私のミスよ。感情のままに魔力を垂れ流してしまったのだも
﹁っと、ごめんな﹂
の⋮﹂
﹁それに、申し訳ないけど大量に魔力を使ったからかそろそろ限界な
とご近所さんに迷惑だな。
時計も見てみるとまだ深夜だ。こんな時間からあまりうるさくする
この体は夜目が利くからか外の景色がよく見えるが、近くにあった
﹁そういうこと﹂
﹁あ、夜やん﹂
そう言いながら窓の方へと目を向けるイリヤ。
│││﹂
﹁ええ。でも明日でも構わないかしら
し﹂
?
﹁なんというか⋮⋮﹂
は苦手とか
﹁戦闘そのもの
戦闘そのものに不安があってね﹂
﹁いやいや、獣化のことだけで落ち込んだわけじゃないよ。ちょっと
心配させたままではいけないので顔を上げる。
!
!
?
?
?
30
?
何この子可愛すぎるんですけど。
思わずによによしてしまう。
﹁な、なによ⋮﹂
﹂
﹁イリヤは可愛いなぁって⋮﹂
﹁う、うるさい⋮
﹁っ
﹂
﹁かわいいにゃぁ⋮﹂
!
身長はあまり変わらないのに、軽いなぁ。ちゃんと食べてるのかね
すかさず受け止める。
ほんとに限界だったのか投げてる途中でふらついたイリヤ。勿論
﹁おっと⋮﹂
﹁あ⋮﹂
いたい︵笑︶
からかい過ぎたのかイリヤが周りにあるぬいぐるみを投げてくる。
!!!
この体の筋力が上がっていたとしても、今にも折れて砕け散りそう
だ・・・。
﹁⋮なによ﹂
﹁⋮何でもない。とりあえずベッドで横になりな﹂
﹁言いたいことはあるけど⋮、そうね、わかったわ﹂
っ⋮⋮﹂
﹁そ う そ う、小 さ い ん だ か ら 無 理 し ち ゃ い け な い っ て。寝 る 子 は 育
つっていうし﹂
﹁あなたに言われたくないんだけど
﹁ほらほら言わんこっちゃない﹂
抱っこの図︶、ベッドに移す。
﹂
﹁コウジュ⋮﹂
﹁ん
﹁あなたは⋮どこにも行かない⋮
﹂
寄りかかってきていたイリヤを抱きかかえ︵※幼女が幼女を御姫様
!?
がそう聞いてきた。
掛け布団をかけていると、目をうつらうつらとさせながらもイリヤ
?
?
31
?
俺は、実のところ原作におけるイリヤの内情に詳しい訳ではない。
原作も一部だけだし、アニメは見たけどあれも全てが語られたわけで
はない。
だから知識のほとんどが二次作品に頼っていることになる。
だがそれら数多ある二次作品でも共通するのが家族に対する複雑
な感情だ。
目の前に居るイリヤもまた、そういった人との繋がりに色々と思う
と こ ろ が あ る の だ ろ う。そ れ が 先 の 言 葉 に に じ み 出 て い る の が 分
かった。わかってしまった。
パスで繋がっているからだろうか
どう返事するか考えていたらイリヤが瞳に不安を隠しながらこち
らを見ていた。そんな彼女を見ていたら、考えるまでもなく言葉が出
てくる。
﹂
﹁俺はサーヴァントらしいからな。俺とイリヤはセットだ﹂
﹁ふふ、なにそれ⋮﹂
﹁さぁ、な。どう思う
程までとは違って安らかに見える。
こうして見るとほんとにただの女の子にしか見えないよな。美少
女度はさておき、だけど。けど、待ち受けているのは血で血を洗う無
慈悲な戦いだ。
﹁Fate⋮か⋮。でも、来ちゃったもんはしょうがないよな﹂
正直に言うと未だに現状を理解できていない。平和に暮らしてい
た一学生が、突然殺し殺される世界に混ざりこんだわけだ。はいそう
ですかと馴染めるわけがない。
けど、この目の前にいる少女が本物だと、2次元の中のフィクショ
ンではなく現実というのは確か。
どこまでできるかわからないが、原作のような結末をこの子が辿る
なんてことを許容できるわけがない。
ここで何もしなかったら、男が廃るしな⋮。
﹁うし、がんばるか﹂
32
?
返事がない。どうやら寝てしまったようだな。でもその寝顔は先
?
何をどうするかなんてのは決まっていない。それでも、どうにかす
る。これ確定事項。
﹁サーヴァントバーサーカー。この身尽き果てようとも、主の剣とし
ああ、顔が赤くなるのが自分でわかる。
て、盾として、一匹の獣として貴女を勝利へ導こう﹂
は、恥ずかしいいいい
これどうしよう
否定できねぇのが辛い。
イリヤさんがなんか服の裾を摘まんでいて放してくれない。
﹁って、ありゃ⋮﹂
そう⋮//
誓いの内容に嘘はないけど、全力は尽くすけど、恥ずかしい⋮。く
う願望でもあったのか
何すらすらと俺の口は勝手に言ってくれちゃったんだよ。そうい
!!
苦八苦してみる。うー、握っている指を放せないものかチャレンジす
るも、放されそうになるとイリヤの表情が悲しげになる。
何これすっごい罪悪感あるんですけど
寝るか⋮。明日筋肉痛になってそうだぜぃ⋮。
はぁ、一緒のベッドで寝るわけにもいかないし、ベッドにもたれて
!?
33
?
何とか放してもらえないかと起こさないように気を付けながら四
?
﹃stage4:アインツベルン城﹄
﹁ごちそうさまでした﹂
さっきも﹃いただきます﹄とか言ってたけど﹂
﹁なにそれ
のだから﹂
﹁そうなの
いつもこんな感じなのかな
がズラーっと控えてる。
かゼロ魔の食堂を少人数で使っている感じだ。壁際にはメイドさん
食事はすでに並べられていて、すごい量の食事があった。何て言う
らい広い部屋に、あり得ない長さの机がある︶に訪れた。
朝ごはんを食べることになって、イリヤと共に食堂︵あり得ないく
本当に美味しかった。
﹁よろしく﹂
﹁そう。後で料理長に伝えておくわ﹂
あんなに美味しいのに勿体ない﹂
﹁私も、というより作った方もビックリでしょうね。基本的に残すも
ビックリしたけど、思わず全部食べちゃったぜ﹂
﹁それにしても美味しかったよ。朝から大変な量が並べられてるから
がどうたらは言わないよな。うん、ほんと気を付けよう。
普通、異世界から来て宇宙社会がどうたらとか言ってたのに、日本
またもや当たり前のように言ってたから気づかなかった。
﹁そ、そういうことにしといて⋮﹂
ず、セイハイッテソンナコトモオシエテクレルノネ﹂
﹁⋮⋮何で知ってるかとかは聞いたら負けなんでしょうね。とりあえ
日本流の食事時の挨拶﹂
﹁知らない
?
││クゥ⋮││
らんでたわけだ。
からんの︵美味しかったから気にしない︶まで、ズラーッと絢爛にな
エッグ、色鮮やかなサラダetc etc⋮メジャーなのからよくわ
そんな所に、アルプスのgirl的な白いパンとか、スクランブル
?
34
?
?
見た瞬間にお腹が鳴ってしまった。顔は真っ赤だったろう。
やめて、そんな目で見ないで
無表情だったメイドさん達から、こころなしか暖かい目で見られて
いる気がしたからね
続けた。いやモキュモキュ
さすがにバクバクとは食べる訳にはいかないからモクモクと食べ
そしてすぐに食事開始。
慌てて追っかけて席に着く。マジで恥ずぃ。
そんななかイリヤは、クスクスと小さく笑いながら席に着く。俺は
!
いや、偶然だよな
今は考えないようにしよう。うん。
アインツベルン城の従者達は化け物か
しかも、イリヤがどこかに連絡したりもしてないのに二人分⋮。
ような状態。
ないはず。なのに料理たちは、食堂に入った瞬間に出来上がったかの
しかもあの量だ。どのタイミングで作り始めたら良いとか分から
時だからとかじゃない。
俺とイリヤが食堂に行ったのって俺の腹が鳴ったからであって、定
らなんやらから湯気がたっていたことだ。パンも焼きたてだった。
それにしても不思議だったのは、今作られたかのように、スープや
た。すでに遠慮の域を越えてるとかは突っ込まないでほしい。
料理を追加するか聞かれたが空腹感は無くなったので一応遠慮し
とさ。結局満腹にはならなかったこの身体に改めてビックリ。
そんなこんなでいつの間にか大量にあった朝食達は居なくなった
どこのピンクの悪魔だ⋮。
人男子の体積すら軽く越えた量を食べた。
うで永遠と口に運び続ける。明らかに現在の、いや、前の平均的な成
どうやらこのチートボディの胃袋は某腹ペコ王とタメを張れるよ
?
﹁飲まないの
﹂
くれた。元一般人でもわかるくらいにこれは良いものです。
それで今は食後の一服中。なんかすごい良い匂いの紅茶を出して
!!?
35
!
?
イリヤがやたらと絵になる感じで、優雅に紅茶を飲みながら話しか
?
か。ごほん、カリスマ崩壊なんてなかった。
けてくる。やっぱりお嬢様だな∼。
いや、おぜうさま
いいね
﹂
﹂
?
﹂
さっき窓から外を見たんだけど、えらく雪が積
﹁構わないわよ。そんなに雪が珍しいの
私からしたら見慣れた景
もっててさ。外に行きたいんだよね∼⋮だめ
﹁どこでやるんだ
﹁えぇ、そのつもりよ。それがどうかしたの
﹁なぁイリヤ、この後俺の力を見るって言ってたじゃんか
美味しいんじゃなくて、美味しいから高いんだろうけどさ。
て飲んだことなかったけど、高いだけのことはあるよ。まぁ高いから
俺が飲んだことあるのって午○の紅茶位だからさ。高級なやつっ
﹁フフッ、お気に召したようでなにより﹂
﹁││うん、おいしい。こんなに美味しいものなんだな、紅茶って﹂
それにしても││
⋮。
誰だ今、ケモノ目ヒト科ロリ属あざとい種とか言ったやつ。⋮幻聴か
ヌ 科 ネ コ 科 な ん て 分 類 で 区 切 ら れ る 種 族 じ ゃ な さ そ う だ し い い か。
耳だけど猫舌とはこれいかに。まぁ獣化のことを考えると単純なイ
俺、猫舌だった。今の身体もそうみたいで、舌がピリピリする。犬
﹁熱い⋮﹂
││コクッ││
ちょっとイリヤのマネをしながら飲む。作法とか知らんしな。
﹁いや、もちろんいただくよ﹂
?
?
い、気候的に年中安定したところだった。冬場もあんまり寒くならな
転生前に俺が住んでた所は日本でも特に寒くもないし、暑くもな
かったし﹂
すればスゴイ珍しい光景なんだけどな。住んでたところじゃ降らな
﹁へぇ∼、やっぱり雪国の人の感覚ってそういうもんなんだ。俺から
色なんだけどね﹂
?
?
?
36
?
いから雪は降るけど積もらない。だから視界いっぱいの銀世界は心
を躍らせる。
﹁ねぇ﹂
﹂
それ以前に、ずっ
後で外に出たときに、初雪だるまを作ってみたい等としょうもない
﹂
ことを考えていたらイリヤが話しかけてきた。
﹁なに
﹁外に行くのは構わないけど、その格好で行くの
と言おうと思っていたんだけど、今現在も寒くないの
﹁いや、特に⋮⋮﹂
そういえば、と改めてイリヤの服装を見る。イリヤの服装は屋内に
もかかわらず、そこそこ厚着だ。
今いるここはお城で、日本のお城と違って基本的に石で構成されて
いるから冷えやすい。しかも、広いから暖房なんてものも、効果は薄
い。
周りにいるメイドさんもよくテレビとかで紹介されてるメイド服
よりももう少し分厚い、暖かそうな服装だ。
最後に、俺の服装⋮。ずっと気にしないようにしてきたが、やっぱ
り守備力が低い。布の薄さ的にも。
それとも、もともとのゲームは宇
見えている肌はスカート下くらいの太ももくらいだが、全体的に薄
く動きやすい様になっている。
ふむ、イヌ科パワーなのかな
宙を舞台にしていたわけだし超科学で薄くても寒くないとか
﹁ふーん、獣人って言う位だしそういうものなのね﹂
﹁お、おう﹂
PSPo2の面白衣装達の中にはきぐるみやら水着なんてのもあ
うかラスボスからしたらたまったものじゃないだろうな。
ことになるわけだけど、ゲームを現実に置き換えて考えると、何とい
それにしても、Koujuはこの格好でラスボスを倒しに行ってた
がない。マジで自らのスペックを把握しないとやばい。
納得してくれたようで何よりだ。俺にも分からないので答えよう
?
?
37
?
?
?
るわけだけど、世界を支配するとか真剣に言ってるラスボスの前にい
るのがもうコスプレといっても過言ではない美少女だったり、海パン
ネタ服で来られ
のおっさんだったり、しまいにはよくわからない生き物のきぐるみ
だったりするわけだ。
テイルズシリーズなんてその筆頭じゃないか
たボスの心境は計り知れない。
まあ、俺もそれを良くしてたんだけどね︵笑︶
と、話がそれたな。何にしてもこのままで外に行っても大丈夫だろ
う。
﹁さて、そろそろ行きましょうか﹂
﹁了解﹂
残っていた紅茶を飲み干す。まだ少し熱かった⋮。
38
?
﹃stage5:ちーとぱうあー﹄
やあやあ皆さん。外にやって参りましたよっと。
やっふぅー
テンションが高い
見渡す限りの銀世
見たことない位の幻想的な世界が、そこにあるわけですよ
仕方ないじゃないですか、だって雪ですよ雪
界
そこを今雪玉を転がしながら、走り回っております︵笑︶
﹁てやや∼﹂
﹂
﹁はあ⋮、早くしてね﹂
﹁了解っす
!!
!
?
!!
無い
?
るのだろうか
!
﹁ふう⋮それでこれを⋮ぃよいっしょおぉぉ
﹂
まぁいいや。とりあえず今は超エキサイティィング
?
﹁⋮ねえ
﹁なに
﹂
﹂
大小二つの雪玉が縦に二つ⋮雪だるまじゃん﹂
﹁スノーマンを作ってるのよね
﹂
││ぺたぺた、ぺたぺた⋮││
﹁ぺたぺたぺたっと⋮⋮﹂
ドスゥゥゥンっと音をさせつつ乗せると次は形を整えていく。
今まで転がしていたものを先に作っておいた雪玉の上へと乗せる。
!!
!!
なかった筈なんだけど今は超楽しい いn⋮狼要素が俺をそうす
のがうれしくてついつい⋮。Koujuになる前ははしゃぐ程では
わけじゃ無いけど、やっぱりこれだけの量の雪を実際に触れるという
景色の話をしてたんだから、趣きとか風情は無いのかって
広がる雪景色を見て、俺は即行で突っ込んでいってしまいました。
最初、イリヤと共にエントランスホールを抜けて、外に出た瞬間に
よ。
皆さんもうお分かりだと思いますが、雪だるまを作ってるわけです
!
││ぺた⋮││
?
﹁そうだよ
?
?
?
39
!!
﹂
﹁今まで言わなかった私も私だけど、大小二つどころか⋮超特大と特
大じゃない
﹁やっちゃったZE☆﹂
てへぺろしながら親指を立ててみる。イリヤさんから殺気を感じ
た。ごめんなさい︵土下座︶
いやはや、あまりにも楽しすぎて雪玉を押しながら走り回ってたら
いつの間にかこんなことに︵笑︶ 後悔も反省もしないがな
⋮上は7m位
ちなみにサイズは⋮多分下の球は直径が10mくらいはあるかな
!!
とに使うなんて⋮﹂
﹁仮にもサーヴァントに常識も何もないと思うけど
﹂
というか釣りとかサッカーとかする英霊もいるんだよ
ま位普通だってきっと。メイビー。
﹁そうね、もう私が悪いのよ、うん⋮⋮﹂
おっとっと、イリヤが何か影をまといだした。
?
?
くなったっけ。
いつからか﹁恥ずかしいから嫌
﹂って言われるようになってやらな
でてて気持良いんだよなぁ。妹が小さい時もこんな風にしたっけか。
若干小さいから変な感じだ。でもイリヤの髪の毛ってサラサラで撫
そう言いながら、近づいてイリヤの頭を撫でる。ありゃ、俺の方が
﹁ごめんごめんイリヤ﹂
雪だる
﹁まったく⋮非常識だわ。サーヴァントとしてのスペックをこんなこ
?
を励ます妹の図になってるからだな。
﹁って、コウジュっ、恥ずかしいからやめて
!!
たのか、顔が真っ赤になりつつも、どこか嬉しそうだ。かわええー。
さっきまでイリヤが纏っていた影がなくなる。今は、恥ずかしかっ
﹁本当にもう⋮﹂
少し呆けていたイリヤだが思い出したように離れた。
﹁おお、元気になった﹂
﹂
多分あれだ。こっちの方が身長低いから、客観的に見たらお姉ちゃん
ふむ、撫で撫で⋮っと。これ、何でかこっちが恥ずかしくなるな。
!
40
!!
﹁コホン、ほら、もういいでしょ
しよう。
閑話休題。
﹁さて、何からしようか﹂
始めるわよ﹂
﹁あ な た っ て、何 か 象 徴 す る 宝 具 と か は な い の
﹂
?
﹁おーらい。ルカ
﹂
﹁ふ∼ん、じゃあ一先ずそのルカを使ってみましょうか﹂
敵を倒してたら、運が関わるけどドロップするし。
も希少度が高いっちゃ高いけど、持ってる人は持ってたし﹂
﹁宝具か。俺しか持ってないようなっていうのは無いかなぁ⋮。ルカ
カって呼んでた物がそう
そ れ と も あ の ル
顔とかまだ作ってないけど、まぁいっか。また暇な時にでも続きを
﹁了解だ、マスター﹂
まあ、全部俺のせいなんだけどもね。
よほど恥ずかしかったのか急な話題転換だし。
したくなるレベルだな。
まだ顔が少し赤いイリヤ。雛見沢のレナ嬢でなくともお持ち帰り
?
を振らずに出した。と、トラウマになんてなってませんよ⋮ ︵震え
声︶
でもまぁ、なんとなく出す時の感覚が分かってきた。
にならないような動き方が分かる。
と言っても動きのイメージがゲームを通してあるからだろうか
両剣︵ダブルセイバー︶の特性は回転を利用した連続斬り。
し た り、両 剣 自 体 を 蹴 る こ と で 回 転 を 増 し た り、色 々 と ア ク ロ バ
ゲーム内では手で回すだけでなく、身体ごと回ることで全方位攻撃
?
ふむふむ、よく手に馴染む。これもなんとなくだけど、武器が邪魔
逆袈裟、そこから身体ごと回しつつ横薙ぎ2連。
さっきは室内で出来なかったが、慎重にルカを振る。斬りおろし、
?
41
?
呼ぶと同時に手の中に重さを感じる。今回は外だけど、ちゃんと手
!
ティックな部分がある武器だった。
現在の身長に対してルカはおおよそ2倍弱。けど地面を擦ること
なく、振るうことができている。
あ
ルカは大体2メートル。対するKoujuの身長は1番小さい設
定の130cmだ。
身体に対して巨大な武器ってなんか夢があると思わないか
えて言おう。俺は大好きだ。
ところかしら
﹂
大正解なんですけど
﹂
あのあの、イリヤって俺の心読めてるとかないよね
もっと褒めてくれてもいいんだぜ
もしくは全
まったんじゃないかと思っていたけど、英雄の名に違い無しといった
﹁さ す が ね。今 の あ な た を 見 る ま で 間 違 っ て 一 般 人 が 召 喚 さ れ て し
設定で133cmらしい。
ちなみに、イリヤはどっかで読んだ二次で書いてたんだけど、公式
?
一先ずルカを直し、次に試すことを考える。
やはり近接武器の次は法撃武器だろうか
そしてその法撃︵テクニック︶には、どのゲームでもそうであるよ
はスキル、射撃ならバレット。
でも所謂魔法に当たるのが法撃︵テクニック︶だ。ちなみに近接攻撃
扱う戦闘技能をPA︵フォトンアーツ︶と称している訳だが、その中
前作品などでは呼び方が違うが、これら戦闘のプロに当たる人物が
ルウィング﹂社の傭兵としてクエストを行っていく。
PSPo2ではプレイヤーを含め様々な人々が民間軍事会社﹁リト
?
そんなものはどこぞの白い悪魔か紅い姐さん
うにいくつかの属性が存在する。PSPo2では火、土、雷、氷、光、
闇だな。
砲撃じゃないよ
に任しときなさい。
?
42
部知ってて言ってるとかないよね
﹁だ、だろ
﹂
?
?
﹁はいはい。それで、他にできることは
?
!?
?
なんとか俺の動揺は気づかれていないみたいようで助かった。
?
?
こほん。
さておきそれら属性ごとにもいくつかのテクニックが存在する。
中にはHP回復や状態回復、ステータス上昇といった効果を持つも
のもあるので使えるにこしたことはないだろう。
というわけで、法撃武器を出そう。何がいいかな
カタログみたいに見れるかな⋮。でもなんでルカ
と、とりあえず携帯を出してっと⋮。アカシックレコード疑惑もあ
は出せたんだろうか⋮。 よく使う武器だから
言ってたよな
あれ、そういえば武器は携帯から出せる的なことをエミリア︵神︶が
?
ケータイデンワー
︵だみ声︶ るし、なんでこの便利アイテムを忘れていたのか⋮。
﹂
テテテテッテテー
む
﹃圏外﹄
﹁なんでやねんっ
!
!
て、雪を掘り起こすどころかその下の地面を抉ってやがる。
なんという耐久力。こんなところにまでチート性能かよ⋮。
﹁さっきはメール来たくせに⋮⋮﹂
﹂
ちょっとだけ敗けた気分になりながらも携帯を拾う。
﹁ん
とりあえず開いてみる。
画面の下の方にちっさくヘルプが出てることに気付く。こんなの
あったっけ
使う時が来たのですね
﹄
﹃ついにこのヘルプが見つかってしまいましたか。ということは力を
?
?
43
?
?
と、つい関西弁で言いながら携帯を地面に叩きつけた。
!!
憎々しいことに携帯はチートボディの力で投げたのに地面が負け
ベシッ
!!!!
?
?
かな
なんでヘルプなんてものがあるってことを前もっ
思わず再び放り投げたくなった。
ねぇなんで
て教えてくれなかったのかな
?
今見れてます 見るのを忘れてたとかだと大
?
?
﹂
﹁ど う し た の コ ウ ジ ュ
﹂
携 帯 電 話 が み し み し と 音 を 立 て て る わ よ
と出るので。ちなみに慣れてくると設定も必
!
続いて、フォトンアーツですが武器に設定とかしなくても大丈夫な
じゃないかも
要無く、思うだけでできるようになります。最終的には金ぴか王も目
てください。PON
簡単に出せると思います。というか出やすくなってるので気を付け
きました。特別縁が強くなっているので、戦闘に慣れていない今でも
ゲーム内でよく使っていた武器は事前にその6スロットに入れてお
あ る ウ ェ ポ ン パ レ ッ ト に 入 れ て お く と 出 し 入 れ が し や す い で す。
のでゲームと同じように設定してください。武器は最大6スロット
まず武器についてですが、MENUでPSPo2という画面がある
﹃ではでは説明しましょう。
ともかく続きだ。続き。 外にあっただけだ。
るタイミングも遅い訳ではないし、忘れてた訳でもない。ただ意識の
ぐぬぬ、いやだめだ。ここで投げたら負けを認めることになる。見
﹁そ、そう⋮﹂
﹁くぅっ。いや、な、なんでもない。ナンデモナイヨ﹂
!?
﹁っ
!!!!
層なうっかりさんな訳ですが、今後は気を付けてくださいね﹄
どうですかね
いだろうと思って。
ルが来た時点でも一度見てるわけですから、そこから忘れるなんて無
テムがあったら最初に見るだろうと思って言いませんでした。メー
﹃あ、なんで言わなかったかというと、普通目に見えてこんな便利アイ
たことはないんだから。
だが、我慢して続きを読む。短気は損気だ。使い方が分かるに越し
?
?
?
44
!?
ようにしてあります。とりあえず技名を叫んでください。使えます
︵笑︶ これも体に馴染めば自然に出るようになるでしょう﹄
一応初心者用の設定みたいなのはあるのか。慣れたら金ぴか王み
たいにって、王の財宝みたいにってことだよな。すげぇ。
しかし、しかしだ。技名叫べって、身も蓋もない言い方だな。ヒー
ローものみたいな感じになってるじゃないか。せめて真名解放とか
あるじゃん⋮。
でもまぁ武器にセットしなくて良いのは良いことだ。ゲームでは
武器を使うために、パレットと呼ばれる簡易MENUにセットする必
要があった。
パレットには、武器、アイテム、防具がそれぞれ6個づつ設定でき
て、戦闘中に換装できるようになっており、攻撃する際は通常攻撃と
は別にフォトンアーツと呼ばれる技を設定する必要があったんだ。
技は基本的に一つの武器に一つの技しか設定できず、魔法系に関し
アルスマグナ
ザードという錬金術師が使っていたもので、思ったことを現実に変え
るという俺がもらった能力に似た術式だった。
45
ては長杖には最大8つ、片手杖には最大4つ設定できるがそれ以外の
武器は基本的に一つずつしか設定できないようになっていた。
でも改めて考えると、魔法なら分からんでもないが近接格闘スキル
が武器依存ってのは現実的に変だもんな。
だから、多彩な攻撃が可能になってるのはうれしい。
さてさて続きはっと⋮。
﹃続いて﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄についてですが、使用方法
はただ強く思うことです。自分はそれできるんだと、自分の可能性を
信じることです。
﹄
あ、この能力はPSPo2の武器にも反映されて、ゲーム内での説
明文が概念として付加してしまうので気を付けてくださいね
アルスマグナ
でもこれってどこの﹃錬金術﹄
言ってたのか。
強く思うことで⋮ね。だからその時の心理状態に左右されるって
?
﹃錬金術﹄は、とある魔術○禁書目録に出てくるアウレウルス・イ
?
どんなチートだよって感じだが、これにも弱点がある。
自分がちょっとでも負けるイメージを持ってしまうとそれすらも
具現化してしまうのだ。
アルスマグナ
実際に原作ではそれが原因でアウレオルスは主人公に負けている。
え、あの、
﹃錬金術﹄におけるこのデメリット部分まで似てるとかっ
てないですよね
中身一般人の俺に、戦闘中ずっと内心を冷静に保つなんて芸当普通
に無理だと思うのですが⋮。
あと、注意で書いてある武器の概念が反映って部分に嫌な予感しか
しないんだが⋮。武器によったら、エグイ説明の奴とかある件につい
て⋮。
例えば、魔剣レーヴァテインだと﹃万物を滅ぼす力を持つ﹄とかか
いってあったようなきがするんですけど
武器の選択には気をつけよう、うん。
ものを形にしやすいと思いますよ。
たようなものから試してみてはいかがでしょうか
思い浮かべた
﹃最後に、能力の使用に関してのアドバイスですが、最初はアニメで見
とはできません。
りません。﹃万物を⋮﹄とか﹃時間を⋮﹄とか書いてあってもそんなこ
あ、ちなみにゲーム内では武器の説明と実際の効果には関連性があ
?
by エミリア︵神︶﹄
携帯の電波は力を流し込めば使えます。
P.S.
では、健闘を祈ります。
そうです。
あ、某弓兵さんが言うには、常に思い浮かべるのは、最強の自分だ
ますから。
格闘に関しても同様です。行うだけのスペックもその体ならあり
?
46
?
大体わかった。でもとりあえず次あったら覚えてろ⋮。
胸 の 中 で 渦 巻 く 感 情 を 無 理 や り 押 さ え て、携 帯 を 操 作 し て い く。
ちょっと狂化とか黒化とかしちゃいそうだけど、我慢だ。
﹁はぁ⋮、まずは携帯でMENUを開き設定⋮と。武器は⋮あまり強
えこえこステッキくん
﹂
いのだといけないしこれでいいかな
来い
?
﹁それも宝具⋮なのよね
でも無駄に威圧感がある﹂
いやまぁ変なものだけどもさ。
イリヤの目がなんだか変なものを見る目だ。
そんなものをお試しで出せるわけがないのでこれにしたんだけど、
当然効果の強いものだ。それも説明文も中々に凶悪。
縁が強いっていう、ウェポンパレットにも法撃武器は入っているが
ぶっちゃけ魔法少女的な杖だ。
る。
キャンペーンアイテムで、見た目は万能ツールというものに似てい
一級フラグ並びにラッキースケベを巻き起こしまくるマンガとの
俺が取り出したのは、ジャンプで連載していた宇宙のプリンセスと
!
術か
それを使うんでちょっと離れててくれ﹂
﹁まあ、見た目は気にするな。それじゃあ魔法⋮いや、この世界では魔
?
よしっと、集中集中。
イメージが固定された瞬間に頭の中でカチリと何かがはまる感覚
が生まれる。これが技を使うということなのだろう。
あとは術式に燃料を投下するだけのようだ。
﹂
自らの身体の中から何かが抜け出て杖を通して現象へと転換され
る。
﹁ラ・ゾンデ
テクニック名を言いながら杖を振り下ろす。
!!!
47
!
イリヤから離れていくのを確認する。これだけ離れればいいかな
?
イメージは空中から発生する落雷。
?
﹂
ッガアアアァァンっ
﹁⋮⋮は
!!!
この技は雷系統のゾンデ系の中でも
!?
これはメラゾーマでは無い、余のメラだ︵誤射
これが現実とゲームの違いなんだろうか
そこでふと思い付いたことがある。
﹁確かに⋮。練習をしないとだな﹂
使ったら辺りを巻き込むわよ⋮⋮﹂
﹁適当って、敵を殲滅でもするつもり
それにこんなのを冬木市で
﹁あ、あはは⋮、すまん。適当にやったらこうなっちまった﹂
イリヤが声を震わせながら聞いてくる。
﹁な、なに⋮これ⋮⋮﹂
しかし実際に目の前にあるのはこの惨状である。 なかった。
理やらなにやらの問題もあるんだろうが、いちいち地面がめくれはし
ゲームで使った際には当然こんなエフェクトなんてなかった。処
?
かのようにだ。地面なんて熱で溶けてガラス状になってやがる。
雷が落ちた跡にはクレーターができていた。まるで隕石が墜ちた
恐る恐るその惨状の中心地に近づいていく。
的な
なんだろう⋮、電気ショックのつもりが100万ボルトになってた
基本技の一つだ。ただ前方に雷を落とすっていう技の筈なのに⋮。
いやいや、おかしいでしょ
まばゆい光と轟音と共に何かが落ちた。
?
る武器を思い出す。
それと同時に、6つあるウェポンスロットの一つに入っていたとあ
それを聞いたときに脳裏に浮かんだのはとある﹃魔砲﹄だ。
めの能力で、自分はできると思うことが大事だとあった。
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄は想像したことを現実にするた
?
48
?
あ、これ行けるんじゃね
た。
﹁イリヤ、もう一発いいか
﹂
﹂
あなたの知り合いはどんなのよ
﹂
思い付いたらやらずにはいられなかっ
﹂
﹁構わないけど、冬木市で使えるやつにしてね
﹂
﹁お、おう⋮﹂
﹁ちょっと
魔王なの
﹁だって魔王って呼ばれてる人の技だし⋮⋮﹂
﹁人なの
﹁だめ
﹁ああもうわかったわよ
王だろうがなんだろうが好きにしなさい
やるからには全力全開でやってみなさい
今好きにして︵ry
ただし
ん
おっと、唐突な先輩ネタはNGかなw ﹂
﹄をしてもいいってことだと理解するぜマ
さておき試すだけのつもりが全力全壊と来ましたか。
!!
!
ここでやる分には周りに人もいないし、魔
ここまで言ったらもう分かるか。そう、あれだ。
まあ、白い悪魔ともよばれてるけどね⋮。
実際に会ったことはないけど、普通に美少女だと思うよ
!?
﹁来い、アストラルライザー
﹂
スター。それ以前にマスターの命には従わないとね
﹃これが私の全力全壊
? !!
!?
!!
う。
例の魔砲は、厳密には光そのものを集めてるわけではなかったと思
す。その威力は空間を歪ませる﹄とあった。
そしてその説明文には﹃大気中のフォトンを銃身に収束させ撃ち出
からなる構造をしている。
部分、そしてその後方から3つの羽のようにも見えるフォトン射出部
こいつはフォトンで生成された二つの銃身と、持ち手からなる本体
ライフル系☆16ランク、﹃アストラルライザー﹄。
武器名を呼び、手を横に出す。同時に右手の中に重量が生まれる。
!!
?
!
49
!?
?
?
?
!!
?
?
でもフォトン︵光︶を収束して、撃ち出して、砲撃なのに空間ごと
破壊するような威力を誇るって言えば、あの白い魔王を思い浮かべず
にはいられるだろうか
閃光
きを詠唱する。
﹁貫け
﹂
光球が人よりも大きくなったところまで貯める事ができたので続
だからこそ詠唱は一字一句覚えているわけだが。
あるこっちの方がすきだな。
それにしても、やっぱりコピーの方の魔砲だけど、個人的に詠唱が
こほん⋮。
あ、魔法陣の意味が分かるのかとかは聞いてはいけない。
フォトン部は辺りの光を吸収するように集めていく。
銃口には光球が、銃身の周りに魔法陣が現れ、後方にある3つの
全てを撃ち抜く光となれ﹂
星よ、集え。
﹁咎人達に、滅びの光を。
ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ。うん、わかりやすい。
目を開けて、詠唱を開始する。
ぶっ放す
思 い 浮 か べ る の は 全 て を 貫 く 星 の 光。周 囲 か ら 集 め て、固 め て、
目を瞑り、イメージを補強していく。
しやすい。
や棺姫のチャイカに出てくるような魔法を思い浮かべればイメージ
ラも居たし、他作品⋮例えばナイトウィザードのガンナーズブルーム
元ネタのように杖ではないけど大砲系の武器から砲撃してるキャ
?
あとはぶっ放すだけだ
!
﹂
50
!!
﹁スタァーライト・ブレイカァァァー
!!!!!!
!!!!!
!
光球が一度収縮し、次の瞬間には前方へと膨らみ、弾け、そして光
の奔流となる。
それはどんどんと、際限なく太さを増し、柱どころか壁と言えるほ
どの太さへと至りながら視界のすべてを光で埋め尽くしていく。
これ、やばくない
ィィィッン
耳がおかしくなるほどの音が辺りを支配し、目を開けていられない
ほどの閃光を生み出した。
ドオォォォッン
結果だけ言おう。
地形が変わりました。
51
?
!!!!!!
﹃stage6:できること、やりたいこと﹄
あの後は色々と大変だったぜ。
俺が撃ったスターライトブレイカーは、かなり遠くまで威力が落ち
ることなく、地形を壊しながら突き進んだ。正直な話、大気圏突破し
たんではなかろうか⋮
山とか消し飛んだんで地図を書き換えなければならないレベルら
しい。
ここまでならまだよかった︵本当はよくないが︶。
一番問題なのは、アインツベルンの地を守る結界もぶっ壊してし
まったことだ。
確かに撃った後でパリーンッと何かが割れた音はしてた。
お城のガラスでも割れたのかな∼なんて考えてたんだけどさ、いき
なり武装したメイドさん達が城からぞろぞろと出てきたんだよ。
イリヤが訳を聞いたら、結界が壊れたから何事かと出てきたらし
い。
すいません、俺のせいです。
しかもだ。詳しい話を聞くと、結界を維持するために使っていた龍
脈も一緒にダメージを受けていて、アインツベルンの魔術的防御とか
がズタズタなんだって⋮⋮。
思わず土下座をした。
謝り続けた。
それはもうひぐらし的な感じに⋮。
﹁ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい│││││﹂
﹁顔をあげなさいコウジュ﹂
さっきまで黙ってたイリヤが優しく話しかけてきてくれた。
52
?
﹂
俺のせ
許してくれるのかな⋮。なんて、嬉しくなりながら顔を上げると│
│。
﹁あれだけの術が使えたんだから、直せるわよね
鬼だ⋮。
口は笑ってるんだけど、目が笑ってませんよイリヤさん
いだけどさ、なんだかイリヤからの風当たりが冷たい。
﹁イエス
﹂
﹂
マム
﹁できるのよね
﹁えっと、直せなi⋮⋮﹂
い。
でも、イリヤも了解してくれたじゃんとかきっと言ってはいけな
?
?
やらなきゃ
殺︵や︶られる
あなたを煽った私の責任でもあるから、手伝いはでき
?
・
・
・
?
﹁できる⋮かな
﹂
?
でもしゃーないやん。中の人はチート歴まだ数時間なんやから⋮。
呆れたように言われてしまう。
﹁なんで私に聞くのよ⋮
﹂
みながらそう聞いてきた。
メイドさんたちが城内に全員入ったのを確認したイリヤは、腕を組
﹁それで、私もさっきはあんなことを言ったけど、できるのよね
﹂
そう言って、イリヤはメイドたちに持ち場へと戻るように言った。
ないけど一緒に居るわ﹂
コウジュ
﹁はあ⋮ため息ばかりついてる気がするわ。
!!
自分を信じるがどうとか言ってられねぇ⋮。
!!
?
!!
?
53
!
でもまぁ、スペック的にはできると思う。問題は俺の心しだい。
﹁能力的には十分可能だとは思うけど⋮、やったことないからさ⋮﹂
それでもつい言い訳じみた言い方をしてしまう。やっべ、ビビって
きた。
そんな風に思っていることがイリヤに伝わってしまっていたのか、
彼女はこちらを見ながら微笑んだ。
﹁あなたならできるわ﹂
その笑顔についドキリとしてしまう。
何の疑いもなくそう言ってくれたことが嬉しかったのか、内心を見
抜かれてしまった気がしたからか、それとも別な理由なのかわからな
﹂
いが、下がり気味だったテンションがまた上がり始める。
﹁どうして、言いきれるんだ
ちょっと、声が震えてしまう。それでも聞かずには居られなかっ
た。
俺が召喚されてからまだそれほど経った訳ではないのに、
俺の問いに、イリヤはまた一段と笑みを深くし答えてくれる。
﹁だってあなたは私が召喚したんだもの。だからできてもらわないと
困るわ﹂
﹁⋮⋮﹂
何このイケメン。
さっきまで超かわいいと思ってたけど、今はかっこよすぎる。攻略
されそうですぜ⋮︵/ω\ *︶
こほん、ごめんなさい。急なシリアス展開に素直に身を任せること
ができませんでした。
でも、うれしい。
そし
出会ってそんなに時間が経った訳ではないが、本当に信じてくれて
いるのが分かる。パスを通じて流れ込んでいるのだろうか
てそれが心強い。
どうやら俺が何も続きを言えなかったことで、一人我に返って恥ず
さないことに気付いた。真っ赤になってた。やっぱ可愛いw
そんな風に心の中に熱いものを感じていたが、ふとイリヤが何も話
?
54
?
かしくなったようだ。
﹂
﹁あのさ⋮⋮﹂
﹁⋮なに
﹂
い、いきなりどうしたのよ大きな声をあげて﹂
﹁よっしゃ
頬をパチンっと一叩きして気合を入れる。
おかげで出来る気がしてきた。
ヴァーントだからな﹂
﹁あ り が と う な。で き る 気 が し て き た ぜ。な ん た っ て イ リ ヤ の サ ー
でも⋮。
顔を少し紅く染めながらそっぽを向くイリヤ。
﹁⋮うるさい﹂
﹁恥ずかしいなら言わなければよかったんじゃ⋮⋮﹂
?
﹁たぶん可能﹂
﹁あなたって龍脈を感じることはできるの
﹂
そんなことを考えていると、イリヤがそう言えばと話を切り出す。
る。
き、気になるぜ続きが。でも聞かない方が俺のためのような気がす
﹁ふふ、ごめんなさい。あまりにも⋮いえ、何でもないわ﹂
俺がむすっとするのを見て、今度は笑みを漏らす。なんだよぅ⋮。
よぅ⋮。
等閑な返事をしながら、呆れたような表情をするイリヤ。なんだ
﹁はいはい⋮﹂
﹁ちゃっちゃとやってしまうためにも、気合を入れないとな﹂
﹁っ
!!
えば何とかなるんじゃなかろうか。
でもまぁいずれかの武器に込められたチート概念を利用してしま
ヒエー⋮。
き、結界を直すためには龍脈の異常から直す必要があるとのことだ。
細かい仕組みをイリヤが教えてくれたがよく解らないのでさて置
は龍脈を利用して構成されているらしいのだ。
ああ、龍脈が何故関係あるのかっていうと、アインツベルンの結界
?
55
!?
むしろ詳しいことを知ってしまうと変に難しく考えて苦手意識み
たいなものが生まれて失敗しそうだ。
龍脈の方も流れを調整してほしいだけだってことらしいし⋮。
うん、イケルイケル
というわけでさっそく武器選び⋮なんだけど実はもう決まってた
りする。
まず、龍脈はヒトの体で言うところの血管だ。つまり、大地の命の
源が流れている。
そして、こじ付けかもしれないが、命とは未来だ。未来を創るため
に必要なもの。
そう仮定し、ある武器を思い浮かべる。
﹂
よく使った武器の一つで、破格の概念を持つ物の一つ。
﹁来い。聖剣エルシディオン
カチリと、何かが自らとつながる感覚が生まれる。地面から、エル
﹁龍脈よ、連なる結界よ⋮元に戻れ⋮⋮戻れ⋮⋮﹂
エルシディオンを地面に刺す。
﹁創造開始│││││﹂
イメージ
描く。
この剣を使って、龍脈が正常で、結界も復活しているという未来を
極の片手剣。
内包された概念は、未来を創る力を持つという、聖なる心の宿る究
いる。
に、光で形成されているかのような透き通った輝きを放つ刃を持って
一応片手剣にカテゴライズされるが結構な大きさがあり、黄金の柄
剣。
現れたのは、聖剣の名にふさわしい聖なるオーラをまとった一本の
!
いや、これが龍脈を流れる命の本流なのだろう。今の俺は
シディオンを通して身体の内側へと何かが流れ込む。
何か
も入ってきて暴れだす。
56
!
けど、龍脈が荒れ狂っているからか、溢れ出てきた何かは俺の中に
なぜかわかる。
?
やばい、なんか、こう、漏るってこれ⋮。弾けそう⋮。うえっぷ⋮。
このままだと自分がアボンしちゃうので、その荒れ狂っているもの
が清流のように穏やかになるよう改めてイメージ⋮。
次第に、体に来ていたものが穏やかになる。
﹁再度イメージ⋮、元に戻った大地⋮﹂
外へ出てきたときに見た、幻想的な白銀の世界。
﹁すごい⋮﹂
集中していた俺の意識を、イリヤの声が浮上させる。
集中するために目をつぶっていたが、イリヤが何を見てそう言った
のか気になり目を開ける。
小並感と言われるかもしれないが、たしかにこれはすごいとしか言
いようがない景色が目の前に広がっていた。
﹁これは⋮すげぇな⋮﹂
辺りを埋め尽くす光の粒子が、空へ昇っていく幻想的な風景。
言ってもいいほど届かない、真理の欠片。
57
雪だけで彩られていた山も大地も、浮き上がる光を反射して視界の
すべてが輝いて見える。
﹂
そしてその光たちは、時に集い、形を構成していく。
﹂
こんなこともできるなんて
﹁直って⋮いってる⋮
﹁コウジュスゴイわ
まる
?
そ れ は こ の 世 界 で 特 別 な 意 味 を 持 つ 言 葉。人 の 手 で は 決 し て と
魔法⋮か⋮。
で魔法だわ﹂
﹁よくわからないけど、これはあなたが起こしたのでしょう
﹁いや、これは俺も予想外だわ。まさかこんな風になるとはな⋮﹂
くさいセリフだが、まるでその姿は妖精のようだ。
自身やその綺麗なプラチナブロンドをうっすらと照らす。
時折イリヤへもその光は触れるがそのまま透過するように、イリヤ
空へと昇っていく。
その足元の地面から溢れ出す光は留まるところを見せず、まだまだ
!!
?
イリヤがクルクルと光の中で踊っている。
!!
並行世界の運営や魂の物質化がこれに当たる。
そして魔術師ってのは﹃根源の渦﹄を目指して、自らを、その血筋
を、様々なものを犠牲にしてでも目指す者達だ。
魔法は、至ったその結果か、至るための手段であるそうだ。
だから俺は、原作を知った時からこの世界の魔術も魔法も嫌いだっ
た。
けど、この世界にいる以上は自らに関わってくる事柄だろう。正直
勘弁してほしいけど。
﹁うん、でもまぁこれが魔法だってんなら、嫌いじゃないな﹂
口に出してから恥ずかしいことを言ったと自覚し、照れて視線を少
し下げる。
︵セルフ︶
あかん、この身体になってからポロポロと恥ずかしいセリフが漏れ
出す。
恥ずかしいセリフ禁止
そんな俺を下から楽しそうにイリヤが覗き込んでくる。 ﹁ふふ、何それ。素直じゃないんだから﹂
﹁⋮むぅ﹂
素直になれないお年頃なんだよ、ほっとけ。
58
!!
﹃
:孔明の罠だった⋮
皆さんこんにちわ。
本名
口調⋮ですか
見るのにはまってしまって⋮。
﹄
人類が作るサブカルチャーってほんとに面白いんですよ
っと、脱線しましたね。
え、変装をしていた理由ですか
っと、丁度来られたみたいですね。
│││ブワァ⋮│││
ああ、そうそう、丁度今日はその方が来られるんですよ。
簡単に言うと、ある方に頼まれたからです。
?
ほんと、馬鹿みたいに戦争してるよりよほど生産的ですよ。
す。一応、褒めてるんですよ
まにせず笑い話に持っていったり、色々とよくもまぁ出てくるもので
何でもかんでも擬人化したり、掛け算したり、歴史の過ちをそのま
?
いやぁ、ダメですね。仕事以外の時間はお勧めされたアニメとかを
した、あくまでも変装です。
まぁエミリアの姿も可愛いですが、あれは悪魔でも⋮あ、間違いま
姿だって本当は、長い黒髪に着物を着た、ほんわかお姉さん系です。
私だって女ですからね。あんな変な話し方本当はイヤです。
ときの口調とかは変装のためです。
ああ、実は庵さん││もうコウジュさんでいっか││にお会いした
?
た宇宙空間を模した場所です。
ここは、最初に庵さん││今はコウジュさんですが││にお会いし
いおり
でのでエミリアでいいです。
天てらs⋮⋮いえ、言いにくいし、ほとんどそう呼んでくれないの
?
しがない中間管理職な神です。
?
?
59
???
それにしても、空間を裂いて来られるのは構いませんが、裂け目の
両端にリボンが付いてたり、裂け目の内側で沢山の目がギョロギョロ
してるのは何ででしょうか
ませんが。
それから和服と中華服の中間み
?
?
よ﹂
﹁でもせめて他の神の前ではやめて下さい
﹂
﹂
﹁む、努力はするからそんな他人行儀に役職名でよばんでくれ
!
﹁はぁ、分かりましたよ光夜様。 これでいいですか
﹂
わかりましたか神姫様
﹁そうは言ってものぅ、我からすれば、あーちゃんはあーちゃんじゃ
ださい。恥ずかしいですから﹂
﹁はい居ますよ。それと、いつも言ってますがあーちゃんは止めてく
知らない子ですね⋮。何のアニメでしょうか⋮。 これも何かのキャラの影響ですかね
たいなお召し物を着てらっしゃいます。
今日は日傘に、ナイトキャップ
そして何故かいつも服装が一定しない方でもあります。
妖艶の一言に尽きる感じですね。
状の封印符で軽く巻くように纏めています。モデル体形で雰囲気は
蒼銀とでも言えばいい色の、地面に着きそうなほどの長髪をリボン
さんについてお願いしてきた方です。
そう言いながら裂け目から出てきたこの方が、つい先日、コウジュ
﹁あーちゃん、居るかの
﹂
紹介されて同じように影響を受けている私が言えることではあり
どうせまた何かの漫画か何かで影響を受けたんでしょうけどね。
?
﹂
﹁それで、今日はお話があるとお聞きしましたが、やっぱりこの間の件
ですか
﹁いえいえ、でも良かったんですか
﹂
﹁うむ、件の際は世話になったのう﹂
?
?
60
?
﹁うむ。本当は様も付けて欲しくないんじゃが、まあ良いか⋮⋮﹂
?
?
?
﹁何がじゃ
﹂
﹁転生させるためにあの身体を使ったことを始め、神見習いにしたこ
ととか、見習いにしては能力値的におかしいですし⋮﹂
﹁まあそうじゃの﹂
﹁しかも、私にさせた説明もほぼでたらめですし⋮。
確かに、天界も人間界のように情報化は進んでいますが、そんな簡
単に人を死なせてしまうようなずさんな事するわけないじゃないで
すか﹂
﹂
﹁ふふん、そうじゃの﹂
﹁理由をお聞きしても
を醸し出していました。
ただ、一言言わせて下さい。
詳しく言えないとか言いながら、ちゃっかり言ってますよ
で も、俗 に 言 う 創 世 神 と 呼 ば れ る 神 々 が 生 ま れ る 前 か ら い ら っ
ません。
人間界に伝わっている創世神話だとかもあながち間違いではあり
た方々です。
シンキとはすなわち、神樹、神姫、神忌を表し、世界の創世に関わっ
い表わす言葉です。
﹃始まりのシンキ﹄。これは光夜様を含めてある御三方のことを言
キのお三方ですか⋮﹂
﹁それにしても、光夜様と同じ存在だったということは、始まりのシン
?
その姿は、同じ女の私が見ても見惚れてしまうような美しさと儚さ
何かを懐かしむように、目を細めながら微笑む光夜様。
であり、受け継ぐものなのじゃよ⋮﹂
あえて言うとじゃのう、あやつは、我と同じ存在だったモノの欠片
﹁今はあまり詳しく言えぬ⋮。
?
しゃった方々で、世界を創るための知識だとかはお三方が教えて下
さったものです。
61
?
光夜様が言うには、シンキの方々は、世界そのものに近く、所詮は
システムみたいなものらしいです。
だから厳密には、神とはまた違う存在だとか。
えっと、器と、接続と、バックアップ⋮
光夜様以外のシンキの方々ですか
?
﹂
﹁お仕事してくれないんですか
﹂
﹁新しい世界ができたのでのう。少し様子を見に行くのじゃよ﹂
﹁御用事ですか
﹁さて、我はもう行こうかの⋮﹂
それはまあ、今はいらっしゃらないとだけ言っておきましょう。
?
う約束だったであろう
﹂
﹁他のみんなも帰ってきて欲しそうにしてますよ
で﹂
あと仕事多いん
運営するのはあくまで汝らでなくてはならぬ。それに、最初だけとい
﹁前にも言ったが、我はただ在るだけじゃ。多次元世界や並行世界を
?
みようかの⋮﹂
﹁約束ですからね
﹁うむ﹂
﹂
﹁う∼む、ならば、コウジュがしっかりとした神になった際には考えて
?
?
中々危ないことをしたものです﹂
しなかったからか、力を使っていきなり大地の創造とかしてましたよ
﹁あ、そういえばコウジュさんに関してなんですが⋮説明をしっかり
?
﹁びっくりしました。
いきなり龍脈の再構築とか、そのために武器の概念の強化とかを感
﹂
覚で行ってましたし、しかも、本人は気付いてませんが、もう能力が
拡大してますよ
﹁まったく、笑い事じゃないですよ⋮。かなりヒヤヒヤしたんですか
か﹂
﹁くくっ、将来有望じゃのう。土台は確実に出来つつあるということ
?
62
?
﹁ほう⋮、やはり素質があるのう﹂
?
ら﹂
・・
﹁そう言うでないよ。完成すれば何よりも助かるのは汝たちなのじゃ
からのぅ。まぁその他の補佐も引き続きよろしくのぅ﹂
﹂
﹁はあ、また仕事が増えた⋮。今度何かお願いを聞いてもらいますか
らね
﹁うむうむ。では⋮﹂
話は終わったので、光夜様は帰るためだろうか、後ろを向き、どこ
からか出した扇を縦にスゥっと一閃。来たときにあったようなリボ
ン付きの次元の裂け目ができた。
﹁また何かあったら来るからのぅ﹂
﹂
そう言って、中に入っていく光夜様。
﹂
﹁あの、最後に一つ聞いていいですか
﹁うむ
?
﹁ずっと気になってたんですがその格好って一体⋮﹂
﹁ゆかりんじゃ﹂
だれ
﹂
それだけ言い残して帰っていった。
﹁ゆかりん
?
ぐぐれってことですか。はい⋮。
?
63
?
?
﹃stage7:一気に本編
いやぁ、やればできるもんだね。
⋮。
それは普段やらない子だって
﹄
あいりすふぃーる⋮
?
よくわからないが、あいりすふぃーるがどうとか切嗣がどうとか
それからイリヤも色々言われていた。
思わず、ハリセンで叩きそうになった。
やれ、今度の聖杯戦争こそ⋮⋮。
やれ、これで宿願が叶う⋮⋮。
さ、アハト候が俺に向かってあれこれ言うんだよ。
いきなりイリヤと共に地下の神殿みたいなところに呼び出されて
この人がまた厄介だったんだよ。
る男。
アインツベルンの宿願である、第三魔法:魂の物質化に固執し続け
すでに二世紀近くも生きており、ここ数何百年かの支配者。
ている。
アインツベルンの現当主にして、八代目、故にアハト公ともよばれ
﹃ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン﹄
あの日、俺が修復を終わった後にある人からお呼びがかかった。
て、あれこれあった日にさかのぼる。
なんでこんなことをしているかと言うと、話はチートパワーを使っ
もちろんイリヤのだ。
今 は 荷 物 を 積 め て る 最 中 だ。言 っ て お く が 俺 の じ ゃ ね ぇ か ら な。
実は、あれから数日がたっている。
ほっとけ
何
評価を頂いてたのは伊達じゃない。
俺って昔から、小学校とかの成績簿に﹃やればできる子﹄っていう
!?
?
切嗣は主人公の士郎のオヤジさんだろ
?
64
!!
?
イリヤのお母さんだよな
駄目だ、うろ覚えだ。
だったら⋮だ⋮。
た。元気すぎるだろあのじいさん。生涯現役か
どこの会長だ。
それでも諦めずに、あれこれしようとしてしてくるんだから困っ
ぶった切るだけの簡単なお仕事でした。
造られた存在故の魔術的支配権とかあったみたいだけど、ライン
方だ。
だがしかし、悪いなぁじーさん。既に屋敷のメイドさんはすべて味
うとしたら、色々な手段を使いながら妨害をした。
もちろん大急ぎでやったし、あの爺さんがちょっかいを掛けてこよ
言葉に甘えた。
リヤが力の練習だけはした方が良いって言ってくれたから、少しだけ
俺はイリヤのためにもすぐにこの地を離れようと思ったんだが、イ
使った時間だ。
数日時間が空いているのは、俺の力を制御できるようにするために
そして話は冒頭に戻る。
そうだ冬木市に行こう
なノリで、冬木の地に行くことにした。
だから、ここにいるとまた同じことが起こるかもしれない。
ことは分かった。
今までどこにいたのか知らんが、悪影響しかもたらさないであろう
後ろがまだうるさかったが知らん。
の途中で、イリヤを担いで部屋を出た。
でもまあ、イリヤをその場に居させるのは、駄目な気がしたんで話
ん。
なんでその話をしている時のイリヤが悔しげだったのかがわから
?
らった。
まず初めに、基本技能を使った戦闘をメイドさん相手に試させても
た。
語ができてしまうのでさて置くが、その数日間で得たものは多かっ
そのあたりの話をしているとそれだけでラノベ一冊分くらいの物
?
65
!
ジャストアタック︵JA︶とかジャストガードとか︵JG︶の便利
なゲーム内スキルが使えるかどうかだな。
でもこれは割と簡単にできた。
ど ち ら も 俺 の 中 に あ る エ ネ ル ギ ー、ゲ ー ム 内 で 言 え ば P.P.
︵フォトンポイント︶としてゲージで表現されていたものを瞬間的に
凝縮することで発動するようだ。
それによって元々馬鹿力なところへさらに攻撃力を高めたり、ガー
ドの瞬間にはダメージを相殺するなんてことができるようだ。盾を
使った場合はシールドバッシュのようにダメージ反射なんてことも
できる。
で も 結 局 フ ォ ト ン エ ネ ル ギ ー そ の も の に つ い て は よ く わ か ら な
かったなぁ⋮。
素人考えで、フォトンっていう位だから光が関係するのかと思った
が、そんなことはなかった。夜になったら力が弱くなるなんてことが
無いことは確認した。
光粒子だとかこう光子力とかそういうのかと思ったけど違うッぽ
い。ビームは撃てるけど。
結局のところ色々試して解ったのは、ゲーム内でフォトンアーツや
ガード使用時に消費していたフォトンエネルギーは魔力︵マナ︶に近
い未知のエネルギーってところまで。俺の中でどうなっているのか、
龍脈から得ることができたマナで流用するなんてこともできた。
ゲーム内ではP.P.ゲージはMAXで200だったが、その分回
復速度が速かった。ああ、敵に通常攻撃することでもゲームでは回復
したが、当然のごとくなのかそこはゲームみたいにはいかなかった。
さえおきそのP.P.ゲージがフォトンエネルギーに対する体内
の器にあたるようで、それが周囲のマナか何かを吸収して常時回復し
ていくんだが、龍脈に一度接続してアボンしかけたおかげでその器が
広がったようだ。しかもまだ龍脈上に居ればラインを繋げられる状
態。
普段でも回復速度が速くて、龍脈接続状態だとエネルギー汲み上げ
放題
66
よほどの激しい戦闘じゃない限り半永久機関だこれ⋮︵ ・ω・`︶
いかないじゃん
Hのオーラ操作
か未だ解っていない。だってメイドさん相手に必殺技放つわけにも
某戦果がはっきりしないぽいぽいさんになるくらいには大体でし
るっぽい。ぽいぽい。
が出てくるので、その時にどの種になるかを頭の中で決めたらなれ
体の中でテンション的なものが上がったら何となくなれそうな感じ
るのでもなく、ゲージのようなものがあるでもなく、こう、なんか身
ゲームの時みたいにバッジみたいなもので予め何になるかを決め
次に試したのはフォトンブラスト︵獣化︶についてだ。
使ってるわけじゃない現代一般人故の境地かなww
まぁテレビやらエアコンやら精密機械の構造やら原理を分かって
えるのやめた。
けど、考えても調べても所詮中身は一般人なので、そのうち俺は考
いや、マジで何なのこのエネルギー。
それっぽいことができた。 における応用編〝流〟に似た運用方法だ。基本の4大行とかも一応
資質による攻撃に似ているし、JG・JAとかはH
テクニックとか使用する際の属性変換はリリなので言う魔力変換
か。
概念と、某狩り人漫画のオーラに似た運用が適しているってところ
あと分かったことと言えば、概念的にはリリカル的な魔力に対する
´
で、それはフォトンエネルギーをH
Hの〝堅〟のように高密度にし
ギーを文字通り暴走させて、荒れ狂わせた状態故に身体能力が大幅に
イアが発生するという設定だったが、現状では体内のフォトンエネル
暴走状態は、ゲームでは強力な力を得る代わりにフレンドリーファ
違うために変身時間や攻撃力が変わる。ま、道理だな。
獣化の種類により防御以外に回すフォトンエネルギーの使用法が
て纏っているからのようだってことか。
×
67
×
とりあえず分かったのは、ナノブラスト中無敵状態なのはそのまま
?
上がり余波だけで周囲に被害が出てしまう。しかもほんとに狂化っ
ぽく意識を保ちずらくなっていた。
また、ゲームみたいに一定条件後に低確率でなるとかではなく、感
情に左右されてるッぽいことがわかった。だから理屈で言えばいき
なり暴走状態にもなれるみたいだな。
圧倒的な身体能力って意味では使いこなせるようになりたいけど、
意識を保ち辛いのがなぁ⋮。
的な感じに。
というか単純な戦闘でも﹃獣の本能﹄とやらの所為か、変にテンショ
ンが上がって体が勝手に動き出す。こう、ヒャッハー
そ の 御 陰 で 中 身 が 一 般 人 の 俺 で も 戦 闘 行 動 が 可 能 な ん だ け ど、
ちょっと気を抜くと﹃変なPA出ちゃう⋮//﹄状態になったりケ
モっちゃうんだ。
最初のころは大変だった⋮。練習してほんと良かった。
あのイリヤさん、もう城を半壊させたりしないのでそのジト目勘弁
してください。
そ、そして最後に、﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄についてだな。
これなぁ⋮。
アルスマグナ
一番チートなんだけど、でもデメリットが大きすぎるんだよ⋮。
﹃錬金術﹄に似ていると前に言ったけど、あれより能力としては発展
性があるし、強力だった。
ただ、その分マイナス面へも振れ幅が大きすぎる。
例えばマリ○カートをやるとする。
あれはただのレースゲームではなく他キャラを攻撃するアイテム
があるわけだが、あのゲームを俺がやると画面の前に居るのに追跡機
能付き甲羅だったり雷だったりが当たったかのようにダメージを受
けたりしびれたりする。
カートが曲がるのと一緒に体も傾く俺だとそうなる訳だ。
例えば格闘ゲームをやるとする。
タダのパンチやキックだけでなく、格闘しろよってレベルの超能力
やら魔法やらよく解らんものまで飛び交う昨今だが、それらを自キャ
68
!
﹂って言っちゃう俺はそうなっちゃう訳
ラが食らうと画面前の俺もそのよくわからんものまでダメージを再
現してしまう。
攻撃食らったら﹁痛ぁっ
だ。
最近の子は感受性豊かだって言われるし、仕方ないのかもね☆
ま、まぁ一応、このままではいけないと思って戦闘に生かせそうな
方法をいくつか編み出してはある。
例えば﹃スペルカード﹄方式。
スペルカードと言えば東方だが、弾幕ごっこ用のように美しさなど
に重点を置くのではなく、技の宣言や前もってどういう技かをカード
という形で明確にしておけるのでイメージしやすく相性が良かった。
咄嗟の時に規模や威力でやらかさないようにもできるしね。
東方内で出てくるスペルを再現しようとしたけど、やはり印象に強
く残ってるものはBOSSクラスのものばかりで危なくて使えない
Hにおける制約と誓約。
ものばかりができたのは余談かな。
もうひとつが、H
の威力と精度を向上させるためのものだ。それができるのも念能力
というものが術者の心理面に大きく関わるから。
それを参考に、代償を払うことや理由付けすることで自らに言い訳
し、技と能力にあえて制限を掛けることで効果を研ぎ澄まし﹃幻想を
現実に変える程度の能力﹄を使いやすくしてみた。
うん、整っ
だからアストラルライザーを使ってSLBの再現をしたのは偶然
にも良い方法だったわけだ。
やったねイリヤちゃん手数が︵ry
防御面でまだまだ問題いっぱいだけどね
そんなわけで、冬木市に行く準備は整った。整った
た。
そのほとんどが戦争のための準備ってのは悲しいが。
?
!
69
!?
あれは念能力者が自らの念能力に対し制約と誓約を課すことでそ
×
俺自身の荷物なんてほぼないからなぁ⋮。
ww
せいぜい雪だるま位かな。折角作ったやつだし、というか邪魔って
言われたし。
どうせなら動くようにでもしようかな
たらいつでもホカホカのものが食べられる感動⋮。
なんかこの身体になってから燃
デザートなんてあるだけ入れておいたら、いつでも食べ放題だぜ
た、食べ物ばかりで悪いのかよ
!?
分かるかな⋮。作り立ての料理をアイテムボックスに入れておい
ボックスってホントチートだよな。
よくある転生やらトリップ物の小説でも言われるけど、アイテム
だからこそ雪ちゃん︵雪だるま︶も持っていけるわけだし。
というか時間の概念が無いようで、物が劣化しないようだ。
そういえばアイテムボックスの中がやっぱりというかテンプレ的
?
費悪いし甘いものがかなり好きになったんだから仕方ないだろ
こほん⋮。
70
!!
!
とりあえず、向こうにはすでに従者さんが行ってて、受け入れの準
備も整っているらしい。
うん、行こうか。冬木市へ
!!
﹃stage8:やぁってきました冬木市﹄
あれは嘘だ
だから物を投げないで
ちゃんと行きますって
冬木市へ行くと言ったな
ごめんなさい
ちょっと寄り道するだけですって
こほん⋮。
改めましてちわっす、コウジュです。
やって来ました日本の地。
!! !!
w ?
サービスまであるの
俺初めてファーストクラスに乗ったんだけど、なにアレ。あんな
さておき現在は、空港である。
あ、ごめん、あめりか語は不器用なんだ⋮。
のは文字通りのそうるぷれいす的なものだからなのかな
雪山も良かったけど、魂の故郷でもある日本に居ると心が落ち着く
でも味噌スープは食べたい。
けどそんなことはなかったよ。鼻がよくなった俺だから間違いない。
久しぶりに帰国した日本人は味噌の匂いを空港で感じるっていう
が溢れてくる。
いや∼、やっぱり日本って良いね。空気を感じるだけでも懐かしさ
!
?
仕方ないじゃん⋮。
もう機内に住めばいいんじゃないかな ︵発
一般家庭の一般人なめんなし。
?
部屋タイプもある
狂
!!
コノミーでしたよ
だって今まで飛行機に乗った経験って2回ほどしかないし、当然エ
た。あと周りから暖かい目で見られた。解せぬ。
か、食事もおいしいし、なんかそわそわしてしまってイリヤに怒られ
一席一席がベッドみたいになるし、マッサージ機能付いてたりと
?
?
71
!
!
でもいい経験になったわ。
ちょっと前までお城に居た訳だけど、セレブ気分を味わえたので大
満足。
たぶん今の俺はすんごいふわふわした笑顔をしていることだろう。
﹁ちょっとコウジュ。しっかりしてよね﹂
﹁ういうい﹂
﹁はぁ、ほんとさっきのは恥ずかしかったんだから﹂
﹁いや、悪かったって﹂
﹁まったくもう⋮﹂
呆れたようにため息をつくイリヤにちょっと文句を言いたくなっ
たが、言い経験をさせてもらった俺は大人しくする。
ほら、精神年齢的には年上だし、年上の余裕ってやつをだな・・・。
断じて財布を握ってるイリヤにお小遣いをもらえなくなるのがい
やだからではない。
﹂
﹂
72
﹁おや
﹁どうしたの
ける。別の搭乗口だと思うけど、誰か有名人でも居るのかな
たんだけど何さね
ると微妙な気分になるなぁ。
﹂
おや、皆してこっち来た。しかもすごい勢いで
﹁お嬢さん
﹂
うし、知りあいが居る訳でもない。私たちが有名人なわけでもない。
まさか日本に降り立った途端に敵の攻撃だってわけでもないだろ
それにしてもいったい何の用だというのだろうか。
いに変な声が出てしまった。恥ずい⋮。
一応サーヴァントとしてイリヤを後ろに庇うが、あまりの相手の勢
﹁はひゃい
!? !!
!?
結構な良い体格をした男達がこう内緒話をしてるのをリアルに見
?
あ、そのうちの一人と目があった。何か周りとひそひそと話し始め
?
荷物を回収した後歩いていると、少し離れた場所に人だかりを見つ
﹁いや、なにか騒がしい感じが・・・﹂
?
?
というか俺達を囲っているのは何と言うか大きいお友達
た。
何故ここに居る。
﹂
﹂
しかしまぁ態々声を掛けてくるのだ。何かあるのだろう。
﹂
聞けば理由もわかるだろう。
﹁えっと、なんですか
﹁写真撮らせてもらっていいですか
﹁キャリガイン⋮﹂
﹁待ちなさいコウジュ
ない気がするんだ
だっ
るところには好感を持てなくもないけど、なんかこうヤらないとイケ
いきなり写真を撮ったわけじゃないし、まぁ了承を得ようとしてい
そんなことしてちゃ武器を出して振り下ろせないじゃないか。
おやおやイリヤさん何で俺の腕を掴んでいるのかな。はっはっは、
?
でもなんでいきなり写真なのか。
それも理由を考えているとオーディエンスの御陰で大体分かった。
周りから聞こえてきた話を繋ぎ会わせると、どうやら偶然にも俺達
が空港に着く直前にアイドルか声優だかが飛び立ったので、その見送
りに来てたらしい。
で、その集団がそのままシフトしてこっちに来たわけだ。こっち来
るな。囲うな。
って怒ったら、何故かイリヤも含めて俺を見
それから聞こえてきたのが、コスプレ外国少女だとか白い姉妹だっ
て言葉。
誰がコスプレ少女だ
ことを忘れてた。
そう、俺の格好は召喚された時のままだ。TS転生してここにいる
るんで、よくよく考えたらコスプレ少女は俺だった。
!!
73
!?
?
!!!?
それでも手を離さないイリヤのおかげで少し冷静になった。
!!
まだこれの方が最初から着てた分、心のライ
だってさぁ、城にあった代わりの服なんて着れそうなのイリヤのフ
リフリのやつ位だぜ
フは削られねぇよ。
いと思うんだ。
大 声 上 げ る ぞ こ ん
こら そんな寂しそうな眼をしても撮らせてやらないってば
と い う か い い 大 人 達 が 少 女 二 人 を 囲 う な
にゃろう。
けど転生者としては気になるじゃん
退場するか
そういうのイケないんだぞ。レイヤーさんに迷惑だ
っておい、そこで勝手に写メ撮ろうとしてるお坊ちゃん、人生から
?
たいだから居ない可能性も高い⋮というか住んでいた町が無いんだ
この世界の自分については、前にネットとか見て前世と全然違うみ
だから断った。
分とか気になるからあまりイリヤ以外の目はあってほしくないんだ。
うーん、でも冬木に行く前に観光とかしたかったし、この世界の自
なw
︵設定上︶。言わないけど合法幼女だし。まぁ殺傷能力半端ないけど
まぁ客観的に見ても結構な美少女だからなぁ俺たち。しかも双子
ことならやっぱり来てもらえばよかったかな。
籍もイリヤと双子設定だからいらないかなって思っんだけど、こんな
書類上はイリヤの実年齢は大人に近いし、俺の用意してもらった戸
これも大人役と一緒に来なかった所為なんだろうか
まったく⋮。
!!
というか本物のレイヤーさんはちゃんと着ていい場所でしかしな
でも違います。
まぁ、そんなわけで、外国のレイヤーさんだと思ったらしい。
コモコしてるやつ。二人で並ぶとモノクロになって丁度いいんだ。
あ、イリヤはアニメの時にも着てた服の白いバージョンだ。あのモ
?
いや、だから、レイヤーじゃないって。一般人一般人。
し、一般的にもマナー違反だからな。
?
74
?
!
!
うーむ、どうしたものか。全然帰ってくれない⋮。
というか日本人の奥ゆかしい、一歩引いた態度はどこに行った。
俺が困ってることに気付いた前の方の人は避けようとしてくれて
るんだけど、後ろにいっぱい居てそれもままならない様子。
力を使う訳にもいかないし⋮。
おや、何とか事態を収拾させようと眼鏡のお兄さんががんばり始め
た。最初に俺に声を掛けた人だな。
元凶の一人だけど、マナーは守ってくれてるし、良い人だな。
あ、目があった。
とりあえずにぱー☆としておこう。
⋮⋮おうふ。
75
辺りがとあるメイド長で言うところの忠誠心に当たるもので真っ
赤になってしまった。他の人も含めて鼻血ブシャァッ
いや俺悪く
どこのスクデッドだよって感じなんですけど、どうしてこうなっ
!
?
た。
え、何ですかイリヤさん。これをどうするのかって
ないし。
とりあえず││││
逃げるんだよぉぉぉっ
さて、城に到着っと。
!!!
やはり日本はいいね。
とりあえず東京、大阪、京都と行ってきたけど、美味しいものも食
べてきれいなところも沢山まわれて満足だ。あと美味しいもの。
体感時間で言えばそんなに離れていたわけじゃないけど懐かしさ
が胸の内からあふれて仕方がない。
だから新たに荷物が増えて自分用のお土産がいっぱいあっても仕
方がないのである。
うん、イリヤさんその冷たい目をやめてください変な扉開きそうに
なるから。
そんなことを考えていたら、目の前の扉が開いた。出迎えてくれた
のは二人のメイドさん。
もちろんお馴染みの、セラさんとリーゼリットさんの姉妹だ。俺が
召喚された時点で冬木入りしてからこれが初顔合わせになるな。
新たな原作登場人物にワクテカである。
ロゲ展開だ
ってしたいけどがまんがまんっと。
あ、もとはエロゲか。いや、でもこれ大丈夫なのかな
!?
76
二人ともパッと見た感じキリッとしてるから冗談を言う暇が無い
けど、やっぱりセラさんはキチっとしてて、リズさんはプライベート
ではふわふわしてるんかな
私気になります
らその内知る機会もあるか。
気になるけど聞く訳にはいかないし、これから一緒に住むわけだか
きる家政婦なイメージだけど。
ファーでポテチ食べてるイメージなんだ⋮。セラさんはそのままで
俺 の 中 で リ ズ さ ん っ て シ ャ ツ に ジ ー ン ズ 履 い て、リ ビ ン グ の ソ
?
気づいてしまったけど、これってすごく大変なことなん
待て⋮。ここに住む⋮
はっ
じゃ
?
!
俺って、見た目少女⋮ってか幼女だけど中は男ですよ
!
美人なお姉さん︵メイドさん︶二人と一緒にだなんて⋮。どんなエ
!?
!?
うぅ、今更だけど、中身についてのことを言ってないことに罪悪感
?
イリヤ
が⋮。
え
本国のお城でも思ったけど、ここも広いのな。
ω・`︶
元一般人の俺にはあまり広すぎる部屋は落ち着かないのです︵ ・
すか
それにしても、部屋が隣なのはわかるけど扉と扉の間が広くないで
一番後ろでニヨニヨしてるうちにどうやら部屋に着いてたらしい。
﹁あいよ﹂
﹁ご苦労様。コウジュはあっちらしいわよ﹂
﹁こちらになります﹂
聖地に在住って最高にテンション上がるなw
あるだろうさ。
だがいいさ。今日からはここに住むんだ。いくらでも見る機会は
無かった。残念。
さんも真面目な顔をしてどんどん行っちゃうからゆっくり見る暇が
所などがあってかなりテンション上がったが、セラリズさんもイリヤ
道中にはアニメで見たアーチャーVSバーサーカーで使われた場
ちは中へと案内されていく。
一先ず考えるのを止めて、セラリズさん達と軽く挨拶しながら俺た
ないか。ヘタレ言うなし。大事なことなので何度でも︵ry
いつか本当のことを言うとして、とりあえずはなるようにしかなら
いや、イリヤは妹みたいなもんだし、保護対象だから。
?
どw
お疲れですね。俺が観光だって言って連れまわしたのが原因だけ
しかしそこには見事な垂れイリヤが⋮。
コンコンコンとノックをし、了承を得てから中へと入る。
だな。
セラリズさん達は他の仕事へと向かったので、イリヤと二人での話
向かう。
で、自分に割り当てられた部屋へと入って荷物を置き、お隣さんへと
とはいえそんなことを言ってても部屋が狭くなるわけでもないの
´
77
?
?
﹁どうしたの
﹂
﹁⋮明日にしましょう﹂
あかん⋮、重傷や。
﹂
何その明日から頑張る的なの。
﹁あの、イリヤさん⋮
レ
ス
タ
ら疲れるに決まってるでしょ
﹂
﹁あなたと違って私は頭脳派なの、文系なの
?
くれないかしら
﹂
﹁てへぺろ﹂︵・ω<︶
町に行ってきます
﹁令呪を以て命じるわ⋮﹂
﹁ごめんなさい
男じゃないだろ
﹂
TSしてるじゃんってツッコミした奴は屋上。
せっかくのチートなんだ。自分の身を守るためだけに使うなんて
殺しになんてできるはずがない。
特に、この世界に来てから一番縁が出来てしまっているイリヤを見
けるほど俺は冷めているつもりはない。
原作は好きだが、話中で犠牲になっていた存在をそのままにしてお
ぶっちゃけた話、俺は原作ブレイクがしたい。
る。問題はないだろう。
まぁ大体の作戦に関してはイリヤに伝えてあるし、了承も得てあ
ちゃうんだ☆
でもこの身体になってからテンションの上下が激しくてついやっ
心の中で謝りながら廊下を歩いていく。
は戻るべきじゃないだろう。
後ろから﹃まったくもう⋮﹄とため息まじりの声が聞こえるが、今
慌てて俺は部屋を出る。
﹂
﹁回復しないとダメなほど疲れたって言う部分をもう少し考え直して
﹁そこはほら、回復魔法使ってあげたじゃん
!
?
!!
あれだけ歩き回った
﹁これからの行動について話をしようかと思ってな。最終確認さ﹂
?
自分が転生者だとか、どうなるかが分かってるとかは言ってない。
先に言った、イリヤに伝えた作戦ってのもその為のものだ。
?
78
!!
!?
!!
それ以前に俺の知識もあいまいな部分が多いし、すべてのルートを
知ってるわけじゃないからな。
それを除いた部分で確定している情報⋮、例えば聖杯が穢れている
ことや召喚されるであろうサーヴァント、居ないはずの8人目のサー
ヴァントについて教えた。イリヤの父、衛宮切嗣について知ってるこ
とや衛宮士郎についても。
当然どうしてそんなことを知っているのか聞かれたが、上手い言い
訳は思いつかなかったのですべて終わってから話すと伝えると言っ
た。
正直自分でも馬鹿だなぁと思う。会ってすぐの俺がそんなことを
言っても誰が信じるというのか。
でも、イリヤは信じてくれた。
なんでも、
﹃あれだけ真剣な目をしたあなたの話を、マスターである
私が信じないわけにはいかないじゃない﹄だってさ。ホレテマウヤ
ロー
うん、その信頼に俺は絶対答えるよ。
﹃絶対なんて言葉は絶対無い﹄なんて誰だったかが言ってたかもし
れないけど、俺は絶対イリヤを幸せにしてみせる。
あれ、これなんかプロポーズっぽい⋮
かったし自分。思ってた以上にハイになってたのかねぇ
が強かった。
他人だけど他人じゃない感じだ。転生してすぐはもう少し違和感
ほんと、最近この身体が馴染んできて困っている。
まぁこの服がやけに体に馴染んで違和感無いのも原因の一つか。
?
ああ、でも町に買いに行かないとだな。何故ここに来る前に買わな
プレ少女扱いはもう嫌だ。
とはいえこの服のままで外に行くわけにはいかないよなぁ。コス
聖地巡礼ではありませんのであしからず。
その第一段階として、冬木市の地理を把握しないといけない。
つか準備は必要だけど大体の目途は立ったわけだ。 こほん、というわけで、自分のチートと照らし合わせて、まだいく
?
79
!
でも最近は少しだけ違和感が付きまとうが、身体の動かし方や能力
が意識せずとも湧き上がる。汲み上がる。
誰かが言ってたっけ。魂は器の影響を受けるって。
それが本当なら、俺の未来はロリババアなわけだ。不老不死だし。
今もまだ残っている違和感が男としての最後の一線なのだろうか
死守しよう。うん。
でも、そこまで思うなら恰好だけでも男らしくすればいいと思う
じゃん
だけどな⋮。
俺は男物が着れない
勿論男物も入ってんだぜ そっちは大人しめのものが幾らかあ
ていた。けど、どの衣装もコスプレっぽくなるんだ。
俺のアイテムボックスにはもちろんPSPo2内の全衣装も入っ
!!
?
ろうか
PSPo2内では違う性別用の服を着れなかったからその影響だ
クスに勝手に戻りやがる。
るし試そうとしたんだ。しかし、何故か着ようとしたらアイテムボッ
?
なければならないのか⋮。
世界の修正力とか言わないだろうな
イリヤのはフリフリの可愛すぎるやつばかりだから選択肢には入
まったく訳が分からないよ⋮。
発四散した。
それもアイテムボックスになぜか入るか、無理やり着ようとしたら爆
城にあった男物をイリヤに借りて着ようとしたこともあったけど、
とかできるのに何故こんなことができないんだ。
もしそうなら、色々とチートになって概念を操ったり、幻想具現化
?
を越えた動きができるようになっている中で何故ここだけ拒否られ
殴り攻撃ができなかった杖が出来るようになってたりとシステム
?
80
?
らない。着せられかけたけどね
安い店があることを
?
﹂
たお小遣いもあまり残ってないし大事に使わないとな
﹁どうかした
!
メセタ︵ゲーム内通貨︶はいっぱいあるけど当然使えないし、貰っ
願わないと。あと俺が着れる男物。
町のファッションセンターとかあるかな
これはやはり買いにいかないといけないかな。
!
持ってない﹂
﹁必要なの
﹂
そりゃそうか。こんな美人が態々男物を持ってるわけないよな。
﹁男物
﹁リーゼリッ﹁リズで良い﹂⋮リズは、男物の服持ってたりしない ﹂
にリーゼリット嬢が居た。
考え事をしながら歩いていたから気づけていなかったが、すぐそこ
?
?
﹁あるよ﹂
﹂
!?
﹁コウジュ⋮⋮様
これどう
﹂
?
﹁Thanks あ、俺のことはコウジュでいいよ。イリヤに仕え
?
セーターがあって、そしてそのまま俺へと渡してくれた。
し ば ら く 待 つ と リ ズ は 戻 っ て き た。そ の 手 に は ジ ー ン ズ と 白 の
そう言い残してリズがどこかへ向かった。
﹁ちょっと待ってて⋮﹂
﹁なんですと
﹁ジーンズなら持ってる﹂
﹁あるんだ
﹂
まあ、無いよねぇー⋮﹂
ズボンが掃きたかったんだよ。上もひらひらしてないのが良いんだ。
﹁必要ってわけじゃないんだが、スカートじゃなくてジーンズとかの
?
!?
タートルネックの白いセーターはモコモコとしていてあったかそ
広げてみると、少し大きいが俺でも着れそうなサイズだった。
﹁うん、わかった﹂
てるって意味では同僚みたいなもんだろうし﹂
!
81
?
念願のズボン
ありがとうリズ
﹂
うだし、ジーンズも裾を折れば細身なのもあってピッタリになりそう
だ。
﹁おおおお
!
これはイリヤがそばに居たからなのかな
﹂
無いとは思うが俺の天使ちゃんを嫁に
﹁それにしても男物持って無いって言ってなかったっけ
まさか、彼氏のものとか
欲しかったら俺を倒してからにするんだな。
﹁それ、女物﹂
﹁⋮⋮ま、まあ、男物にみえるから良いや﹂
万事OK﹂
﹁何か違った
﹂
﹁うぅ∼、で、でもズボンだ。それだけで大分よし。スースーしない。
﹁どう見ても女の子﹂
?
?
なかったが、リズは割としっかり表出できているようだ。
向こうの城に居たホムンクルスちゃん達は確かに感情の起伏が少
この天使。
原作設定ではその出自から感情が希薄だなんてあったはずだが、何
て。
うっすらと、そう言いながらもほほ笑むリズが超かわいい件につい
﹁よくわからないけど、よかった﹂
!
!?
︶b
´
そんなものいらないよね
いた複雑な服も今では手慣れたものだ。
着替え描写
ね
?
さて、着替え終わるのを態々待ってくれていたリズに挨拶だけして
?
鼻が落ち着いたところで、パッと着替える。嫌なことに、元々着て
許せる気がする︵`・ω・
とりあえずアハト公。お前のこと嫌いだったけど、今ならちょっと
なこの持ちネタだし、変態あつかいされてしまう。
あかんあかん、鼻から忠誠心を吹きだすのは咲夜さんとか宮前 か
すって。
慌 て て 抑 え る の を 見 て リ ズ は ま た 首 を か し げ る。だ か ら 駄 目 で
こてんと首をかしげるリズに、鼻の奥が熱くなってしまう。
?
?
82
!!!
目的の街へと繰り出すか。
﹁どうかな、変なとことかないよな
﹁うん、かわいいとおもう﹂
探してみようと思う。
思わずリア充爆発しろ
﹂
ふむ、そういえば、リア充で思いついたけど俺ってある意味〝リア
って言いたくなりそうだが。
とりあえずは、主人公でありイリヤの目的人物でもある士郎君でも
森の中を突き進み、目指すは一先ず人通りの多い商店街かな。
ワクテカが止まらんな。
二次作品を生み出すきっかけとなった原点。
そして目的地は、物騒な戦いが起こる場所とはいえ多くのファンや
う。
可愛いメイドさんに見送られての外出とかなんてリア充なんだろ
﹁行ってらっしゃい﹂
﹁お、おう⋮。それじゃ、い、いってきます﹂
?
ジュウ〟ではあったんだよなぁ。転生時点から。
お、俺上手いこと言った
?
83
!!
﹃stage9:ブラウニーも好き。あ、お菓子の話で
す﹄
森の中を歩いていたが一人なのもあってドンドンスピードが上が
り、最終的にはフリーランニングしていたでござる。
どうも、おはこんばんちはコウジュです。
実は、身体能力チートのおかげで樹を飛び移ったりとか余裕できる
ようになってしまいました。
町に出た後は誰も居ないのを見計らってビルの壁面を走り上がっ
たりしたけど案外できるもんだね。
︻獣の本能︼の御陰か、念で言うところの〝絶〟っぽく気配を消すな
んてのもできたから誰にも気づかれずにビルの上を飛び跳ねたりも
してみた。何これ超楽しい。
芸だと思ってたんだけど、思い付きでやったら出来たのでホントびっ
くり。
せっかくだから今度は︻幻想を現実に変える能力︼を使って何かし
﹄
﹃最初から居たさ﹄的な駆け引きと
らの〟理由付け〟を考えて、ガチアサシン目指してみようかな。
ほら、
﹃いつからそこに居た
かやってみたくない
もしできたらアサシンさんごめんね
!?
そんなことより、ついに念願の原作アニメでも見た覚えのある街中
ないんだっけ。まぁいいか。
ああでも第五次聖杯戦争で召喚されるアサシンはアサシンやって
!
?
84
獣って言う位だから狩猟本能的なもので気配を消すなんてことが
できたのかねぇ
﹄とか聞こえたりなんてしてない。うん。 !?
それにしても、気配を消す⋮というか気配遮断ってアサシンのお家
﹃アイエェェェェ
違いだと思ってくれてるだろたぶん。
何回か気を抜いて見つかりそうになりましたけどねw まぁ見間
?
へと到着しました
今居るのはその中でもよく見た商店街だ。
まだまだ時間は昼下がり。主婦の方々や授業が早く終わったのか
学生の姿が数多く見える。
眼鏡を掛けた学ランの少年が金髪美人と一緒に歩いていたり、わか
の女性が魚屋さん
めヘアーが女の子たちと歩いていたり、ツンツン頭の少年が女の子に
追いかけられてたり、かと思えば着物に皮ジャン
そうになったが踏みとどまることができた。沈まれ俺の右腕
│││しまった帽子だ
その視線の意味が解らず手を頭の上に持っていき││
より、俺の少し上を見て不思議がっているようだ。
視線がどういったものか伺っていると、どうも俺を見ているという
国人が珍しいとか
何やらこっちを見ている人が多い様な気がするが何故だろう。外
商店街の中を進んでいき、店を見ていく。
セットさせようじゃないか。
よし、折角だからここで一服入れよう。甘いものでも食べて心をリ
!!
ふぅ、なんだかあまりにもリア充してそうな光景に心が闇に蝕まれ
今見た光景は全て忘れて、当初の目的を思い出せ。
って駄目だ駄目だ⋮、冷静になれ俺。
なんかこの町纏めて爆発させたくなってきたんですが⋮。
どオールバックにした金髪イケメンが⋮。
が追いかけていく⋮。む、あっちには将来大変なことになりそうなほ
ら走り出来てきたポニテ奥さんをパンを持ったイケメンの旦那さん
の前でメモとにらめっこしていたり、おや、パン屋さんから泣きなが
?
どおりで目立ってるわけだぜ。
しまってたようだ。
着替えるために一回脱いだというのにいつもの癖でついかぶって
わな⋮。帽子外してくるのなんで忘れたし⋮orz
下は普通の服なのに、これだけ大きい帽子をかぶってたらそら浮く
!!
85
!
?
下は普通なのに帽子だけ現代社会に馴染みそうもないデカい帽子
かぶってたら気にもするわな。
何を言ってるんだ俺は⋮orz
例えるならヲっきゅんが頭の上はそのままなのに下は普通の服着
て街中歩いてる感じ
とにかく、人前でアイテムボックスに入れるわけにもいかないの
で、一旦路地に入り改めて帽子を外す。
ケモミミがばれないか心配だが、幸いにも髪色と同色で、動かしで
もしなければ、髪がはねている程度にみえるだろう。
再び商店街の通りに戻り、店を物色していく。
しばらく歩いていると、甘い匂いの混じった芳ばしい香りが鼻をく
すぐってきた。
スンスンと鼻を鳴らしながら出所を探ると、スーパーの前でやって
いるたい焼き屋さんにたどり着く。
これは買いだな。
昨日までは諭吉さんが何人か居た筈なのになぁ⋮。
財布を開けて中を見ると、1000円札が一枚と小銭が少々。
あれー
粒あん、こしあん、白あん、バナナあん、クリーム、チョコ、抹茶
│││etcetc⋮。
個人でやってる割にはレパートリー多いっすね
!?
恋するジュース味⋮
マヨ
!?
何が店主にそこまでさせるのか、というか端の方にキムチとか鯛み
そとかあるんだけど
?
円なのに⋮。
買えても10個とは、神はなんて過酷な試練を
あんこともう一個なわけだが、やはり比較的馴染のあるであろう洋菓
お土産だし3人に2個ずつ買えば良いと思うから、スタンダードな
するかな
残りは6個なわけだが、外れではないであろうクリームやチョコに
2つずつ。これで4個。
イリヤ、リズ、セラさんにもお土産に買うとして、粒あんこしあん
!!
全味一個ずつ頼んでも1000円じゃ到底足りない。一個100
!?
86
?
しかしそうなると買える味が限られてしまう。
?
?
子系の味なら合わないことはないだろう。
いや、待て。待つんだ。まだ焦る時間じゃない。
スタンダードは4つもあるんだ、残り6個くらい遊び心が出てもい
いんじゃないか
出店の軒先に並べられたメニューを改めて見てみろ。
あの右端に寄せられている、誰が買うのか疑問に残るイロモノメ
ニューを見て何故に普通なメニューを考えられようか。いや考えら
れない、反語。
﹂
ああでも、たださえ無駄遣いしてるのに変なの買って帰ったらイリ
ヤに怒られる⋮。
﹁むぅぅぅぅぅ∼⋮﹂
﹁えっと、何か困りごとか
た子
買おうとしたら怪しい子を見つけた。いや、どちらかというと変わっ
学校からの帰りに、いつものたい焼き屋さんで桜たちへのお土産を
◆◆◆
俺が悩んでいると、後ろから声を掛けられた。
?
迷子
?
るようだ。
後姿での判断でしかないが、外国の子だろうか
店員さんもどうしようかと困り気味だ。
?
87
?
たい焼き屋さんの前でずっとうんうん唸りながら何かを迷ってい
?
この子は周りから注目されていることに気付いていないみたいだ
し、少し声を掛けてみよう。
﹂
ひょっとすると力になれるかもしれないし。
﹂
﹁えっと、何か困りごとか
﹁ん
しまうと、引き込まれる。
﹁えっと、ぶらう⋮じゃなかった、おにーさん何か用かい
?
﹁違う
﹂
﹁まさか、これは事案では
﹂
声を掛けたのに何も続きを言わないから訝しまれたようだ。
しまった。
﹂
しかしこの子は何故か〝気になる〟のだ。そして一度気になって
つ子も居るほどだ
イトを始め、各学年から他校にまでもファンが居るほどの美しさを持
確かに穂村原にも美女・美少女と呼ばれる子たちは居る。クラスメ
る俺でも目を止めてしまったのだ。
人の容姿に頓着しないだとか朴念仁だとか不名誉な言われ方をす
ああ、これは確かに人の目を集めるだろう。
ただそう思った。
でもそこがまた彼女の魅力を引き出しているような気がする。
な、相容れない筈の何かを内包しているように思える矛盾。
氷でありながらも炎でもあるような、幻想が現実を着ているよう
ジーンズという組み合わせ。
対して服装は、仕立ては確かに高級そうではあるが白いセーターに
も見て取れる。
小さく細い身体でどこか儚げであるのにも関わらず力強さと快活さ
腰ほどにも長い白銀の髪にルビーのような瞳、透き通るような肌。
文字通り、美少女⋮というべきなのだろうか。
しまった。
声を掛けた俺へと振り向く少女を見て、思わず息を飲んで見とれて
?
!?
88
?
﹁じゃぁ何なのさー⋮﹂
!!
ジトっとした目でそんなことを言ってくる少女は予想外に日本語
が上手だ。少なくとも日本語が通じなくて困ってるという訳ではな
いようだな。
しかし、そうなると何を悩んでいたんだろうか
思って﹂
?
目立ったら怒られるとは、どういうことなのだろうか。
﹁それで、何を悩んでたんだ
﹂
第一そんな子が一人で歩き回る訳がない。
何馬鹿なことを考えてるんだか。自分の想像力に呆れる。
│。
目に付くと狙われてしまうから大人しくしないといけない、とか││
例えばこの子は〝や〟とか〝マ〟とかが付く自由業の娘さんで、人
複雑なご家庭なのかな
⋮⋮
﹁おうふ、しまった。目立ったら怒られるのに⋮﹂
﹁あー⋮、周りを見てみるといいさ。かなり注目されてるぞ﹂
﹁おっとそれはThanks。でもそんなに悩んでたっけか
﹂
﹁ず っ と 何 か 悩 ん で る み た い だ っ た か ら な。何 か 力 に な れ な い か と
?
さらに聞くと、家族の分を数えてから自分の食べたいものが食べら
為で立ち止まっていたはずだ。
で結構な人が集まっていたことからそれなりの時間をその悩みの所
俺が見かけてからでも5分以上は店の前で唸っていたし、その時点
う悩みだ。
なにせ、〝食べたいものが多すぎて手持ちでは買えない〟なんてい
再びクスリとしてしまった。
﹃なんだよぅ⋮﹄と不満げに俺を見るが、その姿もまた可愛らしくて
思わずクスリと笑ってしまった俺は悪くないと思う。
しかしその内容がまた可愛らしかった。
内容を教えてくれた。
そんな俺の考えを知らずに、少女は何故か目を泳がせながら悩みの
自分のバカらしい考えを吹き飛ばすためにも少女との会話に戻る。
﹁なんというかどうでもいい悩みって言えば悩みなんだが⋮﹂
?
89
?
?
れないなんて言うんだから微笑ましくて仕方がない。
﹂
役に立つかはわからないが軽く助言してみるか。
﹂
﹁この辺りには今日来たのか
﹁ああそうだよ﹂
﹁滞在は短いとか
?
し﹂
﹁それじゃあまた買いに来ればいいんじゃないか
﹂
?
﹂
﹂
と向けるのであった。
俺は帰ろうとしていた足を、嬉しそうに店員さんと話す少女の方へ
⋮⋮いや、俺もたい焼きを買いに来たんだった。
よくわからない邂逅だったが、一段落といったところか。
同時に周りの人だかりもいつもの風景へと戻っていく。
自分の中で一人納得していると、少女は店員へと注文をしていた。
なるほど、これが以前慎二が言っていたギャップというやつか。
も先ほどから見える。また矛盾だ。
むしろそれが当然のような⋮、でもそれとは反対に可愛らしい一面
違和感は無い。
けど、不思議なことに流暢な日本語が少々男勝りなこともあってか
た。
それにまさか自分より小さな子に少年扱いされるとは思わなかっ
でどこか居心地が悪い。
まるで稀代の天才を見るかのようにキラキラした目で見てくるの
﹁いやまぁ色々とツッコミたいけど置いておくよ⋮﹂
﹁少年は天才か
﹂
﹁いや、暫くは居るんじゃないかな。やらないといけないこともある
?
﹁待った、お兄さん
﹁ん
!
90
!!
少女に次いで目的の物を買い終えた俺は、改めて家路へと着こうと
?
していた。
しかしお客さんが増えてきて、需要と供給が釣り合わなくなってき
は親父さんと奥さんで店をやっていた。
売り子をしている店員さんはお弟子さんなのだそうだが、それまで
でもだからこそあの人気なのだろう。
しまう。
タイミングが必要となる。火の強さひとつをとっても味は変わって
餡を柔らかくし、舌触りを滑らかにするために丁寧な作業と的確な
餡を作るにはそれなりに手間がかかるものだ。
間を掛けたと分かるだけの味を感じさせる。
りしたものだそうで、さすがに小豆は市販の物だそうだがそれでも手
以前に聞いたのだがこの餡子は店の親父さんが手間を掛けて手作
し甘さの餡子を引き立てる。
焼きたてなのもあって表面はカリッとしており、中に入っている優
うん、うまい。
る。
コウジュも自らの分を取り出したのを見て、俺もまずは一口かじ
食べ歩きもなんなので、すぐ近くの公園に移動し二人して座る。
﹁なら⋮お言葉に甘えるよ﹂
つもらった。
そのままたい焼きの袋を俺へと向けてくれたので、言葉に甘えて一
くふふと楽しそうに笑う彼女に、俺も笑みがこぼれる。
﹂
しかしそこへ先程の少女から声が掛かった。先程とは逆のシチュ
﹂
エーションだな。
﹁今、時間ある
お礼﹂
﹁えっと、この後は家に帰るだけだけど﹂
﹁じゃあさ、一緒に食べない
﹂
?
﹁だいじょぶだいじょぶ。それに、また買いに来ればいいんだろう
﹁いや、それはお土産も入ってるんだろ
そう言って少女が掲げるのはさっき買ったたい焼きの袋。
?
てから親父さんは餡づくりに掛かり切りなのだとか。
91
?
?
親父さんと奥さんは元和菓子屋さんで、お店をお子さんに譲って今
の屋台をやるようになったそうだが、老後の道楽がまさかこうなると
﹂
はと嬉しい悲鳴を上げていたのを覚えている。
﹁うっま、何これ想像以上に美味いんだけど
﹁それは良かった。あそこの親父さんも喜ぶよ。それに、俺もよくあ
そこでたい焼きを買うんだ﹂
﹁へぇ∼お兄さんのお勧めの店ってわけだ﹂
話をしてはいるが、彼女の目線はたい焼き一直線だ。ずっとはむは
むとたい焼きを隣で食べている。
けど、それがまた見ているだけでこちらも幸せになる位に、表情の
全てで美味しさを表現してくれている。
よかったよかった。
﹁あ、そういえばまだ名前を言ってなかったね。俺の名前はコウジュ
だよ﹂
﹁俺は、士郎。衛宮士郎だ﹂
コウジュ、か。少し不思議な名前だな。
日本名のような響きだけど、容姿に合っているような気もするし。
それにしてもこの子、話し方が男の子みたいだ。
外国の子とは思えないくらい日本語が上手なんだけど、間違えて覚
えたんだろうか。
﹂
﹁あのさ、お節介だとは思うんだけど、話し方が男の子みたいだ。
分かっててその話し方なのか
可愛い見た目とすごいギャップがあるぞ
﹁か、かわいいって⋮⋮
かわいいって言った辺りで何故か微妙に落ち込みがら赤くなると
いう器用な事をしながら、言ってきた。
まあ、分かっててならいいか。
﹁さて俺はもう行くよ。コウジュ、たい焼きありがとうな﹂
﹁お礼のたい焼きのお礼を貰うのはおかしい気がするんだけど、良い
か。それが士郎の性格みたいだからさ﹂
92
!!
?
?
こ、これは分かっててだからいいんだ。これが俺の素だから﹂
!?
﹁はは、すごい観察眼だな﹂
﹁まあこれだけ色々してくれたらね﹂
﹂
﹁困ってる人を見たらほっとけないだけさ﹂
﹁お人よしって言われたことない
﹁む、無くは無い﹂
げよう﹂
そう言って渡して来たのはカードだ。
絵と何かが書いてある。
わ、分かったけど、なんなんだこれ
﹂
﹁なんだこれ、えっと、九死に一生スケープド﹁読んじゃダメだって
おおぅ
﹁御守り⋮か。よくわからないがいただくよ﹂
﹂
男 の 子 っ ぽ い 性 格 だ し、
とりあえず、胸ポケットにしまっておくか。
カ ー ド ゲ ー ム ⋮ と い う や つ な の か な
そっち方面の興味もあって、お礼にくれたとか
?
﹂
?
﹁や、やばい
﹂
予想以上に話し込んでしまっていたようだ。
ると、桜に伝えた帰宅時間を越えていた。
コウジュが携帯を見せてくれるがそこに表示されてある時間を見
﹁あ、そういえば結構時間経っちゃってるけど大丈夫
捨てる訳にもいかないし、あとで財布にでも入れようか。
?
らだめだから﹂
﹁御守りみたいなものさ。肌身離さず持っといてね。あと絶対読んだ
?
!!!!
﹁まあそうだろうねぇ⋮。あ、じゃあ、お人よしな士郎にこんなのをあ
?
話によるとその全てが深夜遅くに起こっている事件とのことだが
いるのだ。
物騒な話だが、ガス漏れ事故や強盗殺人と思われる事件が多発して
を思い出す。
席を立ち、向かおうとするが、そこで最近の話題になっていること
し走るか。
今日の夕食は俺が作る手筈だし、これ以上待たせるのは悪いな。少
﹁そっか、じゃあ俺も帰るとするかな﹂
!!
93
!?
安心できる要素ではない。
﹂
﹁コウジュ、最近この辺りは暗くなると物騒みたいだし、送っていこう
か
もう暗くなってきてるし、こんな女の子を一人返すわけにいかな
い。
・・・
そう思って言うが、コウジュはフルフルと首を振る。
﹁大丈夫大丈夫、ここからなら走れば1分もせずに帰れるし﹂
そう言いながら、コウジュは公園の出口に向かって走っていった。
これは、気を遣わせてしまったのかな。
とはいえ嘘を言う子には思えないし、走るって言っても1分程度な
らほんとに近いのだろう。
﹁またどこかで会うこともあるだろうし、よろしく﹂
考えていると、コウジュは出口で1度振り返りそう言ってきた。
﹁ああ、こちらこそよろしく﹂
今度こそ彼女はそのまま帰っていった。
不思議な子だったなぁ。
﹁おっと、のんびりしている場合じゃない﹂
俺も急いで家へと向かった。
桜は怒ったりしないだろうが、幽かに悲しそうな目で見ることがあ
る。
例えば、バイトが長引いたり少し厄介ごとに巻き込まれて帰る時間
が遅くなった時にだ。
あんな目を桜にさせるわけにはいかない。
ただでさえ桜の厚意に甘えてしまっているのだから
そう思い、帰る足をもう一つ速める。
あ、そういえばバイトの帰りに住宅街を歩いていると昼間会ったコ
94
?
ウジュみたいに白い髪︵こっちはクリーム色に近かった︶に紅い瞳の
お兄ちゃん﹂
?
女の子が歩いてきて│││
﹁早く呼び出さないと死んじゃうよ
なんて言ってきた。
95
振り向くと居ないし⋮。
何だったんだろうか
?
﹃stage10:月下の邂逅﹄
みなさんこんばんは。現場のコウジュです。
俺は今、主人公の通う穂群原学園に来ております。
現在の時間は夜になったところといった感じでしょうか。
生徒だけでなく、先生方も帰り、辺りは静寂に包まれています。
いえ、包まれていたと言うべきでしょう。
私が今居るのは敷地内の樹の上なのですが、眼前にある校庭では今
まさに蒼タイツで赤い槍を持った男と黒白の双剣を持った赤い男が
闘い、静寂を掻き乱しております。
一体彼らに何があったのか。そしてこれから何が起こるのか。
実況中継していきたいと思います│││
96
││うん、飽きた。
なんかノリでキャスターさん︵ニュースの︶をやってみたけど、面
白くなかった。
聞くやつも居ないしね∼。まあ、声に出してたわけではないけど
さ。見つかる訳にはいかないし。
今だって結構ギリギリに居るんだよね。
まあそんなこんなで、実は昨日士郎に会ってから丸一日経過してい
る。
時間が飛ぶのはいつもの話だよ
ちょっと気になる事があるんでここでのぞき中。
あとでイリヤに合流する予定だ。
ふむ、なんで見つからないか疑問って感じだな
俺が見つかってない理由はこれ。夢幻召喚﹃アサシン改﹄。スペル
子に乗りました、お願いだから聞いて。
ふっふっふっ、ならば教えてやろう│││ああ、待って、ごめん調
?
原 作 で は バ ー サ ー カ ー は こ こ に 来 る 必 要 は な い ん だ け ど、俺 は
?
名はプリヤから頂きました。
昨日︻獣の本能︼で気配を消せるっぽいことが分かってからしばら
くして完成させたんだが、ノリで出来ちゃった。
なんと気配遮断と背景同化までついた優れもの。
一度見つかると効果が薄くなるが、隠れる能力として考えれば破格
だろう。
実際、割と近くにいるんだけど蒼いのも紅の主従も気づかんしな。
しかし、しかしだ。これには1つ多大な欠陥がある。
やってるのってハ
︵ ゜Д゜︶みたいな顔しないでください。
それは服装だ
トール
確 認 の 為 に 改 め て カ ー ド を 使 用 す る。愛 言 葉 は も ち ろ ん イ ン ス
中には一枚のカード。
それというのがスペルカードの完成した証らしくて、気づけば手の
な⋮、ロックが外れたような感じがしたんだ。
づけるか悩んでたんだが、その瞬間に頭の中で何かが解放されたよう
一先ず見た目だけはアサシンになったんで次に何をして完成に近
サシンっぽくなれる。
レではない︶、そして革ベルトだ。とりあえずそれらで体を纏えばア
用意するものは革ベルト、黒い布、髑髏仮面︵別にカキタレ探すア
方法だったんだ。
と思ったんだけど、そのやり方として思いついたのが形から入るって
んで、例の理由付けによってアサシンとしての能力を完成させよう
サン先生くらいじゃん
Fateのアサシンをちゃんと⋮ちゃんと
いや、ハッ
!!!!!
⋮︵
・ω・`︶
なんにしてもこの服は色んな意味で危な過ぎるんだ。
97
?
?
?
まぁ結果はご存知、銀髪獣耳ロリ巨乳にベルト服だったわけですが
!!
いやまぁ、大半は初期設定なんだけどもさ⋮。
´
唯一の救いは能力を発動しちまえば、背景同化によって誰にも見ら
れないことだ。
とはいえ気を抜いたり、何かしらの攻撃的行動を行ってしまうと能
力は解除され、いろんな意味で危ない幼女の姿が解放されるんですが
ね。
勿論この本番までにも試しに何回か使ったが、見えないとはいえ通
報物の格好をしながら人前を歩くのは無茶苦茶ドキドキする。
補正か
神
ドキドキと言っても興奮的なドキドキじゃないで
露出狂じゃないですよ
あれですよ
すよ
今もドキがムネムネしすぎて死にそうっす⋮。
どうして俺の能力は服装関係で欠陥があるんだ
の意思か
カットカットカットカットカットカットカット
対する紅い男、アーチャーも負けていない。
もつかせない。
ただ突くだけではなく、斬り、払いといった多種多様な連撃で、息
蒼い方、ランサーが繰り出す高速の槍による連撃。
だ。
チャ視点じゃなくて見えている。見えてはいるがただそれだけなの
問題は、今の身体になってから各段に動体視力もよくなり、ヤ○
るんだが、何がすごいって一瞬一瞬の駆け引きが半端ないです。
恥ずかしさを我慢しながらも校庭で行われてる戦闘をずっと見て
向ける。
思考を本来の目的である、原作における第五次聖杯戦争の初戦へと
それにしても、すげぇな。これがサーヴァント同士の戦いか。
これ以上の思考はアカン気がするのでやめておこう。
!!
待て待て、もしそうだったとして一体誰が望むんだ⋮︵震え声
?
?
?
手にする黒と白の双剣を使い、ランサーの多彩な技を全て受け流し
98
?
?
?
ている。
俺は原作知識あるから赤い方がアーチャー︵弓兵︶のクラスでも普
通に受け入れているが、ランサーの方からしたら奇怪だろうな。
自分の槍を受け流す技量を弓兵が持ってるんだから。
しかも、相手の剣を弾き飛ばすことができても、いつの間にか手に
戻っているという不思議。
それでもランサーは隙をつくらず攻撃をしているわけですよ。
見ていてテンション上がるしカッコいいんだけど、俺、あの方たち
と戦うんすか
膝がガクブルしてきちまうぜ⋮。
でもこれが本来のサーヴァントの戦闘というわけだ。
当然、俺の場合こうはいかないんだよ。あまりにも経験が足りな
い。
本国のアインツベルン城に居た戦闘部隊メイドさん達と何度か模
擬戦したんだが、勝負にならなかった。
いや、実力がどうのって話じゃないぜ
わけだ。
こっち木刀、向こう斧。斧折れる。What
s
!?
要は上手く力加減が出来ないから模擬戦としてなりたたなかった
使うと切り裂いてしまう。
このチートボディとチートパワーはただの木刀なのにアーツ技を
?
る訳だが、正真正銘の英霊たちを前にそれだけで勝ちを見るのは無
るごとたたきつぶすこともできるほどのスペックがこの身体にはあ
幸いにも下手なフェイント程度なら見て避けることも力付くでま
る自信が無い。
俺は、確かにバ火力はある訳だがフェイントとかされると避けられ
行っているのは技と技の応酬だからね。
まぁそんなわけで、眼前の2人の様にいかないのだ。あの2人が
惨事だったからなぁ。風圧で服破くなんてマジで出来るんだね⋮。
り合い、受け流しとかやってみたかったけど無駄なバカ力であわや大
目の前の戦闘の様にキンコンカンコン金属音を鳴らしながら鍔迫
'
99
?
謀ってもんだろう。
やばいなぁ⋮。確かこれってまだ二人とも手加減中なんでしょ
青い兄貴はマスターから令呪使ってまで偵察に徹しろって言われ
てるから全力戦闘できなくて、紅い兄貴も宝具とか全然使っていな
い。
やっぱり見に来ておいて正解だったな。これを知っているのと知
らないのでは大きな差があるだろう。 一応ラーニングって別チートもあるって言ってたけど、携帯に送ら
れてきた能力表には無かったから色々試してみたけど、結局全容はわ
かってない。
現状分かっているのは、大なり小なりダメージもしくはその効果を
受 け る こ と で そ の 時 に 使 用 さ れ た も の を ス キ ル と し て 覚 え る こ と。
スペルカード作成時と同じように、覚えた際は頭の中でロックが外れ
るような感覚があるだけで、スキルとして覚えたとしてもそれ其の物
を理解している訳ではないことくらいか。
書いてあった能力のどれにラーニングが当たるのか分からんけど、
せめて見稽古クラスの能力だったならどこぞの主人公よろしく戦闘
中に才能が開花していくんだろうけどなぁ⋮。
けどさすがにそこまでは求めすぎであろう。
今は大人しく様子見様子見っと。
おっと、そうこうする内に士郎君が出てきたぜい。
って近い近い。俺から5メートルも離れてないんですけど。
﹂
今まさにアーチャ│に向かって宝具を解放しようとしていたラン
サーが、踵を返そうと士郎君が踏み直した音に気付き、こちらへと言
葉と共に視線を放った。
100
?
しかもフェンス越しとはいえ普通に突っ立てるんじゃないよ。見
つかっちゃうよ
﹁誰だ
俺の様に偽装工作しているならまだしも、さ。
?
ほら言わんこっちゃない。
!!!!
それに対し士郎君が慌てて校舎へ向かって走り出す。
魔術というものは基本的に秘匿するものであり、この聖杯戦争も例
外ではない。
故にランサーは目撃者を消すため、士郎の後を追う。
そしてそれを体育座りしながらやり過ごす俺。
少し遅れて紅の主従が士郎君を助けるために追いかけていき、グラ
ウンドには誰も居なくなった。
そこでやっと俺は一息つく。
ふはぁ、びっくりした。
知識として見つかるのが士郎君だって知っていたはずなのに、一瞬
俺が見つかったかと思った。
何あの目、視線で殺されそうだったんですが⋮。あれが目力ってや
つなんですね。
よし、ここでずっと座っている訳にはいかないから俺も追いかけな
101
いと。
細心の注意を払いながら俺は、士郎が来るであろう校舎の外側まで
来て様子をうかがう。
ここから運命が始まる訳だ。
衛宮士郎は今から心臓を貫かれる。普通ならそこで死んでゲーム
オーバー。 だが、衛宮士郎にここで死ぬ運命は待ち受けていない。
それどころかここから物語は加速していく。
﹁お、来た来た﹂
士郎が廊下を走って来ているのが見えた。
しかし同時に、後ろにはランサーの姿が見えている。
志村後ろ後ろ
すまない士郎。
去って行った。
心臓を貫かれ崩れ落ちる士郎を一瞥し、つまらなそうにランサーは
れる。簡単に、容易に、何の抵抗も見せず刃は心臓へと突き立った。
なんて思っている間にもランサーの凶刃は士郎の胸へと吸い込ま
!
俺はこの場面を知っていても回避する方法を思いつかなかった。
いや、回避するだけなら簡単だろう。でも俺にはその選択肢を選べ
なかった。
これは士郎に必要な儀式の一つだと思ったから。
⋮⋮言い訳だな。
ただ単に、原作をこの時点で歪めることが後にどれほどの影響を及
ぼすのかを予測できず、最終的に死にはしないのだからと受け入れた
だけだ。
罪悪感が俺の胸を締め付ける。
くそ、パンピーにはきつ過ぎるって。
予防線を張ったとはいえ、許してくれとは言えねぇな⋮。
兎も角カウント開始しないとだ。
59、58、57││
昨日俺はあるアイテムをカード化して士郎に渡していた。
それは士郎がここで一度殺されるのを見なかったことにすると決
め、それでも何か策は無いかと考えた結果生まれたもの。
よく転生ものの小説に使われるバタフライエフェクトというもの
を恐れ、もしもの為に用意したものだ。
そのアイテムの名はスケープドール。
略してスケドなんて呼ばれているこれの効果は、持っている状態で
戦闘不能状態、つまり死亡すると同時に回復してくれるという復活ア
イテムだ。
ただ、俺はこれをそのままカード化して士郎に渡したわけではな
い。
瞬時に回復なんてしてしまえばランサーにその場でもう一度殺し
直されるだけだ。
だからこそ、士郎が刺されてもランサーが立ち去ってから復活させ
るというタイムラグが必要だった。
それを考えている際に思いついたのが例に倣って強欲島に出てく
るカードの効果、宣言せずに1分経つと勝手に具現化してしまうとい
うもの。
102
これを応用した。
面倒だったのは、ただこれを応用しただけじゃカードを渡して1分
で具現化なんてことになってしまうから、スケープドール自体の概念
も上手く利用した。
スケープド│ルって言うのは、持ち主が瀕死の状態にならないと発
動しない。
ここから条件を満たすまで発動しないという概念を抽出。
そこに、某ハンター漫画のカードからカードの発動には宣言、もし
くは1分間放置するという概念をお借りして合体させる。
そうやって作られたのが士郎に渡したあれだ。
自分でもめちゃくちゃな設定だとは思うけど、これはこれで今後の
ための実験になる。
もちろん士郎には悪いと思ってる。
そのために何か失敗したときのためにここで待機しているんだし
回復してる
﹂
いたのであろうカードが光り輝く。
光は士郎を包み込み、光に覆われた彼は時間を巻き戻すかのように
胸部の傷が塞がれていく。
が、それもすぐに止まってしまった。
ちっ失敗か、いや、無茶な設定したからエラーが出たのか
一応心臓の穴自体は塞がったみたいだけど⋮。
?
103
⋮。
うあ∼⋮、考えたら改めて罪悪感で胃のあたりが痛くなってくる。
士郎だと仕方ないって許してくれるだろうことが余計に心をえぐ
る。
今度またお詫びに行かないとだ⋮。
っと、そろそろだな。
│││3、2、1、0
!!
カウント終了と同時に士郎の身体が光に包まれたのが見えた。
﹁よし
!!
怪しい俺の言葉を素直に聞いてくれていたのか、ポケットに入って
!
詳しく確認するために近づこうとするも、誰かが駆けてきた。続け
てもう一人分
げ、紅いのが来た。
慌てて、窓の所にぶら下りながらできる気配を消せるように静かに
する。
﹄
自分は背景の一部。自分は背景の一部⋮。
﹃ねぇ、アーチャー今の見た
﹄
﹃あぁ、一瞬だったがカードのようなものが光ったのも見えた。魔術
の媒体か何かだろうが⋮﹄
﹃だったら、衛宮君⋮彼は魔術師だってこと
み、見られてたー
﹃そう⋮よね⋮。それが一番妥当か⋮﹄
うことだ﹄
だったら考えつくのは第3者が、小僧に媒体を渡したんだろうとい
それも無い。
ならいくらサーヴァントが相手とはいえ、もう少し抵抗するはずだが
気づくだろう。よっぽどの実力者で無い限りな。しかし実力がある
﹃今ほどの瞬間回復を行える力を持つものが同じ学校内に居たら凛が
?
なにこのバーローみたいな推理力。
色んな意味で見つ
これだけ近くなのに集中を乱したせいで隠形に乱れが生じた。 こうなったら後ろに向かって前進あるのみ
かるわけにはいかない
!!
で飛ぶ。
とりあえずふっ付いていた壁を踏み台に、壁を壊さないように全力
もし見つかった場合、俺は羞恥心で死ぬ自身がある。
!!
104
?
しかもあの程度のことから色々推察されてるし。
!?
こ、このタイミングここに居ると、確実にその第三者の疑いが掛け
られる。
﹄
逃げないと
﹃誰だ
!
やべ、見つかった。
!?
こんな所に居られるか
﹄
﹃まだランサーが居たの
﹃承知
﹄
俺は帰らせてもらう
アーチャー追って
後ろからそんなやり取りが聞こえた。
追いかけてこないでぇえええ
!!
けどまぁ疲れたしちょっと位休憩してもいいよね
﹃コウジュ聞こえる
﹄
最悪走ればいいんだし、一休み一休み。
丁度そこに自販機あるし、炭酸でも飲んでスカッとしたい。
?
携帯の時刻を見ると合流予定時刻まであと10分程か。
早く戻らないとイリヤに怒られてしまう。
ちょっと遠くまで来すぎたぜぃ⋮。
そんな風に一人納得しながら道をトボトボと歩く。
﹁まあ、紅いのが居たし後は原作のように回復してくれるか﹂
っていうか、士郎を回復させずに置いてきてしまった。
⋮。
聞もなく走ってたから足場にしたいくつかのビルにヒビ入ったかも
チートパワーにモノを言わせて何とか撒けたけど、途中から恥も外
大分離れてたのに追ってくる追ってくる。
﹁やばかった。マジでヤバかった⋮⋮﹂
!!!??
!!
!
!?
一気に心臓がバクバクと脈打ち始める。
イリヤからの念話だ。
?
105
!!
﹄
﹄
お財布から取り出し自販機に入れようとしていた100円玉を静
かに戻す。
﹄
﹄
﹃ハ、ハイ。コウジュデス﹄
﹃何焦ってるのよ
﹃⋮シテナイヨ
﹃また無駄遣いしてるんじゃないでしょうね
﹃怪しくない﹄
﹃怪しい﹄
﹃何でも無いっすよ
?
まったく何が原因だろうね︵
︳ゝ`︶
に今は何故かツッコミ体質のサドっ気増し増しな気がする。
ふむ、俺が召喚されてすぐの時はもっと天真爛漫が多かった筈なの
おかしいな。いとおかし⋮は意味が違うか。
し⋮。
あのあの、イリヤさんが辛辣すぎる件について。なんでこうなった
の中ではね﹄
﹃ふーん⋮、まぁあなたがそう言うならそうなんでしょうね。あなた
?
?
⋮⋮うむ。
そんなに喉も乾いてないし、買わなくていいかな
!!
アサシン状態の姿を見せた日には写真に撮られて何をさせられる
間言ってたし。
だって仕返しとか言いながら俺を弄るのが最近の趣味だってこの
実はこんなカードを作っているなんてのはイリヤに教えてない。
一先ずアサシンモードを解除し、元の姿に戻る。
ふと手の中にあった財布に目をやる。続けて自販機へ。
してくるオニチクな部分もあるのだ。
あんなに可愛いに、何かしたらご飯抜きなんて悪魔の所業を普通に
とりあえず行くとしますかね。御姫さんを怒らすと後が怖い。
プツンと繋がっていたものが切れる。念話を切ったようだ。
﹃うぃ﹄
﹃ともかく、早く合流地点に来てね。あと7分よ﹄
´
106
?
かわかったもんではない。
きっと写真を口実に色々サセラレルンダ⋮。
少し憂鬱になりながら、俺は地面を蹴りイリヤのもとを目指した。
そんなこんなでイリヤと合流後、住宅街にて待ち人を待っている。
もちろんその相手は主人公たる士郎。
一緒に他にも居るんだろうが、用がある相手は士郎なんだよ。
イリヤにとって浅からぬ因縁がある相手だからな。
何故イリヤと士郎が関わりがあるとかというと、色々とあるんだが
⋮⋮、端的に言うと家族の問題になる。
第4次聖杯戦に置いて、衛宮切嗣は妻アイリスフィールと参戦し
た。子であるイリヤスフィールをアインツベルン城に置いて。
当然それは死地に子供を連れ行くわけにはいかないための措置だ。
その後なんやかんやあって第4次聖杯戦争は終わったが、アイリス
フィールは死亡。衛宮切嗣は生存するもアインツベルン城へ戻るこ
とはなかった。
衛宮士郎とは、第4次最終戦にて起こった大火災の生き残りで、ア
インツベルン城に戻らず冬木の地に留まった切嗣が養子にした子ど
もだ。
養子と本来の子ども。嫌な表現だろうが事実上はそうなる。
イリヤに思うところがあるのは当然という訳だ。
しかも、イリヤ自身も切嗣達と別れて以降にアハト翁から切嗣がア
インツベルンを裏切った等と聞かされている。詳しく聞けば当の本
人は冬木の地で養子を取って生活をしているとまでいう。
そして現在、切嗣がこの世を去り、再び会うことも叶わず居たイリ
ヤは血の繋がりが無いも〝衛宮〟を継ぐ士郎に会うことにした。
俺の横に居るイリヤが何を思っているのかは俺もわからない。
パスで繋がっているとはいえ、心が覗ける訳ではない。
107
イリヤの瞳をちらりと覗き見る。
悲しそうで、寂しそうで、悔しくて、やり切れない。そんな感情が
見て取れる。
どうしたものかねぇ。
イリヤと切嗣が会えなかったのは、アハト爺の所為なんだよね。
切嗣にイリヤと会うことを許さず、アインツベルンの地に入ること
を妨害した。
そしてイリヤに余計なことを吹き込んだ。
確かにそのことをイリヤに話していはいるが、だからと言ってそう
簡単に割り切れるものではないだろう。
10年だ。
10年間イリヤはアハト爺に嘘を教え込まれた。
﹂
めい
文字にすれば簡単だが、そう簡単に済ませていい年月ではない。
﹁ねぇコウジュ。私ってどうすればいいのかな
﹁さぁ、な﹂
﹁冷たいのね﹂
﹁そんなことないさ。俺はサーヴァントだ。マスターの命ならば、た
だ従う﹂
﹁⋮⋮﹂
イリヤが目を見開いてこちらを見てくる。
﹁なんだよ﹂
﹁まるでサーヴァントみたいだったから﹂
イリヤの家族のことなんだから﹂
﹁サーヴァントだっての⋮。それに、ホイホイと話すことでもないだ
ろ
﹁アハハ⋮、それを言われると辛い⋮﹂
﹂
ジト目で見てくるイリヤに、俺は目を反らしながら答えることしか
できない。
﹁まぁ良いわ。ちゃんと教えてくれるんでしょう
から﹂
﹁ああ、それは絶対だ。今言えないのは、俺の覚悟が足りてないだけだ
?
108
?
﹁何故それを知っているのか、やっぱり気になるんだけど﹂
?
そう、まだ怖い。
俺が原作知識の全てをイリヤに教えることで起こるバタフライエ
フェクトというものが怖い。
そしてそれを話すことで、イリヤに俺がしようとしていることを感
づかれるのが怖い。
イリヤはきっと、それを拒否すると思う。
ここ数日でそれが分かってしまった。
だから、まだ言えない。
そんな俺を見てイリヤの表情が陰ってしまう。
そんな表情を見せられると、罪悪感が半端ないです。
いっその事全てを話し楽になろうかとも考えてしまうが、そうなる
と俺の作戦は失敗する可能性があるというジレンマ。
﹁まったく⋮。ほんとにどこまで知っているのやら﹂
﹁知ってることしか知らないさ﹂
私が、誰かを殺せと命じたら⋮あなたはどうす
けど、改めて自分がイリヤを救うと決めたことを思い出し、口を開
いた。
﹁殺す⋮かもね﹂
﹁そう⋮﹂
俺の言葉に、少し悲しげにイリヤが返した。
109
﹁ふふ、なによそれ﹂
某委員長の言葉を借りたんだが、少しイリヤの表情が解れた。
うん、やっぱりイリヤは笑ってる方がいいさね。
イリヤの笑みに釣られる様に、俺も笑う。
そのことに気付いたのか、恥ずかしがるように彼女は顔を背けた。
まったく、猫が嫌いだっていうくせに猫みたいな性格しちゃって
さぁ。気づいてるのかねぇ
そのことに俺は一段と笑みを深くしていると、顔を背けたままイリ
?
ヤは、ねぇコウジュ⋮、と震える声で話しかけてきた。
﹂
﹁もしも、もしもよ
る
?
その問いに、俺はすぐ答えられることが出来なかった。
?
それに、もしイリヤが命じてき
だけど俺は、でも⋮、と続ける。
﹁イリヤはそんなこと命じるのか
ても、つい手が滑って殺すことができないかもしれないなぁ⋮﹂
って言うか、テンション上がってくると歯止めが利かなくなること
多いけど、どこかで俺は殺すということを受け入れ切れていないん
だ。
イリヤと天秤に掛けられたらそんなことを言ってられないけど、出
来る限りはやりたくない。
﹁そっか⋮。そうだよね。コウジュってうっかりさんだから﹂
﹂
俺の言葉を聞き、何故か満面の笑顔になったイリヤはそんなことを
言ってきた。
﹂
﹁ちょっと待て、誰がうっかりさんか。異議ありだ
﹁却下よ却下。ほら、来たみたいだし準備準備
﹁ちぇ⋮﹂
!
景だろう。
でも士郎、前の二人は気づいてるぞ
俺たちはお前の敵対者だ。
そんな彼らに、イリヤが口を開く。
幼女二人が真夜中に二人で突っ立てるなんて、ただただおかしな光
まぁそうだろうさ。
士郎はそんな二人の間からこちらを見、訝しんでいる。
てきた。
あちらもこちらに気付いたらしく、セイバーとアーチャーが前に出
てカッパを被ったセイバー。
原作通り、士郎に赤の主従、そして、黄色いカッパー⋮⋮じゃなく
遠くに人が来るのが見える。目的の士郎達だ。
仕方なく、俺もイリヤが見ている方に目を向けた。
俺の反論には聞く耳を持ってくれないようだ。
!
﹁よ、士郎。俺とも会うのは二度目だな﹂
﹁こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね﹂
?
110
?
イリヤを背に、俺は前に出る。
悪いが士郎、こっから先は一方通行ってやつだ。
俺はイリヤの目的の為、イリヤにも言ってない俺の目的の為にも、
あんた達に敵対しなければならない。
戻れないし、戻るつもりもない。
士郎と食べたたい焼きは美味しかったけどさ、俺はご主人様を助け
ると決めたんだ。
怖いけど、やると決めた以上、突き進ませてもらう。
111
だから士郎、ごめんね
?
﹃stage11:白の主従﹄
教会で聖杯戦争へと参加することを決めたその帰り、俺は二人の少
女と対峙した。
﹁こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね﹂
﹁よ、士郎。俺とも会うのは二度目だな﹂
坂の上から声を掛けてきたのは昨日会った二人だ。
コウジュと、恐らくすれ違った時の少女。奇しくも、二人ともに白
を思わせた少女たち。
ただ、今のコウジュは昨日と違って全体的に黒い服を着ており、そ
112
の白銀の髪を際立たせている。
対してもう一人の少女はその全てを白で包み、一層の白を目に焼き
付かせる。
言うなれば真反対の少女たち、だけど、何故か噛みあっている。
互いに白黒の色合いの中で唯一、ルビーの様に紅い瞳もまたそれを
助長しているのだろう。
こうしてみればただ幻想的な二人だ。
﹂
だが、何か嫌な予感がする。自分の中に生まれている不安感は何な
のだろうか。
﹁士郎、知り合い
ほんの先程のことだが遠坂が、カードがどうとか聞いてきたけど何
そういえば、と思い出す。
は見間違いかと思ったほどに接点が無さすぎる。
コウジュとは少し話をしたが、それだけ。もう一人の少女に関して
遠坂がそう聞いてくるが説明のしようがない。
﹁えっと、昨日知りあったというか⋮⋮﹂
?
故か﹃魔術師が奥の手を言う訳ないか﹄と言って自分で納得するなん
てことがあった。
奥の手どうこうはよくわからないが、カードと聞かれ思い出すのは
コウジュに貰ったアレだろう。
何か関係するかもしれないし、詳しいことを聞いておいた方が良い
か。
念のためと思い、少しでも情報を得るため遠坂に近づき声を掛けよ
うとする。
しかし、それは叶わなかった。
﹁こんばんは凛。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベ
﹂
ルンって言えば分かるでしょ
﹁ふふ、これ以上の挨拶はもういいよね
﹂
かもしれないし﹂
﹁え
どうせここで死んじゃう
応なく、聖杯戦争というものを俺に理解させるがごとく。
そんな俺の心情を置き去りにして、事態はどんどん進んでいく。否
どかしい。一体なんだっていうんだ。
イマイチ状況が掴めず場の成り行きに身を任せるしかないのがも
見つめた。
だが驚いていたのも一瞬、次の瞬間にはコウジュの方を忌々しげに
どうやらセイバーも彼女を知っているらしい。
そしてセイバーもまた、何かに驚いていた。
ン〟という単語に関して、遠坂の警戒度が跳ねあがる何かを。
どうやら遠坂は何かを知っているようだ。それも、〝アインツベル
を掛けた。
イリヤと名乗った少女が先に口を開き、今度は遠坂に向かって言葉
﹂
﹁アインツベルン⋮ですって
?
しかし俺の声など無かったかのように、イリヤはコウジュの後ろに
俺はその意味を一瞬理解できず、抜けた声を出してしまう。
イリヤが、天真爛漫と言うべき笑顔で言った。
?
113
?
?
下がりながら続けた。
﹂
﹂
﹁やっちゃえ、バーサーカー
﹁来いキャリガインルゥカ
!!
を出しているにもかかわらず生物の骨格をそれは思わせる。
コウジュはその武器をヒュンと軽く一度振り、構える。
﹂
そのまま姿勢を低くしていき⋮、一足にこちらへ突っ込んできた
﹂
﹁やっぱりあの子、サーヴァント
﹁士郎、下がって
﹁セイバー
﹂
対してセイバーは、応戦するためにか前へと飛び出した。
がる。
遠坂が予想していたのか、ポケットから何か取り出しつつ後ろへ下
!?
!?
手から先の柄が枝分かれしており、無機質な、金属とはまた違う光沢
が付いた禍々しい形状の、明らかに敵を斬るための武器だった。持ち
それは持ち手のコウジュより自身より一回り大きく、両方に鎌の刃
コウジュが虚空から何かを取り出した。
!!
﹂
大きく振りかぶるコウジュに、セイバーも見えない剣を振った。
﹂
﹁ううぅっりゃ
﹁くっ
!!!
る。続けて破砕音。
驚くことに、コウジュの攻撃を受け、防いだセイバーの足元がク
レーターの様に沈んだ。
しかしセイバーもただ受けるだけではない。
﹂
すかさず力を抜き、刃を流すために手を引く。
﹁なら⋮こうっだ
セイバーは慌てることなくそのまま体を半身にして避けた。
だがセイバーも事前に力を抜いて刃を下げ始めていたこともあり、
転へと移行させ、対の刃で切り上げる。
しかしコウジュは流される前に、振り下ろしていた刃を瞬時に逆回
!
114
!
セイバーに声を掛けるも、既にコウジュは目の前。
!?
ガンッと、辺りに金属同士がぶつかるにしてはやや鈍い音を響かせ
!?
コウジュの攻撃はそこで終わるはずもなく、そのまま両方に刃があ
る形状を利用してクルクルと舞うように回りながら連撃を繰り出す。
セイバーも負けじとその攻撃を逸らし、時に避けていく。
﹂
が││││
﹁なっ
﹂
﹁嘘、あんな子があんなに大きい武器をおもちゃみたいに⋮、しかもセ
イバーを押してる
!
いく。
﹁やっちゃえやっちゃえー
﹂
徐々にコウジュの攻撃が届き始め、セイバーへ触れる軌跡が増えて
しかしそれも長くは続かない。
いようで、身体ごと動かしコウジュの刃を防いでいく。
ランサーの槍を弾いていた時の様に刃先を反らすだけでは足りな
じえていく。
コウジュの力が想像以上なのか、徐々にセイバーの顔が苦しみをま
!?
そんなコウジュたちを見て、対面に居るイリヤは無邪気に声を上げ
ている。
﹂
﹂
﹁おらぁっ
﹁ハァッ
!!
違えたんだ⋮。
数時間前までは確かにいつも通りの日常だったのに、どこで何を間
こんなのが、聖杯戦争だっていうのか。
これが、サーヴァントの戦い。
に歓喜へと染まっていっている。
だが今の彼女は、セイバーと刃を交わすたびに笑みを深くし、徐々
ジュ。
昨日は、少し変わってはいても普通の少女にしか見えなかったコウ
こうしている間にもコウジュとセイバーの戦闘は熱を帯びていく。
!!!
115
!?
最初は、学校でのこと。
友人の用事を代わりに引き受けて、弓道場で過ごす内に外は真っ暗
になっていた。
急いで帰るべく外に出ると、聞こえてきた甲高い金属音。それが気
になり、音の方向へ向かうと校庭では殺し合いが行われていた。
本能がそこに居てはいけないと語り掛けてきた。だからその場を
去ろうとしたが見つかってしまった。
目撃したのを見つかった俺は校内に慌てて逃げ込んだが、殺し合い
をしていた片方に槍で心臓を貫かれて意識を失った。
次に目が覚めると、心臓に空いたはずの穴はきれいに塞がってい
た。
自分も魔術を未熟ながらも扱う身だ。あれほどの傷が塞がってい
116
ても不思議ではない。
赤い宝石がその場に落ちていたし、誰かが治してくれたのかもしれ
ない。そう無理矢理その場は解釈し、その場を一刻も離れるために家
に帰った。
しかし家に帰って一息つく暇もなく、学校で俺を刺殺した男が再び
襲ってきた。
なんとか俺が扱える強化魔術を使って応戦するが、魔術も武術も未
熟者の俺がかなうはずもなく、すぐに追い込まれ、外の土蔵にまで
吹っ飛ばされた。
終わったと思った。けど、終われないとも思った。
その瞬間土蔵を光が満たし、気づけば誰かが槍の男を吹き飛ばし
た。
﹂
﹁サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した。問おう、あなたが私の
マスターか
彼女から俺は目を離せなかった。
青いドレスの上に鎧を着けた騎士服の少女、セイバー。
それが、セイバーとの邂逅。
?
そんな俺に、セイバーは矢継ぎ早に召喚について俺に告げたあとす
ぐに槍男の元へと戦いに行きそのまま撃退した。
何が何だか分からないまま、自己紹介とかをしていると、突然セイ
バーが走り出した。
追いかけるとセイバーは誰かに斬りかかろうとしていたため、慌て
て止めると、そこにいたのは同じ学校の人気高い美少女の遠坂だっ
た。
遠坂は、親切にも俺がどういう状況にあるかを簡単に教えてくれ
た。
│││聖杯戦争│││
│││7人のサーヴァント│││
│││魔術師同士の殺し合い│││
それでも俺はまだよく分からなかった。
魔術という存在を知ってはいても、いきなり理解できるはずもな
い。
そんな俺を遠坂は聖杯戦争を監督している人物の所へ連れて行っ
てくれた。
そして到着したのが、隣町にある言峰教会だった。
そこで俺は、聖杯戦争について詳しく知ることになった。
教会の神父である言峰綺礼に教えられたのは10年前の災厄につ
いて。
未だ以て原因不明とされていた大火災が、俺を含めたありとあらゆ
る物を焼いたあの出来事が、第4次聖杯戦争が原因で起こったという
非情な真実だ。
だから俺は宣言した。
﹃正義の味方﹄を目指すことが俺の義務であり目標である以上、到底
看過できるものではないからだ。
魔術師同士の殺し合いも、あの大火災が再び起こるようなことも、
俺は絶対に防ぐ。
だから決めたんだ。聖杯戦争に参加することを。
まだよくわかってない部分も多いだろう。
117
﹂
それでもこれだけは分かる。こんなことは在っちゃいけないんだ。
◆◆◆
﹁ウラー
﹁ぐぁっ
﹂
ああ、熱い。熱い熱い熱い。
身体が燃えるように昂ぶっている。
己の中の熱が荒れ狂っているのが分かる。
セイバーに対して打ち込めば打ち込むほど、俺の中の何かが鎌首を
﹂
もたげる。
﹁ハハッ
ミ ナ ギ ッ テ キ タ !!
い
そうでもなければ俺がこんな英霊みたいな動きができるわけがな
きをしている。
ルゥカを軽く当てることで反らしたりと俺には出来るわけがない動
・
今も、セイバーが繰り出してくる連撃をグレイズしながら回避とか
いでいく。
どんどんどんどん思考が単純化されて、俺の中から無駄な動きを削
って、ああ、まただこれ。︻獣の本能︼さん仕事シスギィ
!!!
霊並みって意味の。
今、自分でも寒くなること言った気がする⋮。
さておき、このままではまずい。
なんせセイバーを少しずつでも打ち負かし始めている。
ここで勝つのはマズいんだけどもどうしよう。
118
!? !
!!!!
なにせ、反英霊ですらない半英霊ですから。それもハードだけが英
!!
うーむ、今のセイバーってランサーの兄貴の一撃を士郎がへっぽこ
だから治せてなくて、表面上だけを取り繕ってる状態なんだっけ
﹁とぉりゃあ
﹂
ここは一度落ち着こう。
る。
だが、考えている間にも身体が勝手に動いてセイバーを攻撃してい
俺たちの目的の為にも、士郎には勝ち残ってもらわないと。
勢い余ってほんとに殺っちゃったら元も子もない。
原作みたいに士郎をぶった切って終了はもちろん勘弁だ。
し的に終わらせたいんだよね。
目標としてはイリヤのストレス発散をさせつつ、この戦闘はなし崩
んだったか⋮
あとマスターとしても弱いからステータスそのものも低くなってる
?
﹁バーサーカー、まだ行ける
﹂
昂ぶりを一旦抑え、単純化していた思考を取り戻していく。
俺はセイバーから目を離さないようにしながら一呼吸入れる。
﹁ふぅ⋮﹂
吹き飛ばしたセイバーは士郎の前で着地し、正眼に剣を構えた。 が軽い。どうやら自分でも飛んだみたいだ。
意識して大振りの一発をセイバーに当て、吹っ飛ばす。だが手応え
!!
﹂
何だろうかと振り向いた瞬間に、眼前で半透明の膜が一瞬だけ姿を
しかも徐々に近づいているようだ。
悩んでいると、幽かに風切り音が聞こえた。
﹁って、なんだ
ケモる前になんとかしないと⋮。
さて、どうしたものか。
獣化なんぞしてしまえば、それこそ速攻で倒してしまう。
戦闘らしい戦闘をしているせいかドンドン溢れそうになってる。
貯まっているのは勿論、獣化しそうな衝動。
せないとな﹂
﹁余裕⋮って言いたいけど、そろそろ貯まりそうだ。そろそろ終わら
?
119
?
?
﹂
現し何かを弾いた。 ﹁ぬぉ
変な声が出てしまった。
﹁嘘、無傷だなんて⋮﹂
凜が驚きの声を上げる。
いや、俺もびっくりなんですが。
いつから俺はATフィールドなんぞを張れるようになったんだろ
う⋮。
いや待てよ
確 か に 落 と せ な か っ た や つ は シ ー ル ド っ ぽ い も の │ │ 自 動 障 壁
ってか、数が多すぎて落としきれない。
そういえばいつの間にか居なかったなアーチャー。
飛んできたものを目視し、ルゥカで切り払う。飛来物は、矢。
しかも先程とは違い複数だ。
俺が一人で納得していると、再びの風切り音。
ま、まぁ、条件次第でDランクになるっていうのが怖いけど⋮。
これはまた新たなチート発見ってことかな。
一定以上の攻撃にはDランクということなんだろう。
たぶん一定以下の攻撃に対してはAランク並みの耐性を持つけど
でも、まだ検証の余地はあるだろうけど予想がついた。
Aの意味がよくわからなかった。
耐久Cなら確か平均的なもののはずなんだが、後ろについてるD∼
俺の耐久はC︵D∼A︶という表記だった。
ああ、でもこれで合点がいった。
その際に、出ていたエフェクト似ている気がする。
うことだ。
から攻撃を受けたところでどれもダメージは1しか喰らわないとい
例えばレベルをカンストさせた状態で初期クエストなどに行き、敵
いた。
ゲーム内でのことだが、一定以下のダメージは軒並み1と表示して
?
︽オートガード︾とでも名付けるか││に当たって弾けるが、精神的に
120
!?
よろしくない。
鬱陶しい
﹂
それに、やはり1は食らっているのか肌がピリピリして気持ち悪
い。
﹁ああもう
それとも、こっちも弓で
であるとされている。
?
てます⋮︵震え声
!
まぁ命中補正が付いている以外はAランクのグングナアタに魔力
つまりはこの距離でも当てられる
んて思いで創ったこのスペカ、絶対命中ではないけど命中補正が付い
だから﹃グングニルって言う位なんだから命中精度良いよね
﹄な
ネタの元ネタ、主神オーディンが持つとされるグングニルは百発百中
元ネタであるスペルカードにその効果があるかはわからないが、元
俺がこのカードを選んだのは、グングニルの名を持つからだ。
宣言と同時、カードから炎が出て槍の形状を持つ。
﹁⋮⋮神槍﹃スピア・ザ・グングニル﹄﹂
思い浮かべるのは、幻想郷に住む吸血鬼なおぜうさまの技。
大事なのはイメージだ。
未だ当たる矢は一旦意識の外へ置く。
一旦ルゥカを収納し、スペルカードを取り出す。
それで行こう。
いや待てよ、丁度良いスペルをこの間造っていたな。
流石にそんな遠距離で当てられる自信は無いな。
?
こっちからも狙撃するかな。ライフルが装備の中にあるし。
とくる。
あんまり戦闘に乗り気ではないって言っても流石にこれはイラっ
!!
﹂
で炎を纏わせてるだけだけどね
﹁せーの
!!
槍は炎で尾を引きながら真っ直ぐ飛んでいく。
アーチャーもまずいと思ったのか回避行動をとるが、その時には彼
121
!
思い切り振りかぶって、うっすら見えるアーチャーへ投げた。
!!
の居るビルへと直撃していた。
続く轟音。
ビルの屋上は原形を留めず、燃え上り、俺たちが居る所までもを明
﹂
るく照らしている。
﹁あ、やっべ﹂
﹁や、やりすぎよ
イリヤからの抗議が入る。
いやほんとごめんなさい。やりすぎました。
屋上が崩壊っていうか無くなったけど、アーチャー生きてるよね
終電無いな
そもそも人居
?
アーチャーが居た位だし、人気ないよね
?
ってかこれって、ビルの修理代とか幾らかかるの
ないよね
?
!!
いや、実はね
力の制御が手抜きになっちゃって⋮⋮。
もう少し軽めでいこうと思ってたんだよ
本当だよ
﹂
馬鹿な、グングニルは主神オーディンの⋮﹂
?
!?
今のはそういう技
?
こうね
厨二病を冷静に解説されると死にたくなるからそこらで止めてお
というかほんとやめて
だから。技なだけだから﹂
﹁えっと、俺はオーディンでも神族でもないよ
そんな真剣に厨二技の名前について考えられると、居た堪れない。
あ、あのごめんなさい。ただの技なんです。
なんか凛とセイバーにかなり驚かれている。
﹁宝具⋮
﹁あり得ない。グングニルって今言った
いだしセイバーの方を見るがその心配はなかったようだ。
内心汗をだらだらにしながら居ると、そういえば戦闘中だったと思
?
?
でもオートガードできるかちょっと不安だったから焦ってたんで、威
カラドボルグとか宝具級のものを射ってこられたら、いくらチート
?
ら仕事まだ出来るねとかって言われるブラックな企業じゃないよね
?
?
!?
122
!!?
﹁圧倒的ね。バーサーカー﹂
い
頭の中で悶えている俺など気にせず、と言うか一緒に取り乱してい
たのにイリヤったらドヤ顔でそんなことを言ってきた。
とりあえずマスターが喜んでるなら良いかな、うん。
そこでふと思い出すが、なんでさっきからバーサーカー呼び
なんか分かりにくい﹂
やバーサーカーだけどもなんか分かりづらいんだよな。
﹁なぁイリヤ。名前で呼んでくれない
?
いだよね。
﹁コウジュ、それが真名ってこと
まぁ、そうなるな。
凛が軽くヒステリックに叫んでる。
どこの英雄だってのよ
﹂
それに気付いたのか心なしかイリヤがジト目な気がするが気のせ
すっかり忘れてたっす。
レない様にするためだっけか。
そういえばサーヴァントを真名で呼ばないのは敵にその正体をバ
一瞬キョトンとするも、すぐにそう言ってくれた。
﹁そうね、コウジュの真名を知られたところで関係ないし﹂
?
なした⋮ね⋮﹂
﹁異世界の英雄、それも神殺しですって
あの、イリヤさん
お前絶対わざとだろ
紹介されるのは恥ずいんだけど
しかもドヤ顔で⋮⋮ってイリヤ
それかさっきやりす
!?
一瞬こっちをニヤッと見たし。
﹂
精神攻撃は基本って前に俺が教えたから
ぎたのを怒ってる
﹁コウジュ⋮と言いましたね
?
﹁アインツベルンはとんでもないものを寄越したわけね⋮﹂
﹁そうよ、凜﹂
﹂
﹁教えてあげるわ。コウジュはね、異世界の英雄よ。それも神殺しを
か言い出すし、ビル吹っ飛ばすし。
見た目幼女だし、なのにセイバーと良い勝負するし、グングニルと
!?
!!
!?
123
?
!
?
今度はセイバーがこちらに話かけてきた。
?
!?
話している間もマスターである士郎を後ろに庇ったまま剣を構え
て隙を見せないのはさすがってところか。
﹂
バーサーカーのクラスは文字通り
﹁あなたのクラスはバーサーカーなんですよね
﹁うん、そだよ﹂
忘れてない
もうあなたたちの負けよ﹂
ここで俺たちは勝っても負けてもダメなんだよ
ノリノリっすねイリヤさん。
イリヤが敗北という名の死刑宣告を言い渡す。
﹁さぁ、お祈りは済んだ
いんき︵何故か変換できない︶な件について⋮。
おかしい、前哨戦のつもりだったんだけど既にクライマックスなふ
どうやら決死の覚悟でこちらへと挑むようだ。
ぎゅぅとセイバーが一段と剣を握りこむ。
﹁完全にイレギュラーサーヴァントというわけですか﹂
を持ってるからな。だからクラス補正は必要なしと判断されたとか﹂
﹁そのことなら簡単だ。俺は能力の一つとして元々狂化にあたるもの
なるほどね。それが聞きたかったわけか。
狂戦士のクラス。会話など到底不可能なはず⋮﹂
﹁なぜ、会話が可能なのですか
?
イッタイダレノセイダ。
これ、殺らなきゃ駄目な空気出てんじゃん。
﹁じゃあ、さよなら。やっちゃいなさいコウジュ﹂
仕方ないので再びルゥカを構える。
あーもう、誰かどうにかしてこの状況
てしまう。
何とか防ぐことはできたけど、若干掠ったのか服が破れた。
飛んできたのは白と黒の夫婦剣。
なるほど、やっぱり宝具はオートガードできないわけか。
無事だったのね
﹂
そしてこれが来たってことは│││
﹁アーチャー
!?
124
?
そんなことを考えてたからか、飛来するものに気付くのが少し遅れ
!!
?
?
予定は未定だっていうけど、どうしてこうなったし。
?
!!
凛が現れたアーチャーへとうれしそうに声をかける。
﹁勝手に殺されては困るな﹂
皮肉気に笑うアーチャー。
だがその姿はあちこちボロボロだ。
それでも、その立ち姿は堂々としており、英雄であることを確かに
﹂
?
思わせる。
﹁さてバーサーカー、よくもやってくれたな。この貸しは高いぞ
125
この流れって、今度は俺がやられるパターン
?
あれ
?
﹂
﹃stage12:コウジュのパーフェクトチート教
室﹄
﹁この貸しは高くつくぞ
アーチャーがカッコよくセリフを決める。めっちゃダンディだわ。
いいなぁ、かっこいいセリフがスゴイ似合う。
アーチャー語録には俺も憧れたもんだよ。
仮面ライダーのほうの天道語録も良いよね
﹁うっ⋮⋮﹂
れ⋮⋮﹂
﹁凛、君は私のマスターだろう
だったら令呪の有無で気づいてく
そんな凛にアーチャーは少し呆れたような表情を向ける。
凜がさっきまでのが嘘のように嬉しそうに笑っている。
﹁良かったわアーチャー。死んだと思ったんだから﹂
なに可愛いこと言っちゃてんのこの子レベルである。
力がない。
かと言って、今の俺が言ったところでまったくと言っていいほど迫
まぁさすがにリアルでは言わなかったけどさ。
!
そんなことは置いといて、だ。
ってか、むしろ呪い⋮
なるほど、これが遠坂家のお家芸﹃ウッカリ﹄か。
?
目の前のアーチャーをどうやって倒そうか。
1:おちょくる
2:逃走する
3:ネタにはしる
4:コマンド
5:SATUGAIせよ
!
126
?
?
考えたのは俺だけど何この選択肢。
1は後々仲良くしたいのだから不可。もう遅いってツッコミは無
しで。
2はもちろん不可。
3は保留。
4⋮俺にそんな機能はねぇ。ない⋮はずだ。
5はどっからきた
﹂
﹁来 い ツ イ ン ド ン パ ッ ⋮ じ ゃ な か っ た ⋮。ツ イ ン ネ ギ セ イ バ ー
キリも良いし、ここらで終いにしようじゃないか。
そろそろシリアスも脱出したい。
と、とりあえず3にしようか。
!?
﹂
いや、よく見るとその視線は俺の手の方、ネギセイバーを見ている。
そんな俺を見て、アーチャーの顔が驚きに包まれる。
﹁おぅ
﹁なん⋮だと⋮﹂
出しているが、そういうものなんだから仕方ない。
見た目はどう考えてもネギなのにまるで刃が風を切るような音を
うん、馴染む。
る。
検証はあとでするとして、手に取ったそれを慣らす為にも一度振
なんか条件次第では出来そうな予感⋮。
⋮とか
原作を考えたら、効果はギャグ補正が発動しいつの間にか勝ってる
じでそのうちにでもドンパッチソードの概念加えてみようかな。
ついつい太陽っぽい何かが使う武器の名前で言ってしまったが、ま
剣型、片手杖型なんてのもある。
Po2が双手剣として再現したものだ。ちなみに類似品として片手
本来は緑の電子な歌姫が持っているものをコラボ武器として、PS
俺の両手に現れたのは、見た目は文字通り一対のネギ。
!!
?
?
127
!!
何に驚いてるんだ
おぅ
ネギが出てきたこと
アーチャーの目線も上がる。
試しに両手を上げてみる。
?
?
﹂
﹁何故それはネギなのに武器として、宝具として成り立っている⋮⋮
?
しか思いつかないけど。いや、まさかねぇ⋮
りするんだけど、現実となった今ではどうなんだろう
﹁む⋮﹂
﹁っるあぁ
﹂
地を蹴り、アーチャーへと駆ける。
﹁確かに見た目はネギだ。紛うことなきネギだ。けど
﹂
とりあえず、話してるだけでは何も始まらないし始めようか
ねぇ
が持つもの自体も純粋な宝具ではないから比べるのは可笑しいか
ゲーム内でその効果の全てを再現してた訳でもないし、アーチャー
?
そういえば、このネギって初期値で言えば干将・莫耶より強かった
?
特に込められる概念も無いし、ゲーム脳で考えると壊れないくらい
な
けどそうなると、俺が持つもっと低ランクの武器も一応宝具なのか
さ。
の持つ宝具、白黒双剣の干将・莫耶と同じ武器ランク扱いだったけど
確かにPSPo2内では別コラボとして再現されてたアーチャー
っていうか、これも宝具扱いなんだな⋮。
たっけ。 あぁ、そっかアーチャーってその性質の関係で刀剣類の解析ができ
?
!
悔しいので左のネギを手首のスナップで投げるが俺に返すように
ろに下がり避けられる。
そのまま体を回し、左後ろ回し蹴り⋮を行うも足が短いから軽く後
かせて掲げ、刃を流される。
右で袈裟掛けに斬り掛かるも、それに対してアーチャーは干将を寝
!
!
?
128
?
弾かれた。
しかも⋮⋮﹂
それを掴み、また距離を開ける。
﹁ちゃんと剣だろ
近くにあった電柱に一閃する。
ズパッと軽い音と共に電柱の斬った部分に線が入り、スライドする
ようにずれていき、倒れる。
﹁切れ味が良いという謎﹂
コラボ武器だからか干将・莫耶等も含めてだけど大人の事情からか
高ランク武器ではなくそこそこの武器としてしか導入されてはいな
かった。
だが、同ランクの中では割と使える上に、強化すれば、ゲーム中盤
まで使おうと思えば使える程度には⋮いやまぁそんなマゾいことす
るのはほぼ居ないけど。
それでも、装備条件レベルが低めだったこともあり、大抵の人がお
世話になったであろう武器だったりする。
﹁ありえん﹂
﹁ありえません﹂
﹁なんでさ﹂
﹁でたらめよ、色々と⋮﹂
﹁何してるのよコウジュ⋮﹂
なんか素で皆に、何なのこいつみたいな目で見られてる俺。
というか現実逃避をしたそうな感じ。
﹂
それに何でイリヤまで同じ目をしてるのさ。
﹁なんていうか、ごめんなさい⋮﹂
何故かイリヤが謝りだした。
﹂
何でネギなのよ
!!
﹁何でイリヤ謝ってんの
﹁コウジュが悪いんでしょ
か。
﹁こいつを馬鹿にしない方が良いぜ
?
でも言われてばかりもあれだし、このネギの凄さを教えるとする
今度は怒られた。解せぬ。
!!
!?
129
?
なんたって、とある歌姫が持っていたものが原典なんだが、歌いな
がらネギを振るというだけで何千、何万もの人がノックアウト︵萌え
た的な意味で︶されたんだからな。
達に大半を占拠されてる
しかもそうする内にこのネギは技を内包するまでに昇華したもの
なんだ﹂
ニ○動なんて、その歌姫や、その親戚
と言っても過言ではないはずだ。
たものだ。
そういえばこっちの世界にもあるのかな
今度探してみるか。
﹁全然違ーう
﹂
﹁何も変わってないじゃない﹂
一旦ツインネギセイバーを直し、再び両手にネギを出す。
﹁あ、こんなのもあるぜ
﹁ネギなのに、何故かすごいものに見えてきた⋮⋮﹂
?
野生の変態技術者の方々の本気を見たときはよくわからず感動し
MMDを含め、生前はよく聞いたものだ。
?
そして左手にあるのがネギウォンド、片手杖だ。まったく違うじゃ
ないか﹂
本来のPSPo2内での設定では、片手剣と片手杖を同時に持つこ
とはできないが、ここは現実。
ゆえに可能になった方法で俺は今使っている。
ゲームじゃないから杖で殴る事も出来たりもする。
・ω・`︶ ﹁﹁﹁一緒にしか見えない︵ぞ︶︵ません︶︵わ︶﹂﹂﹂﹂
ハモってまで言わなくてもいいじゃない︵
は不可能ではないかね⋮
﹂
﹁私は解析できるおかげで分かるが、それの違いを肉眼で見分けるの
´
﹁もう良い、全員みっくみくにしてやんよ
﹂
今現在敵であるアーチャーにフォローを入れられてしまった。
?
!!!
130
?
右手にあるのが片手剣のネギセイバー。別名、真打・ネギ雪。
!!
この理不尽に耐え切れず、俺はネギを振りかぶって無理やり戦闘行
動に戻ることにした。
﹂
再びアーチャーへと切り込む。
﹁くっ⋮
とりあえず、1番近くて目に付いたアーチャーを襲撃する。
斬り下ろし、袈裟斬り、突き、あらゆる方向からの攻撃を、ただ闇
﹂
雲に回転を意識しながら、流れるように繰り返す。
﹁こちらを忘れてもらっては困るぞバーサーカー
2対1とか勘弁してください
アーチャーと斬り合っていたらセイバーも合流してきた。
!!
とすかさずアーチャーは斬り掛かる。
その位置取りはスカートの中身が見えてるんですが
履いてるけど恥ずかしいんだぞこっちは
!?
きっつい
対側の刃を体を捻ることで俺へと振り下ろし始めている。
再びセイバーの剣が俺を真っ二つにしようと迫る。アーチャーも
だが、空中に浮いた状態にある俺は恰好の的だ。
の刃を避ける。
仕方ないから軸足も無理やりに地を蹴ることで浮かし、アーチャー
!!
スパッツ
セイバーの斬り下ろしをその手を蹴ることで反らすが、俺の軸足へ
!
いじゃ意味が無いなんてのはまだバラすには早い。
だから、俺は片方を剣ではなく杖に変えた本当の理由を教えること
にした。
アーチャーの方は剣の方のネギ雪を投げることで躱し、もう片方を
﹂
セイバーへと向ける。
﹂
﹁グランツ
﹁
セイバーの頭上に形成された光の矢が降り注ぐが、その前に大きく
飛ぶことで避けられる。
131
!!
でもこのまま真っ二つにされるわけにも、ましてや一回殺したくら
!!
!!
ち、流石に直感Aは伊達じゃねぇか⋮。
!!?
彼女が居た場所には地面が抉られており、かなりの威力があったこ
とが分かる。
それを見てセイバーは目を見開き驚いていた。
いや、これでも以前やらかしてるんで手加減してるんですよ
するが││
チャーには軽く避けられる。
しかも一工程であの威力って何
丁度俺を挟むようにアーチャーとセイバーが居る状態だ。
﹁あいつ魔術も使えるわけ
遠くで凛が叫んでいる。
﹂
砲撃と言ってもそれほどの威力も大きさも射程もないので、アー
アーチャーへ向けて直射型の光系統の砲撃を放つ。
﹁ダム・グランツ
﹂
そんな風にほっとしている俺の背後からアーチャーが近寄ろうと
?
!?
テクニック
﹁あはは、自分でも思うよ﹂
﹁本当に君はでたらめだな﹂
ろうけど⋮。
まぁ、持ってるネギ︵に見えるもの︶の所為でシリアス感も半減だ
何そのムリゲー⋮。
士。しかも狂化は別にあるみたいなことを臭わせていると来た。
長距離、中距離、近距離と、その全ての距離で対応して見せる狂戦
うん、自分でも思うよ。
だがここに来てのあの技。想定が外れて驚かない方がおかしい。
う。もしくはあの威力故に近くでは使えないと踏んだのだろう。
さっきの神槍に関しては、割と溜めが要るのがばれているんだろ
見せた訳だから初見の全員は驚いている。
今さっきまで力任せの攻撃が多かったのに、中距離でも有用な技を
しかし俺の今の法 撃に驚いているのは彼女だけではない。
ろうか⋮。
むしろ威力を落としてるなんて知ったら凜は発狂するんじゃなか
?
確かにチートだ。能力だけで言えば、全サーヴァント以上に破格の
スペックだろうさ。
132
!!
でも中身が中身だし、色々と余計な感情が邪魔をしているせいでそ
のチートも宝の持ち腐れ状態なんだよね。
上手く使えばもっとスマートにこの聖杯戦争を終わらせられるん
だろうけど、少なくとも今は無理なんだよ。
だから、聖杯戦争を無茶苦茶にするけど許してね☆
メギバース
﹂
俺はネギ︵片手杖︶を掲げて宣言する。
﹁こいつは反則だぜ
﹁何ッ
﹁力が⋮
﹂
ぐっ⋮コレは⋮⋮﹂
つまり避けられない。
しかも、これは範囲技。
ディには関係ないが︶相手のHPを吸収することができる技だ。
つまりはこの世界でいうところ魔力がなくなるまで︵このチートボ
これは闇属性のフォトンアーツで、効果は一定時間自身のP.P.
!!!
アーチャーとセイバーが膝を付く。
ちょっと卑怯な気もするけど、今日のところはこの位で終わっとか
ないとね。
あくまでこれは前哨戦。
士郎に聖杯戦争の理不尽さを知ってもらい、決意を一層固めて貰う
ための邂逅に過ぎないんだ。
ま、まぁ、違う理不尽さだとか、イリヤのストレス発散目的だとか、
当初の目的とずれているような気もするが、大丈夫だろう。うん。
最低限の目的は果たしたし、そろそろ帰ろうかとテクニックを切ろ
うとしたら、バタバタバタと何かが倒れるような音が聞こえた。
はて
目の前のアーチャーとセイバーはさすが英霊と言うべきか片膝着
いてるだけだし⋮と思ったところでその更に向こうに目が行き、気づ
133
?
﹁あんた達の生命力を吸収してるんだよ﹂
!?
!?
?
いた。
﹁衛宮⋮くん⋮大丈夫⋮⋮
﹁ぐぅ⋮﹂
﹂
どうやら威力調整はしても範囲指定をミスっていたのかその向こ
うの士郎と凜まで効果範囲に入ってしまっていたようだ。
おかげで魔力量の少ない士郎が虫の息になってしまってる。
俺は慌ててメギバースを切り、ネギを仕舞った。
﹂
﹁なんで⋮私まで⋮⋮﹂
え
﹁イリヤさん
﹁な、なんで⋮私まで攻撃してるのよ
﹂
そんな俺の首もとを、イリヤはガッとつかんでシェイクしだした。
俺はすかさずイリヤのもとへ飛び、イリヤを抱き起した。
!?
しまった⋮。
﹁えっと⋮⋮⋮やっちゃった
﹂
おおぅ⋮、気を失う寸前にめっちゃ睨まれたんだけど⋮。
そう言い残してイリヤは気絶してしまった。
﹁コ、コウジュ⋮退くわよ⋮⋮後で覚えてなさい⋮﹂
けどすぐに、イリヤは力尽きて倒れてくる
!?
いうものを気にしていなかった。
威力ばかり気にしていたが、フレンドリーファイア︵同士討ち︶と
?
ゲーム内でも暴走獣化した時くらいしか気にする必要なかったし、
!!!
やばいどうしよう、俺のゲーム脳のバカ野郎
!!
完全に意識の外だった
うおおおおお
!!!
134
?
なんでイリヤさんが倒れてるんでせうか
!?
?
﹂
﹁ひょっとして君は凛以上のウッカリなのか
﹁それって⋮私に喧嘩うってない⋮
﹁私はあんなのに敗れたのか⋮⋮﹂
ぬああああああああああ
わりされてしまった。
べ、別に悲しくなんかないからな
﹂
っていうか、そのウッカリ認定はやめてくれ
ホントにウッカリ属性が付きそうだから
﹂
﹁うぅ、きょ、今日のところはこれ位にしといてやる
思うなよ
月夜ばかりと
!!
!!
!?
アーチャーにウッカリ認定された上に、セイバーにはあんなの呼ば
?
?
!!
言っておくがこれは戦略的撤退だからな
!!!!
135
!!!!??
俺はイリヤを抱えて屋敷に向かってその場を飛び去った。
!!!!
﹂
﹃stage13:O☆SHI☆O☆KI﹄
﹁俺の⋮部屋⋮⋮
目を覚ました俺の視界に映ったのは、見慣れた自室の屋根だった。
どうやら俺は布団の上に寝かされているようで、掛け布団を除け、
体を起こす。
﹁うあ、なんだこれ・・・﹂
身体がやけに重い。
布団を除けて体を起こすという、ただそれだけのことがとてつもな
く億劫だ。
なんとか身体を起こし、現状を理解するために回らない頭で考えだ
す。
入ってくる光から考えて、少なくとも夜は明けているのだろう。
﹂
しかし、いくら考えても記憶が飛んでいてよくわからない。
﹁昨日⋮、俺はあれから⋮どうなったんだ⋮
?
ているようなので何か口にしないと辛い。
なんだか今日は居間がやけに遠く感じる⋮。
﹂
病み上がりのような脱力感が付き纏うが、どうも身体が栄養を欲し
立ち上がる。
このまま寝ていても答えが出るわけではないので、居間に行くため
﹁どこかが痛い訳じゃないけど⋮ホントにダルいな⋮﹂
駄目だ思い出せない。
何か魔術を使って⋮そこから⋮⋮、そこからどうなったんだっけ
コウジュがネギを出した辺りからの記憶があやふやだ。
?
なんでここに
!?
﹁おはよう、衛宮くん。もうお昼だけど﹂
﹁ああ、おはよう⋮って遠坂
!?
136
?
なんとか居間に到着し障子扉を開けて中に入ると、何故か先客がい
た。
その先客はまぁ遠坂な訳だが、自分の家かの様に湯呑でお茶を飲み
つつ寛いでいる。
と言うかほんとなんでここに居るのだろう
﹁あのねぇ⋮あなた昨日の自分がどんな状態だったか覚えてないの
一人で帰ることができる状態じゃなかったのよあなた達﹂
どんな状態って⋮、いやどんな状態だったんだ
﹂
しかしそうなると遠坂はどうだったんだろうか
﹁遠坂は⋮、大丈夫だったのか
?
良くわからないが、その所為で気怠いのか。多少合点がいった。
生命力が
ギリギリまでね﹂
﹁簡単に言えば、生命力だけが極端に引っこ抜かれた状態だったのよ。
そんな俺を見抜いたのか遠坂は溜息一つ、説明してくれた。
から俺はここに来たんだった。
少し考えるが、首をかしげるしかない。というか考えても仕方ない
?
?
?
魔術耐性がほとんど無いから極端にダメージがあったのよ﹂
悪い
﹂
というか話し方が⋮⋮﹂
⋮こっちが素なのよ
﹁へ、へっぽこ
﹁っ
うん﹂
!?
しょ
﹁倒れはしたけど衛宮君ほどじゃないわ。あなたは素人のへっぽこで
?
治ってたし⋮⋮﹂
後半の声が小さくて聞こえなかったんだが、何だったんだ
さておき、遠坂は無事だったわけだ。それならよかった。
いや、待て。
?
わ け よ。⋮⋮ 実 際 に は 治 療 は 必 要 な か っ た け ど ね。何 故 か 勝 手 に
﹁コホン、そんなわけで私はあなたを治療するためにここに来たって
れない遠坂を見ることができて得した気分だ。
とりあえず俺の中で遠坂像が崩れたのは確かだけど、学校では見ら
何故か怒られた。何でさ⋮。
?
137
?
﹁悪くは無いと思うぞ⋮
!
!?
?
!!
遠坂が俺の家に当たり前のように居ることに驚きすぎて気づけて
いなかったが、この場にはセイバーが居ない。
セイバーは
﹂
そういえばさっきあなた達って言ってたような⋮。
﹁それであの後どうなったんだ
い様だったが、実は危ない状態だったんじゃないか
﹁消耗
﹂
はしてるみたいだけどね﹂
﹁落ち着きなさい。セイバーは無事よ。ただ、昨日のことで大分消耗
なんとかしないと。
怪我人の後ろに居るだけなんてのは駄目だ。
セイバーが強いのは分かったけど、女の子に守ってもらうどころか
いや、ともかく今はセイバーだ。
はずなのに⋮。
まったく、俺は一体何をしてるんだ⋮。正義の味方になると誓った
てきて気を失ったようで⋮⋮。
駆け寄ろうとしたら遠坂に止められて、そうこうする内にネギが出
?
コウジュ自体はアーチャーの攻撃に気を取られたのか気づいてな
えたんだ。
コウジュの攻撃を何度か防いだ後、胸の辺りを押さえているのが見
ことは戦いの中で気づくことができた。
治ったと思っていたランサーから受けた槍傷、それが治っていない
!?
しかし消耗
のに関係するのか
だったみたいだけど、アーチャーやセイバーは英霊、つまり現界を維
持しているのは魔力だから生命力の代わりとして魔力が間接的に吸
収されたみたいなのよ。だから、あなたからの魔力供給を得られない
セイバーはほほとんど回復していないわけ。
はあ、なんでこんなのがクラス中最強と言われるセイバーのサー
138
!?
﹁バ ー サ ー カ ー が 最 後 に 使 っ た 魔 術 は 生 命 力 を 吸 収 す る と い う も の
?
ひょっとしてさっき教えてくれた、俺が生命力を抜かれていたって
?
セイバーも無事なのか。よかった⋮。
?
ヴ ァ ン ト を 召 喚 し ち ゃ う ん だ か ⋮。私 な ら 回 復 な ん て す ぐ な の に
⋮⋮﹂
﹁ぐ⋮、確かに俺は回復とかの魔術は全然だけどそこまで言わなくて
もいいじゃないか﹂
﹁⋮ ご め ん な さ い。言 い 過 ぎ た わ。私 も 動 揺 し て る み た い。昨 日 の
バーサーカーなんてクラスが似合わない女の子に見えた
バーサーカーは規格外すぎた﹂
﹁そうか
けど⋮。まあ、英霊なだけあって強かったのは確かだけどな﹂
ネギ使ってたけど⋮。
でも不思議なことに、確かにあれはネギだったはずなのに、何故だ
かあれが刀剣の類いだと理解できた。
コウジュがルゥカと呼んでいたあの禍々しい武器と似たような雰
囲気を確かに持っていた。
あの時アーチャーがあれを見て、宝具と、そう確かに言っていたは
ずだ。
宝具って確か、あのランサーの槍や、セイバーの見えない剣とかも
そうなんだよな
ランサーの槍の真名を聞いて正体を見破ったように。
となると、アレを宝具として使うコウジュって何なのだろう
攻撃手段
﹁よく考えてみなさい。昨日のあの子が使ってた攻撃手段﹂
口を開いた。
考え込んでしまっていた俺を見て、再びため息をつきながら遠坂が
﹁お、おう﹂
﹁はぁ⋮。あのね衛宮君﹂
宝具って一体何なんだ⋮。
けそうだ。
くそ、真剣に考えたいのに思考がネギに侵食されてイマイチ脳が蕩
?
遠坂が昨日、宝具とはその英雄の代名詞だと言ってた。セイバーが
?
最初は、両端に湾曲した刃がついた妙に生物の骨格を思わせる武器
えっと、確か│││。
?
139
?
でセイバーと接近戦をやってたっけ
﹁ど う 思 い 出 し た だ っ た ら わ か る は ず よ。あ の 子 は、バ ー サ ー
抜けたのは覚えてる。
次のやつはあまり覚えてないけど結構離れてたのに一気に何かが
ろの壁を簡単に貫通していた。
光を落とす方はクレーターが出来てたし、レーザーみたいなのは後
でも使ってた魔術は半端がないものだったな。
りあれもネギだったよな
魔術の媒体みたいに使ってたし別のネギとか言ってけど⋮、やっぱ
で、次もネギ。
それが宝具⋮。
何故ネギ。でも剣。しかしどうあってもネギ。
その次が、ネギか⋮。
るのにはビックリした。
ら1工程⋮でいいのか ともかく宣言だけであれだけの威力があ
そ れ か ら 次 は ⋮ あ あ そ う だ。槍 だ。紅 い 炎 で で き た 槍。カ ー ド か
?
バーとほぼ互角。遠距離からの不意討ちの攻撃もまったく気にも止
めず障壁みたいなのでレジスト。そして、一工程であの威力を持った
反撃の炎槍、光を落とすのも、撃つのも、生命力を吸収するのもそう
ね。
しかも特にひどいのがラストの魔術
出鱈目にも程があるわよ
﹂
吸収ってことは、こっちがダメージを受
ける一方で相手は回復するのよ
!!
生命力を吸収って何よ
!!
落ち着きを取り戻して、目の前のお茶を飲む遠坂。
﹁ふぅ⋮ごめんなさい。あなたに文句を言っても仕方ないわよね﹂
彼女を敵として認識できていないんだよな。 でも俺はその前に町でコウジュを見ているからかイマイチ真剣に
確かに改めて言われてみると出鱈目だと俺も思う。
捲し立てる遠坂。
話してる内に怒りのボルテージが上がったのか、肩で息をしながら
!?
!?
140
?
?
カーは弱点が見つからない。近距離もケガをしてるとはいえ、セイ
?
その姿はかなり哀愁を漂わせている。
﹁いや、俺に言うことで楽になったんなら良いけど﹂
﹁そう、ありがとう﹂
﹁ああ﹂
間が、間が辛い。
何とか励ましてあげたいが何を話せばいいんだ。
同級生がマドンナで魔術師で敵だけどなんか親切でまったく訳が
分からない。
ああでも、いま目の前に居る遠坂の方が自然って感じがして俺は好
きだな。
うん、こっちの方が良い。
﹁俺は、10年前の大火災みたいになるようなら防ぎたい⋮。ただそ
れだけだ。聖杯なんてものに興味は無い﹂
あの地獄のような大火災がまた起きるかもしれない。そんなこと
は到底許されない。許しちゃいけない。
救われたい者も、救いたい者も、ただ燃えて朽ちていった。
俺はただ運が良かった。たまたま爺さんに見つけて貰えたから助
かった。
だから、これは俺の義務だ。
﹁そう言うと思ったわ。言っておくけどあなたその内セイバーに殺さ
れるわよ
聖杯戦争で召喚される英霊たちにも叶えたい願いがあって聖杯を
必要としてる、だから私たちマスターに従ってくれるのよ。あのセイ
141
何を言えばいいか考えている内に頭の中で脱線していると、遠坂が
?
コトンと湯呑を置きこちらを向く。
﹂
少しビクッとしてしまったが気付かれてないよな⋮
﹂
﹁ところで、衛宮君はこれからどうするつもり
﹁これから
?
﹁えぇ、聖杯戦争にどうかかわっていくつもりなのかってことよ﹂
?
?
バーだって例外ではないわ﹂
﹁セイバーにも、叶えたい願いが⋮⋮﹂
セイバーの願いか。
死んでからもなお叶えたい事って一体何なのだろうか
﹁あ、あぁ。それがいったい⋮﹂
﹁言っておくけど、前代未聞よ
﹁けど、あんな殺し合いを黙ってみてるなんて⋮
うとするなんて⋮﹂
﹂
?
﹂
マスターがサーヴァントをかばお
闘時にあなたセイバーが危なくなった時飛び込もうとしたわよね
﹁あともう一つ聞きたいことがあるのよ。昨日のバーサーカーとの戦
セイバーが回復したら、少し話をしてみないとな。
にセイバーとはゆっくりと話が出来ていない。
昨日の衝撃的な出会いからそれなりの時間が経っているけど、未だ
?
﹂
殺し合いは認められない
﹂
﹁衛宮君、あなたがやられた時点でセイバーも消えるっていうことを
分かってる
﹁それは⋮﹂
﹁それで、どうするの
﹁そう﹂
呆れさせてしまっただろうか
遠坂が突然席を立った。帰るのか、戸へと向かう。
?
わよね
だから英霊たちは魔力があればある程本来の力を発揮で
﹁最後に忠告、英霊たちを現界させているのは魔力ってさっき言った
しかし、開ける前に立ち止まりこちらへと振り返った。
?
﹂
襲わせる奴もいるわ﹂
﹁なんでそんな⋮
係な人が死んでいく可能性だってあるし、相手は強くなっていく一方
だから、殺し合いが認められないなんて悠長な事を言ってると無関
霊にね。
﹁魔術師じゃ無くても、人の魂は力を内包してるから喰わせるのよ、英
!!?
142
!
?
﹁あぁ、おれはやっぱり殺し合いは認められない﹂
?
?
きるの。マスターによってはそのためにサーバントに無差別に人を
?
よ。
大災害は止めたい、けど、殺し合いは認められない。どう動くにし
てもその矛盾を早くどうにかしないと真っ先に殺されるわよ⋮﹂
そう言い残して、今度こそ遠坂は帰っていった。
分かってる。
確かに矛盾しているんだろう。
大火災みたいなことを起こしたくないから、聖杯戦争に参加する。
けど、殺し合いは認められない。
でも俺は誰にも傷ついてほしくない。死んでほしくないんだ。
あの時、俺が救われた時、救った側の爺さんが何よりも救われた顔
をしていた。
俺はあの姿に憧れた。そして爺さんに誓ったんだ。
だから俺は、あんな理不尽な事を起こそうというやつがいるなら、
143
絶対に許してはおけない。
﹂
止めてみせる。
◆◆◆
﹁⋮⋮ハッ
あ、正座待機してたのはせめてもの誠意を現すためだ。寝ちゃった
るってのは罪悪感あるし。
いやだって、女の子の部屋に、しかもその主は意識が無いのに居座
座待機した。
回復をしたとはいえ気を失ったままだったので、俺は自室に戻り正
回復させた。
敷へと連れ、ベッドに寝かせた後にレスタ︵回復系光法撃︶を使って
いやはや、倒れてしまったイリヤ︵俺が原因だけど︶をすぐさま屋
おっと、寝てたみたいだ。
!?
けどさ⋮。
﹁ふわぁ∼、正座しながら寝るとか俺も案外器用になったみたいだな
⋮﹂
正座のまま寝たからか、身体のあちこちが痛い。
肩も凝っているのか重たいのでぐるぐると回す。
その肩へポンと何かが置かれた。
ギギギと、俺は後ろへ振り向く。
そこには、白い鬼が居た。
﹁私も驚いたわ。色んな意味で﹂
とても良い笑顔で白い鬼、もといイリヤはそう言った。
や、やべぇ、鳥肌が止まらねぇ。
そして動けない。
というかいつから
足が痺れてとかじゃなく、蛇に睨まれた蛙のような意味でだ。
﹂
﹁イ、イリヤさん⋮ 目覚めてたのでせうか
そこに⋮
?
少しびっくりしたわ﹂
!!!
いえ、寝ていたことは良い
?
止まらない
!
目が笑ってないですよー⋮
﹂
?
出来るこのボディなのに、震えが
﹁マイマスター⋮
!
アインツベルンの城ですら半袖でも過ごせたのに、氷点下程度無視
へへ、震えが止まらねぇ⋮。
い。
イリヤの口は笑みの形を取ってはいるが、変わらず目が笑っていな
顔を上げてイリヤを見る。
わ。そんなことより昨日のことよ⋮﹂
﹁まったくどういうつもりなのかしら
頭を地に着けるように土下座をする。
﹁ご、ごめんなさいっ
﹂
を覗いたんだけど、正座をして反省をしていると思ったのに寝ていて
をしているのかと見に来たのよ。ノックをしても返事がないから中
﹁目覚めたのはついさっきよ。そして私がこうなった原因はどこで何
?
何とかこの空気を払拭しようとお道化てみせるが、イリヤの笑みが
?
144
?
深くなるだけだった。
おかしいわね、あなたへの罰を考えていてとても気分は高
あ、オワタ⋮。
﹁そう
揚しているのに⋮﹂
ど、どSだ
か⋮﹂
﹂
﹁えっと、昨日のは⋮﹂
﹁昨日のは
﹁ごめんなさいテンションが上がって術の制御に失敗しました
再び土下座をして自分の非を認める。
﹂
﹁まずは何で昨日の魔術が私にまで影響があったのかを聞きましょう
どSがここにいる
!!
﹁さて、何がいいかしら
あ、そうだわ﹂
俺、無事に明日を迎えられたら、あのたい焼き屋さん行くんだ⋮。
とりあえず分かっているのは、ただではすまないことだ。
どんな罰を下されるんだろう。
部屋の中が氷点下なだけじゃ無くブリザードまで幻視できる。
や、やばい⋮。
﹁そう⋮﹂
誤魔化しなんてした日にはどうなるか分かったものじゃない。
!!
?
尾が見えてる。
何されるんだろ俺。
﹁コウジュ、あなたの罰は﹃女らしくすること﹄よ﹂
﹁はは、何を言われるかと思えばそんなこと⋮って、なんだとぉ
らしく
﹂
!!?
こ、怖いんですけど。
﹁くすくす、そんなに嫌なんだぁ⋮﹂
そう訴えかけた瞬間、ニヤァッと口が大きく三日月のようになる。
イリヤは俺に死ねと
女
あれ、おかしいな。イリヤの背中やら頭やらに小悪魔的な羽とか尻
どうやら決まったようだ。
?
!!?
145
!!
?
!?
そうか、これがよくテンプレ的な言い方をされる笑みとは本来威嚇
するためのものというやつか
んですが
というかこの幼女、ほんと幼女がしちゃいけない笑みを浮かべてる
!
呪だ。
!?
さえあれば良いから、何かあったら遠慮なく令呪を使えって﹂
いけないわんこに躾をするのってとっても大事だと思うの
﹁うぃ、言いましたっす。はい。でもこんなことに使うためでは
﹁そう
!!
﹁待て。早まるんじゃない。まだ慌てる時間じゃない そうだ、話
よ﹂
﹂
﹁あなた言ったわよね。あなたの作戦では私は最低限のマスター権限
﹁イリヤさん
﹂
同時にイリヤの全身に薄く刻印のようなものが浮かび上がる。令
突然部屋に魔力が満ちる。
﹁仕方がないわね。手伝ってあげるわ﹂
!?
!
﹂
令呪のもとに命じるわ
﹂
をしよう。そうすればイリヤなら分かってくれるはず│││﹂ ﹁バーサーカー
﹁ぐ⋮
私が許可するまで﹃女の子らしく﹄しなさい
!
く、口調が
﹁な、何なのですかこの口調は
﹂
というかまるでひぐらしの梨花ちゃまの口調なのですよ
令呪のせいなのか考えまで変化しているのですよ
本当にこの口調は何なのですか
﹂
!? !?
いやにぱー☆とかしませんけども
!!
!!?
!?
!?
でどうにかしてほしいのですよ
!?
というかイリヤは吹き出してない
﹁やっと収まったのですよ⋮⋮って、え
熱を感じさせたそれは徐々に治まっていき、やがて落ち着いた。
俺の中で何かがずれて、切り替わる。
それは強制的に俺を圧迫する。
ドクンと、ラインを通して何かが流れてきた。
!!
!
!?
146
?
!?
﹁クスクス、えらく変わったわね。とても似合ってるわよ
うん、とっても有意義な使い方だわ﹂
これ有意義なのですか
﹂
このおにちくー
﹂
﹁確かに作戦上、令呪の一つや二つ使っても⋮ってちょっと待ってく
ださい
有意義
﹂
!
けど止まらずに、私は城を後にした。
後ろでイリヤの声がかすかに聞こえた。
に﹂
﹁何かあったら念話するわね。あとディナーまでには帰ってくるよう
よー
こ ん な 家︵城︶に 居 ら れ る か 私 は 出 て 行 か せ て も ら う の で す
窓を開けて城を飛び出す。
﹁月夜ばかりと思うなよーなのですよ
﹁つ
﹁つ⋮﹂
満面の笑顔で返された。
﹁えぇ、とぉーっても有意義よ﹂
!?
!!
グレてやるのですよー
!!!!
147
?
!!!
!!?
!!!
?
!!!
﹃stage14:幼女逃走中﹄
どうもコウジュなのです。
令呪のせいで女の子を強制されているコウジュなのですよ。
くっ、自分ではいつもどうり話しているつもりなのに勝手に変換さ
れてしまうのです⋮。
これはもう、令呪という名の通り呪いなのですよ。
一応、自分で解除できないか試してみたのですが、分かったのは今
の私では解除は不可能ということなのですよ。
もちろん城を出てすぐ、森の中で解除をしようと状態異常回復の
フォトンアーツやアイテムを使ったのです。
けど⋮、けどすぐに呪い状態に戻ってしまうのですよ。
令呪はマスターが自身のサーヴァントの主である証であると同時
に、たった3度だけ可能な絶対命令権。
だからと言って、見習いとはいえ神様なチートパワーが令呪に負け
るだなんて思えなかったので、次は能力の方を使うことにしたのです
よ。
結果は同じように一瞬解除できてもすぐに呪い状態へ戻ってしま
うのです⋮⋮。
そこでふと思い出したのは携帯電話︵アカシックレコード︶、ついつ
い色々と癪に障るので使うのを控えていたのですが、今となってはそ
んな甘いことは言ってられません。
取り出して、使用方法を思い出す。
今回はヘルプを見るわけではないから、補足として言っていた〝力
を流し込む〟というものを試す。
﹁とりあえず⋮要れるのですよ⋮﹂
力の使い方はそれなりに練習したから割と容易なのです。
148
﹂
サブカルチャーの知識があるからイメージがしやすいというのも
それなりにあるでしょう。
﹁むむむ⋮﹂
画面を見るとアンテナが立ったのです。
しかし次はどうすれば
﹁あ、ネット検索みたいなのはできるのですかね
ピ コ ピ コ と あ ち こ ち 調 べ て い る と ど う や ら 普 通 の 携 帯 の よ う に
ネット接続できるようで、それがアカシックレコードにつながってい
るようなのです。
操作してそのページを呼び出す。
そこに表示されていたのは││。
﹁Goog〇e検索⋮だと⋮、なのです﹂
ちょっとしたネタにも〝なのです〟が付くとかこの自動変換優秀
過ぎなのですよ。
正直邪魔くさいのです。
これでは梨香ちゃまやら某駆逐艦ちゃんとキャラ被るじゃないで
すか。
って
この口調は可愛い子がやるから良いのであって、中身男の私がやっ
てもキモイだけなのですよ。
はやく戻らないと︵使命感
﹁と、とりあえず検索項目は私の状態⋮で、でるのでしょうか
うわ、まじで出たのです⋮。
を使ってもらう必要がある。つまりドMですね﹄
るには自身の能力を現在より展開させるか、マスター本人に再度令呪
要因である。現状能力は暴発に近い状態であるため、解呪を成功させ
対命令権というイメージを持っていることも強制力を持たせている
てしまっている。また、コウジュ本人が令呪とはサーヴァントへの絶
自身に令呪からの命をかけている状態のため解呪しても、自分で呪っ
体に少女らしくあれという意識誘導が行われており、コウジュ自身が
何々、﹃現在令呪によりお仕置き中。令呪の効果によりコウジュ自
?
149
?
?
って、ドMじゃないのですよ
﹂
なんでGoog〇e先生に馬鹿にされているのですか
と、また地面に携帯を叩き付ける。
これは女の意地なのです
当然イリヤに解呪してもらうという選択肢はない。
⋮﹂
﹁ははは⋮、レベルアップするまではこのままというわけなのですか
つまり心のどこかで不可能であると思っているのです。
しかも私はこの能力を扱いきれていないのです。
から解呪は不可能ということなのですか。
だから、私の心が少女であるようにと意識誘導されてしまっている
響される能力。
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄は自分の心の在り様で効果が影
それにしてもまさか解呪できないのが自分の所為だとは⋮。
える。
大人しく、仕様がなく、携帯を仕舞ってこれからのことについて考
ね。
捨てたいのは山々なのですが、さすがにそうもいかないですから
腹立たしいのですが、現状が分かったのは確かなのです。
ふぅふぅと肩で息をしているのを落ち着かせ、携帯を拾いにいく。
相変わらず腹立たしい。
に見せている。
しかし、地面を抉るだけで形態は無駄に新品同様の光沢を変わらず
バシっ
のですか
本家本元とは違うのでしょうけど、何故にドM扱いされねばならん
!?
!?
いい加減にしやがれなのですこの呪い
⋮⋮ちゃうのです、男の意地なのです
ぬぉぉぉぉぉ
!!!
!!
!
負けないのですよ
!
少年マンガにありきたりな展開ですが、それもまた一つの真理。
私の敵は私自身。
ともかく、レベルアップしてこの補正を解呪するのです。
!!
150
!! !?
そう心の中で誓った瞬間クゥ⋮、と音が鳴る。
音源は自身のお腹なのです。
決意をしたは良いですが、気持ちに一区切りついたからかお腹が空
いてしまいました。
昨日から何も食べてないから余計なのですよ。
とりあえず町に行って何か食べましょうか。
もう慣れたもので、樹の上を飛び跳ねながら街へと至る。
商店街へとたどり着いた私はとぼとぼと歩く。
何やらまた視線が⋮。
呟くんじゃない
キョロキョロと周囲を見回し、人が居ないことを確認。
今です
!!
ぬ
写メを撮るななのですよ
服が初期のコスプレ系のままなのを忘れていたのですよ
コラ
これはコスプレではありません
急いで、路地裏へと走る。
!!
恥ずかしいですが、ここで着替えるしかないのですよね⋮。 !!
あ
!! ?
知っ
?
ンズにも両足を通しホックを留め、チャックを上げる。
そこでタイミングよく落ちてきたセーターを被るように着て、ジー
たことではない。
るようにスパッツも脱いでしまう。シュバルツシルト領域
腰ひもをほどき、スカートの留め金を外し脱ぎ去る。そのまま流れ
肌が触れブルリと震えてしまうが躊躇している暇は無い。
インナーシャツも脱ぎ去り、下着はまだあるとはいえ冷えた外気に
まずは胸元の留め金を外し、両袖を外す。
そして服。
まずは帽子を外し収納。
複雑だ。
すぐさま手を自らの服に手を掛け、脱ぎ捨てる。ただし、この服は
げる。
アイテムボックスからリズに貰った上下を瞬時に取り出し、上へ投
!
151
!!
!
最後に脱ぎ散らかしたものを回収し、アイテムボックスへ。同時に
無駄にチート性能を持つこの身体の勝利なの
周囲の再度警戒。人気は無し。
この間実に3秒
です。
ふぅ、ゲームにある服というのは実際にあるとほんと不必要に複雑
なのですよ。
見目の問題であるのは分かっているのですが、服というものの命題
を考えさせるのです。いや面倒なので考えませんけどね。
ともかく着替え終了。
これで街中を歩いても不振に思われはしないでしょう。
﹁はぁ、今日は厄日なのですよ⋮﹂
えらく入り組んだ路地裏を歩く。
疲れた精神を、仄暗い路地の気配が余計に陰鬱にさせる。
こんな所はさっさと離れるべきなのですよ。
テクテクと、歩いていくが次第に冷や汗が出てくる。
あれ、こんな道を通ったですかね
ているような⋮。
!?
前、帰るのもなんですし⋮むぅ
﹂
﹁そ、それにしても⋮今日はどこに泊まりましょうか⋮。出てきた手
はっ、これも少女補正のせいなのですか
︵※違います︶
自分では大通りに出ようと思っているのですが、どんどん奥に行っ
?
﹁だ、大丈夫なのですか
いや、あれって⋮⋮人
ね。
ある。その服が明るい色の為かこの暗い路地で目についたようです
そちらへ目をやると、隅にあるゴミ山の中にマネキンみたいなのが
と、視界の端に突然明るい色の何かが移る。
違うことを考えることで迷っていることを誤魔化そうとしている
?
ない。
﹂
慌てて近寄り、倒れている女性を抱きかかえて声を掛けるも反応は
﹁⋮⋮﹂
!? !?
152
!
脈⋮はあるですね。
呼吸も、浅くはあるがしているようです。
しかし開かれた目には力が無く、何かを吸い出されたような⋮⋮。
﹂
﹁返事が無いただのしかばn⋮ってネタをしている場合じゃないので
すよ
心臓マッサージ
えっと、こういう時は何をすれば
人工呼吸
ような⋮⋮﹂
はて、誰でしょう⋮
原作キャラ
﹂
﹁って、だから早く治療しないと
ネ
﹂
えっとえっと、レスタ
これなら、死んでない限りは大丈夫なはず
﹁う⋮あ⋮⋮。私⋮一体⋮⋮
よかった起きたみたいなのですよ
!
慎二と紫の、うぐ⋮﹂
レジェ
ここは路地裏なのです、あなたはここに倒れ
?
あいつらは
ていたのですよ﹂
﹁倒れ⋮は
!?
﹁大丈夫なのですか
目の前には今尚弱々しい彼女が居るのです。
合ではない。
心の中で何か黒いものが芽生えるが、そんなことを気にしている場
ああ、なるほど。サーヴァントですか。
とひどくしたように⋮⋮。
まるで、私がメギバースによって力を抜かれた士郎達の状態をもっ
しかし、未だ活力というべきものが弱い。
!!
?
!!
?
﹁あ、あれ、この服って穂群原学園の⋮。というかこの人どこかで見た
そこでふと気付いた。
いやいやいや、どちらも必要ないですね。
!?
!!
?
改めて声を掛けるが、何かに怯えるように私に抱き付きながら周囲
!
153
!?
!?
!!
とりあえず回復+状態異常回復を使ってみる。
!!
を警戒する彼女。
しかし、今回復した分だけでは何かが足りないのか、すぐに頭を押
さえてふらつく。
﹂
﹁急に立ってはだめなのですよ。体力は回復できても精神的な疲れは
いや、それより君は⋮
まだ残っているはずなのです﹂
﹁回復
のですよ﹂
﹁魔法使い⋮
﹂
﹁私ですか、私は通りすがりのかめん⋮じゃなくて、あー、魔法使いな
?
違いではないですし良いですよね
﹂
?
慎二って、間桐の
な女に⋮﹂
﹁慎二
﹂
﹁ええっと⋮襲われたんだ。慎二っていう同級生と、あと、紫の髪の変
﹁それよりあなたはどうしてこんな所に
私がお道化て見せれば、力なく笑いながら彼女はそう返した。
﹁ハハ⋮。今更魔法使いが出ても、おかしくは無いか⋮﹂
?
その後に出たのが魔法使いという単語もあれですけど、あながち間
様式美としてネタを言いそうになったのですが修正します。
ついつい、怯えた彼女をどうにかしたいという思いと、あとはまぁ
少し訝しんだような眼でこちらを見てくるのですよ。
?
﹁私
私の名前は美綴綾子だよ﹂
なのです﹂
﹁そういえばあなたの名前を聞いていなかったのです。私はコウジュ
穂群原学園の生徒でもあるし、ひょっとしてこの方は⋮。
そしてこの色々抜かれた後っぽい状況。
間桐慎二。紫の髪の女。このタイミングで路地裏。
?
154
?
?
おおぅ⋮、やっぱ姉御っすか。
?
﹃stage15:やっちゃう
私は今、病院に居る。
バーサーカー
ほんのさっきまでは路地裏に居た⋮らしい。
らしいというのは、あまり記憶が無いからだ。
競技が違うんじゃないか
クを繰り出しているのが気になる。
﹄
ただ、行け、そこだという声にあわせて、ストレートパンチやフッ
個室だから良いけど、かなり熱い応援の仕方だ。 というか、室内のテレビでサッカーの中継を見ている。
る。
日入院するようにとのことで宛がわれた部屋にコウジュと2人で居
そして今、外傷はないが精神的に衰弱が見られる私に、念のため一
隊員から事件の可能性が高いから一緒にきてほしいと言われていた。
コウジュは救急車が着いたからどこかに行こうとしていだが、救急
よく覚えていない︶をした後、救急車を呼んでくれたそうだ。
コウジュは私を発見してすぐに、治療︵意識が朦朧としていたから
えてくれた。
が発見してくれたらしく、路地裏の更に奥の方で私は倒れていたと教
い、だけど着ているのは白いセーターにジーンズ姿なコウジュ。彼女
今隣で居る少女、きれいなプラチナブロンドに紅い眼の自称魔法使
!!
のかを考える。
話を聞くと、私は運良く家に帰れなかった次の日に発見されたらし
い。
だから私が覚えてる記憶は昨日のものということ。
昨日の私も普段と別段変わり無い生活を送っていた。
いつも通りに朝から自分が部長をつとめる弓道部の朝練をし、学校
が始まり授業をうける。
確か、珍しく衛宮が休んでるなと考えたっけ。
155
!
そんなコウジュをぼーっとみながら、どうして私がこうなっている
?
そういえば、遠坂も休んでたな。
真面目と優等生が同時に突然休む⋮⋮。いや、考えすぎだな。
そしていつも通りに学校が終われば再びの部活。
やがてその部活も終わって、片付けをしていたらあいつが話しかけ
てきた。
間桐慎二。
何かと問題を起こすやつで、この間なんか新入部員をいびったりし
ていたいけすかないやつだ。
妹の桜とは性格が天と地ほども違う。もちろん桜がいい方だから
な
ともかく、その慎二が話しかけてきたんだ。
最近何かと迷惑を掛けたから、何か奢る⋮と。
あまりにも怪しい誘いにジト目になった私は何も悪くないはずだ。
それでも、私は奢らせることにした。
弓道部といえども体力は結構使うから、部活が終わってすぐはかな
りお腹が空いていたりする。
食い意地が張ってるとか思った奴は前に出ろ。撃ち抜いてやる。
コホン⋮。
それでまぁ、奢らせることが決まったから慎二と一緒に町に出た。
本当に怪しかったんだが、最近は物騒だからって部活も早く終わっ
てたからまだ辺りは明るいし変なこともできないだろうってタカを
くくってたんだ。
それで、普段から軽薄な行動が多いこともあるからだろうが中々に
良い店へと案内してくれた。勿論色々奢らせたとも。
問題はその帰りだ。
逢魔が時。夜と夕方が混じったあやふやな時間。
歩いていたら、横からトンっと慎二が押してきて私は路地裏に入っ
てしまった。
もちろんすぐ戻ろうとした。
けど、大通りから軽く押されただけなのに、すでに私は路地裏のさ
らに奥、人気などまったくない場所まで移動していた。
156
?
ケラケラ笑う慎二がまだそこに居たから、よく分からないがこいつ
の仕業だろうと問い詰めようとしたんだが、とても長い紫髪の目隠し
をした女が現れた。
手には杭のような短剣を鎖でつないだ明らかに人を害するのが目
的の武器を持っている。
すぐに私は走って逃げた。
幸いにも、この辺りの路地裏はそこまで大通りまでの距離があるわ
けでもないし、陸上部には負けるが走りもそれなりに自信がある。
けど、どれだけ走っても、出口が見えるたびに紫の髪の女は絶対に
出口の手前に居る。クスクスと笑いながら私を追いかけてくる。
完全に篭の鳥状態だった。
走って、走って、でもすぐに追い込まれて⋮⋮。
そして、最終的には首に噛みつかれて何かが一気に抜けていく感覚
と共に私の意識は途絶えた。
﹁もう大丈夫なのですよ⋮﹂
コウジュがいつのまにか私を撫でていた。
なんで、と聞く必要はなかった。私は震えていたんだ。
ははは、友達から男まさりだって言われる私がだ。
でも、不思議と落ち着く。
震えは気づけば止まっていた。
◆◆◆
あの、思わず撫でちまったんですけどね⋮。
157
この人お持ち帰りして良い
めちゃくちゃ可愛いのですよ
?
ているといった感じなのですよ。
こ、これがギャップ萌えというものなのですね
ゲフンゲフン⋮。
あ、綾子、恐ろしい子
あ、ご存知ですか
病院に行くと血圧が上がるのは白衣症候群と
というか病院に居るとドキドキするので離れたいのです。
そろお暇したいのですよ。
第一発見者ではあるけど、すべてを話すわけにはいかないのでそろ
というか、いつになったら私は帰れるのですかね。
︵ry
呼び方だけであそこまでダメージを受けるとは⋮⋮綾子、恐ろし
したのです。
綾子は最初、コウジュちゃんと呼んできたのですがそれだけは阻止
欲しい⋮っていう風な流れなのです。
普通に話をしてたらそれなりに仲良くなって、お互いがそう呼んで
特段何かがあったわけではないのですけどね。
ああ、そういえばお互いをコウジュ綾子で呼ぶようになりました。
!
だからと言って撫でられるのが嫌なわけではなく嬉しそうにはし
を赤くしているのです。
子は、ちょっとうつむいて、撫でられるのが恥ずかしいのか微妙に頬
原作だと姉御肌な感じだったけど、今目の前で私に撫でられてる綾
持ちが⋮。
いや、不謹慎だとは思うんですけど、こう心の中からもどかしい気
?
お医者さんに何か言われるかもって思ってしまうせいで血圧が上
私は捕まったら解剖されそうなのでドキドキしているので
がるそうですね。
私
﹁あのさコウジュ、最初に会った時、魔法使いとか言ってたけど本当
158
!!
か白衣高血圧とか言うらしいです。
?
す。ほら、実質UMAですから。
?
﹂
私がどうやって抜け出すか唸っていると、綾子がそう聞いてきた。
その表情は何をどうすればいいのかわからない迷子の小犬みたい
なのです。
ふむ、すべてを話すわけにはいかないですが、当事者である綾子に
はある程度話した方が良いですかね
﹁え
﹂
ね。あ、ウィッチじゃなくてウィザードでよろしくお願いします
﹂
﹁一応、マジなのです。厳密には魔法っぽいのをを使える⋮ですけど
よ。
ではないですし、もう関わってしまった以上、どうにかしたいのです
さすがにこのまま放置して、また襲われては後味が悪いどころの話
?
?
能を可能にするという意味で。
自分の能力に振り回されてますけどね。現在進行形で
け。
あ、でも吸うのは血じゃなくて生命力みたいなものだから吸生鬼
?
あー、ライダーさんの場合、確かに噛みつくことで吸うんでしたっ
かなぁ⋮と﹂
﹁いや、私を襲った奴も吸血鬼みたいだったし⋮。居ても変じゃない
﹁えらく簡単に信じるのですね﹂
﹁そっか⋮﹂
そんな私を見て、なぜか納得したといった表情をする綾子。
ただけというのもあるんですけどね。
とりあえず、型月さんの作品だから自称魔法使いをやってみたかっ
!
悪 魔 で も ⋮⋮ 間 違 い ま し た。あ く ま で も 魔 法 使 い な の で す。不 可
魔女っ娘ではないのです。
です。
が︵割りとある気もする︶、やはりこの見た目なら魔法使いが一番なの
基本的に、チートボディな私にできないことはほとんどないのです
﹁いや、気にしないでください﹂
?
なんか違いますね、吸精鬼
?
159
?
おっと、この字面はなんか危ないのです。
﹂
﹁ひょっとして綾子がやられたのって紫の髪のボディコン目隠し
﹁知ってるのかコウジュ
﹂
?
件の紫おねーさん。
?
﹂
とする者も居るのですよ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だから⋮⋮﹂
﹁それ⋮は⋮
﹂
﹁来るのです。ホワイトディザスター﹂
ながらも清らかな白い刃を持つそれを取り出す。
大鎌を思わせるフォルムを持ち命を刈り取る禍々しさを感じさせ
思い浮かべるのは一本の長杖。
ロッ ド
です。一般人に知られた場合、記憶を消すのではなく口封じに殺そう
記憶を消すために、何故その必要があるかを知ってもらうためなの
﹁綾子に話したか⋮ですか
﹁でも、なんで⋮
﹁まぁ、そんなとこなのです﹂
﹁コウジュも関係者なのか⋮
﹂
聖杯戦争、サーヴァント、7人のマスター、その一人が間桐慎二と
それから今この町で何が起きようとしているかを簡単に説明した。
﹁えっと⋮何から説明しようかな⋮⋮﹂
は言わないとダメでしょうね。当事者ですし。
いや、私雷電じゃないのでそんなに詳しくないんですが、ある程度
!?
﹂
ロックを掛けます。記憶を消しちゃうとどんな影響が出るかわかり
ませんから﹂
﹁コウジュに関する記憶もなくなるのか
﹁そっか⋮⋮﹂
思います﹂
があったかまでは覚えてない、その程度まで記憶があやふやになると
﹁私はただの第一発見者になるのです。何かがあったはずだけど、何
?
160
?
?
﹁こいつは戒めを与えることができるものです。これで綾子の記憶に
?
﹁綾子⋮﹂
何かを考え込むように俯く綾子に、私は声を掛けられません。
むしろ、加害者側である私が声を掛けてはいけないのかもしれませ
ん。
イリヤを助ける、ただそれだけを思ってこの聖杯戦争に参加しまし
た。
だから、私はそれ以外を無視してやっている部分もあります。
物語の裏で、綾子のように被害にあっている人は居るのに、です。
救いたい、とは思います。その為の力もあるのかもしれません。
しかしその結果イリヤを救えなくなるなんてことになってしまう
かもしれない、そう考えると怖いのです。
よくある問答です。
1の為に他を切り捨てるか、他を助けるために1を切り捨てるか。
私は1を選びました。
一度持てば分かりますよ。スペックが高くたって、中身
思わず変な声を上げてしまたのですよ。
そんな私を、手を留めた綾子は真っ直ぐ見る。
その性根を現すように、本当に真っ直ぐな瞳で。
161
元一般人である私が出来ることなどそんなものだと、諦めているか
ら。
チート
﹂
!
﹂
﹁あーもう
﹁ぬぁ
止めた
今は綾子のことを考えなければ⋮。
駄目ですね、今の私は何故か感情がむき出しになりやすい。
だから綾子を守ることはできない。無かったことにするしか⋮。
私は、その陰でイリヤを助けるだけ。それだけ。
私には主人公補正なんてないのです。主人公は士郎ですから。
が伴わなければ意味が無い。
?
!!
俯いていた綾子は突然声を上げながら頭をガシガシと掻きました。
!?
﹂
﹁コ ウ ジ ュ。や っ ぱ り 記 憶 を 消 す の は 無 し っ て 訳 に は い か な い か な
﹂
﹁無し⋮ですか
﹁ああ。正直に言うと消したい記憶ではあるけどさ、無かったことに
﹂
するのは何か違う気がするんだ﹂
﹁違う⋮
そうですよね
ちゃけたって構いませんよね
そう
﹂
!!
﹁フフ、アハハハ
﹁な、なんだよ﹂
!
?
折角のチートなんですから、限界なんて自分で決めずに脇役がはっ
お助けキャラにはなりたいと思ってきたじゃないですか。
男であった時から、主人公に憧れはしませんでしたが誰かを助ける
何を小利口に纏まっていたのでしょうか私は。
ね。
ついて、イリヤを言い訳にしていたものが〝ソレ〟だっただけです
今まで言い訳して、自分の中にあるものを封じ込めて、自分に嘘を
いや、すこし違いますね。
でもどこかわかる気がします。
正直な話、綾子が何を言いたいのかよくわかりません。
合わないというか⋮、はぁまったく、私は何が言いたいんだか⋮﹂
とを無かったことにするのは何か違うというか、やられたままは性に
﹁えっと、口では言い表しにくいんだけど⋮。もう知ってしまったこ
?
男らしい⋮と言うと怒られそうですが、カッコいいとは言わせてく
いや、男だとか女だとか、そんな問題じゃないですかね。
男であった俺よりもすごいよ。
・
あなたはすごいですね。とっても眩しいのです。
でも違うのですよ綾子。あなたを笑いはしません。
ような器用なことをしています。
自分のことが笑われていると思ったのか、照れながら拗ねるという
突然笑い始めた私に、訝しんだ眼を向ける綾子。
!
162
?
?
ださい。
仮にも英霊として呼ばれたのなら、こんな情けないこと考えていな
サーヴァント
いで原作ブレイクなりなんなりやっちゃいましょうか。
なにせこの身は、神様見習い︵仮︶で、 英 霊で、宇宙を救ったガー
ディアンですから
﹁ダ メ で す よ ね。自 分 の 気 持 ち を 無 か っ た こ と に し ち ゃ ダ メ で す よ
﹂
ね。綾子の言う通りなのです﹂
﹁あれ、解ってくれたのか
あるのですよ﹂
﹁何故それを知っている
﹂
﹁まぁ、魔法使いですから﹂
﹁そんな個人情報を知る魔法はなんか嫌だ
ファンタジーじゃない
﹁綾子には負けました。完敗です完敗。さすが女の子にモテるだけは
ね。殺されるかもしれないなんて脅すようなことを言っておいて。
まぁ、さっきまでとは真逆のことを言っているようなものですから
た。
拗ねていた綾子は、今度はきょとんとした顔をこちらに向けまし
?
﹁だから何故それを知っている
﹂
ない綾子は言うことが違うですね。夢を壊すですか﹂
﹁おや、さり気に少女趣味だけど周りの視線も合ってそれを前に出せ
ことは分かったけど、夢を壊す発言だからな﹂
!
!?
長杖系の翼が生えた白いこの杖は、輝く光の力を増幅させて暗闇を
ロッ ド
﹁今度のやつはきれいだな﹂
﹁来い、クラッドバストーネ﹂
す。
私はホワイトディザスターを手から消し、違うものを呼び出しま
そんな綾子にお礼なのです。
綾子には申し訳ないですが、元気も調子も出てきました。
ああ、うん、これが私ですね。シリアスなんてごめんなのですよ。
﹁⋮⋮もうやだこの自称魔法使い﹂
﹁今度のはカマをかけただけですよ﹂
!?
163
!
撃ち抜く希望をくれると言われています。
元々は課金アイテムだったのですが、以前倉庫内の物を整理してい
た時に見つけ、ゲームをやっている時は持っていなかったので覚えて
いました。
綾子はこの杖から目が離せない様ですね。
しかしそれも仕方ないでしょう。
希 望 を く れ る と い う そ の 説 明 文 に 嘘 偽 り な い 神 聖 さ を こ の 杖 は
放っていますから。
かくいう私も、この杖も含めて各種武器を出すたびに目を奪われて
は確認作業の手を止めたものです。
﹂
﹁綾子、あなたの記憶を消すのは止めておきます﹂
﹁本当か
私の言葉に、飛び上るように喜ぶ綾子。
その様子を見て、選択を間違えなかったことに私自身も嬉しくなり
ます。
もし記憶を消していたら、私は綾子の矜持を傷つけていましたね。
﹁ええ。でも流石に何も対処無しという訳にはいかないので、あなた
﹂
に加護っぽいものを持っておいてもらおうと思います﹂
﹁ぽい
﹁え﹂
どことなく顔が引きつっているような気がしますが気のせいです
ね。
そういうことにしておいて、私は杖を綾子に向けてやることをさっ
さとやることにします。
先程私は綾子を見て眩しいと感じました。
それはきっと綾子の在り方で、そしてその魂の輝きなのでしょう。
そういえば男は夢見がちで女は現実主義なんて言われたりします
が、女の子化している今でも私はくっさいことを考えてしまうようで
す。
だから私は、綾子の魂が曇ることなく、この先困難にぶち当たって
164
!?
﹁ぽいものです。やるのは初めてなので﹂
?
も乗り越えられることを願います。
んん
今コウジュが何かしたってことでいいのか
!
﹁何なのその滅茶苦茶な設定は⋮﹂
﹁ふふ、私自身も思うのですよ﹂
ジト目をする綾子に、私は笑みを向ける。
﹂
!?
と思うのですよ。
あ、どこぞの紅いのに他意がある訳ではありませんよ
﹁もう行くのかい
﹂
﹁さて、私はもう行くのです﹂
んて聞こえませんとも。
﹂
綾子がボソッと﹃遠坂にも見習わせたいよ⋮﹄なんて呟いてるのな
?
存在はファンタジーでも今の時代は機械位は扱えないといけない
﹁急に現実的になった
﹁あ、あとこれ私の電話番号とアドレスなのです﹂
だって残念ながらほぼそうなのですから仕方がないのです。
?
綾子の未来が輝きに満ちて希望が多からんことを
﹁ん
﹂
?
﹁実は神様見習いでもあるのですよ﹂
﹁魔法使いじゃなかったの
﹁はい、ちょっとしたお祈りなのですよ﹂
?
けないのです。
偉い人は言いました。やられたらやり返す、倍返しだ
被害者は私じゃありませんが、まぁ誤差ですよ。
綾子が少し寂しげにしますが、私は杖を倉庫に戻し出口へと向かい
﹁そっか﹂
すよ﹂
ね。警察の人には申し訳ないのですが、もうそのレベルではないので
﹁や る こ と が 出 来 ま し た か ら。思 い 立 っ た が 吉 日 と も 言 い ま す か ら
!
あのわかめも被害者と言って良いのかもしれませんが、許してはお
ね。早めに調理⋮、もとい処理しなければいけません。
綾子が無事だと知って、あのわかめが何かするかもしれませんから
?
165
?
ます。
﹂
﹁あ、そうだ﹂
﹁何ですか
扉に手を掛けた私に、綾子が思い出したというように声を掛けてき
ました。
聞くために振り向くと││。
﹁私も一発殴りたいから、残しといてね﹂
とっっても良い笑顔で、綾子はそう言いました。
うん、手を出す相手を間違えたのですよわかめ君。
というかバレバレでしたか、綾子恐るべし。
166
?
︵開き直り﹄
﹃stage16:戦争なんさ
う
ハローハロー、みんな元気ですか
私は絶不調なのですよ。
はあ⋮⋮。
イリヤの弄り⋮ですか⋮
散々なのです。
⋮⋮。
しょうがないだろ
少女補正は未だ解呪できず、お城に戻ったときはイリヤに弄られ
!
行く気もありませんが。
もうお嫁にいけないのです
めのあれやこれやをイリヤに無理矢理⋮、無理矢理⋮⋮。
子らしくすること﹄という曖昧な命令である故に女の子らしくするた
私の場合も、自滅+イリヤのマスター適性の高さもあってか﹃女の
成立していたのです。
のつかいかたをしていましたがマスターとしての適性が高いゆえに
原作で凜がアーチャーに向かって﹃私に従え﹄みたいな曖昧な令呪
なったのですよ。
そのせいか女の子らしい服を着せられる時、何故か身体が動かなく
イリヤが令呪で私に命じたのは﹃女の子らしくすること﹄なのです。
着せ替えなのですよ、着せ替え。
?
言ってきました。
悪いのは私ですが根に持ち過ぎじゃないですかねぇ
違いの黒を着せられてお開きとなりました。
と、とりあえず、色々試して満足したのかイリヤが来ている服の色
!?
があのどエス⋮もといあの幼女は今日出かけるまでは止めないって
ためにも女の子化を止めてもらうためイリヤに謝りまくったのです
とりあえず今の状態だといつもの調子が出にくいので、本気を出す
!
167
?
!
私の目は死んでいることでしょう。
もうね、わけが解らんのです。
い く ら 令 呪 だ か ら っ て こ こ ま で 私 の 男 と し て の 尊 厳 を 破 壊 し ま
くって良いのでしょうか。いや、良いわけないのです。反語。
令呪やら私の能力がどうたら以前に、世界そのものから弄られてる
気がするのですよ。
閑話休題。
そんなこんなでお城に帰ってきた私なのですが、現在は自室で新し
い力について絶賛修行中なのですよ。
実は今日は慎二君終了のお知らせの日なのです。
イリヤに今日の夜出かけるとも言われました。それが先に言った
お出かけですね。
168
丁度、綾子の為にもとっちめる予定でしたからある意味では丁度良
かったのです。
現 在 正 午 過 ぎ だ か ら 大 体 1 0 時 間 ほ ど す れ ば ラ イ ダ ー v s セ イ
バー戦が始まるであろうというところなので、それまでに色々と準備
・・・・
をする必要があるのです。
とはいえ、ワカメをコウゲキするために必要なものの半分は既にあ
のお優しいイリヤが代わりに集めてくれてあるのです。
準備したいものを伝えた時にソレは私がやると言ってくれたので
すが、まぁ暗示とかは苦手だったので助かったわけですがその前に私
の状態を戻してほしいと思うのは贅沢なのですかね
内容は│││いや、今言ったら面白くないのでその内にしましょ
名前は﹃サーヴァント補完計画﹄。計画名は適当なのです。
係があるのですが、対ライダー戦も含めて無いと困るのです。
何故今それが必要かというと私が考えた原作ブレイク計画にも関
その能力は﹃空中戦闘﹄と﹃空間移動﹄に関するもの。
高い能力を二つほど得たいと思うのです。
さておき、攻撃に関しては何とかなると思うので、あとは汎用性が
?
う。
今は、能力習得が先なのです。
まず一つ目、空中戦闘に関してですが実はこっちはほぼ決めてあっ
たりします。
考えた方法は箒で飛ぶか、翼で飛ぶか。
ただここで一つ考えてほしいのです。
魔法使いは箒で飛ばない。箒で飛ぶのは魔女なのです
というわけで、方法は翼で飛ぶという方法で可決ですね。
も、勿論、それだけが理由ではありません。
確かに人間にはそもそも翼というものが存在せず翼が生えたから
といってすぐに飛べるイメージを掴めるかというと謎です。
しかし箒で飛んだ場合だと箒の制御に手を使わないといけなさそ
うなので戦闘という面に関しては不利になると思うのです。
ロッ ド
カードキャプっちゃう桜ちゃん理論ですね。まぁあっちは杖です
が。
ちなみに、箒の場合は長杖系のウィッチブルームという武器を使う
つもりでしたが今回はそのまま倉庫に入れておきましょう。
というわけで翼なのですが、今まで使ってきませんでしたがPSP
o2にはビジュアルユニットという通常防具とは別の、文字通り見た
目にアクセサリーを加えることができるものがあります。
この身体になって防具というものがどういう扱いなのか必要なく
なりましたが、ビジュアルユニットに関しては使用できることが分
かっています。
その中で今回使用するのが﹃ホワイティルウィング﹄という名の、こ
れまた文字通り白く輝く光で形成されたような翼です。
同じ種類でダークネスウィングとかもあるんですけどちょっと見
169
!!
た目が禍々しくなりそうなので白翼でいくことにしました。
そんなホワイティルウィング。使用方法は簡単です。
︵震え声
翼なんだから飛べるだろうと思い込んで飛ぶだけ。
ね、簡単でしょう
?
さて、次の空間移動ですがこっちがまだ悩み中なんですよね。
真っ先に思い付いた空間移動の方法は東方projectの八雲
紫が使うゲート方式なのです。
あの能力は空間の﹃境界﹄を操って別の場所につながるゲートを
作ったり、異次元空間へつなげたりとかなり汎用性が高いし、チート
臭いのです。
しかし、今の私でできると思えてないので却下。
後々使えるようにはなりたいですし、出来ないこともないでしょう
がイメージし辛いのですよ。
そもそもあれは能力の一部として空間移動を可能にしているだけ
で、今の私が求めるものとは微妙に主旨が違うと思うのです。
なので却下。
ツインダガー
次に思いついたのは、オンラインで使うのはやや敬遠され気味だっ
た武器、双小剣系のツミキリヒョウリなのです。
ね
?
んですが、まだ能力を操り切れてない内は自重した方が良いかなーっ
て思うのですよ。
だから試すのは今度ですね。
というわけで、他にゲートタイプの能力者は│││。
﹁ふむむ⋮⋮あ⋮⋮﹂
目についたのは部屋の入り口、ドア。
170
これには時間と空間を支配する的な概念があって、それを使えばい
のでしょうけど、そもそも空間支配ってどうするの
すが、く、空間に対して即死効果発動とかってなりませんよね
うのが定説だったのもあって即死攻撃系の武器は敬遠されてた訳で
PSPo2では連続攻撃︵チェイン︶によってレア率が上がるとい
けどあの武器、一定確率で即死効果が付いてるんですよね⋮。
よね。
となんですが、それをするとしたら空間を斬る必要がある思うんです
とりあえず空間を移動する為にイメージしたのは裂け目を作るこ
?
当然BOSSとかに対しては発動しなかったし大丈夫だとは思う
?
ティンと来た
﹁これなら⋮﹂
﹂
って、なんなのですかこれ⋮怪奇移動﹃どこでもドア﹄
﹂
でもまぁ試しに使ってみないとどうしようもないですし⋮。
微妙に猫型を間違えそうになる雑念が入ったからなのですかね
怪奇移動
⋮⋮。ふむ、とてつもなくいやーな予感がするのですよ
﹁よし完成
ものを彷彿させる何かが描かれるのです。
自らのイメージが求めていたものに近ければ、その求めたモノその
いく。
そうすると、カードが白く光りその中に絵柄や文字が書き込まれて
一気に概念と共に力をカードに込める。
﹁⋮⋮ッ
ロボットが使う道具。
イメージするのは国民的人気アニメの青いたぬk⋮コホン⋮猫型
この概念を使用して、イメージ。
ドアとは違う空間と空間との隔たりであり出入口であるもの。
した技術。
ここに概念を書き込むことで新たな技、能力にするのが私が編み出
取り出すのは真っ白なカード。
!
か。
ドアの方に向かい、正面に立つ。
目標
日本の人気がないところ
﹂
!!
そして、宣言。
﹁怪奇移動﹃どこでもドア﹄
!!
ドアをくぐり、つながった場所へと足を踏み出す。
と、とりあえず、ドアの先はどうなったですかね。
す。
ただ、なんか光方が胡散臭い。とんでもなく嫌な予感がするので
き、代わりに目の前のドアが同じように光ります。
ぺかぁぁ∼⋮⋮っと、手にしていたカードが光となって消えてい
!!
細心の注意は必要でしょうでしょうけど、とりあえず使いましょう
?
?
!
?
171
!!!!
どうやら成功のようで、比較的周囲の建物が見えないことからどこ
かの屋上に出たようです。
ただ、問題あるとしたら、そこかしこから噴煙のようなものが立ち
上がっているのが見えます。あ、どこかで爆発した。
これ、空間移動というか世界そのもを移動してやがりませんかね
しかもやっべぇ世界に来たんじゃないですかね
?
﹄﹃アァ⋮⋮﹄﹃ウゥアァ∼﹄⋮⋮⋮⋮
そーっと覗くと│││。
人気の無い所を指定したはずが何やら聞こえるため、角まで行き、
使う必要がありそうですね。
で、ドアを出てすぐに柵があり、下へ降りるためには端にある階段を
どうやらここは屋上の中でも一段高い場所に建てられているよう
するために恐る恐る探索を始める。
ドアが閉じないようにストッパーをしてから、もう少し辺りを確認
?
がいらっしゃる。
いっぱい居るじゃないですか
というかかなりゾンビだよこれ
確かに人気は無いけど
いやでも今はこっちも日が出てるし違うですよね。
!?
!
いやいやいやいや、いつから日本はこんなことに
死徒とか
?
!
なんだけど、私は一体どこに来てしまったのですか
?
﹂
まって思わず叫んでしまったのです。
﹁あ﹂
172
﹃グゥア∼﹄﹃ガァーッ
なんぞこれ
!!
なんかゾンビちっくな、色々と飛び出たり足りなかったりする方々
?
周囲の建物とかを見るに確かに日本だし、ここは学校の屋上みたい
?
﹁確かに私が言った条件に当てはまりますけども何なのですかこれは
どこ
!?
見つからないようにしていたのに、脳の許容量がバーストしてし
!?
﹃﹃﹃﹃グゥア
﹄﹄﹄﹄
しまったのです
めたのですよ
戦略的撤退
一斉にこちらへとゾンビが向いて殺到しはじ
ってあれ、割と遅いのですよ。
﹁あれ、これって割と行けるパターンですかね﹂
ふむふむ、数は8ってところですか。
﹁あ、そうだ。レスタ﹂
﹃ヴァー⋮ア⋮アァ⋮⋮﹄
﹁あ、効いた﹂
ふと思いつきで回復してあげたら、地面に倒れ込んで動かなくなり
ました。
﹁ソォーイ﹂
﹃﹃﹃﹃ヴァァー・・・・﹄﹄﹄﹄
あ、終わりました。
屋上の安全、クリアなのです。
そこでふと、日本、ゾンビ、学校という単語から一つの作品が思い
浮かびました。
﹁はっ、ひょっとしてここって⋮﹂
﹄
HOTD、学園黙示録、スクデッドなんて呼ばれてるアレ。エログ
ロ系のあれです。
﹁ま、まさかねぇ⋮﹂
﹂
!!
もう
﹃アシクビヲクジキマシター
﹁あああ
!!!!
アニメでも、それ以外の作品でも一時期よく使われたワードが無駄
に高性能なこの耳に届いてしまったのです。
173
! !!
!!
?
嫌な予感というのは当たるものなのですね。
!!!
慌てて、屋上の中でも声が聞こえた側、運動場等が見える場所に
﹂
走っていくと、玄関から少し離れた場所に一人の少年が倒れ込んでい
リベリオン
るのが見えました。
﹁来るのです
!
ちぬいていきます。
今何しようとしやがった
ほらあっち行け
というかあの男子、逃げるのにそんなに本を持つなです
あと、そこの教師
当てるぞなのです
!
少年は何とか立ち上がって走り出すも何せ遅い。
時間があったら鍛えると
図書館で戦争が起こらないとも限らないのです
見た目通りのがり勉君のようですね
いいのですよ
!
﹁私は一発の弾丸
なのですよ
﹂
!
ません。
!
のP.P.︵魔力っぽいアレ︶を弾丸として飛ばしていた為に弾切れ
どうやら世界を越えているせいか龍脈との接続が切れており、自ら
﹁しまった、龍脈と接続できてないから
﹂
トリガーを続けて引くもカチンカチンと音を鳴らすだけで弾は出
そこでカチンっと、手元から高い音が鳴りました。
次から次へと校舎からゾンビは出てきます。
しかし、撃って撃って撃ちまくりますが数が全然減らないのです。
!
死に走るところへと近づくゾンビどもを撃っていく。
だからといって放置するわけにもいかないので、引き続き少年が必
!
に周囲のゾンビを撃ちぬいていきます。
アーチャーの時とは違い目視でも対象を確認できるため、私は次々
!
!
!
私は早速リベリオンを構え、少年に近づこうとしていたゾンビを撃
ためこれを選びました。
今回は威力は度外視で、対象を巻き込まないようにする必要がある
す。
じい殺傷能力の弾丸が目標を確実に捉え射抜くとされているもので
猟神と呼ばれた男が肌身離さず携えていたとされる長銃で、すさま
呼び出すのは一丁のライフル、リベリオン。
!
!
174
!
状態のようですね。
少年を見ると、他の人達と共にマイクロバスに乗ることができたよ
うです。
ほぼ同時にバスが走りだし、門を突き破って視界の向こうへと消え
ていきました。
ギリギリ行けましたか。
ふぅ、世話が焼けるのですよ。
ギィィ⋮⋮
一息ついていると、そんな音が横から響いてきました。
同時にいくつもの唸るような声が⋮。
そちらを見れば、やはりというか何体ものゾンビが扉を押しのけて
こちらへと進んできます。
﹂
きり閉めました。
﹁何なのですかあの地獄絵図⋮﹂
周囲を確認すれば見慣れたアインツベルンの屋敷なのです。
一応軽くドアを開けて向こうを覗く。
うん、いつもの城内に戻っていますね。
まったく、怪奇にもほどがあるのですよ
﹂
﹁それにしても、やっぱりはいすくーるおぶざでっど⋮なのですかね
⋮
えているのです。
コミックの方も読んでいたし、雑誌もよく立ち読みしてたのです
よ。
﹁いやいや、確かにあのマンガは好きですけどね⋮。勘弁してほしい
175
あー、ライフルの音が原因⋮、ですかね
﹁戦略的撤退
?
チートの限りを尽くし走って自分が通ってきたドアを通り、思いっ
!!
私が転生する直前にアニメ放送が開始されて、一話だけ見たから覚
?
のですよ⋮﹂
まぁ確かにバイオみたいに走るゾンビとか武器を持ってるゾンビ
とかに比べたら難易度は低いかもしれません。
このチートボディもあるし、不老不死だし、魔法も使えるし、銃も
ある。
けど、行きたくないのですよ
ゾンビは嫌なのです
主に嗅覚とかSAN値的意味で
!!
なのですよ
そんなこと考えたらフラグが⋮。
あ、でもちょっとだけ鞠川先生に癒されに行く位なら⋮⋮ってダメ
!!
!!
﹂
行ける世界が増えたよ
﹂
﹄
!
なのですよ
﹃やったねコウジュちゃん
﹁くそーっ
! !!
入っているとかないですよね
とはいえ取り留めもないことを考えて現実逃避するも何かが変わ
幸せが逃げているとおもうのですけどどうなんですかね⋮﹂
﹁はぁ、溜息を付くと幸せが逃げると言いますが、溜息を付いた時点で
?
あ の エ ミ リ ア 神 が 言 っ て い た 〝 い く つ か の 世 界 〟 に あ の 世 界 が
はぁ⋮、鬱なのです⋮⋮。
﹁うおぉ∼、立ってしまったのですよフラグ⋮﹂
とりあえず拾い上げ、直しておく。
ない携帯電話。
いつものように携帯を床へと投げるも、忌々しいことに傷一つ付か
おいやめろなのですよ
!
恐る恐る携帯を取り出し、画面に表示されていたメールを開く。
か
﹁このFFで聞いたことのある音楽⋮。あ、メールの着信音なのです
﹃てててて∼て∼てってってて∼♪﹄
!
!!
176
?
る訳でもないですよね。
仕方ないので改めて本来の目的、空間移動の能力を得るため修行な
のですよ。
﹁さてさて、今度こそ成功させましょう﹂
再びカードの作成に入る。
立ち上がり、カードを生み出して集中。
今度こそ、雑念が入らないように力を込める
た。
確認の為に目を開けると、うん、成功のようなのです。
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄、完成したみたいなのです﹂
とりあえず試すとしましょうか。
目標は無難にこの城の玄関
!!
さっきのことがあるのでそっと扉を覗くと、そこは見覚えのある景
消えていき、代わりに目の前のドアも同じように光ります。
今度は、先程とは違ってきれいに光り輝き、手にしていたカードが
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄
﹂
すると今度は、カチリと頭の中で鍵が開いたような感覚が生まれ
!!
成功
﹂
そのためにも、イリヤとの作戦会議ですね。
先程は準備を手伝ってくれはしましたが、綾子と出会い、私の勝手
で計画に修正を加えることをまだ伝えられてはいません。
だからイリヤに計画を話して協力を得る必要があります。
私が思い付いた計画は、当初の予定よりイリヤにかなりの負担をか
けてしまうのです。
ここまで来れば、できればサーヴァント達も救いたいのですよ。
そのためにも⋮⋮。
﹃てててて∼て∼てってってて∼♪﹄
おや、またメールなのですか
?
177
!!
色でイメージした場所でした。
﹁やったのですよ
!!
ああ、これで作戦を進められる。
!!
再び携帯を開きメールを確認する。
また嫌なメールかもしれないと一瞬躊躇しましたが、見ないのも怖
いので開くことにしたのです。
﹃空間操作に関する適正の一部を取得。これからは次元に関する技術
の習得がある程度容易になりました。
特典としてマイルームを差し上げます。
模様換え様アイテムは元々お渡ししてあるのでそちらをお使いく
ださい。
部屋の設定は携帯でも行うことができます﹄
ほほーう。
これはこれは⋮。ふふっ、御誂え向きに丁度良いのですよ。
有効活用するとしましょう。
出掛けるにはまだ早いわ﹂
178
全てはハッピーエンドの為に。
◆◆◆
﹁どうしたのコウジュ
前に話してくれた計画についてかしら
いくつか不満はあるし情報として教えてくれていない部分はある
の。
以前に教えてくれたのは、私をどうにかして死なせないというも
?
﹁話があるのですよイリヤ。これからについて﹂
を見て少し首をかしげながら質問する。 お仕置きを継続をしているのとは別に、どこか元気のないコウジュ
しかしその様子が少しいつもと違う。
た。
自室で本を読みながら紅茶を飲んでいると、コウジュが訪ねてき
?
けども私自身としては嬉しいし、コウジュが大丈夫だて言ってくれた
から任せているのだけど、ついに全部話してくれる気になったのかし
ら
秘密主義という訳ではないのだろうけど、この子は色々と言葉足ら
ずなのよね。
いや、言葉というか色々足りてない
オチオチ子どもっぽい真似なんてしていられない。
えらく楽しそうなのです。何か良いことでも
?
うのかしらね。また拗ねるかしら
ふふ、まるで妹が出来たようだなんて思ってたんて伝えたら何て言
﹁⋮
﹂
なんというか、心配でたまに見ていられないのよね。
?
﹁あの、イリヤさん
なんだか声が冷たいような⋮﹂
﹁ふーん、そんなことがあったんだ﹂
・
・
・
いつになく真剣なコウジュに、私も真剣に聞くことにした。
﹁とにかく、計画についてなのです﹂
しないことにしてくれたようだ。
とりあえず何でもないとコウジュに伝えると、首をかしげるも気に
?
﹂
!
てたみたいじゃない
﹁ちょ、ちょっと待つのです
﹂
重要なのはその後だと思うのですが
﹁そんなことはないわよ。ただ、その綾子ってこと随分よろしくやっ
?
?
声のトーンがいつもより低くなりそんなことを言ってしまった。
﹂
って何です
?
何故か、もやもやするわ。
とにかく綾子とはなにもないのですよ
うーん、兄弟姉妹が盗られる感じというのがこれなのかしら
﹁あーもう
かこれ不倫の言い訳しているダメ亭主みたいなのですよ
!
一人勝手に自爆しているコウジュを見ていると、不思議ともやもや
!?
!
179
?
?
コウジュの話を聞き計画変更を了承しようと思ったのだが、何故か
!?
も収まってきた。
うーん、ほんとコウジュと居ると全てがどうでもよくなってくるか
ら不思議だわ。
今まで感じてきたしがらみも、恨みも、死への恐怖も、コウジュが
居れば何とかしてくれるような気がするのよね。
いつもは緊張感の欠片も無いのに、時々ドキリとさせられる。
﹂
﹁ふふ、冗談よ。とにかく計画に関してはコウジュに一任してるんだ
から、ちゃんとやってくれるなら構わないわ﹂
﹁お、おうなのですよ。というか、もう怒ってないのですか⋮
ビクビクしながら聞いてくるコウジュが可愛い件⋮、じゃなくて
あーもう、コウジュに毒されてるわねこれは⋮。
あ、今の無しで﹂
﹁怒ってないわよ。ちょっといたずらしたくなっただけだから﹂
﹁やっぱどエスなのですよ
﹁まったくもう⋮﹂
えてくれないのね﹂
﹁そういえば、変更後の計画でも最後の私を救う方法っていうのは教
むしろこの子と過ごす時間は楽しい。好きと言える。
でも嫌いじゃないのよね。
わ。
コウジュと居ると、殺し合いのさなかにあることを忘れそうで困る
!
?
﹂
﹁あ、いや、それは、ちょっとそれを言うと怒られそうだなーって思っ
てですね⋮﹂
﹂
﹁その時点で怒られるとは思わなかったのかしら
ね
﹁優しいイリヤさんはそんなことしないですよね
﹂
?
と思ってるでしょうね。
きっと私が令呪の無駄遣いをしたのも、そのままお仕置きの意味だ
まぁそれも込みでコウジュに任せているんだけど。
ら。
マスターたる私に言わないで、何を悪巧みしようとしているのや
﹁根に持ってる
﹁さぁどうかしら。私ってどエスらしいから﹂
?
180
!
?
!?
けどあれは、令呪を無駄に使うことであなたから無理に聞き出すつ
もりはないっていう意思表示のつもりだったのだけど、解る訳ないわ
よね⋮。だってコウジュだし。私自身も遠まわし過ぎるって分かっ
てるけどもね。
﹂
けど、あなたも教えてくれないんだもの、これくらい解り辛くても
良いわよね⋮
﹁どうしたのですかイリヤ
てきた。
何でそんなところだけ鋭いのよ
あなたを召喚できて本当に良かったわ﹂
いつもとキャラが違うのですよ
﹂
?
あ、耳まで真っ赤になった。
﹁い、一 体 ど う し た の で す か
ひょっとしてからかってるのですか
あなたを召喚してからを思い返すと疲れることが大半だったけど、
覚になる時もある。
ね、あなたを見てるとやっぱり友人感覚になってしまう。姉妹って感
最初、サーヴァントはサーヴァントって割り切るつもりだったけど
だったのよ。
﹁だ っ て ね、よ く よ く 考 え た ら あ な た は 初 め て の 友 達 み た い な も の
あ、照れてる照れてる。
﹁そ、そうなのですか⋮﹂
嬉しかったのよ﹂
だけどやっぱりどこか寂しさがあったわ。だから帰ってきたときは
﹁昨日あなたが家出して、令呪があるから離れてる感覚はなかったん
もう、わたしも反撃するんだから。
!
﹁いえ、何か寂しそうだったのですよ﹂
﹁な、なに
﹂
気づけば私の顔をじーっと見ていたコウジュがそんなことを聞い
?
?
そう言うと今度は、何故か口元が引きつっているコウジュ。
⋮﹂
﹁なんとなく今言わないといけない気がしたのよ。本当になんとなく
?
?
181
?
あれ
﹂
今のは死亡フラグくさかったのですよ﹂
これもそうなの
﹁あのーイリヤ
﹁え
になってしまった。
まぁいっか。
﹂
﹁どうせ、コウジュが助けてくれるんでしょ
ントだもの﹂
﹁恥ずかしいセリフ禁止
?
だから、本当に頼りにしているわ。私の自慢のサーヴァント。
うん、やっぱりあなたを召還できて本当に良かった。
あなたが全てを話してくれた時、それが知れると嬉しいな。
どこか似ているのかな。
存在を召還するというけど、私たちの場合はどうなのかな。やっぱり
サーヴァントは対象を指定しなかった場合マスターにどこか似た
どこまでもサーヴァントらしくないサーヴァントよね。
私の言葉にまた真っ赤になるコウジュ。
!!
私の自慢のサーヴァ
何が悪かったのかわからないけど、一気にいつものコウジュの空間
しまったわ。
ことで死を呼び込んでしまうという死亡フラグ。
以前にコウジュから教えてもらった、ある一定の言動や行動を取る
?
?
?
あなたの言うハッピーエンドを私にも見せてね。
182
?
﹃stage17:プランB
やーやー、みんなお元気かな
俺は絶好調だぜ。
なんでかって
そんなものは決まっている。
俺の少女補正がとれたからだよ
むわけではないし助かった。
プランBはなんだ
﹄
売ることになったんだけど、使っても減らないから俺としては懐が痛
モノメイトっていうポーション的なものをアインツベルン経由で
俺なんだけど、当然だよな⋮。
あ、ちなみに修理費はアインツベルン持ちになりました。というか
いだろうとは思っていたが実際に居なくて良かった。
発事故で処理されていた。 アーチャーが陣取っていたし、人気がな
ニュースでは最近噂になっているガス漏れ事故に連なってガス爆
たビルの屋上も見える。
よく見たら近くに、俺が﹃スピア・ザ・グングニル﹄で吹っ飛ばし
上に居る。
今俺は、ライダーとセイバーの戦いが行われるであろうビル群の屋
さてさて、現状の話といこうか。
お仕置きなのは分かるけど、ひどい目にあった。
苦節⋮そんなにはないけど、それでも気分的に永かった⋮。
ふっふっふっ⋮。永かったぜ。
思うよ。
聞くこともあるだろう単語だけど、ここまではた迷惑な補正は無いと
主人公補正とかヒロイン補正とか、サブカルチャーに浸っていれば
?
ただ、イリヤが俺のお小遣い分までは売ってくれなかったからイリ
ヤからのお小遣い制は継続だったりする。
買い食いがあまりできない⋮。
183
?
?
!!
?
また反れたな。
現在の時間は夜になって久しく、辺りに人の影は無い。
ライダーが辺りに張っている人払いの結界の効果でもあるようだ。
そんな中、俺はいくつかのビルにとあるモノを設置している。
というのも、これからわかめ君をいじm⋮ゲフンゲフン、お仕置き
する為に必要なものなのだ。
まぁあまり引っ張っても仕方ないので言うと、中継用カメラやス
イリヤならマイルームだ。
ピーカー、集音器なんかの役割を持つイリヤの使い魔を設置したりし
ている。
あ、イリヤ
今は俺の目を通して現状を見てるんじゃないかな。
何故かっていうと、マイルームというと修行をしたら何故か貰えた
あれなんだけど、それがまた汎用性の高い謎空間だったんですよ。
PSPo2ではゲーム内のお楽しみ要素の1つであるマイルーム。
模様替えやルームグッズで内装を変えられて、プレイヤーのこだわ
り要素の一つとして存在していた。
かくいう俺も、和風の内装にいくつかのグッズを置いて楽しんだも
のだ。
ちーずくんとか、小夜ちゃん人形だとか、モトゥブパパガイってい
う同じセリフを使いまくってると覚えるインコみたいなやつとかを
置いてた。
そのマイルームが、何故かチートツールの一つとして俺のもとに来
たわけだ。
マイルームというのはもともとの設定上だとコロニーの居住区域
にある文字通りの自分の部屋だったわけだが、俺が貰ったものはどこ
にあるかはわからないが﹃どこでもドア﹄のカードを使ってならどこ
からでも行くことができる何かになっていた。
窓から見える景色はゲーム通りに宇宙空間だし、ほんと良くわから
ない。
ドレスルームや倉庫もちゃんとあって便利なのは便利なんだけど
ね。細かい所でトイレやキッチン、バスルームなんかも追加されてた
184
?
りするし。
で、話が長くなったけどその中に通信端末があったんだけど、それ
がまた便利でこれから使う予定のものだ。
ご丁寧にその通信端末内にもヘルプがあったため見てみれば、マイ
ルームは俺の能力の一部みたいなものらしく、俺の視覚を通して外を
見ることもできるのだとか。
その応用で、パスが繋がっているイリヤを通してその使い魔の視覚
をモニターに出すなんてこともできるらしく、それを知ったから俺は
イリヤの使い魔を設置している訳だね。
モニターに映した映像をデータとして残せるし無駄に高性能なん
だよ。
あとはパートナーマシーナリーも居れば完璧だったんだけど、流石
にそこまでは贅沢かな
まぁそんなわけで、イリヤはマイルームで待機してもらってるって
訳さ。
そういえば、空間移動﹃どこでもドア﹄についての説明がまだでし
たね。
といってもそれほど説明するほどのことも無かったりするんだけ
どね。
カードを作る際に、既に在るドアを媒介にして能力を作ったからか
どこにでも移動できるドアを作るのではなく、自分がドアとして認識
したドアをどこでもドアっぽいものに変えるっていう能力になった
みたいだ。
だからドアからドアにしか移動できないという制限が意図せずし
て付いてしまった。 文字通りのどこでもって訳にはいかないし、微妙に使えない⋮。
けどまぁ今回の作戦には充分有用だから無問題だね。
﹃コウジュ。来たみたいよ﹄
作業を黙々と続けていると、別視点からの映像で見たのかイリヤが
185
?
念話を入れてくれた。
どうでも良いけど念話って着信音とかがある訳じゃないからいき
なりで毎回びっくりする。今もちょとビクッとしてしまった。
﹃りょ、了解であります﹄
ええ、全然声が高くなんてなってませんとも。
念話なのに噛むとか器用なことするわねなんて言われたことあり
ませんとも。
誰に言い訳しているのか自分でもよくわからずに、作業を終えて俺
は近くのドアを利用してマイルームへと移動した。
﹁お疲れ様コウジュ﹂
食べる
﹂
﹁ん、そっちこそ確認お疲れ⋮ってメッチャ寛いでますね。そのアイ
スはどうしたし﹂
﹁そこに入れてあるわよ
﹁⋮いただきます﹂
へと入ってきたところのようだ。
モニターを覗けば、ライダーを探しに来た士郎とセイバーがビル街
座るモニターまで行く。
だろうスーパー○ップ抹茶味を取り出し、スプーンも持ってイリヤの
イリヤの好きな味ではなかった筈だし、態々入れておいてくれたの
お、抹茶味あるじゃん。
与っていただくことにする。 食べて良いようだし、俺も作業で気分的に疲れたから一つご相伴に
見もせず指だけで冷蔵庫を指した。
聞けば部屋の端にある冷蔵庫にアイスを持ち込んだのかこちらを
いたイリヤ。
め画面をじっと見てるのかと思いきや、覗き込んだらアイスを食べて
部屋の構造上、入り口からだとイリヤの後ろ姿しか見れなかったた
?
道路できょろきょろしてるしライダーを探してるんだろうけど、傍
から見れば不審者だねまったく。
﹁今更だけど上手くいくかなぁ﹂
186
?
﹁あなたが不安になってどうするのよ⋮﹂
﹂
﹁いやぁ、そんなこと言われてもさ。受験の時は落ち着いてできたの
にいざ合格発表になると不安になったりするじゃん
なるようにしかならないわ﹂
﹁受験どうこうは私にはわからないけど、ケセラセラって言うでしょ
?
﹁たくましくなりましたねイリヤさん﹂
﹁誰の所為よ﹂
ふと弱気になって零した言葉の結果、何故か最終的にジト目で見ら
れた。解せぬ。
まぁ原作イリヤのような天真爛漫さが無くなった原因の一部だっ
て自覚はあるけどさ。
一先ず、これ以上藪をつついて蛇を出す気も無いので改めて画面に
目を戻す。
画面を見れば、地上に居た士郎達をビルの上から奇襲するライダー
の姿が映っていた。
釘剣を構えて士郎を狙うがセイバーに見えない剣で弾かれ、相対し
ている。
しかし、真正面からセイバーのクラスと戦うのはさすがに不利だと
思ったのか、蜘蛛のようにビルの壁面を登っていった。
すかさずセイバーも壁面のでっぱり等を利用して追いかけていく。
﹁へ∼、ライダーって結構やるのね﹂
﹁うんうん。すごいよな、いろいろと⋮﹂
胸元丸見えだよ
イリヤは戦闘面に関して言っているのだろうけど、俺は違う部分に
目を向けていた。
いや、服とかね、きわどすぎない
?
ライダーさん見えてますよ
て感じだし。
スカート部分なんて今どきの子でもそこまで短くしないでしょっ
?
しかも絶対領域まで形成されてるっていう念の入りよう。
し。
そして、プロポーション抜群なうえ、全体的にパッツンパッツンだ
!
187
?
あざとい、実にあざとい。
そんな重要な事軽く暴露しない
あ、重要な事をイリヤに言うの忘れてた。
ギリシャ神話の
﹁ちなみにメデューサさんです﹂
﹂
﹁メデューサ
でよ
!?
ダーは重力とか何それ美味しいの と言わんばかりに壁に立った
セイバーは窓とかのちょっとした引っ掛かりを利用しながら、ライ
中。
ビルの側面を上に駆けながら互いの武器を何度も交わらせて激戦
画面内ではすごいハードなバトルが繰り広げられてます。
ちなみに、俺らはこんなににのんびり会話してますけど、目の前の
﹁ひどい⋮﹂
﹁コウジュ、暫く買い食い禁止﹂
﹁て、てへぺろ﹂
!?
ロい。
何だっけ、女豹のポーズ
とか、どこのグラビアアイドルだよっ
服はさっきも言ったように勿論のこと、動きの一つ一つがマジでエ
ってかさ、改めて言うけどライダーがエロい。
しまいそうだ。
俺がやると勢い余ってビルの壁面とかでっぱりを力任せに壊して
りしながら攻防を繰り返しております。
?
う動き方になってしまうのだろうか。
計算しつくされた動きなのだろうか、それとも生まれもってああい
さりげなく、それも流れるように。
て感じのを攻撃の端々に入れてくるんだよ。
?
﹂
変なところが気になって、ついつい画面を食い入るように見つめて
しまう。
﹁コウジュ⋮⋮
?
188
!!
底冷えのするような声でイリヤが話しかけてくる。
﹂
いつから見ていたのか、俺に鋭い目を向けていた。
﹁な、なに
ライダーも、あなたも⋮﹂
﹂
いまいち要領を得ないんだけど⋮⋮﹂
﹁大きいことがそんなに偉いの⋮
﹁な、何の事を言ってるんだ
﹁⋮⋮いいえ、なんでもないわ。忘れて﹂
あ、そういうことか。
﹁イリヤ、ステータスだ希少価値だっていう言葉もあるし⋮ひぁ
ライダーだ。 そう疑問に思ったと同時に、セイバーが俺の前へと飛び出た。
遅い時間とはいえ、人気が全く無いのはおかしい場所の筈なのだ。
ろそろ打ち切ろうかとビル街を歩いていると違和感に気付いた。
明るい内から行ったにもかかわらず、手がかりも掴めなかった為そ
バーと共に冬木市を歩き回った。
学校での慎二とライダーの所業を見逃しておくことが出来ず、セイ
◆◆◆
よくわかりませんが出番まで黙ってることにします。
﹁わふ﹂
﹁コウジュ、ハウス﹂
﹁はい﹂
﹁コウジュ、忘れてって言ったわ﹂
思わず声を上げて後ろに飛び退く。
目でイリヤに見られた。
某貧乳少女の言葉を教えてあげようとしたら、言い切る前にすごい
!?
?
ライダーは上空から俺を狙いに来ていたのか、代わりに前に出たセ
189
?
?
イバーを上から刺し貫こうと身体の全てを乗せて振り下ろしていた。
しかし1合剣を交えただけで、その後すぐにライダーは踵を返しビ
ルを駆け上がって行った。
セイバーも続くようにビルを駆け上がって行ったが、俺にはそんな
真似は出来ないので慌てて階段を探しにビルへと入った。
入ってから気付いたが、人気の無いビルなのだから鍵が開いていな
いかと思ったが人払いの結界が使われているのか人気が無いだけで
中への侵入は容易だった。
エレベーターもあったが、回数表示ははるか上。
待っている時間も惜しいため階段を駆け上った。
そして今、漸く屋上への扉へと辿り着いた。
超高層ビルとまでは行かないまでもそれなりの高さだ。
何故来たのですか
﹂
息も絶え絶えに、ドアを開ける。
﹁士郎
い。ライダーが居ない
だから、何かできることはないかと改めて屋上を見渡すが、おかし
何か出来ることがあるかもしれないと俺は登って来たんだ。
ものでもない。
確かにマスターとサーヴァントの関係とはいえ、任せきりにできる
しかし放っておけるわけがないだろう。
入るなり、セイバーからそう言われる。
!!
﹂
?
短くライダーとセイバーが言葉を交わすが、途切れてすぐに、また
﹁何とでも﹂
﹁ふ、既に勝ったつもりかライダー。些か気が早いのではないか
﹁残念でしたねセイバー。これであなたの勝ち目も潰えましたよ﹂
いた。
ライダーは翼が生えた白馬、いわゆるペガサスに跨り手綱を引いて
ソレがライダーだったようだ。
戻ったが、ソレは睥睨するように空中に止まり、こちらを見つめた。
何とかセイバーが避けて、その何かはすれ違うように再び空中へと
そう思うのも束の間、セイバーへと何かが空から落ちてきた。 !?
190
!?
ライダーは堕ちるようにこちらへと突っ込んでくる。
今度は何度も、何度も⋮。
セイバーも負けじと回避や、見えない剣での攻撃を繰り返すが何せ
早い。
完全に弄ばれているような状態だ。
おそらく、あれがライダーの宝具なのだろう。
あのセイバーが手も足も出ないなんて⋮。
なんとか、何か俺にできることはないのか
﹃あーあー、マイクテスマイクテス﹄
た。
どこかに居るのか⋮
﹂
聞こえてるっぽいね。よかったよかった﹄
しかし何かが起こるでも誰かが来るでもなく、声は続けて辺りに響
くだけだった。
﹃聞こえてるかな
﹂
!
聞こうと声を上げる。
声からセイバーもコウジュであることが分かったのか、事の如何を
﹁何のつもりだバーサーカー
があってね。邪魔させてもらうよ﹄ ﹃ああ、良い所を邪魔して悪いねー。けどさ、ライダーにはちょっと用
もなく自分で納得しているコウジュ。
どうやってかこちらを確認しているのか、こちらが何かを返すまで
?
191
突如、声が辺りへと響いた。
!?
どこか幼い、けどしっかりと通るこの声には聞き覚えがある。
﹁コウジュ⋮
?
気づけば、セイバーと空中のライダーも止まって辺りを警戒してい
?
しかし、その声にもコウジュは飄々と返す。
﹃だから用があるのさ。私的な用事なんだけどね。正確にはライダー
コウジュが
のマスターにだけどさ。そこに居るのは分かってんだよ間桐慎二﹄
慎二に
いった声でコウジュはそう言った。
何が始まるんだろうか
﹄
﹄
﹄﹄
﹁それはそうでしょう。というかほんとに私もやるの
﹂
先程まで混ざっていた怒りは消え、今度は笑いを押さえきれないと
てってくれ﹄
﹃というわけでだ、ちょいと今からは俺のターンだ。良かったら聞い
飄々とした口調の中に見え隠れしていた。
今 ま で コ ウ ジ ュ と 交 わ し た 言 葉 の 中 に は 決 し て 無 か っ た 怒 り が、
短い間しか言葉を交わしていないが、だからこそなのかわかる。
詳しいことは分からないが、慎二は何かをしてしまったのだろう。
?
?
﹁ああ、そうだったわね﹂
﹁いやもう言ってるじゃん。というかこの声も入ってるから﹂
?
﹃コウジュと
﹃イリヤの
﹃﹃真夜中ラジオ
はっ
!!!
!
画面の中で驚きを隠せていない士郎達。
192
?
!
﹁あ、驚いてる驚いてる﹂
◆◆◆
?
パーソナリ
そりゃ戦ってる途中でこんな戯言が始まったら誰でも困るよね。
でも自重しない。自重なんぞする気はない。
とことんまでやるって決めたからな。
だから、隠れてるつもりのそこのワカメ。
覚悟しろ。
◆◆◆
﹄
﹃ごほん。さて、今夜も始まりました。真夜中ラジオ
ティーは私、コウジュと
ですものね﹄
﹃辛辣だなぁ。でもそんなマスターが私は嫌いではありません
﹃冗談言ってないで、早く進めなさいよ﹄
﹄
!
く流れなのだろうか
とりあえず様子見をするしかないか⋮。
﹃えぇー、それではさっそく、お便りコーナーに行きますね
﹄
セイバーとライダーも警戒したまま動かないし、このままこれを聞
え、なんか始まったんだけど、俺はどうしたら良いんだろう。
﹃おお怖い。じゃぁさっさと進めていきましょうかね
﹄
﹃あなたがやりたいって言い出したからやることになっただけの番組
﹃まぁ今夜もなんて言っても今日が最初で最後なんですけどね﹄
﹃イリヤスフィール・フォン・アインツベルンでお送りするわ﹄
!
!
でもがんばるよ という
もないのだけど、がんばればーさーかー﹄
﹃わーお、投げやりな応援ありがとう
!
先輩なのでどうしたらいいかわかりません。教えてください⋮っと。
す。皆の前で笑いものにしたりしてかわいそうです。怖い噂もある
えー、部活の先輩がいつも部活仲間の同級生の男子を苛めていま
り。
訳で一人目の御便りです。H村原学園1年生、Aちゃんからのお便
!
193
!
﹃第一回と言いつつお便りが来ているという仕込まれ感がどうしよう
!
?
うーん、悪いやつも居たものですねー﹄
﹃そうね、死んだ方が良いんじゃないかしら
ですねー﹄
中々妹思いじゃない﹄
﹄
って略すのが良いですよ
!
﹃誰が得するのか分からないツンデレだけどね﹄
﹃あ、そういうときは誰得
﹃分かった。覚えておくわ﹄
?
ばいいでしょうか
ってことらしいですねー﹄
?
がそんな言葉を使ったら﹄
﹃あなたの所為なんだけどね﹄
ふらふらと行くので大丈夫ですよー。暴力的な意味での手は出して
相当女癖が悪いですが適当に誤魔化しておけば勝手に次のところへ
﹃あはは、これは痛いところを突かれました
さておき、その男子は
﹃だめですよーイリヤさん。ほんとのことでも、一応お嬢様なあなた
﹃その男子、俗に言う財布ってやつなのかしら
﹄
恋愛経験もないし、その人が好きという訳ではありません。どうすれ
れることが一種のステータスになったりもしているようです。私は
て付き合うなんてこともあるようです。校内では密かに声を掛けら
ので、おごってもらったり、付き合った経験が無い子が練習相手とし
持ちだし結構顔も良いし付き合っても直接手は出してこないらしい
けど、とにかくいろんな女子に手を出してます。友人に聞けば、お金
とある男子に言い寄られて困ってます。その男子は同級生なんだ
んからのお便り。
﹃さてさてー、次の御便りに行きましょう。H村原学園2年生、Bちゃ
後半を聞くと疑ってしまうが、慎二のことを言ってるのだろう。
慎二だ。多分慎二だ。
﹄
﹃人目のあるところでは妹に対して強く当たったりするのにツンデレ
﹃あら、そうなの
を出そうとしたらしくて﹄
てそうなったらしいんですよー。それも法律に引っかかる方法で手
一年生の子って苛めたっていうその先輩の妹さんに手を出そうとし
﹃いやいやーそれがですね、独自ルートで調べた結果なんですが、その
?
!
194
?
?
くるかもしれませんが、上手く煽てると良いらしいです。実際そうい
う方がたくさんいらっしゃるようですね﹄
﹄
どこかで聞いてるかもしれないからしーっ
﹃ああ、都合のいい男ってやつなのね﹄
﹃イリヤさんしーっ
せっかく髪によさそうな髪質なのにショックで抜けちゃう
!
うな気がするんだが⋮。
﹁ブフっ⋮しつ、れいっ⋮⋮クフ⋮﹂
慎二、ライダーに笑われてるぞ⋮。
!
﹄
部活という訳でもないし可哀そうです。どうすればいいでしょうか
い張る方によく押し付けています。押し付けられた先輩は別に同じ
なんですが、自分が罰として言われた掃除とかをその先輩が友人と言
りはH村原学園1年生、Cちゃんからです。とある2年の先輩のこと
﹃まぁそれはさておき、次の御便りに行ってみましょう
次の御便
えっと、なんだか知り合いに似たようなことをしている奴が居たよ
!!
!
﹃やっちゃえばーさーかー﹄
﹃いやいや、これにも実は裏があるんですよ﹄
﹃あ、そうなんだ﹄
﹃それがですね。これも独自のルートから得た情報なんですが、先輩
君は普段その友達を良い様に利用しようとする輩がいると、裏で制裁
を加えてるそうなんですよ﹄
﹃へー、良いとこあるじゃない﹄
ただ頼むなら許し
って感じに用事を押し付けるわけですね。あと、こいつを
﹃だからその先輩君はいつも助けてやってるんだからこれくらい良い
だろう
良い様に使っていいのは俺だけなんだからな
・
慎二⋮、お前ってやつは⋮。
﹃うわー⋮﹄
ます﹄
てやらんこともない的なことを言っていたと目撃情報があったりし
!
?
195
?
・
・
﹃さてさて、次の御便りはH村原学園女教師Tさんからです﹄
﹃これで最後なのね﹄
好きな子に意地悪する小学生
﹃ういうい。では行きますね。えー、うちの士郎に手を出す不逞の輩
が居るのですが、ヤっていいですか
とにかく許せないのがこの前、士郎の手を傷つけたこ
!
だってさ。イリヤ裁判長、判決は
﹄
?
満足したといった感じだ。
んだが、やけに頼まれる時期があったのは確かだ。
しかしそれもすぐに無くなってしまった。
今の、コウジュが話していたことが真実ならそれは慎二が⋮
金を払いに行くというものだったんだが、中身は絶対見ずにどうして
この間は、営業時間中のレンタルビデオ店に借主の代わりに延滞料
まぁ今でも変な頼み事はあるんだけど、数はかなり減ったものだ。
?
物を直したり掃除したりというのは好きな方だから別に構わない
確かに最近は変な頼み事は無かったのだ。
ある。
たのかがかなり謎だが、慎二の近くに居た俺にはいくつか心当たりが
ここまで慎二の所業⋮でいいのか
それをどうやって調べ上げ
先程までと違い、今のコウジュはやけに晴れやかな声をしている。
自分を恨むがいい﹄
﹃まぁあれだ、精神攻撃は基本なんだ。恨むなら俺をやる気にさせた
しかし、困惑する俺たちを余所にコウジュは続ける。
って、いやいやいや、そういうことではなくてだな
慎二も苦労してるんだな⋮。
うん、何だろう⋮。
﹃ということらしいので、お仕置きだ。﹄
﹃ぎるてぃ﹄
だぁ
と。美 味 し い 料 理 が 出 来 な く な っ た ら ど う 責 任 を 取 っ て く れ る ん
みたいです
?
?
196
!
!
も頼むと真剣な表情で言われたものだから断り切れず代行した。店
員さんの目が痛かったことからかなり長期の延滞をしていたってだ
けが原因ではないのは察することができるけどさ⋮。
っと、思考がずれてる。
さておき、コウジュが最初にそこに居るのは分かってると言ってい
﹂
たが、なるほど確かに今のように煽れば慎二は必ず出てくるだろう。
あいつプライドが高いからなぁ⋮。
僕が何したって言うんだ
!
﹁あることないこと言うんじゃない
慎二⋮、見事に釣られたなお前⋮。
197
!!
﹃stage18:跳べ
﹄
僕が何したって言うんだ
コウジュ
﹁あることないこと言うんじゃない
しかしどうやって
居た。隣のビルだ。
声の元へと顔を向ける。
関しては感謝しようかね﹂
﹂
﹁ああ、でも、お前のおかげで俺は全力を出す気になれた。そのことに
が響いた。
そこへ、先程までとは違い何かを通したものではないコウジュの声
ンガオホーってやつだ﹂
﹁何を
俺には直接してなくても、色々やってんだろうがお前。イ
を見回している。
慎二はどこに居るのか分からないコウジュを探しているのか、辺り
その顔は怒りからか恥ずかしさからか、真っ赤に染まっている。
!
!
そう叫びながら、慎二は給水塔の裏から駆けだして来た。
!!
!
よくもあんなことを言ってくれたな
僕を生暖かい目で見るんじゃない
﹂
実際に目撃情報がある訳だしな。という
!!
そしてその眼は完全に慎二を捉えていた。
﹁さっきのはお前か
﹁けど嘘は言ってねぇぜ
止めろお前ら
!!
?
!
か自分で〝あること〟ないことって言ってるじゃん﹂
﹁ち、違う
﹂
だが、彼女の表情は獲物を見る獣のように、ギラギラとしている。
頭を下げるコウジュ。
カーテシーだったか、スカートの端を両手で掴みながらちょこんと
﹁やぁやぁみなさんご機嫌麗しゅう﹂
うにコウジュは声と共にそこに現れた。
隣のビルとはいえ、すぐ近くだ。それなのに、突如湧き出すかのよ
俺以外の全員もそう思っているのか驚愕を露わにしている。
?
!
そうは言われても仕方がないだろう。
!!
198
?
普段傍若無人でも、一つでも良いことをすると途端に憎めなくなる
のはよくあることだ。
目隠しをしているはずのライダーでさえも、どこか優しげな瞳で慎
二を見ている気がする。
今どんな気持ち
自分の運命に抗えなくて
ただ、コウジュだけはニヤニヤと見ていた。
﹁ねぇどんな気持ち
?
持ちはどんな感じ
﹂
お前に何が分かる
!?
かが違った。
﹁お前に、お前らなんかに何が分かる
つに頼らなきゃならない僕の気持なんか
!
﹂
﹁うん、やっぱ憎み切れないな。殴る役目はあの子に渡すとするかね﹂
あれだけのことで、慎二が作っていた外側をぶち壊した。
それを引きずり出したのはコウジュ。
今ここに居る慎二が、本当の慎二なのだろう。
けど、俺が思っていた慎二とは違うあいつの姿がここにはある。
俺は慎二を友人だと言える。だからこそ止めようとした。
あるのだろう。
俺には分からないが、二人の間で交わされた言葉には重要な意味が
コウジュもまた、慎二に対してふざけずに返す。
じゃぁさ﹂
﹁多 少 ⋮⋮、い や、俺 に は 言 う 資 格 な ん て な い な。貰 っ た だ け の 俺
!!!!
こんな本に頼らなきゃ、あい
自分に正直に生きているような慎二だと思っていた。でも今は何
た。
今までに聞いたことのないような、心の底から出たような声だっ
そう叫んだ慎二の声は、震えていた。
﹁うるさい
﹂
精一杯悪ぶっていたのに、なり切れなかったことを暴露された今の気
?
?
﹂
にらみ合いが続いていた中で、急に溜息一つ、コウジュはそう言っ
た。
﹁なんのことだ
!?
199
!
光翼﹃ホワイティルウィン
そのコウジュに慎二は意味が解らないと返すが、にやりとコウジュ
は笑うのみ。
﹂
﹁まずは、やり直しから行ってみよう
グ﹄
る。
﹂
﹁離せ放せ離せ
やめろよあっちいけよ
﹂
!!! !?
﹂
ひゃ、やめろ
僕をどうするつもりだ こんなことが許される
その慎二を、コウジュは抱えるようにして捕まえた。
でも甘かったようだ。
ジュから逃げた。
着地をどうするかなど考えていない、ただ落ちるようにして、コウ
りる。
驚愕を露わにする慎二は恐怖のあまり、給水塔から屋上へと飛び降
﹁うわぁあああああああああああああああ
!!!??
そのコウジュが慎二の真後ろ、その空中に居ながら翼をはためかせ
て生えていた。
神聖さを思わせるそれが、コウジュの背中から吹き出すように翼とし
光り輝く翼。今まさにライダーが騎乗しているペガサスとは違う
しかしコウジュの姿が先ほどと違う。
背後に居た。
そう声に出したのは誰だったのか、消えたと思った瞬間には慎二の
﹁なっ
瞬間にコウジュはそこから姿を消していた。
コウジュがカードを片手にいつかのように宣言した。そして次の
!
ってどこ触ってんだゴラァ
!?
と思ってるのか
﹁あ、こら、暴れるな
﹂
!!!
!? !!!!
ている側の慎二は堪ったものじゃない。
何とか振りほどこうと暴れるが、ついにはコウジュに片腕で頭上へ
掲げられてしまった。
その様は自らが獲った獲物を見せつけるかのようだ。
200
!!
!?
やっていることとは裏腹に可愛い声を上げるコウジュだが、やられ
!!?
ただ、自らのマスターを助けるべくライダーはペガサスに乗ったま
ま慎二救出に向かっている。次々に起こる事態に一歩出遅れたよう
﹂
だがそれえでも英霊の名に偽りはない。殺す気を伴ってコウジュへ
と差し迫る。
﹁おっと、そうはいかない⋮ぜ
全力投球。
﹂
!!!!!!!
閉じた。
◆◆◆
の上でタイミングを計っている。
対して、俺は背中にホワイティルウィングを装備したまま、給水塔
がらも、警戒を露わに上空でペガサスを駆るライダー。
サーヴァントとしての契約が未だ残っていることを不審に思いな
﹁死んではいないさ。ただ、叩き直してもらおうと思ってね﹂
﹁マスターをどうしたのですか
﹂
扉の向こうへと消えていく慎二にそう告げながら、コウジュは扉を
ら﹂
﹁逝ってらっしゃい、ハート○ン式トレーニングはよく効くそうだか
に居り、扉にカードを張り付けた後、開いた。
しかしその時には、コウジュはご丁寧にも慎二が飛ばされた先の扉
転換。
舌打ち一つ。ライダーはコウジュから狙いを反らし、慎二へと方向
﹁ちっ﹂
﹁助けろライダァアアアアアアアアアアアアアア
俺が先ほど入ってきた扉へと投げつけたようだ。
その方向は⋮⋮扉
慎二を投げつけた。
そう言い表すしかない方法で、差し迫るライダーを前にコウジュは
!!!
?
201
?
というのも、空中戦を想定して作った光翼﹃ホワイティルウィング﹄
だが未だ完成していなかったりするのだ。
正確には、制御しきれていないというべきか。
翼を生やしたからといってすぐに鳥のように飛べるわけもなく、本
番までに何回も練習したんだが可能となったのは、空中での姿勢制御
と、光が背中から吹き出しているような翼の形状からブースターのよ
うに加速することのみ。
それも、複雑な状況下では翼の制御に頭の処理が持っていかれるか
ら、戦闘なんぞには全く使えないという代物。
それでも、派手な演出によってその弱点は未だ露呈していないはず
だ。
最初に慎二の後ろへ回るために使ったのも、最初の一歩は足で跳ん
だだけだし、実際光翼を使ったのは慎二後ろへの軌道修正と急停止の
み。
を浮かべ続ける。
あいきゃんふらい
対してライダーは、俺やセイバー達を見回し少しの間思案した後こ
う告げた。
﹁⋮予定は変わりましたが、セイバー含めてあなたも轢いてしまうと
202
でもこれってぶっちゃけ、ネギまの瞬動術もどきをした後に足でブ
チート
レーキせずに翼で急停止しているだけだから色々中途半端過ぎる。
完全に、 力 任せの脳筋戦法なのでその内どうにかしないとだ。
﹂
﹂
だから、現状不完全でしかないこの翼の土俵で戦うため、タイミン
グを計っている。
﹁あくまでも言う気は無いと
﹁無いね。けど、俺を倒したら取り戻せるかもよ
﹁ふざけてますね﹂
﹁違うね、ふざけてないとやってられないんだ﹂
主に俺の精神がもちませんもの。
それに俺は今、頭の中で﹃あいきゃんふらい
﹄って唱えるので忙しいのです。
?
!
?
頭の中ではそんなことを考えながら、意識してにやりと不敵な笑み
!
それを待っていた
しましょう﹂
来た
﹂
﹂
﹁ジャスガァっ
﹂
﹁ッな、ガっァァァア
﹂
しかし、これはあくまでも武器なのだ。
際に腕へと装着し使用する片手装備。
シールド系武器﹃カザミノコテ﹄は、見た目は文字通りの籠手だ。実
しかし俺も、やられるつもりで前に出た訳ではない。
何をしようと鎧袖一触に薙ぎ払わんとしているのが分かる。 ただ驚きはしてもその勢いを留めはしない。
そんな中、俺の耳がライダーの驚いた声を拾った。
し迫る。
一秒にも満たぬ間に、ライダーは流星にも似た勢いでこちらへと差
﹁何を
﹁かかったなあほがぁってね。来いカザミノコテ﹂
る。
セイバーが士郎を庇う為に前に立つが、俺はその更に前へと躍り出
だがそれを、俺は待っていた。否、そうなるように誘導した。
マスターである士郎を消すこと。
現状一番戦闘能力が低く、そして一番効率の良い方法はセイバーの
﹁士郎
つまり、
る。
さらに言えば、この状況では必然的に狙われる対象は限られてく
この状況でライダーが獲れる選択肢はそれのみ。
!
それこそがシールドによる唯一の攻撃法。俗に言うシールドバッ
ジャストガード。
撃波で吹き飛ばす。
そしてただ防ぐだけではなく、騎乗するペガサスと共に発生した衝
すると瞬間的に表れた障壁がライダーを防いだ。
ライダーが俺へと接触する瞬間に、籠手を通して力を爆発させる。
!!?
!!
203
!
!?
!?
シュ。
どこぞの後の先へと因果を逆転させるではなく、純粋なカウンター
としての技。
ただし、ゲーム内ではシールドであるのに何故か持つ攻撃力が乗る
ジャスガ時の衝撃波、成功による被ダメージの無効、そして条件さえ
整えればBOSSにも普通に通用する盾。
防御は最大の攻撃なんだよ。
どこぞのダメットさんみたいにね
そしてもう一つ、シールドには特徴がある。
それがジャストカウンター。
﹂ ジャストガード成功後の追撃は、確実にクリティカルとなる
﹁まだ俺のターン
ギウォンド。
﹁しばらくお休みだ、ライダー。ギ・バータ
﹂
そして取り出すのはいつかのネギ。その中でも片手杖に当たるネ
へと肉薄する。
ペガサスは放置し、空中でもなんとか体勢を整え始めているライダー
ライダーの手を離れたからか送喚されて溶けるように消えてゆく
!!
!
思わず息が漏れた。
﹁ふぅ⋮﹂
り込んでおく。
だから慎二の時のように扉を使って、ライダーはマイルームへと放
元も子もない。
凍結効果は一時的なので、折角凍らせて捕獲したのに解除されては
一先ず凍った状態のライダーを掴んで、翼を使って屋上まで戻る。
焦ることなく実行に移せて良かった⋮。
氷結効果はレベルに合わせた確率発生だが、クリティカル確定だし
気分はエヴァちゃんの凍てつく氷棺。
ダーを氷漬けにした。
ようとしていたようだが、有無を言わせず氷系統のテクニックでライ
ライダーも、すこしでも抵抗しようと釘剣を手に持ち俺へと攻撃し
!!
204
!!
この数分の間に一年くらい寿命が縮んだ気がする。
なにせ自信満々にシールドを使ってはいたが、シールドは前面から
しか防げないという弱点がある。
当然と言えば当然なんだが、宝具を防御する際に少しのズレが命取
りになるかもしれないと思うと中々手を出しづらいのだ。
だからこそ予想しやすい位置にライダーが来てくれるように誘導
したわけだ。
﹁よーし、これで一件落着っと⋮﹂
﹁いいえバーサーカー、まだ終わっていません﹂
心の中で一段落ついていると、俺へとセイバーが声を掛けてきた。
﹁あ⋮⋮﹂
205
﹃stage19:バーサーカーは見た
﹄
﹁おやおや、それは戦闘の意思有りと取っても良いってことかねぇ
くふ、と漏れ出るように笑みを漏らすコウジュ。
﹂
﹂
﹂
﹁士郎、良いことを教えてやるよ。とある英雄が言っていた言葉なん
あえて言うなら、大人が子供を見るような、そんな目。
その瞳には既に先程の獰猛さは無い。
の後ろに居る俺をだ。
コウジュが何故かこちらを見ていた。構えるセイバーを越えて、そ
﹁はぁ⋮、ったく、何を情けない顔してるんだか⋮﹂
今の俺では何の役には立たない。
覚えている魔術も初歩の初歩だ。
雄達と戦う術は無い。
情けないことにそれは事実。俺にはサーヴァントの様な本物の英
足手纏いとは間違いなく俺の事だろう。
そのコウジュの問いに、セイバーは無言で剣を構え直す。
戦えるかい
﹁はっ、タイトル回収どうもありがとさん。けど、足手纏いが居て俺と
﹁おかしなことを言う⋮。戦うことが運命の筈だが
さだめ
しかしその瞳は獰猛な肉食獣のようで、セイバーを見つめている。
?
?
?
﹂
﹂
だが﹃英雄とは名詞ではなく動詞﹄なんだってさ。これを聞いたとき、
俺もそう思ったよ。だから、折れないでくれよ
そう言うと、コウジュは踵を返した。
何のつもりだ
そのまま、背後にあった扉へと手を掛ける。
﹁待てバーサーカー
!
?
﹂
﹂
?
﹁流 石 は 騎 士。い や 王 様 ま ぁ ど ち ら に し ろ そ の 間 が 物 語 っ て る
﹁⋮何のことですか
冷めちゃったしね。だから、もう俺を挑発はしなくても良いぜ
﹁元々戦うつもりは無かったんよ俺は。ちょっと昂ぶっちゃったけど
!
?
じゃん。とりあえず駆け引きが苦手なのは分かった﹂
?
206
?
こちらも見ずに答えるコウジュだが、おそらく苦笑しているのだろ
う。
﹁騎士って言うのとは無縁だったからよく分かんないけど、そのあり
方はカッコいいけど面倒そうだ。俺には無理だな、うん﹂
それだけ言うと、コウジュは扉を潜りその姿を消した。
不思議なことに扉が閉じた瞬間に気配が消えたことから何らかの
魔術を使ったのかもしれない。
それにしても、さっきの言葉は何だったのだろうか
イバーが、だ。
﹁どうしたんだ
﹂
取り乱すほどではないが、何かに驚き動揺しているようだ。あのセ
なんだろう。何か様子がおかしい。
いく。
さておき、俺たちも帰ろうかとセイバーに声を掛けるため近づいて
じたつもりになるだなんて。
メンタリストでもあるまいに、歴戦の戦士であろう存在の内心を感
いや、何を言ってるのだろうか俺は。
故だかそんな気がする。
おそらくだが、コウジュなら慎二たちを悪くは扱わないだろう。何
ともかく、助かったのは確かなのだろう。
はぁ駄目だ。分からない。
そう、あれは何かを期待している⋮
勿論見下して眼中にないという意味ではない。
それに先程の言葉も、俺たちを敵として見ていないような⋮。
に何かが違うのだ。
容姿からして英雄らしからぬというのもあるだろうが、それとは別
しかし、何故か俺は彼女を敵と認識できないで居た。
コウジュとは敵対しており、実際に戦闘に至ったこともある。
?
だが、俺の声に反応することもなく何かぶつぶつと思案しているよ
うだ。
207
?
そっとしておくべきか悩むが、やはり気になり声を掛ける。
?
﹁何故⋮知られてしまっている⋮
﹂
﹂
何だかかなり悩んでる様子だっ
そう呟くセイバーの声を何とか聞けたが、そこでセイバーがやっと
気づいた。
﹁士郎、無事ですか
﹁いや、そっちこそ大丈夫なのか
たけど﹂
﹁特に何も⋮⋮、いや、これはあなたに話しておくべきことですね。一
﹂
度屋敷に戻りましょう。少し気になることがあります﹂
◆◆◆
﹁お待たせー。どんなかんじ
うが、これも俺たちの目的のため。
普通なら捕獲なんてリスクのあることをするべきじゃないんだろ
がもうすぐ解除されそうだ。
さておき、凍らせたライダーをマイルームへと先に送っていたんだ
まぁ原因俺だけどもさ。
が似合うよ。
氷属性は白レンなんだよ。カラーは似てるけど、イリヤは天真爛漫
い。
マイルームへと戻ってきたわけだが、なんだか最近イリヤが冷た
﹁遅いわよ。さっきからひびが入り始めてるわ﹂
ネギ持ってるのにシリアスするのは疲れた。
近付く。
持っていたネギをしまい込んだ後、氷塊を見つめているイリヤへと
?
﹂
そしてハッピーエンドの為だ。
﹁ねぇ﹂
﹁はいな
を掛けてきた。
208
?
?
?
自分の中で決意を新たにしていると、イリヤがニヤニヤしながら声
?
﹁ちょっとあっちに行かない
◆◆◆
﹁う、あ⋮⋮﹂
﹁部屋
私は⋮﹂
﹂
アイマスク越しに、強い光が目に痛い。
何かが砕ける音と共に、意識が覚醒する。
?
バーサーカーとビルの上で戦っていた
まるで止まっていた時が突然動き始めたかのように記憶が飛んで
いる。
何故こんな場所に居る
のではなかったか
?
﹁バーサーカー
﹂
この捉えようのなさはどこかあのバーサーカーを思わせる。
ちながら壁際に安置されている。
何かのモンスターを象ったものだと思われる像は無駄に威圧感を放
ば、ただの段ボールのようなものが置いてあったり、鳥は放し飼いで、
抱えなければならないほど大きい人形のようなものがあると思え
ものは乱雑と言って良いほどに統一感が無い。
下は畳。壁紙なども日本らしい落ち着いた趣。ですが置いてある
周囲を確認する。
?
だが、彼女は一体どこに⋮
﹂
﹁イラッシャイ
﹁
﹂
気を抜けるわけではないが、行動指標もなくどうするべきか。
状感じられない。
どうやら自分は囚われているようだが、拘束は無く命の危険性は現
?
彼女が現れてから全てが崩れた。
そうだ彼女だ。
!?
!
209
?
突然響く声。
!?
反射的に釘剣を出して投擲⋮⋮出ない
ユガミネェナ
くる気配が無い。
﹁ユガミネェナ
﹂
手を振り出したはいいが、何故か自らの武器がいつものように出て
!?
﹁鳥
﹂
﹂
﹁鳥ちゃうし﹂
﹁っ
﹁イラッシャイ
﹂
﹁特定の言葉を繰り返しているだけ
馬鹿らしい。何を真剣に考察しているのでしょうか。 ﹁⋮私は何を真剣に考えているのでしょうか﹂
最初のは偶々タイミングよく言っただけなのでしょう。
それから暫く聞いていると、やはり同じ言葉を繰り替えすばかり。
物だということが分かった。
とはいえ、これでこの鳥が聞いた言葉を真似する九官鳥に似せた置
思わず口に出ていた疑問を鳥に真似をされてしまう。
﹂
﹁特定の言葉を繰り返しているだけ
﹂
?
﹁
﹂
く、決められてパターンをなぞるだけの置物だと分かる。
ゆっくりと近づき見てみればやはり、動物特有の無駄な多動など無
だ。
しかしその場からは動かず、よく見れば生物としてはどこか不自然
首をキョロキョロと動かし、辺りを見ている。
生物。
置かれた木の上に止まっている青い色を基調とした九官鳥の様な
地味に痛いが、この鳥のようにしか見えない生物を警戒する。
後方へと跳躍⋮するも背中が壁へとぶつかる。
しゃべった
虚しく投げ出された腕を降ろし、声の発生源へと目を向ける。
!
だが、これはひょっとすると⋮、
また鳥がしゃべった。
!
210
!
!?
?
!?
?
!?
いくらあのバーサーカーが規格外で理解しがたいとはいえ現実逃
避などしている場合ではないというのに。
﹁私は何を真剣に考えているのでしょうか﹂
また言葉を真似される。
しかも変な言葉を覚えられてしまった。
チラリと、改めて周囲を確認する。
﹁ふむ⋮﹂
変な言葉を覚えられたままでは私の沽券に関わりますね。
となれば、何かを言って上書きしてしまいましょうか。
◆◆◆
ち。
ちょっと性質悪くない
﹂
態々﹃どこでもドア﹄で扉を別の場所に繋げ、その外から覗くこと
で空間として断絶していることを利用して気配を隠している。
ライダーが今必死に話しかけている物の正体はマイルームグッズ
の一つ、﹃モトゥブパパガイ﹄だ。
今のライダーのように暫く接すると簡単にわかるが、パパガイは聞
いた言葉を覚えて繰り返す。
大体は頻度の高い言葉なのだが、ちょくちょくそんなの関係ねぇと
言わんばかりに微妙な言葉を覚える。
﹁あ、見て見て。自分が覚えてほしい言葉を覚えてくれなくてちょっ
と拗ねてる﹂
﹂
211
﹁ふ、ふふっ、くっ、み、見なさいコウジュ。ライダーが可愛すぎるわ
⋮。隠れて正解だったわね﹂
﹁いやまぁ可愛いとは思いますがね
?
イリヤの提案により、ドアの向こうからライダーを見ている俺た
?
﹁⋮昨日どこかの誰かもやってたような⋮﹂
﹁何
?
﹁ナンデモアリマセン﹂
ほほ笑むイリヤ︵眼は笑ってない︶から目を反らし、ライダーを再
び見る。
ライダーは徐々に楽しくなってきたのか、慎二の悪口だとか、どこ
ぞの爺に対する愚痴だとか言い始めた。
色々溜まってるんすねライダーさん。
うん、でもなんだか懐かしいなぁ⋮。
ゲ ー ム の 時 は オ ン ラ イ ン で 部 屋 に 集 ま っ て 馬 鹿 話 を し た り し た
なぁ。
アウトな言葉は発言できないようになってたけどすり抜ける言葉
が生まれていったりしてたし、パパガイテロも今となっては良い思い
出だな。
今何か言った
﹂
﹁はぁ、センチメンタルになるのは合わねぇよな⋮﹂
﹁ん
ノーック﹂
﹁あ、こら
◆◆◆
﹂
﹁い ー や、ほ ら ほ ら こ の ま ま 見 て て も 仕 方 な い か ら 入 る よ。ノ ッ ク
?
浮かべながら好意的に握手を求めてきた。
イリヤと名乗った少女は何故か不満気だが、バーサーカーは笑みを
微妙に情けないことを考えていると、二人が自己紹介をしてきた。
﹁イリヤよ﹂
のマスターの⋮﹂
﹁そういや、自己紹介まだだったね、俺はコウジュ。んで、こっちが俺
あとはこの鳥が余計なことをしゃべらなければ⋮。 入ってくる気配がした瞬間に離れたためバレてはいないと思うが、
突如ノックと共に入ってきたバーサーカーとそのマスター。
!
しかし油断してはいけない。
212
?
バーサーカーは慎二をどこかへやり││未だ令呪があることから
ベ ル レ フォー ン
命は無事だと思われるが││、私を拉致した。
私の騎英の手綱を真正面から防ぐ宝具、底を見せない多彩さ、魔法
をも思わせる強力さ、その根底は同じなのかもしれないが油断できな
いことは確かだ。
サーヴァントは本来その著名度によって力が増減する。
しかし全くの無名でありながらあれだけの力を行使するこの少女
は計り知れない。
私を拘束していないことから、もし私が何かをしても鎮圧できると
いうことを現しているのだろう。
おそらく、先程の釘剣が出せなかったのもその原因の一つ。
﹂
一先ずは下手に出て様子見をするしかないのだろう。
﹁私は││﹂
どうして私の真名を
﹁メデューサだろ﹂
﹁⋮
何故知られた
ニヤリとした笑みを浮かべながら私の真名を言うバーサーカー。
!?
﹂
?
﹁ね
﹂
転がる。
たる寸前でまるで見えない壁に当たるかのように剣は弾かれ床へと
愛剣が出せないため左手を犠牲に防ごうとするがその前に、私に当
徐にバーサーカーが剣を取り出しこちらへと投げてくる。
﹁こんな感じで⋮﹂
まった。
だから隙を伺っていたのだが、その内心すらもさらりと読まれてし
が、やりたいことがある。
だが、絶望的なこの状況とはいえ私にはやらなければならないこと
手玉に取られている。
からそんなに身構えなくてもいいよ
﹁内緒∼。あ、それからさ。この部屋ではあらゆる攻撃が許されない
私の正体を知るための情報は何処にも無い筈。
?
213
!?
?
﹁⋮⋮﹂
﹁ちなみに、攻撃の意思が無いのなら武器を出したり振ったりできる
けど、明確な攻撃意志があれば武器の取り出しすらできなくなったり
します。そのほかでダメージを受けそうな場合は勝手にレジストさ
れる。今みたいに﹂
﹁⋮分かりました﹂
﹁えっと、その、なんというか、だからここは物騒な話を抜きにして、
腹を割って話したいんだ﹂
たはは、と苦笑しながらそういうバーサーカー。
その姿には先ほどまで私を手玉に取っていた雰囲気は無い。
むしろその姿は戦闘などとは縁もない普通の少女のようだ。
﹁まず、俺はライダーの本来のマスターが間桐桜であることを知って
いる﹂
﹁馬鹿な⋮﹂
唐突に切り出された言葉は、私が守るべき秘密。
バーサーカーが事も無げにまた言うが、それこそ最も知られるわけ
にはいかなかった事。
﹁はぁ、ライダー。何故かとかどうやってとか考えてるのなら無駄よ﹂
そう切り出したのはバーサーカーのマスター。
やや疲れた表情で続ける。
﹁コウジュについて深く考えるのは建設的じゃないわ。あなたについ
て何故知ってるのかっていうのもね。疲れるだけよ﹂
﹁失敬な﹂
自らのマスターに対し心外ですと反論するが、ギロリと睨まれすぐ
に縮こまってしまった。 なんだろう、この二人のやり取りを見ていると警戒している自分が
とても滑稽に思えてきます。
そんなわたしの雰囲気を察したのか、バーサーカーのマスターは続
けた。
﹁はぁ⋮ってまた溜息が出ちゃった。さておき、警戒するのも馬鹿ら
しいから止めておく方が良いわ。端的に言えばコウジュの目的は間
214
﹂
桐桜の救出よ﹂
﹁桜⋮の⋮
恥も外聞もなく動揺してしまう。
何故
訳が分からない。
桜を救う
?
示され揺らいでしまった。
うあ⋮、ひゃんじゃったじゃん⋮⋮﹂
﹁それで、私の本来のマスターを救うというのは本当ですか
﹁モチのロン﹂
﹁古い﹂
﹁う、うるしゃい
﹂
だから、聖杯など関係なく、ただただ願い続けたことを眼の前に提
きなかった。
生前からの儘ならない運命に憎しみすら覚えるが、抗うことすらで
われている状態。
しかし今の私はサーヴァントであり、桜との直接的なつながりを奪
く環境を許容することができない。
もありますが、私はあの子の運命を認めたくはない。あの子を取り巻
あの子は私にどこか似ているのもあって放って置けないというの
そして私は個人的に桜へと好意を抱いている。
のは桜です。
あれの所為で私は慎二に従っては居ましたが、確かに私を召還した
偽臣の書。
しかしその理由が思い浮かばない。故に信じられない。
う。
それが本当なら確かに警戒する必要もなく、むしろこちらから手伝
?
本来のマスターは間桐桜っていう子なんでしょ
﹂
﹁ああ、ごめんなさい。私もこの子に聞いただけなんだけど、あなたの
自分ながらとても不安げな言葉が出てしまった。
﹁あの⋮﹂
が掴めない。
何とか自分を取り戻し聞くも、真剣な表情でふざけるから事の真偽
!
?
215
?
?
﹁ひぇど、コホン⋮⋮けど聖杯戦争自体には偽臣の書を使って慎二が
参加。まあ、それは今はいっか⋮。とりあえず、問題は爺だな
間桐臓硯、300年前のまとう家がまきり家で在った時から生きて
いて、虫と融合してまで命を永らえている老害。あいつをどうにかし
ないと、桜を救えない﹂
﹁確かに、それはそうですが⋮﹂
本当にどこまで彼女は知っているのだろうか。
今なら彼女が未来から来たと言っても信じられる。
魔術師とは基本的にその成果を秘匿する。
勿論、それは一般人に対してだけではなく、同じ魔術師たちに対し
てもそうだ。
だから本来ここまでの情報を持っているバーサーカーは異常だ。
しかもそのマスターの言い草では、バーサーカー本人がその情報を
得ていたということになる。今見ている限りではそこに嘘は無いの
であろう。偽る理由も思いつかない。
﹁全て知っているのですね⋮。一段と何故知っているのかを知りたく
なりました﹂
﹁あきらめなさい﹂
﹁そ、そうですか⋮⋮﹂
﹂
遠い目をしたバーサーカーのマスターに気圧されてしまい、そんな
言葉しか出なかった。
あれは悟った目だった。
確かに一つの境地だった。
﹁ライダーはどうしても桜を助けたいんだよな
﹁はい、勿論です﹂
その問いには即答できる。
れるようにするから﹂
仲間。
これはまた私に似合わない言葉ですね。
ああ、ちなみに桜が
216
?
真のマスターのままってのはできないけど、事が終われば近くに居ら
﹁じゃあ、桜を助けたら⋮仲間になってくれる
?
?
何を以て仲間とするのか、どこまで求められるのか、全くわかりま
せんがバーサーカーの瞳は本気だ。
桜を救う自信があり、恐らく私がいなくてもことを成し遂げるであ
ろう気概がうかがえる。
﹂
﹁それなら⋮構いません。私は命を賭してでも桜を助けたい﹂
﹁どんなこともする
﹁勿論です﹂
しましょう。
良いんすか
?
そこに否やはありません。
﹁え、まじで
﹁自重﹂
﹁あい﹂
﹂
本当に桜を助けてくれるなら、私は私の全てを掛けてあなたに協力
?
だ、大丈夫なのでしょうか。少し不安になってきました。
217
?
ft﹄
﹃stage20:In der Nacht, wo
alles schl
﹁さて、桜ちゃんをいつ助けに行こうか⋮。出来るだけ早く行きたい
んだけどねー⋮﹂
実は、桜の助け方は決めかねている。
俺自身がやったゲームのルートじゃ全然関わってこないし、二次で
は結末なんて読んだ数だけ違う。
俺の知識ではよく知らない部分が多いんだ。
﹂
分かってるのは、桜の中に虫がいて、虫は心臓とほぼ融合している。
そしてその虫を殺さないと爺は死なない。
それは、爺の本体がその虫だから。
︶﹂﹂
つまり、爺の命と桜の命はつながってしまっている。
︵ですか
﹂
﹁いや、桜の助け方を考えててさ⋮⋮﹂
﹁え、考えてあったんじゃないの
﹁契約を持掛けるのですから、普通は考えておくのでは⋮⋮
逆手に持つ巨大なナイフのような剣達︵ツインダガ│︶。
2対とも見た目は一緒だが、能力が違う。
﹁絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる連鎖の双小剣。過去
と未来の過ちを支配し、表裏一体の運命を覆すほどの力を持つ、サイ
カ・ヒョウリ。
絡まりし事象の鎖から、その姿を表すとされる連鎖の双小剣。空間
と時間の亀裂を制御し、時空の法則をも乱す絶大な支配力を持つ、ツ
ミキリ・ヒョウリ。
218
ä
?
ヒョウリシリーズ⋮出てこい﹂
?
そう言い、俺が出したのは2対で一つの剣が2種。
﹁いやいや、一応考えてるよ
?
﹁どうしよっかな⋮﹂
﹁﹁どうしたの
?
二人して声をかけてきてくれた。
?
﹂﹂
ぶっちゃけこれあったら、今すぐに救えます﹂
﹁﹁⋮は
さっきから仲が良いね。焼けちゃう。
って冗談言ってる場合じゃないか。
﹁こいつらが持つ概念を利用すれば、桜ちゃんの中にある虫に関する
時間を斬り離すって反則技が使える筈だ﹂
﹁じゃあ使えばいいじゃない﹂
﹁いやぁ、それがね、俺って概念を使うことはできるけど概念そのもの
を操ってるわけじゃないんだよ﹂
﹁う ん、待 っ て。何 か が お か し い。そ も そ も 使 え る 時 点 で お か し い。
﹂
⋮って、ツッコんでいたら話が進まないわね。どうせあなたの事だか
ら、何かあるってことなんでしょう
もう慣れ始めたイリヤのジト目。
というか俺に何か問題があるのを前提に話さないで頂きたい。あ
?
って言いたいところだけど、ほんとにそうなんだよ。
るかどうかはさておいて
﹁異議あり
!
だ。だから斬るうえで能力を行使する必要がある﹂
﹁だったら、こう、ちょっとだけ斬るとか出来ないのかしら
﹂
俺が能力を使う際はイメージがとても大切になる。そしてこれは剣
!
に響く。
チクタクチクタクと設置してある柱時計が時間を刻む音だけが場
まっているせいで、反応待ちの俺も動けない。
二 人 と も 真 顔 │ │ ラ イ ダ ー は ア イ マ ス ク で 解 り 辛 い が │ │ で 止
じ、時間が止まってしまった。
﹁こ、この剣、当たると一定確率で即死なんだ﹂
残っている。
ただし、前にも空間制御の方で使おうとして止めた最大の障害が
ができるはずだからイリヤの提案は的を得ている。
確かに、斬ることさえできれば直接干渉するっていうイメージを俺
イリヤ。
指先でもう片方の指をチョンチョンとつつくジェスチャーをする
?
219
?
﹂
﹁さて、どうやって桜を助けようかな
﹁無かったことにした
﹂
?
一応打開策は用意してある﹂
解せぬ。
﹁なんでさ
﹂
﹁さて、どうやって桜を助けようかな
﹂
すればいいじゃないって感じでですね││﹂
﹁簡単に言えばだな、死ぬ可能性があるなら死んでも大丈夫なように
い。その撫で下ろされた胸をジト目のままチラッと見るイリヤも。
凶器
その横でライダーがほっと胸をなでおろしているのが微妙に可愛
またしてもジト目なイリヤ。
﹁⋮あるなら先に言いなさいよ﹂
﹁タイム
俺も失敗してばかりではないのだ。
ただ、少し待ってほしい。
まだライダーはオロオロしてるって言うのに。
まった。
んてモノローグが付きそうなくらいあっさりと思考放棄されてし
考えても意味が無いので、そのうちイリヤは考えるのを止めた⋮な
!?
?
前にイリヤに渡したカードあるじゃん
ての苦肉の策だと言うのに。
﹁ほ、ほら
?
あれを桜ちゃんに渡したうえでヒョ
﹁あの人型が描かれたカードの事よね﹂
s right
!
﹁で
﹂
﹂
?
﹁でって
﹁まだ何かあるんでしょう
﹁うぐ⋮﹂
﹂
生き返ることができるって寸法さ﹂
ウリシリーズを使う。それならもしも即死効果が発動しちゃっても
﹁That
﹂
数ある武器を一個一個確認して桜をどうにか助けられないか考え
!?
!
'
220
!
?
?
完全にバレてる⋮。
そう、どうして最初から言わずにこんな遠回りな説明をしているの
﹂
あ、あってで
かっていう部分。俺がこの方法で不安が残っている部分についてイ
怒らないで聞いてくれよ
リヤは感づいているようだ。
﹁あー、あのね
﹁内容によるわ﹂
﹁えーっとですね、前に士郎で試したことが⋮にょあ
?
幼女がしちゃいけない目でニランデル
!
すね﹂
﹂
メッチャニランデル
﹁で
!!
!?
?
﹂
ひぃあ
あ の、イ リ ヤ さ ん な ん で そ ん な 睨 ん で る ん で せ う ⋮
全だったみたいで⋮。だからちゃんと使ったことが無いというか⋮
﹁その時に、ちょっと弄って使ったら命は助かったけどどうやら不完
?
?
だから、逃れきれてはいないのか
ま、まぁ、今考えても仕方ないよね
﹂
ライダーどうしたの
て目を向けると、何やら固まっていた。
そういえばさっきから全然ライダーが話していないことに気付い
﹁って、あれ
!
?
何とかイリヤの追及は逃れられたようだ。いや先送りにしただけ
﹁ういっす﹂
いよ﹂
﹁⋮⋮はぁ、それを言われると仕方がないわ。後で詳しく説明しなさ
もって思ってさ⋮﹂
﹁ほ、ほら、あの時は悩んでる時だったしあんまり別件で煩わせるの
る。
だが鋭い眼光で棒読みの為、可愛らしさは成りを潜めてしまってい
少女らしい声音でそう言うイリヤ。
なー﹂
て な い な ー。遠 く か ら 様 子 見 だ け し た っ て 聞 い た と 思 う ん だ け ど
﹁その辺りの事を私知らないなー。なんでだろうなー。教えてもらっ
!?
?
?
221
?
どうしたのだろうかと声を掛けてみると、ハッと再起動したライ
ダーは恐る恐るといった感じで口を開いた。
﹂
﹁あの、あなたは命のストックを誰かに譲渡することができるのです
か
﹁まだ検証する部分はあるけどね﹂
﹂
﹂
﹁話が戻るんですが、経験した時間を抜き出すという魔法を行えるの
ですか
﹁たぶん﹂
すごくない
﹁そういえば、空間移動していたような﹂
﹁あれ昨日出来るようになったんだ
!
ね。
﹁頭が痛い⋮﹂
あれ、何故かライダーが頭を抱えだした。なにゆえ
﹁大丈夫、慣れるわ⋮﹂
﹂
?
ライダーは項垂れた。
﹁っ⋮⋮﹂
イリヤは諦めるように首を振った。
﹁⋮⋮﹂
る。
微妙に涙目になりながらライダーがイリヤにアイコンタクトをす
﹁⋮⋮﹂
でも何がダメだったのかよくわからん。
たぶん、俺が悪いのだろう。
﹁えっと、俺なんかした⋮
こう、ナカーマと言わんばかりに。
すごくいい笑みだ。
そのライダーの肩にトンと手を置きながら慰めるイリヤ。
?
ふふん、俺も失敗ばかりじゃないのさ。失敗は成功の友って言うし
う俺。
なんだか褒められた気がしてついつい嬉しくなってドヤ顔しちゃ
!?
?
あれー⋮
?
222
?
◆◆◆
ありえないなんてことはありえない。
そうコウジュは言っていた。ドヤ顔で。とりあえず魔術で攻撃し
ておいた。
確か、それが冬木に来る前だ。
けどありえないと言いたい。ライダーも言いたいだろう。
コウジュが言うには、根本のルールが違うからそう感じるだけなそ
うだけど、全く別のゲームでルールを混ぜてプレイしても成り立つわ
けがないし、無理矢理行っても混沌とした何かになるだけだと思う。
って。
コウジュに会ってからずっと考えていた。
魔法って何なのだろう
魔術師は﹃根源﹄へ至るため魔法を目指す。
根源へ至った結果が魔法とも言えるそうだが、どちらにせよ目指し
たからといってどうにかなるものではない。
だが、目の前のこの子はそれができる。
私は魔術を使える。だけど、本当の意味では魔術師ではない。
なぜなら私は至ろうなどとは考えていないから。
そんな私がコウジュのマスターだなんて何の皮肉でしょうね。
ともかく、コウジュはおそらくこの世界で一番根源に近くて、一番
根源を理解していない。その内側についてもそうだけど、その外側に
群がるモノについても。
それはある意味仕方ないのだろう。だって彼女は異世界の存在だ。
色々知ってはいても。
でもコウジュはここに居る。この世界に居る。
英霊が封印指定を受けるだなんて聞いたことは無いけど、受肉して
いる以上コウジュは実験材料としては破格の存在だろう。
そもそもおかしいのよ。
スペックで言えば神霊の類いだし本人も神様見習いだと言ってい
る。けど、英霊という枠にはまっている。
223
?
それはきっとコウジュの力が安定しないことに関係するんじゃな
いかと思ってる。
ただ、コウジュが言うには使えば使うほど安定するらしく、実際に
普段はコウジュの好きなようにさせているんだけど、テンションが上
おーい、マスターどのー﹂
がってしまうと何をしでかすのか分からないのが玉に瑕だけど。
イリヤー
﹁イリヤ
?
﹁にゃ、にゃにを
﹂
﹁コウジュが私のサーヴァントでほんとよかったなぁーって﹂
﹁ほむ、それなら良いんだけど﹂
﹁ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたのよ﹂
のが分かる。
可愛く首をかしげながらも、その表情から私を心配してくれている
そう言いながら私を見るコウジュ。
﹁なんだかぼーっとしてたみたいだから﹂
んでしまっていたようだ。
コウジュの呼ぶ声に意識が引き上げられる。どうやら一人考え込
﹂
﹁⋮なに
?
﹂
?
ラブ生活﹂
!?
コウジュがさらっと言った言葉に、飛び跳ねるように慌てるライ
﹁そんなこと言ってませんよ
﹂
めに協力してもらえることになった。報酬は桜ちゃんの救出とラブ
﹁とりあえずライダーにも軽く現状の説明をして、俺たちの目的のた
を反らす。
言葉にしないがそう考えているのを見て取ったのかコウジュが目
誰の所為だと思ってるのよ。
﹁うあー、イリヤがどんどんドSになる⋮﹂
﹁それで、話はどこまで進んだの
って、コウジュで遊んでいる場合じゃないわね。
がかわいい。
私の一言で、一転して顔を真っ赤にしながらあたふたするコウジュ
!?
224
?
ダー。
頬を真っ赤にしながら全力で否定しているところを見ると怪しい
ものだ。
一先ず、気持ちを入れ替えるためにもお茶でも入れようかしら。
内容は脱線してばかりだけど、話してばかりで喉が渇いてきている
し。
今現在も脱線しているしね。
お茶を入れるために席を立ち、勝手知ったるなんとやらで手際よく
準備をする。
まだ使い始めてそれほど経っていないが、このマイルームは本当に
居心地がいい。
現代よりも進んだ電子機器があるため楽しくもあったりする。
お湯を沸かすのもすぐであるため、湧いたお湯で手順を守りながら
ライク
﹂
﹁やっぱりラブラブしたいんじゃない
﹂
﹂
﹁ラっ⋮イクです
﹁ライブ
﹁何故ライブ
﹂
!
﹂
せめてラブかライクに
﹁あ、ラブライブ
﹁悪化した
﹂
﹂
﹁だから
﹁ラヴ
!
?
﹂
﹂
225
準備をしつつのんびりと後ろで聞こえてくる声に耳を傾けてみた。
﹂
﹂
﹂
?
﹁違うの
﹁違い⋮ます
﹂
!
﹁確かに好きではありますが⋮﹂
﹁じゃあ好きなんだね
﹁嫌ではありませんが⋮﹂
﹁桜ちゃんと一緒は嫌なの
!
!?
﹁じゃぁラブで﹂
!?
?
!
?
?
!!
﹁違うそうじゃない
!
?
﹂
﹁あ、桜ちゃん﹂
﹁#$%&
﹂
だからストップストップ
騎英の手綱
ベ ル レ フォー ン
﹁⋮のことなんだけど﹂
ベ ル レ フォー ン
﹁騎英の手綱
﹁ちょ、悪かったって
﹁平和ねー⋮﹂
でも聖杯戦争ってこんなので良かったっけ
◆◆◆
スケープドールをライダーに使うってことよね
﹂
﹂
﹁一回⋮と言うことは、さっきコウジュが言ってた桜に使うっていう
うことになる﹂
﹁説明は後でするとして、簡潔に言うとライダーには一回死んでもら
茶をフーフーと冷ましながら飲む。
ど︶ライダーからちょっと目を反らしつつ、イリヤが容れてくれたお
攻撃できないからと無言で睨んでくる︵アイマスクで見えないけ
﹁⋮⋮﹂
もらいたいことがあるんだ﹂
﹁さておき、だ。桜ちゃんを助ける交換条件としてライダーにやって
!
!!
﹂
?
だろうと想像が付くが、霊体でもあるサーヴァント相手ではどうなる
俺は受肉している訳だし、恐らくゲームの時と敗北条件は一緒なの
う変化が起こるか知るためってのがあった。
俺たちの目的としては、スケドをサーヴァントに使った際にどうい
イダー的にも桜ちゃんでやる前に経験しておきたいでしょ
﹁その通り。これは俺たちの為にってのが最初の目的だけど、まぁラ
?
226
?
!
!!
!?
のか、スケドで甦った場合聖杯戦争への参加権はどうなるのか、その
・・・・・
辺りをはっきりさせておきたい。 実験になってしまうが、もし想像通りに働いてくれれば、色々と仕
事が楽になる。
﹁桜を助けてくれるのであれば、私の命など使っていただいて構いま
せん。そもそも私はあなた方に囚われているのですから、強制的にし
て頂いても構いません﹂
そんなことを若干の申し訳なさと共に考えていたら、ライダーさん
がそう言ってきた。
うん、やっぱり助けたいなぁ。
ライダーが学校でしたことは決して許されてはいけないことだろ
う。
でも、誰かをここまで思いやれる人を見捨てるなんてことは俺には
出来ないや。
﹂
いえ、何かあるとは思っていましたがそういうことだったの
227
それに、何かを詫びるってのはやっぱり生きてするものだと思うか
ら。
﹁その意気や良しってか。でもそれじゃあ本当に桜ちゃんを助けたこ
﹂
とにはならなさそうだ﹂
﹁どういうことですか
かしてあげたいと思ってしまうのだ。
傲慢な考えかもしれないが、すれ違いだって知っている以上どうに
桜を助けるならば、当然凜との仲も取り持つ必要があるだろう。
それは凜との関係だ。
そこでふと思いだす。
はこの際無しで行こうや。
誰かを助けても助けた側が助かってないなんてよくあるパターン
さってことさ﹂
﹁ま、簡単に言えば契約した以上、桜ちゃんには幸せになってもらう
?
﹁そういや、ライダーは桜ちゃんが本来遠坂家の人間だって知ってる
かい
﹁っ
!? ?
ですね⋮﹂
細かい描写は忘れたが、アニメでも凜が桜を気遣うシーンはいくつ
かあったはずだ。
それをライダーは目撃したんだろうな。
﹁桜ちゃんは本来遠坂家の人間で、現当主遠坂凜の実の妹。けど魔術
師の家系故に古くせぇ仕来りやら柵やらもあって間桐の人間になっ
た。魔術師の家系は魔術刻印のこともあって引き継ぐ存在は一人し
か無理だ。だけど桜ちゃんは才能があった。だからこそ前当主は他
家に養子にやりその才能がつぶれるのを防いだ。問題は、その他家っ
てのが間桐なわけだが桜ちゃんを母体としてしか見ていなかったっ
てこと﹂
そこまで言うと、ライダーは鎮痛な面持ちになり、対してイリヤは
怒りを露わにしていた。
男としての人生しか知らない俺では分からないが、それでもそれが
228
ひどいことだってのは分かる。いや、ひどいなんて言葉で片付けてい
いものではないのだろう。
イ リ ヤ は 特 に そ の 産 ま れ が 少 し 特 殊 だ か ら 余 計 に な の だ ろ う な。
アハトの爺に何か言われた時と同じ表情だから何かを思い出してい
るのかもしれない。
仮にも御三家のひとつ。桜に対する外部
﹁まぁ、その辺りの間桐の爺がした細工は俺が切り取る﹂
﹁危険ではありませんか
﹁ソウデスネ⋮﹂
どさ﹂
も角、とっさに精密作業が出来るとは思えん。ぶっぱは得意なんだけ
﹁問題は人質として桜ちゃんが扱われた場合なんだよ。集中すれば兎
なんだかいきなり蔑ろな返事をされたような気がする。
﹁アッハイ﹂
それならまるっと切り取る方がイメージしやすい﹂
﹁いや、むしろそんな細々したものを慎重になんて俺には出来んさね。
せん﹂
からの接触に対して防衛機能を混ぜ込んでいても不思議ではありま
?
﹁けどまぁ切り取った後は桜ちゃんの内側に居る寄生虫とその周りも
ちょちょいと綺麗にして、そこからは桜ちゃんの自由だ。ただし、俺
が目指すのはハッピーエンド。ライダーも死なせはしない﹂
やる。いや、できる。出来ると信じているなら出来るはずだ。
Koujuになる前では決してなかった心の動き。
普通に考えれば恥ずかしいセリフも、本当に思っていても別の感情
が邪魔をして表に出てこなかった内心も、やたらと素直に表に出てく
る。
ちょっと表に出過ぎて隠したいものまで出るのが難点だが、昂ぶり
やすいのは戦闘をする際にも助かる。
有言実行。成せば大体何とかなるって最近言うらしいし。
﹁というわけで、一回逝ってみようか﹂
229
・
・
・
所変わってアインツベルンの屋敷。その周囲に広がる森の中に来
ました。
﹂
﹂
マイルームの中でヤる訳にもいかないのでイリヤとライダーを連
れてここへ来たわけだ。
﹁さぁじっけ⋮実践してみようか
﹁いま実験って言いそうになっていませんでしたか
﹁ソンナワケナイジャナイカ﹂
トだからすっかり気にするのを忘れてしまっていた。
この身体になってからは睡眠欲が減ったし、ライダーもサーヴァン
欠伸を噛み殺しながら言うイリヤは本当に眠そうだ。
現時刻は既にてっぺん越えして2時に差し掛かろうってところか。
なってきたわ﹂
﹁はいはい、漫才はもう良いから早くしましょうよ。いい加減眠たく
!?
!
﹁ふ ー む、夜 更 か し は 美 容 の 天 敵 ら し い か ら な。イ リ ヤ の 為 に も さ
さっと終わらせるか﹂
﹁私としてもその方がありがたい。断頭台に上がったまま居続けるの
は中々に受容しがたいので﹂
﹁おk﹂
懐からカードを出し、読まないようにだけ伝えてから少し離れる。
イリヤは既に巻き込まれない位置だ。
ひょっとしたら外に出た時点でライダーは逃げるかもなんて思っ
たりもしたが、そんな様子もなくただ俺の行動を待っている。
まぁ、わかめがどこに居るのかもわからないし偽臣の書も行方不明
︵実は回収済み︶だからどうしようもないってのもあるかもしれない
けど。
とは言えどうやろうか。
生き返ると分かっていても、誰かを殺すのは初めてになる訳だ。
だかを使えばいいじゃない﹂
?
﹂
!?
230
殺しそうになったことはあってもあれはテンションがかっ飛びん
ぐしている戦闘中のことだから躊躇わずにぶっ放すことができた訳
で、素面でさぁヤるぞとは行かない。
中身一般人ですからね、自分の血がプシャーと出るだけで卒倒物で
すよ。
﹁⋮今度は何を悩んでるのよコウジュ﹂
またしてもまごまごしている俺に声を掛けてくるイリヤ。
その眼は眠気からか半目だ。ジト目ではないと思う。
﹁えっとどうやろうかと思って。ほら、血をぶしゃーってまき散らす
だからこう一撃必殺的なものを模索中でしてです
な ん て し 辛 い し。一 瞬 で 終 わ ら せ て あ げ な い と ラ イ ダ ー が 苦 し ん
じゃうじゃん
ね﹂
﹁冬木市を吹っ飛ばす気か
﹁だったらあの桜色の魔砲⋮
割と真剣に悩んでるのに⋮。
﹁そんなことかって、軽いっすねイリヤさん﹂
﹁なんだそんなことか﹂
?
﹁吹っ飛ぶのですか
﹂
やっぱり眠たいのですねイリヤさん。その選択肢を挙げてくると
は思わなんだ。
おかげでついツッコんでしまったぜぃ。
というか突っ込んだ俺に突っ込むなんてライダーもこの短い間に
馴染みましたね。
一体誰の所為なんでしょうねぇ⋮。
﹂
まぁでもイリヤの御陰でイメージは掴めた。
﹁うし、コクイントウホオズキ
冬木市は大丈夫ですか
殺してしまいそうだし。
﹁決まったのですか
﹁いや大丈夫だから﹂
﹂
何せかなり物騒だからね。というか使ったらスケドの能力越えて
ちなみに概念は今回使わない。
俺が取り出したのは大剣に分類される長刀。
!
ノセイデス。
﹂
ジュッて何かが蒸発するような音がしたかもしれませんが勿論キ
うん、魔力をぶっ放しただけです。
﹁げつがてんしょおおおおおおおおおおおおお
﹁待ってください。もうすこし│││﹂
﹁そいじゃぁ行くぞー﹂
ゆ゛る゛さ゛ん゛
せっかくライダーに気を使ったというのにひどい扱いだ。
これは俗に言う風評被害ではなかろうか。
﹁でもあなたの事だから⋮⋮いえ、なんでもありません﹂
?
!!!!!!!!!!!!!
231
!?
?
!!
けどなんかライダーがロリっこになりました。
232
︶│││
﹃stage21:敵のマスターを発見
│││士郎捕獲なう︵`・ω・
﹁ポチっとな⋮﹂
﹄
!
﹄
その時に、ゲーム的表現だからだろうかHPやPPなどは回復され
るというもの。
動で言えば死んだ直後にスケドを消費することで光に包まれ生き返
スケープドールというのは蘇生アイテムなわけだが、ゲーム内の挙
がその辺りは未だ推測の域を出ていなかったりする。
そもそもの話、なんでライダーがロリ化したかっていう部分なんだ
合いをするくらいならこっちの方が良いよね。
これで良いのかサーヴァントと思わなくもないが、殺伐とした殺し
しい。
最近ハンドルネームを使ってチャットをするのにはまっているら
こと位だろうか。
ルームで端末を前に引きこもる幼女が出来上がってしまったという
ぱらって来た魔眼殺しである眼鏡をライダーに上げた結果、俺のマイ
あえて言うならば、アインツベルンの本家の城から扉を使ってかっ
てしまったが特に何事もなく日は過ぎていた。
ライダーロリ化事件から早数日、よくわからんロリ同盟が結成され
さておき、士郎の捕獲任務完了でございます。
イリヤはツンデレ。反論は許さない。
﹃誰がお母さんか
﹃はーいお母さん﹄
﹃⋮早く帰ってきなさい﹄
﹃でも見てくれてるじゃん﹄
﹃念話使いなさいよ﹄
そんな感じに某SNSで呟くと、イリヤから念話が来た。
´
るがブラストゲージはリセットされる。つまり戦闘状態がリセット
される。
233
!
ただ、経験値はリセットされるわけではないんだよ。
だからスケドって純粋な意味での復活じゃなくて、転生に近いん
じゃないかと思う。
通りで不老不死とは別に渡されたはずだ。
不死殺しなんてものがある理不尽な世界だもんな。例え死んでも
新たに身体を作るなら、少なくとも生存はできる。
隙を生じさせぬ2段構えとは恐れ入る。
⋮⋮話がそれてしまったが、重要なのはこの転生に近いという部
分。
ライダーにこれを使った際にライダーも転生したようで、完全に受
肉していたのだ。
例えば、聖杯の中身を飲むことで受肉できるらしいが、イリヤに聞
いたら受肉というのは現界をするのに聖杯のバックアップを必要と
しないようになることなのだそうだ。
234
だが、スケドを使うと一個の生命体として〝受肉〟する。
原作設定では倒されたサーヴァントの魂は魔力となって聖杯に溜
まるようになっていたのに、だ。
勿論ちゃんと確認してみたが、聖杯の中に一騎分貯まっているらし
かった。
じゃあ受肉したライダーは何処から来たのか⋮という疑問が残る
訳だが、たぶんスケドは魂ごと再生というか転生させてしまったのだ
ろうという結論に至った。 恐らくとかたぶんとかばっかりだが、つまりはロリライダーは完全
に 聖 杯 か ら 切 り 離 さ れ た 一 個 の 生 命 と し て 生 還 し た わ け だ。ま ぁ
﹃座﹄の中にはまた別に大元のライダーが居るのかもしれんが。
ちなみに、何故死ぬ前の状態からの再構成が受肉になるのかは思考
放棄しました。
ロリっ子になることを望んだとかじゃなくて、完全
可能性が一番高いのは俺が望んだからってことらしいが⋮⋮いや、
ちゃいますよ
な受肉をすることをですからね
うん、まぁ、ここまで長々と述べたけど、イリヤが最後に﹃コウジュ
!!?
?
﹄なんて言うもんだからそれが正解なような気がしてき
﹄とか﹃余計なことを考えてカードの効果にエラーが起きたん
がライダ│に第二の人生を望んでいたから起きたご都合主義じゃな
い
じゃない
た。
とりまそんなわけで、ライダーはルーテシア⋮ゲフンゲフン、幼女
になったのでした。
で、だ。
﹄と。
その辺の検証が終わった辺りでイリヤが言いだしたのだ。﹃そろそ
ろ良いんじゃない
﹂
になるのが士郎の誘拐になる訳です。
﹁おかえりなさいコウジュ。首尾は
そのキークエスト
だから、次の目標は打倒アーチャー。
沿うルートは〝Fate〟ルート。別名セイバールートだな。
な。
ぶっちゃけて言えば、筋書きが予測しやすい原作添いなんだけど
郎・凜チームに決めていたのだ。
というのも、俺が事前に話していた計画では次に攻める相手を士
?
困るぜ。
﹁イリヤ、調子はどうだ
﹂
ほんと、跡を残すためわざと歩いて帰ってきたのだから釣れないと
労いの言葉とか欲しかった。いやまぁ良いけどさ。
色々心配したり、目の前の士郎に思うところがあるのは分かるが、
るなりイリヤが立っていた。
士郎を連れアインツベルンの城に戻ってきたわけだが、玄関扉を潜
﹁そう、なら良いわ﹂
﹁上々。後は結果を御覧じろってね。準備も万端さ﹂
?
?
それが、小聖杯たるイリヤの使命であり機能として与えられた性質
イリヤは今、体内にライダー分の魔力を内包している。
考えていても仕方ないし、気になっていたことを聞くことにした。
﹁問題無いわ。今の感じだと、後2騎分は大丈夫だと思う﹂
?
235
?
?
だ。
そしてその性質は徐々にイリヤの人間性を圧迫し、最後には塗りつ
ぶしてしまう。
﹁それまでに、終わらせないとな⋮﹂
﹁ふふ、心配性ね﹂
﹁そりゃな﹂
俺が思いついたシナリオはFateルートに沿ったものだ。
我ながら想像力が無いと思うが、それしか思いつかなかったのだ。
だけど、それを行うと何騎か内包してもらう必要がある。
﹂
勿論確認したが、イリヤは任せると言ってくれた。 ﹁でも、あなたは助けてくれるんでしょう
﹂
﹁⋮⋮絶対にな﹂
﹁なら大丈夫ね
﹁うぅん⋮﹂
でもだからこそこの少女を助けたいと思ったのだ。
ない。
中身は成人してるってのに、何を年下に励まされてるんだか。情け
﹁そうそう﹂
﹁そか﹂
﹁あなたは私が召喚したのだから、絶対できるわ﹂
﹁イリヤ⋮﹂
え過ぎよ﹂
﹁コウジュ、あなたが何をどこまで知っているのか知らないけれど、考
そういえば確認した時もこんな感じだったな。
?
俺たちの話声に士郎が目を覚ましそうになっているようだ。
ふむ、さっさと準備しますかね。
﹁士郎が起きそうだな﹂
﹁じゃあ始めましょうか﹂
﹁だな⋮﹂
◆◆◆
236
!
﹁ぐ⋮﹂
﹁あ、起きた
﹂
﹂
﹁はぁ、やっと
﹂
何がどうなったんだっけ⋮。イリヤに身動きを封じられて⋮その
まま⋮⋮。
﹁士郎、声は出せるかい
捕まえた敵は本当なら地下牢に入れるんだけど、士郎
他のマスターは殺すがお前
?
そうすれば殺さなくて
最後にぼそっと何かを言ったみたいだが、どういうことだ
俺だけは殺さない
を殺す気はないんだよ⋮⋮︵ウソだけど︶⋮﹂
﹁俺たちは士郎を殺す気なんてないぜ
わざわざこんな所に連れてくる意味が分からない。
実際に俺はあっさりと捕まっている。
きた筈だ﹂
﹁どうして俺をそんな所に連れてきた。俺を殺すならあの公園でもで
来ようにも早々これはしない所にあるからゆっくりしていきな﹂
﹁それでまぁ、士郎君が捕まったここは樹海の中のお城、誰かが助けに
ないか。
な。ってこれ、縛られてるだけじゃなくて魔術でも拘束されてるじゃ
こ れ で 椅 子 に 縛 ら れ て い な け れ ば と て も 微 笑 ま し い ん だ け ど
でも確かに、とても牢獄には思えない可愛らしい部屋に俺は居る。
いや、そんなむしろ喜んでほしいみたいなことを言われても⋮。
は特別だから私の部屋に入れてあげたんだからね﹂
﹁不満なの
すると今度はイリヤが話しかけてくる。
大人げないとは思うが少し皮肉を込めて返す。
ハッキリしてる﹂
﹁ああ、頭の方も自分が捕まってるってことが理解できるくらいには
た。
コウジュが目の前で何故か嬉しそうにしながら俺に話しかけてき
?
﹁ねえ士郎。私のサーヴァントにならない
?
?
?
237
?
?
?
済むわ﹂
﹁そんなの無茶苦茶だ﹂
恐らく執事という意味で言ってるんだと思うが、どっちにしろお断
りだ。
﹂
﹁ふむふむ、士郎は嫌だ⋮と﹂
﹁当たり前だ
そう言うと、コウジュは呆れたように一つ溜息をついた。
そのことを考えてもう一回考えてみ
﹁はぁ⋮、とりあえず言っとくと今の士朗はかごの鳥状態だ。生かす
も殺すも俺達次第なんだぜ
ろ﹂
﹁待て
セイバーも遠坂も関係ない
俺をどうにかするのならまだいい。
俺がイリヤと居られないの
そしてそれは、俺には放ってはおけないものだ。
しかしその光景に反して内容は似つかわしくない。
に。
あまりにも軽いやり取りだ。まるで近くに買い物へ行くかのよう
﹁そーなのかー⋮っていうわけで、殺しに行ってくるわ士郎﹂
郎はセイバー達が居るから了承しにくいのよ﹂
あ、そうだ。セイバー達を殺しに行きましょうコウジュ。たぶん、士
﹁せっかく十年も待ったんだものすぐに殺すのももったいないし⋮。
﹁だってよイリヤ﹂
俺にはまだやることがあるんだから。
いんだ。
何とかしてここを脱出して、セイバー達のもとに帰らないといけな
俺の意思は変わらない。
﹁それでも嫌なのは変わらない﹂
?
!
だが俺の所為で誰かを犠牲にするなんて許しておけるはずがない
わらないぜ
﹂
?
238
!
は俺の都合で⋮﹂
!
﹁残念、どっちにしろ他のマスターを殺す必要はあるから殺すのは変
!!
﹁さ っ き か ら 殺 す 殺 す っ て ⋮ 簡 単 に 人 を 殺 す な ん て 言 う ん じ ゃ な い
﹂
なんでそんなにも簡単に殺すなんて言えるんだ。
命はもろい。とてももろいんだ。
ふと気づけば人は居なくなっていく。
さっきコウジュが言ったように今の俺は籠の鳥で、いつでも殺すこ
とができるような状態だ。
でも、そんなことはすっかり頭から抜けて、ただただ彼女たちが人
の命を軽く見ていることが悲しかった。
だからそんなことは言わないでほしい。
だけど現実は非常なものらしく、その願いは届かないようだ。 コウジュが俺へと顔を近づけてくる。瞳の奥が見えそうなほど近
くだ。
とても可愛らしい顔立ちだ。いつもの俺なら恥ずかしさに顔を背
けているだろう。
でも今の俺にはその余裕が無かった。
圧力。それが目の前のコウジュから放たれている。
足が震える。氷柱を入れられたように背筋が凍る。冷や汗が止ま
らない。
縦に割れたコウジュの瞳が、俺を貫くように見ている。
それも、コウジュが殺した
﹁残念、今更一人も二人も一緒だよ。お前の知っている間桐慎二はも
う居ない﹂
慎二が死んだ
?
じゃない。
﹂
いやそれ以前に殺されて良い人間なんて居るわけがないのに
﹁じゃぁ行ってくるぜ士郎。そこでおとなしくしてなよ﹂
﹁行ってくるわ。士郎﹂
!
確 か に あ い つ は ひ ね く れ た 部 分 は あ る が 殺 さ れ て 良 い よ う な 奴
どうしてこんなことに⋮。
﹁慎二⋮が⋮⋮
頭をガツンと叩かれたように、その言葉は俺へと突き刺さった。
?
?
239
!!
そう言って二人はこの部屋を出て行った。
くそっ、早く何とかしないと。
セイバーはまだまともに戦えない。 遠坂が言うには、コウジュがセイバーの魔力を吸ったから魔力が少
なくなっていると言っていた。
つまり今、コウジュと戦えるのはアーチャーだけだ。
無理をすればセイバーも戦えるだろうが、あのコウジュに全力を出
せないセイバーが立ち向かえばどうなるかなんて明白だ。
あのいけすかないアーチャーだけではコウジュに対抗できないの
も前回で分かってる。
﹂
ライダーもあっさり捕まえていたし、早くしないと⋮⋮。
﹁ぐっ、早くセイバー達の所に行かないといけないのに
魔術的にも縛られているからか、自分の身体の筈なのに思うように
動かない。
仕方がない。
トレース
オ
ン
少し荒っぽいが身体に魔力で洗い流す。
﹁同調、開始⋮⋮﹂
◆◆◆
﹁さて、これで士郎達は頑張ってくれるかしら﹂
﹁よくもまぁ、あれだけ悪役になりきれるもんさね﹂
いつも通り安定しない口調で軽口を聞いてくるコウジュ。
けどその表情はいつもより固い。
珍しく緊張しているのだろう。
とは言えそれも仕方ない。
今日これから、コウジュの作戦上では初の本格戦闘だ。
それもサーヴァントを一騎確実に仕留める必要がある。
そんなコウジュに、私まで不安気にしてしまう訳にはいかない。
この妹みたいな、姉みたいな、でも兄の様なこの子を支えると私は
240
!
密かに誓ったんだ。
だから私は、コウジュに何も心配いらないと、あなたはできるから
と、安心できるように笑みを作る。
﹁そう言うあなたもじゃない。普段あれだけ殺さないように気をつけ
ておいて。あのわかめみたいな髪型のマスターのことなんて出鱈目
にもほどがあるじゃない。命の保証が確実な所に送ったんでしょ
あのわかめが無事じゃないのは確かでしょうけど﹂
﹁まあねー、殺すの嫌だし⋮。自分とか大切な人の命が掛ったらどう
か知んないけど﹂
本当にこの子は甘いというかなんというか⋮。敵まで救う対象だ
なんて。
でも、そこがコウジュの良い所なのかしらね。
コウジュがその圧倒的な力を持つに反して、人の命を奪うことに強
い忌避感を持ってるのはすぐに気付いた。
力を使うことは楽しんでいるようだが、それを使って誰かを殺すこ
とを恐れている。
矛盾している。
この子は英雄としての力を持っていても、英雄になってはいけな
かったのだと思う。
だけどコウジュは、その力を使って私を助けると言ってくれた。
本当にうれしかった。
諦めていたのに、受け止めたと思っていたのに、コウジュは私に希
望をくれた。
私も矛盾しているわね。
コウジュに力を使ってほしくないと思いつつも、救って欲しいと望
んでしまった。
感化された⋮のでしょうね。毒されたとも言えるかしら
り向いた。
どうやらお客様のようね。
﹁んじゃ、行きますか﹂
241
?
そんなことを考えてるとコウジュが突然何かに気づいたように振
?
﹁出ていったふりをするんだっけ
﹂
﹁そうそう。マスターほいほいさね﹂
そう言って、コウジュが嬉しそうに外へ向かう。
﹁こ れ ほ ど 緊 張 感 の な い 聖 杯 戦 争 な ん て 史 上 初 な ん じ ゃ な い か し ら
⋮⋮﹂
そう言いながらもどこか楽しくなっている自分に気づき、苦笑す
る。
まったく⋮、コウジュには責任を取ってもらわないといけないわ。
希望を見せておいて失敗なんて許さないんだから。
失敗した時はどんなお仕置きをしてあげようかな
?
そんなことを考えつつ、私はコウジュの後を追った。
242
?
﹃stage22:あいあむざぼーんおぶまいそーど﹄
魔力を身体に無理矢理流す。
﹁っ⋮⋮﹂
やっぱり負担はあるな⋮。
身体から何かが抜け出る感覚と共に、やすりで体内を削られるかの
ような感覚が少し生まれる。その結果か、血が口元から一筋垂れた。
だが⋮、よし
縄もほどけたし、身体の調子もほとんど戻った。
早く、屋敷を出ないと⋮⋮。
扉の方へ向かい、部屋の外の様子を窺う。
しかし、数人の足音が聞こえてくる。それもこちらへと近づいてき
ている。
見回りか
暖炉の近くに鉄の棒を見つけた。
未だ本調子ではないから強化はできない。少し心許ないがひとま
ずこれで対応するしかない。
気づけば足音はすぐそこまで来ている。
このまま通り過ぎることを願うが、何故か、その誰かのうちの一人
は必ずここに来るような予感がした。
その予感が何を示すものなのかよくわからないが、警戒を怠る訳に
はいかない。
﹂
と蹴破る勢いで扉を押し開けると同時に入って来たのは
無事ですか
棒を強く握りしめ、いつでも振り下ろせるように構える。
﹁士郎
す。
振り下ろしそうになっていた鉄棒を気合で押しとどめ、静かに下ろ
なんとセイバーだった。
バァン
!?
243
!!
1度部屋に戻り、何か武器を探す。
!?
!
!
﹁セイバー⋮
﹂
どうしてセイバーがここに居るのだろうか
セ イ バ ー 自 身 の 魔 力 を 温 存 さ せ る た め に 寝 て も ら っ て い る は ず
だった。
というのも、コウジュに生命力を吸収されたせいで通常戦闘はまだ
しも今後を考えるならば宝具の解放は厳しいとセイバー自身から聞
いたから少しでも回復してもらうためだ。
気休め程度らしいが、食事で魔力を回復することも可能だと聞いて
いたからセイバーに寝てもらっている間に食事の材料を買いに行っ
たのだが、そこで捕まってしまった。
何かあった場合は令呪を使うように言われていたが、それをする暇
﹂
もなく連れて来られてしまったわけだ。 ﹁どうしてここに
てくる前に早く行くわよ﹂
﹁ま、一応協力関係にあるわけだしね。さぁイリヤスフィールが戻っ
と⋮。そして丁度イリヤ達が外出したのでその隙に侵入しました﹂
﹁私が協力を要請したのです。士郎がイリヤスフィールに拉致された
疑問を持った俺に気付いたのか、セイバーが答えてくれた。
アーチャーならば皮肉気に放って置けと言いそうなものだが⋮。
同盟を組んでるとはいえこの二人までいるとは素直に驚いた。
影が二つ。遠坂とアーチャーだ。
どうすればいいものかなどと悩んでいると、セイバーの後ろから人
﹁遠坂にアーチャーまで。どうして⋮﹂
﹁だからそう言っただろう。衛宮士郎は放っておけと﹂
しょう。﹂
﹁思ったより元気そうね。これなら私たちが出向くこともなかったで
しんだ結果がこれである以上言い訳にしかならない。 本当はセイバーが起きてから一緒に行くはずであったが、手間を惜
淡々と話すセイバーだが、かなり怒っているのが分かってしまう。
﹁それは私のセリフです﹂
?
そう言って早足に部屋を出ていく遠坂。
244
?
?
礼を⋮いや、礼は帰ってからにしよう。
今は脱出をしないとだな。
・
・
・
城の中を走る俺達。
お城というだけはあるようで、既にかなり走った筈だが出口は見え
てこない。
周囲には高価そうな置き物や絵が置いてある。
こんなときでなければ楽しめたかもしれないが、今そんな余裕はな
い。
そんな風に思考が横道に逸れている内に出口が見えた。
さ、行くわよ﹂
追いかける。
出口まででもおよそ50mほどか。
丸見えだぞ﹂
ちょっとしたスポーツ程度なら出来そうである。
そんな所を走る俺たちの靴音は当然のように響くが、誰も出てくる
気配はない。
待て、気配はない⋮
隠れて出てこないのならまだしも、気配が無いのはおかしくないか
?
のならどうしようもない。
245
しかし、出口に至るまでに少々問題がありそうだ。
﹁正面入り口⋮。こんな所通って大丈夫なのか
しょ
﹁相 手 が 留 守 に し て る ん だ か ら 最 短 距 離 を 一 気 に 行 っ た 方 が い い で
?
だが、考えている間にもイリヤが戻ってくる可能性は増すので俺も
大胆と言うか何と言うか⋮。
そう言いまた走り出す遠坂。
?
確かに俺の感覚は未だ未熟で、多少なりとも心得を持つ人間が居た
?
でも、だからってお客様を迎え入れるように何も妨害なく明かりだ
けが付いているってのはおかしくないか
かったか
﹂
目で確認するまで、気配もなく突如現れなかったか
﹁どうしたのですか士郎
気づけば俺の脚は止まっていた。
遠坂の答えに溜息をつくアーチャー。
﹁しまった⋮。そういうことですか﹂
罠っぽい魔術や仕掛けなんて見つけられなかったわよ
﹂
簡 単 に 分 か る く ら い に 無 防 備 じ ゃ な い。結 構 念 入 り に 調 べ た け ど
﹁どういうことよ。あの子たちは出て行ってるし、罠じゃないことが
﹁どうやら凜、我々はまんまと嵌められたようだ﹂
中で何かに気付いたようで口汚く舌打ちをする。
遠坂は首をかしげるだけだったが、アーチャーは俺の様子を見て途
俺を見て同じように足を止めていたアーチャーと遠坂。
﹁どうしたのよアーチャー﹂
﹁ちっ⋮。なるほどそういうことか﹂
無いが、どうしても何かが引っ掛かる。
だがやはり不審な点は無い。
をどこかから監視し続けていたとしたら
気のせいなら良いが、もしも、もしも最初からコウジュ達はこちら
だが俺は今思いついたことが頭から離れず、周囲を見回していた。
る。
そんな俺を怪訝に思い、同じく止まったセイバーが声を掛けてく
?
あのライダーとの戦闘時も、コウジュは何処からともなく表れな
そしてこの状況の中で一つ思い出したことがある。
?
?
態度はそのままにどこか焦っているように見えた。
どこか拗ねるように答える遠坂だが、対するアーチャーは皮肉気な
﹁それがどうしたってのよ﹂
﹁良いかね凜。ここはアインツベルンの拠点だ﹂
おき、セイバーもまた何かに気付いたようで、剣を構えた。
その様子を見て遠坂の額に血管が浮き出たような気がするがさて
?
246
?
?
﹂
﹁ここは魔術師の拠点だと言ってるんだぞ
﹂
この場所を無防備にさらけ出している
﹁まさかっ
驚きの声を上げる遠坂。
同時に、俺も合点が行った。
なぜ工房であるはずの
?
﹁な∼んだ、もうばれちゃったの
しじゃない﹂
せっかく色々用意したのに台無
それを、やっと認識することができた。
在る筈のものが無い違和感。
言うなれば学校の時とは逆のパターン。
魔術的な気配が無かった。
俺を拘束するために魔術を使っていたのに、それ以降この屋敷では
?
イリヤ達は外出したんじゃ⋮なのにどうして後ろから
﹂
遺言、つまり今から俺たちを殺すってわけか。
言位は残した方がいいと思うわよ
﹁黙っていてはつまらないわ。せっかく時間をあげてるんだから、遺
だが、そのイリヤが放つ言葉はあまりにも残酷なものだった。
合う。
微笑みながら、話しかけるイリヤは、天真爛漫という言葉が良く似
﹁⋮⋮﹂
﹁こんばんわ。あなたの方から来てくれてうれしいわ、凛﹂
だが、心の中でやっぱりという気持ちも出てきていた。
?
信じられないといった感じで二人の名を口に出す遠坂。
﹁イリヤ⋮スフィール。バーサーカーまで⋮﹂
そこに居たかのようにドアから出てきた。
後ろを振り向くと、外に居るハズのイリヤとコウジュがあらかじめ
空気が更に重くなる。
今一番聴きたくない声が辺りに響く。同時に、ただでさえ重かった
﹁ぶぶ漬けを出しはしないしさ。ゆっくりしていきなよ﹂
?
?
247
!?
正直、色々と言いたくなる言葉だが場の空気に押し潰されないよう
にするだけで精一杯だ。
そんな中でも遠坂が話しかけた。
気配も確かに外に行っ
﹁じゃあ、一つ聞いてあげる。あんた達が屋敷を出たから入ってきた
﹂
のに後ろから表れるのはどうしてかしら
た。なのに何故、今そこに現れたの
た。
﹁もう話すことはないかしら
﹂
その瞬間コウジュがイリヤの横から飛び、俺達の前方まで降りてき
﹁さて、私はこの城の主だからおもてなししてあげないとね﹂
か。
の規格外さにか、それとも罠にまざまざと嵌められてしまった所為
それは事も無げに空間転移なんていう大魔術を行使するコウジュ
コウジュの答えに頬を引きつらせる遠坂。
﹁なるほどね、最初から私たちを待っていたのね﹂
ないってことさ﹂
﹁答えは単純、空間転移はキャスターだけの専売特許というわけじゃ
その問いに、コウジュがクフフと楽しげに笑う。
?
ていたんだ。来い、スヴァルティアトマホーク﹂
コウジュが頭の上に片手を掲げるとそこに何かが現れる。
トマホークと言った所から、斧なんだとは思うが、コウジュの手に
表れたものは斧としては異形。あまりにもな巨大さ。
コウジュの身長の二倍はあるんじゃなかろうか。
刃であろう部分も、長い持ち手につけた鋼鉄を無理矢理に刃形にし
たといった感じだ。
その一撃を受けてしまったとしたら、斬れるとかそれ以前に圧倒的
な圧力で粉みじんになるだろう。
それを軽々と無造作にコウジュは構える。
﹁誓うわ今日は一人も逃がさない﹂
イリヤの宣言がいやに頭に響いた。
248
?
﹁もうどうでも良いさ。さぁやろう。はやくやろう。この瞬間を待っ
?
◆◆◆
まずい。まずいぞ。
どうしてセイバーが戦闘しようとしているのか
この時点でフラフラになってませんでしたかね
じゃなかったですかね
かった。
魔力ギリギリ
それにやりたいことがあるからアーチャーとの戦闘は経ておきた
と言っても、ライダーみたいに一旦だけどね。
た。
だから、この場でアーチャーには死んでもらわないといけなかっ
倒して、その後士郎達を追っかけて戦うっていう感じがベスト。
この場を脱出してくれることを望んでた。そして俺がアーチャーを
俺としては原作通り、アーチャーを残して、士郎、セイバー、凛が
ど、どうしよう。 !!
!?
だけど俺が構えるのに合わせて、アーチャーだけでなくセイバーも
前に出てきて戦闘態勢へ。
タイム
イリヤ
しかし審判見ていない
試合続行
!
その状態で宝具を使うもんだからバーサーカー戦ではアーチャー
だった。
原作ではセイバーの魔力は士郎からの供給が無い所為でカツカツ
いやいやうっかりじゃありませんとも。ええ。
かったな。あれの所為だ。
うん、そういえばライダー戦の時にセイバーって宝具開放してな
す。だけど俺のシグナルに気付いてほしかった。
ちょっとSっ気のある笑みで士郎達を見ているイリヤさん素敵で
!
249
!?
そんな気持ちでチラリとイリヤの方を向く。
!
を残しセイバーは士郎・凜と一緒に一時退却する。
けど現状ではおそらく俺のメギバース分くらいしか大きな消費は
無い筈だ。
メギバースでどれだけ削れたかはわからんが、少なくとも原作時よ
りは魔力が余ってるってことだろう。
詰んだ。
俺の計画詰んだ⋮。
﹁未来⋮、変わっちまったな⋮﹂
諦めと、気を引き締め直すためにそう呟く。
確かに俺の計画は詰んだけど、やると決めたことはやり通さなきゃ
男が廃る。
そう改めて決意し、武器を持つ手に力を一層込める。
﹁未来⋮。なるほどそういうことか﹂
アーチャーが突然そう呟いた。
そ の 発 言 は ア ー チ ャ ー の 独 断 だ っ た よ う で、凜 も 訝 し げ に ア ー
チャーへと問う。
﹁忘れたのか。我々の目標はバーサーカーを打倒することではなく、
小僧を救出することが目標だったはずだ﹂
そのアーチャーの発言に凜が少し考えるそぶりを見せた後、口を開
いた。
﹂
アーチャー一人でバーサーカーの相手な
﹁良いわアーチャー、少しの間一人で足止めして﹂
﹁遠坂
﹁馬鹿な、正気ですか凛
﹂
250
独り言だったんだが、どうも聞かれたようだ。
﹂
独り言のつもりだったのに反応されると恥ずかしいよね。なので
ちょい恥ずい⋮。
﹂
どういうことですか
﹁下がれ、セイバー﹂
﹁な、アーチャー
﹁アーチャー、どういうつもり
!?
何か得心がいった様子のアーチャーが突然セイバーにそう言った。
?
!?
ど。私はまだ戦えます
?
!
?
﹁私たちはその隙に逃げる。良い
﹂
士郎・セイバー組の言葉を聞かず、もう決定したと言わんばかりに
アーチャーへと命令する凜。 ﹁賢明な判断だな。凛が先に逃げてくれれば私も逃げられる。それに
単独行動は弓兵の得意分野だ﹂
心得た。
そう雰囲気で語るアーチャーが、セイバー達の前に立つ。
その姿は確かに英霊だった。
俺には無い過去がその姿の向こうに見える気がするほどだ。
あぁ、なんだろうな。
心が逸る。熱くなる。今にも走り出しそうになる。
偶然にも俺が求めていたシチュエーションになりそうだが、そんな
事とは別に、心の底から今のアーチャーを見て湧き出す何かが止まら
ない。
﹁そんな誰とも知れないサーヴァントでバーサーカーに立ち向かうっ
ていうんだ。案外可愛い所があるのね、凛﹂
俺とは別の意味で興が乗っている様子のイリヤさん。
イリヤがそんなこと言うから、アーチャーがこっちを睨んでいる。
鷹の目とはよく言ったもんだ。怖い。怖いなぁ⋮。
﹁早く行け、凜﹂
﹁そうね。バーサーカーの雰囲気が変わった。あれは確かにバーサー
カーよ。気をつけなさい﹂
﹂
﹁わかっているさ。だが、早く離れなければ私が倒してしまうかもし
れんぞ﹂
﹁アーチャー⋮⋮。えぇ、遠慮はいらないわ
﹁では、期待にこたえるとしよう﹂
くは、カッコいいなぁアーチャーは。
その彼と対峙できるってのはある意味すごい幸運なのかな。
幾人もの厨二病患者を生み出しただけはある。
それこそが彼が彼たる所以。
言葉は違えど、やはりアーチャーはアーチャーってことなんだろう
!
251
?
やばいなぁ、スイッチ入っちゃったっぽい。
﹂
﹂
﹁ふん、そんな生意気な奴、バラバラにして構わないんだから。やりな
さいバーサーカ
﹁Yes,my Lord
その言葉を待っていた。
セイバー
﹂
さぁ、素敵なパーティーをしようじゃないか。
﹁行くわよ士郎
る。
色々な理由で高揚する俺は今か今かと、飛び出しそうになってい
ま、とりあえずは予定通りになったか。
丁度アーチャーの後ろで、逃げた士郎達と俺達を分かつように。
刺さった剣が天井を崩した。
そして、持っていた干将・莫耶も内の片方を天井に投げる。
ぬ、お前にとって戦う相手とは自身のイメージにほかならない﹂
﹁忘 れ る な ⋮。イ メ ー ジ す る の は 常 に 最 強 の 自 分 だ。外 敵 な ど い ら
﹁アーチャー⋮⋮﹂
影して出し、構える。
そう士郎に背を向けたま言い、いつもの黒白双剣、干将・莫耶を投
てみろ﹂
余計なことは考えるな。お前に出来ることは1つ。その1つを極め
﹁衛宮士郎。いいか、おまえは戦う者ではない、生み出す者にすぎん。
その士郎にアーチャーが声を掛ける。
た。
だが割りきったのか、歯をかみしめ、セイバーと共に出口に向かっ
動かない。
まだアーチャーを残して行くことに納得しきれないのか、足が中々
少し逡巡する士郎。
﹁士郎、それしかありません﹂
﹁でも⋮﹂
そう言って凛が出口へ走っていく。
!
だが、アーチャーは戦う前に俺へと言いたいことがあるのか、さて
252
!!
!!
!
⋮と切り出した。
﹂
﹁戦う前に一つお聞かせ願おうか﹂
﹁ん、戦うんじゃないん
﹁少し⋮、気になることがあるんでね﹂
これは予想外だね、話ってなんだろ
いや待てよ。
さっき未来って言葉に反応していたな。
ってことは⋮。
﹁凛達がいない方が好都合な話しだったり
﹂
﹁ふむ、君は私が何の話をしたいのか気づいているのか﹂
﹂
﹁いや、大体の想像だよ未来の英霊さん。本来バーサーカーとして召
﹂
喚されるのは俺じゃないって言いたいんだろ
﹁コウジュどういうこと
﹁私も知ってる⋮
﹂
来で英霊になった姿なんさ﹂
﹁イリヤ、アーチャーはね。イリヤもよく知る人が今現在から見て未
そっか、この辺の話はイリヤに言ってなかったっけ。
?
アーチャーが俺を見る目が更に鋭くなる。
だから怖いですって。
﹁私が良く知る人間で英霊に至りそうな人なんて、思いつかないわ﹂
﹂
異世界
﹁ま、そうだろうね。現在の姿からは思い浮かばないだろうさ。な、エ
﹂
うそ、本当に
ミヤシロウ
﹁シロウ
イリヤに答えてすぐに再び俺の方を向く。
﹁それにしても、なぜ君は私の真名まで知っているのかね
と思うんだがね﹂
そう思うのは当然だな。
本当のことを言う訳にはいかないからいつもの嘘を使わせてもら
253
?
?
?
?
﹁私の真名まで知っているとはね⋮恐れ入る﹂
?
﹁肯定だよ、イリヤスフィール﹂
!?
?
から召喚されたと言っていたが、それなら私の真名など知る筈がない
?
!?
うか。
﹁それなら簡単だ。俺はアカシックレコードに接続する方法を持って
⋮ そ う か。そ れ な ら 納 得 で き る と い う も の だ。ま さ か 根 源 に
いる﹂
﹁
至っているとは。個人的には納得したくないが﹂
実際は原作知識なんですけどね。
アカシックレコードに繋げる携帯を確かに持ってるけど何でか言
うこと聞いてくれないんだ。
って言うか馬鹿にされてる。
﹂
使えなかったとしても十二分に脅威だが﹂
﹁さて、どうしたものか⋮根源に至っているのであらば魔法も使える
のかね
﹁使えるぜ
なんか言い方に棘があるんですけど
ってか俺ってそんなに規格外
為でプラスマイナスゼロですよ
って、そんなことより
﹁あのさ、バトルするんじゃなかったっけ
?
﹂
チート持ってるから何とか聖杯戦争に参加できてるけど、中身の所
?
?
イリヤさんあなた俺のマスターですよね。
待って。ねぇ待って。
汗をかきつつ口元がヒクついているアーチャー。
﹁規格外にも⋮程があるな⋮﹂
制御もやっちゃうし、空間転移も軽々だし⋮⋮﹂
吹き飛ばすし、アインツベルンの大結界は一発で破壊するし、龍脈の
﹁私もコウジュを召喚してしばらくは驚いてばかりだったわ。山一つ
高かったよ﹂
﹁⋮⋮。本当に規格外だな⋮。ヘラクレスの方がまだ勝てる可能性は
?
?
なら、さっさと済ませてしまいたい。
それに、理想通りの状況になったし、やはり闘うことは避け得ない。
意欲は消えちゃいない。
なんかちょっとさっきまでの高ぶりが覚めてきたけど、未だに戦闘
?
!
254
!?
煮え切らない気持ちがまた湧き出してしまいそうだ。
﹁ふむ、そうだったな。勝ち目はないが1秒でも多く時間を稼がせて
もらおう﹂
﹂
そう言うや否や干将・莫耶を振りかぶるように斬りかかってくる。
﹁うぉ
とりあえず、スヴァルティアトマホーク│││長いからスヴァルで
いっか│││の持ち手で防ぐ。
辺りに甲高い金属音が響いた。
ほむ、やられてばかりじゃいられないかな。
パー
リー
sparty
ツ
ってね。
次は俺が行かせてもらうかね。
レッ
Let
﹂
!
﹂
耶を投影する。
てりゃぁあ
!!
﹁良い調子よバーサーカー﹂
﹁声援ありがとよ
﹂
投影していた双剣はどこかにいったのか再びアーチャーは干将・莫
﹁完全に避けた筈なんだがな﹂
そこにカンストしたステータスが乗ってるわけだし尚更か。
過酷な環境でも生きていけるようにって設定なだけはあるね。
さっすがビースト。
この身体の筋力だけでも、十分チートだな。
いや、犯人俺だけどさ。
かないのにこの威力。
スヴァルには何の概念も付与してないから、ただ馬鹿でかい斧でし
うわ、すんごい威力。
を振るったからか鎌鼬が発生し、アーチャーを軽く切り裂く。
アーチャーは難なく避けたように見えたが、俺が思い切りスヴァル
﹁くっ
受けているのを弾くように横薙ぎにスヴァルを振るう。
﹁でりゃぁ
!! '
美少女の応援があるんだ。
再びアーチャーに俺は斬りかかる。
!
255
!?
!
﹂
がんばらなくっちゃなぁ
﹁ッ
!!!!!
﹂
・・
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
どうせなら拳でやるべきだったかな
距離戦だ。
!
なっている。
!
﹁ぐあっ⋮
﹂
!!!
﹂
﹁っらぁぁぁ
だから力を込めると⋮。
だが、俺の筋力はチートだ。
ロスさせ、俺の斬撃を受け止める。
今度は避けられないと思ったのかアーチャーはとっさに双剣をク
アーチャーにスヴァルを横薙ぎに振るう。
﹁隙有りだぜ
﹂
だが今度は、先ほどの鎌鼬すら避けるように幾分か動きが大きく
アーチャーは俺の斬撃を全てかわしていく。
﹁流石に良く避けるなぁ
﹂
だから、ぎりぎりまで追い込んで最後に畳みかける。理想は中・近
遠距離からの宝具連発は今の俺だと対応しきれない。
逃げに徹せられると負ける可能性がある。
使ってもらわないといけないからな。
セイバー達に逃げてもらう時間を作るのと、アーチャーにあれを
だから挙動の大きい斧を選んだ。
でもまぁすぐにこの勝負を決めるつもりはない。
?
連続ででたらめにアーチャーに斬りかかる。
オラオラオラオラオラオラオラオラオラ
﹁何の
上段から斬りかかったが、横に身体を移動させ避けられる。
!!
なかなか、きれいには行かないものだ。
﹁ありゃりゃ⋮。やっぱり俺じゃぁスマートな戦い方は無理か﹂
そしてすぐに、壁が砕け、アーチャーは落ちてくる。
一瞬拮抗したが、すぐにアーチャーは吹っ飛び、壁にめり込む。
!!
256
!!
!!
ごり押しも良いけど、剣と剣での応酬とかやってみたいな。
そういう意味ではアーチャーとは相性が良い。
受け流せないほどの威力で叩き潰せばいいからな。
そんなことを考えていると、ゆっくりとアーチャーが立ち上がり始
めた。
﹁まったく、何が不満なのかね﹂
﹂
薄く笑いながら、アーチャーは再びしっかりと地に足をつけ構え
た。
﹁あんたこそ、何が楽しいんだい
﹁やっべ
﹂
﹂
おらぁ
﹂
るんで潰させてもらうぜ
││を突破される可能性があ
いた弓と、刃が螺旋状になった剣が現れた。
そうアーチャーが詠唱すると、手には鉄製の黒いハンドガードが付
︵体は剣で出来ている︶﹂
﹁│ │ │ │ I a m t h e b o n e o f m y s w o r d.
﹁って、あ
二階の手すりに立つ。
そんな風にちょっと動揺していると、アーチャーは突然上へ飛び、
士郎もそうだけどたらし属性でもあんのか
な、なな、何言ってやがる
﹁美しょ⋮
﹁いやなに、見た目は美少女なのに攻撃はえげつないなと思ってね﹂
?
それは自動防御││というか障壁
!!
﹂
しかし、アーチャーの攻撃の完成の方が早かった。
﹂
﹁│││〝偽・螺旋剣〟︵カラドボルグ︶
﹁うぉわ
するもカラドボルグの余波を喰らい、地面に叩きつけられる。
空中だったのもあってかわせなかった俺は、咄嗟にスヴァルを盾に
!!
あの士郎がこんなレベルまでなるな
﹁いてて⋮。うわ、服が若干破けてる⋮﹂
﹁コウジュに攻撃が通ったの
!?
257
!?
!?
!?
!!
俺は慌ててアーチャーの方に向かって跳び上がる。
!
?
!!
!!?
んて⋮⋮﹂
いや、それはさすがにひどくないっすかイリヤさん
確かに今の士朗はへっぽ子だけどさ。
﹂
﹁生半可な攻撃ではすぐに回復される⋮か⋮﹂
服まで修復してくれるからほんと便利だね。
俺の身体は一瞬光に包まれ、傷を修復する。服も。
る。
スヴァルは片手に持ったまま、片手杖︵普通の短杖︶を使い回復す
もって、レスタ
﹁あ、ここは擦りむいてるし⋮。ヒリヒリする。来いウォンド。んで
アーチャーは冷や汗を掻きながらまた口元をヒクつかせている。
﹁並みのサーヴァントなら即死だが、服が少し破けた程度とは⋮⋮﹂
?
アーチャーはそう言って先ほど開けた天上の穴から外へ飛び出る。
﹁中々に順調だね。よし、第2ラウンドといこうか﹂
俺は背中に羽を出し、追いかける。
258
!
﹃stage23:あんりみてっどぶれいどわーくす﹄
自分で開けた穴を抜け、テラスに出る。
テラスの端に立ち、追いかけてくるであろうバーサーカーを名乗る
少女を待つ。
あのバーサーカーは圧倒的に私より強い。
あれがチートというものなのだろうか。
反則的な能力が大安売りだ。
神殺しをなしたというだけはある。
だが⋮、勝機はある。
前回と今回戦って分かったことなのだが、あの子は英雄でありなが
ら恐らく対人戦闘の経験が少ない。
あの子の動きはあまりにも不自然だったのだ。
先ほどカラドボルグを射った時もそうだ。
あの近距離で射ったにもかかわらず、あの子はとっさにあの馬鹿で
かい武器で防いでいた。
だが、あの子が見せるスピードと体の小ささがあれば空中とはいえ
本来なら避けられたはずだ。
さらに言えば、私の正体を知っていて、更に私が何をしようとした
か気づいている様子だった。
なのに、その対応がお粗末すぎる。
予め知っているのにやることは全て反射的なもののように思える。
前回剣を交えた際もおかしな点があった。
私やセイバーと打ち合ってはいたが、あの子の武器の軌道に洗練し
た動きはあまり見られなかった。
技のキレや物理的な重さはある。なのに年月や積み重ねた深さが
ほとんど感じられない。
完全にスペックにモノを言わせて、反射神経や筋力で押し切る形
だった。
259
まるで、自身の能力を把握しきれていないような⋮⋮。
そして最後に、あの子は私を殺そうとしていない。
いや、確かにあの子の攻撃は私を殺そうとする軌道を描いてはいる
が、当たりそうになると刃が鈍る。
これも無意識なのだろうか。
そういえばイリヤもだ。
あれだけこちらを殺すようなことをほのめかしておいて、この間に
比べて本気で殺そうとしているようには感じられない。
私の衛宮士郎としての記憶の中で、聖杯戦争時代のイリヤと言って
いることはほとんど変わらないのに⋮だ。
何かを企んでいるのは確実。
全力を出せばこちらは一溜りもないのに、遊ぶかのように出し惜し
みする姿に何も感じない筈がない。
だが、今それを考えている余裕はない。
﹂
!!!
260
お粗末でありながらも、スペックが高いからそれを補えている現
状。
剣筋を予測するのではなく、見てから回避しているそのやり方は獣
を思わせる彼女に合っていると言えば合っているのだろうか。
やはり規格外。
だが、悪いがそこをつかせてもらおう。
単純なフェイントではそれごと食いつぶされてしまうだろうが、な
らばそれすらも引っかけとしようじゃないか。
素直に過ぎるその動きは、君の力となることもあれば、それが仇に
もなるということを教えてやろう。
あの様な小さい子に対して使うのは忍びないが私の切り札を切り、
全力で行く。
せいぜい手を抜け、それだけ時間は稼げる。
ブラボー脚ぅぅ
思考の最中に居ると、上空から気配を感じた。
﹁流星
!!
その場から飛び、回避すると、今まさに自分がいた所を蹴りの体勢
でバーサーカーが迫る。
落下速度も加え、先程までは無かった翼で加速したのであろうその
速さは脅威だ。
だが、あれだけ大声で場所を教えてくれれば避けることは容易い。
後方へ跳び下がる。 今の避けちゃうか
﹂
﹂
﹂
するとそのまま、彼女はテラスの床に突き刺さった。
﹁うわっは
﹁そう、かい
﹁あれだけ派手に登場すれば当然だ
!
﹂
﹁次はこいつだ
﹁なに
干将莫耶
﹂
!
比べ合いと行こうじゃないか
白と黒の夫婦剣〝干将・莫耶〟。
﹁はっはぁ
!!
る。
﹂
﹁何故それを君が持っているのかな
﹁気が向きゃぁ教えるさ
!!
前回もそうだったが、彼女はその体の小ささを生かしてか、身体そ
バネを生かし切り上げ、そのまま体を回転させての横薙ぎ。
斬り下ろし、勢いを殺さずに体側の剣でさらに斬り下ろし、身体の
!!
﹂
逆を言えば、スペックでその欠点を覆えているということでもあ
先程は技術が拙いとは言ったが侮って良い相手ではない。
しかし考えている暇はない。
なぜ彼女がそれを持っているのだろうか。疑問は潰えない。
どちらも遜色のない、否、全く同じに見える双剣だ。
そして、それを受ける私の中にある物も〝干将・莫耶〟。
﹁っ⋮﹂
﹂
バーサーカーが私に手を振りかぶりながら手の中に呼んだものは
!
そしてその勢いを殺さず、こちらへと迫った。
抜け出す。
バーサーカーは背中の羽を一振りして地面に叩き付け、その反動で
!!
!
!?
!!
261
!?
のものを回転させて連続させた動きを主体とした攻撃を得意として
いるだろう。
普通であるなら隙が大きい。
身体を回転させるということは、視界も常にこちらを見ている訳で
はない。
だが、恐ろしく早い。
﹂
そしてその一撃一撃に恐ろしいほどの力が乗っている。
﹁っ
類い稀な怪力ばかりを警戒していたが、あの〝干将・莫耶〟はそれ
だけではなかったらしい。
私が持つ物と遜色無いのに内包するものは全く別と言うことか。
﹂
﹁や っ と 効 き は じ め た か。対 魔 力 は そ ん な に 高 く な か っ た は ず だ け
ど、やっぱサーヴァント相手じゃ効きが悪いなぁ⋮っと
彼女と交わした刃、その触れた部分が徐々にだが凍り始めていた。
氷だ。
始めた。
冷静に考察しながら彼女の猛攻を捌いていると腕に違和感を感じ
!!
﹂
そして金属製故にその冷たさが手にまで届き、若干の運動阻害を齎
し始めている。
﹁厄介な﹂
﹁そういう強化をしたもんでね
正しくは自らの腕と言うべきか。
どちらにせよこの状況はマズい。
﹁あははっ、こういうのは苦手かい
﹂
!! !!
﹂ 防戦一方も趣味ではないのでね
﹁ふっ
!
しかしながら彼女はその脱出方法を示してくれた。
﹁生憎と氷像になる趣味は無くてね
﹂
段々と重くなっていく彼女の攻撃。
!!
だがすぐさまもう一度〝干将・莫耶〟を投影する。
262
!?
横薙ぎの一撃を反らした瞬間に、一度干将・莫耶を破棄。
!!!
﹁マジかよ
﹂
﹁馴染みある武器だからな、比較的やりやすかったよ﹂
私がしたのは、彼女が持っている〝干将・莫耶〟の投影だ。
当然凍結効果もある。
投影して改めて思うのは、不思議なことに彼女が持つそれと私の中
に登録されているそれはほぼ同じものだった。
・・・・・・・・・
唯一違うのがもたらす効果位だろうか。
原 典 と 似 て い る の で は な く 私が投影したものと 似 て い る と い う 理
解しがたい状況だ。
だが、そんなことは後回しだ。
おかげでこの短時間で投影に至れた。
﹂
﹂
そして、これの厄介さは既に彼女自身が示してくれている。
﹁厄介な
﹁だからそう言っただろう
﹁うるぁっ
﹂
﹁ソレは悪手だ
﹂
どうやら担い手であっても、耐性はそれほど高くないようだ。
しかし先に限界に来たのはバーサーカーだった。
我慢比べ。
互いの腕が少しずつ凍っていく。
?
!
はし易い
﹁げ⋮﹂
!
を崩し倒れ込む。
狙ってやったのは私だが、片足の動きを阻害された彼女はバランス
﹁女の子が言うべきセリフではないな
﹂
恐ろしく早く恐ろしく重かろうと、来ることが分かっていれば対処
て彼女の足の力を反らした。それも膝関節部を狙ってだ。
それを私の胴に向けて放ってきたが、私は軽く刃を添えるようにし
時折混ぜられていた足刀。
!
263
!?
!
!
無事な腕を使って飛び起きようとするが、その数旬がアレば私には
充分
!!
幾
﹂
た
び
の
戦
場
を
越
え
て
不
敗
﹁I have created over a thousand blade
はぁ
﹂
の
一
度
も
敗
走
は
な
く
干将莫耶を投げ、更に投影し投擲。
だ
だ
の
一
度
や
も
ま
を
理
ぬ
解
き
さ
れ
つるぎ
な
い
み ず を わ か つ
﹂
!!
﹁くあっ
﹂
!
﹂
?
くっ
!!
﹁なんて、ね
﹁これもか
﹂
獲物を狩る瞬間が一番油断しているとは誰が言ったのだろうか。
だろう。
だが、この瞬間してはいけない油断を刹那とはいえしてしまったの
獲った。そう思った。
﹁悪く思うな
﹂
私が編み出した一つの答えだ。その身で味わえ。
オーバーエッジ。
そこへ、翼のように広がり大剣と化した剣で斬り掛かる。
掛かり切りになっている。
にも適応されているようで、彼女は凍結効果を持った夫婦剣の対応に
夫婦剣の引かれあうという性質はバーサーカーから投影したもの
﹁│││心技、泰山ニ至リ、心技、黄河ヲ渡ル
ちから
剣の強化、並びに刻まれた詩を読み、技へと昇華させる。
そう詠唱しながら、新たに投影。
﹁Nor known to Life.﹂
た
ちらへと近づけていない。
凍結が解除されたバーサーカーだが、計4本の剣たちに翻弄されこ
﹁Unknown to Death.﹂
た
﹁ノーー
!!?
!?
すぐさま飛び退いたが、手足をやられてしまった。
物。
ただし爆発するのではなく、捕縛を目的とした氷結効果をもたらす
恐らく地雷か。
によって身体が凍り始める。
締めの二振り、それを避けられるだけでなく、地面に置かれた何か
!
264
!!
こんなものまで持っているのかこの子は。
﹁悪いね。防御は並みなんで避けさせてもらったよ。まぁ弱い攻撃は
レジストしちゃうから、最後のさえ気を付けてればよかったんだよ
﹂
ねぇ。ま、その防御力も上がってるっちゃ上がってるんだけどさ﹂
﹁態々教えてくれるのは勝者の余裕かね
﹁いやいや、ただ口が滑っただけさね﹂
何が嬉しいのか、笑みを漏らしながらこちらへと近づいてくるバー
サーカー。
﹁さすがだねアーチャー。最後のやつは全身を凍らせるはずだったの
に避けちゃうなんてさ。というかあんな風になっちゃうんだね途中
で避けちゃうと。ふむふむ﹂
﹁知らずに使ったのかね⋮﹂
あんなもの
﹁あはは、他にもいっぱいあるんだけどさ。使う場所が無くって﹂
恐悦至極だよ﹂
﹁なるほど、 地 雷まで持っているとは、最狂︵バーサーカー︶のクラ
スなだけはある﹂
﹁お褒めに預かり
サーカー。
彼女は徐に私へと手を伸ばし、持ち上げた。
成人男性の平均以上の体重はあると思うんだが、軽々か。恐れ入
る。
現実逃避気味そんなことを考えてしまう自分に些か苦笑してしま
うが、すぐに現実へと意識がもどされた。
﹁さて、下に行こうか﹂
持ち上げるのはいいが、バーサーカーの身長は正直に言って低い。
少女と言うよりは幼女と言って良いレベルだ。
だから私を持ち上げても引きずってしまっている。
がぁ
﹂
!!
265
?
行動を阻害され、片膝を着きながら居る私の目の前まで来たバー
?
待て、その状態で下へ行こうとするんじゃない
﹁ぐ
﹂
!! !!
まともに顔面や足をぶつけられてしまった。
﹁あ、ごめん
!
謝る声が聞こえた気がするが、今はそれどころじゃない。
頭が軽度の脳震盪を起こしているのか、意識がふわりと揺らいでし
まっている。
まずは体制を立て直さなければいけない。
バーサーカーは私を地面に降ろして離れた感覚を幽かに感じる。
下には降りてきたということだろう。
何をするのかは分からんが、ゆっくりとしてくれ。
幸いにも意識もそうだが、凍った部分の感覚や阻害されていた動作
も徐々に戻ってきている。
もう少しだ。
﹁ごめんなさい未来の士郎。私たちの計画のためにはあなたにここで
1度死んでもらう必要があるのよ﹂
﹁そうだな。最低限の目的は遂げれそうだし、欲張るのはいけないよ
な。だから、ごめん﹂
⋮それに⋮計画⋮⋮
﹂
﹂
彼女は私の問いに答えず、その手の中に再びあの巨大の斧を呼び出
した。
それをゆっくりと振りかぶり、苦々しい顔で、私へと振り下ろそう
としている。
ああ、だが│││
266
未だ戻らない視界の中、悔恨の念を含んだ声がイリヤとバーサー
カーから聞こえた。
何だ。どういうことだ。
一度
揺れる視界の中で見えたのは⋮カード
﹁今⋮何をした
﹁その内わかるさ。スヴァル
?
近づいてきていたのはバーサーカーだったのか。
!
?
どこかで見た覚えのあるそれが、私の中へ消えていく。
?
そして、私の胸に何かを押し付ける感覚。
てきた。
もう少し。あともう少しで回復するという所で、どちらかが近づい
?
﹁これで終いだ⋮﹂
│││間に合った。
﹁こちらの敗北は動かないだろうが、終わらせるのは手間だぞ。バー
サーカー﹂
一瞬の隙を突き、横へと飛び退くことができた。
者
は
に
独
り
に、
生
涯
に
剣
の
味
丘
で
意識が完全に回復したのもあるが、やはり面と向かって命を奪うこ
とに抵抗があるようだな。
根は優しいのだろう。
甘いともいうかもしれない。
だが、それでも、私は私であるために、成そう。
﹁まだそんなに動けたのか、耐久力がすごいな﹂
﹁切り札をまだ切っていないものでね﹂
そう、私は私の全てを未だ出し切っていない。
先を見るのならば使わずに置きたかったのだがな。
現状、次は無いようだ。
ならば、この身の全てを以て相対しよう。
何の変哲もない短剣をいくつか投影し、それを投げる。
狙いはこの場を照らす照明。
それらは願い違わず、辺りを暗闇に染めてくれた。
すぐさまその場から移動すると、破砕音。
バーサーカーが寸前まで私が居た所を攻撃したのだろう。
だが、見失ったのか追撃は無い。
の
常
幸いにも、私が明けた穴から見える空も雲が掛かっている。
彼
やるならば今だろう。
唱えるは自己暗示にも近い詠唱。
故
自分の、自分の為だけの、意味あるもの。
意
は
勝
利
な
﹁Have withstood pain to create many w
267
﹂
に
﹁Yet, those hands will never hold anyt
﹂
﹁どうやら、月の女神の加護は貰えなかったようね。コウジュ
﹁おうさ
不意に明るくなった。
!
!
恐らく雲間から月が出てきてしまったのだろう。
そ
の
体
は、
きっ
と
無
限
の
剣
で
出
来
だがイリヤ、月の女神は確かに私に微笑んでくれていたよ。
て
い
た
﹁So as I pray, unlimited blade works﹂
詠唱は終わった。
そして同時に、辺りに炎が満ちていく。
しかし、その炎は私たちの身を焼きはせず、辺りを炎で満たし、世
界を塗りつぶしていく。
やがて炎が消え、変革した景色を映し出した。
辺りは先ほどまでに居た城の中ではなく、無数の剣が地面に刺さ
り、歯車が宙に浮かび、赤銅の空が満たす世界に変わっていた。
これこそが私の世界。
これこそが私の生きる意味。
これこそが私そのものだ。
﹁固有⋮結界⋮﹂
﹁そう、固有結界。私の切り札だよ﹂
イリヤは信じられないものを見たといったように、驚きを隠せずに
居る。
固有結界。別名リアリティ・マーブル。
魔術師の世界で、目標とされる魔法に1番近く、最大級の奥義であ
り、同時に禁忌ともされる魔術。
わざ
魔術の到達点の一つとされ、使い手の心象風景を形にして現実を塗
みらい
りつぶし、世界その物を作りかえる業。
過去の私が封印指定にされた要因だ。
改めてバーサーカーを見据える。
彼女はどうしたわけか顔を俯かせ、その表情が見えない。
だが、やることは変わらない。
﹁御覧の通り、君が挑むのは無限の剣。剣戟の極致だ。全身全霊を以
て君を打倒しよう﹂
!
268
私の宣言に、何故か、彼女が笑った気がした。
◆◆◆
ああ、この瞬間を待っていた。
カチリ、と頭の中で何かが解かれた音がする。
どういうものかを、感覚的に学ぶ。
・・・・・・
理解⋮とまではいかない。
ただ、そういうものとして捉えるだけ。
けどそれで良い。それが欲しかった。
﹂
これで、第二の目的も果たすことができた。
﹂
﹁どういうことかな
﹁ん
こんな気持ち初めて
う。
﹁イリヤ
﹂
もう何も怖くない。
とりあえず、本気を出していくためにも一つ確認することにしよ
う。
めを失敗したらどうしようもないから気を引き締めよう。そうしよ
流石に俺が何を以てそうなってるかは分からんだろうが、最後の締
やっべ、そんなに嬉しそうにしてたかな。
﹁あー、まぁそうかな﹂
﹁やけに嬉しそうだ﹂
情で質問してきた。
ってな感じにテンション上げている所にアーチャーが訝しげな表
!
アーチャーも又、こちらを静観している。
アーチャーから目を離さずにイリヤへと声を掛ける。
!
269
?
戦いにより高揚している所に、思うように行った喜びが重なって、
?
たぶん、こちらの出方を伺っているのだろう。
原作バーサーカーの様な存在も居る訳だし、少しでも俺へとダメー
ジを残すためにも俺がどうするのか見てるって感じかな。
戦闘のアマチュアが何言ってるんだって思うかもしれんが、そう感
じるんだ。
これも獣の本能ってことかな。
何故かそれすらも楽しく感じてる俺が分かったのか、はぁ⋮と後方
から溜息の後にイリヤが口を開いた。
﹁分かってるわ。ちゃんと付けてる﹂
﹁一応巻き込まんようにはするけど注意な﹂
﹁はいはい。負けたら承知しないわよ﹂
なんか呆れたような声に釈然としない思いもあるが、まぁ今は置い
ておこう。
さておきイリヤに確認したのはとあるプレゼントをちゃんと付け
︵だみ声
見た目はただの薄青い透明な腕輪だが、大盾としての性能を持って
いる。
ゲーム内では仲間と一緒に付けたらその人数に合わせて防御力が
上がるっていう代物なんだが、俺とイリヤだけでつけていてもあまり
意味が無いので、本家メイド部隊の方々にも付けてもらっている。
ゲームと違って装備者人数に上限なんてないからかなりチートな
具合に。
メイドさんに渡してあるのは劣化コピーだからすぐに壊れると思
270
ているかどうか確認するためだ。
というのも、アーチャーの固有結界﹃無限の剣製﹄へとイリヤが俺
と共に飲み込まれるのは想定内。
だけどイリヤの存在は俺にとって弱点になる。
イリヤに何かされそうになったら俺はどうしても彼女を守る方向
で確実に動いてしまう。
ブルーリングー
そこであるものをプレゼントしたわけだ。
テテテッテテー
!
﹃ブルーリング﹄とは、盾の種類に分類されるものだ。
!
﹂
うけど、パスは通ってるからイリヤはかなり防御力が上がってるわけ
だ。
これでイリヤは大丈夫だ。
﹁さーてアーチャー。お待たせしたね﹂
﹁そのままずっとゆっくりしてもらっても構わないが
﹁あー、最初の目的は足止めだったか﹂
すっかり忘れていた。
けどまぁ今更関係ないさ。
﹁あんたを倒して空間を飛んだら良いだけの話だな﹂
﹁チートめ⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁何か言って
﹂
が持てるっしょ
﹂
﹂
﹁信じる信じないは自由だけどさ。でも、ヘラクレスに比べれば希望
﹁それを信じろと
すれば俺はサーヴァントではなくなる﹂
﹁じゃぁ俺を倒すためのヒントだ。俺の命のストックは一個だ。そう
?
﹁う、うん⋮﹂
ヘラクレスよりは俺の方が倒しやすくはあると思うんだけどなぁ。
俺はスケドを無限に持ってはいるが、それとは別に聖杯戦争への参
加権が設定されていることが実は初期の方で分かった。
それが一度の戦闘で2回死ぬこと。
たぶんこれは、ゲームでスケドを持てるのが一個だったことからき
てると思う。
だから自前の命+スケド一個分で2回の死亡。
13回殺さないといけない原作バーサーカーに比べれば楽勝だよ
ね
﹂
!
271
?
?
﹁⋮⋮頑張るとしよう﹂
!?
﹁とりあえずやろうか。まずは、節子おばさんのフライパン 来い
!
俺の手に巨大な、1m位はあるフライパンが現れる。
!
◆◆◆
誰だ、節子おばさん。
いや、そんなことを考えている場合じゃないな。
以前のネギもそうだが、アレな見た目でも彼女の出す物は全て確か
に宝具として成り立っている。
どうやってそこに神秘が生まれたのかは不明だが、いくつか見て宝
具だと私は認識した。
今バーサーカーが持っているフライパンもそうだ。
料理には使いそうにないサイズではあるが、確かにあれはフライパ
﹂
ンなのに剣なのだ。
﹁ターンオーバー
それをバーサーカーは私へと叩き付けようと振りかぶる。
それを受けるため手にしていた剣を上げる。が、そこで嫌な予感が
して、後方へと飛び退く。
ダァン
ダァァン
!!
先ほどからのことが脳裏をよぎったのだ。
ダァン
!
し。
見た目だけで言えば可愛いものだが、その威力は、目の前にある結
果はやはり納得しがたい。
今のでもクレーターが⋮⋮。
もしも自分が受けていたらと思うと、背筋が凍る。
﹂
そして何故か、想像の中の自分がデフォルメされたように縮んでい
るのだ。
否定できないことが恐ろしい。
武器変更、節子おばさんの料理セット
このバーサーカーならやりかねないのだ。
﹁さて次だ
一旦フライパンが消えて、出てきたのはまたしても同じフライパン
!!
272
!!
1撃2撃、自身すらも空中で1回転しての合計3連撃の打ち下ろ
!
!
⋮と、お玉
出てきたお玉も1mはある。
何でそんなものを作ったんだ節子おばさん。
あれだろうか、相手を料理するとか
る。
﹂
一先ず、今度は何かをされる前にこちらから行かせてもらおう
﹁これでもくらっておけ
!!
いく。
﹁数が多すぎるんだけど
﹂
くっ、エルロン家奥義 死者の目覚め
自身の周りにある剣をバーサーカーに向かって何本も投げつけて
!
気に食わないが、奴がセイバーとのパスを強固に出来れば勝機はあ
・
のを遅らせることが今の私の使命だ。
だとしても、一分一秒でも時間を稼ぎ、凜達の元へこの子達が行く
ない。
それがある以上、足止めなど気休め程度にしかならないのかもしれ
確かにバーサーカーは空間を跳躍する技術があるのだろう。
ただ、こちらもやられてばかりでは居られない。
賛に値するよ。
少しずつ溜まっていく心の疲労を狙っていたのだとしたらもう賞
になってくる。
それに、理解しがたいがあれらを剣として認識してしまう自分が嫌
駄目だ。どうしても思考がズレてしまう。
?
近づくのは危険と感じ、今度は離れたところから攻撃する。
!!
!?
﹂
ガンガンガンガンッ⋮
﹁何っ⋮
!!!!
音が衝撃波となっているのか、バーサーカーを起点に大地すらも捲
発生した音の壁によって、私が放った剣達を弾くとは⋮。
また非常識なことをやってくれたものだな。
慌てて耳を塞ぐ。
!?
273
?
そういってバーサーカーはフライパンにお玉を叩きつけ│││
!!
れ上がっている。
それほどの濃密な音。
確かに死者すら目覚めそうだ。
恐るべきはエルロン家か⋮。
というか、バーサーカーの家名はエルロンだったのか
が⋮⋮、いいのか
あと、離れたところにいるイリヤがきゅ∼っと目を回しているのだ
自分も食らってしまったようで、微妙にふらついている。
の技は封印だな﹂
﹁あはは、誉め言葉として受け取っておくよ。っつか頭が痛ぇ⋮。こ
いよ﹂
﹁何だその技は⋮。相変わらずの君の不条理さには冷や汗が止まらな
まさか、節子おばさんの家名がエルロン
⋮
いや、バーサーカーのことだ。どこかで覚えたとか言いそうだ。
?
そしてだから、と続け│││
そろそろ終いと行こう
!
不条理だ。
そして、やはりあれも宝具⋮⋮。
私の解析ではなぜかアレは斧と出ている。
その手に出てきたのは、巨大でカラフルな棒付き飴。
﹁来いよロリポップ
﹂
そう言いながらバーサーカーが手を上に掲げる。
る技なのさ。本来の俺の種族は射撃が下手なんだよ﹂
﹁あれは裏技を使ってるからね。ぶっちゃけ初見殺しだからこそでき
あれほど的確に私を狙えるのに遠距離戦を苦手とは笑えてくるよ。
初回の戦闘で放ったあの炎槍は死を覚悟するほどだった。
るんだがね﹂
﹁君に遠距離戦を苦手と言われては、アーチャーとしては泣きたくな
ンとお玉をその手から消した。
自滅攻撃から持ち直したバーサーカーは、そう呟きながらフライパ
﹁遠距離戦は負けるの必至だし、近距離戦も誘われるときついか⋮﹂
?
!
274
!?
!?
﹂
だが、終わりにすると言っている以上終わりにする気なのだろう。
﹁アンガ・ジャブロッガ
た。
﹁言ったろ、終わらすってさぁ
﹂
!!
﹁くっ
﹂
﹁まだまだぁああああああ
﹂
至近で受けた時の威力は想像もしたくない。
これだけ離れていても散弾のごとく飛んでくる石に手一杯だ。
余分に避けていて正解だったな。
飛ばす。
直後に地が爆発、大音量と共に打ち付けた場所を中心に辺りを吹き
﹁⋮そういうことか
﹂
彼女はにやりと笑い、避けたにもかかわらずそのまま地へ打ち付け
しかしそれすらも予測していたのだろうか。
そう判断していつも以上に大きく回避する。
余裕をもって回避するべきだな。
だが近づくのは恐らく危険。
隙だらけ。
斧︵飴︶を肩に担いで力を溜め、飛び上がり振り下ろしてきた。
!!
!!
見た目に反してその強大な威力は私の身を徐々に追いつめる。
2回、3回と振り下ろされる斧は、その度に大地を掘り返し、その
爪跡を残していく。
そして回数を重ねるごとに、何故か彼女の動きが鋭くなっていく。
なんだそれは。この状況で学習しているとでも言うのか⋮。何が
ヘラクレスより容易いだ。
隙あらば倒せるかと思ったが、どうやら私はここまでのようだな。
もうそろそろ捌き切れなくなるだろう。
﹂
!!
その命の片方は貰い受けていくぞバーサーカー
だが、その命。一つ分位は貰っていくぞ
﹁もうちょい
﹁悪いがその前に
!!
!!
275
!
連続して振り下ろされる斧︵飴︶。
!?
﹂
◆◆◆
﹁この全てをかわせるか
行け
﹁ちっ、ついに来たって訳か
﹂
かび、俺に向かって飛んでくる。
﹂
アーチャーが告げた瞬間、辺りに刺さっていた剣達が一斉に宙に浮
!!
数が圧倒的すぎる。
やっぱこいつは厳しかったか⋮。
﹁これなら少しはダメージが通った⋮か⋮
の量だ。当たるはず⋮﹂
﹁あぁ、当たってるよ。全部、ぐフッ⋮﹂
痛いイタイいたい⋮⋮。
?
のなんだろうか
テンプレものでよく不老不死になる奴がいるが、最初は皆こんなも
初めての死ぬ程の痛みが、俺の中を駆け巡る。
頭がおかしくなりそうだ。
反射的に動いた所でこ
咄嗟にロリポップを振り回し、叩き落とすも間に合わない。
!!
いわば実験ですたい。
チート便りだと、俺自身の成長につながらなさそうだし。 気になっていた。
それに、俺の身体能力とビーストとしての力がどこまで行けるかも
ざという時に良いかなと思った次第です。
けど、俺も不老不死になったそうだし、1度は死んでおいた方がい
できただろう。
確かになりふり構わずチートを使えばさっきの剣群は防ぐことが
過するのだろうか。
自分が自分であることをやめたくなるこの感覚を、この儀式を、通
?
276
?
!!
でもその御陰で、いくら身体能力が高くてもやっぱり中の経験が少
ないとダメだってのは分かった。
それにしても、うあ∼、ウニになった気分ってのはこういうものな
のか。
メダカ箱の超絶生徒会長の元に居るツンデレ気味な庶務︵男︶││
まぁ善吉君のことなんだけど││の気持ちが分かったよ。
こっちの方がエグイけどね。
刺さって無いとこ探すほうが難しいぜよ。
そうこうしている間に、身体が光に包まれ、剣もなくなり身体が元
の状態に戻る。
﹁ふぃ、痛かった。痛いのはもう勘弁願いたいぜ﹂
﹁これで一回とはな⋮﹂
満身創痍。
そう言い表すのが的確な程にボロボロなアーチャー。
277
いや犯人俺だけども。
でも俺も大概ボロボロだから許してほしい。
ボロボロだった、か。
今の俺は考えるかぎり最高の状態に持ってこれている。
完全回復し、ゲームとは違い戦意は潰えず最高にハイな状態。
﹁クク、少しは勝てるかと淡い期待を抱いていたが意味はなかったな。
まぁ良い、十分に時間は稼げた﹂
そうこちらに良いつつ、仁王立ちになる。
恐らく、念話でも来たのだろう。
それがどういった内容なのかは分からないが、十分に距離は取った
から隙を見て逃げて来いってとこかな
だけど逃げれる状態じゃないから覚悟を決めたとか
まぁどちらにしろここで仕留めさせてもらうよ。
◆◆◆
空気が変わった。
?
?
バーサーカーから立ち上っていた高揚するような雰囲気が極限ま
で高められていく。
そして蒸気するように頬を染め、明らかに今までの楽しむような姿
とは別の、何か。
赤い瞳が私を見ている。
紅く、朱く、赫い、獣のごとく瞳孔の割れた瞳。
そして、彼女の身体は光を放ちながら姿を変えていった。
ああ、私は勘違いをしていたらしい。
獣のごとく⋮ではなく、獣そのものだったのか。
そしてこれが、本当の狂戦士たる所以。
その姿は青き大猫。今の彼女を言い表すならばそれが正しいだろ
う。
徐々に近づく彼女。
だが、私にはそれがひどくゆっくりとしたものに感じる。
278
これが死の直前に感じるというあれか。
全力は尽くした。使命は遂げた。ただ、目的は果たせなかったか。
しかしそれも仕方がない。
あとは凜がこの聖杯戦争を生き残ってくれるように願うだけか。
いつしかバーサーカーは目の前に居る。そしてその腕を振り上げ
│││
﹃またね﹄
││また
そこで私の意識は途絶えた。
振り下ろされる巨大な獣の腕。
?
﹃stage24:目指すモノ﹄
ふむ。アーチャー戦終了っと。
そう一息入れると同時にアーチャーの固有結界が溶けていく。
な感じだ。
そして元のアインツベルン城の景色に戻った。
アーチャーの身体は何故かまだメメタァッ
ふぅー⋮。もう、大丈夫かな
中の熱を落ち着けていく。
速くなっていた息を整えながら、マグマのように巡っていた身体の
とりあえずは昂ぶっていた心を落ち着けよう。
修行したら変わるのかな
変な所でゲームに準じてるんだよなぁ⋮。
たいで既に元の姿に戻っている。
俺はというと、蒼猫化の変身時間はゲーム設定通り30秒だったみ
あえて言うなら、モザイクが必要でR│18Gな状態だな。
いや元ネタは結局潰れなかったからこっちの方がひどいか。
!!
心を落ち着けたことで視野が広くなり、大事なことを思い出す。
あ、そういやイリヤ忘れてた。
?
声を出しつつも目を開ける。
﹂
そのまま目を瞬かせながら、現状を理解するためにか俺の顔を見
た。
﹁コウ⋮ジュ⋮
279
?
辺りを見ると、イリヤが目を回して倒れていた。
誰がやった
﹂
?
イリヤの身体を優しく揺らすと、すぐに目が覚めたのかうなる様に
﹁あ、起きた
﹁う、うぅん⋮﹂
またお仕置きかな⋮。
ハイ、俺ですよね。
!?
?
﹁ごめんなさい
﹂
﹂
あれ、そういえば何でだろ
何でなのコ
猫⋮あぁ、さっき獣化してたから⋮って、イリヤが気絶して
た理由聞かないの
﹂
﹁気絶してた理由⋮⋮
ウジュ
どうするよ
墓穴ったぁぁーー
どうする
﹂
?
んだけど
﹂
﹁そっか。でも変ね。私はフライパンとお玉の音でやられた気がする
メージ的な
﹁いや、あの、まぁ戦闘が激しかったし⋮ね ほら、コラテラルダ
?
?
﹁ふぇ
﹁猫臭い⋮﹂
何度目かも分からない位にしている気がするよ。
すかさずジャンピング土下座をする。
!!
と、とりあえず誤魔化すか。
!?
?
!
なった俺は再び頭を下げる。
悪いことしたら謝らないとね
女のジト目に負けた訳ではない。
﹁ごめんなさい⋮﹂
!
イリヤ。
﹁怒って⋮ない⋮
﹂
﹁ホント面白いわねコウジュは。からかい甲斐があるわ﹂
﹁弄ばれた
﹂
そんな俺にクスクスと、こらえきれないといった風に微笑んでくる
﹁ふふ⋮﹂
世界の常識だよね 決して幼
まさしくそう現すべき様相でこちらを見るイリヤに、耐えられなく
ジーっ⋮。
﹁覚えてんのかよ⋮﹂
最近この幼女が容赦ない件について。
引っかけてくるとかひどい。
ものすごいジト目でこちらを見てくる。
?
!?
?
280
!!?
?
!!?
?
?
﹁ええ。だって言っても意味はないと理解したもの﹂
﹂
﹁それはそれで悲しいっす﹂
﹁じゃあ、罰が欲しいの
﹂
﹁そんなことないです
つけます
とりあえずごめんなさい ちゃんと気を
やた、神様イリヤ様ありがとう
﹂
勝ったの
まだ、復活してないのかね
!!
ころだった。
?
向かう。
って、あ⋮。
﹂
アチャ男さんが、アチャ男さんが⋮⋮
﹁うぅん⋮。私は⋮、負けた筈⋮⋮﹂
?
チャーに思わず苦笑する。 ﹁バーサーカーに⋮イリヤ⋮
何故私は⋮﹂
二人して覗き込んでいた為、訝しみながら俺たちを交互に見るアー
かゆっくりと起き上がる。
どうしたものかと悩んでいると件のアーチャーが目を覚ましたの
!!
まぁね、そんな気はしてなかったって言ったら嘘だけどさ。
のかな
﹁予想通りっちゃ予想通りかな⋮。いや、そう思ってたからこそ⋮な
﹁コウジュ⋮。また⋮
﹂
念のためイリヤを回復させて、二人してアーチャーが復活した方に
見た感じでもイリヤに傷とかはなさそうだな。
﹁えぇ、無事よ﹂
﹁イリヤ立てる
﹂
そういえばと思って彼の方を見ると、丁度その体が光に包まれたと
になっていたアーチャー。
イリヤの方に意識を向けていたおかげで思考のどこかに行方不明
?
イリヤに言われて思い出した。
﹁それでアーチャーは
!
﹁うん、許す﹂
?
!!
?
?
281
!!
?
?
覚醒してすぐの為か頭が回転していなかったようだが、やっと正常
時に戻ってきたようだ。
元凶である俺をジト目で見ながら、早く先を言えと、言外に訴える。
﹁アーチャー、それには色々と訳があるんだよ⋮。えと、その、もちつ
いて聞いてくれ﹂
﹁いや君が落ち着きたまえ﹂
失礼、噛みました。
私が生きて
しかしながら、自ら罪の告白をするというのは緊張するものだ。
先程までと違う意味で早鐘を打つ心臓。
これが、不整脈
⋮⋮なんて冗談はさておき、息を整え話を進める。
﹁お、おう。スーハー⋮。おっけー。大丈夫﹂
﹁ふむ、では何を言いたかったのか言ってくれないか
いる理由もだ﹂
﹁その、なんだ、まずは⋮だな。俺が言いたかったのは⋮﹂
﹁それなら簡単よ、アーチャー。立って自分をよく見たら良いの﹂
俺がまごまごしている間にイリヤがアーチャーにニヤニヤしなが
ら言った。
﹁まったく何がどうなって⋮⋮﹂
そして、イリヤに言われるままに自身を確認し、当然固まるアー
チャー。
﹂
しかしすぐに再起動し⋮。
﹁なんじゃこりゃぁ
太陽に吼〇ろ
いやいや、そこは伝家の宝刀﹃なんでさ﹄だろ
ほ と ん ど 俺 の 所 為 な 気 も す る け ど、気 の せ い だ よ な。う
ってか、キャラ壊れてますよアーチャーさん。
あ れ
ん。
282
?
!?
!?
声も子供っぽくなってるからワイルド感はないけど⋮。
!?
!?
﹁えらく可愛くなったわね。アーチャー君♪ ぷ、くくく⋮⋮﹂
?
そんなアーチャーにイリヤはとどめ⋮っていうか滅びの呪文
を唱えた。
﹁⋮⋮馬鹿な﹂
痛恨の一撃。
うわ、見てられない。
魔化そう。
どうしよう。俺がミスったからこうなった訳だけど、どうやって誤
?
ライダーの時みたいにならないように頑張ってイメージを加えた
筈なんだけど⋮⋮。
いや、原因究明は後だ。
それより、どう誤魔化すか│││
﹂
﹁あ、ちなみにそんなふうになってる原因は全てコウジュだから﹂
﹁⋮何
悪魔
イリヤめ、チクリやがったな
うぅ、鬼
を見てくる。
いじめっ子だ
いじめっ子がここに居るよ
﹁バーサーカー、どういうことかね
説明を願いたいのだが
﹂
ひょっとしてさっきのをまだ根に持ってるんじゃないだろうな
!!
思わず俺がイリヤを睨みつけると、またもニヤニヤしながらこちら
!!
?
すぐに消えたやつ﹂
?
時だね﹂
﹁うん、見たことあるはずだよ。士郎が1回目に死んだ時に。学校の
﹁覚えている。待てよ⋮。私はあれに似たのをどこかで⋮﹂
の所にカード置いたの覚えてる
それから、今の状況なんだけど⋮あのさ、さっき俺が戦闘中に心臓
て呼ばれると違和感あるし。
﹁えっと、とりあえず俺のことはコウジュで良いよ。バーサーカーっ
じる。
何が言いたいのか自分でも分からんがとにかくプレッシャーを感
怖くはないけど、なんか怖い⋮。
うわ、戦闘中とは違う意味で口元がヒクついているアーチャー。
?
!?
!
283
!
!?
?
﹁っ
﹂
そうか、あれは君が⋮。しかし何故それを私に使う必要があ
るのかね
﹂
﹁それが重要な点だね。アーチャーはさ、エミヤシロウなわけだけど、
この聖杯戦争がどういう結末になるか覚えてる
﹁でも⋮
﹂
けることも確実にないでしょうね。でも⋮﹂
﹁言い方が悪かったわね。この子の場合勝つことは可能よ確かに。負
﹁いや、それはないだろう。あれほどの力や宝具を持っておいて⋮﹂
またしてもイリヤのフォローが入る。
﹁それはねこの子がギルガメッシュに勝てない可能性があるからよ﹂
ちょっと言いにくい。
﹁それは⋮⋮﹂
る。しかし、それが私にどう関わるのかが分からん﹂
﹁⋮⋮。確 か に イ リ ヤ は 器 に さ れ る。君 が そ れ を 防 ぎ た い の も 分 か
ぎたい﹂
﹁じゃあさ、イリヤの最後は分かるよね。端的に言えば俺はそれを防
黄金の決別。これが私が覚えているこの聖杯戦争の終わりだ﹂
業である言峰綺礼とギルガメッシュを下し聖杯を砕いて、セイバーと
﹁結末か⋮。衛宮士郎、セイバーの主従が勝ち残り、第四次聖杯戦争の
?
えっと、つまりどういうことかね⋮﹂
があるのよ﹂
﹁は⋮
うん、まぁ、そんな反応になるのも分かるよ。
﹁アーチャーが俺と戦ってる時にさ、違和感感じなかった
﹂
﹁コウジュがギルガメッシュと戦うと、町ごと全部吹っ飛ばす可能性
?
⋮﹂
﹁そうそう、それそれ。実を言うと、俺に出来るのは力押しだけなん
よ。俺も最初は自分の力でちゃちゃっと終わらせようと思ったこと
もありました。だがしかし、不測の事態に陥った時に俺は冷静に対処
できるのかと考えてみた。そして、イリヤにも聞いてみた。結果は御
想像にお任せします⋮﹂
284
?
!?
﹁ふむ、確かに感じたな。動き方に統一性が無いといった感じでだが
?
?
﹁つまりコウジュは手加減がものすっっっごく、下手なの。だから、
とっさの時に力技で全部吹き飛ばしちゃう可能性があるのよ。対人
そうなるとコウジュの場合、飛んでくるものすべて吹
戦ならともかく、ギルガメッシュは絨毯爆撃みたいなことをしてくる
んでしょう
き飛ばそうとすると思うの﹂
﹁だから、俺がギルガメッシュと戦うのは危険なので代わりに戦って
くれる人が要るわけなんすよ﹂
﹁そ、そうだな。そんなことになる可能性があるのなら私が戦おう﹂
なんか視界が霞んできた気がする。おかしいな、目から汗が⋮。
でもまぁ、備えあれば嬉しいなってどこぞの大王も言ってたらしい
じゃないか。
もしも、もしもの話だけど、確かに咄嗟の時に色々フルバーストし
ちゃうとどうなるかわからないからさ。仲間は居るだけ居てくれた
方が良い。
﹂
﹁で、それが一つ目の理由﹂
﹁まだあるのか
ルー
ル
ブ
レ
イ
カー
﹁キャスターの宝具は知ってるかな
﹂
でもその原因も自分なので何とも言えない。
まう。
次は何を言われるのかと身構えるアーチャーに少しむっとしてし
!?
う意味だ
﹂
﹁あー、何と説明していいものか⋮﹂
ラーニングのことを素直に教えてしまうか
﹁待て。剣とは私の固有結界の事だと予想できるが、理解とはどうい
かったんだよ﹂
﹁そ う そ れ。そ れ を 手 に 入 れ る た め に 〝 剣 〟 と い う も の を 理 解 し た
﹁破戒すべき全ての符だな。魔術を無効化するのだったか⋮﹂
?
して気持ちの良いものではないだろうし、ここは一旦濁そう。
﹂
﹁コウジュは特定条件をクリアすれば敵の力をコピーできるのよ﹂
﹁ちょっとなんでばらしちゃったの
!?
285
?
いや、さすがに自分の心象風景をまるっとコピーされるってのは決
?
?
濁す方向に考えた瞬間イリヤから横やりが入る。
もうやだこの幼女。
そんなことを考えていると、顔に出てしまっていたのかどこぞの紅
茶みたいにやれやれってな表情で諭すようにイリヤが口を開く。
﹁コウジュ、こういうことは先に言っておくべきよ。協力してもらう
なら出来る限り説明しておいた方が良いわ﹂
﹁はいお母さん﹂
﹂
﹁⋮⋮あなたみたいな娘が居るとしたら心労で倒れそうだわ﹂
﹁そこまで
でもイリヤの言うことも分からないではない。
確かに隠し事ばかりしている奴を信用できるかと言えば否であろ
う。
俺をここまで信頼してくれているイリヤが特別なのだ。
隠し事になれちゃぁいけねぇよな⋮。
﹁ふむ⋮、概要は理解した。確かにあの魔女が持つ短剣ならばイリヤ
を助ける為の一助となろう。コウジュがどこまでチートかはさてお
き、イリヤを助けたいというのは分かった﹂
﹁そっか﹂
話の断片を頭の中で整理してくれていたのか、アーチャーは理解を
示してくれた。
あの士郎君がここまでなるんだからイリヤも鼻高々だろう。
いやまじで横の幼女が嬉しそうだ。この姉ブラコンだ
どうしてこの展開で助けてくれるって言ってくれてるのだろう
私が手伝うことが﹂
﹁なぁアーチャー。なんで││﹂
﹁疑問か
﹁私 は 救 え る も の は 救 う 主 義 で な。君 の 力 が あ れ ば そ れ も 可 能 だ と
に皮肉気に笑いながら言ってきた。
俺の疑問を予想できていたのか、アーチャーは全てを言い終わる前
?
俺はまだ何をするかしか言ってないし、対価を渡した訳でもない。
ま、まぁさておき、アーチャーが協力的なのが気になる。
!
286
!?
﹁あ、うん⋮﹂
?
思っただけだ。それに││﹂
そこまで言うとアーチャーはこちらから顔を逸らして言いにくそ
うにしながらも続きを話す。
﹂
離れろ
﹂
﹁その、なんだ。仮にも姉だからな。できれば救いたいと思っていた
のだ﹂
﹁シロー
﹁うわっ、なにをするイリヤ
!!
俺もかなりイリヤに入れ込んじまってるしな。
って、とりあえずそこのショタとロリいちゃつくのやめろ
ヒーをブラックで飲みたくなる
!!
見直す。
︶アーチャーは身だしなみを整えながら立ちなお
腕やら足やら順番に見ながら何かを確認しているようだ。
それが終わった後、何故か俺の方をじっと見る。
なんだろう
﹁どったの
﹂
﹁今の説明のどこかに、私がこの姿になる必要性があったか
﹂
俺は思わず明後日の方向を見る。
﹁何故、目をそらす
﹂
しかしそこで、何故かアーチャーは改めて自分の小さくなった姿を
した。
襲われていた︵
わさ撫でていたイリヤがアーチャーから離れた。
そんな俺の思いが伝わったのか、アーチャーにダイブして髪をわさ
!!
コー
イリヤを助けようとしてくれる人が多いのは純粋にうれしい。
ま、嫌いじゃないけどな。
じゃないか。
お か げ で イ リ ヤ の 何 か が 吹 っ 切 れ て ア ー チ ャ ー を 押 し 倒 し て る
でっかいアーチャーの時は絶対言わなさそうなセリフなんですが。
てるんですかねぇ
ちょっとこのシローさん小さくなったせいで感情が出やすくなっ
!!
!!
﹁ちょっと待て﹂
?
287
?
?
?
?
?
﹁き、記憶にございません⋮﹂
﹁訳がわからにことを言うな。というか、それはどこの政治家だ﹂
﹁うぅ∼、ごめんなさい。失敗したんです。俺が持ってる死の淵から
生還させるアイテム、スケープドールっていうんだけど、これをその
まま使っても聖杯との繋がりを切れなかったから弄って⋮。その結
果完全な受肉が出来るようになったけど、何故か身体が小さいままな
のは修正できなかったんだよ。まぁ実際に使わないと結果は分から
﹂
ないし、一応今度こそ成功したと思ったんだけどなぁ⋮﹂
﹂
s righ││嘘ですごめんなさい
﹁私は実験体か何かか
﹁That
ギロッと俺を射殺さんばかりに睨んでくる。
の力なのかな
﹂
くしたような姿だということか。これも君のスケープドールとやら
幼少時の姿になるのではなく、アーチャーとしての私をそのまま小さ
肉している分、身体維持に魔力は不要となったか。不思議なのは私の
チ面くらいか。凛とのパスは⋮やはり完全に切れているな。だが受
わってないのか⋮。ならば身体が縮んで問題となりそうなのはリー
﹁魔 力 量、魔 術 回 路 共 に 異 常 は な い。筋 力 等 の 基 本 ス テ ー タ ス も 変
トレース・オンとおなじみの言葉を言った。
一先ず俺への言及は止めてくれたアーチャーはそのまま目を瞑り、
どこぞの幼女と違って、優しい。
アーチャーは、いきなりため息をつきながらそんなことを言った。
はできないが理解しよう﹂
﹁はぁ、もう良い。この身体もマイナスばかりではなさそうだ。納得
よ。
今ではほとんど同じ身長なのに、目が前と同じように鋭くて怖い
!!
!?
情で笑ってくれた。
そんな俺にアーチャー諦めも混ざってがいるのだろうが優しい表
負い目もあってついどもってしまう。
ら肌の色とかはそのままになってるみたい、です﹂
﹁う、うん。どうも復活と言うよりは転生に近いみたいなんだ。だか
?
288
'
私がいじ
﹁君がやはりチートだということはよく分かった。まぁとりあえずは
協力しよう。だから、泣きそうな顔は止めてくれんかね
﹂
めてるような気になる﹂
﹁し、してねぇよ
?
?
の何かが崩れる。
﹂
﹁そういえば、一ついいかね
﹁何
﹂
さっきから俺の視界を霞ませているのは汗だ。そうじゃないと俺
やっぱり失礼な奴だ。
!
﹂
改めて現状を確認する。
だ。
その止まってしまった原因はまだこちらには気づいていないよう
まった。
しかし、中に入ると面白い光景があったので入り口で止まってし
てきた。
いつものごとく、その辺のドアから力を使ってマイルームに移動し
◆◆◆
﹁分かった﹂
﹁それもそだね。アーチャー、場所変えよっか﹂
長い話になりそうだし。
だけど確かにそうだな。
イリヤがつまらなそうにそう言ってきた。
ない
﹁ねぇ、こんな所で立ったままというのもなんだしマイルームに行か
﹁そうだねぇ⋮ま、いんじゃない
あ、でもうっかりスキルが⋮﹂
元マスターなんでね。構わないのならいくつか言っておきたい﹂
﹁凛のことなんだが、連絡を取ると今後の作戦に支障をきたすのかな
?
?
﹁さーくーら﹂
289
?
?
﹃さーくーら﹄
﹁さくら﹂
﹃さくら﹄
えっとつまり、ライダーさんが可愛いことをしているわけだ。
チーズ君人形︵マイルームグッズの一つでピザ好きな王の力をくれ
る魔女さんがたまに抱えてるやつ︶をその手に抱えて、モトゥブパパ
ガイ︵オウムみたいに言葉を覚える鳥でマイルームグッズの一つ︶に
﹂
向かって自分の主の名前を覚えさせて嬉しそうに笑っている。
﹁何⋮してんの⋮
見ての通りの状況なのだが、聞かずにはいられなかった。
その瞬間ライダーがこちらにバッと顔︵ちなみに眼鏡︶を向け、顔
を青くしたと思ったら、すぐに顔を真っ赤に染めるという器用な事を
しだした。
前も見たけど、またやってるとは⋮。
﹂
しかも今回は普通に入ってきちゃったからなぁ。知らんぷりし辛
い。
﹁お、おかえりなさい。いつ⋮お帰りに⋮
﹂
?
﹂
どうなんですか
?
﹂││イリヤさん
絶対に見ましたよね
﹁たった今⋮なんだけど⋮﹂
﹁見ましたか
﹁何も見てな││﹁ばっちり見たわ
!?
?
イリヤはライダーにも滅びの呪文を唱えた。
前回は反応が少なかったから今回は思いっきり言うことにしたに
違いない。
﹂
この小悪魔幼女め。
﹁∼∼∼
彼女も私のように捕獲されたわけか﹂
ドの方に走っていき布団にもぐった。
﹁今のは⋮、ライダーか
う。
後ろから最後に入ってきたアーチャーがちょろっと失礼な事を言
?
290
?
見てしまったがライダーの為にも見ていないと言おうとしたのに、
!
?
ライダーは耐えられなくなったようで、チーズ君は抱えたままベッ
!!
捕獲とは失礼な。
あくまでも協力者ですよ
別にコウジュから聞いた作戦内容だと影響は
考えてのくだりは何のためだ
﹂
﹁ふむ、連絡を取れるなら少しくらい遅れてもかまわんが、今後の事を
アーチャーは力がほとんど使えないということにしよう﹂
バー戦の後でってことにしよう。ついでに、その後のことも考えて
可能なんていう心の余裕を持たせたくはないんだよね。だから、セイ
﹁う∼ん、良いっちゃ良いんだけど、でも俺と戦っても生き残ることは
ないんじゃないかしら﹂
﹁まず凛のことよね
﹁さてさっきの続きなんだけど⋮﹂
ふむ、今日も緑茶が美味い。
お茶にお礼を言ってから話を続けることにした。
しばらくするとイリヤが同じようにテーブルに着いたので貰った
行ってくれた。
同じようにアーチャーも座り、イリヤは慣れた様子でお茶を淹れに
城から持ってきてあるのでそこに座った。
ゲーム内では無いが、そこそこ立派な椅子とか机をアインツベルン
俺は入り口からライダーが潜り込んだベッドのある方に行く。
らわないとだから﹂
﹁とりあえず、あっちに行こうか。どうせならライダーにも聞いても
?
もちろんこれはアカシックレコードから知ったものではなく、いわ
れる可能性が高いということ﹂
でも、一つ確実に分かっているのが衛宮士郎の固有結界が異端視さ
正直この戦争以降のことはほとんど知らない。
でさ。
確かに、俺はアカシックレコードに接続できるけど、それは限定的
﹁それは、士郎の成長をこの戦争中にしておいてほしいからだよ。
いや、するけどもさ。
やっぱ説明めんどくさいな。
うへぇ、もうそっちも言わないといけなのか⋮。
?
291
?
ゆる原作知識の一部だ。
確か、脳と魔術回路を引っ張り出されて、そのまま考えることもで
あんま覚えてないけど⋮。
きずに無理矢理生かされるんだよな
するのは⋮魔術協会だっけ
?
﹁封印指定ってあれよね 継承等が不可能と判断されたために保護
ていた﹂
﹁確かに固有結界は異端視されやすい、実際私は封印指定候補となっ
いだろうかと思う最近だ。
クーリングオフが利くのならしたいよ。不良品渡されたんじゃな
使えないんだよ。そして疲れだけ残る。精神的に⋮。
でもな、アカシックレコードを何回使っても何故か中途半端にしか
うだろ
確認すればいいじゃんアカシックレコードがあるんだからって思
?
それに個人的にあまりそんなことしたくない﹂
?
﹁なにかね
﹂
﹁﹁・・・﹂﹂
宮士郎という存在が無ければあれこれ考える必要もなくなる﹂
﹁私個人としては衛宮士郎を殺したいわけなんだが
そもそも、衛
けど、士郎は絶対厄介事に首を突っ込んでいくから力は必要になる。
記憶やらなんやら全部消して一般人になってもらうことも考えた
百長が入るのは仕方なしだ。
﹁それもあるから俺は士郎が力をつける機会を潰したくない。若干八
ではあるがね﹂
﹁その通り。私の無限の剣製も私個人の物である以上分かっていた事
という名目の元に幽閉されたり、奪われるという﹂
?
ひねくれたものなのは分かるわ﹂
﹁ある程度知っている俺もやっぱりひねくれてると思うよ
?
﹁私は士郎がどうなっていくのかまで聞いてないけど、その考え方が
になるとは思うが。
イリヤとかぶってしまった。まぁ、ここに凛とかがいても同じこと
﹁﹁ひねくれもの﹂﹂
?
292
?
分からないでもないってのも内心あるけどさ。まぁその辺はアー
チャー⋮というか衛宮士郎の命題だから結局は自分で答えを出して
欲しいし、そのために受肉してもらったってのもあるわけで⋮⋮おっ
と、今はそれは置いといて。
でもそれ以前にアーチャがこの時代の士郎を殺してもアーチャー
﹂
と言う存在がなかったことにはならないと思うけどね﹂
﹁それは何故かね
﹁俺がいるじゃん﹂
﹁む⋮﹂
今気づいたようだ。
すでにアーチャーが士郎として過ごした時代とは乖離しているん
だ。
横の繋がり︵並行世界としての︶はあっても縦の繋がり︵時間軸的
な︶はない。
ひょっとして、あんたもうっかりか⋮。伝染病なのかな⋮
方法を探してくれよ
﹂
﹁それもあなたの思い描くハッピーエンドってなわけ
﹂
﹁せっかく受肉したんだからさ、後ろ向きな方法じゃなくて前向きな
?
仲間で事に当たるとかさ。
?
﹁⋮くす﹂
﹁くくく⋮﹂
﹁ふふ﹂
ピーエンドの為には︶アーチャーが必要なんだよ﹂
﹁まぁ、グダグダになったけど、そんなわけで俺には︵目指してるハッ
そう言いつつもどこか嬉しそうなアーチャー。
﹁ふん、たしかに余計なお節介だな﹂
良い案があったら誰かに教えてもらいたい位だね。
微妙なんでこんな程度しか思いつかなかった。
俺は他の二次小説オリ主みたいに器用なことはできないし、知識も
あとは今の内から士郎を魔改造するとか﹂
肢くらいはあっても良いじゃん
﹁直接的なものじゃないけどさ、余計なお世話かもしんないけど選択
?
?
293
?
﹁な、な ん だ よ
何 で み ん な 笑 っ て ん だ よ。ラ イ ダ ー も 布 団 の 中 で
ちゃっかり笑ってるしよ﹂
﹂
﹂
﹁いや、何。今の君のセリフだとプロポーズのようだったものでね﹂
﹁んな
﹂
﹂
﹁えっと⋮﹃俺にはアーチャーが必要なんだ﹄だっけ
言葉のあやに決まってんだろ
イリヤが俺のマネをして茶化す。
﹁う、うるしゃい
くそ、噛んじまったじゃねぇか⋮。
相変わらずイリヤは俺をすぐに苛めようとする。
とにかく、手伝ってもらえるんだよな
ちくせう⋮。いつかはこっちからしかけちゃる
﹁今のは忘れろ
!!
!!
う﹂
﹁このキザ野郎っ
﹂
やっぱりやな奴だ。
でもまぁ、これでまた仲間が一人増えた。
あれこれあったが一先ずは順調かねぇ。
﹁それで、これからどう動くのかを教えてくれないか
﹂
?
﹂
?
して交渉かな﹂
﹁交渉材料はあるの
﹂
﹂
だから、アサシンは保留。キャスター、ランサーはとりあえず接触
けで満足みたいなこと言ってたんだよ、確か⋮。
﹁確かアサ⋮もう小次郎でいいや。小次郎は強い奴と戦えたらそれだ
﹁アサシン⋮佐々木小次郎か。何故微妙と
﹁もちろん仲間にする。アサシンは微妙だけど⋮﹂
﹁他のサーヴァントはどうするんだ
ラーに備える感じかな。そして最後に全面戦争をする﹂
﹁とりあえずは、士郎には勝ち進んでもらって、裏で俺たちがイレギュ
?
﹁レディーに誘われて断るのは野暮というものだ。手伝わせてもらお
?!
!!
!!
あれ、ランサーも強い奴と戦うのが目的だったっけ⋮。
ず。ランサーは⋮⋮﹂
﹁キャスターは受肉さえできたら良いし、すぐにでも交渉成立するは
?
294
?
!!
?
!?
じゃあ交渉は難しい
ああ
マスター居るじゃんホントのマスター若干忘れてた。
交渉できるわ⋮け⋮。
あ、それ以前にマスターが綺礼じゃん。
くれると心強いんだよね。
でも、アニメでランサーの兄貴は槍一本で剣軍を弾いてたし、いて
?
ゼットさん
でもどこに居んの
﹁ランサーは何か問題があるの
﹂
いや、それはランサーから聞けばいいか。
?
?
ランサーのホントのマスターであるダメットさん⋮じゃないや、ダ
!!
なら良いけど﹂
全てはハッピーエンドの為に
がんばろうじゃないか。
次はお待ちかねのセイバー戦だ。
さて大体は話したかな。
他愛もない話もあって、それなりに充実したものになった。
その後もいくつか話した。大半はセイバー戦の流れについてだが
﹁⋮
﹁いや、何でもない。いけると思う﹂
?
!
295
?
﹃stage25:繋がり︵意味深﹄
アインツベルン城から逃げている途中、前を走っていた遠坂が急に
立ち止まって自らの令呪を見た。
何を、と声をかけようと思った瞬間にはその令呪の存在は消えてい
た。
元々何もなかったように、ほんの少し前まで赤くその存在を示して
いたものが、無くなってしまった。
その役目を失ったのだ。
それが表すことは1つだけ。
アーチャーが死んだ。
隣を走っていたセイバーもその事に気づいたのか、苦々しい表情を
している。
296
俺も似た表情をしているだろう。
遠坂にどう声をかけようか悩んでいると⋮、
﹂
﹁イリヤスフィールがすぐに追ってくるわ、急ぎましょう⋮﹂
﹁遠坂⋮
﹂
自分も慌てて中へと続く。
ここが目的だったのか、遠坂は中に入っていく。
窓は割れ、壁がめくれてはいたがちょっとしたものだった。
﹁廃墟⋮
しばらく走り続けると建物が見えてきた。
何かをこらえる彼女に、俺は何をすればよかったのだろう。
それだけを言うと、遠坂は再び走り出した。
⋮﹂
﹁早く⋮。あいつらに殺されるようなことがあったら許さないからね
絞り出すような彼女の声に掛けずにはいられなかったのだ。
何かを言おうとしたわけではないが、つい声をかけた。
!
?
やはりというか、中も荒れていた。
しかし、隙間風さえ我慢すれば少し休憩する分には良いだろう。
﹁来るときにね、アーチャーが見つけておいたの。万が一の時の隠れ
家にしようってね﹂
﹁しかし凛。あちらもめぼしい場所は探すはず﹂
﹁ええ。でもイリヤスフィールが追ってくるにしてももう少し時間が
かかるはずよ。多少の偽装はしたし、探すのに戸惑えば朝方までかか
るでしょうね﹂
遠坂が窓から外を窺いながら、セイバーにそう返す。
しかし、その表情はどうしても暗いものに感じた。
﹁遠坂、アーチャーは⋮﹂
思わず口に出してしまった。
しまったと思った瞬間には、遠坂は顔をうつむかせる。
﹁足止めだけで良いって言ったのにさ⋮。あいつ、最後までキザだっ
﹂
いったのなら何かしらの傷を負っているはず。私だってとっておき
の宝石は全部持ってきてるし、まだ手はある﹂
遠坂はセイバーの質問に答えずジッと見つめながら、ポケットから
大粒の宝石を一つ取り出した。
確か、遠坂は宝石魔術を使うって言ってたからそれか。
297
たな⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
馬鹿か俺は。
励ますつもりが傷つけてどうする。
その失態に自分の事ながら呆れていると、遠坂は先ほどまでの暗い
表情をやめてこちらを見た。
﹁無駄になんかしない。アーチャーを失った以上バーサーカーはここ
﹂
で倒す。悩んでる暇があったら行動するのが私の信条。だから、あな
た達にも覚悟を決めてもらうからね
﹁覚悟⋮、ですか
遠坂は気合を入れるように、掌を反対の拳で撃った。
?
﹁いくらあのバーサーカーが規格外だからって、アーチャーが全力で
?
魔力をずっと貯め込んできたとも言ってたな。
しかし覚悟って一体
﹁セイバーの魔力を回復させるわ﹂
﹂
そう言った彼女自身も覚悟を決めた表情をしていた。
﹁でも回復する方法はどうするんだ
だがちょっと待てよ。
﹁回復する方法があるのか
﹂
回復できれば以前どおりの能力を発揮してくれるはず﹂
﹁セイバーは単に魔力が切れて弱っているだけ。一定以上の魔力さえ
?
だからこその覚悟。
そうすることでセイバーが回復するのか
﹁セイバーに衛宮君の魔術回路を移植する﹂
移植
﹁凛、ちょっと待ってください﹂
?
﹁やろう﹂
﹁本当にいいの
﹂
それでも俺の意思は変わらない。
なんだそんなことか。
﹁それはあまりにも酷です﹂
⋮﹂
ちぎるの同じことをしないといけないわ。そしてその負担は士郎へ
﹁そうね、魔術回路を移植させるためには、張り巡らされた神経を引き
│﹂
﹁魔術師にとって魔術回路は己の寿命より大切なものです。それに│
﹁セイバーの言いたいことは分かるけど一応聞くわ。何
﹂
そう遠坂に言おうと口を開くが、先にセイバーが待ったをかけた。
?
それが無かったということはまともではない方法ということか。
それ以外のまともな方法があるなら遠坂は教えてくれていたはず。
ととかい言ってた。
いつだったか教えてもらった魔力を得る方法は人の魂を喰らうこ
!?
﹁お前も言ったろ。あいつの為にも俺たちは勝たなきゃいけない﹂
?
298
?
その程度なら、俺は構わない。
?
﹁いいわ、それなら⋮﹂
そう言って遠坂がこちらに近づいてきた
んむ
﹂
﹂
﹁儀式の前のちょっとした下準備よ
いや、えっと、そんなことよりキス
え
?
ないの
﹁士郎
﹂
凛を⋮
止めてください⋮
﹂
!!
入ってきた時点で慌ててしまう。
﹂
もうこれしかないの
﹂
!
﹁お、俺も
﹁二人とも覚悟を決めなさい
!
魔力残量が微妙なのは自分で分かってるしょう
!?
セイバーも
一瞬何を言われたのか分からなかったが、我に返り内容が頭の中に
え
﹁何事も儀式の成功率を上げるためよ。さぁ、士郎も﹂
遠坂はそんな俺にお構いなしに続ける。
だが、止めろって言われても⋮。
直った。
未だ混乱していた俺だが、助けを求めるセイバーの声で何とか立ち
!
﹁あーもう 移植の前段階として少しでも接触を多くしないといけ
けていくが遠坂はしつこくセイバーを脱がそうとする。
手加減しているとはいえそこはサーヴァント、遠坂の手をうまく避
きないセイバーの服に手を掛け脱がそうとする。
そんな俺は放っておいて、遠坂はセイバーに強く突き放すことがで
完全に俺の脳はフリーズしてしまっていた。
?
遠坂が何か言ってるが、耳に入ってこない。
ないといけないんだし⋮⋮﹂
セイバーにも頑張ってもらわ
自らの口に宝石を放り込み、続いて俺の顔を徐にその手で固定し│
│、
﹁え
﹁うわっ
き、きき、キス
?
遠坂から慌てて離れる。
!?
!?
!
!?
299
!
!?
! !!
?
﹁それは⋮﹂
遠坂の言葉に、セイバーは弱々しく俯くことしかできなかった。
図星だったのだろう。
見ている限りでは普通に動けているが、戦闘となっては怪しいと確
か言っていた。
それも相手が相手だ。
﹂
魔力が足りない現状では確かに勝ちの目を見ることは叶わないだ
ろう。
﹁あ、凜
﹁あとは衛宮君だけよ﹂
セイバーの隙をついて肌をさらけ出させることに成功したのか、先
程より肌色の多いセイバーを遠坂がベッドへと押し倒していた。
窓から差し込む月明かりが二人を照らし幻想的で、そして官能的で
背徳的なその姿に、俺は頭が真っ白になってしまう。
すると遠坂がセイバーの上から避け、俺と代わるよう促す。
ベッドにはいつもとは違ってどこか弱々しい姿のセイバーが恥ず
かしげに居る。
その姿に束の間見惚れていた俺は、後ろから遠坂に押されて先程ま
での遠坂のようにセイバーを押し倒すような形になってしまった。
互いの吐息が掛かる。
セイバーもまたこの状況を受け入れつつも、やはり恥ずかしいのか
どうすればいいのか分かっていないようだ。
そんな俺達を置いてきぼりに、遠坂が詠唱を始めた。
・
・
・
ふと、気づくと俺はひたすら暗闇の中を落ちていた。
そしてしばらくすると光が見え始める。
光を越えると、そこには広い空間が広がっていた。
灼熱の溶岩が支配する荒々しくも力強い脈動を感じさせる世界。
300
!
ここは、セイバーの中⋮なのか
いや、そんなもんじゃない、これはまるで咆哮⋮。
どこからか、大きな音が確かに鳴り響く。
だが違う。
はじめは聞き違いかと思った。
﹃GRRRRR⋮﹄
与えれば⋮。
そうか。ここで、よりセイバーの本質に近いここで魔術回路を分け
何故かはわからないが、そう感じた。
?
た。
﹃GRUAAA
﹄
しかし│││、
﹄
どういう理屈か、俺は空中を滑るように何とかドラゴンを避けた。
ゴンを避ける。
いつの間にか空中に止まるようにして居た俺は、がむしゃらにドラ
んでくる。
その羽ばたき一つですら轟音をまき散らしながら、こちらへ突っ込
ちらに向かってきたのだ。
竜は翼を広げ、刃のような鋭い牙の隙間から炎の吐息を漏らし、こ
だが、そんなことを考える暇を俺にくれなかった。
な、何なんだこれ⋮。
鼓動は早打ち、汗が背中を濡らして行く。
意図せず息をのみこむ。
﹁っ
﹂
辺りを見回すと、大きな、それこそ山のような竜がこちらを見てい
﹃GRRRRUAAAAA
!!!!!
た。
﹂
今度も俺は避けようとしたが間に合わず、片腕を食われてしまっ
﹁がぁぁぁぁぁ
ドラゴンはすぐに折り返し、こちらへ再び向かってきた。
!!!!
!!!
301
!?
言い表しようが無い痛みが身体を駆け巡る。
あまりにもな痛みに、意識が飛びそうになる。
だが、その激痛のせいで意識が覚醒する。
そんな中、俺の中からグチリと何かが千切れる音と共に自分の中の
物抜けて行く感覚があった。
それに代わり、セイバーとどこかで強く結びついた感覚がする。
その繋がりに心まで近くなったような気がして、気づけば俺はセイ
バーに心の中で呼びかけていた。
││シロウ⋮。
確かにセイバーがそう俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
そうする内に、俺の意識は再び飛んだ。
﹂
!?
302
◆◆◆
未だ日の上らない森の中を、俺はイリヤと共に歩いていく。
結局、俺たちはマイルームでの話し合いを朝まで続けた。
色々と打ち合わせしないといけないこともあったしね。
まぁライダーは途中で寝てたが⋮。
というか中身まで幼女化してないか、あれ⋮。
いや、気にしないでおこうか。
とりあえず││、
﹁さぁ、シマっていこう﹂
﹁⋮⋮﹂
某部長の様に威厳が欲しくて言ってみたけど痛い子を見る目で見
られただけだった。
そんな目で見ないで
最近この目で見られることが多い気がする。
﹁やめて
!?
﹁まったく⋮、真剣にはできないのかしら⋮﹂
﹁無理だ。これが俺クオリティ﹂
いつも通りになりつつあるやり取りをイリヤとしながら朝の森を
歩いている。
ちなみにアーチャーとライダーはもちろんのことお留守番。
﹂
セイバー戦をするために例の廃墟へ行く所だからな。
﹁それで⋮、ホントに良いの
突然、歩みを止めてそう聞いてくるイリヤ。
何を聞きたいのかはわかる。
俺も歩みを止め、振り返る。
未だ日は登り切っていない森の中だからか、少し離れただけでその
表情は見えない。
でも、その声音からは少しの躊躇いを感じる。
その躊躇いの意味も分かる。
だけど俺はやる。やり切る。そう誓った。
﹁俺は別に構わないよ。俺自身に叶えたい夢は無いさ。だけど、最後
﹂
は士郎次第だね。ってか、俺が言うのもなんだけどイリヤこそ良いの
か
そして、俺もまたイリヤについて未だ迷いがある。
互いが互いを心配して、頼って、迷って、でもやりたいことができ
た。だからやると決めた。
だけど││、
﹁別に構わないわ。一度諦めたことだもの﹂
歩みを止めていたイリヤが、俺の横まで来てそう言った。
その表情には言葉通りの諦めが含まれている。
思わずギリッと奥歯を噛んだ。
まったくなんて表情してやがるんだか。そしてこの顔を何度見た
ことか。
こんな少女がこんな表情をして良い筈が無ぇよな。
303
?
イリヤが躊躇っているのは、俺の事。
おかしなものだね。
?
イリヤは一度了承してくれた。
だけど、彼女は未だ悩んでる。
元々先の無い自分が犠牲になれば、俺が余計に苦しむ必要はないっ
て。
ああ、でも駄目だ。やっぱ駄目だ。
スペックがどうとか、やるだけの力を持ってるとか、そんなことは
関係なく。
魔法
知ったことじゃない。
こんな顔をさせる、イリヤを取り巻く環境がどうしても許せない。
魔術
ンドが好きなんだ﹂
?
﹂
いえ痛いんでしょ
﹁⋮デレ期
﹁⋮⋮デレ期って何
﹂
﹂
﹁いやいやこっちの話。うんと、大丈夫だとは思うよ
んだけど、心が壊れるとかはなさそうだし﹂
﹁そう﹂
昨日一回死
﹁その容姿でおにーさんって言われてもねぇ⋮。でも、死なないとは
﹁なに、ちょっと頑張るだけだ。おにーさんに任しときなさいって﹂
﹁でもあなたを犠牲にしては意味が無いでしょう
﹂
﹁言っただろ、イリヤを助ける。ハッピーエンドだ。俺はハッピーエ
その言葉に若干の呆れと嬉しさを込めて返してくれるイリヤ。
強く、 従 者でありながら強くイリヤに告げる。
サーヴァント
﹁まったく、あなたは⋮﹂
﹁駄目だ。それだけは許さない﹂
ただ彼女を助けるだけでは我慢できなくなった。
どうも今の俺は強欲みたいでね。
だけど俺の今の願いは違う。
最初の俺の願いは彼女を助けることだった。
狂戦士だからな。やっぱり好き勝手させてもらう。
いつだか言ったがルールが違うんだ。
?
顔を少し背けながら言うイリヤ。
?
?
?
?
304
?
まったくうちのマスターは心配性だ。
血は繋がっていなくても姉弟は似るものなのかねぇ。自分を犠牲
にして他人を助けようとするなんてさ。
ポンと、イリヤの頭に手を置いて一撫でした後、再び歩き出す。
﹂
﹁ハードがアレだけどさ、助けたいと思っちまったんだ。だから頑張
るさ﹂
﹁なんのこと
﹁いや独り言。何でもないさ﹂
・
・
・
二人して歩く内に広けた場所へ出た。
目標の廃屋まではまだしばらくあったが、目的は達せられたために
足を止めた。
眼の前には、弓を構えた士郎、回復したセイバー、そして凛が居る。
﹁やほ、皆さんごきげんうるわしゅう∼﹂
自分ながら場違いな声だ。
でも俺の力は感情に左右される。
だから、出来る限り陽気に、何でもないように挨拶をする。
﹁全然うるわしくないわね。気分は最悪よ﹂
﹁つれないなぁー﹂
俺の言葉に、どこか緊張した面持ちながらも笑みを浮かべる凜へ、
俺もにぱっと笑いながら話す。
真剣な面持ちの相手方なんぞほっといて、俺はシリアルをするさ。
﹁でもまぁ、当然か。かたき討ちなわけだもんな﹂
﹁そうよ、だから今日は負けてもらうわ﹂
不敵に笑う凜。
同時に残り2人が臨戦体勢に入った。
﹁悪いけど、そう簡単にはやられないぜ﹂
305
?
俺が宣言すると共に、場の空気が一気に張り詰める。
一触即発。
その空気に俺の意識も徐々に昂ぶっていく。
﹁まぁ、話しはこんなものにしとくか﹂
イリヤが後ろに下がる。
逆に俺は前へと出た。
﹁ではでは、〝しょーたいむ〟といこうじゃねぇか﹂
306
﹃stage26:折り返し地点﹄
﹁ではでは、〝しょーたいむ〟といこうじゃねぇか﹂
俺は片手を上へと掲げ、武器を呼び出す。
﹁来い、エレキディストーション﹂
セ イ バー
俺が呼び出したのは、見た目で言えば見紛うことのないエレキギ
ター。
だがこいつは、見た目に反して片手剣の中では高ランクのSランク
で、割りと強い部類。
エフェクトとして何故か電気を纏っていて、振る度にギターサウン
ドが鳴る。
汚れた大人にゃ分からない、アツいエレキがほとばしるんだそう
だ。
307
﹁墓にはこう書くといい。死因はギターですってな﹂
さぁ始めようかと、剣︵ギター︶を凜達に向けてそう宣言する。
しかし、その刃︵ギター︶を向けた先に居る3人は何とも微妙な表
情だ。
なんで
⋮うん、たぶん、きっとそうだから﹂
﹁お、おう﹂
﹁は、はい⋮﹂
俺が疑問に頭をかしげていると3人はそんなやり取りを始めた。
何でギターなの
これでも剣だし強
?
あれ、もしかして俺ディスられてる
ギターの何がわりぃんだよ
﹂
!! ?
!?
﹁コウジュ⋮、もうちょっと、その、なかったの
﹁な、なんだよ
いんだぞこれ
!
!!
﹂
これはきっとあの子の作戦よ。こちらのペースを崩してその隙に
﹁せ、セイバー、士郎、相手のペースに乗っちゃダメよ。
だったじゃないですか。
な に ゆ え に そ の よ う な 表 情 を な さ る の か。さ っ き ま で 臨 戦 態 勢
?
イリヤは俺が〝こういうの〟を使う理由を知っているはずなのに、
何故か微妙な表情でそんなことを言って来る。
何故だ。
ヴァイオリンとかフルートとかピアノとかトランペットとか、そう
いうのを武器にしてる人って結構強いしかっこいいじゃん。
なのに俺がエレキギターを持つとそんな目で見られないといけな
いのか。
いや泣いてない。泣いて無いッたら泣いてない。
というかこっちはそれなりに真剣に闘おうとしてるのに何だこの
不当な扱いは。
改善を要求する。
あーあー良いですよ。
そんなにこの武器のことを馬鹿にするなら、なんでこの武器を選ん
﹂
だかその体に教えてやる。
﹁っるぁ
俺は大きく飛び上り、3人の真ん中へとギターを振り下ろす。
大きい挙動でやったから、セイバーは勿論、士郎と凜も難なく避け
た。
地に降ろしたギターは小さいクレーターを作りつつ、エレキギター
特有の甲高い音を響かせた。
同時に地面へと走る電流と、砕かれるのではなく粉々になる土。
﹁厄介なっ⋮﹂
うへぇ、今ので気づくかセイバーさん。
俺が持つこれの厄介さが分かったのか、セイバーは未だ振り下ろし
た姿勢の俺に、その見えない剣を振るってくる。
それを俺はギターで防ごうと逆袈裟に振り上げるが鍔競合う前に
剣 士 と 剣 を 競 え る ほ ど 俺 は 強 く な い も ん で ね
セイバーは剣を引いてしまう。
﹁は っ は ぁ 悪 い ね
﹂
﹂
追撃に、振り上げていたギターをセイバーに近づきながら振り下ろ
308
!!
﹁だからそれですか
!
!
!
すが身体を半身にして避けられてしまう。
そのままセイバーは身体を回し、その勢いで俺の脇腹へと剣を振る
う。
﹁ちっ﹂
舌打ち一つ、咄嗟に振り下ろした手の勢いを殺さぬように前転して
回避。ほぼ同時に頭上を風が抜ける。
すかさずギターを持っていない方の手を地に着き、カポエイラの様
に足で蹴り掛かる。
だがセイバーも既に追撃に移っていたのだろう。
俺の脚は固い何かを蹴っただけに終わり、弾かれる。
弾かれるままに身体を回し、再び地に立つ。
セイバーもまた正眼に構えた状態ですぐそこに居た。
﹁その障壁も厄介ですね。斬り落とすつもりでしたが﹂
﹁鞘に収まったままじゃぁ無理なんじゃないかな﹂
中々に物騒なことを言ってくれるセイバー。
対する俺も、内心ヒヤヒヤしながらも表だけは笑みながら返す。
いやまじで足落とされなくてよかった。
確か小次郎がセイバーに言ってたんだっけか。鞘のままではって
やつ。
だから俺の障壁は抜けなかった。
恐らく風の鞘に包まれてる状態じゃない本当の刃ならスパンと斬
られてただろう。
ほぼ身体が動くままに蹴り上げてたけど、ちょっと間違えば大惨事
だったわけだ。俺が。
とは言え油断は大敵だろう。
あの鞘となっている風は刃にもなる。
障壁ばかりに頼ってはいられないな。
﹁やはり、私の真名を知っているのですね﹂
ばれないように心の中で冷や汗を掻いていると、そんな風にセイ
バーが問うてきた。
309
﹁まぁね。悪いけど、調べる方法があってね﹂
﹁本当にバーサーカーというクラスか疑います﹂
﹁ははっ、そいつは自分でも思うさ。だけど、他のクラスに当てはまら
ないからこのクラスになっただけだと思うよ﹂
改めて考えてみると現状の俺じゃぁ、剣士も槍兵も弓兵も、当然魔
術師も暗殺者も騎兵も俺には合わんだろう。
できないこともないけど、力押ししかできない俺ではやはり狂った
戦士が妥当だろう。
色々ずれてるのは自覚しているさ。
﹁それにしてもその武器は厄介ですね。剣士殺しとでも言うべきか﹂
﹁そっちこそやっぱ気づいてたか。電撃と音撃の効果﹂
﹁あの地面を見れば受けてはいけないのは一目瞭然です﹂
そう、何故俺がこれを使ったのか。その理由がこの雷撃と音撃のコ
ンボ。
衝
撃 のように対象に音による衝撃を加える。
310
エフェクトでしかなかったゲーム内の演出が現実に作用している
ことを利用したこの剣の本質。
それが常に纏う電流と接触時に発生する音による振動。
電流は当然として、音の方も某マフィア漫画の鮫の人が使ってた
鮫
アタッコー・ディ・スクアーロ
もしも剣で受けていたならば、たちまちにその二つの効果で手は痺
れていただろう。
セイバーの対魔力は高いからひょっとすれば多少手がしびれる程
度だったかもしれないが、その少しが事の趨勢に関わっていたかもし
れない。
そ個まで瞬時に思い至ったのか、ギターに全然触れようとしないセ
イバーの直感もまた一流のそれだろう。
さすがは俺と違って本物のサーヴァントってことか。
え、卑怯
る。
以前ならともかく、向こうは確実にこっちの首を落としに掛かって
そんなことは無い。
?
その上で士郎とあれこれしてセイバーの状態は良くなっている。
実際に、以前交わした刃に比べ今のセイバーの太刀筋はさらに鋭く
なっている。
前のは俺の滅茶苦茶な動きとスピードにパワーってチートスペッ
クに惑わされただけだったのだろう。
だから今回は小細工を弄させてもらった。
一流の剣士にペーペーのにわかサーヴァントが真正面から叶う訳
ないじゃない。
という訳でここいらで精神にダイレクトアタックもさせてもらお
う。
精神攻撃は基本って言うしね。 ﹁それにしてもセイバーさん。この間とは動きが違うね。魔力もそれ
なりに充実しているようだ﹂
﹁回復しましたので﹂
311
油断なく、剣を構えたまま簡潔にそう答えるセイバー。
だけど俺の敏感な鼻と原作知識は、そんな単純な言葉で終わらせて
はいけないことを知っている。
﹁そっかぁ、どんな方法だったのか気になるなぁ﹂
﹁敵たるあなたに教える訳が無いでしょう﹂
﹁そっかー。でも仕方ないか。3人の匂いがなんか混ざってるのが気
になったから聞いてみたんだけど⋮﹂
ピシリっ。
そんな風に空気が凍ったのが分かった。
俺の言葉に、ザ・ワールドを食らったかのごとく動けないでいるセ
イバー、そして凛と士郎。
ちなみにイリヤさんはその言葉の意味が分かったのか後ろでニヤ
﹂
ニヤしてます。この幼女怖い。
﹁な、何のことを言ってるの
てあげながら言う。
それに対し俺は自らのケモミミをピコピコと見えるように動かし
いち早く復帰した凜がそう問うてきた。
?
﹁俺って獣人だから匂いに敏感なんだよ﹂
何で何で
﹂
何とか誤魔化そうとしていたんだろうが実際に匂いが混ざってる
んだから仕方ない。
﹁というか何を動揺してるのやら。ねぇ何で
?
﹁なんでかにゃぁ
﹂
戦闘そっちのけでいじるのが楽しくなってきた。
皆して顔真っ赤にするんだもの。
ふむ、どうやら俺も後ろで離れて見てる幼女を馬鹿に出来ないな。
?
﹂
﹁うるさいのよもうっ
﹁はいっ
セイバー
﹂
!!
聞くセイバーもセイバーだけどさ。
というか凜さんや、何故にセイバーに指示を出したし。
り越してしまったようだ。
しかしどうやら弄りすぎたようで、凜ちゃんとセイバーが沸点を通
!!
だったんだけど、Sの気持ちが分かってきた気がする。
魔力供給︵意味深 な部分を弄ってちょっとだけ挑発するつもり
その微笑ましさにニヤニヤが止まらない。
?
﹂
﹂
ってそんな場合じゃなかった
﹁ぜぁ
﹁うおっと
!
りです。
横薙ぎ、斬り上げ、下ろし、突き⋮と、連続して斬り込んでくるセ
イバーに上手く一撃を入れられない。
これはやばい。
流石は最優のサーヴァントというべきか。
激おこに見せかけておいて、音と雷の効果があるのはボディ部分で
あると気づいたのかそこは避けて、持ち手にしているネックの部分へ
と丁寧に当ててくる。
間合いを掴まれてしまったか。
弾かれた右手を再び、無理矢理に逆袈裟で振る。
312
!!
すんません。馬鹿なこと考えてほんとサーセン。でも正直ぎりぎ
!!?
!!
しかしこれもまたボディを避けるようにして防がれる。
これはやばいね。
だけどその程度は想定済み
﹂
﹁ツインディストーション
﹁っ
﹂
﹂
ぐっと押し込むように右で鍔競合ったまま、左手を横に出す。
!
とで避けられる。
これだからサーヴァントってやつは
がら空きの俺の脇腹は実に斬りやすいだろう。
た形。
既にセイバーは斬り掛かる体勢だ。対して自分は両手を振り切っ
まっている両手越しにセイバーを見る。
そう心の中で罵倒しながら、結果的にハサミの様にクロスしてし
!
だが、抑え込んでいたと思っていたのに頭一つ分姿勢を低くするこ
る。
ネックの部分で受けられていたがそのままもう片方で横薙ぎに振
二本に増やして対応する。
純粋な剣技では絶対に勝てないことは分かっているので、ギターを
﹁俺は言ったぜ。そう簡単にはやられないってな
・・・・
!!
﹂ ・・
駄菓子菓子、そのまま決めさせるわけがない。
﹂
﹁まだ終わらんよ
﹁くっ
!
普通なら意味の解らない行動だろう。だが俺にとっては意味があ
る。
手から離れた刃︵ギター︶は俺を中心に、残像を残すほどの速さで
円を描くように回転した。
産み出されるのは、見る分には華やかな剣の舞。
だが受け手に回っているセイバーは防ぐので手いっぱいだ。
││双剣系フォトンアーツ:ブレードデストラクション││
使用者を中心に回転する剣の乱舞は敵を寄せ付けず切り裂く。
313
!
!?
俺はあえて両手のギターを放す。
!?
手を離れた刃を何故操れるのかはわからないが出来るものは仕方
ない。
・・・・・・・
む し ろ、P S P o 2 の ス テ ー タ ス を 持 っ て い る ん だ か ら
﹂
出来るのは当然だろう。
﹁続きだ
俺を軸として横に回転していたギターを一度掴み、そのまま一足に
セイバーへと近づく。
剣の間合いより一歩中へ、そのままもう一度放つ。
今度は下から斬り上げるように、俺を中心に回転する刃達。
だがこれもセイバーは卓越した剣技で、刃を下に構えた剣で連続し
そう心の中で叫ばずには居ら
て走る俺の刃︵ギター︶を受け流していく。
何でそんなことができるんだよ
れない。
﹁くぅっ﹂
それでもセイバーは動いた。
彼女は反らすために使っている剣の柄をこちらに向け、剣先から魔
ない。
だからだろう、思った以上にセイバーへの状態異常付与は行えてい
咄嗟に出した技だ。
俺のこの技は連続切りとはいえ力を入れてして行った技じゃない。
ジャストアタック
つまり雷撃と音撃の両方を食らっているはず。
体に当たっていた。
先程までの様にボディを避けるように弾いたのではなく、完全に本
もあるのだろう。
けど剣で防いだということはそれしか手が無かったということで
名は伊達じゃないということだろうか。
剣技では敵わない故に小手先の技で攻めてるというのに、騎士王の
!?
﹂
力を放出したのかそのまま柄を俺の腹に叩き込んできた。
﹁うぐぁっ
まま叩き込まれる。
314
!
一定以上のダメージだったのか、レジストできずに俺の腹へとその
!?
その衝撃に肺から空気が抜けた。
吹き飛ばされる。
そう思った俺は咄嗟にセイバーへと攻撃を仕掛ける。
自身が吹き飛ぶ前になんとかできた俺の攻撃に、同じく後ろへと吹
き飛ぶセイバー。
互いに吹き飛んだ俺たちは、地面を滑りながら着地する。
とはいえ大きなダメージには至っていないのか、片膝を着きつつセ
イバーは時折頭を振りながらもこちらを睨みつけている。
その睨まれている俺はというと、腹からは激痛、両手の至る所が弾
けたように内側の肉を見せ血を流していた。
﹁あー、痛ぇ⋮﹂
つい、ぼやくようにそう言ってしまう。
しかしそれも仕方ない。自業自得だ。
セイバーの追撃を防ぐために、両手のギター同士をぶつけて音を爆
発させたのだ。
その際の衝撃も電撃も、自分に返ってきた。
片方だけでも多大な威力だ。
それを二つ力を入れずにとはいえぶつけてしまった。
それ故の手の損傷だ。
﹁無茶をしますね﹂
﹁死ぬよりはマシさね﹂
だが効果はあった。
至近で受けたセイバーは、未だ三半規管辺りでもやられているのか
未だに立てずに居る。
見た目で言えば俺の方がぼろぼろだが│││、
﹁ディメイト﹂
まぁ当然俺は回復します。
飲料水型の回復薬をごくごくと飲み、負った傷を癒していく。
念のため中回復薬にしたが今の戦闘で負った傷は全て癒えた。
そんな俺の姿を見て、驚愕するセイバー達。
ふふん、剣技では勝てない分小細工しまくってるがどんなもんだ
315
い。
﹂
肉も骨も断たせといてそれでも勝つなんていうチート任せのごり
押しだが効果は絶大だ。
ある人も言ってた。
勝てばよかろうなのだぁ
﹁何故、とどめを刺さないのですか
﹁ふん、お情けのつもり
﹂
﹁うーん、何というか⋮﹂
そのまま言う訳にはいかないからな。
勿論目的があるからなのだが、さて何と答えよう。
今まさに隙だらけの自分を何故襲わないのか。
確かに彼女からすれば不思議だろうな。
イバー。
流石に回復したのか、やや危うい足取りながらも地に立っているセ
た。
むふふと一人得意気にしていると、そんな質問をセイバーにされ
?
﹂
﹁えと、違うんだけどなぁ。⋮⋮もういいやそれで。お情けお情け﹂
﹁ホントに何のつもり
えたげるよ。俺を倒したいのならあと一度俺を倒すといい﹂
俺は仰々しく指を一本立てる。
﹁1回。たった1回俺を殺したらそっちの勝ち。俺は元々、蘇生アイ
テムで1回、自身の命で1回死んだら終わりだったんだよ。そんで、
昨日アーチャーが文字通り命を掛けて俺を一回殺したから後一回﹂
今度はカードを出し、ヒラヒラとしながら凜たちに見せる。
書かれているのは白い人形のカード。
﹂
﹁そんなこと信じられるわけ⋮ってまさか、あの時の衛宮くんのカー
ドって⋮﹂
﹁カード⋮⋮、カード
凛と士郎が何か思い出したように驚愕する。
316
!!!
どう説明するか考えていると、俺の言葉に凛が突っかかってきた。
?
﹁いいじゃんいいじゃん。あ、そうだ。お情けついでに良いことを教
?
!?
士郎に直接あのカードをあげたのは俺なのにさ﹂
﹁そうそう大正解。というかむしろなんで今まで気づかなかったのか
ね
何でその辺りの言及がないのか不思議だったんだけど、素で覚えて
なかったのかよ。
あの、なんだか受けなかったネタの説明をさせられてるような微妙
な気分なんですが⋮。
士郎の復活時に見られてるしグングニルした時にも見られてるか
ら、命のストックまで想像が付いてると思ってこんな説明してるの
に。
これじゃ﹃お前を生かしてやったのは私なのだ ︵ババーン﹄みた
いな感じに自らの成果をひけらかす痛い子じゃないか
は有りか
まぁ言った後だし今更考えても仕方ないか。
ケセラセラだよねケセラセラ。
﹁そんなことをして⋮あなたに得があるとは思えないのですが
﹂
いや考え方によれば勇者に真実を告げる魔王っぽい演出だし有り
!
!
俺はギターを直し、新たに武器を出す。
だけの攻撃をしてみな﹂
﹁さぁ、仕切り直そうか。俺のオート防御を抜けてさらに俺を殺せる
答え合わせは一番最後って相場が決まってるし。
まぁそう演じてるわけだけどもさ。
自分で言ってて思うけど今の俺って嫌な奴だね。
﹁そうさねぇ、勝ったら教えてあげるよ﹂
俺の勝手な期待に応えてもらうためにも。
でもあえて乗るよ。
その程度は俺でも予想できる。
言ってみればこの会話は向こうの時間稼ぎ。
だけど向こうもそう簡単に俺が答えるとは思ってないだろう。
うセイバー。
ようやく動けるようになったのか、見えない剣を構えながらそうい
?
?
﹁来いライトニングエスパーダ⋮﹂
317
?
呼びだしたのは光り輝く幅広の片刃の大剣。
この武器も﹃真に強き者が手にした時黄金色に輝く﹄とか、
﹃手にし
た者の力は枯れることなく泉のように溢れ、輝き続ける﹄といった説
明がゲーム内で書いてはいるが今回は概念付加としては使わずにお
こうと思ってる。
﹂
と言っても、この武器自体の攻撃力が半端無いんだけどね。
﹁後悔しても⋮知りませんよ
﹁覚悟しなさい﹂
セイバーと凜の言葉に俺はニヤリと返した。
318
?
﹃stage27:歓迎しよう
盛大にな
あの時助けてくれたのはコウジュだったのか⋮。
確かにカードもあの時から無い。あれ、ならあの宝石は
いや、それは今は置いておこう。
﹄
なんでわざわざ生かした相手を今殺すのかとかいろいろ疑問はあ
る。
けど、今は戦闘に集中しないといけない。
先程まで持っていたギターも、セイバーの様子から理不尽な効果を
持っていたのは分かる。
しかしそれ以上に、あの子がさっき出したライトニングエスパーダ
と呼ばれていた大剣がこの場の圧力を増している。
コウジュ自身を覆い隠しそうな幅の、輝くオーラを纏ったあの刃か
らはどれだけの破壊力が生まれるのか⋮。
﹂
掠るだけで、致命傷となるのは想像に難くない。
﹁行くぜ
﹂
斬りかかる。
﹁っ
先程までギターを持っていた時よりも隙が多い様に見える。
だがセイバーは、迎撃を選ばず先程までよりも余分に大きく後方へ
と回避した。
直後響く轟音。
それはコウジュの剣によって産みだされた地面の亀裂ともに辺り
へと降り注いだ。
力比べでは不利だろう。
﹂
受けようものなら諸共に潰されそうだ。
﹁っらぁ
当然それだけで終わらない。
!!
319
!
?
!
コウジュは大剣を持ったまま飛び上がり、回転しながらセイバーに
?
コウジュをしてもそれなりに重たいのだろう。
!!
コウジュは、今度はその大剣でもって棒高跳びの様に身体を空中へ
と持ってきたかと思うと、そのまま再び剣を引き抜き遠心力を利用し
てセイバーへと連撃を加えていく。
セイバーもなんとかコウジュ本人へと攻撃しようとするが、コウ
ジュは巧みにその幅広い刃の陰に隠れながら攻撃してくる。
﹂
コウジュの身体が小さいために、セイバーも手をこまねているよう
だ。
﹁せやぁ
セイバーが斬りかかる。
だがやはりコウジュは大剣を盾にそれを防いだ。
少しでも気をそらさないと⋮。
│││トレース・オン。
﹂
は常に最強の自分だ﹄
何故か、アーチャーのあの言葉が心の中で強く想起された。
﹂
﹂
イメージする
﹁ぐぁ
﹁セイバー
?
でも、ただ飛ばされただけなようですぐに立て直した。
いつの間にかセイバーが吹き飛ばされている。
!?
320
自身の胸の内で詠唱し、持っている木の枝を矢に作り替え、放つ
﹁おろ
くそ、俺には何もできないのか
俺に出来ることなど⋮所詮⋮。
俺に出来ることは⋮。
セイバーを助けることも、共に戦うことも⋮。
?
﹃お前に出来ることは1つ。その1つを極めてみろ。イメージするの
!
!!
しかし、障壁ではじかれる。
?
!!
早く何とかしないと⋮。
武器が欲しい。弓じゃだめだ。
剣だ
コウジュを倒せる無敵の剣。
目を瞑りイメージする。
﹁くっ⋮﹂
セイバーの苦しげな声と共に何かが砕ける音がする。
・・
眼を開いてすぐに飛び出そう取るも、すぐに思い直す。
無手で飛び込んでも意味は無い。
それに今は、何故か出来ると思えるこれを優先させる方が勝率は上
がるはず。
いや、勝利を創るんだ。
集中しろ
セイバー
﹂
セイバーを信じて今は集中するんだ
﹁引いて
﹂
﹂
遠坂が息を抜く。
完全にコウジュの全身が凍った。
﹁ふう﹂
﹁勝ったのか
今度はコウジュが凍っていく。
ジュに放った。
その隙に遠坂が近づき、ほぼゼロ距離で最後であろう宝石をコウ
したように地面ごと押しつぶしていく。
遠坂の魔術はどうやったのかコウジュを中心に重力が何倍にも増
﹁とった
﹁やっべ﹂
それを、コウジュは全て剣で斬りはらう。
いくつも色取りの宝石をぶつける。
とっておきと言った宝石を出し惜しみせず使ったのか、コウジュに
遠坂が詠唱らした後、何かを投げる。
再び集中しようとする前に、遠坂も仕掛けてくれた。
!!
!
!
?
321
!
!
!!
最後はあっけなかったな⋮。
ふと、イリヤに視線を向けた。
﹂
ニヤリと笑っているのに気づく。
離れろ
まさか⋮。
﹁遠坂
﹁っらあぁ
﹂
だがその瞬間││、
慌てて未だ近くに居た遠坂に声を掛ける。
!
﹂
間に合わない
﹁させません
!?
すぐに駆け出すが、距離が離れている。
そこへと無慈悲にも振り下ろされていく大剣。
放心してしまっている遠坂は動けない。
げすぐ近くに居た遠坂へと振り下ろそうとする。
コウジュは今されたことなど無かったかのように、軽く剣を持ち上
﹁そいじゃ、一人めっと⋮﹂
ただ、俺なんかとは込められた魔力の量が違う。 んだ。
俺がイリヤの暗示を抜けるために使ったあれをコウジュはやった
魔力だ。
でも分かった。
どうやってコウジュがあの魔術を打ち破ったのか、それは素人の俺
﹁残念だな⋮。途中までは良かったんだけどな﹂
﹁う⋮そ⋮﹂
コウジュは身体の氷をすべて弾き飛ばし、中から出てきた。
!!
て防いだ。
!
﹁くぅっ﹂
﹁来ることが分かってれば、俺でも容易に防げるさ
﹂
だがそれも予想されていたのか、コウジュはすぐさま大剣を盾にし
ジュへと斬りかかる。
飛び出す俺を抜いて、すかさずセイバーが遠坂を助けるためにコウ
!!
322
!!
鍔迫り合っていた剣を、コウジュが力任せに振った。
﹂
その結果セイバーは再び弾き飛ばされる。
﹁セイバー
何を無茶な⋮﹂
﹂
?
なってしまった。
!
無茶だ
﹂
誰かを犠牲にして助かるなんてのは間違ってる。
当然だろう。
何とか整い始めた息で、考えるまでもなく俺はそう答えた。
﹁拒否⋮する⋮⋮﹂
るなら士郎と凜ちゃんだけは助けてやるって言ったらどうする
!!
﹂
﹁なぁ士郎、もしも俺がセイバーを差し出してマスター権限を破棄す
じ、最後には覚悟を決めたようでまっすぐ俺を見ながら口を開いた。
そのままコウジュは何かを言い淀むように何度か口を開いては閉
ちらを見ていた。
いつの間にか近づいていたコウジュがそんなことを言いながらこ
﹁このあんぽんたんめ⋮﹂
となるセイバー。
そのことに気付いたのか、俺の内心を察したのか、更に難しい表情
そう口にしようとするも、声にはならなかった。
のだから。
そんなことを言われても仕方ない。勝手に身体が動いてしまった
﹁私はサーヴァントです。この程度何ともありません
﹂
しかしそれを聴いたセイバーは、苦虫を噛み潰したような表情に
なんとかそうとだけ声にすることができた。
﹁無事⋮か⋮⋮
気づいたセイバーはすぐに飛び起き、今度は俺を抱き起す。
﹁士郎
コフっと、肺から息が漏れる。頭もジンジンと痛む。
き付けられた。
だが、俺の力では勢いを殺しきれず、諸共に後ろに在った気へと叩
飛ばされてきたセイバーへと手を伸ばし、なんとか抱きかかえる。
!?
﹁士郎もうやめてください
!
?
323
!?
﹂
セイバーの制止を振り切り、俺はフラフラになりながらも立ち上が
る。
そして、目を反らさずにもう一度コウジュに答える。
﹁誰かを犠牲にして生き残るなんて選択肢は、俺には無い
俺が言うと同時にコウジュが俺へと大剣を向ける。
俺の命を容易く奪うであろう剣だ。
近づいた分、圧倒されるほどの存在感が更にわかる。
それを突きつけられている現状。 ﹂
でも、俺の心は変わらない。
﹁でも士郎は負けそうだよ
﹂
﹁それでもどうにかする﹂
﹁どうやって
!
﹁そっか。それが士郎の答えか﹂
勝つと信じなければ、何も始まらない
だったら自分にだけは負けちゃいけない。
無いけど、ここで諦めたらその先は無いんだ。
勝つ算段なんて正直言って無い。
﹁さぁどうしようかな。でも、負けられないなら勝つしかない﹂
?
う。
実際に俺たちは追い込まれている。
﹁ふふ、あはは、アハハハハッハハハハハハハハハ
!!!
﹁なんだよ何とかって、この状況で、敵を前にして何とかって、くく、
剣から手を離してまでお腹を押さえ、息も絶え絶えに笑い続ける。
突如コウジュが笑い声をあげた。
﹂
しかしその裏側には、狂戦士となりうる何かを秘めているのだろ
こうして見れば、やはりただの少女だ。
こには無い。
少し俯いてその表情は見えないが、先程まで見せていた苛烈さはそ
俺の言葉に、何かを噛み締めるようにつぶやくコウジュ。
!!
324
?
色々考えてる俺がバカみたいじゃないか﹂
・・・
しばらく笑い続けたコウジュが、未だ肩で息をしながらもなんとか
持ち直し始めた。
﹁あー、笑った笑った。うん、参った。まさかそんな選択肢が出てくる
とはね﹂
﹂
涙目になるほど笑ったコウジュだったが、漸くその息を整えた。
﹁そこまで笑うことか
えた。
とどまる。
それは物理的な力を持って俺を吹き飛ばそうとするが何とか踏み
瞬間、コウジュから魔力と光があふれた。
話だ﹂
﹁さぁ、最終ラウンドと行こうか。俺を倒せば士郎達の勝ち。単純な
それが終わると再びこちらを向き、無手のまま構えた。
のだろう遠坂を抱き上げ近くの木へともたれ掛からせる。
そしてその場から下がり、先程の応酬の間に気絶してしまっていた
言いながらコウジュは何故か、大剣を消して無手になる。
ちゃいけない。だから、やっぱりやろうか﹂
﹁駄 目 だ。士 郎 が そ れ を 選 ん だ の な ら 尚 更 駄 目 だ よ。途 中 で 止 ま っ
だけどすぐに笑みを消し、真剣な表情になった。
その俺の言葉に、コウジュは朗らかに笑う。
つい、そう聞いてしまった。
﹁もうやめないか
﹂
思わず拗ねるように言ってしまった俺に笑顔でコウジュがそう答
先程までの緊迫した緊迫した空気は何処へ行ったのやら。
カかヒーローくらいのもんさ﹂
﹁勿論さ。この状況でそこまでのことを言えるなんて、よっぽどのバ
?
セイバーが俺の前に出て壁になってくれたのも大きいだろう。
325
?
﹁⋮⋮なるほど、それがバーサーカーたる所以ですか﹂
荒れ狂う嵐の様に起こっていた風が止まる。同時にコウジュから
生まれていた光も収まった。
そうしてやっと見ることができた姿に驚く。
なるほど、これは確かにセイバーが言うように狂戦士の名が相応し
い姿だろう。
黄金の狐。
そう言い表すのが一番早いだろう。
人の形はしている。
だが、それ以外は全て狐の様相を呈している。
あえて違う場所を言うならば、本来の狐のような愛らしい姿ではな
く触れるだけで切断してしまいそうな爪や両前腕に刃のようなもの
が生えている所が、狩りをするための物ではなく全てを切り裂くため
に存在しているのではないかと思わせる所だろうか。
下がって
﹂
!!
違う、踏み込んだんだ。
それだけで彼女の姿が消える。
﹂
そして、前に出ていたセイバーの目の前には既にコウジュの姿が
あった。
﹁せやぁ
﹃っるぁ
﹄
!! !!
326
そして何よりも、2メートルを超えるであろうその巨体。
少女の姿であった時ですら恐ろしい力を発揮していたのだ。今の
﹄
その太い腕からはどれだけの破壊力が生まれるかは考えたくもない。
﹃当たるなよ⋮
﹁士郎
同時に、彼女が姿勢を低くした。
先程までよりも重く響いてくる彼女の声。
?
ドンッとコウジュが居た場所の土が爆ぜた。
!
﹂
セイバーの剣と横薙ぎに振るわれるコウジュの爪がぶつかる。
﹁くぅっ
何とか爪を受け流したセイバーはコウジュの懐へと入る。
しかしそれを、コウジュは体を捻ることで尾を振りセイバーに叩き
付けることで防ぐ。
尾を剣を盾に防ぎ自ら後ろに飛んだセイバーは、空中を飛ばされる
中で身体を一度翻し、背後の樹に着地した。
そのまま樹を踏み台に、今度はセイバーが飛び出す。
先程までと同じように、いやそれ以上に全身を武器に攻撃するコウ
ジュ。
爪、腕の刃、足、牙、尾││。
先程までよりも速度は上がり、一撃一撃の重さも上がっているよう
だ。
ただ、幸いなことにと言って良いのかはわからないが、あのギター
の時の様な特殊な力は無いようだ。
それでもその怪力だけでこちらにとっては恐るべきものだ。
それらの攻撃を巧みに剣一つで防ぎ、弾き、受け流すセイバー。
隙を見てコウジュへと斬り掛かるも、それほどのダメージを与える
ことはできていない。
徐々に、徐々にだがセイバーは押され始めている。
何かしないと⋮。
﹃現実で叶わぬ相手なら、想像の中で勝てるものを幻想しろ﹄
ふと何故か、本当に何故か、再びあのキザな紅い弓兵の言葉が脳裏
をよぎった。
理由は分からない。
でも、それが、ひどく自分に浸み込んだ気がする。
327
!?
何故こんなにもあいつの言葉は心に引っかかるのだろう
そして同時に、いつしか夢で見た一本の剣が頭に浮かんだ。
ああそうだ、さっき自分で言ったじゃないか。
負けられないのなら勝つしかないと。
コウジュと戦う前の作戦会議。
その際にセイバーからどこまで聞いたことだが、現状のセイバーは
通常戦闘はできても宝具の使用はまだ出来ない。
正確に言うならば出来ないわけではないが、宝具を使用した後の余
裕が未だない。
俺とのパスが強くなったとはいえ、パスが強くなっただけで貯蔵さ
れた魔力がそこまで増えた訳ではないのだ。
それに、使用には若干の溜が要ると言っていた。
だから当初の予定では何とか俺と遠坂で隙を作り、セイバーに止め
を刺してもらう予定だった。
だが、遠坂は気絶している。そして俺の弓は通用しなかった。
つまり、セイバーが今のコウジュに当てられる状況を作るか、コウ
ジュの障壁を突き破る武器が必要だ。
だったら、俺が創る。
今勝つために必要な剣を、勝利をもたらしてくれるであろうあの剣
﹂
を、俺が創る
﹁っ
らにその先を無理矢理顕現させる。
思い浮かべるのは、エクスカリバーと似て非なる黄金の剣。
﹂
手には剣が現れる。
﹁それは
私が隙を作ります
﹄
!!
らせながらも反応した。
﹁士郎
﹃させねぇよ
﹂
俺の手から漏れ出した黄金に、セイバーとコウジュが剣と爪を交わ
﹃⋮⋮さっすが﹄
!?
328
?
魔力が身体をうねる。魔術回路を荒れ狂い、自身の限界を、いや、さ
!!!
!!
!!
!
再び二人が苛烈な応酬を始める。
しかし先ほどまでとは違うのはセイバーの被弾が多いような気が
することだ。
時折セイバーの身体をコウジュの攻撃が掠り、血が舞っている。
つい飛び出しそうになる。
だがその気持ちを無理やり押さえる。
セイバーは隙を作ると言ってくれた。なら信じよう。信じて待つ。
手の中の黄金を握る手に力を入れたまま、その時を待つ。
しばらくして、セイバーが刹那の間こちらを見た気がした。
すかさず飛び出す。
﹃ちぃっ﹄
コウジュが舌打ちをした。
セイバーが自身の防御をある程度捨てて懐に飛び込んだのだ。
そしてその時、セイバーの合図の御陰で既に俺はコウジュの後方に
329
居た。
俺たちは挟む形で、コウジュへと同時に斬り掛かる。
だがコウジュもやられっぱなしではない。
セイバーへと腕を振り下ろしつつ、反対側の腕を後ろ手に俺へと
振ってきていた。
それを俺は避けずに、正面から今俺が創りだした剣で斬りかかる。
コウジュが一番に警戒しているのはやはりセイバーだからか、目線
は前を向いたままだ。
視野が広くなっているだろうから、ある程度は見えているのだろう
が、やはり散漫になっているのだろう。
﹄
なんとか俺が先に斬ることができた。
﹃こんにゃろうっ
いた。
そう、俺が出した黄金の剣は障壁ごとコウジュの肩口を切り裂いて
﹃まさか、防御抜いてくるとはねぇ⋮﹄
それは何故か
コウジュが慌てて尻尾を地面に叩き付けて、逃げた。
!
?
けど、ダメだ。
コウジュを斬ったと同時に剣が砕けてしまった。
足りない。
﹄
﹁もう一度だ。砕けないはずの剣が砕けたのは、想定に綻びがあった
からだ。投影⋮開始⋮﹂
再び、先ほどの剣を思い浮かべる。
今度はさらに完全を目指して。
﹂
﹃戦ってる最中に目を瞑るなんて、余裕だな
﹁させません
﹄
!?
﹁っつ
﹂
コウジュがセイバーの隙をついて斬りかかってくる。
﹃りゃぁ
ただ一つの狂いも妥協も許されない。
俺が挑むべきなのは自分自身。
なら俺がすべきは再度の構成。
それをセイバーが押しとどめてくれる。
コウジュが今度はこちらへと迫る。
!
だが、創っている途中の剣は再び砕ける。
もう一度最初からだ。
大体の感覚はつかめた。
今度は、コウジュから離れながら。完成を目指す。
│││基本となる骨子を想定し│││
│││構成された材質を複製し│││
│││蓄積された年月を再現し│││
│││あらゆる工程を凌駕し尽くし│││
330
!
それが分かった俺は、まだ作っている途中の剣で、何とか受け流す。
!?
│││ここに幻想を結び
﹁士郎
﹁ああ
﹂
﹂
剣と成す
!!
﹃っ
﹄
れて待つ。
一瞬たりとも見逃さないように、いつでも振るえる様に剣に力を入
だから基本はセイバーに任せる。
きない。
しかしやはり、俺の剣技ではサーヴァントの戦いに混ざることはで
それに対し、再び挟むような位置を取る。
構えるコウジュ。
俺とセイバーは同時に駆けだす。
﹃諸共にぶっ潰す
﹄
再び俺の手に、黄金の剣が現れる。
!
今だ
﹁ぐぅぅぅっ
﹂
しかも今度は砕けてもいない
咄嗟に剣を振りかぶり、何とか当てる。
弾けた
﹄
逆にコウジュの尻尾には血が流れている
﹃なめんなぁぁぁぁ
!
!
める。
それは次第に帯電したように火花を散らし、莫大な力を感じさせ始
そしてその拳に魔力が集中させた。
コウジュは足を始め、所々から血を流しつつも、気丈に吼える。
!!!!
!
その時にはコウジュの尻尾が視界の端まで迫っていた。
既に斬り掛かろうとしていた俺にセイバーが叫ぶ。
﹂
﹁駄目だ
!
!
331
!!
!! !
!
セイバーが足の爪と爪の隙間を斬り、コウジュが姿勢を崩す。
!?
これで決めるつもりなのだろう。
俺はセイバーと目を合わせた。
そして二人同時にうなずき、持っている剣にそれぞれ魔力を流す。
輝き始める剣。
その光は辺りを黄金に染め上げる。
コウジュはその場から動かずに魔力を込めた拳を構えたまま迎え
入れる姿勢だ。
いや、動けないのだろう。
セイバーが自身が傷つくのも厭わず少しずつ攻撃してくれたおか
げか、コウジュの足元には結構な血が流れ落ちている。
﹂﹂
そこへ、俺とセイバーは同時に駆けだした。
﹄
﹁﹁はぁぁぁぁぁぁぁ
﹃らぁぁぁぁ
コウジュの初動がさっきより遅い
今度は俺が先に斬り掛かる。
﹂
当然俺に振り下ろそうとする拳。
ストライク・エア
﹁風王鉄槌
﹄
恐らくあれが聞いていた比較的使いやすい方の宝具だろう。
だがそれでも、その力は宝具ゆえの高い威力を持っている。
コウジュが慌ててセイバーの方へと拳の向かう先を変えた。
拮抗し、込められた力同士が反発しあい、辺りを閃光と音で埋め尽
くす。
そこへ、俺もコウジュへと剣を振り抜いた。
││やるじゃん││
332
!!!!
俺に気を取られたコウジュに、セイバーが宝具の一つを解放した。
!!
!
!!!!
﹃本命はこっちか
!!!!
そうどこかから聞こえたと思った瞬間、拮抗は崩れ、セイバーが
持っている剣がコウジュを貫いた。
﹁これで⋮あんたらの⋮勝ちだ⋮﹂
そのままコウジュは倒れて、大量の血と共に地面に倒れた。
そして、その姿が少女の姿へと戻った。
終わった⋮のか⋮
﹁コウジュ⋮﹂
イリヤがコウジュの元に歩いて行く。
﹁負けちゃったね⋮﹂
イリヤはコウジュの血に濡れることもかまわず、横に座る。
﹁イリヤスフィール⋮﹂
セイバーが横でイリヤに剣を向けていた。
﹁セイバー、もうイリヤを殺す必要はない。コウジュは倒したんだ。
俺達の勝ち⋮だ⋮﹂
突然目が霞む。
そっか限界まで力を使ったからか⋮。
頭でそんな風に妙な冷静な事を考えながら、身体が倒れていくのが
分かる。
そして、いつまでも地面がこないなんて考えながら、俺の意識は途
絶えた。
333
?
﹃stage28:衛宮家の憂鬱﹄
俺は│││
夢を見ている│││
最近よく見る夢││
その続き│││
夢の主はセイバー、アーサー王だ│││
王の元から、配下の者が立ち去る夢│││
〝王は人の心が分からない〟
朝からそんな辛気臭い顔をして﹂
その姿はどこか、今の今まで見ていた夢でのようにどこか悲しげ
だ。
﹁どうした
334
そして、去る者をどこか悲しげな色を宿した瞳で見る│││
﹁ん⋮⋮﹂
目が覚める。
ここ⋮は⋮⋮、家か
﹁目覚めましたか士郎﹂
何だろう、違和感が⋮。
?
考え事をしていると、セイバーがそう聞いてきた。
﹁身体の具合はどうですか
﹂
正座したままこちらを気づかわしげに見る彼女に首をかしげる。
声がした方に目を向けると、部屋の入り口近くにセイバーが居た。
?
﹁いえ、夢を見たものですから⋮﹂
?
﹁夢⋮
﹂
あれ、でもサーヴァントは夢を││、
﹁うぅ⋮ん﹂
はい⋮
﹂
!?
そんなに夢見が悪かったんだろうか
って、そんな場合じゃなかった
?
どうしたんだろう。やけに不機嫌だ。
そしてピシャリと襖を閉めて、セイバーは行ってしまった。
﹁士郎、居間でお待ちしています﹂
だった。
俺が驚いている間にセイバーは無言で立ちあがり、部屋を出る所
﹁⋮⋮﹂
﹁いやなんでさ
通りで暖かい筈だ。
というかイリヤだった。
そこには白い少女が寝ていた。
﹁もぅ⋮うるさいなぁ⋮﹂
とりあえずめくる
いやいや、俺に掛ってる布団下から⋮なような⋮。
どこか
らしい声が聞こえた。
少し疑問に思った事を整理しようとしたら、どこからか少女の可愛
?
?
まぁ、なんにせよ朝食を作らなければならないことは事実なので、
なんだか怖い⋮。
いつにも増して感情を見せないセイバー。
﹁あ、ああ⋮﹂
﹁士郎、ご飯の支度をしましょう﹂
居間の方へ行くと、台所にセイバーは立っていた。
セイバーならこの状況の理由を知っているかもしれない。
えず布団から抜け出して居間へ向かう。
何故ここに居るのか分からないイリヤを起こさないように、とりあ
!!
335
?
朝食の準備を始める。
話は一段落した後にゆっくりしても良いだろう。
何にしようか⋮。
昨日は大変だったし⋮よし、朝からだけど豪勢に行こう。
メインに和風ハンバーグで、後はサラダに汁物はコンソメスープに
でもしようか。
焼いて煮てと、作っていく。
なんだろう⋮。ただ料理を作っているだけなのにすごく嬉しい。
平穏は素晴らしいな。
じーさんが縁側でよくお茶を啜っていた気持ちがよくわかる。
﹂
しみじみとそんなことを考えながらも身体は勝手に動いていく。
﹁器はこれで
﹁あぁ、悪いな﹂
俺がコンロに向かう後ろでは、セイバーが手伝ってくれている。
もちろん料理そのものではなく、準備とかの方だ。
そんなセイバーの方から、時折ガシャンッと器が高い音を上げる。
あのセイバーには珍しく、器を置く際に少し雑に置いたようだ。
チラッと見ると、目つきを鋭くしながら皿の準備をセイバーはして
いる。
しかしその眼は器を見るのではなく、何か考え事をしているように
見える。
それもあって器に気が回らず雑になってしまっているようだった。
どうしたのだろうか
﹁ふわぁ、おはよー⋮。あれ、朝からずいぶん豪華ね﹂
よし、我ながら中々な出来だ。
思考を中断し、丁度出来上がった料理を皿に盛り付け始める。
まあ良いか。考えても分からないものは分からないしな。
骨に機嫌を悪くはしないだろう。
ろうし、セイバーがイリヤに好意を持っていないとしてもあこまで露
考えて思いつくのはイリヤの事だが、イリヤとの接点なんて無いだ
?
336
?
といった感じのその様子に苦笑しなが
丁度一通りの料理が出来て並べている所に遠坂が入ってきた。
いつものごとくザ・低血圧
﹂
﹂
付け加えてきた。
遠坂の言葉に返そうとする前に、セイバーが棘のある言い方でそう
﹁正確には和室ではなく、士郎の部屋ですが﹂
だったので丁度良かった。
自 分 も そ の こ と に つ い て 詳 し い 話 を し よ う と 思 っ て い た と こ ろ
食事中、当然遠坂がそんなことを聞いてきた。
﹁和室に寝てる物騒なお子ちゃまの事よ﹂
﹁どうするって
﹁それで士郎、これからどうする気よ﹂
時に何か美味しいものでもご馳走しよう。
桜には悪いことをしたが、その分夜には来てくれるはずなのでその
昨日の内に今日の朝は来ないようにうまく言い包めてある。
いつもは後2人、桜と藤姉も一緒にご飯にするんだが、今は居ない。
準備を終え、3人で卓につく。
﹁﹁﹁いただきます﹂﹂﹂
作った甲斐があるってもんだ。
てくれた。
渡した牛乳をごくごくと一気飲みした後に、満面の笑みでそう答え
﹁全然♪﹂
は嫌だったか
﹁おはよう。昨日のご褒美というかお祝いみたいな感じだな。朝から
﹁おはようございます。凛﹂
らコップに一杯牛乳を入れて渡す。
!
食事の手をほとんど休めることなく⋮、というかいつもより早い気
がする。
⋮⋮ふーん﹂
337
?
?
なんだろう、心なしかセイバーが冷たい。
﹁へ
?
何故か犯罪者を見るような眼でこちらを見てくる遠坂。
待て、待つんだ遠坂。
よく解らんが、お前は勘違いしていると思う。
この誤解を放っておけば俺は社会的に死んでしまう気がする。
だが何を否定すればいいのか分からない。
とりあえず違うんだ遠坂。
よくわからない焦燥に冷や汗を流していると、遠坂はジトっとした
目でこちらを見る。
﹂
﹁士 郎、イ リ ヤ ス フ ィ ー ル を 保 護 す る っ て こ と が デ メ リ ッ ト ば か り
だってこと分かってる
﹁けど、放ってはおけないじゃないか﹂
実はバーサーカー戦の前に俺は二人にある事を言っていた。
それが、イリヤを保護すること。
バーサーカー戦の前ではしっかり話す事が出来なくて、しかも戦っ
﹂
た後は俺が気絶してしまったから遠坂はやっぱり納得してくれてい
なかったようだ。
﹁あんな目にあっておいてまだそんな事を言うわけ
今、セイバーが何か続きを言おうとしなかったか
﹁私はここに帰ってくるまでは気絶してたから違うわよ﹂
﹁マスターの意に反する事はできません。それに││﹂
だな。二人ともありがとうな﹂
﹁そういえば、反対してたのにちゃんとイリヤを連れてきてくれたん
あれ、そういえば⋮⋮。
その瞳を、俺は信じたいと思った。
が垣間見えた。
が、あえて言うなら天真爛漫な行動とは裏腹にその瞳には確かな理性
どうしてそう思えたかっていう根拠を上げることはできないんだ
の子は約束は破らないって。
彼女は確かに俺たちを襲ってきたが、話をしていて思ったんだ。こ
ない﹂
﹁ちゃんと言いつけてやる奴がいれば、イリヤはもうあんなことはし
?
?
338
?
そう思って目を向けるが食事に戻っていた。
⋮気のせいか
﹂
﹁士郎、聞いてる
﹂
?
﹂
心より感謝します﹂
﹁礼を言います、セイバーのマスター。敵であったわが身への気遣い、
お願いだから遠坂を刺激するようなことを言わないでくれ⋮。
入ってきたのは、先ほどから話題に上っているイリヤ。
﹁なんですって
いつかは居なくなるなんて当たり前じゃない﹂
﹁なによ、聖杯戦争なんてものに参加してるんだからサーヴァントが
そこへ││、
イリヤを憎むなってのは難しい話かもしれないな。
遠坂はアーチャーをやられてる。
そう⋮だよな⋮。
﹁⋮⋮﹂
﹁私はアーチャーが殺されたことを許す気はないわ﹂
開いた。
そんなことを一人思っていると、遠坂が何かを思い出すように口を
ない。
だが、あんな小さな子を戦争だからと捨て置くこと自体俺には出来
結局は俺の勘だし、デメリットもあるだろう。
上手く説明できない自分が嫌になる。
なのに殺すなんてできるわけないだろ
﹁けど、イリヤはバーサーカーさえ居なければただの子どもなんだ。
でも、だからイリヤを殺すっていうのは何か違う気がする。
確かに死ぬ思いはした。
た事を全部﹂
﹁だから、あなたは許すのかってきいてるの。イリヤスフィールがし
はぁ、とため息を1つついて遠坂が話を続けた。
﹁あ、ごめん﹂
?
今にも噛みつかんとする遠坂を華麗に無視し、俺の前に来たイリヤ
339
?
!?
はスカートの端を両手でつまみ、お嬢様然とした礼を述べた。
﹁あ、えーと⋮﹂
はは、どうかえしたものか⋮。
﹁なーんてね﹂
次の瞬間には天真爛漫といった笑みを浮かべながら、俺の横に置い
てあった和風ハンバーグの置いてある席につく。
﹂
もちろんイリヤが起きて来た時用に用意してあったものだ。
﹂
﹁ああ良いにおい、これ、私の分
﹁ああ﹂
﹁うれしい
た。
なんて言うか⋮、少し柔軟性が出たというか感情が前に出てる
それにしても、またしても珍しいセイバーが見れた気がする。
まぁ、セイバーは突っかかってるけど。
あれ
セイバーには突っかからないんだ⋮。
しかしそれも一瞬で、イリヤも俺から離れて自分の皿の前に座っ
僅かに緊迫した空気が流れる。
﹁はいはい仕方ないなぁ﹂
たから余計に驚いた。
さっきから話にあまり入ってこなかったセイバーがいきなりだっ
箸をおき、セイバーが突然イリヤにそう鋭く言った。
﹁離れなさいイリヤスフィール﹂
やっぱりこうしてみるとただの女の子だな。
えらく喜んでくれるもんだ。
そう言ってイリヤが抱きついてきた。
?
的だった。
けど、今はマシ⋮いや、朝も今も怒ってるんだけど拒否ではなく、た
だ怒っているというか⋮合理的じゃないというか⋮。
何言ってんだろ⋮。
結局のところはよく分からないが、セイバーは一応イリヤがこの家
340
!!
戦闘前はかなりイリヤに対して状況や色々な事を交えながら否定
?
?
に居ること自体は戦闘後に否定的な意見は出してないし、俺に合わせ
るって言ってくれたからひとまず保留にしよう。
今はともかく遠坂を納得させるのが先決かな。
﹂
マスターの資格はまだ
﹁士郎、イリヤスフィールを匿っても百害あって一利無しよ
﹁害なんて⋮﹂
﹁あるわよ。その子はまだマスターなのよ
?
もしイリヤ
?
││ガタガタっ││
誰か助けてくれ。
空気が、空気が重い⋮⋮。
びもくもくと食事を続けている。
コウジュが負けた時点で私
遠坂はイリヤを睨みつけ、イリヤは飄々としている。セイバーは再
だがその答えでは遠坂は納得できないようだ。
﹁アインツベルン家の言葉とは思えないわね﹂
それだけコウジュのことを大事に思っていたわけだ。
イリヤが言うことは本当の事なのだろう。
その瞳にはやはり確固とした意志が見える。
遠坂が全てを言いきる前にイリヤが強く否定した。
る気は無いし、聖杯戦争に興味なんかもう無いわ﹂
たちの負けだって。それに、コウジュ以外をサーヴァントなんかにす
﹁しないわ。コウジュが言ったでしょ
スフィールがそんな野良サーヴァントと再契約したら││﹂
身の魔力でいくらかは現界できるって言ったでしょ
消えてないの。それはサーヴァントも一緒で、マスターが死んでも自
?
そんなことを思ったからか、何故か突然押入れの襖から音がした。
な、なんなんだ
﹂
341
?
スパンと勢いよく開けられた襖からその元凶が出てきたからだ。
しかしその答えはすぐにわかった。
?
﹁おじゃましまーす。イリヤには悪いんだけど宝物庫のやつ結構もっ
てきたぜ
?
﹂﹂
その襖から出てきたのは何故か昨日倒したはずのコウジュだった。
◆◆◆
﹁﹁な、なんで生きてるんだ︵のよ︶
﹁﹁なんで
倒したはずじゃ
﹂﹂
凛と士郎がかなりびっくりしながら言ってくる。
!?
死って言ったっしょ
ほんでもって俺は召喚された時点で受肉っ
﹁何 で 俺 が ま だ 居 る か っ て い う と。俺 が セ イ バ ー と 戦 う 前 に 不 老 不
この2人は気絶してたし。
さておき、説明せんとダメなだよな。
でも思わず後ずさりした俺は悪くないはず。
いや解らんでもないけどさ。
う二人は、すごい剣幕だ。
台本でもあるんじゃなかろうかという位に声を綺麗に合わせて言
﹁おおぅ、息ぴったりだな。え∼っと、何でかだったな⋮⋮﹂
!?
まった。
これを知ったときは自分のことながらなんだそれはって言ってし
だから聖杯戦争の参加資格は無くなったけど、俺は居続ける。
俺は無限に持っている。
ゲーム内設定でスケドを持てるのは一個までだったわけだが、今の
サーヴァントではなくなったが、俺は存在し続けてるって訳﹂
ていうか生身だったわけさね。結果、俺が倒されて敗けを認めたから
?
まぁでももし士郎が勝ち抜けなさそうだったら、俺がやるつもり
だったけどね。
﹁ありえない⋮﹂
凛が頭を押さえる。
⋮⋮
﹂
??
342
!?
それに対し、士郎は││、
﹁⋮
?
いや、今の分かりにくかったか
﹂
?
一人でもかなり反対していたのに﹂
﹂
﹁ってかさ、戦い終わった後、2人を運んだの誰だと思ってんのさ
﹁セイバーじゃないのか
﹂
よくこの家に入ることができたわね。セイバーはイリヤスフィール
﹁まぁいいわ、良くは無いけど今は置いとくとして⋮。それにしても
まだ若干頭ひねってはいるけど、深く考えたら負けなんだZE☆
しばらくしてやっと自分なりに解釈できたようだ。
﹁そうそう﹂
な
﹁えっと⋮つまり、俺たちがちゃんと勝てた事には変わりないんだよ
?
セイバーとしたんじゃないの
?
﹁ま、とりあえず交渉といこうや﹂
﹁交渉
﹂
うん、俺がそっちの立場だとして考えたら悪夢だと思うわ。
﹁言いたくないけど気絶して良かったわ⋮﹂
﹁それは⋮⋮﹂
にはバーサーカーが無傷で復活していたのですから﹂
﹁あの時は本当に死を覚悟しました。士郎と凛は気絶。その次の瞬間
争の参加者じゃないって事を説明した上でね﹂
﹁だから、俺が能力使って運んだんだよ。セイバーに俺はもう聖杯戦
創痍に変わりありませんでした﹂
﹁士郎、私はあの時点で意識を失いまではしていませんでしたが満身
?
るものでしたが、マスターが最終的に判断を下すべきかと⋮﹂
?
﹁それくらいかまわな﹁できないわ﹂い⋮﹂
ふふふ、ここからが本当の俺の戦いだ︵キリ
それにドアさえあればすぐに向こうには行けるし。
りこっちに居た方が色々としやすい。
屋敷の方に居ても良いんだけど、士郎達の動向を知るためにはやは
﹁そゆこと。ってなわけで、俺とイリヤをここに置いてくんない
﹂
サーヴァントで無いことや、私に対して出して来た条件は一考に値す
﹁凛、私 は あ く ま で サ ー ヴ ァ ン ト で す。確 か に バ ー サ ー カ ー が 既 に
?
343
?
・ω・`︶な顔になっちまった。
士郎︵家主︶が許可を出そうとしたのに凛︵居候︶が却下した。
士郎弱っ。
というか士郎が︵
﹁言っとくけどただじゃないぜ セイバーも言ってたみたいに交換
´
ちなみにセイバーの場合は
?
だからこその交渉だ。
﹁交渉材料
﹂
まぁ、そう容易くお願いが通るとは思ってない。
条件としてこちらも交渉材料を用意してる﹂
?
﹂﹂
それは言わない約束では
ごめんごめん﹂
﹁ぷっくく⋮ご、ごほん⋮それで
私には何があるの
﹂
?
﹁こ、こんなに⋮
﹂
!?
﹁それをたった今とってきたわけさね。俺の能力使えば一瞬だしね﹂
﹁ふふん、その宝石たちは我がアインツベルン城にあったものよ﹂
﹁これ全部本物なのか
﹂
ちょっとした山にはなる程度の量だ。
そう言って、俺は宝石を机の上にばらまく。
﹁凛に用意したのはこれ、宝石﹂
ってセイバーに萌えてる場合じゃなかった。
この人ヒロイン力高いわやっぱり。
真っ赤になって縮こまっとります。
セイバーさんもさっきまでの今にも吠えそうな様子が嘘のように
まぁ俺が険悪なムードが嫌だったからブレイクした訳だけどもさ。
取り繕ってもカリスマブレイクは覆せないっての。
情に戻して聞いてくる聞いてくる凛。本当におぜうさまだねぇ、今更
笑ってしまったのを誤魔かす為に咳払いまでしてさっきまでの表
?
今の顔を真っ赤にした状態で睨まれても可愛いだけですので。
だからそんなに睨まないでくださいセイバーさん。
!?
﹁﹁美味しいモノ
﹁バーサーカー
そだっけ
?
﹂
﹁とある情報と、魔力の回復、おまけで美味しいもの﹂
?
うっかり口が滑ったんだから仕方ない。
﹁ありゃ
!! !?
!!
344
?
凛はその俺が持ってきた宝石に手を伸ばそうとしては戻しを繰り
返して、いくらか逡巡した後結局手をひっこめた。
声が震えすぎじゃないか
﹂
﹁こ、この程度じゃ、み、認めないわよっ﹂
﹁遠坂
?
なっている。
?
コウジュ、私は料理の途中なのだが⋮﹂
って、まさか⋮﹂
﹁﹁﹁アーチャー
◆◆◆
は
﹂
﹂﹂﹂
戻るのはもう少し後
どういうこと
私が戻るのはもう少し後で
?
うわけかね
﹂
﹂そうだよそうですよ
めんなさいね
悪い
!
そうですよね
!?
ご
﹁いや∼それがさ、交渉材料のため﹁つまりは行き当たりばったりとい
?
?
﹁コウジュ、これはどういうことかね
しかも⋮ショt⋮ゲフンゲフン⋮⋮こんな無残な姿に⋮⋮。
だから、死んだと思ってたのになんで⋮⋮。
た。
アーチャーが消えた瞬間は見てないけど、確かに私の令呪は消え
?
﹁嘘、小さくなってるけどまさか⋮﹂
﹁馬鹿な⋮﹂
﹁子どもか
﹁む
出てきたのは││、
手を突っ込んで赤いのを取り出す。
カードを出し、襖の方に歩いていってマイルームに繋げる。そして
本当はもう少し後の予定だったんだが、まぁいいか。
﹁じゃぁ、これならどうだ
﹂
士 郎 が 冷 静 に 突 っ 込 み を し て し ま う ほ ど に は 凛 が 面 白 い こ と に
?
どういうこと⋮⋮
!!?
!!
?
!
345
?
?
?
﹂
﹁ねぇ、さっきからどういうこと
グルだったって事
ちゃん
アーチャーはバーサーカー達と
﹁うんにゃ、あのアインツベルンの城での戦闘は本物だぜ
?
﹂﹂﹂
どういうこと﹂
﹁え∼っと、つまり何
じょ、冗談だよ サプライズという目的が無かったっ
!!
かったんだよ。だから、再構成なんて事をしたんだ﹂
?
めっさ熱
﹂
をついつい投げてしまった私は悪くないはずだ。
ってか熱っ
悪くないったら悪くない。
﹁はぐ
まったく⋮。
!!
それにしても、この子の本当の目的は何なんだろうか
!!
やることなすことに法則性が無いというか、適当というか⋮ともか
?
近くにあった湯のみ︵士郎が飲んでたやつで中身がまだ残ってる︶
﹁⋮⋮﹂
﹁禁則事項です﹂
持ってきて⋮⋮。
そう聞くとバーサーカーは、片目を瞑り、立てた人差し指を口元に
﹁じゃあその存在を消したくなかったっていうのは何で
﹂
て言ったら嘘になるけど、俺はアーチャーという存在を消したくはな
﹁はぐっ
つい、手元にあった湯のみ︵中身はない︶をコウジュに投げつけた。
﹁・・・﹂
そう言いながら満面の笑みでサムズアップするコウジュ。
﹂
﹁アチャ男ゲットだぜ
士郎とセイバーも分からないみたい。
意味が分からないわ。
﹁﹁﹁
はもう無いから﹂
みにアーチャーも俺と同じで現界はしてるけど聖杯戦争の参加資格
たけど。その時に交渉してこちら側に来てもらったんだよ。あ、ちな
よ。そして俺がすぐにアーチャーを再構成したんだ。⋮若干失敗し
と闘って、俺は一回死亡、けど最終的に俺がアーチャーを倒したんだ
?
?
?
!?
346
???
!
!?
く分かりづらい。
でも、私が挙げた理由であるアーチャーがアレな姿ではあるけど生
きている。
あの見た目でも、皮肉気に笑うあの感じは確かにアーチャーだ。
なら、ここの持ち主である私が拒否し続けるのはおかしいわね。
あとは、コウジュがなぜ態々そんなことをするのかも気になる。
冬木の地を管理するものとして、野放しには出来ない。
なら近くに居た方が監視しやすいか。
﹂
﹂
﹁まぁいいわ⋮。あなた達がここに居るのは認めるわ。けど、もう少
し話してもらうわよ
・
・
・
﹂﹂
ああぁ、頭が痛い。
あんたらのマイナスになるこ
言っておくけど、宝石に目がくらんだとかでは決してない。
チャーの事なども納得できない事ばかりだが仕方ない。
目 的 は 聞 け な か っ た が ま あ こ ち ら の メ リ ッ ト は 大 き い。ア ー
結局、2人が衛宮家にお世話になることが決定した。
な。
というかそこの物騒な幼女はこっちを仲間を見るような目で見る
?
347
﹁まぁ大体分かったわ﹂
﹁そいつはよかったよ﹂
﹁で、結局根本的な理由は話す気は無いと
﹁﹁多分かよ
とはしない⋮⋮may be⋮﹂
らさ。でも安心してくれていいぜ
﹁あはは、ごめんごめん。そっちは話しちゃうと予定が狂っちゃうか
?
?
ついツッコんでしまう。
!!
決して│││。
348
﹃stage29:狙い撃つぜと言ってほしくて
どもどもコウジュです。
って言っても話的には全然時間経ってないけどね。
おっと、メタ発言はこの辺で置いておこうか。
⋮⋮。
﹄
俺 も チ ー ト だ け ど、士 郎 も 大 概 チ ー ト だ よ な。剣 だ け と は い え
⋮⋮ひょっとして、俺よりうまく使えたりしないよな、士郎。
いといけない。
俺の能力があってこそのものだから、概念を込めた奴を士郎に渡さな
切れ味や威力は剣の物だけど、空間転移や音からの振動操作とかは
まぁ、ただ剣を渡してもほとんど意味が無いだろう。
し。
なにせ士郎は剣の解析の後、自分の世界に加える事が出来るんだ
ベルが上がってくれるだろう。
いし、特に俺が良く使うような高レベルの物を士郎に渡すと勝手にレ
俺の剣達はこの世界の物ではないがここでは全部が宝具扱いらし
士郎は剣に関してチートな能力をその身に秘めている。
そこで出てくるのが俺の所有する剣達だ。
は技量もまともにないのに教えるなんて烏滸がましい。
とはいえ、強くする⋮なんて偉そうなこと言っちゃあいるが俺自身
というものを入れていたからだ。
それはこの家に置いてもらうための取引の一つに士郎を強くする
由がある。
まぁそんなことは置いといて⋮と、俺が一緒にここに来たのには理
生なんだぜ
どんだけ金持ちなんだよって感じだな。この敷地の所有者が高校
郎達と共に衛宮家内にある道場に来た。
凛から衛宮家の滞在許可︵あくまで凛から︶をもぎ取った俺は、士
?
アーチャーレベルに至るまでの人生あってこその能力か、士郎の生
349
?
き様あってこそかは分からんけど、転生した時に貰う能力としてよく
上げられるだけの事はある。
﹂
それをさらにチートにしようってんだから、笑いが止まらない。
はぁっ
さてさて│││。
﹁せいっ
﹁⋮⋮﹂
自信がある
まだ力を制御しきれていない俺じゃあ絶対に打ちあいが続かない
それでも、俺からしたらすごいんだけどねぇ。
る。
セイバーはかなり加減をしてるんだろうが、すぐに1撃が士郎に入
とはいえ、一回一回は非常に短い。
りやり直し。
打ちあい打ちあい⋮、何合も打ち合い一本取る度に最初の位置に戻
道場の端では俺とイリヤが見ている。
現在は士郎がセイバーと打ち合いをしている。
!
ていて遠慮してるんだっけ⋮。 それかな
そういう建前で見てみる。
いけど。
﹁やぁっ
﹂
またひとつ終わった。
﹁っぐぅ
﹂
よくわかんないけど乙女心というやつなんだろう。よくわかんな
の俺から見てもこうなんだからよっぽどなんだろうね。
うむ、確かにセイバーが士郎との接触を避けるに避けてるね。素人
?
アニメでは確かセイバーが士郎に対しての心の在り方を変化させ
なんだろ
それにしても、な∼んか違和感が付きまとう。
言ってて悲しい⋮。
!!
?
350
!
!!? !!
セイバーの横一閃が士郎の腹にスパッと入って士郎ダウン。
﹁痛つ⋮﹂
打ちこまれた所を押さえながら士郎が立ち上がろうするが、かなり
﹂
傷むのかすぐには立てないようだ。
そこへイリヤが口を開く。
﹁ねぇ、これって本当に鍛錬なの
﹂
いやいやイリヤさん、単刀直入すぎませんか
﹁え
ほら、士郎も呆けちゃってるじゃん。
﹁しょ、正面からですか⋮。で、ですが、そうなると展開によっては⋮
ないってば﹂
﹁もっとこう⋮ガツンっと正面から打ち合ってくれないとタメになら
頬も徐々に赤みを帯び、ニヤニヤしたくなるレベルです。
その言葉に言い返せなくなるセイバー。
﹁っ⋮﹂
﹁でも確かに⋮。言われてみればいつもより消極的だった様な⋮﹂
がんばれ凜ちゃん。
うむ、これぞまさに正ヒロイン。
出てこない様子。
口も開いては閉じ、開いては閉じ、イリヤに返そうとするも言葉が
戦闘時のセイバーとは比べ物にならないほど視線が揺らいでいる。
う。
目は口程に物を言うとは言うが、今のセイバーはまさにそれだろ
イリヤの言葉に焦るセイバー。
﹁そ、そんなことはありませんっ﹂
に見えなかったんだけど⋮﹂
﹁セイバー遠慮してるっていうか、ワザと見逃してるっていうか、本気
ともかく優しい言い回しをしてあげようよせめて。
は日本人じゃないか。むしろ地球人じゃない。
ここは俺のように日本人伝統の奥ゆかしさをだな⋮⋮って今の俺
?
?
体がぶつかってしまうというか⋮⋮﹂
351
?
﹁そりゃ打ち合ってるんだ当然だろ
﹁む⋮﹂
﹂
レタスも良い。シャキッとした食感が、柔らかいパンと肉とは違う
口の中でその芳醇な香りを撒き散らす。
そのタレが肉の味をうまく引き立て、噛むほどに溢れてくる肉汁は
る照り焼きタレ。
具を挟むパンの味を殺してしまわないようにか比較的薄味にして
多幸感が染み渡る。
いるからか、口や目から光が出るんじゃないかというほどに身体へと
今の身体になって食べることへの楽しさが何倍にも膨れ上がって
うーまーいーぞー
さておき、俺も一口⋮。
って何だこの電波。
まぐ、まぐ、にゃん、にゃん♪
イリヤがマグマグといった感じにサンドイッチを食べている。
﹁うわぁ、うんうん美味しい∼。士郎はお料理上手よね∼﹂
使ったサンドイッチだ。
昼食は、朝のハンバーグの残りを照り焼き系のタレで絡めたものを
あれ、俺まだ何もしてないんだけど⋮。
をすることになりました。
え∼とりあえず、セイバーの恥ずかし紛れの一言により、お昼休憩
﹁もうお昼です﹂
俺を萌え殺す気か
ほんと何この可愛い生き物。
みつけるセイバー。
なに当然な事をといった風に言う士郎を、横眼で頬を染めながら睨
?
舌触りを生み出し、炭水化物のしつこさを和らげている。
いや待て、それだけじゃない。
352
?
!!
この仄かに香る柑橘系の匂いは⋮⋮柚子か
タレの中に柚子を混ぜているんだ。
だから口の中で後を引かずに、もう一口もう一口と食を進ませる。
やるな士郎⋮⋮。
あ、おかわりください。
そんな感じに俺も食事を堪能しているとセイバーがイリヤの方を
じっと見ていた。
﹁待ちなさいイリヤスフィール﹂
そう言ってセイバーがハンカチでイリヤの顔を拭く。ああ、頬に食
べカスがついてたのか。
ふむ、なんとも和む光景だ。
ってちょっと待てイリヤ
今ついてたのほぼ目の下だったけどどんな喰い方したらそうなる
んだよ。
いや、良いや。
偶にはイリヤもおちゃめな食べ方をしたくなる時もあるだろう。
﹂
﹁ん⋮ありがとうセイバー。でも、セイバーは私の事嫌ってたんじゃ
ないの
﹂
最低限な礼は尽くさねばなりません。それでバーサーカー、いえ、コ
ウジュは何をしているのですか
﹁あ⋮つい⋮﹂
﹁まぁ気にするな
﹂
﹂
﹂むぅ⋮なに⋮あ、そっか⋮﹂
!
気にしたら負けだ
﹁俺の未来の⋮何だ
たんだ、未来の士郎のおよ﹁イリヤ
﹁ふふ、そんなに嫌われてるわけじゃなかったんだ。仲良くしたかっ
スイマセン、思わずセイバーの頭を撫でていました。
?
セイバーはまだ士郎を意識し始めただけだろう。士郎もまだ自分
思わずナイスセーブしてしまったが、今はまだ早い。
ふぅ⋮、イリヤさんってば気が早いっての。
!
?
﹁あ、あぁ、分かった⋮﹂
!
353
!?
﹁あなたに敵意は無く、士郎は客人として迎えました。ですから私も
?
の気持ちに踏ん切りがついて無い筈。
だから待つんだイリヤ。
﹂
もっと場を温めてから、最後に背中を押してあげるんだ。
さておき、食事終了したんで閑話休題。
午後からは俺との練習の時間だ。
﹁なぁ、コウジュは何を教えてくれるんだ
ちなみにイリヤとセイバーは道場の壁側で見てる。
﹁う∼んとな、俺が教えるというより剣が教えてくれる感じかな
そう言って俺はとりあえず剣を一本出す。
﹂
出すのは長剣で、初期の長剣だ。ゲーム設定の使用者レベル制限も
1となっている。
﹁来いソード﹂
名前もそのままソードという。
長さは1m20cm位はあるが剣先が丸く、宝具という扱いに一応
なってはいるみたいだが威圧感なんて全くない。
﹂
だって大量生産品っていう設定だもの。
﹁士郎、これ持ってみ
﹁その剣に特別な効果はないけど、たぶん刃こぼれとか壊れることは
無いかな﹂
﹁十分すごいぞ⋮それ⋮⋮﹂
ゲーム内では武器が壊れるという概念は無いし、大丈夫だろ。
いや、無いよな
?
354
?
?
剣の大きさに比べ、その振り様は結構軽く見える。
そう言って士郎はソードを軽く振る。
﹁これ結構大きいけど⋮⋮おぉ、持てた﹂
手に現れた剣を士郎に手渡す。
?
今まで壊れなかったのはそう俺が思ってからっ
て落ちは無いよな
?
え∼っと次は何が良いかね﹂
ま、まぁ、大丈夫だとしておこう⋮。
﹁んじゃ、一旦それ返して
剣を受け取り、直して、次を出す。
レベル制限をとりあえず10位上げてみるかね。
﹁来いブレイカー﹂
﹂
次に出したのはさっきのソードの色違い。
っておぉ
だけど攻撃力はほぼ倍くらいになる。
﹂
必要レベルは10。
﹁今度はこれ持って
﹁あれ、さっきの色違いか
なんて﹂
﹁んじゃ、今度はセイバーこれ持ってくんない
?
﹁どう違いある
重さとか﹂
ソードを改めて出して2本とも渡す。
今度はセイバーに、今士郎が持てなかったブレイカ│と、先ほどの
﹁はぁ、わかりましたが⋮﹂
﹂
﹁な、なんでさ⋮。見た目はあんまり変わらないのに今度は持てない
げる。
今度は渡しても持てず、床に落としてしまいガランッと鈍い音を上
!!?
いましたか
そちらの方が少し切れ味がよさそうな感じがする位
﹁それは構いませんが、これが一体
は大変だ。マジで。
﹂
﹂
ゲーム内では初期の方は簡単に レベルを上げられるから、10以下
P S P o 2 で の レ ベ ル 換 算 に な る け ど か な り の 初 心 者 レ ベ ル だ。
けど、士郎君のレベルが低い。
これで何が分かるかというと⋮うん、皆さんお気付きかと思うんだ
違いが無いとかどういうことなんだ
﹁俺も知りたい。俺からしたらあんなに差があったのにセイバーだと
?
?
355
?
?
?
﹁いえ、まったくと言っていいほど。あえて言うならブレイカ│と言
?
﹁なるほどね∼。サンクス。悪いね、実験みたいになって﹂
でしょうか⋮﹂
?
現時点では。
やっぱり、魔術使ってブースとしてるからこそのあのスペックなの
かね
﹁今のは武器に設定されてる、使い手に求められるレベル制限による
﹂﹂
ものなんだよ﹂
﹁﹁レベル
か⋮⋮﹂
?
えっと、分かった。トレース・オン⋮⋮﹂
レスタ
﹂
すかさず、俺は回復を掛ける。
﹂
まだ痛む
﹁これで⋮良いか⋮
﹁ごめんな
だ。
?
性。
常に思い浮かべるのは最強の自分。そこまで持っていく士郎の特
たけどすげぇな。
原作知識として憑依経験やらってのがあったはずだし予想はして
けか。
やっぱり、士郎の強化魔術は自分のレベルもブーストしてたってわ
﹁分かった、けど⋮え、持てた
なんで⋮﹂
そう言って渡すのは先ほどのブレイカ│、士郎が持てなかった方
﹁うん、その状態でこれを持ってほしい﹂
?
?
?
﹁大丈夫。それで、どうするんだ
﹂
言った俺が言うのもなんだけど、見ていて痛い。
少し血が出たりしている部分がある。
俺の頼み道理にギリギリまで行ってくれているのか、皮膚が裂け、
士郎がいつものキーワードと共に魔術を行使する。
﹁身体強化
頼む。回復はできるから﹂
﹁う∼んと、実践した方が早いかな。士郎身体強化出来るだけ全開で
﹁なるほど⋮しかし、それが一体
﹂
﹁だから俺が使えなくて、セイバーが使えるって状況が出来上がるの
定の強さに到達していないと使えないって制限がある﹂
﹁そ、俺の武器達にはそれぞれ使用者を選ぶって言えばいいのかな、一
?
?
?
356
?
本来なら身の丈に合っていない強化をすれば器がもたないんだろ
うが、士郎はその器ごと強化する。
当然縛りが無い訳ではないし、先程のように扱いきれている訳では
ないから身体にダメージも出る。
けど、流石は主人公とでも言うべきなのかな。
これが分かったのはかなり大きい。
これが士郎の内面世界の現象から零れ落ちたものだってんだから
半端ねぇな。
未来で封印指定を受ける理由が分かる気がするよ。
だからと言って納得しちゃいないが⋮。
っと、また思考がそれた。
﹁士郎、次だ。来い、ブラッディ・フリューゲ﹂
出したのは必要レベル60、ゲーム内レアランクはAの大剣。赤い
羽根を模した幅広の片刃。 俺が良く使っていた武装の一つで攻撃
﹂
﹂
魔術を使ったから
﹂
の 魔 術 は い く ら で も 天 元 突 破 出 来 ち ゃ う わ け で す ね ぇ。誰 得 だ よ。
あ、士郎か﹂
しかも、まだ士郎達には言わないけど士郎の中にはエクスカリバー
の鞘がある。持ち主を不老不死にするというチートなもので、そのお
かげで超回復と言って良いほどの回復力が士郎にはあるから魔術に
外敵などいらない。士郎の敵は士郎自身
よるフィードバックも極端に少ない。何このコンボ。
﹁アーチャーが言ってたろ
?
357
力は別に高くないんだが、剣を振ると辺りに赤い羽根が舞い散るエ
フェクトが好きでよく使っていた。
赤〇字は関係ない。
﹁こいつは必要レベル60、いけるかな
ホイっと士郎に渡す。士郎は恐る恐るだが受け取り│││。
?
﹁お、持てた。そういえばなんだけどコウジュ、ちなみにさっきのブレ
イカ│のレベルは
じゃあこれはさっきの6倍
?
﹁10﹂
﹁10
!?
?
﹁そういうことだな。ま、それが士郎の可能性ってなわけさね。士郎
!?
だって﹂
﹁あぁ、確かに言ってたな⋮。何でか妙にしっくりとくる言葉だった
から覚えてる﹂
自分のことだから的確な助言ができるのは当たり前さね。
本当はアーチャーから直接アドバイスをしてもらうべきなんだけ
ど、まだネタばらしには早い。
それにその辺はアーチャーに折り合いをつけていってもらって自
分で向き合ってもらうべきだろう。
﹁次は投影をしてくれ。対象は⋮ブレイカ│で﹂
﹁今度は投影か⋮⋮。トレース・オン⋮﹂
強化をした状態の士郎ならブレイカ│位なら出来る筈。
﹁よ、よし、成功した﹂
これで士郎の中にブレイカ│が登録された。
ここからが疑問だったんだ。
強化での士郎のレベルの底上げは予想ができたけど、投影によって
どれだけ世界を越えられる︵侵食できる︶か⋮⋮。
そんな風に考え事しているとパキンっとガラスが砕け散るような
音が鳴り響く。
﹁ハァ⋮コウジュ⋮も、無理だ⋮グ⋮⋮﹂
士郎が膝をついている。
おう、ジーザス。
ちょっと無茶させちまったか。
﹁ありがとう士郎。そんでごめん急ぎ過ぎた。今回復するから﹂
くそ、士郎の魔力量とかを忘れてた。
カード化していた回復アイテムを使ってほぼ元の士郎に戻っても
らった。
体力はトリメイト。魔力は俺の魔力を譲渡しました。
パスも繋がってないからかなり効率悪いけど、俺の中には無駄にあ
358
るからそれを使いました。
﹁ごめんな、士郎﹂
﹁大丈夫だ、問題無い。ほら回復もしてもらったし﹂
立ちあがり力こぶを出すように無事だと言ってくれる。
その言い方だと大丈夫じゃなそうに見えるから止めて。
それにしても、俺もどうかしてる。
興味と焦りで急ぎ過ぎた。
よくある言葉だが、ここはアニメの世界じゃないんだ。
あくまでも現実世界。
知識としてはともかく、充てにし過ぎると後で痛い目を見てしまう
だろう。
気を付けないとな⋮。
﹂
そんな風に反省しながらちょっと落ち込んでいる俺に士郎が聞い
てくる。
﹁そういえば、結局コウジュがやったのは何の確認だったんだ
﹁いやね、士郎が俺の武器を使えたら最強だな∼って思ってね。レベ
ル無視できるんだったら色々上げるか解析させてあげようと思った
んだよ﹂
﹁それは確かに心強いですね﹂
﹁ああ確かに、色々すごかったもんな。⋮⋮一番インパクトがあった
のはネギだけど⋮﹂
あぁ∼。ま、確かにインパクトはあっただろうな。
例えば、星をも砕くと言われるアックス
だけど、あえて言おう。あんなのは序の口であると。
﹁もっと凄いのがあるぜ
か言ってたわね﹂
イリヤが付け加えてくれる。サイカヒョウリとツミキリヒョウリ
の事だな。
﹁その辺りを士郎が使えたらな│っって思うっしょ
中には使用者の力を増幅するタイプの奴があるから士郎には特に
?
359
?
﹁私が前に見せてもらったものは運命の操作だとか、空間の操作だと
とか、大気を操作するダガ│﹂
?
﹂
それを使えるようになって欲しかったんだよ﹂
﹁そんな物まであるのですか
﹂
ただ全力では無かっただけでな。俺の全
力↓最強武器達を使う↓冬木ってか地球アボン・・・みたいな
﹁﹁﹁・・・﹂﹂﹂
あー⋮止まっちゃった。
き、キングクリムゾン
アレの効果が力の増幅だからそれを使えるよう
﹂﹂
!!!
?
さ。
エンドレスエイト並みの繰り返しがお望みか⋮
というわけで、一気に本日のメーンイベント
!
︵震え声
郎が魔術でアボンして、俺が直しての繰り返ししかしてないんだもん
いやだってさ、あの後は、セイバーが士郎ぼこって俺が直して、士
そんなこんなで修業を続け、いつの間にか夜。
﹁﹁それが一番安心できないって︵ません︶
チになっても俺が代わりに戦う位はするから安心しな﹂
﹁少しでも強くなってもらわんとな。もし修行が間に合わなくてピン
﹁こ、心強いですね﹂
﹁あ、あぁ。⋮分かった﹂
になってもらうのが俺との修行での目標です。ワーパチパチ﹂
使ってた大剣な
の方のレベルを上げてもらって、ライトニングエスパーダ⋮昨日俺が
﹁えーまぁ、そんなわけで、士郎君にはとりあえずレベルではなく魔術
?
﹁いやいや、本気だったぜ
﹁昨日のコウジュって本気じゃなかったんだな⋮﹂
!?
?
!!!
龍⋮ナントカ寺⋮。
ナントカ寺に行こう
名前
!!
360
?
やっぱいいや。ナントカ寺で。
?
そんなわけでさっそく行くとしますかね。
◆◆◆
あ、ありのまま体験した事を話すぜ
た。
︶にコウジュが見せてくれた武器達がまたすごかっ
の一人になってくれるっていうんだからさ。
その修業中︵
は俺の師匠
昨日命を掛けて戦った二人が今日から同居人になる上に、コウジュ
えっと、とりあえず今日の事なんだが⋮驚く事ばかりだ。
あぁ、いや、今のはコウジュが言えって⋮。
⋮⋮これで良い
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
ピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
わからなかった⋮頭がどうにかなりそうだった⋮催眠術だとか超ス
な、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか
晩御飯の片づけをしてた﹄。
﹃セイバー、コウジュ達と修業をしていたと思ったら、いつの間にか
!
たんだが、その後に後々俺に使えるようになってもらうっていうので
見せてくれたのはすごかった。
出てきた瞬間の威圧感、神聖さ、逆に邪悪なものもあったし、脈動
して、生きているかのようなものまであった。
そういえば少し不思議だったのはコウジュの武器を見た瞬間に何
故かその特性の分かるものがいくつかあったけど⋮あれは何だった
んだ
コウジュはたまに変な事を突然言い出すから気にしない方がいい
んだろうか
本人もよく気にしたら負けだとか言ってるし⋮。
?
361
?
最初に渡された剣は宝具ではあってもあまりすごくは感じなかっ
?
?
コウジュは登録がどうとか丘がどうとか言っていたけど⋮。
?
気にしない事にしよう。
その後は、コウジュが魔力込みで回復ができるから限界までやって
も大丈夫だってことで、セイバーとコウジュからバシバシしごかれ
た。
剣術はセイバーとたまにコウジュ、目を慣らすためにってセイバー
とコウジュの試合を見せてもらったりもした。魔術に関しても、コウ
ジュの言う実験︵現在の俺のギリギリを探す︶というのもやった。
そうこうしたらいつの間にか夜で、セイバーのお腹の音でお開きに
なった。
中々に充実した時間だったな。ただ、かなりぼこぼこにされたけど
⋮。
ま、そんなわけで汗だくだ。
セイバーの事もあるし、先にご飯を先に済ませてしまったから、遅
いお風呂になるがそろそろ入りに行こうかな。
靴を履きながらそう言うコウジュ。
何でもないように言う彼女に、俺は思わず苦笑する。
﹂
﹁ものすごい組み合わせだな⋮。というかスゴイ言い草だな﹂
﹁事実その通りだからな。仕方ない。そう言う士郎は風呂
こちらへと振り向く。
靴を履き終えたコウジュがトトンと軽い身のこなしで立ち上がり
?
そして俺が持つ着替え等に気付いたのかそう聞いてきた。
﹁ああ。大分汗かいたからな﹂
﹁⋮⋮ふぅ∼ん﹂
﹂
﹂
突然口元を押さえながらニヤニヤするコウジュ。
﹁⋮なんでニヤついてるんだ
﹁いえいえ、何でもございませんですの事よ∼
⋮⋮怪しすぎる。
?
?
362
風呂場の方に向かうとコウジュを見つける。
﹂
玄関に向かうみたいだが出かけるのだろうか
﹁出かけるのか
?
﹁おう。ちょいとイケメンと美女と仏頂面見てくる﹂
?
といっても分からないから仕方ないか。
﹁じゃあ、入るよ。コウジュも気をつけてな﹂
﹁おう﹂
結局ニヤニヤしたまま玄関を出ていくコウジュを見送り、当初の目
標である風呂場に入る。
服を脱いで浴室への扉を開く。
家の中とはいえ季節は冬だからそこそこに冷えている。
﹂
一旦考えるのを止め、風邪をひく前に温もろうと、少し急いで中へ
と入った。
﹁一体コウジュは何でニヤニヤしてたん⋮だ⋮ろ⋮⋮﹂
扉を越えて中に入ると先客が居た。
セイバーだ。
目が合い、互いに固まる。
まさかまさかまさか、コウジュの奴知ってたな
と肌を桃色に染め上げている。
そこまで見てしまって、もう限界だった。
俺は慌てて脱衣場へと戻る。
そして急いで着替えて風呂場を出た。
﹁び、びっくりしたぁ⋮﹂
まさかセイバーが入ってるなんて。
それにしてもコウジュだ。
これがわざとならば一言言わないと気が済まない。
イリヤもそうだが、あの主従は今日一日だけでも俺を弄ろうとして
きた。
見た目は二人ともお嬢様然とした少女なのに、子どもらしいしさを
363
だからニヤニヤと
﹁あ、あの⋮﹂
﹁わ、悪いセイバー入ってるなんて思わなくて⋮﹂
そう身体を手で隠すようにしながら顔を背けるセイバー。
﹁申し訳ありません。今は遠慮していただけないでしょうか
!?
頬を染め、湯船に浸かっているのもあり身体を上気させてうっすら
?
!?
見せたかと思うと大人の様な、まるでお姉さんのように振る舞う。
コウジュに至っては遠坂やセイバーにもそんな扱いをする時があ
るし、扱いに困ったものだ。
真剣な話をしている時は頼もしいんだがなぁ⋮⋮。
﹁くっふっふ⋮このラッキースケベ﹂
﹂
って、コウジュ
お前分かってて
バッと後ろを振り向くとコウジュがさっきのようなニヤニヤ顔で
﹂
!!
玄関に居た。
﹂
﹁まだ出かけてなかったのか
言わなかっただろ
﹁この
﹁なはは、はてさてなんのことかにゃー
!?
を開けてコウジュは身を乗り出した。
﹁くふふっ、あぁ良いもん見れた。あばよーぅとっつぁん
名前忘れたんだから仕方ない。
なんとか寺。
さぁさぁやってきましたよっと。
◆◆◆
うかな。
﹂
時間つぶしに、遠坂の所に行ってまた魔術についてでも教えてもら
風呂は後でいいか。
はぁ⋮。
絶対アレ確信犯だろ⋮。
てしまう。
問いただすだけでもと思うも、そのままコウジュは走って出ていっ
!!
思わずとっちめてやろうと手を伸ばすがスルリと俺の腕を避け、戸
?
!!
とりあえず階段を登っていく俺。
364
!!
いやー、それにしてもさっきの士郎は面白かったな。
くっふっふ、また弄ってやろう︵ゲス顔
そういや、原作では風呂の中ではセイバーがやたらとかわいい事に
なってたなぁ。
正直言うと見たかったが、少女の身とはいえ中身男の俺がやっちゃ
うと犯罪だかんな。
しゃーない。
ってか長いなおい、この階段。
この身体になってからは疲れというものを感じなくなっていると
は言え、流石にこの距離は精神的にちょっと疲れる
トントンと何段か飛ばしながら登ること数分、漸く山門が見えた。
辺りに人気は無い。
時間も遅く、一般人はそろそろ寝る時間だ。
一般人は、な。
﹂
ア
サ
シ
ン
365
﹁この様な時間に何用か
いるのがまたイケメン度を上げている。
会いたかったぞガンダ⋮じゃなかった、佐々木小次郎
物干し竿⋮佐々木小次郎の代名詞とも言っていい、五尺余り︵えー
そう言って佐々木小次郎、アサシンは長刀を構える。
かお聞かせ願いたいものだ﹂
﹁ほう。夜も遅くに大量の魔力を纏ったものがこの寺にとは。如何様
﹁ちょいと所用で⋮ね﹂
ケフン⋮すまん。思考がそれた。
あー、でも持ってるの刀だし無理があるか。
ってか握手、いや、狙い撃つぜって言ってほしい。
普通ならイケメン爆発しろと言いたいとこだがあんたは許す。
!!
女性が嫉妬するのではという程の艶を見せる長髪をポニテにして
ンが居た。
その方向を見ると、かなり長い日本刀を持った青い着物姿のイケメ
上方から声を掛けられる。
?
と大体2M位
︶もある刀。
俺のコクイントウと同じ位あるかね
それを正眼に構え、いつでも斬り掛かる準備は万端と言ったところ
か。
用件を聞くと言いながらこの対応、どこぞの庭師かあんたは。
でもまぁそれも仕方ない。
この山門の守護を任されていて、本人も強者との戦いを求めてい
る。
そこへ飛び込んだのが怪しげな俺だ。
﹂
来い、コクイントウ・ホオヅキ﹂
﹁あんただって言ったらどうする
﹁ふむ⋮私に用か﹂
﹁そ、俺と一勝負やらねぇかい
こちらも長刀を出す。
?
もある。
まぁ概念は使いませんけどもね。
﹁娘よ。お前はサーヴァント⋮いや、何だ
﹂
ちなみに特殊効果としてダメージを与えた際のHP吸収なんての
ているのが見える。
そして、よく見れば刀身に霊魂のような物がうっすらまとわりつい
トが書かれている物騒な代物だ。
者が死の淵に立つと、覚醒し真の力を発揮するという﹄なんてテキス
﹃死者の国に渡る際の渡航証になるという、封印されし長剣。使用
ソード系Sランク☆11。
刀。
俺の背丈よりも大きく、ライトニングエスパーダよりもなお長い
?
小次郎と向かい合い、俺もコクイントウを同じように構える。
﹁くく、いいねぇ。痛いのは嫌いだけど、そういいうのは大好きだ﹂
﹁まぁどうでもよい。そのような事は所詮は些事にすぎん。構えよ﹂
種族的にはヒト属ビースト種ってところかな。
のがミソだね﹂
﹁サーヴァントはこの間やめたよ。今はただのヒトだ。人間ではない
?
366
?
?
それじゃぁまぁ││、
いただきます♪
367
﹄
﹃stage30:全部全てスリッとまるっとゴリッ
とお見通しだ
風呂場からそそくさと撤退した俺は、先程のことを改めて思い出し
少し考えに耽っていた。 まったくコウジュは⋮。
何故か彼女はことあるごとに俺を弄ろうとする。
たらしだとかむっつりだとか、不名誉なことを捨て台詞のように言
われたのは今日だけで何回有っただろうか。甚だ遺憾である。
イリヤと揃って天真爛漫で、何か悪巧みを思いついた時の表情なん
かを見ると本当の姉妹じゃないのかと思いたくなる。容姿も似てる
し。
でもあれでサーヴァントとその主なんだもんなぁ。
そういえば、サーヴァントを召還する際は何かしらの接点が無いと
召喚できないそうだけど、異世界の英雄だっていうコウジュをイリヤ
はどうやって召還したんだろうか
⋮分からん。
これもまた考えても仕方ないことか。
接点⋮、容姿とか性格
?
﹂
とりあえず、なんとか俺の扱いを改めてもらえないだろうか
⋮⋮無理だろうなぁ。
﹂
聞いてるの
ご、ごめん
﹁ちょっと士郎
﹁うお
!!?
?
?
いた。
﹁まったくもう⋮。もう一度言うけど、投影魔術というのは実在する
美術品とか名剣とかを自身の魔力でイメージとして再現するの。け
368
!
今は遠坂に教えてもらってるっていうのに、考え事をしてしまって
!
!!
やってしまった⋮。
?!
ど、人間のイメージなんて所詮は穴だらけだから本物通りになんて複
製できない半端な魔術なのよ。しかも魔力の消費だけは大きいの﹂
改めて思考を遠坂の話へと傾ける。
そうして思い出すのはコウジュとの一戦だ。
あの時も、確かに魔力がごっそりと持って行かれた上、最初は容易
く壊れてたっけ。
﹁エクスカリバーなんていう聖剣のカテゴリーの中で頂点を投影しよ
うものなら、魔力が足りないどころか投影しきる前に回路や脳が焼き
切れて死んでもおかしくない。つまり、士郎のキャパシティーを軽く
超えているはずなの﹂
﹁けど、俺は一瞬とはいえ成功してた⋮﹂
正確にはエクスカリバーではないそうだが、それでも高ランクなの
は変わりない。
﹁そう、そこがおかしいの。バーサーカー⋮、コウジュが回復してし
うしてセイバーを召還することが出来たのだろうか
﹁けど、コウジュはどんどん使えって⋮﹂
もの、分かってないだけで代償が無いとも限らない﹂
影魔術の多様はしないようにしなさい。あれだけの事が出来るんだ
﹁今の時点では何も分からない⋮か。とりあえず言っておくけど、投
熟考する俺に、遠坂は溜息を一つ。
無いだろう。
つまりは何かしらの繋がりは在る筈。さすがに偶々ということは
喚する際の媒介は見つけられなかった。
召喚陣は予めあの土蔵に書かれていたみたいなんだが、どこにも召
?
369
まったから本当の所は分からないけど、でも、1度は既に成功してい
るわ。
ひょっとして、士郎にはアーサー王に対する並々ならない繋がり、
俺とセイバーの⋮⋮
縁があるのかしら⋮⋮﹂
縁か繋がり
?
先程はコウジュとイリヤの事を考えたが、改めて言われれば俺はど
俺が思いつく中には無いな。
?
﹁あの子が
⋮⋮一体、あの子は何か知ってるのかしら
いえ、い
?
﹂
?
﹂
?
みたいのとか、魔術を使った効果を見たりと
?
えっと、真りょk﹁うわっ
る黄金の剣の絵。
﹁何なの
読んだらダメだってば
﹂
!!
らしい。
われたが、今回は読むべき時に読めと言われた。一回きりの使い捨て
前に俺を助けてくれた︵らしい︶カードをもらった時は読むなと言
横から覗き込む遠坂から思わずカードを守るように抱き込む。
!!
バーが持つのとは違い、あまり剣らしくない形をした儀式剣を思わせ
書かれているのは、真力﹃エクスキャリバー﹄という文字と、セイ
言って渡されたものだ。
絵柄は違うが、絶対に倒したい敵が現れた時に助けてくれるって
前ももらったカード。
か、あ、そういやこんなのもらった﹂
﹁宝具を使った実験
﹁ふ∼ん。で、どんなことしたの
﹁ああ。中々に充実した一日だったよ﹂
﹁ねぇ、士郎。昼間はコウジュも一緒に訓練したのよね
楽観的かもしれないが最悪な事態にはならないだろう。
しんでいる節がある、とか⋮。
セイバーも言っていたが、殺す能力なら十分に持っているがただ楽
さておき、どっちにしても俺も大丈夫だとは思っている。
ないでください。
遠坂がそれを言うのか││いえ、何でもないですはい。なので睨ま
案外うっかりみたいだし、何というか大丈夫な気がするわ﹂
﹁ま、いいわ。ひとまずはこちら側に不利になる事はしなさそうだし、
か⋮
昼間に見せてもらった宝具たちだけで世界征服できるんじゃない
今の俺の中でのイメージは何でもできる、だ。
た、たしかに⋮。
まさら何を知っていても驚かないけど⋮﹂
?
わ、分かったわよ⋮﹂ ?
370
?
それからもう1つ言われたのが、これはあくまで最終手段で、自分
の力が足りないって思った時に、これともう一本剣があると真価を発
揮するらしい⋮。
よくわからなかったんだが、
﹃その時になったらわかる⋮はず⋮﹄と
言われた。
⋮⋮とりあえず持ち歩くように位はしておこう。
﹂
斬れな
﹁あ、ねぇ士郎。今更なんだけどあんたってエクスカリバーがどうい
うものか知ってる
﹁エクスカリバーって言ったら、アーサー王の代名詞だろ
いものはなく、刃こぼれもしない名剣だって⋮﹂
﹁まぁそんなとこだと思ったわ。あのね、本当に重要なのは剣ではな
そういえばコウジュも鞘がどうとか言ってたような⋮。
く、鞘の方なのよ﹂
鞘
気のせいか
不死身なのよ﹂
それはすごいな⋮。
﹂
セイバーの剣技に宝具、そこに不死身の力があれば向かう所敵なし
じゃないか。
⋮⋮あれ
﹁なぁ、ならどうしてアーサー王は死んだんだ
だ⋮﹂
うっかりか⋮。
うん、でも慣れてきた。
﹂
?
鞘もあったら無敵だなーって思っただけじゃ
﹁なら意味無いじゃないか⋮。どうしてそんなこと気にしたんだ
﹁う、うるさいわね
!
ない私だってたまには間違える事あるわよ⋮﹂
﹁たまにか
﹂
﹁っ⋮⋮、そうだった⋮。伝説じゃ、エクスカリバーの鞘は盗まれたん
?
?
?
371
?
?
﹁鞘を身につけている限りアーサー王は血を流すことはない。つまり
?
?
﹁なによっ
◆◆◆
﹂
﹂
﹁どうした娘。その程度か
﹁こんの
?
⋮⋮。
はぁ
﹂
こんちくしょー
そんでもって動きにくい
そしていつの間にか斬りあってます。
力任せが通じない
ってか、そんなことより
流される
とりゃ
何で階段であんなに優雅に動けんだよ
せいっ
!!
恐らく向こうは本気じゃない。遊ばれているんだろう。
受けていないがそれだけだ。
致命傷は受けていない。
こちらが剛に対し向こうは柔。不利過ぎる。
力は刀で受け流しその隙に太刀を入れるといった戦い方だ。
西洋式の叩き割る様に大剣を振るっているのに対し、向こうは余分な
そもそも、俺も小次郎も持っているのは似たような長刀だが、俺は
というか相性が悪すぎる。
だけどそんなものは容易く避けられる。
!!
!!
気分はマーべラ〇コンビネーション。
!!
!!
名前知られてもどうってことないと付け加えた上で名乗り返して
名乗られて、名乗り返そうとしたら拒否られて、でも、コウジュの
はい、現在戦闘中です。
﹂
そう言いながら顔を逸らすことしか俺には出来なかった。
何でも無いです⋮。
?
!
!!
!
﹁ふっ
!!
372
!!
斬り下ろしからの流れの四連撃。
!
﹁そら、どうした
﹁ちっ﹂
﹂
﹂
なら何とか一発あてりゃぁこっちの勝ちだ
た。
あんた侍だろう
軽業師みたいに避けないでくれますかねぇ
対する俺は階段なんてスペースに余裕のない場所で無茶な動きを
!?
そう言葉では感嘆の声を上げながらも、軽々と飛び上り避けられ
﹁ほう﹂
てそのまま前転する要領で手を地につけ足払いを仕掛ける。
俺は柄から手を離し、突き込むために乗り出していた勢いを利用し
後ろへと下げている。
突き込んだ柄頭は、避けられはしたが小次郎は避けるために重心を
!!
か。そして技量も当然上だ。だが逆に紙装甲だったはず⋮。
確かステータスで言えばアサシン︵小次郎︶の方が敏捷は上だった
しかしそれも横にずれることで避けられる。
だからそのまま俺は一歩踏み込み、柄頭ごと突き込む。
俺の剣を反らすために小次郎もまた剣先を上に向けている。
が、それは想定済みだ。
避ける。
それを小次郎は冷静に、剣先でコクイントウを微妙に反らすことで
今度はこちらから力任せの斬り上げ。
﹁ふむ﹂
﹁っるぁ
なら既にそれごと俺は斬られているだろうな。
しかし、武器の強度に頼っているから防げているだけで、普通の刀
それをまた、コクイントウを盾にして防ぐ。
れる物干し竿。
その程度は分かっているのだろう。すぐさま次の場所へと振るわ
それをコクイントウを盾にすることで防ぐ。
首を狙った小次郎の一閃。
!
!?
373
!!
したから体勢を崩し、ゴロゴロと数段階段を転げ落ちる。
だがすぐさま手で無理矢理回転を止め、腕をバネにして飛び起き
る。
プニプニの身体になったとはいえサーヴァントでもあるこの身体
だから普通よりは少なくなっている痛みを堪え、体勢を立て直す。
勿論泣いてない。泣いて無いッたら泣いてない。
﹁やっぱり、技じゃ到底追いつけないな﹂
﹁いやいや、それなりに胆は冷えた﹂
﹁笑みを絶やさずによく言うよ﹂
﹁なに、ただ楽しくてな﹂
そんな会話をしながら、手放していたコクイントウを一度消し、そ
して呼び出すことで手元に戻す。
あきらめるか
﹂
﹁このままじゃ、やっぱ勝てないか。侍に刀で勝負を挑むのはやっぱ
割に合わねぇや﹂
﹁なればどうする
﹂
当てるために必要なのは技量か速度。
ら引いてみろじゃないけど、技量でダメならスピードで勝負だ。
︵火力的意味で︶、このチートボディの身体能力を信じて押してダメな
さーて、常に思い浮かべるのは最強の自分⋮はちょっと危ないので
だからまぁ、今度は自分自身の戦い方をさせて貰おう。
それに、このままじゃアレを使ってもらえなさそうだ。
んだがこれ以上は命にかかわりそうだ。生き返るけど。
態々相手の土俵で戦いを挑んだのは、見て、そして味わう為だった
リッキーな動きで翻弄しながらの攻撃が現状では一番合っている。
他の武器に関してもそうだが、筋力と動体視力に物を言わせてト
い。
そもそも刀を握ってはいても俺は結局刀を扱うことはできていな
通らせてもらうぜ
﹁何を言うやらうさぎさん。そんなわけないじゃんよ。予定通り押し
?
だが技量は経験が物を言うものだ。今の俺では瞬時に得ることな
どできない。
374
?
?
だから速度で以てあなたを打倒させてもらうよ。
フ
ト
それでもダメなら重力
見本はあの校庭で見たランサーのしなやかな、そしてどこか獣を思
わせる動き、速度。
ハー ド
この身はビースト。
ソ
身体のスペックも十分。
﹂
なら後は思い込みの問題だ。
﹁ふい⋮⋮。さて、行くよ
﹂
﹁空気が変わったな。面白い﹂
﹁っ
階段がダメなら、周りを囲む木々を使う
など無視すればいい
!
?
?
﹂
﹁ほう、速いな。だが⋮その程度か
﹂
自分は獣
﹁っく。ま、まだまだ
自分は獣
﹁これならどうだ
!!
﹂
とにかく、俺は跳んで跳んでトンデ│││。
飛ぶ。
それを足場にするため一瞬だけ足元に作り出し、それを足場にまた
魔力を収束させる術はいくつか身に着けた。
動く技術。
某セクハラ魔法教師物語に出てきた、文字通り虚空を使って瞬時に
虚空瞬動。
それを元に自身のイメージを強める。
双小剣のスキル﹃レンガチュウジンショウ﹄とか顕著だ。
踏んで何度も斬りかかるような技もある。
ゲームスキルの中には明らかに重力を無視した、空中でステップを
!!
!!
自分は獣だ
!!
メージが通り始めているのが手の感触で分かる。
正直自分もこのスピードに振り回されてる感はあるが、少しづつダ
跳ぶ││いや、跳ねるように四方八方から小次郎に斬りかかる。
!!
!
375
!!!!
⋮面白い
︵﹁`・ω・︶﹁ガオー
﹁これほどとは⋮っ
⋮
!!!
﹂
でもなんで⋮
いや、そんなことより今こそ大ダメージを
受け流すのをやめて避けに徹してる
!
だが││、
﹂
﹁秘剣⋮燕返しっ
﹁っ
﹂
・・・
予想外のタイミング
﹂
くそっ、回避
なら大人しくこれを受けるとするか
﹁ぐうぅぅっ
そして地面にぶつかり、止まる。
⋮は無理
!!
と言わんばかりに斬りつけら
!
!!!
血を流しながら後ろに吹き飛ぶ俺。
!!
﹁本来であるなら泣き別れる筈であったが⋮、まだ生きているとはな﹂
している。
後方へ跳んだ御陰でまた階段をごろごろと落ちて軽く脳震盪を起こ
とはいえ何とか生きているだけで両腕の感覚は無いし、思いっきり
おかげで何とか生きている。
恐らく俺の時も、階段という場所と溜めが少なかったのだろう。
けか。
確か原作でも階段である故に小次郎の踏み込みが足りないんだっ
ガード。同時に後ろへと飛んだ。
首を獲る一閃上にコクイントウを放り投げて全身は腕を交叉して
流石にすべてを受けることは出来ないから、致命傷を避けるために
れたが、この身体自身の防御力のおかげかまだ体は五体満足だ。
オートガード何それ美味しいの
!!
!?
そう思い、俺は木を蹴りつけ大きく斬りかかるために飛びかかる。
?
!!
?
376
!!
?
?
!!?
﹁んぐっ
この程度で、驚かれても⋮困るぜ
メイト﹄⋮﹂
てるんですが
﹂
﹁⋮⋮喧嘩を売ってきたのはそちらであろう
道具﹃完全回復トリ
少しは楽しめたが、まだ発展途上
?
奴らは素早い。燕は大気の流れを感じ取り飛ぶ方向を変える。なら
﹁最初はただ、空を自由に飛ぶ燕を斬るだけのつもりであった。だが、
言いながら、再びコクイントウを先程の要領で手元へと戻す。
﹁秘剣燕返し、すごい技だね﹂
だから、押しとおる。
あと一つはまだ先だ。
一つは集まった。
ここでの目標は二つ。
その為には集めないといけないものがある。
俺には目標がある。
だがしかし、そうは問屋が下ろさんのですよ。
びりとしたいよ。
正直な話、今すぐ帰って炬燵にでも潜ってみかんを食べながらのん
来るならば斬り伏せるのみよ﹂
といったところ。その回復力に驚きはするが、⋮正直どうでも良い。
﹁それで、まだ通る気はあるのか
なんかジト目で見られている気がするが気のせいだろう。
﹁⋮⋮そうでした⋮ごめんなさい﹂
﹂
だぜ。現在進行形で幻肢痛みたいな感じに斬られた所がずきずきし
﹁いよっと、まったくもって痛いったらありゃしねぇ。正直泣きそう
やがて光が消え去り、俺の身体は一気に元の状態まで回復する。
ながら回復する。
のためカード化してあったから宣言すれば発動し、身体を光がつつみ
本来ならボトル状になっている中身を飲まなければならないが、念
を口で取りだしそのまま宣言する。
揺れる頭に喝を入れながら、念のために胸元に仕込んでいたカード
?
?
?
ば逃げ道を囲えば良い。壱の太刀で燕を襲い、避ける燕を弐の太刀で
377
!
囲う。そして最後の一閃で斬り裂く。そうすることでやっと斬る事
が出来る﹂
﹁えらく簡単に言ってくれるけどさ、そんな簡単なものじゃなかろう
に。あんたが言ったようにするだけなら、さっきのスピードが出てた
俺ならここまでダメージは受けないって。その技の真髄は速さを通
り越して、3つの太刀筋が同時にその場にある事﹂
﹁ほう、そこまで見られていたか﹂
ごめんなさい正直言うと、しっかり見えたわけじゃ無くぼんやりと
程度です。原作知識が無かったらわからなんだ。
確か⋮。
﹁多重次元屈折現象、またはキシュア・ゼルレッチだったな。さっすが
は佐々木小次郎。そこに痺れる憧れるってね⋮﹂
コクイントウを顔の高さまで持ってきて、小次郎に背を向ける形で
構える。
﹂
!!
378
俺がしているのは、先程小次郎がした燕返しの構えだ。
そう、ラーニング。
それを使って俺はあの技を覚えた。
﹁けど、残念ながらごちになります﹂
その瞬間辺りの気温が下がったかのように寒く感じる。
小次郎の殺気が俺に刺さる。
﹂
だが、伊達や酔狂でそんなことをしてるわけじゃねぇ。
﹁娘⋮何のつもりだ⋮
﹂
らへと鋭い視線を向けた。
それに何かを感じたのか、小次郎は笑みを浮かべた後に改めてこち
俺は当然と言ったように返す。
﹁秘剣燕返しをやるつもり﹂
?
﹁そうか⋮⋮、ならばっ
!!
小次郎もまた燕返しの構えを取る。
﹂
﹁やってみるがいい
﹁あぁ
!!
﹂
﹂
踏み出すのは同時、向かい合い正反対の軌道を描きながらも同じよ
燕返し
うに振るわれていく刃。
﹁秘剣
﹁どうだ
﹂
だから、本能のままに叩き込む。
もない。
繰り返して取っ掛かりを掴めば話は別だが、一回目ではどうしよう
1度受ければ覚えられるが、理解はできてない。
ラーニングっていう能力は便利だけど不便だ。
そして三の太刀で左右への離脱を阻む払いを│││。
き│││。
二の太刀は一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡を描
一の太刀で頭上から股下までを断つ縦軸に│││。
﹁ひけん、つばめがえしっ
!!
しそれだけでは、勝てぬぞ
﹂
﹁⋮まさしく、燕返し。よもや、そこまで完全に使われるとはな。しか
できた。俺にもできたっ。
たが、確かに軌道は3つあった。
ふむ、互いに3つとなった刃が同時に衝突したために一つに聞こえ
そして、互いに弾かれた俺たちはその勢いのままに距離を取った。
甲高い音が一つ、辺りへと響く。
!!
つまり応用が利かない。
ま覚える。
ラーニングのデメリット、覚えたものは覚えた時点のものをそのま
ねぇ⋮﹂
﹁ま、そうですよねー。まったく同じ技じゃ、勝てるわけないですよ
ルでしかない。
小次郎の言う通り、現状では出来たからなんだというのかってレベ
嬉しくて舞い上がっていた心が急降下する。
そのとーり、ザッツライ⋮。
?
379
!!
!
本家本元の小次郎ならば、ある程度違う軌道を描きながらも燕返し
を打てるのだろう。そして俺が放つのは小次郎の知っている軌道で
しかない。
けどまぁ膠着状態、かな
女性がそこに居た。
あんたはスキマ妖怪か
﹁こちらまで出向くとは珍しいな、キャスター﹂
小次郎が訝しみながら声を掛ける。
その声に振り向くことなく、キャスターは答える。
﹁その子に興味があってね﹂
はて
ま、まさか⋮。
興味とな
の危機
今失礼なこと考えなかったかしら
すかさず俺は後ろへと後退していく。
﹁こらそこ
﹂
!!?
貞操
中から黒と紫で構成されたローブで顔の下半分以外すべてを隠した
念のため周囲を警戒していると、小次郎と俺が居る間の空間歪み、
虚空から、突然女性の声が響いた。
﹁そろそろ良いかしら
﹂
ここいらで次の段階に入りたいんだが││、
さて、どうするべきか⋮。
やっぱり経験不足が俺には痛い。
の餌食になることが分かった。
とは言え小次郎の恐るべき技量の前では、ただ速いだけでは燕返し
かさっきから力があふれるんだよな。
対する俺は回復したおかげでまだまだいける。それどころか、何故
今ので小次郎にも相応のダメージを与えることはできた。
?
いやいやそんなことより、これはいいタイミング。
!!
380
?
?
確かキャスターは少女趣味⋮だったはず。俺狙われてる
はっ
?
!!
!?
!!
!!?
﹂
キャスターが突っ込みを入れてくる。
﹁さらっと心を読むな
心を読むとは⋮、スキマ妖怪ではなくさとりんだったか。
しかもナイスなタイミングとツッコミ⋮。
さすがは古き魔女。
っと、これは禁句なんだっけか。
﹁さておき、そっちから出向いてくれるとはね。正直手間が省けた﹂
﹁それはよかった。お客様ですから、しっかりと御持て成しをしよう
と思ってきたのよ。元バーサーカー﹂
﹁あらら、やっぱり見てたんだ﹂
﹁ほう、お前が今回のバーサーカーであったのか﹂
﹂
﹁そういや、さっきは言わなかったね。改めまして、元バーサーカーの
コウジュだ。取引をしに来た﹂
・
・
・
﹁それで、あなたは何の取引を
スキル陣地構築で作られたものだろう︶に招かれた。
小次郎はというと、その後ろで寡黙に立っている。
よし、何パターンか考えた内で一番良い邂逅だ。
これなら目的が達成できる。
一先ずは、こちから取引材料を出そうか。
﹂
﹂
今はさっきの階段ではなく、神殿︵おそらくこれが、キャスターの
?
﹁聖杯戦争からの解放、そして新たな人生に興味はないか
﹁
?
興味を持ってるわけじゃない事は知ってるんだ。簡単にあんたの願
いを言うと│││﹂
381
!!
﹁とある方法で︵まぁ原作知識からだが︶あんたが別に聖杯そのものに
!!?
俺が溜める言葉に、キャスターがこちらへと視線を鋭くする。
何を言われるのかと警戒しているのだろう。
だがキャスターよ。
俺に関わったのが運の尽きだ。
こっからは俺のターン
﹂
って、そ、そそ、それが願いなわけないでしょ
﹁ぶっちゃけ葛木宗一郎と平和にいちゃいちゃすることだろ
﹁ぶっちゃけすぎよ
﹂
?
!!!
小次郎のクールなツッコミ。
違うって言ってるでしょ
!!
新しいジャンルだな、おい。
﹁だ、だから
﹂
﹁キャスターよ、それだけ動揺しては答えを言っているようなものだ﹂
!!
何この可愛い生き物⋮。
サーヴァントってこんな萌えキャラばっかだったっけ
どうしてこうなった⋮︵目反らし
﹁はいはい、でもいいのかにゃあ∼
の甘∼い、甘∼∼いめくるめくラブラブ生活が待ってるんだぜ
﹁ら、ラブラブ生活⋮⋮﹂
俺はキャスターに近づき、耳元で囁く。
﹂
認めてしまえば葛木宗一郎と
チャーもあんなのになったし、キャスターはこうか。
ラ イ ダ ー は あ れ に な っ た し、セ イ バ ー も 素 だ と あ れ だ し、ア ー
?
る︶、手をワタワタ振り回しながら否定してくるキャスター。
顔を真っ赤にしながら︵フードから覗いてる部分だけで十分に分か
!!
か
というか、今の俺はかなりあくどい笑い方をしてるんじゃなかろう
のが幻視できてしまう。
キャスターの後ろでよくある効果の様に雷がピシャーンってなる
?
?
382
!!?
まぁでも、キャスターの後ろで小次郎が笑いをこらえようとして結
?
局吹き出しているくらいだし、良いよね
して。キャー﹂
﹁ちゅ、チュー⋮ せ、接吻のことよね⋮
﹂
私が⋮、宗一郎様と⋮
に新婚生活。行ってきますのチューとかしちゃったりなんかしたり
﹁そう⋮ラブラブ生活。朝起こしに行ったり、手料理を振舞ったり、正
?
?
聖杯からの解放だけじゃなく、受肉も出来る事も分かってるんだろ
ほらほらさあさあ。楽に
?
まーい生活が待ってるぜぃ
キャスターまじちょろ。
聞こえなかったよ
﹁⋮⋮⋮です﹂
﹁何
﹂
﹂
これはもう勝ち確定ですわ。
俺の言葉に覚悟を決めたのか、力を抜くキャスター。
俺は最後に、一気に畳みかけた。
?
?
何か文句あるかしら
を喜ぶ。
対価は
﹂
﹂
勝ったよイリヤ。この戦い、我々の勝利だ
﹁それで
?
見ながら聞いてくる。
何だか吹っ切れた感があるキャスターは頬を染め、明後日の方向を
?
!!
自分で煽っておきながら、最後の剣幕に内心ビビりながら勝った事
﹁ふ、ふふん、やっと素直になったか﹂
!!?
!!!
なっちまえって。ちょっと頷くだけで、そこにはふたっりきりのあ
イチャイチャラブラブしたいんだろ
?
﹁ほら、楽になっちまえよ。認めてしまえって。俺の事見てたんなら、
ター。
どこぞの軍師のようにあわわはわわと言いながら悩んでるキャス
﹁あ、あんなことやこんなこ⋮と⋮⋮﹂
﹁そ∼んでもって、あ∼んなことやこ∼んなことが⋮⋮﹂
ごくりと、キャスターが唾を飲む。
?
﹁イチャイチャラブラブの新婚生活がしたいですって言ったのよ
?
383
?
原因は俺とはいえ、もう何も言うまい。
﹁そんな難しいこっちゃないよ。ちょっと俺の手伝いをしてもらうの
﹂
と、お芝居をしてもらおうかと思ってね﹂
﹁内容を言いなさい
たいんだ﹂
﹁姉妹⋮﹂
﹁あんたが知ってる事を俺は知ってるんだぜ
﹂
?
﹁褒めてないわよ
まあいいわ。ひとまず契約成立ってことね﹂
﹁いや、それほどでも⋮﹂
報能力﹂
﹁⋮ええそうよ知ってるわ。まったく、反則の塊よ。あなたのその情
付けてただろ
聖杯の器として目星
救うための手伝いと演技。ついでにとある少年のレベルアップをし
﹁話せば長くなるんで簡単に言うけど、とある姉妹を腐った虫爺から
?
な感覚
いや実際先生だっけか。
うか、何もしてないのに生活指導の先生に呼ばれて眼の前にしたよう
し、しかも寡黙だけど静かなオーラを感じて圧迫感がある。なんてい
どんなボケをかましても無反応に﹃そうか⋮﹄で済まされてしまう
何て言えばいいのかね⋮⋮。
あの人。
途中で葛木氏も来ての話し合いになったんだが、怖い。マジ怖いよ
達に情報提供と言う名の意識誘導をしてくれるはずだ。
実はイリヤにも芝居の事は前もって話してあるので、時を見て士郎
願いした。
そのあと、キャスターに原作通りのことを芝居してもらうことをお
!
うーん、デカい壁の前に立っているような感じ
384
?
あーもう良く分からん。
?
?
とにかく、キャスター勢は揃ったんでスケープドールカード︵ちゃ
んと何も弄ってないやつ︶を渡しといた。
あ、小次郎は拒否られたよ。
刹那を楽しむのに無用の長物だとかなんとか。
あんたは蓮たんか
ま、まぁ、俺としてはそれが佐々木小次郎としての幸せなら何も言
うまい。
そんなわけで、俺の今日の目的は終了ってことで、帰って寝るとし
!
よう。
続きはまた明日ってことで
385
!
﹃stage31:厨二病は不治の病﹄
︶してみることにした。
やーやー皆さんごきげんうるわしゅー。
突然だが、今日はちょっと修行︵実験
の監督頼んで速攻出てきたのです。
ル
ブ
レ
イ
カー
を強奪⋮⋮ゲフンゲフン⋮、コピーしようかと思っていた。
ら、アーチャーの無限の剣製を得たうえで、最悪はルールブレイカー
中でもルールブレイカーは桜ちゃんを助けた後でも必要になるか
〟、そして小次郎の〝秘剣燕返し〟の三つ。
キシュア・ゼルレッチ
必 要 だ と 考 え た の が 〝 破戒すべき全ての符 〟 と 〝 キ ャ ス タ ー の 技 術
ルー
ぶっちゃけた話、ライダーとの契約でもある桜ちゃんを助ける為に
最悪の状況とは、キャスターの助力を得られない場合だ。
といけないことが減っていたりはする。
ただ、想定していた最悪の状況よりも良い流れである為、やらない
アップさせる必要があるのだ。厳密には使い慣れる、かな。
というのも、これからの作戦ではどうしても俺自身の能力をランク
さておき、実験だ。
いと⋮。
さむさんって人達とオフ会がどうのと言ってたし、ほんと何とかしな
この間はチャット仲間らしいメイさん、ふじのんさん、あとぶろっ
けどね。
らいだーとか引きこもり化してきてるから何とかしないとなんだ
も。2人の出番はまだないけどさ。
アチャ夫さんとライダー︵むしろ〝らいだー〟︶にも勿論話したと
一応イリヤには昨日の事は話してある。元々計画の一部だしね。
投影の鍛練ってか鍛錬
昨日衛宮家に帰って次の日、イリヤに回復アイテム渡して、士郎の
そのために、キャスターから神殿を借りた。
前々からやってみようと思ってたやつだな。
?
しかしながら、予想外にキャスターとの交渉がうまくいったので無
386
?
限の剣製を使ってルールブレイカーを手に入れる必要がなくなった。
追加の交渉材料も用意してたんだけど、まぁ安くついたのならいいよ
キシュア・ゼルレッチ
ね。同時に無限の剣製がいらない子になったけど、ふむ、何か考える
かな。
まぁそんなわけで、一先ずは秘剣燕返しを扱えるようになるのが目
標だ。
キシュア・ゼルレッチ
ではでは早速いってみよう。
実験1:秘剣燕返しを応用する。
これは単純に、他武器に対してやや早さに劣る大剣を態々使わなく
ても良い様にするためだ。
大剣はどうしても、威力はあるんだけど隙が大きい。
あと大きい分、範囲が広いためフレンドリーファイアの可能性が高
387
い。
バーサーカーだけど味方攻撃しちゃダメだと思うの。イリヤに怒
られるし。
だから、扱いやすい武器でキシュア・ゼルレッチを使っちゃおうっ
て思う訳ですよ。
﹁来い、ネギセイバー﹂
まず呼び出したのは、片手剣のミクのネギセイバー。
高位ランク武器を出してもよかったんだけど、失敗した時に周りの
﹂
被害を考えてとりあえずネギにしてみた。なんだかんだで使いなれ
てるしね。
﹁ふぅー⋮、せぇのっ
けど、昨日の小次郎みたいに構える時間を待ってくれる相手なんて
小次郎からラーニングした燕返しは問題なく使用できる。
﹁うし、これはいけるな﹂
結果、生み出されるのは三閃の軌道を描く斬撃。
そして昨日の一戦を思い出しながらネギを振るった。
気合を入れ、構える。
!
そうそう居る訳無いし、このままじゃ剣の技でしかないから、ここか
らが本番。
﹂
ネギを持つ手はだらんと下げ、とある技を思い浮かべる。
﹁っ
大きく三連撃。身体を回しての横薙ぎ。そして決め手に、ネギを両
手で持って袈裟掛け、斬り下ろし、逆袈裟に高速の三連撃。
片手剣︵セイバー︶系PA、インフィニットストーム。
本来ならば2回目の三連撃前に、左手に保持する武器︵もしくは盾︶
を放り投げてから両手持ちをするんだが、普通に戦闘するなら邪魔な
ので省いてみた。
ゲームの中と違ってその程度の変更は出来るようだな。
PAの動きを再現する時は自然に身体がそうすべきだと教えてく
れるのだが、ちゃんとPAと認識してくれたのか一安心だ。
さておき今度はこの、それぞれの三連撃を燕返しと同じように同時
に出るようにできるかが最初の実験。
再びネギを構える。
燕返しの感覚を反芻し、同時にインフィニットストームの感覚を思
い出す。
思い浮かべるのは超高速の連撃だ。
﹂
そして早く、何より早く││
﹁っるぁ
三連撃、横薙ぎ後すぐに、決め手の三連撃。
時を置き去りにするほどの超高速に至る様に叩き込む
思わず蓮たんの様に光となって破壊しちゃいそうな位に速さを求
が、何かが違うんだよなぁ。
ただただ速く、燕返しの様に一閃一閃の間がなくなる様に頑張った
そう、どこか違和感が付き纏う。
﹁⋮⋮なんか違う﹂
けど││、
つになる。
自身に出せる最速で振るい、その速さの所為で3度なる筈の音は一
!!
!!
388
!!
めたのに。
﹁って、あ⋮。これじゃダメだ﹂
そこではたと気付いてしまった。
しまった、根本的なところで間違ってしまっていた。
秘剣燕返しであるキシュア・ゼルレッチの本質は、平行世界から可
能性を持ち出すこと。
蓮たんだと時間止めるだけじゃないか。
あ、いや、〝だけ〟って言うにはチート具合がおかしいけどね。そ
れに止められたらそれはそれで嬉しいけど。
ともかく、いま大事なのは同じような存在を持ってきて重複させる
ことだ。
﹁ふむ⋮﹂
ぶらりと下げていたネギを先程と同じ軌道で振るう。
勿論意識するのは今考えたように〝重複〟だ。
389
そのうえで再びのインフィニットストーム。
ついつい某無限の空を掛けるハーレム小説を思い浮かべそうにな
るが、そんなものは思考の端にポイしてトライアゲイン。
﹁⋮って、ええんかい﹂
うん、できてしまった。どうやらこれで良いようだ。
﹁なんだろう、この釈然としない気持ち⋮﹂
今更だが、自分が渡された能力の制限がよくわからない。
自分で納得できたからってこう簡単に出来て良いのだろうか
現れたのはハンドガードが付いたダガーをそのまま大きくしたよ
手の中にズシリとした重みが生まれる。
﹁来い、サイカ・ヒョウリ﹂
を持つもの。
裏一体の運命をくつがえす程の力を持つ﹄とされる、チートテキスト
双小剣系、☆15、Sランク武器、
﹃過去と未来の過ちを支配し、表
ツインダガー
ネギを直し、次の実験に必要な武器を思い浮かべる。
き、気を取り直して次に行こうか⋮。
出来るようにならないと困るけど、なんだろう、もにょる⋮。
?
うな刃渡り1m以上はある対の剣。
﹁これで、お前を使えるよ。おまたせ⋮﹂
そう、話しかけるように口にする。
すると同時、鍔の辺りにあるフォトンラインが少し輝いたように見
えた。
剣に意志があるかはさておき、思わず笑みが漏れてしまう。
つい今さっき自身の能力について訳が分からないと零したくせに、
なんだかんだで慣れてしまったものだな。
﹁さて、頑張ろうか。〝運命〟を変えるお前には大分頑張ってもらわ
なきゃいけないからな﹂
・
・
390
・
めっさ疲れた。めがっさ疲れちまったよ。
今は地面に座り休憩なうです。
いやまぁ調子に乗って色々した俺が悪いんだけどもね。
こ
魔力やらなんやらは無限に有ったとしてもそれを操る俺の精神が
疲れるのはどうしようもない。
けど疲れただけの成果はあった。
むしろ疲れるだけで済んでることをありがたがるべきかね
締めに必要なのだ。
この組み合わせこそが、俺がイリヤに内緒でやろうとしてる最後の
レッチ。
運命を覆すサイカ・ヒョウリ。ifを手繰り寄せるキシュア・ゼル
それでも、これで光明が見えた。 厳密には準備が整っただけではあるけどね。
でもまぁ、これで救う手立てがそろったわけだ。
の世界の魔術師達が聞けば卒倒するようなことをしてるわけだし。
?
ファンブル
それにこれさえあれば、もしも失 敗しても大丈夫だ。
ってそうじゃない。ゲーム脳やめい自分。
いや待てよ、悪くはないか。
上手くいけば〝幻想舞踏〟が出来る訳だし、もっと高度な、例えば
⋮〝陀羅尼摩利支天〟とか使えたり⋮⋮。
﹁物は試しか﹂
実験2:運命操作︵幻想舞踏︶
先程までの疲れはどこへやら、好きな技を再現できるかもしれない
と思ってしまえば行動に移さざるを得なかった。
まだまだ俄かではあるだろうが、それでもオタク道をそこそこ歩ん
だのだ。
ここでテンション上がらなくて何がオタクだというのだろうか。
クリティカル
391
俺は立ち上がり、再び開けたな所まで来る。
﹂
そして再びサイカ・ヒョウリを呼び出し、両手に持つ。
﹁よしやるか
ファンブル
さぁ夢の幻想舞踏だ
﹁⋮⋮﹂
!
しまうが、今は関係ないのでこれも思考の片隅にポイする。
運命を操ると言うとどこぞの吸血鬼なおぜうさまを思い浮かべて
それを思い浮かべ、それを再現するために運命を操作をする。
いたのを覚えている。
アニメ版ではあかりんがそれを使ってスタイリッシュ回避をして
トな技だ。
効果は失 敗を強制的に成 功にする、回数制限はあるがかなりチー
つだ。
これは某夜闇の魔法使いに出てくる強化人間が使えるスキルの一
まずは幻想舞踏かな。
気合十分に叫ぶ。
!!
これ、カウンター技やん。
思わず、orzな姿勢で項垂れてしまった。
活き込んだのは良いが、攻撃を受けてからじゃないと意味が無い技
だった。
かと言って俺はMじゃないから、自分から攻撃されに行くような趣
味もないのでこのアイデアはお蔵入りかな。
実験3:運命操作︵陀羅尼摩利支天︶
では、もう一個の方の〝陀羅尼摩利支天〟はどうだろうか
こちらは﹃神咒神威神楽﹄という18禁PCゲーでありながら燃え
ゲーという厨二心くすぐるゲームに出てくるヒロインの一人のスキ
ルだ。
その効果はかなり汎用性が高く、平行世界の自分を手繰り寄せ、そ
の結果一度に複数の行動を起こすことが出来るという、解りやすく言
えばチートな分身技だ。
例えば、致命傷を負っても無傷の自分を手繰り寄せて回避したりも
できる。勿論逆に攻撃が当たる自分を持ってくることもできる。
まぁそれなりに欠点は確かにある。
﹂
392
?
でも俺はあのゲームをやっていて、この技が一番好きだった。
というわけで、再現だ
﹁活き込んだは良いけど、そもそも分身ってどうやるの
結果:今回もダメだったよ⋮。
実験4:螺旋丸+一方通行アクセラレータ。
?
!!
これはただ単に、やってみたいだけの技だね。
思い付き技が今の所駄目だったので、もうやけになって色々やるこ
とにしたのだ。 えーっと、確かチャクラを乱回転させてだったよな
することにする。
﹁魔力を手に集めて∼乱回転
り返す。
に内側に向けて圧縮していくのを忘れない。圧縮して圧縮してと繰
あ、ただ乱回転に風を加えても体積が増えちゃうだけなので、内側
すぐにはできなかったが、繰り返すうちに何とかわかり始めた。
イメージさせながら魔力の回転方向を変更する。
ながら手元にできた球体の回転を、今度は風を吸い込んでいくように
念のため風を操作するという概念を持つディスカサイクロン持ち
るだけだからもどきでしかないけど、どうなるのか興味があるのだ。
厳密には螺旋丸に属性を付けるのではなく物理的な風を起こして
ら行けそうだな﹂
﹁螺旋丸に属性をつけるのは超難しいって話だったけど、もどきだか
させるというアレだ。
それはアクセラレータが使っていた風を集めて圧縮しプラズマ化
右手に螺旋丸︵もどき︶を作ったまま、続きのイメージをする。
﹁おっと、ここで終了したらダメじゃん。えー、続いて⋮﹂
どこかの忍者たちがこれを知ったら涙もんだろうな。
これもオタクのなせる妄想力ゆえにか⋮。
ことでその形に寄せることが出来るのだから。
何せ俺の場合はそのものを操作するだけでなく、頭の中で想像する
乱回転のイメージも、思ったより難しくない。
来ちまったよ。
オドとかマナとか俺には関係ないから、とりあえず集めてみたら出
おお∼、成功成功。
﹂
とりあえずチャクラって言われてもよくわからんので魔力で代用
?
最初はゆっくり、そしてどんどん風の量を増やしていく。
393
!!
それをちょっとの間、いや、風王結界余裕で出来ちゃうんじゃない
かっていう位やっていると、螺旋丸︵もどき︶からバチッ、バチバチッ
と音がし始める。
﹁お、良い感じ良い感じ﹂
まだ終わらんよ
バチバチと、俺の手の中の螺旋丸がもう雷球になり始めた。
まだだ
あ、ちょ、これなに
あのあの、止まらないんすけど⋮。
﹁よ、よーし、とりあえずこの辺で止めてっと⋮⋮﹂
なんだか何もかもを吸い込んでいっちゃいそうな⋮。
ちょっと怖くなった⋮。
服やらをはためかせている。
途中から自重せずに風を送り込んだからか、取り込まれていく風が
し始めた。
となっていた音は今やバリバリガリガリと煩いほどの轟音を生み出
やがて、球体を直視できないほどの光と熱量を生み出し、バチバチ
つ、圧縮していく。
ぎゅんぎゅんぎゅんぎゅんと、更に風を加えて内側に乱回転させつ
!
あれー
なんかいやーな予感がするんすけど
どうしてこうなった⋮。
真っ黒になってしまっている。
光も吸い込んでるのか、光り輝いていた球体は今や何も見えない
るのかやけに静かになってきた。
さっきまでぎゅんぎゅん言ってたのに、まるで音まで吸っていって
?
螺旋丸がもうまるで掌大のブラックホールです。
俺の周りに発生している。
もう服がバタバタ言うレベルじゃなくてもう小型の台風位の風が
ているからか言うことを聞かない。
ディスカサイクロンで制御しようとしても、何故か出来ない。焦っ
なんでか、風が勝手に吸い込まれていく。
?
394
!
?
真っ黒な球体を見ながらそう独り言ちる。
そこでふと思いだす。
そういや⋮、さっき俺は何を想像した⋮
〝何もかもを吸い込んでいっちゃいそうな〟
〝まるで拳大のブラックホール〟
﹂
うん、とりあえず投げようか。
﹁ううぅりゃっ
?
?
カッ
これだけ遠くなら│││。
る。
キャスターには大分広くしてもらったので、キロ単位で遠くに投げ
いく黒い球体。
どういう物理法則が適応されているのか、ヒュゥンと遠くに飛んで
近くだと嫌な予感しかしないので出来るだけ遠くに投げる。
?
結果:神殿がある空間が消滅しちゃいました。
悪いキャスターやっちゃった︵笑︶
マギア・エレベア
あ、俺は寸前に神殿のある空間を脱出したので無事でした、まる。
実験5:闇の魔法+SLB
気を取り直して、次に行こう。
もう一度、キャスターに神殿を作ってもらう。
395
!!
とりあえず結果だけ言おうじゃないか。
!!!!!!
申し訳ないんで、俺の魔力を好きに使って良いって言ったら、また
作ってくれた。
なんか、さめざめと泣いてた気がするが、目にゴミでも入ったのか
な
そういえば、キャスターによると、限界まで結界を固くしたらしい。
内側で核が爆発しようが負けないって言ってた。
俺には分かんないや。
それを言う時は何でか泣きながら怒るように言ってたけど、なんだ
ろうね
できるかな
い。
な、無理だろ
︵涙目
いやだって、銃口までの距離と、幼女な俺の手の長さを考えてほし
だ。
今回アストラルライザーを使わないのは、〝掌握〟を出来ないから
す。
まずはネギウォンドを取り出し、SLBを生み出す感覚を思い出
いや疑問を持っちゃだめだ。俺はできる子。
?
たことないし、﹃幻想を現実にする程度の能力﹄で代用だな。
白い魔王の方は前にやった事あるから良いとして、闇の〇法はやっ
さておき、キャスターが頑張ってくれたわけだしやるか。
とりあえず良さ気なペアグッズとか送っておくか。
?
る。
やがて、杖の先に周囲の光を吸収しながら拡大していく光球が出来
そう、〝考える〟。
冷静に集中し、感覚を思い出すだけの作業だ。
一度やったことだ。
杖を掲げ、周囲の光を集める。
を思い出し、詠唱を始める。
自虐して無駄に自分の精神力を疲れさせてる場合じゃなかったの
﹁咎人達に、滅びの光を。星よ、集え。全てを撃ち抜く光となれ﹂
?
396
?
出来た。
少し光球が小さい気もするが、それはアストラルライザーを使って
無い所為だって考えてしまったからだろうか。
まぁでも出来たのだからそれでいい。
ふむ、先程の光球とは違い静かなものだ。
掌握
﹂
それをもう片方の手のところへ持っていく。
﹁術式固定
カッ
!
私を苛めたいの 過労死させたいの
ビックバンでも何でもこいや│だそうです。
﹃何なの
れましたが、そんなわけないじゃないですか。ねぇ
すもの。
大切な仲間で
さておき、その後も何回かやったら成功しました。
とりあえずは、だけどね。
ちなみに﹃星光魔王﹄って名付けたよ。
!?
?
?
名前の元ネタはお察しでお願いします。
﹄なんていわ
再び俺の魔力を使って、さらに強化して作ってもらった。
ちなみに、キャスターさんに怒られました。涙目で怒られました。
けじゃないし。
元ネタ主人公だって、某バグキャラだって最初から上手くいったわ
まぁそりゃそうだよね。
結果:神殿を巻き込んで自爆。
さて、また結果を言おう。
!
?
397
!!!!!!
まあ名付けたって言っても暫定なんだけどね。
そ の 内 何 か 良 い の が 思 い 浮 か ん だ ら 名 前 を 変 え よ う と 思 う。無
かったらそのまんまだけどね。
では皆さんお楽しみの効果です。
原作では薬味小僧が﹃闇の魔法﹄により﹃千の雷﹄を取り込み、身
体が雷化するという効果を得、雷であるために攻撃をほぼ無効、さら
に雷並みのスピードを得るという結果になっていたわけだ。
みたいなチート状態になっちゃう
しかし俺の場合﹃闇の〇法﹄でSLBを取り込んだ結果、なんと、常
時光粒子化に成功
つまりあれだ、俺がガンダ〇だ
わけだ。
攻撃何それ美味しいの
しかもだ。
身体は光と化しているわけだから、スピードは三十万km/毎秒つ
まり俗に言う1秒間に地球を7周半できる速さになるわけだ。
さらにさらに、デフォルトのスピードが光の速さなもんで、そこに
俺自身の速さが加わるとどうなるか│││。
時間を置き去りに出来るんです⋮。
あぁ、そんなアホの子を見るような眼をしないで⋮
ただし
ものすごい欠点がある。
いや、そう思ったからそうなったのかもしれないけどさ。
たぶんそれだね。
うとか浦島効果がどうとかをテレビかなんかで言ってたんだよ。
俺もうろ覚えだし、よく理解できなかったけど確か相対性理論がど
!!
次に、使用中は俺の認識が追いつかないから予め移動するところを
決めておかないと自己る可能性が高い。
最後に、かなり疲れる。
結論、お蔵入りかな
おいこらキャスター肩をポンとかやめろ
!
俺の努力︵度重なる自爆︶は何だったんだろうか⋮。
!
398
?
!!
!!
まず詠唱と集中にかなり時間がかかる。
!!
マジで泣きたく⋮ふえ⋮⋮。
ネタ技として割り切ろう
ごほん
よし
ハイハイキャスターさんなんですか
んじゃ、次は⋮と。
ん
!!
!!
ていけるんじゃないか
と思ったわけですよ。
でも、武術も﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄で良いとこまでもっ
この身体になる以前も武術の武の字も知らん男だった。
あと、やりたいこともある。
一応プランはある。
いといけないのだ。
つまり、この先ランサー戦をするにあたり武術関連をどうにかしな
まってないし⋮。
じゃあ身体能力だけじゃ中々勝てなかったし⋮ってか、結局勝敗決
ジ受けてるっぽかったりで身体能力で勝つことできたけど、小次郎戦
セイバー、アーチャーはマスターの所為で制限受けてたり、ダメー
りない。
何とか勝てている部分があるだけで、技量や経験が圧倒的に俺には足
昨日の小次郎との戦いでも、セイバー戦でも思ったが、スペックで
よくよく考えたら俺にとって武術って死活問題なんだよね。
というわけで、魔法関係はやめて﹃武術﹄関連の練習をしよう。
仕方が無い。
るけどもさ。
まぁ、成功or自爆︵=神殿破壊︶だったし、言いたいことは分か
もう神殿を壊さないでほしいから、派手なのはやめてほしい
?
!
あとは、これらを自分にどう適応させるかが問題だ。
ている。
それに自身の動きだけでなく、相対した相手の動きも目に焼き付い
闘感覚は生まれていると思う。
冬木に来て、いくつかの戦いを見たり実際に行ったことで多少の戦
?
399
?
?
﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄でどこまで再現できるかっての
もあるか。
俺がここまでの戦闘でラーニングによって得た技術は確かにすご
いが、まだ俺の中でバラバラだし理解できていない。ただのサルマネ
状態なわけだ。
これを何とか形にしたい。
やっぱりさ、バトルマニアとまでは行かないだろうが、俺も男の子
だ。
悲しきかな身体は女の子状態だが心は男だ。
闘いというものに憧れがあるし、熱い攻防ってのをしてみたい。
それに、〝獣の本能〟ってのも俺を掻きたてる。
とはいえ、俺が思いつける武術なんてアニメやゲームのものだ。
合理性を求める実践の中でどれだけ使えるものがあるかわからな
いが、何かは上手くあてはまるかもしれない。
び出す。
それを両手で持ち、真田を思い出して構える。
ぎりぎりまで真田をトレースする。
いくでござる
!!
400
無かったら無かったで最初からやるだけだ。
だから、とりあえずやってみよう。
実験6:二槍流
武術部門エントリーナンバー1番は戦国BAS〇RAより真田幸
村の槍の二刀流︵二槍流︶だ。
いや別に、BASA〇RAに詳しいわけじゃないんだけど、アニメ
﹂
見ててかっこよかったんだよねぇ。
スピア、スピナアタ
そんなわけで。
﹁来い
!!
今回は武器の強さは必要ないので、初期レベル武器の内の2槍を呼
!
﹁燃えよぉ
我が魂ィィィィっ
HAHAHA
ウオオオオォォォうわぷっ
﹂
!!?
んだ⋮地面に⋮。
そうだよ
槍二本扱うのに身長足んなかったんだよ
勝ち犬になるん
始めたと思った瞬間にこれとか⋮神は俺に恨みでもあるのか
あ、一応俺もか⋮。
ちくせう⋮。
俺はあきらめねぇ
こんな所でやめたらただの負け犬ではないか
だ
!!?
!!
まぁ、いつものごとく結果を言うとだな。槍が⋮槍が引っ掛かった
これは予想してなかったぞコンチクショウ
!!
て思ってさ。
てるのかな
リョウサベラ
アル・セバラ
﹂
さて気を取り直してもう一度⋮︵ガシャン︶⋮おかしいなぁ⋮疲れ
これを両手にっと⋮︵ガシャン︶⋮おっと手が滑っちまったぜ。
!
﹁来いツインセイバー
!
呼び出すのは初期レベル武器の双手剣3セット。
!
ほら俺ってビーストだからさ、案外これって合うんじゃないかなっ
ものです。
これは、片手に3本、計6本の刀を指で挟んで爪に見立てるという
同じく、BAS〇RAより伊達正宗の6爪流いきます。
!!
!
よし、もう一度だ。
?
401
!!
!!
!!
!!
実験6:6爪流
!
何でだろう前が見にくいよ。
こうやって指の間に⋮︵ガシャン︶⋮指の⋮間⋮に⋮⋮。
うぅ⋮⋮。
おかしいな
ぼやけて見えるよ。
・
・
・
すまんとりみだした。
この身体になってから、やっぱり精神が引っ張られてるのか涙もろ
k⋮って泣いてねぇ
あれは目から汗が出ただけだ
まぁ、なんだ。結果報告。
⋮おう
﹁稽古中に失礼するぞ﹂
餡子味の筈なのにしょっぱいのは何でかなぁ⋮。
うまー⋮。
そして、アイテムボックスからたい焼きを取り出し咥える。
三角座りをする。
ついついそこらに放り出してしまっていた武器を直し、俺は地面に
やる気が起きない。
どうしよう、他にも何個かあるけどもう心のHPが限界だ。
始まる前に終わってしまった⋮。
手が小さくて持てませんでした。以上。
!!
!!
門で見張りじゃなかったっけ
を着たイケメン、小次郎だった。
﹁どうしたん
﹂
?
﹁いや、なに、そこに居るキャスターに呼ばれてな﹂
?
402
?
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、そこに居たの長髪の着流し
?
そう言い、小次郎が俺の後ろの方に目線を送ったのでそちらを俺も
見る。
﹂
すると、少し離れた所にある建物の影、そこに⋮。
﹁へ
鼻を押さえながら、地面で悶えてるキャスターさんが居ました。
って、キャスターさん何してんの
録ってたんだな
録ってたんだろ
しかも録ってたのか
あんた見てただろ
魔術関連を教えるわ﹂
﹂
﹁アサシン命令よ。あの子に武術関係の事を教えてあげなさい。私は
まさか│││、
何故かキャスターさんの手にはビデオカメラがあるのだ。
ただ、一つ気になる点がある。
それを裾で、ごしごしとふき取るキャスターさん。
あ、鼻血を押さえてたのか。
そうしてやっと起きるキャスター。
それどころかまだ再起動できないキャスターを刀の柄でつつく。
﹁⋮起きろ﹂
この状況で話しかけるとか、あんた勇者や。
そんなキャスターさんを意にも留めずに話しかける小次郎。
﹁キャスター、新たな命令とはなんだ
? !?
﹂
キャスターが見てたのはこの際置いてお
くとして、なんで教えるって話しになんのさ
﹂
てか、かわいそうって言
俺のライフはもうゼロだ
!! !?
横で神妙に頷きながら同意する小次郎。
﹁ふむ、確かに⋮﹂
よ
い直したところでダメージは大きいよ
﹁おい今不憫っていいそうになったよな
﹁あまりにも⋮⋮ふびn⋮かわいそうだったから⋮⋮﹂
?
!!?
﹁って、ちょっと待った
!?
!
!? !?
403
?
!!
﹁あんたはあんたで何同意してんだよ。その真剣に頷いてる感じのせ
いでマジ泣きそう﹂
どゆこと
﹁勘違いするな。不憫だと思ったのは勿体ないと思った故にだ﹂
⋮⋮
勿体ない
くはない﹂
﹁ほ、ほんとに
﹂
の際の最後の動きはそれなりのものであった。それ以前のものも悪
﹁天才とまではいかぬが才がないわけでは無かろう。門前での一勝負
?
いや嬉しいよ
﹂
武の土台程度なら見ないこともない﹂
とてつもなく。
それと、俺の意見は聞かないんですね。
いや、それはあんたもだろ。
﹁あら、断られると思っていたのに。どういう風の吹き回し
?
き
あれま。小次郎が微妙に性格変わってる
だ強いものとの戦いを求める感じだった気がする。
いや、俺を強くして勝負したいってなら一緒か
でも、これっていい流れ
?
ひょっとしてここからは俺の頑張り次第で小次郎も
?
あ、別に小次郎ルート開拓って訳じゃないんで座ってて下さいね。
?
前向き⋮って言うのとは少し違うけど、原作で知ってる小次郎はた
?
﹁いやなに、未来というものに少し興味が湧いてな。ただの戯れだ﹂
さ
ただ、ちょっとは聞いて欲しかったなって思ったりしなかったり。
?
の策はあるのだろう
﹁キャスターよ。良かろう。貴様の事だ、門前の警護の件も何かしら
そんな俺を気にせず、小次郎は次にキャスターの方を向く。
俺はそっと離れた。
ずかしいな。
自分で来ておいてなんだけど、真剣な顔でガン見されると流石に恥
ちらを見ている。
だがそれなりの勢いで行ったにかかわらず、小次郎は真剣な目でこ
思わず縮地レベルで小次郎に詰め寄ってしまう。
!?
?
404
?
?
﹁えっと、ホントに稽古つけてくれるのか
﹁うむ﹂
﹁ええ﹂
﹁やった。ありがとうな﹂
ともかくこれはかなり嬉しいぜ。
﹂
俺にとって恐らく一番相性が悪いのは小次郎だった。
その小次郎から土台とはいえ教えてもらえるのだ。喜ばないわけ
がない。
おそらく今の自分は満面の笑みをしているだろう。
やはり感情がすぐに出てしまうな。
でも、喜ぶ分にはいいか。
﹁か、勘違いしないで。ギブアンドテイク。あくまでも私も利益を得
ることをしてもらうからよ﹂
﹁勘違いしてもらっては困る。娘が強くなることは私にとっても得が
あるだけのことだ﹂
なにこの同じタイミングでのツンデレ発言。
﹁そっか。でも、それでもありがとうな﹂
感謝を。
405
?
予想外のことだが、これで俺はまた一歩ハッピーエンドへ近づける
だろう。
だから、精一杯の感謝をする。
﹁⋮ええ﹂
﹁む、うむ﹂
何故に二人してそっぽ向くし。
え、俺変な顔してた
?
﹂
﹃stage32:宝の持ち腐れと言わないで﹄
﹁待って。もっかい言って
﹁だから、あなたは魔法使いになれるわ﹂
今明かされる驚愕の真実ぅ
違うか。
くぎゅううううううううう
って使えないよ
ふむ、となると術式解体か
でもあれは魔導士だよな⋮。
だけど妹は居るとはいえシスコンで
そうかわかったぞ。シャバドゥビタッチヘンシーン
SLB使ったから魔法使い
もしくは虚無とかあの辺ですか
まさか王者の技か
サブミッション
ど、どどどど、どうていちゃうわ
いやどっちにしろなってないよ
30歳だっけ
って、俺40歳になってないよ
!!
?
?
﹁⋮何を一人で百面相しているのかしら﹂
は無いしなぁ。うん、違う。
!
?
先程キャスターと小次郎の双方から修行つけてやる的なことを言
われてすぐ、早速キャスターから教わってるんだけども、その途中で
言われたのが冒頭の言葉だった。
まず初めに、キャスターに俺のスペックを見せた後、テクニックと
練習中の技なども披露した。
そのあと、キャスターに何故か魔術爆撃されたり、この間覚えた投
まさぐ
影魔術を見て貰ったり、逆にキャスターに抱えてもらってだけど浮遊
や転移の魔術を体験させてもらったりした。若干 弄られたので電撃
流した。
さておきその途中であなたは魔法使いにどうのってなったわけだ
406
!?
!
よくわからない電波を拾ってしまっていたようだ。
﹁はっ、俺は何を⋮﹂
!!!
?
!!
?
!?
?
﹂
が、なぜそうなったのかわけワカメでござる。
俺の頭ではそこへ至る理屈がわからない。
﹁はぁ、宝の持ち腐れね⋮。よく聞きなさい
﹁良 い ま ず 初 め に 言 う け ど、あ な た 自 身 も 言 っ た 様 に あ な た は
でもまぁ教えてくれるなら一先ず静かに聞こうじゃないか。
解せぬ。
何故かすごく残念な子を見る目で溜息をつかれたんだが⋮。
?
ルールがずれているわ﹂
﹁まぁ異世界の英雄だし⋮一応⋮﹂
そういう設定だからねこの身体は
死に
﹁違うわ。あなたの能力には色々不可解な点があるの。例えば龍脈へ
の接続だけど、ありえない﹂
じ
ありえないってナンデデスカ
ま
世界中の
あのあの、真剣な顔でディスるの止めてくれませんかねぇ
たくなるので。
俺は霞む視界を気にせずキャスターの話に集中する。
﹁あのねぇ。霊地との契約はその場所だから出来るのよ
﹁⋮マジで
﹂
身に供給できると言う。不思議ね﹂
ことが出来る。なのにあなたは龍穴の上ではない場所でも魔力を自
りマナが吹き出す場所の上に居るからこそ高純度のマナを利用する
龍脈が繋がっているとはいえ、霊地と呼ばれる龍穴のある場所、つま
?
?
?
つまり使っていると思っていた
﹁やっぱりね﹂
﹂
?
﹁え、あれ
﹁たった今、魔力の供給が切れたんじゃない
まさしくその通りだ。
﹂
そう考えた瞬間、何かが切れた感覚があった。
?
でもそれは本来の法則とは違っている。
でも俺はこっちに来てからもマナを使用していた。
確かに、俺が繋がった場所はアインツベルンの城でだ。
?
?
407
!
?
初めからあった魔力が回復する感覚とは別に存在していた、何処か
らともなく供給される感覚が無くなった。
﹁って何してくれてんのぉぉっ
ほんとこの人何しくれてんの
﹂
まだラスボスまで行ってないんだよ
﹂
それなのにここへきてスペックダウンとかやばいよね
いやヤバいどころじゃないよね
﹁落ち着きなさい。計算通りよ﹂
﹁いや、ちょ、おま、落ち着けって、どうすんのさ
﹁伏せ
﹂
もう泣いていいかな
﹂
そんな俺を見て、再び溜息をつくキャスター。
理不尽だ。
た顔でこちらを見ている。
﹂
立ち上がりながらもキャスターに無言の訴えを送るがしれっとし
を払いながら立ち上がる。
身体の上から伸し掛かっていた重力が切れたので、服についた汚れ
あと犬扱いすんなし。人だ人。
確かに落ち着いたけど、これは無いと思うんだ。
なんか重力っぽいものでキャスターに押しつぶされた。
﹁ぐふぅっ
﹂
﹁落ち着ける訳無いでしょうよ
﹁だから落ち着きなさいって言ってるでしょうこの獣娘
!?
!?
!?
!!
!?
!?!!!???
!?
﹁どういうこと
﹂
むしろ邪魔でしかない﹂
﹁あのねぇ、正直に言ってその無限の魔力は現状あなたには不要なの。
あ、視界が霞んでいるのは汗です汗。汗ったら汗。
?
﹂
?
﹁つまり、あなたの能力は勘違いではなく使い方によっては自ら無限
﹁うん、まぁ⋮﹂
よって生成していた。ここまでは良い
﹁今 の こ と で わ か っ た と 思 う け ど、あ な た は 無 限 の 魔 力 を 勘 違 い に
?
408
!?
!!
の魔力を作れるだけでの潜在性があるってことよ﹂
お、おう⋮。
その勘違いでって部分に哀しみしか生まれないが、理論は分かる。
つまりあれだろ、無限の魔力を作れるとさえ思えればできる訳だ。
﹁けど、勘違いのままだとあなたはその魔力の供給元を外部に依存し
ているつもりになったままなわけだから、魔力を使う際にも外部の物
を 使 う と い う 余 計 な 過 程 を 挟 む こ と に な る。実 際 に は 自 分 の 物 を
使っているのにね﹂
﹁ほむ⋮﹂
﹁魔術を使うならばマナかオドか、それだけじゃなく様々な指定が必
要になって来る。なのにあなたは最初の供給の時点から間違ってい
﹂
る か ら 課 程 を す べ て 間 違 っ た 状 態 で 結 果 だ け を 持 っ て 来 て い る の。
その危険性がわかるかしら
﹁えっと⋮⋮、ワカリマセン⋮﹂
﹂
ペックがある。それは所謂魔法の領域よ。それをいつの間にか使っ
ている状態ではなく扱うようにしなければあなたはいつか自身を滅
ぼすことになる﹂
﹁忠告痛み入ります﹂
頭を低くして礼を言う。
しかし、なるほどそれが魔法使いに繋がる訳か。
﹂
409
﹁今にも爆発しそうな火薬庫に大量の爆薬を叩き込むってことよ
その結果があの神殿でしょうが
平身低頭覇。
すかさず土下座の体勢に入る俺。
!!
﹁⋮コホン。最初の話に戻るけど、あなたは魔力を無限に生成するス
!!
?
原作でも確か無限の魔力についての魔法があったな。
何番目だったっけ
?
﹁コウジュ、一つ言っておくけどあなたが使っている魔法はその一つ
﹂
だけではないわよ
﹁ほえ
?
思わず気の抜けた声が出る。
?
カードをキャプターする小学生が出すと可愛い声だけど、中身が男
の俺が出してもキモイだけだな。
だが、それほどにキャスターの言葉を理解できなかったのだ。
﹁まず無限の魔力については第二魔法に思えるけどその実、無から作
﹂
り出しているから第一魔法に相当するでしょう﹂
﹁ど、どういうこと
淡々と語り始めるキャスターについ詰め寄る。
﹁ち、近いわよ。役得だけども⋮﹂
その瞬間俺は引いた。二つの意味で。
﹁引かないで欲しいのだけど⋮⋮。ふう⋮、話を戻すわ。まず第一魔
法﹃無の否定﹄これの詳細は既に失われているけど予想は立てられる。
無の否定つまりは有の肯定、おそらく創生の事を言っているので
しょうね。それもあらゆる代償は無しでよ﹂
それってもろに﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄じゃないっすか
いや、だからこそ魔力を何も無い所から精製できる
﹁第一魔法が﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄に値するわけだ﹂
﹁そうよ、次に第二魔法﹃並行世界の運営・干渉﹄⋮。あのカードを使っ
て場所を移動するやつがそれなのよね、話を聞く限り。﹂
﹂
﹁おおぅ⋮。というか一回違う世界行っちゃったし⋮。あれ 並行
世界どころじゃなく多次元世界か
?
のでしょう
﹂
﹁あ、第二魔法か﹂
キャスターが頭を押さえつつ、続きを話す。
﹁続いて第三魔法﹃魂の物質化﹄。これはあのスケープドールよね
﹁それと、ラーニングだったかしら⋮。それでアサシンの技も覚えた
?
ら再構成⋮。はい第三魔法﹂
!
﹁うわ、投げやりになってきた﹂
﹁誰のせいだと思ってるのよ⋮。次
第四魔法⋮は詳細不明だから
第一魔法も組み合わさってるのでしょうけど、すでに無い肉体を魂か
?
?
410
!?
あ、でも、神様なら強弱はあるけど持ってるって話しだったし⋮。
?
?
置いておいて。⋮⋮この子なら知らない内に使ってそうだけどね︵ボ
ソ︶﹂
もしもーし、俺ビーストなんで聞こえてますよー。
﹁そして第五魔法﹃青﹄。これも詳しくは詳細が分からないけど﹃破壊﹄
﹂
や﹃時間旅行﹄説が有力よ時間旅行というほどでもないけど、時間⋮
操れるのでしょう
﹁た、たぶん⋮﹂
﹁⋮はい
﹂
﹂
﹁魔法というもの自体については分かる
﹂
﹁えっと、あらゆる技術を使っても再現できない現象⋮だっけ
﹂
とは思うのだけど、新しい魔法の概念をあなたは作り出しているわ﹂
﹁最後に、これはあなたの﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄が原因だ
﹁あります、はい﹂
あったわよね
﹁﹃破壊﹄⋮は違うけど⋮でも、さっき聞いた武器の中にそんなのが
うん、ツミキリ・ヒョウリさえあればたぶんできるだろうな⋮。
?
﹂
い魔法よ。あえて名前を付けるなら⋮﹃矛盾﹄かしら﹂
﹁﹃矛盾﹄⋮
て。まさしくその通りよ﹂
?
ではなく、手順から生み出されるはずの結果を捻じ曲げている所を何
響しているのだろうけど、単純に第一魔法の様に作り出しているだけ
恐らくあなたの﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄というものが影
の世界に居るのに一人だけ違うルールを基にして動いているのよ。
﹁あなたが元居た世界の法則⋮なのかはわからないけど、あなたはこ
﹁つまりどういうことだってばよ
﹂
あなた、前に言ったわよね。自分は違うルールの下で動いているっ
沿って魔術を行使している。
の過程を無視している。でも私たち魔術師は歴としたルール、現象に
さっきも言ったけど、あなたはこの世界の現象を利用するくせにそ
﹁言い換えるならばルール変更ね。
?
411
?
﹁ええ、そして今の時点であげられている魔法に該当しないから新し
?
?
?
回か見たわ。例えるなら化学も魔術も火を起こせばその結果何かが
燃えるわけだけど、あなたの場合は凍らせることが出来るのよ。
ひょっとすると、さっきの魔力供給の件も、私が見る限りではコウ
ルー
ル
ジュ自らが生成しているように見えたけど、〝龍脈からの供給〟とい
この理不尽娘
﹂
うあなたの勘違いの所為でどこかで実際には繋がっていたのかもし
れないわね。﹂
﹁うっそだー﹂
﹁あなたはそれくらいの事をしているのよ
﹁⋮⋮解せぬ﹂
!!
じゃあ今の話いらないじゃん﹂
スターさんが幻視できる。
こ、これは俺が悪いのかな
とりあえず話を変えよう⋮。
﹂
﹁あ、そ、そうだ。これって何か応用とかできないかな
﹁⋮例えば
﹂
実際にしてるわけではないけど、地面に﹃の﹄の字を書いてるキャ
キャスターさんがついに拗ねてしまいました。
を目的とした研究者質な人だけですよーだ⋮﹂
はぁ、⋮どうせこのすごさが分かるのは結果ではなくそこに至る事
めから凍らせればいいじゃない。態々余計な手順を踏まなくても。
﹁だって、さっきの火の話を交えて言うと、凍らせることが目的なら初
﹁え
﹁ま、まぁいいわ。今のあなたでは宝の持ち腐れでしかないし﹂
キャスターさんがしてくれた講義の半分以上が理解できません。
!!
?
だ。
﹁これとかどうかな
﹂
それはさておき、先程の話を聞きふと思いついたものがあったの
す。
でもやっぱり目は残念な子を見る目なので俺の精神が死にそうで
る。
フードを取っているから、不貞腐れていても綺麗なのがよくわか
?
?
キャスターさんが不貞腐れた顔のままこちらを見る。
?
412
?
俺はそう言いながら一本の剣を取り出した。
﹂
それは辺りへと眩い輝きを放ちながら俺に握られている。
﹁嘘、どうしてあなたがそれを持っているの⋮
驚愕に彩られるキャスターの表情。 だがそれも仕方ない。
俺が取り出したのは、黄金の剣。
ク
ス
カ
リ
バー
﹂
リバーと同じものだって矛盾を生みだせすことが出来れば、俺のエク
今の話からすれば俺が持つエクスカリバーはこの世界のエクスカ
しかし、だ。
まい込んで以来記憶の片隅から出さないようにしてきた。
それが分かった瞬間、俺はあまりにもがっくりときたからすぐにし
約束された勝利の剣も使えやしなかった。
エ
な る が そ れ だ け。 風 王 結 界 も、 当 然 真 名 解 放 た る
インビジブル・エア
と同じ仕様だった。つまり使用時には風の効果で剣の姿が見えなく
だが、残念なことに俺が出したエクスカリバーはあくまでもゲーム
ateファンなら誰もがする筈だ。
当然俺はエクスカリバーを実際に手に取り色々試してみたさ。F
クスカリバーも見つけていた。
召喚されてすぐ、俺は一通りの武器に目を通した訳だがその時にエ
リバーみたいにすることもできるかな
から、ルールを変えるっていうのならこれをセイバーが使うエクスカ
てるエクスカリバーみたいに色々出来るわけじゃないんだよね。だ
﹁何故持っているかはさておき、これって本物だけどセイバーが持っ
つまり、エクスカリバーだ。
鍛えられた神造兵装といわれる片手剣。
セ イ バー
騎士王の象徴にして、最強最大の武器でもある長剣。星々によって
?
スカリバーをセイバーが持つエクスカリバーの様にエクスカリバー
を放てるかもしれない。
413
?
何だかエクスカリバーという単語がゲシュタルト崩壊してきた⋮。
﹂
﹁恐らく、出来るでしょうね﹂
﹁うっし来た
!!
ふはは。これはまた一つチート技が増えそうじゃないか。
それも憧れのエクスカリバーだ。
これはwktkせざるを得ない。
み な ぎ っ て き た ﹁あ、でも、1つ残念なお知らせがあるわ﹂
突然キャスターさんが素になってそう言ってきた。
つまり、コウジュの
﹁エクスカリバーのルール変更をするのは良いけど、セイバーが持つ
方を理解できなければ意味が無いんじゃない
え、あの対城宝具を受けろと
絶望した。
場合は一発喰らってくるでもしないといけないんじゃないかしら﹂
?
ふらふら∼⋮と歩き出す俺。
そんな俺をガシッと。
ました。
﹂
は終了し
他にも出来ることはたく
﹁俺⋮ちょっとどこかで紐なしバンジーしてくるわ﹂
みたいになっているだろう。
ぬとねの区別がつかないような、FXで有り金全部溶かした人の顔
たぶん今の俺の顔は相当ひどいだろうな。
先ほどよりもひどい。
うへぇ、先程まで上がっていたテンションがまた下がった。むしろ
ジュッていって蒸発するじゃん
?
﹁ま、待ちなさい 私が悪かったから
さんあるから
!!
・
・
・
414
!!
!
まぁハプニングはありましたが、キャスターさんの授業
!!
ついでに頼んでた物を受け取り、今度は小次郎の方へ∼。
?
!
﹁よろしくお願いします﹂
﹁そ う か し こ ま ら ず と も よ い。私 が 教 え る の は 基 礎 に も 入 ら ぬ 部 分
だ。それにこの身は人々の幻想より生れた身よ。内包する武もまた
しかり。
故に道標程度にしかならぬであろうよ﹂
﹁いやむしろ今の俺にはその道標がものすごくありがたいですぜ﹂
武術って習ったこともないので。
精々体育で軽く剣道に触れたくらいだ。
﹁ならば早速始めよう。手合わせを交えて行くぞ﹂
﹁うい﹂
小次郎はいつもの物干し竿を、俺はコクイントウをかまえる。そし
てほぼ同時、相手に仕掛ける。
まずは互いに袈裟切り。当然のごとくつばぜり合いになる。だが、
415
基礎ステータスはこっちが上だから俺は小次郎を押し返し、そのまま
追撃を掛ける。横一閃、だがそれは軽く避けられる。
﹂
﹁やはり筋は良いが、どこかぎこちないな﹂
﹁そりゃどう⋮も
そういや、どっかで聞いたことあるなー。
打ち合いの途中、アサシンが突如そう言ってきた。
ぬ。流派によっては舞の中に武を隠し継承させることもある﹂
﹁武 と は 舞。双 方 の 起 源 は 同 じ で あ り 古 く か ら 2 つ の 関 係 は 変 わ ら
それを何度か続ける。
打ちあい打ちあい⋮。
これなんか楽しい。
はなく、ある程度考えて打ちこむ事をしている。
小次郎はあまり打って来ず、そのおかげもあり俺はガムシャラにで
あいをいくらか行う。 互いに殺し合いではなくあくまで稽古である事を理解しての打ち
けられる。
横一閃からの斬り上げを再び小次郎に向かって打ちこむが再び避
!!
舞を制したものが武を制す⋮だっけ
﹂
ふむふむ。
いや、動きそのものは変わってないけ
ど⋮俺に合わせてくれてる感じ
小次郎の動きが変わった
突然、何か違和感が生まれる。
﹁
﹁ふむ⋮﹂
だが、それをどう武術に加えていくのかが分からない。
その言葉の意味は分かる。
口に出して言いはするが、よくわからん。
﹁流れやリズム⋮ねぇ⋮⋮﹂
だから全部受け流し、避けられされてたのか。
読み易い﹂
﹁故に武を形成するは舞と同じく流れ・拍子。おまえのそれはひどく
?
そんな感じ。
いや、分かるけど分からん
なるほど、わからん。
ズム。
そ っ か こ れ が 流 れ か。ど う 動 け ば い い か。次 は ど う か。そ し て リ
?
?
ろうな。
小次郎って案外教える側向きなのかね
﹂
﹁小次郎って案外教えるの上手いね﹂
﹁⋮⋮なんのことだ
?
それもこれも、小次郎がえらく手加減とかしてくれてるからなんだ
取っ掛かりは掴めた。
結局は感覚的なものだね。最初よりは何かが分かった気がする。
?
?
﹁⋮気のせいではないか お前が上手く動けるようになってきてい
⋮たぶんだけど﹂
打ち込みやすい場所とかわざと作ってくれてるよな
分かってきた。動作の所々にフェイント入れたりは勿論だけど、俺に
﹁いや、なんとなくだけど、小次郎が俺の動きを誘導してくれてるのが
?
?
416
?
ツンデレが居る
るだけであろうよ﹂
ツンデレだ
えっと流々舞⋮だったか
﹂
﹂
某ハンター漫画で出てきたやつで、互
そういえばこれってあれに似てる。
俺は物覚えが悪いんでゆっくりなのがチョイ申し訳ないな。
れている。
小次郎がギリギリ俺が流れを掴めるレベルでの打ちあいをしてく
ね。
とは言っても、先ほどより速度等はレベルアップしてきてるけど
そこからはただ黙々と打ちあった。
勿論剣劇は続けたままだ。 とりあえず、合わせて俺も静かにする。
何かを考えてるみたいだけど、何だろう。
まった。
会話をしながら打ち合っていたが、そこで小次郎は黙り込んでし
﹁心持ち次第⋮か⋮﹂
い手の心持ち次第って言ってたよ
﹁そっかなー。どこかで聞いたことなんだけど、殺人剣も活人剣も使
﹁ふ、この殺人剣で師範はできんよ﹂
﹁道場の師範とか案外合うかもよ
? !!
?
舞みたいだ。
武術レベルが上がってきてる気がするぜ
乗ってみたりしちゃったりしてー。
!
そんな中、小次郎が突如動きを止めた。
だはずだ。今では大分スピードが上がってる。
それからどれ位しただろうか。何千では済まない位には斬り結ん
っとかちょっと調子に
俺の場合小次郎が俺に合わせてくれてるんだろうけど、マジで流々
らを修練するって奴だったはず。
いの力が拮抗するように組み手をすることで観察眼やら技の流れや
?
417
!
﹂
俺も慌てて刀を振るうのを止める。
﹁私が教えるのはここまでだ﹂
﹁え、あ、ありがとうございました
いきなりだったんで一瞬固まってしまったぜ。
でもすぐに礼を言う。
うん、これは何かが掴めたね。
かなり贅沢な修行だったのではないかな
半分だけ獣化
でも手や足だけってことは獣化じゃない
あれま、俺ってば無意識に獣化してたのか⋮。
やすくなる﹂
ただ、そこに無理矢理武術を取り込もうとするからか動きが分かり
いや、よくは見えなかったが手や足は獣のようになっていたか。
たあの動きは特に獣そのものと言って良い程に近かった。
﹁これはあくまで助言だがお前の動きは獣に近い。門前で最後に見せ
とに気付いた。
そんな感じで俺が満足していると、小次郎が俺をじっと見ているこ
?
?
﹁一つ問おう。理想的な一撃とはなんだ
理想的⋮理想的ねぇ⋮⋮。
か
﹂
﹂
速くて重いけど当たらないから意味はない⋮、それって俺じゃねぇ
チョイ待った。
た、確かに⋮。
れだけ速かろうと重かろうと当たらねば意味はない﹂
﹁それもある。だが、極論ではあるが最も重要なのは当たる事だ。ど
俺の言葉に、小次郎は静かに首を振る。
﹁速くて、重い⋮
そこでピンっと思いつく。悲しいかなマンガ脳からだけど││、
?
そういって小次郎は去っていった。
418
!!
首を一人で捻っている俺に小次郎は続ける。
?
?
﹁自分だけの動きを見つけよ。流れを見よ﹂
!?
やばい、カッコよすぎね
ほれてまうやろ│︵古い
冗談抜きにしても男として憧れる。
おい、今は幼女じゃねぇかって言った奴出てこい。直々にみくみく
にしてやる。
さておき、小次郎の教えはこれ終わりのようだ。
また打ちあいしたいな│。
◆◆◆
コウジュ⋮か⋮。
あの娘を見ていると何か面白い。
かのうせい
虚ろであるこの身がその何かを求める。
いや何かなどではなく未 来を求めているのだろうな。
現界した際はサーヴァントであるが故に未来はないと諦めていた。
サーヴァントに成長はない。それも、私のこれは与えられたもの
だ。
まだ見ぬ武に立ち会えることは面白いであろう。剣を交わすこと
は心ふるえるであろう。
しかし、その次は何に楽しみを見出すというのだ。
だからこそ自分の存在意義と割り切り、その少ない時間を出来うる
限り楽しもうとした。
さ
き
あの娘に会うまでは⋮。
今は思う。
新たな命を得、未来を見るのもよいかもしれぬ。
そして私自身の力でこの世を楽しめたらと⋮な⋮。
道場か、それも悪くない。
◆◆◆
419
?
ホントに何なのかしらあの子。
能力だけで言えば世界征服も片手間で出来そうなものを持ってる
くせに全然扱えていないし⋮。
と思ったら、魔法に当たる能力を容易く使っている。
行使できる能力の基準を知った時は思わず笑ってしまったわ。
あの子の妄想やらなんやらが基準なんですもの。
コウジュが簡単だと思えば魔法レベルも容易く行えてしまうし、難
しいと思えばそこらの魔術師でもできるようなことをできなかった
り⋮。
そういえば、あの子の依頼なんだけど、どうしようかしら。
使えそうなアイテムももらったし、あくまで作るのは器であって中
身ではないから難易度は低い。
420
ただ、どうでなら報酬を吹っかけてみるのもありよね。
色々壊されているし、それくらいの役得があっても良い筈。
撮影会とかどうかしら
うふふ⋮。
の恋人からも体験してみたいと思ったのよ。デートであちこちに⋮
確かに今の年齢でも構いわしないのだけれど、どうせなら結婚の前
設定よ。
あ、欲しい報酬は私と宗一郎さまの次の命を生み出すカードの年齢
ら。
えるものは貰っておくものだとあったから早速実践してみようかし
もらい過ぎな気もするのだけれど、この前テレビで見たら主婦とは貰
そっちも別に何ら難しくもないし、私たちの新たな人生に比べたら
そういえば、あの子からの依頼はもう一つ。
と思うの。
可愛い服とか着せると恥ずかしがるだろうけど、それはそれでいい
ね。
可愛い容姿をしているのに、言葉遣いや動作が粗野で勿体ないのよ
?
っと、いけないいけない。
とにかく、アーチャーみたいにちびっこになるのは困るけど10代
後半位の年齢にしてもらおうと思うわ。
フフ、なんでかしら。
あの子は私の嫌いな神族になろうという子なのに、あの子だけは嫌
いになりそうもないわ。
手のかかる子を見ている感じと言えば良いのかしら⋮。
いいわね、子ども。
いずれ私も⋮ウフフ⋮。
ハッ
また横道にそれてしまったわ。
まあとにかく、新たな人生というものが楽しみだわ。
サーヴァントである私がそんな未来を求めるだなんて自分ながら
不思議だけど、あの子と関わっていると、不思議と未来を見たくなっ
てしまう。
異世界法則。
いえむしろ、コウジュの法則
まぁどちらでも一緒ね。
そう切に願ってしまう。 その法則へと、どうかこの殺伐とした世界を塗り替えて欲しい。
?
コウジュが私にくれるっていうハッピーエンドはどんなものにな
るのかしら
?
421
!!
﹃stage33:〝後でやる〟って絶対あとで後悔
するフラグだよね﹄
私は今、柳洞寺の境内で雨空を見てる。
この空はあの時に似ている。
あの時と言っても少し前のこと。
私が現世にキャスターとして召喚され、第五次聖杯戦争に参加が決
まっってからしばらく経った日。
その日私は、私を召喚したマスターを殺し、彷徨っていた。
殺した理由なんて大層なものではない。ただ、気に入らなかった。
真名を教えた際に〝裏切りの魔女〟と言われた事が。
422
だから、殺した。殺してしまった。
ほかにも理由はあったけど、何よりもそれが気に入らなかった。
けど、マスターの居ないサーヴァント。
しかも、召喚されてすぐの私が現界し続ける事なんて無理なのは当
たり前。
そんな私は、目的もなくただただ歩き続けた。
今思えば何かを求めていたのかしら⋮、雨の中をふらふらと歩いて
いた。
いつの間にか私は森の中から砂利道に出る。
しかしそこで力尽きた。
これまで││。
そう思い、意識を失った。
ふと気付く。温かい⋮
先程まで雨の中に居た筈だ。ではこの温もりは
目を開ける。
そこは部屋だった。そして私は布団の中に居た。
?
?
何故
﹄
その疑問はすぐに解消される。
﹃起きたか
﹄
?
﹂
そして歩いて行く。雨の中を。
2人で歩きだす。
私も雨の元へ行く。
なって追従する。
私 は た だ 聞 く だ け で は そ っ け な く 感 じ る で あ ろ う 返 事 に 嬉 し く
その下へ気にも止めず、歩いて行く宗一郎様に声を掛けた。
大雨とまでもいかなくともそれなりに雨は強い。
﹁いえ⋮﹂
﹁必要か
﹁傘は⋮﹂
空を見ていた宗一郎様が庭の方へ出る。
どれだけ時間が経っただろうか。
も続けて空を見る。
宗一郎様は1度目を閉じた後、雨がまだまだ降り続く空を見た。私
﹁いえ⋮ただ、あの日もこんな雨だったなと⋮﹂
声を掛けてきたのはあの人、いえ、宗一郎様。
思考の中に入っていた私が声によって現実に引き戻される。
﹁キャスター。そこで何をしている﹂
私は問わずには居られず声を掛けた﹃待って、どうして⋮﹄と⋮⋮。
続けて彼は出口の方向を言い、席を立つ。
﹃迷惑であったなら帰るが良い。忘れろと言うのなら忘れよう﹄
感情が無いかの様な声でその人は私に淡々と続けた。
﹃事情は話せるか
そこには男の人が居た。
?
お出迎えの準備をするために。
423
?
?
宗一郎様。このお芝居が終わったら今度こそ私はあなたと│││
│。
﹁ところで、聞き耳は良くないわね﹂
﹁なっはは⋮、許してほしいな。これでも気を使った結果なんだぜぃ
﹂
私の問いに答えながら、ストンと軽い音をたてて屋根からコウジュ
が降りてくる。
どうやっているのか、この雨の中でも濡れることなく存在する彼女
は、少し気まず気にしている。
その様子に、クスリと笑みを漏らしてしまう。
﹁分かっているわよ﹂
﹁なんだよ。ひっどいなぁ⋮﹂
どうやら拗ねさせてしまったようだ。
口を尖らせながらそういうコウジュの様子が更に面白くて笑みを
深めてしまう。
﹁気を使ってくれるのは嬉しかったけれど、もう動かないとでしょう
﹂
﹁はいはい、はぁ⋮﹂
本当にからかい概のある子だわ。
思わずポスりと、コウジュの頭へと手を置いて撫でる。
今度は顔を赤くしたまま固まり、撫でられるままになっているコウ
ジュ。
しばらく撫でられるままに頭をふらふら揺らしていたが、ハッと気
づいたのか後ずさり睨んできた。
まぁ涙目で睨まれても全く怖くは無いのだけどね。
ふふ、満足したし行きましょうか。
424
?
?
3人となった私たちは、今度こそ龍洞寺を後にする。
◆◆◆
どうも皆さんこんばっぱー。
色々と実験やら、準備してる間に士郎達による宗一郎氏襲撃の時間
俺は勿論高い所に忍んで見てるぜい。
が来た。
俺
方法は⋮まぁ例のアサシンのカードを使ってなわけだ。やっぱハ
ズイね、これ⋮。
とりあえず俺の事は置いとこう。
なにせ丁度今始まった所だ。
さてさて、なんで士郎達がこんな闇討ちみたいな事をしてるかとい
うとだな。
最近この辺りでは謎の昏睡事件が起きてるわけなんだが、それとい
うのがキャスターが力をつける為に生命力︵魔力︶を集めてるからな
んだ。
そして士郎達は、それを行っているのがキャスターだとは気付いた
がそのキャスターのマスターが分からない。
で、まぁ御都合主義やら、というか俺がイリヤに頼んだ情報提供や
らで宗一郎氏に当たりをつけたわけだ。
けど、まだ確信を持てなかった士郎達は原作の様にガントをかなり
弱くして撃って、その反応を見て考えようとなり、結果こんな状況な
わけだ。
もちろん宗一郎氏がマスターなわけだから大当たり。
そして宗一郎氏に当たりそうになったガントはキャスターが出て
きて無効化。
さぁ御対面だ。
425
?
一触即発の雰囲気の中言葉を交わす双方。
キャスター勢は士郎達を言葉巧みに挑発する︵あ、これ俺がお願い
﹄
﹄
あ ん た は キ ャ ス タ ー が 何 を し て い る の か 知 っ て い る の か
したことね。原作の言葉を言ってもらってる︶。
﹃葛 木
﹄
でフィニッシュ
セイバーさん吹き飛ばされてダウン
そこに、宗一郎氏の決め台詞。
﹃お前はもう死んd︵ry﹄
ゴメン嘘。
ホントはこっち。
首掴んで地面にドン
!!
って感じな件について。
セイバー圧倒した技術とか⋮ねぇ
何あれどこの瞬歩
?
キャスターの補助ありとはいえ、拳で地面砕くし。
能が無いって、いやいやそんだけできりゃあ十分でしょ。
うことだ﹄
に存在する。私のように前に出るしか能のないマスターも居るとい
﹃マスターの役割を後方支援と決めつけるのは良い。だが、例外は常
!!
!!
しかし、一通り避けた後宗一郎氏の1、2
おおぉっとここでセイバーが宗一郎氏に斬りかかる。
士郎達の琴線に触れまくりなセリフだ。
っとまあこんな感じだね。
も良いだろうに﹄
﹃キャスターも中途半端な事はせずいっそのこと命を奪った方が効率
﹃あんたって人は
﹃知っているが、それは悪い事なのか
!
い﹄
﹃い か に 優 れ た 魔 術 師 も 呪 文 の 詠 唱 を 封 じ ら れ て は 打 つ 手 は あ る ま
そしてまた││、
撃入れちゃった。
あ、今度は凛が前に出て魔術を使おうと⋮宗一郎氏が詰め寄って1
?
426
!!
?
!?
!
うん、ごもっとも。
ってか、宗一郎さん優しくない
とか言いなが
アニメ見ても思ったんだけど、なんか授業みたいじゃね
今はお芝居だけど、原作でも何故まだ殺していない
ん
あれ
士郎はそれを持って│││。
久しぶりに見た気がするね。あの白黒双剣。
出てきたのは、干将・莫耶。
けど、士郎は咄嗟に投影を行う。
当たり前のように砕かれてんじゃん。
わんこっちゃない。
イバーを撃退した宗一郎氏に強化しただけの木刀って⋮アーアー言
出ないといけないのは当たり前だけどさ、エクスカリバーを持ったセ
士郎以外の二人が倒れてしまっている以上へっぽことはいえ前に
そうこうする内に、遂に主人公が動き出した。
今回の件の説明は全部キャスターがやってくれたしね。
実際のとこは俺自身がほとんど会ってないから分からん。
ま、俺の勝手な考察だけどな。
ものすっごい不器用さんってな感じじゃなかろうかねぇ。
ただ、感情の出し方知らないだけでさ。
事を自ら止めた位だし、わりと感情あるんじゃないだろうか。
だったはずだけど、組織の決まりである任務遂行と同時に死ぬという
元 々 居 た 組 織 と い う か 育 っ た 環 境 の せ い で 感 情 が 無 い っ て 設 定
たもののはずだ。
確か宗一郎氏の戦闘技術の名前は﹃蛇﹄という殺すことを目的とし
ら、対峙した時に本人が殺してないしさ。
?
?
宗一郎氏の服が若干凍ってるし
これは予定より早く士郎のレベルが上がってるってことか
やっぱ出てる
なんか氷のエフェクト出てないか
?
あ⋮。
これはちょいと予想外だぜ。あれはチラッと見せただけなのに。
?
!!
427
?
!!
?
?
キャスターが宗一郎氏の防護魔術追加した。
あらま、士郎がアボンしちゃった。
干将・莫耶と一緒に後ろに弾かれて膝を付く。
ちょ、キャスターこっち睨まんとって
俺も予想外だったんだからさ
こんなに早く徴候が出るとは⋮。
キャスターには時間を稼いでもらわないとな。
というか同時進行か。
そして、俺の仕事はこの後なのだ。
作に沿わせていくって状態だ。
の交渉内容に関する記憶を消してもらって、後は表面上だけだけど原
んで、交渉した後は、ばれないようにする為キャスターに桜ちゃん
う。
ライダーさんの鼻から忠誠心出そうになってたとだけ言っておこ
ライダー縮んじゃったから色々あったけどね。
ちょっとだけだけど、会わせてあげたらすんごい喜んでた。
あ、ライダーの事は言ってあるよ。
あの子、重要人物の割に無防備に一人でいる事多いし。
いつの間にと思うかもしれないが、割りと簡単だった。
実は既に桜っちには会って話をしてある。
やることというのは勿論、桜ちゃん救出作戦だ。
俺は俺でやることがあるからな。
だから、その前に俺はこの場を去ることにした。
ま、答えは聞くまでもなく分かっている。
聖杯を手に入れられるというもの。
内容は聖杯戦争をしなくても、〝ちょっとした〟犠牲を出すだけで
まった。
さておき、そうこうする内にキャスターから士郎に対して交渉が始
!!
何をするかは⋮、まぁ、秘密ってことで。
428
!
◆◆◆
少し離れた場所に在ったコウジュの気配が消えた。
どうやら予定通りもう一つの用事を済ませに行ったようだ。
さて、ここからは私の仕事ね。
﹂
これを終わらせれば宗一郎さまとの⋮うふふ⋮ゲフンゲフン
と、とにかく頑張らないとね。
﹂
﹁ねぇ、私たちと手を組まない
﹁なんだ⋮と⋮
!
きを話していく。
﹂
?
直情的で面白いわ。
﹁どういう⋮事かしら⋮
﹂
その正体をコウジュから聞いてはいるけど、伝説とは違って中々に
それにしてもセイバーは予想通りの反応ね。
バーも、何とか体勢を立て直しそう言い放った。
脳震盪でも起こしていたのか未だ若干ながらふらついているセイ
?
﹁あなた達の目的も聖杯を手に入れる事でしょう
﹂
る方法が他にもあるって言ったら信じるかしら
﹁世迷言を
聖杯を手に入れ
そう内心で感心しながらも表面上は怪しい笑みを浮かべながら続
るなんて。
宗一郎様の一撃には私の魔術も上乗せしてあったのに立ち上がれ
なるほど、コウジュが気にかけているだけの事はあるわね。
いてきた。
宗一郎様に吹き飛ばされた少年が、何とか立ち上がりながらそう聞
?
魔術師としての興味もあるのでしょうけど、損得を抜きにしてまず
コウジュに聞いていたように彼女は敏い。
ふふ、こっちも予想通りの反応ね。
?
429
?
﹁あら怖い。でも、嘘ではないのよ﹂
!
は聞きに来た。
﹁殺し合いなんかしなくても、聖杯は召喚できるのよ。私はもう聖杯
の仕組みは理解したの。協力するのならあなた達に聖杯の恩恵を分
けてあげても良いわ﹂
﹁どうやって聖杯を手に入れるっていうのよ﹂
﹁この土地は聖杯を下ろすに足る霊脈を持っている。あとは聖杯の核
となるものと、聖杯を維持する大量の魔力さえあれば聖杯の力は手に
入るのよ﹂
﹂
﹁結構な話ね。それで、あなたの言う大量の魔力は一体何人の魂を使
えば済むのかしら
さすがは、と言った所かしら。
今の話だけでそこまで推測できるなんてね。
とはいえ、実際そんな事する気はもう無いのだけれどね。
元々死者を出すまではしていなかったとはいえ、人を襲っていたの
は真実。複雑な気分だわ。
はぁ、この短期間であの子に影響されちゃってるわね。
本来の私ならば切って捨てるものを、今は欲してしまっている。
お釣
それから一つ言いたいのだけれど、あなたが言う魔力に関しては、
あなた達のところのコウジュのものを使っても可能なのよ
足りるかしら。けど、十分に運用し続けるには足りないかしらね。
﹁ふふ、そうね⋮。聖杯を呼ぶだけなら、この町の人間すべてを使えば
しかしそんなことはおくびにも出さずに続ける。
頭がまた痛くなってきちゃったわ⋮。
ああ、やっぱり理不尽すぎるわね。
しても元々の純度と瞬時回復量が桁違いだもの。
りが帰ってくる位に、ね。なにせ大量の生成が出来なくなっていたと
?
ま ぁ 安 心 な さ い。幸 い に も 現 世 に は 溢 れ る ほ ど 人 間 が 居 る も の。
﹂
火にくべる薪はいくらでもあるわ﹂
﹁火にくべる薪⋮だと⋮
赤い髪の少年、衛宮士郎だったかしら
その子の琴線に触れたみたいね。
?
!?
430
?
当然の結果と言えば当然ね。この子たちみたいなのには許せない
言葉でしょうし。
﹁もう一ついいかしら
聖杯の核って⋮魔術師の事よね
どういうことだ
﹂
!?
生贄として⋮﹂
?
のかしら
これがコウジュの言っていた﹃しゅじんこうほせい﹄というものな
てるのかしら⋮。
そういえば、なんでこの赤い子が既に脱落して、男の子の方が残っ
素直にそう思う。
本当に優秀ね。教えた者が良かったのかしら。
﹁生贄
品が必要って事になるわよね⋮
ターだけ。でもあなたのマスターは魔術師ではないみたいだし、代用
聖杯に触れられるのはサーヴァントだけだけど、呼べるのはマス
?
?
⋮⋮少し親近感がわくのは何故かしら。
﹁生贄とは野蛮ね。ただ装置として働いてもらうだけよ
﹂
片方の願いを叶えるなんてどうかしら。素敵じゃない
﹂
﹂
さて、返答やいかに
﹁断るわ
﹁俺も断る
﹂
まあ実際
よし、種はまき終わったしこの辺りで戻りましょうか。
は何でかしらね。
でもこの子達を見ているとなんだか眩しくて悲しくなってくるの
はぁ⋮。
そうしてくれれば私たちも遠慮なく裏で動ける。
あなた達はただ突き進みなさい。
そう、それで良いのよ。
﹁答えは決まっています
?
!!
!
?
し飛んでしまうかもしれないけれどね。あなた達のどちらかがもう
にやってもらえば注がれる魔力に耐え切れずに意思というものは消
?
いえ、そもそもコウジュの所為だったわね。ご愁傷様。
?
!!
431
!?
恐らくコウジュの方もそろそろ準備できているでしょうしね。
﹁あらあら、それは残念ね。じゃあ他の子を使うとしましょう。別に
あなた達以外にも一人、ふさわしい魔術師が居るもの﹂
私の言葉に怪訝な顔をするセイバー達。
ほらほら、早く思い出さないとどうなっても知らないわよ
私は宗一郎様に近寄り共に目的地へと転移する。
待ってるわよ。あなた達。
◆◆◆
士郎と凛以外に、ふさわしい魔術師⋮
﹂﹂
﹂
思考を巡らせようとすると、士郎と凛が同時に誰か分かったようで
?
間に合ってください
すぐに追いつく
﹂
家へと入り、慎重に、イリヤが居るであろう居間に向かう。
はただただ不気味なものに思えた。
普段なら夜としては当然のものとして享受していたものだが、いま
既に深夜なのもあり辺りは静寂に包まれている。
た。
元々それほど離れていなかったのもあり、家へはすぐに辿り着い
!!
!!
す。
﹁﹁っ
っ
!?
イリヤスフィールは確かに先程の条件に十分当てはまる
﹂
﹁セイバー先に行ってくれ
﹁分かりました
!!
そう願いながら、衛宮家へとひた走る。
!!
士郎の命もあり、私は急いで家へと戻る。
!
432
?
﹁あいつまさか、イリヤを狙ってるんじゃ⋮
﹁まさか・・・﹂
!?
!?
しかし異変に気付く。
電気が点いていない⋮
桜無事ですか
まさか、襲われた後
慌てて駆けよれば、倒れているのは桜だった。
いや、机の陰に隠れてはいるが誰かが倒れるようにそこに居る。
居ない、か。
そう思いつつも確認の為、中を見る。
もしくはコウジュと共にどこかへ出かけたという可能性もある。
だろうか。
私たちが帰るまで待つと言っていたはずだが、いや、先に寝ただけ
?
﹁え⋮
﹂
﹂
私の胸元で軽く何かが当たるような感覚と音が聞こえた。
トスッ│││。
その時││、
どうするべきか、どう動くか考える。
ない。
自分では彼女の状態を詳しく知ることも、対処する方法も思いつか
おかしい。
眠るように静かではあるが、これだけ呼びかけても反応が無いのは
外傷はないようですが、まさか魔術的な何かを⋮
呼びかけるが彼女の反応は無い。
剣を置き、慌てて桜を起こす。
﹁桜
!? !?
た。
そして、その短剣を持つのは、桜だった。
一体どういう⋮
思考が定まらない。
?
433
!?
!
目線を落とすと、刃が何度も曲がった歪な短剣が私の胸刺さってい
?
﹁ふ、ふふふ、ぬかったわねセイバー﹂
桜から桜の声ではない声が響く。
﹂
この声は先ほどまで聞いていたものだ。
﹁キャスター
た。
キャスター
﹂
﹁ふふ、この子は頂いていくわよ﹂
るが、やはりどこか握り慣れたはずの愛剣が遠くに感じる。
次に何かしてきても即座に対処できるよう聖剣を握る力を強くす
抜かりました⋮。
先程の何かが抜ける感覚はそれか。
できないわ﹂
あなたの宝具は封じる事ができた。あなたはもう聖剣を使うことは
﹁この子の魔力ではサーヴァント契約までは破棄できなかったけど、
﹁ルール⋮ブレイカー⋮⋮﹂
カ│﹄よ﹂
﹁この宝具はあらゆる魔術契約を無効化する我が宝具、
﹃ルールブレイ
る。
られない妖艶な笑みを浮かべながら短剣を掲げるように私へと見せ
私の問いに、 桜 はゆっくりと立ち上がり、普段の彼女からは考え
﹁何をした
﹂
同時に、離れた瞬間手に取っていた聖剣が何故か重くなった気がし
だが次の瞬間、身体から何かが切れる感覚がする。
慌てて桜から離れる。
!
﹁﹁セイバー
﹂﹂
そう、一人悔いていると玄関の方から人の気配が入ってくる。
不甲斐無い⋮。
一瞬そう考えてしまい、その隙には影も形もなく消えていた。
いるだけの本人だ。
追いすがろうとするが、先程の言が正しければ、あの桜は操られて
そう言い残し 桜 は影へと飲み込まれ消えていく。
キャスター
﹁待てキャスター
!!
434
!
!!
どうやら士郎と、凛が着いたようですね。
私は居間から出て、二人の元へと合流する。
﹂
﹂
﹁すみません、油断しました⋮。桜がキャスターに⋮⋮﹂
﹁でもなんで桜が
﹁⋮まさか桜がなんて﹂
﹁遠坂、何か心当たりがあるのか
私の一言に凜が一瞬、悲しさと後悔を織り交ぜたような表情となっ
た。
それに士郎も気づいたのか、凜へと問うた。
士郎の問いに凜は逡巡し、やがてゆっくりと口を開いた。
﹁桜はね、元々の生まれが魔術の家系なのよ⋮。だから、素養はあるん
だと思う﹂
キャスター
そもそも何故キャスターは桜を攫ったのだろうか疑問だったかが
そういうことだったのか。
﹂
﹁じゃぁあ早く助けに行かないといけないじゃないか
が言っていた通りなら桜は
でも⋮、でもキャスターは、恐らく自らの工房で
!
そんな士郎を凜はキッと睨むように見る。
た。
暗く重い雰囲気の中、それを振り切る様に士郎が力強くそういっ
﹁それでも、桜を助けに行くことには変わりない﹂
ならなかった自分が腹立たしい。
今の二人に、更なる絶望を叩き付けるようなこと場を言わなければ
ればなりません﹂
だから、キャスターの元へと行くならば白兵戦を前提として頂かなけ
に よ っ て 私 の 聖 剣 は 封 じ ら れ て し ま い ま し た。申 し 訳 あ り ま せ ん。
﹁士郎、凜。今のあなた達に言うには酷ですが、先程キャスターの宝具
出すことが出来なかった。
ギュッと、音がするほどに手を握り込む凜に、士郎は続けて言葉を
陣取っている。並大抵では救出できない﹂
﹁分かっているわ
!!!
﹁あんた魔術師の工房に突入することがどれだけ危険か知らないの
!?
435
?
?
!!
﹂
それもただの魔術師じゃない。キャスターとして召喚されるほど
の魔術師の英雄よ
でも⋮﹂
士郎は私と凜を、意志が強く籠った目で見ながら言う。
てもらったから、俺は自分に正直に言うよ﹂
﹁出来るか出来ないかじゃなくて、やるって気持ちが必要だって教え
そう言いながら、士郎は一枚のカードを出した。
﹁⋮これを使うよ。ここで使うべきだと思うから﹂
霊たる真価を発揮するでしょう﹂
ていますが、それは条件次第です。陣地作成で創られた拠点内では英
いうクラスは確かにサーヴァントの中では比較的弱いクラスとされ
﹁しかし士郎、無策で飛び込んでも意味がありません。キャスターと
逆に凛の言葉が小さくなっていく。
凜の強い言葉に、士郎はそれでも揺るがない
﹁それはっ
﹁でも、ここで桜を見捨てるなんて選択肢は無い筈だ﹂
!!?
﹁行こう。桜を助けに﹂
436
!!
﹃stage34:めでぃあ☆マギカ﹄
﹁まったく、やりたい放題ね⋮﹂
遠坂が呆れたと言わんばかりに眼前に広がったモノを見て言う。
それに答えることもできず、俺は呆けて目の前に広がるものに圧倒
されていた。
セイバー、遠坂と共に桜を助けるため龍洞寺へとやってきた俺達。
遠坂に魔術的なわなを回避してもらいながらなんとかキャスター
の工房へと侵入することが出来た。
だがそれは工房というにはあまりにも広大だった。
詳しい建築様式は分からないが、古代ギリシャの神殿を思わせる建
物がいくつも並んでいた。
437
授業で習った程度だが、パルテノン神殿を彷彿とさせるものがいく
つかある。
﹁これがキャスターの工房ですか﹂
﹁こんなものをどうやって⋮いや、魔術だよな⋮﹂
コウジュを始め、サーヴァントという存在はやはり英雄と呼ばれる
だけの規格外さがある。
コウジュは何か違う気もするが、根本的なところでは一緒だろう。
ただの魔術師ではその領域には至れやしない。
そんな風に諦観していると周囲の建造物からぞろぞろと何かが出
てきた。
骨
かけ離れている。
頭の部分が大口を開けた咢のみで構成されており、人間の頭部とは
ただ、単純な骸骨という訳でもないようだ。
分かる
だが剣を持つものなど明らかにこちらへの敵意を持っているのが
端的に言えば、見た目は骨でできた人型だ。
?
これもキャスターの魔術という訳だろう。
﹁来たわね﹂
﹁そう容易くいくわけはありませんか。少し数が多い。囲まれる前に
正面突破をしましょう﹂
﹁分かった﹂
﹄
簡単に方針を決めて、出てきた骨兵に全員で突っ込む。
﹃GURUAAAAAAAAA
骨兵は一斉に咆哮を上げる。
rper ist ein K
rper││
﹂
!!!!
同時、遠坂が宝石を複数そちらへと投げた。
﹁Ein K
Ö
どこから声を出しているのか、一目では数えられないほどに現れた
!!
﹂
たちを握った。
﹁行きましょう
﹂
言いながら再びポケットへと両手を入れジャラジャラと次の宝石
らうわ
﹁ふふん、宝石の心配をする必要はないからね。思い切り行かせても
のまま彼らを大きく吹き飛ばした。
複数の宝石はそれぞれが散りばめられながら骨兵へと降り注ぎ、そ
Ö
む。
﹁GUUUUA
斧を手にした骨兵が斬り掛かってくるが、その速度が遅く感じる。
﹂
手に確かな感触が生まれると同時に、俺も眼前の骨兵へと切り込
俺は前にコウジュに見せてもらった黒白の双剣を投影した。
﹁投影開始││﹂
ト レ ー ス・オ ン
ていていい訳ではないだろう。
現在進行形でセイバーが更に道を広げてくれているが、のんびりし
は多い。
遠坂の大量爆破で多くの骨兵が吹き飛んだとはいえ未だにその数
せない動きで骨兵へと切り込んでいく。
キャスターに宝具を封じられたと言っていたが、そんなことを思わ
次に行動したのはセイバーだった。
!
!!!!
438
!!!
俺は冷静に斧を避け、そのまま右手の黒剣をかつんと骨兵へと当て
る。
すると当てた場所がピキピキと甲高い音を立てながら凍り始めた。
よし、有効だ。
これはコウジュに見せてもらった干将・莫邪という双剣の効果らし
い。
コウジュ曰く、ある程度の力量もしくは確率に左右されるが﹃凍結﹄
という効果を齎すことができ、必ずしも斬る必要が無く当てさえすれ
ばいいとのことだ。
そしてここ数日のコウジュにされた修行の成果か凍結の確率は各
段に上がっている。
いや、実際にはコウジュは数日の修行の後これを俺に見せてから修
行には参加していなかったか。
重要な用事があるとかでいくらでも怪我をして良い様にとイリヤ
の監督の下で回復薬等を置いたまま出掛けてばかりだった。
さておき、この双剣は何故かよく手に馴染むし、これの扱いばかり
を俺は練習していたこともあって大きなアドバンテージを俺に与え
てくれている。
この﹃凍結﹄という効果が中々に使い勝手が良いのだ。
直接的なダメージを与えるわけではないが、効果が及んだ際には相
手の動作が阻害される。
相手が早いなら遅くすれば良いじゃない等とコウジュは言ってい
たが、その横に居たアーチャーがそんなに簡単に言うなと呆れていた
のをよく覚えている。
そういえばアーチャーも同じものを持っていたが、起源は同じだが
違う歴史を辿った別物だとか。
・・・
そちらは伝説にあるように﹃引き合う力﹄を持っているらしいが、
今の俺にはこちらの凍結効果を持つ干将・莫邪のほうが助かる。
サーヴァントの様なスピードが出せない以上、コウジュが言う様に
相手の動作を制限するこの干将・莫邪は大いに助かっている。
439
﹁はぁっ
﹂
﹂
﹂
!!
がファンには見せられない。
というか見たくなかった。 ﹁懐を気にしないで良いなんて気持ちよすぎる
だが││、
﹁よくぞ参られた。どうした
だが﹂
﹂
私が門番である事は承知している筈
そう思い更に速度を上げる。
く。
ぱっと見る限りではこの階段を昇れば一番大きな神殿へと辿り着
の手前の階段まで来た。
数ある建築物の間を抜け、骨兵たちを退けながら、奥にある上段、そ
と俺たちは駆け出した。
そっと顔を逸らし、見なかったことにしてセイバーと共に再び前へ
!!
後ろを見ればポイポイと宝石を投げる遠坂の顔はとてもじゃない
学校では決して見られない位にテンションが上がってるお嬢様だ。
まぁ犯人はすぐ後ろに居る奴なのは分かってる。
目の前の骨兵の集団が一斉に吹き飛んだ。
﹁そいやぁぁぁぁ
しかし、俺はすぐに足を止める。
また一体倒したところで次へと駆けだす。
﹁次っ
ている間に追撃を加え倒してしまう。
れたならば走り抜け、効果が薄いようなら多少骨兵の行動が阻害され
邪魔になる骨兵へと双剣のどちらかを当て、凍結して動きが阻害さ
あくまでも俺達の目的は桜の救出だ。
完全に倒す必要はない。
!
階段の途中、やや開けた場所に佇むアサシン。
?
440
!!
それを見て改めて干将莫邪を構える。
しかしそれを見て、アサシンがこちらを制すように手を上げた。
﹁まぁ、待て。貴様たちは先に行くがよい﹂
そうアサシンは俺と遠坂を見て良い出した。
﹂
⋮どういうことだ
﹁ふむ、不思議か
﹂
こと。サーヴァントとして居られるのも後わずか⋮。この身に残る
﹁なに、礼には及ばぬ。お前との戦い、少しでも長く楽しみたいだけの
﹁感謝します﹂
◆◆◆
階段も、あと少しだ。
俺と遠坂はセイバーに後を頼み、先へ進む。
﹁頼んだわよ﹂
﹁頼んだ﹂
﹁分かっています。私もすぐに﹂
﹁セイバー﹂
だが、通してくれるというのなら行くまでだ。
てか、俺には判断できない。
どういう意図で言っているのか、本心なのか、はたまた思惑があっ
のは仕方なかろう
するのは最優のサーヴァント。魔術師の一人や二人を通してしまう
﹁私の使命はサーヴァントからの守護でな。更に言うなれば私が相対
シンが続ける。
思わず怪訝だという表情をしていたのであろう俺の顔を見て、アサ
?
魔力では朝まですらもつまい﹂
441
?
?
﹁アサシン⋮﹂
私と剣を交えたいだけにしろ、今は助かった。
ただ、少しでも長くと望まれても急ぎあなたを倒し、武人として強
・・・・・・・・・
者との戦いを望まぬわけではありませんが、今は先へ進ませていただ
きます。
﹁さて、サーヴァントとしての最後の剣を交える相手がお前という事
を嬉しく思うぞセイバー﹂
⋮
どこか引っ掛かる言い回しするアサシンに内心で首をかしげる。
﹂
アサシンはそれを言った後、おもむろに袖に手を入れ何かを取り出
す。
いや、何かではない。
ここ数日で見る機会は幾度もあったものだ。
アサシン
だが、どうしてアサシンがそれを持って│││。
﹁どうしてあなたがそれを持っているのですか
・・
何を意味するのかは分からないがそう言い構える。
﹁なに、少し気が変わってな⋮﹂
するとそれは溶け込むように消えた。
アサシンは答えず、その取り出したものを胸に当てる。
!!
﹁一体何の事を言っているのですか
私が言いたいのは││
何故アサシンがコウジュのカードを持っているのですか
何故│││、
だが、心の中では今聞けなかった疑問が残り続ける。
私も構えて、魔力を高ぶらせる。
小次郎の剣気が一気に高まる。
くっ
﹁構えよ⋮。今はただ剣を交えるのみ⋮﹂
!?
﹂
!
442
?
﹁これの効果を考えれば死合うのには無粋だが、仕方あるまい﹂
!!
?
!!
◆◆◆
﹁ぐ⋮こんの
﹁⋮⋮﹂
﹂
俺は今、葛木先生、いや葛木と戦っている。
理由は簡単だ。
俺と遠坂がアサシンの横を抜けて階段の最上まで上がると、祭壇の
ような場所にいる桜を見つけて駆け寄ろうとしたが横から葛木が奇
襲を仕掛けてきた。
何とか反応して防ぎ、遠坂を先に行かせて俺が相対している。
そして現在に至る⋮、というわけだ。
だが、当たらない。
葛木の攻撃は素手、対して俺は双剣。
なのに、当たらない。
確かに相手の方が身軽であり、葛木の動きそのものも洗練されてい
る事から基礎的な部分で俺はスピードで劣っている。
とはいえ、間合いは圧倒的にこちらにある。
それでも当たらない。
袈裟、横に一閃、突き、逆袈裟⋮様々な攻撃を仕掛けても、避けら
れ、当たりそうになると少しだけ逸らして、そして避けられる。
幸いなことは、葛木の攻撃もまた俺へと致命的な一撃を当てられて
いないということだ。
干将莫邪が当たれば凍ると知った葛木が警戒して刃に触れないよ
うにしている。
だからこれを盾にして何とか直撃を防いでいる。
ただ、それでも防ぎきれない分があり、俺の防御の隙をついて俺に
向かってくる攻撃が徐々に俺にダメージを与えている。
だがこのままじゃジリ貧には変わりない。
どうすれば⋮⋮。
443
!!
﹂
﹁余所事を考えている暇はあるのか
﹁
﹁ッぐふぁ
﹂
﹂
腹で爆弾が爆発したかのような衝撃が走る。
?
﹁っ
﹂
しまっ⋮
後方へと吹き飛ばされ干将莫邪を手放してしまった。
!!?
﹂
!!!
﹁くっそ
﹁桜⋮﹂
◆◆◆
﹂
今度はこちらからだ
!!
居るんでしょう
今、助けるからね⋮。
﹁キャスター
居ないはずがない。
﹂
私はこれを行っている張本人を呼ぶ。
!!
どこからともなく表れるキャスター。
もの、当然よね﹂
﹁あらあら、少し侮ったかしら。でも、あなたの大切な桜さんの為です
・・・
かれている陣へと桜の魔力が流れているのが分かる。
桜は祭壇の上に虚ろな眼のまま立ち、その周りに桜を中心として引
私は桜が眠らされている祭壇の前まで来た。
!!
に、俺は反動で再び後ろへと飛ばされた。
ガァンと拳と剣がぶつかったとは思えない音が辺りに響くと同時
俺は咄嗟にソードを掲げるように投影で出し、葛木の拳を防ぐ。
﹁やられてたまるかっ
葛木が追撃をかけて来る。
!
!!
!!
444
!?
深く被ったローブから出ている口元には笑みが浮かんでいる。
それにしてもいやな言い回しね。
恐らく私と桜の関係をどうやってか調べたのでしょう。
﹁全部⋮お見通しなわけね⋮﹂
﹁ふふふ、この子の記憶を覗かせていただいたわ﹂
そう言った後、キャスターは目に光の無い桜の耳元へ行き、何かを
﹂
呟く。
﹁っ
あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
!!
りの陣が活性化する。
一体何をしたのよ
く、仕方がないわ。
nder
﹂
﹁桜、ちょっと痛いけど我慢しなさいよ
weih
Set...Los
Z
!
!!
!
!!
桜の元からキャスターが離れると同時、桜が苦しげな声を上げ、周
﹂
﹁う、うあ⋮うああぁ
何を言われたのか桜は何も移さない目をこちらに向けてきた。
!!?
﹂
ら黒い、どこまでも黒く濁った闇が凝縮されたような何かが溢れだし
桜がまた苦しみ出したと思ったら、陣が強い光を放ち、桜の足元か
﹁残念ね、時間切れのようよ﹂
そして無情にも、時間が来てしまった。
しかし、これもまた弾かれてしまう。
﹁これなら
だったらと、今度は宝石で攻撃を仕掛けてみる。
う。
しかし、当たる寸前で桜の前で障壁のようなものに弾かれてしま
﹁くっ⋮﹂
だからガンドを使って意識を飛ばす。
るのだろう。
態々操った状態にしてあるということは覚醒状態である必要があ
魔力を腕に貯め、強めのガンドを一気に放出して桜にぶつける。
ä
!!
445
!!!!!!!!!
てくる。
それは意思があるかのように形を作っていき、うねうねと何本かの
触手のような形を形成していく。桜を守るように存在するそれは、一
本一本が人の腕ほども太い。
なんだってのよあれは⋮。
呟く暇もなくその触手達がこちらへと一斉に迫ってきた。
Einh
nder
﹂
咄嗟に近くの物陰へと隠れ、それを見ていると触手達が一斉にこち
Sechs│ein│plus
!!!
らに来た。
﹁っ
ä
⋮。
﹁んぐあっ
﹂
そして、しまったと思った瞬間には触手達がこちらに殺到していて
た。
足元に形成する陣の外へと飛び出すが、足に少しカスってしまっ
﹁ぐっ﹂
た。
予感通り柱など容易く破壊し、それでもなおこちらへと迫ってき
いやな予感がして柱から離れ、逃げ出す。
しかしそれらは容易く弾かれ、自らが隠れる柱へと殺到する。
る。
慌てて、ガントではなく攻撃用魔術で迫ってくる触手達へと攻撃す
!
けどここで、動かないと意味が無いじゃない
動きなさいよ私の身体
桜はもう目の前なのよ
苦しんでる妹がそこにいるのよ
起こす。
自らの身体に叱咤し、優雅もへったくれもない根性で転がった体を
!!?
!? !!
!!
アドレナリンが出てるからか痛みは感じないのが唯一の救いね。
身体が思うように動かせない⋮。
く。
身体が大きく跳ね飛ばされ、何度もバウンドした後地面を滑ってい
!!
446
!!?
﹁ああぁぁ
﹂
気合を入れるためにも吼えるように声を出す。
﹂
少しずつ⋮少しずつ身体が動かしていく。
立って、あの子の所へ
﹁どうしてそんなに頑張るのかしら
﹂
この子の感情の中にはそれを厄介払いされたという風
おかしいわね⋮。なら何故この子を間桐の家に渡したりした
のかしら
に感じてる部分があるみたいよ
﹂そんなわけない
魔術師の家系は継承を1番上の子どもに伝えるのが習わし
﹂
﹂
お 父 様 も
そ の ほ う が 桜 が 桜 と し て 生 き て
だから﹁つまり妹より習わしを優先したわけよね
﹂
!!
﹁さく⋮ら⋮
﹂
まぎれてしまいそうな声で、しかし確かに聞こえた。
キャスターの声を遮るように、かすかに⋮ちょっとした物音にでも
﹁⋮めて⋮﹂
同じ事が│││﹂
﹁それと、この子が間桐の家で何をされてきたか⋮それを知ってまだ
!?
じ ゃ な い 私 も
﹁
﹁それをこの子が望んだの
いけるようにって
!!! !
?
﹁違う
?
﹁あら
﹁桜が⋮私のたった一人の妹だからに⋮決まってるじゃない⋮﹂
そんなの決まってるわ。
どうして
何とか立てた私に向かって、キャスターが言ってくる。
?
!!
?
!!
﹁やめ⋮て⋮私は⋮⋮望んで⋮﹂
?
﹁ねぇお嬢さん。この子の髪や瞳は昔からこんな色だった
﹂
桜に向かってそう言った後、キャスターは再びこちらに向いた。
﹁中を覗いた私が本当の事を知らないとでも
﹂
キャスターが本当に驚いたと言った体で言う。
﹁驚いたわね、まさか私の呪縛を抜けるなんて⋮﹂
?
?
447
!!
?
?
?
!!
さっきからキャスターは何が言いたいの
!?
髪と瞳の色
﹂
?
﹂
間桐家には、まだ一人だけ魔術を使えるもの
?
加えて言うなら、遠坂の家
?
﹁やめてえええええぇぇぇ
今言われた事が真実なら⋮桜は⋮。
﹁それって⋮﹂
も﹃水﹄。スゴイ偶然ね﹂
のに今のこの子の属性は﹃水﹄。どうしてかしら
﹂
そして、間桐の属性
系であるこの子の属性は高い素養があったのか﹃架空元素・虚数﹄な
いように改造が出来たりするらしいわよ
が居て⋮そいつは蟲をつかって対象の身体を弄って自身の都合のい
﹁これはどうかしら
桜が再び、停止の意を唱えるがキャスターは続ける。
﹁やめて⋮﹂
ヴァント召喚を代替させられるわけが無い。
何か、魔具を使ったんじゃ⋮いえ、そんな簡単に道具なんかでサー
﹁不思議ねぇ⋮じゃあ誰があのライダーを召喚したのかしら﹂
無いのは周知の事実﹂
﹁えぇ、魔術回路を失ってしまって魔術師としての力はもうほとんど
知っていて
﹁そういえば、間桐の家が魔術師の家系として断絶しかけてるのは⋮
昔も大人しい性格ではあったけど、暗くはなかった。
﹁こんな性格だった
いいえ、昔は私と同じ黒だった。
?
?
スターに向かって行った。
!
を弄られていたというの⋮
お父様と、私が思っていた桜の幸せなんて一つも無くて、ただ身体
の家に預けられた日からの事が気になって仕方がなかった。
しかし私の中ではそんなことより、桜があの日、遠坂の家から間桐
忌々しそうに、障壁で触手を弾きながら離れるキャスター。
﹁完全に支配から⋮抜けられたみたいねっ
﹂
桜の足元から出ていた何かは一気に増え、触手の数を増やし、キャ
!!!!!!
?
448
?
﹂
﹁桜⋮本当⋮なの⋮
﹁
﹁違い⋮ます⋮﹂
無駄だったの
本当なの
﹂
あの子の先輩としてではなく、姉として教えてほしい。
だったら、教えてもらえるだろうか
桜自身の意思が戻っているようだ。
ビクッと桜が反応する。
?
﹁違います
﹂
﹂
姉さんは 姉さん達を⋮恨むなんて⋮
られたくなくて
﹁本当の事⋮なのね⋮
ただ、知
!!
桜がポツリポツリと話し始めてくれた。
﹁私は⋮、私は魔術なんか無くても⋮良かったんです⋮﹂
も分からずただ拳を強く握り、血が滲むのもいとわず佇む。
私は自身の情けなさに、気付けなかった悔しさに、どうするべきか
何が⋮姉よ⋮⋮。
それほど気にも止めずに⋮。
髪も瞳の色も変わってるのに⋮。
だけど、まったく気づけなくて⋮。
だ⋮。
桜が、遠坂桜から間桐桜になってからも私は気にかけてきたつもり
のに、私は気づけなかった⋮。
私たちに知られたくなかった⋮。そんなことが桜の身を襲ってる
悔しい⋮。
﹁桜⋮お願い⋮教えて⋮桜の気持ちを⋮⋮﹂
﹁ぅあ⋮ち、ちが、いや、私は⋮﹂
?
!
!
でも、今更かもしれないけど⋮恨まれていたって私は⋮﹂
﹁お願い桜⋮。いままで姉らしい事なんて一つも出来なかったけど、
?
?
!!
私は悔しさに下ろしていた顔を上げて桜の顔を見る。
449
?
!?
﹁私はただ⋮あの家で、姉さんと⋮お父さんとお母さんと⋮一緒に居
れるだけで⋮それだけで幸せだったんです⋮﹂
﹁桜⋮⋮﹂
何で私がこんな目に合ってるの
⋮って。でも、で
﹁本当の事を言うと⋮最初はちょっと恨んだこともあります。私はい
らない子なの
﹁迷惑なわけないじゃない 桜は私のたった一人の妹なんだもの。
めるなんて⋮迷惑をかけるなんて⋮﹂
それで、結局言えなかったんです。送り出してくれた所に助けを求
⋮。
ンを見るたびに、姉さんたちは幸せになれるようにこうしたんだって
もすぐに思いました。そんなことはないって⋮姉さんに貰ったリボ
?
る。
﹁私⋮ひっく⋮⋮私は本当⋮姉さんの妹で良いですか⋮
﹁当たり前⋮。むしろ私が桜の姉で良いのか⋮﹂
良かった⋮。桜が戻って。
そして、黒い何かは消えていく。
陣。
﹂
砕けたのは、桜を囲っていた黒い何かと、祭壇を中心に走っていた
ピシっ⋮と何かにひびが入る音が聞こえた。
﹁姉さんは私の姉です⋮。血の繋がったたった一人の⋮﹂
?
あの触手達は私に攻撃する事もなく、それどころか減っていってい
﹁うぁ⋮うぅぅ⋮⋮﹂
私はいつの間にか桜に近づき、抱きついていた。
そんな事⋮思うわけ⋮ないじゃない⋮⋮﹂
!!
﹂﹂
﹁えーと、良い所ごめんなさいね﹂
﹁﹁
しまった
キャスターの事を完全に忘れていた。
!!
450
?
私と桜は声のした方に同時に振り向く。
!!?
⋮まったく、攻撃するならさっさとしているわよ﹂
慌てて残っていた宝石を手に持つ。
﹁待ちなさい
⋮そういえばそうね、でも何で⋮
﹁ね、姉さん⋮あの⋮﹂
﹁はぁ⋮。あのねぇ
ちょっとは不思議に思わなかったのかしら⋮
後ろにかばった桜が話しかけてくる。
?
!
るのかしら
?
る。
﹁無事でしたか
﹂
セイバーと⋮アサシン
!?
ホントにどういう事⋮
﹁坊やとセイバーはもう聞いたの
﹁はい﹂
﹁はい⋮
﹂
お芝居
え、どういうこと
仕込み
どうしてコウジュの名前
﹁最初から説明するわ││││﹂
???
﹂
簡潔に言うわ、今回の事は全部コウジュの仕込み、お芝居だったの﹂
﹁ということは、お嬢ちゃんだけね。
﹁あ、あぁ。未だに信じきれていないんだけど一応は﹂
?
?
小さくなったアサシンみたいなのが今度は来た。
?
走ってくる士郎。その後ろには、歩いてくる葛木先生の姿が見え
どういうことか考えながら、私は声のした方、士郎へと顔を向ける。
﹁おーい、遠坂、桜無事か
﹂
桜も何かを話したがってるし⋮。
?
どうして、キャスターはいきなりこんなにフレンドリーになってい
そう思えない状況を作ったのは事実ですけどね⋮﹂
何で、敵である私があれだけ親切な事を言っているのかとか。まぁ、
?
?? ?
?
?
451
???
・
・
・
﹁はぁぁぁぁ
﹂
その張本人はどこ
﹂
こに救いに来てした一連の事も全部がコウジュの計画
﹁それで
﹂
コウジュちゃんは私たちの事を思ってしてくれたんです。
だから恩人なんですよ
よかった⋮。
◆◆◆
でも⋮1発くらいは良いわよね
確かに感謝しないといけないわね。
はぁ⋮。
それは桜も同じことらしく、どこか吹っ切れたという感じがする。
ら今までギリギリ我慢してた物が溢れてやまない。
さっきまであんな事をしてたけど、私たちの間の壁がなくなったか
ダメだ、桜には勝てない。
﹁うっ⋮桜がそう言うなら⋮﹂
!!
﹁姉さん
気がするわ。
思わず拳に力が入る。今ならあの厄介な障壁も素手で壊せそうな
!!?
!?
私たちがキャスターたちを狙うのも、桜が攫われるのも、そしてこ
!!!?
自分なりに色々と考える事があった身としては、
が全部コウジュの計画だと言うのにも驚きだった。
遠坂と桜が姉妹だったってのにはびっくりしたし、今回の1連の事
?
452
!!
!
いささか納得できない部分もあるが、桜達のためだったんだし構わ
ないか⋮。
2人が嬉しそうにしてるのを見ると仕方ないと思える。
それにしても、計画した張本人は一体どこに│││
パチ、パチ、パチ、パチ⋮⋮
突然、気だるげな拍手が辺りに響き渡る。
コウジュか
﹁中々に良い余興であった⋮﹂
だがコウジュじゃないことはすぐにわかった。
続けて発せられた声からして男だ。
そして声のした方向を全員で見る。
そこには黄金に身を包んだ男が居た。
?
﹁しかし、飽いた。舞台の終わった役者はさっさと降りろ。目障りだ﹂
一体何が起こってる
この男は誰なんだ
?
これもコウジュのシナリオってやつなのか⋮⋮
?
?
453
?
﹃stage35:5000円/グラム位でいけるか
な⋮あれ⋮﹄
いつの間にかそこに居た、黄金の鎧に同色の髪そして紅い瞳の男。
更には視界全てを埋め尽くすほどに浮かぶ武器。いや、宝具。
⋮ありえない。
コウジュという存在を知っていてもなお、信じることが出来ない光
景だ。
むしろこちらの方が目に見えた脅威としては上だろう。
そして何故か、あれらが何であるかが頭の中へと流れ込んでくる。
正確にはどういった類のものであるかや何かの原典であるという
程度のもの。中には理解を拒否するものまである。
い。
だが⋮、いやよく考えたら身近に聖杯戦争に敗れても尚生存してい
る存在が居るではないか。
454
修行の際にコウジュに言われた事、﹃武器⋮特に剣等場合は注意し
て見ろ﹄というのを思い出して見たわけだがあまりにもな情報量、そ
してその内容に圧倒される。
そして今の状況がどれだけまずい状況かということも分かった。
しかも全ての宝具の刃先がこちらを向いているのだ。
あれら一つ一つが俺達を殺してなお余りある力を持つのは確かだ。
既に疲れが貯まっている俺達でどれだけの事が出来るだろうか。
まぁベストコンディションだったとしても難しいだろうことは容
易く分かる。
それにしても、こいつもサーヴァントなのだろうか
なのに8人目
だが聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは7人と言っていた筈だ。
?
概要を聞いただけしかない俺では根本的な部分での判断ができな
?
もしかするとあいつもそういう生存し続けた存在か
どうであろうと関係ないか。
問題はどうやってこの状況を打破するかだ。
﹁では失せろ。雑種共﹂
﹁予定と少し⋮違う⋮わ⋮
﹂
しかし、それよりも早くキャスターと葛木が俺たちの前に出た。
を盾に前へ出ようとする。
俺の後ろに居るセイバーに遠坂、桜を守ろうと回収していたソード
まずい
がこちらへと撃ち出されるように向かってくる。
黄金の男が事も無げにそう言った瞬間、空中に浮いていた宝具全て
?
ジを受けていく。
﹂
違って、はためくキャスターのローブも葛木の拳も目に見えてダメー
そして、合わせて葛木が弾く数も増えていき、さらに先程までとは
だが、少しずつキャスターの障壁を抜ける宝具の数が増え始める。
それでもキャスターは弾き続けていく。
具そのものが内包する神秘のランクも上がった。
そして次の瞬間、向かってくる宝具の勢いが増し、打ち出される宝
それに対し、黄金の男が舌打ちをした。
﹁⋮⋮ちっ﹂
はいない。
ていくため、その更に後方に居る俺たちの元へは一本もたどり着いて
多重に張られた障壁を時たま貫通する宝具も葛木によって弾かれ
を始める。
その状態でキャスターが弾き損ねた宝具を素手で殴り飛ばし、援護
そして葛木は懐から青い腕輪を出し、腕にはめた。
く。
前に出たキャスターは障壁を張って飛来してくる宝具を弾いてい
﹁だが、多少ずれる可能性があるとも言っていた﹂
!!
﹁宗一郎様⋮あと何分ですか
?
455
!!
﹁後1分だ﹂
キャスターたちが何か会話を始めた。
宝具の弾幕が障壁に当たる音で少ししか聞き取れなかったが、後1
分とは一体⋮。
﹁小癪な⋮だが⋮⋮﹂
黄金の男が、次は片手を上にあげたと思ったらその手に3本の剣が
収まる。
そしてそれをこちらに投げてきた。
その所作はとても軽い。
しかしその三本は恐るべきことに、撃ち出される宝具よりも早く
﹂
キャスターと葛木へ駆け抜けた。
﹁っ
﹁むっ⋮﹂
キャスターが驚く。
咄嗟に障壁をさらに重ねて展開した。
だが次の瞬間、そのまま3本の剣がキャスターと葛木を貫いた。
同時にキャスターの障壁が砕け、他の降り注いでいた宝具がキャス
ターと葛木を襲う。
耳がおかしくなるほどの轟音が響き、巻き上げられた土煙で視界が
塞がれる。
しばらくして、宝具の弾幕が止まる。
しかし不思議と、俺達には1本も当たらなかった。
遠坂、セイバーへと目配せするも無傷だ。
俺達が居る場所から少し離れれば、そこは暴力的な豪雨として降り
注いだ宝具たちの所為で穴をあけるどころか地面をめくりあげ幾つ
ものクレーターを作り上げているのに、だ。
だが、その疑問の答えはすぐにわかった。
徐々に晴れていく土煙。
その中から出てきた二人が全て防いでくれたからだ。
そしてその分、キャスターと葛木は幾本もの宝具に貫かれていた。
ギリギリ頭部や心臓といった致命傷は防げているがそれだけ。 456
!!?
手足や腹部に刺さった宝具が俺達の言葉を失わせる。
﹁どうして⋮﹂
﹁坊やたち⋮は⋮いいから後ろに下がって⋮なさい⋮⋮﹂
俺の口からやっと出た言葉をキャスターが遮る。
口元から血を流しつつも、笑みをやめないキャスターは黄金の男の
方を改めて向く。
﹁⋮⋮時間だ﹂
葛木が同じく血を口元から流しながら言った。
それにますます笑みを強くしたキャスターは驚く行動に出た。
﹂
﹂
﹁あらあら⋮全然効かない⋮わね⋮あなたの正体を聞いた⋮けど⋮こ
の程度⋮
﹁何だと雑種
このタイミングでの挑発。
俺たちは動けず、キャスターたちは放っておいても死んでしまうだ
ろう程の傷を負っている。
対し、黄金の男はもう何も話さずただ腕を上げる。
再びその背後に現れる幾つもの宝具。
先程あれだけ使ったというのに先程と同等、ひょっとすればそれ以
上の宝具を空中に待機させた。
﹂
そして男は、軽い動きで腕をこちらへ振り下ろした。
﹁ところがぎっちょん
って、コウジュ
ら目の前に躍り出た。
白い影、表現がおかしい気もするがどこからともなく声を上げなが
!!!!
彼女は立っているのがやっとのキャスターたちを飛び越えその更
よく見れば白い影というのはコウジュだ。
!?
457
?
?
に前へと降り立つ。
そこへと降り注ぐ無数の宝具。
絶望的な状況だ。
﹂
だが彼女なら、
﹁はうあっ
キャスターたちと一緒に貫かれた。
こうじゅぅぅぅ
何しに来たんだよ
!!!?
ん
やっぱりMだったのかって
よし復活
まれ身体が修復される。
そんな風に僅かな後悔と懐かしさを抱いている内に、視界が光に包
ど、ほんと止めとけばよかった。
飛び込んでしまえばあとは成る様にしかならないからやってるけ
裏を走ったけどね。
ア チ ャ 夫 の 無 限 の 剣 製 に 貫 か れ た 瞬 間 が 走 馬 灯 の よ う に 脳
アンリミテッド・ブレイド・ワークス
まぁでも想定の範囲内だ。
にクライマックスだったでござる。
用事を終わらせて予定の時間になんとか間に合ったと思ったら既
い、痛い⋮⋮。
◆◆◆
た。
黄金の男も思わず呆けてしまったのか宝具の弾幕を止めてしまっ
!?
そんなわけはねーよ、全力で否定させてもらうぜ
?
458
!
!!
俺がわざわざやられに来たのは│││、
!!
?
﹁覚えた
ゲート・オブ・バビロン
﹂
︵デデーン
王 の 財 宝
││覚えるためだ
!!!!
でも、ただ覚えたわけじゃないんだぜ
身の能力として覚えたのだ
スキル
を打ち出すのは奴が持ってる宝具、王の財宝の力だが、俺は今、俺自
黄金の男⋮金ぴかが使ってる技、空中に浮いてる数々の宝具とそれ
?
いや、さすがにもう分かるシチュエーションだよね。
!
オレ
その力は我の⋮⋮それ以前に何故生きている
﹂
!?
のではなくおびただしい数の│││││
│││マシンガン︵笑︶
かったようだな。
い や、所 詮 は 猿 ま ね か。王 の 財 宝 を 真 似 た の は 良 い が、中 身 が 無
てるとでも思っているのか
﹁ふん、なんだそれは。そのような数が多いだけの現代兵器で我に勝
オレ
ただ、金ぴかとの差異があるとすれば、俺の方は剣や槍といったも
俺の背後の空間から金ぴかと同じように武器達が顔を覗かせる。
体に馴染んできた。
いくつか空間を扱う技術に触れたのもあってか、なんとなくだが身
うん、コツが掴めてきた。
﹁そう、王の財宝だよ。そして悪いね。覚えさせてもらった﹂
﹁バカな
勿論メインは桜っちの方だけど、まぁ何とか間に合った。
今後金ぴかを相手にする場合、強力な面精圧武装は必要だ。
してみた訳だ。
んだけど状況が状況だったのでダイレクトアタック︵やられる側︶を
本当なら直接受けるのではなく、見ることでヒントを得ようとした
だ。
たからやってみたけど、中々感覚が掴めないからこんな事をしたわけ
いつだったか貰ったメールでもその内できるかもって書いてあっ
!
?
459
!!
!?
オレ
財を名乗るなら、我の物ほどは無理であろうが多少は少しマシなも
のを用意せぬか﹂
尊大な仕草でそういうギルガメッシュ。
ちょっとムカ⋮。
精々吠え面フラグ乱立してろ
た
確かにこれらは貰い物だけど、ゲームの中とはいえ愛用していたも
のや思いである子達なんだ。
ま、まぁ、別に良いけどね
!
﹂
?
﹂
行くぜ英雄王。武器の貯蔵は十分か
﹁試したら分かるよ
?
でも窮鼠猫を噛むって諺もあるんだ。
それに俺が弱いのも確かだしね。
ビーストだし。まぁなれるのは狼だけど。
わんわんわーんってさ。
何ならほんとに吼えようか
﹁ふん、弱い犬ほどよく吠えるというが正しくその通りだな﹂
劣らない活躍をしてくれるんだぜ
﹁バカにしてはいないさ。ついでにいうと、この子達はあんたの財に
てるだろうけどな
だしその頃には八つ裂き⋮は銃じゃできないから⋮、ハチの巣になっ
!!
?
て考えていた。
﹂
﹁弾符﹃メセタ・フィーバー﹄
﹁ふん、行けぇっ
﹂
!!!!!!
そこで、俺は王の財宝を覚えた上で対抗するためのスペルを前もっ
ころで意味が無い。
まう。それ以前に俺が今出しているような射撃系武器は射出したと
それだと俺の武器たちは金ぴかほどの数が無いから押し負けてし
〟するだけだ。
俺が今覚えた能力はこのままだと〝武器を倉庫から取り出し射出
して形にしていく。
俺は白紙のカードを取り出し、いま手に居れた能力を一つの能力と
!
460
!
!!!!
俺の宣言と同時、背後に浮かび上がっているマシンガン系武器が一
斉に撃ち出す。
金ぴかもまた宝具たちを射出し始める。
俺の武器が連続射撃系武器なこともあって轟音に次ぐ轟音。ビー
ストでなくとも耳を塞ぎたくなるような音が響き続ける。
﹂
﹂
そしてその音の中、金ぴかの武器達と俺の銃達の弾丸が互いを撃ち
落とし合っていく。
狙い通り
﹁なにぃっ
﹁HAHAHA、どんなもんだこのやろー
るのだ
だからメセタ、つまりお金が無くならない限り撃ち続ける事が出来
ことだな。
じゃない〟戦法。魔力が無いなら別の物を犠牲にすればいいという
そこで考え付いたのが某〝パンが無いならケーキを食べればいい
う。
てしまったから、現状の限りある魔力ではその内に押し負けてしま
この間キャスターの策略︵未だ根に持ってる︶で魔力供給が途切れ
つというもの。
この技はPPを消費して行う技ではなくお金を消費して弾丸を放
だ。
メセタフィーバーってのは、PSPo2に出てくるマシンガンの技
バレット
ま、簡単に言えば﹃メセタ・フィーバー﹄こいつがキーワードさね。
ないんだろうな。
何故ただの弾丸に見えるものが宝具を弾けるのか、まったく分から
くふふ、驚愕している顔を見てすっとするぜ。
!!
無駄に貯まっていたメセタ︵当然この世界では使えない︶が倉庫に
入ってたから弾はそうそう無くなりはしない。
睡眠時間やら何やら犠牲にして無駄に貯蓄した数千万を味わうい
い。 461
!!? !!
この世界で使えるお金は全然持ってないけど、何故かゲーム時代に
!!
あとついでに言うと、金ぴかの宝具を打ち出すというのは、一つ一
つの真名解放を出来ているのではなく通常時の宝具の神秘に依存し
ている程度の筈だ。
﹂
対して俺の宝具の効果発動は俺の能力によりテキストデータから
概念を抽出している。
つまり││、
﹁マッハでハチの巣にしてやんよぉ
あはははははは
宝具︵金ぴかの︶がゴミのようだ
!!!
!!
る。
そして宣言。
﹁終戦﹃フィーバータイム﹄
﹁ふぉいやー
﹂
﹂
ル、ショットガン、グレネード、レーザーカノン。
ハンドガン、ツインハンドガン、クロスボウ、ロングボウ、ライフ
そうこうする内に出てくるマシンガン以外の重火器。
味が無い。
いやいやいや、どっちにしろ使えないんだ。ケチってやられては意
けの数で撃つとなるとだいぶ減るだろうなぁ⋮。
元々ゲーム内通貨なわけだし、今世でも使えないものだけどこれだ
装填する技は勿論メセタフィーバー。
いうもの。
効果は、マシンガンだけでなく全ての重火器を取り出しぶっ放すと
マシンガンを撃ち続けたまま、追加スペル発動。
!!!
カードを取り出し、またしても効果を想像しスペルカードを作成す
んじゃ、次に行こう。
ね。
いくら、ランクSのものを使おうとも拮抗がやっとこさみたいだ
まぁ、マシンガンは元々一発の威力がかなり低い。
見ろ
!!!!!
﹂
金ぴかが本腰を入れて宝具を撃ち出して来る。
﹁ちいぃぃっ
!!! !!
462
!
その数は今までの火ではない。
だがしかし、時すでに時間切れだ
いる
戦争は数だよ兄貴
跳弾がっのわぁっ
剣も来てぇ
﹂
!!!
跳弾
﹂
﹂
弾ききれません
!!!
お前が撃ち出す宝具の数よりも、こちらの弾数の方が若干上回って
!!
今かすっイヤー
!!!
﹁ちょ、コウジュ
かすった
﹁コウジュ止めてください
﹁キャァー
﹁⋮はう︵ばた︶﹂
あれー
!! !!
はて
井が歪み始めた。。
かくまるで空間そのものが軋むように音を発し、遠くに見える壁や天
そして続けて聞こえてくる、ゴギガガガギゴ⋮じゃなかった、とも
!!!
しちまったわけか
こりゃ、やばい。
﹁ちっ、空間が持たんか⋮おいそこの雑種
何かを言ってくる。
﹂
﹂
﹂
王の財を真似るという大罪、またすぐに償わせてやる
﹁なんじゃいの
﹁貴様
覚えておれっ
!!
?
!!!
いつのまにか互いに撃ち合いをやめており、金ぴかは俺に向かって
!!
!?
殿の保持ができな状態で、あれだけの宝具やら攻撃やらで空間も飽和
けど、術者︵キャスター︶は後ろで死んでる︵リアルに︶んだし、神
そうか、一応ちょっとやそっとじゃ壊れないようにしてとは言った
てる
やっべ。とにかく撃ちまくったから、流れ弾でこの空間が潰れかけ
って、あ⋮⋮。
?
463
!!?
?
!!
!!
!!
!!
!?
!
い や、空 間 移 動 系 宝 具 の 原 点 を
それだけ言って、金ぴかは消えた。
何その噛ませ犬発言。
っ て か、今 の 霊 体 化 し た の か
持っててもおかしくはないからそっちっぽいかな。
いいなー。王の財宝︵もどき︶は手に入ったけど、どうせなら中身
も欲しいな│。
確かに俺が持ってるのは規格外だけど、どうやってもPSPo2の
世界観上近未来的なのとかが多いから、明らかに宝具っぽいのも欲し
いっす。
ふむとかのんきなこと言ってないで脱出の手伝いをしな
﹁ふむ⋮⋮﹂
﹁こらー
﹂
!?
れそうだ。
扉その辺にない
!!
失敗しても俺を恨むなよ
﹂
!!
を探す。
﹁あんたがなんか考えてる間に消えたわよそんなもんは
﹂
・ω・`︶
出口に続く道も無くなったじゃない
﹁すまん
だから、ちょっと荒っぽくなるけど仕方ないよね。
ムカ着火ファイヤーしちゃう前に行くとしますか。
凜ちゃんが激おこぷんぷん丸︵
!!
キャスターの御陰で空間移動の感覚がちょっとはマシになったし
現状どうしても距離とかの制約が着いてしまう。
実はこれ、あんまり練習出来てないんだよね。
を能力で操作し、士郎達の方を向く。
の付いた巨大なナイフを逆手に持ち、内包する﹃空間操作﹄の概念
インダガ│を出す。
俺は、﹃ツミキリ・ヒョウリ﹄、以前にイリヤとライダーに見せたツ
!!
ってああ
さっさといつものスペルを使っていつものように移動しようと、扉
﹁扉
﹂
早く何とかしないと空間がどうにかなる前に俺が凜ちゃんに殺さ
やばい。そうだヤバい状況だったんだ。
さいよ
!!
!!
!!
464
?
´
!!
たぶん行けるとは思うんだけどね。
ツミキリ・ヒョウリ
空間を切り裂けっ
﹂
!!!
恨むなってどうい│││﹂
﹂
﹂
!! !!
﹁え、ちょっと
﹁答えは聞いてない
﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁いやあああああ
﹁っ
﹁うわあああぁ
ヒョウリを士郎達に向かって振り下ろす
!!
!?
!!!
が何とかしてくれるだろう。
とりあえずは上手くいった⋮かな
﹂
﹂
あれ、そういえば小次郎どこ行った
⋮⋮あれ
◆◆◆
﹁うわあぁぁ
﹁きゃあぁぁぁぁ
﹂
で斬られたと思ったら落ちる感覚と共
?
﹁⋮
俺たちはコウジュに双剣
に黒い空間に飲み込まれた。
?
そんな、緊張感がない事を考えながら俺は飲み込まれていった。
神殿が崩壊しちゃったし、これは怒られるかなぁ⋮。
すかさず俺も、キャスターと宗一郎氏を抱えて裂け目に飛び込む。
?
若干一名気絶したままだったのでそのまま落ちて言ったけど士郎
いく。
思い描いていた空間の裂け目が士郎達の足元に出来、飲み込まれて
!!!
!?
?
!?
﹂
ぐぇっ
﹂
しかし暫くすると視界が明るくなり始め││、
﹁ぐはっ
﹁きゃっ
!? !?
!!?
465
!!?
!?
﹁くっ
﹂
││地面にビタンと打ちつけられた。
ついでに背中におも⋮ゲフンゲフン⋮遠坂様が乗ってこられまし
た。
セイバーは横で着地したようで、カシャンと具足の軽い金属音と共
に降りてきた。
俺が抜け出そうとしたでもぞもぞ動いていると、状況に気付いたの
か遠坂が飛び跳ねるように避けてくれた。
続けて俺も何とか立ち上がり、状況を確認する。
﹂
とりあえず桜はセイバーが途中で抱きかかえてくれたのか無事だ。
﹁ってあれ、ここって柳洞寺の門
があって隠してるわけではないと思う。というかコウジュが言うな。
ニヤニヤしながら、チート野郎めとか言ってきてたから大した理由
た。
助かるって言えば助かるんだけど、ちょっとだけ気味悪くなってき
減教えてくれないだろうか⋮。
今更だけど、この武器の情報が分かるというのは何でなのかいい加
空間を移動できるくらいの宝具だから低い訳もないか。
な。
あの法具は見ても分からなかったからかなり高ランクってことだ
のが能力だったのか。
確かにここは柳洞寺の門前⋮ってことはさっきの双剣は移動する
遠坂の声に反応し、俺も当たりを見渡す。
?
﹂
⋮⋮現実逃避もここまでにしておこう。
﹁皆無事か
じゃあ後はコウジュだけ││、
﹁私もだ﹂
﹁私も問題ありません﹂
﹁私は大丈夫よ。桜も居るわ﹂
?
466
!?
││っ
﹂
﹁今一人多くなかったか
﹁私の事か
﹂
?
﹁あ、あんた何で⋮﹂
﹁ふむ
私はずっと居たぞ
え
﹂
た少年だった。というか小さくなったアサシンだった。
そこに居たのは青い着流しに長い髪を一つに結った古風な男に似
!?
!?
?
おい⋮。
!!
﹁すたんっ、着地っと。10点
﹂
アサシンがごく平然と何かを話そうとするが、すぐに遮られた。
﹁ああ、そのことかそれは│││﹂
くなるのも当たり前だろう。
が目の前で貫かれて倒れていくのを見せられたんだ。遠坂が言いた
とも敵ではなくなった。かばってくれたりもしたし⋮。そんな2人
あの二人は敵だったが、コウジュの計画だった事から味方、少なく
言っているのだろう。
遠坂はさっきの、キャスター、葛木と黄金の男との戦いの際の事を
﹁あんたサーヴァントなら闘いなさいよ
﹂
﹁ただ、私はずっとクラススキルで姿を消していたがな﹂
記憶にない。
いや、確かに金色の男が表れる前に居たのは覚えてるが、その後は
?
仕方をしたコウジュの手にある二つのモノに目をやる。
そう安堵したところで、バーンという効果音が似合うような登場の
良かった。
れたようだ。
少し遅れてきたが自身も無事にあの宝具であの神殿から抜けて来
コウジュが上から何かを二つ抱えて目の前に落ちてきた。
!!
467
?
何この状況
﹂
キャスターと葛木の死体だ。
﹁おおぅ
?
キャスター達だよ
ああそっか士郎達は知らんかったっけ。
?
﹂
?
﹂
﹁あのさ、柳洞寺に居た筈なのに何でいつの間にか俺の家に居るんだ
・
・
・
て俺も同じように門を潜った。
あまりにも普通に置いて行かれたので一瞬呆けてしまったが、慌て
セイバーとアサシンは無言で同じように入っていく。
中に入っていった。
遠坂は頭痛が痛いとでも言いたげに頭を押さえながら同じように
・・
﹁ああ、忘れてたわ⋮学校の時のもあの子だったけ⋮﹂
く。
そんな風に先程の疑問を口にしていると、俺の横を遠坂が歩いてい
﹁というか起きるってどういうことだ⋮
しかし声を掛ける暇もなく、コウジュは奥へと消えていった。
身長足りないから擦ってる擦ってる。
かカードを使いながら柳洞寺の門をくぐって中へと入っていく。
そう言いながら、コウジュは2人の遺体を改めて肩に担ぎ直し、何
大丈夫、多分もうチョイしたら起きると思うから﹂
﹁ん
﹁コウジュ⋮それって⋮⋮﹂
?
を越え、中にある家屋の引き戸を開けたらそれは俺の家の引き戸に
なっていた。
後ろを見たらやはり柳洞寺の階段が写っているのに、前を向いたら
468
?
さっきまで柳洞寺に居た筈なのに今は俺の家に居る。柳洞寺の門
?
俺の家の中⋮。
今更な気もするが思わず口に出てしまった俺は悪くない筈だ。
あ、桜は近くの部屋に真っ先に寝かせてきてある。
﹂
﹁説 明 め ん ど い か ら 俺 の 能 力 で 空 間 繋 げ た 結 果 だ と 思 っ と き ゃ い い
よ。そういやさ、さっき何の話してたんだ
﹁いいけど、その次は私の質問だからね
なんだろう、このやるせない気持ち⋮。
別にえらぶろうってわけじゃないけどさ⋮。
なぁ、俺ってここの家主だよな
いたキャスター達を下ろし、自身の疑問をぶつけてくる。
俺がぽろっと言ったことへの回答を投げやりに答えながら、担いで
?
何かあったのだろうか
ぐに何故か床に手を付きながら落ち込み始めた。
それを見てコウジュは噴き出した︵俺もちょっと危なかった︶が、す
ている。
太刀はその小さくなった手には大きいようで刃先がぐらぐらと揺れ
アサシンが立ち上がり刀を取り出して握るも、身長の2倍はある大
﹁ぶはっww ちょ、それ⋮⋮って俺笑えねぇじゃん⋮﹂
かったのだ﹂
だがな、ほれ、このように身体が小さくなってしまって刀が振れな
﹁うむ、最初は当初の予定通り私も時間稼ぎに参加しようと思ったの
﹁あ、小次郎隠れてたんだ﹂
たいなこと言ってたくせにさっきまでずっと隠れてたらしいわ﹂
さっき話してたのはアサシンの事よ。こいつバトルジャンキーみ
?
それからそっちの死体やってる二人も。
﹁アサシンが小さくなってるのはどうせアーチャーの時と一緒なんで
しょ
うスキルをあんたが持ってるのは聞いたし、今更あんたが何しようと
あんまり驚かないわ﹂
遠坂は幾らかを察したのかおざなりにだがそう言った。
469
?
コウジュの為にも聞かない方がよさそうか。
?
どういう理屈かはこの間そこまで教えてくれなかったけど、そうい
?
すまない、魔術にもあまり詳しくない俺では理解するのにはもう
ちょっと時間がかかりそうだ。
魔法ってほんと何なんだろう⋮。
﹁私が聞きたいのは今回の事件を起こした理由よ。それからあの金ぴ
﹂
こっちは桜の事とか色々焦ったんだ
かの奴。キャスターが言ってたけど、全部あんたの掌の上だったんで
しょ
﹁まーね﹂
﹁まーねって⋮軽すぎるだろ
いくら何でも怒るぞ
﹂
そのようには似合わない、大人を思わせる表情。
ここ数日でも何度か見た、コウジュの表情。
まただ。
軽い口調とは裏腹に本当に申し訳なさそうに言ってくる。
﹁ゴメンな⋮﹂
﹁そんな目されたら強く言えないじゃない。まったく⋮﹂
それは遠坂も同じだったらしく│││、
卑怯だ⋮とも思う。怒れないじゃないか。
したその瞳は俺に何も言わせなくする。
いつものおちゃらけていて楽しそうな瞳ではなく、ただ真剣さを映
コウジュの紅い瞳に見入る。
俺はハッピーエンドが好きだ。それの為には必要な事なんだ﹂
でも、今のままだと俺が見たい未来には行き当たらない。
方ないことだ。偽善者って言われるのも仕方ない。
これは完全な俺の押しつけだよ。余計なお世話って言われても仕
為ってのが大きい。
俺自身の為って部分も確かにある。でも、キャスターの件は士郎達の
いんだ。だから今回みたいな事を起こした。金ぴかのあいつの件は
﹁ホントに悪いね。でもさ、あんたらには嫌でも強くなってもらいた
てくる。
声を荒げて言う俺にコウジュは唐突に真剣な顔になって、俺に言っ
ぞ
!
!!
?
イリヤにもあるが、子どもの様にはしゃぐくせにこういった時はそ
470
!!
話せるとこまでの説明をしてく
の顔に子どもを暖かく見守る大人の様な慈愛が見て取れる。
﹂
﹁はぁ、もう良いわよ⋮。それで
れるんでしょうね
?
﹂
まぁ仕方ないか。士郎、この二人寝かせるのにどっか借りて良い
遅い。先生さんの方は先に起きても良い筈なのに。
﹁ああもちろんだ。っとちょっと待ってくれ。キャスター達の蘇生が
?
気付けばコウジュは、いつもの常にどこか嬉しそうにしてる彼女に
戻っていた。
﹂
どっちが本当のコウジュなのだろうか
﹁士郎
?
﹁大丈夫か
﹂
コウジュが出てすぐ、遠坂は机に項垂れた。
﹁はぁぁぁぁぁ⋮﹂
シンと共に部屋を出ていく。
そんな俺を見て首をかしげながらもコウジュが二人を担いでアサ
﹁私が見ておこう﹂
﹁さんきゅ﹂
って、何を焦ってるんだか俺は⋮。
思わず、焦って声がどもった。
顔を覗き込んでいた。
違うことを考えていたからか反応が遅れてしまいコウジュが俺の
﹁あ、ああ。空いてる所を適当に使ってくれ﹂
?
るけど、戦いの後なんだ。
コウジュの空気に乗せられて普段みたいに居間に居るから忘れて
そう⋮だよな⋮。
どっかに当たる事も出来ないし﹂
だ か ら。し か も、詳 し い 事 も ど こ ま で 聞 け る ん だ か 分 か ら な い し、
﹁大丈夫なわけないでしょ。正直満身創痍よあれだけの事があったん
?
471
?
今日だけで死を覚悟しなければならない目にあったのは何度あっ
ただろうか。
そんな風に改めて今日の事を思い出したからか、ドッと疲れが出て
きた。
﹂
﹁どうせだったらコウジュに先に回復して貰うんだったわ。戻ってき
たらしてもらおう﹂
﹁同感だ⋮﹂
そうこうする内にコウジュが戻ってきた。
遠坂が今言ったように回復だけしてもらい話を続ける。
﹁さて、話の続きだけどどこから言おうかねぇ﹂
﹁とりあえずはあの金ぴかの事からで良いわ。一体何者なの
﹁あいつは│││﹂
﹁あの者はアーチャー。前回の聖杯戦争に召喚されたサーヴァントの
一人です﹂
コウジュの言葉に重ねる様にセイバーが言った。
﹂⋮っ
どうしてそれを
﹂
﹁⋮⋮。コウジュの言う通り、私はあの者に聖杯戦争の中求婚されま
!?
大火災。
セイバーは前回の聖杯戦争でも召喚され
その単語を聞いた瞬間、町が燃えていくあの光景が、町の皆が助け
を呼ぶ暇もなく燃えていき、呼べてもすぐに炎に飲まれるあの地獄が
脳裏に浮かんだ。
﹁前 回 私 は 最 後 の 二 人 ま で 残 り ま し た。も う 一 人 は あ の 黄 金 の 男 で
す。マスターは分かりません。いえ、あの者の正体も結局掴めません
でした﹂
472
?
今まで黙っていたので少し驚く。いや、知っている事の方に驚く。
﹁あの者に私は﹁求婚された
!?
﹁今更その辺は気にしない気にしない﹂
?
した。勿論、斬って捨てましたが﹂
﹂
﹁ちょ、ちょっと待って
てたの
!
﹁はい。そしてあの者と剣を交えています。あの大火災の中で⋮﹂
!?
﹁どういうこと
ましたか
﹂
あれだけ派手に宝具を使ってるんだから分かって
﹁では、凛。あの数ある宝具の中に一つでも見覚えがあるモノがあり
も良さそうなのに﹂
?
﹂
らしい。
?
いや待って、真眼とか初めて聞いたんですが
呼ぶあの男は誰でしょう
﹂
﹁さて問題です。数多の宝具の原典を湯水のごとく使い、自身を王と
しかしそんな俺は置いておいてコウジュは続ける。
?
そこで指をピンっと一本立ててコウジュは続けた。
全然みたいだけど、それでもいくつか分かったみたいだね﹂
実は士郎には真眼スキル、剣とか限定だけど適性があるんだ。まだ
﹁ああ。それと、士郎が言った原典ってのは本当だよ。
﹁コウジュはあの者を知っているのですね
﹂
良くわからない事だらけだが、コウジュが俺の続きを言ってくれる
言うよ﹂
﹁正解だよ士郎。特訓の成果ありってことかね。とりあえず後は俺が
﹁宝具の原典って⋮どういう││﹂
知らないがいくつかは宝具の原典というものらしい﹂
﹁原典だよ。何でかは分からないが頭に入ってきた。全部かどうかは
だが俺は、あの光景を見て知った事をただ口に出す。
誰が言ったのか疑問を投げかけてくる。
﹁士郎
﹁原典⋮﹂
とはできた事を思い出す。
俺も思い出す。けど、いくつかは解かる事は出来なかったは知るこ
﹁それは⋮﹂
?
﹁原典⋮大量⋮⋮﹂
で、とにかくコウジュが出した問題を考える。
もう微妙に俺の事について流される事には慣れてきてしまったの
?
473
?
﹁そして⋮王⋮﹂
﹁﹁まさか⋮﹂﹂
どうやらセイバーと遠坂が同時に答えを導き出したようだ。
﹁はるか古代にあらゆる宝具はたった一人の元にあったわ﹂
そこで俺も分かった。
つまりあいつの正体は│││、
s right♪﹂
﹁﹁﹁古代ウルクの、最古の英雄王、ギルガメッシュ﹂﹂﹂
﹁That
◆◆◆
金ぴかの正体を皆にバラした。
原作ではこの時点では士郎達は金ぴかの正体には気づけないんだ
が、前もって知ってる方が対処はしやすい筈だ。
これからは士郎達もあいつと相対する可能性がある。
現状の戦力で言えば金ぴかに対抗できるのは俺だけだ。
﹂
ま ず、凛
だから、俺がすぐに助けに行けない場合は俺が行くまで保ってくれ
ないと助けられないかもしれない。
﹁なんだってそんな奴がまだ現界してるのよ﹂
凛が俺に聞いてくる。
えっとどこから話そうかねぇ⋮。
﹁ち ょ っ と や や こ し い 部 分 だ か ら 整 理 し な が ら い く ぜ
⋮⋮えっとちょっと待てね。
ちゃんはサーヴァントが現界し続ける方法って何があると思う
﹁現界し続ける方法
?
?
﹂
﹁さすが凛だね、おしい。確かに聖杯によってサーヴァントを現界、い
いのかしら
聖杯はあらゆる願いを叶える願望器だから聖杯で現界を願えば良
う神秘を可能にしてるから聖杯は必要不可欠⋮。
とりあえず前提条件としてサーヴァントは聖杯を介して現界とい
?
474
'
?
や受肉させる方法はある。
それって⋮﹂
けどな、前回の聖杯戦争には勝者は居ないんだ﹂
﹁え
﹁事実です凛。コウジュの言う通り前回の聖杯戦争で景品である聖杯
を得た物は居ないのです。
私がこの手で、前回のマスターである衛宮切嗣に令呪で命じられて
﹂﹂
壊させられましたから﹂
﹁﹁
凛と士郎が同時に驚く。
・・
ただ、2人が驚いたのはそれぞれ別のところだろうな。
士郎は衛宮切嗣という部分に、凛は聖杯をわざわざ壊したという部
分に。
﹁まぁその辺はセイバーに聞いてくれ。俺は知識として知っているだ
け出し、全部が全部知ってるわけじゃないからさ﹂
聖杯が穢れている事はまだ言えない。
だから、切嗣が聖杯を壊した理由も言えないんだ。
すまんな士郎。
﹁それでさっきの続きだが、あの金ぴかは聖杯ではなく他の力によっ
てその身を現界し続けている。
でもさ、考えてみたら答えは単純なんだよ。
聖杯の役割は3つ。まず呼び出すためのゲート。そして聖杯戦争
中のサーヴァントの現界の維持をバックアップ。そして願望器とし
ての器。
ここで重要なのがバックアップの部分だよ。
確かにサーヴァントの維持にマスターからの供給は必要だ。けど
戦争中は﹃魔法﹄に近い宝具という奇跡も使用するんだ
さ、サーヴァントという一種の奇跡を人一人で何日も現界し続ける事
が可能か
﹂
ぜ
﹂
なるほどね⋮そういうこと⋮⋮﹂
﹁⋮
?
ホントに凛って優秀だよね。
﹁
?
475
?
!?
!
?
今のだけで分かるとかさ。
﹂
・・
﹁つまりだ士郎。サーヴァントが現界し続けるだけなら聖杯が必ずし
も必要じゃないんだよ﹂
﹁いや、つまりどういうことだ
ら相当の魔力が必要なんだろ
﹂
﹁おいおい、忘れちまったのかい
﹂
この町はあんたらの町だろ
?
町って言ったらガス漏れ事件の事よね でも
最近何が起こってた
﹁ちょっと待って
?
﹁そうだよ。そんなことが可能だとしても、困難って言う位なんだか
いう部分が分からないのよ﹂
﹁でもコウジュ。私も自分でそう考えたとはいえ、他のとこからって
だったらだ、足りないならどっかから取ってくればいい﹂
﹁そ う、聖 杯 が 無 い と 現 界 さ せ 続 け る の が あ く ま で 困 難 な だ け だ。
そこに俺が続ける。
必要ない。だから後の問題は魔力だけなの﹂
﹁士郎、既にサーヴァントはこちらに来てるんだからゲートの役目は
?
?
るという確信を持てずにいる間は自殺するようなものだ。
それ以前に、金ぴかたちをラスボスとして認識している以上、勝て
の泡となる。
でもここで俺が焦って突っ込んでも殺されるのが落ちだ。全て水
でもあとちょっと、あとちょっとで終わらせることが出来る、
それと、まだ触れてないがあの金ぴかのマスターについてもな。
猪のごとく突っ込んじまうから言えない。
事だ。
実際は他の供給方法も使ってるがそっちを言っちゃうと士郎達の
﹁それだよ﹂
けじゃないけど、刀とか槍の類の長物での辻斬り事件﹂
﹁いや⋮遠坂、まだある。他にも事件があった。俺も詳しく聞いたわ
そこで、考え事をしていた士郎がポソリポソリと言い始める。
?
単純な戦闘はともかく、ここまで何とか戦闘を行ってくれた方法も
476
?
あれはキャスターが魔力を吸うために⋮﹂
!
あいつらには確実に使えないからな。
だから、もう少しの我慢だ。
﹁そんで問題はさ⋮。新たにこの地には聖杯が現れたからあいつも聖
杯に触れる事が出来るって部分なんだ。
聖杯に触れられる条件はサーヴァントである事だからな﹂
﹁最悪⋮。辻斬りめいた事をしてまで生き残ってる奴に聖杯を得る権
利が残ってるなんて⋮﹂
﹁ああ、あいつに聖杯を渡すわけにはいかない﹂
﹁私も渡す気はありません﹂
﹁当然、冬木の地を管理する私としてもそんなものは許せないわ﹂
決心をする三人。
﹁俺も自分の事を大概チートだとは思ってる。
けど、あいつの持ってる宝具の中には俺と相性の悪いやつもあるか
もしれないし、俺はかなり⋮ごほん⋮えっとちょっと不器用だから予
477
想外の事が起こった時はどうなるか分からない﹂
ここまでは原作知識があったし、それにそって何とか事を運べたか
ら金ぴかとかの動向もある程度予想はできた。
けど、ここからは⋮。ここからは何が起こるか分からない。
﹂
﹁後少し、後少しでこの聖杯戦争も終わる。だから絶対に生き残って
くれよ
︻小話︼
﹁⋮⋮えっと﹂
﹁お金をな⋮勢いで使いすぎてしまったんだ⋮⋮うぅ⋮﹂
な顔してるのさ⋮﹂
﹁あれ
縁側になんか座ってどうした⋮ってなんで今にも泣きそう
﹁﹁﹁ああ︵ええ︶︵はい︶﹂﹂﹂
?
?
﹁ああ、気にしないでくれ。自業自得なんだよ。ちょっと調子にのっ
ちまってパーっとやっちゃっただけだからさ。⋮⋮はぁ⋮﹂
﹁そ、そうか⋮﹂
﹁はぁ、使えないよ。確かに今は使えない。でも億近くまで溜めてた
のに今じゃ数桁単位が減っちまって。そりゃぁあれだけの数で一斉
﹂
にメセタ溶かせばこうなるよな。あぁ⋮俺の数百時間がぁ∼⋮﹂
﹁あ、ひょっとして元の世界のお金か
?
﹂
﹂
これを大量に消費したのか⋮。確かに痛いな、懐
﹁そうそう、魔力の代わりに物量で勝つためにお金を消費したんだよ。
こういうやつ﹂
﹂
﹁って、これ金か
的に﹂
﹁え、金
﹁え、違うのか
コウジュ
﹁知らなければよかった⋮﹂
﹁え、ちょ、コウジュ
ご利用は計画的に︵血涙︶
478
!?
ご利用は計画的に︵泣︶
!!!?
?
?
?
﹂
﹃stage36:[゜д゜]ハコモアイシテ﹄
﹁え、誰
s⋮
﹂
?
たいな感じになってしまった⋮。
美少女エルフ、もしくは美ニュマ娘。
ファンタジーの鉄板でもあるが、だからこその破壊力。
怪しい笑みを浮かべているのがマイナスですが⋮。
さておき次だが、更に大変な事に⋮。
メディアさんの次だから勿論、葛木宗一郎氏なんだが⋮。
入ってきた瞬間の俺の反応は﹃どこの七夜のしっきーですか
つい問いたくなった。
﹄と
から、小さくなって可愛さプラスしたら﹃マジカルめでぃあちゃん﹄み
成功したみたいだけど、元々神聖な雰囲気をまとった美人さんだった
御希望通り、ロリではないが大人でもない微妙なラインというのは
まず、メディアさん。
だけどさ、そこからが問題なんだよ⋮。
少年になったなーとか考えながら後続で入ってくる二人を見てたん
ておかない﹃ユーやっちゃいなYO﹄な人の事務所に所属できそうな
今回は何で復活遅かったんだろーとか、小次郎がお姉さま方が放っ
そしたらさ、看病に行ってた小次郎が目覚めた二人を連れて来た。
アチャ夫さんにお茶を入れてもらって居間でくつろいでたんだ。
日の朝。
今は話が終わった後、もう遅いからって一旦寝ることにして、次の
﹁What
﹁葛木宗一郎だが﹂
?
ターと同年代、ショタよりは上だが︵ry な年齢に現在はなってい
キャスターさんの強い︵強迫じみた︶希望により宗一郎氏もキャス
?
479
'
るわけだが、顔がそこそこ似てる。
そこに拍車をかけるように雰囲気が似てるんよ。
こう、暗殺者的な
でもまぁこっちは本家に比べて眼がギラギラして無い分、﹃文化系
な七夜さん﹄といった感じになってしまっている。
何という予想外な宗一郎氏の幼い頃⋮。
ブリュンス
とりあえず一言言わせてもらおう、イケメン爆発しろ⋮。
そういえば、キッチンに居るアチャ夫さんから﹃何
の関係者やっぱ居るのかね
ってかあんた見たことあんのかよ⋮ってことはこの世界って月姫
タッドの姫君の⋮いや、違うか⋮﹄とか聞こえてきた。
!?
あれ、この時点でフラグだったりする
◆◆◆
だから、朝特有の霞がかった庭をなんとなく歩いている。
沙汰だったりする。
とはいってもアーチャーがほとんどやってくれたので、俺は手持無
ろだ。
るだろうと言うので、朝ごはんの準備だけ終わらせて待っているとこ
さておき、桜はまだ寝ているみたいだがキャスターがもうすぐ起き
まぁあれだ、大体コウジュの所為。
ておこう。
キャスター達が起きて来た後、少し一悶着あったが今はそれは置い
?
なんか変なフラグ立っちまったら目も当てられねぇからな⋮。
いや、考えるのはよしておこう。
?
冬独特の身を刺すような寒さが眠気を訴える身体を覚醒させてい
く。
480
?
この引締めるような空気が考え事をするには丁度いいのだ。
目指すは中庭。
しっかりと日が出ていないこの時間、町は未だに寝ているように静
かで中庭からは日の出も見ることができ好きな場所の一つだ。
そこを目指し、歩いていく。
しかし人の気配があることに気付いた。
﹁士郎⋮ですか⋮﹂
﹁セイバー、こっちに来てたんだ⋮﹂
姿が見えないと思っていたがここに居たのか。
彼女は静かに中庭の中央で佇み、ただ空を見ていた。
俺はセイバーの横に移動する。
しばらく沈黙が場を包むが聞きたい事があったのを思い出す。
﹂
ど う し て
考え事をしようと思っていたが、その内容は彼女に関するものだ。
﹂
481
丁度良いと思い直し、直接聞くことにした。
﹂
言ってくれなかったんだ
﹂
そして、私があの金色のアーチャーと対峙している間に切嗣は相手
が昨日言っていたように最後まで私と切嗣は勝ち残りました。
﹁切嗣は生粋の魔術師でした。良くも悪くも⋮。10年前、コウジュ
﹁それって一体⋮
したくはなかった﹂
かった。私はあなたの過去を見ました。そのあなたの中の切嗣を壊
﹁正 直 に 言 う と 切 嗣 が ど ん な マ ス タ ー で あ っ た か あ な た に 言 い づ ら
だが一つ溜息をついた後、諦めたように続きを話してくれた。
言うべきか言うまいか、今でも悩んでいるような表情だ。
俺の問いに悲痛な表情を見せるセイバー。
﹁それは⋮言いにくかったからです﹂
?
?
﹁なあセイバー、少し話があるんだが良いか
﹁なんでしょうか
?
﹁あ あ、前 回 の セ イ バ ー の マ ス タ ー だ っ た ん だ よ な ⋮
﹁切嗣ですか﹂
﹁親父の⋮ことだ﹂
?
?
のマスターを倒したのでしょう。確かに聖杯は私たちの前に現れま
した。
しかし切嗣は最後の令呪を使い、私にその聖杯を破壊させました。
次の瞬間にはあの大火事が起こっており、聖杯が無くなったため私は
気づけば英霊の座へと還っていました﹂
何故親父は聖杯を破壊したんだろうか。
昨日コウジュははっきりとは言わなかったが、今セイバーが言った
ように親父は勝利し、正規の手順で聖杯を手に入れたんだろう。
なのに破壊した。
分からない。分からないことだらけだ。
﹁私は今でも信じられません。私の記憶にある切嗣はまさしく生粋の
魔術師。己が目的のためには手段を選ばず、阻むものは何であれ排除
する。残忍というわけではなかったし殺人鬼というわけではなかっ
た⋮。けれど彼は、あらゆる感情を殺し、あらゆる敵を殺した。
482
そこまでして彼が信じたモノが何であったかは私にはわからない。
ただ、その目的であった聖杯を前にして、彼は私に破壊を命じた。あ
の時ほど、令呪の存在を呪った事はありません。
しかし私は、再び聖杯戦争に参加する事ができた。
今度こそ私は、聖杯を手に入れる﹂
拳を握りしめ、自分に言い聞かせるようにセイバーは宣言した。
聖杯を手に入れることは俺も賛成だ。あんな危ない奴に渡す事は
できない。
だが、それとは別に聞いておきたいことがある。
だったら│││﹂
俺は昨日から考えていたそれをセイバーに言うことにした。
﹁聖杯があれば、こちらに居られるんだろ
それを彼女は望んでいる。
〝王の選定をやり直す〟こと。
少し前に俺は、セイバーの望みを聞いた。
﹁そして、王の選定をやり直すのか⋮﹂
けです﹂
﹁私は⋮、残るつもりはありません。聖杯を手に入れ、元の私に戻るだ
?
セイバーはアーサー王、騎士王と呼ばれる程にブリテンの伝説とし
て言い伝えられている。
伝説の内容は諸説あるが、岩に刺さった剣を抜き王となり、円卓の
騎士と共にブリテンを統一するというものだ。
そしてその終わりもまた、言い伝えられている。
幾多の神秘・伝説に包まれたアーサー王の終わりは、アーサー王の
死と共に国が滅びる事で締めくくられる。
そしてセイバーは、その王国が滅びた原因は自分にあるから、過去
に戻り、自分が抜いてしまった剣による選定をもう一度行おうとして
いるのだ。
俺はセイバーの過去を何度か夢で見た。
令呪による繋がりのせいで、記憶が夢として流れているのだろうと
きおく
言っていたが⋮。
システム
とにかくその夢の中で見たセイバーは王としての責務をちゃんと
こなしていたと思う。
自身の心を消し、国を治める王であろうとした。
システム
その結果は伝説に残っているようなものに相違はない。
ただ、その王を見て民は思ってしまったのだ。アーサー王には心が
システム
無いのでは⋮と。
王が求めたのは効率、確実な勝利だ。それは確かに勝利をもたら
す。
だが、効率の為には捨てる必要のある物もある。
それが民に少しずつ、けれど確実に不満を蓄積させていった。
その結果起こった謀反。
それは、アーサー王が遠征に出ている際に起こった。
国に帰ってきたアーサー王はその自身が守らなければならない国
に自ら攻め込んだ。
その戦の中で致命傷をセイバーは負ってしまう。
謀反を起こした民や騎士が悪いとは一概には言えない。
けど、アーサー王、セイバーだけが悪いわけでは決してないと思う。
それを全て無かった事にするというのがセイバーの願い。
483
俺が偉そうに言うのはおかしいかもしれない。
けど、これだけは言える。
そんなのはおかしい。
王の責務は十分に果たしていたんだ。
それでも国は滅びたんだ。
ならそれが、こんな言い方はどうかもしれないが運命だったんだと
思う。
い
ま
﹁セイバーはもうここに居るんだ。後は自分の事をやれば良いじゃな
いか﹂
セイバーは何も答えてくれない。
セイバーは今ここに居るじゃないか
﹂
﹁自分を変えるのに、過去を変えるんじゃなくて現在を変えるんじゃ
ダメなのか
思わず、大きな声で言ってしまう。
どうやったら分かってもらえるんだ
つい、口に出してしまう。
﹁馬鹿野郎⋮⋮﹂
た。
それだけ言うとセイバーは歩きはじめ、中へと入っていってしまっ
﹁⋮っ﹂
﹁士郎、もうこの話は終わりにましょう⋮﹂
を向けた。
それに対しセイバーはしばらくの沈黙の後、こちらへと悲しげな顔
!
?
﹁あんな可愛い子にやろうはねぇんじゃねぇの
どこからか突然声が響いた。
この声はコウジュか
﹁いよっと⋮﹂
﹂
中に入る気にもならず、俺はただそこに立ちつくしてしまう。
?
スタッという音と共に上から俺の目の前に降ってきて、着地する。
?
484
?
スカートでそんなことをするものだから、俺は目を反らす。
それに気づかず、彼女は着地と同時にずれた帽子を押さえながらこ
ちらへと振り返った。
違う、そこじゃない。
﹁む、のぞき見は良くないぞ⋮﹂
そこにセイバー、士郎⋮
聞かれていた気恥かしさもあり、誤魔化すように少し反発した言い
方をする。
﹁言っとくけど、俺は最初から居たんだぜ
と来て話し始めたから降りるにも降りれなかったんだよ。俺、基本獣
に近いから耳ふさいでも聞こえるし﹂
コウジュは、俺は屋根に上ると降りれなくなる呪いでもあるのかね
⋮と良くわからない事を言いながら、やれやれといった感じで首を振
る。
そうだったのか。
﹂
でも、やはり聞かれていた事実は恥ずかしさを消してはくれない。
﹁そんでさ、少年は何を悩んでるん
﹁俺 の 方 が 年 上 だ っ て の
し﹂
そういえばそうか。
でも、見た目が⋮な。
そ れ に サ ー ヴ ァ ン ト に 見 た 目 関 係 な い
年上には〝まったく〟見えない。
﹂
﹁お い、て め ぇ。今 俺 に ぼ こ ぼ こ に さ れ て も 文 句 言 え な い 事 考 え な
かったか
﹂
見た目はあれだが、軽く殺気を感じたので慌てて否定する。
﹁ま、いいや。で結局なんなのさ
﹁えっと⋮﹂
いや言いにくいって⋮。
そんな俺には構わず、直球で聞いてくるコウジュ。
?
485
?
﹁少年って⋮どう見てもコウジュの方が│││﹂
?
今怒ってるのもぷんぷんって擬音語があまりにも当てはまるので
!!
﹁い、いやいや、考えてない考えてない﹂
?
これって一応恋愛相談みたいなもんだろ
見た目だけとはいえ、俺より小さい女の子に言うのは憚かれる。
?
だったら空気読んでくれよ 言いにく
﹁ま、居たから大体分かるけどな﹂
﹂
﹁って、そうじゃないか
いに決まってるだろ
!!
俺か
俺が悪いのか
!
みたいな顔をされた⋮。
?
﹁なんでだ
﹂
﹁難しい問題だなー﹂
しかしコウジュの意見は違うらしい。
過去を変えるために今を否定するなんてのは何かがおかしい。
それなのに過去を変えるなんてのは違うと思うんだ。
でもいま彼女が居るのはこの現代だ。
過去を変えたいという気持ちはわからないでもない。
だ﹂
﹁あ あ。で も 俺 は そ ん な こ と よ り セ イ バ ー に は 前 を 向 い て ほ し い ん
﹁過去の改ざん⋮ね⋮﹂
﹁あのさ、聞いてたと思うけどセイバーの願いの事なんだ﹂
だからまぁ聞いてたんならと、少しずつ俺は話し始める。
それに、コウジュの御陰で少し心が楽になった。
けだ。
変に問い詰めようとも負けるのはいつも俺で、そしてただ疲れるだ
しかし俺もここ数日で学習した。
?
こいつ何当たり前の事言ってんの
﹁あえて読まなかったに決まってるじゃないか﹂
!!
﹂
?
王の責務、セイバー自身、そして士郎、歴史の重さ。どれも視点も
も間違っているし、どちらも合っていると言えると思うね。
﹁うんや、だから難しい事って言ったんだよ。客観的に見れば、どちら
べきだって言うのか
﹁ちょっとばかしって⋮。コウジュは過去の改ざんをセイバーがする
それがセイバーの場合はちょっとばかし規模が大きいだけさね﹂
﹁だってさ、人間誰しもやり直したい過去の一つや二つあるだろうよ。
?
486
?
ベクトルも違うんだ。答えなんてそうそうないよ。
﹂
ただ⋮、俺的にはセイバーはこちらに残ってほしいけどね﹂
﹁コウジュ的にはってのは何でなんだ
国は本当にセイバーが思ってるようなちゃんとした歴史を歩むのか
もし、歴史の改竄に成功して選定からやり直したとして、その後の
けど、何をどうやったら正解なんてないと思うんだよね。
確かに王としてまだやりようはあったかもしれない。
や、劇なんかになっちゃう位にさ。
どさ、歴史はアーサー王を騎士王と言うほどに認めてるわけだ。童話
てつまり、当時の民は気に入らないから謀反起こしたかもしれないけ
伝説は決して悪い意味で残ってるわけじゃないじゃないか。それっ
﹁いやだってさ、本人はどう思ってるかは知らないけど、アーサー王の
?
﹂
アーサー王が守って、生きて、子孫を残した人々が同じように生を
全うできるのか
良かれと思って救ってきた命なんだ。最後に国は滅びたかもしれ
はしてほしくない。
俺はセイバーに、王として自身が辿った道を、救ってきた命に後悔
﹁ほんで、こっから俺の感情的な話になるけどさ。
誰しも生き返れるなら生き返りたいだろう。
そうか、そういう見方もあるのか⋮。
最後の部分に俺はハッとする。
ま、ここまでは客観的な話だね﹂
るけどなー。
があるのに歴史では死んでるから死ねというのもおかしな話ではあ
﹁だからと言って、生きていた人は生きているべきで、生き返る可能性
そんな俺を知ってか知らずか、コウジュは続けていく。
ただただ聞き入ってしまう。
俺はいつの間にかコウジュの話に入りこんでいた。
?
ないけど、その中で皆が感じる事が出来た幸せまで否定してほしくな
いはない。
487
?
そんなのって悲しいじゃん
しいんだよな
﹂
﹁ああ、もちろんだ﹂
﹁セイバーが過去を変えるのには否定的
﹁そう⋮だな﹂
﹂
﹂
﹁それは士郎が個人的に今この場所に居て欲しいからかな
も過去の改竄ということそのもに疑問があるから
﹁それは⋮﹂
﹁茶化さないでくれ
﹂
﹁いやー、青春してるねぇ﹂
こちらを見ていた。
それに気づいたのか、ふとコウジュを見るとニマニマと笑いながら
いや、でも言い淀んでいる時点で答えは出ているような物だろう。
言い淀む。
それと
﹁っと俺の話は置いとこうか。そんで士郎的にはセイバーに残ってほ
﹁⋮⋮﹂
俺は傲慢だからな中の良い人が幸せじゃないのは嫌なんだ﹂
俺はセイバー自身の幸せを見つけて欲しい。
それにセイバー自身にも幸せになってほしい。
?
改めて思い返す。
﹁気持ち⋮﹂
とセイバーの事を思う気持ちで揺れてる﹂
それは士郎にも言えることだね。士郎も居てほしいという気持ち
﹁セイバーは多分今迷ってると思う。王の責務か、自身の感情か⋮。
見る瞳は真剣そのものになっていた。
それでも、そうふざけて言う言葉とは裏腹に、コウジュがこちらを
いや、サーヴァントに歳は関係ないんだったっけか。
何歳のつもりなんだ。
おいちゃんって⋮、また年が上になった。
上げよう﹂
﹁ゴメンゴメン。よし、じゃぁおいちゃんからちょっとしたヒントを
!
488
?
?
?
?
多分俺は、あの土蔵で、初めてセイバーに会った時点で惚れていた
んだ。
けど俺はセイバーの心に触れていく中で、セイバー自身の事とか
色々と考えて、結局よくわからない事になって⋮。
﹁ま だ 時 間 は あ る ん だ。そ う 急 ぎ な さ ん な。と い っ て、時 間 が 有 り
余ってるわけではないから気を付けないといけないのはいけないん
だけどな。
﹂
ただ問題は、セイバーはそんな心の揺れも王としての使命を全うす
るために封じ込めてきた過去を持つ。
そんな彼女に届く何かを士郎は見つけられるかな
そこまで言ったところで、コウジュの耳がピクリと少し動いた。
そのままぴくぴくとさせながらコウジュは屋敷の方を見る。
﹁士郎、朝飯行こうぜ。どうやら桜が起きたみたいだ﹂
そう言ってコウジュは家の方に歩き始めた。
そこまでわかるのか、すごいんだな獣人ってのは。
ともかく考えてみよう。
俺は結局どうしたいのか。どうしてほしいのか。
﹂
最初から⋮。
﹁あ﹂
﹁どうした
えてくれよ
あれが正解ってわけでもないし。
何よりさ⋮えっと⋮恥ずい⋮から﹂
帽子を下げながらも上目遣いでこちらを見るコウジュ。
そんな彼女の表情に少しドキッとする。
俺は一体何を
かなり恥ずかしいのか、白い肌に紅みが増してそのコントラストが
⋮ってダメだ
!?
﹁わ、分かった、了解した、無問題だ
﹂
振り切るように首を振り、コウジュに返す。
!
!
489
?
﹁さっき俺が言った事、あくまで参考程度で自分がどうしたいかを考
コウジュが途中で立ち止まり、振り向く。
?
?
﹁⋮
まいっか、んじゃ行こうぜぃ﹂
俺の反応に首をかしげるもすぐに気にしないことにしたのか、コウ
ジュはそれだけ言ってタタタっと居間へ向かった。
何だか知れないが、いろんな方向に罪悪感が浮かび、少し立ち止ま
る。
ご飯終わったら、ひとまず座禅から始めるべきかな⋮⋮。
◆◆◆
ご飯を食べ終わったんで、今日は用事があるから外に行こうと玄関
まで行ったんだが、そういや話を桜達にしないといけないんだった。
居間に入ろうとしたらすれ違いで士郎が出てきた。
なんか、逃げちゃだめだ逃げちゃだめだって、どこぞのサードチル
ドレンばりの事をぼそぼそ言ってたけど、一体何と戦うんだよ⋮。
しかしまぁ今から話す内容は士郎には話さないつもりだったし丁
度いいか。
どこに行くのか尋ねると道場に行くとのことなので、そのまま見送
る。
仲間はずれじゃないよ
物をしていたアーチャーが集まる。
元々居間に座っていた凛、セイバー、キャスター、イリヤに桜、洗
その声に集まって来る。
手をパンパン鳴らして言う。
﹁はい皆集合∼﹂
う。
時が来れば桜ちゃん自身から話すか、終わってから言えば良いだろ
出しちゃいそうだし今は置いておくってだけ。
ただ桜ちゃんのことについて話すから、士郎に話すとそのまま飛び
!
490
?
宗一郎氏は学校だ。
﹂
﹂
ついでに言うと、虎の姉さんも一緒にご飯食べたけど同じく仕事で
学校へ。
│││
それを言おうとしてたんだった﹂
﹂﹂﹂
応なしでお茶を飲んでる。
それも仕方ないよな。
でも本当の事なのだ。
﹁殺した⋮んですか
﹂
いたというわけさね﹂
キャスターが士郎達を相手している間に、俺は間桐家の方へ行って
質潰れたという事さ。
が間桐の支配者だからな。だからあいつが居なくなった間桐家は実
﹁桜っちが不幸になった原因である間桐臓硯を排除したんだ。あいつ
﹁それってどういうことですか
﹂
イリヤ、アーチャー、キャスターにはとっくに伝えてあるので、反
?
休校中でも先生の仕事があるそうだ。
︵メメタァ
﹁さて、今回集まってもらったのは⋮⋮、でも何から話そう
﹁私に聞かないでよ﹂
イリヤが冷たい⋮。
出番が少ないからだろうか⋮
﹁あの⋮﹂
﹁﹁﹁え
﹁えっとですね、間桐家なんですが実質潰しました﹂
イリヤに叩かれた⋮痛い⋮。
﹁ごめんなさい⋮﹂
│││バシンっ
﹁それだ
﹁聞きたい事があるんです、間桐家の事で⋮﹂
﹁はいはい桜っちなんですかい
手を上げながらそう言ったのは桜だ。
?
?
?
そう不安気に聞いてくる桜ちゃん。
?
491
!!
!
凛、セイバー、桜が驚く。
?
その表情は困惑やら何やら、色々と入り混じって表現のし辛いもの
となっている。
それを見て、俺もまた悲しくなる。
どうやったらこんな表情になるんだよ。
十数年にも及び絶望の淵へと立たされ続けたと知識で知ってはい
ても、直接的にそれを知っている訳ではない。
俺がコウジュになるまでに生きた人生なんてのは20年そこそこ
でしかない。
そういう意味では少しだけ人生の先輩ではあるが、所詮はその程度
だ。
あっちには魔術も何もない。知らないだけかもしれないけど少な
くとも俺の周りには他愛無い日常があふれていた。
だから、こんな今の桜ちゃんみたいな表情をする奴はいなかった。
それだけあっちが幸せだったということなのだろう。
に見せる。
492
でも、今俺はここに居て、桜ちゃんの目の前に居る。
うん、やっぱりこういうのは苦手だ。
他愛無い日常を知っているからこそ、こんな表情をする子が居るっ
てのは我慢ならない。
貰い物の力だけど、今は桜ちゃんに幸せってやつを届けようか。
﹂
的なところ
﹁死んではいないと思う。医学的な死亡ってのに照らし合わせれば⋮
的な﹂
﹁何で顔を逸らすのよ﹂
﹁ヤマシイコトナンテナニモアリマセンヨ
俺はお道化るようにそう言った。
別空間
桜ちゃん以外の皆はまたか⋮みたいに呆れ顔だ。
﹁コホン、まぁ正確にはこれを使ったから結界
に居るよ﹂
﹁何で疑問形なのよ⋮﹂
﹁それが俺にもよくわからなくて⋮﹂
?
ジト目で見てくるイリヤに苦笑いしながら、俺はカードを出して皆
?
?
カードの表面には、禁忌﹃一条祭り﹄の文字と、黒い背景にポツン
と一条祭りとマジックで書かれた有〇みかんの段ボール箱が描かれ
ている。
﹁牢屋みたいな空間を作るためにとあるものをモチーフに作ったんだ
けど、何故か元祖そっくりのよくわからないものになっちゃってな
⋮﹂
元ネタはぱにぽにの一条さんが使ってたアレだ。
蟲 爺 を 捕 え て お く た め の 何 か を 考 え た 時 に 思 い 付 い た の が そ れ
だった。
ルームグッズの段ボールに〝一条祭り〟と書いて、カードにして、
アニメで見たようなよくわからない何かを想像しながらスペル化さ
せたらできたものだ。
﹁正直、よくわからないままよくわからないものを作った所為でほん
とよくわからないものになってしまったんだ。うん、自分でも何を
ぐあぁぁぁぁっぁ⋮⋮﹄
493
言ってるかよくわからない﹂
﹁そ、そうですか﹂
桜が若干引き気味になる。
作った俺でも何かこれ怖いもん。当然だよな⋮。
とりあえずカードを仕舞う。
ちなみにどんなふうに使ったかというと、はいダイジェストドン
・
・
・
﹃ちわー宅配便です﹄
!
﹃あ 奴 ら お ら ん の か ⋮ 仕 方 な い。ハ ン コ は ど こ に 押 せ ば い い ん じ ゃ
﹄
SYGYAAAAA
﹃な、なんじゃこれは
!? !!!!
﹃あ、ここにお願いします⋮⋮禁忌﹃一条祭り﹄発動︵ボソ﹄
?
パクッ⋮
﹃何これ怖い⋮﹄
・
・
・
大 体 こ ん な 感 じ。餌 が ど う と か っ て 俺 を 見 な が ら 言 っ て た か ら
ひょっとすると蟲の餌食にするつもりだったのかもしれないけど
爺
すいませんそっちの世界は
なったのは爺さんの方でした。プギャー。
触手とか誰得よ 触手
?
ってかまじで何なのコレ。
爺
知りたくありません。
×
てくれないかな。俺は行きたくないので。
﹁そ、そういえば兄さんはどうなったんですか
﹂
性格変わったりしてたけど、ほんと何なのコレ。誰か入って中見てき
アニメでも確かに人を取り込んだりしてたし、中から出てきた人が
た。
部屋の中に貯まっていた臭いとその光景にほんとドン引きしまし
手が現れパクパク食べ始めたのだ。
うじゃ居た蟲達を取り込もうと再びスペルを唱えたんだけど、再び触
しばらくして再起動した俺は家の中に入り、地下へと行ってうじゃ
く動けなかった。
となって爺さんを箱の中に引きずり込むのを間近で見た俺はしばら
さておき、真っ黒い闇が凝縮したようなとでもいうべき何かが触手
?
る幼女から視線をそらし、桜ちゃんと凜に目を向ける。
俺の視線にもどこ吹く風と美味しそうにマグマグとアイスを食べ
凛が続けて声を上げた。
﹁あ、それ私も気になる﹂
そこの幼女も見習ってほしい。一人アイス食べてないでさ。
気遣いのできる良い子ですな。
俺がガクブルしだしたので、桜が話題を変えてくれたようだ。
?
494
×
ただ、二人の言う人物に心当たりがない。
桜ちゃんにお兄ちゃん居たっけ
?
あのワカメね﹂
お姉ちゃんは凛ちゃんでしょ
えっと│││
ああ
!!
﹂
?
だった。
﹂
もう2度と行きたくない。
﹁⋮そろそろ戻そうか
﹃戻さなくて良い︵です︶︵わ︶
デスヨネー。
たしほんと丁度いい。
まぁ元々この話をする時は士郎に席をはずしてもらおうと思って
若い男の子が一人で何してるんだか︵意味深
てんだかわからんけど、丁度士郎も居ないしな﹂
﹁ごほん⋮。さて、最後に桜っちの今の状態を教えとこうかな。何し
﹄
防具着てもうちょっとガタイがよくなったらブルァァァ言いそう
ろうねあの場所。
イリヤ経由で用意してもらった訓練場所だったんだけど、何なんだ
薄くなってて、斧を片手に走り回ってたんだよなぁ⋮。
肌も焼けて、髪も肩を越えるほど長いワカメになって何故か色素が
端に放棄してたわ﹂
﹁なんでか筋肉ムキムキになって、良い笑顔してたもんだから思考の
カキンっていう擬音が聞こえそうな位に場が一瞬で凍る。
張り紙と共に放りだしただけだよ
﹁とある軍隊に所属するオホモダチのまん前に鍛えてやってくれって
ら思考が繋がらなかったのだ。 いやでもこの間見に行った時にあまりにも変貌していたものだか
最近ジト目をされるのにも慣れてきた。
ジトーっとした目で凛がこちらを見てくる。
﹁あんた今忘れてたでしょ⋮﹂
﹁│││あ
?
!!
?
495
!
もし戻ってきても俺の耳が音を拾ってくれるだろうし、このまま続
けよう。
﹁私の状態、ですか⋮﹂
﹁うい。桜っちの身体の弄られちまってた部分の事なんだが、キャス
ターにも手伝ってもらってなんとか戻せたよ﹂
今回のひと騒動の前から色々準備してたわけだが、キャスターの手
伝いもあり大体正常な状態へ戻せた。
桜っちの身体の弄られ方は正直許せなかったね。
弄られるなんて言葉だけじゃ言い表わして良い事じゃないだろう
な⋮。
桜っちの元々受け継いでいる属性を間桐家の属性に無理矢理変え
て、その状態を無理矢理固定し続けてたんだ。
そのために桜っちの中には何匹もの魔術媒体である蟲がかなり居
た。
キャスターも同じ女性としてかなり許せなかったのだろう、蟲を
桜っちの中から排除する時の悲痛な顔は忘れられない。
原作知識からだが、蟲に犯され続けた結果がこれだった筈だ、文字
通りの意味で⋮。
﹁安心しなさい。私とコウジュが責任を持ってすべて排除しておいた
わ﹂
﹁私の身体が⋮⋮う、うぁ⋮⋮⋮﹂
俺の言葉に続けるようにキャスターが言うと、桜ちゃんは暫く呆然
としていたが静かに涙を流し始めた。
そのままダムが決壊するように感情を掃き出しながら泣きはじめ
る。
そんな彼女を凜ちゃんが静かに抱きしめる。
あ、やばい。俺も泣きそう。
そのまま少しの間、桜ちゃんが泣き止むまで待った。
あ、泣いてませんよ俺は。あれ汗だから。
・・
さておき、落ち着いた場を見計らって話を続ける。
﹁もう安心していいよ。君の中に居た本体も取り除いた﹂
496
﹁本体っていうのはどういう事
﹂
凛ちゃんはその部分が引っ掛かった様で聞いてくる。
そういやそこまでは言ってなかったから仕方ないか。
こ
こ
﹁桜っちの中にはな、身体をいじるためのとは別に特殊な蟲が居たん
だよ。そいつが居た場所は心臓だ﹂
自身の心臓がある位置を指差し言う。
ふにょんと余計な肉がぶつかってちょっともやっとする。
おいそこの赤いのこっちを親の仇でも見る目で見るんじゃない。
でも怖いので何も言わずに話を続ける。
﹁その蟲ってのはな、桜っちにこんな事をした張本人の本体だってわ
けさ。奴は本来なら寿命を迎えて居てもおかしくはない年齢なんだ。
じゃあなんで生きてるのか。その答えが自身を魔術の蟲と化し、生き
永らえる事。そしてその本体を桜っちの中に隠していたってわけだ﹂
臓硯も昔は良い奴だったらしい。
世界の悪を無くすため、聖杯戦争というものまで創って第三魔法を
求めた。
だが長い時の中で魂が劣化し外道になったとか⋮。
なんだっけか、世界を救うには人間程度の寿命では足りないから永
遠の命を求めたけど、いつしか永遠の命を得ることに固執し過ぎて、
手段と目的がおかしくなっちまったんだっけか。
だからといって、桜っちにした事は許せるわけがないので一条祭り
の刑にしたわけだが⋮。
﹁で、その本体の蟲を宝具の一つ使って斬り取ってしまったわけだ﹂
軽く言ったがこれがいつしか自分の身を粉にして︵物理的に︶頑
キシュア・ゼルレッチ
張ったから出来たことだ。自分のことながらよくやったよ。
方法というのが、
﹃サイカ・ヒョウリ﹄と第 二 魔 法の例のコンボだ
ね。
サイカ・ヒョウリは﹃過去と未来の過ちを支配し、表裏一体の運命
をくつがえす程の力を持つ﹄というテキストを持つ。
つ ま り は 歴 史 の 書 き 換 え、運 命 の 操 作、因 果 律 の 操 作 だ。大 変 な
チートである。
497
?
ただ、問題はやはり剣を通して概念を使ってるってイメージを俺が
持ってる所為で実際に対象へと斬りつける必要があることだ。
一応スケープドールを桜ちゃんに持たせた状態でやったけど、一定
確率で即死するし、助けようとして殺っちゃったでは済まないからマ
ジで頑張った。
第二魔法で成功の確率を呼び寄せ、その状態で桜ちゃんの一部の運
命を切り取るためにかなりの精神を摩耗したね。
切り取った運命は本体の虫が桜ちゃんの中に入ったって部分。
本来なら蟲全部に対してやるべきだったんだろうがそれだと士郎
との出会いやら想いやら他の部分も一緒に消えてしまいそうだった
ので止めた。蟲全部ということは入れられたこと全てが無かったこ
とになり、その後に起こったことも全て変化してしまう可能性がある
のだ。
それにその改変によってどこまでの影響がこの世界に現れるのか
498
が分からなかったのも大きい。
ともかく切り取ったことで取り出せた本体の蟲は一条祭の中に放
り込み、その他の部分はキャスターに取り出してもらったり、母体と
して弄られていた部分も治してもらった。
流石はキャスターさん。心霊医術もお手の物です。
﹁あとはキャスターが身体の弄られていた部分とかを正常に戻したり
と色々してくれたから、今の桜ちゃんは精神的にも記憶的にもまだし
こりはあるかもしれないけど、きれいな身体にしてくれて在る筈だ
よ﹂
男の俺としては、女性としての機能を弄られていたことがどこまで
不幸なことかはわからない。
でも、その弄られたという過去の所為で折角解放されても好きなよ
うに生きることが出来ないというのはきっと悲しいことだ。
だからキャスターにお願いしてみた。
キャスターなら同じ女性だし、その辺のことは全て理解したうえで
俺はほら、身体は幼女になったけど中身男だし。
上手くやってくれるだろう。
俺
?
﹁ありがとう⋮ございます⋮⋮﹂
﹁ははっ。喜んでくれてなによりだぜ。俺も頑張ったかいがあったっ
てもんだ﹂
うん。やっぱり嬉しいもんだね、感謝されるってのは。
でもおかげでまた桜ちゃんの涙が流れ始めた。
あー、あー、美人さんが台無しだ。ほらハンカチ上げるから。
まぁそこまで喜んでくれてるってことなのかな。
そこでまた一つ、告げないといけないことがあるのを思い出す。
してる時に使ってた黒い影みたいなのあるじゃん
あれ、実は
﹁あ、そうだ。も一つ言っとかないと⋮。桜っちが凛ちゃんと姉妹喧
嘩
まだ多分使えるんだよねー﹂
そう、例の触手だ。
思わずドン引きしてその場を離れた俺は悪くない筈。
てたからね。
に、家系を断絶されて良い気味って、ウフフフフっと笑いながら言っ
あの時のキャスターはマジで恐かったな。魔術特性を奪われた上
﹃吸収﹄を抽出してパクッて再現したのだ。
がこれ幸いと新たな擬似魔術回路みたいのを作り、蟲から間桐の素養
それを、桜っちの身体を戻した際に属性も戻ったためにキャスター
として表出していたのだ。
の教育を受けていない所を聖杯によって無理矢理に負の感情を﹃影﹄
ら生来の素養を引き出すことは本来不可能である上に、魔術師として
元々は、属性が異なる間桐の魔術に無理矢理慣れさせられた体だか
ものだし、あの時点で桜っちの身体は戻っていた。
が、あの時の擬似聖杯はリミッター付けたりと所詮は御芝居用まがい
本来ならありとあらゆる生物を溶解し、吸収するほどの力がある
とは言っても劣化番で、俗に言う黒 桜 程のエグさはない。
ヤンデレモード
元素・虚数﹄と、間桐の﹃吸収﹄をかけ合わせた﹃影﹄。
アレの正体は聖杯からの魔力供給により生来の持つ魔術素養﹃架空
?
まぁ間桐を思い出す﹃吸収﹄が嫌なら取り除くらしいけど﹂
﹁えっと⋮そこにいるキャスターからのサービスみたいなもんらしい
よ
499
?
?
そ う 言 う と、照 れ た の か 無 言 で フ ー ド を 深 く か ぶ り 直 す キ ャ ス
ター。
だけど、頬が赤くなったのは見えてるとです。
小さいとただの萌えキャラだなー⋮。
っと続き続き。
﹁桜っちの魔術の才能って実はものすごいらしい。魔術の名門である
遠坂の後ろ盾がないと封印指定されて、ホルマリン漬けの標本にされ
る位にさ。だから、これからは自衛手段があった方が良いってわけで
﹃影﹄の出番なわけだ。
あ、でも最初から敵なしなわけじゃないからちゃんと練習やら修業
は必要だとさ。
まぁ幸いにも教師は事欠かんわな。
優 し い お 姉 ち ゃ ん に 士 郎 と 一 緒 に 教 え て も ら う と か い い か も ね。
キャスターも教えてくれるだろうさ﹂
500
﹁姉さん⋮と⋮先輩と⋮⋮﹂
たくましいな、おい。
今の今まで涙流してたのに今はもう妄想の世界に飛び立ってるぜ。
女の子って強かデスネ⋮。
とはいえ喜んでるのを邪魔するほど無粋な真似はしたくないし、お
いておこう。
凜ちゃんも何か桜ちゃんに話したそうだし、他の面々も御開きの雰
囲気に気付き各々が席を立ち始めた。
それじゃ、俺もそろそろ行くかね。
したかった話もとりあえずは終わってるしね。
﹂
﹁さて、話も終わりだしちょっと出てくるぜ﹂
・・
﹁ひょっとして釣りに行くの
﹁あぁ、よろしくな﹂
﹁そう⋮。じゃぁ私もそろそろな訳ね﹂
・・・・
﹁うい。青くてピッチピチの釣ってくるぜぃ﹂
事前にイリヤにも言ってあったから気づいたのだろう。
イリヤが扉を出ようとする俺に話しかけてきた。
?
﹁ええ。キャスターお願いできるかしら
﹁分かったわ﹂
﹂
今度こそ俺は居間を出て玄関へ向かう。
ではでは、まずは商店街辺りに行くとするかね。
・
・
・
﹁おっちゃん。それ各種10個ずつちょうだいなー﹂
﹁あ い よ。い つ も あ り が と よ。そ れ に し て も 毎 度 思 う が 良 く 食 べ る
なぁ嬢ちゃん﹂
﹁お っ ち ゃ ん の が 美 味 し い の が イ ケ な い ん だ よ。つ い つ い 食 べ ち ま
う﹂
﹁そ い つ は 悪 い 事 を し た な。お 詫 び に サ ー ビ ス し と い て や る よ。ほ
い﹂
﹁いつもありがと、はい代金﹂
﹁おう。またよろしくなー﹂
何してるのかって
はぐはぐ⋮。んまー
ちまったんだぜ。
釣りはどうしたって
!
冬木市の大体は見れただろうか。
と。
俺は歩く。ひたすらぶらぶらと。たい焼きを食べながらぶらぶら
ま、その内わかるさ。
準備は万端、仕掛けは上々、後は結果を御覧じろってね。
?
501
?
たい焼き買ってんだよ。前食べてはまっちゃって、常連さんになっ
?
時間もだいぶ経ったのか、日が落ちるのが早いとはいえ太陽はもう
沈み始めている。
そろそろ⋮かな⋮
俺は最後に士郎達と戦った、あのアインツベルンの森の中の広場に
来た。
はぐっと⋮。
最後のたい焼きを口に放り込む。
ついつい数十あったやつ全部食べちまったよ。
﹂
イリヤ達の分残すの忘れてたけどしかたないよね
﹁さてっと、貴様見ているな
あ、イタイとか言って引かないでねー
厨二的なあれでもないし、﹃皆近づくな
俺の中に封印されてる奴
!
なかったけど。
﹂
でもまさかここまでスムーズに一日目で引っかけられるとは思わ
だからこそ人気の無いこの場に来たわけだしね。
まぁ居るのは分かってた。
はは、釣れた。
﹁やぁやぁこんばんはです﹂
﹁よう、嬢ちゃん﹂
ただし釣るのは、英霊だけどね。
皆なら気づいてると思うが、これこそが釣りだ。
が︵ry﹄的なものでもない。
?
!
!!!
来 る と 分 か っ て る ん だ か ら 警 戒 し な い わ け な
﹁どうやら気づいてたみてぇだな。いつからだ
﹁最 初 か ら ⋮ か な
いっしょ﹂
﹁ごもっともだ﹂
?
普通にしてるだけならちょっと敏感位だけど、今回みたいに警戒し
てたら分かる事が出来た。ついでに気配みたいなのも。
502
?
最近さらに獣化しているのか五感がかなり強くなっている。
?
隠れもせずにあんなことし
英霊の尾行に気づけるとかマジちーとぼでぃ⋮⋮と言いたいとこ
ろだけど。
﹁それほど気配殺してなかったでしょ
﹁おろ
俺を殺しに来た割には不満気だね﹂
んだがマスターの命令なんでな﹂
﹁そうか。でもな嬢ちゃん、悪いんだが死んでくれ。何の恨みもない
を巻き込まずに済む﹂
﹁まぁ俺としても、ここまでついてきてくれたのは助かったよ。周り
﹁はははっ確かにその通りだ﹂
てたら気づいてくださいって言ってるようなもんじゃん﹂
?
﹂
れそうってのに平常で居られる時点で普通じゃねぇか⋮。何もんだ
﹁ったりめぇだっての。何でこんな無関係そうな、いや、今まさに殺さ
?
﹁ふーん。あの麻婆、ランサーに何も言ってないんだ。そいつは好都
合。
で は 自 己 紹 介 と い こ う か。俺 の 名 は コ ウ ジ ュ。少 し 前 ま で バ ー
サーカーを拝命していた異世界の英雄だ。ちなみに今無職﹂
俺は手に武器を呼び出した。
呼ぶのはスピア、﹃トライデントクラッシャー﹄。
見た目はあまり槍っぽくない。
幅広の長方形の刃が手持ち側が少し広がるように付いており、白く
輝いている。先端が無いためにあまり突く為ではなく斬る事に適し
ているように見える。
白く輝いているのは白き輝石とかいう珍しい鉱石を使っているか
ららしい。
概念は無し。
ただし、HP吸収効果と特殊エフェクトで粒子が舞ったりする。
﹁どうやったかは知らねぇが受肉している英霊か。なら、全力で行く
ぜ﹂
﹁んじゃ、槍比べといこう﹂
手に持つトラクラさんをヒュンっと軽く振る。
503
?
振った軌跡を光る粒子が舞いとてもきれいだ。
はっ
ランサーのクラスに槍でケンカ売ったことを後
そして、持ち手の真ん中辺りを片手で持って後ろに引き、半身で構
える。
﹁槍だと
悔させてやるよ
﹂
504
!
!!
?
﹃s t a g e 3 7:ジ ュ デ ィ ス 姐 さ ん は 色 々 と す ご
﹂
かったですね﹄
﹂
﹁っはあぁぁぁ
﹁なんの
!!
﹁あめぇっ
﹂
ランサーの鋭い突き、それを払いながら近づく。
!!
月光
﹂
!!
た。
﹁ちっ
﹂
サーの真上に跳び、真下に来たクー兄さんに向かって槍を投げつけ
・・
突き出される槍、それを潜る様に身体を沈めて避けた後、俺はラン
予想よりも早くに次の手が来た俺は用意していた札の一枚を切る。
元々払われる前提の一手だったのであろう。
﹁っ
だが俺が近づくより早く戻した槍で再度突きを放ってきた。
!!
結果、槍はズガンっ
﹁⋮月影刃
﹂
と槍によって起こされたとは思えないほどの
俺は着地し、トラクラを再び手に取る。
﹁それじゃぁ⋮﹂
んでな﹂
﹁あったりめえだ。妙な技だが、投擲されたものは何とかなく分かる
﹁ま、そう簡単に当たらないよねー﹂
音と共に小さなクレーターをクー兄さんが居た場所に作り出した。
!
ただし今の俺の身体能力でやると音を置いていける程のスピード
く。
自らも槍の様に、踏み出した一歩目で思い切り大地を蹴りだし、突
身体を伸ばすように素早く突く。
!!
505
!?
だがそれは横に飛ぶ事で避けられる。
!
だ。
﹁っらぁぁ
﹂
うりゃっ
だがそれも、突きに合わせて横に払うのと同時に自身の身体をずら
された。
﹁今のを反応するとはさすが最速と名高いサーヴァント
﹂
﹂
その最速に本気でガードさせた嬢ちゃんに言われると嫌味
にしか聞こえねぇ⋮ぜっ
﹁おらっ
!!
言葉、﹃当たらなければ意味が無い﹄を。
だがここで思い出してほしい。いつだったか小次郎が言っていた
信を持って言えるのは馬鹿力くらいなのだ。
俺になっちゃうから置いといて、現時点でランサーに勝っていると自
妖怪キャラ被り⋮は俺視点からすればキャラを食われちゃうのは
でもこれはランサーと似てしまっている。
は速さと馬鹿力と獣の様なしなやかさ。
そうなるとランサーとの戦いは近接戦闘となる訳だが、俺の持ち味
だから遠距離戦は却下。
ばしても生きてるかもしれないと思ってしまうだろう。
・・・・・・
そしてそれを俺は知っている訳だから、見えない遠距離から吹っ飛
さらに言えばランサーは生存に関しての技能を持っているはずだ。
たせない。
攻撃を俺は持っているが、それをやると被害が甚大だし俺の目的を果
・・・・
例えばランサーが持つ矢除けの加護、それを貫通するほどの遠距離
には無かったのだ。
というのも、ランサーに対して理想的な状態で勝つための方法が俺
でもこれにも理由があるのだ。
るわけだし余計に。
やっぱり技術じゃ中々追いつけないか。槍兵に槍で勝負で挑んで
本気かもしれないけど絶対全力ではなかったよね今の⋮。
突きや払いの応酬で、互いの槍を反らし、避け、防ぐ。
!!
速さでの単純な勝負では分からないが、あちらは歴戦の戦士だ。
506
!!
!
!
いくら馬鹿力があったとしてもランサーには経験の差で負ける可
能性がかなり高い。
そこで槍だ。
でもただ槍を使ったんじゃ負ける。
一番扱いなれているルゥカや双剣を使うことも考えたが、ルゥカも
双剣も相手の懐に近づく必要がある。
だが相手は槍だ。俺の技量では近づく前に突き殺される可能性が
高い。
双剣はさておき、ルゥカも長物と言えばそうだが、あれは自身の身
体を起点に斬ることを前提としたものだ。その形状も、刃の長さもか
んがえれば、点での攻撃に長けている槍相手ではやはり相性が悪い。
ならば同じ土俵に立ち、その上で奇策を用いる。
うん、これを思いついた俺ってなかなかやるんじゃないかと自画自
賛してしまう程度に舞い上がってる。
ゲーム内での槍を用いた挙動は実は少なく、ほぼ突くことを前提と
したもの。でも今は現実だから、槍で突く動作に加え、ルゥカの様な
両剣の動きを取り入れることが可能だ。
その結果がさっきからしている動きですよ。
ファンなら技名ですぐに出てきたかもしれないな。テイ○ズオブ
ヴェス○リアに出てくるジュディスの槍術。実はあれを参考にして
いる。
それをイメージしながら俺は槍を使っているのだ。
これなら槍の持ち味である大きな間合いを用いつつ、得意な両剣の
動きもできる。そしてここ最近で出来るようになってきた転移の感
覚を用いた元ネタ技の再現。
ま、まぁ、アサシン相手に練習したとはいえまだまだ回数を経てい
ないからイメージを補正する為に技名を言葉にしないといけないの
だが、先程使った〝月光〟のような初見殺し技も多いし大丈夫だろ
う。
避けられたけど。
でも、次は当てる。
507
俺は槍を上段に上げて再び走り出す。
﹂
そしてそこから薙ぎ下ろしながらランサーに突っ込む。
﹁幻狼│││﹂
﹁甘いって言ってんだろぉがぁぁ
﹂
ぶ
てしまったんだよね⋮。
そういえば、某〝狩人
ショートジャンプ
・・・・
狩人〟に出てくるカストロというちょっと
クトのイメージが先行し過ぎて能力のせいでこういう技として出来
いや、本当はちゃんとした技を練習してたんだが、ゲーム内エフェ
敵の後方へ空間跳躍というもの。短距離転移だ。
と
のカレイドスコープ︵もどき︶を応用して自身の幻影を置いて自分は
後方に抜ける技だが俺がしたのは、前にキャスターと話した技として
TOVの技の一つ。本来は、正しく残像を残すほどの急加速で敵の
幻狼斬。
俗に言う残像っていうやつだ。正確には俺のは幻影だが⋮。
いや、正しくはランサーの槍が貫いている方にも俺は居る。
中を合わせるように居る。
ランサーが俺に突きを喰らわせてる時点で既に俺はランサーに背
﹁っな
が││、
その俺に対しランサーはより早く神速の突きを以てして対応する。
!!
時間があったらちゃんとした武術として再現したいようなきもす
き︵笑︶。
現段階ではチートに頼った上で制限が付いている荒技、幻狼斬もど
可哀そうな人の〝ダブル〟という能力に似ているかな。
×
るが、これはこれで役に立っているので構わないかな。
﹂
﹂
﹁││斬っ
﹁ぐあっ
!!!!
いや、感触がおかしい
!!
斬撃を喰らったランサーは前方へ吹っ飛ぶ。
る。
後方に出た俺の斬撃と同時に、ランサーの前に居る俺は霞と消え
!!
508
!?
﹁っ痛ってぇな⋮。ったく、今のはどういう理屈だ⋮
﹂
立ち上がったランサーの背中には確かに俺の斬痕があるが、致命傷
には程遠い。
垂れ落ちる血液。しかしその程度。
さすがは、英雄ってことか⋮。
﹁あの状況で反応して前方に飛んだわけか⋮。フィクションみたいだ
けど、まさか目の前で見るとはね﹂
﹁仮にも英雄って呼ばれてんだ。わけねぇよ﹂
振り向き、俺の方を向くランサーの顔はまだまだ余裕の笑みを浮か
べている。
ああ、楽しいなぁ││
│││っと、ダメだダメだ。
ナノブラスト使っちゃうと目的を果たせなくなる。ケモってる場
合じゃない。
アーチャーの時みたいに後でならともかく、今なる訳にはいかな
い。
冷静に、ランサーの槍を捌かないと⋮。
まったく、獣の本能ってやつは厄介だな。すぐに戦闘が楽しくな
る。
獣って言う位なんだから生存本能優先しろっての。
何にせよ、何とかランサーの動きに対応できている。
でも、それでやっと追いついたというだけだ。
ショートジャンプ
﹁まったく、ズルしてこれかよ⋮﹂
短距離転移に分身もどき、結構なチートを使っているというのにこ
れだ。
ほんと、全く持って〝当たらなければ意味が無い〟ね。
509
?
はっ
さっきのは嬢ちゃんの技なんだろ だったら使
だが、苦笑する俺にランサーの兄貴は漢前に笑いながら告げる。
﹁ズル
?
そう言いランサーは構える。
か、かっこいい⋮。
さすがは兄貴。そこに痺れる憧れる
けど、俺も嬢ちゃんみたいな気
﹁かっこいいなぁほんと。羨ましいよ﹂
﹁お褒めに預かり恐悦至極ってか
﹂
の強い女は嫌いじゃないぜ﹂
﹁っ、な、何言ってるのさ
?
ますます気に入った。その技量を持ちなが
?
なんかランサーの兄貴がナンパ男みたいになってる
﹂
ってか女らしいとか言うな
﹁っ
﹂
!!
!?
らも女らしい可愛さも持ってるとか中々無い逸材だぜ﹂ ﹁何だよ照れてんのか
けどその意味が解って俺は混乱する。
一瞬思考が止まる。というより理解を拒否した。
?!
!!
全身全霊で来い。我が槍で貫いてやるからよ﹂
えばいいじゃねぇか。手加減してる奴に勝ってもなにも嬉しくねぇ。
!
﹁うっさい
女らしいとか言うな
﹂
!!
あと照れてない
﹂
﹁おーおー来やがれ来やがれ。もっと俺を楽しませてみな、嬢ちゃん﹂
から
﹁ここからは諸事情で全力は出せないけど本気で使える技使っていく
!!
こんなナンパ野郎はさっさとぶっ倒す。
さっきまではカッコいいと思っていたが撤回だ。
!
﹁照れ隠しにしちゃぁ物騒なことしやがるぜ﹂
﹁ちっ﹂
だがそれも後ろに下がることで避けられる。
だ。
槍を腰だめに構え、そのまま槍に乗る様にランサーへと突き込ん
﹁うお
!!
510
?
!?
!!
﹁ラウンド2だ
む。
﹂
!!
﹂
良い感じじゃねぇかっ
﹂
!!!
﹁っるぁぁぁ
それだっ
互いに突きの連打。
﹁そうだっ
!!!
﹁っは
﹂
互いの間にて火花を散らす槍が、双方の槍の進路を弾いていく。
!!!
だがその時点で俺も槍をランサーへと向けていた。
う│││がすぐに槍を引き、自身の上に来た俺へと槍を向け直す。
それにランサーも驚く│││恐らく槍のぞんざいな扱い方にだろ
ねさせ、ランサーの槍を避ける。
乗せていた腰をてこに槍を地面に当てて身をランサーの上へと跳
でもこの次は見せていない。
そして流れるようにこちらへと突きを放つ。
そう言いながら鋭い眼光でこちらを見るランサーは容易く避ける。
﹁それは今見たぞ
﹂
再び腰だめに構えて、槍自体に乗る様にしてランサーへと突き込
!!
たらわかるが地に足付けたランサーに途中で上手いこと槍を反らさ
れ、それに合わせて体が流れる。
そこへ放たれる槍。
今使った技は本来3段式、長槍系PAドゥース・マジャーラ。
でも3段目は身体を流されたせいで出来ない。
﹂
﹂
でもそれで良い。
﹁月光
と
﹁ちっ、またか
ぶ
再び俺は跳躍する。
でも同じ技じゃぁ芸がねぇよな
ランサーは背後を見る。
﹂
!!
!
でも俺はそこに居ない。
﹁│││烏
!!
511
!!
だけどたとえ馬鹿力とはいえ空中では発揮し辛い俺は、普通に考え
!
!
ランサーの更に後方、その上空。
﹂
そこから槍を投げ放つ。
﹁っ
それをランサーは冷静に払いのける。
避けられた俺の槍はランサーの背後へと落ち、ドンと重たい音を立
てる。
月光・烏
月
そしてその瞬間には空中で無防備となった俺へとランサーは飛ん
でいた。
止めと言わんばかりに彼は槍を突き出す。
・・
でも残念。
ただのカカシですな
月光・
月光・烏││││﹂
月光・烏 月光・烏
月光・烏 月光・烏
そしてそれを再び投げつける。
﹂
否、投げつけ続ける。
﹁はぁっ
驚愕の声を上げるランサー。
はは
!
飛ぶのは俺だけじゃないのです。
月光・烏
月光・烏
!
﹂
しかしそれも弾かれた。
﹁っらぁ
サーに向けて落とす。
・・
空中で身を翻し、そのまま空中を蹴って、隕石のごとく蹴りをラン
﹁│││月破墜迅脚﹂
弾かれた俺の槍がやがて土煙を上げ、辺りを隠していく。
徐々に表情が苦しげになるランサー。
でも先程の俺と同じように空中では万全の体勢とは言えない。
空中で器用に俺の槍を弾いていくランサー。
!!
対する俺が今使っているジュディ姐さんの本領は空中戦。
そして彼は今空中に居る。
!
!
月光・烏
!
!
月光・烏
!
﹁月光・烏
月光・烏
!
光・烏 月光・烏
烏
!
!
!
ランサーが俺へと届く前に、俺は槍を手元へ呼び戻す。
!
!
!?
!!
!!
512
!
!
見えていないと思ったが俺自身が放たれた以上、矢除けの加護が発
動したんだろうか
めに構える。
﹁突き合いか
﹂
﹂
!!
﹁ドゥース・スカッド
﹂
さぁ、次は突き勝負と行こうか。
ランサーも同じように構えた。
おもしれぇ
一度俺はバックステップで下がり自身の槍、トラクラを両手で腰だ
﹁まだまだぁぁっ
まぁ別に決まればいいなと思っていた程度でしかない。 ?
!!
す。
﹁っしゃああぁぁぁぁ
互いに突いて突いて突きまくる
﹂
﹂
﹁無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
オラオラオラオラオラオラぁぁぁっ
!!!!!
﹁オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
!!
突く突く突く突く突く突く突く突く││││││
﹂
突きを繰り返す俺にランサーは付き合ってくれて、突きを繰り返
ってか早々使う気ないけどそんな物騒なの⋮。
今は使ってないよ
ばすという概念が存在する。
ちなみにこの技、空間を貫き次元を破壊する衝撃により敵を吹き飛
ただ突きの部分を繰り返す。
来は最後に槍投げをする槍スキルだがそんな無粋なマネはせず、ただ
フォトンアーツの技の一つ、連続突き技のドゥース・スカッド。本
!!!
?
!!!!
!!!!
513
?
無駄無駄無駄ぁぁぁっ
⋮
!?
俺はもう一度後ろに一旦下がり、もう一度同じ技を繰り返す。
﹁オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
ま、まさか⋮。
⋮
無駄無駄無駄ぁぁぁっ
﹂
﹂
﹁無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
オラオラオラオラオラオラぁぁぁっ
!!!!!
サー。
﹂
そこで俺は一旦槍を下ろす。
﹁どうした嬢ちゃん
﹂
あ ん た ぜ ぇ っ た い 読 ん で る だ ろ っ
﹁貴様︵ジョ〇ョを︶、見ているな
﹁⋮何の事言ってんだ
﹂
﹂
!!!
⋮。
なんだあれか
大きいお友達︵イケメン︶なのか
ランサーじゃなくてらんさーなのか
ってか、無駄にセリフやらポーズが似合うなおい
!!
!?
?
おい、何なんだよこのランサー。何か無駄に親近感わくんだけど
﹁なん⋮だと⋮
てから否定しやがれぇっ
﹁動揺しすぎだし、ついでに言うと⋮その見事なジョ〇ョ立ちをやめ
だって││││、
いやそれもろに嘘ダウトだろ。
何の事やらといった風に掌を上にして否定するランサー。
﹁な、何の事を言ってるんだかわからねぇぜ⋮﹂
!!!
﹂
飛ばされた時に自身から飛んだのか、軽々と後方で着地するラン
槍を大きく薙ぎ払うように振り、ランサーを飛ばす。
これは確認が必要だ⋮。
!!!!
?
!!
?
﹁ジ ョ 〇 ョ だ よ ジ ョ 〇 ョ
﹂
!!
!?
?
514
!!?
少しの沈黙の後⋮。
!!?
﹁⋮⋮﹂
﹁おい嬢ちゃん⋮。その目やめてくんねぇか
﹂
﹂
俺が言える
?
そいつはサー
良いじゃねぇか別に
こっちゃないのは重々承知だけどさ⋮なんというか⋮ねぇ⋮
﹁は、はまっちまったもんは仕方ねぇだろ
﹂
あれか サーヴァントはマンガ読むなってか
ヴァント差別だろ
!?
が関わった結果だからさ。
けど俺、ランサーとまだ関わった覚えないよ
!?
なんで既にキャラブレイク
いや、それで何だ
﹂
﹂
テコ入れ
バタフライエフェクトとかいうやつか
﹂
!?
あれか
何で知ってやがる
!?
!!?
サーヴァント勢がキャラブレイクしまくってるのは分かるよ。俺
これ俺の所為じゃないよね
!!
?
めて、良い感じの空気になったと思ったらこれですよ
﹁いや、だってさ⋮、さっきあんなかっこいい事言ってさ、場を引き締
?
!!?
それともマスターであるマーボー神父の所為か
あーもう誰か助けて
わけ分からん
﹁あのさー、らんさー⋮﹂
﹁なんかニュアンスが⋮気のせいか
﹁ああ
﹁ランサーの趣味って釣りじゃないの
?
!!
﹂
?
着いちまってな。笑いたけりゃぁ笑え、今の俺はコスプレ兄さんだ﹂
だ。このポーズもそのガキどもが会う度にやらせるものだから身に
警戒しながらでも十分読めるから読んでたらいつの間にかって感じ
﹁いや、近所の変なガキ共が持ってくるんだよそういうのをよ。まぁ
﹁それでマンガやらに
できる所までマスター放っぽって行く訳にはいかんだろうよ﹂
﹁まあ良いが⋮確かに釣りは好きだけどよ、サーヴァントの俺が釣り
?
!!?
?
?
!!
515
!?
!!
!?
!?
﹁それは気にしない﹂
?
なんか近所の子に懐かれてる
できそうじゃねぇか⋮﹂
そう言って槍を構え直す。
ちょ、いきなりシリアスに持って行かんといて
俺そんなに器用じゃないっすよ
﹁それも知ってるの
﹂
﹁OHANASHIは嫌だけどな﹂
俺もシリアスに突入│││
よし、落ち着いた。
実際してみたい、色々と楽しそうだ。
ね﹂
﹁ん、うん、そだな。確かにランサーとはゆっくり話とかしてみたい
!
﹁そうか⋮。ちっ、どうせなら違う出会い方したかったぜ。良い話が
もないし﹂
﹁じ、事情は分かったよ。おれもマンガとか大好きだから分からんで
というか自然に出るくらいにさせられたんだね。
てる位だし⋮。
それにしてもよっぽど気にいったんだね⋮。まだジョ〇ョ立ちし
いが⋮。
まぁ戦闘時以外は気の良いイケメン兄さんだから分からんでもな
!!?
って、だから空気の上下が
めい
具を使ってきっちりと殺して来いってな﹂
いやはや、えらく警戒されたもんだね。
でも当然っちゃ当然だわな。
チートって言葉すらあほらしくなる位にチートだもの。使いこな
そして、宝具⋮ってことはゲイボルグだよな
せてないけど⋮。
それを使うことを態々指定してきた。何故だ
?
いや、今までの事を見られていたと考えればそこに行き当たるか。
?
516
!?
﹁だがもう遅ぇ。俺のマスターの命は嬢ちゃんを殺すことだ。我が宝
!!
なんと、ランサーはなのは式OHANASHIも知っていた。
!?
金ぴかに一度殺されたのに復活した所から高速再生かなんかだと
マーボー神父は考えたってところかな
例えゲイ・ボルグでも一度死ぬだけだ。
やられる気はないけどね。
しまった⋮。
﹂
いつの間にか思考に没頭してた。
﹁えっと、ごめんなさい⋮﹂
やるなら構えな﹂
?
﹁あのさランサー。俺があんたを倒したら俺のお願いを二つほど聞い
どうせなら今言っとこうかな。
﹁あ、待った﹂
そう言いランサーは再び構える。
続き、どうするんだ
﹁それは良いんだけどよ、半分は俺の所為でもあるからな。それより
!
ともかく、こと生存に掛けては過剰なほどのチートである。
無いよね
いや、さすがにそれはないか。
おそらく、魂とかを吹っ飛ばされても治るんじゃなかろうか。
奪っていくほどの効果を持とうと、スケドがある限りは復活する。
例え治らない傷を植え付ける武器だろうと、一度に幾つもの命を
が分かっている。
今までに何度か試した結果、やはりスケドの効果は転生に近いこと
多分俺って、直死とかを喰らっても死なないと思うよ⋮。
でも残念。
うと⋮そういうことか。
だったら回復できない効果を持つ武器で傷を付けて死んでもらお
そんでもって、回復後は技を覚えられる⋮と考えたと⋮。
?
ってかこれ以上死ぬことに慣れるのは嫌だ
﹂
﹁おい嬢ちゃん
﹁のわっ
!
517
?
﹁たく、いきなり何黙り込んでんだか﹂
!?
てほしいんだけど﹂
﹁⋮普通言うなら一つだろ
それで、なんだ
﹂
んじゃラストバトルと行こうぜ
そんじゃあ聞くことはなさそうだな﹂
﹁それはまぁ後のお楽しみって事で﹂
﹁はっ
﹂
﹁そいつはどーかねぇ
・
・
・
﹁いやー楽しいね
?
またやってしまった
﹁考え事とは余裕だなぁっ
﹂
でも何か一つ間違えるとすぐにアボンしちゃうね。
何とかもっているだけだ。
﹂
ランサーが言うようにちょっとずつランサーから学べているから
最中なわけで余裕はない。
刹那の間に何度も攻防を繰り返し、死が見え隠れする死合いの真っ
ちなみに、軽く言っているが実際はそうでもない。
経った。
どれ位やってるかは分からないが、第3ラウンドを始めてそこそこ
くってのはあんまり良い気分じゃあねぇな﹂
﹁否 定 は し ね ぇ が、や れ ば や る ほ ど こ っ ち の 技 術 が 吸 い 取 ら れ て い
!!
?
!!
﹁こんにゃろぉぉ
﹂
ランサーの槍が顔に向かって迫る。
!!
これは第3ラウンド終わりかね⋮。
この体制じゃぁ追撃をかわせないかな。
額でかすり、帽子が貫かれて飛んでいく。
それを無理矢理身体を後ろに倒すことでかわすが、ギリギリのため
!!
﹂
518
?
?
!
だが││、
﹁
!!?
ランサーはそれをせずに固まっている。
何故
いや、けどこの機会を逃すのは惜しい
倒れる身体をバク転の要領で一回転させて体勢を立て直し、改めて
槍を後ろ手にランサーに向かう。
﹂
しかしランサーはハッとするかのように体勢を立て直し迎撃態勢
を取る。
﹁さっきと同じかぁ
﹂
だが、そんなことする訳がない。
﹁無影衝
・・・・
その俺にランサーの突き、構図としては先ほどと似ている。
!!?
今度は前か
﹂
!!
﹂
!!
﹂
﹂
蹴り上げと同時に、踵落とし、落ちたランサーを逆立ち状態でカポ
﹁かはっ⋮﹂
﹁崩蹴月⋮風月⋮尖月⋮﹂
縦に回転しながら下から連続で切り上げ、最後に蹴り上げる。
﹁如月⋮﹂
﹁ぐはっ
俺はそのまま近づき、思いっきり踏み込んで上空に蹴り上げる。
﹁天月閃⋮﹂
いや、言いたかっただけだけどね。
とか言ってみちゃったりしてー。
﹁槍術系混成接続⋮⋮﹂
ランサーは大きく後ろへ飛び、それを避けた。
﹁くそっ
とで球形の乱気流をランサーへぶつける。
大きく袈裟掛けに振り払い、その瞬間に魔力をわざと暴発させるこ
﹁なら、嵐月
突きだしていた槍を跳ね上げ俺の斬撃は防がれる。
﹁っち
後ろから再び現れ斬りかかる。
槍に突かれた俺、それは一瞬で消えるが本体の俺はその消えた俺の
!!
!
!!
519
!!
?
!
﹂ エイラをしながら再び蹴り上げていき、さらに空中2段ジャンプで追
撃の突きを行いさらに上空へかち上げる。
﹁止め⋮⋮我に仇名す者を⋮冥府へ送りし⋮朧月の棺
!!
覇王⋮籠月槍ぉぉぉ
続けて空中で連続で斬撃と蹴撃を流れる様に加え、最後に大きく斬
り上げ│││、
﹁はあああぁぁぁ
﹂
!!!!!
!!
けようもないだろう
よし、了承は得た。
﹁どもです。んじゃぁ⋮ってい
﹂
﹁ああ、好きにしな。この状態じゃあもって一分もないだろうが⋮﹂
﹁ありがと。ってなわけで、先の約束についてなんだけど⋮﹂
る。
ゲイボルグを杖の様にしながらも立ったままのランサーが言ってく
俺が投げた槍の所為で腹にドでかく風穴を開けそれでも倒れずに、
のは見事だったぜ⋮﹂
﹁なんだ⋮、嬢ちゃんの槍は空中が本来使う場所だったのかよ⋮。今
!!
矢除けの加護があろうとこれだけ体勢を崩したうえで空中なら避
投げつける
ありったけの魔力を自身の槍に叩き込みッ
!!!!
鬼畜
何⋮しや⋮がる⋮⋮﹂
いや、でもしんどい時間は短かい方が良いじゃん。
ランサーは血を吐いた後、そのまま後ろへと倒れ込んだ。
﹁ぐほぁあっ⋮
りの掌底と共に撃ちこむ。
俺は例のごとくスペカを取り出し、ランサーの残っている胸元の辺
!
そんな誰に対する言い訳か分からないものを考えながら暫く待つ。
今までよりは早いだろうか、倒れたランサーの身体が光に包まれて
520
!!!!!
!!
はたから見たらただの死人に鞭打つ状態だけども。
?
いく。
まぁ毎回のパターンだよね。
光に包まれていたランサーの身体が徐々に小さくなる。
やがて光は収まっていき、そして消えた。
すると何と言うことでしょう︵劇的ビ○ォーアフ○ー風
辺り一面に血が飛んでいる森の中に青い全身タイツの少年が現れ
たではないですか。
っておお
どうなってん
なんて、頭の中で実況しているとランサーの瞼が震えはじめた。
﹂
﹁って、いってぇぇぇ 何しやがる
だこりゃ
!!!
い。でもなんで小さくなってんだ
﹂
﹁いや俺にもそこはよくわからない。サービス
﹁誰にだよ﹂
﹁それはほら、世のショタ好きな⋮﹂
﹂
﹁お お 令 呪 が 消 え て る 上 に 受 肉 し て ん の か こ れ
ようこそ小さな世界へ︵血涙
わーい、目線の高さが同じくらいだ。
跳ね起きるようにして俺の目の前に立つランサー。
!!
﹁あいあい。えーっとですねぇ││││﹂
・
・
・
﹁嬢ちゃん、何でそれを知ってやがる﹂
キングクリムゾン︵笑︶中にお願いを言いました。
一緒に身体が陥ってる状態も。
す げ ぇ な お
それで、俺が言ったお願いについてだが、1つ目は、この聖杯戦争
を終わらす手伝いをしてほしいという事。
そして2つ目がさっきの言葉に繋がる。
521
!?
!!
?
﹁いやもう良い、それよりもなんで俺を生き返らせた﹂
?
?
!
その二つ目ってのがダメt⋮じゃなかった⋮バゼットさんの所に
案内してほしいというもの。
ついでに、ランサーの真名も知ってるし、バゼットさんが本来のマ
スターなのに、今のマスターに令呪を奪われたせいで従ってる事も
言った。
﹁何で知ってるかって⋮⋮えーっと、簡単に言うとアカシックレコー
ドに接続できるから⋮ってことで﹂
いつものごとくの良い訳。
そういや最近使ってないな。拗ねてたりして︵笑︶
﹂
﹁ちょっと待て。簡単に言うこっちゃないだろ。っていうか、それな
ら何で場所がわからねぇんだ
﹁⋮⋮あは︵笑︶﹂
﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁痛い
槍の柄の方で小突かれた。
あいつはもう⋮﹂
﹂
何であいつの所な
﹁もう良い。そっちは置いておく。約束とはいえ、これも契約だ。雇
?
われる側に必要な情報でもねぇしな。それで
んだ
﹂
﹁死んでないとしたら
﹁
?
?
﹁ほんとなのか
﹂
やーめーてー。
吐く
マジ吐くこれ
﹂
!!
うぅ、吐くってこれ⋮。
﹁ちょ、やめて
﹁わ、悪ぃ⋮。 それでマジなのか
!
ねぇ奴だとか最初に思ってたがホントに生きてやがったか⋮﹂
﹁そうか⋮。あいつが生きてんのか⋮。ははっ、殺しても死にそうに
な﹂
﹁まじまじ。そんなわけで案内してほいんさ。ほっといたら死ぬんで
?
﹂
クー兄さんは俺に詰め寄り、首元を掴んで思いっきりゆすりだす。
!?
!?
522
!?
?
﹁確か⋮自身を仮死状態かなんかにしてまだぎりぎり生きてる筈﹂
!!?
嬉しそうに微笑むランサー。
ぬおっ
さすがイケメンカッコよす。
やっぱりイケメンは小さい時からイケメンなんですね。爆発すれ
ばいいのに。スケド使ったとこだけど。
確かそん
でもまぁせっかくだから、その顔はバゼットさん本人に見せてやっ
てほしいね。
﹁ま、そんなわけで案内よろしくね﹂
﹁ああ。こっちだ﹂
・
・
・
小さくなったランサーの案内で、なんだっけ、双子館
﹁あのよー、嬉しくなって来ちまったが⋮、改めてみると死んでる様に
もっとグロい目に会ってる俺が言うのもなんだけど。
グロいね。
令呪を奪っていく際に腕ごと持っていかれたんで片腕が無い。
﹁うっわ、見事に血まみれ、そして片腕が無い﹂
る部屋の中、血まみれなバゼットさんが転がってる真ん前まで来た。
そして、中々にきれいでいかにも高そうな雰囲気の物がたくさんあ
敷に来ている。
な名前のバゼットさんが拠点にしようとし、そして令呪を奪われた屋
?
なんか俺も直接見たら心配になってきた
しか見えないぞ嬢ちゃん﹂
﹁うんや、生きてる⋮よ
⋮⋮﹂
﹁おい⋮﹂
仕方ない、こんな時は⋮。
おおぅ⋮。
ジトーっとした目で見てくる。
?
523
!?
﹁確認するよ。たららったら∼携帯電話∼︵耳なし青ダヌキ風︶﹂
﹁ちなみに俺は大〇のぶよのが好きだ﹂
おいぃぃっ
近所の子どもさん、ランサーにそんなのまで教えてんの
その近所の子見たくなってきた。
﹁こ い つ で ア カ シ ッ ク レ コ ー ド に 繋 い で み て 確 か め る ん さ。え ー っ
と、バゼットさん、現状、仮死⋮AND検索でいっか﹂
﹁アカシックレコードってそんなググる感じでできるもんだったっけ
﹂
?
か
﹄っ
現 在 の 状 況、
﹁で き る も ん は 仕 方 な い。ッ と 出 た 出 た。え ∼ 何 々
やってみ
ってか案外蹴ったら起きるんじゃね
﹃仮死じゃね
て書いてあるね。
⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁おい、ホントに蹴ろうとするんじゃねぇよ
﹁⋮⋮冗談ダヨ
ソンナワケナイジャナイデスカー⋮。
ロッ ド
!!
?
?
杖っぽいからこれにしてみた。
﹂
﹁え∼まずは仮死状態を解除して回復すれば良いかな
レスタ
レジェネ
?
﹁ありがとよ、嬢ちゃん﹂
ちょっと心配だったんだよね。
腕も回復したのは行幸だ。
ふむ、割りと簡単にできたな。
寝息がかすかに聞こえる。
くなり、腕も元に戻ったバゼットさんになった。
バゼットさんが光に二度包まれ、服に血が付いてはいるが血色がよ
!!!
!!
ただ、見た目は魔法少女のステッキといった体だが、ネギよりは
ちなみにこれを選んだ理由は特にない。
テッキくん﹄を取り出して構える。
そう、続けてランサーに言いながら俺は大杖の一つ、﹃えこえこス
ねぇ
﹂
?
?
524
!!?
!
?
?
﹁良いって良いって。これは俺が勝手にしたいと思ってやった事だか
らさ﹂
﹁それでも、言わせてくれ。感謝する﹂
﹁なんか照れくさいな⋮っとそうだ、このまま地面に寝かせとくのも
アレだし移動させなきゃだな。うちまで連れてくかな﹂
うちといいつつ衛宮亭ですがね。
﹁おっと、そいつは俺がやるぜ﹂
﹁そっか、んじゃ着いてきてくれ﹂
よし、これでまた一つクリアっと。
順調順調ー。
あとは金ぴかとマーボー神父とに聖杯か。
うん、これは一度にする必要があるから、あとちょっとだね。
よ﹂
﹁耳って⋮これ
なんで
﹂
﹂
が無くてな。反応しちまっただけだ﹂
525
戦力はそろった。
そして向こうの戦力は削った。
くっふっふ、後は罠にかかるのを待つばかりだ。
クライマックスは近い。
<小話:バゼットさんのところに行くまでした会話>
﹂
﹁そういやさ﹂
﹁あん
あれって何で
?
?
﹁なんだ、それは知らねぇのか。俺はちょいと犬ってのに良い思い出
?
﹁ああそれか。それはお前さんの帽子が取れた時に耳が見えたからだ
じゃん
﹁お れ が ラ ン サ ー に 最 後 の 大 技 く ら わ す 前 に ラ ン サ ー 一 瞬 止 ま っ た
?
?
ゲッシュ
﹁あ、そういえば犬耳っぽいのだっけ俺⋮﹂
﹁あ ー、ち く し ょ う。犬 は 食 わ な い っ て 誓約 を 立 て ち ま っ て る か ら
ってかどっち
﹂
なぁ。惜しいことをしたぜ。たぶんこっちの意味でも駄目だろうし
俺を食ってどうするの
!?
!?
なぁ﹂
﹁食べる
﹂
!?
﹂
?
違わないけど
﹂
!
?
ほら行くぞ
!
近寄らないでください。通報しますよ
﹁ちげぇよ
﹂
﹁いや、なんかよく分からないけど嫌な予感がしたから。あ、それ以上
﹁まぁ、色々楽しませてもらうか。っておい、何で離れるんだよ﹂
﹁お、おおぅ
じゃ難しそうだ﹂
﹁く、くくっ、そうじゃねぇよ。まぁいいや。どっちにしろ今の状態
﹁美味しくないよ
﹁そりゃぁお前、決まってるだろ﹂
!?
﹁あ、うん﹂
526
!
﹄
﹃stage38:聖杯って大体ちゃんと使われない
よね
﹁たっだいまー﹂
俺は能力でドアくぐって衛宮邸まで一気に帰ってきた。
後ろにはクー兄さんと干された布団の様にグデーっとなったまま
寝ているバメットさん。
というか身長が低くなったランサーに担がれてるのでバゼットさ
んは若干引きずられ気味になっている。
まぁ仕方ないよね
﹁なんぞ⋮
﹂
まってる遠坂と、顔が真っ赤の士郎。
しかし部屋に入ったら何故か腹抱えてプルプル震えながらうずく
とにかく、俺は2人を衛宮亭へと連れてきた。
!
ああ、なる。笑ってたのか。
それにしても、何を笑ってたんだ
﹁ちょ、遠坂
﹂
﹁ねぇ聞いてよコウジュ、士郎ったらね﹂
いや、状況から士郎の何かを笑ってたんだろうけど。
?
﹁ひぃー⋮はう、笑った笑った⋮あら、おかえりなさいコウジュ﹂
多分俺以外の誰が見ても同じような事をつぶやくと思う。
そう思わずつぶやいた。
?
反対の手がヤバいとこ触ってますよ
ら抱き付くようにして。
あのー、士郎さん
﹂
﹂
さすが主人公、その程度で済むのか。
﹁わ、悪いっ
﹁どこ触ってるのよ
あ、はたかれた⋮。
?
!
?
士郎はかなり必死に凛を止めようとして口を防ぐ。それも後ろか
!?
!!
527
?
﹂
これがワカメだったら魂ごと消し飛ばされてるだろうに。
またどっかでフラグ立てた
さすが主人公、とりあえず爆発しろ。
﹁んで、士郎がどうしたん
?
私、気になります
人の恋路ほど面白いものは無いと言うがほんとそうだな。
今の俺を効果音で表すとキランと付くことだろう。
デートとな
デートしに行くんだってさ﹂
﹁いーえ、どちらかというと回収に行く感じかしら。明日セイバーと
?
ぴゅーぴゅーと口笛を吹いて誤魔化す俺。
﹁いま、面白いって言いそうになってなかったか
﹂
デート後に金ぴかがちょっかいかけてくるのもあって余計にね。
るよ。
ニヤニヤせずにはいられなかったシーンなんで印象に強く残って
原作であったデートイベントかな。
﹁それは面白⋮もとい⋮めでたいことだねー﹂
れる。
っと、顔を赤くしながらも近くにあった新聞を丸めて構えたので離
うりうりと顔をつついてみる。
何これ可愛い。
回り込むとまた顔を背ける。
士郎の方を見ると顔を赤くしながら顔を背ける。
!
﹁それで凛は爆笑してたわけか﹂
﹂
﹁そ う い う こ と よ。所 で ⋮ 後 ろ の 二 人 っ て ⋮ あ れ
サー
小さくなってるから、もうランサーのコスプレした小っさいどっか
それにしてもよくわかったな。
片 方 は ⋮ ラ ン
ちょっとその溜息に釈然としないながらも話を続ける。
なんだよその何言っても無駄だなって表情は。
訝しむ士郎だが、ハァと一つ溜息をついた後は諦めたようだ。
?
?
528
!
今更ながら驚いた凛は宝石を構える。
!?
の子になってるのに。
うん、改めて見てもやっぱ〝らんさー〟ってのがしっくりくる。
﹁ストップストップ。2人はもう味方だから一応。それに片方は気絶
中だから起こさないようにな﹂
﹁⋮っ。⋮わかったわ﹂
凛は再び座ってくれた。
ふと、士郎の方に顔を向けると、苦虫を潰したようなといった微妙
な顔をしていた。
あぁ、そっか。
士郎は一回ランサーに殺られてるんだっけ。
そらそんな顔になるわな。
﹂
﹁士郎、納得いかない部分もあると思うがそこはちょいと目を瞑って
くれないか
﹁⋮そう⋮だな。味方になったなら態々争うのもおかしいし﹂
表情的にはまだ納得してないって感じだが、それでも理性で抑えて
くれたようだね。
でも、味方になったって俺が言っただけでそこまで自分の気持ちに
ふたをするってのはお兄さんちょっと心配だ。
なんか、ほっとけないよなこんなところを見ちゃうとさ。
﹂
まぁその表情をしてしまう現状を作った俺が言うのもなんだけど
さ。
﹁それで、どこで拾って来たの
﹂
っと言いたいけど、俺の日ごろの行いのせいだわ
﹂
﹁おいおい、嬢ちゃん方そいつはひどくないか
餌は俺ってことになるのかね。
﹁拾ったというより釣った
な。
こっち見んな
トーっと見てきた。
微 妙 に も や も や し て い る 俺 を、凛 が そ ん な こ と を 言 い な が ら ジ
?
たがさすがに口をはさむ。
クー兄さん︵らんさー︶が扱いを不満に思ったのか、今まで黙って
?
?
!!
529
?
しかし見た目がアレなもんで少年が拗ねているだけに見える。
そんなクーさんは自分が座るついでにその辺の座布団を繋げて、そ
の上にダゼットさんを寝かせた。
すかさずアーチャーが掛ける為だろう毛布を持ってきた。
無言で頷き合うアーチャーとランサー。
おお、漢な二人の掛け合いカッコいい。二人ともショタだけど。
まぁでもその二人の気遣いの御陰か寝かされたバメットさんも心
本名なんだっけ⋮。
なしか満足げだ。
⋮あれ
ダメット・フラグミッツ
三つ
まぁそのうち分かるか。
教えてくんねーか
﹂
⋮まいっか、そんなわけでラ
﹁そういう契約しちまったからな。約束は守るが⋮そろそろ、内容を
ンサーの協力を得る事が出来ました。わーぱちぱち﹂
﹁そんなわけで⋮あれ、どんなわけだ
?
ふざけてたらどれが本当か分からなくなってきた。
?
ま
するのからただ単純にスケドを使えばいい訳じゃないはずだが、でも
セイバーは英霊として少し特殊で、本来の身体がまだ生きていたり
スケド︵スケープドール︶で可能なわけだ。
実際問題として、セイバーが現界し続ける事は聖杯が無くても俺の
とも現在を望むか⋮。
い
セイバーの本心が王の責務で塗りつぶされてしまっているか、それ
現時点で問題となってくるのはセイバーの本心。
それに、丁度セイバーも居ない。
ほぼ最終段階まで来たのに言わないってのは駄目だよな。
なんだかんだ言いながら俺は説明を抜きにして好きにして来たし、
まあいい機会か。
るメンバーは知らないのか。
そういえば話したのってイリヤとキャスターくらいで、今ここに居
その言葉に、他の皆も俺を見る。
?
530
?
?
まぁぶっちゃけ、手間がかかるだけで問題はない⋮はず。
だから、後はセイバー自身の問題だ。
聖杯が穢れてるとかそんなの抜きにしてセイバー自身がどう思う
か。
それによって俺が取る方法を変えなきゃならない。
傲慢な考えだと思うけど、やるならとことんまでやりたいのは確か
だ。
でも、こればっかりは士郎とセイバー二人がどうするかにかかって
る。
二人があと少しの時間でどうなるか、それによって対応を決めるし
かないのだ。
結局これに関しては後で考えるしかないか。
なら、現状で言えることは言ってしまっておいた方がやはり良いの
だろう。
﹂
﹂
ランサーは聖杯に望みってある
﹂
ものが願いだからな。強い奴とやりあえればそれで満足だ﹂
﹁ねぇよ。俺は聖杯に願いを持っちゃいねぇ。俺はこの聖杯戦争その
?
﹂
﹁んじゃ、無問題だね。この度召喚される聖杯、実はこれが汚れてし
まっているんだ﹂
﹁⋮どういう⋮こと
そう問う凜ちゃん。
?
531
俺は意を決心して、皆の事をしっかりと見ながら口を開いた。
﹂
﹁単刀直入に言うよ。俺の目的は聖杯をぶっ壊す事だ﹂
﹁⋮なんだって
﹁嬢ちゃん⋮、本気か
﹁理由を聞いてもいいか
﹁モチのロン。本気と書いてマジです﹂
?
﹁勿論。けどどう話そうか⋮。そうだな、ちょっと聞きたいんだけど
?
?
﹁私たちにも勿論教えてくれるのよね⋮
﹂
士郎、凛はどうやら固まってるようだ。
ランサーがキョトンとした顔をこちらへ向けてくる。
?
穢れてるっていきなり言われても意味が解らないよな。
他の皆も首を傾げたりと理解まで行っていないようだ。
﹁汚されているってのは文字通りの意味だよ。聖杯は汚されている。
あれはもう願いを叶える願望器なんて物じゃなくなってるんだ。い
﹂
や、確かに願いを叶えることはできるだろうよ。けどな、その方法が
生贄が必要だとかって事
問題なんだ﹂
﹁方法
﹂
て成就するんだ﹂
﹁なんですって
﹁おいおい、マジかよ⋮﹂
﹁ゴメン、よくわからないんだがどういう事なんだ
かるんだが⋮﹂
士郎ェ⋮。
物騒なのは分
﹁いんや、それすらも生ぬるい。その方法ってのはな、
﹃破壊﹄を持っ
?
例え例え。
﹁そんなの願わねぇけどな﹂
﹁⋮ああ﹂
〟っていう願いを聖杯に言うとするだろ
﹂
﹁例えば⋮そうだな、さっきランサーが言ってた〝強い奴と戦いたい
が深い。
クー兄さんも確かキャスターのクラスにも該当するぐらいに造詣
でも魔術に馴染のメンバーはその意味が分かったようだ。
いや、良いんだけどね。実質士郎は素人なんだからさ。
?
!?
それがどうしてさっきの願いに繋がるんだ
戦争が起こるのは確実だろうよ。戦争なん
?
かな﹂
﹁ん
﹁その結果何が起こる
﹂
動起こして他国に落ちるだとか、文明の崩壊だとかが起こるんじゃい
﹁そしたら多分、各国の重要拠点が吹っ飛ぶだとか、核ミサイルが誤作
いな。
だから気に食わないってのは分かるけどブスッとしないでくださ
?
532
?
てものが起こったら人々は強くならざるを得ない。文明の崩壊も⋮
?
?
残された資源を巡っての闘争、奪い合い、
﹃ヒャッハー﹄や﹃汚物は消
毒だー﹄な世紀末が簡単に来ちまうだろうな﹂
俺の想像力が貧困なのでこの想像なのだが、戦争が技術を発展させ
るっていう話はよく聞く話だ。
戦争なんていう極限状態だ。普通なら踏みとどまる所で踏みとど
まれなくなる。
そりゃ技術力は上がるだろうさ。
戦争の結果生まれた技術なんてそこら中にある。
例えば新幹線に使わている技術、あれも元は戦闘機の開発技術を流
用したって話だ。
つまり、何が言いたいかというと、人は極限状態ではどこまでも突
き進む。
そして人間はそれを乗り越えるために強くなろうとする。
人間の強さは適応力だと聞いたことがある。
まあ悪い意味ばかりでもないのは事実だろうけどさ。
﹁たまったもんじゃないわ。世界最強を願ったら、多分世界中の人間
が死ぬんでしょうね。自分以外に誰も居ないんだもの、当然1番にな
るわよ⋮﹂
それどこの独裁者スイッチと言いたい。
でもきっとそうなるのだろう。
改めて考えるとホントろくなもんじゃねぇな。
まぁ、聖杯自身も被害者と言えなくもない。
中に取り込まれているモノも然り。
﹁汚れた原因は確か第三次の聖杯戦争。そこで、アインツベルンがイ
レギュラーサーヴァント阿部⋮じゃなかった﹃アヴェンジャー﹄を召
喚した。アヴェンジャーの正体はアンリマユ、つまり〝この世全ての
悪〟だった。それ以来の筈だ、聖杯が穢れたのはな⋮﹂
〝この世全ての悪アンリマユ〟は善悪二原論のゾロアスター教に
おいて、絶対悪とされる存在だ。
それを当時のアインツベルンが勝利に固執し、ルールを破って例外
的な方法で反英雄として召喚してしまうわけだ。
533
ただ、問題があった。
召喚されたのはアンリマユであってアンリマユではなかった事だ。
その正体は、拝火教を信じる古代のある村で、
﹁この世全ての悪性を
もたらしている悪魔を仕立て上げることで、人間全体の善性の証明と
する﹂という身勝手な願いの結果、一人の人間がこの世全ての悪を体
現する悪魔﹁アンリマユ﹂の名と役割を強制的に背負わされ、人々に
心から呪われ蔑まれ疎まれ続ける中で﹁そういうもの﹂になってし
まったただの人間だった。
しかしその在り方は人々の願いの結果であったことから願望器で
ある聖杯が反応し、聖杯は汚染されていった。
それが穢れの正体。
﹁また厄介なものを⋮﹂
呆れたと言わんばかりに言う凛。
まったくだ。
﹂
キャスターには簡単な概要だけは伝えたけど、それでも全部じゃな
い。
俺の一番の目的ってのも、言うとその方法を絶対聞かれるからって
理由で言えないのだ。
534
﹁あなたが壊そうとする理由は分かったわ。でも、さっさと壊さない
のは何でなの
おあふ⋮。
方法で聖杯を壊す﹂
﹁ある方法っていうのが知りたいんだけど
﹁それは⋮まだ言えない⋮かな﹂
?
だからイリヤにも言ってなかったりする。
言ったら絶対却下される方法だし。
﹂
なことをしてまた次回なんて状況は勘弁願いたい。だから俺がある
こできっちりと処理しておきたいんだ。前回からの今回の様に、下手
﹁それはあれだよ、確かに召喚されるのを阻害する方法はあるけど、こ
⋮⋮当たり前か。
核心突いてくるなー。
?
秘密主義ってわけじゃないけど、俺がハッピーエンドを考えた時に
最初に思い付いたそれを犠牲にしてってのは本末転倒だ。
だから、言えない。 ﹁⋮そう。まぁいいわ。今更だもの﹂
ゴメン。超ゴメン。
﹁あのさ⋮﹂
﹂
士郎が何かに気づいた様で俺に問うてくる。
﹁どったん
﹁親父は⋮気づいてたのかな⋮。3回目からって事は当然前回の聖杯
戦争も穢れていたってことだよな⋮。それを親父は願いを捨ててま
で寸前で壊したって事は⋮﹂
﹁おやおや、士郎にしちゃ鋭いじゃん。明日は槍どころかゲイボルグ
が降るんじゃなかろうか﹂
﹁どんな状況だよ。というか普段俺の事をどういう風に見てるかよー
﹂
s rightだ士郎。切嗣氏は寸前で気付いた。故に
く分かった。それで、どうなんだ
かな
切嗣氏とアインツベルンの関係についてはまだ言わなくてもいい
セイバーに命じて壊させた﹂
﹁That
?
どころか、士郎の場合100%足枷にしかならない。
終わってからゆっくりと話すべきことだしな。
ついでに言うとその方がイリヤを弄れて楽し⋮ゲフンゲフン、家族
間の問題になるからじっくりと話せる方が良いだろう。
﹁ほぉー、小僧の親父さんは前回の勝利者だった訳か。けど壊したと
⋮。やるねぇ﹂
クーさん今の会話だけで大体解かっちゃったげですか
こっちとしては説明する必要が無くて楽だけどさっ。
﹁どうやらそうらしい。いまいちピンと来てないけどな。って、俺の
今の見た目はあれだけど⋮︵目反らし
さすが兄貴と言わざるを得ない。兄貴の称号は伊達じゃない。
!?
535
?
'
現状では聖杯戦争っていうものの中では重要度が低い。
?
名前は小僧じゃないぞ
﹁あいよ﹂
内情を知りはしない。
衛宮士郎だ﹂
俺はFateのZEROはほとんど知らないから切嗣氏の詳しい
ん。
細かい言い回しは違うと思うが士郎がそう思ったのもさもありな
〝助けられたのは俺なのに助けた方が救われた顔をしていた〟
士郎は確かその時の切嗣氏の表情を見てこう言った筈だ。
そしてそこが、士郎の原点。
年。それが士郎だ。
中で切嗣氏は一人に少年を見つける。今にも死に絶えそうなその少
大火災による地獄絵図。救いなんてあるように思えない。そんな
あのシーンがより俺の中で鮮明に思い出された。
アニメは所詮虚構だが今目の前に居る士郎達は現実。だからこそ
俺は実際に見たわけではないがそのシーンはアニメで見た。
勘でしかないがそう確信できる。
助けられた所を思い出しているのであろう。
何か⋮とは言ったが十中八九切嗣氏にあの大火災の中から士郎が
遠くを見つめるように何かを思い出しているのであろう士郎。
でも親父なら⋮さ⋮﹂
果的に見たら被害の規模はまだ少ない方なのかもしれないけど、それ
めてまで聖杯を壊したのに結局大火災が起こってしまったんだ。結
﹁いや、親父にさ、どんな願いがあったのかは知らないけど、それを諦
俺が首を傾げているのを見て、士郎は続けた。
⋮なんのこと
士郎が悲し気に顔を下むがながら声に出す。
﹁それにしても、親父悔しかっただろうな⋮﹂
ショタなのに。
ショタなのに一々漢を魅せやがる。
飄々と笑いながら返すクーさん。
?
けど、当時の切嗣氏は罪に苛まれており、ほとんどの人が死人と
536
?
なった炎の地獄を歩き続けた中で生存者に出会えたってなっていた
のは覚えてる。
その時に歓喜、虚しさ、その他諸々の感情が溢れたのは想像に難く
ない。
﹁確かに⋮ね⋮﹂
﹁報われねぇってのは、辛いもんだしな﹂
﹁自分が原因だなんて⋮ホント│││﹂
⋮
あれ⋮
﹁ちょいタンマ。切嗣氏は直接あの大火災に関わってるわけじゃない
﹂
筈だぜ
﹂﹂
﹁﹁え⋮
◆◆◆
詳しい事は俺も
切嗣氏はあの大火災の原因って言え
大火災は親父が聖杯を壊したからじゃ⋮
どういうことだ
﹁あれ、俺言ってんかったけ
ば原因だけど直接は関与してなかったはずだぜ
た訳じゃないよ﹂
!!?
﹂
﹂
!?
﹁そうなの
﹁おおぅ
思わずコウジュに、机の上に身を乗り出して聞いてしまう。
﹁じゃ、じゃあ聖杯を壊した結果が大火災じゃなかったのか
﹂
か色々あるのかもしれないけど、根本的には切嗣氏は大火災を起こし
だ。実際は資格をまだ持ってないのに触れたから余計にこじれたと
触れてしまってああいう形で願いをかなえたってのが真相だった筈
スターが切嗣氏の足止めを願い、既に現界していた聖杯がその願いに
しっかりと知らないんだけど、切嗣氏の相手、つまりあの金ぴかのマ
?
?
?
?
?
身を引くコウジュだが、遠坂も気になったのか詰め寄る。
?
537
?
?
?
﹁そ、そうだよ⋮。ってか近い
﹂
それから俺たちは情報を纏めてみた。
相変わらず、コウジュは色々と隠しているようだ。
理由としては、今は必要ないだとか、俺達が知ることによって計画
が変わってしまった時に対処できないかもしれないからだそうだ。
それで⋮だ。
纏めた情報なんだが│││、
1.金色のサーヴァント、ギルガメッシュは聖杯を望んでいる。
2.ギルガメッシュは前回の聖杯戦争からの生き残りである。
3.ギルガメッシュはセイバーを狙っている。
4.ギルガメッシュは前回の聖杯戦争で、聖杯からこぼれ出たモノ
をかぶったために現界し続けられている。ただし、魔力の補充をする
﹁あ、俺はノリだからな﹂
特に最後
﹂
﹂
言っ
?
ため人を襲っている。
5.今回の聖杯戦争は実はもう終わっている。
﹂﹂﹂
││││││なるほど⋮。
﹂
﹁﹁﹁って、ちょっと待て
﹁う⋮
じゃなくて
﹁後半二つは俺聞いてないぞ
!!
538
!!
首を傾げるコウジュ。ちょっと可愛い⋮。
!!
﹁聖杯戦争がもう終わってるってどういう事
!?
!!
﹁ランサーェ⋮ゴロ悪いなこれ⋮⋮じゃなくて、聞いてない
!?
?
てなかったけ
﹂
﹁﹁言ってない﹂﹂
当然のごとく遠坂と声が重なる。
﹁⋮⋮わはー﹂
﹁﹁誤魔化すな⋮﹂﹂
﹁ゴメンなさい⋮﹂
﹂
コウジュが土下座をする。あの角度で何であの帽子落ちないんだ
ろ⋮。
ってそうでもなくて
﹁聖杯戦争がもう終わってるってどういう事なの
﹁ギルガメッシュの方もだ﹂
あの、遠坂さん
﹂
?
恐いんですが⋮。目が笑ってないです。声はい
﹁ふーん。で、終わってるっていうのは
るから人を襲ってるって感じなわけです、はい﹂
君は聖杯の中身かぶったおかげで現界し続けられてて、でも魔力が要
﹁前に俺が言ったのもあながち間違いじゃないんだ。けど、ギルガメ
のかって最近ほんとに思うんだが⋮。
なんだろう⋮やっぱりコウジュって実は遠坂家の関係者じゃない
そしてまた土下座。
ございます。あわよくば、そのまま流してくれたらなーっと⋮﹂
たぜ。ギルガメッシュの方は簡単。前回のわたくしめの説明不足で
﹁いやー、ゴメンゴメン隠し事しすぎてどれを話してないのか忘れて
た。
コウジュはあははーっと苦笑した後、先の疑問について答えてくれ
?
!!
ああそっか、聖杯戦争で倒すのは他の6人のサーヴァントだもん
ぴかは仲間はずれなので⋮﹂
イバーだけなため聖杯戦争自体は終わっているというわけです。金
ので、本来の参加者である7人のサーヴァントの内残っているのはセ
﹁聖杯戦争が終わったというのはですね、ランサーを先程倒して来た
ああ、コウジュが震えてる。
つも通りなのに⋮。
?
539
?
な。実質ランサーが最後の サーヴァントだった訳だから、セイバー
の勝ちは決まってるんだな。
﹂
﹂
あれ、でも待てよ⋮という事は⋮。
﹁聖杯が危ないんじゃないか
聖杯が
横で遠坂がハッとする。
﹁そ、そうよ
!?
鍵⋮ってなんだ
﹁そっか⋮﹂
﹂
?
とはいえ、コウジュの言うハッピーエンドっていうのを目指すため
れでも俺からしたら女の子だ。
のはやっぱり心苦しい。本人は女の子扱いされるのを嫌がるけど、そ
俺としてはそんなことを元サーヴァントとはいえ、女の子にさせる
があるってことだよな
けど、俺が突っ走ってしまうっていう事は、それなりの危険か何か
罪悪感を感じる。
思わず顔に出てたか。申し訳なさそうな顔をするコウジュに俺も
むう⋮。
走っていきそうだからな﹂
ぜ。秘密にする俺が悪いとは思うけどさ、今士郎に話しちゃうとつっ
﹁う あ ⋮ 士 郎 そ ん な 顔 し な い で く れ よ。も の す っ ご い 罪 悪 感 感 じ る
俺のことを考えてくれての事だとは思うがそれでも⋮な。
疎外感⋮というわけじゃないが、少し寂しい。
﹁なんだよ、俺だけ仲間はずれかよ⋮﹂
﹁あーそうね。士郎は知らない方が良いかも⋮﹂
﹁今は内緒⋮﹂
﹁鍵って何なんだ
横に居る遠坂は何か納得したみたいだ。
?
もしたから絶対守るよ﹂
ちらにある。一応何があっても大丈夫なように対策もしてる。約束
﹁それは大丈夫。ぬかりないよ。聖杯を召喚するためのカギは全てこ
ずっと土下座していたコウジュが顔を上げる。
!!
?
540
!!
には必要な事なのかもしれないし⋮。
まったく不甲斐ないな⋮。
﹂
﹁さて、真剣な話はここらで終わりにしよう。疲れた
お茶ちょうだい
アーチャー
!
もお茶
﹂
﹁ちょっと
元とはいえ私のサーヴァントなのよ
遠坂とランサーも便乗する。
もう何この状況。
俺の葛藤とかは何だったんだろうか⋮。
!
どこにいるかは容易く予想がついた。
なっていたコウジュを探しに来た。
話が終わり士郎を一通りからかった後、私はいつの間にかいなく
﹁ん、凜か⋮﹂
﹁やっぱりここに居た⋮﹂
◆◆◆
まったく、最近コウジュ関係で溜息が多い気がするよ。
はぁ⋮。
あ、終わったんだっけ⋮。
⋮。
俺が言うのもなんだけど、聖杯戦争はこんなので良いのだろうか
アーチャー私
衛宮家の押し入れはその内に青い狸でも出すんだろうか⋮。
う。
押入れからアーチャーが出てきて、そのままキッチンの方へ向か
﹁まったく⋮私は使用人ではないのだがね﹂
!!
﹁おう、俺も頼むわ﹂
!
イリヤの部屋だ。
541
!!
コウジュがうまく掻き回しているから士郎は多少訝しむ程度で気
づいていないが、昨日からイリヤの姿を見ていない。
それを思い出してここに来てみれば案の定だ。
暗くしてある部屋、その中に敷かれた布団に眠るイリヤを見る。
薄暗いからよく見えないけど、薄く上下する胸から呼吸があるのは
分かるがあまりにも生気が感じられない。
﹂
呼吸が無ければその容姿も相まって人形と間違えそうな程だ。
﹁イリヤは、大丈夫なの
﹁たぶん、ね﹂
そう言いながらも苦笑するコウジュ。
その姿は普段の彼女からはかけ離れていて痛々しい。
何かを我慢するように、そして申し訳なさそうに無理に笑おうとし
ているのが分かる。
そんな彼女に聞くのは心苦しいが、先程気づいたことを聞いておか
なければならない。
﹂
準備しなきゃって。それにあな
自分の予想が正しいかどうか、それによって今後取るべき方針が変
わる可能性がある。
﹁鍵って、イリヤのことよね
﹁やっぱ、気づいてたか﹂
﹁イリヤが自分で言ってたでしょ
﹁それ、褒めてるの
﹂
てやることはやってるしね﹂
るみたいに切羽詰った様子を見せてない。なんだかんだであなたっ
け私たちに不安を煽るように言うくせに、既に大事なものは手元にあ
たが幾らなんでものんびりしすぎているように感じたのよ。あれだ
?
?
﹁ひっどいなぁ⋮﹂
そう言いまた苦笑するコウジュ。
その姿に少しイラッとする。
どいつもこいつも好き勝手やって、周りに居るものの心配を考えな
さいっての。
542
?
﹁そう思うならそう思っておきなさい﹂
?
そこまで考えて、自分もまた苦笑する。
いつの間にか目の前の少女を私は仲間と認識していたようだ。
最初は怪しいなんてものではなかった。
でも、ここ数日の彼女を見ていて警戒する自分が馬鹿らしくなった
のは確か。
隠 し 事 に 向 い て る 性 格 で は な い の に 自 分 で 何 と か し よ う と し て
色々隠して、でも隠しきれてなくて。
ああ、やっぱり腹が立つわね。
士郎も、コウジュも、自分がやらなければと全部背負い込んで。
桜の事に関しては感謝してるし、アーチャーの事もまだまだ言いた
いことがあったからあれはあれで何とか納得した。
けれどそれ以外の事に関しては別だ。
どこまで知っているのか分からないけど、コウジュは何から何まで
お膳立てして、全部掌の上ように振る舞って、後になってこういうこ
543
とだったと説明されて⋮。 確かに、すべてを聞いたところで私ではサーヴァントの戦いに邪魔
になるのは確か。
魔術師としての自分が冷静にそう告げている。
けどやはり言ってほしかった。
コウジュには恩義もある。
﹂
余計なことも多々されたけれど、それ以上に、桜との仲を取り戻し
てくれたのは彼女だ。
だから何か手伝ってあげたい。
でも│││、
﹁ねぇ、もう一度聞くわ。イリヤは大丈夫なの
でも、ここ数日でわかった。
けど身体が感じる痛みが和らぐわけではないはずだ。
トだと知っている。
不死身だと聞いた。怪我もすぐ治ると聞いた。そしてサーヴァン
たちの事を仲間だと思って行動してくれている。
私が言ってほしいと思うこの感情と同じように、コウジュもまた私
?
死ぬという経験が消えるわけでもないはずなのだ。
それでも矢面に立って、色々としているのは彼女だ。
そこまでしてくれる彼女を邪魔したくないとも思ってしまってい
る。
﹁大 丈 夫、大 丈 夫 だ よ。イ リ ヤ と 約 束 し た か ら、守 る と 誓 っ た か ら、
思ったことを現実にするってのは俺の専売特許だよ﹂
そう言う彼女の顔は先程までと違って強い目をしている。
﹁そう⋮﹂
﹁まぁお兄さんに任しときなって﹂
今度はニシシと軽快に笑うコウジュ。
その笑みはまるで、兄が妹を安心させる時にするようなものだっ
た。
って、兄なんて私には居ないしコウジュは女の子じゃない。私は何
を考えているのやら。
544
﹁まあ、他にも聞きたいことはあるけどこんなものにしておくわ。あ
﹂
ま、気遣ってくれるのは嬉しいけどさ﹂
まりここで話すのも悪いし﹂
﹁そうかい
﹁何よ、なら話してくれるの
﹁⋮⋮あはは﹂
か。
か、とにかくこの不思議と大丈夫と思わせる安心感はなんなのだろう
さっきのもそうだけど、時折見える彼女の男らしさとでもいうべき
短く、けど力強くそう言うコウジュ。
﹁任せろ﹂
承知しないんだからね﹂
﹁だから、もう聞かない。聞かないでいてあげる。だけど、失敗したら
だ。
というか、彼女が好きにするのなら私も好きにさせてもらうだけ
でももうそれで良いような気がしてきた。
やっぱり言ってくれない。
﹁どうせそんな事だろうと思ったわ﹂
?
?
でもそれが嫌じゃない。
大人が子供に言い聞かせるように言うときはちょっとだけムっと
するけどね。
私は静かに部屋を出る。
持っていた疑問はほとんど解決していない。
でも不思議と心は軽やかだ。
﹁さってと、私は士郎のデートプランでも考えてあげるとしましょう
か﹂
先程までのもやもやはどこへやら、私は足取りも軽く、居間へと向
かった。
545
﹃stage39:デート・ア・ライブ的な⋮﹄
オッハー。
って、なんか懐かしいな⋮。この姿になった今となっては余計にそ
う思う。
おっと改めまして、おはよう。
今はあの話が終わって次の日の朝だな。 つ・ま・り、士郎君の半告白シーン到来なわけだ。
ワクテカせざるを得ない。
とりあえず、現状説明から言ってみよう。
現在居間に居る訳なんだが、居るのは俺、キャスター、士郎、凛だ。
バゼットさん︵思いだした︶はまだ起きていない。
546
そしてランサーは朝からどこかに行った︵釣竿を持って出ていった
が、何かあってもキャスターが強制転移で呼び戻すから大丈夫︶。
アチャ夫さんは﹃マイルーム﹄にでも居るんじゃないかな。
桜は部活の何かがあるってさ。
ライダーも一緒に動いてもらった。
リアルに太陽がまぶしいとか言ってたんだけど、あのサーヴァント
大丈夫か⋮
良きかな良きかな。
桜っちとお揃いだとか言ってさ。
のすっごい嬉しそうにしてたなあ。
俺も着せられそうになったのは置いといて、ライダーさんってばも
魔眼封じのメガネも掛けてるし、一応一般人に見えるだろう。
キャスターさんが一晩で作ってくれました。
りする。
ちなみにライダーの格好だがロリサイズの穂群原学園制服だった
桜も狙われる可能性が一応まだある。
あ、ライダーに桜と一緒に行ってもらったのは勿論護衛のためだ。
?
ただ一つ問題がある。今の状態のライダーさんだと護衛に見えな
い点だ。
どう見ても背伸びして高校の制服着てる、ちびっこな桜っちの妹さ
んだよ。
威圧感とまでは行かなくても相手に警戒させる程度には護衛っぽ
さが必要だと思うんだ、俺。
ふふふ、まぁこれで彼女もコスプレ幼女の仲間入りだね︵血涙
︵ブラック企業感
一応、リーチ以外の基本スペックはそのままだし大丈夫って言えば
大丈夫だろうけどさ。
それにいざとなったらキャスターが居るし
あ、そういえばライダーが生きてる事まだ士郎達には言ってないん
だけど、どうしようかな⋮。
士郎達ってのは士郎、凛、セイバーなんだけど、前にライダーさん
を確保してからずっと会わせてなかったし、もう隠れててもらう必要
はないんだけど、今更言うのもアレだし⋮。
そ、そうだ。
あの時俺ってライダーを連れてそのままあの場を去っただけだし、
今まで俺がサーヴァントに第二の生を生きてもらってるとこから
きっと気づいてる筈だよね
周知の事実過ぎてつっこまれてないだけだよね
何故黙ってたとか言って罰ゲームとかないよね
よし、気づいてると思っとこう⋮。
後はなるようになるよな⋮。
テレビを見ていて、士郎と凛は机を挟んだ向こう側でずーっとデート
とはあーだこーだ話をしている。
凛が士郎に色々と享受している感じだ。
机の上にはずらっと雑誌が積み重ねられている。デートスポット
やらがどうとか書いてあるようなあれだ。
どこから持ってきたのか気になるが、凛はそれらを指し示しながら
﹃デートとは闘いなのっ﹄と格言じみた事を言った後はデートコース、
547
!
話がそれたんで戻すと、現在居間に居る俺達は、俺とキャスターは
!!? !?
?
店と言ったものの確認をしながら士郎にいろいろ吹き込んでいる。
どうでもいいが、士郎が行くのに凛が行くかの如くなノリだね。も
しくは士郎のママ的立ち位置
それにしてもマジで凛さんのテンションたっかいなー。士郎はも
うたじたじだよ。
まぁ他人の恋路を応援したくなるのは分かるけどさ。
そんな2人を視界の端に移しながらニュースの合間にやってる今
日の運勢を見ているとセイバーが入ってきた。
慌てて士郎と凛は机の上の本を片付ける。
おい、セイバーがビクッて若干引いてるぞ。
﹁お、おはようございます⋮﹂
﹁﹁お、おはよう⋮﹂﹂
﹁ぷっ⋮くくっ⋮⋮﹂
ムリ⋮助けて誰か⋮くくっ⋮。
キャスターと二人、知らないふりをしながら笑いを堪えるのが大変
です。
﹁えっと、セイバーここどうぞ﹂
﹁あ、はい﹂
このよくわからん空気を脱出させてくれたのは士郎だった。
士郎は自分の横、凛が居るのと反対側に座布団が空いているのでそ
こに呼んだ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
いやしゃべれよ。
そしてこのもどかしい雰囲気をそろそろやめてほしい。
青春してんなぁほんと。おじさんにはこの空気は辛いよ︵元20歳
548
?
大学生現幼女
テレビを見ているふりをしながらチラリと士郎達を見る。
士郎は話をどう切り出そうかと目線を向けてはまた下げて、セイ
バーは最初は良く分かってなかったみたいだが途中から士郎と目が
あぁぁ
やぁめぇてぇ
合う度に顔を少し染めて同じように目線を下げる。
なんていうか痒い
﹁コウジュ
﹂
﹂
この空気を打破するためだからって俺に話を振
!!
◆◆◆
この裏切り者め
﹂
と鋭い目で睨む凜。
﹂
ただ、返ってきた言葉は少々予想外ではあったが⋮。
俺は今、一大決心をしてセイバーを誘っている。
ないでほしいのですが﹂
﹁デート⋮ですか
それは何でしょう、あまり専門的な訳語は使わ
俺まだ何もしてないのに⋮⋮。
凛に怒られてしまった⋮。
﹁⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁コウジュうっさい
そんな俺をギン
ターについ声を荒げてしまった。
何 で も 無 い っ て 言 っ た の に ニ ヤ ニ ヤ し な が ら 食 い 下 が る キ ャ ス
﹁え、だってそりゃなるでしょう
﹁でもそわそわしてたじゃない﹂
りやがった
キャスターめ
﹁何でもアリマセンヨ
どうかしたかしら
さっきとは違う意味で助けて欲しい。
!!
?
!
!?
!
!!! !
?
549
!
?
?
!
デートの説明ってどうすればいいんだ
﹂
これ以上どう説明すればいいんだ
まった。
数 少 な い ボ キ ャ ブ ラ リ ー を 総 動 員 し て る ん だ が 素 で 返 さ れ て し
ろうか。
クロスカウンターというものを喰らったらこんな気分になるんだ
﹁⋮⋮﹂
をする理由は何ですか
﹁言葉の意味は分かりましたが、意図が全く分かりません。そんな事
﹁もちろん﹂
﹁女の子⋮とは私の事を言っているのでしょうか﹂
これならどうだろう。
う意味だ﹂
﹁えっと、デートっていうのはだな⋮。あ、女の子と遊びに行くってい
?
ボキャブラリーの少ない自分に自己嫌悪に陥りそうになる。
﹁分かってはいるんだが⋮﹂
時計を見る。そろそろ家を出ないとゆっくり回れない。
﹁うぐ⋮﹂
﹁士郎、さっさとしないと﹂
る。
そんな風に頭の中でパニックを起こしていると、遠坂から声がかか
ってそうじゃない、問題はどう説明するかだ。
とないほどの暖かい眼で見てるそこのキャスターも要注意だと思う。
りしてるコウジュが居る前でするのは駄目な気がする。あと見たこ
いやいやでも端で笑いを堪えたりもじもじしたり突然体を捻った
るべく告白をするべきなのだろうか。
いや、別に恥ずべき感情なわけでもないし、むしろまっすぐ表現す
この状況でそれをいきなり言えと
ていう事になるんだろうが⋮。
意図⋮という部分で考えれば俺がセイバーの事が気になるからっ
?
?
勉強は苦手ではないんだが、こういう感情を吐露する事や説明って
550
?
いうのはどうも苦手だ。
そんな事を考えていると、遠坂はよしっと声を出した後、セイバー
セイバー。デートっていうのはようするに逢引の事なの﹂
に向き直り│││、
﹁良い
﹂
遠坂さん
!!
と恥ずかしんだけど
⋮
今、豚と牛
合挽だ
ってどこからか声が聞こえた気がする。それは
⋮いや、何でそんなに疲れた顔してるんだ
って犯人はコウジュか
?
﹁な、なるほど⋮﹂
隣では恥ずかしい説明がまだ続いていた。
あとリア充爆発しろ
!
﹁もう良いからさっさと行けよ
!? !
﹂
持っていくだけだが│││なんだ
け、玄関の方に俺達を引っ張っていく。
コウジュは俺とセイバーの手は握ったまま、器用に障子戸を足で開
﹁よし、ならいい。さっさと行って来い﹂
?
持っていくものは小さいリュックに入れてそこにあるので、それを
﹁え、えっと出来てるけど⋮﹂
﹁士郎、準備は
俺たちはそのまま立たせられる。
張ってきた。
コウジュは突然席を立ち、俺とセイバーの所まで来ると手を引っ
良くわからないが怒られた
﹂
﹁男の子が好きな女の子にアピールするチャンスってわけなのよ﹂
?
!!
鳥も
誤魔化しまぎれに咳払いを一つする。
!?
しっかり言えない俺のせいだけどそこまでストレートに言われる
っておい
爆弾発言をした。
﹁っ
?
!
?
?
551
!?
!
?
コウジュのいつものごとくな突発的な行動だが、今回はかなり感謝
したい。
﹂
さっきの空気は俺もさっさと抜けだしたかったからな。
よし、覚悟は決まった。
どうせならオシャレをしていくべきよ
このまま俺はセイバーと今日一日デートを│││、
﹁待ちなさい
でいいのかな⋮、とにかく黒と白のフリフリと
!!
ターが居た。
◆◆◆
いつのまに
﹂
?
な言葉⋮。
だが
﹁それが本音じゃねぇだろあんた
﹂
為じゃないことを物語ってるぜ
﹁そんな事は百も承知よ
開き直りやがった
﹂
﹂
あんたの嫁をどうにかしてくれ
﹁えっと⋮キャスターさん
葛木先生
!!
今まで黙っていた士郎が後ろから声を出す。
?
!
!
明らかに目がそんなセイバーの
聞くだけなら確かに正論。セイバーの為を思って言っているよう
れ相応のおめかしが女の子には必要じゃない
﹁今言った通りよ。外出、それもデートというものをするのだからそ
﹁どういうつもりだキャスター⋮﹂
と思ってたのに⋮。
くそ、さっさとこのリア充どもを送り出して俺も自分の事をしよう
!?
しか形容できないレースがふんだんに使われた服を掲げるキャス
そこにはゴスロリ
できなかった。
!
!
552
?
!?
!!
!!
家主としてガツンっと
あまりのキャスターの勢いに今まで固まってたのだろう。
なにはともあれ言ってやれ
﹁男は黙ってなさい﹂
﹁はい⋮⋮﹂
家主よっわ。
今更か⋮。
!!
よし、ここは俺が一肌脱いでやろう
コウジュ﹂
﹁セイバー、士郎⋮﹂
﹁どうしました
お前たちは行け
﹂
﹂
!!
亡フラグっぽいぞ
﹂
﹁ありがとうなコウジュ 後それってこの間コウジュが言ってた死
﹁くっ、コウジュ。すみません
﹁俺がここを押さえる
俺は男らしくガシッとキャスターの腕を掴む。
ふっふっふ、これってかなり男らしいんじゃないかな。
﹁ここは俺が一肌脱いでやろう﹂
セイバーが答えてくれる。士郎さん律儀に守らんでも⋮。
!!
俺も何期待してたんだか⋮いや、この考えはさすがに酷いな。
!
!!
!
!!
死亡フラグ⋮
﹂
?
﹁あらあら、コウジュ。あなたが着てくれるのね
あれ
﹂
私はどっちでも
おかしいな。士郎が不吉な事を言ってたような⋮。
2人は俺達の横を抜け早足で玄関を出ていく。
?
553
?
?
良かったのだから文句はないわ﹂
﹁え
?
﹁一肌⋮脱いでくれるのよね⋮
⋮⋮え
?
?
?
・
・
・
﹁汚されてしまった⋮﹂
﹂
﹁良いじゃない似合ってるんだから﹂
﹁そういう問題ちゃうわ
変な関西弁が出てしまった。
しかし許してほしい。
一肌脱ぐとは言ったが、誰が本当に脱がされると思うだろうか。
いやまぁつまり俺は今ゴスロリなフリフリを着せられてるわけだ。
鏡を見た時、普通に可愛いと思っちまったじゃないかこん畜生。中
身は俺だってのに。
さて置き現状だが、さっき言ってた俺のやりたい事ってのはズバリ
尾行だったりする。つまり尾行なう。
ちゃっちいとか言うなし。これは必要だからやってるんだ。
今まで大まかな流れは原作沿いにしてこれたけど、なんの拍子に死
んじまうか分からない訳だからな。
このデートイベントなんて、アニメでは覚醒イベント的に死ぬ寸前
まで行って、力が目覚めるパターンが起きる訳だけど、一歩間違えれ
ば死亡一直線だ。
だから必要なわけだ。
決して野次馬的なサムシングではない。
なのに、なんでこんな格好に⋮。
目立つやん。
どう言い表せばいいのか⋮黒ゴス、絶対領域、フリルでひらひらほ
わほわ⋮⋮
帽子も獲られ︵誤字にあらず︶てしまったので獣耳が出っぱなしだ。
554
!!!
おっとこれ以上は俺の精神が死ぬ。 ?
堂々としてたらコスプレにしか見えないと言われたが⋮何といえ
﹂
?
ばいいのか今まで目立たないようにしてきたので恥ずかしい。
怪しまれるわよ
いや待て、コスプレの時点で恥かしくない
﹁ほら堂々とする
?
くないか
﹂
﹁あら、私はできるからやってるだけよ
ばいいじゃない﹂
﹁うぐ⋮﹂
悔しかったら自分で掛けれ
﹁そんなこと言ったってさ⋮ていうか自分だけ認識阻害掛けるのひど
!
ように設定してるらしい。
しかも自分だけ認識阻害とかひどい。いつもの若奥様風に見える
せいで着る事になった訳だから完全に嵌められた。
んか今日のキャスター優しいとか思ったが前提としてキャスターの
私も一緒に着てあげるからあなたも着なさいとか言われた時はな
ふりふりほわほわなやつな。
る。
あ、ちなみにキャスターは俺が今着ているやつの色違いを着てい
んだよ。
尾行にしに来たのになんでこんな目立つ格好でしなきゃならない
ちくせう⋮。
﹁おぅ⋮﹂
﹁うーうー言わない。ほら早く行くわよ﹂
﹁うー、うー⋮﹂
態からだと容易く見つかるだろうし、そうなったら破滅だ。
それにたぶんだが、魔力抵抗の高いキャスターだと認識されてる状
からできる恰好じゃない。
認識阻害だけで見たらものすごい良い効果なんだが、あれは真昼間
あれは代償が大きすぎる。なにせ革ベルトだからな。
だが
できない事はない。アサシンのカード使えば良いだけだからな。
?
?
これだから頭脳派は⋮。
555
!!
ってこの言い方だと俺が頭悪いみたいだな。
俺は頭は悪くはないと思うぞ
まあ良くもないが⋮。
そのおかげかチートを持て余してるんだろうしな。
﹁ほら、次のバスが来たわよ﹂
﹁ういー﹂
しゃーない。
とにかく尾行するか。
最近諦めてばっかりな気がするなぁ⋮。
そうですか⋮。
そういや、結局キャスターさんはなんで着いてきたの
下見
・
・
﹂
今だけはレーダーのクラスを授与しよう︵笑︶
どこだ
しかし││、
﹁ん
?
ぴょんとジャンプしてみるが、周りは一般人しかいないので常識の
範囲内でしか飛べない。
結局見えない。
﹁っぷ⋮﹂
﹁おいてめー、今俺の身長見て笑っただろ。ちょっと俺よりでかいか
らって﹂
﹁いいえ、思ってないわ﹂
556
・
?
?
キャスターさん超便利。魔術で士郎達の位置が分かるんだってさ。
﹁あそこよ﹂
﹁さってと、2人は│││﹂
?
人ごみで見えん。
?
こっち見て言いやがれ。
っと、早くしないと余計見つからなくなるな。
﹂
ほんとなら小一時間問い詰めてぇところだが、今は尾行が優先だ。
とりあえず、キャスターが言ってた方向へ向かう。
[服屋]
﹁この店に入って行ったな。この辺で居れば見つからないかな
﹂
﹁何やってるの入るわよ﹂
﹁ちょ、見つかるって
﹁堂々としてたらばれないわよ。結構中は広いし﹂
﹁うーん、まぁ了解﹂
自動ドアを潜り中へと入る。
いらっしゃいませ、と上品に告げる店員さんたち。
あ、高そう。
きだったのでこういう所は苦手だ。
﹁へぇ結構広いのな。来た事あったのか
﹂
元々服はブランド物よりも量販店で気に入ったものを買う方が好
?
タイプのアレか
あんたは過去からタイムスリップしてきた人がテレビを見て壊す
ぱい広げて破く所だった。
ぞ広げて御覧になって下さいと言ったら、セイバーが文字通り腕いっ
目線を向けると店員さんの一人が服を持っているセイバーにどう
バー達はっと、あれか﹂
﹁はは、例の物で通ってしまう位には常連さんなわけね⋮。で、セイ
﹁かしこまりました﹂
﹁ええ。あ、ちょっとそこの店員さん例の物持ってきて﹂
?
てことですか
557
!
いやでも衛宮邸では普通にテレビ見てたし、あれは素でやってるっ
!?
﹁ちょっとコウジュこっち来て﹂
?
﹁な、なんだ
﹂
手を引かれ俺は連れて行かれると、何人かの店員さんがそれぞれ違
う服を持って立っている所に着いた。いやーな予感。
﹂
持 っ て る の ほ と ん ど が ま た 今 着 て い る の と 同 じ く ら い ふ り ふ り
だったりする。
﹂
﹁あのー、キャスターさんこれは何でせうか
﹁何って服よ
あれれーおかしいぞー
何当然の事を言ってるのといわんばかりの顔でこちらを見てくる。
?
しまった。
﹁あのさ、俺って士郎追いかけたいんだけど
?
に今の俺は逃げたい。超逃げたい。
﹂
だって逃げないと俺の中の何かがまた消えてしまいそうだもの
何でそんな服がこんな服屋にあるんだよ
﹁ほら早く。時間が無いなら厳選してまずはこれを│││﹂
﹁ちょっと待てぇ│
るし
らなそうな一般向けではない服たちばかりだ。ドレスっぽいのもあ
いま彼女たちが持っているの物は確実に専門店でもないと手に入
!!
!
男的にお姉さん方に詰め寄られて幸せなシチュエーションだろう
同じようにその後ろから笑顔で詰め寄る店員さんたち。
いやに良い笑顔でそう言うキャスターについ顔が引きつる。
﹁だったら早くしないといけないわね♪﹂
﹂
思わず某体は子ども頭脳は大人な少年探偵がよく言う口癖が出て
?
明らかに周囲にある服とは系統が違う。
!
﹂
﹂
とかいうので調べてく
も一部で人気がある商品をいくつも出しているのよ
﹁何でそんなこと知ってるんだよ
﹁あ、それはライダーがネットの電子掲示板
あいつライダー止めてチャネラーにでもなったの
れたわ﹂
!
!?
?
!
558
!?
?
﹁ここはオーダーメイドも可能なの。そしてここの店長はこっち系に
!
最近ネットばかりやってるからって馴染みすぎだろ
ほら、そういうのって高いじゃん
その中毒性は分からんでもないけどさ
﹁あ、そ、そうだ
取れないかなぁーって⋮﹂
着せられてしまいそうで怖い
﹁それも大丈夫よ﹂
だから受け
﹁なんで英霊が現代でそんなの買えるお金持ってるんですかねぇ
俺なんて小遣い制だぞ。
しかも1週間5千円。
﹂
というか買ってしまえばせっかく買ったのだからとなし崩し的に
苦しい理由だが、実際にそう思うのも確かだ。
!?
?
!!
尋常じゃないんだよっ
普通に考えればそれでも十分だけど今のボディのエンゲル係数は
!?
!
処から出てるんだ
そんなひもじい思いを俺はしてるってのに、あんたのその余裕は何
!
だし﹂
いつからあんたはクリエイターになったの
というかなんだその無駄に豪勢なスキルの使い方は
﹂
!?
!?
りしていると思った以上に高値が付いてね。ほら、道具作成とか得意
﹁私、内職で原型師を始めたのよ。それをライダーに売ってもらった
!
でもとりあえずツッコミは後だ
﹁戦略的撤退
!!
でお願い。あ、でもこれとこれは後で回収に来るわ﹂
﹁ありがとうございましたー﹂
[映画館]
何も持たずにキャスターが出てきたので安心して合流した俺は、再
び士郎達の後を尾行し始めた。
一瞬笑顔でこちらを見たキャスターにゾクリとしたものを感じた
559
!
﹁ちっ、逃げられたか。仕方ないわね全部買うわ。いつも通りに配送
!!
けど何故だろうか⋮。
さて置き今するべきことは尾行だ。
そう思い直ししばらく着いていくと、今度はどうやら映画を見るよ
うだ。
﹁定番だな﹂
﹁ええ﹂
士郎達が何を見るのか確認してから俺達も同じものを購入し中へ
と入った。
ちなみにこの時だけはキャスターは子どもの姿に戻って年齢割引
を買っていた。
地味にせこいぞこのサーヴァント。
そして俺は大人チケットを買おうとしたが係りのお姉さんに子供
料金にしておくわねとやさしい微笑みと共にお釣りを受け取り地味
にダメージを受けていた。
さておき、二人が見ることにしたのはどうやらバトルものようだ。
普通なら恋愛ものだと思うが、セイバーがデート相手だからこっち
の方が良いのだろうな。
とは言え俺も恋愛ものよりは手に汗握る展開というものの方が好
きだ。
少し離れた所からセイバーを見るに可愛い位にわくわくしている
のが見て取れるし、ここで何かが起こる訳でも無さそうだから俺も大
人しく映画を見ることにした。
しかし、半分くらいを過ぎた所で気づく。
そしてそれはキャスターも同じようで、俺より先にキャスターが口
を開いた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ねぇ﹂
﹁何さ﹂
﹁こう、生ぬるいというか、物足りないというか﹂
﹁それはそうだろ。俺たちは元とはいえサーヴァントだ。聖杯戦争と
560
比べたら当然だって﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
﹁なぁ⋮﹂
﹁何⋮
﹁ポップコーン⋮食べるか
﹁⋮⋮いただくわ﹂
ポリポリ⋮。
[ファンシーショップ]
﹂
﹁セイバーとのデートで何故このチョイス﹂
﹁まったくね﹂
俺もデートに関してよく知ってるわけではないが、初めてのデート
では行かないであろうチョイスだと思う。
まあ実際にはアニメでセイバーはここで運命の出会いと言っても
良いライオンのぬいぐるみと相まみえる訳だが。
確か何気にセイバーは可愛いものが好きな筈だ。
ペンギン型のかき氷器だったかにも一目惚れしていた筈。
そんなことを思い出しながら俺は、今までと同じように士郎達から
少し遅れて中へと入っていく。
﹂
﹁ここも結構大きいし、ちょっとやそっとじゃばれなさそうだな﹂
﹁そうね⋮っ
﹂
蛇
﹂
?
﹁何かしら⋮
﹁いや、その手に持ってるのは何かなーって思ったり
?
﹁ほんとだよな⋮。小さい子じゃないんだからさ。ところで⋮﹂
何を考えているのかしら⋮﹂
﹁まったく、あの坊やはこんなところにセイバーを連れてくるなんて
・
・
・
﹁どうした⋮って、あ⋮﹂
!?
?
561
?
?
﹂
﹂
﹁そ、そうね。ところで私も聞きたいのだけど﹂
﹁何さ
﹁猫と犬と、狐
﹁おう⋮﹂
﹁コウジュ⋮﹂
﹁何だ⋮﹂
多数
﹁あの坊や⋮中々やるわね⋮﹂
﹁まったくだ﹂
取得:ぬいぐるみ [海岸沿いの公園]
セイバー ︵
・ω・`;︶
郎に自首し、こんな感じ。
ちなみに、遠くに見えるセイバーさんですが自分がやりましたと士
うか
なんだろう⋮、陸に打ち上げられたタイタニックとでもいいのだろ
な無残な姿になったものだ。
何がどうなってこうなったのかは俺も知らないが、よくもまぁこん
しくそこに鎮座しているとかそんな感じだったはず。
くされたセイバーが宝具使って運悪く船が巻き込まれた残骸がむな
ちなみにどういう事かというと、前回の聖杯戦争で海上戦を余儀な
船乙︵笑︶
これだけは言っておこう。
×
俺達
[大橋]
とこんな感じです。
ニヤニヤ︵・∀・︶︵・∀・︶ニヤニヤ え
士郎 ︵;゜д゜︶
´
?
562
?
?
?
?
あ、キャスターさんはログアウトしました。
もう十分だってさ。
あと、何か寄る所があるとか行ってたな。閉店前に回収がどうと
か。
ほんと現代をエンジョイしてるよなあの人。
そんな事を橋の上で考えていると、下の士郎とセイバーがシリアス
タイムに入った。
ふむふむ、熱いねコンチクショ│。なんて言うのか情熱的
恥ずかしくて見てらんないぜ。
││││﹄
気づいてな
﹃││││これ、本当はコウジュには言うなって言われてるんだけど
いてたらリア充氏ねと言いたくなるような感じの。
喧嘩と言っても、犬も食わないという例の痴話喧嘩だ。はたから聞
あ、下の会話が喧嘩っぽくなりだした。
夜の帳も降り始めて人気が少ないとはいえ、良くやるよほんと。
?
﹃│││あの子が言ってたんだ。セイバーが望んでした結果、最後は
国が滅んだのだとしても、それを否定してほしくない。その中で皆が
やーめーてーぇぇ
感じたであろう幸せまで否定してほしくないって││││﹄
うおぉぉぉぉぉ
恥ずかしくて死ねる
既に俺のライフはゼロだ
!!!
ど││││だから│││﹄
﹃│││俺もそう思った│││コウジュの言葉を借りることになるけ
!!
!!
だから続きなんて言わないで
!!!
!!!
563
││││﹄
﹃│││え
ちょっと待てぇ
いからこそ言うんだろうけどさ
!?
っていうか、その前振りって事は、この間の│││。
!!
その前振りに出てきた本人が上に居るんですけど
!!!!
?
﹃士郎
﹄
パンっ・・・
恥ずかしくて下の会話がちょっと耳に入ってこなかったんだが、な
んか急展開。
何
何があったの
セイバーが士郎の頬を打ぶった。
え
?
になるって
っていうか、俺の言葉を言ったからじゃないのか
けど、打つとはねー。あのセイバーが。
﹄
こんなシーンは無かったと思うから、変わったのかね
﹃勝手にしろっ
うのは気に入らないしフォローというか、アフターサービスってやつ
俺は口下手だから大層な事は出来ないと思うが、ほったらかしとい
俺の言葉が士郎の考え方に少なからず影響を与えている。
さてさて、俺は士郎の方に行くか。
≪分かったわ≫
くれ≫
≪んじゃ、頼む。多分大丈夫だと思うけど、金ぴかが来たら教えて
キャスターから念話が入る。
≪コウジュ、セイバーは予定通りこっちで遠見で見ておくけど⋮≫
ここは原作と一緒か、士郎は家に向かってるみたいだし。
と思う。
ただ、その顔が今にも泣きそうに見えるのは俺の気のせいではない
セイバーも少し意固地になっている様で、大橋に留まっている。
く。
さっきの言い合いからまた少し問答した後、士郎が走って去ってい
!!
?
気持ちの整理がついてない時に一気に言われたらそうなるだろう
?
いや、ホントはこんなの聞いちゃいけないんだろうけどさすがに気
?
!!
をやろうかね。
564
!
!!
?
このやり方が正解なのかはわからないけど、少なくとも途中で投げ
出すのはもっと駄目だと思うしね。
セイバーの感情は原作よりも表へ出てきているような気がする。
そして士郎もまた変化を始めている。
なら、後ろ何て見てないで俺は俺のできることをしないとな。
565
﹃stage40:本来の意味で壁ドンしたい。突き
抜けちゃうだろうけど﹄
腹が立つ⋮。
セイバーに対してじゃない。自分自身にだ⋮。
セイバーをあの大橋に一方的に置いて帰ってきた俺は自身の部屋
にふてくされるように仰向けに寝転がる。
自分の思いを、セイバーに今を生きて欲しいって事を言って、けど、
セ イ バ ー か ら 言 い 返 さ れ て ⋮。コ ウ ジ ュ が 言 わ な い で ほ し い っ て
言ってた言葉まで使って⋮。
思わずセイバーに叩かれた頬を軽く触る。
未だ熱を持つ頬が無駄に自己主張している。
566
﹁何をしてるんだろ⋮俺は⋮﹂
などと自嘲せずにはいられず、部屋に響く自身の声でまた嫌にな
る。
暗い部屋で天井を眺める。
今日は楽しかった。
セイバーも多分楽しんでくれた。
その日常が、どうして当たり前の物じゃないんだろう。
全ては聖杯戦争のせいだろうか
﹁おかえり﹂
誰だろう
と近づく足音が聞こえてきた。
そんな風に自問自答していると、トントンと小気味よくこの部屋へ
何が間違っていて、何が正解なんだろう。
もその聖杯戦争の御陰ともいえる。
でもセイバーと出会えたのも、今この家がにぎやかになっているの
?
戸の向こう側から、透き通った声が届く。
?
﹂
﹁コウジュ⋮か。ただいま﹂
﹁入っても良いか⋮
﹁あ、ああ﹂
﹁⋮
﹂
あっ
てめぇ
﹂
つまり、中を見てしまいました。ごめんなさい⋮。
その状態で俺は乗せていた手を除けた。
それも戸の近くで。
簡単に言うと、俺は障子戸の方に頭を向けて仰向けになっていた。
ジュは背が低いとはいえ、ミニスカートなわけで⋮⋮。
その⋮なんだ⋮、えっとだな⋮俺は寝転がっているわけで⋮コウ
再び下ろす。
と、同時に俺は目にしてはいけないもの見てしてしまい慌てて腕を
﹁っ
予想外に近くに居たコウジュと目が合う。
﹁﹁あ⋮﹂﹂
いた方を見る。
どうしたのかと顔を覆っていた腕を少しだけ上げて声が聞こえて
二の句が出てこない。
コウジュは何かを言おうとしてはすぐにやめてを繰り返して、中々
﹁えーっと、あーうん、そのーだな﹂
戸が開く音と共にコウジュが入ってくる。
﹁んじゃ、失礼するぜ﹂
る。
了承するが、顔にもみじがあるため顔を隠すように二の腕を乗せ
?
!!
ホントにごめんなさい⋮。
﹁ごめんなさい⋮﹂
見えてしまったわけで⋮。
る月の光があるからか結構部屋の中は明るい。おかげでしっかりと
既に夜と言って良い時間ではあるのだが、障子紙を通して入ってく
シっと俺の脚を蹴ってくる。
俺 の 態 度 か ら ど う い う こ と か 気 付 い た の か 中 に 入 っ て き て ド ゲ
!!
567
!?
?
﹁⋮まぁいいや﹂
コウジュの声音がいつもと同じ緩いものになった。
どうやら許してくれたようだがまた手を上げたら大変な事になる
気がするので、実際には出来ないが内心ではいつまでも土下座をして
います。ホントに、はい。
﹁いいって、不可抗力ってのもあるだろうし、まぁさすがに恥ずかしく
﹂
﹂
はあったが⋮、ちっ、多分今顔赤いな⋮。よし顔を上げるな。そのま
までいろ。オーケイ
﹁お、おーけい⋮﹂
﹁はぁ⋮。それで、士郎はこんな所で何をしてんだ
﹁何って⋮﹂
溜息をつきながら、トサリと軽い音がコウジュの方からした。
どうやら中に入ってきて近くに座っているようだ。
さておき何と答えればいいのか。
セイバーと喧嘩して、セイバーを置いて自分だけ帰ってきて、ふて
くされて寝てる
喧嘩したにしてももう少しあっただろう、俺。
﹁うーんと、俺って口下手だから間接的にというか、オブラートにとい
﹂
﹂
うかそういうの苦手だから喧嘩売ってるみたいに聞こえたらゴメン
な。
今日は、楽しかったか
﹁あぁ⋮﹂
﹁セイバーに楽しんでもらえたか
﹁⋮あぁ﹂
楽しいと言ってくれた。
んでくれた。
﹁⋮伝えたのか
ああ、伝えたよ。
﹁⋮⋮﹂
﹂
それにあの微笑みが嘘だとかそんなものじゃなく、心の底から楽し
?
?
568
?
?
改めて考えるとどうしようもない事をしている。
?
?
でも俺の言葉じゃ⋮。
セイバーに届かなかった。
﹁伝えたんだな⋮⋮。
俺の言葉を使って﹂
コウジュの⋮言葉⋮
しまう。
﹁あ⋮⋮﹂
でも何で⋮﹂
﹁∼∼∼∼っ
﹂
顔の事とか諸々忘れて、コウジュの真意が気になって起き上がって
俺は慌てて起き上がる。
﹁見て⋮た
﹁悪いな、見てたんだ。全部ってわけじゃぁないんだけどな﹂
?
そして暗闇の中で見えてしまった中身。
コウジュは俺の正面で胡坐をかいて座っていた。
起き上がって目にしたのは先程と同じものだった。
!!
勢いよくぶつかった俺は、壁を背にして何が起こったのかを確認す
る為、突然のことに瞑っていた眼を開けた。
││トスっ││
ついでに首の辺りに何かが刺さる音が聞こえた。
両方
ドコとドコ
!?
﹁斬り落としてやろうか⋮両方⋮﹂
斬り落とす
!?
目に映るのは先が二つに分かれ俺の首をはさみこむように固定す
俺の首を固定している様子だ。
コウジュの物騒な言葉と共に、目に入ったのは何やら物騒なものが
!?
569
?
それに気づき慌てて顔を背けようとする。
﹂
﹂
﹁っ
﹁
!!!!
だが俺はそれより早く壁まで吹き飛ばされた。
!?
る、赤よりも紅い血のような色の槍。
一度コウジュに見せてもらったロンギヌスの槍だ。
何故にロンギヌス
有名な彼のロンギヌスとは違うらしいが、それでもあらゆる防御を
貫く概念を持つというものらしい。
コウジュいわくこれでランクB。
や っ
この禍々しさと宝具特有の神聖さがこれでもかと俺に圧迫感を与
えているこれが、だ。
どう思うよ﹂
﹁お い ⋮ 俺 は 真 面 目 な 話 が で き ね ぇ 呪 い で も 掛 っ て ん の か
ちゃいけねぇってのか
?
﹁何だっけか⋮、あーそうだ、理由だったな。
コウジュはロンギヌスを抜き、どこかへと消した。
﹁⋮悪い。話を戻すぞ﹂
ろに見える⋮。
なんでだろうか、遠坂と一緒に泣いているデフォルメされた絵が後
﹁いいさ、どうせ俺のせいだもん⋮﹂
霧散させた。
コウジュは、最近よく見るため息をまた1つ吐いて今までの空気を
ない。
ければならない哀愁をコウジュが漂わせているため、せずにはいられ
確かに下着を見てしまったからというのもあるが、何故かそうしな
に⋮。
槍が無かったらもちろん実際にやっている。多分額が擦り減る位
変わりとばかりに頭の中で土下座を敢行する。深く深くだ。
でも首を動かせば危ない。 俺の首を挟んでくれていることを告げてくれている。たぶん1ミリ
首の左右に伝わってくる冷やりとした金属独特の温度がぴたりと
﹁い、今のは俺が悪いと思うので謝ります⋮。ごめんなさい⋮﹂
確実なコウジュが問うてくる。
槍の柄を持ち、帽子のせいでよく見えないが目が据わっているのは
?
気になったからってのが一番大きいかな。一応護衛とか他の理由
570
!?
もあったりはするんだけどさ。
やっぱり、俺が助言した訳だし
気になるっしょ。
尾行してた事については謝罪するよ﹂
尾行された事自体はそんなに怒りとかは湧いてこない。
コウジュの言う﹃気になった﹄というのも恐らくだが、興味ではな
く心配から来たものからだろう。
普段からお茶らけた態度ばかりだし、真剣という言葉がこれほどま
でに似合わない子なんていないと思うが、それでも、真剣に心配して
くれる優しい子だというのは分かってきた。
あの遠坂もコウジュの秘密主義的な部分を、だからこそ怒るに怒れ
ないと言っていた。
本人は否定するだろうけど、優しいってのは俺も分かる。
﹁尾行は⋮ちょっと恥ずかしいけど怒ってないさ﹂
﹁そっか⋮﹂
﹁それに、謝るのはこっちの方だろ。コウジュは言わないで欲しいっ
て言ってた言葉を使ってしまったんだからさ﹂
﹁俺 も ⋮ 別 に 怒 っ て な い よ。理 由 は 前 に も 言 っ た け ど 恥 ず い か ら だ
し。
でもまぁ、士郎があのタイミングで言うのはちょっと予想外だっ
た。
恋は盲目っていうか、よっぽど気が急いていたのか⋮﹂
﹁そう⋮なのかな⋮﹂
焦り⋮。
聖杯戦争はもう終わったという。
そしてあとは、聖杯を、ギルガメッシュをどうにかするだけ。
それが終わればもう、セイバーは居なくなってしまう。
セイバーが新たな人生を拒否している以上、聖杯を壊してしまった
らセイバーと別れなければならない。
いくら俺が望んでも⋮。
571
?
セイバーが望んだら、コウジュなら他のサーヴァ
ってそうだコウジュなら。
﹁なあコウジュ
!!
ントみたいに聖杯が無くても二回目の人生って歩めるのか
俺の問いに、コウジュは顔色を曇らせながら答える。
﹁いや、ないけど⋮﹂
時のことって聞いたことある
﹂
﹂
﹁んー、多分難しい⋮かな。セイバーの状態っていうか、世界との契約
!?
﹂
凛が言ってなかったか
つまり、セイバー自身の時がその契約の時点で止まってるんだよ。
契約した時点へ還り、そしてまた呼ばれる。
サーヴァントは本来呼ばれた後は座に還る。けど、セイバーはその
界が契約を対価に聞き届けてしまった。
て今にも死にそうになっている時に後悔し、願ってしまい、それを世
﹁セイバーは生前⋮と言っては微妙だけども、致命傷を受けた。そし
﹁生きてる
﹁セイバーはな、厳密にいえばまだ生きてるんだ﹂
・・・・
でもコウジュが言う状態っていうのが分からない。
契約に至った経緯も。
一応、夢を通してみた事はある。
?
どうしようもない﹂
そっか⋮。
﹁そ ん な こ と よ り
まず仲違いをどうにかしろよ﹂
﹁うぐ⋮﹂
言い返せない。
﹁なあ士郎。士郎は結局セイバーにどうして欲しいんだ
身の生を⋮﹂
﹂
﹁俺は、セイバーに今を生きて欲しい。王としてじゃなく、セイバー自
?
!!
﹁俺のは死んだ瞬間に生き返らせるからな。だからセイバーには現状
・・
確かに、いつだったかそんな事を遠坂は言っていた⋮気がする。
﹁そう言えば⋮﹂
けどセイバーが覚えてる。それは特殊だからなんだよ﹂
サーヴァントが前回の聖杯戦争の事を覚えてるのはおかしいって。
?
572
?
頑張って頑張って、自分を殺してまで尽くして、それでも報われな
いなんて嘘だ。
﹁だったらそれでいいと思うんだけどね。俺の言葉なんか使わなくて
もさ。大事なのは士郎の気持ちなわけで、まぁセイバーの気持ちも大
事だけどさ。
少なくとも俺の気持ちは極端にいえば二人には関係ない。
﹂
はぁ、当事者同士の問題に茶々入れた俺の判断ミスかねぇ⋮﹂
深く深くため息をつくコウジュ。
﹁そういや、仲違いの原因ってそれ位か
﹁えっと、大まかには⋮そうかな。
﹂
あ⋮﹂
﹁何さ
﹂
﹁士郎にだけは言われたくないって⋮﹂
﹁その辺聞いてないな。どういう事
?
﹁へ、ヘタレてないぞ
﹂
﹁おい、ヘタレて自分の世界入るな﹂
しかも好意ある人物に言われた訳だから⋮あ、軽く泣きそう。
いたからそうでもないが、今改めて反芻するとダメージが大きい。
死者の考えだとまで言われてしまい、あの時は自身も気が高ぶって
後半はだんだん尻すぼみになってしまう。
われたくない⋮って⋮﹂
いって言ったんだ。自分の事を考えて行動しないあなたにだけは言
﹁俺が、セイバーは闘う事に向いてない。もう自分の為に生きて欲し
?
﹂
﹁そ、そうなのか
﹂
﹁はいはい。それでなんだけど、それは言われても仕方ないと思うぜ
男としてそれだけは否定させてもらう。
!?
か。だからやってるわけだし。士郎だし﹂
﹁うぐ⋮﹂
またしても言い返せない。
573
?
﹁そ り ゃ そ う で し ょ。自 分 の 行 動 を 考 え 直 し て み た ら 分 か ⋮ ら な い
?
?
それに、胸に何かが刺さったように胸が痛い。
男として泣いては駄目だと思う。
けど││、
思わず手で目元を触る。
良かった。まだ泣いてない。
◆◆◆
何それ美味しいの
﹁話をしよう⋮あれは││││﹂
シリアスシーン
その為のお話。
さておき、え∼、今から士郎の中の意識改革を始めようと思います。
?
お話だ。物語ともいうね。
OHANASHIじゃないよ
ちゃんとした
?
話すのはとあるシスコン魔王のお話。
妹の願い﹃優しい世界﹄を作るために世界に喧嘩を売って勝っちゃ
う話です。
ある少女と出会い、王の力を得た少年は世界を一度ぶっ壊し、作り
替える。
その最後はその身に世界中の恐怖を集めて│││死ぬ。
かくして世界は平和になったのでした。
﹁そんな奴がいたのか⋮﹂
﹁異世界の話だよ。あくまで⋮﹂
Fateの世界があるんだ。無いとはいえない。
ちょっと詐欺っぽいが、気にしてはいけない。
﹁けどな、世界は救われたけど、その話は決してハッピーエンドじゃな
い。めでたしめでたしで終わらない。というか終わっちゃいけない
574
?
﹁それはある一人の魔王のお話。優しい優しい、黒の王の│││││﹂
?
と思うんだ。何でだと思う
﹁⋮分からない﹂
﹂
めて口を開いた。
﹂
﹂
﹁⋮コウジュは⋮どうなんだ⋮
﹁俺
﹂
﹂
﹁俺がハッピーじゃねぇハッピーエンドなんか許さねえ
﹁っぷ⋮﹂
何故笑うし⋮。
﹁何かおかしいか
﹁ぐぬっ⋮﹂
なんかすんげー良い笑顔で言いやがる。
やけにすっきりした顔だ。
けど、元気になってもらいたくて俺は来たわけだしこれで良いのか
くそぅ、なんか恥ずかしいじゃんか⋮。
﹂
それが聞き取れなくて聞き直す俺に、士郎は真っ直ぐ瞳を向けて改
士郎がぼそぼそと何かを言い始める。
﹁んあ
﹁⋮は│││﹂
でも、それじゃあ救われない人も居る。
にしてでも誰かを救うというもの。
当然だろう。士郎の中の〝正義の味方〟というのは自身を犠牲
士郎は何も答えない。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁自身を勘定に入れないなんて、まるでどこかの誰かさんみたいだな﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
そして、魔王自身が救われていない﹂
それに、魔王に力を与えた少女だって、残された。
仲良く、のんびりと⋮。
﹁その魔王の妹の本当の願いはな、兄と共に暮らすことだったんだ。
?
ふふん、そんなの決まっている。
?
575
?
﹁いや、あまりにもコウジュらしいと思ってな﹂
?
!
?
な
俺が言って良い事かは微妙だけど、自分を勘定に入れ
それで救われる人がいるんだから〝正義の味方〟だっていう
﹁とにかく
ろ
なら自分も救ってみやがれ﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
だからなんでそこで悩んじゃうんだよ
俺の言葉に再び口を噤む士郎。
ああもう
俺が単純に考え過ぎてるだけなのか
違うよな。そうじゃない筈だ。
!
でも、やっぱり士郎にも救われて欲しい。
これも偽善だ。
意を決する。
ずだ。
は別に、その悲劇すらも起こさずにすべてを救う夢想は誰でもするは
でも、悲劇を乗り越えて立ち上がる主人公を見て感動する気持ちと
自分の好きなものを押し付けてる。
これは押しつけだな。
熱くなってる自分の頭を振り切るように一度大きく振る。
はみんなでハッピーエンドじゃダメなのかよ。
自分の気に入らない現実を否定して、好きなだけ救いきって、最後
やらない善よりやる偽善。
俺が好きな正義の味方ってのはそういう奴だった。
だったら最後までやり通せよ。救いきれよ。
それを実行するのは本人の責任だ。
そう思うだけならタダだ。
それで良いじゃねぇか。
せたくないと思った。
でも、イリヤを目の前にした時、あの子を救いたいと思った。死な
はそう思ってるだけなのかもしれない。
中身が一般人だから、本当の悲劇というものを知らないからこそ俺
?
!
改めて俺は口を開いた。
576
!!
?
!
﹁士郎の夢は
﹂
﹁〝正義の味方〟だ﹂
﹂
﹁じゃあ聞くけど、士郎は正義の味方になりたいのか
らなきゃいけないのか
﹁それ⋮は⋮﹂
それともな
〝人助
﹁質問を変える。士郎は何のために正義の味方になりたい
﹂
それとも〝贖罪〟がしたいからか
け〟をしたいからか
﹁⋮⋮⋮﹂
楽な顔をしている。
ふむ、士郎の中で何かのヒントになったかな
それなら嬉しいが⋮。
﹁なして疑問形
﹁そんな事はっ
し
知りもしない癖にあーだこーだ言われるの。
⋮⋮ないと思う⋮ぞ
﹂
まぁ、俺が言ってる事も既にそれに値するかもしれんけどさ﹂
士郎も嫌だろ
しろとは言わないし、言いたくない。
だから俺からはこうした方が良いんじゃないかとは言えてもこう
い。
﹁俺は士郎じゃないし、士郎が通って来た道を識ってはいても知らな
?
苦笑気味に士郎は俺に返す。とはいえ、先程までの士郎よりは少し
﹁どっちだよ⋮﹂
るつもりもないが⋮﹂
﹁俺は別に士郎の根幹を否定するつもりはない。とは言っても肯定す
がかなり大きかった筈。
ず、自分だけが助けられた事の贖罪と、その助けてくれた人との約束
確か、士郎の中ではあの大火事の中で助けを求められても助けられ
士郎だから全部だろうな。
?
﹁けど、間違えたやり方って言われてもな⋮﹂
よって話﹂
方になりたいんだからなればいいと思うけど、やり方を間違えんな
まぁいいけど。さておき、あー、つまりだな。士郎は別に正義の味
?
577
?
?
?
?
?
?
? !!
﹁簡単じゃねぇか。誰か泣かしたら〝間違い〟だ。簡単だろ
い〟じゃなくても少なくとも正解ではないじゃんよ﹂
皆で助け合えたら万々歳だ﹂
﹁ははっ、確かにな﹂
﹁笑っていこうぜ
る覚悟のある奴だけだ〟ってね﹂
﹂
﹂
〝間違
自分でも微妙だと思ってんだからツッコムな
﹁はは、なんだよそれ﹂
﹁う、うるさい
さてと⋮。
もうこんな時間か
﹁そろそろお姫様を迎えに行く時間じゃないか
﹁や、やばい
﹂
さっきの魔王の言葉を借りるなら〝救って良いのは救われ
?
﹁コウジュ
﹂
その士郎の手を掴み、少し引きとめる。
士郎は慌てて立ち上がり、俺の横を抜けようとする。
ていてもおかしくない時間だ。
現在はもう夜が更けって、深夜とまでは行かなくても良い子なら寝
!!
!
﹁だろ
﹁ああ、それは確かにハッピーエンドだ﹂
?
俺は障子戸の方へ向かう。
!
みるよ。
じゃあ行ってくる﹂
﹁そっか⋮って、おい
誰が小さいかぁぁぁぁ
﹂
!!!
もう居ない士郎が走っていった方を向きながら、呟く。
﹁ほんと口下手だなぁ俺⋮﹂
はぁ、もう居ねぇーし⋮。
!!
﹁ああ、こんな小さい子にまで言われたんだ。皆で笑えるようにして
だ。それだけは││││﹂
だから、似合わねぇし、ボキャブラリーの少ない頭を使って言ったん
﹁さっきの、お前が助かる事で救われる奴の中には俺も含まれてる。
?
﹂
578
!!
?
?
﹁口下手という割に、えらく何かを指し示す事を言っていたと思うが
ね
?
士郎が走っていった反対側の廊下、そこには壁にもたれるようにし
て赤の弓兵が居た。
こいつ聞いてやがったな。
﹂
後一つ言うと身長がアレなんで似合わないぜ
﹁誰のせいだ
﹁ナチュラルに心の声を読むな﹂
﹁顔に出ていた﹂
おっと⋮。
﹁正直気付かなかったぜ。どこから聞いてた﹂
な﹂
ほぼ全部じゃねぇか。
?
よ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁何かね
﹂
というか、どこで知ったし
﹁では私は君にツンデレという言葉を贈ろう﹂
﹁誰がツンデレだ
﹂
﹁バーサーカーの身で何度もしている君に言われるとは思わなかった
﹁って誰が可愛くだ。まったく、諜報はアサシンの仕事だろ
﹂
﹁どこからだったか⋮。君が可愛らしく顔を染めたらしい所は聞いた
?
!
﹁何が
﹂
﹂
﹂
﹁こりゃ失敬。んー⋮⋮さあ
﹁知っていて聞くのかね
?
﹂
﹁私は⋮間違っているのか
感じていると、アーチャーが静かに話しだした。
事をしている気がして胸の内で何とも言えないものが生まれるのを
否定しつつも自分がしている事を反芻すると、若干ツンデレっぽい
﹁そっちが本物だ。俺は違ぇよ﹂
と凛の事も﹂
﹁いやなに、ライダーが君の事をそう言っていたのでね。あと、イリヤ
!!
579
!!
﹁ひねくれ者﹂
?
﹁さあって⋮おい⋮﹂
?
?
?
いつもの口調が崩れてまでツッコミをするアーチャーに内心笑い
つつ俺は続ける。
﹁俺には分からねぇ。さっきも言ったが俺は所詮他人だ。交友関係と
かそんなのは抜きにして、他の人なんだ。そいつ本人の事なんて本当
の意味で知らない。
ただまぁ、俺理論で行くと、泣く人が居る以上間違いに近いだろう
な﹂
﹁泣く人が居る⋮か。まったく、痛みいる言葉だ﹂
﹂
﹁所詮は俺理論だけどね。あと、絶望的なお知らせ﹂
﹁⋮何かね
﹂
﹁過去の自分を殺した所で恐らくあんたが為した事は消えない﹂
アーチャーの表情が凍る。
﹁タイムパラドックスって知ってるだろ
﹁ああ﹂
﹂
﹁あれ、多分あんたには適用されないぜ
﹁何
﹂
?
?
﹂
た事をあんたは士郎として記憶にあるか
﹁確かに⋮ないな。しかし何故
ないだろ
?
﹂
?
﹂
?
﹁そうだな⋮。どちらにしろ、自由と言いながらとりあえずの目標を
てくれると嬉しいね﹂
﹁どうするかは自由だって前にも言ったが、俺っていう可能性に賭け
﹁⋮⋮﹂
新たな正義の味方を探すのもありなんじゃねぇか
﹁とはいえ、前にも言ったがあんたは第二の人生を歩んでるわけだし、
﹁そう⋮か⋮﹂
計にこの世界の士郎を殺してもアーチャーが消えるとは思えない。
それに、俺は衛宮士郎には他のルートがある事を知っているから余
根拠がない以上それはただの過程だからな。意味はほとんどない。
る方法を俺は知らねぇ﹂
﹁知らねぇよ。推測はいくらでも立つがそれが本当かなんて根拠を知
?
580
?
﹁もう既にあの士郎とあんたは別人だ。証拠は簡単、俺が士郎に話し
?
潰された気がしないが、心惹かれるものがあるのは確かだ﹂
﹁うぐ⋮﹂
だからこういうの嫌いなんだよ。
﹁悪い⋮﹂
﹁クク、冗談だ﹂
からかわれただけかよ
﹂
どうしたのかね
﹂
⋮。私に言われた言葉じゃないが、胸が痛かったよ。
せまで否定してほしくはない。そんなのって悲しいじゃん
﹄とね
後に国は滅びたかもしれないけど、その中で皆が感じる事が出来た幸
に後悔はしてほしくない。良かれと思って救ってきた命なんだ。最
﹁いつだったかな、とある女の子が﹃自身が辿った道を、救ってきた命
﹁きっかけ
考え直した部分もあるしね﹂
ピーエンドに引かれてはいた。その後にも、とある言葉がきっかけで
﹁実 際 の 所 は な、あ の 二 度 目 の 生 を 受 け た 後 の 話 の 時 点 で 君 の ハ ッ
実際に俺も悪かったしな。
したのでまあいっか。
まぁ、今の笑いはいつもの皮肉気なものではなく本当の笑みな気が
!!
ちを抑えてんだから、少し そっとしておいてくれ
さい
うわーうわー
いや、してくだ
って俺のマネをして言った部分にツッコミ
を入れられない程度には恥ずかしい
アーチャーがじゃん
ホントもう穴があったら入ってそのまま埋めて欲しい。
他人から聞くとこうも恥ずかしい事をいっていたのか俺は
!!
ない限り、外の様子を見ることが出来るモニターがあるのは気のせい
終わって、君のマイルームに戻っていた。ついでに言うと君が拒否し
﹁って、あんたいつから盗み聞きが趣味に﹁あの時の私は食事の用意が
あ、ちょっと落ち着いてきたな⋮。
!!
?
581
?
俺は胸元を押さえながら必死に恥ずかしさで死にそうなこの気持
?
?
!?
!!
!!
だったかね
﹂そうでした⋮⋮﹂
自業自得じゃねぇか⋮。
﹁それで、君の言うハッピーエンドの為に必要なのはあと何かね
俺の落ち込みようからか、話を反らしてくれるアーチャー。
﹂
﹁とりあえずは⋮やっぱり士郎の強化が先決だな。細かい事はキャス
ターが準備してくれてるし、金ぴか達の事もたぶん戦力的にいけると
思う。聖杯は俺が喰らえば良いしね﹂
うん完璧だ。
金ぴかを丸ふりしても大丈夫そうな位にこちら側の戦力は充実し
てきている。
その上で士郎には因縁に決着をつけてもらう。
つまりは、聖杯の事は俺に任せて先に行けと言いつつ金ぴかを押し
付ける作戦。
なんていう外道。
でも、現状それが一番成功確率高そうなんだよなぁ⋮。
自分の不甲斐無さに内心で涙していると俺を何故か残念な子を見
る目でアーチャーは見ていた。
﹂
﹁前から言おうと思ってたのだが、その喰らうとか聖杯を弄るだとか
の表現はどうにかできないものなのかね
失礼な
﹁分かった。言うだけ無駄だという事がな﹂
に振った。
きりっと答える俺にアーチャーはやれやれとでもいう風に首を横
﹁ムリダナ。この表現が一番合ってるし、俺が使う宝具的にもな﹂
?
﹂
俺は手に魔力を集中させ、ある魔術を発動させる。
﹁これ⋮は⋮﹃投影﹄⋮まさか、無限の剣製から
﹂
アーチャーの問い、それは俺の手の上に現れたものが剣ではないか
れなのかね
﹁難しいとかどうとか以前の問題だとは思うが⋮、いや、しかし何故そ
?
?
﹁おうよ。なんとかね。ってか難しすぎるでしょこれ
﹂
﹁あ、そういえば。アーチャーに見てもらいたいものがあったんだよ﹂
!
582
?
?
?
らだ。
では剣ではなく何が現れたのか
アンサー、たい焼き
そりゃツッコまれるか。
﹁いや、練習をこれでしてたからつい⋮﹂
UBWをラーニングで覚えたとはいえ、投影自体も練習したかった
んでやってみたんだけど、予想外に難しかった。
ラーニングで覚えたとはいえ、エミヤシロウの﹃投影﹄はUBWか
らの派生だしいけるとは思ったんだけどね。
やはりラーニングはそれ其の物を技能として覚えるだけでそこか
らの応用は努力次第だから扱いづらい。
さておきなんでたい焼きかというと、とある桜がきれいな島の魔法
を思い出して、あれって投影っぽくねとか思いながらやったら何故か
出来たんでそのまま練習に⋮。
とか、腹ペコキャラ確定
とか、無限の菓子製
とか考え
最初は、何でUBWの派生の練習の筈なのにこっちの方が軽くでき
ちゃうの
?
だって俺ってば獣人だし 食べることの方が親和性高くてもお
かしくないし
!
のかね
﹂
﹁む⋮少し、というかかなり疑問はあるが、その﹃投影﹄がどうかした
その後に一応剣もできたしね。
!!
﹁君が教えると
﹂
ヒントさえあれば俺が士郎
?
をしてくれるんだろう。
どうせ、見るに堪えんとか言いながらなんだかんだで修行の手伝い
なるほど⋮とか神妙に呟くアーチャーをニヤニヤしながら見る。
﹁ふむ、なるほど⋮﹂
に渡してあるあれでどうとでもなるだろうしさ﹂
・・
と思ったからね。ヒントとしてかね
﹁だって、アーチャーが士郎に教え﹁断固として拒否する﹂││だろう
?
583
?
?
たけど美味しいから良いやと納得した。
?
﹁いやー、士郎に自分の中の物を自覚してもらおうかとね﹂
?
比較的少ない許されてる男のツンデレだもんねこの人。
そんなアーチャーにほっこりしつつ、まだやるべきことが残ってい
るから話を終わらせる。
﹂
﹁さてさて、俺もそろそろ行こうかね﹂
﹁どこへ
﹁決まってんじゃん。金ぴかいじり⋮ごほん、さっそくヒントを渡し
に行こうかと思ってね﹂
◆◆◆
その矢先だった。
│││どこに行く
それは我の物だ│││
かったからひとまず家に戻ろうとした。
﹂
て、まだまだ言いたい事はあったがセイバーの手があまりにも冷た
そこにはまだセイバーが居てくれて、自分の思いを改めてぶちまけ
て、伝えたくて、橋まで戻った。
コウジュに諭されてから、とにかくセイバーに言いたい事があっ
い違いも甚だしかった。
その存在を、多少強くなった程度でどうにか対処できるなどとは思
う存在を。
正直なところ、慢心していたのだろう。英雄王ギルガメッシュとい
ら見る男。ギルガメッシュ。
さも愉快だと言わんばかりに、地面に倒れる俺たちを高笑いしなが
﹁ふふ、ははははは、アハハハハハハハハハハハハハハ
!!!!!
だからセイバーと共に一当てした後、体勢を立て直そうかと思った
これではまた同じではないか。
たが、コウジュに言われたことがふと脳裏を掠めた。
最初は俺が囮になっている間にセイバーに逃げてもらおうと思っ
そう言いながらあいつが現れたのは。
?
584
?
のだが、奴はそれすらも許してはくれなかった。
﹃ゲートオブバビロン﹄
コウジュは確かそう呼んでいた。
そこから出てくる無数の宝具。
その宝具たちは真名解放などしてはいなかった。
だが結果は散々たるものだ。
俺は胴や、全ての手足を撃ち貫かれている。 セイバーは撃ちだされた宝具は避けたが、ギルガメッシュが取り出
した、エアとかいう禍々しい歪な形状をした剣を真名解放しセイバー
に瀕死の重傷を負わせた。セイバーもエクスカリバーを真名解放し
たのに⋮だ。
セイバーやコウジュを相手に修行をした。
だから、勝つことはできないと知ってはいるが、逃げる程度は出来
るだろうと踏んだ。
585
それが間違いだった。
﹁セイ⋮バーっ﹂
﹁ぐっ、士郎⋮⋮﹂
俺のすぐ傍に飛ばされてきたセイバーに話しかけるが、セイバーか
ら返ってきた言葉は弱々しく、身体の至る所から流れ出る血が瀕死で
ある事を俺に容易く分からせる。
だというのに、彼女は俺を心配そうな瞳で見る。
﹁あなただけでも⋮逃げて⋮ください⋮﹂
そしてセイバーはかすれる声でそう言った。
だがそんなことは出来るわけがない
コウジュは言った。誰かを救うなら自分も救えと。
だけど、誰かを救わず自分だけが救われるなんてのは違う
ああ、そうだ。
今セイバーがしていることこそが俺がしていたことなんだ。
だったら、セイバーが俺を救おうとするのなら俺がお前を救おう
自身の身体に鞭打ち何とか立ち上がる。
!
!
!
穴の空いた部分からは、力を入れたせいでブシッと勢い良く血が吹
き出る。
それがどうした
良くも悪くも稽古の時に痛みには2少なからずの耐性はできた。
それ以前に、ここで倒れていてはせっかく気づいた意味が無い
何とか立ち上がり、武器を作りだす。
﹂
最強の剣、あの時投影したあの剣を
イメージ
﹁トレース・オン
投影するのはコウジュと戦った時のあの黄金の剣
!!
何⋮
それじゃあ⋮。
に刺さった剣が流れたもの。これは更にその源流﹂
﹁お前の持つ、王を選定する岩に刺さった剣は、北欧の支配を与える木
奇しくも俺が投影したそれとよく似たものだ。
それは黄金の剣。
そんな俺を見てギルガメッシュは何かを取り出す。
﹁﹃投影﹄⋮か⋮。つまらぬまねをする﹂
それを構え│││、
成功だ。
手にしっかりとしたあの時の剣の重さが伝わってくる。
!!
!!!
﹁どう足掻こうが、複製が原典には││││﹂
次の瞬間には奴は俺の前に居て│││、
﹁勝てん﹂
そして俺は剣ごと胴を逆袈裟に斬られ、軽くふるわれただけのそれ
は、俺の胴に紅く太く線を残してもあまりある威力で俺を再び後ろへ
吹き飛ばす。
﹁が⋮は⋮﹂
痛い。熱い。
その二つが全身を駆け巡る。
﹂
それの所為で思考そのものが乱される。
﹁士郎│││で│か││
!?
586
!!
!!
疑問を持っちゃいけなかったのに、俺は思い浮べてしまった。
?
セイバーが何か言ってきてくれているが良く聞こえない。
自身の血の音がうるさいのだ。
ドクドクと何かが流れ出るように、心臓が早鐘を打つ。
うるさい。
そう思ったからだろうか、ズボンの右ポケットの辺りが熱を持った
と思ったらその心臓の音が少し静まった。
同時に、全身を支配していた痛みも熱も少しずつではあるが引きは
じめる。
何⋮だ
それ以上無理をしてはっ﹂
な⋮に⋮
もない﹂
﹁セイバー、早く我の物になれ。さすればその小僧を助けてやらん事
やつはそんな俺たちを冷ややかな目で見ながら話していく。
躯で守ろうとするセイバー。
未だに立てない俺を自分もボロボロなのになんとかその小さな体
﹁士郎⋮﹂
俺はまた、何かを間違えたんだろう。
誰かが泣いているのならそれは間違い。
これではコウジュに言われてしまう。
ああ駄目じゃないか。セイバーが今にも泣きそうだ。
それを見てさらにセイバーが悲痛そうな表情をする。
吐血。
セイバーの声に無理をして返答しようとしたからか、口から大量の
﹁だいじょ、⋮ぅぐっ﹂
﹁士郎
少しずつではあるが、身体を起こす。
いや、今はそんなことはどうでも良い。好都合だ。
?
のだ。
その表情は彼女には似合わない、諦めを帯びた今にも泣きそうなも
その言葉を聞き、セイバーは俺を見た。
﹁我は寛大であるからな、野良犬程度は捨ておいてやる﹂
?
587
!
﹁わかりまし││﹂
﹂
俺から目を離し、自分を殺して了承しようとする彼女にすべてを言
答えるな
わせる前に俺は叫ぶ。
﹁そんなのは駄目だ
もう無理です止めてください こんな
しかし、今はそんなことは置いておく。
﹁うるさいっ、少し黙ってろ⋮﹂
俺は怒鳴るようにセイバーに言う。
その声に驚くセイバー。
セイバー以上に欲しいものなんてない
﹁し、しかし、私は⋮⋮﹂
﹁俺には
﹂
!!
ははっ、コウジュの言っていたことが改めて身にしみる。
この期に及んでまだ俺の心配をするのか。
事であなたに死なれたら私は│││﹂
﹁何をしているのですか
ている事実は変わらない。
だがやはりというか、すこしは回復したとはいえ身体中に穴があい
も少しだけ回復したため、俺は再び立ち上がる。
いつの間にかあれ程うるさかった血の音も静かになっており、身体
!!!
腹が立つ。
ああ、本当に腹が立つよ。
セイバーにこんな思いをさせてしまう俺の弱さにも。
あくまで俺を助けようとするセイバーにも。
﹂
﹂
そして何よりもセイバーにこんな思いをさせている英雄王に
腹が立つ
﹂
﹁だから俺は、こんな奴にセイバーを渡してたまるものか
お前にセイバーは渡さない
!!
!!
!!
!!
!?
﹁たわけ。それは貴様には過ぎた宝だ﹂
﹁失せろ英雄王
!!!
!!
!!!!
588
!
﹁俺の中にはお前の代わりになるものなんて一つもないんだ
﹁士郎⋮﹂
!!
﹁雑種が⋮。セイバーの存命に手間がかかるがお前を潰すか﹂
英雄王があの歪な剣を持っていない左手をこちらに向けて軽く振
る。
その後方にゲートオブバビロンが開き、その中身が顔をのぞかせ
る。
それらが、こちらに射出される。
こうなったら、あの壊れない概念を持つ剣を一旦出して⋮。
そう思いカードを素早く出し剣を具現化させようとするがそれよ
りも早く、辺りに轟音が響いた。
││││ガガガガガガガガン
﹂
だった。
﹁じゃっじゃーん。真打ち登場
う。
何故かっていうと、ギルガメの行動が記憶にある原作と微妙に違
いやー、ちょっとビックリした。
◆◆◆
に身を包んだ姿ではあったが。
何故か、あのいけすかないアーチャーのものに似た赤い軽鎧と外套
﹂
そこに居たのは、小さくも頼もしい狂戦士のクラスであった少女
俺も応用にそちらを向く。
叫ぶ。
英雄王が自らの剣群の進行を邪魔した何かが飛んできた方向へと
﹁誰だ
らに届く事はなかった。
英雄王が放ってきた剣達は横から飛んできたな何かに弾かれ、こち
!!
!!
589
!!?
むしろ、今までが一致してるのがおかしかったのかもしれないが、
本当に焦った。
本来なら士郎が新たな力を顕現して、ギルガメのエヌマ・エリシュ
を押し返す筈だったのに、まさかゲートオブバビロンの方を使うと
は。
しかも来た瞬間にはその状態だったから、慌てて、俺も﹃投影﹄品
を撃ちだして横から撃ち落とした訳だ。
二人ともボロボロだ。
失血死してもおかしくないほどに衣服には血の赤が見える。
はぁ、二人にはすまないことをしちゃったなぁ⋮。
いや今は反省している時じゃないね。そして落ち込んでいる場合
でもない。
自らの能力の弱点は心理状況に影響されること。 まずはあいつをかるーく退けようじゃないか
・・
そして同時に、士郎にはもう一歩先に進んでもらおう。
そのために、これを着てきたのだから。
赤原礼装。
これはアーチャーが身に纏っている軽鎧の名前だ。
PSPo2にはアーチャーが着ているその赤原礼装が存在するか
らそれを改造して着ているわけだ。
ただやはりというか、まことに残念ながら赤原礼装は赤原礼装でも
女物に改造してある。
いわゆるアチャ娘だ。
PSPo2をしている時、俺が育てていたKoujuは女の子で
あったため。性別制限があって着れなかった赤原礼装を着れるよう
﹂
590
!
になって嬉しくは思うが、アチャ娘であるため、嬉しさが急暴落とい
うのはまた別の話である。
さておき何故このような姿なのか
?
それは今からアーチャーとして動く必要があるからだ。
﹂
!!
このデコっパチ
!!
﹁また貴様か小娘
﹁小娘言うな
!!
﹁なにぃ
﹂
﹂
!!!
のを作れ﹂
﹁勝てる⋮もの
﹂
﹁そうだ。簡単だろ
?
取り出す。
﹁いくぜっ
﹂
﹁捻りつぶしてやる
◆◆◆
勝てる⋮もの⋮
﹂
﹂
﹁ゲートオブバビロン
ソードバレルフルオープン
﹁│││停止解凍、全投影連続層写っ
﹂
いつものように目を通して得る情報が無くとも分かる。
その一発一発に信じられない程の威力と神秘を内包しているのは
いくつもの宝具のぶつかり合い。
違いはあるだろうがまさしく剣の撃ち合いだ。
ギルガメッシュは原典を、コウジュは投影したものを、それぞれの
う評するほか無い。
振るわれることを主目的とした武器ではあるが、目の前の様相はそ
目の前では剣の撃ち合いが行われている。
!!!
そう士郎に小さい声で伝えると、俺は手に白黒の双剣、干将莫耶を
と届くはずだよ。さて、トレースオンっと﹂
﹁俺が渡した剣、あれを使ってくれ。今の士郎が強化も用いれば、きっ
﹁だが⋮﹂
勝てるものを作るだけだ﹂
﹁話は後だ。士郎、俺が今から時間を稼ぐ。その間にお前は勝てるも
﹁コウ⋮ジュ⋮﹂
金ぴかを弄りながら士郎達との間にまで跳んで降り立つ。
なんて、どこかで聞いた事実なのかどうか良くわからん事を言って
﹁ずっとオールバックにしてると広くなるぞこの予備軍め
!!?
フリーズアウト
!!!
591
?
!
?
!!
ただ、その中でもコウジュが産みだす物に目が行く。
なぜだろうか、妙に既視感がある。
同じ﹃投影﹄だから⋮
﹂
﹁士郎それは
◆◆◆
﹂
くっ、難しいっ
!!
﹂
そんな俺の様子に驚愕を浮かべるセイバー。
﹁士郎⋮、まさかあなたがっ⋮﹂
れか
身体の奥底にある何かが一瞬熱を持ったような感覚があったが、そ
一体何が⋮
一瞬、エクスキャリバーが光ったかと思うと、全身の傷が回復した。
!?
そうすればカードに描かれていた黄金の剣が生まれる。
カード名を宣言。
そしてそのためにはこのカードを使えばいいらしい。
﹁なんでもない。それより、勝てるものを作らないといけないらしい﹂
見てくる。
いつの間にか、すぐ近くまで来ていたセイバーが心配気にこちらを
﹁士郎
方がまだ納得のいく黄金の剣。
剣というには刃もなく、剣の形状をしてはいるが儀式剣と言われた
真力﹃エクスキャリバー﹄。
その原因であろうものを取り出す。
そのとき、ドクンっと何かが脈動したような気がした。
?
﹁コウジュがこれを使えって⋮って、うわ
?
?
592
?
?
多重投影等を用いて金ぴかの宝具を撃ち落とすが、純粋な投影のみ
で行うのは中々精神をすり減らす。
PSPo2武器を使えば楽になるのかもしれないが、それでは投影
ではなくなってしまう。
そしたら士郎の眼にヒントとして映らない可能性がある。
﹂
だからやっているのだが⋮。
﹁ああもう
金ぴかの宝具を続けて投影したもので撃ち落とす。
﹂
﹁I am the bone of my sword︵身体は剣
で出来ている︶
だけどやらせねぇ
かの宝具が降り注ぐ。
きっつ⋮
!!
前方に、虹色に光る花弁の様に展開する盾を展開する。そこへ金ぴ
!!
せ続ける。
後ろでは、士郎とセイバーが何かを話しているようだが、まだか
そう俺が内心で悲鳴を上げた瞬間、光が辺りにあふれた。
ちらりと後ろを覗き見る。
エ
ヌ
そう確信する。
マ
いつの間に
﹁天地乖離す│││﹂
な
!?
向けていた眼を、再びギルガメッシュへと戻す。
勝った
してその眼前に紡ぎ出したのは光り輝く黄金の鞘。
そこには片手にエクスキャリバー、もう片手にエクスカリバー、そ
!!
その状態で展開している盾に後から後から魔力を注入して、展開さ
!!
つつもこちらへと乖離剣エアの真名解放しようとしていた。
リ
シュ
お前そんな器用な事出来たのかよ
エ
﹁│││開闢の星っ
﹂
!!!
﹂
何とかこのアイアスで止め│││
避けてください
!!!
くそっ
!!!!!!
│││ようかと思ったが、セイバー達の準備はバッチリの様だ。
﹁コウジュ
!! !!
593
!!
!
盾の向こう側では金ぴかがゲートオブバビロンから宝具を射出し
!?
士郎が投影した〝黄金の鞘〟の後ろに2人それぞれがエクスカリ
バーを持って構えている。
なら、邪魔者は避けようじゃないか。
俺は瞬時にアイアスを消し、横へ力の限り飛ぶ。
うげはっ、勢いのあまり壁へと激突してしまったが、そんなことを
気にしている余裕はすぐに無くなった。
辺り一面を昼間かと間違うほどの、いや、すべてを白一色に塗りつ
ぶすほどの光がそこに顕現する。
﹁ちっ⋮﹂
しばらくすると、爆発で舞い上がった土煙やらが晴れる。
594
それと同時に金ぴかの方は何か不都合が起きたのか霊体化をして
消えていく。
よっしゃ
だ。
いっえーい
そんでもっていい雰囲気。
2人は抱き合っていた。
﹁士郎⋮あなたが私の鞘だったのですね⋮﹂
だが二人を見た瞬間に俺は固まってしまう。
﹁あ⋮﹂
この喜びを誰かと分かち合おうと、ひとまずは士郎達の方へ向く。
時くらいは素直によろこぼう。
この身体になってからは感情が出やすくなってしまったが、こんな
思わず手を上げながら飛ぶように喜んでしまう。
!!
思ってたのとは若干違うがこれでまた前に、ハッピーエンドに進ん
!!
とりあえず、俺は上げていた手を静かに下ろした。
595
﹄
﹃stage41:なせば大抵なんとかなる‼ らし
い
ここは⋮
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣
剣剣剣剣剣││││。
見渡す限りに剣が刺さる大地。
その色は鉄錆の様な赤土だ。
ふと上を見上げる。
空も同じ色をしている。
それだけではない。
⋮歯車
コウジュに見せてもらった剣⋮だよな
│││身体は剣でできている│││
するとどこからか声が聞こえた。
見ていく。
見覚えのある剣がちらほらと刺さっているため、それらを一本一本
?
見た事もない剣が多いがいくつかはつい最近見た記憶がある。
歩きながら刺さっている剣群を見ているとふと気付く。
止まっていても仕方が無い。少し歩こう。
空には、この剣が刺さる大地を囲うように歯車が浮いている。
?
596
?
!!
あれ
どこで聞いたんだっけ。
何故か、大事な事の様な気がして、一度立ち止り、必死に思い出そ
うとする。
ダメだ。思い出せない。
しかしなぜかその言葉がとても大事なもののように感じて、諦めき
れない。
⋮もどかしいな。
心内にもやもやとした物を抱えつつ再び歩き始める。
するとごく最近手に持った剣が目に入った。
これは、エクスキャリバー
│││扱いきれるかな⋮
│││
更に剣からこう言われている気がした。
心臓の音がどんどん速くなっていく。
右手を伸ばす。
目の前に刺さるそれは、俺に対してそう言っている気がした。
│││もっと⋮│││
としては歪な形をしたものだ。
黄金色の、斬るためではなく儀式用と言われた方が納得できる、剣
自分がコウジュに、カードとしてだが貰ったモノ。
それは、自分が思いを寄せる人の宝具と似た名前を持つ剣だった。
?
・
・
・
それでも手を伸ばし、手が持ち手に触れ││││
心臓の音が速まって行くのが止まらない。
?
597
?
﹁っ
﹂
はあ、はあ、はあっ⋮⋮。
心臓が痛むように音を上げている。
﹂
どくどくと血流を速め、自己主張してくる。
﹁ここは⋮
﹁⋮⋮夢
﹂
という事は今のは⋮。
辺りを見回す⋮までもなく見慣れた自分の部屋だ。
?
何か持っている
リバーも描かれている。
柄が変わった
﹁それにしても、何で持ってるんだろ
﹂
しかし、よく見るとエクスキャリバーとクロスするようにエクスカ
それはコウジュに渡されたカード、真力﹃エクスキャリバー﹄。
確認すれば持っていたのはカードだ。
?
そこで、右手に違和感がある事にも気づいた。。
とりあえず自身の身体を起こす。
もなっていた。 それどころか俺は今まで布団に寝ていたようで、丁寧に寝間着姿に
俺はいつの間に家に帰ったのだろうか。
そこでふと気づく。
る。
それはあまりにもリアルで、少し瞼を瞑るだけで鮮明に思い出せ
脳裏に浮かぶのは剣の刺さった赤銅色の空間。
?
しかし、記憶が途中で途切れてる。
│││ギルガメッシュ。黄金の英霊と戦った事。
﹁そ、そうだ、俺達あいつと⋮﹂
│、
ただ、それによって思い出されるのはカードについてではなく││
考え事を始めると、寝起きでくぐもっていた思考が廻り始める。
?
?
598
!!
セイバーと合流した後に俺たちを襲ってきたギルガメッシュ。
相手取り、瀕死の状態であった俺たちの前に現れたコウジュ。
その後はコウジュが言う様に勝てるものを投影しようとして、そし
て産みだされたのが2本の黄金の剣と黄金の鞘。
どうもその後からの記憶が無い。
どうにもすっきりとしない思考の中に居ると、誰かが近づく足音が
聞こえてきて考え事から意識がそれる。
﹂
足音から二人くらいのようだが、それに気づいたころにはもう部屋
﹂
目は覚めましたか
の前に着いたようだ。
﹁士郎
﹁覚めたかー
﹁あのさ、俺⋮﹂
﹁痛みはまだあるか
傷自体は完全に回復している筈だけど⋮﹂
戸を開けて入ってきたのはセイバーとコウジュだった。
?
﹁え
あ、ああ痛みとかはないよ﹂
なかったが、慌てて返す。
すぐ近くまで近づいてきたコウジュにやや驚きすぐに返事を返せ
にコウジュが話してくる。
先程の疑問を解消しようと口を開いたが俺の言葉にかぶせるよう
?
﹂
?
くれたのか
﹂
﹂
﹁うんそうだけど
﹁全部
﹂
﹁おう。なんかマズかった
と言わんばかりに首を傾げるコウジュ。
?
?
?
何か駄目だった
﹂
﹁それは構わないけど⋮って、待ってくれ。コウジュが着替えさせて
てちゃったけど構わないよな
いかないし着替えさせたって訳。そも穴だらけだったし。丸っと捨
卒倒するようなスプラッタ状態。だからそのまま寝かせるわけにも
﹁着てた服も血でドッロドロだったからねぇ。一般人が見たら確実に
ホッと一息ついた後に笑みを浮かべるコウジュ。
﹁ほむ、それならよかった﹂
?
?
599
?
?
?
待て、それはマズい。何がマズいって絵面がマズい
駄目じゃないけど駄目だってそれは。
サーヴァントとはいえ見た目幼女に着替えさせられるって駄目だ
ろう。しかも全部ってことは下もってことだろうし。
冷や汗が全身を流れ始める。
何でこの幼女は平然としてるんだ
サーヴァントだから
いつだったか成人してるとは言っていたから男女の機微とか知っ
てると思うんだけど、英雄ってその辺りも無頓着なの
者みたいじゃないか。
確かに2回目がある訳だけどもその表現だけで言うと俺が性犯罪
って待て俺、初めて覗いたって何だ。
なかったような。
そういえばセイバーも初めて覗いてしまった時も素で意識されて
!?
だからなんでそんなに異性に対して無頓着なんですかね
だがすぐにハッとする。
た。
心からそう思ってくれていることが伝わってくる優しい笑みだっ
惚れてしまう。
になったが、よかったと言った時ににへらと笑うコウジュに思わず見
身体を剥いただけじゃなく確認までされていたことに身悶えそう
かった。﹂
し、士郎自身でも自覚症状が無いのなら大丈夫だろう。良かったよ
﹁よくわからんが、まぁその時見た限りでは傷は残ってなそうだった
!?
いやそうじゃなくて今はこの目の前の幼女に一度全部脱がされた
﹂
﹂
可能性があるってことが問題なわけで
﹁どったん
﹂
﹁い、いや、な、なんでもない、よ
﹁ほむ
!!
そして色んな意味で気まずくて話題を変えることにした。
600
!?
!?
?
?
俺の様子に反対側へまた首を傾げるコウジュ。
?
﹁そ、そうだ
あいつと戦った後どうなったんだ
つい声を大きくして聞いてしまう。
﹂
﹂
?
したんだよ﹂
﹁うんにゃ、違うよ。俺は何もしてない。それはお前さんが自分で治
ああ、今更ながら感覚が麻痺するはずだ。
開されて│││ガクブルガクブル⋮⋮。
回復できるからギリギリまで、しかも一瞬で回復するからすぐに再
ついでに思い出す⋮、いや、思い出してしまう修行のこと。
きる。
どういう理屈で回復出来ているのかは分からないが一瞬で回復で
が呼んでいた魔術。
思い出すのはコウジュの回復系のカードやテクニックと彼女自身
夜中のようだから多分それほどの時間は経ってないだろう。
いくらこの体が丈夫だって言ってもあれだけの傷があったし、まだ
﹁それで、今回も回復は⋮コウジュがしてくれたのか
いや、遠坂曰く魔術にも喧嘩を売っているのだったか。
限りなく現代医学に喧嘩を打っているが。
くその通りだろう。
コウジュがいつだったか言っていたが、死ななきゃ安いとはまさし
の傷だろうと回復できると言うのは本当にありがたい。
自分のことながら感覚が麻痺しているのだろうと思うが、それなり
無事に事なきを得たのだろう。
冷静に考えればあの場に居たメンバーがここに集っている以上は
優しくそう言ってくれるセイバーに俺は安堵する。
﹁そっか⋮﹂
抜けたのでしょう﹂
﹁あなたはギルガメッシュを退けた後、倒れたのです。安心して気が
それに対して少し驚きながらも、セイバーが答えてくれた。
!?
トラウマになりかねなかった幼女の所業を思い出して身体を振る
601
!!
わせていると、その犯人は何とはなしにそう告げた。
自分で
?
自らにそんな御大層な能力は無かったように思うがどういうこと
だろうか。
﹂
聞きかじりの知識でも魔術であろうと重傷を直すにはそれなりの
代償が必要だということは知っている。
勿論覚えた魔術にそんなことが出来るものは無い。
﹁あなたが最後に顕現させたあの鞘を覚えていますか
た。
イメージ
ギルガメッシュの宝具を押し返したあの鞘のこと⋮だよな
あの幻想は意図して生み出したものじゃなかった。
た。
エクスカリバー⋮の
かった鞘です⋮﹂
﹁あれはエクスカリバーの鞘。私が生前所有し、手を離れ戻る事のな
﹁覚えてはいるけど、あれって何なんだ
﹂
セイバーを、自分を勝利に導くものを幻想した結果出てきたものだっ
イメージ
というよりは、何かを出そうとしたのではなく、ただ勝てるものを、
?
俺が覚えの無いことに頭を捻っているとセイバーがそう聞いてき
?
ら俺が異常とも言える超回復能力があった理由にはなる。
理由にはなるが⋮何故
何故、そんなものが俺の中に
﹁なあ、何で⋮﹂
﹂
アノ、コウジュサン
ん
﹁そっか⋮﹂
﹁俺知ってるよ
﹁それが何故あなたの中にあるかは分かりません﹂
?
?
イマナニカオカシナコトイイマセンデシタカ
﹂
?
?
あなたは知っているのですか
!?
﹁コウジュ
!
602
?
確か、持ち主を不死身にするとかいう⋮それが俺の中にあったのな
?
?
?
﹁いや、だから知ってるってば。あと、今真夜中だから、しー⋮﹂
人差し指を口の前に持ってきて静かにするよう促すコウジュ。
それはそうだけど、大声出しても仕方ないって
﹁それは誰なんだ
﹂
いや、ひょっとして│││﹂
ね。誰かが士郎に入れた。それが答え﹂
﹁そんでだな、何で士郎に鞘が入ってるかだけど、実際は単純な話さ
横のセイバーもぐぬぬといった風に我慢しているし。
俺だけじゃない筈だ。
確かにそれはそうだけど、なんか言われたら腹立つ。
ツッコムのしんどくない
﹁あのさ、俺が言うのもなんだけど、もう俺が何知っててもそのたびに
俺もセイバーが出してなかったら代わりに出してたし。
!!
正解だけど無事か
に絶対そうだという確信があった。
﹂
どうした
﹂
どこか頭打った
セイバーもそう思うよな
セイバーも同意してくれるだろうとそちらを見る。
﹁⋮⋮﹂
セイバーさんこっちを見てください⋮
﹁ごほん⋮えー、切嗣が入れたという事ですが⋮いつ
か、大火事⋮﹂
﹂
いや、そう
﹁その通り。それが唯一士郎を生かす方法だったからな﹂
?
!
!?
﹁親父⋮
﹁おおぅ
﹁それはさすがに失礼だろ
!?
何故親父が浮かんだのかは自分自身まったく分からないが、直感的
親父だ。
浮かんだ人がいる。
その事を聞いた瞬間、コウジュに聞こうとしながらも俺の中で思い
誰かが俺に入れた。
?
さすがにこう何度もこういう扱いされると反論したくなる。
!?
!?
603
?
!?
!? ?
大体の事は今ので予想はついた。が、詳しく聞きたい。その思いが
コウジュ達に届いたのか、よく言われるように顔に出ていたのか、話
し始めてくれた。
﹁士郎、切嗣氏はな、前回の聖杯戦争でエクスカリバーの鞘を触媒にセ
イバーを召喚した。けど、切嗣氏は鞘をセイバーに返さずに自身が持
つ事にしたんだ。その方が勝率が上がると考えたから。実際その考
えは正解で、勝ち残った。
けど、あの大火事。闘いが終わって、生存者を探して、探して、探
して⋮やっと見つけた少年は瀕死の重傷。その少年を生かすために
は鞘の力を借りるしかなかった﹂
﹁エクスカリバーの鞘は持ち主を不死身にするほどの癒しを与えてく
れます﹂
それが、俺の治癒能力の正体⋮。
﹁奇しくも、親子二代にして同じ戦闘方法になったわけだな﹂
になるわけだからありがたいのだが⋮。
助かってきたというならそれは正直誇らしい。それに│││﹂
セイバーが頬を赤く染めて、うつむく。
604
そっか、親父も⋮。
そして一つ合点がいった。
セイバーと俺の縁だ。
いつだったか遠坂との話で﹃セイバーに対する並々ならない繋が
り、縁があるんじゃないか﹄、だから魔術師として半端な俺が︵言って
て少し悲しくなった︶〝セイバー〟というクラスを引き当て、〝アー
サー王〟を呼び出す事が出来たんじゃないかという話をした。
それが鞘だったわけだ。
だが、そうなると⋮⋮。
﹁悪い⋮セイバー。お前の鞘を⋮﹂
知らずとはいえ、セイバーの鞘を俺は取り込んでしまってるわけに
なるんだよな
鞘
俺としては正直何度も助けられているわけだし、命の恩人ならぬ恩
?
﹁いいえ、謝る必要はありません。その鞘があったおかげであなたが
?
どうしたんだ
﹂
があるというか。それはそ
というか⋮私は何を言っているのでしょうか⋮
﹁│││その、なんというか、繋がり⋮
れで嬉しい⋮
時が止まった。
空気が凍るとかそんなのではなく、ある意味嬉しい止まり方。
そして時は動きだす⋮。
動かしたのはコウジュだ。
ゴメン、一瞬居る事忘れてた。
﹂
!!
コウジュは立ちあがり、戸を開ける。
いや、そうではなくてっ
!!!!
﹁コ、コウジュっ い、今のは違います
ですが
いえ、違わなくはないん
﹁氏ね。死ねじゃなくて氏ね。末永く爆発してろ﹂
セイバー可愛い。
いや、これだけは言える。
俺も何が言いたいのか分からない。
臓は早鐘のごとく鼓動を早くする。
だが、その止まった時に対し、自身の顔が一気に熱くなっていき、心
?
?
?
!
ようするかのごとく話しかける。
だがそんなセイバーを暖かい眼で見ながら、はいはい分かってます
よと言わんばかりにセイバーの肩を無言でトントンと叩き、笑みを浮
かべたまま今度こそ戸を潜った。
﹁御 馳 走 さ ん 御 馳 走 さ ん。こ ん な 甘 ぇ 所 に 居 れ る か っ て の。俺 は
ち ょ っ と 行 く と こ あ る か ら 行 く わ。ゆ っ く り 養 生 し な。く ふ ふ ご
ゆっくりぃ∼﹂
そう言ってコウジュは出ていった。
むぅ⋮。一気に気まずくなる。
いや、気まずいと言っても嬉しいものではあるのだが⋮ってこんな
あ、あの│││﹂
ことやってるからコウジュにリア充氏ねとか言われるんだよな⋮。
﹁士郎
意を決したようにセイバーが話を始めた。
605
?
セイバーが顔を赤くしたまま、出ていこうとするコウジュに弁解し
!!
!
﹁お腹はすいてませんか
﹂
﹁あ、ああ⋮そうだな。すいてる﹂
嬉しい沈黙とはいえ、そのまま続ける訳にもいけないし、不自然な
話題転換ではあるがこれに乗るしかこの恥ずかしさはどうにもなら
ない。
実際にお腹も、意識すると自己主張を始めた。
そのため、2人して、台所の方へ向かうことにした。
あー、これはまたコウジュに起き抜けで弄られそうだ。
◆◆◆
やっはろー。
現在俺は、耳を塞ぎながら屋根の上に居ます。
空は白み始めたところで、この身体になってから寒さに大分強く
なったせいか息が白くなるほどなのに心地良い位だ。
とは言え、朝の早くから何故こんなことをしているのか
聞こえるからだよ
いちゃいちゃラヴラヴ士郎とセイバーがしてるのがな
ケモミミ
ば思うほど意識がそっちに行っちゃうじゃん
ほら、町全体が寝静まって静かだし、気にしちゃいけないって思え
擦れとかの細かい音も拾っちまってさ。
だけどこの獣耳どんどん馴染んできていて、今じゃぁ息遣いとか衣
?
?
シーンが俺の中で補完されていくわけだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
ちなみに流れ的には大体アニメ版に似てるかな
?
さらに原作とかアニメのシーンが思い出されてしまって、音から
見えない分余計に生々しいしさ。
素数数えたり歌を口ずさんだりしたけど駄目だったよ⋮。
?
606
?
いや、さっさと屋根に避難したから音声だけではあるんだけどね
!!!
!!!
当然、アニメにしてはいけない見せられないよ
上あるわけだが⋮。
な部分も1時間以
セイバーが士郎に何か食べたほうが良いって言って、セイバーが台
所に立つんだけど、料理したことないセイバーに作れるはずもなく、
結局二人で作る事になるんだよ。
台所に二人、セイバーの後ろから士郎が手を握ってこうやるんだっ
て教えつつラヴ空間を発生させるわけだ。
ま、まぁ、ここまでは、まだ、なんとか、ぎりぎり許容範囲だ。
けどな、この後からが俺には耐えられなかった。
その結果、俺が屋根上に引きこもるという、日本語的に意味分から
ん状況を作り出さざるを得なくなったのだ。
セイバーの手を後ろから握ってる士郎の顔は必然的にセイバーの
耳元にあるわけで、その状態で、士郎がささやくようにセイバーに今
を生きて欲しい旨を今度はしっかりと自分の思いを言うんですよ。
けどまぁ、セイバーはまだそれを受け入れられず、戸惑いやらなん
やらで心内を複雑にしながらその場を去るんだ。
士郎はすかさずセイバーを追い、もう一度セイバーに自分と居て欲
しいと告げて、更に口づけをする。
メッシュと戦った後ってのもあって俺自身身体が鋭敏になっていた。
つまりは聴覚やら何やらがいつも以上に敏感だったし、気持ち自体
が昂ぶっていた。
そこにこれですよ。
耳押さえても聞こえてくるっていう地獄は勘弁してほしい。
人って恥ずかしさで死にかけるんだぜ
真剣に死ぬかと思いましたよ。
皆知ってるかい
?
みっこ軍師達みたいになりながら変な動きをしていた気がする。
607
!
セイバーはその口づけがが終わった時に﹃卑怯です﹄って言って今
もう無理
度はセイバーから口づけを⋮。
はいこっから18禁
!!
その時点では屋根の上に行って耳を防いでいたわけだが、ギルガ
!!!
っていうか、テンぱってしまってあわあわはわはわと、どこぞのち
?
初々しい二人の空気⋮というか音に当てられて顔が真っ赤どころ
の話じゃねぇよ。
この年で三角座りで顔埋めて耐えることになるとは⋮。
とりあえず二人とも運動︵直球 したのもあって今は疲れて寝てし
まったようではある。
まぁ死にかけた後だし生存本能とかの所為で昂ぶっても仕方ない
からね
だけど今この屋敷に何人居るか考えて欲しかったかな
俺はアイテムボックスの中から冷えた水を取り出す。
そしてそれを一気に煽り、刺すように冷たい外気もあって一気に頭
の中を冷やしていく。
ふぅ、よし。ちょっとは落ち着いてきたな⋮。
それにしても、セイバーがかなり原作と変わってきてるなー。もち
良い意味でね。
セイバーの反応がかなり柔らかく感じたのは気のせいじゃない筈
だ。
セイバーが士郎から離れた時の反応も自身を否定されたという想
いよりも戸惑いや嬉しさでどうしていいか分からなくなってって感
じたし、その後の卑怯だって言葉は自分で気づいてるか分からないけ
どかなーり嬉しそうな色を含ませてた。
極めつけは自分からキスした事。
これは素直に嬉しい。
俺がハッピーエンドを目指した結果、少なくとも現時点で2人の中
は原作以上だ。色々とうだうだしちまったが少なくとも結果がここ
にある。
﹁⋮⋮﹂
キスシーン思い出したらまた頬が熱持ち始めた。
落ち付け俺。
仮にも中身は成人しているだろうが。
子どもじゃないんだからあの程度で赤くなるんじゃない。
落ち着くためにたい焼きを投影してかぶりつく。
608
!!
!
落ち着くために何でたい焼きだよとかはツッコンだら負け。
ともかくハムハムと生み出したそれを口内へ放り込んでいく。
﹁まずい⋮﹂
が、失敗した。
さっきまでよりは比較的落ち着けてはいるが、美味しそうなのは見
た目だけで味は最悪だ。
別にそういうのに耐性が無いわけではないと思うんだが、予想以上
に慌てていたのかたい焼きはまるでスポンジでも食べているかのよ
うな粗悪品に成り下がっている。
やっぱり知り合いだからかね
例えば家族で映画を見ていたら徐にベッドシーンが始まった的な
でもまぁ、マズすぎて逆に冷静になった。
結果オーライとしておこう。
﹁ははっ。なんだよこの不味さ﹂
冷静になったらなったでなんだか笑ってしまう。
決して夢の国に居るリア充ネズミのマネとかじゃないよ
真 夜 中 に ニ ヤ ニ ヤ し て る 屋 根 上 少
何もかもが中途半端で、行き当たりばったりで、でもここまで来れ
た。何とか取りこぼさずに来れたんだ。
しかも後は最後の一手を打つだけ。
そしてその準備は既に終えている。
色んな奇跡が折り重なってここに来たのかもしれない。たまたま
運が良かったのかもしれない。
けど、少なくとも俺が居なければ起こらなかった変化だろう。
最初は小さなマスターを守りたいと思っていただけだったのに、行
けると思い始めてからは調子に乗って欲張ってしまった。
勿論そこに後悔などは無い。
609
?
なんか嬉しくて笑っちまうのさ。
は た か ら 見 た ら 変 人 か ね
?
でも、純粋にうれしいのだから仕方ない。
女ってのは。
?
?
無いが、それでもこれで良かったのか思う俺が居るのは事実だ。
取捨選択は可能性の否定。
俺の好きな言葉だ。
でもこれは否定的に捉えればただ優柔不断なだけとも言える。
そう考えると、欲張ったというよりは捨てられなかったというのが
正しいのだろうか。
しかし、やはりというかその捨てられなかったこと自体に後悔があ
る訳ではない。 ﹁ははは⋮﹂
再び、意図せず笑ってしまう。
良いじゃないか。欲張ったってさ。
俺はどうやっても理性の効いた、自らの信念に従える英雄になれな
サーヴァント
いのはよくわかった。
神様見習いで、英 雄として召喚されて、でも中身は一般人で⋮⋮。
610
ぐっちゃぐちゃだなぁ。やることなすこと、そして俺自身も。
好き勝手やってハッピーエンドでいいじゃないか。
・・・・・・
あと少しだ、頑張ろう。
﹂
あと少しふざけるだけで終わる。
﹁何かうれしい事でもあったかね
勿論口に出しては言わないけどね。
まあ全員小さいけど。
﹁改めてみると、サーヴァントが勢揃いってのは壮観だな﹂
には居た。
後ろを振り向くとサーヴァント勢︵勿論セイバーは抜いて︶がそこ
﹁ああ。ハッピーエンドに近づけてる実感が持てたもんでねー﹂
俺はそちらを見ずに返事をする。
同時に掛かった声。
背後でいくつかの気配が生まれる。
?
﹁1人は下だけどな﹂
ニシシと軽快に笑いながら言うランサー。
あんた、絶対明日の朝に﹃昨日はお楽しみでしたね﹄とか言うつも
りだろ。
﹁ふん、今の状況を分かっていない。特に原因の小僧は⋮﹂
いつもの皮肉気な言い方をするアーチャー。
けどあんたが言うなよ。
もう既に別人とはいえ、あんたも自身の過去で似たような事やって
るだろ
おまいうですよおまいう。
﹁別によかろう。今の状況だからこそとも言える。それに、主が言え
ることではなかろうて﹂
﹁む⋮﹂
ほら、言われてる。
アサシンの言葉に二の句を継げないアーチャー。
ちなみに、全員の真名をそれぞれ知っているため、他のサーヴァン
トもうんうんと頷いている。
﹁はははっ﹂
その様子に、俺は思わずまたしても笑ってしまう。
﹁さすがに笑われるのは心外なのだがね⋮﹂
先 程 ま で の ヒ ネ た 言 い 方 で は な く、ど こ か 拗 ね る 様 に 言 う ア ー
チャー。
﹁違うって。何て言うか平和だなーって思っただけ﹂
﹂
本来ならこんなことは起こり得ない、俺というイレギュラーが居る
からこその異常。
本来の聖杯戦争は正しく戦争だ。
だから、こんなにも〝異常〟であることが〝平和〟だ。
それがたまらなく嬉しい。
その原因は自分であるのだから。
また一つ、そう思えるものが見つかった。
﹁けどよ、そいつは聖杯戦争に一番似合わねぇ言葉だと思うぜ
?
611
?
﹁違いない
﹂
笑いながら言うランサーの言葉に俺はさらに笑みを深める。
﹁でも、私は平和であっても良いと思います﹂
眼鏡ではなくいつもの魔眼封じの眼帯に元のサーヴァントとして
﹂﹂
の服︵ロリver︶を着ているライダーが言う。
﹁﹁それも違ぇねぇ
出ている。
﹁痛っ
何するし
﹂
・・・
﹂
そんな俺の頭に衝撃が走った。
ゴンっ
それを思い出し、些か憂鬱になる。
キャスターさんに対する対価がそれなのです。
﹁俺、これが終わったらコスプレするんだ⋮﹂
その言葉に一瞬固まってしまう。
けどね﹂
﹁そういう契約だもの、当然よ。その分しっかり対価を払ってもらう
﹁さんきゅー﹂
﹁勿論整ってるわ。あのこもね﹂
﹁キャスター準備は
だけどやっと、〝ハッピーエンド〟を始められる。
かったからとても長い間ここに居た気がする。
実質の日にちはそんなに経っていないのに、それでも一日一日が濃
いよいよ、いよいよだ⋮。
なる。そうなる筈だ﹂
﹁ああ。いつのまにか日をまたいでるんで実質今日だけど、まぁそう
魔女としてのローブを目深にかぶったキャスターが聞いてくる。
﹁明日⋮なのよね⋮
﹂
答えたのは俺とランサーだが皆が同じ思いなのがそれぞれ表情に
その言葉に俺とランサーが同時に笑いながら答える。
!
?
?
!?
ランサーが槍で俺の頭を小突いて言う。
612
!
!!
﹁それ死亡フラグじゃねぇか﹂
!?
あ、やっぱこのランサーは分かるんだ。
染まってるねー。
だがまだまだのようだな
﹂
?
﹂
フラグになった例があるそうですよ
てきた
﹂
﹂
﹁さってと、キャスターさんそういや向こうはどんな感じ
まぁ、今を楽しんでるってことで良いんだろうけどさ。
あんたも色々染まり過ぎだろうに。
あ、またネットか。
何でそんなの知ってるの
今まで黙っていたのにボソッとライダーがそう告げた。
?
て事
﹂
仕掛け
﹁って事は、ひょっとして向こうに完全にこっちの戦力バレてないっ
?
﹁あのあの、死亡フラグを折ろうとすることを誰かに言うことが死亡
言ってて涙が溢れそうになったけど⋮。
元ニート予備軍舐めんなし。
どうやら俺の勝ちなようだ。
﹁なん⋮だと⋮
ちょっとアーチャー風味にニヒルにカッコつけて言ってみる俺。
存フラグを立てる秘義を知らんのか⋮
﹁フッ⋮甘いな。死亡フラグを乱立させる事で死亡フラグを回避し生
!!
!?
﹁その場合はさすが慢心王と言うしかないなぁ⋮﹂
あ ら ゆ る 宝 具 の 原 点 持 っ て る ん だ っ た ら 遠 見 の 水 晶 的 な も の を
持ってるだろうけど、王のすることではないとか言って使ってなさそ
うだ。
それに、昨日の橋の下での戦闘も﹃アーチャー﹄のカードを使った
とはいえその真価を発揮したわけではないしこちらの圧勝とはいっ
てない。
それもあって他愛ないとでも思われてるのかな
?
613
?
﹁いいえ、まったくよ。舐めてるとしか言いようがないわ﹂
?
﹁もしくは知っていて放置しているか、ね﹂
?
まぁその方が好都合だけど。
あ、ちなみに﹃アーチャー﹄のカードというのは、ちょくちょく使
う夢幻召喚スペカのアサシンのやつをアーチャー版にしたやつね。
ラーニング出来てるUBWだけではなくそこからの派生魔術や技
術の模倣を積み込んだカード。
中々の出来だと自負している。
素質とかが必要だけど、それさえあれば﹃今日から君もアーチャー
DA☆﹄ができるチート仕様。
他のサーヴァントも鋭意制作中です。
﹁だけどあっちが慢心してるなら好都合。ぼこぼこにするだけさね﹂
﹁俺的には多勢に無勢ってのは気にいらねぇが、コウジュの言う通り
の奴ならそれでもなかなか楽しめそうだな﹂
﹁うむ。身体の変化による不都合もある故丁度良いだろう﹂
﹁うぐ⋮﹂
﹁お願いするわ﹂
俺が無理矢理終わらすとサーヴァントの皆はキャスターが作った
ゲートに入っていく。
ゲートは俺のマイルームに繋がっており、中で明日までゆっくりす
るのだろう。
俺は俺で明日の為にゆっくりするかねー。
一応警備しながらだが。
屋根瓦に寝転び空を見上げる。
﹁良い月だ⋮﹂
614
ランサーとアサシンがそう言ってくるが、アサシンの一言は中々に
俺の心をえぐってくる。
士郎達の方も予定
いや、好きでショタ化するようにカード作ったんじゃないよ
勝手にそうなるだけですからね
﹁と、とにかくだ 明日は予定通りに行こう
﹂
?
﹁んじゃまあ、後はゆっくりしていってね。今日は俺が見てるからさ﹂
!!
?
俺の言葉に、静かに全員が頷く。
通りにってことで
!! !!
空が白み始めているとはいえ、未だそこにある月。
満月ではないし、夜ではない分その輝きは多少物足りない。
でも、確かにそこにある月は何故か心を落ち着かせてくれる。
こういうのも、なんだか風情があるよな。
映姫⋮じゃなかった⋮英気を養うためにたい焼きを投影して口に
くわえる。
﹁うん今度は成功だな﹂
あの商店街のたい焼きを思い出して作ったたい焼き。
でもやっぱり本物も食べたいなー。
今度は温かいお茶が入った湯呑を取り出す。
うん、最高の組み合わせだ。
ハッピーエンド
そんな風にうだうだしながら朝焼けの中で一人、再び〝俺の考えた
最高の最 後 〟について考えていく。
あ、二人が起きてまたまたイチャイチャしてる⋮。
独り身にはほんときついなぁこれ⋮。
615
﹃stage42:昨日はお楽しみでしたね
目が覚める⋮。
とても心地よい微睡から徐々に意識が覚醒していく。
俺はそれに合わせて体を起こした。
﹁ん⋮﹂
﹄
自分が起きた事でセイバーも起きたかと思ったが大丈夫だったよ
うだ。
改めてセイバーの顔を見る。
決戦が間近だというのは分かっているつもりなんだが、どうしても
嬉しさがこみ上げる。
このまま見ていたいのは山々だが、そうも言ってられない。
﹂
仕方なく布団から出て服を着る。
﹁士郎⋮
バーの白い肌が目に写る。
﹁﹁あ⋮﹂﹂
俺は慌てて目を反らし、セイバーは急いで服を着始める。
昨日︵実際は今日だが︶互いに見たというのに改めて見ても互いに
視線を外してしまう。
表現のしがたい気恥かしさだ。朝になって日の光があるから余計
にだろうか⋮。
﹁お、俺、先に行ってるからっ﹂
﹁は、はいっ﹂
恥ずかしさでいたたまれなくなって部屋を出る。
616
?
だがまあ、あれの後なので当然セイバーも服を着ていないのでセイ
セイバーはそう言い、布団を出る。
﹁大丈夫です﹂
﹁あ、ごめん。起こしちゃったな﹂
どうやら、セイバーを起こしてしまったようだ。
?
﹁朝ごはん⋮いや、その前に│││﹂
頭を冷やすためにも少し外に出てみるか。
このまま行っても弄られるだけだしな。
・
・
・
玄関を開け、外に出る。早朝故に辺りは薄く朝靄が掛っている。
﹁⋮⋮∼♪﹂
どこからか歌が聞こえる。
617
口ずさむようなその歌はリズム程度しか聞こえないが、それでも
﹂
歌っている者が楽しげなのは伝わってくる。
﹁中庭の方か
そして見える位置まで行くと、やはり大きな帽子をかぶった不思議
た。
とはいえ場所と、そしてしっかりと聞こえ始めた声で誰かは分かっ
する。
今居る場所からでは屋根の縁の所為で上は見えないので、少し移動
屋根の上か⋮。
よくよく聞くと、どうやら声は上からしてくる。
﹁││♪﹂
だがやはり誰も居ない。
中庭へと出る角を曲がる。
でも誰が
だという事が分かる。
すると、聞こえていたものがやがてしっかりと耳に入り、やはり歌
足をそちらへ向ける。
?
?
な少女、コウジュが居た。
屋根の上で目を瞑りながら、彼女は楽しそうに体を揺らして歌って
いる。
その楽しげな様子もあり、歌とかはあまり聞く方ではないのだが思
わず聞き入ってしまう。
何の歌だろうか
﹁っと、うんうん、やっぱりいい歌だねぇ。って自分で歌っていうとナ
ル シ っ ぽ く て い や だ な ぁ。で も 前 じ ゃ 思 い っ き り 歌 え な か っ た し
なぁ。声的に﹂
聞き入っている内に終わってしまったようだ。
もう少し聞いていたかったが残念だ。
そんな風に少し物足りなく思っていると、コウジュはどういう意味
かは分からないが、そう言うと閉じていた眼を開いた。
そして俺と目が合う。
途端に真っ赤になっていくコウジュの顔。
﹂
コウジュはそれに気づいたのか、帽子を思いっきり顔まで下げて隠
す。
﹁えっと⋮、聞いた⋮
﹁っ∼∼∼∼
﹂
﹁あー⋮、おう﹂
帽子の奥からくぐもった声でそういうコウジュ。
?
ない叫びが出てきた。
ごめん。悪気は無かった。
﹁あ、でもほら上手だったぞ
それもあってつい聞いちゃったとい
しばらくして落ち着いたのか、コウジュが軽い身のこなしで下へと
声ではあったが⋮。
最後の方はやはりまだ恥ずかしいのか、ボソボソと消え入りそうな
俺の言葉に何故か慌てて帽子から顔を出してそう言うコウジュ。
﹁ちがっ、いや、うん、ありがとう⋮⋮﹂
うか。コウジュって歌が上手いんだな﹂
!
618
?
つい本当のことを言ってしまった瞬間、帽子の向こうから声になら
!!
飛び降りてきた。
猫が着地する時みたいにしなやかに、音も軽く着地する。
﹂
﹁たまたま外に出たら歌が聞こえたからつい来ちゃったんだが、ダメ
だったか
﹁ああ、いや、外で歌ってる俺が悪かったさ。くそぅ、いつのまにかそ
んな時間か⋮。気を紛らわせるためにずっと歌ってたから気付かん
かったぜ﹂
不貞腐れるようにそう言うコウジュ。
ずっとっていつからだろう
俺の腹を殴ろうとしてきた。
﹂
それを思わず避けてしまう。
﹁避けるな
﹁避けるよ
﹂
理不尽にそう怒るコウジュ。
何故殴られそうになったんだよ俺。
本当のことを言っただけなのに。
﹂
﹂
﹁士郎はいつもそうやって⋮ ってか俺にそういうこと言うな
俺は堕とされないから
﹁そういうことってどういうこと
⋮⋮いや、もう良い。どうせ言っても無駄だし﹂
解せぬ⋮。
そう言うや否や、コウジュはまた顔を真っ赤にして俺に詰め寄り、
なるくらいだったし、また聞かせてもらいたいくらいだ﹂
﹁そこまで不貞腐れなくてもいいじゃないか。聞いている方も楽しく
そう思い、素直に感想を言ってみることにした。
と分かるくらいだし。
聞いている方も楽しくなるくらいに、コウジュ自体が楽しんでいる
まぁでも時間つぶしに歌う位だから歌が好きなのだろう。
長い時間だったのだろうか。
流石に昨日の夜に別れてからではないと思うけど、でもそれなりに
?
!
よくわからないが諦められた。
﹁だから
!?
!!
!!
!? !
619
?
!
﹁はぁ、それでどうしたん
になっちゃって﹂
﹂
やっとの思いが叶ったんだし。俺も陰なが
﹁あやまんなって。俺は嬉しいんだぜ
んだ結果じゃないか﹂
﹁ああ、それだけは確実だ﹂
それだけは確実に言える。
少なくともお前さんらが望
﹁そういえば悪いな。様子を見に来てくれたのに追い出したような形
い出した。
そこで、コウジュが部屋を出ていく時に気を利かせてくれたのを思
笑ってごまかした。
そんな彼女に、からかわれている俺としては苦笑を返すしかなく、
でもそれがまた彼女らしい。
ほんと、コロコロと表情が変わるよな。
言うコウジュ。
先程までとは違い、今度はからかうような笑みを浮かべながらそう
ら応援した甲斐があるってものさ﹂
﹁まあいいんじゃない
何故かコウジュが辛辣だ。
﹁ああ、色々頑張ったもんね、色々と。寝技の練習とか﹂
﹁いや、特に要は無いんだけど外の空気を吸いに来たんだ﹂
よくわからないが何故か疲れたような表情でそう言うコウジュ。
?
があるのか
﹂
﹁そういやコウジュはハッピーエンドにこだわるけど、何か思い入れ
その様子がどうも引っかかった俺は、つい言葉にしてしまった。
寂しげに言った。
コウジュの言葉にすかさず答えると、そんな俺を見て、彼女はそう
﹁なら、いいのさ。ハッピーエンドの為にはそういうのが無いとね﹂
?
きが止まる。
だがすぐにいつもの楽しげな笑みを浮かべ、俺を見た。
﹁ううん、特には無いんさ。あー、でも、あえて言うなら今まで無かっ
620
?
その問いに、コウジュは刹那の間ではあるが虚を突かれたように動
?
今まで無かったって、それはいったい・・・。
たから見てみたいと思ったってのが正直なところかな﹂
え
俺はすぐにそう聞こうとした。
だが、言葉に詰まる。
英霊は聖杯に何かの願いを託してサーヴァントとして紹介される
と聞いた。
そ
セイバーは変えられない過去を変える為に聖杯を求めている。
じゃあコウジュは何を求めてこの戦争に参加するのだろう
こを俺は知らない。
ろうか
だけど、もしかすると今の言葉の中にその答えがあるのではないだ
?
どう聞けばいい
それほどのものを聞いても構わないのだろうか
の言葉を続ける。
?
﹂
あ、ああ、今からだ﹂
﹁なぁ士郎、聞いてるか
その姿がまるで何かから逃げるようで、どこか痛々しかった。
誤魔化すように口早に言うコウジュ。
﹁そういやそろそろご飯だよな
﹂
そうして躊躇っている内に、俺が口を開くよりも早くコウジュは次
それは決して軽くは無い筈。
力を持ってしても叶えられなかったその願い。
コウジュならば普通に答えてくれる気もするが、コウジュほどの能
?
本来叶えられないものを叶えるために聖杯を求めているはずだ。
?
そう考えてしまえばもう続きを聞くことが俺には出来なかった。
例えば、何か悲願をハッピーエンドとして終わらせるため⋮とか。
?
﹁歌、好きなんだな﹂
先程の物とは違うのか、今度は優しい曲調だ。
歩きながら鼻歌を歌っている。
そう言って玄関の方へ向かうコウジュ。
﹁そか﹂
﹁え
?
621
?
?
結局俺が出せた言葉はそんな当たりさわりのない言葉だった。
﹁うん、まぁね。音楽を聴いてると感情が豊かになる気がするし、歌え
ば感情を出すことが出来る﹂
そう言う彼女は昔を思い出しているのか、目を細め空を見る。
その姿に、先程までの影は無かった。
良かった、と安堵する。
さっきみたいな彼女は見たくない。
英霊ってカラオケ行くのか
﹁それに、前はよくカラオケに練習とか行ってたからつい懐かしくて
なー﹂
カラオケ⋮
異世界だから
先輩
けばお昼代が浮くんだよなぁ﹂
妹
新事実が続々と発覚なんですがそれは
というか、えらく所帯じみてないか
﹁よく妹とか先輩とかと行ったもんだぜ。点数勝負とかな。上手くい
ってちょっと待ってくれ、先程までの俺のシリアスを返して
!?
⋮
いやいやいや、そいう問題じゃないだろ今は
﹁か、カラオケとかあったんだな⋮﹂
﹁いや、普通街にはいくらでもあるじゃん﹂
という顔をするコウジュ。
これって、俺がおかしいのか
◆◆◆
仕方なく、もやもやしながらも俺はそれに続いた。
そう叫びたいが、コウジュは既に中へと入って行った。
!?
?
622
!?
!?
?
!?
お昼代って⋮いや、コウジュが食べる量から考えたら切実な問題か
!?
!?
!?
何当たり前な事言ってんの
!!
?
士郎を庭に置き去りにし、一足早く居間まで来た俺。
丁度食事の準備を始める所のようで、俺は手伝いをしながら先程の
事を考えていた。
いやぁ、ほんと危なかったんですよ。
士郎に何でハッピーエンドに拘るのかって聞かれた時はどう答え
たもんか悩んだぜ。
いやだって、特に重苦しい過去がある訳じゃないからな。
だって元一般人だし。
咄嗟に作り話が出来るほど頭の回転が良い訳でもないし、そもそも
そういうのは言いたくないし。
なんか悲しげな表情で見られ
その結果が誤魔化すという回答なんですがね
士郎、誤魔化されてくれたかねぇ
はっ まさかハッピーエンドハッピーエンドばっかり言ってる
てた気がするけど⋮。
!
けど特に何もないことに気付かれた
最近の士郎はやたらと察しが良いからなぁ、ありえる。
色々なものに気を回しているというか、いや、前から気を使うのは
上手だったけど、それとは違って周りをよく見てるというか⋮。
あかん、何言ってるか分かんねぇや。
まあ悪いことではないと思うし、別にいいんだけどさ。俺の中身が
特に何もないってことについて気付かれてたとしてもさ。
だって、昔に何かが無ければ幸せを望んじゃダメって訳でもないだ
ろう
生活だったと思う。
普通の学生生活の中に、適度に人付き合いがあって、そこそこに笑
いのある人生。むしろそれなりの物だったと思う。
そしていつからかはまり出したゲームや漫画にラノベ、それらの空
想世界ってものにあこがれを抱いていた。
楽しかった。
厨二病なんてものに掛かっていろんなものを妄想して、空想して、
623
?
!?
!?
前の人生はハッピーエンドもバッドエンドも無い、ただただ普通の
?
物語を考えて⋮。
でもそれはきっと日常があるからこそ、出来たものなんだろう。
改めて考えても、好きな人生だったと思う。
でも、こんな状態になって、イリヤのサーヴァントになって、そし
て彼女を守りたいと思った。それも事実。
そして、どうせ関わってしまったのならハッピーエンドにしてしま
いたいと思うのは誰でもそうだろう。
自分からバッドエンドを目指すなんてドMでもしないだろう。あ、
いやドMはそれがご褒美になるんかもしれんけどさ。
ともかく、このFate/stay nightと前の世界で呼
ばれていたここで、俺はハッピーエンドを目指すと決めたんだ。
今となったからこそ分かる。
前の、20年と少しではあるが過ごした生活はありふれた日常だっ
た。それがとても大切なものなんだって。
それを皆に体感してもらいたい。
イリヤが学校に通って友達と話すところが見てみたい。
サーヴァントの皆がそこらの商店街やそこらで暇つぶしをしてい
る所が見てみたい。
士郎や凜ちゃんが大学に行って他愛無いことで盛り上がったり講
義について話すところを見てみたい。
桜ちゃんが士郎に講義の事で分からないところがあるからなんて
言いながら教えてもらって、それを凜ちゃんが嫉妬してるところとか
見てみたい。
うん、やっぱり楽しそうだ。
これこそハッピーエンドってやつだろう。
失って始めて気づくなんてよく言うけど、ほんとそうだよな。
他愛無い日常だったけど、あれが幸せってやつだったんだろう。
あそこに戻りたい。
けど、ただ戻るだけじゃダメだ。
もう俺はイリヤたちに関わった。
だから、彼女たちと一緒に、俺はハッピーエンドってやつを迎える
624
んだ。
だから│││、
だから、早くご飯を食べよう
腹が空いては戦は出来ぬですよ
え、俺がたくさん食べる分余計に用意しないといけない⋮ですか
サーセン。
◆◆◆
朝食を食べ終わり、一息ついた後、俺は外出することにした。
言峰教会に用があるのだ。
べると言っていたから何か追加情報がないか気になったため足を向
けることにしたのだ。
念のためセイバーと共に向かう。
このタイミングでサーヴァントを連れずに歩いて、最悪殺されるな
んて事になったら全てが水の泡だ。
というか、むしろ身内の人間にぶん殴られる。
殴られる程度で何をと思うかもしれないが、それは甘い。パフェに
砂糖を並々振り掛けたものより甘いというものだ。
考えてもみてくれ。基本全員サーヴァントだぞ
他の遠坂や桜だって油断ならない。
る。
ヴァント勢に教えて貰ってるみたいで身体能力が格段に上がってい
遠坂は中国拳法を使えるし、桜だって最近魔力の使い方とかをサー
?
625
!
一昨日、言峰に聞いた黄金のサーヴァントについての情報、少し調
?
!!
ついでに言うと桜にはもれなくライダーが付いてくる。下手をす
れば姉の遠坂も⋮だ。なにそのコンボ。
いつもの〝
そういえば、気づいたらライダーがナチュラルに居間に居て食事を
してたんだが何故誰もツッコまなかったのだろうか
気にしたら負け〟というやつかな⋮。
まあ一旦それは置いといて、実は先程勝ち抜けで腕相撲をしたん
だ。ちなみに魔力の使用は可だ。
どうなったと思う
一位:コウジュ
二位:ライダー
三位:セイバー
四位:ランサー
五位:桜
六位:アーチャー
七位:遠坂
八位:俺
といった感じだ。
それから、改めて思うがツッコミどころが多すぎる。
まずコウジュ。あの子は力だけで絶対に世界を落とせる。
ライダーとセイバー以外ピクリとも動かせなかったんだぞ
るんですか
まぁ後のサーヴァント勢は良いとして、遠坂姉妹、あなた達何して
らコウジュが泣きそうになったのは別の話。
何故それが戦闘でいかせないのかがかなり謎だし⋮それを言った
?
成や効率が上手いから魔力有りだとこういう結果になってしまう。
ただ、問題と言ってしまうと悪いが、桜の事だ。
五位ってなんでさ
アーチャー六位だぞ
!?
!?
626
?
?
男勢全員で崩れ落ちてしまったのは言うまでもないだろう。
キャスターは不参加なんだが、これをどう思う⋮
?
遠坂はまだ分かる。自力なら俺の方が上なんだが、やはり魔術の構
!?
アーチャーがいつもの口調で﹃やはり女性は強いな⋮﹄って言いな
がら崩れ落ちてたのはかなりシュールだった⋮。
まぁ俺もその横で崩れ落ちてたんだけどな⋮。
妹みたいな存在である桜にやられた時の悲しさと言ったら⋮はぁ
⋮世知辛いな⋮。
キャスターとコウジュが共同で魔改造した結果こうなったらしい
んだが⋮、うん、逞しくなったな桜⋮。
それで何の話だったか⋮ああそうだ、長い回想になったが今はセイ
考え事をしていた様ですが⋮﹂
バーと共に言峰協会に向かっているって話だったな。
﹁士郎
﹂
﹁いや、何でもないよ。ただあえて言うなら、男の意地って何なんだろ
うなって思ってさ⋮﹂
﹁そ、そうですか⋮。無理だけはしないでくださいね⋮
てくれることが嬉しいからまあいいかな。
元気がなくなった原因の一人はセイバーだったりするけど、気にし
出てくる。
若干引きながらも心配してくれるセイバーのおかげで少し元気が
まう。
考えていた内容を誤魔化そうとしたはずが、内心がポロっと出てし
?
そうこうする内に俺達は教会の前まで来ていたようだ。
﹂
さてと、何か有力な情報があるだろうか。
あれ、いないのか
扉に手を掛け中に入る。
﹁言峰⋮
?
不思議ではない。
ないのだが⋮、何だこの違和感は⋮
自身の奥底から這い出る嫌悪感。
違うな、そんな単純なものじゃない。
言峰が居ないというだけでどこか変な感じがする。
?
別にアポイントメントを取ってきたわけじゃないから居なくても
声に出すが出てくる様子はない。
?
627
?
生理的嫌悪感とでも言えば良いのか、とにかくここに居たくない。
﹁士郎、待ってください。ここはおかしい﹂
﹁ああ、俺も思った。このドロドロとした粘着質な感じかなり気持ち
悪い﹂
ドロドロとした粘着質││。
ああなるほど。
口に出してやっと理解した。
〝言峰〟だ。
この違和感の正体は言峰だったんだ。
目の前に居ないのに言峰と対峙した時のような感覚。
﹁ホント今日はどこかおかしいな﹂
どういう事だ⋮
気持ち悪さの原因を考えているとセイバーが訂正する。
﹁違います、士郎。以前もおかしくはありました。それが、今日は前に
増して濃い。注意してください、何かあります﹂
以前より
来た時の事。
でも濃いっていうのは
俺が気づかなかっただけでここは前からこうだったってことか
言峰が居ないから本来のこの空気を感じる事が出来ている
けどそれはおかしい。
とにかく言峰を探そうと奥の扉を見つけたので、扉に手を掛けた瞬
訳が分からない。どういう事なんだろうか⋮。
戸惑いながらも歩みを進める。
です。そして、今日は特にその澱みが酷い﹂
﹁ここはあまりにも空気が澱んでいる。聖なる場所とはかけ離れた所
セイバーはいつもの甲冑をその身にまとい俺の前に出る。
﹁そういえば以前は言っていませんでしたね﹂
は反した位置になくてはならないはずだ。
ここは教会だ。居る人間があんなのでもここは教会。この空気と
?
?
?
628
?
恐らくセイバーが言っているのはセイバーを召喚した夜にここへ
?
間│││、
﹂
││ドクン⋮││
﹂
﹁ぐおっ⋮
﹁士郎
身体が傾く。
!?
﹁士郎
しっかりしてください
﹂
ゆっくりと、確実に、俺に何かを訴える〝何か〟に。
だが進んでいく。
意図したものではない。
自然と足が前へ、教会の奥へと進み出す。
いくつもの哀しみの声が、二つの声が、俺をどんどん満たしていく。
行くように言うのも俺だし、止めるのもまた俺だ。
││行くな⋮││
││あっちだ⋮││
囁く。
だが同時に何故か聞かなければならないと俺の中の違う俺がそう
こんな声聞かなければ良いはずだ。
頭を押さえて声を聞く。
セイバーがすかさず支えてくれた。
﹁どうしたのですか
﹂
やだ⋮いくつもの声が俺の中を駆け巡る。
頭の中を這いずるように圧迫していく声達、助けて、どうして、い
に響く。
突然、俺を圧迫感が襲う。同時に子どもがすすり泣くような声が頭
!?
口に出した時点で俺の脚は前へ進も始めている。
﹁⋮⋮﹂
﹁セイバー⋮俺、行かないと⋮﹂
でも、俺は多分奥に行かないといけないんだ。
肩を貸してくれていたセイバーが俺の前に出てきて止める。
!!
629
!?
!!
セイバーは俺の顔を見て無駄だと悟ったのか、はたまた別の何かを
﹂
感じ取ったのか、俺を制止するのを止め、何も言わずに再び俺に肩を
貸しながらついてきてくれる。
﹁ごめん﹂
﹁謝らないでください。しかし、一体何がそこまであなたを
﹁わからない。でも呼んでるのだけは分かる﹂
俺とセイバーは教会の礼拝堂に当たる部分を通り抜け、中庭を囲う
ようにしてある通路を歩いていく。
││奥へ⋮││
││やめろ⋮││
それなりに奥行きのある通路を歩いていくと、下へ降りる階段が
あった。
││降りて⋮││
││引き返せ⋮││
俺たちは二人して階段を降りる。
││ようこそ⋮││
││まだ間に合う⋮││
630
?
階段を降りていき、日の光のない地下へと入っていく。どんどん頭
に響く声は大きくなる。
﹂
﹁ぐ⋮﹂
﹁っ⋮
止めたくなる光景がそこにある。
あまりにもな光景に思考が止まる。いや、止める。
﹁澱みの原因はここですか⋮﹂
﹁何だ⋮これ⋮⋮﹂
そして俺達はその目的の場所へと足を踏み入れた。
そして俺の目的地もどうやらそこのようだ。
臭いはすぐそこに見えるもう一つ奥の部屋からだろう。
俺とセイバーは鼻を押さえる。ひどいにおいだ。
けど、ここじゃない。
降りていくと、そこそこ広い場所に着く。
!?
セイバーも、冷静に言っている様には聞こえるが、わずかにだが声
が震えている。
俺達を包むのは単純な忌避感。
今すぐこんな場所など離れたい。
だが同時に足がその場に張り付いたように動いてはくれない。
それほどに目の前の光景は眼について離れない。
眼前には石で出来た台座がいくつも奥に向かって規則正しく並ん
でいる。
そしてその上にそれぞれ死体が乗っているのだ。
日本は火葬だが外国では土葬にするそうだし、死体を一時的に預
かって安置しているとかであるのならばあるかもしれない。
だが、それは確実に違うと言える。
目の前の光景はあまりにも異常で、異質で、とにかく日常にあって
はならない光景だ。
いや、日常でないものを何と定義するにしてもあってはいけないも
のの筈だ。
なぜなら、台座の乗る死体達は1つとして通常の人の形を保ってい
るのはない。
かろうじて人であったであろうというものばかり。
そう、かろうじてだ。
俺が人の形を知っているから、部分部分を見て、人の、更に言うと
子どもだったのであろうと分かる。
・・・・・・・
それほどに身体を構成していたであろう四肢が、胴が、頭部が、内
蔵や筋肉、血管に至るまでがバラバラとそこに並べられている。
極めつけはどの死体も妙に生々しいこと。
先程まで聞こえていた悲しみの声が、怨さの声が、よりクリアに聞
こえてくる。
目の前にあるのは明らかに死体だ。
バラバラになったものをとりあえずといった感じに纏められただ
け。
そして何年もそのままだったのであろうか、腐敗はかなり進んでい
631
る。
なのに、明らかに死に体であるのに、生々しさがある。
まるでまだ生きているような⋮⋮。
声も、その原形など忘れてしまったのではというほどに崩れた声帯
からだしているような⋮⋮。
﹁よく来たな衛宮士郎、そしてセイバー﹂
動けないでいる俺たちに声が響く。
﹁言⋮峰⋮﹂
悠然と部屋の奥から歩いてくる言峰は、人を不快にさせるだけの笑
みをその顔に張り付けて近寄ってくる。
﹁いくら教会とはいえ、勝手に奥まで入ってくるのは考えものだがね﹂
いつもと同じその口調がやけに俺を腹立たせ、止まってしまってい
﹂
た脳が一気に熱を持ち始める。
﹁これはなんだ
未だ平然とした態度を取る言峰に言葉をぶつける様に発する。
﹁ふむ、そういえば君も可能性はあったわけか、呼ばれたのだろうか
死体だよ、少し特殊ではあるが⋮﹂
﹂
⋮。さて、これらが何かという質問だったな。しかし見て分からない
かね
だがそれでも態度は変わらなかった。
﹁特殊⋮とは一体何の事を言っているのですか
今度はセイバーが聞く。
言峰は歩みを止め、笑みを静かに深める。
イバーに言峰は答える。
一体、誰の事を言ってるんだ⋮
﹁これは食事だよ。彼のね﹂
彼
こんな醜悪なものを、平然と眼の前に出来る存在が居るというのか
?
﹁昨日ぶりよなセイバー﹂
632
!!
そして、そんな言峰と俺との間に、俺を守るようにして前へ出るセ
?
?
?
俺はそう思ったが答えはすぐそこに居た。
?
何故お前が⋮﹂
言葉と共に部屋の奥から出てきたのは、あの黄金のサーヴァント
だった。
﹁ギルガメッシュ⋮
﹂
るギルガメッシュ。
何故こいつがここに居る
聞かされていないのかね
﹂
﹂
?
﹂
﹁だから何が言いたいっ
﹂
﹁あの銀の髪の少女だよ。あの子は私の事を知っているようだったが
突然何だ⋮
﹁何が言いたい⋮
﹁ふむ⋮
した後、より深い笑みをして言葉を返す。
だが、それに対し言峰は少し予想外だというように、一瞬笑みを消
﹁言峰⋮お前がギルガメッシュのマスターだった訳か⋮﹂
奴がここに居る、それが何よりの証明。
いい加減認めろよ、俺。
改めて考えてみたが、ははっ、そんな疑問に意味はないじゃないか。
?
それに対しあの黄金の鎧をまとってはいるが余裕の態度で対峙す
にする。
セイバーはエクスカリバーを構え、いつでも戦闘を開始できるよう
﹁戯言をっ⋮
﹁昨日の今日で我に会いに来るとは中々に殊勝な心がけだ﹂
無視し、話を続ける。
うとしたが、ギルガメッシュは俺など視界に入って居ないかのごとく
それに屈する事が無いようとにかく疑問を口に出す事で抵抗しよ
今までも空気は重く、最悪だったが奴が来る事で一気に圧が増す。
?
外れたようだ﹂
は⋮
思考が一瞬止まる。
何を言っているんだ
?
?
633
!
?
?
?
﹁いやなに、私は君達が手を組んでいると思っていたのだが⋮予想が
!!?
?
コウジュの事を言ってるんだろうけど、あの子は当然仲間に決まっ
てる。
でも、コウジュはここの事を知っていた
なら何故それを教えてくれなかった
刹那の疑問。
だがそれはすぐに脳裏から消え去った。
もらしくない。
俺の前に居るセイバーも少し気負いが取れたように感じる。
セイバーも同じことを思ったようだ。
私と取引しない
﹁おそらくあの子は聖杯を横からかすめ取るつもりではないのかな
﹂
?
お前とはそれほど相対した回数があるわけじゃないけど、あまりに
余程焦っているようだな言峰。
雰囲気に呑まれそうになっていた身体が一気に軽くなる。
失敗したな。
言峰はおそらく、俺達の不和を狙ってこんな事を言ったんだろうが
だから、余計なことを考える必要はない。
は短い間に知った。
普段から隠し事の多い彼女だがこれを許容できる子じゃないこと
俺に言わないのは何か理由があるんだろう︵一瞬無い気もした︶。
?
獅子身中の虫とはこの事だ。どうだ衛宮士郎
かね
﹂
?
資格は十分にある。
しかし、彼女が邪魔だ。聖杯を召喚するのは私がやっておこう。そ
の間に君は││││﹂
﹁ははは⋮﹂
思わず笑いを我慢できずに漏れ出す。
これもコウジュに助けられたって事になるかな
さっきまでは雰囲気に呑まれてしまっていたが、今では言峰に対し
?
634
?
﹁そうだ。私の役割は聖杯の持ち主を見極める事。君は既に勝者だ。
﹁取引
俺たちにお構いなしに続ける言峰。
?
?
何かおかしなことを言ったかね
て感じるものは特に何もない。
﹁どうした
﹂
﹂
?
う。
?
﹂
﹁士郎の言う通りです。余程焦っていると見える。それほどにあの子
ないが、それでもこれだけは分かる。今のあんたはらしくない﹂
﹁あんたよっぽど焦ってるみたいだな。あんたの事に詳しいわけじゃ
強張っていた身体が軽くなった。
いつもは困りものだが今はありがたい。
未だこの部屋に居るのに一気に空気が和らいだ気がする。
るんだな。
それにしてもコウジュはその場に居なくてもエアブレイクを出来
よほど、コウジュの存在が邪魔なのだろう。
そんな彼女をこいつは排除したいと言った。
あの子は人を御人好しと言うがあの子こそ御人好しだろう。
れを予想しての事だと思う。
というか、知っていたら俺は即ここに特攻していたと思うから、そ
必要ならやればいいと思う。
コウジュに秘密
それがどうした。
そしてコウジュは、こいつをどうにかする為に色々していたのだろ
今それが分かった。
こいつは敵だ。
だがそれで十分。
分かるのはろくでもない事だろうという事くらいだ。
か俺は分からない。
こいつが何を目的としているのか、聖杯で何をしようとしているの
そんな俺達に怪訝な表情の事峰。
セイバーと二人、笑みを浮かべる。
﹁何⋮
﹁まったくですね﹂
﹁ああ、言ったよ﹂
?
は脅威ですか
?
635
?
心に余裕が出てきたので、いつも俺がされる側だった皮肉気な言い
方をする。
そんな俺の言葉に、一気に言峰の笑みが消える。
図星みたいだな。
知ってるんだろうな⋮。
ふと疑問に思ったんだがコウジュってひょっとして言峰の目的と
かも知ってるのだろうか
少し、ほんの少しだけ、言峰がかわいそうになった。
とりあえずこの部屋の理由はコウジュに聞くとしよう。
そのためにも今は目の前のこちらをどうにかすることが優先だろ
う。
﹁ギルガメッシュ⋮﹂
﹁滑稽だな言峰よ。まぁよい。この状況でうすら笑いが出る小僧には
少し腹が立っていた所だ﹂
ここに来て言峰のあの気持ち悪い空気が強くなる。
﹁殺すなよ。あとで使う﹂
﹁分かっている﹂
それだけ言うと言峰は部屋の奥へと消えた。
そして周囲には無数の武器が出現し始める。
﹁小僧、軽く死んでおけ﹂
そう言いながら手を掲げるギルガメッシュ。
周囲に浮かぶ武器群は今にも飛んできそうだ。
えっと、コウジュの御陰で気は楽になったけど、これ、どうしよう。
そう考えた時、どこかからコウジュがくしゃみをするのが聞こえた
気がした。
636
?
﹃stage43:おわかりいただけただろうか
ふぇっくし
壁に耳あり障子にメアリーだぜ士郎に麻婆よ。
あ、どもども、コウジュです。
現在の俺は既に教会の地下室の中に居たりします。
うん、そうだよ。目の前で戦闘始まってるよ。
出ていかないのかって
やだなーもう。
﹄
?
いや、出たいんだよ
出るタイミング逃しちゃったんだよ。出るに出れないみたいな。
?
驚きの白さになっちまってるわけですよ。
で結局何が言いたいのかって
何と言えば良いのか⋮。
俺の周りにな、居るんだよ。いっぱい。
何がってそりゃあ││││
﹄
あ、胸元に鎖とかついてなくて少し安心したのは秘密だぜ。
幽霊ってホントに居るんだねー⋮。
るわけですよ。
俺の周りにはたくさんの半透明で浮いてる子達がいっぱい居たりす
えっとだな、つまり直面というか目の前に居るというか、今まさに
?
?
﹃ねぇねぇお姉さん、誰に向かって言ってるの
﹃独り言とか不気味だよねー
﹃ねー﹄
﹄
というか足がヘタレて動けないというか、あまりの驚きに頭の中が
す。
けどね、現在進行形でとある問題に直面していて出て行けないので
そりゃぁもう肉を前にした犬並みにすぐに出ていきたいさ。
?
てめえらにだけは言われたくない。
?
637
!!
ってちょっと待とうか
何でナチュラルに幽霊が居るの⋮
世界観違い過ぎやしませんかね
でもなんでそれが普通にこの教会に居るの
﹄
開始されているのに集中できない。
次々と浮かび上がる疑問を処理するのに必死で、部屋の中で戦闘が
どうしてこうなったし。
て侵入してみた結果が幽霊たちとの邂逅なわけです。
さておき、それでなんとか気配遮断︵名状しがたい例のヒモ装備︶し
ものに少し離れたからであろう。ほぼ自分の血だが。
なんとか正気を保てているのも幾度かの戦闘を乗り切り、血という
ええ。
中 身 が 元 一 般 人 の 俺 で は S A N 値 が ゴ リ ゴ リ 削 れ て 行 き ま す よ。
臭いとか気配とかがあまりにも俺の感覚を犯すのだ。
獣でもあるこの身体はこの場所を今もまさに忌避している。
正直今すぐにでもここを離れたい。
かなくてね。
本来なら早くに来るべきだったんだろうけど、色々と踏ん切りがつ
に来たんだ。
最初はさ、ずっと来れなかったからここにある死体の状態を確認し
?
というかそもそもサーヴァントも幽霊みたいなものか。
るんだっけ
いや冷静に考えたら同じ系列の月姫とかには似たようなやつが居
!?
?
!
⋮痴女ちゃうわっ﹂
﹃ねぇねぇ痴女さん
﹁っ
?
える。
気配遮断しているはずなのに普通に話しかけてくるこの子達もう
やだ。色んな意味で。
とりあえず、改めて周りに浮かぶ子達を見る。
後ろが透けて見える以外は比較的普通の小学生から中学生の子た
638
?
思わず叫びそうになるがスネーク中なので声を押さえて静かに訴
!
ちだ。
男の子も女の子も、その容姿や性別に至るまで子どもという所以外
には共通点は無い。
その彼ら彼女らが、士郎達が入った扉の外から覗いている俺を囲う
様に浮かんでいる訳だが、どこから出てきたのだろうか
いや幽霊だから壁とか関係ないのか
けど問題はそこじゃない。
比較的冷静でいることが出来ているのはこの幽霊の子たちの姿が
映画位ならまだしも、生で見ることになるとは思わなかった。
霊って駄目なんだ。
俺、ゾンビとか攻撃できそうなものは割かし大丈夫なんだけど、幽
ゾクリ、と背中に氷を入れられたように寒気が走る。
連する可能性があるということだ。
この場所に居る幽霊、ということはつまり部屋の中にある死体に関
?
﹄
﹃まぁ僕たち生きてたらそれなりの年齢だからね∼﹄
疲れた⋮。
ナチュラルに心の声を読まれた気がするが、もうなんか突っ込むの
さいですか⋮。
識も入ってくるし﹄
﹃精神年齢上がるのは当然でしょ。条件そろえれば外に行けるから知
?
透けている以外は映画などの様な怖気を催す物ではないからだ。
﹃痴女のお姉ちゃん、聞こえてるんでしょう
﹁だからちゃうねんっ﹂
さっきから痴女痴女煩いよ
誰が好き好んでこんな姿するか
?
﹂
﹁っていうかさ、この服装は特殊な効果があって、隠れるために必要な
効果があるから我慢して着てんの。おk
﹂
﹃っていう設定なんですね分かります﹄
﹁違ぇーよ
?
639
?
って待て、この子達何で恥女とかって言葉知ってるんだ
!
!
これでも一応全部小声で話してるが、いまにも声を荒げてしまいそ
!?
うだ。
ほんとやだこの子達。もう帰りたい。
ただまぁ、セイバーも金ぴかも気配察知は苦手な部類なのか、俺が
隠密になれてきたのもあるからか小声位なら出しても今のところば
れていない。
そのおかげで少しずつ会話が出来ているのだが、ツッコミばかりさ
せられて話が進まない。
﹂
うん、特に意味は無いけど帰ったらみんなに謝ろう。他意は無い。
﹄
﹂
﹁って待て、条件をそろえればここから出れる
﹃そだよ
﹁え、マジで
でもだからってそれだけでこんな状況になるものか
あああああああ
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ
言いながら身体の輪郭を崩した。そう、それはもうドロンと。
ドロンと、目の前に居る少年は悪戯を思いついたような笑顔でそう
はこうだから﹄
﹃あ、言っておくけど、この姿はわざとこうしてるだけであって、実際
なのに目の前に居る。
俺が驚いたことからも分かるようにこの子達は原作に出てこない。
?
いやそれをしてないからこの子達はこんなことになっているのか。
神父仕事しろ。 ﹃うん、だってここ来るもの拒まずで防御的なものがガバガバだし﹄
?
いや、両方死んでるから似たような物
?
知らなかった。幽霊はゾンビにジョブチェンジできるのか。
輪郭が崩れ目玉は流れ出て骨も所々見えてしまっている。
透けている以外は普通の顔だったのに、今では透けている上に顔の
から。
なにせさっきまで会話していた幽霊君が半分ゾンビになったのだ
咄嗟に自分の声を防ぐことが出来た自らの瞬発力に感謝した。
叫びそうになった自分の口を無理やり押さえ、頭の中で絶叫する。
!!!!!!!
640
?
?
待て、そうじゃないぞ俺。
﹃あ、ごめんお姉さん。泣くとは思わなかった﹄
﹁これ、あれやから、汗やから、びっくりして出た汗的な何かやから⋮﹂
必死に誰に向かっての言い訳なのか自分でもわからないものを言
う自らに余計悲しくなる。
涙もろいこの身体をどうにかしてください。
とりえあず、いつまでも視界をぼやけさせている訳にもいかないの
で袖で拭う。
そこへ、ドンっと腹まで響く轟音が届いた。続けて2発3発と続い
ていく。
慌てて部屋の中を再び覗き見る。
ゲート・オブ・バビロン
中では、士郎が干将莫邪を、セイバーがエクスカリバーを持ち、ギ
ルガメッシュの王 の 財 宝を弾きながら防戦している所だった。
混ざりたいなー。
﹂
﹄
?
﹂
NDKしたい。聞こえはしないだろうけど﹄
﹁⋮ぅえ
う。
言っている意味が一瞬理解できず、少し間の抜けた返答をしてしま
?
641
最近獣の本能なのか、元々そういう気質でもあったのか闘いを見て
るとホントにうずうずする。
痛いのは嫌だけど、闘うのってなんかワクワクするよね
でも我慢だ。
からね。
どうしても訓練だと殺意を帯びた攻撃というものを体感できない
それに、実戦を経験して経験値を積んでもらいたい。
い。
士郎には出来る限りギルガメッシュの武器を見ておいてもらいた
!
実戦が一番の糧になるのはどの業界でも同じだろう。ソースは俺。
そうだけど何だ
﹃ねぇねぇお姉さんあの人たち仲間
﹁ん
?
﹃いやー、あの金色の人倒してくれないかなーなんて思ってね。横で
?
NDK⋮、﹃ねぇどんな気持ち
﹄を言いたいってことだよね
?
﹃﹃﹃﹃当然﹄﹄﹄﹄
﹁やっぱりあいつの事嫌い
﹂
美 味 い っ て 言 わ れ た い わ け じ ゃ
すり抜けてるからシュールな光景でしかないけど。 しながら近くの壁を蹴った。
ふてくされた様に言う先程までとは別の幽霊少年は、チッと舌打ち
ねぇけどよー﹄
てマズイって文句言うんだぜ
﹃つーかよー、あいつマジうざいんだけど。人の事毎回毎回喰っとい
周りの子も
﹃俺も俺もー﹄
﹃あ、それ私もー﹄
ない様な気がするんだけど⋮。
何なのさっきからこの子、黒いし、子どもが知ってて良い知識じゃ
?
?
﹁あ、じゃあ言峰は
﹂
まぁ、ソーデスヨネー。
る。
俺と会話してた子たち以外も、後ろで当たり前だなと首を縦に振
?
?
強いな、この子達。
﹁他の人とかも恨みそうになった事は無いのか
﹃あるに決まってるじゃん﹄
﹂
に言える程度には確固とした自分を持って居る。
けして良い感情を発露している訳ではないが、それでも冗談混じり
でもこの子達は笑えている。
かしくないと思う。
ここの穢れた空気の中にずっと居る事もあるし魂が歪んでてもお
むしろ魂とはいえ、歪んでないのがスゴイのではないだろうか。
でもそれも当然か。それだけの事をしてきたんだからな。
辛辣でだねぇ。
またしても後ろの子たちも頷く。
﹃﹃﹃﹃死ねばいいのに⋮﹄﹄﹄﹄
?
642
!?
え
そこは無いよっていう感動のシーンじゃ⋮。
と食べられ続けたわけだし恨むなとかまず無理っしょ﹄
﹃だよねー。他の人に聞いても何で私達だけがみたいなー
﹃でもね、いつからか考え方が変わったんだよ﹄
﹂
?
を送ってるかなー﹄
研究議題って⋮お前さんひょっとして大学課程も見に行ってんの
のにさぁ⋮。マジでノー〇ル賞ものだと思うんだよねー﹄
﹃あーでもレポート書けないのはつらいなぁ。良い研究議題みつけた
おばけにゃ学校も試験も何にも無いんじゃなかったのか
﹃学校もタダで行けるしねー﹄
フ
﹃そう思ったら身体が楽になってさ、それからはそこそこな幽霊ライ
何だかもう俺もそんな目でしかあいつらの事見れない。
言峰ェ⋮。ギルガメェ⋮。
達。
死んだ目と優しい目を混ぜたような微妙な表情をしながら言う子
﹁うわー⋮﹂
まぁそんなのとは関係なしに鬱陶しいとかは思うけどあの二人﹄
消えたかな。他の人に対して恨みをぶつけるのもお門違いだし
人だなーとかね。そう思い始めたら何て言うか呪いみたいな恨みは
いんだねーとか、養ってあげてるんだーとか、とりあえず可愛そうな
﹃うんうん、あの二人は私たちみたいなのに頼らないと生きていけな
﹁考え方
﹄
﹃最初は意味も分からず身体が死んでるのに魂を縛り付けられてずっ
?
ってか、ノー〇ル賞って⋮。
下手すると普通に俺より賢い
のが辛いなー⋮っつかパソコンでイヤホン着けて見んなよな、音声無
しじゃつまんないじゃん。まぁギャルゲーは文字を読めるからまだ
良いけどさ﹄
﹃あ、私もそれ思う。生中継とか音声有りでみたい。後コメントした
643
?
?
?
?
﹃俺は見たいアニメ見るのに誰かの家に行って後ろから見るしかない
?
!?
い﹄
後ろからとか恐ぇよ
ホント何してんだよお前ら
ってかギャルゲーに関してはほんとやめたげて
﹃あ、そういえば最近青タイツのお兄さん見なくなったよねー
﹄
﹃あーあの人面白かったのにねー。実体化して色々教えてたらリアル
にジョ〇ョ立ち似合う人になってたもんねー。なにあのやってみた
シリーズ﹄
犯人はお前らかー
ってか実体化
故元々は一般人だったであろうこの子たちが出来るのだろうか
﹄
!
昔から出来てたわけではないのか
?
﹃ねー﹄
﹁うん
﹂
﹃けどもう少し早くから実体化できるようになってたらなぁ﹄
それは嘘でいいよ。俺が困る。
し。エタロリの需要があるなんて嘘だったんだ
﹃だ ね。告 白 し た ら 来 世 で な っ て 言 わ れ た し。温 か い 目 で 見 ら れ た
﹃いや、たぶんアレは気づいてたね。その上で相手をしてくれてた﹄
?
そのランサーが幽霊だと気づかないレベルでの高度な実体化を何
詣も深いはずだ。
ランサーってキャスターのクラスにも慣れる程に魔術に対する造
ツにばれないレベルで﹂
﹁って今更だけどなんでそんな実体化とか出来るのさ。それも青タイ
何この高性能幽霊達
!!!?
に来て、それ以来この町に不思議パワー的なものが多くなったんだ
よ。
魔力だっけ
なんじゃないかな
?
その前にも一回数分ほど消えてたし、山奥の電波並に不安定な存在
2,3日前から居なくなったんだけどね。
?
644
?
!?
!!
!!
!!
!?
﹃まあね。アレはえっと、数週間前くらいだったかな。何かがこの町
?
今はもう山の方に吸われるだけでこの間程充実してないから実体
化できないんだよね﹄
それを聞いて俺は冷や汗をかいていた。
なにそれタイミング的になんか身に覚えがあるんですが。
いやいや、でも流石に俺の身体に発生してたものが垂れ流されて
て、しかもそれが幽霊を具現化できるほどのものだとかいうご都合主
義ある訳無いし気のせいですよね。
幻想を現実に出来る云々かんぬんとか、そういえばキャスターの話
では産みだしてるもしくはどこからか持って来ているとかって話
だったけど、使ってない分がどうなっているかは気にしていなかった
けな。
になるはずだ。
普通にゲーム感覚でゲージマックスならそこで止まってるかなん
かで気にしてなかったし。
うん、よし。気にしないようにしよう。
﹄
の中を指さしながら声を掛けてきた。
﹂
﹃あの人たちピンチだよ
﹁え
?
えええ
!?
エルキドゥ
捕まっていて、今まさに浮遊する武器軍に貫かれようとしていた。
ちょ、え
審判タイム
!!!
?
645
俺が気付かなかったことにすれば完全犯罪
﹂
﹃ところでさ⋮﹄
﹁なんだ
?
俺が自分の中でQED的な自己完結をしていると、幽霊の少年が扉
?
視線を士郎達の方に向けると、2人が鎖︵多分天の鎖だと思う︶に
?
◆◆◆
くそっ
いくら場の空気に飲まれなくなったとはいえ、ギルガメッシュが弱
くなったわけではないのが痛い。
コウジュがギルガメッシュの事を慢心王って言ってたけど、悔しい
かな慢心してようがこいつは強い。
コウジュに貰った大剣を出して盾にしつつ何とか凌いでいるが、そ
れは向こうが遊んでいるからにすぎないだろう。
今のところ何とか出来ていてもスタミナや魔力がいつか尽きてし
まう。
セイバーはまだ余裕がありそうだが、それもまたしかり。
あいつがこのままずっと宝具の雨だけで攻撃してくる訳が無い。
そうなればどうなるか、想像に難くない。
なんとか活路を開かないと
﹂
!!
まったく動けない。
これって、手に持ってなくても宣言すれば出せるか
そこで思い出したコウジュに貰った切り札。
くそ
│││射出した。
﹁│││終わりだ﹂
ギルガメッシュが剣を2本中に浮かべ、それを│││
﹁これで│││﹂
黄金の鎖が空間を割くように現れ、俺とセイバーを絡め取る。
ていてな。これで終いだ。天の鎖よ
﹁このままいつまで凌げるか見ているのも面白そうだが、時間が押し
そして腕を組み、尊大な態度でこちらを見る。
を止めた。
そう思ったのがフラグだったのか、ギルガメッシュは一度宝具の雨
!!
646
!!
ポケットに入れっぱなしになっているとっておきに一縷の望みを
!?
!!
かけ、宣言しようとする。
﹁真力﹃えk﹁やらせねぇよ
﹂コウジュ
できれば先に言って欲しかった。
というか、コウジュさんは一体どこから
﹂
やけに良いタイミングだったような⋮⋮。
いや、コウジュだしなぁ⋮⋮。
無礼にもほどがあるぞ貴様
!!
この言葉だけで全て納得できてしまう俺は悪くない筈だ。
﹁我が名前ギルガメッシュだ
﹂
思い出したように、こちらを見ずに俺に忠告してくるコウジュ。
﹁あ、士郎。これは解析しない方が良いよ﹂
だ。
何故だか、これ以上見ていると飲み込まれそうな感覚に陥ったの
自然と俺はそれから目を離し、コウジュ自体を見るようにした。
出来るのは分析までだった。
俺の中の何かが全力で拒否している。
いや、理解したくない。
だが解析できない。
ら目に着いた。
特訓の賜物か、剣の類をみると自然と解析するようになっていたか
放っており、刀身に蛇腹状のつなぎ目が見える。
左 に 持 つ 剣 は 前 に 見 せ て 貰 っ た 刃 の 部 分 が 紫 色 に 怪 し い 光 沢 を
の部分が黒く光を発している。
右手に持つ、赤と黒のどこか生態的なもので構成されている剣は鍔
両方とも見た事が無い。
そこで目に着くコウジュが両手に持つ剣。
の間に立つ。
どこから出てきたのかコウジュは悠然と俺たちとギルガメッシュ
﹁やーやーまたあったじゃんよーギルガメェ﹂
﹁貴様⋮﹂
かってきていた剣をすべて消し去った。
俺たちの前に飛び込んでくる影、コウジュは手に持つ剣で俺に向
!?
?
647
!!
!!
﹁はいワロスワロス﹂
よっぽど嫌いなのか、あくまでも小馬鹿にしたような態度でギルガ
﹂
メッシュと対峙するコウジュ。
﹁許さん
ギルガメッシュがその態度に腹を立て、再び宝具の雨がこちらへ放
つ。
全てを飲み込め
ヴィヴィ・デッザ
﹂
それに対しコウジュは、今度は左の手に持つ剣を大きく振るった。
﹁邪鞭ウロボロス
!!
!!!
﹂
﹂
!!!
いく。
﹁我の宝具が
﹁これで終わりだと思うな
きっさまぁぁぁぁ
り、射出された宝具をことごとく触れるだけで飲み込むように消して
るそれは文字通り鞭のようにしなりながらコウジュの周囲を飛び回
俗に言う蛇腹剣だったようで、コウジュが言うには光波鞭と呼ばれ
ウロボロスと呼ばれた剣はコウジュが振るう事で伸びる。
!!
﹂
!!!
﹁ぬおおぉぉぉぉっ
﹂
共に伸び、斬撃として宝具を飲み込みつつギルガメッシュに迫る。
魔法陣を割るように振るわれたウロボロスは魔法陣に集まる力と
は唐竹割りに大きく上から振り下ろす。
魔法陣に集まる力がはち切れんばかりになった時、最後にコウジュ
﹁でぇぇりゃぁぁぁぁ
それが次第に輝きを放っていく。
蛇腹剣の軌跡で武器を弾きながら陣を書いたようだ。
心に力が集約されていくのが分かる。
次第にコウジュの前に魔法陣の様なものが描かれ、傍目にもその中
コウジュは言いながらもまだ舞うようにウロボロスを振るう。
!!
!?
バーを捕える鎖に振るう。
笑いながらコウジュはこちらを向き、今度は右手の剣を俺とセイ
﹁ぷはっぬおぉぉだってっ﹂
ける。
ギルガメッシュは宝具を打ち出すのをやめて、全力で横に跳んで避
!?
648
!!
﹁滅ぼせ魔剣レーバテイン﹂
その言葉の通りに剣が触れた部分の鎖は消えるのではなく滅びる。
助けてくれるのは嬉しいがもう少し離れた部分でやって欲しい。
ホントに申し訳ないが正直怖いです。
もう名前からして破滅をもたらす災厄の剣だし⋮、この鎖を切っ
ちゃう位だし⋮。
解放された俺とセイバーは再び構えて対峙する。
﹁もう許さんぞ貴様⋮﹂
先程までの事が無かった事のように憮然とした態度でこちらを睨
みつけるギルガメッシュ。
﹂
﹂
﹁許さん許さんうっさいっての。さて、セイバーに士郎、ここは俺に任
せて行け﹂
﹁コウジュ
﹁どうしてですか
セイバーも疑問に思ったのか質問する。
﹁ここは俺1人で十分抑えられるさね。セイバー達はいったん外で回
復した後、言峰を追ってくれ﹂
それを聞いてハッとする。
﹂
そうだ、あいつは聖杯の出し方を知っているようだった。
ここは任せた
放っておく訳にははいかない
﹁分かったコウジュ
!!
!!
﹂
﹂
﹁やらせるかよっ
﹁行かせはせん
俺とセイバーはすぐそこの階段を上っていく。
い。
コウジュだけに任せていくというのは正直気が引けるが仕方が無
!!
任せたぞコウジュ
!!
だが、コウジュを信じ、振り向かずに一気に駆け昇る。
後ろで再び戦い始める音が聞こえる。
!!!
!!
649
?
?
◆◆◆
﹂
﹁は は は は は は は っ ど う し た
たぁ
﹁どうだろうねぇ⋮﹂
先 程 ま で の 勢 い は ど こ へ 行 っ
!!?
込ませていく。
﹁先程からその言い草っ
雑種の分際で無礼であろうがぁぁ
﹂
!!!
まだやらなければならないこともあるし、終わりにしようか。
そろそろ士郎達はここから離れただろ。
そろ終わりにしたい。
さておき、これ以上はさすがに周囲の被害が馬鹿にならないしそろ
﹁ふん、忌々しい宝具だ﹂
その本人たちは扉の外から俺にエールを送ってくれてるけどね。
これ以上どうにかされるのは気に食わない。
先程当人たちと話したことを置いておいても、あの子たちの身体を
下手に弾きでもすればどうなるか分かったものじゃない。
なにせギルガメッシュの後ろには幽霊の子たちの身体がある。
去っていく。
だけど俺は、あえてその全てを更に早く武器を振るうことで消し
降り注ぐ宝具の勢いが増す。
!!
だが俺はそれを何でも無いように見せながら時に破壊し、時に飲み
俺を殺さんとして。
俺を貫かんとして。
ありとあらゆる宝具が俺に向かって降り続ける。
剣も、槍も、斧も⋮。
宝具が降り続ける。
!!!
あーでもなー、マジでやると絶対協会そのものが潰れるし、どうし
たものか。
650
!!?
﹁天の鎖っ
むむ
﹂
壊しちゃいけないもんまで壊しそうだし。
その所為か無意識で壊しきれてなかったのかね
し。
あと、この剣うるさい。
?
さぁ
遠慮なくやりたまえ金ぴか君
けられていく。
ぐるぐるぐるぐる││││、
!!
││││ってしつこい
どんだけ包むんだよ
!!
俺の身体で出てる部分が顔だけじゃねぇか
って口もか
窒息して死ぬわ
!!
空間から現れる無数の鎖が俺の身体をぐるぐると縛り付け、締め付
からず。
どう考えてもドMなセリフみたいだが、俺はドMじゃないのであし
!!
痛いのは嫌だけど、これで俺がやられれば一応の決着がつく。
それはさておいて、これは丁度良いな。
とにかくうるさすぎて集中できないので早く使うのを止めたい。
こんな感じになるとはね。
どさ。
ると全てをその身に取り込まれてしまう〟ってのが確かにあったけ
この剣の概念として〝闇を根源とする魂が宿っており、使い方を誤
壊せ壊せと語り掛けてくるのでほんとうるさい。
ヘタレ言うな
正直触れた物を壊すって能力怖くて使いきれねぇんだよな。
ああ、やっぱり魔剣を扱いきれてなかったのかね
あれさっき壊さなかったけ
!!
に縛り付けられる。
結局デカい帽子以外は全て包まれ、蓑虫のようにされながらも空中
!!
!?
651
?
?
?
!!
我に逆らった事、地獄でなげけぇっ
当然俺は身じろぎ一つできない状況だ。
﹂
﹁これでとどめだぁっ
﹁ムー、ムー
﹂
!!!
貫け我が宝具よ
﹂
!!
他愛無い
所詮は雑種か
﹂
!!!
支配する。
﹁ふははははははは
!!
そして刹那の後、俺の身体にいくつもの衝撃が走り、激痛が体中を
その声と共に、幾つもの風を切る音を俺の耳が拾う。
﹁今更遅いわ
それを見てなのか嬉しげに声を荒げながらギルガメッシュが話す。
動ける気がしない。
見習いでも神性に対する拘束力は十二分に発揮しているのか全く
!!
慣れたのかな
?
もっていけぇい
!!
さすがは不老不死。
﹁ついでだ
﹂
そして、貫かれた俺の身体は、既に回復しようとしている。
以前に比べ、そんな事を考える余裕がある。
なんにせよ、こういう時は便利だ。
それとも脳内物質とかの問題か
?
けど、最初に比べて何でかマシだ。
ほんと痛ぇ⋮。
らけだ。
俺の身体は貫くに貫かれ、穴が開いていない場所などない位に穴だ
!!!!
それが3つ。
それらは不死殺しだ
これで貴様も終わり
うん、予想はしてたけどこれ多分やばいやつ。
﹂
﹁ハハハハハハハハ
だっ
!!!
でも、ギルガメは俺の不死が俺自身のモノからだけのモノだと思っ
かりやがった。
なんだかんだで俺の存在は不安材料なんだな。きっちり殺しにか
!
652
!
!!
追加で、新たに禍々しい気配が生まれる。
!!
やっぱり不死殺し。
!!
てるみたいだから助かった。
もし、慢心していないやたら察しの良い王様モードのギルガメだっ
たらどうしようかと思ったぜ。
まぁ実際俺の身体は蘇生がストップし、血液は流れるまま足元に血
溜まりをつくっている。
意識は何とかあるが、この身体は明らかに死に体だ。
指先一つ既に動かせない。
それ以前に感覚が一つもない。
当然か。
今、俺の身体は確実に死に向かっている。
それにしても、型月世界って不死存在が居る分、不死殺しも充実し
てるからもしかしてと思ったがやはり持ってたか。
でも俺は不死殺しだけじゃぁ殺せない。
いや実質的には一回死ぬんだけどね
ほんと、生存チート万歳だわ。
おかげでこれに頼り過ぎて自分の命を軽く投げ出しすぎている気
がする。
ゲームでもそうだったが、生存系の能力に頼っているとプレイヤー
スキルが落ちるからどうにかしないといけないな。
﹁ふん。所詮幕引きはこんなものか。さて、我も聖杯の元へ行くとす
るか﹂
ギルガメッシュが俺に刺さっている宝具や、天の鎖を消して、歩い
ていく。
言葉通り聖杯の元、柳洞寺の出現ポイントへ向かうのだろう。
一方、支えを失った俺の身体が床へと放り出される。
ぐしゃっと、俺の身体が倒れたからであろう音が耳に届く。
とりあえずはこれで、原作通りにやつらを最終決戦場へと向かわせ
ることが出来たかね
ここを壊さずに金ぴかだけを蹴散らす術を現在の俺は持っていな
いからな。
653
?
ランサーの位置が俺だけど、それは仕方ない。
?
これが一番穏便だよな。
﹁⋮っ﹂
あー、やべ、もう無理。
意識が跳ぶわ。
ハッキリ死ぬ感覚があるのはそういや、初め⋮て⋮だっけ⋮⋮。
﹂
﹄
あー⋮床、冷てぇ⋮⋮。
・
・
・
﹁はっ
﹃あ、起きたー
﹁ここ⋮は⋮あーそっか﹂
バッと身体を起こし、周囲を確認する。
辺りを見、静かなことに胸をなでおろす。
気分的にはほんとは休みなのに目覚まし時計が鳴らずに目が覚め
たせいで遅刻したかと一瞬焦るがよく考えれば休みじゃないかと安
心する心境だ。
うん、自分で行ってて意味が解らん。
どうやらまだ頭の覚醒が追いついていないらしい。
でも、誤魔化すためにワザとやられたことは思い出した。
﹃はー、無視かよ。まぁ百歩譲って無視は良いとしても、こういう起き
ってあれ
﹂
方したら〝知らない天井だ〟は鉄板だろjk﹄
﹁何言いだしてんの
?
しまう。
﹁って、おお
﹂
起きぬけに耳に入ったよくわからん助言に、ついツッコミを入れて
!?
聞こえた声に思わず反射的にツッコんでしまう。
?
654
?
!?
同時に、一気に頭が覚醒した。
その頭で考える。
今俺に話しかけたのは誰だ
﹄
﹂
というか予想外に近いとこに居た。
﹃起きた
﹄
﹁うん、まあね。どれ位経った
﹂
﹄
ってか、使い方違ぇよ
﹃う∼んと三日位
﹁マジで
﹃嘘だっ
﹁嘘なのかよ
言えば分かるかね
でも意識が回復しなかったのはなんでだろう
今までは意識を失う暇すらなかったのに。
もしや不死殺しの影響かな
してある所か。
﹁まぁな。やることやるまでは弱音を吐いてられないさ﹂
﹃ねぇねぇ、ほんとに大丈夫
﹄
らってるから不測の事態が起きてもある程度対処できるように計画
まぁ、不幸中の幸いはキャスターに予めバックアップに入っても
その初めてのは何の感慨も浮かばないけどさ。
あそこまで殺しつくされるのは初めてだったし。
?
スケープドールの御陰か身体はすぐ治ってたのか。
﹁そっか⋮﹂
こそこ意識を失ってたみたいだね﹄
﹃ちなみに現在はそんなに経ってないよ。まぁ身体が治ってからがそ
⋮⋮自分で言ってて悲しくなってしまったぜ。
?
何がっていうと⋮⋮あ、そうだ、俺がツッコミに回るしかないって
幽霊だからとかそんなものが些細な事に感じる位に怖い。
!!!
?
もう何この子達怖い。
﹂
そこには俺を囲うようにして幽霊の子達が居た。
そう思い、声のした後方を向いた。
?
?
?
655
!!?
?
?
!!! !?
﹄
言うだけのことは結構してるかもだけど、休憩するのはもう少し先
だ。
﹃やること
俺が苦笑交じりに言うと、幽霊の少年が首を傾げながらそう聞いて
くる。
やりに来た事⋮。
﹁⋮あのな。皆に話があるんだ﹂
俺は、ここに来た最後の目的を果たすために幽霊の子たちを見渡し
ながら言う。
﹄
本来なら色んな手順を踏んでから聞こうかと思ったんだが、ある意
O☆HA☆NA☆SHIされるぞ
味こうして話せたのは都合が良い。
﹃やべぇぞ皆逃げろ
﹂
ホントにブレねぇなこの子達
!!!
復活したてで精神的に疲れてるからそろそろ勘弁してつかぁさい
!!!
﹁するかぁぁぁぁ
!!!!!
!!
﹁む⋮いや、だけど、大事な話だ﹂
﹃え∼、まぁしかたないわねぇ﹄
先程までと変わらず、笑みを絶やさずにこちらを全員で見てくれ
る。
けど、しっかりと聞く態勢になって、俺の言葉を待ってくれる。
俺が先程までとは違って真剣な話をしようとしているのを分かっ
てくれたようだ。
﹂
そんな彼ら彼女らを、改めて見回す。
そして、俺は意を決し口を開く。
生き返りたくはないか
?
﹁あのな
?
656
?
﹃嘘だよ嘘。なんか辛気臭い顔をしてたからついね﹄
!!
﹃stage44:思い⋮出した⋮
﹄
俺とセイバーはコウジュに言われたように言峰の後を追おうとす
るも、教会を出たところで目的地を変更した。
一度体制を立て直すため、家へと向かうことにしたのだ。
コウジュに貰っていた回復用のカードがあと一枚しか無い。これ
ではどちらかしか回復できない。
このカードはコウジュが持つアイテムをカード化したものなんだ
が、宣言をすれば対象一人を規定値まで瞬時に回復してくれる。
これをいくつかコウジュに貰っていたのだが、出来ればセイバーと
共に回復しておきたい。
内心、このまま言峰を追いたくて仕方が無いがそれで死んでしまっ
ては元も子もない。
それに、先にセイバーを回復しようとしたらセイバーは俺に使おう
として話が進まなさそうだったので、もう家に戻って万全の状態にし
た方が良いという話に落ち着いたのだ。
あと、家には他のサーヴァント達が居る。
戦闘能力が大幅に下がっていると言っていたが、それでも助力を得
られれば格段に勝率は上がる筈だ。
とはいえ時間は刻一刻を争う。
俺たちはとにかく急いで屋敷まで走った。
だが、家が見えてきたところで異変に気付く。
それはセイバーも同じようで、二人ともに屋敷を前にして足を止め
る。
﹂
﹁士郎、気を付けてください。何かおかしい﹂
﹁ああ。でもこの違和感は何だ
入口である門の前、そこまで来ると先程感じた違和感の正体に気付
く。
いつも我が家を包んでくれていた結界、更にはキャスターが張って
657
!!
ゆっくりと、警戒しながら屋敷へと近づく。
?
いた結界までもが消失しているのだ。
遠目には屋敷に異常はないし荒れた様子も見られない。
だが、静かすぎる。
少なくとも遠坂やサーヴァント達は朝の時点では居たのに、だ。
﹁とにかく中へ行こう﹂
﹁はい﹂
門を潜り、玄関扉をも潜り屋内へと踏み入れる。
勿論警戒を怠らず、何があってもすぐ動けるようにしながらだ。
だが、入ってすぐに感じた異臭、そして暗がりに見えたものに思わ
ず立ち止まる。
﹁なんだ⋮これ⋮﹂
俺の目に飛び込んだのは、嵐が通ったのではないかと思えるほどに
荒れた自分の家だった。
そして、そこら中に飛び散っている血痕。
﹂
﹂
血痕はどうやら居間の方に向かうように付いている。
﹁こっちか
て、床には血で水溜りを作った遠坂だった。
セイバー、タオルと洗面器を
!!
﹁まさか⋮綺礼が⋮ゲホッ⋮っ⋮コウジュが隠すわけ⋮ね﹂
﹂
﹁遠坂もう良いしゃべるな
﹁はい
!!
血を吐きながらも何かを言う遠坂。
﹂
そこに居たのは脇腹を押さえ、普段着ている赤の服を血で更に染め
﹁凛⋮﹂
﹁遠⋮坂⋮﹂
﹁遅かった⋮じゃない⋮の⋮⋮﹂
壊れるほどの勢いで戸を開け、居間に入る。
!?
658
嫌な想像が頭を巡る。
皆
﹂
この家に居たはずの遠坂達は何処へ行ったのか。
﹁遠坂
﹁士郎待ってください
!!
靴を脱ぐのも忘れ、走る。
!!
!!
!!!
その姿は今にも消え入りそうだ。
とにかく止血をしないといけないと思った俺はセイバーに流れ出
る血をどうにかするため、タオルと洗面器を持ってくるよう頼む。
﹂
﹂
俺はその間、何とか無事だった包帯を使って止血をしていく。
ある
﹁士郎⋮回復カード持って⋮ない⋮
﹁あ、ああ
?
﹁うぐ⋮﹂
﹁士郎
タオルを⋮もう必要なさそうですね。よかった﹂
﹁ふぅ⋮ありがと衛宮君。ホントに死ぬかと思ったわ﹂
安心と言ったところか。
血も止まっているようだし、失った血液までは戻らないが一先ずは
ない位に血色のよくなった顔を見て安心する。
少し辛そうな顔をしたが、カードの効果で先程までからは考えられ
﹁え、ええ⋮かなりマシになったわ⋮﹂
﹁どう⋮だ
﹂
それを慌てて使って遠坂を回復する。
残っていた。
焦っていて忘れていたが、後一枚だけだがコウジュに貰ったモノが
!!!
部屋に入り、遠坂の顔を見てどうにかなった事に気付き、張りつめ
た空気を霧散させる。
﹁ふふ、ありがと﹂
﹂
遠坂もそれに答えるように柔らかに微笑みながら礼を言った。
﹁それにしても一体何があったんだ
⋮﹂
﹁イリヤが
﹂
﹁ごめん⋮イリヤを守れなかった。綺礼の奴に連れていかれちゃった
た。
そして、苦虫を潰したような表情になりながらも語り始めてくれ
それを聞くと、一気に遠坂の顔が曇る。
?
﹁し か も 言 峰 に か や っ ぱ り こ っ ち に 来 た ん だ な ⋮ け ど 何 で イ リ ヤ が
!?
659
!!
?
そこへ、物を取りに行ってもらっていたセイバーが戻ってきた。
!!
﹂
﹂
﹁イリヤはね⋮聖杯を降臨させるための器なのよ﹂
﹁器⋮
たいな感じか
為に作られた存在なの﹂
?
は魔術回路を人間にした子なの﹂
イリヤがずっと寝ていたのは内側にあるサーヴァントの力の所為
そうか⋮今分かった。
言えば鍵みたいなものなのよ﹂
役目は6騎のサーヴァントの受け皿。理屈は今は省くけど、簡単に
そして問題は小聖杯。これがイリヤに当たるわ。
あれほど召喚に適した霊地は無いから。
な魔力の受け皿なんだけど、それはたぶん柳洞寺のどこかにあるわ。
﹁聖杯を召喚させるために必要なのは大聖杯と小聖杯。大聖杯は膨大
確かにランサーが来た日からイリヤの事を見ていないな。
セイバーは覚えていたようでそう告げる。
なったのはランサーが来た日です﹂
﹁以前から時折体調を悪くしていたようですが、完全に起きてこなく
?
遠坂は続けて言う。
﹁イリヤの体調が悪くなったのっていつだったか覚えてる
﹁イリヤが⋮﹂
いつからだっただろうか
﹂
魔術師っていうのは魔術回路を持った人間のことなんだけど、イリヤ
ら れ た ホ ム ン ク ル ス で は な く 聖 杯 降 臨 の 為 に 特 化 さ れ て い る 筈 よ。
﹁そうよ。それもただの⋮って言い方には語弊があるけど、普通に作
﹁作られたって事は⋮ホムンクルスってやつか
﹂
﹁コウジュが言い辛そうだったから言わなかったけど、イリヤはその
でも、それだと遠坂の言い方からして違うし⋮。
?
それって、キャスターが桜を器にしようとした︵演技だったけど︶み
﹁ええ⋮﹂
?
前々から行動が一定しなかったからよく覚えてない。
?
660
?
だったわけだ。
コウジュは風邪だって言ってたけど違ったんだな。
﹁しかし⋮、それでは何故コウジュはこちらに来たのでしょうか
あ、確かに。
﹂
コウジュがその事を知らない筈がないし、最初は主従関係だったか
も知れないけど、長年一緒に居た家族の様な仲の良さだった。
それこそ姉妹のような。
そんなコウジュがイリヤを放って言峰教会に来た理由って何だ
いや、でもそういえばこっちには││、
﹁そういえば、此処に居た他のサーヴァント達はどこへ行ったんだ
﹁そういえば、屋敷の中に他の気配がありませんね﹂
俺に続けてセイバーが言った。
それに対し遠坂は、一瞬キョトンとした後に口を開いた。
﹂
﹁ランサーは多分あのバゼットって人を避難させてたはず、ライダー
には桜を連れていってもらったけど⋮、後は分からないわ。士郎達の
方に付いてると思ったんだけど﹂
ってことは、アーチャー、アサシン、キャスターが行方知らずか。
聞きたい事があるんだけど⋮﹂
﹁そういえば、今の言い方だとコウジュはそっちに行ってたみたいだ
けどどこに居るの
﹁えっと⋮﹂
し言いづらい。
﹁凛、コ ウ ジ ュ は 私 達 を 逃 が す た め に ギ ル ガ メ ッ シ ュ と 言 峰 教 会 で
闘っています﹂
そんな俺を見てかセイバーが代わりに答えてくれた。
﹁コウジュは言峰を追えって言って俺たちを逃がしてくれたんだ。け
ど途中で、念の為に回復してから万全の態勢で行った方が良いって気
づいてこっちに帰ってきたんだ﹂
﹁それで私がこのザマで、最後の一枚を使わせたってわけね⋮。ホン
トに選択を失敗したかな⋮﹂
661
?
?
?
けど、コウジュ自身が言った事とはいえ置いてきたという事実は少
コウジュなら大丈夫だと思う。
?
今チラッと短剣の柄の様なものが遠坂の後ろで見えたよう
選択って、何か失敗したのだろうか。
ん
な気がしたが⋮何で隠すんだ
そんな疑問を俺が持った事に気付いたのか凛がこちらを向いて言
う。
﹁こ、こっちの話だから士郎は気にしないでっ。それにしても、士郎が
ねぇ⋮﹂
俺の疑問は解消されずに、遠坂はそれを誤魔化すように目を細めな
がらニヤニヤとこちらを見る。
前半は例のうっかり関係の事なのだろう。
ツッコムのは可哀そうなことなんだろうな。
だからと言ってこちらにシフトチェンジはやめていただきたい。
その笑みは嫌な予感しかしない。
﹁士郎が一度引く事を選ぶなんてね。少し前なら一直線だったのに、
これはコウジュさまさまかしら﹂
﹁む⋮﹂
﹁ふふ、すねないの。良い兆候だって褒めてるんだから﹂
褒められた気がしないのは俺だけじゃない筈だ。
さておき、だ。
﹁そろそろ行くか﹂
話している間にそれなりにだが回復出来た。
数十分とはいえ、それだけあれば俺の中にあるセイバーの鞘が回復
してくれる。
全快には遠いし、身体はまだ重たいが強化の魔術で何とかなるはず
だ。
遠坂が求めてたくらいだからもうカードのストックも無いのだろ
う。
それに、イリヤが拐われたんだ。
これ以上はただの時間の浪費となるだろう。
﹁はい﹂
﹁ええ﹂
662
?
?
その傷で行くつもりか
﹂
俺が立ちあがると、セイバーと遠坂も立ち上がる。
って遠坂
﹁と、遠坂
わ﹂
﹁ほらっさっさと行くわよ
他のサーヴァント達が当て
一発あいつを殴らないと気が済まない
確かにそれはそうだが⋮。
にできない以上ね﹂
に、今は一人でも多い方が良いでしょ
﹁待った。さっきも言ったけど、今のあなた達と変わらないわ。それ
だがそれを遮るように遠坂が言う。
セイバーがその事について言おうとする。
﹁そうは言っても凛⋮﹂
アピールする。
だけど彼女は気丈にも肩に手を当てぐるぐると回しながら無事を
回復出来ていてもやはり遠坂はまだまだ動くべきではないのだ。
が戻ってくる訳じゃない。 つまり失血した分や疲労感は拭えない。
あのコウジュのカードは回復とは言っても時間回帰のように全て
は思えない。
が、辺りに散乱した血液を考えると、余裕があって浮かべてるものと
そう、どこかあの紅い弓兵に似たニヒルな笑みを浮かべながら言う
無いわ﹂
﹁何言ってるのよ。回復してもらったから今のあなた達とそう大差は
!?
?
だから俺は選んだ。
けどそんな甘い考えでは勝てないと知った。
むしろ守りたいと思う。
男が女の子の後ろに隠れてなんて俺は嫌だ。
本当ならセイバーにも闘って欲しくない。
セイバーが俺にそう言うが、心配なものは心配だ。
﹁実際、凛が居るだけで勝率は上がります。説得は無理でしょう﹂
の方へ歩いていってしまった。
俺がどうやって説得しようかと考えていたら遠坂はさっさと玄関
!!
663
!? !?
共に戦うことを。
共に在ることを。
それは大切な人を危険に晒すことかもしれない。
けどそれで救えるものもあると知った。
いや、教えてもらった。
だったら│││、
﹁そうだな、行こう。イリヤが待ってる﹂
﹁はい、マスター﹂
自分の中の思いを整理し、現状優先されること、聖杯の破壊とイリ
ヤの奪還について考えたら遠坂の手は必要だと覚悟を決める。
さあ、あの外道神父と慢心王を倒しに行こう。
そしたら晩御飯だ。
今では二桁にも上る衛宮家の食卓の人数だが、だからこそ腕が鳴る
と言うものだ。
﹂
俺は、この子達が生き返りたいと言うと思っていた。
でも違った。
﹃俺達はさ、もう疲れたわけよ。おっさん臭い言い方だけどな﹄
﹃確かに生き返るのも良いかなーとは思うけど、私達はもう眠りたい
のよねー﹄
664
そのためにも勝つ
◆◆◆
﹃やだね﹄
﹁何故⋮だ⋮⋮
今のはそれに対する返答だ。
幽霊の子達に生き返りたくないかと聞いた。
言峰教会のその地下、禍々しい様相を呈しているその場所で、俺は
!!
その返答が予想外だった俺は、困惑する。
?
﹃ま、俺達はもう死んじまってる訳でさ。それでいいんだよ。それに
居場所がない﹄
﹁居場所なら何とかして⋮﹂
﹃そういう意味じゃないよ。戸籍とかそんなんじゃないんだ。俺達は
もう死んだと納得した。納得して今まで幽霊として存在し続けてし
まった。これで生き返っても、俺達は幽霊のままだ﹄
晴れ晴れとした笑顔でそんなことを言う。
﹁意味が⋮分からねぇよ﹂
もう⋮﹄
﹄
生き返らせてくれ
﹃あーもう何であんたが泣きそうな顔してんだよ﹄
﹃普通逆でしょ
だってさ、俺は⋮⋮。
﹃あーもうほんとに泣き出しちゃった。あのね
るって言ってくれたこと自体はホントに嬉しいのよ
﹃けど俺達の望みはそれじゃなくなっちまった。今の俺達が望んでる
のは解放なんだよ﹄
﹄
﹃そうそう。私たちはちゃんと死にたいのよ。向こうで親も待ってる
だろうしね﹄
そんな⋮悲しい事言うなよ⋮。
何でそんなに笑ってられんだよ。
くっそ、あのマーボー神父と金ぴかめ。
こんな良い奴らに死ぬ事を望ませるなんて。
﹃ほらほら、そっちはそっちでやる事あるんでしょ
﹁ある⋮けどさ⋮﹂
ろ
﹄
﹁ああ⋮﹂
﹂
﹃だったらサクッと俺たちをやって行っちまいな出来るんだろ
﹁できるけど⋮さ⋮ホントに良いのか
﹄
﹃ならさっさとそっち行けよ。どうせあの神父と金ぴかの奴んとこだ
?
あんたは俺達を気にせず行け。
665
?
?
?
﹃良いの良いの。俺たちはもうほんとに良いのさ。十分十分。だから
?
?
?
あれだ⋮えーっと、立って歩け、前へ進め、あんたには立派な脚が
あるだろう﹄
﹄
じゃあえーっと、呪いのように生き、祝いの様に死のう﹄
﹃それなんか違う﹄
﹃あ、そう
﹃うっわ、今の私たちにぴったりスギじゃん
﹁それエロゲ│じゃねぇか。未成年﹂
﹃良いんだよ。幽霊に年齢なんて関係ない。っていうか、俺が知った
の格ゲーの方からだから本編知らねぇし﹄
そうふざけながら言う彼らの瞳は本気だ。
本気で、いま終われるのならば終わりたいとそう思っている目だ。
その瞳を見て、俺は胸が苦しくなる。
死ぬことが彼らの幸せだという、その事実が俺には受け入れられな
い。
でもそれを拒否する権利は俺には無い。
俺はハッピーエンドを求めたんだ。
なら、これ以上彼らを引き留めても俺の我が儘でしかない。
﹁よし、分かった。来いコクイントウホオズキ﹂
⋮いや、それ知らねぇや﹂
﹃奇跡も魔法もあるんだよ﹄
﹁またネタか
﹃じゃあこれだな﹄
﹃ザワ⋮ザワ⋮﹄
﹁ホントブレねぇなお前ら
!!
それあれだろ。茜色に染まる⋮なんだっけ⋮。
分かりづらいネタやめぃ。
﹃なんですかもぅ﹄
﹂
物騒の言葉が聞こえた気がしたがそっちはスルーしよう。
とは⋮。
こいつらの事だからネタだろうとは思ったが、ホントにそうだった
﹃なんだよ血貯まり知らねぇのかよ﹄
!?
666
?
?
とにかくそこに出てくる歯ブラシを武器に戦える不思議っ娘だろ
?
むしろよく覚えてたな俺。
はぁ、これはあれか、元気づけられたのかね
﹁何の電波
﹂
そんなことを考えながら苦笑する。
そして俺はコクイントウを腰だめに構える。
これ以上間を空けると決心が鈍りそうだ。
﹃ド派手に逝くぜ
﹄
﹃ぼっこぼこにしといてね∼﹄
﹃んじゃ、かたき討ちよろしく∼﹄
ように。
どうせならこの子達が言うような東方勢が居る冥界に繋がります
だから振り切るように、概念を強化し、そして願う。
一個多い
いや、ヤマザナドゥドゥ
ってか誰だよヤマザナドゥドゥ
﹃やっぱドゥだろjk、ヤマザナドゥ希望
﹃こまっちゃんの横で一緒に昼寝したい⋮﹄
﹃幽々子お姉さまに会いたーい﹄
﹃おお、俗に言う冥界に行けるのか﹄
てる。こいつを使ってあんた達はちゃんとした死を迎えられる筈だ﹂
よし、んじゃいくぜ。こいつは死者の国に渡る際の渡航証と言われ
﹁まったく、ぶれなさすぎだよ⋮。
笑って送り出してやる。
合う子達だと分かる。 だったら俺は笑おうじゃねぇか。
この子達とはほんの数時間前に会っただけだが、それでも笑顔が似
でもまあ、いつまでも俺が泣いてるわけにはいかねぇよな。
?
﹃おいなんか一人バギー船長混ざってるぞ。例の赤鼻のやつ﹄
!!
667
!!
いっぺんこの世界のメディア関係を確認すべきか⋮。
ってか、東方系のゲームもあんのかよ。
!?
!
﹄
﹂
﹁そんな機能ねぇよ
よ
!!!
?
﹃いや、よくわからないけど電波が⋮﹄
!
﹃﹃誰が赤鼻だぁッ
﹃増えてるし⋮﹄
﹂
﹄﹄
﹁はは、じゃあいくぞ
ウ
要望通りにド派手にだ。送るぞコクイント
要望に答えるために構えを変える。
折角だからこっちもネタを使おうじゃないか。
前にも一回使ってるから出しやすいし。
﹂
コクイントウを頭上に構え直し、│││振り下ろす
﹁月牙⋮天衝ぉぉっ
﹃﹃﹃斬魄刀⋮だと⋮⋮﹄﹄﹄
え、これもあるの⋮
・
・
・
?
思ったが、穢れが酷すぎたし、それ以前に金ぴかと戦った時にはもう
致命傷だった。
あの子たちの身体に傷をつけないようにした結果、教会が被害を受
けてしまったのだ。
月牙をできる限り手加減したがそれでも無理だったなんて事はな
い。
だから仕方ないと自己完結する。
事故完結ではないのであしからず。
これは俗に言うコラテラルダメージなのさ。
俺は合わせていた手を離し、閉じていた目を開ける。
668
?
!!?
!!!!
俺 の 目 の 前 に は 崩 れ た 教 会 が あ る。教 会 を 潰 す の は ど う か と も
!!
!!
﹁ホントに面白い奴らだったな⋮最後の言葉が﹃斬魄刀⋮だと⋮﹄って
なんだよ﹂
今まで数十分かけてホンの数時間の出会いを反芻した後、最後の言
葉に対してボソッとツッコミを入れてしまう。
最後まで俺にツッコミさせるとはな。
﹂
そう苦笑していると、突然俺の横に気配が生まれる。
﹁良かったの
空間から溶け出るように現れたのはキャスターだった。
﹁見てたのかよ⋮。ま、もちろんさね。あいつらがちゃんと死ぬこと
を選んだんだ。それがあいつらにとってのハッピーエンドだっただ
けのこと﹂
﹁あなたが良いのなら私は良いのよ。ただ⋮泣くのか笑うのかどっち
かにしなさいな﹂
﹁泣いてねぇよ⋮﹂
泣くわけにいくか。
笑って送るって決めたんだからな。
﹁そう⋮﹂
それだけ言うと、キャスターは俺の頭にポンと手を乗せた。
いつもなら俺はそれを振り払う所だが、出来なかった。
したくなかったというべきか。
恥ずかしいとかよりも、そのキャスターの優し気な手が帽子越しな
のにやけに暖かく感じ、それがとても居心地良かった。
しばらく無言の時が流れる。
それからしばらく経つと、キャスターが再び話しかけてきた。
﹁そろそろ行くわよ。日が暮れてきたわ。ギルガメッシュは貴方を殺
したと思ったからかセイバー達を待って行動に移ることにしていた
みたいだけど、そのセイバー達が柳洞寺に着いたわ﹂
﹁ん⋮、了解だ﹂
なら急がないとな。
多分セイバー達だけでも勝てるだろうけど、ハッピーエンドの為に
は少し足りない。
669
?
さてさて、ハッピーエンドを始めに行こうじゃないか。
俺は最後にもう一度教会へ振り返り、そして懐からカードを出す。
教会はまだ崩れただけで、地下聖堂にはまだあの子達の亡骸があ
る。
だから、最後にここを消し飛ばす。
もちろんド派手にだ。
このカードは以前に何となくで作って見た目だけ整えただけのも
のだ。
外側だけ整えたものだからそれほど威力は無いし戦闘用なのに戦
闘にはほぼ使えないレベルという代物。
だけど、最後までネタ好きだった彼らの手向けには丁度いいだろ
う。
送り出した彼らに響くように、俺は宣言する。
﹂
670
﹁紅符﹃不夜城レッド﹄
◆◆◆
そして、言峰の後ろには黒い球体が浮いている。
﹁見たまえ、これが聖杯だよ﹂
今回の元凶にして、前回の聖杯戦争で一つの街を焼いた男だ。
そんな俺達を迎えたのは言峰綺礼。
サーヴァントとそのマスターを倒すためだ。
それは勿論この聖杯戦争を本当の意味で終わらせるため、最後の
俺とセイバー、遠坂は今、柳洞寺まで来ていた。
﹁歓迎しよう、衛宮士郎﹂
!!!!
こんなものが聖杯
黒とは言えない黒、純色ではなくあらゆる色を混ぜてできた黒の様
で不快感を湧き立たせる。
それは空中に出来たような穴からとめどなく泥を溢れ出させ瘴気
や災いが形となって吹き出ているようだ。
そうとしか表現できない泥。
そしてその中心にはぐったりとしたイリヤが埋め込まれるように
して存在している。
遠目にも荒い息をしている事は分かるがとても無事とは言えない。
この状況は考えられる限りで最悪だ。
﹁この時をどれほど待ち侘びた事か。頃合いも良い。今丁度聖杯に穴
があいた所だ﹂
言峰の横にはギルガメッシュが現れる。
疲弊した姿ですらなく、悠然と言峰の横に並んだ。
そのことに動揺する。
あいつが無事だということは必然的に│││、
﹂
﹁嘘⋮、コウジュはギルガメッシュの所に行ったって士郎は言ったわ
よね⋮
当然だ。
俺は遠坂に、コウジュは俺達の代わりに言峰教会に残ったと言った
のだから。
しかし、この場にギルガメッシュが平然と居るその事実は当然のご
とくある事を俺達に思い浮かばせる。
なんだかんだであの子はハチャメチャな子だったけど、あの強さは
本物だ。
何か目的があって負けるならまだしも、コウジュが負けるなんて考
えられない。
実際コウジュ1人で十分に聖杯戦争を終わらせる事が出来るほど
の力を秘めていた筈だ。
671
?
遠坂が俺に聞いてくる。
﹁ああ⋮﹂
?
しかし、この場にコウジュはおらず、ギルガメッシュが居る。
﹁コウジュ⋮ああ、あの混ざりものの小娘の事か﹂
ふははっ、はははははは
﹂
変わらず悠然とした態度で、混じり物、そうあいつは嘲るように口
にした。
﹁あの小娘は我が殺してやったわ
!!!!
エルキドゥ
天の鎖⋮﹂
ろうよ。ピクリとも動かんかったぞ
ケダモノ
後は不死殺しの概念を持つ
という神族は聞いたこともないがそれなりに神性が高かったのであ
﹁これは対神宝具でな。神性が高いほど拘束力が増す。コウジュなど
俺達を教会で縛り付けたあの鎖。
現れたのは鎖だ。
すると虚空からいつものごとく宝具が現れる。
ギルガメッシュが横へ手を伸ばす。
易かったぞ
﹁ふん、それほどまでにあの小娘が勝つと思っていたのか。しかし、容
す。
セイバーもコウジュが勝つと確信していたからか、思わず声を漏ら
﹁そんな馬鹿な⋮﹂
我慢しきれぬと言った風に、高笑いをするギルガメッシュ。
!!
い。
俺はその事実をどうしても受け入れられない。受け入れたくはな
いや、けど⋮。
その不死性を殺す宝具で貫かれたら、いくらコウジュでも⋮。
実際に生き返る所をこの目で見ている。
コウジュは自分で不老不死だと言っていた。
しかし不死殺し、これで貫かれたら⋮。
ら、知らないのは当然で、聞いても意味は無い。
そもそも、俺達はイリヤに別世界の英霊であると聞いているのだか
あのコウジュが神性を持っているとかは別に良い。
嘘だ⋮。
ざっていたらしいアレには丁度良かろう﹂
宝 具 で 串 刺 し に し て や っ た。そ れ だ け で 死 ん で い っ た わ。 獣 が 混
?
672
?
それはセイバーと遠坂も同じようだ。驚愕と苦悶の感情を混ぜ合
わせた表情をしている。
サーヴァントとはいえ、数日とはいえ、俺達は家族のように衛宮家
で過ごした。
秘密を持っているとはいえ、聖杯戦争をハッピーエンドで終わらす
と語ってくれた。
普段のコウジュは、見た目の割に大人びた事を言ったり、かと思っ
たら年相応に見える事をしたり⋮そんな子が死んだ。
受け入れられる筈が無い。
今から闘う事すらも思考から抜け落ちて、今後取るべき行動すべて
が頭の中で整理できないで居た。
どうせまた、そこら辺からヒョコッと現れるのではないかと思って
しまう。
しかし、ギルガメッシュが持つ鎖が、数多の宝具が、その存在感を
まぁ良かろう⋮﹂
673
俺達に感じさせる度に、コウジュが死んだという事実が俺達の中に染
み込んでくる。
﹁先程までの威勢はどうした
れず我の足元にすがりつく⋮﹂
﹁泣き叫ぶお前を踏みつけ、その腹が身籠るほどの泥を飲ませ、耐え切
でも、俺達が勝たなければならない事実は変わらないのだから。
コウジュが居ない。
識し、気を入れ替える。
その空気に触れ、俺達はやっと闘わなければならない相手だと再認
直接向けられているセイバーはどれほどのものか。
その身に宿すおぞましい感情が辺りに充満する。
恍惚とした表情で語り始めるギルガメッシュ。
の泥を飲ませようかとな﹂
﹁我は今までずっと考えていたのだ。嫌がるお前をどう組み伏せ、こ
うだが。
とはいえ、相も変わらずその目に移しているのはセイバーだけのよ
ギルガメッシュはこちらの事などお構いなしに言葉を続ける。
?
こ と の は
﹂
ギルガメッシュが言の葉を、感情を乗せて発する度に空気は歪むよ
うに穢れていくように感じる。
﹁その穢れきった姿を早く見たいものだ
だちます
そのような言の葉を述べた事を後悔しなさい
﹂
﹁そのようなおぞましい事を考えられていたと思うだけで身の毛がよ
つける。
それに対し、既に再び戦闘態勢を取っているセイバーも言葉を叩き
瞳孔が開ききった目でセイバーを見るギルガメッシュ。
!!
黄金の聖剣をその手に構え、ギルガメッシュに向ける。
!!
﹂
﹂
!?
﹁それが何だってのよ
﹂
﹁人というものは死の瞬間にこそ価値があると思わんかね
生存と
あらゆる悪性、人の世をわけ隔てなく呪うモノが入っている﹂
﹁聖杯よりうみ出る力、際限なく溢れ災厄を巻き起こす。この中には
﹁お前は何が望みなんだ
る彼女にはその命が続く限り耐えて貰わねばならん﹂
﹁それはできない相談だ。聖杯は現れたが、まだ不安定だ。接点であ
ヤの事を聞く遠坂。
自身としても聞きたい事は山ほどあるだろうが、それを置いてイリ
﹁綺礼、さっさとイリヤを解放しなさい﹂
確か、遠坂にとって言峰は兄弟子に当たるんだったな。
言峰が厭らしい笑みをして話し出す。
はな、喜ばしい限りだ﹂
ましてや、あの忌々しい衛宮切嗣と遠坂の血筋の者がこの場に居ると
﹁私も、ギルガメッシュではないがこの時をどれほど待ち望んだ事か。
込まれたイリヤのみとなった。
残されたのは、俺と遠坂と言峰、そしてその後ろにある聖杯と埋め
そして剣の応酬を続けたまま、この場を離れていった。
め、剣をぶつけあい始める。
その言葉と同時に、セイバーとギルガメッシュは互いに距離を縮
こそだ
﹁ああ、それで良い。それで良いぞセイバー。そのお前を組み伏せて
!!
?
!!
674
!!
いう助走距離を持って高く飛び、空へ届き、尊く輝く。私はその輝き
こそを見たいのだよ﹂
興奮冷め止まぬといった風に声を上げ、離し続ける言峰。
﹁10年前の火災は悪くなかった。あのような地獄にこそ、魂は炸裂
する。人における最高の煌めきがなぁ。無念のまま朽ちてゆき、叫ぶ
人間に胸打たれるものがあっただろう
歪な形ではあるが、私ほど人間を愛している者は居ない。
故に、私程聖杯に相応しい者も居ない﹂
悦に浸った言い方で自身の望みを言いきった言峰を俺は、溢れんば
かりの怒りのこもった目で見ている事だろう。
自分自身こうやって自己評価できるのが不思議な位に腹が立って
いる。
いつだったかコウジュが言っていたな。﹃心は熱く、頭は冷静に﹄、
と。
自分の事でなんだが、心が熱くなったら頭が冷静でいられる事は無
いと思っていたが、案外あるもんだ。
俺は今あまりの怒りに一周回って冷静になったのであろう。
隙を探せと頭が考える。
けど、今すぐに近づいてぶん殴りたい自分も居る。
放っておけるか
破壊という形で人の輝きを見たいと、バカげた
こいつは倒すべき〝悪〟だ
!!
最初からその事実は変わらなかったが、今、俺の中で再認識する。
倒さなければならない。
だったら俺はこいつを倒す。
こいつが居ると、また大多数の人間が不幸になる。
けど、これだけは言える。
正義とか、悪とか、俺はまだしっかりと答えが出たわけじゃない。
俺は許せない。
ことを言うこの男を。
?
675
?
あの大火事を自身の欲望の為に起こしたこの男を。
許せるか
?
〝人〟という存在をここまで自身の為に貶める男を。
許せるか
?
﹁⋮遠坂﹂
﹁⋮ええ、援護するわ﹂
小声で隣に居る遠坂に声をかける。こちらの考えに気づいてくれ
たようだ。
﹁ふむ、来るか。あの小娘さえいなければこちらの優位は動かん。だ
が、聖杯が完成するまでしばらく猶予があるな。よろしい、時間を潰
そうではないか﹂
言峰がそう言い切る前には俺は走り出していた。
・
・
・
﹂
それを言峰はギリギリのところで回避し、拳を打ち込んでくる。
それを凌ぎ、払い、時には回避し、再び、斬りかかる。
遠坂は俺の後方から、ガントや宝石魔術でこちらを駆使し、俺の援
護をしてくれる。
だが攻めきれない。
先程からその繰り返しだ。
ア
ン
リ
マ
ユ
その原因は言峰の背後にある聖杯の所為である。
﹁ほら、次だ。この世全ての悪をその身に浴びろ﹂
触手が、泥の塊が、俺と遠坂に向かってくる。
言峰が操っているのであろう、聖杯。
いや、アンリマユと呼ぶべきか。
676
﹁はぁぁッ
衛宮切嗣の遺志を継ぐ者が⋮﹂
?
俺は、言峰に干将・莫耶で斬りかかる。
﹁この程度なのか
!!
アンリマユは俺達を飲み込まんと人一人に対して過多な量でこち
らに触手として迫って来る。
時に泥を自身で飛ばして、時に言峰がその手で巻き上げてこちらへ
と飛ばす。
弾幕、とまでは行かなくても当たる訳にはいかない以上、そう易々
と潜り抜けられるものではない。
直感的にあれに触れてはいけないことは分かるが故に、一発も受け
ないようにしようとすると決め手に欠けてしまう。
﹂
・・
唯一の救いはそれほどスピードが無い事か。
﹁っぜぁぁぁ
絡みつこうとする触手を俺は剣で弾き、横へ跳躍する。
本来なら出来ないのであろうが俺が今持っている干将・莫耶はコウ
ジュに見せて貰った方だ。
こちらの干将・莫耶の効果は凍結。
斬りつけた場所が凍りつき、固体となった触手を弾く事が出来る。
出来るとは言ったがほんの数瞬だ。
凍った場所をすぐに後から後から違う泥が覆い、再び俺を追う。
だが、その刹那の間に避ける程度の事はできる。
﹁投影か⋮。それにしてもよく避ける﹂
予想の範疇と言わんばかりにこちらの抵抗を見物する言峰。
くそ⋮、やはりアンリマユが邪魔で近づけない。
﹁さて、次はそっちだ﹂
今度は泥の触手を遠坂の方へ向わせ始める。
﹂
しかも、今までより数も大きさも段違いとなっている。
﹁きゃっ
きを止める。
何とか障壁で弾いたようだが、咄嗟の事で大きく体勢が崩れてし
まっている。
﹂
677
!!!
遠坂は魔術で弾きながら避けようとするが、一本が遠坂に当たり動
!?
そんな遠坂を待ってくれるはずもなく、残りの触手が迫った。
﹁ちっ
!!
遠坂の方へ走りながら手元に在った干将・莫耶を遠坂の方に投げ
る。
﹂
だがその程度ではせいぜい数本かすった所を凍らせるだけだ。
ト レ ー ス・オ ン
﹁投影開始
続けて凍結の方の干将・莫耶を投影し投げる。
2回、3回と続け、最後は自身で遠坂の前で触手をいくつか凍らせ、
遠坂と共にその場を離れる。
﹁ごめんなさい、助かったわ﹂
﹁お互い様だ﹂
言葉の通り、先程から言峰に迫る時に、後方からの遠坂の援護で助
かった部分が多々ある。
﹁私はここだ。早く来たまえ﹂
手でクイッと、掌を上にしてさっさと来いと言わんばかりに手招き
して言峰が挑発してくる。
悔しいけど奴のいう通りだ。
距離を一向に縮める事が出来ない。
次はどう動くべきか⋮。
コウジュ達鍛えられたからか、余裕はないが余力はある。
﹂
そんな風に次の行動をどうするか悩んでいると│││││。
﹁うぐっ
﹁﹁セイバー
﹂﹂
﹂
?
言峰の横に着地して現れるギルガメッシュ。
﹁ふむ⋮、そうだな。聖杯の方もまもなく完成のようだ。頃合いか⋮﹂
﹁いやなに、そろそろセイバーに泥を飲ませようかと思ってな﹂
﹁ギルガメッシュ、どうした
よかった⋮、見た目に反してダメージは少ないようだ。
俺の腕の中から起き上がるセイバー。
﹁ぐっ、すいません士郎。思いのほか飛ばされてしまった⋮﹂
地に伏すセイバーを急いで抱き上げ、状態を見る。
その誰かはセイバーだった。
!?
678
!!
俺達の前に誰かが飛びこんでくる。
!!?
状況は変わらず最悪か。
でもまだ終わりじゃない。
セイバーも立ち上がり既に戦闘態勢。
遠坂も先程のダメージからは復帰している。
俺も、多少の疲れはあるが余力を残している。
意思もまったく陰りはしない。
陰る訳が無い。
なら、あきらめる要素がどこにある
不利な事は変わらない。
確か、この聖杯はアンリマユとなってはいるが、元来地脈からのマ
ナを吸い上げ貯めこみ、その魔力を以てして願いを叶える。
それが穢れているのだったか。
そしてその泥がギルガメッシュと言峰の中にあるわけだ。
ジリ貧。
まあ、そんなものは最初から分かってるさ。
﹃勝てるものを幻想しろ⋮﹄
頭に浮かぶのはいつものごとくあいつの言葉。
ピンチになったら助けてくれる正義の味方│││じゃないが、何故
かこういった場面で脳裏に浮かぶ紅い弓兵。
なんでだろうな。
またお前かと言いたくなるが、今は妙に心強い。
そして││、
﹃読むべき時に読め。その時になったら分かる⋮はず⋮﹄
最後が頼りなかったが、コウジュの言葉も思い出す。
同時にポケットに入れていたカードを取り出す。
その取り出したカードを通して俺の身体は熱に浮かされていた。
真力﹃エクスキャリバー﹄、このカードが指し示してくれる。
最初に渡された時はもう一本剣が必要だという、そのもう一本が何
か分からなかった。
以前使った時は意図せずして出てきた黄金の剣と鞘。
あれでは、ダメだ。
679
!!?
あれでは勝利とは言えない。
だけど、今なら分かるぞコウジュ。
どういう風にこれを使えばいいか。
﹃ヒントは俺の闘いの中にあるかもね
﹄
その言葉はギルガメッシュに殺されそうになった時、助けに入った
コウジュが俺に向かって言った言葉。
全部分かってて言ったのかコウジュ。
だったらとんだ策士だ。
一つ一つが布石で、今、俺の中で結ばれた。
今度こそ、このカードを自分の意志で使おう
思い出せ
聞こえてきたあの詠唱を思い出せ
﹁│││I am the bone of my sword︵身
!!
﹁士郎
﹂
﹂
勝てるものを幻想しろ
今はこの泥が邪魔だ
!!!
!!
剣から溢れんばかりに力が流れ込む。
右手にずしりとした重みが加わる。
!!!
勝つんだ
﹂
だが、そんなものは今の俺には関係ない。
下手な防御も意味は無いだろう。
この量じゃ避ける事はもう不可能だ。
しめていた泥が今は奔流として俺達を飲み込もうとしている。
でか、または言峰の気が済んだからか、先程まで触手として俺達を苦
俺達の目の前には、泥を飲ませるというギルガメッシュの意を汲ん
当然だ。
遠坂とセイバーが俺に声を掛けてくれる。
﹂
俺は2人の前に出る。
体は剣で出来ている︶
!!!!!!!!
!!
﹁真力﹃エクスキャリバー﹄
!!!!
680
?
!!
!
﹁避けてください士郎
!?
盾を
俺達三人を守る為の盾を、城壁のごとく俺達を守る壁を強く望む。
するとどこからともなく頭に思い浮かぶ盾のイメージ。
これは光の花弁
ア
イ
ア
ス
﹂
頭に浮かんだ盾を思い浮かべ、投影する
ロ ー・
﹁熾天覆う七つの円環
﹁何っ
﹂
!!?
﹁す、すごいじゃない
士郎
﹂
!!
﹁知らずに使ったの
﹂
?
それもこの剣の効果なのか
﹁言峰、泥を増やせ。我があの生意気な盾を突き破る﹂
今の俺に、負けるイメージなどどこにも浮かばない。
?
力が溢れると同時に思いが強くなっていく。
きでている様に見える。 俺自身も同様だ。
そういえば、遠坂達の疲れが吹き飛んでいる⋮というか、活力が湧
﹁ああ。コウジュがくれたとっておきってやつだ﹂
る。
セイバーが俺が黄金の剣を持っている事に気付いたのか聞いてく
﹁その剣のおかげ⋮ですか
﹂
﹁そういうものだったのか、今の﹂
﹁ロー・アイアス⋮、ギリシャの英雄アイアスが用いたとされる盾﹂
!!
同時に投影していた光の花弁が割れて消える。
やがて泥は量を少なくしていき、遂には迫っていた泥は消える。
る。
投影した花弁は俺達を飲み込もうとする泥を弾くように防ぎ続け
防がれるとは思ってなかったのだろう。
壁の向こう側から驚愕する声が聞こえる。
﹁馬鹿なっ
﹂
俺の目の前に光で出来た七枚の花弁が展開する。
!!!
!!
俺の可能性だって言う位だから今の俺が知る由もないだろうしな。
いや、今はこれが何かなんて関係ない。
?
!?
681
!!!
!?
淡々とそう言いながら、ギルガメッシュは自身の周囲に数多の宝具
を
今度はギルガメッシュもくるのか
が││、
﹁あ⋮れ⋮
﹂
俺は再び前に出て、盾を投影しようとする。
!!?
﹂﹂
どうなっているんだ⋮
﹁﹁士郎
何で俺の身体は動かない
める。
レー
ソードバレルフルオープン
ス
﹁﹁│││停止解凍、全投影連続層写⋮⋮⋮
フリーズアウト
﹂﹂
だが、無情にも俺の心に反して身体は動かず、宝具の軍勢が迫り始
﹁貫け﹂
ている。
その後ろには再び波となってこちらを飲み込もうとする泥が控え
ギルガメッシュが浮かべている宝具がこちらへ向かい始める。
だが、身体がその動きを追いかけるすることが出来ない。
ト
何をすればいいのかは頭に流れてくる。
早く盾を出さないと⋮。
まるで自分の身体では無くなったような感覚。
?
セイバーと遠坂が俺を支えてくれる。
?
勝とうとしているのに身体が付いてこない。
頭はもうろうとするどころかハッキリとしていて、心は戦おうと、
足がふらつく。
?
よって全て弾かれていく。
しかし、迫る宝具の軍勢は、俺達の後方から飛来した数多の剣に
!!!
682
!!?
身体を動かす事が出来ないのでそちらを見る事は出来ないが、聞こ
えてきた二つの声は知っているものだ。
あの男と、そしてもう一つはひどく予想外の少女のもの。
どうしてこの二人が⋮
そんな疑問も、目の前の爆撃とも言える宝具の応酬の中に消えて
いった。
683
?
﹂だな﹄
ソードバレルフルオープン
﹂﹂
﹃stage45:やっぱここは、﹁最初っからクライ
マックスだぜ
フリーズアウト
﹁﹁│││停止解凍、全投影連続層写⋮⋮⋮
﹂
﹁まったく不甲斐ない﹂
?
﹁ん
どうかしたかしら
なんでさ
いや、なんでさっ
﹂
そしてもう一人は│││、
片方はいつものニヒルな笑みを浮かべるアーチャー。
﹁ふふ、まあ良いじゃない
姉としては中々だったと思うわ﹂
その影は2人ともに先程聞こえてきた声の主であった。
2人は降り立つと同時にこちらへ振り向く。
紅い影だ。
剣の雨が止み、俺の前に二つの影が降ってくる。
自身の宝具を弾かれた事によるものだろう。
ギルガメッシュから疑問の声が上がる。
﹁む⋮
か衝撃波として感じるほどだ。
達の後方から飛んできた剣軍の数が十や二十では到底きかないから
轟音となって響くそれは、ギルガメッシュが射出してきた武器と俺
たす。
声と同時に、金属と金属がぶつかり弾かれる音が連続して辺りを満
!!!
!!!
?
思わず二回言ってしまった。
!!?
!?
684
?
││イリヤだった。
?
だが仕方ないはずだ。
俺は目の前に居る2人の向こうに居るギルガメッシュと言峰⋮の
さらに向こうに居るイリヤwith聖杯。
﹂
次に目の前に居るイリヤ。
﹁⋮
﹂
目が合うと、首を横にこてっと可愛くて傾げる。
言峰、どういうことだ
えっと、2人居るんだが
﹁器が二つ⋮
いや、そういう話は聞いていないが
?
﹂
イリヤが何かを思い出したのか、トトっと俺の方へ近寄ってくる。
﹁あ、そうだ士郎。ちょっとジッとしていてね﹂
回転させ、込められていく魔力を今にも放とうと荒ぶらせていく。
合わせて、エアと呼ばれたそれは剣の名に似合わぬその歪な刀身を
ギルガメッシュは宝具に魔力を込め始める。
俺とセイバーを苦しめたあの宝具だ。
具。
ギルガメッシュがその手に取り出したのはつい昨日も見たあの宝
る訳はない。
だが、そんな状況に着いていけてない俺の事をギルガメッシュが慮
﹁これならどうだ贋作師ども
もりだったが、どうやら気のせいだったようだ。
コウジュと居た事でそういった驚きに対する耐性が付いていたつ
もどう表現する事も出来ない驚愕だというのに。
俺からしてみれば、いや、俺の後ろに居るセイバーと遠坂にとって
しかし、あいつ等にとっては小さな事でしかなかったようだ。
﹁確かに些事だ。そちらは任せるぞ﹂
﹁ふむ⋮いや、些事か。器として機能しているのなら構わぬな﹂
何せ俺も意味が解らない。
持たない方がおかしいというものだろう。
ギルガメッシュと言峰が2人のイリヤに疑問を持つ。
⋮﹂
﹁私にもわからん。双子か⋮
?
?
?
!
685
?
正直この子は今の状況を掴めてるんだろうか
ヌ
マ
エ
リ
る事も出来ない。
エ
シュ
﹁天地乖離す開闢の星っ
﹂
防符﹃ヴィクトリウス﹄
血のように禍々しい赤に見える魔力の嵐が俺達に迫る。
﹁まだ一度しか使えないのだがね
﹂
とはいえ、俺は意識がはっきりしてるとはいえ動けないのでどうす
えたのかこちらへ今にも放ちそうだ。
近寄ってきたイリヤの向こう側でギルガメッシュは魔力を込め終
?
﹁何ィっ
﹂
ようなものを纏っている。
一言で表すならば獅子、その顔を象ったもので、黄金色のオーラの
だがその様相は盾には決して見えない。
その様子から盾⋮だとは思う。
る。
いった体でギルガメッシュが撃ち放ってきたものへと向かって掲げ
そしてアーチャーが宣言することで出てきたモノ、それを何とかと
ンだ。
その見慣れたカードはコウジュが渡してくれるものと同じデザイ
懐からカードを取り出し宣言するアーチャー。
!!!
愕が見て取れた。
それもそのはず、何故ならアーチャーが掲げている盾からこっちに
は一ミリたりともその奔流が流れてきてはいないのだ。
そのことに俺もまた驚いていた。
・・・・・
ギルガメッシュが持つあの歪な剣、あれの攻撃をまともな方法で防
げるとは分からない。
でもそれを目の前のアーチャーは行っている。
俺が渡されたエクスキャリバーを通して得た知識、それと眼の前の
アーチャーとの差異。
何とか状況を理解しようと頑張るが、どうにもうまくいかない。
身体が動かないのもあって現状がとても歯がゆい。
686
!!!
!!!!!!
未だ禍々しい嵐を放ち続けるギルガメッシュだが、その表情には驚
!?
そんな俺をさておき、傍まで来ていたイリヤはアーチャーの事など
お構いなしと言った風に、いつもの雰囲気のまま懐からカードを取り
出す。
﹁士郎、あなたはまだ力の使い方を知らなさ過ぎるわ。道具﹃フォトン
チャージ﹄﹂
イリヤの宣言、同時に俺の中へと何かが入っていき、満たされる。
﹂
身体の不調も、先程までが嘘のように身体が軽くなった。
﹁これは⋮
﹂
?
魔力が充足したからだろう。
先程までの虚無感はもう無い。
俺は一先ず立ち上がり、体の各部の調子を確認する。
でもそれでも、今の俺にはとてもありがたい。
やはり中々にピーキーなもののようだ。
可能性だけ。
詰まるこの剣で行えるのは俺が用いることが出来るかもしれない
恐らくあれは俺の可能性じゃなくてコウジュからの借り物。
だからアーチャーが用いている方法を理解できなかったのか。
はなかったんだな。
この剣は強力な手段を与えてはくれるが、そこまで万能という訳で
それにしても魔力欠乏か。
ようだ。
少し意味深な言葉も聞こえたが、とりあえず俺を助けに来てくれた
ね。まぁ意識を失わなかったのは流石と言っておくわ﹂
の魔力が足りなくなったのよ。連戦だし、それも仕方ないのだけど
陰で潜在能力の使い方は引き出せてるのだけれど、それを用いるため
﹁そしてあなたが陥っていたのは魔力欠乏症。エクスキャリバーの御
⋮汁
⋮見たいな感じかしら
ジュ汁をキャスターが煮詰めてそれをコウジュがカード化し直した
﹁こ れ は コ ウ ジ ュ の 魔 力 か ら 精 製 し た 魔 力 用 の 回 復 カ ー ド よ。コ ウ
?
﹁イリヤ⋮長くはもたない。避けるなり何なりしてくれると私として
687
?
は嬉しいのだが
たアーチャー。
﹂
﹁えっと、イリヤ⋮で良いんだよな⋮
﹂
?
うか﹂
何がでもなの
?
天然か
首をかしげるイリヤ。
﹁⋮
﹂
﹁そうだな、うん、イリヤだ。ありがとう回復してくれて。でも避けよ
ただ、向こうで器にされてる子もイリヤさんにしか見えません。
そうですねあなたはイリヤさんにしか見えません。
﹁私以外の何だと言うの
﹂
そんなイリヤを見て冷や汗を見ながらも諦めた顔で前を向き直し
それに対して軽く答えるイリヤ。
ヤに言った。
いつもの笑みを浮かべながらも汗をかいているアーチャーがイリ
﹁あ、うん、分かった﹂
?
﹂
を含んでこちらを見たぞ
﹂
士郎
﹁ああ、もう
﹁キャッ
あのアーチャーが
!?
かった。
あれ⋮⋮
いや、とにかく今は避難を
⋮⋮お疲れさまです。
アーチャーが防ぐのをやめ、回避したようだ。
た。
次の瞬間にゴォッと、退避する俺達の後ろを力の奔流が通りすぎ
今しなければいけないことを思いだし、退避する。
!!
?
そ し て 後 ろ の 二 人 に も 声 を 掛 け よ う と す る が そ こ に は 誰 も 居 な
俺はイリヤを抱えてその場を離れる準備をする。
!?
!!
!!
今俺が避けようって言った瞬間アーチャーが目にありがとうの意
天然で言っているのか
!?
!?
688
?
!?
?
﹂
﹁ちょっと士郎
い
聞いてるの
いい加減お姉ちゃんを降ろしなさ
!?
あれ、そういえば姉ってなんだ
俺が聞くと挙動不審になるイリヤ。
﹂
﹂
﹁あ⋮。いや、えと、今は良いじゃない
?
﹁士郎
ご無事ですか
﹂
メッシュ達の方を見直すと、声が掛かった。
そんな風に無理矢理納得というか後回しにすることを決め、ギルガ
うん、まぁ⋮戦闘中に聞くことではないか⋮。
?
﹁そういえば姉ってなんのことなんだ
さっきも言ってたような気がするけど。
?
それなりに離れたから大丈夫だろう。
腕の中でイリヤが暴れたので慌てて降ろす。
!!
!?
﹂
!?
﹁⋮
﹂
誰の事を言ってるんだ
﹂
﹁ああ、そういう段取りだったわね。どう驚いた
イリヤがセイバーと遠坂に話しかける。
段取り⋮
話しは俺を置いて進んでいく。
﹁正直⋮まだ意味が分かりません﹂
﹁私はどうせこんな事だろうと思ったわよっ
﹂
?
?
﹁予想外というか⋮ある意味予想通りの人物のところよ﹂
﹁え⋮いや、なんというか⋮⋮﹂
だ。心配しない筈がない。
どこぞのホラーモノじゃないが、忽然と後ろに居た人間が消えたの
﹁2人ともどこに行ってたんだ
声の主は、先程忽然と姿を消したセイバーと遠坂だった。
﹁士郎無事⋮よね⋮そうよね⋮⋮﹂
!!
だからなんなのさ⋮。
頭を抱えて言うセイバーに、自棄になったかの様な遠坂。
!!
?
689
!!
?
﹁ふふん♪ 説明しよう。なぜなにコウジュの時間だよ∼♪﹂
突如響く声。
それを聞いて、遠坂が自棄になって﹃どうせこんな⋮﹄なんて言い
なくなった訳が分かった。 声に次いで、空間からにじみ出るように現れたのは死んだとされて
いたコウジュ。
何故に不死殺しをくらって生きているのか⋮。
私
の元サーヴァントで
イリヤスフィール
生きてたのは嬉しいけど、ちょっともやもやしてる俺は悪くない。
◆◆◆
まったくもう、と溜息をつく。
少し予定より遅刻気味に表れたのは、
あるコウジュ。
彼女がキャスターの転移魔術でランサー、アサシンと共に現れた。
そのコウジュを見て、離れた所に居る言峰神父とギルガメッシュが
驚愕を露わにする。
そしてそれを見てコウジュがドヤ顔をするので凜に頭をはたかれ
てしまった。
思わず苦笑する。
ほんとこんなので良いのかな、聖杯戦争って。
なんて緊張感の無い戦争だろうか。
大体コウジュの所為って言えばいいのだろうけど、やっぱり私はコ
ウジュの御陰と言いたい。
690
私がこうしてここに立って居るのもコウジュの御陰だ。
本来ならば、私の人格は既に壊れていなければおかしいのだ。
この身はホムンクルス、聖杯の器として調整された身だ。
ホムンクルスと魔術師、衛宮切嗣との間に生まれた存在。
私はこの聖杯戦争で死ぬはずだった。
それはこの身体が聖杯の器である以上仕方ない事だ。
何故なら聖杯戦争が進むにつれ私の中の杯は満たされていき、最後
にはその中身が〝私〟を消して本当の意味で〝器〟になる筈だった。
もし、〝私〟が残ったとしても、この身体はもうボロボロ。
この聖杯戦争の間さえ持てば良いといった程度にしか調整されて
いないから、もったとしてもあと10年も生きられない身体。
それをコウジュは助けてくれた。
ホントにコウジュはお節介。
勿論嬉しいのだけれどね。
ヒトガタ
本人曰く、私を助ける為にやったことは単純らしく、精巧に作られ
た私の人形にコウジュがキャスターの力を借りて、私の〝器である〟
という概念を切り取って人形に移したらしい。
そうすることで、私の中に貯まる筈のものは既に溜まっていたもの
も含めて人形の方に流れていくという寸法だ。
それが、今言峰神父の後ろにある聖杯を召還する為に使われたもの
だ。
だから私は自我を失うことなくこの場に居ることが出来ている。
確かにこれだとこの聖杯戦争の為だけに調整されたこの身は20
幾ばくかしか生を全うできないだろう。
けど、それでもいい。
私はもともとこの聖杯戦争に勝ちなど求めてはいなかった。
ただ、見て見たかった。切嗣が選んだ子を。
だから最後は死ぬつもりだった。
正確には死ぬしかなかった、かしら。
でもコウジュがそれだけじゃダメだって、絶対に助けると言ってく
れた。
691
幸せにしてくれると言ってくれた。
寿命に関してもどうにかすると言ってくれていたけど、これ以上は
望み過ぎだわ。
だから、残り少ない命をコウジュの言う幸せの中で使ってみせる。
そのために私も戦うという選択肢を選んだ。
コ ウ ジ ュ が 持 つ カ ー ド の 中 で、特 に 適 正 が 高 か っ た 〝 夢 幻 召 喚
﹃アーチャー﹄〟のカード。
それを使った状態で私はここに居る。
誰かの後ろに隠れずに闘えるのは良いものね。
士郎のピンチにさっそうと現れる姉⋮良い感じ。
改めて、士郎を見る。
〟がたやすく幻視できる。
〝私〟が向こうで聖杯に半分取り込まれてるのに〝私〟が目の前
に居る。
それで状況が分からなくて頭の上に〝
これが萌えってやつね
ゲフンゲフン⋮。
今のは忘れてちょうだい。
まっちゃったかな⋮
イダー達と会う機会が多くて⋮、ちょっと⋮、ほんのちょっとだけ染
最近、人形を変わり身にコウジュのマイルームに潜伏してたからラ
?
けど、そんな士郎を見て楽しんでいたから、ついつい私が姉だって
ことを言ってしまった。
助けて
﹂
まあ、誤魔化せたから良いわよね
﹁イリヤ
?
凜にセイバー、そして士郎がコウジュを問い詰めている。
それを押さえようとするもダメだったらしく、涙目で助けを求めて
きたコウジュ。
でも助け舟は出さないでおく。 その方がおもしr⋮最後まで士郎達に言わずに立ち回ろうとした
692
!!
ああいうゲームもばかにできないものよね⋮。
?
!!
﹁諦めなさい。あなたが悪いんだもの﹂
!!
のはコウジュだし、コウジュが訳を話す方が良いと思うのよ。
そして私はコウジュから目を反らすように言峰神父たちの方へと
目を向ける。
そちらではアーチャー、ランサー、アサシン、カバー要員でキャス
ターが闘っている。
泥を使う言峰神父と宝具の雨を降らせるギルガメッシュにいまい
ち決定打を与えられていないようだ。
やはり、コウジュの言う様に厄介だ。
特に泥は触ってはいけないそうだし。
⋮仕方ない。
士郎達への説明をコウジュに丸振りする以上、私はこちらに加戦し
ようかな。
どうもあの金色を見ていると心臓の辺りがきゅーっとするのよね、
なんつーかこう、アイツの心臓えぐりとりてぇってな感じにもやもや
693
とするし。
それに、人形とはいえ私を裸にして見るからに身体によくなさそう
な泥にまみれさせながら宙に浮かせるという公開処刑を現在進行形
歳近くなのに。
をしてくれている奴らだ。
見た目幼女でも私は
の一つってこいつらにあるんでしょう
ドウシテクレヨウカシラ⋮。
まぁいいわ。
最凶の近くに居たのだもの、想像は容易い。
なら簡単だわ。
最強の自分を思い浮かべる事。
私が貰ったこのカードを使いこなす方法はただ一つ。
もう一人の弟君にも手伝わせて、消し炭にしてあげるわ。
別に手伝っちゃいけないなんて言ってないし、ふ、ふフフフフ⋮。
コウジュは士郎にあいつらを倒させてあげたいって言ってたけど、
?
あと、コウジュに聞いたんだけど切嗣が会いに来れなくなった原因
乙女の柔肌をさらした罪は重いわ。
××
フフフフフフフフ。
◆◆◆
幼女説明中。
ってわけで、俺の目の前には驚いている士郎。
そして向こう側ではギルガメとマーボーがこちらを向いて驚きな
がらアーチャーたちと戦っている。
あ、イリヤがそこに加わった。
イリヤのUBWには俺の武器が登録されてるからなんかえげつな
いな。
というか相変わらずアーチャーのクラスなのに弓使う奴が居ない
若干2名、士郎の後ろからすごい剣幕で見てくるけどさておき、士
郎に対して苦笑する。
﹂的な
今の今まで自分が死にそうだったってのに、俺の心配するだなんて
本と御人好しだねぇ。
たぶん、金ぴかが自信満々に﹁不死殺しで貫いてやったわ
事を言ったんだろう。
うわー容易く眼に浮かぶぜぃ。
さておき、どうだろうかこの状況。
況だ。
金ぴか&麻婆神父vs全サーヴァント&士郎・凜・イリヤという状
ど︶のでこちらの戦力はかなり充実している。
予定していた通りに事を運ぶことが出来た︵所々に失敗はあったけ
!!
694
のは何故だ。
と、とりあえず、士郎達に説明する前に倒さないで⋮ね
本来の意味で俺が死ぬ事なんてそうそうねぇよ﹂
﹁コウジュ⋮生きてたのか⋮﹂
﹁俺が死ぬ
?
俺に詰め寄ってきていた一人、士郎に視線を戻し質問に答える。
?
自分でやって思うが、もうこれ消化試合だよね。
まぁスケドを使ったサヴァ勢は多少戦闘力が削られているし、ライ
ダーは桜ちゃんに付いてもらってるから居ないけど、いざとなったら
すぐに呼べる状態だ。
イリヤなんて、俺のカードを使えちゃったから戦闘技術を学び出し
て、イリヤが人形と入れ替わってからずっと引きこもって練習してた
から普通に今の士郎より強い。
練 習 相 手 に は 事 欠 か な か っ た し ね。ラ イ ダ ー と か さ。腐 っ て も
サーヴァントだし。
ライダーに関しては違う意味でそっち方面行きそうなので桜が心
配してたけど⋮まあそれは別の話だ。
まぁそんなわけでイリヤも戦力としてこの場に居たりする。
あ、そだ。
軽くネタばれ含めて状況の整理と行くか。
695
俺はあの教会を出た後、迎えに来たキャスターと共にマイルームに
向かった。
マ イ ル ー ム に は イ リ ヤ、ア ー チ ャ ー、ア サ シ ン こ と 小 次 郎、ラ ン
︶が居た。
サー、桜、ライダー、そしてベッドに寝かされてるバゼットさん︵で
合ってるよね
皆で避難したみたいだ。
凛はどうしたんだって
アゾられそうで怖いけど⋮。
あ、そう言えば途中でセイバーと凛が消えただろ
気付いてる人も居るだろうが犯人は俺です。
ツミキリ・ヒョウリでちょちょいとね
をして上げた。
足元の空間まで斬って繋げて、この部屋に落として生存報告+回復
?
?
してもらってたし、これが終わったら殴られる覚悟もできてる。
ちゃんとキャスターにいざという時はすぐに回復に入れるように
それは⋮あれだ、原作通りにするためだ。うん。
?
俺が教会に行ってる間はキャスターに衛宮家の事任せといたんで
?
して上げたっていうか俺が来るの遅れたのとか色々俺のせいでも
あるから回復させていただいたが正解だな。
さてさて、そろそろ話を進めようか。
﹂
﹁さてさて士郎、聞きたい事がちょっとは﹁山ほど﹂⋮うん、山ほどあ
るだろうけど、今あんたは何がしたい
原作なら俺達はここに居らず、士郎とセイバーのみで倒した。
他のルートだと違うらしいけど、俺が基礎にしたルートはそうだ。
だが、この場には俺達が呑気に会話してられる程に戦力が余って
る。
だから選択肢は幾つかある。
仇を打つというのも良いだろう。
ただぶん殴るというのも良いだろう。
どうなるにせよ、出来ればここは士郎にどうするかを決めてもらい
たい。
どうあれ俺のすることは変わらないし、折角なので士郎には色々と
整理する為にもここで因縁を終わらせてもらいたいと思っている。
さてさて、返答や如何に
俺の問いに、少し考えた後そう答えた士郎。
その瞳は決意に満ちている。
俺が問うまでもなく、そうするつもりだったと言わんばかりに。
その瞳に、少し見入ってしまう。
これが主人公ってやつなのかねぇ。
﹂
自分には無い決意を秘めた瞳は、とてもうらやましい。
﹁⋮ちなみに理由は
﹁はた迷惑だ﹂
そして再び、今度は言われたことに対して少し反応が遅れてしま
う。
は
え、どういうこと
696
?
﹁⋮あいつらを倒す。それだけはしないといけない﹂
?
少し遅れて、再び聞き直す。
?
?
?
﹁はた迷惑
﹂
﹁ああ⋮。あいつらが目指してるのは他人に迷惑を掛ける事でしかな
い。だったら理由はそれで十分だ。少なくとも俺の中であいつらは
悪だ﹂
そう決意を込めた瞳で言う士郎。
その意味を理解し、俺は腹を抱えながら笑ってしまう。 は、腹が痛い。
ラスボスに対してはた迷惑だってよ
うんうん、確かにあいつらははた迷惑な存在だな﹂
何だよその近所の迷惑ばっかり掛ける人みたいな評価は
ぜ
切嗣氏の死因は戦争終了時に浴びた泥が原因でもあるからな。
俺は一応、士郎があいつに個人的な復讐しても良いと思ってたんだ
士郎からそんな風に聞けるとは思わんかった。
﹁まぁいいじゃんいいじゃん。これは嬉しくて笑ってんのさ。いや∼
迎えるのは嫌だったんだ。
原作は好きだが、目の前に居る人たちがあんな殺伐とした終わりを
でも、それが何よりもうれしい。
自分で言うのもなんだが、大分俺に毒されたね。
そんな士郎がこんなことを言うのだ。
会ってそれを体感した。
原作とか、二次元の世界から知っていた知識ではあったが、実際に
いや、ものだった。
只々周りを救うという歪なものだ。
正義の味方を目指していた士郎、でもそれは自身を勘定に入れずに
笑うの止めらんないわ。
でもゴメン。
少し不貞腐れた様に言う士郎。
﹁笑うなよ⋮﹂
﹁はははっ
!
!
いつに不幸にされたんだ﹂
切嗣氏がイリヤに会いに行けなかったのって、アインツベルンの爺
697
?
!
それにもう一つ、後で詳しい事は言うけど、イリヤもある意味であ
?
が拒否してたのと、泥の呪いのせいで身体機能やらなんやらが落ち
て、無理矢理イリヤに会う程の力が無かったからだった筈。
そういやそのイリヤさん上手く闘えてるかな
チラッとそっちを見てみる⋮と⋮。
うん見なかった事にしよう。
俺の所為
な。
この状況で考え事を出来る士郎は、原作の士郎より肝が据わってる
視線を士郎に戻す。
でね
とりあえず頑張ってるみたいだね。ほんと話終わる前に倒さない
?
?
じゃ聞けないけど仇討ちじゃない筈だ﹂
﹁なーるほどねー。くく、ホントにそれで良いんだな
﹁ああ。あ、でも⋮﹂
ふっきれた表情でそう言う士郎。
﹂
そして最後に何かを思い出したようだ。
﹁なんさ
﹂
﹁だから俺はあいつを倒せさえすればそれで良い。親父の望みも、今
考えを纏めた士郎が俺に宣言する様に言う。
更に未だ飽き足らずに何かしらの災害を起こそうとしてる﹂
﹁確かにあいつは、あの大火事を起こしたし、たくさんの人を殺して、
デスヨネー。
?
く分からないが不幸の源だったんだろ
それにしてもイリヤか。
そんなに不満かよぅ⋮。
﹂
コウジュがの部分をさりげなく強調して言う士郎。
?
コウジュ何か用
﹄
今向こうで無双してるんだけどどうやって聞こうかね
﹃なに
突然頭の中に声が響く。
あ、念話か。
?
?
﹁いや、イリヤがどうなのかなって。コウジュが後でっていうからよ
?
698
?
?
その手があったな。
前衛で親の敵と言わんばかりに︵実際にそうだが︶闘っていたイリ
ヤがバックアップに回りつつもこちらに念話を繋げてくれたようだ。
﹃いや、作戦変更の可能性が出てきたからさ。士郎は別に仇討ちをす
る気はないみたいなんよ。ただあいつらを倒せれば良いってさ﹄
﹃ふ∼ん﹄
﹃ついでに言うと、切嗣氏が仇討ちを望む筈が無いと思うってさ﹄
﹃分かったわ。士郎がそういうなら私も遠慮しとくわ﹄
さすがお姉ちゃんってところだな。
色々と吹っ切れたからか、最近は完全にそうだ。
たまに俺に対してもそんな態度を取ろうとするから困りものだけ
ど。
そんなしょうもない事を考えているとイリヤはけど⋮と話を続け
た。
⋮何
﹄
﹄
699
﹃けど⋮、個人的な恨みがあるから復讐自体はさせてもらうわ﹄
念話ごしなのにものすごいオーラを感じる。
というか、遠くからホントに感じる。
だって、黒いオーラが幻視できるもの。
いつからイリヤはビジュアルユニットのブラックハートを付ける
ようになったんだろうか。
いや、どちらかというと黒色のブースト
身体から噴き出すように見えるから。
倒したら通常より経験知貰えそうだな。
同時に呪われそうだけど。
それはおいといて、個人的な恨みって何だろ
﹃ところで個人的な恨みって⋮
聞いたら後悔する気もするけど、聞かずにはいられない。
?
?
﹃ふフフ、ふフフフフフフフフ⋮あのね、あいつ等の後ろにあるのって
?
そういえば麻婆たちの後ろにあるのは、とある界隈で高評価を受け
あー⋮。
?
始めている造形師なキャスターさん渾身の作品である身代わりイリ
ヤちゃん︵剥かれた状態︶でしたね⋮。
﹃私の身代わり人形とはいえ、器になる程の精巧に出来たモノなのよ
それが裸にされて晒しものに⋮﹄
時間すら凍らせそうなほど冷たい声なのに、燃え上るような激情が
その声には含まれてるようような気がした。
麻婆に金ぴか、南無。
まぁでも態々裸にしたあいつらが悪いし仕方ない。
ロリを裸に剥くなんて重罪だもの。
﹄
大人しく俳句を読むといい。
﹄
介錯はしてやるさ。
﹃コウジュ
な、何さ
?
が聞かなかったことにした。
念話の最後にこれでストレス発散ができるわと聞こえた気がした
﹃了解っす﹄
﹃予定通り聖杯の方は任せるわ﹄
その声に驚きつつ、返答する。
たのかイリヤが呼び掛けてきた。
憐みの目で麻婆たちを見ていると、話さなくなった俺を不審に思っ
﹃わっほい
!!? ?
魔法少女リリカル☆イリヤ始まります⋮。
700
?
﹂
﹃stage46:なんというか救われてなきゃぁダ
何故生きている
メなんだ﹄
﹁貴様
﹁言うと思うのかい
﹂
どうやらあちらさんも聞きたい事があるようだ。
同時に金ぴかが俺へと声を掛けてくる。
それに合わせ、先程までの攻防は一度止まる。
一通りの説明が終わり、俺達は前線へと来た。
!!
ンサー達の方も種は一緒だよ。種も仕掛けも御座いますってね
﹂
﹁ふふん、仕方ないからヒントだ。ギルガメッシュの言ってる方もラ
それに対し俺は指を一本立ててニヤリと笑う。
今度は麻婆が聞いてくる。
のか﹂
﹁出来れば私も聞いてみたいものだな。何故ランサー達が生きている
けどね。
とはいえここからは死ぬつもりないから、殺られる前にヤッちゃう
あった場合はどうなるか分かったもんじゃないしな。
それに、ギルガメッシュの宝具の中に〝殺し続ける〟なんて宝具が
ラーニングの為でもなければ早々にやりたいことではない。
なんだかんだで結構覚悟が要るんだぞ、あれ。
まぁでも何回も殺されるのは勘弁してほしい。
相も変わらずはあんただよ。
何度でも殺してやるまでのこと﹂
﹁ふん⋮、相も変わらずのその言い様。まあ良い。一度で死なぬなら
?
数が豊富な⋮。そして譲渡も可能とは恐れ入る﹂
﹁ふむ⋮命のストックといったところか⋮。それも回数制限もしくは
それに対し言峰は一瞬考えるそぶりを見せた後、一つ頷いた。
?
701
!!
﹁何故バレたし⋮﹂
﹄
﹂
﹃当たり前だ
じゃないか
身長伸びなくなったらどうすんだよ
伸びるかどうかは置いとくけど⋮。
﹂
!!
﹁待てギルガメッシュ
ちっ
﹂
!!
﹂
!!
から⋮﹂
!!
﹁俺も行かせてもらうぜ
﹁私 も 行 か せ て も ら お う
﹂
!!
⋮ こ れ は
最初っからクライマックスだ
ふ む ⋮ 目 標 を 斬 り 捨 て る
!!
メ達の方へ走り寄る。
クー兄さん、小次郎も続けてアイアスの隙間から飛び出て、ギルガ
中々しっくりくるな﹂
!! !!
俺はロンギヌスの槍を取り出し、アイアスを飛び越え突き進む。
﹁おーけ│。マーボーと聖杯はこっちでだな。行くぜ
﹂
﹁コウジュ、さっき言った通りギルガメッシュはこちらで潰すわ。だ
答えは聞いてない。
から良いよね
ラストバトルっぽく舌戦とか無いけど、あっちが仕掛けてきたんだ
う﹂
﹁しゃーない。ホントのホントに最後のバトルだ。とっとと終わらそ
それをアーチャーとイリヤがローアイアスで防ぐ。
に判断し、自身も聖杯の触手から泥を撃ち出す事に切り替える。
マーボー神父もギルガメッシュを止めようとするが、無駄だとすぐ
!!
そう言って、ギルガメッシュが宝具の雨を降らせる。
貴様は何度殺せば死ぬのか、それを知るのも一興よ
﹁ふん、面白いではないか。かの英雄は十二の試練を超えたという。
この俺を倒しても第二第三の俺が現れ貴様を倒すであろうさ
﹁ま、まぁさておきだ。一度や二度殺した程度では俺は死なないのさ。
!!
大 き い 帽 子 か ぶ っ て る か ら っ て そ ん な 威 力 で 叩 か な く て も 良 い
何人かから同時にはたかれる。
﹁はうあっ
!!!
?
702
!!?
!!
何気に距離がある上に、この弾幕をくぐりながらだから中々たどり
着けない。
⋮なっと
﹂
﹂
3人で弾幕を潜り抜けながら、時には武器で弾きながら向かう。
⋮多い
﹂
!!
﹁さっすがに
!!!
数だけだ
泥は弾くな
っりゃぁぁ
むっ
﹁けどよぉ
﹁確かに
!!
!
!
た。
!!?
﹂
それによって泥は登る対象を失う。
ロンギヌスを一度消す。
なるほどな、これに二人の武器は飲まれたわけか。
泥が生物のように手元に上ってくる。
慌てて振り払うように振るうが無駄だった。
弾いてしまった。
そしてついに泥を避けきれず、自らに当たるよりはとロンギヌスで
のは難しい。
俺もロンギヌスを振り回すが宝具は弾けても泥に触らないという
裕ぽく振舞うが実際は無いです。
某ピンクの髪をした写メ取るのが趣味な騎士様の口マネをして余
﹁厄介⋮ちょっとだけ⋮
俺は慌てて2人の射線上に入る。
得物が無い二人にはいささか捌ききれない。
量が量だ。
そして小次郎とランサーがバックステップをしつつ避けて行くが
近くに泥に飲み込まれていくそれが見て取れる。
その手にあの紅い槍はもう無い。
続いて、小次郎の援護に回ったランサーも飛び退く。
﹁マジかよっ
﹂
が寸前まで居た所に泥に取り込まれていく小次郎の物干し竿があっ
小次郎の方を見ると、小次郎はその手に何も持っておらず、小次郎
比較的近くに居たランサーが小次郎への射線上に入る。
三人で進んでいる途中で、突然小次郎が離脱する。
!?
!!
!!
!!
703
!!
だが、無駄だった。
泥は地面にぐちゃりと落ちたかと思うと、身をねじるようにグネグ
適当にシールド
10
﹂
ネと形を変え、そしてこちらへと再び飛んできた。
﹁キモイっての
×
!!
﹂
を10個眼前に出した。
﹂
﹁悪ぃな嬢ちゃん
﹁恩に着る
同時に2人と共に後方へ下がる。
!
他愛もないではないか
なんか腹立つんですけどあいつ
﹂
!!
サイカ
俺が出したのはツミキリヒョウリ、サイカヒョウリの片手ダガーv
!!
絶望だ。 ﹂
予定より早いけどツミキリオモテ
この世全ての悪が中に入ってるチートスペックな身体とかどんな
身は押しつぶされる気がするから当たりたくはないのに。
まったく、いくら不老不死でもあの泥に触れた瞬間に俺の脆弱な中
一般人
やっぱり生半可な盾では圧倒的な質量の前では意味をなさないか。
へ向かわせる。
しかし、言峰はそれ諸共に飲み込もうと大きな波を泥で作りこちら
き、波の進行を防ぐ。
今度は二人が投影した大剣をいくつも格子状に地へと突き刺してい
俺達三人とスイッチする様に再びアーチャーとイリヤが前に出る
!!!!
﹁ふははははは
だがすぐに、すべての盾は飲み込まれていった。
それに対抗するために盾の数を増やしてみる。
る。
泥は波のように質量を持ち始め、俺が出した盾を飲み込まんと迫
言峰は俺達が引いた事に気を良くしたのか続けて攻撃してくる。
﹁ほう、いくら不死者でもこの泥は避けるのか。ならば
﹂
それを見て、俺は言葉通りに適当にシールド関係のランクが低いの
!!
!!!
﹁調子にのんなぁぁ
オモテ
!!
704
!!
!!
でもだからこそ対処法は考えてある。
!!
erをそれぞれ一本ずつ。
込められた概念はツミキリの方が﹃絡まりし事象の鎖から、その姿
を表すとされる断罪の小剣。全ての悪しき罪を調律し、怨念や苦悩を
絶大な力へと昇華させる﹄、サイカの方が﹃絡まりし事象の鎖から、そ
の姿を表すとされる連鎖の小剣。哀しき事象の因果律を集約させ、そ
の身に取り込み力と成す﹄。
﹂
つまり、この世全ての悪だろうと濾過して自分の力にする
﹁スイッチだ
一人、泥と宝具の雨の中を駆ける。
泥は斬り、宝具は弾く。
地面に擦りそうなほど体制を低くし、最短距離を走る。
とは言え一人では限界がある。
宝具と泥の雨を抜けてもまだ泥の波が残っているのだ。
しかし心配する必要はない。
後ろには心強い味方がたくさん居る。
﹃チャージ完了よ﹄ ﹃おーらい﹄
念話を通してキャスターから言葉が届く。
同時に俺は地に両の剣を刺すようにして身体を止める。
目の前には丁度泥の海。
あの泥は魔力の塊でもある。
いや、よくて拮抗か。
それによって波は押し遣られた。
そこへ叩き込まれるいくつものキャスターの砲撃。
﹁ふぉいやーってね﹂
と向かってきた。
空中へと飛び出す俺の身体、それを追う様に波はうねりながら俺へ
向ける。
それを前に、身体を止めるために使う慣性を地を蹴ることで上へと
!!
いくら神代の魔女と呼ばれるキャスターといえどあれだけの密度
には拮抗がやっとのようだ。
705
!!!!
キャスターには結界も頼んでるし、仕方ないか。
けど、それで十分。
道は開かれた。
﹂
空中に居た俺は宙を蹴り、金ぴかたちに肉薄する。
﹁ちぃぃっ
舌打ちをするギルガメッシュ。
金ぴかはそのまま空中から大鎌を取り出す。
あれってまさか⋮セイバーを追い詰めるのに使われてた鎌
アニメで見たことのある鎌、それの能力は俺が言うのもなんだがか
なりのチートだ。
俺は慌てて、勘に従って再び地を蹴るように宙を蹴り、身体を無理
やりに後方へと捻る。
ギルガメッシュからは少しの距離ができた。
大鎌ではあるがその刃は届きそうにない。
でもそうじゃない。
﹂
あれの能力は│││、
﹁ふんっ
﹂
その刃が俺の背を裂く。
同時に抜け出る魔力の感覚。
幸いにも少し掠っただけだからかそれほど抜け出てはいない。
俺はそのまま、変な体勢で避けた所為で地面にぶつかり、そのまま
地を滑る。
だけどすぐに、追撃を警戒して身体を起こす。
すると案の定、俺に向かって泥の波が来ていた。
俺は痛む背を無視してバックステップし、下がる。
そして下がった俺の前に後方から魔力弾が雨の様に降り注ぎ、地面
ごと抉ることで泥の波を防いでくれ始めた。
感謝だキャスター。
﹁⋮避けられたか﹂
706
!?
!!?
刃先の空間跳躍と斬った相手の魔力吸収。
﹁っぐぅ
!? !!!
そう不満げに言いながら鎌を消すギルガメッシュ。
その様子にちょっとイラッとしながらも一つ疑問を持つ。
何故直すんだろうか。
何かの制限があるから
プライド
王としての傲慢が武器の多用を許せないとか
かった。
﹁無事か
﹂
掛けてくれた。
最初から無理そうならしないって約束だったでしょう
﹁ごめん、隙作れんかった。やっぱり作戦1は無理っぽい﹂
﹁馬鹿
少し涙目になってそう言うイリヤに、苦笑をこぼす。
いや一応は生物︵
・・・・・・・
﹂
︶なのだからそれは当然っちゃ当然なんだが、そ
ど、目の前のギルガメがなんか動く。
その所為なのか、俺が居ることでの乖離なのか、慢心してはいるけ
けど、今更だけど一番最初の制約がここに来てやっぱり邪魔だ。
よ。
ほんとは最初から分かってはいたんだけど、つい魔が差したんだ
!?
俺の横に駆け寄ってきたアーチャーとイリヤが心配してそう声を
﹁コウジュ無事なの
﹂
あーくそ、やっぱり自分の選択とはいえあんな設定するんじゃな
勘の御陰で何とか致命傷を防げたけど、次はどうかわからない。
でもおかげで助かったわけだ。
思議だ。
そこまで行くと慢心も一つの境地じゃないかと思えてくるから不
?
そう言えばアニメでも一度使った後は違う武器に変えていたか。
?
自業自得ではあるんだけどさ。
制約の所為ならちょいと厄介だねぇ。
ティブなのだ。
シュが宝具を射出だけではなくちゃんと手に持って使ったりとアク
ういう意味ではなく、原作知識で持っている人物像よりギルガメッ
?
707
!?
!
﹁あははー、すまねっす﹂
!
モ ノ メ イ ト
﹁うーん、やっぱ作戦Bしかないかぁ。予想以上に金ぴかが邪魔だ﹂
言いながらアイテムボックスから小回復薬を出し、中身を飲む。
﹂
口の中に広がる苦味を我慢すると、先程からあった背中の熱感が消
えていく。
うし、回復。
﹁ってか、そのための俺らなんだろ
﹁うむ、とはいえ武器を奪われたがな﹂
俺の横に並び、そう言うランサーとアサシン。
その二人にもあははと苦笑を漏らす。
頼りにしてるともさ二人とも。
でもアサシンの言う通り、今の二人は武器が無い。
そこで俺は二人に自らの武器を渡すことにした。
﹁おいで、コクイントウホオヅキにロンギヌス﹂
大太刀と槍、それらを二人の前に落ちるようにしてアイテムボック
スから出す。
﹂
﹁代わりにこの子達を使ってくれ。泥が厄介だけど、2度目は無いっ
しょ
シン。
二人は先程までの戦いのように泥を真っ向からたたき切るのでは
なく、幽かに触れることで軌道を反らすようにしていく。
うへぇ、あれが本物の英霊ってわけか。
俺には到底無理だな。
というわけで、今度は俺がバックアップに入るか。
徐々に金ぴかたちへと近づいていくランサーとアサシン、その二人
ネギウォンド
を追いかけるようにしてアーチャーとイリヤも突き進む。
デバンド
﹂
テクニック
俺は一度両手のオモテを直し、代わりに出すのは短 杖。
﹁シフタ
!
距離を考えて、数メートル下がった状態で魔 法を使う。
!
708
?
言うなり、それぞれ目の前の武器を手に飛び出したランサーとアサ
﹁愚問だな﹂
﹁はん、誰に言ってやがる﹂
?
俺から立ち上る魔力が赤と青のオーラとなって俺を中心に広がっ
ていく。
﹂
そしてオーラに触れた味方達の攻撃の重みが増した。
﹁サンキュー嬢ちゃん
ランサーが金ぴかたちから目を離さずにではあるが礼を言ってく
れた。
他のメンバーも一瞬の間にこちらへと視線を送ったりと感謝の意
を告げてくれる。
そのことに少しテンションが上がる。
俺は突っ込むだけが能ではないのだ
ちなみに今俺がつかったのは、炎系テクニックであるシフタ、氷系
テクニックであるデバンド。
効果はそれぞれ味方の攻撃力と防御力を一定割合分上げるという
もの。
効果時間は短いが、これの凄い所は筋力とか皮膚の固さを上げると
いうのではなく概念的に攻撃力と防御力が上がるという部分。
だからボディイメージが変わることなく、能力値を向上させること
が出来る。
まぁ、未だにフレンドリーファイアをしないようにテクニックを使
えるようにはなってないので、自分の立ち位置を考えないと敵まで強
﹂
くしてしまうんですがね。
﹁コウジュ、今のは
静観というか唖然としていたが正解なのかね
ストさ。そしてディーガ
﹂
﹁今のは俺の魔法、いや士郎達的には魔術か。まぁちょいとしたブー
わな。
まぁこれだけ戦力が居れば入っていく隙を見つけるほうが難しい
?
形を得ながら出てくる。
言うに合わせて振り下ろした杖、その先から溢れ出るように魔力が
俺は士郎と話をしながら次のテクニックを使う。
!
709
!
今まで後方で静観していた士郎が話しかけてきた。
?
形作るのは今の俺より二回り以上も大きい岩石。
ディーガディーガディーガ
﹂
それが放物線を描きながら金ぴかたちの方へと飛んでいく。
﹁ディーガ
連続して岩石を飛ばしていく。
意味が無い。
﹁くっ、視界が
﹁ギルガメッシュ
﹂
﹂
そのための防御力上昇なのに貫通してしまう威力を出しちゃうと
う。
そもそも手加減無しでやると他のメンバーを巻き添いにしてしま
これで倒せるとは思ってない。
だけどそれで良い。
く。
しかし、飛んでいく岩石は全て泥や宝具に容易く撃ち落されてい
クニックによる岩石。
なんだか高画質録画とかできそうだけど、飛ばすのはあくまでもテ
!
﹂
﹂
!!
いすがる。
﹁あいよぉ
﹁ぬぉおおおおああ
波動球ってな
そしてアサシンの声を聞き、打ち上げられた金ぴかへランサーが追
あげたのだ。
アサシンは視界を防がれたギルガメッシュを器用に刀の峰で打ち
同時に上がるアサシンの声とギルガメッシュの声。
﹁ぐぁっ﹂
﹁ランサー⋮っ﹂
シュの方は一段と砂煙が舞い上がっている。
特 に 泥 で は な く 宝 具 に よ り 砕 く こ と を 主 に し て い た ギ ル ガ メ ッ
そして次第に、砕かれていく岩石は粉塵となり視界を防いでいく。
!?
!?
その方法は極めて単純、バットの様にロンギヌスを握り思い切り振
す。
そのカチ上げられたギルガメを、ランサーが槍で麻婆から引き離
!!!?
710
!
!!!
りかぶる
そしてそのギルガメは俺達の方へと飛んできた。
﹂
それを見た瞬間、俺は後ろで慌てている士郎達はさておき前方へと
走り出した。
﹁んじゃ、後はよろしく
イリヤ、少し遅れてランサーとアサシンだ。
﹃﹃unlimited blade works
﹄﹄
俺とすれ違う様にギルガメッシュを追いかけてきたアーチャーと
だけど、俺がお願いしたのは彼らじゃない。
その声に、尚更慌てる士郎達。
!
えた⋮。
!?
﹁はん
当たらなければどうということは無ぇ
﹂
﹁その双剣⋮厄介だな。だが、生身の部分に当てれば問題はないか﹂
﹁やっぱその聖杯は面倒なんでねー﹂
言峰がそちらへ触手を伸ばそうとするがそれを俺が叩き斬る。
﹁あんたの相手は俺なのさ﹂
でもこれこそがプランBだったのさ。
ふふふ、その表情実に愉悦。
流石に動揺せざるを得ない様子の言峰。
﹁分断されたか⋮
﹂
重ねるように唱えられると同時に士郎達、向こうに居た組は全員消
!!!
最近じゃぁ空中を蹴るのもお手の物だ。
だから、ただただ斬って斬って斬りまくる。
だけど、ただ速くぶった切ることなら出来る。
駆け抜けるようなことは出来ない。
確かに、俺にはランサーやアサシンの様に最低限の動きで泥の中を
早さで追いつけないならばと、麻婆は触手の数を増やしてきた。
﹁追い付けんか、ならばこれならどうだ﹂
速さはこっちが上だ。
それを斬りつつ、その場に止まることなく動き続ける。
!!
711
!!
何本もの触手が俺に迫る。
!
双小剣系フォトンアーツの中にレンガチュウジンショウというも
のがある。
この技とか完全に空中を蹴って移動しながら敵を切り刻むんだけ
ど、その技があったからか虚空瞬動もどきが出来るようになってき
た。
﹂
それを使って3次元的な動きで翻弄しながら触手を斬っていく。
﹂
﹁まずは一手
﹁くっ
﹁あんたばかぁ
貴様さえいなければ計画は成功していただろうに﹂
例え俺がいなくてもあんたの野望はここで潰えて
つい
﹁くくく、これほどか。これほどなのかイレギュラーサーヴァント。
何故かこちらへと笑みを見せた。
そんな益体もないことを考えていると、言峰は傷口を押さえながら
絵面的にどこぞの協会に規制されてしまうレベルだ。
幼女に触手なんて何そのエロゲってなものだ。
でもあの触手の海に身を委ねるつもりはない。
すぐに回避するために踏み込み切れなかったし、浅かったかな。
俺が今まさに居た所へと触手が殺到した。
そしてすぐに離脱。
そしてそのまま袈裟掛けに言峰をも切り裂く。
俺に迫る触手を何本も斬り伏せ、一度言峰の懐に入り込む。
!
お前も衛宮親子の様に自身が正義の味方だ
なら当然、負ける宿命にあるさ。
﹁ならば正義とは何だ
﹂
!?
!?
﹁そんなもん俺が知りたいね。いつだってそれを決めるのは自身じゃ
とでも言うつもりか
!!
﹁何を根拠に⋮﹂
﹁あんたがしてる事が悪だからさ
!
そしてこの町には正義の味方が居る。
びるもんだ﹂
世間一般で考えてな 悪は滅
麻婆の妄言に、俺はどこぞのチルドレンのマネをしながら言う。
いたよ﹂
?
712
!!
はたまたこの町の為か
﹁そんなもん決まってる⋮自分の為だ
﹁自己中心的だな﹂
﹂
﹂
アインツベルンの娘
なくて相手だからな。それに、俺は正義なんて崇高なもんを背負うつ
もりはねぇ﹂
衛宮士郎の為か
﹁なら貴様は何の為に闘っているというのだ
の為か
?
はっ、分かりきった事聞いてんじゃねぇよ。
?
中心的なんだろうよ。
けどな、助けたいから助けて何が悪い
?
方がマシだっての
﹂
いちいち正義がどうとか考えて行動するかっての。
助けたいと思ったから助ける。
思ってしまったんだから仕方ないじゃないか。
﹁その程度で⋮その程度の考えで私の邪魔をするのか
お前さんはた迷惑なんだよ﹂
?
﹂
る。それほど衛宮が好きか
﹁⋮へ
俺が
士郎を
﹂
なぜなにほわい
なんでそんな話になるのかな
一瞬思考が止まってしまう。
?
﹁お 前 も ど こ の 英 霊 か は 知 ら ん が 元 は 生 き て い た の だ ろ う
破壊せよと
な ら
それほどの力を持つなら尚更の筈だっ
全て
!! ?
!?
!?
﹁ふん⋮、お前も衛宮士郎か。どいつもこいつも衛宮衛宮⋮へどが出
﹁士郎が言ってなかったか
﹂
けどな、やらねぇ正義抱えるくれぇなら、自分で動く偽善抱えてた
ていう位なんだからな。
﹁それこそ正義とは何かって話になるだろうがよ。文字通り偽の善っ
﹁そして偽善か⋮﹂
﹂
﹁てめぇだけには言われたくねぇよ。だがまぁその通りだ。俺は自己
!!
?
!!?
!!
!?
ば、破壊騒動を感じた事がある筈だ。その身を焦がす思いが
を壊せと
﹂
?
!!
!!
713
?
?
!?
あの⋮聞いてます
!!!
って聞いてるわけないか。
はぁ、1人テンション上げちゃってさ。
斬撃で俺が斬った部分を手で押さえながら声高に叫ぶように言う
言峰。
そんなはっちゃけて言うから血がだらだら出てるじゃん。
﹁破壊衝動ねー⋮。確かにあるな。特に俺は獣人だし、バーサーカー
ならば私を肯定しろ。そうすれば││﹂
のクラスを頂いちゃった位だからな﹂
﹁そうだろう
﹁だけど、俺は根本的に痛いのは嫌いなんだよ﹂
俺は声高に麻婆にすべてを言わせる前に叫ぶ。
ほんと痛いのは大っ嫌いです。
なんかよく死んでる気がするけど⋮。
それは能力の関係とか、実験とかの為だから
﹂
いや、突然素の反応すんなよ⋮。
﹁は⋮
どこぞの総領娘みたいにM疑惑は俺には必要ないからな
!!
当然のごとくな﹂
﹁それがどうしただと
﹁それがどうした
﹂
﹁俺はな。痛いのが嫌いだ。不死だから回復するけど、死ぬ度に痛い、
!!
?
けどそれは相手も望んでこそだ。
競い合うことが好きなんだ。
他人の痛がるのを見て喜ぶドS趣味はねぇ
そんなの見る気なんざさらさらねぇんだよ
﹂
お前みたいに、ただただ一方的に虐殺するのを肯定できる訳がねぇ
!! !!
すの好きな部分あるから闘いに対する喜びがある事は否定しねぇ。
はっ⋮。俺はな、痛いのが嫌いだ。確かに闘うのとか生来身体動か
?
?
何が可笑しいのか満面の笑みをこちらに向けてくる。
士郎が気持ち悪い笑みと言いたくなるのも無理が無いと思うな。
714
?
﹁フフ、何を言うかと思えば⋮﹂
!!
﹁何がおかしい
﹂
﹁ならばどうする
私を殺すかね
﹂
?
﹂
﹄
!!!
口
っぽい所がパクパク開閉したと思ったら、腹の底に響く声でそ
﹃完成した聖杯の力を見せてやろう⋮﹄
神父+聖杯+ロリ=デイダラボッチとかどういう計算式だおい。
というかイリヤ人形ごと取り込みやがったぞこの神父。
真っ黒ですけどね。
まぁ向こうは薄い青でどこか神々しさがあったのに対して、こっち
じになってるよ
ホントにどこぞのジ〇リの出てくる獅子神様最終形態みたいな感
│││最終的に、巨大なかろうじて人型の怪物になった。
﹁何というデイダラボッチ⋮﹂
それは次第に聖杯すらも飲み込み、巨大になっていき││││。
包む泥がどんどんどんどんとカサを増し、質量を増やしていく。
なぁにこれぇ⋮。
﹃お前が死ぬが良い
言峰の周りにあった泥が言峰を包みだした。
﹁ならばっ
死んで終わりになんかするもんか。
こいつの命を背負う気はないし、こいつは生きて償うべきだ。
こいつだけは殺すもんか。
い〟﹂
﹁だが断る。だから、お前に復讐はするがお前だけは殺して〝やんな
でも俺はお前をどうするかは既に決めてあるんだよ。
両手を広げ、さぁとでも言わんばかりにこちらへ笑みを向ける。
?
をあんな風にするそちら側なんてな﹂
﹁虐殺したくなるような〝そちら側〟は元よりお断りだよ。あの子達
たんだが⋮所詮お前は〝そちら側〟か⋮﹂
﹁いやなに、バーサーカーのクラスを得たお前なら理解できると思っ
?
!?
やっべぇ⋮、冬木終わったかもしれない。
715
!!
う言ってきた。
?
とりあえず俺は、改めてオモテの2本を両手に出して構える。
か、カカッテコイヤオラァ
とりあえず被害が龍洞寺で留まるように頑張ろう。
だから許してください。
716
!!
﹄﹄
﹃stage47:劇的○フォー○フター﹄
﹃﹃unlimited blade works
そう、ギルガメッシュが飛んできた瞬間にアーチャーとイリヤが言
うと、辺りはいつしか見た剣と歯車が支配する世界に変わっていた。
最後の言葉の前の詠唱もやけに容易く俺の中に入ってきたが、この
世界こそが俺に入るべきものだったのだと理解する。
・・・・・・・・
いや、訂正だ。
理解させてくれたと、そう言うべきなのだろう。
先程から、俺が手に持つエクスキャリバーが熱を持っているかのよ
うに脈動し、俺に何かを流し込んでくる。
そして同時に、これこそがコウジュが俺に見出していたものだと理
解する。
剣の世界⋮。
アーチャーとイリヤは〝unlimited blade wo
rks〟⋮、無限の剣製と呼んでいた。
どういう理屈かは分からないが、この世界は俺の世界でもあるよう
だ。
分からない事だらけだ。
アーチャーの事も、イリヤの事も、そしてこの世界が俺の世界でも
あると思ってしまう事も。
・・・・
けど、無駄なんだろう。
ここはそういうものなんだ。
コウジュのプレゼントは﹂
理解するのではなく、ただ認めれば良い場所。
﹁どう
う言った。
﹂
あれ、そういえば途中で居なくなってたな。
﹁聞いてる
?
717
!!
空間そのものから溶け出すように現れたキャスターは、俺の横でそ
?
俺の前に来て、下から覗き込むように聞くキャスター。
が無くなっているな。
今は身長が小さくなっているから自然とそうなるが、それにしても
以前の威厳というか、カリスマ性
まぁだいたいコウジュの所為だが。
改めてそう感じながらも、俺は他の思考で埋め尽くされている。
当然この世界についてだ。
視線を前方へ戻す。
そこではアサシン・ランサーと共に、2人の紅い弓兵がその名とは
違い、地面に刺さったいくつもの剣を駆使しながらギルガメッシュの
宝具に対応していく。
どうやら弓兵は白兵戦もできなければならないようだ。
俺自身、弓を担うと同時に剣を握ることに忌避感を覚えてはいな
い。
ひとまず、俺はそこから目を離さずに答える。
﹁確かにこれはすごいよ。どこか懐かしさすら感じるほどにこの世界
はしっくりと来る﹂
﹁ならよかったわ。コウジュも報われるわね﹂
再び俺の横に戻り、俺と同じように遠くに見える闘いを見るキャス
ター。
ライダーも居ないし﹂
俺は再び、視線はそのままにキャスターに質問する。
﹁そういえば、今までどこに居たんだ
の神父が居ないでしょ
﹂
けど、色々と条件がそろったから何とか出来たのよね。コウジュとあ
し層をずらして世界を構築する様に調整してるわ。普通はできない
うに現れるものだけど、それだと分断できないから結界を応用して少
弄ってあるし、この固有結界だってホントは現実世界を塗りつぶすよ
﹁まず私だけど、私は今回結界担当なのよ。柳洞寺の結界だって私が
キャスターは指折り数えながら言ってくれた。
﹁ああ、そういえば坊やは知らなかったのよね﹂
?
い事で分断が成功した事は分かった。
718
?
層をずらすとかはよくわからなかったけど、コウジュと言峰が居な
?
﹁次にライダーだけど、ライダーは桜とあのダゼット
⋮⋮バゼットさんじゃなかったっけ
いや、今は置いておこう。
とにかく他の皆が無事でよかった。
﹁さて、後ろの2人はいつまで呆けているのかしら
﹂
とにかくラン
サーと一緒に来た女性を守っているわ。念の為だけどね﹂
?
俺はもう諦めの境地に至ったから、うん⋮。
説をお願いしたいのですが
﹂
﹁キャ、キャスター。出来れば私はこの状況や、いえもう全ての状況解
俺
根が真面目な二人の事だから許容しきれなくなったのだと思う。
たのだろう。
あまりにもあまりな状況のカオス具合に思わず呆けてしまってい
後ろに居るのはセイバーと遠坂だった。
そう言って、俺への説明を終えたキャスターは後ろを振り向く。
?
?
﹂
?
﹁今から総攻撃するけど、来るかしら
そう満面の笑みで言う。
﹂
﹁速く終わればそれだけ速く質問タイムが取れるわよ
?
?
﹂
俺は手の中にあるエクスキャリバーを強く握り、走り出す。
てのもあれだしな﹂
﹁当然俺も行く。この状況とはいえ、女の子にばっかり戦闘任せるっ
﹁坊や、あなたはどうする
因果応報というやつだろう。
ないことあがあるだろうな。
いやもう過剰戦力だと思うんだけど、それ以上に成さなければなら
場に居なかった。
その言葉をキャスターが言いきる前にセイバーと遠坂は既にその
トレス発散を││﹂
ついでにス
そんな2人の質問は無視して、キャスターは続ける。
やはり、2人はついていけていないようだ。
な⋮。いや今までと変わらないと言えば変わらない
﹁私も⋮さすがにこの状況はコウジュだからで済ませてはいけない様
?
?
719
?
走ると同時、もう片方にカリバーンを投影する。
片手剣と両手剣、本来同時に使用するものではないが、必然とその
使い方や身体の動かし方が漏れ出す。
先程のことで魔力も充実しているのか、ダルさもなく体が前へと進
む。
⋮程度で⋮おぐ ⋮やられると⋮がはぁっッ
既にギルガメッシュは満身創痍な気もするが、仕方ないのだ。
﹁このて⋮ぐふぁ
﹂
!?
に突っ込んでいくのだった。
?
ですか
﹂
・・
﹁まったくひどいですよ。死んでしまったらどうするつもりだったん
・
・
・
現実は非情である。
そう思いつつも、俺もその闘い
金ぴかも、こうなりゃただの、サンドバック。字あまり。
!?
﹁ん
どうかしましたか
﹂
ガメッシュがなってしまったからだ。
俺の近くでキャスター達に文句を言っている金の髪の少年にギル
?
?
﹁さあ、何ででしょうね。僕としてもあの性格は意味が分かりません
﹁とりあえず何でお前そんなに性格変わってるんだよ﹂
﹁確かにそうですね﹂
﹁もうわけが分からん﹂
シュ︵少年︶。
俺が目線をやったのに気付いたのかこちらを見てくるギルガメッ
?
720
!?
し﹂
﹁自分の事だろうに⋮﹂
俺の問いに対して朗らかに笑いながら首を傾げる姿に毒気が抜か
れてしまう。
ただ、キャスター達はこうなることを知っていたようで驚いてはい
ない。
恐らくとどめを刺す寸前にイリヤが掌底と共に心臓の辺りへと叩
き込んでいたカードが原因なのだろう。
カード、低年齢化、そう来れば大元の原因は分かる。
性格まで変えてしまうとは改めて恐れ入る。
でもまさか性格まで変わってしまうとは⋮。
しかし、これで一先ずこの戦いも終わりなのだろう。各サーヴァン
ト達が武器を下ろしている。
一番ギルガメッシュに敵意を燃やしていたイリヤも既に警戒を解
721
いている。
短剣片手にやや不満顔の遠坂が居るが、さすがに屈託ない笑顔の少
アーチャー、イリヤ﹂
年を攻撃しようとは思わないようだ。
﹁じゃあ元の世界に戻すわよ
﹁心得た﹂
﹁了解したわ﹂
だ。
遠坂が口に出したその言葉は俺も今まさに言いそうになった言葉
﹁なによ⋮これ⋮﹂
人型の何かだった。
しかし、出てきて早々に目に入ったのは、ビルのようにバカでかい
苦笑交じりに俺はそう思い直す。
心配するだけ無駄か。何せあのコウジュだ。
外に残された言峰とコウジュはどうなっただろうか。
戻っていく。
構成するモノは崩れていき、先程まで居た柳洞寺の境内へと景色が
そして、キャスターが2人に指示を出した後、指を鳴らすと世界を
?
﹁うわ、何あれ気持ち悪い﹂
続いてイリヤがそう言った。
改めてみると本当にでかい。ウルト〇マンとかが闘うべき大きさ
だ。
あれは⋮誰か戦っていませんか⋮
﹂
その怪物が、大きな体をうねらせながら腕を振り回し暴れている。
﹁む⋮
◆◆◆
﹁っるぁあああ
﹂
そして、何とか見れた影の正体はコウジュだった。
少し速くて見づらいが、目を凝らし見てみる。
行っているのが見て取れる。
俺もそこへ目をやると、確かに何かの影が飛び周りながら攻撃して
セイバーが巨人の首の辺りを見てそう言う。
?
﹁キリがねぇなおい
﹂
傷周囲の泥がうねうねと動き、傷ついた場所を埋めていく。
そしてその傷も、すぐに塞がる。
ばかすり傷にしかならない。
傷自体は大きいが、対象の腕そのものが大きいために相対的に言え
だが浅い。
体を回すことで腕へと剣を振るい抉り取る。
轟音と共に振られた腕を宙を蹴ることで辛うじて避け、そのまま身
!!!!
ずつ上がってる。
そんでもってめんどくせぇことに徐々にボッチ神父の速さが少し
どにやりがいの無い討伐は心が折れそうになる。
レア掘りの為に連日クエストに潜るくらいならやるんだが、これほ
だけど、何度斬っても終わりが見えてこない。
双剣で斬る。斬ったものを剣が吸収して俺の力となる。
!!
722
?
﹃どうした
サイズ考えろサイズを
﹄
﹂
息が上がっているではないか
﹁っるっさいわ
!!
幼女なのにその大きさは無理だっての
文句言うなら俺に巨大合体ロボでも渡せやおらぁ
!!
﹂
何がいけなかった
﹁ってきめぇ
﹂
﹃ふはははは、馴染んできたか﹄
ことだ⋮。
ただでさえ
チート武器以上に頼りにしている勘の通りに動いたのに、どういう
なのに、避けきれなかった。
速さが上がってきていたとしても、まだ余裕はあった。
?
そして避けた所で今の回避ミスについて考える。
そのことに一瞬動揺するも、追撃が来ていた為一先ず避ける。
袖を持っていかれてしまった。
ボッチ神父の腕を避けたつもりが、少し袖に引っかかってしまい片
﹁っと
を避けながらひたすら斬る。
そう思考するも答えが出てくるわけもなく、振り下ろされてくる腕
だっての。
ま っ た く 聖 杯 と ど ん な 化 学 反 応 が 起 こ っ た ら こ ん な 姿 に な る ん
しかし、思うほどのダメージを与えられない。
ついでに一閃。
へと向かってきたので慌てて回避する。
そう叫ぼうとするも、象程度なら容易く飲み干せそうな咢がこちら
!!
!!
!
!!
服を持っていかれたってわけだ。
腕そのものにばかり集中していた俺はその各部から生える触手に
腕の辺りにもいっぱい生えている。
なってるのだ。
ボ ッ チ 神 父 か ら 触 手 が い っ ぱ い 生 え て き て な ん か タ タ リ ガ ミ に
の答えになった。
思わず吐いてしまった言葉、その原因とも言える光景が先程の疑問
!?
723
!?
人型ですらなくなってきたそれは、どこまでも嫌悪感を掻き立て
る。
﹄
﹁⋮⋮そこまでして、町を、世界を、壊したいのかよ﹂
﹃当然だろう
﹁っ⋮﹂
でも、今となってはその素晴らしさが分かる。
!!
ちまちまやんのはヤメだ
!
それを、こいつは、全否定した
ブチ切れた
!!
能であろう。だが、それをすればこの町が跡形も無くなると思うが
それに私も只々やられている訳でもない﹄
嘲笑。
お前に何が出来るのかとそう言外に言う言峰。
ああその通り。チマチマと斬っていてもキリが無いのは確かだ。
﹄
く、その全てを切り刻めば良い﹂
﹁だったら、速くだ。再生するよりも速く、お前が何かするよりも速
俺はまだその本領を発揮しちゃぁいない。
俺のクラスはバーサーカーだ。
だけどお前は一つ忘れている。
るだろうさ。
このままやれば俺の脆弱な中身はその泥にいつしかこそぎ落され
いる。
その発想は確かに正解だろうよ。事実、俺は徐々にお前に押されて
俺を殺してその上で全ての破滅を望んだ姿がソレなわけだ。
だからこそお前は泥に塗れてそんな姿になったんだろう。
いる。
高火力で一気に殲滅しても町ごと吹っ飛ぶのは最初から分かって
?
﹃ならばどうするかね。この身体を滅ぼしつくすこと自体は君には可
﹁あーもう
﹂
その中で居た時はただただその日常を享受していたに過ぎない。
俺が元々平穏な日常しか知らないというのもあるのだろう。
当然と言い切ったその性根に、俺はとてつもない拒否感を感じた。
?
﹃この泥に触れずにかね
?
724
!!
﹄
﹁ちょいと後が面倒だが出来ないことは無いのさ﹂
﹃世迷言を
﹄
﹃■■■■■■■■││││
なっている。
な刀身をつけ、そして何よりもその顔は狐とも狼ともつかぬ獣の顔に
では黒い奔流を翼のように撒き散らし、両の腕には刃の紅い斧のよう
大きさは2m以上にまで膨れ上がり、全身は黒い毛に覆われ、背中
コウジュの姿もまた先程までとは明らかに違っている。
その轟音の正体はコウジュだ。
でも違った。
身体には触手のようなものが増え、コウジュを押し始めたからだ。
初めは巨大な怪物の方が原因だと思った。
え。いや、咆哮だ。
声ではなく意味も無い、ただひたすらに感情を表すだけの獣の遠吠
た。
巨大な何かとコウジュの戦いを見ていた俺たちの所へ、爆音が轟い
│
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■││││││││
◆◆◆
じゃ、試してみるがいいさ。
!!!
﹄
いや、構えるなんて上等なものじゃない。
構える。
リオモテ・サイカオモテをハンドガードごと無理矢理持つようにして
その黒い獣となったコウジュは同時に、先程まで握っていたツミキ
もう一度吠えた。
!!!!!
725
!!!!!
ただ握って、斬りやすい様にぶら下げているだけだ。
実際に、今まで見てきたような流派なんて関係ない最短距離を行く
動きではなく、只管に振り回し始めた。
でも、ただそれだけなのに先程までとは違って巨大な何かは苦しん
でいるように見える。
そして段々、段々と俺にもコウジュの動きが追えなくなってくる。
速い。まだ速くなる。
遂には軌跡すら捉えられなくなってきた。
﹁あちゃぁ、やっぱりこうなったか⋮﹂
戦いに見入っていた俺はその声にハッとする。
すぐ横を見ればイリヤ。どうやら彼女が言ったのだろう。
その彼女は手で頭を抱えるようにしている。
それにしても何がやっぱりなのだろうか
そう考えていると、見ている俺に気付いたのかイリヤがこちらを見
た。
﹁あー、そう言えば士郎⋮とセイバーと凜にもまだ言ってなかったわ
ね﹂
苦笑しながら言う彼女は目の前の戦いそのものはさておき、説明を
始める。
あれはこ
﹁順番に話すから最後まで聞いてね。あの外道神父が操っていた聖杯
の中身、あれが汚染されているのは前にも言ったわよね
じゃあコウジュが危ないんじゃ
だでは済まない代物なのよ﹂
﹁そんな
﹂
の世全ての悪という呪いに汚染された泥。だから触れるだけでもた
?
﹁待ちなさい士郎。言っておくけどこの戦いはコウジュがああなった
時点でこちらの勝ちは確定したようなものよ。だからこそ私たちは
こうして休憩しているの﹂
確かに、目の前で未だ響き続けている戦闘の激しさに比べてこちら
はゆったりとしたものだ。
精々キャスターの様子が疲れているように見える程度。
726
?
!!
慌てて駆けだそうとする俺をイリヤが手を引き、止めた。
!?
でも勝ちが確定しているというのはどういうことだろうか⋮
﹂
﹁士郎、コウジュの能力はね、思ったことを現実にする力なの﹂
﹁⋮え
⋮はい
補正というものを﹂
﹁だからコウジュは、一番最初に自分で思い込むことにした。ギャグ
手く〟ないのだ。
何と言えば良いのだろうか、彼女は他のサーヴァントに比べて〝上
力は強い、宝具も強い、でも、最強という訳ではない。
コウジュは何処が釣り合いが取れていないのだ。
その言葉を聞き、確かにと納得してしまう。
強いのに弱い。
実にしてしまうのよ。だからコウジュは強いのに弱い﹂
じゃないの。思ったことを現実にしちゃうってことは悪い想像も現
も、事実よ。それくらいに規格外の能力。けどそれも良いことばかり
﹁ふふ、確かにそういう反応しちゃうわよね。私も最初はしたわ。で
?
﹂
﹁ええ言ったわよ
﹂
﹁いやなんでギャグ補正
﹂
﹁それは悪い。でも、聞き違いじゃなければギャグ補正って言ったか
﹁何よもう、話してる途中に﹂
﹁待ってくれイリヤ﹂
﹁それからは│││﹂
?
そう拗ねるように言うイリヤ。
俺が悪かったのか
ういう風に振る舞うようになった。﹂
グ補正というものが自分に適用されると思い込むようにし、そしてそ
と言って良い能力を持っているけど痛いのが嫌いなの。だからギャ
﹁コウジュはね。バーサーカーというクラスで召喚されたし、不死身
しかし不思議と言い返せない雰囲気だったので黙ることにした。
!?
727
?
﹁それを今から言おうとしたんじゃない﹂
?
?
?
そうだったのか。
だ か ら コ ウ ジ ュ は あ ん な に も 戦 い の 中 で も ふ ざ け る よ う に し て
色々と⋮。
﹁まぁその所為か途中からは素でしている部分もあったみたいだけど
ね﹂
コウジュに会ったら謝ろうと思ったけど、置いておこう。
それにしてもギャグ補正か。
かなり予想外の単語が出てきたな。
けど、漫画とかに疎い俺でも何となくだがわかる言葉だ。
いつだったか誰かが慎二はギャグ補正が効いてるとか言ってたっ
け。
でも確かに、もしそれを自在に扱えるのなら勝機もありそうだ。
﹁つまりそれがあるからコウジュは勝つってことなんだな﹂
﹁違うわよ
﹂
⋮あれ
方が良いんじゃないか
﹂
﹁じゃ、じゃあやっぱりコウジュが危ないんじゃ
少しは援護した
ろマイナス方向に働くでしょうね。当然世界其の物に対しても﹂
もの。コウジュの思考が泥の悪意に曝されればその思い込みはむし
﹁そのギャグ補正はコウジュの思い込みによって成り立っているのだ
?
!
時にやるにはふざけている場合では無いのだろう。
なるほど、確かにコウジュでもあの泥とギルガメッシュの宝具を同
メッシュの対応を私たちに任せた﹂
達を自陣に組み込んだ。そして、彼女曰くのラスボスの片方、ギルガ
ダメだ〟と自分で言っていたわ。それもあって彼女はサーヴァント
﹁コウジュは〝ラスボスにギャグ補正は効かない。ガチでやらないと
く。
笑みすら浮かべて言うその姿を見て、逸る俺の気持ちも少し落ち着
どこか誇らしげにそう言うイリヤ。
あの外道神父に勝つ。それだけは確かなの﹂
﹁だから待ちなさいってば。さっきも言ったけど、コウジュは確実に
!?
728
?
そして、真正面から闘った場合の勝率はあまり高くないと考えたが
故のサーヴァント達。
けどそれでも、教えてもらったコウジュの能力に対してあの泥はあ
まりにも相性が悪い筈。
そう思ったことに気付いたのか、イリヤがこちらを見る。
そして、笑みを浮かべながらもどこか怒気を纏いながら説明を続け
た。 ﹁確かにそれでもあの泥は脅威よ。それもコウジュに対しては私たち
以上の脅威となる。それはあの双剣が合っても尚の事よ。あの剣は
結局は斬ることでしか力を発現できないらしいから。だからあのバ
カはこう考えたのよ。〝触ってしまうと自我がこそぎ落されてしま
うのなら最初から自我を失った状態で動けばいいんじゃないか〟っ
てね﹂
﹁つまり、今のコウジュは⋮﹂
729
﹁そう、自我が無い。ただただ目の前の敵に対して攻撃しているだけ。
いや、多少はあるらしいけど、そこまで深く考えられる状態じゃない
ナノブラスト
らしいわ。そしてその状態になれる能力こそがバーサーカーという
クラスに当て嵌まっている要因なのよ。 獣 化、それも暴走状態﹂
待て、待ってくれイリヤ。
今の説明で新しい単語がたくさん出てきて理解しきれてない部分
は多々あるが、それでも今のコウジュがあの泥に対して有効であるこ
とは理解できた。
でも、暴走状態
それはものすごく厄介な状態じゃないのか⋮
いやな予感がする。
手で言峰だったものを殴っている。
その上で、コウジュの勢いは未だ衰えることを知らず、剣を握った
で縮め、もう死に体だ。
確かにいつの間にかあの巨大だった怪物はその体をあと少しにま
そう言われてハッとする。
﹁さて、士郎。もうすぐあの戦闘も終わるわ。だから準備しなさい﹂
?
?
﹃■■■■■■■■││││
﹄
そして、言っている間にコウジュは全身から魔力を迸らせながら小
さくなった泥の塊諸共近くにあるものを咆哮と共に吹き飛ばした。
しかし、準備とは何だろうか。
先程感じた嫌な予感がそれに類するものだと自分の中では何故か
﹂
納得できているが、それでも否定したい。
﹁さぁて、最後の仕事と行くか
﹁其れゆえの我らだからな﹂
﹁まったく、仕方あるまい﹂
言いながらイリヤもまたその手に剣を構えていた。
の区別がつかなくなるのよ﹂
一度暴走状態に入ったコウジュは戦うことしか頭にないから敵味方
﹁ギルガメッシュを私たちが完封。泥をコウジュが完封。だけどね、
何故準備が要るのかも。
ああ、言わなくても分かった。
﹁士郎、言い忘れていたけど、この作戦には最大の難点があるのよ﹂
それを見ながら、イリヤが言った。
その手には各々の武器がある。
ランサー、アサシン、アーチャーが言いながら前へと出てくる。
!
﹁あの黒い獣状態のコウジュはフレンドリーファイアお構いなしなの
よ﹂
730
!!!!!
﹃stage48:ハッピーエンド
﹁誠に申し訳ありませんでした⋮﹂
﹄
そう言いながら土下座をする馬鹿が一匹、もとい一人。既に暴走状
態から脱しているコウジュのことだ。
この子は元マスターである私を中心に、周囲で満身創痍になってい
る他のサーヴァント達へと全力で謝ろうとして土下座を行っている。
しかしながらそれでは私たちの気が収まらない。
私とアーチャーで固有結界を再度形成、その中でキャスターによる
魔力やその他諸々のバックアップがある状態で全員からの全力攻撃、
それをこの子は防ぎ切った。
正確には全身から爆発的に溢れ出させた魔力の壁でほとんどを弾
き、ゲイ・ボルグのような必殺の一撃は食らった瞬間にその潤沢な魔
力で以て超即再生をしやがったのだ。
本人曰く〝無敵状態でバ火力になるのは知ってたけどガチで暴走
したことはまだ無いから知らなかった〟とのことだったが、いくらな
んでもあれはひどすぎる。
殺しても消し飛ばしても次の瞬間にはそこに居るのだから堪った
ものではない。
小ギルガメッシュに無理矢理エアを使わせて固有結界ごと吹き飛
ばしたのにまたそこに居たのだから冗談ではない。
おかげであの美しかった柳洞寺の庭はもうどこにもない。白砂利
が敷き詰められ、清流を幻想させる庭はどこにも⋮。
周囲を覆っていた木々達でさえも全てが地面ごとなぎ払われ、土砂
災害かと言わんばかりに掘り返されている。
そして、柳洞寺の本堂やそのほかの建物は〝そんなものは無かった
〟と言わざるをえない惨状。
本当にそこに建物があったのか疑問を持ってしまう程にそこには
建物を構成していたのであろう何かが少し残っているだけ。
731
?
﹁ちゃうねん。もう少し手前で止まる筈やってん﹂
﹁鬱陶しいから似非関西弁止めなさい﹂
﹁あい﹂
私たちの殺気だった雰囲気に、つい言い訳しようとしたようだがそ
の前に潰す。
コウジュが変な話し方をする時は大体何かを誤魔化す時だ。短く
も濃い付き合いの間にそれくらいは分かった。
﹂
被 害 が 抑 え ら れ た の は
想定より被害自体は少ないし
それにしても、どうやらまだ反省しきれていないらしい。
﹁で、でもほら
﹂
﹁あ な た 自 体 は 好 き 勝 手 し て た じ ゃ な い
﹂
サーヴァント達の御陰でしょ
﹁あ、あはー⋮痛っ
!
けど、それは所詮憶測でしかない。
﹁まぁそこまでにしておいてやりな、嬢ちゃん﹂
﹁ランサー⋮、あなたこの子になんだか甘くないかしら
﹂
かないから武器を変えるなんて高度なことができない筈とのことだ
本人が怖くて使えないと言っていたし、狂化中はまともに思考が働
つかあるという。云わば対星宝具。
なにせコウジュが持つ宝具の中には惑星を対象としたものがいく
味運が良かっただけでしかない。
確かに作戦上ではこうなる可能性があると言ってはいたが、ある意
目を反らしながら誤魔化し笑いをするコウジュを思わずはたく。
!
﹂
﹁良くは無いけど仕方がないわ。まだやることもあるしね﹂
﹁もう良いのか
はぁ、と溜息一つ。コウジュに手を伸ばし彼女を立たせてあげる。
そんな姿を見てしまえば、自分一人が言い続けるのも大人気ない。
同じ気持ちのようだ。
そう言うランサーにジト目を向けるも開豁に笑うのみ。他の皆も
のが俺達の仕事だ﹂
んだからそれで良いじゃねぇか。元々いざという時の被害を抑える
﹁そんなこたぁ無ぇよ。この寺には悪いが予想の範囲内の被害だった
?
732
!?
!
!
?
若干涙目のコウジュを見ると前言撤回をして続きをしたくなるが
さておき、立たせたコウジュは私の言葉に思い出したかのようにハッ
とした表情をする。
忘れてた訳じゃないでしょうね⋮。
まぁでもそれについてまた話し始めると長いし、さっさと終わらせ
てしまいましょう。
﹁││││││っ﹂
今の今まで黙っていた外道神父が、私が目を向けたことに気付き目
を合わせてくる。
聖杯の泥に塗れて人外になっていたこの神父だけど、コウジュにズ
タズタに切り刻まれてぼこぼこに殴られて最後には元の姿に戻って
いた。
そしてそのあとロープでぐるぐる巻きにして身動きできない状況
にされていた。撒いた時は気絶していたけどいつの間にか目が覚め
﹂
ハンドガン
733
ていた様ね。
﹁それで、どうするの
ミストルテイル。
コウジュが呼び出したのは以前見せてもらった片手銃の一つ、魔弾
﹁来い、魔弾ミストルテイル﹂
ごい眼付きで見てはいるけど、コウジュに任せるみたいだし。
まぁともかく、コウジュがどうするのか見てみましょうか。凜もす
だけどね。
途中からはその思考もどこかに吹き飛んで完全な暴走していたよう
わ な か っ た の だ か ら こ こ ま で 来 る と 呆 れ を 通 り 越 し て 尊 敬 す る わ。
狂化すれば思考が単純になると言いながら、泥だけを斬って命を奪
うにはしないのでしょうね。
狂化状態でも結局コウジュは言峰を殺さなかったんだもの、悪いよ
る事にした。
しかし今までもなんだかんだといい方向にはなっていたし、静観す
駄目な気がする。
﹁ふふふ、俺にいい考えがあるんだ﹂
?
ハンドガンとは言うが、これは銃の形はしていない。
フォトンで出来た光球、そしてその台座、それらを3つの少し丸み
を帯びたブレイドが包むようにして在り、銃身を造っている。
確か、
﹃この銃に射抜かれたものは運命の選択を迫られ、その決断に
よって魂が正しい場所へと導かれる﹄とか言ってたっけ。
そこまで思い出し、つい苦笑してしまう。
どうあっても彼女は激甘のようだ。
でもそれが、なんだか嬉しく感じてしまう。
そして、コウジュはそんな私はさておき言峰に向かってミストルテ
イルを構えた。
﹁お前の罪はお前が償え、言峰﹂
﹂
バンッという音と共に、弾丸が発射され言峰に当たる。
﹁││っ
﹂
着弾した瞬間言峰は気絶したのか、ぐったりとしてしまう。
﹁コウジュ、何をしたの
凜が恐る恐る問うた。
﹁ほ、ほらな
大丈夫だったじゃんよ
﹂
で、外道神父は再び目を覚ましたのかもぞもぞと動き始めた。
それでも何とか誤解を解こうとわたわたしているコウジュの後ろ
いつもいつも説明をせずに先に行動するコウジュが悪い。
コウジュが慌てて弁解するも、皆は引いたままだ。
別に殺してないから﹂
﹁あの皆さんそんなやっちゃったみたいな目で見ないでくださいな。
きていても驚くわよね。
にされた人間が撃たれたんだからいくら死と隣り合わせの世界に生
うんまぁ、事情を理解した私以外からすれば目の前で動けない状態
?
!?
いく。
!!?
凛が驚いて言うが、私の予想通りならもうこの外道神父は外道では
﹁ちょ、外していいの
﹂
がらも、起きた言峰のロープや、口元を縛っていたものも全て外して
若干自分でも心配だったのであろうコウジュはまた涙目になりな
!!
734
!!?
なくなっているはず。
そうこうする内にロープをすべて外された言峰。
﹂
その言峰が、突然がシュバっという効果音が似合いそうなほど俊敏
に正座をしだした。
﹁すまなかったぁぁぁぁ
って、おぅっ
﹂
!?
いわよ。
!!!
﹁そ、そうなんだよ
俺が言峰にしたのは言峰の感情の歪みを弄っ
を導くというものなのよ﹂
﹁さっきコウジュが持っていた武器の能力は簡単に言えば魂の在り方
仕方がない、そろそろ助け舟を出してあげるべきかな。
放棄しているようだ。
他の面々は未だにこの気持ち悪い位の代わり様に引いたまま思考
そして嗚咽交じりに言峰神父は土下座を続行中。
﹁ほんとおぉぉにすまなかったぁぁぁ
﹂
このよくわからない状況を作り出した原因があなたのだから仕方な
何で叩かれたんだという目を涙交じりにしているコウジュだけど、
ドヤ顔で言うコウジュを今度は凜が頭をはたく。
﹁大☆成☆功
そしてそのまま、額を地面にこすりつけて土下座をした。
!!!
﹁歪み
﹂
たって言えば良いのかな⋮、生まれながらに在り方が歪んでたんだ﹂
!
それに返してきたのは士郎だ。
士郎の疑問に答える為にコウジュは続きを話す。
﹁歪みって言っても俺の主観的なものになるんだけど、言峰の中の判
断基準ってのが大多数の人間と根底が違ってしまっている結果、今回
みたいに死の瞬間の人の輝き見たいとかって考えに至ったと思うん
だ。
確か、一般的な幸せを謳歌出来ず、人の不幸に愉悦を感じてしまう
歪み。
けど、この神父はその反面そんな自分に疑問を持っていて自ら色ん
735
!!
私の言葉に慌てて付け足すように言うコウジュ。
?
な事をして救われようとしたりもしてたんだ。詳細は忘れたけど、堕
ちるまでは聖職者らしい聖職者だったらしいよ。
﹂
だから、その辺りを上手くいく様にちょちょいとやってみた﹂
s right
﹂
つまりアレだね、映画だと突然良い
﹁それをしたから⋮こんな言峰になったのか⋮
﹁That
?
かな。
◆◆◆
!!
でもこれしか思いつかなかったんだから仕方ないじゃないか
ってか何で俺は抓られてるの
!
自分でやっといてなんだけど、何だろうこの落ち着かない感覚。
していた。
いた言峰はいつのまにか膝立ちになって空に向かって懺悔的な事を
俺がキャスターやイリヤにあちこち抓られている間に、土下座して
﹁ああああ、私というものはどうしてこんな事を
﹂
よし、私もなんだか我慢ばかりしている気がするし少し参加しよう
かしらね。例え最近胃が痛い時があったとしても。
でも、その御陰で私は生きているのだし、感謝しないといけないの
きれていないのが残念で仕方ないけど。
今更だけど、本当に規格外なことばかりを起こしているわね。扱い
魔術師でもあるキャスターが状況を消化しきれないのも仕方ない。
魂 の 改 変 だ な ん て 魔 法 の 領 域 を さ ら っ と し て し ま っ た ん だ も の。
らこの子は。
またしても何でという表情をしているけど、理解していないのかし
あ、今度はキャスターに頬を軽くだけど抓られてる。
キレイなだけに、なんて嬉しそうに言うコウジュ。
奴になる少年になぞらえて言うと、綺麗な言峰だね
!!
防御力の関係か痛くは無いんだけど、やめてくださいお願いしま
?
736
!
'
す。
とは言えこういう時は大体自分がやらかした時なので我慢する。
抗うと後が怖いことは学習したからね
そこには黒鍵︵
︶を手に思いつめた表情の麻婆が⋮。
どうしたんだろうかと、目を向ける。
つの間にか静かになっていた。
そんな風に内心で涙目になっていると、後ろで騒いでいた麻婆がい
ピーキーな能力。
あ、痛いと思ったからかちょっと痛くなってきた。もう嫌だこの
実際には痛くなかったがつい頬を摩る。
て止めてくれた。 そう思いされるがままになっていると、少しスッキリした表情をし
!
げ││﹁やめんかい
﹂││ぐふ
しかしこうでもしないと
﹂
!!
﹂
!!!
もんでもねぇ﹂
﹂ごふっ
﹁や
﹁あんたの罪は消えねぇし、あんた1人が自殺した所でどうなるって
俺はそんな言峰正面に行った。
り拘束する。
そしてまだ何か言ってる麻婆を、とりあえず腕だけロープで再び縛
て、とりあえず殴ってしまう。
一瞬固まってしまったが首を掻き切って自殺しようとしたのを見
!?
﹁私一人の命で釣りあうとは到底思わないがこうなったら私の命を捧
?
泣くから思わず頭突きをかましてしまった。
聴覚が良くなってる事もあったのだろうがかなりうるさかったん
ですごめんなさい。
よく聞け言峰﹂
帽子越しだからそんなに痛くないし許せ麻婆。
﹁と り あ え ず
ら俺は改めて話す。
後ろにのけ反ったまま戻れない言峰を引張り起こして目を見なが
!
737
!!
﹁そうだ、私はたくさんの人を⋮人を⋮⋮本当に何という事を
めぃ
!?
鼻と鼻が付きそうなほど顔を近づけていきなり大声で叫びながら
!
﹁俺はあの教会でお前とギルが弄んだ子達と接触する機会があった。
そこで話をしたが、あの子たちはかたき討ちをしてくれって俺に言っ
た。けどな、一言もあんた達を〝殺してくれ〟とは言わなかった﹂
﹁それってあの地下の⋮﹂
ボソリと思い出すように言う士郎。
あの地下礼拝堂に行ったから俺が何の事を言ったのか気づいたの
だろう。
士郎は幽霊の子達を実際に見た訳ではないんだろうが それでも
子どもたちを弄んだという結果はあそこにあった。
〝かたきを討つ〟、この言葉本来の意味なら殺してくれっていう意
味になるんだろうがあの子達が言った言葉に〝殺してくれ〟の意味
は含まれていなかった。
俺の思い込みって言われたらそこまでだが、ホントに短時間とはい
え、それ位は分かったつもりだ。
ボコボコにしてくれとかは結構言ってたが⋮。
﹁だから俺はあんたを殺さないと決めた。あんたの感情を弄った事が
本来のあんたを殺したっていう事にもなるとは思うし、ただの詭弁だ
とも思う。
けど、あんたはここで今生まれ変わったんだとそう信じたい。
そ し て、残 り の 人 生 を 全 て か け て 償 え。何 を し て 償 え と は 言 わ
ねぇ。けど、あんたは生きて償うべきだ﹂
偽善。自分勝手な押しつけ。まさしくその通りだろう。
でも、こんな結末があっても良いと思うんだ。
世間一般から見れば裁かれるべき存在かもしれないし、言峰を憎む
存在もたくさん居るだろう。今まさに近くに居る凜ちゃんがそうだ。
けど、だからと言って殺してはいおしまいってのは俺自身なんか嫌
だ。
俺自身が命を奪うということに対する忌避感を持っているのも勿
論あったけど、やはり生きて償うことも必要だと思う。
平和ボケしたなんて言われる現在日本人の感性かもしれないけど、
それの何がいけないのさ。
738
転生して、こんな体になって、チート能力貰って、いつ死んでもお
かしくない聖杯戦争なんてものに巻き込まれたけど、やっぱり俺は俺
だ。
﹂
というか、ただでさえギスギスしてるのにこれ以上ギスギスしてし
この身この全てを掛けて償いをし続けよう
まうと俺の胃がマッハだ。
﹁ああ分かった
!!
俺が考えている間に言峰も自分の意思を固めたのか、高らかにそう
さっそく行ってくる
﹂
言いながら自分でロープを引きちぎり立ち上がった。
自分で切れたのかよ⋮。
﹁では、一分一秒も惜しい
!!!
﹁わふっ⋮ん
﹂
つまで経っても言葉は無く、代わりに頭の上に何かを乗せられた。
だから、何か言われて当然だと思い頭を下げたが、予想に反してい
そんな中でもこうしたのは俺の勝手だ。
るだろう。
それに、直接殺されそうにもなっている。思う所などいくらでもあ
だ。
麻婆は親が死んだ要因でもあるし、あの大火災を起こした張本人
俺は士郎達に頭を下げながら言う。
ようもない感情もあったろうけど、俺の勝手でこうしちまった⋮﹂
﹁すまん。凛ちゃんも士郎も言峰に対して色々言いたい事も、どうし
面々の方を向く。 そう自分に言い聞かせるようにしながら、置いてきぼりにしていた
まぁ仕方ない、あの感じだと大丈夫だろう。
しかし考えている間にも麻婆は影も形もなくなった。
やったのさ⋮。
えぇぇ⋮、一応キャスターに強化してもらったロープなのにどう
次の瞬間には言峰は走り出し、その場を去る。
!!
というか、なんか犬っぽい声を出してしまった。意識なんか当然し
てない。
739
!!
何を置かれたのかと思い手をやるとそれは士郎の手だった。
?
何だか獣化するたびに獣に近くなってる気がする⋮。
そんな風に意識が若干逸れていると、士郎が俺の肩を持って俺の姿
勢を真っ直ぐにしてくれた。
﹂
そして俺の目を見て優しく微笑みながら話し始める。
﹁別に俺は良いよ。遠坂は
﹁私も良いわよ。というか、例えばの話この状況で私がダメって言う
とかどんだけ鬼畜なのよ﹂
﹁2人とも⋮﹂
その言葉に、思わず泣きそうになる。
ここまで自分勝手にしておきながらなんだが、心のどこかでは否定
されるのではないかと怖かった。
自分なりに色々考えて良い方向へ持ってきたつもりだ。それが認
められた気がした。
﹂
﹁確かに思う所が無いって言ったら嘘になるけどさ、でもあいつはも
うあの惨劇を起こそうとはもうしないんだろ
そして頭を下げる。
﹁⋮ありがとうっ﹂
﹁お礼なんてする必要ないさ。な
﹂
俺は目元をぬぐい、2人をしっかりと見る。
れで良い事なんでしょう﹂
ろだけど、まぁ仕方ないわね。許すつもりは到底無いけど、これはこ
﹁腹を刺された身としては一発だけでも思いっきり殴りたかったとこ
果誰か助かる人が増えるなら良い事だろうしな﹂
﹁なら良いさ。俺は惨劇を止めたかっただけだし、少なくともこの結
は思うが念の為だ。
ミストルテイルで撃った際にかなり強力に願ったから大丈夫だと
依頼するか自身でどうにかしようと思う。
条件で発動する呪い系の魔術とかそういったモノをキャスターに
りだし﹂
﹁うん、それは確実。あとで何かあっても大丈夫なようにもするつも
?
﹁ええ、これは私たちが納得しただけなんだから﹂
?
740
?
二人は微笑みながらそう言う。
良いと言われたが、もう一度心の中でになるが大きくお辞儀し、あ
りがとうと俺はお礼を言う。
ほんと良い子達過ぎでしょうこの子達。
経験した年数で言えば5年ほどしか違わない筈なのにこんな風に
笑えるとかすごいと思う。
小並感ってやつだが、尊敬するよ。
﹂
﹁あのー、空気読めない発言になるので悪いのだけど、僕はどうすれば
いいかな
学校で先生に質問する時のように片手を上げて言うショタガメッ
シュ。
そういえば、忘れていた。
対処を皆に任せていたのもあったし、静かだったから思考の端に
行ってしまっていた。
何故ショタ化させただけでミストルテイルを使っていないかだが、
それは原作知識が理由だ。
で、何故かショタ化しただけで良い子になって町の
どういう理屈かは俺にもわからないんだが、確か⋮原作のholl
ow編だっけか
た。
如くスケドを使ったのではなく、今回はキャスター作の薬品を使用し
そういや言ってなかったけどギルがショタ化した方法は、いつもの
でも良かった思い通りに行って。
子ギルもすごい変化だな。
さっき自分でやらかした言峰ほどじゃないが、実際見て見るとこの
て様子を見て欲しいと言っておいたんだ。
それがあったからキャスター達にはとりあえずショタ化だけさせ
からないと言わしめるほどだった筈。
原作でショタギルが大人ギルの事をどうしてあんな性格なのか分
たわけだ。
それをうろ覚えだが頭の中にあったので試してみたら大正解だっ
子とサッカーしてた筈。
?
741
?
ギルガメッシュは泥を浴びて既に現界し続けることが可能になっ
ている。
それでも魔力を一般人から奪っていたのは自身の理由としての能
力というか、真名解放などの魔力使用に対して必要だからだと思う。
スケド使って完全な受肉をしたら自己発電が容易とまではいかな
いがサーヴァント時より効率よく行えることは確かだ。
だけどそれだといずれ成長してしまう。
だから、何か他の方法をと考えていたらキャスターがこれを使えと
渡してくれた。
どうも製作途中のものらしいのだが効果は確実というもので、何か
ドロドロした緑色の液体Xをビーカーで見せてくれた。
曰く、アンチエイジングの為らしい。
スケドで復活し受肉した場合身体は成長していくから老いがある。
それに対抗する為らしい。
俺は今までのシットリ気味の空気を振り払うように、腕を組みなが
ら不遜な態度を取る。
﹂
﹁ショタって⋮まぁ今の僕はそうですけど。それで僕にやって欲しい
事というのは
しかできない事だからな﹂
742
あんたまだ見た目少女じゃないかと言ったら、殺されそうな目で見
た。
︶が決まり、実
あなたも女の子なら今からしときなさいと何故か俺の分まで渡さ
れたのは別の話だ。
でまぁ、ギルガメッシュにそれを使う事︵人体実験
際に使ったみたいだが、もくろみは成功のようだな。
ストレス発散できたかねぇ
カードにして渡したんだけど、イリヤが嬉々として受け取っていたし
結 局 A U O は 皆 に 任 せ る こ と に な っ た か ら 一 応 使 い や す い 様 に
?
﹁ショタギルくん、君にはやってもらいたいことがある﹂
そんな子ギル君を俺は真正面から見る。
?
﹁まぁちょいとした手伝いさ。あとで詳しく言うよ。これはあんたに
?
﹁分かりました。出来る限りのことをしましょう﹂
了承してくれたのか微笑むショタギル。
素直でええ子やぁ⋮。
何であんな慢心王になるのかホント不思議。
そんな今の子ギル君に対し、前振りしておいて後でってのはひどい
かもしれんが先にやらないといけないことがあるんで許してほしい。
何せ俺が思っていたハッピーエンドはまだ終わっちゃぁいない。
今回の聖杯戦争の締めとして最後にもう二つハッピーエンドを迎
えなけりゃいけないんだ。
まず一つ目、対象はイリヤだ。
◆◆◆
する。
どうして高威力を放つ武器ではなく、ツミキリシリーズの中でもオ
743
﹁さて、俺には後もう二つこの場でやらなければならない事がある。
突然﹂
まずはイリヤだ﹂
﹁どうしたの
?
ろん浄化しながらな。
﹂
さてそこで問題です。聖杯はどこへ行ったでしょうか
﹁あなたまさか
﹂
化していた穢れた聖杯を斬りまくって自身に取り込み続けた。もち
﹁俺はさっきツミキリシリーズを使って、それを媒体にアンリマユと
す。
その言葉に私は疑問を返すがコウジュは指を一本立てて続きを話
コウジュが突然、真剣な表情で私にそう言った。
?
コウジュの言葉で、私の中のピースがはまったかのように謎が氷解
!?
モテの2本を持っていたのか少し疑問だった。
泥に対して有効なものは他にもあると聞いていた。例えば切った
ものを消し去るようなもの。
それでもあの2本の剣に拘った理由がコウジュにはあったんだ。
私が心配するからと決して詳細を話さず、聖杯を食らうなんて表現
をしていた本当の意味が今分かった。
﹁あなた、聖杯を本来の聖杯としての状態で取り込んだのね﹂
みたいな﹂
﹁ピンポーン正解だ。俺の中にあるんだよ聖杯ちゃん。むしろ俺が今
聖杯
﹁嘘だろ⋮﹂
﹁信じられない⋮﹂
士郎と凛が驚愕の声を上げる。
だけど、サーヴァント達は驚いていない。
この子、私に言わずにサーヴァント達にだけ言ってたのね⋮。
私が心配するからって、そんな無茶心配するに決まってるじゃな
い。
後で折檻ね、そう思いながらジト目でコウジュを見ていると、コウ
﹂
ジュは慌てて目を反らし、手を上に掲げた。
﹁こ、来い、﹃聖剣エルシディオン﹄
﹁それは⋮エルシディオン
どうしてそんなものを⋮﹂
結界を直すために使った聖剣エルシディオン。
慌ててコウジュが出したのは、いつだったかアインツベルン本家で
!
実質的には膨大な魔力の塊だか何だからしいが、その指向性を俺が
そして今、俺の中にはあらゆる願いを叶えるって聖杯がある。
だ。
でも、それは逆を言えば確信さえあれば現実化できてしまうわけ
ある。失敗すらだ。
とを現実にすること。でも余計なことまで現実化してしまうことも
な形として使おうと思った訳さ。俺の能力は知っての通り思ったこ
﹁今聖杯は俺の中に溶け込んでる状態だからな。こいつを使って明確
私の疑問にコウジュは改めてこちらを見て言う。
?
744
?
示してやればいい﹂
確かに、その通り。その能力については私も説明を受けていた。
だから、強力な力があっても遠回りでしかやりたいことができない
とコウジュ自身嘆いていた。
でもそこまでして、私に秘密にまでして叶えたい願いって⋮⋮
﹂
士郎もな﹂
だけどその考えはどうやら違ったらしい。
コウジュはそれをちゃんと叶えてあげるために聖杯を⋮
た望みがある。
そして聞いていたかぎり、士郎はともかくセイバーには聖杯に託し
確かに、実質的な勝者は士郎とセイバーだ。
バーの願いをどうする
訳でこれの所有権は本来セイバーと士郎にある訳だ。つまり、セイ
﹁セイバーに聞きたい事ってのは、セイバーはこの聖杯戦争の勝者な
たのか、若干動揺しながら返事をするセイバー。
そして今のコウジュの説明にまだ少し理解が追いつけていなかっ
私の疑問などお構いなしに、今度はセイバーに問うたコウジュ。
﹁な、なんでしょうか
イバーに聞きたい事がある﹂
﹁で、だ。俺は今この聖杯を使いたいんだが、使うに当たって一つ、セ
?
じゃないしな。
っていうか、セイバー前にも言ったけど、セイバーは良い王だぞ
少なくとも俺はそう思うし、歴史もそう言ってくれてる﹂
﹁士郎⋮﹂
二人だけで固有結界を作れそうなほど自分たちの空間を作り始め
あ、うん、士郎達はどうやら既に幸せそうだ。お姉ちゃん嬉しい。
?
﹁俺もいらないよ。俺が叶えたい願いは聖杯を使って叶えるべきもの
はならない⋮と﹂
私は良い王ではなかったかもしれない。だけど、その事実を消して
私の国は滅びるべくして滅びたのだと。
そう気が付きました。
﹁私は、いりません。私が叶えようとしていた願いはもう必要ない。
?
745
?
?
た。
コウジュもそれをどこかヤサグレた目で見ながらも、喜んでいるよ
うだ。
ってそうじゃない
ない。
﹁ごほん
﹂﹂
﹂
答えは聞いてない﹂
?
聖杯っていうのは⋮﹁エルシディオン
﹂
!!
物理的なツッコミを入れる。
﹁あのねぇ
﹂って聞きなさい
願いを叶えるぞ
先程から私を置いてけぼりに好き勝手しているコウジュに思わず
﹁はうあっ⋮﹂
﹁何でそうなるのよ
﹁んじゃ、この聖杯は俺が使うね
コウジュは咳払いを一つ、説明を続けた。
﹁﹁⋮⋮っ
﹂
これじゃあコウジュは何のために聖杯を取り込んだのかが分から
!
!!
!!
るらしい。
再びコウジュに詰め寄ろうとするも、それをひらりと避けて、エル
シディオンをコウジュは掲げながら大きく声を上げた。
﹂
﹁イリヤに人としての寿命を俺は願う﹂
﹁⋮え
み始めた。
そしてそんな私を、コウジュが掲げた聖剣から溢れ出た光が包み込
しまう。
コウジュの行ったことが一瞬理解できずに間の抜けた声を出して
?
746
!? !!
!
だけど、今回はそれでも止まらずにコウジュは自分が思う様に進め
!!
﹁ちょ、ちょっとコウジュこれは
﹂
どういうことかわからず、私は声を荒げる。
そんな私を見て微笑みながら、いつものふざけた雰囲気ではなく、
妹を見るような、家族を見るような、慈愛に満ちた笑みを浮かべなが
ら話し始める。
﹁最初から、これだけは決めていたんだ。いや、むしろ最初はこれだけ
を俺がこの聖杯戦争の中で行うと決めていたんだ。まぁ、途中でいろ
んなものに触れて欲張ってしまったけど、それでもこれだけはって決
めてた。
イリヤはさ、諦めてたよな。諦めざるしかない状況だったんだろう
けどさ、自分の寿命が短いことを知って、それを理解して、それでも
どこか納得しきれずに諦めてた。
それが悔しかったんだ。
だから、自分が持ってる全てを使ってそれだけはどうにかしようっ
て、世界はもっと広いってことを知ってもらおうと思って色々やって
みたんだ。それがこれってわけ﹂
﹁コウジュ⋮あなた最初から⋮﹂
﹁んとまぁ⋮そういう事さね。俺が願ったのは、細かく言えば切嗣氏
とアイリスさんの子だっていう繋がりをそのままに人間としての生
を願ったからちゃんと二人との子だってことは変わらずに人生を謳
・・・・・・
歌出来るんじゃないかな。遺伝子がどうとか本当はあるかもしれん
けど、万能の願望器だっていうんだから、それくらいできると思うし﹂
途中からはどこか恥かしそうに言うコウジュ。
そんなコウジュの姿が、ぼやけはじめる。
光が強くてなんだか前が見づらい。
けど、そうこうする内に私を包んでいた光が和らいでいき、そして
消えた。 それでも前が見づらい。
﹂
747
!?
どうやら私は泣いているらしい。
﹁っ
﹁うおっと﹂
!!
私は飛びつくように抱き付いてしまう。
普段の自分ではしないような恥ずかしい行為だ。淑女としてある
まじき行為だろう。
でも許してほしい。
このどう表現すればいいかわからない感情がそうさせるのだ。
﹁ありが⋮とう⋮﹂
﹁気にすんな。これは俺の願いでもあったからな﹂
﹁それでも⋮ありがとう﹂
﹁ん⋮﹂
﹁これでイリヤの身体は子どももできるし、良い婿さん貰ってラブラ
﹂
ブ私生活でも送りな﹂
﹂
﹁ばかコウジュ⋮
﹁痛って
うにそう言うのが聞こえた。
﹂
息できない
!!
﹁う、うるさい
息
!
◆◆◆
ジュで顔を隠すように抱き付いてしまった。
キ ャ ス タ ー 達 の 声 に 我 に 返 っ た 私 は つ い 一 層 の 力 を 込 め て コ ウ
﹁い、イリヤ痛い
﹂
そんな私たちを見てか、キャスターにランサー、小次郎が茶化すよ
﹁ふふ、確かにな⋮﹂
﹁確かにな。両方とも姫さんみたいな外見だが﹂
﹁なんだか、助け出されたお姫様と騎士みたいね﹂
それは自分でもわかるが感情が制御できないのだから仕方がない。
照れ隠しだ。
そう言う彼女に思わず一層の力を込めて抱き付いてしまう。
さっきまでの雰囲気は何処へやら、またいつものコウジュに戻って
!
!
!!
748
!?
﹁っと、そろそろかな⋮
﹂
イ リ ヤ の ベ ア ハ ッ グ と い う べ き 抱 き 付 き に 一 瞬 意 識 が 飛 ん だ が
まぁ役得だったとして置いておこう。イリヤ可愛かったし。
そんなイリヤは今では先程の自分がよほど恥ずかしかったのか、今
は少し離れた所でアーチャーに慰められている。
なんか取られた気分で少し寂しいがまだすることがあるし仕方が
ない。
お次はセイバーだ。
俺はセイバーの方に向き直る。
そうすれば丁度、セイバーの身体を淡い光が包んでいっていた。
﹁セイバー⋮﹂
﹁そんな顔をしないでください。私はこの聖杯戦争に呼ばれて幸せで
した。答えは得ましたから⋮﹂
そう言い、優しげに微笑むセイバー。
セイバーを光が包んでいっているのは、セイバーの現界を維持して
いた聖杯が無くなったからだ。
つまり、セイバーの身体が帰ろうとしている。
他のサーヴァントは既に受肉しているがセイバーはそうは行かな
い。
そんなセイバーの姿を、士郎は言い表しようもない表情で見なが
ら、セイバーの手を握る。
﹁士郎、凛も⋮ありがとうございました。コウジュにも、心からの感謝
を⋮﹂
﹂
﹁礼を言われるようなことはまだしてないよ﹂
﹁これで⋮お別れなのか⋮
﹁コウジュ
﹂
りました。私は自身の時代へ戻ります﹂
﹁はい。聖杯が無くなった今私をこの時代に結びつけるものは無くな
?
けど、無理だろう。
749
?
士郎は俺にスケドを使って欲しくてこっちを向いたのだろう。
士郎が俺の方を向く。
!!
いま目の前に居るセイバーは分身体のようなもので、それ自体は他
のサーヴァントと同じなのだが、セイバーに関しては本体がまだ生き
ている状態だ。
そんなセイバーにスケドを使っても意味は無いと思う。何よりも
そうではないかと俺自身が思ってしまっている。
﹁士郎、セイバーの身体はまだセイバー自身の時代で生きてる。スケ
ドは死ぬ寸前で回復させるものだ。幾ら向こうのセイバーが死にか
けてるって言っても⋮⋮無理だ﹂
﹁くっ⋮﹂
﹁士 郎 ⋮ 仕 方 が な い で は な い で す か。確 か に、王 と し て の 使 命 が 終
わっている以上、私がこの世界であなたと共に居るのも良いのかもし
れない。私自身、前の私では考えられないですがそれを望んでいる。
しかしコウジュの言った通りに私の身体は遥かな時代を挟んだ向
こう側にあるのです。
750
そして、聖剣を賜った身として最後にしなければならない事もあり
ます﹂
セイバーの身体は既に、今にも消えそうな程に光に包まれている。
﹁セイ⋮バー⋮﹂
士郎は思いきりセイバーの身体を抱き寄せる。
こちらから見える士郎の表情は今にも泣き出しそうだ。
それでも我慢して、ただ、セイバーを抱きしめる。
﹁お別れです、士郎。あなたに出会えて⋮、あなたを愛せてよかった
⋮⋮﹂
士郎が離れる。
そして一度俯いて、改めて顔を上げた士郎は精一杯の笑顔でセイ
セイバーに会えてよかった。そして俺も愛してる﹂
バーを見送る。
﹁俺もだ
となって消えていく│││。
そしてセイバーを包んでいた光は一層強くなり、セイバー自身が光
!
◆◆◆
セイバーが消えてゆく。
俺は、今にもこぼれ落ちそうになる涙を必死に我慢し、笑顔でセイ
バーを見送る。
この柳洞寺に来る前にもセイバーと少しだけ話をした事を思い出
す。
コウジュが何をするかは分からないが、そのままを受け入れよう
と。 自分たちはどうしようと別れる事になるだろうけど、それが俺
達の運命だから、出会えた幸せをただ噛み締めようと。
そう二人で決めた。
最後に、コウジュに頼りそうになったけど、でも、やはり最後は笑っ
コウジュ
﹂
﹂
右に持ってセイバーの服の裾を持った。
﹁な
﹁え⋮
・
・
・
﹂
﹂
751
てさよならをするべきだと思った。
そうは問屋が下ろさんとです
だからセイバーとほほ笑みあいながら別れを│││、
﹁ところがどっこい
!!
コウジュがツミキリシリーズの内、どれかは分からないが二本を左
!!
﹁行くよツミキリ・ヒョウリ
!?
次の瞬間、セイバーとコウジュは消えた。
!!
!?
思わず呆けてしまったが仕方無い事だと思う。
?
﹁たっだいまー
﹂
え、どういう事なんだ
俺たちの決心はどこへ
﹂
﹁おおう
﹂
は、離すから⋮話して⋮ ち、違った⋮話すから離して
俺は思わずコウジュに詰め寄り、肩を持って揺さぶる。
﹁ホントどういう事なんだ
!? !? !?
ホントに訳がわからない。
﹁なんでさ⋮﹂
セイバーはとてつもなく疲れた姿でしかも何故か縮んだ姿で。
コウジュはついさっきまでと同じでよく分からないテンションで、
の前に居た。
俺が︵他の皆もだが︶呆けてしまってすぐ、一分程で2人が再び俺
﹁ただいま⋮戻りました⋮﹂
!!
!
﹂
?
ス ケー プ ドー ル
﹂
セイバーの時代に一緒に行って現
場で復活アイテムを使って来ただけ
!!
当て、ぐりぐりと高速でする。
そんなコウジュに俺はすかさず両方のこめかみにグーにした拳を
語尾に音符が付いているかのごとく可愛らしくコウジュが言う。
!
﹁な、何をしたかというと簡単
とても良い表情で、俺の横で仁王立ちしている
遠坂も気になるのだろう。
いつの間にか俺の隣には遠坂が居た。
﹁で、どういうことなの
まじゃ聞けないのも確かだ。
コウジュが何故言い直したのか分からないが、確かに揺さぶったま
!?
﹂
というか、これはコウジュが俺にさせているのだ。うん。
レベルでの話では無い。
俺は女の子に手を上げるのはしたくないんだが、これはそう言った
相当痛いのか、俺の手を持って離そうとするが俺は離さない。
﹁にあぁぁぁぁぁっ
!!!!!?
752
!!!
﹁酷いよ士郎⋮﹂
手を離した瞬間に、涙目で頭を押さえてコウジュは座り込んでしま
う。
﹃コウジュが悪い︵わ︶︵です︶︵な︶﹄
一斉にほぼ全員から攻められて今にも泣きだしそうだ。
そんなコウジュに若干の罪悪感が生まれるが、でもコウジュも悪い
と思うのだ。
そう自分の中で割り切る。
﹁なんで教えてくれなかったんだよ﹂
﹁うぐ⋮ぬか喜びさせたくなかったんだよ⋮。俺自体が時代越えられ
るとか本気で思わなかったし、越えれてももセイバーの元にちゃんと
行けるかどうか分からなかったんだよ⋮。確固としたイメージが無
いとどこに飛ばされるやら⋮。まぁセイバー自身を指標にしてなん
とか行けたけどさぁ。聖杯の魔力の残りもあったし。帰りは士郎の
﹂
少し拗ねるようにそう言うコウジュ。
ゴメンな、ホントに。
﹁どうせなら謝るんじゃなくて、ありがとうを言って欲しいな∼。こ
れで、士郎とセイバーの思いが成就する訳だしね∼﹂
そんな俺にコウジュもばつが悪くなったのか、いつものように茶化
すように笑いながらそう言うコウジュ。
それならと俺も、セイバーもコウジュの前に行く。
753
中の鞘をセイバーに強くイメージして貰ってなんとか⋮⋮うぅ痛い
⋮﹂
まだ涙目で頭を押さえているコウジュはそう言う。
あー、ってことは、悪い事をした
代に取り残されたかもって事⋮だよな⋮
﹁ご、ごめん
そう思うと、先程割り切った罪悪感が一気に自分を苛む。
?
時代を上手く超えられるかって事は下手をすればその失敗した時
?
﹁良いよ、別に。言わなかった俺が悪いし⋮﹂
俺はすかさず謝った。
!!
﹁ありがとうなコウジュ﹂
﹁ありがとうございますコウジュ﹂
二人で精一杯の感謝を込めて礼をする。
﹁ふふん、どういたしましてどういたしまして♪ これで名実ともに
感謝の念を堂々と受けられるってもんさ。さっきは〝まだ〟何もし
てなかったからねぇ﹂
なるほど、それであんな妙な言い回しをしたのか。
セイバーの事で頭がいっぱいでその場では流してしまったがそう
いうことだったのか。
もう一度言うよ。
ありがとう、コウジュ。
754
﹃stage49:うん、ハッピーエンド‼‼﹄
あれから長い年月が経った。10年だ。
実は、俺が思うハッピーエンドを終わらせた後しばらくして、メー
ルが来ていた。
内容は単純に、次の世界まで10年の猶予があるというもの。
ひょっとしたら聖杯戦争が終わってすぐに俺はこの世界から出て
行かなければならないのかもなんて嫌な予想が若干あったのだがど
うやら外れたようで助かった。最初の時にいくつかの世界を渡るな
んて言われていたからな。
けど、今あらためて思うと10年は長いようで短かった。
が集まってくれ
755
この10年でいろんなことをした。色んな事があった。
そして今日、お別れの為に何人もの仲間⋮戦友
た。
ちなみに今居るのは衛宮邸の庭だ。
最初の方は、アインツベルンを正式にイリヤに継がせるために爺さ
まぁでもほんと色々あったなぁ⋮。
世界って狭いね⋮。
あとの二人がさっちんとまさかの桜ちゃん。
つだったかライダーがメル友になった一人がふじのんだったらしい。
そんでもってふじのん、何故いるふじのんっと思ってしまうが、い
たようだね。
うん、この世界って遠野家あったよ。つまり、月姫の世界でもあっ
クェイド、遠野秋葉、シエル、シオン、弓塚さつき。あと浅上藤乃。
そしてここからが驚きのメンバー、白レン、レン、遠野志貴、アル
チョメン︶、美綴綾子。
イリヤ、サーヴァント勢全員に、士郎、凛、桜、慎二︵ムキムキマッ
だけどあの広い庭も狭く感じるほど集まってくれた。
?
ん共をぬっこぬこにしに行ったり、イリヤにカレイドステッキをマジ
で持たせてみようと時計塔行ったり、そしてそこで何の因果かアル
クェイドについてキシュアのじっちゃんから頼まれたり、驚きながら
弓 塚 さ つ き
も行ったらホントに月姫だし、さっちんからのヘルプメール便りにと
ある町まで行ったら偶然にもあのさっちんだし、案の定士郎達が魔術
師協会に目を付けられて、結局協会もOHANASHIしに行かなけ
ればならなくなったり、と色々あった。
ふじのん経由で両儀のシッキーと会うこともあったっけか。
黒桐青年が俺にラッキースケベをやらかして何故か俺が切り刻ま
れるなんてこともあったぜぃ。
あ、いつだったかどこの国だったか戦災被害にあってる所へチャリ
ティーコンサートしに行った時に、ムキムキ慎二が素手で戦車に無双
してたなんてのもあったなぁ⋮。
﹄なん
﹄って言いな
すぐ死ねぇ
最初誰だか分からなかったし、
﹃80パーセントォォ
やねん。
そういえば綾子についてなんだが、その後一段落した時に退院は済
んでいたから士郎の学校を見学という名目で会いに行った。
その時一緒にキャスターと行ったんだけど、どうやら綾子ってば魔
術的なものに縁が出来てしまっているのだそうだ。それが先天的に
持っていたモノなのか、後天的にあの巻き込まれた時にか、はたまた
それ以外で発現してしまったのかは分からないが記憶を消したから
といって放っておくのは危険な状態のようだった。
だからある程度知識を教えてあげるか、もういっそのことこちら側
の世界に入るかを決めた方が良いって事になった。もちろん本人の
意思を尊重してだ。
結果は、ここに居るのが答えだ。生来の姉御肌もあって、一緒に行
動している。
ただ、魔術自体には適性が無かったから装備は俺のモノを使って
756
がら突っ込んで行ったからビビったビビった。
最近は斧にハマってるらしくて、
﹃今死ねぇ
!
!!
て言いながら無双してるよ。ちゃうねんキャスターの魔改造の所為
!
る。種族ヒューマンとして色々調整できたのは幸いだったな。
ちなみに結構強い。
英霊とまでは行かないけど、元々運動神経も良いし、槍を薙刀とし
て使う事で結構な戦闘力がある。
綾子にまで戦闘力が求められる世界であるってのは悲しい事だが、
綾子が自分で決めた事なので俺も納得している。
最近ランサーと仲良い気がするんだけど、このままくっ付くのかね
あ、レンと白レンだけど、なんか色々してたら使い魔じゃ無くなっ
た。
ど ち ら か と い う と 精 霊 に 近 い な。単 独 行 動 で き る よ う に な っ
ちゃった。
白レンとは俺が契約する事になったし⋮なんでさ
会社作っちゃった
そして、何よりも俺の中で大変だったものがこれだと断言できる。
もって⋮。
動できるからあんまり意味は無いモノなんだけど、なんかどうして
まぁ契約とは言ってもパスを繋ぐ程度のものだし、白レンは自律行
?
の方向性に悩んでたら、キャスターが⋮キャスターが⋮⋮。
で、まぁ、ギルのおかげもあって基盤はどうとでもなるんだが、そ
う羨ましすぎるスキルを持ってるからね。
なにせ彼、黄金律っていう何もしてなくてもお金が手に入るってい
会社自体は考えてたんだ。その為のショタギル君でもあるし。
ちまったよ⋮。
当然のようにアイドル養成とかその他もろもろをする会社になっ
くしたいという欲望。
そして、そこにキャスターさんの趣味である可愛いものを更に可愛
いが見てくれが良いんだよ。男女とも両方にな。
俺達って、自分に関してはナルシストみたいになるから言いたくな
けどな、仕方無いんだ︵血涙
うん、突然この子は何を言ってるんだろうと思うのも仕方ない。
!
757
?
いつだったか罰ゲームでコスプレの撮影会が行われたんだが、ある
日、ニ〇動とかネット巡りしてたら、例の動画やらがネット上で何故
か拡散されてたんだよ。
とりあえず裏切りモノを探した。犯人はランサーだったのでとり
あえず埋めた。
で、でだ。
それを知ったキャスターは、もうこのままYOUいっちゃいなよ的
なノリで会社をそっち方面にもっていきやがった。
おかげでアイドルデビューだよ。
まさか、好きだった歌︵カラオケレベルだったけど、マネーの力で
キャスターはマネージャーで
プロの元で練習させてくれた︶がワールドワイドな話になっちまうと
は⋮。
当然イリヤやキャスターもだぜ
忙しいからってあんまりしないが。
仕舞いにはアイドルやらそっち関係だけでなく、開発やらレジャー
系やら、もうその会社なんなのって位に手広く手を広げている。
月姫勢と出会ったのはその位の時期だったかな、もちろん人員確保
しましたよ。月姫勢にも可愛いどころ綺麗どころいっぱいだもの。
一時期、俺、イリヤ、レン、白レンでアイドルグループ結成した時
もあった。一部で狂信的なファンが発生してかなりビビったなぁ⋮。
まぁ全員一般人では無い訳だから歌って踊っても息切れ一つしな
いしこの業界ではある意味チートだよね。
イリヤとか元から歌が上手いから今じゃソロでミリオン叩き出す
有名歌手だよ。
他のメンバーも交代とかで色んなグループ作ったなー。
あ、そういえばアルクェイドだけは最後まで歌関係はやらなかった
な。写真集はやったけど。
後はアルクの姉にあたるアルトルージュが来たときはビックリし
たっけ。まぁ結局期間限定ユニットの生贄になったけど。
うん、思い返すと良い思い出だな。
恥ずかしい思い出ばっかだったけど、面白かったて言えば面白かっ
758
?
たし。
会社の売り上げのほとんどは紛争地や難民の手助けとかのボラン
ティアに回した。
だってうちの会社の重役の何人か、っていうか士郎達だけど、正義
の味方だもんね。今じゃ名実ともに正義の味方だ。
おかげで、会社の社員さんもいっぱい増えた。子会社とかいろいろ
ね。
エンターテイメント部門なんか今じゃ世界レベルでひどいレベル
︵ほめ言葉︶だよ。誰だよオタク文化で各国を侵略したの。平和で良
いけどさ。
あ、最後にもう一つ、忘れられないものがある。
﹃Fate/stay night﹄なんだけど、この世界でゲーム
になっちまった。細かい部分は違うけどな、バーサーカーが俺とか。
何でだろうな。俺知らないよ
まぁ開発に関わった身ではあるんだがな。
グロシー
で、何が問題かというと、何故かコウジュルートが付け加えられて
いる。
俺ルートとか誰得
いや、一応18禁じゃなくて、通常ゲームソフトだよ
ンあるから年齢制限あるけどさ。
ホント誰得だよ。
行けない。ちなみに最初の原型師はキャスター。ほんとにクリエイ
ターになってたからビビったよ。
元の世界でも行った事無かったから入り浸ろうと思ったのにさ⋮。
ま、行ったんだけどね。変装してだけど。
勿論祭典にも行ったぜ。
自分の薄い本にはビビった。うん。
まぁそれだけ好いてくれてるってのは嬉しいんだけどね。
しっかりしろ
俺
!!!
ってやばい、本格的にアイドル思考になってる部分がある。
俺は中身男なんだぞ
!?
!!
759
?
おかげで自分のフィギュアとかが出来たりした所為で気軽に秋葉
?
!?
と、まぁ長い長い回想だったが、とにかく今日でお別れだ。
挨拶はほとんど済ませてある。
最近ずっとお別れ会してたしな。
お別れ会なのにずっとはおかしい
いやいやいや、いつの間にか随分と増えた、魔術やらの裏関係の人
外どもが一日やそこらの酒盛りで終わる訳無いじゃないか。三日三
晩どころじゃない長い期間でやりましたとも。 さておき、今俺の前には扉がある。
さっきメールが来て、これをくぐれとの事だ。
もう一度、何気に長かったこの世界での事をさらっと思い出す。
色々あったなホント。
悔いは無い。
いや、あるか。
どうせならイリヤの結婚式とか見たかったなー。俺ってば生前の
妹のやつ見れなかったし。
あ、ここで皆さんにご報告があります。
士郎の野郎やりやがりました。セイバーとの間におめでたです。
それだけじゃありません。凛と桜もです。
公認ハーレム築きやがったんだよあいつ。
あんなにいっぱい居るんだし。
契約も
ちなみに遠野家の志貴君もです。赤ん坊はまだいないけど時間の
問題じゃないかな
あ、でも白レンは何でか志貴の方に行かなかったな。はて
俺としたし。
ま、本人たちが幸せそうなんで別に良いけどねー。
いやいや、末永く爆発しろとか思ってませんので。
でも、ホントにイリヤの花嫁姿は見たかったなー。
﹂
かなり言い寄られてた筈なんだけど、浮いた話は全然出てこない。
﹁何考えてるの
﹁ばかコウジュっ
﹂
!
760
?
今じゃもう成長してボンッキュッボンッな美人さんだぜ
?
?
?
﹁いや、イリヤの花嫁姿見たかったなーっと﹂
?
また頭をはたかれた。
やめてください縮んでしまいます。
俺は俺以外の何者でもない﹂
﹁まったく、いつまでたっても変わらないんだから⋮﹂
﹁当然じゃん
﹁厨二乙﹂
うっせえよランサー
また埋めるぞこのやろう
﹁でも、ホントに変わらないわ。初めてあなたを召喚した時の事が昨
﹂
日のように思い出される。ホントに変わらないわ。身長とか⋮﹂
﹁サラッと人が気にしてる事言うんじゃねぇ
そうなんです。
俺を残して皆成長しました。
長してるんだぜ
レンと白レンすらもちょっとずつ、ホントにちょっとずつだけど成
だから、俺を残して皆本来の身長位まで戻ってる。
スケドの効果で10歳くらいまで若返っちまってたからな。
サーヴァント勢も完全に受肉してるから当然な。今丁度20歳だ。
!!
﹂
?
暴露すると決めていたしな。 まぁふーんで終わらされたけどさ。
﹁ま、それは置いておいて、もう行かないとダメなんじゃない
?
何で喧嘩してたのか知らないけど。
?
まぁたぶんキャラが被るからとかそんなんだろう。
するほど仲が良い
この二人、元々犬猿の仲だったのに、今は仲良いよな。いや、喧嘩
白レンを地面から持ち上げて胸元に抱えるイリヤ。
﹂
ちなみに、今言ったように俺はカミングアウトした。一段落すれば
足元に居た白ネコが声を出して言う。白レンだ。
﹁だってホントの事じゃない
﹁可愛い言うなっての。何回言えば良いんだよ。俺は元男だっての﹂
から﹂
﹁もう、拗ねるんじゃないわよ。そんな事してもかわいいだけなんだ
不老不死とか⋮⋮けっ。
?
761
!
!!
?
﹁まぁそうだな。とはいえ、俺は不老不死で、時間を操る方法も知って
﹂
る。予定通り、力を得たらこの時間帯に戻ってくるさ。案外俺がこの
ドアくぐった瞬間未来の俺が来たりするかもよ
﹁そうだったわね⋮﹂
それでも寂しげに言ってくれるイリヤ。
しかし、すぐに笑顔に戻って言う。
﹁本当に、あなたを召還できてよかった。私がここに居るのはあなた
の御陰よ﹂
﹁ははっ、そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。偶然だったかもしれ
ないけど、俺もイリヤに召喚されてよかったと思ってる﹂
こ の 世 界 の 人 達 と チ ー ト を 貰 っ た だ け の 俺 と で は 繋 が り が 無 い。
だから誰に召喚されていてもおかしくは無かった。
一応ゲームコラボとしてセイバーが持つエクスカリバーを持って
いるから、可能性的には士郎が一番高い位かもしれない。
けど、そんな中で俺はイリヤの元へと来ることが出来た。
その偶然に、俺は何よりも感謝した。
俺のマスターがイリヤであったから目標が出来た。イリヤと触れ
ることでこの世界で戦う覚悟が出来た。イリヤが居たから前へ進む
ことが出来た。
他の人がマスターでも俺なりに何かしたかもしれないけど、やはり
イリヤ以外のマスターは考えられない。
そう思いを馳せていると、イリヤは微笑みながらゆっくりと首を
振った。
イリヤは抱えていた白レンを近くに居たキャスターに渡すと、俺の
目の前まで来て言う。
﹁違うわコウジュ。これはきっと偶然じゃなかった﹂
偶然じゃない
願っ
た
叶 え る た め の 物。そ し て あ な た は、思った こ と を 事 象 に し て し ま う
762
?
﹁私たちは根本的なところで似ているのよ。私は小聖杯である願いを
そんな俺を見て苦笑するイリヤは続けた。
そう言ったイリヤに俺は首を傾げる。
?
者。きっと私たちはそういう所で似ていたからこそ繋がることが出
来た﹂
自分を物扱いするイリヤに俺はついムッとする。
そんな俺に対してイリヤは、慈母のように優しげに微笑みながら首
を振る。
﹁私はもう自分の生まれを恨んでなんかないわ。私が小聖杯であった
からこそあなたに出会えて、人としての人生を歩むに至れた。自分が
願いを叶えるための物なのに自分の願いは決して叶えられないとい
う絶望を、あなたが変えてくれた。私の願いを叶えてくれた﹂
言いながらイリヤが俺に抱き付いてくる。
あー、くそ、成長したイリヤに抱き付かれてしまえば俺はイリヤの
胸の下まで位しか身長が無いから悲しくなってくる。おかげで涙が
止まらない。
﹁だから、ありがとうコウジュ。私のバーサーカー﹂
763
その言葉を聞いた瞬間、もうダメだった。
誤魔化しているつもりだったが、胸の内を暖かい何かが埋め尽く
し、後から後から涙が出てくる。
なんだよなんだよ、しみったれた雰囲気で別れるのはやめようなっ
て昨日話したじゃんか。
﹂
なのになんで今になってそんなこと言うんだよ。
﹁ふふ、泣いているの
﹁泣いてねぇ⋮﹂
なった昔の様な天真爛漫な満面の笑みを浮かべた。
そして、霞む俺の視界を投影したハンカチでふき取り、最近しなく
る。
イリヤは抱き付いていた手を離し、かがんで俺の目を正面から見
﹁う、うるせぇ⋮﹂
﹁やっぱり泣いてるんじゃない﹂ てからだ﹂
﹁だから泣いてねぇっての。ってか涙脆くなったのはこの身体になっ
﹁コウジュは昔から泣き虫よね﹂
?
﹁いってらっしゃい、コウジュ﹂
そんなイリヤの後ろで、他の皆も言葉にしないが手で仕草で﹃また
会おう﹄と言ってくれている。
それを見て、俺は頬を叩いて気合を入れる。
泣いてるだけじゃぁやっぱり俺じゃないよな。
﹂
だから、俺も負けじと笑みを浮かべる。
﹁ああ、行ってきますだ
それだけ言って、俺はイリヤたちに背を向けて扉へと歩き出す。
そうだ、さっき自分でも言ったようにこれが最後のお別れとは限ら
ない。
いつか自分の力で、ここへと戻ってくればいい。
俺は力強く、扉を潜った。
そして感じる浮遊感。
認識する前に落ちていく身体。
ああ、最後まで俺はこんな扱いなのね⋮。
764
!!
﹃stage50
:if...﹄
物が散乱する蔵、その中で息を荒げながら今の自分に起こっている
ことを認められない少年が居た。
自分が何故この状況に至ったかが彼にはわからない。教えてくれ
る人間も居ない。
少年は現状を理解しようと記憶を浚うも答えはやはり出ない。
学校での記憶が曖昧なまま自らの家へと帰ってきたはいいが、そこ
へ再びの襲撃者。
朱い槍を持つその男は、理解できない言葉を言いながら少年を追い
詰めるように槍を振るった。
そしてその男から命からがら少年が逃げてきたのがこの蔵だった。
﹁ひょっとすれば坊主が7人目だったのかもな﹂
入ってきた入口、鍵を閉めたはずなのに、いや、閉まっているのに
当然とばかりにその扉の内側に居る槍を思った男。先程から少年を
殺そうと迫る男だ。
男は無造作に槍を構えている。
しかし、だからと言って彼を殺すことを止めた訳ではないだろう。
ただ、男にとって少年は構える必要が無いと言うだけ。
﹁じゃあな。運が悪かったと思って諦めてくれや﹂
男が槍を軽く振るう。ただそれだけで驚異的な速度。
だが、少年にはそれがとてもゆっくりとしたものに見えた。 これが俗に言う走馬灯か⋮。
そう少年が思う間にも槍の穂先少年へと突き進む。
思い出されていく過去。誓った言葉。しかしそれらを無価値だと
否だ。
断じて否だ。
765
?
断ずるが如く目の前に差し迫る槍。
許せるか
許容できるか
?
?
少年は遠き過去に誓った。自らの命の恩人であり家族となったあ
の男に。
なればこそここで死んでいる場合では無いではないか。
だから、少年は拒絶した。願った。
﹂
そしてその願いはここに成就する。
﹂
﹁っるあぁぁぁぁ
﹁っな
そこまで思ったところで、あの少女が男に勝てるとはどうしても思
める。それは少し前に校庭で聞いた戦闘音にも似ていた。
そうこうする内に外からは金属同士がぶつかる甲高い音が響き始
今起こっている非現実さについ呆けてしまう少年。
﹁いったい何が⋮﹂
に刃が付いた武器を肩に掛けるようにして外へと飛び出ていく。
そして言い切るや否や、いつの間にか手にしていたS字を描く両端
る。槍の男が吹き飛んでいった方だ。
先程まで少年を優しく見ていた眼は、苦笑しながら蔵の外を見てい
何とか口にした疑問に、少女は待ったをかけた。
﹁あー、悪いね。どうやらそれどころじゃないようだ。説明は後でな﹂
﹁君⋮は⋮⋮﹂
合いなほどの幻想を少年の目に焼き付ける。
あるのにどこか感じられる存在感。その全てが、今居る蔵には不釣り
るがそれでもその表情が溢れる快活さ。幼女と言っても良い幼さで
白銀の髪にルビーを思わせる瞳。白と黒だけで彩られた服ではあ
少年にはあまりにも印象的だった。
月明かりが入り込むだけの蔵の中で、ブレイバーと名乗った存在が
息を飲んだ。
﹁こんばんは士郎君。サーヴァントブレイバー寄る辺に従い参上だ﹂
操主たる男を弾き飛ばした。
に蔵は閃光に包まれ、その光の中で産まれた存在が槍を弾き、更には
少年の心臓を2度も貫こうとしたその穂先、それが少年へと届く前
!!!
えず、助けに行かなければと我に返り立ち上がった。
766
!?
しかしそこで少年はふと気づく。
﹁あの娘、何で俺の名前を⋮﹂
・
・
・
﹂
﹁変わった武器を持ってるが嬢ちゃん、一体どこの英雄だ
﹂
﹁異世界の⋮って言ったら信じる
﹁さぁ、どうだろうな
﹂
?
初歩的な突きだ。
﹁いきなりはひどいなぁっと
﹂
器を振るいランサーへと反撃する。
か上下逆さまになったところで片手を地につけもう片方に持った武
だがそれもブレイバーは身体を後ろに倒すように避け、それどころ
その動きを見てランサーは、突いた体勢から横に槍を薙ぐ。
ること。
突きに対してブレイバーが取った行動は単純に、身を横に流し避け
﹁そう言いながら躱すじゃねぇか
﹂
そこまで考えたランサーは自らの槍を繰り出す。
そしてその答えは刃を交じり合えばわかることだろう。
と言う現実離れした殺し合い。ならばありえないことではない。
普通ならば一笑に付すべき戯言だが今行われているのは聖杯戦争
その答えが異世界の英雄だという。
ばれたものだと興味本位で問うてみた。
ブレイバーの姿を見て、ランサーはまた変わったサーヴァントが呼
呼び出された少女、ブレイバー。
一つも感じさせない姿で佇んでいた。それに相対するのは今まさに
槍を持つ男、ランサーは吹き飛ばされたにもかかわらずダメージの
?
!
!
767
!!
ランサーは慌てずにその足元に振り割れた刃を槍で防ぎ、体制の崩
れている少女に向かって蹴りを放つ。
しかし少女は、放たれた蹴りに対して反応できなかったのか避けも
せずに喰らい、飛ばされる。
﹂
先程とは逆に飛ばされた少女、しかし彼女は、身体が地に付く前に
くるりと身を翻して着地した。
﹁今のは割と本気で蹴ったんだがな。障壁か
﹁さぁさぁなんでしょう。けど、教えられないんだなこれが﹂
﹁はっ、それもそうか﹂
自分でもわからないから教えられないんだよなんて言葉を少女が
内心で呟いているとも知らず、ランサーは先程までと違う構えを取っ
た。
﹁悪いな嬢ちゃん。うちのマスターは臆病でな、一当てしたら帰って
こいだとよ。その障壁がどこまでかは分からんが、試させてもらう
ぜ﹂
ランサーの穂先に集まる魔力、それはあまりにも濃密な死の気配
だ。
それを感じ取ったブレイバーは冷や汗を流す。
今から目の前の槍を以て放たれるものを知っているのだ。そして
それが容易く自身の命を奪い取ってあまりあることも。
しかし、だからと言ってそのまま死ぬという選択肢をブレイバーは
取る訳にはいかない。
ブレイバーは徐に懐からあるものを取り出した。携帯電話だ。
それをランサーに向ける。
ランサーはその行動に訝しみながらも、与えられた知識からそれが
携帯電話と解し、行動せずに必殺の一撃の準備をする。
次の瞬間、カシャリと光と共に携帯電話が瞬く。
その行動にさらにランサーが内心で訝しんでいると、目の前の少女
が口を開いた。
﹁クー・フーリン、アイルランドの光の御子。そしてその手荷物ゲイ・
ボルグから放たれる必殺の一撃は因果の逆転を起こし、避けることも
768
?
﹂
叶わない﹂
﹁っ
﹁そう睨まないでほしいな。勝手に写メを取ったのは謝るけどさ﹂
﹁そうじゃねぇ。何故知って⋮⋮いや、その携帯電話か﹂
﹁さぁ、どうだろうね﹂
飄々と笑う目の前の少女。その姿にランサーは殺気を強める。
いま目の前のサーヴァントが言った情報はすべて真実だ。そして
ボ
ル
グ
﹂
﹂
この聖杯戦争において自らの情報と言うのは宝物にも似た重要なも
の。
﹂
文明の利器で何が出来ると放置した結果がこれだ。
﹁もう一度問う。嬢ちゃん、お前は何だ
﹁サーヴァントブレイバー。所謂イレギュラーってやつらしい﹂
﹁そうかい。ではブレイバー、知った以上はここで死んでもらおう
ランサーが持つ紅い槍、そこに凝縮された殺意が放たれる。
イ・
!!!
?
携帯電話をしまい込んだブレイバーがそれに対峙する。
ゲ
﹂
﹁刺し穿つ死棘の槍っ
﹁ルゥカ
!!!!!!!!
郎
けた。
イ・
ボ
ル
グ
それを見てランサーはチッと後味の悪そうに舌打ちをして背を向
舞い上がる土煙。
少年を通り越しその後ろにある蔵の壁へと叩き込まれた。
士
そして貫いて余りあるその槍の威力は、いつの間にか出てきていた
くすり抜け、魔槍は少女の心臓を貫く。
その結果、ブレイバーが防ぐために振るったルゥカの軌道を訳もな
なく、心臓を貫いた結果放たれたという逆行。
刺し穿つ死棘の槍 は 確 実 に 心 臓 に 穿 つ 槍。放 っ た か ら 貫 く の で は
ゲ
もない。
だが、魔槍が行うは因果の逆転。武器をで防ぐ程度で避けれるはず
バーがルゥカと呼んだ武器を振るう。
ランサーから放たれた魔槍。その軌道に合わせるように、ブレイ
!!!
だが││、
769
!?
﹁おい、確かに俺は心臓を貫いたはずなんだがな
﹂
瓦礫となった壁の中から一瞬漏れた光、同時に、ガラガラと崩れる
音。
﹁あははー、勿論一回死んだとも﹂
ランサーが振り向くと、そう言いがらブレイバーが瓦礫の中から出
てくる。
パ タ パ タ と 埃 を 払 い な が ら 出 て く る そ の 姿 に 傷 な ど 跡 形 も な い。
その姿はどこからどう見ても心臓を貫かれた者のものではない。
﹁ち、やり辛いぜ。さっきから嬢ちゃん相手には身体も動きづらいし、
他にも何かしてるだろ﹂
﹁あー、それは俺にはどうしようもないかな。まぁでも、一回殺された
くらいじゃ俺は倒せないのは確実かな﹂
﹁ああ良いぜ。とことんまでやり合おうか﹂
ラ ン サ ー が 再 び 槍 を 構 え る。そ れ に 合 わ せ て ブ レ イ バ ー も 再 び
ルゥカを呼び出し構える。
辺りに満ち溢れる殺意。一触即発と言う言葉が相応しいだろう。
少し離れた所に居る士郎も息を飲む。
現在の状況を何とか理解しようとすると共に、何とか打開しようと
するもそれが思いつかず、さらに言えばその場の雰囲気にのまれて動
けない状況だ。
深夜なのもあってか、音は無い。人の気配もない。
ただ、空を流れる雲がゆっくりと動くのみ。
しかし唐突にその重苦しい空気は霧散した。
意外なことにそれを為したのはランサだ│。
﹁ったく、これからが良いとこだってのによ。悪いが帰還命令が出た
んでな、帰らせてもらう﹂
﹁そいつは助かる。御帰りはあちら﹂
﹁くく、そう邪険にしなくてもいいじゃねぇか。またなイレギュラー
の嬢ちゃん﹂
そう言い残し飛び去るランサー。
それを見、姿が見えなくなったところで地へと崩れるように座り込
770
?
むブレイバー。
﹂
慌てて士郎が駆け寄った。
﹁だ、大丈夫か
しかしそんな士郎にブレイバーは手をひらひらと返すのみ。
後ろから近づいたために後ろ姿しか見えないが、その所作は軽いも
ので確かに大丈夫そうだ。
とはいえあの槍を喰らい、槍の男曰く心臓を貫かれたはずの少女。
日ごろから御人好しと言われる士郎には放って置く選択肢はない。
﹂
緊張解れて汗が出ただけや
﹂
だから士郎はそのまま近づきブレイバーの正面に向かう。
﹁泣いてるのか
﹁な、泣いてへんわ
!!
◆◆◆
﹁もう帰るの
御持て成しもまだなのに﹂
士郎は、これなら大丈夫そうだと何故か確信した。
!
マスター
ブレイバー
雪の妖精を思わせる少女からの命をすぐにでも実行できるように、
岩を思わせる斧剣を片手に佇む鋼の巨人。相対する少 女と比較すれ
ば、その身長差は優に3倍にもなるだろう。
だが、自分が逃げるわけにはいかないとブレイバーは覚悟を決め
る。
なにせこの場に居るのは敵コンビと自身とマスターだけ。そして
大英雄を相手取れるのは自身だけ。
速度を優先し、手を組んでいる凜・アーチャーペアを置いて先にこ
771
!?
?
﹁これは、やっばいなぁ⋮﹂
?
の城へと来たのはブレイバー自身だ。
だから、答えは決まっている。
ブ
レ
イ
バー
お前助けに来たのに二人共死ん
そんなこと出来るわけが││﹂
﹁士郎、速く逃げてくれ。上手く行けば凛ちゃん達がこっちへ向かっ
てるだろう﹂
﹁な、コウジュ
﹂
﹁行けっつってんだ馬鹿マスター
だらどうすんだ
い つ も は 飄 々 と し て い る 自らのサーヴァント の そ の 剣 幕 に 士 郎 は
黙るしかできなかった。
ラ イ ダ ー コ ン ビ を 下 し た 時 も 余 力 が あ る よ う に 見 え て い た の に
バーサーカーを相手にこの様子だ。おそらく勝率が低いのだろう。
でも、それならば尚更この少女を捨て置く訳にはいかない。
それをしてしまえば、少年は衛宮士郎ではなくなってしまうのだか
ら。
そう思い、士郎は自らのサーヴァントに声を掛けようとするが、遮
られることになる。
﹁悪いな士郎、この大英雄相手にはここら一体を吹っ飛ばすつもりで
やらなきゃ勝てないんだ。だから早く逃げてくれ﹂
士郎は逃げることにした。
・
・
・
﹂
﹁お兄ちゃんを逃がしても無駄よ。あなたを倒してすぐに追いかける
もの﹂
﹂
﹁ははー、そんなに弟君が気になるかい
﹁⋮っ。あなた、何を知っているの
?
﹁ほんと、何だろうね。昔は何の役にも立たなかった知識ってところ
?
772
!!
!?
!
かね。けど、君が士郎に会いたかったってのは知ってるかな﹂
﹁何でも知った風に言うのね。正直、煩わしいわ﹂
﹂
その思
﹁何でもは知らないさ、知ってることだけってやつでね。でもだから
こそ、この時を待っていた﹂
﹂
今すぐに殺しなさいバーサーカー
﹁ふふ、この状況を作ったのはあなたの思惑とでも言う訳
い上がったまま死になさい
﹁■■■■■■■■■■■■■│││││
!!
?
あんたは十三回、俺は心が折れない限りだ
﹂
!!!
﹁け ど 俺 は
﹂ とかなりそうだ。これでもう思い残すことはねぇさ﹂
チャーは答えを得た。キャスターとの契約も果たした。イリヤも何
は 終 わ っ た ん だ。別 れ は 必 然 っ て や つ さ。桜 ち ゃ ん を 救 え た。ア ー
﹁まぁしゃーないさ。俺は聖杯戦争の為に呼ばれた。そして聖杯戦争
﹁けど、コウジュはもうすぐ⋮﹂
ていた。
そんな二人は、静寂に包まれた龍洞寺の山間で日が明けるのを待っ
たギルガメッシュを打倒した士郎とブレイバー。
初めての邂逅から数週間が過ぎ、前聖杯戦争からの生き残りであっ
﹁ありがとう士郎⋮。お前のおかげで俺は救われたぜ﹂
◆◆◆
ねぇか
﹁や っ ぱ 怖 ぇ な ぁ。で も ま ぁ や ろ う か 先 輩。盛 大 に 死 に 会 お う じ ゃ
!!!!
!!
涙を堪える様に言う士郎に、コウジュは静かに首を振る。
ブ レ イ バー
!
773
!!
﹁言 っ た ろ。そ の 気 持 ち は 俺 に 向 け る べ き じ ゃ ね ぇ っ て。ほ ら あ れ
俺はがむしゃらに頑張ったコウ
だ、吊り橋効果。お前さんを思ってる人は他に居るし、俺はその気持
ちを受け取る資格が無い﹂
﹂
﹁資格がどうとか関係ないだろう
ジュだから
﹁うわっぷ、何するんだよ
﹂
それを見て士郎はブレイバーに抱き付いた。
ブレイバーの身体は次第に薄れ始めていく。
だが時は残酷だ。
そしていつしか、士郎は自分の気持ちを自覚した。
頑張ってきた。
身に合わない力を持った優しい小さな英雄は、只管にがむしゃらに
でも改めて思うと最初から、心奪われていたのだろう。
ことに涙している姿を見た時は何故か意図せず抱き付いてしまった。
こからは各サーヴァント達との血みどろの戦いだった。命を奪った
初めての邂逅、その時はただ単にきれいだと思っただけだった。そ
いつも士郎はそう思ってきた。
らも温かい目を俺に向けるのだろうか。
何故この子には言葉が届かないのだろうか、何故悲しそうにしなが
噛む。
苦笑しながらそう言うブレイバーに士郎は思わず奥歯をギリッと
し、士郎の事は好きだけどちょっと違うんだ﹂
﹁で も や っ ぱ 駄 目 な の さ。俺 は 自 分 自 身 に 整 理 を つ け き れ て い な い
!
ざけるような笑みではなく、優しい、優しい笑みだ。
そして笑みを浮かべた。優しい笑みだ。いつも彼女がする様なふ
ブレイバーが士郎の身体を優しく押し遣る。
﹁うん、なら良い﹂
﹁分かった。自分も一緒に救える正義の味方になってみせるさ﹂
えてるさ。けど約束は守れよ﹂
﹁⋮ったく、あんたも変なのに惚れたなぁ馬鹿マスター。うん、絶対覚
﹁俺は好きだった。それだけは覚えててくれ﹂
!?
774
!
﹁じゃ、さよならだ。本当はもうちょっと心残りがあるけど、仕方ない
しな﹂
﹁今本音を言うのかよ。いつもコウジュはずるいなぁ⋮﹂
﹂
﹂
﹁ふふん、普段位ふざけないとやってらんねぇのさ。頑張れよ、士郎﹂
﹁ああ、それじゃあなコウジュ﹂
﹂
く俺の残存決定だとか⋮⋮﹂
﹂
﹁メールでそんなことまで教えてくれるのか、聖杯ってすごいんだな
⋮。でも、そっか、残存か﹂
﹂
﹁っておい、何で嬉しそうなんだよ﹂
﹁な、何でも無い⋮ぞ
﹁何でも無いならその笑みを止めろ馬鹿マスター
!!!!
?
775
﹁なんだ
!!!??
テテテテーテーテッテッテテー♪
﹂
﹁って、あれ消えない。しかもメール⋮
﹁ど、どうした
?
﹁いやなんかおかしくてって⋮⋮⋮っはぁああああああああああ
!?
﹁あぁ、いや、なんか、聖杯戦争に勝った士郎君にご褒美ってことで暫
!?
○サーヴァント:ブレイバー︵コウジュ︶
この後10年の間現世に留まり、衛宮士郎と共に世界各地でいくつ
もの事件に遭遇。その時味方につけた力ある者達と共に、ブレイバー
消滅後に再び再召喚しコウジュを受肉させることに成功する。
その後どうなったかは、本人達のみ知るところである。
776
﹃ゲート 自衛隊彼の地にて斯く戦えり﹄の世界
﹃stage0:おかえりなさい︵行ってらっしゃい︶﹄
落ちる、落ちる、落ちていく。
そんな感覚もどれほど続いただろうか。
しかし、このいつまで続くかわからないフリーフォールが妙に懐か
しく感じる。
というのも、俺がFate世界に召喚された際もこんな感じだった
のだ。
﹂
だがその感覚も、唐突に終わりを告げる。
﹁痛ぇっ
終わりを告げた瞬間地面に叩き付けられる。
あまりにも突然目の前に地面が現れたものだから受け身を取る暇
すらなかった。
﹁なんだよこの悪意しか感じないテンプレは⋮﹂
とはいえ無駄にハイスペックなこの身体だとそんなダメージもす
ぐに消えてくれる。
身体に残る痺れにも似た衝撃によるダメージに目を瞑りながら立
ち上がり、服をはたく。
しかしそれも意味のない行動だろう。
今更ながら周りを見れば一番最初に見た宇宙の様な空間。ここに
埃なんてものがあるようには思えない。
﹂
﹁おかえりなさいコウジュさん﹂
﹁⋮っ
でもよく考えれば俺を送り出した存在がここには居たのだ。
﹂
それを思い出し、エミリア︵神︶の方へ向くために振り替える。
﹁⋮⋮誰
?
777
!?
唐突に背後から掛けられた声に驚く。
?!
﹁あ、忘れてました。ま、まぁ置いておきましょう
が誰かだ。
ルに心を読むのやめてくれませんかねぇ
﹂
照れながらそんなことを言う目の前の女性。とりあえずナチュラ
﹁いやぁ、そこまで褒めて頂けるとこそばゆいですね﹂
れたので何とか現実に戻ってこれた。
ただまぁ幸いにも目の前の女性がポンコツを初見から披露してく
正直に言えば見惚れてしまった。
そんな女性が目の前に居る。
こは出てひっ込むところは引っ込んでいる理想的な体型だろう。
に負けないくらいの存在感を秘めた女性。勿論というべきか出ると
もすれば派手だと言われそうな色合いの着物を着ているのだがそれ
はあるが、テレビでも中々見かけないような整った顔立ち。紅く、と
腰元よりも長く艶やかな黒髪。黒曜石の様な瞳。顔立ちは日系で
まずはこの人
何をだよ。そうツッコミたかったがとりあえず置いておこう。
!
無茶苦茶言いやがる。
?
﹂
?
﹁そっちで覚えないでっ
﹂
﹁つまり中間管理職の神様か﹂
るのが正しいのかはさておき。
そもそもがここで出会った存在はただ一人だからだ。一人と数え
そう言われ、半ば予想できていた答えにたどり着く。
ありませんでしたが﹂
﹁ふふ、以前にもお会いしたことがありますよ。その時はこの姿では
そうすると、目の前の女性は意味深に笑みを浮かべた。
で聞いてみる。
これ以上相手のペースに流されないように話をぶった切って直球
﹁ってそうじゃない。あなたはどちら様ですか
﹂
しかありません。あ、考えるのを止めてもらえれば大丈夫ですよ
﹁そうは言われましても、情報として入ってくる以上諦めていただく
?
訴えてくる女神様、もといエミリアに化けていた神様。
先程までの慈母のような優しい笑みは何処へ行ったのやら涙目で
!
778
?
﹁まったく、久しぶりに会ったと思えばひどい言い様ですね﹂
F a t e 世 界 で の 使 命 が 終 わ っ た 以 上、次 の 世 界 に
なんだろう、殺伐とした世界に居たからすっごい和むわこの女神
様。
﹁と も か く
もう
休みくれないの
りに帰ってきた瞬間また出張ですか
有給ください⋮。
ド畜生
いやさ社畜生
1日分の﹂
﹁あ、これはその10年を勝ち取るための代償で渡された書類です。
に上から落ちてくる書類の山。机すら埋もれるほどだ。
そしてバチリと、今度は力みながら強めに指を鳴らせば雪崩のよう
降ってきて山が出来る。
ま た 一 つ パ チ リ と 鳴 ら せ ば さ ら に ド サ ド サ ド サ ド サ っ と 書 類 が
さらにパチリと鳴らせばドサドサッと上から書類が降ってくる。
ていそうな机が一つ。
言いながら女神さんが指をパチンと鳴らせばすぐ横に社長が座っ
かないことに⋮⋮﹂
待つと机の上に貯まった書類が机の外に溢れるように取り返しのつ
﹁それに、聖杯戦争後10年待つだけで限界だったのです。これ以上
てある。
こうしている今もニコニコとしながら拒否は許さないと顔に書い
しかし文句ばかり言っていても行くことには変わらなさそうだ。
はいられない。
自分でも何を言っているのかよくわからないが叫びだが、言わずに
!
﹁入社から30年は経たないと無理ですねー﹂
あ、いや、有給使わせてください⋮。
!?
どんなにブラックだって月1回位は休みがあるだろうに、10年ぶ
何だこのブラックな仕事。
!?
行ってもらう必要があるのでその手続きをしますよ﹂
!
!
先程から表情は笑みを取っている。取ってはいるが、眼が死んでい
779
!?
た。
﹁えっと⋮﹂
﹁いえいえ良いんですよ。一日数百時間働いたとしても部下の失敗の
所為で一回死んだとしても労災が落ちないところですが、それが私の
仕事ですから。ええ喜んでしますとも﹂
﹂
そこまで言って、女神さんはコホンと咳を一つして表情を穏やかな
笑みに戻した。
﹂
﹁ところで、有給⋮欲しいですか
﹁っ
全力で首を横に振る。
な。
﹁さて
それではまず帰還祝いに良いことを教えてあげましょう﹂
⋮⋮あれ、そう言えば俺ってそれになるために転生させられたよう
というかどれだけ過酷なのだろうか神様業。
理だ。
今の話をされた上で首を縦に振ることが出来るだろうか。まぁ無
?
神さん。おかげで驚いて思考がずれる。
しかし良いこととはなんだろうか。
良いことを教えると言われて教えられたことが本人にとっていい
ことではないパターンはよくあると思うのは、俺が2次元の世界に馴
染み過ぎたゆえだろうかね。
そんな風に半分楽しみにしながらも半分戦々恐々としていると女
神さんは懐から何かを取り出す。
出てきたのはPSPだ。
というかあんたの胸元は四次元ポケットか。
﹁あなたの世界で新作が出たので取り寄せてみました。その名も|P
﹂
SPo2i︽ファンタシースターポータブル2インフィニティー︾で
す﹂
﹁⋮⋮新作
女神さんがPSPを俺へと渡してくれる。
?
780
!!
手を合わせるようにパチンと鳴らしながら大きな声でそう言う女
!
受け取った俺は迷わずソフトを確認するために開き、中から取り出
す。
手のひらにすっぽり収まるサイズの、どこか懐かしいその形。それ
を懐かしみながら見ると、ソフトに描かれた絵と共に書かれた〝∞〟
の文字。
なにこれ⋮⋮
せる気がする
まじで これだけで全てを許
?
?
だな。
﹁⋮どうしたんですか
﹂
でも自分で言っているように、この女神さん自分で並びに行ったん
違う、俺が聞きたいのはそこじゃない。
れる。
めっちゃデコられてるその本体からディスクを出して俺に見せてく
ふ ふ ん と 得 意 げ に 言 い な が ら 再 び P S P を 取 り 出 す 女 神 さ ん。
た。ちなみに私も持ってます﹂
かったんですが、そこはやっぱり様式美として発売日に買ってきまし
﹁え え 買 っ て き ま し た。不 思 議 パ ワ ー で パ パ ッ と や っ ち ゃ う の も よ
﹁って、待って。買ってきた
﹂
いやでもマジでこれくれるの
差し上げるという言葉に思わず漏らした言葉に苦笑される。
﹁いや、そうですけどね﹂
﹁あなたが神か⋮﹂
げますよ。ちょっとしたボーナスです﹂
売されました。あ、それはあなたの為に買ってきたものなので差し上
﹁続編というか、拡張版ですね。大体あなたの死後1年ちょっとで発
?
やってられません。心を得た弊害ってやつですね﹂
﹁む、神にだって遊び心は必要なんですよ。というか清涼剤が無いと
レなので残念である。
美人さんなだけにすごく絵になるのだが、手に持っているものがア
傾げる。
俺が微妙な目線を送っていることに気付いたのか女神さんが首を
?
781
?
!!
目を細めてジト目でそんなことを言われてしまい、俺は目を反ら
す。
だからナチュラルに心読まないでくださいってば。
ってか、色々と内心に隠してしまう日本人にとってこの心を読まれ
るって地味に弱点じゃなかろうか。
まぁ今は日本人か怪しい容姿だけども。
﹁さておき、このPSPo2i発売に合わせてあなたの武器等を追加
﹂
しておきましょう﹂
﹁ま、マジですか
﹁しかしそれ以外は基本的にあなた自身の力を育ててください。武器
はあくまでも武器。どこまで行っても使い手次第でしかないので﹂
そう真剣な面持ちで言われ、はしゃいでいた自分を恥じる。
Fate世界において、俺はまともに闘って勝てたことが実は一度
もない。
奇襲、奇策、チートパワーによる脳筋突撃、ほとんどがそれなのだ。
前世で見た二次SSなんかではチートを得た転生者たちが華々し
く戦闘に勝利していくのに対して俺は貰った力に反してそれほどの
成果を上げられていない。
いや、普通に闘ってギルガメさんにどうやって勝つのさ。あの人慢
心しなけりゃ普通に強かったからね
それがばれたのかくすくすと笑われ頬が赤く染まっていくのが分
る。
そんな自分を誤魔化すために、けふんと咳を失敗しながらも一つす
俺。
が男な俺はへこんでいた精神を回復させてしまう。マジちょろいは
現金なもので、そんな顔を目の前で美人さんにされてしまえば中身
その姿はまさしく女神と言われるにふさわしいものだった。
優しく微笑みながらそう言う女神さん。
すから﹂
いですし、そこそこに闘えたら良いんですよ。本質はそこには無いで
﹁そう落ち込まないでください。戦闘力がなければならない訳でも無
?
782
!?
かる。
﹁ふふ、元気が出たようで何よりです。それにあの世界であなたは良
﹂
い物を手に入れましたからあなた次第では色々できるようになって
ますよ
良い物とは何だろうか
まだ少し頬が熱くなっているのが分かるが、それよりも良い物とい
うのが気になった。
﹁あの世界において私たちがあなたにしてほしかったことは願いを叶
えるものに触れて欲しいというもの。しかしあなたは予想以上の成
果を上げてくれました﹂
あ、無作為に送られたわけでは無くて理由があったのか。というこ
とは次の世界でもあるということかな。
けど予想以上の成果
本質は全然違うものですが過程は同じような
プロセス
すが、願われたことを叶える神と願いを叶える願望器、どこか似てい
した状態で体内に取り込んだことです。神頼みという言葉がありま
﹁そして特に重要なのがあの泥に直接触れたこと。加えて言えば浄化
のだ。
苦茶やったなぁと思うのだが、まぁやっぱりしたかったからそうした
成り行きというか、そうしたかったからしただけだし今思えば無茶
確かに俺はその両方を成した。
も重要です﹂
さえ願いを叶えるということ自体を体験しました。その経験はとて
﹁あなたは性質が変わったものとはいえ、願望器の中身に触れ、あまつ
?
⋮⋮へ
れで見習いという言葉を外してもいいかもしれませんね﹂
だから、今のあなたは願望器に似た性質を持つに至っています。こ
ものなのです。それにあなたは、触れた。
ると思いませんか
?
俺が願望器に近い 願いを叶える
件付きで具現化するのがやっとなのに
自分の考えたことすら条
?
?
?
寝耳に水なことを言われて頭が処理しきれない。
?
783
?
?
﹂
﹁それに関しても良い物を同時にあなたは覚えました。聖杯の泥、使
えますよ
ファッ
いやがちでそんな声が出そうになった。多分大分変な顔もしてる
と思う。
いやだってあのはた迷惑代表みたいな聖杯の泥を使えるって言わ
れたんですよ
そんなものまでラーニングしたってのか
﹂ ?
あ、これって例の紐じゃね
こう、ドリフ的な⋮。
すると彼女の横に、上空から紐のようなものが垂れてくる。
そう笑顔で言うと、女神さんはパシンと柏手を一つ打つ。
が良いと思いますよ﹂
﹁ともかくそれを使って色々してみてください。あなたの力との相性
首を傾げられても困るんですが⋮。
う、元が泥なので創世の土的な何か
﹁正 確 に は 可 能 性 の 塊 み た い な も の に な っ て い る み た い で す ね。こ
﹁あ、そうか⋮﹂
第一あなたは浄化した状態で体内に取り入れたじゃないですか﹂
﹁大丈夫ですよ、流石にあの悪性までそのままではありませんから。
!?
?
あ、なんだろう、少しずつこの流れになれてきた自分が嫌だ⋮。
へと落ちて行く。
あっさりと、それはもうあっさりと俺の身体はつい先ほどの様に下
同時に身に襲い掛かる浮遊感。
カコンと、間抜けにも思える軽い音ともに足元の感触が無くなる。
﹁またお会いしましょう、コウジュさん﹂
﹁あ⋮﹂
下ろされる腕、当然それに合わせて下に引かれる紐。
ださい﹂
﹁それでは次の世界であなたに似た存在や神とは何かを考えてきてく
そしてその紐を握る女神さん。
そんな確信にも似た予感が俺の中に産まれる。
?
784
!? ?
785
ってあれ、次の世界のこと聞いて無くない
?
﹃stage1:夏の祭典前﹄
﹂
﹁なぁ先輩、譲ってくれないか。ここはかっこよく後輩にだな⋮﹂
﹁馬鹿野郎。ここは後輩として先輩に譲るところだろ
﹂
そしてその二人が取り合っているのは所謂ラノベである。
ほどの容姿をした銀髪紅眼の少女。
界を間違えているのではないだろうかと思わず言ってしまいそうな
片や30歳ほどの特徴らしいものは特にない男、もう一人は居る世
まぁそれも仕方ないだろう。
俺。周りからはとても奇異な目で見られている。
とある本屋で出会った先輩と、最後の一冊を両端で握り合っている
?
ってか祭りに行かなきゃならんのに見てられ
﹁幼女は大人しく朝のアニメでも見てろ
﹂
!
だろうか。
この世界に転移して来てしばらく、俺は何をすべきかもわからず適
当にフリーターをやっていた。
今回は誰かに召喚されるでもなく、落ちた先が普通なマンションの
一室だったのだ。
近しいものに会えだとかは言われたが、調べる限りでもこの世界は
至って普通の現代社会だった。俺が生前居た世界とほぼ変わらない
程に。
どっかで聞いたような物騒な地名も無ければ秘密結社も無い、普通
も普通な世界だ。
だがしかし、ビバ普通。いいじゃないか普通。
前のFate世界が嫌いなわけじゃないが、平平凡凡としたこの空
気、最高だね
ただまぁ残念だったのはこの世界に俺の家族が居なかったことか。
!
786
﹁よ、幼女ちゃうわ
るか
!
この大人げない先輩と出会ったのはかれこれ10年ほど前だった
!!
いやまぁ幼女になってるんで居ても困るんですがね。
さておき、前の世界で手に入れていたお金があったし何故か用意さ
れている俺の戸籍もあったからニート生活もできた訳だがどうも身
体を動かしていないとこの身体は気が済まないらしく、とりあえずフ
リーターをやりながら日々を過ごしてたんだ。それ以前に何もしな
いという生活は精神的に悪そうなのもあった。
しかしフリーター生活をしていて気付いた。俺はもともと大学生
だったのだ。
元々居たのは2流もいいとこの一般大学だったし、それほどの未練
がある訳でも無い。けど、今となって改めて思い出してしまうと何故
か無性に懐かしくなってしまった。
体感時間で言えば丁度30歳といったところなんだが、少し変わっ
たホームシックみたいなものだろうか。多分、平和な時間が出来てし
まった所為で変に思い出してしまい、さらに言えば自分の家族が居な
いことを知ってしまったが少しでも前の環境に戻そうとつい思って
しまったのだろう。
とまぁそんなわけで俺は大学に通うことにした。
戸籍が何故かイリヤが作ってくれたコウジュスフィールで設定さ
れていたので、仕方なくそれで通うことにしたわけだが色々と苦労し
たものだ。
そもそもの見た目がファンタジー幼女だもの。
ケモミミに関してはキャスターに掛けてもらってラーニングした
簡易認識阻害があるからどうにかなったが見た目がもう冗談みたい
な存在だ。まず大学生には見えない。ついでに言えば国籍が見た目
と違うしな。
次に学力。
確かに大学生ではあったが、だからと言ってそれまでに身に着けた
学力全てがそのまま頭の中に残っている訳ではない。当然再受験す
る訳だから10年のブランクもあるし中々に大変だった。覚える系
に関してはこのチートボディの御陰か能力の御陰か割かしましだっ
たんだけどね。あとは高卒認定が用意されていたのはマジ助かった
787
ぜぃ⋮。
さて、次がこの名前。
この世界にFateのゲームあるんだよね。当然大学にもfat
eを知ってる人が居るわけで、というかこの先輩がその内の一人なわ
けで⋮。
見た目のカラーリングも似てるから何度﹃やっちゃえバーサーカー
﹄を言わされたことか。ちゃうねん、俺言われるほうやねん。
そして最後がそもそもどこに通うかだ。
確かにこの世界は元居た世界に似通っているが微妙に違った。地
名然り、有名人然り、微妙に違ったのだ。
ただまぁそこに関しては目の前の先輩︵その時はネット上の知りあ
い程度だった︶にうちの大学に来るかと言われて、ついつい新興の3
流大学なのもあって入りやすそうだったから入ってしまった。
長々とした回想だが目の前の先輩と会ったのはそんな成り行きで
だった。
﹂
卒業後も何かと付き合いがあり、基本的に生活圏が似てることも
あって度々こうして街中で会うのだ。
﹁じゃあ先輩、先に読ませてくれない
﹁あー、まぁそれなら良いけど﹂
み始める。
﹂
﹁コウジュちゃんご注文は
﹂
﹁あ、二人ともいつもので
﹂
そしていつものごとくマスターに奥の席を使わせてもらい本を読
本を二人で購入し、少し行った所にある行きつけの喫茶店に行く。
間までまだ時間あるっしょ﹂
﹁よっしゃ、それじゃあいつもの喫茶店にでも行こうぜぃ。予定の時
?
﹁そんなことないですよ。こう、腐れ縁
﹁今日も仲が良いわね﹂
﹁お前が言うのかよ﹂
?
﹁はいはい、とりあえず爆発してまってなさいな﹂
﹁本人を前にして言うことじゃないよな、それ﹂
?
!
788
!
﹁どんな待ち方
﹂
いつも注文を取りに来てくれる店員のお姉さん︵26歳独身彼氏無
し︶に注文を行うと何故か爆発しろと言われたが何故だ。
とりあえず注文は終わったし、再び本へと目を落とす。
今読んでいるのはとあるラノベだ。
今日は真夏の祭典がある日なのだが、残念ながらこの人気ラノベの
発売日が重なってしまった。
元々はもう少し前に発売の筈だったが、最近何やらこの辺りでなぞ
の失踪事件が起きており、その関係で搬入が遅れたとか。詳しくは知
らないけど。
そんなわけで、祭典前に何とか最寄りの本屋で電車待ちの間に駆け
込み、そして見つけた最後の一冊であった。何ともまぁ同じ思考をし
てやがった人がたくさん居たようで困ったよ。
先に祭典の方に行っても良いのだが、祭典の方は一応保険掛けてあ
るし、こっちは確実に祭典後には売り切れて手に入れられなかったは
ずだ。実際に売り切れかけてたし。
そして読んだことを先に祭典へ行ってるリア友に自慢してやるの
だ。 ﹂
﹁いつも思うけど読むだけで良いのかよ。しかもそんなパラパラと。
それに別に見るくらいなら半分払わなくても良いんだぞ
不貞腐れるように言う先輩に、思わず苦笑する。
﹁まったく羨ましいこって﹂
覚えることだけはわりと得意なんだよ﹂
・・・・・
﹁い や い や、そ こ は 少 し で も 売 り 上 げ に 貢 献 し て で す な。そ れ に
?
﹂
﹁そ う い う 先 輩 ほ ど じ ゃ な い よ。奥 さ ん 居 て、色 々 資 格 も 貰 っ た と
かって聞いたけど
﹁いや、その奥さんから﹂
!
﹁お前まで染まってないのが唯一の救いか﹂
﹁あははー、腐に目を瞑ればあの家は宝庫だしね﹂
﹁俺が居ない時に何してる
﹂
﹁おま、それ何処から聞いたんだよ﹂
?
789
!?
﹁そんなこと言ってると嫌われちゃうぜ先輩
﹂
ニヤニヤしながらそう言うと、先輩は突然ずーんと落ち込み始め
た。
おいおいどうした先輩。
﹁⋮⋮最近、会話が少なくなってきてて﹂
﹁なんか、ごめんなさい⋮﹂
つい誤魔化すように目を反らす。
そこでふと気づく、何やら店の外が騒がしい。
窓の外に目を向ければ、多くの人が一定の方向へと走るように向
かっていた。
俺の視線につられて外を見た先輩も訝しむように目を細める。
﹁なんだろうな⋮﹂
﹂
厄介ごとが嫌いな先輩らしく、やはり顔には関わらないでおこうと
書いてある。
なんか有名人かもしれんじゃん
﹂
ゆりかもめまだ大
!!
しかし、俺は逆に興味が湧いていた。
﹁先輩見に行きませんか
﹂
﹁アレ言うなし。というかそれとこれとは別っ
丈夫っすよね
頷く俺を見るや否や、伝票を持って立ち上がる先輩。
﹁あー少しくらいなら大丈夫だな。とりあえず見に行くか
!
だけ男を見せやがる。
まぁでもここはありがたく奢られておこう。
会計を済まし二人で店の前に出ると、やはり皆が一定の方向へと
走っている。
その野次馬達に混ざるように俺達も流れに乗って向かう。
暫くして見えてきたのは石造りの巨大な門だった。
それを囲う様にして野次馬達は携帯電話で撮影したり、指さして何
事かと見ているようだ。
しかしおかしい。
790
?
﹁ミーハーだなぁ。お前の見た目も大概アレなのに﹂
!
何この無駄なイケメン。普段はグータラが基本の癖にこういう時
?
?
というのも、その門のある位置が車道のど真ん中なのだ。
ここは銀座で、勿論ここは交通の少ない道路という訳でも無い。だ
﹂
俺的にあ
というのにその大通りを大きく塞ぐようにして門はそこにある。
なんぞいな
﹂
﹁なぁ先輩。あれ、何だと思う
﹁映画の撮影⋮とか
﹁映画かぁ⋮。映画だったとして何のジャンルですかね
﹂
の中から変なの召喚されて出てきそうだけど﹂
﹁召喚ってなんだよ。英霊でも出てくるのか
﹁俺が近くに居るとそっちに持ってくのやめてくださいってば。俺が
言ってるのはモンスター的なの﹂
﹂
﹂
﹁はは、じゃあ汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべ
﹂
なんだこれ
に従い、この意、この理に従うならば応えよーってか
﹁まだ言いますか
﹁いやー、やっぱお前が居るとついな⋮って痛っ
しかし、突然右手を抑えてうずくまった。
え、なに、厨二病
﹂
でも突然痛むってなんでだ
かび上がる。
﹁なんだこれ
﹂
﹂
そう思い見ていると、突如その右手の甲に入れ墨のようなものが浮
?
その表情は割とガチで痛そうだった。
!
かー
﹁違うって
マジで痛いんだってば
いでしょ⋮。なんですかー、右手に封印された悪魔が騒いでるんです
﹁なんすか先輩、いくら誤魔化すためって言っても今時その返しは無
?
!?
?
先輩を小突こうと軽く構えると、それを見て少し下がる先輩。
!?
!!
しかしそんな先輩を見て俺は冷や汗をかいていた。正確にはその
なものを見る。掌側から見たり突いたりと不思議そうだ。
先輩はようやく痛みが引いたのか、不思議そうにその入れ墨のよう
?
791
?
?
?
?
?
言いながら右手を見せる先輩。
!
?
入れ墨の様なものを見て。
3本の爪痕のようなもの。それ其の物には見覚えがある訳ではな
いが、それっぽいものを何度も見たことがある。
それは前世界に置いてとても身近だったもの。半身とも言えたあ
の娘が持っていたもの。
つまり、なんだ。
これ、令呪じゃね
﹂
そう思った瞬間、己の中の何かが目の前の先輩とつながった感覚が
産まれる。
﹁あれ、何だこの感覚。後輩⋮
﹂
?
?
﹁こ、ここに、契約は完了した⋮
互いに向き合う俺と先輩。
門が開くまであと少し⋮⋮。
792
?
﹃stage2:開けゴマのごまはやっぱり胡麻らし
い﹄
目の前の後輩との間に何かが生まれた。
あ、こう言うと微妙に犯罪チックだな。
違う言い方をすれば、何かが繋がったと言うべきか。
目の前で何故だ何でだ何なんだと慌てる後輩を見ることで逆に俺
は冷静になれた訳だが、流石にうるさいので静かにしてくれ。
うーん、それにしても俺のこの手に出来た傷のようにも見える3本
の爪跡状のこれは何なのだろうか。
表面を摩ってみるが別に凸凹してるわけではなく、自然と皮膚に馴
染むようにしてそこにある。
パッと見ではただの傷跡にも見えるが、よく見れば入れ墨だ。こん
なものが上官に見つかったらただでは済まない。
とはいえそれは手に怪我をしたとでも言って隠せばいい話だ。
しかしそれは根本的な解決にはなっていない。
問題は、これが何かということだ。
一応、これに該当するものであろう知識は頭の中にある。それはも
う馴染み深いものなのですぐに脳内検索でヒットしてしまった。
だが、その知識が当たりであるのならば色々とおかしい。
と い う の も そ の 引 っ か か っ た 知 識 と い う の は 俗 に 言 う サ ブ カ ル
チャー、オタク知識というものだ。
それが今現実のものとして俺の手にあるのはおかしいと言わずし
て何と言おうか。
引っかかった知識の名前は﹃Fate﹄シリーズの中に出てくる〝
令呪〟というもの。
﹃Fate﹄シリーズと言ったからには幾つかのシリーズとして発売
されている訳だが、元々はPCゲームで、そこからドンドンとPC
793
ゲームだけに収まらずコンシューマ版やアニメ、漫画とその手はのば
されていった作品だ。
内容としては大体がその基盤としているのが聖杯という万能の願
望器を得るために7人の魔術師が7人の英雄をサーヴァントとして
使役し殺し合うというもの。
その中で令呪とは、魔術師が英霊という規格外の存在を使役する為
に与えられるたった3つの絶対命令権とされている。そして大体が
3画で構成される入れ墨の様なもの。
そう、3画だ。
己が手に現れたソレの画数を見る。
1、2、3、ポカン⋮と忘れたい気分だがやはり3画。まごう事な
き3画にて構成されている。
いや待て。俺は魔術師なんかじゃない。
ふと我に返りそう思うも、一度思い始めるとこれが令呪にしか思え
先程ふざけて言った言葉
英霊だらけだろう。誰しも在る筈だ。若かりし頃の黒歴史というか、
ついつい詠唱とか唱えたくなるそんな衝動。
そして俺もある。それも何度も。
というのも、厨二病的なサムシングの所為でというのもあるが、そ
の原因の一旦は目の前の後輩の所為でもあるのだ。
コウジュスフィール・フォン・アインツベルン。それが目の前で未
だ慌てている少女の名前だ。
初めてこいつの名前とその姿を目にした時は、原作を知っているの
もあってえらく気合の入った厨二病かキラキラネーム的な何かでそ
うなったのかと思ったものだ。
だが違った。
実際にこの名前で国籍も持っているのだ。日本にだが。
この後輩は元々とある掲示板における知りあい程度の仲だったの
だが、通う大学を探していると言われ、魔が差してつい自分が行って
794
なくなってきた。
しかしきっかけはなんだ
?
だがその程度でサーヴァントを召喚できるのならこの世界は今頃
?
いる大学を紹介してしまった。
そうして出会ったのがこの少女、もとい幼女だった。
最初はもうなんだこの2次元生物はと自分の目を疑ったものだ。
まず名前がアレだし、見た目が完全に幼女⋮ギリ少女。しかも銀髪
紅目で整った容姿だなんて言うフルコンボ。
ほんと、ついに自分の頭が現実を否定して2次元に迷い込んだのか
と思ったものだ。
だがまぁ大学を紹介したのもあって交友を持つと中々にネタも分
かるし自分に近しい中身だと分かり今に至るまでの付き合いとなっ
ている。
そして、こいつのこの名前を聞き、そしてFateを知っていれば
大 体 そ の こ と に 関 し て 言 っ て し ま う の は 仕 方 が な い こ と だ と 思 う。
本人もそっち系の知識がある訳だしな。
その関係で、この幼女がからかわれる時は大体Fateに関するも
795
のになってしまい、原作中でも人気ヒロインの一人であるイリヤス
フ ィ ー ル 関 連 で の 事 が 大 部 分 を 占 め て し ま う わ け だ。大 体 涙 目 で
やっちゃえバーサーカーを言わされるのがこの幼女だ。
勿論、本人が本気で嫌がってるなら無理強いはしないのだが、なん
だかんだでこの後輩も好きらしく、押すなよ絶対に押すなよ的な意味
で拒否しているようなので結局からかわれているのだ。本人曰く感
慨深いものがあるらしい。
話がそれたがそんなわけで、この後輩に関わってからは先程そらで
言えてしまう程度には召喚に関する詠唱も何度も言ってきたわけだ。
だが、こんなものが出てきたのは今回が勿論初めてだ。
﹂
﹁って、いい加減に落ち着け﹂
﹁ぬわっ
りに卒なくこなす。
この後輩はたまにポカをやらかすんだが、基本的には何事もそれな
だがまぁ、そうしなければきっと話は進まない。
ると慌てるのをやめて若干涙目になって俺を睨んでくる。解せぬ。
未だにわたわたと慌てている後輩の頭をペシンと軽くはたく。す
!?
だが、先程からやけに焦っていた。
焦りというものは何某かに対して自らの思惑とは違った場合に起
きるものだと思う。
﹂
つまり、こいつ何か知ってるんではないかと思ったわけだ。
﹁なぁ後輩、これが何か分かってたりするのか
唸りながら悩む。
﹂
酷くないですか
そしてポンと手を打ち、口を開いた。
﹁カッコいい入れ墨ですね
脅しじゃ無くて宣言
!!?
﹁殴るぞ﹂
﹁痛っ
﹂
手の甲を見せるようにして後輩に聞くも、後輩はあーやらうーやら
?
ら、サーヴァントが居る訳だよな。それが、お前なのか
﹂
﹁俺 が 聞 き た い の は そ う 言 う こ と じ ゃ な い。こ れ が 令 呪 だ っ て の な
ですって﹂
あの。でもほんと、何でこのタイミングで出てきたのか分からないん
﹁それはたぶん、先輩の思ってる通り令呪だよ。Fateにでてくる
俺がジッと見ていると観念したのか、はぁと後輩は溜息をつく。
分からなくて⋮﹂
﹁うっ⋮、いやまぁ知っちゃあいるんだけど、なんでそうなったのかが
そんな後輩を俺は無言で見る。
ても分かるか。
それなりに長い付き合いだからよくわかる。いや付き合いが無く
これ絶対何か知ってるやつだ。
!?
!
バーサーカー⋮、ダメなやつじゃないか⋮。
か特にないけど参上した。よろしくマスター﹂
﹁どうやらそうみたいだ先輩。サーヴァントバーサーカー、寄る辺と
だがすぐに、ふにゃりと笑みをこぼした。
を見る。今まで見たことないような目だ。
俺がそう聞くと、後輩は先程までとは違い真剣な眼差しになって俺
?
796
!
◆◆◆
うへぇ、なんでこのタイミングでこんなことが起こったんだ
今
までにも悪ふざけで今みたいなやり取りを何度もして来たってのに。
考えられるのは目の前のこの門か。
今の俺と先輩のやり取も埋もれてしまう位に、今この門の前はごっ
た返している。
スマホを向けて撮影している者や門をペチペチ叩いている者、それ
ぞれがこれを何なのかと観察している。道路のど真ん中な為に車も
沢山あるんだが、運転手自体も降りてきて門に対して文句を言ってい
るのだから渋滞どころの話ではない。
マ
ナ
そんな中、俺はあの門からやけに懐かしい空気が流れ込んでくるの
を感じていた。空気というか、雰囲気
を感じていたが、この門から溢れているモノは結構な濃さだ。
そして、それの所為でこの先輩と繋がってしまった。状況的にはそ
れくらいしか考えられない。
しかしまぁなんなんだろうねこの門は。
とりあえず確実なのは門というからにはどこかに繋がっていて、そ
していずれ開くということか。
いやーな予感がするなぁ。
お前が
全くもって遺憾である。
﹂
しかし客観的に考えても英霊らしさとかプレッシャーとか無いの
も事実。
まぁ結局は与えられた力で内面が一般人だしな。凄みがないのは
797
?
この世界に来てすぐ、Fate世界に比べて魔力が異様に薄いこと
?
﹁なあ後輩、前からファンタジーの住人みたいなやつだとは思ってた
が、本当に英霊なのか
?
俺が色々考察していると、何やら失礼な質問をされた。
?
当然だろう。殺気とかナチュラルに出せる人マジスゴい。
﹂
﹁まぁ残念ながらその通りさ。けど、これでも聖杯戦争を経てここに
居るんだぜ
﹁・・・・・・﹂
何度か死んでるけど。とはさすがに言わないが、それでもそれなり
に修羅場は潜ってきた。
だから安心してくれという意味を込めて笑みを浮かべる。
しかし微妙な顔をされた。解せぬ。
そんな先輩に抗議しようと詰め寄った瞬間、ゴリゴリと重々しい音
が辺りに響きわたる。
音の発生源の方を向くと、そこには開き始める門があった。
ここからは人混みもあってそれなりに離れているが、その突然の動
きに門周囲の人たちが離れるのが見える。
同時、中から何かが出てくるのが見える。そして聞こえるのは、い
くつもの金属がすれる音。
嫌な予感が確信に変わる。
ネコミミボディスーツの宇宙人が遊びに来ましたなんて流れなら
嬉しいんだけど、そんな風にはいかなそうだ。
﹁先輩、逃げた方が良い﹂
﹁どうしたんだよいきなり﹂
俺の言葉にキョトンとする先輩を視界の端に捉えながらも俺は門
から目を離さない。
﹂
俺はこちらに来てからは暫く使っていなかった、使う必要が無かっ
合では無い。
るだけで現状理解には及んでいない様子。とはいえ弁明している場
だが、周囲の人間はそんな俺に驚いたのかこちらを訝しむように見
剣だ。
匹、小学生程度の身長しかないそいつがその手に持つのはどう見ても
その瞬間には、出てきた何か達が人を襲うのが見えた。その内の一
出来うる限りの声で叫ぶように言う。
﹁走れええええええええええっ
!!!!!!!!
798
?
た全力で地面を蹴り上へと飛ぶ。そしてすぐに身体を地面と平行に
して空気を蹴るように足元に固めた魔力を足場に門の方へと飛び出
した。
門からは続々と様々な生き物が出てくる。
モンスター
見た目で名称を付けるならばゴブリンやらオーク、そういったファ
ンタジーの代名詞とも言えるような怪 物 共。そしてそのすぐ後ろか
らは中世を思わせる鎧を着て馬に跨る兵士らしき存在。その上を飛
そう叫び
び越えてくるのは竜に乗って空を駆ける槍を持った兵士。
それらが手当たり次第に敵を襲い始めている。
何でいきなり世紀末になってんだよこんちくしょう
たい気持ちもあるがそれをする時間すら惜しい。
とりあえずは目の前で呑気にスマホで撮影しようとしている女性
をトンと軽く押し遣る。
だが、遅かった。
すぐそこには大きく口を空いたワイバーンとでも言うべき竜。そ
の背には騎士。
避けられないっ
◆◆◆
んだと思いきや門の方へと流星のごとく飛んでいった。
だが次の瞬間にはワイバーンみたいなのに咥えられ飛んでいく。
思考が停止した。
しかしすぐにハッと我に返る。
ど う 考 え て も 幼 子 一 人 く ら い 容 易 に 噛 み 砕 け そ う な 咢 を し た 竜
だった。それに後輩が咥えられていったのだ。脳裏には噛み砕かれ
る後輩が浮かぶ。
その妄想を振り払うように首を振るう。
人ごみの所為で前は見えないが、今後輩を咥えて後ろに飛んでいっ
799
!!
咆哮のごとく声を上げた後輩はアスファルトを割るほどの力で跳
!?
た 生 物 が 種 や 仕 掛 け で 作 れ る も の で は な い の は 簡 単 に 理 解 で き た。
そして前方では遠巻きに聞こえる悲鳴の数々。
﹂
慌てて飛んでいった後輩の方を見る。
﹁は⋮
ワイバーンに咥えられた後輩はもうそれなりに離れていたが、ワイ
バーンの口元からこぼれる銀髪が見えた。
それを見てどうにかしたいと思うもどうすることもできないと諦
めかけた自分に苛立った瞬間、何故かワイバーンが爆発四散した。そ
れはもう赤いものを辺りに撒き散らしながら。
続いてその血霞の中から後輩が抱えた何かに電気のようなものを
走らせたと思いきや、次の瞬間には再び前方の門へと飛んでいった。
な、何だ⋮
後輩は
れていく。
その中に居ては流れに逆らうことも儘ならず、徐々に俺自身も流さ
動き始める。
理解が追いつかず居ると、人混みが津波の様に門から遠ざかろうと
?
﹄
?
しんがり
あ、こっちの話ね。んでまぁこの念話、あまりうまく使えないも
﹃今使ってるのは念話的な何かなんだけど、ギャーギャーやかましい
電波の悪い無線の様に聞こえてきたのは後輩の声だ。
﹃あー、先輩聞こえ⋮おっと、きこえるかなっ
そんな俺の頭に突如ノイズのようなものが鳴り始める。
よく見ようと目を凝らすも出来ない。
たまにワイバーンたちの間を黒い影が飛んでいるのが見える。
こうが見えないのだ。
長よりもやや高い程度でしかない俺では人混みをかき分けながら向
バーンたちが何かを囲うように飛んでいる所しか見えない。平均身
何とか流れに逆らう様に後輩の方を見ようとするも、空を飛ぶワイ
!?
以上
﹄
イト取るから後よろしく。とはいえ、この人数は流石に無理臭いから
どうにか対処してほしかったり
!
!
800
?
んで一方通行しか使えないんよ。だから簡潔に言うぜ先輩。 殿でヘ
!
﹂
そう言うだけ言って、先程鳴っていたノイズのようなものと共に頭
の中が静かになる。
﹁何なんだよこの野郎
模索し始めた。
801
俺は必ず後輩に文句を言うと決めて、とりあえず何かできないかと
!!!!
﹃stage3:ざぎんでしーすー食べる前に俺が食
べられかけた﹄
飛んできたワイバーンを避けきれずパクンといかれた時は一瞬思
考が止まってしまったが、何とか無傷で脱出できたので良かった。ど
うやらあのワイバーンは俺の防御を貫けるほどに強い訳ではなく、俺
を噛み砕こうとしても文字通り歯が立たなかったようだ。
ただ、食われていることを頭が理解した時に思わず全力でワイバー
ンを殴った所為でスプラッタにしてしまった。うえ、今思い出しても
気持ち悪い。
一応ワイバーンに乗っていた騎士さんが空中に放り出されたので
意識を奪ってそこらに放置したが、まぁなるようになるだろう。
それにしてもさっきから一体どれほどの数を倒しただろうか。
数えるのも億劫な程の異形や騎士を倒したが、溢れ出るように門か
ら這い出てきたそれらは未だ留まるところを見せない。
間に合わなくて事切れた命も一つや二つじゃない。胸糞悪い。
だが、そこで落ち込んでいる暇はない。そんな暇があるなら次の場
所で命を助けるべきだ。そう割り切って走りながら目につく敵をひ
レ
ス
タ
たすら倒す。未だ命を失っていない人には辻斬りのごとくすれ違い
ざまに回復魔法を掛けていく。
ただ、予想外にレスタを掛けることが出来る存在は少ない。
しかしそれはいい意味でだ。
運良く初動で対応できたからか、俺がヘイトを稼いでいる間に結構
な数が逃げれたようだ。
問題は、俺が所詮一人であること。
後続の幾らかが俺を無視して逃げた人を追う様にビルの隙間を駆
けて行った。
速くこいつらをどうにかして追いかけなければ⋮。
802
﹁まったく数ばっかり多いなぁ
﹁うるっさい
﹂
﹁HUGOAAAAAA
﹂
﹂
﹁HUGYAAAAAAAAAA
﹂
!!!
!!!!
発射される。
する。テキストとして超高速のコインが射出されるとあるから避け
した状態で感電させることで相手を無力化できる優れものだったり
のある俺には関係のないことだし、未強化状態で使えば殺傷力を落と
ゲームとは違い、コインを用意する必要があるがアイテムボックス
特殊効果の感電効果が高い。
この武器は装備していることが分からないのだ。そして何よりも、
だが利点がある。
威力も迫力も段違いに低く設定されている。
PSPo2iにおいてコラボし、ハンドガンとしてされたこれは、
とはいえ本家本元ほどの威力は到底無い。
撃姫こと御坂美琴が使う技の一つ。
元ネタは﹃とある魔術の禁書目録﹄に出てくるヒロインの一人、電
〝超電磁砲〟、それが俺が今使った武器の正体だ。
レー ル ガ ン
見えたコインが地に落ちる。
・・・
遅れるようにして、キィンとゴブリンの腹を撃ちぬいたかのように
撃たれたゴブリンは感電しながらうめき声を上げ地に沈んだ。
いや、突き抜けたのは衝撃のみ。
俺が撃ち出したものは狙い違わず前側に居たゴブリンを貫く。
﹁HUGYO
﹂
すると、バシュンと小気味良い音と共に俺の右手からとあるものが
そしてそのままコインを弾く動作。
そんなやつらへと俺は何も握っていない右手を向ける。
着ている服もみすぼらしいものだ。囚人服の方がまだ綺麗だろう。
ら汚らしい剣を握って俺へと迫る。
目の前から迫ってくるゴブリンとオークが唾液を撒き散らしなが
!!
ることも叶わないし使い勝手がスゴく良い。
803
!!
!!?
実は夜のバイト︵コンビニである。怪しいことではない︶をしてい
たとき、夜に出歩くからか時々襲われたことがあり、それ以来密かに
装備していたのだ。ほら、チートパワーでうっかりグチャぁっとやっ
ちゃったらダメだし。
だからまだ生存者も居る中でぶっぱするわけにはいかないのでこ
れを使っているわけだ。
まぁ、後もう一つ切実な理由もあったりする。
というのも、先程から血の匂いの所為か身体が疼く。
あ
あ、いや、左手が疼く的なあれでもエロい意味でもなくて、たぶん
疼いているのは獣の本能ってやつだ。
約10年ぶりに嗅いだ戦闘の臭いにどうやら中てられているらし
い。先程浴びたワイバーンの血もそれを後押ししているのだろう。
なんとか無理矢理平静を保つようにしているが、ここで暴走しちゃ
うとこいつらの所為どころではない血の海が広がってしまう。
標へと駆ける。
﹂
本来であれば右手にしか持てないものも、2丁出せばそれぞれの手
で持てる。
﹂
それを駆使し、駆けては撃ちを繰り返す。
﹁だ、誰か
慌ててそちらを見れば、少し離れた場所で襲われそうになっている
スーツ姿の青年がいた。
慌てて構えて、敵を撃ち貫く。
804
そんなわけで、こいつらには相応の報いを受けさせたいのも山々だ
が出来る限り命を奪わずに対処している。
それ以前に殺したくないというヘタレ精神もある。
聖杯戦争を潜り抜けた所で命を奪う行為になれるわけもないのだ。
﹂
﹁GOAAAAAAAAAAAA
﹁甘いわ
!!!!!!!!
同じように感電しながら崩れ落ちるオークを見てすぐさま次の目
左手でコインを弾く動作。
!
突如聞こえた叫び声。
!?
﹁ひいいいいいいいい
﹁PUGYA
﹂
﹂
﹁セイクリッドダスター
﹂
す。呼び出しながら青年へと駆けよる。
そう判断し、両手の超電磁砲を倉庫へと返して次の武器を呼び出
このままここで遠距離攻撃してても意味が無いか。
﹁ちぃっ﹂
案の定、その青年目掛けて次のやつが来た。豚顔のやつだ。
だがそんな所で止まられていると、次の行動に移れない。
んだのだから仕方ないだろう。
今まさに刃を突き立てようとしていたゴブリンが目の前で吹っ飛
青年が顔を膝の間に埋めるようにして身体を丸める。
!?
直接触れる必要はあるが、こいつらの速さはサーヴァント達には遠く
とはいえまだ使い慣れてる訳でも無いので格下にしか使えないし
いようなものに変わる。
キストの凍結効果を意識することで効果時間なんてものはあってな
もすぐに凍結は解除された。だが武器としての凍結効果ではなく、テ
ゲーム内では凍結効果に有効時間もあったしライダーに使った時
非殺傷武器としてはかなり有効だ。
概念にも凍らせる不思議な力があるとされるこの武器、これもまた
テキスト
した相手を一定確率で凍らせる凍結効果を持つ武器である。
3本の青い爪が付いた手甲で、青く輝く粒子を産みだしながら攻撃
鋼拳系Sランク武器﹃セイクリッドダスター﹄。
ナックル
うし、成功。
いには氷塊に包まれ重々しく音を立てながら地面へと落ちる。
すると豚君は吹き飛びながら甲高い音を立てつつ凍っていき、しま
で押し出すような感じで弾く。
と叩き込まれる俺の右腕。さすがに全力でいくと突き抜けそうなの
飛び掛かるように襲おうとしていた豚君の、柔らかそうなレバーへ
青年を襲おうとしていた豚君を、近づくと同時に殴る。
!
及ばない。鈍っているこの身体でも十分反応できる。
805
!?
﹂
速くここから逃げろ
﹂
だから、死なない程度にこれで殴って端から凍らせていく。
﹁あ、おいあんた
﹁ひいいいいいいいいいいいいいいい
﹃GYUAAAAAAAAA
﹄
いや俺を見て逃げなくてもいいじゃないか。ちょっとショック。
げ出した。
て彼に逃げるように促すが、鞄も拾わずに何故か悲鳴を上げながら逃
とりあえず近くに居たやつらを軒並み凍らせたところで思い出し
いつの間にかこっちを見て口をパクパクして驚いていた青年。
!!
そしてそれもやがて止まった。なんだったのだろうか
突然のその行動につい呆けてしまう。
甲高く鳴り響く音は何処までも届きそうなほどだ。
それは事実笛だったらしく、取り出すや否や騎士がそれを吹いた。
騎士が首元からホイッスルのようなものを取り出す。
そう思っていると、飛んでいるワイバーンの内の1騎、乗っている
を倒せばある程度楽になる筈だから来るならさっさと来てほしい。
さっきから飛んでたワイバーンは粗方落としたはずだし、こいつら
てくる気かね。
3騎も居るし、ジェットストリームアタック的な感じで連携攻撃し
しかし、高い所から見下ろすだけだがどうする気だろうか。
しながら飛行を続けている。
さておきその3騎は俺を排除対象としているようで、囲う様に旋回
青年はこれが見えたのだろう。⋮そう思いたい。
んでいた。
と思いきや、俺へと影が掛かり上を見て見るとワイバーンが3騎飛
!!!!
瞬く間に集まる敵方の援軍。
﹁うへぇ、いじめ反対⋮﹂
援軍だ。
容易に想像が付く。
笛とは何かの合図のために吹くものだ。そして今吹く理由なんて
しかし、何のために吹いたのか、そう考えるもすぐに答えは出る。
?
806
!?
!
俺が他で対応している間に門からは続々と出てきていたようで、十
字路の真ん中に居る俺は四面楚歌状態だ。
ビルがあるから4方向から︵空の3騎⋮気づけば増えてるがそれを
含めると5方向か︶睨まれているだけで済んでいるが、ビルが無かっ
たらもっとむさくるしい囲まれ方をしたんだろうな。考えるだけで
もテンションが下がる。
とはいえ、相手方がそれぞれサーヴァントレベルだったら話は違う
がそこまで強い訳でも無いのでこれだけの数が居ても勝てるだろう。
気が滅入るのは変わらないが。
﹃﹃﹃﹃﹃﹃﹃PUGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY
YYYY
﹄﹄﹄﹄﹄﹄﹄
一人テンションを下げていると、四方から一斉に豚顔達が飛び掛
ぶ ん 殴っ て
かってくる。それも次から次へとだ。
それら全てを凍らせながら迎撃していく。
右右左上後前左前、と次から次へと飛び掛かってくる豚君たち。
なんのコマンドだと愚痴りたくなるがそんな暇も無く、俺へと迫る
敵は後を絶たない。
﹂
﹂
それにしても、俺の周りにはまだまだ豚顔さんやらゴブリンまで、
当然狙いは俺のようだ。
兵が一斉に構えた。
でもたぶん、構え、とでも言ったのだろう。上官の声に合わせて弓
ろう。
何を言っているのかは分からない。そもそもが違う言語圏なのだ
﹁&%$#
手に持つのは、弓。弓兵だ。
人もの騎士が出てくる。
その上官っぽい人が言うに合わせて隊列の中心が割れ、そこから何
お偉いさんだろう。
そこには幾らか装飾の多い騎士が、周囲へと叫んでいる。恐らく、
飛び掛かる豚顔達を殴り倒しながら、聞こえてきた声の方を見る。
﹁#$%%〟#$〟#%
!!!!!!!!
807
!!!!!!!!!
!!
モンスターの部類に入るだろうがあちらさんの人員はまだまだ居る
のに撃つとは中々に下衆いじゃないか。いや、それほどまでに俺を脅
威だと見てくれてるってことかな。
とは言え残念ながら普通の弓じゃ俺には届かない。一定以上の攻
撃でなければ弾かれて終わりだ。
あの弓に番えられている物がもしもカラドボルグだってなら話は
別だが、普通の矢じゃ意味が無い。まぁ周りの豚さん達が被害を受け
て終わりだろう。
だがそれをされると血の臭いに俺が反応しちゃうだろうし、かと
いって態々助ける義理も無いような⋮。
さてどうするべきか。
敵は四方全てに居り、幸いにも救助者はもう居ない。けど俺が持っ
ている選択肢の中で広範囲を攻撃するものっていうとここら一帯を
SLB
諸共吹っ飛ばすような代物ばかりなんだよなぁ。
ナックル
808
魔砲とか論外だし、射撃系武器は蜂の巣がたくさんできてしまう。
テクニックは単体への威力が高いし、周りへの被害が│││
│││周りへの被害
フォトン
あ、ティンと来た。
それを、掲げる。
ンド。
と言っても唯のネギではもちろんなく、いつものあれだ。ネギウォ
次に出したのはネギだ。
る。
それを使って近くに居た敵を一掃、その一瞬を使って武器を交換す
敵を打ち上げながらの前方へのブーストナックルといったところか。
ゲーム内で言えばボッガ・ズッバという鋼拳系フォトンアーツで、
させる。
素早く魔力を込めた拳を前方へと突き出すように振りかぶり爆発
?
﹁メギバース
﹂
809
!
﹃stage4:そうだ、異世界へ行こう
銀座事件。
﹄
それは突如東京都中央区銀座にあらわれた門を起点として起こっ
た事件の名である。
地図には無い門の向こう側。その地より訪れた数多くの異形や兵
士たちは銀座において数多の被害者を出した。
被害者の数は数万に上り、死者に関しては数千人とも言われてい
る。
ゲート関連の報道は連日行われ、現場に居た一般人の撮影によるも
のや店頭カメラ等で取られた映像はその悲惨さを全国に知らしめた。
映し出された映像は様々だ。
豚顔の異形が剣を持って人に斬り掛かるもの。大きな怪物が丸太
のような棍棒で車や建造物を破壊するもの。騎士が持ったいた槍で
人を突き殺すもの。
放送される際はモザイクなどの加工がされているとはいえ、その壮
絶な状況はテレビを通して垣間見えた。
しかし、その映像の中で時折不可思議なものが映るのだ。
氷塊の中に閉じ込められた異形の数々。時折痙攣しながら地面に
倒れている騎士。何故か息も絶え絶えな多くの存在。そしてその間
を駆け抜ける影。
その答えはSNS等の規制が比較的後手に回る情報共有システム
に慣れ親しんだ者や、ネットにおける某掲示板を見ている者などが
知っていた。 幼女、いや正確には幼女っぽい何かだ。
携帯電話や画質が落ちる店頭カメラではあまり画質がよろしく無
い為、小さな影としか見て取れない。また、時折立ち止まるも基本的
シンシ
に素早く動くその人影は低画質のカメラでは追いきれない。
それでも世には無駄なことに力を入れる存在が居るため、銀髪の幼
810
!
女っぽいという所までは特定されてしまう。何故か報道では流され
ない情報だが、ネット社会における利点であり弊害か、その情報はす
ぐさま全国を駆け巡った。
そしてその幼女が何かをすると敵が倒れて行くのだ。
時には体を震わせながら地に倒れ、時には凍り付いて氷像となる。
緑と白に彩られた杖っぽいものを振った瞬間に血を流して倒れてい
る被害者が立ち上がった映像もあれば、逆に精気を吸い取られたかの
ように突然地に沈む異形の姿もあった。
あまりの意味不明さに当初は悪戯かよく出来た加工映像だとされ
流されていたが、すぐさまそれが本物であるとされた。
実際に救われた何人かが証言したのだ。そして感謝の意を告げた
いという言葉がいくつも出てきた。
それが何者によるものなのか、一部を除き、その正体は未だに明か
されていない。
そんな幼女とは逆に、報道においてその名が何度も上がった者も居
いたみようじ
る。
伊丹耀司、自 衛 隊 三 等 陸 尉。そ の 活 躍 に よ り 二 等 陸 尉 と な っ た 男
だ。
東京銀座において、逃げ惑う人々を咄嗟に皇居へと誘導して立てこ
もり、警察や陛下の助力もあってだが数多くの人を救った〝二重橋の
英雄〟。
彼の姿に関してははっきりと報道もされていた。
見た目だけで言えば、30代前半の普通な男性だ。特に身長が高い
訳でも無く、筋骨隆々という訳でも無い。
だがそんな彼の閃きによって救われた人は数千人にも上る。
そんな彼は今、銀座事件から数日の時を経て、特地と名付けられた
異世界へと派遣されることとなった。
特地出陣式、それを以て自衛隊は門の向こう側へと向かうことにな
る。
◆◆◆
811
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹃なんだよ先輩、行きたくないのかい
﹃違いない。⋮っと﹄
﹂
﹁伊丹二等陸尉質問か
﹂
﹁憑いてるの間違いだろ﹂
﹃はは、俺がついてるって﹄
﹄
﹁ったりまえだ。最近ついてないよほんと﹂
?
カ後輩や基地に居た自衛隊員の援軍によって事態は収束したのは良
色々あって避難誘導やら救助活動やらをしている間にどこかのバ
まれてしまった。
現れた異世界へとつながるゲートからなる一連の騒動に俺は巻き込
夏の祭典に参加しようと後輩とそこに居ただけだったのだが、突如
ことの始まりはあの銀座に居合わせたことなのは確実だろう。
それにしても、はぁ⋮、どうしてこうなってしまったんだろうか。
すら気づいてない位の小声なのに何故バレたんだ。
こえるらしい︶のだが上司に見つかってしまった。というか隣の人間
まぁそんなわけで小声で返していた︵どうやっているのか後輩は聞
えない。直接言ってやったら涙目になってたのが印象深い。
あの銀座騒動の中で使われたやつだが未だに慣れないし、微妙に使
らは肉声なのだ。
ただ、これには欠陥がある。向こうからの一方通行でしかなくこち
のものだ。ありきたりな名前だが念話というものらしい。
そして先程から頭の中に響く声、これはすぐ近くに隠れている後輩
今はゲート内部へと向かう部隊の一員として並んでいる所だ。
抱えながら改めて姿勢を正す。
誰の所為だと怒鳴りたいがそれもままならず、もやもやしたものを
﹃大変だねぇ。ほんと﹄
﹁何でもありません
!?
いが、今じゃ英雄呼ばわりだ。
812
!!
俺なんかを英雄呼ばわりしなくても良いのに困ったものだ。むし
ろしないでほしかった。
英雄というプロパガンダを必要とするのは分かるし、論功行賞を怠
る訳にはいかないのもまぁ理解はできる。だが納得し辛い。おかげ
で次の祭典に参加できるかも怪しくなり始めている。
どこかから俺へと話しかけている後輩辺りにでもその役目を与え
てくれればよかったんだが、実はこいつ、現在雲隠れ中なのである。
あ の 事 件 か ら す ぐ に 後 輩 の 正 体 は 各 上 層 部 に 知 ら れ る と こ ろ と
なった。
在籍していた大学、住居、職場、あらゆる情報を取り逃すまいと様々
な組織がそれぞれの思惑を抱えて捜査していたらしい。
しかしいざ調べてみると割と情報は出てくるのにとうの本人は全
然見つからなかったそうだ。その捜査中も各地で目撃情報が出るの
にまったく捕まえられなかったそうな。あいつバーサーカーじゃな
くてアサシン名乗ればいいのに。
さておき、当然調べられた中には俺との交友関係も含まれていたわ
けで、当日に一緒に居た所までをも知られていた。英雄という扱いを
しておきながら容疑者を尋問するように尋ねられたものだから堪っ
たものではない。まぁそれに関しては後輩︵の知り合い︶から祭典の
御宝を回してくれることで話が付いたから良いが。
ただ、よくよく考えればあの容姿は目立つ︵良い意味でも悪い意味
でも︶筈なのに、精々がかわいい子が居るという噂程度で落ち着いて
いた。それは明らかに不自然だ。俺自身、改めて考えて初めて分かっ
たのだが、それもあいつが何かしていたのだろう。
そしてそんな後輩をそう簡単に探せるわけもなく、本人は悠々と今
俺の近くに居る訳だ。
今から門をくぐるっていうピリピリしてる部隊の近くでどうやっ
ているのやら。
そういえば、以前に後輩の家に一度訪れたことがあるのだが地味に
後輩は良い所に住んでいた。今はどうなっているのだろうか。
実は後輩、俺も何度か訪れたことがあるのだが億ションとまではい
813
かないが一等地にある高級マンション在住なのだ。
それでも何故か後輩はコンビニでバイトをしていたり、その他にも
あいつは造形師の真似事らしきこともやっていたがな。深夜にたま
たま立ち寄ったコンビニで後輩が品出しをしていた時は本気で焦っ
た。
造形師に関してはどうやっているのやら、本人は企業秘密だとか
言っていたがそれなりの値が付くレベルのものを造っていたらしい。
かくいう俺も実は、好きな魔法少女物のフィギュアをオーダーメイド
で作ってもらったことがあるのでレベルが結構高いこと自体は知っ
ている。
だからまぁ後輩はそれなりの資金を持っているはずなのだが、口座
の凍結とかされてしまえばそれも意味のないものになっている可能
性がある。
考え出すと心配になってきた。
814
すぐ近くに居るってことが無事な証拠ではあるし、時たま念話が来
﹄
てたから安否確認はできていたが後輩の姿自体はあの銀座以降見て
いなかった。
﹁⋮⋮なぁ後輩﹂
﹃何かな先輩。また怒られるよ
と関わり始めてからは調子を崩されっぱなしだ。
そこまで考えて自分らしくない思考に苦笑してしまう。この後輩
う。
であるし、最近の事で妙に遠い存在のように感じていたから余計だろ
嬉しく思う。先輩後輩だけでなく趣味仲間として数年来の付き合い
しかし了承自体はしてくれたし、俺にならと言ってくれたことには
うか。
なのだろうか。求めた俺自身が言うのもおかしな話だが大丈夫だろ
少しの間が空いたことから後輩でもそれなりのリスクがあること
﹃ん⋮、まぁ先輩になら構わないか﹄
見せてくれ。無理なら構わない﹂
﹁分かってるよ。だからとりあえずはこれで最後だ。ちょっとだけ姿
?
﹁│││││全員乗車
﹂
響く声にハッと意識を再起動する。
なんとか周りに合わせて装甲車へと乗車するが、したところで後輩
に言った言葉を思い出す。
あ、やっべ。そう思うももう遅い。
何とか座席に座ったまま不自然の無い程度に外を見るが、その狭い
隙間から覗けるのは精々が街路樹程度だった。
﹃んと、あ、居た居た先輩こっちだよ﹄
そう頭の中で言われるも見ることが出来るのは街路樹のみ。一応
見て見るもそこには誰も居ない。
そう聞きたいも、向こうからの一方通行でし
﹃あ、そのまま見ててね。一瞬だけ解くから⋮﹄
え、解くって何を
かない念話ではそれもできず、そのまま見ることしかできなかった。
﹂
﹂
しかし見ていると、街路樹の枝の上に変なものが現れた。
﹁畳を背負った狐⋮
﹂
﹁伊丹二尉⋮頭でもぶつけたんすか
﹁⋮⋮﹂
﹁痛った
?
よ。もう風景に溶けるようにして消えたが。
それを見て言葉をこぼした俺は悪くない。なので俺を変なものを
見る目で見た目の前の同僚にデコピンを喰らわせる。
いやいやいや、ファンタジーな見た目だがあれ
しかし一体今のが何だと言うんだ。
あれがコウジュ
﹄
!
とまぁ現実逃避はさておき、どうやら今見えた畳を背負った狐が後
さくなって可哀そうに。
あ、本当にあれが後輩なんだ。ただでさえ小さかったのにさらに小
いから、向こうで会った時にでも改めてってことで
﹃あ、見えたみたいだね。さすがにこれ以上は見せてられる余裕はな
でも一応人類の姿をしていたぞ。なんだよ畳を背負った狐って。
?
815
!!
?
?
いや俺も何を言っているんだと思うが今そこの街路樹に居たんだ
!?
輩のようだ。確かにあの銀色の毛並みは後輩の髪色を思い浮かべさ
せる。
しかし確かにあれでは上層部も捕まえられない筈だ。どこの諜報
部が失踪した人が狐になってるなんて思おうか。
そう言えばいつだったか、どこの英霊なのかを聞いた時に異世界の
ビーストって種族だとか言ってたな。ビーストって直訳すると獣だ
し、そう言う意味だったのか。倉田辺りが聞けば喜びそうなネタだ。
畳に関しては意味が解らんが。
うん、あまり考えると頭が痛くなるし、後は実際会った時に聞くこ
とにしよう。
◆◆◆
先輩との念話を切り、ちょこちょこっと地面を走って近くの車の荷
台へと飛び乗る。
周りを確認すれば武器やら装備品を運ぶための車らしく、この車に
乗ってる人は運転手のみのようだ。
それを確認したところでぷはぁと息をこぼし、気を張るのをいった
ん止めた。
この装備はほんと燃費が悪い。そう考えながら改めて、鏡面の様に
磨かれた武器の表面に映る自身の姿を確認する。
はいそうです私が畳を背負った子狐さんです。
さて、まずは俺が何故子狐なんてものになれるようになったかから
始めようか。
と言っても簡単に言えば覚えた聖杯の泥を使ったってだけなんだ
けどね。
そのまま聖杯の泥というのもややこしいので何か名前を付けたい
ところだがさておき、この泥めっちゃ優秀なんです。
816
この泥、どうやら何にでもなる性質があるらしく形を定めるとその
したい物になるようなのだ。ついでに言えば覆ったものの性質を変
えるなんて効果もあるらしい。
思
え
ば
例えばこの泥を使ってフィギュア状になるように形を整えて、その
後でこれはフィギュアだって願えばそのフィギュアになる。ちゃん
と材質とかもフィギュア用のもので再現されるのだ。副業を思いつ
いた瞬間である。
ただ、これは俺の﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄のダウングレー
ド版の様なものらしく、俺の想像力や集中力に比例して出来上がりが
変わる。
初めの頃は役に立たないと嘆いたものだ。
なにせ俺は既に投影を覚えているから剣などの武器を産みだすな
らそれを使えば良いし、想像力に依存しているから俺が知らないもの
や複雑なものは産みだせない。そして集中力も必要だから咄嗟に使
用できるものでもない。瞬時に使おうとしてもぶっちゃけ俺じゃ泥
を形にする前に自分で突っ込んだ方が早い。
だがある時、この泥に覆った物の性質を変える効果もあると気づい
てからは認識が変わった。
切っ掛けは厨二ごっこをする為︵現代社会におけるストレスを発散
する為︶にその泥を両手に纏わせ腕だけ獣化した時の手にしてモンス
ターな王女様の漫画に出てくるリ○・ワイ○ドマンごっこをしていた
時のことである。
関節の位置がおかしかったのだ。
俺の低身長のまま腕だけ獣化させると、獣化した際の身長は2m超
えだから中に在る筈の手首の位置や肘と外に来るそれぞれの関節の
位置は違ってくる。
だけど何の問題もなく俺は動かせた。何度もポーズを取ったから
気付いたのだ。
そこから何度か実験した結果、この泥は覆ったものであっても性質
ごと変わると気づいたのだ。
フォークを包んでナイフにするとかできます。実用性があるかは
817
さておき。
しかし、これは俺にとって大きな進歩だ。
今までも﹃幻想を現実に変える程度の能力﹄を使ってはいたがこれ
は 十 分 な 想 像 力 が 無 け れ ば 失 敗 す る か 残 念 な 物 し か で き な か っ た。
精々が外堀を埋めることでそれになりやすくする程度だった。
だが、ダウングレードされた泥は目の前に物がある分想像しやす
い。直接手で触ってこねくり回すことが出来るのも大きいだろう。
ふとその自分を客観的に見たら泥んこ遊びに興じる幼女の図だな
とも思ったが、ボッチで部屋で遊んでるのだから誰に見られるでもな
いし迷惑もかけないので気にしないことにした。ボッチの特権だ。
さておきその実験の結果分かったのが││、
1:泥を基に作ればその作りたい物の性質になる。
2:難しい構造の物、構造が理解できない物は作れない。
3:元々形あるものを覆った上で変化させればその覆った物ごと性
質が変わる。
4:基本的に生物を覆い性質を変えることは出来ないが、自分であ
るならばある程度の性質変化が可能である。ただし性質が離れすぎ
ているものほど難易度が上がる。
│││といったことだ。
つまりこの泥の性質変化を使って狐に化けているのである。
全身を泥で覆って、ギュッと圧縮して、ポンで変身だ。なんと使い
勝手のいいことだろうか。
最初は何度か失敗して、というか余計なことを考えた所為で、某忍
ばない忍者漫画の砂瀑送葬をセルフでやる感じにブシャァとやっち
まったが今では狐になるのもお手の物だ。オソウジ大変でした。
ちなみに今成れるのは狐、狼、猫の3種にそれぞれの子どもver
だ。
ただ、現状成れるのは普通の動物の狐猫狼。
男としてはやっぱり竜とか、あとは貰ったPSPo2iにBOSS
として居るヤオロズ様くらいの威厳ある存在になりたいものだが、想
像力が足りないのか現状出来てはいない。
818
狐狼猫の3種に関しては獣化で成れるものだから出来ているのか
もしれないが、ひょっとすると他にも条件があるのかもしれない。
いやだって、これ使って意気揚々と男になろうとしたんだが出来な
かったんだよ。
元男なんだから男に関しての知識はあるし、中身が男だったわけだ
から因子的なものもある筈なんだが、成れないのだ。一瞬世界滅べと
呪いそうになり踏み止まるのに苦労した。
意気揚々と言った程度には確信があったのに何故だ。確信がある
ほど出来る可能性が増える筈の﹃幻想を現実にする程度の能力﹄なの
に、だ。
幼女は愛でるものであって成るものではないのだ
しかしここで諦めたら男が廃る。
脱幼女
きっと何かしらの条件か経験値が足りないだけだろう。
ついでに言えばこの盾には回避力アップの効果が付いているので、
を使えるのが俺の能力。
いつものごとくゲーム内ではそんな便利な能力は無かったが、それ
して身を隠す効果があるということ。
テキストに書かれているのはニンジャが使っていたらしいこと、そ
シールド系Bランクダウンロードアイテム﹃タタミガエシ﹄。
それが畳を背負っていた理由である。
そんな狐モードだが、抜け道を俺は見つけた。
身体能力も普通の動物程度になっているからマジで焦ったよ。
たものだ。
襲われそうになった時は変化を解くことすら忘れて全速力で逃げ
あの恐怖は今でも忘れない。
態で。
狼や猫じゃないのは野良が襲ってくるからだ。しかも発情した状
歩く際はそれぞれの動物の姿でうろちょろしているのだ。
そんなわけで、狐になる能力を手に入れたので逃亡生活中に外を出
!
これを背負うだけであら不思議、アサシン狐の出来上がりである。そ
してアサシンカードリストラの瞬間でもある。
819
!
まぁよくよく考えれば身体スペックが普通の狐やらになっていて
も中身は俺なのだから能力とかが使えなくなっている訳がないのだ。
さもないと一度でも動物モードになった瞬間、戻るために能力を使え
なくなっているわけだから詰みである。動物エンドとか誰得だ。
話が逸れまくったが、この動物モードと能力の同時使用、そしてそ
もそもがマイルームやどこでもドア擬きを持っているのだから俺が
捕まる訳がない。
そもそも何で俺を追いかけるのか。
いやまぁこの現代社会において俺の力が異質なのは分かるけど、何
で家でゆっくりしてたら特殊部隊みたいなのが突っ込んでくるのか。
敵かと思って全員伸しちゃったじゃないか。
それ以来である。追いかけられているのは。
何度か先輩や俺の周囲の人を人質にして俺をおびき出そうとした
連中も居たが、そんな外道も今では一条祭りの中である。一応生きて
いる筈だけど、これ以上増やしたくないものだ。
現在では、一番仲の良かった先輩の周りを密かにマークして泳がし
ている状態のようだ。俺にばれている時点で密かではないけど。
けどそれの方が俺もやりやすい。それに狙い通りでもある。
実は逃亡中に先輩の周りに痕跡が残るように動いていたのだ。
御陰で追手のほとんどが先輩の周りに集中している。
ただ面白いのが、俺としてはバラバラに動かれるより纏まってる方
が対処しやすいと言った程度の思惑だったのだが、俺と先輩との仲が
バレたのは先輩の事が全国放送で紹介された後だったからか英雄状
態の先輩を直接どうにかすることもできないで居るようで、思わぬ膠
着状態を生み出している。
このまま俺なんかに構わず差し迫った危機の方をどうにかしてほ
しいものである。
まぁもしも先輩以外の人を襲おうとしたら密かに置いてきたプチ
一条祭りさんが何をするか知らないってだけだ。
ほんと未だにあれの中身が分からないのだが俺の思った様には動
いてくれるので助かっている。あまり考えるとSAN値下がりそう
820
だから思考放棄してるわけではない。
んで、そんな風に時には追手を躱し、時には外道にOHANASH
Iし、たまに先輩とお話しながらのらりくらりと逃亡生活をし、そし
て今日ここに至るのだ。
逃亡中に先輩が出世したことを知ってお祝いの言葉を贈ったが、つ
いでに特地送りだとか事情聴取されただとか恨み言を言われたのも
もう何日前だっただろうか。御宝を渡すからと言えば許してくれた
けどね。先輩マジちょろい。
とはいえ先輩と契約が成立しちゃってる以上、先輩だけを特地とや
らに送り出すわけにはいかない。
だから俺はついていくことにした。マスターを戦場に行かせて自
分だけ安全地帯︵まるっきり安全ではないけど︶に居る訳には行かな
いだろう。
別にサーヴァントとしての誇りだとか騎士道精神的な高尚なもの
821
ではない。
先輩にはとてもお世話になったのだ。そんな人を知らぬふりはで
きない。
だから、行くと決めた。
あの時密かにイリヤに誓ったように、俺はまた誓おう。
フリーター生活
先輩を無事に連れて帰る。
それだけは貫き通す。
覚悟しろ異世界、俺の日 常を邪魔した報いを受けさせてやる。
ところで運転手さん、もうちょっとゆっくりお願いします。
今子狐モードなので三半規管が、うえっぷ、出る、出ちゃうから
!
﹃stage5:門を越えるとそこは⋮⋮﹄
﹁うっわ、無いわぁ⋮⋮﹂
﹁だよなぁ。まったく、気分が重くなるよ﹂
門を越えた先、少しの勾配があるだけで遠くまで見晴らせる大地を
見て、俺達がまず口にしたのがそれだった。異世界へ来ての感慨の欠
片も無い。
しかしそれも仕方ないのだ。
何せ目の前には軍勢、軍勢、そして軍勢だ。
自陣⋮って俺が言うにはおかしいけど、こちら側から少し離れた場
所には数万単位の軍勢が居る。
銀座で見たモンスター共もうようよ居やがる。
殲滅して良いなら
?
822
そんな軍勢を、俺は先輩に抱きかかえられながら見ている。
てい
何故抱きかかえられているかというと、こちらの世界で捕まえた動
物という体で俺は先輩に保護されているからだ。
そして特地の安全確保がまだ出来ていない現状では研究班が来れ
ない為、俺は先輩預かりとなっている。先輩にだけ懐いてるように演
技もしたしな。
御陰でもくろみ通りに先輩の近くで守ることが出来ている。
俺も首を撫でられてウハウハ
先輩の方は生暖かい目で見られるから嫌らしいけど、別に良いじゃ
ん。女性士官たちにモテモテだぜ
ですよ。
やるけど﹂
﹂
﹁どうかなぁ、ほら俺ってバーサーカーじゃん
﹁それにしてもあの軍隊どうにかならんものか後輩よ﹂
?
バーサーカーは悪くないやろ
!
﹁やっぱバーサーカー駄目だな﹂
﹁何でや
﹁⋮⋮﹂
﹁それだと悪いのはお前だけど﹂
!
﹁黙んなよ⋮﹂
何も言わず目を反らす俺にジト目を向ける先輩。
しかし確かに、あの軍隊はどうにかしたいものだ。
改めて前を見る。
進軍する為に準備をする兵士たちがここからでもなんとか見える。
一人一人が自分の成すべきことをするために忙しそうだ。
﹁後輩、あまり見るなよ。辛くなるぞ﹂
﹁分かっちゃぁいるんだけどね﹂
先輩の言葉に返事をしつつも、その光景から目を反らすことはでき
なかった。
2万
いや、それどころじゃないだろう。
今からあの中の何人が死ぬことになるのだろうか。
1万
を俺の中で産みだし続ける。
どちらも相反するものだが、抜けきらない一般人の感性はその両方
救いたいとも思う。けど憎らしいとも思う。
ほんと俺はあの人たちをどうしたいのだろうか。
イヤだイヤだ。気が滅入って仕方ない。
思わずそう零してしまう。
﹁はぁ⋮どうしてどの世界も争ってばかりなのかねぇ﹂
う。
今から起こるのは恐らくは蹂躙。その言葉が最も似合うことだろ
者が争うことを言うとは誰の言葉だったか。
今から起こるであろうものは戦争なんかじゃない。戦争は同格の
だすだろうか。
しかしその1がその指先で齎す銃弾の数は分間に何人の死を産み
があるかもしれない。
数で言えば圧倒的に自衛隊の方が少ない。10:1かそれ以上の差
だけど、それを補って余りある文明の力が地球側にはある。
い種族も数多くいるようだ。
こっちの世界にはマナが溢れ、魔術も存在するらしい。人間ではな
?
門の向こうからいきなり現れて罪もない人々を何人も殺した奴ら
823
?
ではある。
しかし、あの人達だって命じられてやっている部分もある。
だから許せるとは言わない。
﹂
けど、死ねとも言えないだろう
﹁⋮争うのは嫌いか
い﹂
﹂
﹂
﹁後輩ってさ、バーサーカーらしくないよな。狂戦士って感じじゃな
の頭を撫でだした。むぅ、無駄に手馴れてやがる。
そんな俺の無言の抗議を感じ取ったのか、先輩は誤魔化すように俺
は訴訟ものだな。
マジで何なのだろうか。不当な評価を受けている気がする。これ
なんだよぅ、と拗ねるように言えば何でもないと返してくる。
れを見て笑い出す。
俺を抱えている手をタシタシと叩いて挑発するも、何故か先輩はそ
﹁おいこら表でろや先輩﹂
﹁⋮⋮色気より食い気。さすが幼女﹂
﹁そうだなぁ。たい焼きコンテスト
﹁⋮引きながら言うなよ。そう言う後輩は何が良いんだよ﹂
﹁流石先輩、ぶれませんなぁ﹂
﹁魔法少女コンテスト﹂
﹁例えば
生産的な争いか、確かにそれはいいな。
俺の言葉に嘆息するように言う先輩。
﹁だよなぁ。もっと生産的な争いをすれば良いのにな﹂
好んで殺そうとはしねぇさ﹂
﹁嫌いじゃあないけどさ。それは命を賭けない範囲でかな。誰も好き
すると上から見下ろすようにしていた先輩と目が合う。
俺は首を反るように上を向く。
静かに、俺を抱える先輩がそう聞いてきた。
?
?
?
824
?
﹁そうかい イリヤにはバーサーカーらしいって言われたもんだが
ね﹂
?
﹂
﹁ああ、そういえばイリヤちゃんが元マスターなんだっけ﹂
﹁そうそう。超かわいいぜ
﹂
させたことはあるけど、今じゃ美女だからなぁ﹂
﹁あっちでは魔法少女やってないの
﹂
﹁プリヤのこと
﹁マジで
?
?
﹁実はな、この作戦に参加するにあたって別れたんだ。というか別れ
はて、と首を捻ったところで先輩がまた口を開いた。
俺の言葉に、何故か気まずげに返す先輩。
﹁あー、それなんだがな⋮⋮﹂
﹁まったく、奥さんに言っちゃいますよー。旦那が浮気してるって﹂
顔を背けて言っても説得力皆無である。
﹁⋮⋮気のせいだ﹂
﹁鼻の下伸びてますよー﹂
﹁そ、そうだな。見たことない位の美人さんだ﹂
﹁ふふん、どうだ美人でしょ﹂
もうあれですよ、妖精から精霊にワープ進化した感じ。
さと可愛さがある。
恥かしげに振袖を着てほほ笑むその姿は見るものを引き込む美し
て撮った記念写真が今見せている物だ。
ら順調に成長した彼女に、折角だからと冬木市の成人式に出てもらっ
の所為で遅れて出席することになったイリヤ。あの願いを叶えてか
実年齢で言えば士郎よりも上だが、見た目に合わせて作られた戸籍
だが仕方ない。誰が見てもそうなったもの。
写真を受け取り、それを見る先輩は一瞬見惚れて止まってしまう。
そして先輩の方へと向けて取ってもらう。
た上でアイテムボックスから取り出し口で軽くくわえる。
イリヤが戸籍上で20歳になった際に撮った写真を周りを確認し
﹁まじで。写真あるよ﹂
?
﹂
ようって言われた﹂
﹁は
825
?
思わず間抜けにも口を開いてそう返ししてしまう。
?
え、マジで
り
さ
そういえば会話が少ないとか言ってたけど、まじで⋮
先輩の奥さんの名前は梨紗さん。
彼女と先輩は中学が一緒だったのでその頃から付き合いがあり、数
年前に紆余曲折のあとめでたく結婚に至った。
んでもって大学も同じだったため彼女は俺の先輩でもあると言う
わけだ。
そんな理沙さんには俺もよくお世話になっており、趣味が合わない
部分もあるがそれなりに長い付き合いだ。
そんな彼女とは、よく先輩についての話をする。主に向こうからの
相談だが。
しかしその相談、実を言うとほぼ惚気だったりするのだ。
そんな梨紗さんだからこそ、先輩と別れたというのが理解できな
い。
今ではむしろ仲が良いが、あの時はど
アレだぜ、梨紗さんってば大学で先輩との交流ができた俺に敵対心
持ってたこともあるんだぜ
﹂
いやだってこの先輩草食系も良いとこだよ
いやまぁだからこ
これたぶんあれだよ、何もしなかったから不安になったんだ。
首を傾げる先輩を見て、俺は一人納得がいった。
﹁⋮⋮思いつかん。特に何かした覚えが無いんだけど﹂
﹁先輩何かした
言ってた位なのに、今更なんでまた⋮。
結 婚 す る 当 日 ま で 何 故 か 俺 に ご め ん ね っ て ま だ 微 妙 に 勘 ぐ っ て
だ。
それくらい先輩のことが好きな彼女が分かれるってどういうこと
うしようかと悩んだものだ。
?
れたことが無くて不安だって言われたっけ。
思い出してみれば以前に一度理沙さんから、先輩から何かを求めら
なかろうか。
でもそのことが不安になって理沙さんはつい言っちゃったんじゃ
そ近くに居ても友人関係を続けられるんだろうけどさ。
?
826
?
?
?
ってなんで女子側の評価を俺がしなきゃならんのか。いい加減に
しろこのオタ夫婦。
﹂
﹁爆発しろ﹂
﹁何でだよ
まったくこれだから先輩は⋮⋮。
俺はやってらんねぇと言わんばかりにケッと悪態をついてから先
輩の手から抜け出て、そのまま先輩の頭の上へと行く。
そしてまた前を見る。目の奥へと焼き付けるように。
先輩はそんな俺を一瞬捕まえようとするも諦めたのか上げかけた
手を下ろした。
そのまま暫く無言の時が流れる。
相も変わらず何やら忙しそうに準備している敵陣を見ながら、俺も
先輩も只々何も話さない。
いや、先輩は俺が話さないのに合わせて黙ってくれているようだ。
ほんと気の利く先輩だこと。普段からこんなならもっとモテるだ
ろうに。
苦笑しながらそんなことを考える。
﹁先輩、俺が絶対あんたを地球に連れて帰る﹂
﹁そうか⋮﹂
これは誓いだ。
イリヤの時にしたような、自分の根幹とするべき誓い。
したいと思った、ただそれだけではあるが為さなければ自分を許せ
なくなる。
こんな先輩をこんなところで死なせて堪るか。絶対に梨紗さんの
元へと連れて帰る。
この世界で一番お世話になっていると言っても良い人なんだ。そ
して今では俺のマスターでもある。
絶対なんてものは無いなんて言葉があるが、思わなければ現実には
ならない。特に俺は、思えば思うほどそれが力になる。
だから、何が何でも先輩は生きて地球へ帰ってもらう。
そんな俺の誓いに帰ってきた先輩の言葉は短いものだった。
827
!?
だけど、その言葉の中にはいろんな感情が含まれているように感じ
た。
再びの静寂。
しかし今回は割かし早くそれは終わった。
静寂を破ったのは先輩だ。
﹂
﹁じゃあ俺もお前を連れて帰らないとな﹂
﹁へ
何でも無い風にそう言う先輩。
何で
そ の 声 は い つ も の 様 な 言 い 方 で は な く ど こ ま で も 真 剣 そ の も の
だった。
先輩が俺を
?
その言葉に一瞬固まってしまう。
誰が誰を連れ帰るって
?
な、何だそう言うことか。びっくりするじゃないか。
もんじゃないし﹂
﹁だってお前を連れて帰らなかったら梨紗に何を言われるか分かった
?
どこかで頭打ったんじゃないかとかそういう
いつにも無く真剣な声に思わず焦った。
いやあれですよ
あれですよ
?
て顔の前に持ってくる。
?
﹁全くその通りだ後輩﹂
﹁やっぱ俺らにシリアスは似合わないな先輩﹂
同時に吹き出してしまう。
そのまま二人して見つめ合うも、そんな互いが互いに面白くなって
﹁良く分かったね先輩。俺もそんな表情出来るって初めて知ったわ﹂
そんな表情豊かだって初めて知ったぞ﹂
﹁何だよ後輩その〝頭打った
〟と言わんばかりのな表情は。俺狐が
固まっている俺を不審に思ったのか、先輩は頭の上から俺を下ろし
その先輩が突然そんなことを言うもんだからつい、ね。
に尊敬するレベル。
とって言わないんだもの。上司に対してもそんなだってんだから逆
だってこの先輩、基本的に趣味に生きる人だからまず真面目なこ
?
828
?
そのまま二人で笑い合う。
至急配置に戻れ
しかしそこへ近寄ってくる人影があった。
﹂
﹁伊丹二尉、散歩の時間は終わりだ
﹁ハッ
﹂
!
返答する。思わず真似して俺もシュッ
今更ながら、ここも何かの作品の世界なのかもしれない。
そんな彼らの後ろに隠れてるってのはどうにも性に合わんよな。
れてきた。
それを防ぐために先輩たちはここに居る。その為に彼らは派遣さ
劇が起こる。それだけは絶対に食い止めなければならない。
ここにある門、これを死守しなければ再びあの銀座事件のような惨
けれど、先輩はそれをしないだろう。
ないだろう。そうすることで先輩の手も汚れない。
確かにここで先輩一人が手を抜いたところで戦況に大きな影響は
だ。でも、何も感じないわけじゃない。
この人は誰かを守るために誰かを攻撃できる人だ。割り切れる人
その表情は今から起こることを理解してか、どこか寂しげだ。
苦笑いしながらそう言う先輩。
﹁ちょっと行って来るわ後輩﹂
去っていく上官さんを先輩と共に見送り、再び互いに見合う。
ごめんなさい内心怖いとか思っちゃって。
やべぇ、今の一瞬でこの厳ついおっちゃんが凄く良い人に感じる。
動体視力を以てしてもほんと一瞬だった。
そんな俺達に一瞬だけ微笑ましい目を向けてくる上官さん。俺の
!
先輩は上官の言葉に左手で俺を抱えたまま再び右手で敬礼をして
そっか。そろそろ戦いが始まってしまうのか。
歩いてないけど。
さておき、そういえば散歩って名目でここに居たんだっけか。ほぼ
見た瞬間に敬礼をする先輩。なんと似合わない光景だろう。
どうやらこの怖いおっちゃんは上官だったらしく。おっちゃんを
!
そんな中では何を以てハッピーエンドってものに辿り着けるかも
829
!
わからない。そもそも終わりなんて無いのかもしれない。
けど、何もしないままってのは俺じゃない。
俺は先輩の手を抜け出し、地面へと降りる。
良く分からんが分かった﹂
﹁そいじゃあ先輩。互いに頑張ろうか﹂
﹁ん
そうさ、先輩が理解する前に出来るだけ終わらせとこう。きっとそ
れだけで何かが変わる。
◆◆◆
速く、速く、何よりも速く。全てを置き去りにするほどに速く。
そう思いながら俺は障害物の間を潜り抜け、認識される前に作業を
終わらせては前へと進む。
時間は無い。
人手なんてある訳もない。
けど、これをしないと被害は大きくなる一方だ。
少しでも、あの心優しい先輩が背負うものを少なくするために、失
われる命を少なくするために、ご都合主義の一手を指す。
俺が今居るのは防衛ラインの一歩手前。何やら自衛隊員が立てた
と思われる看板よりもやや敵寄りの場所だ。
そこにはもう敵が来ており、俺はそいつらの足元を狐状態のまま縦
横無尽に走っている。
﹄
&$$$$$$$$$$$っ
﹄
そして、走っては作業、そして見つかる前に離脱、そして作業、そ
&%#$%&
$%&&$#$%&
!!?
して離脱。その繰り返し。
﹃#
﹄
#$%&
!!!?
﹃&#%$%&
﹃#$%
!!
!?
﹄
あ、どうやら見つかったっぽい。
﹃$%&
うん、阿鼻叫喚ですね。何を言ってるか分からないけど。
!
!!!!
830
?
でもそう易々とは捕まってあげられません。
引き続き、俺は作業をしながら軍勢の中を駆け抜ける。
俺を見つけたらしい人が何か叫んでいるが、次の瞬間には俺が設置
したものの餌食となってその口を開くことが出来なくなった。
ふぅ、まだまだすることはたくさんあるからね。こんなところで立
ち止まっている場合では無いのですよ。
それからも作業をしばらく続けていると、軍勢が一度退却すること
になったらしく後退し始めた。
何度かこれをやっているが、何とか思っていた状況に持ち込めたよ
うだ。
これで一段落かな。
そうだと良いなと思いつつ、俺は自衛隊が陣を張っている所にそそ
くさと戻っていくのであった。
﹂
831
◆◆◆
﹁後輩、お前何をしたんだ
だが実際に突撃してきたのはその半分にも及ばない。
た。
観測班からの報告では確認できただけでも10万以上の軍勢だっ
しかし、その間の敵軍の動きがどうにもおかしかったのだ。
いには撤退に追い込むところまで来た。
戦端はついに開かれ、自衛隊側へと進軍してきた敵軍を撃退し、つ
ら敵を見ていたのは既に1週間も前のことだ。
後輩と共に門のある場所、アルヌスの丘と現地で呼ばれている所か
先程からあることを何度も聞いているのだがこの調子なのだ。
す。
正面に持ち上げるも視線を反らす後輩に、はぁとまた溜息をもら
﹁何のことですかね。とんと見当も付きませんね﹂
?
なら残りは何処へ
﹁吐け
おら
﹂
その答えを知っているのが恐らく、この後輩だ。
?
る。
た後、大きく膨らんでいき、最後にはいつもの見慣れた後輩の姿にな
そして確認が終わったのか、後輩は影から溢れた黒いものに包まれ
それを気にしてか、耳をピクピクとさせた後そう呟いた。
ブだ。壁も薄く、床も薄い。
今俺達が居るのは仮隊舎における一室だが、所詮は急拵えのプレハ
﹁一応、周りは大丈夫っぽいね﹂
て地面に降り立った。
後輩はキョロキョロと周りを確認した後、俺の手の中から抜け出し
かれこれ1時間ほどの問答にやっと終止符が打たれた。
たら本当に変な物出ちゃうよ﹂
﹁あー、もうわかったよ。言います。言いますってば。これ以上され
のような状況となっている訳だ。
いうことでこの後輩しかそんなことできそうな奴は居ないわけで、こ
その他にも似たような話を聞き、敵軍でなければ自衛隊でもないと
いったとか何とか。
なものが起こるとそこに居た人間が黒い何かに包まれた後倒れて
監視を行っていた連中によれば、突然敵軍のど真ん中で爆発のよう
しかし中々口を割らない後輩。
いるのだ。
そして俺にもやっと回ってきた休憩時間を使って後輩を訊問して
る最中だ。
休憩を取っている。同時に敵の動きがおかしかった原因を調べてい
現在、敵側の軍は既に撤退しているため警戒体制ではあるが交代で
に慌てて手を止める。
動物好きには決して見せられないような顔の狐、もとい後輩の様子
﹁や、やべて、ちがうの、はく、う、うえっ﹂
!!
いや、微妙に違った。
832
!
﹁何だそのケモ耳、あと服﹂
﹁あ、いや、これが本来の格好なんだよ
﹁いやそこまで言ってないし﹂
コスプレちゃうから
ればいいのに。そうツッコむのは藪蛇だろうか
﹂
まぁ違和感も無いし構わないんだが、そんなに気になるなら着なけ
しながら声を荒げられた。あ、若干涙目に⋮。
そんな姿に思わず突っ込んでしまったのだが、何故か顔を真っ赤に
輩。
変わった構造の服を着ていたり、仕舞いにはケモ耳が生えていた後
いつもの大きさに戻ったと思いきや、大きな帽子を被っていたり、
!
輩の手の上に現れた。
﹂
いや待てって、それってあれでしょ
﹁それって王の財宝⋮⋮
AUOの⋮⋮。 すると何も無い筈の空間から筒のようなものが零れ出るように後
をしながら手を横へ掲げる。
それを思い出したことに後輩も気づいたのか、何とも複雑そうな顔
とはいえこんな話をするためにここに居る訳じゃない。
?
感を返してほしい。
﹁何が不満だったのか分からんけど、俺が使ったのはこれなんだよ﹂
つい不満を顔に出してしまっていたようなので、慌てて戻す。
よくよく考えればアイテムボックスも十分すごいしな。異世界転
移物で言えばチートの定番だし。 そう思い直し後輩が手に出したものを注視する。
一言で言えば、筒だ。
833
!
?
ちょっとワクワクしちゃったじゃないか。俺の年甲斐もない高揚
﹁あ、そう⋮﹂
﹁しがないアイテムボックスです﹂
?
しかしよく見れば各所に切れ込みや機械的な突起が見受けられる。
﹁後輩、何なんだそれ﹂
これが
?
﹁これはトラップだよ。簡単に言えば地雷﹂
地雷
?
疑問に思いながら見る位置を変えようと回り込む。
しかしそれより早く後輩は地雷と呼んだそれを虚空へと消した。
﹁もう直すのか﹂
﹁これって設置後数秒で勝手に爆発するし、今の俺が使ったらこの建
﹂
物ごと先輩吹っ飛んじゃうかもしれないから﹂
﹁なんでそんな物騒なもん出した
既に眼の前にはあの筒は無い。だが後退りせずにはいられなかっ
た。
恐らくオリンピック選手でも驚くほどの瞬発力だったと思う。
﹁いやぁ、実際に見てもらった方が手っ取り早そうだったし﹂
壁際まで逃げた俺に苦笑しながらそう言う後輩。
彼女は手の中には何もないことをアピールするかのように手をブ
ラブラとこちらへ見せつける。
そこまでされて逃げたままというのも何か負けた気分になるので、
俺は素直に後輩へと近寄った。
﹁んで、話を戻すとさっきのはトラップの中でもウィルストラップっ
﹂
て代物なんだよ。効果は文字通りの感染状態にすること﹂
﹁バ、バイオハザード⋮⋮
再びそこから離れたくなったが後輩に手を掴まれてそれもできな
くなった。
﹁あはは、そこまで物騒な代物じゃないですって。持久力の低下とか
免疫力が下がるとかその程度ですから。あとはトラップ発動時の軽
いダメージ位のものだから﹂
安心してくれと言わんばかりに笑って言うがそれは安心できるこ
となのだろうか。
しかしそんな俺の不安を余所に後輩は続ける。
﹁これをですね、タタタッと子狐状態で敵陣にばら撒いてきたんです
よ。戦意の低下に繋がるかなって。まぁそれどころか予想以上に免
疫力の低下ってのが効果あったみたいで、腹痛やらで倒れた人が多
かったんですよね。衛生的にアレだったんですかねぇ⋮⋮﹂
834
!?
ウィルス、感染と来て思いついたのがそれだった。
?
何恐ろしいことさらっと言っちゃってくれてんのこの子は。
つまりあれか、日和見感染を起こしやすくするトラップだっての
か。なんだその恐ろしい地雷。
あれ、でもちょっと待てよ。さっきはこのプレハブごと吹っ飛ぶみ
たいなこと言ってなかったっけ
﹂
﹁さっきはプレハブが吹っ飛ぶみたいなこと言ってたけど、今は軽い
ダメージって言ってたよな。何か違うのか
がってとか思ってるんでしょ
﹂
﹁ほんと先輩は優しいっすねぇ。どうせ弱い状態で敵陣に突っ込みや
それに気づいてしまい、思わず顔をしかめてしまう。
そんなことをすれば下手すれば死んでいたかもしれない。
の真っただ中に居たというわけだ。
しかし、それが本当ならこいつはその弱いステータスのままで敵陣
ステータスに左右される武器か。まるでゲームみたいな話だ。
ジも低いって寸法っす﹂
今の俺が使うとやばいダメージが叩き出されて、子狐状態ならダメー
の、まぁ簡単に言えばステータスによってダメージが変わるんすよ。
﹁おおぅ、すごいとこに気付きましたね。実はこのトラップ、使用者
?
顔をしかめてしまう。
というか俺ってそんなに分かりやすかったか
輩。
何でチョップするんすか
なんか腹立ってきた。
﹁痛っ
﹁帽子あるんだから大丈夫だ﹂
﹂
﹂
無意識に顔を触りに行くが、そんな様子に更に嬉しそうにする後
?
﹁いやまぁつい言っちゃっただけですけど⋮⋮、ってそうじゃねぇ
!
以上はさらに話が進まないで我慢する。
﹂
﹁それじゃあネタばらしですけど、門を潜る前に俺を見てもらった時
に畳背負ってたでしょ
?
835
?
ニヘラと零すように笑顔になる後輩。内心を見透かされて余計に
?
芸人か、とノリツッコミする後輩にツッコミ返ししたくなるがこれ
!?
!?
﹁あ、そういえばそうだな﹂
頭痛が痛くなる光景だったから忘れていた。
﹁あれの効果は端的に言えばステルスなんです。そして今回用いたの
がコレ﹂
そう言いながら後輩が出したのは一本の小刀だ。
いや、正確に言うならばそれは、クナイ。
﹂
﹁やっぱりお前アサシンじゃねーか﹂
﹁ち、違うし
これを持ってると高い回避性能と命中力を上げれるの
﹂
!
﹁⋮⋮俺が勝手にしただけだ﹂
﹁悪い、助かった﹂
とも言えない気持ちになってしまったのだ。
家族の様なこいつがただ一人で戦場に行っていたという事実に何
ただ、一言欲しかった。
こ い つ も 悪 気 が あ っ て し た 訳 じ ゃ な い こ と は 分 か っ て い る の だ。
そんな後輩の頭を帽子越しではあるがポンポンと撫でる。
ていたのだろう。
どんどん尻すぼみになっていく後輩。流石に自分でも悪いと思っ
んだよ⋮。これなら狐状態でもくわえるだけで良いし⋮⋮﹂
効率的にトラップに掛かってもらう必要があったからこれを使った
より近接攻撃が得意なんだけど、今回はただばら撒くだけじゃなくて
﹁ビーストって種族はどうにも命中率が悪いんだ。だから遠距離攻撃
に続ける。
心配を掛けさせた意趣返しのつもりだったんだが、後輩は気づかず
よ
﹁これは確かにクナイだけど俺はこれに付いてる効果を利用したんだ
てて説明を始めた。
目の前の後輩︵自称バーサーカー︶を訝しむように見ていると、慌
カーでも良いかもしれないけど⋮いややっぱアサシンだろそれ。
N I N J A ソ ウ ル を 持 つ ス レ イ ヤ ー さ ん く ら い 行 く と バ ー サ ー
クナイを使うって言えば忍者だと思うんだが違うのだろうか。
!
そっぽを向かれてしまった。だがその頬が幽かに赤くなっている
836
!
のが見える。
その姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
﹁とりあえず、サーヴァントとかまだ良く分からないけどさ、気を使い
過ぎだバカ後輩﹂
﹁⋮⋮馬鹿言うなし﹂
ついに帽子を深く被って顔を隠してしまった後輩。
流石にこれ以上は俺が言うべきではないか。
後輩の御陰で確かに被害は拡大したが、予想されていた戦死者の数
は減っている。
戦死者と言っても相手側ではあるが、やはり人の命を奪うために引
﹂
き金を引くということは気持ちの良い物ではないのだ。
﹂
﹁次に何かする時は、必ず俺に言えよ
﹁それは⋮、命令かな
つを怒る理由が増えてしまう。
俺がそんなものを行使すると思われているのならば、また一つこい
⋮⋮バカバカしい。
それを、俺は目の前の後輩に行使することが出来る立場にある。
持つ力は規格外に過ぎる。
絶対と言いながら幾つかの例外が在るには在るが、それでも令呪が
は自害すらも命令することが出来る。
マスターがサーヴァントに使えるたった3度の絶対命令権。それ
ば、俺は彼女に対する強制権を持つことになる。
その令呪というものが俺が知っている知識と同じものであるなら
いうものが増えた。
後輩はサーヴァントだった。そして彼女と俺を結ぶ縁には令呪と
しかしよく考えればその反応も仕方ないのかもしれない。
いうクラスが当て嵌まる気がしない。
恐る恐るといった調子に聞き返す彼女はどうにもバーサーカーと
俺の言葉に、帽子の陰から見上げる後輩。
?
そんなものを行使する気は全くないし、そんなもの程度で俺たちの
関係が変わる訳がない。
837
?
﹁これは、テンプレで言えば〝お願い〟ってやつだ﹂
俺の言葉に一瞬ポカンと呆ける後輩。
しかしすぐさま再起動し、堪え切れないといった風に笑みを零し
た。
﹁く、くく、確かに、定番だ﹂
そして後輩は、けど、と続けた。
﹁願いだってなら、俺が破る訳には行かないな﹂
そう言いながら、後輩は満面の笑みを浮かべた。
838
﹃stage6:ドラゴンさんがログインしました﹄
﹂
﹄などと可愛らしい言葉が脳内へと響く
!
﹂
?
めっちゃモフってくる あ、そこは駄
﹁伊丹二尉この子って何を食べるんですか
﹄
﹃先輩この人から助けて
目だってば
悪魔
?
!
﹁んんっと、何でも食べるんじゃないかなぁ⋮
俺の言葉に、
﹃鬼
!
﹂
﹂
確かに懐かれてますもんね伊丹
﹁俺は魔法少女で良いよ。ケモ耳は間に合ってる﹂
﹁あはは、あの子狐ちゃんですか
残念、ケモミミ娘が狐に変身してるんだ。
二尉。はぁ、あの狐ちゃんが人型に変身とかしてくれたらなぁ⋮
?
ンプレートと化しつつある自問を脳内で繰り広げていく。
さて、いつものごとく何故こんな状況になったのだろうか。既にテ
だ。
と軽く答える。先程から聞こえる恨みがましい唸り声も知らぬフリ
輩に追い打ちをかける訳にもいかず、知らぬフリをしながらそうだな
そう言いたいがただでさえ後部座席でもみくちゃにされている後
!
か居るかもしれないっすよ
﹁良いじゃないですか、ケモ耳っ娘とか妖艶な魔女とかロリBBAと
とになるとはなぁ﹂
﹁まったく、あの日ゆりかもめに乗り損ねた結果、異世界の村に来るこ
﹁ですね、確かコダ村だったっす﹂
﹁捕まえた捕虜からの情報では、そろそろ村が見えるはずだったよな﹂
で運転している倉田三等陸曹へと話を振ることにした。
そう心の中で思いながら時折聞こえる艶やかな声を無視しつつ、横
だから許せ後輩。
陸曹に撫でられるままになって貰っている必要がある。
なっている後輩に反応する訳にもいかず、部下の一人である黒川二等
が、銀色という変わった色をしている以外は普通の子狐ということに
!
?
839
!!!
事の発端は、上司に呼び出され与えられた任務の内容だ。
曰く、特地における生態系や生活環境、政治形態、宗教に至るまで
を調べて今後の方針を決定するとのこと。そしてその為に俺に下さ
れた命令が1部隊を率いよ、だ。
与えられた隊の名は〝第三偵察隊〟。総勢12名の、俺が言えるこ
H
M
V
とではないが中々に濃いメンツが揃った部隊だ。
その12人で数台の高機動車に分かれて乗り、現在は事前情報で得
ていたコダ村とやらに情報収集を兼ねて向っている所だ。
そういえば、どうして黒川二等陸曹はこちらの車に乗ってきたのだ
ろうか。
本来であれば栗林二等陸曹と同乗するはずだったのだが、コダ村ま
でという限定でこちらに乗り込んできた。
乗って以降ずっと後輩を抱きしめているのだが、ひょっとして可愛
い物好きとか
大和撫子然とした容姿も相まって似合ってはいるが、そろそろ後輩
を放してあげないと顔が蕩けて危ないことになり始めている。
﹃先輩、俺もうお婿さんに行けない⋮⋮﹄
ぐすん、と涙ながらに念話が繋がるが、そもそもお前はお婿さんに
は行けないだろう。少なくともその容姿では。
そんな後輩の姿をバックミラー越しに見るのを止め、今度は前を見
る。
気付けば、先程までと違い周囲の木々が増えてきた。
先程まで走っていた荒野に比べると随分と情緒あふれる光景だ。
現代日本では数少なくなってきている自然の強かさ。それを見せ
つけるかのように悠然と聳え立つ幾つもの樹。
その合間を抜けるようにしてある馬車道をHMVが颯爽と走って
いく。
そしてしばらくの後、コダ村らしき集落へと辿り着いた。
◆◆◆
840
?
コダ村
とかいう集落で先輩達が情報収集した後、次の集落へと
行くための道を走っている俺達。走っていると言っても実際に走っ
ているのはHMVだけど、その中から見る景色は何とも長閑なもの
だ。
そんなHMVの中で俺は今、先輩の頭︵鉄帽とかいうメット︶の上
で寛いでいる。黒川とかいう人にかなりモフられたが何とか生還し
たのだ。
いやーでも、ほんと危なかった。黒川さんのモフり技術が凄くてつ
い声に出そうになったよ。
テンプレな変身が解けるなんてのだけは無いのがほんと救いだわ。
もしも意識して変身し続けるタイプのものだったら確実に俺は元
の姿に戻っていただろう。
何故かというと、泥を使った変身は正確には存在置換とでも言えば
いい代物だから、今の俺は〝狐であったならば〟の俺なのだ。
だから、気を抜こうが寝ようが一回死のうが今の狐の姿に戻る。
とはいえもう一度あのてんg⋮地獄のような目に遭うのは勘弁だ
﹂
けどな。人間としての大事な何かが崩れ去ってしまう。
﹁どうした
﹃何でも無い⋮⋮﹄
大事な何かを失って撫でられるままになっている自分を想像し身
震いしてしまったのだが、今は先輩の上に居るから頭ごと振わせてし
まったようだ。
可愛い
﹂
とりあえず、心配してくれた先輩にそのまま口で話すわけにもいか
ないので念話で答え、軽く首を振っておく。
﹂
﹁うわ、隊長その子ってこっちの言葉解ってるんすか
﹁前見ろ前
﹁痛っ﹂
!!!
ル操作を誤る。
俺が首を振るのを見た運転手の人が先輩に小突かれて若干ハンド
!?
841
?
?
!!
それによって大きい石でも踏んだのかゴトンと車体が縦に揺れた。
その揺れに、俺は先輩の鉄帽から転げ落ちる。
﹁おっと﹂
﹃サンクス先輩﹄
転げるままに落ちると先輩が優しく受け止めてくれた。
それに礼を言うと、再び頭に乗せてくれる。
﹁⋮⋮すんませんっす﹂
先輩の頭の上で再びのんびりしようと身体を先輩の鉄帽に雪崩掛
からせると、運転手の人がそう謝った。
怒られてすぐの為か前方から目線を反らさず言う辺り律儀だ。
そんな彼の様子に笑みを浮かべた先輩は、俺を指さす。
﹁言うならこいつに言うんだな﹂
﹁なのでその子に言ったっす﹂
﹁⋮⋮あっそ﹂
シと軽くたたく。
しかし運転手さんは突然黙ってしまった。
そしてしばらくした後、再び口を開いた。 ﹁隊長、この子めちゃくちゃ可愛いっす﹂
842
しかしどうやら先程の言葉はそもそも俺に言ったものだったらし
く、先輩は途端に拗ねるようにして外の景色へと顔を背けてしまっ
た。
それにしても良い人だな運転手さん。
かわいいって言われるのは癪だが、褒めてくれたこと自体は嬉しい
し、今のもぐっじょぶ。
なので俺は先輩の頭の上から飛び降り、そのままタタッと運転手の
﹂
人の頭上へと飛び乗る。
﹁うわっと
!
﹁許してやるってさ﹂
ありがとな狐ちゃん
?
気にすんなという意味を込めて俺は運転手さんのメットをペシペ
﹁マジっすか
﹂
飛び乗った俺をチラリと横目で先輩が見る。
!
その言葉につい照れてしまう。
いや俺が目指しているのはカッコいい〝漢〟なのだが、それでもこ
うまでストレートに褒められると照れてしまうものだ。
なので、よせやいと言わんばかりに俺はペシペシと運転手さんの
メットを連続して叩いてしまった。
﹂
しかしそれを先輩が見て一言。
﹁結構生意気だぞ
俺は先輩に躍り掛かった。
・
・
・
﹁燃えてるな﹂
﹁燃えてるっすね﹂
﹃燃えー⋮⋮﹄
コダ村より川沿いに先へと進み森林地帯手前まで来たのだが、先輩
曰く鬼軍曹のおっちゃんの提案で森に入る前に一度野営をすること
になった。
森の中に集落があるそうだが、周囲は既に日が沈み始め暗くなり出
している。
そんな中で何が居るかわからない森に突入するのは危険であるし、
夜に集落へと訪れることで相手に警戒されてはいけないと一応隊長
である先輩が賛成したことで野営の流れとなったのだ。先輩曰く国
民に愛される自衛隊がそれはマズいとか。
しかし、いざ森への入り口が見えたという所で異常に気付いた。
森が燃えているのだ。それも結構な広範囲で。
そこで第三偵察隊は森近くの高台までHMVを走らせ、そこから森
の様子をうかがうことにした。
843
?
﹁大自然の脅威ってやつか
﹂
先輩がどうしたものかと暗くなった辺りを明るく照らすほどの火
災を前に零す。
俺も、獣の姿をしているからか先程から身体が何というかぞわぞわ
する。それに何やら気分が悪くなる臭いが辺りを充満している。
出来るだけ臭いを吸わないように、そして目の前で起こる火の脅威
から目を反らすように、目を瞑りながら先輩のメットに只管しがみつ
く。
だがそこで、違和感に気付く。
何か聞こえる。それも地響きのような、それでいて妙に生物めいた
何か⋮⋮。
俺は閉じていた眼を開き、眩いほどの火の向こう側を見るように注
視する。
鷹の目なんてスキルは持っていないが、それでもこの獣の身体だと
生前よりも遠くが見える。その眼を行使し、その違和感の正体を知る
ために目を凝らす。
⋮⋮あれか、聞こえた物の正体は。
﹁まるで怪獣映画ですね﹂
俺が見つけたものを、隣に居た鬼軍曹さんも見つけたようだ。
それなりに距離があるが、手に持つ双眼鏡で捉えたのだろう。
﹃先輩、レウスが居る﹄
﹁まじか⋮⋮﹂
俺か、軍曹さんか、どちらに反応したのかは分からないが、受け取っ
た双眼鏡を慌てて覗き見る先輩。
そして見るや否や顔を引き攣らせる。
かくいう俺も内心驚きに満ちていた。
軍曹さんが言った怪獣、そして俺が聞いたものの正体、それは赤い
ドラゴンだった。
それも、かなり大きい。人程度なら軽く一飲みに出来そうだ。
そんなドラゴンの鳴声、いや唸り声だろうか。それがこの距離でも
俺の耳が拾ったらしい。
844
?
﹂
俺の耳が良くなっているからか、あのドラゴンの発声器官の賜物
か、何とも耳に来る。
﹁隊長、これからどうしますか
そう言いながら駆け寄るのは栗林ちゃんと先輩に呼ばれている女
性だ。確か階級は二等陸曹と先輩に教えてもらったっけ。
そんな彼女の方へと振り向いた先輩に合わせ、俺もその栗林さんの
方へと目線が行くわけだが、彼女の頭の位置は俺の位置からしても割
りと下なので少し見辛い。
もう一人の女性隊員である黒川さんが先輩より背が高い為余計に
小さく見える。
しかしこれでいて結構な武闘派なのだとか。
時折先輩を不審な目で見ているため、先輩が大丈夫か心配になる。
そんな風に思い出していると、先輩は改めて森の方へと向き直り双
眼鏡を覗きなおす。
﹂
﹁栗林ちゃん良い所に来た、ちょっと一人じゃ怖いからさ、一緒に着い
てきてくれるー
味で気持ち悪くなったのでメットをパシンと叩く。
痛いと小さく零す先輩、いい気味だ。
﹁嫌です﹂
﹁あぁそぅ﹂
追い打ちと言わんばかりに当の栗林さんもきっぱりと断った。
振られてやんの。
それが面白くてついククと鳴くように声を漏らしてしまう。おか
げで少し気分が楽になったよ先輩。
しかしそれに気づいた先輩に鼻先をピンと弾かれてしまう。
痛い⋮⋮。
ゴンの方へと向く。
﹂
それに合わせて、隊員の皆は反射的に持っている銃を構えつつドラ
ドラゴンが咆哮を上げる。俺でなくても聞こえるほどだ。
﹁GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
!!!!!!!!!!
845
?
妙なシナを作りながらそう言う先輩に、ちょっと先程とは違った意
?
﹁飛び去っていく⋮
﹂
﹄
しかし、どうやらドラゴンは誰かが零したその言葉通りにどこかへ
と飛び去っていく。
﹃せ、先輩ペイントボール
﹂
!
﹂
てい
の方は先と違い、真剣に返す。
先輩の言葉に先程と同じ体で皮肉るように栗林さんが言うが、先輩
みてはいかがですか
﹁ドラゴンの習性に興味が御有りでしたら、隊長ご自身で追いかけて
し、再び双眼鏡を覗いた。
その言葉は誰に向けた物か、そう言った先輩は俺を静かに地に降ろ
てあるのかな⋮⋮﹂
﹁あのドラゴンってさ、何も無いただの森を燃やすような習性とかっ
その目は俺があまり見たくない、先輩が何かを覚悟する時の目だ。
しい目を森へと向け続けている。
未遂ではあるが、先輩に恨みがましい目を送る。しかし、先輩は厳
危なかった。もう少しでヘブンさせられるところだった。
のか燃える森の方へと向き直る。
方へと向き、投げ││││ようとしたところで先輩は何かに気付いた
すぎたからか、先輩は俺をメットから摘み上げ、そのまま黒川さんの
しかし、ちょっとテンションが上がった所為で先輩のメットを叩き
﹁あー、もうわかったから大人しくしてろ
誰に言ってるのだかそんな風に思いながら先輩のメットをたたく。
いやだって紅玉が中々集まらなくてですね⋮⋮。
でテンションが上がり始めた。
だからか、今度はいかにもファンタジーらしい生物を見かけたこと
う。
から来る気分の悪さにも少し慣れてきたため、余裕が出てきたのだろ
飛び去るドラゴンを見てついそう念話越しに言ってしまう。臭い
!!
﹂
﹁そうじゃなくてね、さっきのコダ村では森の中に集落があるって話
だったろ
846
?
?
そこまで言われてはじめて俺は気づいた。
?
ああどうして気付かなかったんだ。この吐き気を催す臭い。これ
はタンパク質が燃えた時の臭い、前の世界で経験した、ヒトが燃えた
時の臭いに近いものじゃないか。
﹂
俺は慌てて駆けだす。
﹁おい
先輩が背後で叫ぶ声がするが今はそれどころじゃない。
どこかにまだ生存者が居るかもしれない。
いや、居て欲しい。
それだけを願い、俺は燃える森へと駆けだした。
◆◆◆
﹁あの馬鹿、どこ行きやがった⋮⋮﹂
﹁大丈夫でしょうか、心配です﹂
俺が零した独り言に、返してくれたのは黒川ちゃんだ。
やけに後輩︵子狐︶を可愛がっていたし、結構な動物好きのようだ。
しかし言葉を交わすが警戒を続けたまま俺達は前へと進み、探索を
続ける。
俺達は既に森の中にあると言われていた集落に到着していた。
火力の所為か木々は既に燃え尽き、辺りの火は引き始めている。
そして燃えた後に残るのは│││、
﹁隊長、あれって⋮⋮﹂
﹁言うなよ。絶対に言うなよ。とりあえず現状把握だ。仁科一曹は勝
本、戸津と共に東側を残りは俺と西側だ﹂
廃墟のごとく燃え尽きた建物の残骸、その瓦礫から生えるように出
ている炭化した何か。
それを見て倉田が引きつった顔でその正体に関して言おうとする
が遮る。
命を奪うために引き金を引いたこともある。だがそれが何だ。
何度見ようとも、失われた命に慣れることは無い。
俺達に出来ることはまず生存者を探すことだ。その後に、丁重に
847
!
葬ってやろう。
その為にもまずは現状の把握を最優先だ。
そうして、俺達は2班に分かれ村を捜索していく。
しかし見た限り人の気配は無かった。
無事な建物も一つとして無く、逃げようとしてそのまま燃えたよう
﹂
な遺骸がいくつも発見されるばかりだ。
﹁生存者は
﹃先輩
﹄
﹂
﹂
やはり全滅、だろうか⋮⋮。
頸を横に振り柄返ってきたのはそんな言葉だ。
近くを探索していた富田二等陸曹が戻ってきたので聞いてみるも、
﹁この辺りには居ませんね⋮⋮﹂
?
﹃先輩、村の真ん中辺りの井戸に来てくれ
﹄
そう心に決めながらも無事なようで安堵している自分に苦笑する。
あの馬鹿後輩。戻ったら文句を言ってやる。
な目を向けられる。
それを見て周囲の探索から丁度戻ってきていた栗林ちゃんに不審
突然頭に響いた声に思わず肩が跳ねた。
﹁ああ、栗林ちゃんか。いやなんでも無いよ﹂
﹁どうしました
﹁っ
!!
しばらく歩くと、村の中央らしき場所に出た。
き場所へと向かう。
全員が付いてきているのを横目で確認し、後輩の言う村の中央らし
そう声を掛け、そのまま歩き出す。
﹁ここらには何もないようだし、一先ず村の中央で合流しようか﹂
味がなくなるからな。
ここで変に一人焦って走り出してはここまで後輩を匿ってきた意
程度に他メンバーを誘導することにした。
とりあえず、俺は周囲の探索も終えた所だったので不審にならない
続けてそう話す後輩はどこか焦っている様子なのに気づく。
!
848
?
!?
そして目的の井戸もある。
﹁この辺りも調べようか﹂
﹁﹁﹁了解﹂﹂﹂
敬礼とと共に了承を告げた皆がそれぞれ周囲の探索へと向かう。
俺はそんな彼らを見送り、一人井戸へと向かう。
集落の全員で使っていたのか、遠目で見てもそれなりの大きさだ。
そしてそれは積み上げた石で造られており、周りに燃えるものも無
かったからかポツンと平場の中央にある。
﹂
近づいた俺は、中を覗き見る。
﹁ここか
そして覗き見た俺は、何かと目が合う。
ネギを咥えた子狐︵後輩︶とエルフだった。
849
?
﹃stage7:ゴスロリ様は異世界にもいらっしゃ
るようです﹄
﹁⋮⋮どうしたもんかねぇ﹂
﹁伊丹隊長、狐ちゃん盗られちゃいましたね﹂
﹁うるせぇ﹂
隣で運転する倉田に目も向けずそう口にした俺。
あの焼け落ちた集落からコダ村へと戻っている訳だが、バックミ
ラー越しに後方を眺めながら面倒なことになったものだと溜息をつ
く。
後方で繰り広げられているのは、後輩︵子狐︶を抱え込むようにし
て座席の上で丸まっているエルフの少女。腕と胸で挟まれている狐
の顔が妙にほっこりしているので若干腹立たしかったりする。
その様子を見てまた一つ溜息。
視線を遠くにそびえる山々へと向けながら、どうしてこうなったと
反芻する。
あの井戸を覗き込んだ時、そこに居たのは後輩とその後輩を頭に乗
せているエルフの少女だった。
当然そのままにしておくわけにはいかないので二人を持って来て
いたロープを垂らして救出したは良いが、そこで問題が起こってし
まった。
というのも、あの集落はほぼ全てが燃え尽きてしまっており、見つ
けた生存者と言えば井戸の底に居たエルフの少女只一人。そんな彼
女が井戸の底から出てきたらどうなるかなど想像に難くない。
彼女は井戸を出て周囲を見回すなり何かを叫びながら走りだし、念
のため追いかけるも敢え無く巻かれてしまった。しかも後輩を抱き
かかえたまま。
後輩からの念話で何とかしてみると言われたが、それもまた難しい
話だ。
850
俺は後輩がサーヴァントという超常の存在であることを知ってい
るが、他の隊員からしてみればただの子狐を手に走り去ってしまった
エルフ少女という場面でしかない。それに後輩一人に任せておくの
もまた心配だ。因みに何かやらかすのではないかという意味である。
そんなわけで何組かに分かれて周囲を探索するも見つからず、最終
的には再び後輩から来た念話頼りにエルフ少女の元へと辿り着いた。
しかし見つけたはいいがそこには不思議な光景が出来てしまって
いた。
地面に立てたネギを前に不思議な踊りをする子狐、そしてそれを極
微笑ではあるが先程までとは違い多少の明るさを取り戻したのであ
ろうエルフ少女。やはり何かしやがったようである。
そしてそれ以来だ。あのエルフ少女が後輩をその手元より放さな
くなったのは。
後輩曰くアニマルテラピーとのことだが、お前はどこまで行っても
あにまる︵笑︶だ。
とはいえ二十日以降の差異よりは落ち着いているのも確かな為、無
理にエルフ少女から情報を得るのも難しいと考えて一先ず部隊はコ
ダ村へと戻ることになった。
そして今に至る訳だ。
﹁ほんとどうしたものか⋮⋮﹂
改めてバックミラー越しに後部を見る。
そこには何処から取り出したのか、葱を口に咥えたままエルフ少女
の上で飛び跳ねている後輩。そしてそんな後輩を掴まえようとエル
フ少女に詰め寄る形になる黒川。狼狽えるエルフ少女。
なぁにこれぇ。
あまりにも訳の分からない状況に思わず、俺は頭を抑えた。
◆◆◆
どうしよう、エルフさんが俺を離してくれない⋮⋮。
851
現在の俺達はエルフの集落からコダ村へと既に戻ってきていた。
そして先輩が村長さんに赤い竜の事を話すと、村の人達は総出で村
を捨てる準備を始めた。言葉が俺には理解できないので先輩経由で
聞くと、なんでも人の味を覚えた竜というのは遠からずまた人里を襲
うのだそうだ。しかも先輩が告げた竜の特徴から、あの時見た竜はた
だの竜ではなく古龍という種らしく、撃退など考えられるものではな
いのだとか。
なので今、俺の目の前では村の人達は家の中から必要なものを場所
に詰め込み逃げ出す準備をしている途中だ。
そんな中で、俺はギュゥッとエルフさんに抱えられたままだ。
理由はまぁなんとなく察しはついている。
あの時、エルフ少女が焼け落ちた自らの村を見た後に目の前にある
現実を否定しようと何かを探し求めるように走り出した。
パニック状態に陥った彼女は、恐らく人の名前を叫びながら未だ火
の燻る瓦礫を素手で書き分けたり自らが傷つくことを厭わず周囲を
走り回った。
恐らくトラウマ、というやつなのだろう。自分の住み慣れた村が焼
け落ちてしまったのだからそれも無理はない。
だから彼女は目の前に広がる現実を否定しようと走り続ける。
しかし俺は生前に友人から聞いたことがあるのだ。現実を否定し
て自分で自分に嘘をつくとやがて心が壊れると。
その時の友人は実際には色々とどういうことか教えてくれたのだ
が俺が理解できなかった為、簡単に言えばとそう教えてくれた。
ただ、同時にこうも教えてくれた。
トラウマやPTSDと呼ばれる心的外傷というものは専門家の元
で治療して行かないと悪化する可能性があるのだとか。
それを思い出し、俺は歯噛みした。
どうにかしたいと思っても、俺にはそれをする術が分からない。認
知療法だとかなんとかその友人が言っていたが、やり方も分からなけ
れば専門家でもない俺にはどうしようもない。けどあきらめたくな
い。
852
だから、必死に友人との会話を記憶の海から掘り返した。
そうして思い出したことが一つ。それがリラックスしてもらうこ
と。
リラックス状態になって貰うことでそのトラウマの原因になるこ
とについて自然と考えを持っていかないようにしたり、精神的な疲労
感を和らげることで心に余裕を持たせることが出来るみたいなこと
を言っていた。
ならば、と。
俺は現状における、俺ができる最大限のリラックス効果を発揮する
何かを考えた。
そして思いついた。
それがアニマルテラピー、つまり俺自身のモフモフである。
何故そこでモフモフと言う人も居るだろう。
だが、モフモフを見くびってはいけない。
古来より、モフモフとは人の心を掴んで離さない魔性の存在だっ
た。例 え ば 古 代 エ ジ プ ト の 時 代 か ら 王 族 は 猫 を 飼 っ て い た と い う。
ほかにも諸説あるが、約1万年前には既にイエネコは存在していたの
ではないかとも言われている。犬も同様に、始まりは狩猟犬としての
側面が強かったようだがペットとして進化し、1万年前位には飼われ
ていたのではないかと言われているそうだ。
そんな昔からモフモフ達によってもたらされた癒やし力というも
のは決してバカに出来るものではないと思うのだ。
飽食の時代と言われる現代日本ならいざ知らず、明日の食事も気に
モ フ モ フ
しなければならない時代から自分たち以外の食事を用意してまで彼
ら が 求 め た 癒やし。そ れ が 今 こ の 身 に あ る 幸 い。使 わ ず に い ら れ よ
うか。
故にこそ、俺はこの身を以てエルフ少女を癒す。
そう思い俺はエルフ少女を落ち着かせるためにアクションを起こ
した。
勿論容易いものではなかったさ。
まずは気を引くために目の前で狐のフリをして血反吐を吐く思い
853
で可愛く鳴いたり、肉球でペシペシとその柔らかさを知ってもらおう
と頑張ったり。
それでもパニックを過ぎ、絶望した彼女の心を動かすには至らな
かった。
だがその程度で諦めてなるものかと俺は次の手に出た。
レ
ス
タ
次に考え付いたのは物理的に彼女に元気なって貰う方法だ。
ズバリ回復魔法である。
一応井戸の底でも掛けていたのだが、ひょっとすればもっと掛けて
みると元気になるかもしれない。人というのは体力が落ちている時
は精神的にも追い込まれるものだし。
そう思いいつも杖代わりに使ってる例のネギウォンドを取り出し
咥えてレスタを使った。これで少しでも元気が出てくれれば、そう一
縷の望みに掛けてやってみた。
一応周りに誰も居ないことを確認した状態で使ったのでばれてい
ないとは思う。
そうして俺とエルフさんと二人して緑色の粒子に包まれていると、
成功したのかどうなのか、何とかエルフさんの注意を引くことが出来
た。
ただ、ジーッと見るだけで何のリアクションも得られなかった為に
断念。
レ
ジェ
ネ
それに子狐モードでネギウォンドを使っていると何故か気分が悪
くなってくるのだ。
レ ス タ を し て も 回 復 し な い し 状態回復魔法 を 使 用 し て 何 と か 戻 っ
たがあれは何だったのだろうか⋮⋮。
さておき、エルフ少女の興味を一応引くことが出来た俺は次の手に
出た。
日本には天岩戸という伝説がある。簡単に言えば引きこもった女
神さまを誘き出す為に扉の前で踊ったりすることで興味を引かせ中
から出て来させるというもの。
というわけで俺は踊った。
音楽療法というものも世界にはあるらしいし、偶然にも前世界でダ
854
ンスや歌に関してはそれなりのものを収めたと自負している。
だから、踊ったのだ。キューキュー鳴きながら。
超踊った。
ひたすら踊った。
途中から変なテンションになって訳の分からない動きもした気が
するが、とにかく踊った。
その結果、少しだけだが笑みを浮かべることに成功した。
そこからは全身のモフモフを使って彼女へとダイレクトアタック
だ。
するとどうだろうか。
絶望を顔に表していた表情は次第に氷解し多少ではあるが和らい
だ。
成功だ。
それ以来だ。彼女は何があろうと放さないと言わんばかりに俺の
事を胸に抱き続けているのは。
いや正直嬉しいですけどね。
外側は幼女⋮どころか狐だけど俺の中身は男なわけで、こんな美人
さんに抱きしめられてるなんて男としては喜ばないわけがない。特
に未使用のまま無くしてしまった自分としては。
しかし少しやり過ぎてしまったようで、彼女はモフモフに依存性が
出てしまったようなのだ。
元気になってくれたのはいいが、このままでは中毒症状が出るかも
しれない。
これはまずい。
あくまでもリラクゼーション目的の介入であったのだから違う精
神的症状を産みだしてしまっては意味が無い。何とかできない物か
⋮⋮。
一番なのはやはりそもそものトラウマを克服してもらうことなの
だが、先にも言ったようにそれは専門機関においてしてもらう必要が
あるものだ。素人がおいそれと手を出して良い分野ではない。
見習いとはいえ神様になったのだからそれくらいできるようにな
855
りたいものだ。
そ う い え ば ど こ ぞ の ド ワ ー フ に 育 て て も ら っ た 少 年 が 言 っ て い
たっけか、〝目の前の女の子も救えずに世界なんか救えるかよ〟と。
確かにその通りだ。たった一人の少女も救えずに何が神か。
貰っただけの能力ではあるが、それを育てるのは俺自身。
ならば、出来る限りのことをしよう。
だからまずは、この少女の腕から逃げることから始めよう。
頭の上に行くために抜け出すのは許してくれるのにどこかへ行こ
うとするとすぐさま捕まえてくるのだ。
これでは何も出来ない。
元気になってきてるのは嬉しいんだけどね
◆◆◆
ゴスロリ様は本当に存在したのか⋮⋮。
いや、頭がおかしくなったとか幻覚を見ているとかではなく、炎龍
の事を告げた途端に村を避難することに決めた村人たちを放置する
わけにもいかず同伴して道を行く途中に見つけたのだ。
徒歩や荷馬車の速度に合わせながらゆっくりと進んでいる途中、前
方にやけに烏が集まっているため双眼鏡越しに前方を見ればしゃが
みながらこちらを見るゴスロリ様。
フリルの多い服に、腰よりもなお長い黒髪、所々に赤いアクセント
があるが黒一色に染められたその容姿は等身大の球体関節と言われ
ても信じて疑わないほどに美しいものだった。
容姿に反してどこか凄みや妖艶さを醸し出すその雰囲気もまた、容
姿を後押しする一因でしかない。
とはいえこのまま放置するわけにもいかず、かなりの距離があるが
視線はこちらを見ているようだし景色を見ている訳でも無いような
ので近くまで行った後は隊員二人に事情を聴きに行ってもらった。
一応片言ではあるがこちらの言葉を話せる筈なのだが、どうにも少
856
!!!
女には通じない。
二人の言葉が聞こえていないかのように黒ゴス少女はこちらへと
近づいてきた。
﹂
〟とこちらの言葉で問いかける。
﹁サヴァール、ハル、ウグルゥー⋮⋮
〝こんにちは、ごきげんいかが
?
いやもう乗るとこないから
び俺が座る助手席側へと回ってきたかと思うと乗り込んできた。
そう割とまじで焦っていると、少女は斧を後部に回って乗せると再
ど、マジで宗教的に偉い人
え、さっきから冗談半分にこの美少女をゴスロリ様とか言ってたけ
女の方を向いて拝んでいる人︵特地なりの様式で︶まで居る。
よく見れば足が悪いなどの理由であまり動けない老人の方々は少
に何かをいう子ども達。
何を言っているのかは分からないが何やらテンション高めに少女
て貰っていたコダ村の子ども達と話し始めた。
しばらくどうしたものかと悩んでいると、少女は唐突に後部に乗っ
しかし少女は微笑むばかりで何も言わない。
?
でも聞いてくれたかどうかは分からないが構わず少女は乗り込んで
きた。
終いには俺の上に乗ってくる始末。
隣の運転席で倉田が羨ましいやら何やら叫んでくるが、お偉いさん
かもしれないこの子を無碍に扱うこともできず触る場所を気にしな
がら少女を除けようとこちらは必死なのだ。反して相手はお構いな
しにそこら中触りまくるし、触り方一つ一つがやけに妖艶で心臓に悪
い。
﹂
何なのまじで。
﹁シャー
吠えると言っても子狐だしエルフ少女に捕まったままなため可愛
いものでしかないのだが、その声にゴスロリ少女は動きを止めた。
857
?
そう言うも咄嗟の事で日本語で話してしまい、というか特地の言葉
!
俺が焦っていると、後部より後輩が吠えるように鳴いた。
!!!
オメガグッジョブだ後輩。助かったという意味を込めて後輩にサ
ムズアップする。
その様子にニヤリとする子狐後輩。子狐モードでそんな顔をされ
ると微妙に気持ち悪いが、助けてもらっておいてそんなことを言うの
も失礼なので我慢する。
さておき、そう言えば件のゴスロリ少女はどうしたのかと思い見て
みると、何故か彼女は後輩をジーっと見ていた。それはもう訝しむよ
うな目で。
あの反応もう完全に小動物の動き
その目に当てられてか、後輩はブルリと身を一度振わせた後エルフ
少女の後ろに隠れてしまった。
うちのサーヴァントよっわ
じゃないか。人類に戻ってこい後輩。
とはいえ混沌とした場はとりあえず収まった。
最終的には俺が少し横に避けることで落ち着いたのだが、このゴス
ロリ少女は何でまた後輩を訝しむような目で見ていたのだろうか
破ったとか
実際、こちらの世界には魔法もあるみたいだし、実際
ひ ょ っ と し て こ ち ら の 宗 教 的 な 不 思 議 パ ワ ー で 後 輩 の 正 体 を 見
?
まぁこの疑問を解消しようとしても言葉の壁があるから難しいん
だけどな。
とりあえずは近くの村か近くまででも村人さん達を連れていくこ
とを優先しよう。
それが今の俺に出来ることだ。
ところで後輩よ、エルフ美少女と黒川という大和撫子美人に撫でら
れて良い御身分だなぁおい。
お前のサーヴァント設定どこ行ったよ。
858
!?
にこの集団の中には魔法を使える御爺さんと少女が居るらしいし。
?
﹃stage8:一狩り行こうぜ
﹄
日差しの強い中、草木も生えない岩石地帯を行く集団があった。
M
V
その集団の先頭に居るのはHMVと呼ばれる高機動車や軽装甲機
H
動車。その後ろに続くのはコダと呼ばれる村に住んでいた人々。
コ ダ 村 の 住 人 達 が 何 故 揃 っ て こ こ に 居 る の か。そ れ は 高機動車 に
乗る自衛隊から彼らに伝えられた情報故にだ。
炎龍がエルフの里を襲った。
それを聞き、慌ててコダ村の住人は逃げ出す準備をした。
当然、自衛隊の面々はなぜ逃げるのかと問うた。
それに対しコダ村の村長は人の味を覚えた炎龍は再び人を襲うと
告げる。
だからコダ村の面々は今こうして当て所も無い旅路を行っている。
彼らも出来るものならこんな事はしたくない。現代日本とは違い、
馬車があるとはいえ生活に必要な物を持ち出すのも一苦労だ。
しかし、命より高いものは無い。命あっての物種。長年生きてきた
村を捨ててでも、彼らは生きるために道を進むしかないのだ。 そんな彼らを、自衛隊の面々は見捨てることが出来なかった。故
に、随伴するように安全だと判断できるところまで同行している。
そんな彼らの中でも一番前を走るHMVの中で、とある言い合いが
始まっていた。
﹂
﹁ね ぇ、そ こ に 居 る 獣 な ん だ け ど ぉ ち ょ っ と 見 せ て も ら え な い か し
らぁ
着た少女だ。エルフの少女の名はテュカ・ルナ・マルソー、ゴスロリ
服の少女はロゥリィ・マーキュリー。彼女らはHMVにおける座席越
しに言い合いをしていた。
859
!!
子狐を抱えるエルフの少女に向かって問うのは黒いゴスロリ服を
﹁駄目⋮⋮﹂
?
﹁何で駄目なのぉ
﹂
﹁駄目ったら、駄目⋮⋮﹂
﹁もぅ、その子何か変よぉ
﹂
﹁それは⋮⋮そうだけど⋮﹂
テュカが手の中に居る子狐を守るように抱きしめる。
子狐はこの状況から逃げたいのかジタバタとするが、体格の差が歴
然である為それもできない。
その様子を見て、ロゥリィは再びジトっとした目を向ける。
ロゥリィは死と断罪を司るエムロイの使徒にして亜神。そんな彼
女は魂の素質というものにすごく敏感だ。その感覚において、エルフ
の少女に捕まっている小動物は明らかに異質。彼女とて目に映るす
べての生物の根幹を見て取れるわけではないが、それでも目の前の小
動物から感じられるそれはその見た目に有り余るものを内包してい
ることが分かる。
例えば、目の前にコップがあるとする。しかしその飲み口から覗き
込んだ中身は湖の様に膨大なものが映っている不自然。千年に近い
時を生きてきたロゥリィ自らの感覚ではそのように感じるのに、しか
し客観的に見ればただの小動物だ。
それ故にロゥリィはつい顔を顰めてしまう。
疑問を解消するためにエルフの少女からその小動物を取り上げる
のは正直容易いが、それは自身の生き様に相反する。
故に彼女は同時に苛立ちを覚える。
生来からして好奇心旺盛と言われてきた彼女にとって、気になるも
﹂
のが目の前に合ってそれを解決する方法もあるのにそれを成せない
というのは只々ストレスの貯まるものだ。
﹁その小動物ってぇこの人達が連れて来たのぉ
﹁たぶん、そう﹂
﹁ふぅーん⋮⋮﹂
ロゥリィの言葉に短く答えるテュカ。
この緑の服を着た人々は異邦人なのだろう。そしてこの小動物も
その言葉にロゥリィは一つだけ合点が行った。
?
860
?
?
また、彼らに連なるもの。そう納得した。
でなければおかしいのだ。
・・・・・
何 故 な ら、そ も そ も が こ の よ う な 動 物 は こ の 世 界 に 存在しない 生
物。
確かに似たような生物なら居るため変異種だとでも言われてしま
えば納得せざるを得ないが、だがそうであるならばその内に秘めたモ
ノがおかしい。
だから、一先ずは異世界からの来訪者である故の存在としてロゥ
リィは納得することにした。
そうでもしないと気になって仕方がないのだ。
何故このような何の力も無さそうな小動物からロゥリィ自身、い
や、自らが崇める神に近しい気配を感じるのか。その謎を解明したく
て仕方がない。靄が掛かったように見え辛いが、だが確かにただの生
物ではないと自身の感覚が告げているのだ。
861
しかし、とそこでロゥリィは踏み止まる。
腑に落ちない点ではあるが、それをするのはやはり自分らしくな
い。
ロゥリィがはぁと嘆息をもらす。
それを見て子狐はびくりと怯えを見せた後、テュカの背後へと駆け
去った。
いや、無いな。
ロゥリィは子狐の様子を見て疲れているのだろうと思い直す。
きっと長年相棒としてきた第六感というのも偶には休憩をしたい
のだろう。そうでなければこの程度で怯える子狐が尊い魂を持つ訳
がない。
止めようと思いつつもやはり気になってしまう自身の性格を難儀
に思いつつも、ロゥリィは意図的にその存在を意識から外すように今
﹂
度は自身の隣に居る男を見上げた。
﹁な、何
の上がらなさそうな男。しかしこの男は周りの人間から隊長と呼ば
ぎこちないながらもこちらの世界の言葉を話す、見るからにうだつ
?
れていたのをロゥリィは耳にしている。
亜神であるロゥリィはこちらの言葉でなくとも意味を理解できる
が悪戯心が芽生え、ただその男の言葉に意味深に微笑み返した。態々
言葉に気を使いながらこちらの言葉で話していたのはこの集団の真
意を知るためであったが、ここでネタばらしも面白くない。
そんなロゥリィに対し男はというと、苦笑いした後に何か間違って
たかなと手元にある小さな本の様な物を見直した。何とも情けない
姿だ。
だがロゥリィは思う。先程の小動物も気になるがこちらの男もま
た面白い存在だ、と。
・・・
覇気も何もない様に見える目の前の男だが、ロゥリィの感覚から言
えばその在り方がとても好ましいものに観えたのだ。
揺るがなく、自らを貫く魂の輝き。
面白い。この集団に着いていくことで面白いものが見えるかもし
862
れない。だからもうしばらく一緒に行動することにしよう。
ロゥリィは自然と笑みを浮かべながら、そう決めた。
◆◆◆
やっべぇ、何か知らないけど黒いゴスロリ少女がめっちゃこっち見
てる。
ジッと見たり、ちらっと見たり、見ながら意味深な笑みを浮かべた
り、思わずエルフ少女の背中に隠れちまったよ。ごめんねエルフちゃ
ん、盾にしちゃって。
でも許してほしい。だってなんかおっかないんだよあの女の子。
なんというか、そう、例の金ぴかとかと相対した時の感覚。
実際はベクトルが違うと思うんだけど、なんかこう身体の奥底から
こいつはやべぇと囁き掛けてくるんだ。
ひょっとして獣の本能ってやつが原因だろうか
にその全容を把握しきれていなかったりする。
実は、既に20年近い時間を過ごしたこのちーとぼでぃだが、未だ
?
例えば、ラーニングの能力があると言われたが以前見た自身のス
ペック表にそんなものは無かった。
一先ず〝獣の本能〟がソレっぽいと納得することにしたが、未だに
ファンタシースターポータブル
その確証は得ることが出来ていない。
他 に も ポケットの中の幻想 な ん て も の を 能 力 と し て も ら っ て る わ
トラップ
けだが、これもゲームそのままの部分もあれば現実に則した部分もあ
る。
先日使った地雷もその類いだ。
持っている人間のステータスによって威力が変わるなんて部分は
ゲームっぽい仕様なのに、ゲーム内の設定であった三つまでしか同時
設置できないという部分は掻き消えている。ちなみにEXトラップ
タイプ
も設置個数制限は消えており、又、念じることで起動できる形になっ
ていた。そのくせ自身の職業をブレイバーに変えておかなければ使
えないという謎仕様。
さておき、使い勝手が良いのか悪いのか良く分からないこのちーと
ぼでぃだが、かといって今すぐどうにか出来るものでもないので諦め
るしかないのが現状だ。
覚えた泥も中々進展が無いし。
色々と形作るのは大分慣れたのだが、中々中身があるものを造れな
い。あと性質変化も難しい。
正直に言えば俺自身の想像力が貧困な所為でこうなっているのだ
矛盾させる
ろうけど、でももう少しどうにかなってほしいものだ。
いつだったか、キャスターが俺はルールを変えることが出来ると
言っていた。
泥の性質変化というのもその流れから来るものだろうと思うんだ
が、これがなかなか難しい。
泥に性質を与えるのは割かし出来るのだが││と言ってもかなり
の集中力が必要だが││そもそも在るものを性質変化させようとす
る場合だと中々難しい。
それは自分に関しても言えることで、門を越える前から考えても何
も進歩していないと言って良い。
863
やはり何か切っ掛けが必要なのだろう⋮⋮。
と、ここらで現実逃避はやめようかな。
矯正
どうやら﹃黒ゴス様がみてる﹄状態は脱したようだ。何かが始まる
訳じゃないだろうけど、タイを直されるどころか生き方とか直されそ
うなレベルで言いしれない圧力を感じた物だからつい思考の海にダ
イブしてしまっていた。
さておき、黒ゴス様は次の標的を先輩にしたようだ。
何やらジーッと先輩の事を見ているが、その表情は面白いものを見
つけたと言わんばかりのとてもイイヒョウジョウをしてらっしゃる。
俺の時みたいな棘々したものじゃないので若干羨ましい。隣の運転
手さんも絶賛羨ましがってるし。今にも血涙を流しそうな程。
対して先輩はあからさまに視線を黒ゴス様から反らし、景色を見る
ようにしていた。
だが視線を反らす先輩を更に面白がって突いたりもたれ掛かった
うー、なんかもやもやするぜ。
いやだって先輩の⋮⋮元嫁さんになってしまうわけだけども梨紗
さんの存在を知っている以上、これが変なフラグになっていないかと
心配なのだ。断じて他意は無い。
ハーレムってのも創作の中にはよくある⋮⋮いやまぁ絶賛士郎君
が作り上げてしまったわけだけどもあまり現実的ではない。とりあ
えず爆発しろ。
864
りとして遊んでいる。
何があの黒ゴス様の琴線に触れたのだろうか
確かに先輩は陰でモテてたりする。
そんな先輩にあの黒ゴス様が気付いた
ると中々に頼り甲斐があるのだ。
普段はまぁ駄目な方向に自分を貫いちゃってるが、いざスイッチが入
けど、直接関わればわかるがあの人は自分を貫き倒す覚悟がある。
ンというやつだろう。
見てくれはお世辞にも良いという部類ではないし、俗に言うフツメ
?
いやでも今さっき会ったばかりなのにそんなの解るものかねぇ。
?
とりあえずそんなわけでこの状況を何とかしたい俺。
って言っても、現在進行形で狐モードな俺はエルフさんに抱えられ
ているんだよねぇ。
バタバタと身体を揺すくってもびくともしない。
鳴声を上げても首を捻られるだけで放してくれそうもない。ただ
可愛い仕草が見られるだけです。
さて、どうしたもんかねぇ⋮⋮。
﹁何だ、あれ⋮⋮﹂
ある意味ショウもないことで悩む俺の耳に先輩の声が届く。
あれって何
ドラゴンだ
戦闘用意っ
そう念話で聞こうとするが、それよりも早く先輩が答えを口にし
た。
﹁おいおいおいこのタイミングでかよ
!!
◆◆◆
けた所で来るんじゃねぇ
﹂
怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ こんな開
その声に、俺を掴んでいた腕に力が一気に弱まった。
!!?
響く。
それと同時、後部座席からきゃあと甲高い悲鳴が聞こえた。聞こえ
た声は恐らくエルフ少女のものだろう。
急加速した車の勢いで座席から滑り落ちたのかと目をやるがどう
やら違うようだ。
俺が後ろへと目を向けると違和感があった。
居るはずの奴が居ない。怪我をした老人や体力のない子ども達、そ
865
?
!
後方の隊列に向かって走り出したHMVの中でおやっさんの声が
!!
﹁くそったれ
!!
﹂
!!!!!!
してエルフ少女や何人かの隊員は居る。だが、エルフ少女の近くに居
たはずの後輩が居ない。
あの馬鹿
そう口に出しそうになるも一人飛び出すわけにもいかず、各員へ小
銃の準備をするよう伝える。
しかし、素早く準備を終えてドラゴンへと各車両が走っていけば、
異様な光景が視界に入った。
降り立つなり炎を吹き出し、もしくはその爪や咢を以て村人を襲っ
ていたはずのドラゴンが人々を襲わず周囲から湧き出るようにして
出てくる黒い泥の様な物を相手に戦っているのだ。
泥は不完全な形で剣や盾になりながらドラゴンを襲っている。
それに対しドラゴンはその巨体と堅牢な鱗の鎧を武器に、形作られ
る武具を尽く破壊していく。
一体何が起こっているというのだろうか。誰もがそう思っている
ことだろう。
俺自身、あまりにも現実離れしたその光景に思考が一瞬止まってし
まう。 しかしすぐさま思考を再起動させよく観察すれば、その作られゆく
武具ではドラゴンに傷一つ付けることはできておらず、形が武具とい
うだけで簡単に崩されていくところが見て取れた。正直なことを言
うと見た目に反してあまりにも心もとない。
だが、その心もとない泥の武器たちの御陰でドラゴンはそれを壊す
このまま近づいちゃった大丈夫っ
のに意識が取られ、周囲からは人々が何とか逃げることが出来てい
何すかあれ
!?
た。
﹂
﹁い、伊丹二尉
すか
!
﹂
一先ず各車両は人命救助優先で、
倉田もこの光景に思わず思考が止まっていたのだろう、思い出した
あの泥は味方だ
ように聞いてくる。
﹁大丈夫だ
!
俺達はドラゴンの周囲を走って牽制
!!
!
866
!!
ドラゴンに向かって運転しながらも弱音を吐く倉田。
!!?
﹁りょ、了解っす
﹂
俺は倉田に、何事も無いように返す。
あの泥には見覚えがあるのだ。
あの馬鹿がいつだったか変身する時に使っていたやつだ。
﹂
だからあそこに居るのは、ここに居ないあの馬鹿後輩なのだろう。
どこに行ったかと思えば⋮⋮。
炎
﹁それにしても、二尉はあれが何か、うお、知ってるんすか
味方とは言った。だが俺の後輩だと紹介していいのか
紹介すればいいのだろう。
り回る銀色の子狐らしきものが居るのが見える。俺はあいつを何と
再びドラゴンの方へと目を向ければ、その周りを翻弄するように走
くる倉田に心の中で賞賛を送りつつ、どう返したものかと悩む。
ドラゴンより吐き出された流れ弾を上手く避けながら聞き返して
!!?
とだ。それが国に伝わった時どうする⋮
と何かが闘っているのはここに居る村人含めての全員が見ているこ
しているが、どこから情報が漏れるとも限らない。いや既にドラゴン
この短い間に第三偵察隊の面々が気の良い奴らだというのは理解
つだ。
あいつは向こうの世界では今の時代では珍しいお尋ね者というや
?
さぁどうする⋮⋮
しかし、ばれるのも時間の問題だろう。
前情報ありきで見ているからあいつだと分かっただけ。
気づいていないだろう。俺も実際には見えている訳ではなく、推測と
今はまだ、先程までこの車に乗っていた子狐が闘っているとは誰も
?
存在がばれないようにする方法は││││、
どうする、どうすればいい、この状況を打破し、その上であいつの
方が大きい分ドラゴンの気を引くことが出来ている。
むしろ後輩が出しているであろうあのできそこないの武器たちの
だが、その全てが弾かれる。
なく、この車両に乗る面々も各自で攻撃してくれている。
考えながらも、ドラゴンの意表を突くように銃を撃つ。俺だけじゃ
?
867
!
﹃先輩
﹁うお
﹄
﹂
﹁どうしたんすか
﹂
﹁い、いやなんでも無い
﹂
突然頭に響いてきた声。それに驚きつい声を出してしまったが慌
てて誤魔化す。
そうすれ
どうにも慣れない念話というものに辟易しつつ、その件の後輩が何
を言うのか銃を撃ちながら意識を集中する。
﹄
﹃20秒、20秒で良いから完全にこいつを任せて良い
ば村の人達を襲ったこいつを俺がぶっ倒すから
ハハ、と思わず笑ってしまう。
!?
だったな。
い わ こ い つ。し か も ぶ っ 倒 す だ と
バ カ じ ゃ ね ぇ の。い や バ カ
今まで姿を隠してきたのにバレたらどうなるかとか絶対考えてな
ああそういえばこいつはそういう奴だったな、と。
なってしまった。
後輩の言葉に、俺は自分が先程まで考えていたことが馬鹿らしく
!!
やろう
﹁倉田はこのままドラゴンの周囲を囲う様に走りつつブレスに注意
各車両は救助を終え次第に
勝
!
おやっさんと黒川はそのまま牽制
ラ イ ト アー マー
﹂
軽装甲機動車 は ミ ニ ミ と キ ャ リ バ ー で 牽 制
﹂﹂﹂﹂
!
自衛隊は怪獣にやられてばかりじゃないってところを見せつけて
なら、こちらも合わせてやらないとな。
そしてあいつは、やると決めたらやる奴だ。
のを見てられない大バカだった。
そういえばあいつは、自分なんぞ置いておく癖にやけに人が傷つく
?
!
本はパンツァーファウストが用意出来次第ぶっ放せ
﹁﹁﹁﹁了解
!!
牽制に加われ
!
俺の指示に、この訳のわからない状況に異議を唱えるわけでも無く
!!
868
!
!?
!?
!!!!!!!!
!!
意気の良い返事をくれる面々。頼もしい奴らだ。
返答と共に各自それぞれの仕事を始め、俺の乗るHMVは指示通り
にドラゴンの周囲を周回し始める。
同時、ドラゴンを襲っていた泥が引き、銀色のちっこいのもどこか
へと走り去るのが幽かに見えた。
﹂
少しで良い、少しだけ気を反らせばあの馬鹿が仕留
﹁あの泥っぽいの消えちゃいましたよ
﹂
﹁それで良い
める
﹂
そんなものに構ってる暇はないと、続けて撃ち続ける俺達。
片目の潰れた厳つい顔でこちらへと咆哮を浴びせかけてくる。
変えてきた。
あの泥が消えたことで、ドラゴンは次の標的をすぐさまこちらへと
けていた黒川が問うてくるがそれを説明している暇はない。
倉田の問いに投げやり御答えると次は俺の後ろで64式を撃ち続
﹁あの馬鹿って
!?
﹂
もっと飛ばせ
﹂
だが、ドラゴンは予想以上に俊敏な速さでこちらへと駆けてきた。
﹁まずいまずいまずい
﹁ガン踏みしてるっすよ
!!
!!
﹁お待たせしました
﹂
したとドラゴンはこちらへと迫ってくる。
追いかけてくるドラゴンに弾は当たっている。しかしそれがどう
!!!
なんとか気を引くことには成功しているようだ。
相変わらず、ドラゴンの鱗には傷一つ付いてはいないが、それでも
ドラゴンが、不愉快そうに喉を唸らせる。
栗林たちが乗る車両もほぼ同じくして牽制に参加し始めた。
む。
すかさず俺達はドラゴンの側面へと回り込み、再び鉛玉をぶち込
ラゴンがこちらから目を反らす。
効くのか││見た感じかゆみ程度も感じているかは怪しいが││、ド
アーマーが近づいてきた。 こちらで撃っている物とは違い、多少は
そこへ、工事現場で聞こえる削岩機の様な音を出しながらライト
!!
869
!
!!?
!!
﹁後方の安全確認良しっ
﹂
響く勝本三曹の声。見ればキャリバーを撃っていた笹川士長に代
わり、上部ハッチから身を乗り出してパンツァーファウストを構えて
いた。
さっさと撃てと全員が思ったことだろうが日ごろの訓練の成果で
もある以上、ある意味仕方ないのかもしれない。
しかし、その間にもドラゴンは声に気がひかれたのか身をよじりそ
ちらを標的としていた。
それに対し、車が急制動を駆ける。合わせて、照準していた勝本三
曹の手元に力が入ってしまい、元々重心位置が扱いづらいこともあっ
て照準がずれたまま撃ってしまう。
外れる。誰もがそう予想した。
そして予想通りに外れた弾はドラゴンの足元へと着弾する。
巻き上げられる土煙。
不幸中の幸いか、それによって俺達を見失ったようでドラゴンは翼
﹂
を羽搏かせることで土煙を晴らそうとする。
﹁次急げ
ファウストだ。
早く次を撃ってもらわなければその内に銃を脅威と感じなくなっ
﹂
たドラゴンはお構いなしに一台ずつ片付け始めるかもしれない。
そんな嫌な予感がよぎり、慌てて指示を出す。
この土煙が晴れ次第、再びやつは襲ってくるだろう。
だが、遅かった。
と地面すら揺らすような轟音が辺りへと響く。
いや、意味がなくなった。
ドゴン
﹁GYUOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ
続いて響いたドラゴンの咆哮。
しかしそれは先程までと違い、こちらを威圧するものではなく悲鳴
!!!?
870
!!
現状、用意できる携帯武器で一番の高威力を誇るのがパンツァー
!!
!!
の様にも聞こえるものだった。
﹃お待たせ先輩、後は任せてくれ﹄
いつの間にか20秒は経っていたのか、再び頭の中に念話が届い
た。
そしてドラゴンの方を見れば既に土煙は晴れかけており、その中か
らドラゴンが姿を現す。
しかしよく見ればドラゴンだけじゃない。ついでに言えばドラゴ
ンも先程と様子が違っていた。
片翼がぐちゃぐちゃに潰されたドラゴン。
そしてそのドラゴンを睨むようそこに居る幼女、もとい見覚えのあ
るバカ後輩。
﹃ここまで躊躇いなく全力出せそうな相手は初めてだわ。そんなわけ
で先輩、巻き込まれたくなかったら退避よろしく﹄
そう念話を残し、後輩はドラゴンへと駆けだした。
871
﹃stage9:炎龍は居なかった。良いね
﹁よくもまぁやってくれたよなぁ、おい﹂
赤い龍を前に、俺は怒気を露わにして立ちふさがる。
普段の俺ならビビッて何もできなかっただろう。
﹄
だが、そこらに充満する焦げたタンパク質や血の臭い、そして幾人
かの死体。それらを目にして怒り狂わずにいられようか。
ふと目をやれば手や足が獣のそれになりかけている。垂れる髪も
黒く染まっていく。
でもそれじゃあいけない。
無理矢理意志をねじ伏せるように、黒くなっていく部分を落ち着か
せる。
獣化はともかく、狂化は完全に暴走状態だから意志も無くここら一
帯を更地にしてしまう。俺が皆を殺すわけにはいかない。
だから、我慢だ。
この気持ちの全ては、目の前の龍にぶつければいい。
﹂
御誂え向きに向こうさんもやる気のようだ。
﹁GYUOAAAAAAAAAA││
向けてくるドラゴン。
そのドラゴンを見ながら、俺は右手に持つ物を引っ張る。
ギャリリと金属音を鳴らしながら、たった今ドラゴンの翼を破壊し
たものを回収する。
﹁どたまカチ割りトゲボール⋮⋮だと⋮⋮﹂
少し離れた場所で先輩がそう言ったのを俺の耳が拾う。
でもこれ、一応〝鞭〟なんだ。
﹁どんだけお前の鱗が固いかわからんけど、諸共ぶっ潰しゃ問題ない
よなぁ﹂
光波鞭︽ウィップ︾系Sランク武器﹃ギガススピナー﹄。
872
?
ぐちゃぐちゃに潰れた片翼を引きづりながらもこちらへと殺意を
!!
見た目は先輩が言った様に鞭には見えず、いわゆるモーニングス
フォトン
ターのように鎖の先に棘付の鉄球が繋がっているというもの。若干
違うのが、光波鞭の名残か鎖が光で出来ている所か。
そんなこいつだが、実はゲーム内で言えば特出した攻撃力がある訳
でも特殊効果がある訳でも無かった。
だが、この場においてはとても効果的なテキストを持っている。
﹂
それは、〝鉄球の一撃はどのような装甲も一振りで叩き潰す〟とい
うもの。
﹁っるぁぁぁ
俺は再びギガススピナーを振るった。
ギャリギャリと擦れた鎖が甲高い音を立てながら棘付の鉄球を運
んでいく。
それを見てドラゴンはその巨体に見合わない素早さで地を蹴り、身
体をずらすことで鉄球を避けた。
﹂
構わず俺は伸び切った鎖を引っ張る。
﹁GURUAAA
悪感も何も生まれない。
﹁部位破壊は基本だよなぁ
﹂
だが、月並みな表現で言えばマグマの様に燃え滾っている怒りは罪
悲鳴を上げるドラゴン。
元々ボロボロではあった翼が根元から引きちぎれた。
俺が引くことで戻って来た鉄球は潰れていた翼の付け根に当たり、
るのは当然だ。
向けなければ意味が無い。先が飛んで行っても引っぱりゃ戻ってく
の制圧に向いた武器だ。一撃目を避けた所でその刃の全てに注意を
避けたと思ったんだろうがウィップ系の武器ってのは中距離圏内
!?
しかしそうは問屋が卸さない。
当然ドラゴンは避けようとする。
もう一度振う。今度は対側の翼だ。
!!
﹂
873
!!!!
﹁GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
│││
!!!?
﹁これで逃げられないぜ
﹂
両側の翼が根元から無くなり、体積が半分ほどに減ったように見え
るドラゴン。
それでも龍は、俺の方をその隻眼で睨みつけたまま闘う意思を萎え
させないでいた。
グルルと唸りながらこちらの様子を窺うドラゴン。
両の翼が無くなり血も流しているというのに、俺の隙をいつでも突
けるように四足を以て地を掴んでいる。
俺は戻ってきた鉄球をいつでも振れるように構える。
睨みあい。当たりは先程までが嘘のように静寂に包まれる。
誰もが動かない。動けないでいる。
﹂
しかしいつまでも待ってられるほど俺は落ち着きがある精神をし
ていない
﹁悪いがそろそろ終いだ
﹂
逆袈裟に右腕を振るう。それに合わせて飛んでいく鉄球。狙いは
ドラゴンの頭部。
﹂
﹁GURUAAAA││
﹁なっ
!!
ガススピナーの鎖部分に当てることで鉄球部分を地に落とした。
何故ばれた
確かにギガススピナーの効果は鉄球部分にしかない。たまたま
いや、その割には動きに迷いが無かった気がする。
を浮く。
まずい
フォトン
そして俺が驚いて反応が遅れた間に、鎖部分が引っ張られた俺は宙
はずだがドラゴンの鱗がその程度の効果はものともしない様子。
本来であれば武器の種類的に鎖部分にも斬撃の効果が乗っている
?
!?
﹁GAAAAAA││
﹂
それよりも早くドラゴンの咢がこちらへ戻ってくるのが早かった。
そう思い、虚空瞬動擬きをしようと魔力を足元に固めようとするが
!
!!
874
!!
!!
!
だがドラゴンはそれを首を捻ることで避け、更には体を捻り尾をギ
!?
﹁ん、ぐぅっ
﹂
俺を喰らおうと閉じられるその咢。ギリギリ避けるも、右腕の先を
持 っ て い か れ る。つ い で に 言 え ば ギ ガ ス ス ピ ナ ー の 持 ち 手 部 分 も
持っていかれてしまった。
未だ空中に浮かぶ俺の身体。無理に体を捻った所為で体勢が崩れ
ている。
そう何度も食われて堪るか
そんな俺に、ドラゴンは追撃を駆けようと再びその咢を開く。
もう一回食おうってか
!!
輩の戦いを見ていた。
巻き込まれないように離れさせたHMV、その中からドラゴンと後
間抜けな声が俺の口から出たのが分かった。
﹁あ⋮⋮﹂
◆◆◆
えた。
熱い、そう感じる暇も無く、俺の意識は炎の中に飲み込まれ、途絶
ま膨れ上がり、そして俺へと迫った。
そう認識した次の瞬間には少し見えていただけの火の粉はすぐさ
炎のブレス。
見えだす。
ンの大口、その中に見える俺の右腕とは別に、チロチロと赤いものが
しかしそんな俺を知ってか知らずか、俺の目の前で開かれたドラゴ
﹁おいおいマジかよ﹂
える。
食われそうになった瞬間に口の中からズタズタにしてやろうと、構
残った左腕、そちらにルゥカを取り出す。
!?
そのド派手な戦い、遠目で見るからこそ何とか見える程度の速度で
繰り広げられる攻防。
875
!!!?
だがそれも終わった。
﹂
右手の先を食われた後輩はそのままドラゴンのブレスの餌食とな
り、真っ黒なナニかになってしまった。
﹁え、あれ、やられちゃいましたよあの子
隣で同じように見ていた倉田が叫ぶ。
﹁伊丹二尉
どうしますか
﹂
じゃないか。なのに、何故⋮⋮。
ぶ っ 倒 す と 言 っ た じ ゃ な い か。い つ も 言 っ た こ と は や っ て き た
は言葉をなぞるだけで何も生み出さない。
そう頭は認識する。だが、その現実を受け入れられずに、頭の中で
ああ、そうだな。やられたな。やられてしまった。
!?
﹂
のかしらぁ
﹂
﹁生きてる⋮
﹁⋮⋮あなたは知ってるんじゃないのぉ
﹂
・・
﹁ふぅ∼ん、あれでも生きてるのねぇ⋮⋮。やっぱりあの子もそうな
響いた。
数秒か、数分か、そのまま動けずにいるとすぐ隣から予想外の声が
だが、動けない。
意味は分かる。何をしなければならないかも頭の中に出来上がる。
おやっさんが俺に問うてくる。
!?
ないか。見間違え
でも炭のようになってしまったじゃ
?
そもそもどうしてこの子は生きてると言った
あの状態で 生きてる
る〟という単語に反応してしまう。
言葉が通じていることにも疑問を抱く余裕すらなく、ただ〝生きて
生きてる、そう言ったのは黒ゴス少女だ。
?
?
そこでふと思い出す。
何か確認する方法は⋮⋮。 続けて問うてきたものに返す言葉も出さず、ただ考える。
く。
先程までとは違い頭の中で疑問がぐるぐると生まれては消えてい
?
?
876
!
?
?
あの後輩はサーヴァントで、そして俺はマスター。
そこまで考えて俺は慌てて手に付けていたグローブを外す。
﹂
そこには未だ血の様に紅い色で刻まれている3本の爪痕。令呪。
まだ大丈夫のようだ
ドラゴンがこっち見てますよ うお、こっち見んなトカ
﹁全員待機
﹃隊長
!!
﹄
!?
しの声もまた慌てた物だった。
!!
﹂
﹁レ ウ ス が テ ィ ガ に な っ て る
し か も 激 昂 し て る じ ゃ な い っ す か
て逃げるという行為をせずにこちらへと向かってきていた。
両翼も無く片目も潰れたドラゴンは、生物にあるまじき、怒りで以
その瞳に在るのは怒り。
それほどの速度ではないが確かにこちらへと迫ってきている。
それなりに距離があるし、後輩が翼を落としたからか四足を使って
る。
そして倉田の言うドラゴンを見れば、確かにこちらへと向かってく
出来るようにしながら問うてくる。
運転席の倉田が指示通りに待機したまま、いつでもアクセル全開に
﹁けどこっちに来てますよあのドラゴン
﹂
それによって言い忘れていた指示を思い出し慌てて言うが、無線越
それだけで不思議と心が凪いだ。
した。
令呪を意識した途端に、そこからあいつの鼓動が伝わってくる気が
ゲ野郎
!
きているらしい。もしくはFateに出てきた第五次バーサーカー
どういう原理かは知らないが後輩はあんな状態になりながらも生
そして落ち着くと今度はちょっとムカッとしてきた。
言うのは本当だったのだろう。
パニック状態の時に慌てている他人を見ると不思議と落ち着くと
だがそんな倉田を見て、一段と落ち着いた。
叫ぶように言う倉田の方を見ながらそう言いそうになる。
!?
877
!! !?
実は余裕あるだろお前。
!!?
の様に命のストックが出来るのだろうか。しかしどちらにしろ高い
生存能力があの後輩にはあるらしい。
なら先に言っておけ、と。絶対他にも隠してるだろ、と。
よくよく考えればサーヴァントとマスターという関係になったと
いうのに原作通りに聖杯戦争がある訳でも無いからあまり深く聞い
ていなかったが、あいつには隠し事が多すぎる。
確かに言えないこともあるのだろうし全てが全てを聞いていい訳
でも無いだろう。
だがそれでも、この現状を生み出してる力に着いて位は先に言って
おいてほしかった。
変な心配かけさせるんじゃねぇよバカ後輩
だから│││、
﹁だから、さっさとぶっ倒せバカ後輩
今先輩何か言った
◆◆◆
光に包まれるのが見えた。
﹂
そう俺が叫んだと同時、ドラゴンの後方で黒く炭化していた何かが
!!!
とはねぇ⋮⋮。
しかもブレスが中途半端に俺の耐性でレジストされたからか死に
切るまでにちょっと時間が掛かってしまった。
おかげで復活するまでが痛いのなんのって、頭がおかしくなりそう
だったよ。ならなかったのは死ぬのが初めてじゃなかったからかな。
いやこの考え方はどこかおかしいな。
まぁでも一回死んでちょっと冷静になった。
怒り心頭の状態で狂化しないように変に理性を働かせていたから
か、あまりに俺らしくない動きをしてしまった。戦闘中に自分らしく
878
!!!!!!!!!!
いやぁ、びっくらこいたよホント。あのタイミングでブレスが来る
?
ない動きをしてしかもやられたなんて佐々木のアサシン師匠に怒ら
れてしまう所だ。
俺の持ち味はスピードとパワー。
なのにウィップ系の武器は変に中距離武器で、しかも振るった軌道
を気にしないといけないからそれほど自分が動けないのを忘れてい
た。
だけどついつい固い鱗の上から叩き潰すという思考で頭がいっぱ
いになってしまいギガススピナーなんてものを出してしまった。
だがギガスの装甲破壊の効果は鉄球部分にしかない。当たればで
かいが、当たらなければそれほどの脅威ではなくなる武器だ。
確かにギガス自体は悪くはないが、状況に合ってない舐めプになっ
てしまっていた。
まったく、痛い勉強代になってしまったぜぃ。
けどまぁここからは油断せずに行こう。むしろさっさと終わらそ
う。
人型でなく遠慮する必要が無いと言うのなら、ただぶっぱすればい
いだけじゃないか。
﹁まぁそんなわけで、今度こそ終いにしようか﹂
決意を込めてそう口にする。
それが聞こえたのだろう。進んでいた足を止めこちらを振り向く
ドラゴン。
その瞳には驚愕、益々激しさを増す怒り、そして⋮⋮怯え。
まあ何とか殺したはずの奴がすぐに生き返ればそうなるわな。
でもごめん。
お前が皆を喰おうとするなら、躊躇っていられないんさ。
﹁来い、エリュシオーヌ⋮⋮﹂
ソー ド
右手にずしりとした重みが生まれる。
呼び出したのは、長剣系Sランク武器、☆15の究極を冠する剣。
紫紺の柄に黄金の峰、そこから淡く光るフォトンが刃を構成してい
る。
PSPo2i中の武器の中でもかなり高位に当たる武器だ。
879
それを、俺はただ上段に構えた。
﹁悪いけど、さよならだ﹂
もう一度、俺を殺そうと迫るドラゴン。
片目は潰れており、両翼は引きちぎられ、その紅い体は血でさらに
染まり見ていて痛々しいほどだ。これじゃあどちらが悪者かわから
ない。
けど、前の世界でも決めたことだ。
﹂
やる時はやらなければならないと。さもなければ失うのだと。
だから│││、
﹁消し飛べえええええええええっ
ドラゴンの牙が俺を噛み砕こうとする瞬間、軽く、振り下ろす。
それだけでこいつが持つ概念はどれだけ固い鱗だろうと容易く切
り裂く。
何故なら、この剣は惑星を切り裂くとされるから。
だから、擬音語にすればコツンと言ったところだろうか、その程度
の接触。しかしその接触が、ドラゴンを死へと追いやる。
当たった瞬間に辺りへと吹き荒ぶ風。それはその一撃の余波でし
かない。
その風によって周囲の大地は巻き上げられ、視界を遮る。 同時に鳴った轟音はあまりの大きさに耳が痛くなるほどだ。
そして暫くして、土煙が晴れる。
﹁やべぇこのスプラッタどうしよう⋮⋮﹂
先程までの昂ぶりなぞ吹き飛び、思わずそう零してしまう。
前を見れば辺りの大地は巻き上げられてるわ、血みどろなうえ肉片
が散らばってるわ、視界の限界のそのまた向こうまで大地が切り裂か
れてるわ、ちょんって当てただけなのにやばい概念を持つ武器の中で
880
!!!!
も特にやばいシリーズってこんなにやばいのか。ってやばいを言い
﹂
過ぎてゲシュタルト崩壊してきた⋮⋮。
﹁コウジュ
目の前の真っ赤な大地をどうするか考えていると、大急ぎで来たの
であろうHMVから転げ出るように走ってきた先輩が声を掛けてく
る。
その姿を見て、思わずホッとする。良く分からない安心感だが、先
輩ってそんな雰囲気出してるんだよ。
そんな先輩にビッと親指を立てる。
なにせ今回結構頑張った。
例え最初は衝動的に飛び出したのだとしても、やはり村人達がやら
れるのを見てられなかった。
確かに救えなかった命もあるけど、それでも救えた人達を誇りにし
たい。そう思う。
そうしなければ前の世界で〝正義の味方〟と共に学んだことが嘘
﹂
になってしまうから。
﹁このバカ後輩
﹂
!!?
レ
ジ
ス
ト
自動防御さんはどこ行った
地味に痛いから止めて
!?
﹂
優しい笑みを浮かべながらそう言う先輩に、俺は少し胸が痛くな
﹁まぁ分かればいいよ。ほんと生きててくれてよかった﹂
ものように帽子越しに俺の頭に手を置いた。
を見た先輩は溜息を一つした後、抓っていた指を話してポスンといつ
抓られている状態だと日本語にすらなっていないが、そう言った俺
だから、こちらも本気で謝る。
﹁しゅんましぇんっしゅ﹂
その表情から、本気で心配してくれていたのだと分かってしまう。
抓りながら俺の顔を真正面から見て言う先輩。
だろうが
﹁お前なぁ 無駄に心配かけさせるんじゃないっていつも言ってる
!?
しかし先輩は走り寄るなり俺のほっぺたを抓り引き延ばす。
﹁にゃ、にゃにすしゅりゅんしゅか
!
881
!!
!
!
る。
他愛のない日常を享受し、いざ戦いの中に戻っても適当にやってい
た結果がこれか。
銀 座 で 無 双 出 来 て い た か ら と ど こ か 調 子 に な っ て い た の だ ろ う。
だからドラゴンに一度殺されてしまった。そして先輩に心配を掛け
た。
これじゃぁ駄目だ。
前世界の様に事前情報がある訳ではないこの世界でこの調子では、
先輩を無事に日本へ返すという目標も達成できないかもしれない。
まずは、そう、やはり先輩に俺というものが何なのか言ってしまお
う。
ファンタジーな世界があったんだから、今更俺という存在を隠す必
要もないだろう。
ここまで見られたんだ。もう後は行動するだけだ。
882
しかし、だ。申し訳ない気持ちと共に、本気で心配してくれるとい
うことにどうも照れてしまう。
イリヤの時もそうだったが、そう思ってくれる人が居るというのが
この上ない程に嬉しい。 前回も今回も、俺は本当にマスターに恵ま
れているよ。
思わず笑みを浮かべてしまう。
それを見て、俺の頭に手を乗せたままだった先輩はそのままそっぽ
を向いた。
そろそろその子に関して教えて欲しいのですが⋮⋮﹂
あ、照れてる。
﹁あの、隊長
﹁あー、こいつはだな。なんて言えばいいんだろう⋮⋮﹂
その栗林さんがチラチラと俺の方を見ながら先輩へと問う。
良いだろう。
うより可愛い系なのだが、自衛隊として派遣されてるわけだし女性で
女性と言っても背が俺と20cm位しか違わないので綺麗系とい
でいた女性だ。
俺と先輩の方へと恐る恐る声を掛けてきたのは、先輩が栗林と呼ん
?
﹁おいこら﹂
先輩だけど思わずそう口にしてしまった。
﹁じゃあ逆に聞くけどお前どう自己紹介するよ﹂
﹁うぐ⋮⋮﹂
そう言われてしまうと弱い。
言わなければならないことが多すぎて何から言えばいいのか確か
に迷う。
卒業した大学が一緒で、俺は後輩で、サーヴァントで、先輩と契約
しちゃって、姿を隠すために狐に化けてて⋮⋮と、先輩が知る内容だ
けでも訳の分からない情報ばかりだ。
そこに別世界から来たことや実はもう40歳越えてること、チート
性能なこと等々、まだまだ俺についての情報はたくさんある。
いやま全部が全部いう訳じゃないけど、先輩と契約してることとか
は他の人にも言っておいた方が良い気がするのだ。
883
それに先ほどあとは行動するだけと決めた所だ。ここでまごつい
ていても前へは進まないだろう。
気づけば俺の周りには第三偵察隊の面々が揃っている。
全員、先輩が近くに居るからか銃口は下げているが手に持ったまま
こちらを見ている。
幸いにも敵意は無いようだ。かと言って友好的なものでもない。
的な物すら効かないドラゴンを一回やられたとはいえ一
うん、怪しいですもんね俺って。しかもチートスペック晒しちゃっ
たし。
機関銃
!
ふむ、ここはひとつ場を和ませようか。
﹁俺の名前はコウジュ。通りすがりのサーヴァントさ
先輩にはたかれた。
でも運転手の人は笑ってくれてるじゃないか
!!
﹂
狐の時は和やかな目で見てくれていた分なんだか視線が痛い。
しかしこの雰囲気の中で自己紹介するのやだなぁ⋮⋮。
だからまったく無警戒とはいかないでしょう。
太刀でぶった切ってそのうえで大地を悲惨なことにしてしまったの
?
◆◆◆
最初は夢だと思った。思ってた。
いつもの日常の後、いつものように就寝。明日もいつもの日常が来
るのだろうと何気なく信じていた。
明日は何をしようかな。またユノと川へ行こうかな。そんな他愛
も無いことを考えながらいつの間にか夢の中へと旅立っていた。
しかしそれもすぐに終わる。
覚醒仕立ての頭は現状理解が遅れるが、目覚めた目の前には難しい
顔をした父が居た。
その父は、何故か闘う為の装備全てを持った状態で静かに私に告げ
る。炎龍が来たと。
炎龍という言葉に寝ぼけていた頭が一気に覚める。
慌てて自らも弓を取るが、父は早く逃げるよと私の手を取った。
扉を出てすぐに身を襲うのは身を焦がすほどの熱気。
辺りを見渡さなくとも夜の闇を消し去るほどに住み慣れた森は燃
えていた。そして空を舞う龍が皆を襲っている。
中には闘う者も居るが鎧袖一触、炎龍は何事も無いように容易く命
を駆り取ってしまう。
父の手に引かれながら走っていると、私を呼ぶ声がした。
すぐさま振り向けば一番年が近いこともあってよく遊ぶユノがそ
こに居た。
だがそのすぐ後ろには炎龍。
私は持っていた弓を構えるも、それよりも早く、ユノは私の目の前
で炎龍に噛み砕かれてしまった。
そこで私の何かが折れた。
弓を引く手から力は抜け、近づく炎龍を見上げながら震えることし
かできなかった。
884
ああ、ここで終わるんだ。そう思った。
しかしそうはならなかった。
父が放った矢、それが炎龍の片目を貫いたのだ。
すかさず炎龍の口内をミスリルの剣で貫く父。
炎龍はよほど痛かったのか苦しみ悶え、その場で暴れ出した。
その隙に私は父に手を引かれ逃がされる。
そして私は、生きろと言う言葉と共に井戸へと落とされた。
落ちながら見えたのは笑顔の父。その後ろには炎龍が迫っている
そう叫ぼうとするも、水面にぶつかりそのまま沈んだ
のが見えた。
お父さん
私にはそれは出来なかった。
井戸の底には当然水がある。
湧き水だからかそれなりに冷たい水は私の身体を冷やしていく。
上を見上げる。
それなりに高い場所に在る井戸の口。離れているからか、小さなも
のだ。
そこから見上げれば時折見える飛ぶ炎龍や舞う炎、そして聞こえて
くるのは炎龍の咆哮、それから聞き覚えのある者の悲鳴。
それも段々と減っていく。
私はそれを聞くしかない。
そしてまた減っていく。
気づけば、雨が降っていた。声はもう聞こえなくなっていた
ああ、そう言えば山火事の後は雨が降ると父が言っていたな。
麻痺した思考が唐突にそんなことを思い出す。
〟そう笑顔をで声を掛けてくる父を幻視する。
そうだ。父だ。はやくここから出してくれないと風邪をひいてし
まう。
〝無事だったかい
その時だ。あの子が降ってきたのは。
始めた。
降ってくる雨の所為で身体が冷えに冷えてしまい、頭がぼおっとし
しかしその時はいつまで経っても来ない。
?
885
!
自らの身体を抱えながら、少しでも熱を逃がさないようにしている
とすぐ近くにボチャンと音を立てて何かが落ちてきた。
それは何かの動物だったようで、わたわたと水面を泳いでいたので
慌てて拾い上げた。
目が合う。
見たことの無い種だ。しかし愛玩動物の様に可愛らしい。それに
暖かい。
気づけば私はその子を抱きしめていた。
暫くして私たちは救出される。私と、降ってきたこの子と。
井戸から出されてすぐに私はその惨状を見て走り出してしまった。
見知った人の家も、よく遊んだ場所も、皆が集まるための集会所も、
全てが燃え、崩れ、灰となってしまっていた。
頭がどうにかなりそうだった。心は悲鳴を上げていた。
だから、ただ闇雲に走った。
言っても小さな村だ。それもすぐに終わる。
村の中を走りながらみんなの名前を叫んだ。でも返ってきた返事
は一つとしてない。
村の所々にあった黒いナニかの正体なぞ考えたくもない。
暫くして私は再び井戸の前に居た。
何をすればいいのか、何故私は生きているのか、もう何もかもが分
からなかった。
敬愛する父が死んだのだ。そればかりか友人も、皆も、村も、悉く
が炎龍にやられてしまった。全てを失った。
何も考えたくない。もうどうなっても良い。そんな事ばかりが頭
の中に浮かぶ。
でもそんな私をあの子は元気づけようとしてくれた。
最初は何をしているのかは分からなかった。
けどその小動物らしくない知性の宿った瞳で必死に何かをしてく
れようとしている姿に、次第に意識はあの子へと向かっていく。
終いには良く分からないダンスの様な物を始めた。何も考えたく
なかったが、その姿に思わず頬が緩んだ。
886
それから私たちは緑色の服を着た人達と共に避難することになっ
た。
炎龍からの被害を避けるため、コダ村の人達も一緒だ。
しかしその道中、また奴は来た。炎龍だ。
その姿を見て、私は全身の力が抜けた。あの村の惨状がフラッシュ
バックしてしまった。
ふと見れば腕の中に居たあの子も居ない。
また居なくなった。また失うんだ。
思わず悲鳴を上げそうになる。
ラァ
スィ
しかし、暫く経っても一向に炎龍の攻撃は来ない。何故
気になった私は、驚くほどに透き通ったガラス窓から炎龍の方を見
た。するとあの子が闘っていた。
あの子は周囲から黒い泥の様でもあり影の様でもある物を生み出
し、それを形を変えたりしながら炎龍と戦っていた。
目が離せなかった。
あの炎龍を、友達や皆を蹂躙し噛み砕いた憎き牙も爪も、うまく往
なしながら果敢に闘っていた。
その姿を見て、心に灯がともった気がした。
暫くあの子は戦っていた。それを私はずっと見ていた。
弓を扱う私は比較的遠くの標的を見ることに慣れている。それで
も時折その姿を失ってしまうが必死に闘ってくれているのが分かっ
た。
産みだされる武器は炎龍に傷一つ付けてはいない。それでも炎龍
を翻弄しながら注意を引き続けてくれている。
その小さな体には過ぎた重荷だろう。でもあの子は全然諦める様
子も見せず頑張ってくれている。
しかし状況が変わったのか、私が乗っている馬も無く走る馬車とで
も良いのか、乗り物が動き出す。
馬ほどの速度を出しながらも素早い小回りをするこれに、周りのも
のにしがみ付くことで何とか耐えるがそれで精一杯。周囲を見る余
裕は無くなる。
887
?
だから私は聞くことで何とか状況を確認しようとする。
聞こえてくるのは轟音。それも一つや二つではない。
パパパと破裂するような音がこの乗り物からも外からも、それより
大きな連続する破裂音の様な物も聞こえてくる。
急な動きにも慣れてきたため、周りのものを掴みながらなんとか確
認すれば緑色の服の人達が今度は戦っているようだった。
彼らが持つ長いものから先ほどの轟音は生まれているようで、その
先端から何かが飛び出すと同時に音は鳴っている。
耳が痛いほどの音。
それが続いたと思えば、最後には今までのものが可愛らしく思える
ほどの爆音。そして炎龍の居た場所が吹き飛んだ。
やったの
そう思ったが中からのそりと炎龍が出てくる。
どうやら先程のものは地面に当たってしまったようで、炎龍の足元
が大きく抉れている。
あれが当たっていればひょっとして⋮⋮、しかしそんなifを考え
ている場合では無い。炎龍は今までよりも怒りを露わにした状態で
こちらを見ていた。
しかしそれもすぐ終わる。
先程とは違う、地を揺らすほどの爆音と共に炎龍が悲鳴のような咆
哮を上げた。
見れば炎龍の近くに棘付の鉄球が落ちていた。丁度その上にある
炎龍の翼が血を流し抉れている。
私は目を疑った。あの炎龍がその体から血を流しているのだ。
龍種の中でも古龍は天災のレベルでどうしようもない存在だ。そ
の炎龍が血を流し、その強固な筈の身体が抉れている。
一体どうして⋮⋮。そう思い、それを成した鉄球の先を辿れば幼い
少女が居た。可愛らしい、まだまだ親元で蝶よ花よと育てられても良
い年ごろに見える。
しかしその表情には憤怒が見て取れた。肉食獣を思わせる、獰猛な
表情。
888
?
見た目と年齢の違いで言えば、エムロイの神官様も似たようなもの
だし私もエルフだから見た目と年齢の違いはある。あの子もその類
いなのであろうか。
そこでふと気づく。その幼い少女の髪色に何故か見覚えがあるの
だ。
ふと頭をよぎった想像を即座にかき消す。
確かに先程まであの場所にあの子は居た。でもあの少女がそうな
わけがない。
しかしよく見れば、少女の耳元にはあの子を思わせる獣の様な耳が
ある。
いやまさか。そう思っている間にも少女は鉄球を巧みに使い炎龍
と戦い始めた。そして片翼を落とし、少ししてもう片方の翼も抉り落
とす。
私は奇跡の瞬間を目の当たりにしているのかもしれないと思った。
889
だが、次の瞬間にはその少女も炎龍の餌食となってしまう。
そして今度こそ、炎龍は私たちに向かってきた。
父が貫いた片目は無い、両翼も無くしている。でも、それでも私た
ちにあれが倒せるとは思えなかった。
やはり人類は炎龍にはかなわないのか、そう諦めた時、前に座って
いた男の人が何かを叫ぶ。
すると炎龍の後ろ、少女が燃えたあたりでまばゆい光が産まれる。
すぐに光は溶けるように消えた。そしてその中からは先程の少女
が出てきた。
死んではなかった
見れば少女の正面一帯は真っ赤に染まり、地面には巨大な亀裂、炎
そして土煙は晴れ、辺りが見渡せるようになった。 なる爆音。辺りは土煙に包まれる。
しかしそれよりも一足早く振り下ろされる剣。そして何度目かに
それを見ていた炎龍が再び少女を喰らおうと迫る。
た。そしてそれを頭上に構える。
そうホッとするのも束の間、少女は神々しい剣を虚空から産みだし
?
﹂
龍は木端微塵になっていた。
﹁ふえ⋮⋮
変な声が出た。
890
?
﹂
﹃stage10:この世全ての食材に感謝して⋮⋮﹄
﹁結局その子は何者なんですか
﹁それは俺が聞きたいんだけどな﹂
栗林ちゃんの問いに投げやりに答える。
後輩の方を見れば未だに頭を抑えながら蹲っている状況だ。
そんな後輩を見て、無言の圧力を俺に放ってくる黒川。
お前さんそんなキャラじゃなかったろ、とツッコミたいがそんな空
気ではないのでとりあえず自重。
改めて周りを見ればひどい状況だ。
少し離れた場所では元火龍がスプラッタ状態で地面を赤く染めて
いる。そこから少し離れれば俺達が居る訳だが、そのスプラッタを起
こした犯人である後輩を囲んで俺達自衛隊が居て、若干の距離を置い
てコダの村人達。村人たちの中には狂喜乱舞している人も居るが、知
﹂
りあいを失った人も居て悲しんでいる。いや、仇を討ってくれたとか
居るならこれ使って
で泣きながら神に祈ってるっぽい人も居る。
怪我人、怪我人さんは居ないかな
!
何このカオス。
﹁あ
!
ドを数枚取り出した。それを俺達へとそれぞれ渡す後輩。
渡されたカードを見るとモノメイトという文字と共に緑色の液体
が入ったボトルの様な物が描かれている。
﹂
これと怪我人にどういう関係が
﹁何ですかこれ。モノメイト
﹁あ﹂
?
結構焦っている後輩にどうしたと声を掛けようとするがそれより
その様子を見て声を上げる後輩。
そして文字を読んだ。
俺 の す ぐ 横 に 居 た 倉 田 が 興 味 津 々 と い っ た 様 子 で カ ー ド を 見 る。
?
891
?
蹲っていた後輩が突然立ち上がり、言いながら何も無い所からカー
!
も早く倉田が持つカードたちが光り出す。
そしてそれらは描かれていたボトルと寸分違わず同じものに姿を
変え、片手で軽く持っていた倉田は突然膨らんだ質量に対応できずボ
トルは地面に落とした。
ガシャン、そんな音を立てながらそれぞれが地面に転がると若干後
﹂
輩が涙目になる。
﹁痛いっす
気づけば栗林ちゃんが倉田を小突いていた。よくやった、お前さん
がやらなかったら俺がやってた。
とりあえず俺は落ちたものを拾い上げ、ボトルを改めて見る。
﹁カードの中に入れてあったんだけど、まぁ出ちゃったから丁度いい
か。それを怪我人さんに飲ませてあげて欲しいんだ。俺は俺で回復
手伝うからさ。まだカードの人は書いてあるモノメイトってのを読
むと出てくるはずだから。そういう風に設定してあるし。あ、あとは
一枚で足りない人は治るまで何枚か使ってほしいです。カード足り
なかったら俺の所に取りに来てください﹂
未だにまだ少しションボリ気味だった後輩は、気を取り直して全員
を見ながらそう言う。
色々と説明が抜けている気がするが、どうやら後輩は怪我人を治し
たいらしい。
事態を収拾する為に俺達は最初に後輩の所に来たが、確かに怪我人
は数多くいる。
一旦近くに居る村人に怪我人をそれぞれ応急処置してもらうよう
に頼んではある筈だが、後輩の良く分からない能力の中でこれが回復
薬に相当するものなら助かる。
俺たちの世界には当然魔法なんてものは存在しないし、怪我を治療
すると言っても結局は人間そのものに宿っている治癒力を当てにし
なければならないことがほとんどだ。
周りを見れば隊員たちがこちらを見ている。指示待ちのようだ。
俺は一つ頷く。
見るなり、それぞれが重症度の高い怪我人から順に手当を開始し
892
!?
た。キャラクターは濃い人間が多いが優秀な部下たちだ。
ボトルの空け方は見慣れない形状に反して分かりやすく、どうやら
忘
緊急時にすぐ飲めるような形状になっているようで、隊員たちはそれ
を素早く飲ませていく。
﹂
逃げる気は無いし最優先だからいっただけだし
って、現実逃避してる場合じゃなかったな。
!
﹁後輩、良く分からんがちゃんと説明はしてもらうからな﹂
﹁違うから
治った
儂の足が治った
れてくれればいいなと思わなくもないけど⋮⋮﹂
おおおお
やっぱりじゃないか。
・
・
・
﹁おお
!
葱を振ると人って治るんだね。すごいね。
!!!
た先がある人は近くに置いておくと何故か元に戻った。
何この薬。怖いんだけど。
いやそもそもこれは薬という分類で良いのだろうか
少なくと
さすがに四肢の欠損までは治らないようだが、それでもその千切れ
えない速さで怪我人が治っていく。
輩が葱を振ってその周りに緑色の粒子みたいなものが溢れたらあり
後輩が俺達に渡したモノメイトというもの、それもそうなのだが後
!!!
!
嬉しそうにしたり泣きそうになったりと相も変わらず感情が上下
念だったけど﹂
﹁先輩、これで怪我人は全員治ったと思うよ。即死だった人は⋮⋮、残
ほんと何なのこの薬。その魔法チックな粒子も気になるけど⋮。
も元気になったと言う人も居るくらいだし。
か色んな物にケンカ売ってる気がするし。何人かは負傷する前より
も現代科学における薬とは確実に別格のものだ。質量保存の法則と
?
893
!
するやつだ。
﹁それは仕方ないさ、割り切るしかない。ま、お前が居たことでかなり
の人が救われたんだ。それを誇ればいいさ﹂
﹁うわっぷっ﹂
少し乱暴に、丁度いいところにある後輩の頭をわしわしと撫でる。
実際、こいつが居なければ被害はもっと広がっていただろう。
銃では全く効かず、パンツァーファウストも直撃しなかったとはい
え効果範囲に居てダメージを受けた気配は無かった。後輩の攻撃が
その直後にあったから少しはあったのかもしれないが、見る限りにダ
メージは無かったのでまぁ直撃でもしなければ意味は無いのだろう。
そして戦闘開始後の負傷者は居ないが、遭遇時に被害を受けた村人
達の中でもすぐに緊急手術が必要そうな村人も後輩のおかげで助
かっている。
最初の内に殺されてしまった人が数人居るが、村人全体から考えれ
894
ばあんな化け物に襲われた割には被害が軽微だ。
死者を数字として捉えることは心情的にはしたくないが、そう認識
し、そのままを記録し、報告しなければならないのもまた俺達の仕事
である。とはいえその数字上でしかないものであっても少ないのは
この上なく嬉しいものだ。
﹁不甲斐無い話だが、俺たちの装備じゃもっと被害が出ていた。あり
がとうな﹂
﹂
﹁いや、あれですよ、俺がやりたいからやっただけで、その、あれです。
別にあんたのためにやったわけじゃないんだからね
﹁何でお前が首傾げてるんだよ﹂
というか何故ツンデレ。
それもそうか。彼らからすれば村を捨ててでも逃げなければなら
いった様子だ。
る。後輩がどういう存在かよりも生きていることが何よりも大事と
コダ村の人達は互いに抱きしめあったりしながら無事を喜んでい
戻ってきている。
まぁそれはさておき、そんなやり取りを後輩としている間に全員が
?
ないほどの存在なのだから。
ということは後輩の事を伝えるのは第3偵察隊の面々だけで良い
︶、それから例のゴスロリ美少女が混ざっている。
かな⋮⋮って、何故かしれっとそこにエルフちゃんと杖を持った少女
︵魔法少女
何をするのか不思議に思って混ざっているのだろうか
うーん、どうせ言葉は伝わらないだろうし、この微妙な状況で無理
矢理遠ざけるのも不思議がられるか。
﹁さて、一段落したところで改めてこいつを紹介しようか﹂
俺の横に立つ後輩をチラッと見た後に全員を見ていくと、大体がこ
の不思議な存在を困惑した目で見ている。ゴスロリ少女だけが興味
深そうに微笑みながら見ているといった調子だ。
俺もこの後輩がそこまでの戦力を持っているとは知らなかったか
ら正直に言うと内心では混乱している。
だって見た目は確かにファンタジーな容姿だけど、幼い少女だよ
ば、この後輩が持つ剣も後輩が持つ必 殺の宝具だと納得もできる。
とっておき
ルとかがある訳だから不思議ではないのかもしれない。そう考えれ
聖剣だとか、対界宝具だとか言って世界を壊すほどの威力があるドリ
ただまぁよくよく考えれば対城宝具だとか言って諸々吹き飛ばす
一機でここまでの被害を出せるなら今頃地球は終わってるよ。
がる惨状を見ると確実に戦闘機一機分とかでは決してない。戦闘機
は大体戦闘機一機分という予想はしていた。していたが、目の前に広
俺が知るFate原作基準で考えていたから、サーヴァントの強さ
見ていたということだろう。
確かに後輩がサーヴァントだってことを知ってはいるが、まぁ甘く
想できると言うのか。しかも一回死んだと思ったのに生きてるし。
そんな後輩が一撃でドラゴンを粉微塵にする力を持つとか誰が予
並べばどこの二次元から出てきたと言いたくなる。
いやもう幼女と言っても過言ではないレベルだ。ゴスロリ少女と
?
いや、これ以上は後で本人に直接聞いた方が良いだろう。思い込み
が一番危険だ。
とりあえずは、目の前の隊員たちへの説明だ。
895
?
?
﹁この中に、Fate/stay nightって知ってる人居る
﹁引っ掻き傷⋮⋮みたいな刺青
﹂
﹁とりあえず、これを見てくれ﹂
分かるんだがな。
﹂
ら問題ないとだけは伝えるか。性格を知っていれば人畜無害なのは
一先ず契約をしていて、俺が主側だから何かあっても制御できるか
どうしたものか。
従契約をこの幼女と結んだなんてのをそのまま信じられても困るが、
しかしそうなると説明の仕方が難しい。Fateと同じような主
まぁそんな気はしていた。
だ。
俺の問いに首を傾げる面々。唯一、すかさず手を上げたのが倉田
?
本の令呪分だけ俺は命令権が合って、こいつが何かしたとしても俺が
﹁これは令呪といって、この子との契約の証みたいなものだ。この3
?
﹂
今の話からどうしてそう繋がるのか。
しかしそう思ったのは黒川だけではなかったようで、栗林が引き継
ぐように話し始めた。
﹁いやだってこんな幼い子に対して命令権って⋮⋮しかも3回も。そ
﹂
﹂
﹂
もそもの話が胡散臭いですが、それにしても設定を付けるならもう少
しましなものをですね﹂
﹁言っとくけどこいつはもう30代だ
﹂
﹁女の子の年齢を暴露するなんて最低です
﹁そこ
!
!
ってか俺より年上
!
﹁実際は40歳越えてるけどね﹂
﹁お前はお前で爆弾投下すんな
かってるよこんちくしょう
!
!
896
制御できるから安全だ﹂
﹁ロリコン⋮⋮
﹂
!?
ボソリと爆弾を投下した黒川に間髪入れずに抗議する。
﹁どうしてそうなる
?
あ あ も う ど う し て こ う な る ん だ よ 胡 散 臭 い の は 俺 が 一 番 分
!?
!?
そう心の中で嘆くも話を続けないといつまでも立往生だ。
しかし、そんな俺へと救いの手が差し伸べられる。
﹁まぁまぁ先輩、ここは俺から話すよ﹂
もの凄く不安だが、俺も知らないことがあるからその方が良いのだ
ろうか。
﹁まずは初めまして。俺の名前はコウジュスフィール=フォン=アイ
﹂
ンツベルンってことになってるけど、まぁコウジュって呼んで下さい
な﹂
﹁アインツベルン
俺は元々この世界でも無く、勿論門の向こう
倉田が反応したので後ろからすかさず羽交い絞めにする。
﹁えーっと、続けるよ
﹂
?
﹂
!
﹁ケモ耳
﹂
﹁俺は厳密に言えば純粋な人間じゃないんだよ。ほらケモ耳もある﹂
そんな栗林を見て満足したのか再び元の姿に戻った後輩。
普通驚くよな。俺も最初はかなり驚いたものだ。
その姿を見て驚く栗林。
﹁あ、いつも隊長と一緒に居た子
言いながら後輩はあの黒い泥を身に纏って子狐の姿になる。
﹁そうなるっすね。例えばほら﹂
﹁それは特地とは違う異世界ってこと
にある地球ではない所から迷い込んだ存在なんだ﹂
?
﹁俺の種族は故郷ではビーストって言われる種族なんだ。過酷な各惑
星の環境に適応するために遺伝子情報を操作して肉体性能を向上さ
せた種族、それがビースト﹂
何かサラッと重い事実が⋮⋮。
﹁俺は前に居た世界でとある戦争を何とか生き抜いて、役目が終わっ
た俺はなんでかこの世界に流れ着いた。だけどこの世界で何をすれ
ばいいのか分からなかった。そんな俺に目的をくれたのが先輩なん
だ。
知り合ったのはネットなんだけど、そこで大学を紹介してくれた
897
!?
倉田が反応したのですかさず落としておく。
?!
り、色々教えてもらったり、平凡な日常ってやつを一緒に楽しんだ。
だから俺は先輩って呼んでるんだ。
けど、あの銀座事件で全てが変わってしまった。
あの日も俺と先輩は祭りに一緒に行こうとしてたんだけど、待ち合
わせしてたその近くで門が開いた。そこで契約を先輩と結んだんだ。
まぁ結果的に念話とか出来るようになったから良かったんだけどね。
コウジュ
それで、あとはがむしゃらに門の向こうから出てきた奴らを倒した
り、先輩が心配だからこっちの世界に付いて来たって感じ﹂
﹃一応嘘は言ってないよ﹄
チラリと俺の方を見て、補足するように念話を送ってくる後輩。
色々と抜けている気がするが︵あえてだろうけど︶、今の話だけでも
気になるワードが出てきたな。
例えば各惑星の環境ってとこだけど、つまり聖杯戦争に参加する前
の元々の世界が宇宙進出したかなり文明の進んだ世界ってことだろ
898
うか。そういえば先ほど渡されたドリンクもちょっと近未来チック
なものだったし。
あとは役目。役目って何だろうか。誰かの指示で後輩は動いてい
るってことか
優しい目をしながら後輩を見ていた。
?
何この状況。
ひょっとして後輩はこうなることが分かっていて今の説明を
何て恐ろしい奴だ。
そう思い後輩の方を見てみる。
しかし何故か後輩の方がキョトンとしていた。
思惑と違ったのかよ。
﹃何で俺は優しい目で見られてるの先輩﹄
実際に念話まで送られてきた。
なんか黒川が涙ぐみながら後輩を見ていた。というか他の面々も
﹁そうなの、そんな過去があったのね⋮⋮﹂
とりあえず後輩の話を噛み砕けた俺は他の面々へと目を向ける。
うーむ、判断が付かない。この辺りも改めて後で聞くか。
?
しかし今の穴だらけの説明で何故こんなことに
何せ一番肝心
な後輩の戦力に対する言及がない。話の内容的には精々が後輩の背
景でしかない。
いや待てよ。
遺伝子操作されて産まれた種族で、この幼い形で戦争にも参加させ
られたけど何とか生き残った。しかしそれだけでは終わらず次の戦
争に放り込まれそうだったが何らかの事情で地球に到達。そして俺
と出会い、知ることの無かった日常に溶け込んでいた⋮⋮なんて風に
取れなくもないか。
実際には俺が出会った時点で良いマンションでジャージ生活して
るようなやつだったわけだが、でもそれほど間違ってないという話
だったし、実際に聖杯戦争にも参加していたとも言っていたから結構
な苦労を後輩はしてきたのだろうか。苦労なんて言葉で片付けて良
いかは別として。
﹃何で先輩まで優しい目で見てんだよおい﹄
っと、しまった。気づけば俺も後輩を優しい目で見ていたらしい。
うーん、やはりこれも後で詳しいことは本人に聞こう。
﹂
﹁あの、隊長さっき言ってたいくつかのワードから考え付いたんです
けど、その子が参加してた戦争って⋮⋮聖杯戦争
気づけば復活していた倉田がご丁寧にも手を上げながら質問して
くる。
ああで
異世界とケモ
ってことはこの子は英雄
﹁えっと、何で今までの話を信じられるんだ
﹁あー⋮、それもそうか﹂
﹂
﹁そんなのあの力を見たら信じざるを得ないじゃないですか﹂
?
899
?
?
しまった。折角みんなが納得してくれそうだったのにここで二次
元の話を混ぜっ返されたら意味が無い。
すげぇ
﹂
!?
﹁いや、あのな倉田。それは│││﹂
﹁マジなんですね
耳は本当にあったんだ
も確かに英雄ならあの力も不思議じゃないっすね
!!
まだすべてを言ってないのに何故か一人納得してしまった倉田。
!!
!
!?
実際に今も異世界に居る訳だし、エルフだってドラゴンだって居
た。そんな中で後輩みたいなのが居てもおかしくは無い⋮⋮のか
らな。
﹁あの、聖杯戦争って何ですか
今度は栗林が質問してきた。
それに英雄
﹂
まぁでも信じてくれるならそれで良いか。実際にそうなわけだか
?
いつは普通の生活をしてたんだ。だから、一先ずはこいつを現地協力
こいつの力は見てもらった通りにこちらの世界でも異常だ。けどこ
﹁まぁそんなわけで、俺はこいつの存在を隠しておきたかったんだ。
ここで立ち往生しているわけにもいかない。
仕方ない。とりあえずここらで話を切ってしまおう。いつまでも
苦笑する後輩。
ものを見る目を向ける。ぶっちゃけ逆効果だったようだ。
すると今度は隊員たちの目が無理に虚勢を張る後輩へと痛々しい
をしながら笑みを浮かべ大丈夫だとアピールする。
気付いたらしい後輩は場を温めるためにか力こぶを作る様なポーズ
そんな面々を見てやっと自分がどういう風に見られているのかに
てるので大丈夫ですって﹂
﹁まぁあれですよ。聖杯戦争自体には負けましたが、こうやって生き
しかし今度は悲しげな表情で後輩を見る面々。
栗林の質問に後輩自らが答えた。
﹁それが、さっき言っていた戦争⋮⋮﹂
が俺だったってことですね﹂
雄を従者として呼び出した存在のことを言うんです。その内の一人
してそのサーヴァントというのが過去現在未来において活躍した英
のことっす。7人のマスターと、それに従う7人のサーヴァント。そ
﹁聖杯戦争ってのは万能の願望器〝聖杯〟を掛けて殺し合うせんそう
?
者ってことにしてほしい。場合によっては俺から上に掛け合ってみ
る﹂
﹁先輩⋮⋮﹂
俺は言いながら頭を下げる。
900
?
勝手を言っているのは承知している。これだけのことをやってし
まったのだからその内上層部にもバレてしまうだろう。だが、少しの
間だけでも後輩を逃亡生活から遠ざけてやりたいのだ。
こいつはあの銀座もいま戦ったのも周囲の人間を助ける為だった
のだ。なのになんで救った張本人が追われなければならないのだ。
後輩自身はそれらを振り切るほどの力を有しているのかもしれな
い。
でも、そうじゃないはずだ。
賞賛しろとまでは言わない。でも、平穏な生活を送らせてやるくら
いの事はしてやりたい。
何とか出来ればいいのだが、俺の地位は中間管理職も良い所だ。実
質的には何の力も無い。
何か手は無いものか⋮⋮。
﹂
最悪の場合はこちらの世界に紛れ込むというのも考えないといけ
﹂
活をする一般市民であるとのこと。守ることはあれ非難する理由な
ぞありますまい。それに隊長曰く国民に愛される自衛隊だそうです
からね。こんな⋮まぁ見た目だけらしいですが可愛い子に我々が何
かしたとなると全国民が敵にまわってしまいます﹂
そう良い笑顔で言うおやっさん。
﹁おやっさんさん⋮⋮﹂
そんなおやっさんを涙を流しながら笑みを浮かべて見る後輩。感
動のあまり変な日本語になっているが、まぁ仕方ないだろう。
何はともあれ、受け入れられてよかった。
﹁それじゃあ皆撤収作業に入ろうか。いい加減コダ村の人達を送って
901
ないかもしれないな。
﹁了解しました隊長殿
﹁良いのか
見れば周りの面々も敬礼をしながら微笑んでいる。
はおやっさんだった。
考え込んでしまった俺に威勢の良い声で敬礼と共にそう言ったの
!
﹁我々の任務は民間人を守ることであります。聞けば彼女は普通に生
?
﹂﹂﹂﹂﹂
やんないとな﹂
﹁﹁﹁﹁﹁了解
そうして隊員たちがそれぞれ撤収作業に入った。
俺は俺で、エルフ少女たちを車へと押し込んでいく。
一先ず乗せ終わったので次は何をするかと辺りを確認していると、
後輩が近寄ってきた。
﹂
﹁あ、先輩。ちょっと待って﹂
﹁どうした
﹁これ、どうしよう﹂
後輩が言いながら目を向けた方へと俺も目を向ける。そこには紅
く染まった上に地割れでも起こったかのようにめくれ上がった大地。
﹂
出来るならその方が良いだろうな。変な感染症でも
﹁一応このスプラッタだけでもどうにかした方が良いよね
﹁出来るのか
?
ばっていた血肉が無くなっていた。
だが驚くことに、その覆っていた部分から影が除けられると散ら
なっていく。
広がっていた影が、今度は徐々に後輩へと戻っていくように小さく
﹁回収、回収、包み込むように⋮⋮﹂
様なものはついに紅くなっていた部分の全てを覆い尽くした。
そしてそうこうする内にゆっくりとだが広がっていっていた影の
し色々と便利なものだな。
つかな。強度的に足りないようだが剣の形にしたりとかもしていた
これって変身する時に使ってたりドラゴンと戦う時に使ってたや
い大地を覆っていく。
ボソリボソリと呟くと同時、後輩の影がどんどんと広がりながら紅
﹁薄く、薄く、広げて⋮⋮﹂
そして徐に大地へと手を付ける。
言うなり、紅く染まった大地へと近づいていく後輩。
﹁了解っす。ちょっとやってみる﹂
発生してしまうと事だし﹂
?
どんどんと狭まっていく影の範囲。勿論その通り過ぎた下にも紅
902
!!
?
い大地は残されていない。
気づけば影は後輩の元まですべて戻ってきていた。
﹁そんなこともできるのか﹂
﹁いやぁ、これは初挑戦だったりします。やればなんとかなるもんで
すね﹂
﹁出来てたまるか﹂
﹁まぁ冗談はさておき、実はまだ集めただけなのでどうにかしないと﹂
後輩は地に付けていた手を離し、そのまま立ち上がった。
﹂
その手には先程の黒い影が凝縮したような丸い球体。
﹁ひょっとしてそれの中にさっきのやつが
﹂
﹁そうっすね。後はこれを飲み込むだけ﹂
﹁飲み込むって⋮⋮、食うのか
﹂
いつから俺はそんな何でも食べるような食いしん坊キャ
?
ど、後輩のそれって圧縮した後に取り込みそうな勢いだな﹂
﹁なんというか、影のゲートのイメージって影に沈んでいくものだけ
だが││、
俺もそれなりに2次元の世界に触れてきたからこそだとは思うの
フィクション
しかし、そこでふと思う。
制限があるよりは大きな物も入れられる方が便利だろう。
確かに、アイテムボックスの話は聞いていたが手に持てる物という
﹁なるほどな﹂
と手に持てる物しか入れられませんから﹂
アイテムボックスに放り込めたら便利だと思ったんですよ。現状だ
を使って影のゲート的なこと出来ないかなぁって。そしてそのまま
﹁これはちょっとした思い付きの実験でもあるんですけどね。この泥
目を反らしながら言う後輩。
﹁あー、いやまぁ確かに食いますけど⋮⋮﹂
﹁いやだって実際によく食うし﹂
ラになったんですか
﹁違うよ
?
﹁何言ってんすか。というか変な想像させないで下さいよ。これでも
集中してるんですから│││﹂
903
!!
?!
│││ケプ。
どこからともなく、というか、割と近くから可愛いゲップの様な物
が聞こえた。というか後輩からだった。
﹂
﹁え
﹂
﹁え
904
?
ほんとに食べたの⋮
?
?
﹃stage11:夜戦
︵ガタ﹄
さてさて、戻って参りましたアルヌスへ
何とか説明を終え、第三偵察隊のメンバーにも居ることを認められ
た︵やたらと暖かい眼で見られるが︶俺は再び狐モードとなってアル
ヌスにある前線基地へと戻ってきた。
いやー、先輩が思わず変なことを言うから想像をしちゃった所為で
本当にそうしてしまった。
それにしてもあの泥ってあんな風にも使えるんだねぇ。まぁよく
よく考えればアレも俺の一部みたいなものだもんな。
ゲー ト
泥
アイテムボックスって手で持てる物しか中に入れられないから、ネ
ギまのエヴァにゃんをイメージした影魔法の転移みたいに影から直
接アイテムボックスに入れるか、最悪それが無理だったとしても寄せ
集めて掌サイズにしたものをほおり込もうと思ったんだけどね。ま
さかアイテムボックス通り越して胃の中に⋮というか消化すら通り
越して養分になるとは思わなかった。
とりあえずお腹を壊したりはしなかったけど、どうせ食べるならド
ラゴンステーキとか食べてみたかった。
さておき、その所為で嫌なことに気付いてしまったんだよね。俺は
今までラーニング能力が何処から来ているのかとずっと悩んでいた
わけだがそれの答え、それこそがその〝嫌なこと〟だ。
以前に俺は、ラーニングというチートを貰っている筈なのにその表
記がステータスに無いことを不思議に思った。消去法で﹃獣の本能﹄
が関係するのかななんて思っていたが、所詮は推測だった。
けどそれが正解だったんだ。
俺がラーニングだと思っていたものの正体は﹃獣の本能﹄の中でも
〝幻想を現実に〟の方になぞらえて言うなら﹃喰らう程度の能力﹄と
でも言うべき部分。攻撃を喰らうのもそうだが、そのものを喰べるこ
とでもその効果を発揮するものだった。厄介なのはむしろ後者こそ
905
!
!?
がその本質なところ。まぁ喰らう︵意味深 とかじゃないっぽいのが
唯一の救いか。当然ながら実行して確かめたって訳じゃないけど、無
い⋮筈。
俺 は こ の 能 力 を 貰 っ た 時 に ラ ー ニ ン グ と い う 所 か ら 一 度 技 を 喰
らったり実際に見ることでその技に対する理解を深める必要がある
と考えていた。だからそっちの方向でばかり使用していた。
だけど今回炎龍を偶然にも食べたことでその本質が自然と理解で
きてしまった。
冷静に考えれば確かに獣の本質は喰らうことでそれを自身の血肉
としながら生きていくもの。知能の高い獣なら経験によって学ぶこ
とも可能。どうりでアーチャーからラーニングした投影を自分なり
に解釈しようとしたときに食べ物系に偏ってしまった訳だ。つまり
俺の腹ぺこはこの能力から来てたわけだな。
しかもこれにはかなりエグイ部分があって、技を喰らった場合はそ
の技だけをスキルの様に得ることが出来るが実際に食べてしまった
場合はそいつの本質を血肉にしてしまうみたいなんだ。因子を得る
とでも言うべきなのかな。
そう、因子だ。いつだったか、あればいいなと言っていたあの因子
だ。
つ ま り、な ん だ ⋮⋮、俺 は 獣 化 だ け じ ゃ な く て 龍 化 で き る よ う に
なっちまったんだよ。なんかね、炎を吐けるようにもなったし、ちゃ
んと翼で飛ぶこともできるようになったんだ。
しかも今までの様に技だけをコピーした訳じゃなくその本質を得
た訳だから、その技をなぞるだけではなくて、最初から応用が可能な
んだよなぁ。
例えばヒトの姿のまま龍翼を出して飛んだり、炎を吐いたり。腕だ
け龍にするとかも余裕でした。10年どころではない今までの練習
とは一体⋮⋮なんてレベルである。
まぁ人状態のままで炎を吐く姿はかなりシュールなんですけどね。
あ、でも﹃恋するドラゴン﹄ごっこは出来るようになったのでちょっ
と嬉しかったです。あと、ライダー戦で使ったホワイティルウィング
906
もちゃんと使ってあげられるよ。姿勢制御に使える程度の飾りでし
かなかったしね。
でも、なんだかドンドン人から離れていくのは気のせいだろうか
正直これって完全にラスボスとかとして倒されるべき存在に成っ
て行ってるんじゃないだろうかと思う今日この頃 ただ、悪いことばかりでもないのは確かなのだ。
特に〝炎を吐く〟ということと〝翼で飛ぶ〟という部分を理解で
ドラゴン
きたのが大きかったかな。
炎龍⋮⋮というか竜と言えば空を飛び、炎を吐き、その爪牙であら
ゆるものを屠るというイメージだと思う。でも実際には炎龍に関し
ては実際に炎を吐いたり空を飛んだりという器質的な機能を持って
いる訳では無かったみたいなんだ。
食べたことで理解したんだが、どうやらこれは一種の魔法らしい。
例えばブレスだが、炎龍は身体の中に炎を吐くための器官が無い。
しかし実際には炎をその口から掃き出しその火力で以てして焼き尽
くすことが出来る。
それは〝炎を吐こうとする〟ことで〝炎が口から出る〟という現
象を導き出しているからみたいなのだ。
翼に関してもそう。
あれは翼によって浮力を得るのではなくて、〝翼を羽ばたかせる〟
ことで〝空を飛ぶ〟という結果を持ってきているようなのだ。
理屈はわからない。
いや、何やらここにあってここではない何かから結果を抽出してこ
の世界に導き出しているというのは分かるんだが、感覚でしかないの
だ。炎龍自身も本能的に理解しているだけだったみたいだし。だか
ら口にして説明しろと言われても難しかったりする。
なんというか、法則とかは分かるけどそれを構成する数字そのもの
の意味とかはわからない・・・みたいな。あ、重力があるから物が落
ちるのは分かるしどうすれば物が落ちるという現象を起こせるかは
907
?
分かるけどその法則を表す数式がなぜそう出てくるかはわからな
い・・・みたいな
!
うん、結局俺の頭じゃ理解しきれていないだけなんだろうけどね。
けど現代日本人だってテレビの構造を知っている訳でも無いけど
テレビを見る方法は知っている訳だし、中身が日本人な俺としては別
に構わないかなと無理矢理納得することにした。
他にも出来そうなことが増えてそうだし、暇を見てまた修行かな
⋮⋮。
話が変わるがコダ村の人々についてだ。実は、大半の人があの後そ
のまま村へと戻っていったんだよね。
まぁ炎龍の脅威が去ったことを目で見て知っているのだからそれ
も無理はないか。かなりの上機嫌で戻っていきましたよ。何故か拝
まれたが。
ただ、残りの村人に関しては俺達と共にアルヌスまで戻ってきてい
る。
というのも、その残った人たちというのは身寄りの無い子供や老
人、比較的若い人でも再出発する為の資材すら失ってしまっていたり
という人たちなのだ。
・・
火龍によって馬車ごと襲撃され、何とかモノメイト等により当人は
回復できたが俺の力では物を治すことはできない。だからその身一
つという人たちが大勢出来てしまった。
無事であった人々にどうにかならないかと先輩が交渉してくれた
が、同じ村仲間とはいえ他者を養うほどに余裕がある訳でも無く、ど
うしようもないとのことだ。それはアルヌスまで来た人たちも納得
できなくとも理解していて仕方がないと言っていた。
それに無理矢理に家へと戻ったとしてもあるのは家だけ。更にコ
ダ村は一番近い集落からでもそこそこ離れている為、再出発しようと
も 稼 ぎ 口 が 無 い。畑 を 作 ろ う に も 実 る ま で に 飢 え 死 に し て し ま う。
どちらにしろ生きるための糧が必要なのだ。
さてどうしたものか、とみんなで悩んでいると先輩が﹁任せろ﹂と
言って引き連れて基地まで戻ってきてしまった。
ま ぁ 当 然 の 如 く 上 司 か ら は こ っ ぴ ど く 怒 ら れ た ら し い。子 犬 を
拾ってきた子どもに﹁拾ってきたところに捨ててきなさい﹂と怒る親
908
のようだったとのこと。
しかし捨てる神あらば拾う神ありとでも言うべきか、その怒った上
司のさらに上︵陸長さんだったかな︶が難民として受け入れると言っ
てくれたらしいのだ。危ない危ない、もうちょっとで嫌がらせしに行
くところだったよ。
そんなわけで、人道上の配慮ってことから受け入れられた元コダ村
の人達。あ、エルフちゃんと黒ゴス様も一緒だな。あと何故か本を大
量に荷台に積んだ杖持ちの御爺さんとクール系美少女も。
そして先輩はそんな彼らの保護・観察を言い渡され、第三偵察隊の
﹄
面々と生活環境を作っている最中なのだ。
﹃いやはや、さすが先輩ってところかな
﹁違うよ、ただあのまま見捨てるのは後味が悪いなって思っただけだ﹂
﹃後味悪いからってその後を引き受けるなんてのがさすがって言って
るのさ。面倒事を自ら背負い込んでるわけなんだからさ﹄
﹂
﹁見てられないからって炎龍に喧嘩売った奴もどっかに居た気がする
んだが
﹃⋮⋮﹄
な俺を突きながら先輩は避難民を保護するために必要な書類を取り
に向かっているところだ。
﹄
俺は念話で、先輩は小声で、怪しまれない程度にコミュニケーショ
ンを取りながら俺は帽子の上で揺られる。
﹂
﹃さっきの柳田って人が言ってたこと、ほんと
﹁特地の価値がどうとかって話か
﹃そう﹄
?
簡単に言えば、この特地には未だ発見されていない資源等が数多く
入った話だった。
の人と先輩が今さっきまで話をしていたんだが、それが中々に込み
柳田二尉と先輩が呼んだちょっとナル⋮⋮キザな感じの男性。そ
?
909
?
通路を歩く先輩の帽子上に子狐モードで乗っかっている俺。そん
﹁おい黙んなよ﹂
?
存在する可能性があり世界各国が狙っており、だからその資源を独占
す る 為 に は 世 界 の 3 分 の 1 を 敵 に 回 す 必 要 が あ る と い う 話 だ っ た。
そして日本の上層部は、世界を敵に回してでもその資源を確保する価
値があるかどうかを知りたいのだそうだ。
俺自身あの銀座事件以降、俺を確保しようとしたのは日本だけでは
なく結構な数の外人さん部隊も居たのだ。それもかなり殺傷力の高
い武器も携えていた。殺す気は無くとも腕の一、二本は仕方ないと言
わんばかりの勢いだったのを覚えている。
それだけ未知の可能性というものが喉から手が出るほど欲しいの
だろう。ほんと、物騒な話だ。
でも資源を外国に頼っている現状の日本だからこそ、外交の武器と
なる一手が欲しいのも確かだろう。
例えば現在諸外国に頼っている状態の食物が特地で生産できるよ
うになったとする。それを考えるだけでも貿易によって支払ってい
た金銭等が浮いてくるわけだから莫大な利益が出てくるはずだ。
当然そんな単純にはいかないだろうが、陸続きで東京のど真ん中に
広大な土地が増えた訳だから諸々の問題点を無視してでもそんな方
向に行くかもしれない。輸出に関しては、食品で言えば〝日本ブラン
ド〟という安全性が買われている部分もあるから逆に特地での生産
によってブランド性が揺らぐ可能性もあるが。
他にも輸出入に関して安全性の問題点がニュースでよく取り上げ
られたりするが、門の向こうとはいえ同じ日本国内とするならばそれ
も大幅に減少するだろう。
あまり詳しくない俺が単純に考えただけでもそれだけパッと思い
つくのだから、専門家が考えればもっと出てくるだろう。
さておき、そんな話をついさっきまで夕日を背に男二人が語り合っ
ていた訳だ。俺の場違い感半端なかったと思うよ。
けどその話も終わり、釈然としない気持ちを俺も先輩も抱えながら
最初の目的であった書類の回収へと向かっている。
そもそも何故そんな話が先輩の所に来たかというと、特地に詳しい
〝特地の住人〟と一番コミュニケーションを取り、一定以上の信頼を
910
得ているのが先輩だからだそうだ。自業自得と言われてしまえばそ
もやもやする
﹂
れまでだが、どうにも話が大きくなりすぎている気がする。
﹁あー、くそぅ
!
これでもそれなりに強いんだからさ﹄
このロリBBA
﹄
﹂
﹃先 輩 こ そ 言 っ て は な ら ん こ と を
ぞ
﹁ああお前言ってはならんことを
﹄
ま だ 4 0 代 だ か ら セ ー フ だ し
﹂
こちとら成長できるもんならしてるわ
﹁年上に見えないんだよこの幼女
﹃煩いわ
30代ってのはナイーブなんだ
﹃それをおっさんに言われてもなぁ⋮⋮﹄
﹁恥ずかしいセリフ禁止﹂
﹃いや黙んないでよ先輩﹄
﹁⋮⋮﹂
いんだぜ
﹃先輩が襲われても俺が守るから大船に乗ったつもりで居てくれてい
﹁なんだよ﹂
﹃確かにいきなり世界がどうとか言われてもねぇ⋮⋮。けどさ、先輩﹄
!
行ったのか、その後も暫く先輩との言い合いは続いた。
◆◆◆
﹁今から暫くは俺達運送業者っすか⋮⋮﹂
﹁そう言うなって。難民の皆に自活してもらえるのはかなり大事だろ
﹂
俺を癒して
ケモミミ触らせて
!!
﹂
﹁そりゃそうですけどね⋮⋮。うーん、狐ちゃん⋮⋮じゃなかったコ
ウジュちゃん
!
!!
911
!!
!!
!!
!
売り言葉に買い言葉。先程までのモヤモヤとしたものなどどこへ
!!
?
!
!
!
?
﹁嫌です真面目に運転してください﹂
﹁そんなガチで言わないでよ⋮⋮﹂
﹁だって倉田さん尻尾が無いからって溜息吐いたし﹂
﹁あれはほら、ケモ耳と尻尾はセットだって固定観念が⋮⋮ね
し。語尾とか
﹂
﹁いーや、やっぱり見た目からの獣度も大事だと思うね
﹂
肘膝まで
﹁どうせ俺は尻尾無しのはずれですよ。というか獣度は内面も大事だ
?
耳だけってそれほぼコスプ⋮⋮、あ⋮⋮﹂
!
少女︶と共にイタリカという町へと向かっている途中だ。
テュカ︵エルフ少女︶、レレイ︵杖を持った少女︶、ロゥリィ︵黒ゴス
現在俺達はHMVや装甲車を使い、いつもの第三偵察隊に加えて
予想ではもうすぐだと思うのだが、いつ終わるのやら。
離があるそうだ。
れなりのスピードは出ているが、それでも話を聞く限りそれなりの距
先日と違い馬車や徒歩の人と同速で動いている訳でも無いからそ
右を見れば山。左を見れば草原。先を見れば終わりの見えない道。
も似た舗装されていない道がただ続くばかりだが。
たような微妙な気分のまま改めて前方を見る。といってもあぜ道に
頭の上が少し寂しくなった︵髪的な意味ではない︶様なスッキリし
まぁ大丈夫だろう。
ろ う。そ の 所 為 で 意 見 が ぶ つ か り 合 う 部 分 も あ る み た い だ が ⋮⋮、
が良かったりする。しかも二人ともモフモフ好きらしいから余計だ
倉田はこの部隊で唯一俺以外にオタ話が出来る存在だから割と仲
座ることにしたようだ。
んだ文句を言ってくるが倉田の上から避けることはせず、そのまま居
同時に後ろから羨ましげな声が聞こえたがさておき、後輩は何だか
上の後輩を倉田の上に置き直す。
どうでも良いが俺の頭の上で話し込まないでくれ。そう思い頭の
﹁月夜ばかりと思うなよ﹂
球と尻尾でしょ
ケモってるとか超萌えるじゃないか それにモフモフと言えば肉
!
!
というのも、元コダ村の人達を難民として迎えるのはいいが当初の
912
!?
目的である自活する方法をどうするかという話を詰めている際にレ
レイが翼竜の鱗を売りたいと言い出したのだ。
話をする前日にレレイが敷地外で的と化していた翼竜を見て何や
ら思案顔で鱗が欲しいと言ってきたのはその為だったらしい。
こちらとしては固いだけの的でしかなかったし自活方法の準備金
﹂
になるのならと許可し、それを売りに行くのが今回の目的である。
﹁なんか焦げ臭くない
﹂
とを言いだした。
あ、あれか﹂
﹁隊長、あれじゃないですか
﹁うーん
前方に煙が見えます﹂
転げ落ちた後輩は器用に俺の方まで登ってくると、今度は物騒なこ
﹁何⋮⋮
﹁これ、血の臭いも混ざってる﹂
さておき、焦げ臭い臭いなんぞ俺も感じないが、なんだろうか。
俺は知らないからな倉田。
それによって後輩が落ちてしまい、後ろから﹁あ⋮﹂と声が漏れる。
かったのか首を捻る。
そ の 言 葉 に 倉 田 も 同 じ よ う に 鼻 を ひ く つ か せ る が 何 も 分 か ら な
唐突に鼻をくんくんとひくつかせながら言う後輩。
?
囲で燃えているようだ。
?
どうして異世界に来てまでこんなに争いごとばかりなんだか。夢
全く以て嫌になるよほんと。
顔をしているだろう。
うへぇとあからさまに嫌な顔をする倉田。恐らく俺も似たような
﹁言うなって、俺も今そう思ってたところなんだから﹂
になります﹂
﹁ですねー。というか黒煙を見るのこれで2度目ですよ。さすがに嫌
﹁俺達が向ってるのって、あっちだったよな
﹂
双眼鏡を取り出して見れば、周囲の物から目測で考えても結構な範
に上がっていた。
目を凝らし前方を見れば、今進んでいる道のはるか先で黒煙が確か
?
913
?
?
も希望も無い。
しかもどうやらその煙の出ている場所がイタリカのようだ。
﹂
つまり俺達はその煙の元へと行かなければならない。
﹁今からあそこに行くのよねぇ
はゴスロリ少女だ。
﹁そう⋮、なのかな﹂
﹂
ひょっとし
?
﹁そぅ、でも死を否定していては人は生きていけないのよぉ
﹁嫌な臭いだ﹂
てレレイみたいに覚えた
ってあれ、今ナチュラルに日本語話してなかったか
レイに教えてもらったんだが、あのゴスロリも神官服だかららしい。
そういえば彼女は死と断罪を司る神に仕えているんだっけか。レ
嬉しそうに言う彼女に、思わず引き攣った声が出る。
﹁そ、そうですか⋮⋮﹂
﹁いいえぇ。ただ争いの〝匂い〟がしたからぁ﹂
﹁あ、ああ。だけどどうした
﹂
俺達とは違い、笑みを浮かべながら座席の隙間から顔を覗かせたの
?
死を否定してると生きていけない、か。
その言葉に思う所があったのか、後輩は思い詰めたように下を向
く。
車内を包む沈黙。
何故か突然シリアスが始まってしまってるんだが⋮⋮。
俺は倉田の方へと顔を向ける。丁度倉田もこちらを向いたところ
だった。
俺は無言で一つ頷く。それに返すようにうなずく倉田。
とりあえずイタリカに向かおうか。当初の目的通り。
◆◆◆
914
?
ボソリと後輩が口にした言葉に、諭すように言うロゥリィ。
?
?
﹁はっ
﹂
﹁あ、気づいたの
﹂
目を覚ます。と同時に視界に広がったのは黒川さんの顔だ。
何この状況。俺は気を失っていたのか
てそれなりに時間が経っているようだ。
﹂
素直に聞いてみるか。
﹁えっと、ここは
﹁何でそんな所に⋮⋮
﹂
そうだ。そうだった。
﹁あ﹂
門が開いて⋮⋮﹂
﹁ほら、伊丹二尉と一緒に門の前まで行ったでしょう
?
﹂
?
その時突然
元気なのをアピールするようにピョンと宙返りしてみると、御淑や
﹁なら良かったですわ﹂
﹁うん何処も異常は無いよ。むしろ寝た分元気なくらい﹂
﹁傷はいつの間にか治ってたけど、大丈夫
状態だから普通に意識を失ってしまったようだ。
考え事をしていた所為で反応が遅れ、子狐モードだから防御も低い
つけたんだった。
イタリカに着いた時、門内からいきなり門が開いて先輩諸共頭をぶ
?
窓の外を見れば既に日は落ちているようだし、気を失う前から考え
ふむ、それにしてもここはどこだろう
えたくない。
ら端の方に置いてある花瓶一つで幾ら位になるのだろうか。うん、考
庶民的な感性しかないから高そうとしか言えないが、買おうとした
かなり豪華な内装となっている。
はありそうな大きさだ。よく見れば部屋自体もレトロな雰囲気だが
どうやら俺はベッドの上で寝かされているらしく、それもダブル位
ちょっと照れるので、誤魔化すように辺りを見回す。
?
?
﹁ここはイタリカのフォルマル伯爵家よ。その客室﹂
?
915
?
!?
かに微笑む黒川さん。ほんと大和撫子という言葉をそのまま人物に
﹂
したような人である。これで暴走さえしなければ⋮⋮。
﹁そういえば先輩は
﹁伊丹二尉ならここのお嬢様達とお話し中よ。夜襲があるかもしれな
いらしくて救援要請を受けたのよ﹂
﹁夜襲、夜襲ねぇ﹂
それでイタリカから煙が上がっていたのか。警戒していたのもそ
の為ってことね。
まったく、こっちに来てから闘ってばかりだ。嫌になる。
血の臭いを嗅いでにわかに騒めくこの身体も、嫌になる。
先程︵と言っても俺の記憶で言えばさっきなだけだが︶黒ゴス様が
死を否定してはいけないと言っていたが、俺には未だに良く分からな
い。
確かに人はいつか死ぬものだ。俺は死ねなくなったが、ヒトのつも
りだ。神になれと言われたとしても、ヒトのままであり続けたい。
だからと言って、死を肯定する気にはなれない。
誰だって命を失うのは嫌だし奪うのも嫌な筈だ。
だけど夜戦が起こるということは、また人の命が失われるのだろ
う。
な ぜ そ う も 簡 単 に 命 の 奪 い 合 い が 発 生 す る ん だ。皆 楽 し く 笑 い
合っていればいいじゃないか。ハッピーエンドで良いじゃないか。
争うこと自体を否定はしない。それが無ければ前へと進めない時
というのは幾らでもある筈だから。
けど、今から起こるのは殺し合いなのだそうだ。
はぁ、と溜息が出る。
止め止め、考え込んでも答えは出なさそうだ。
とりあえず〝死んで欲しくない〟と思っておこう。
俺のスタンスは変わらない。
悲劇を見たくない。それで良いじゃないか。
それ以上を考えてしまうと、またあれこれ手を出し過ぎて自分だけ
の手に余り出す。
916
?
﹁それであなたはどうする
﹂
ただ先送りにしただけの思考のぶった切り、それを終えたと同時に
掛かる声。俺の顔を見ながら微笑んでいる。
ふむ、どうやら俺が考え事を終えるのを待ってくれていたようだ。
でも狐状態なのになんで表情読めるのこの人。
まぁさておき、だ。
聖杯戦争時代から変わらずのスタンスを貫くのなら、今から起こる
夜戦ってのを放って置く訳には行かない。
いや違うな。
放って置きたくないんだ。
﹁それじゃあ先輩の所に向かわせてもらおうかな。ちょっとやりたい
ことが出来たし。それにいい考えがあるんだ﹂
俺は立ち上がり、ベッドから飛び降りる。
さぁやってやろうじゃないか。
最近大規模戦が多いし、ちょっと手札を増やしたかったところだ。
チートスペックで以て返り討ちにしてやる
!
ところで黒川さん扉開けてくれないかな。そんな所で微笑んでな
いでさ。
子狐モードだと届かないんだ。
917
?
﹃stage12:いたりかこうぼうせんはたいへん
でしたね﹄
﹁こんなものを、こんなものを求めて俺達は
戦場に、男の嘆きが響く。
﹂
僅かな望みすら潰えたのか、この世の終わりを嘆くようなそんな声
だ。
男は兵士であった。
子どもながらに国を守りたいと願い、志願し、いつしか数百人の兵
を率いる長とまでなっていた。
しかしそれも遠い昔の話だ。
数年前、自らが所属する国で戦争が起きた。
相手国はこれまでにもいくつもの国を併合してきた﹃帝国﹄だ。そ
の全てを飲み干し、その支配地域は留まるところを知らない。
こちらの国が何かしたわけではない。あえて言うなら、順番が来た
だけ。
だからと言って自らの住み慣れた土地を易々と明け渡すわけには
いかない。
故に闘った。
しかし結果は悲惨なものだ。そもそもの数が違う。
質で負けているつもりは無かった。だがそんなもの絶望的な数の
差の前では何の意味もなさない。
それからは帝国の属国として搾取される側に回った。
何をされようとも敗残国の我々に拒否権は無い。
〝負けた〟というその事実が何よりも重たくのしかかる。
幸いにもと言って良いかは微妙なところだが、軍に関してはそのま
ま運用されることとなった。その実態は買い殺しでしかないが。
918
!!!!!
帝国の属国となって数年、その間にも帝国は戦争を続ける。その度
に絞り取られていく国庫と人材。帝国が一定以上に軍属を増やして
はならぬとするため、余ってくる資金等は帝国に持っていかれてしま
うばかり。
そして今回もまた同じように、帝国に良い様に使われながら相手を
蹂躙するのだと思っていた。
相手は門の向こうからの侵略者だという。
時々この世界はどこかへと繋がる門が開くというが、それもごく短
期間であり、迷い込む者もそれほど多くない筈だ。
だが今回はどうしたことか向こう側から攻めてくるという。
対するこちらは、帝国による支配をうける属国、それからなる連合
軍。
とはいえ男にはそんなものは関係ない。買い殺しの中、己の意思を
ぶつける相手は誰でも良かった。
だが負けた。いや、戦ですらなかったのだ。勝った負けたそれどこ
ろの話ではない。
相手を見ることも叶わず、各地で黒い靄に包まれ倒れていく仲間た
ち。決死の覚悟で突き進もうとも、少しでも靄を浴びていた者は立所
に病で倒れた。
帝国に敗れたとはいえ精強な部下たちだ。病に倒れるような軟弱
な者は居ない筈だった。
手に持つ剣を振るう暇すらなかった。
原因を調べる間にも増えていく病人。そしてそれを介抱する為に
も人員が要る。
足りない。
情報が足りない。
人が足りない。
対処をするにしても時間も無い。
戦とも呼べぬそれは実に数日続いた。 只々、向かえば倒れるものが増えていく毎日だった。
何とか黒い靄を抜けても、何かが飛んできては倒れていく。
919
そして、気づけば男はまたしても敗残兵となっていた。
無様にも、病に倒れた仲間を捨て置き無事な者を連れて逃げるだけ
で精いっぱいであった。
・・・
男以外の者もそうだ。
足元を駆ける何かに気を付けながら、怯えながらただくだ男の後ろ
をついていく。
男は幸いにも見ることが無かったが、数人が黒い靄の原因であろう
何かを目撃した。いや、正確にはそうであろう影を辛うじて見ること
が出来たが正しい。
しかし見た者は皆、口を揃えて〝銀色の獣が〟と口走る。そんな馬
鹿なと口にする者も居たが、確認しようとして無事だった者は居な
い。
姿を見て未だ立っている者はただ運が良かった。
足下を何かが駆け、その数瞬後に地より何かが浮かび上がり、その
近くに居ればたちまちに黒いもやに包まれる。
恐ろしきはそんなものを行使する敵軍か。男は理解しきれていな
いながらもそう思った。
敗残兵となって暫くしてからも男は国に帰らなかった。残った仲
間とともに死地を探すことにした。
戦というものに飢えてしまっていたのだ。
男を含めその仲間たちは帝国の属国となりながらも、それでも国を
守るために自らを鍛えてきた。
だが今回のことで、その存在意義を失ってしまった。
守るものも無く、戦うことすらできない。帝国に言われるままに戦
場へ行き、今回はその帝国兵すらいなかった。完全に当て馬だ。
そんな繰り返しの果てに、ついに兵士であるはずの彼らは何かが切
れてしまった。
そこからはただ戦を求めて進むだけであった。
恐怖の中に居た者も、それをかき消すために同じくして突き進む。
きっと悪夢でも見ていたのだ、と無かったことにしながら。
そして辿り着いたのがイタリカ、帝国領内の城砦都市だ。
920
城砦都市というだけあってしっかりと町は砦に守られて兵も多い。
何か壊れてしまった男は、それが晴れ舞台に丁度良いと考えてしまっ
た。思えてしまった。
だがそれは間違いであった。
防衛戦に徹している砦を襲うのならば3倍以上の人員が必要だろ
う。だが今の男には、男たちにはそんなものは関係ない。
ただ戦いを求めているだけなのだから、勝とうが負けようが、戦で
あるのなら何でもよかった。
・・・・・・
しかし、2度の交戦を経ての3度目。ここで何かがおかしくなっ
た。
正確に言うならば、おかしなものが現れたというべきか。
﹁俺達は、俺達はイタリカに来たはずだ。そうだろう
﹄
その姿は炎龍。絶望の象徴だ。
確かに居てもおかしくは無い。
なのになん
﹂
イタリカから比較的近い村を襲ったという噂はあった。だから味
を占めた炎龍がここに居てもおかしくは無いのだ。
だが、この炎龍は何かがおかしい。
炎龍とは目の前に広がるものを尽く燃やし尽くし、破砕し、喰らう
災害の様な物であったはずだ。
なのにこの炎龍はイタリカを守るようにして男たちを見下ろして
いた。
﹃﹃GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
A│││││││││
﹄﹄
!!!!!
921
でこんなのがいるんだよおおおおおおおおおおおおっ
男が再び叫ぶ。
﹃GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
その声はやはり、絶望を見た者の嘆き。
?
!!!!!!!!!!????
轟々と燃える周囲の炎の中、そんな男を見るものがあった。
│││││││││
!!!!!
そんな絶望の淵に居る男を更に追い詰める咆哮が追加で二つ響く。
見れば、囲うように炎龍とは別の化け物が二体、炎に怪しく照らさ
れながらも近づいてきていた。
狼をそのまま大きくしたような化け物と狼に似た四足獣ではある
がやや細身の化け物。双方ともに、炎龍ほどの大きさがある。
三体の化け物が綺麗に三方向から男たちを囲んだ。
グルルと唸り声を上げる化け物共。その巨体に合わせて、ただの唸
り声も地響きもかくやという大きさだ。
門の向こうから来た軍勢と闘う為に用意されていた武器防具は良
くも悪くも使わず仕舞いだったために余裕がある。
だがそれが何だというのだろうか。
男たちから見て、いくら手元に潤沢な装備や道具があっても目の前
の化け物に勝てる気がしなかった。
﹁う、うあ⋮⋮﹂
﹂
﹄
922
精霊使いの娘が地に尻餅を付いて座り込んだ。
セイレーンである彼女はヒト種に比べて感覚系が鋭い。それ故に
何かを感じとったのか、その瞳にはもはや戦場に出られるような破棄
は無く、幼い子供の様ですらあった。
雲に弓で矢を放つ。
だから逃げ場は無い。
に統率が取れたものだ。
一歩、また一歩と徐々に幅を狭める化け物達。その姿は不自然な程
まうだけのものであった。
一矢は唯でさえ絶望的な状況で、為す術がないことを確定させてし
ない壁でもあるかのように弾かれてしまったのだ。
それどころか巨獣に矢は届いていない。巨獣に当たる寸前に見え
ことは叶わなかった。
だが、その一矢は化け物の注意を引いただけでかすり傷一つ付ける
﹃GURUUUUUUUUAAAAAAAAAA
!!!!!!!!!!
この重苦しい空気に耐えられなくなった一人が、四足の巨獣へと闇
﹁くそおおおおおおおおおおおお
!!!!!!!
3匹の化け物の間にはそれなりの距離があるが、それ以外にも盗賊
達を囲うものがある。
化け物達の周囲では至る所で火の手が上がっているのだ。
イタリカの門外であるこの場所は穀倉地であり、周囲には燃えやす
いものが数多く存在する。だから、盗賊達はそれらにドラゴンが時折
吐く炎が引火したと思ったのだろう。
しかしながら事実は違う。
夜が明けていない時間でありながら異様な程に明るく照らし出さ
れた周囲。それはイタリカの住民と自衛隊によって用意された光源
であるのだが、冷静に頭が働いていない元兵士でもある盗賊たちでは
気付かない。
何せその明るさで以て化け物達の姿を見ることが出来ているのだ。
闇の中これらに襲われる瞬間なぞ盗賊たちは考えたくもないだろ
う。見えることでの恐怖もあるが、居ることが分かっているのに見え
ないのはそれ以上の恐怖だ。
原初より人が恐怖するのは闇だ。
だから今は、この火が消えないことを切に願うしかない。
﹃GURUUUUU⋮⋮﹄
何度目かになる唸り声。距離があるにもかかわらず賊達の腹に響
くほどの重低音。
対してイタリカの街は恐ろしい程に静かだ。
人の気配はする。しかしこれほどの化け物が居ながら逃げる様子
もなく砦内に居る。
それが賊を率いる男には不思議でならなかったが、それがただの現
実逃避であると即座に気付いた。
どうすることもできないのだからそれも仕方ないだろう。
戦うことも叶わず、今回に関しては逃げることも叶わず、兵として
の自らに男は絶望するしかなかった。
何を間違ったのだろう、男は自問する。
しかしそれに優しく答えを出してくれる存在は居ない。
ゆっくりと近づく化け物達。
923
その距離も大分と近づいた。
ああこれで終わりか。
男は剣を下ろし、天を仰ぎ見た。
﹃あー、あー、テステス。聞こえてますか盗賊の皆さん。こちらイタリ
﹂
あれだけ大勢なのを無力化
カ城砦内、自衛隊所属伊丹二尉であります。死にたくなかったら武器
を捨て投降してください﹄
盗賊達は喜んで武器を手放した。
﹂
﹂
?
脅しだ
!
まった賊達が放り込まれていくのを見ながらそんな会話をしていた。
それにしても失礼なことを言う先輩である。甚だ遺憾である
かなと思わなくもない。
しかしまぁ、今回に限ってはちょっと、ちょぉぉぉっとやりすぎた
!
924
◆◆◆
﹁うん、えっぐいな後輩⋮⋮﹂
﹁だ、だってしょうがないじゃないか
するには闘う意思をなくさせるのが一番だと思ったんだよ
から
﹁ああ確かに言い得て妙っすね。って、あれはただの脅し
にギ○ラが闘おうとしている中心に取り残された一般人みたいな
﹁いやでも、あれはなぁ⋮⋮。なんというかあれだな、ゴ○ラとモ○ラ
!
!
うっすらと空が明るくなり始めた頃、俺と先輩は砦の中に続々と捕
!!
でも仕方ないじゃないか。これしか思いつかなかったのだから。
それに、出来る限り誰かの命を奪いたくはないという俺の我が儘で
もある。
今回、俺がやったのは簡単だ。
イタリカの城砦外にて盗賊が現れたと同時に3匹の怪物に囲わせ
てやる気をなくさせる作戦。
といっても、言うのは簡単だがやるのは難しいか。
まずはあの怪物たちに関してだが、炎龍は勿論俺が変身した姿だ。
だが、他の2匹も実は俺なのだ。
変
身
2匹の獣の正体は狼と狐、俺が持っている獣化の因子の一部だな。
今回はそれらを俺の中から取り出して泥に混ぜ込み、存在置換した
時の姿をそのまま大きくして配置したのだ。
炎龍を取り込んだことで巨体での運用方法を理解できたからさな
せる技でもあったけど、同時に自分を別に生み出すというのは成功す
るか実は五分五分だった。
いやまぁ実際には今回のは失敗だったんだけどね。
というのも、いつだったか考えていた分身の術。最初はあれをしよ
うと思ったんだよ。だけど失敗した。
だって未だに同じ自分を何人も産みだすというのが理解できない
のだ。忍者の世界に産まれた訳でも教えてくれる人が居る訳でも無
いので仕方ない。
けどそこで俺は考え方を変えることにした。
キ シ ュ ア・ ゼ ル レ ッ チ
分身の術を考えるに至った経緯として、俺が覚えた﹃秘剣燕返し﹄の
本質である多重次元屈折現象がある。
この燕返し自体は同時に3つの剣閃を産みだすというものなわけ
だが、実際には一つの剣閃にプラスして違う振り方をしたという可能
性を平行世界から持って来て同時に存在させるという荒業なのだ。
つまり何が言いたいかというと、俺は今回まず自分が炎龍の姿にな
り、そして泥を基に今存在するために狐であったかもしれない自分と
狼であったかもしれない自分の巨大バージョンを存在させるという
方法を行った。
925
泥が自分自身でもあるらしいことを含めて、泥の性質変化が自分で
あるならばある程度できるというのならと思いつき実行したのだが、
わりかし上手く行くものである。
ただ問題点があるとすれば、出来るかどうかの確信が持てていな
マニュアル
かった為か自分自身が変身した炎龍はともかく他2体に関しては見
た目だけで、しかも完全 手 動 操作だったりする。
ぶっちゃけ張りぼてである。
まぁ張りぼてにしては些か上等なものだとは思う。咆哮は上げら
れるし、視認しながらのマニュアル操作とはいえ、そのモデルは俺な
わけだから結構なハイスペックだったりする。慣れないことをした
上に巨獣を2体同時に操りながら自身も動かないといけないので時
折狼型と狐型がまったく同じタイミングで咆哮を上げたり、シンクロ
しているかのように綺麗に同じ動きをさせてしまったりとかもあっ
たが気づかれたなかったみたいだし、セーフだろう。
しかし中身が無いだけでその迫力は本物だ。
最初は炎龍だけでいくつもりだったんだけど、作戦を話してから少
し時間が有ったし、何とか作戦開始前にこの技が完成したので盛り込
んだ。炎龍だけだと逃げられてまたどこかで同じこと繰り返される
かもしれないしね。
御陰で囲まれた盗賊達はビビりにビビッて、容易く投降してくれ
た。
鳥っぽい子とかちょっと地面が濡れちゃうほどにビビってたけど、
うん、許してください。
あとの問題点は感覚を共有してることかねぇ。
一応あれも俺だから結構なステータスを誇る訳だけども、自分で動
ける訳じゃないから良い的も良い所だったりする。
だからあの巨獣たちがダメージを負うと全部俺に返ってくるのだ。
巨獣たち自体は中身が無いから痛みを感じることは無いしね。
これは消そうと思えば消せるけど、そうすると操作できなくなるか
ら仕方ない。
次に砦周囲の炎に関してだが、あれは事前に周囲の数か所に燃える
926
ものを用意してもらって敵が来たと同時に着火するように仕組んで
もらったものである。
これに関しては先輩主導の元、街の人達にもいくらか手伝っても
らって準備した。俺は変身とかの方の予行演習してたからね。
でもこれも最初は手間取ったものだ。
幾ら自衛隊の装備がこの世界に対して有効的すぎる殺傷力を持と
うとも、それがどういうものか理解されていなければ意味がない。ど
れほどの強さを持つか分からなければ手伝うと言ってもイタリカの
人達からすれば十人程増えるだけで梨の礫としか感じてもらえない。
しかしそこで俺の出番である。
まず、先輩に炎龍を倒したのではなく使役することに成功したと法
螺を吹いてもらう。こいつは何を言っているんだと思われるだろう
がそこに俺が登場して一部だけ変身してみせる。アドリブに関して
には少
は念話があるから楽勝だし、炎も吐けて剣すら通らない鱗があれば信
ピノだっけ
迫力に欠けると思い違う人型で会おうことにした。大人verって
やつだ。
超大型の獣になる応用で、しかも俺は炎龍という成体の因子がある
からいけるんじゃないかと思ってやってみるとこれまた成功したの
だ。
ただこれにも問題点があって、龍が人に変身した姿で威厳も迫力も
ある姿で思いついたのが時折話に出していた﹃恋するドラゴン﹄の姿
だったのだ。
その姿を思い浮かべてしまったが故に、俺の大人verはほぼほぼ
恋するドラゴンになってしまった。
ただし2Pカラー。
銀色の髪︵元キャラはピンク︶に、頭に乗せたKouju時にも被っ
ている物に似た大きい帽子。翡翠の瞳に割れた瞳孔。美しい容姿に
均整の取れたグラビア顔負けのスタイル。ただしブレザー着用。そ
927
じざるを得ないだろう。
ついでに言えば、えっとピニャ皇女殿下
?
しだが既にKoujuの姿で会った後だったので幼女の姿では些か
?
して何故か人型でありながら驚くべき重さを誇る体重。
普通に御屋敷の中を歩くと床が抜けてしまうので︵何か所か抜けた
ひしゃ
後である︶、常に木製の床の上を歩くときは足元に魔力で足場をばれ
ない様に作りながら歩いています。体重計に乗ったら体重計が拉げ
るレベルですね。
まぁでもその御陰でかなり無茶苦茶な作戦だが無理を通すことが
出来た。
もし成功しなかったとしても砦内の人達にとっての損害が無いの
も大きかったのかもしれない。準備を少し手伝ってもらったが、余っ
た燃料を渡すことでトントンだろう。
そういやその燃料なのだが、何気にこれが一番の難題であった。
いや、普通に考えればいつ来るかもわからない上にどの方面から来
るかもわからないのだから、それに対応する光源に出来るほどの炎の
為の燃料ともなると結構な量になる。
︵ただし石油は身体から出る
928
この世界には未だ液体燃料など便利なものも出回っていないよう
だし、そんなものがあれば俺達が砦に到着するまでに使い切り勝利を
収めているだろう。
なので、俺が用意しました。
用意したと言っても地中から掘り出したとかではない。
作り方自体は簡単だ。かなーーーーりの覚悟が要ったが。
まず少量の液体燃料︵揮発しないもの︶を少量用意します。それを
︵死んだ目
コップに入れます。因子を取り入れます。出します。
ほら簡単でしょう
く終結した。
さておき、そんなこんなで今回のイタリカ攻防戦は何の山も谷も無
石油王に俺はなる
だがその苦難を乗り越えた結果に得た物は素晴らしいの一言だ。
できないのかと言われて無言で腹パンした俺は悪くない。
悟が必要だった。後になって先輩から龍の時みたいに影で飲んだり
を間違って舐めるとかじゃなくて口に自ら含むわけだから色々な覚
自分で言いだした作戦なのだから仕方ないのだが、手に付いたもの
?
!
倉田さんに死ぬよりひどいトラウマがどうとか言われたが知った
こっちゃない。あとメイドのペルシアさん︵猫獣人さん︶は渡さない。
でもまぁ、結果だけを見れば大成功だろう。死傷者はなんと0人な
のだから。
ちょっと大きな獣にトラウマ抱えちゃった人も居るけど、死ぬより
はマシ⋮⋮な筈だ。
ただ、問題はこの捕まえた人達をどうするかってことだ。
イタリカの人達の中には殺すべきだと訴える人も居る。多数派で
はないがそれなりに居るのだ。
しかし俺はそんなことをしたくないし、自衛隊の面々もその信条に
反すると言ってしない。
彼ら盗賊落ちした人達は、よくよく理由を聞けば闘うこともできず
にいる自分たちが許せなくてこんなことをしたそうだ。その結果死
んでも悔いは無いとも言っていた。
とはいえその境遇に同情はしない。
彼らは人を殺すつもりでこのイタリカを攻めたのだ。死ななかっ
たから許せるというものだろう。
そして後悔もしない。
話 を 聞 く 限 り は 俺 が や り 過 ぎ た 所 為 で 彼 ら は 自 分 と い う も の を
失ってしまったのだろう。最後の切っ掛けを生み出してしまった原
因は俺にもあるのだろう。
だけど、ここで後悔してしまってはイリヤや士郎、先輩に教えても
らった言葉を意味の無いものにしてしまう。俺は、救えた命を誇りに
思うし、無為に人の命を奪いたくなんかない。そして助けたいと思っ
たから助けたのにそれを後悔するなんてしたくない。
だから盗賊の人達が産まれた原因は大元は俺なのかもしれないが
それを悔いたくはない。
ただ、だからと言ってこの人達をこのままにするのは無責任が過ぎ
る。
さてどうしたものか⋮⋮。
そんな風に悩んでいると、何か音楽なようなものが聞こえてきた。
929
﹁なぁ先輩。なんか聞こえない
﹂
いや何も聞こえないけど﹂
でも使われてたやつ﹂
?
あの獣たち消せ
早く
富田は通信急げ
!!
﹂
!!
気付いたような絶望的な顔だ。
﹁あ⋮⋮。後輩
!!
なんかこう、テスト当日にテスト勉強の範囲を間違えていることに
出したのか間抜け面を晒す。
再びの俺の質問、それをすると先輩は何故か口を開いて何かを思い
﹁なるる。でもなんでそれが聞こえてきてるの
﹂
﹁ああ、それはワルキューレの騎行だな。ほれ、地獄の○示録って映画
するとそれを聞いて先輩が答えが分かったのか教えてくれた。
だからふと口ずさむ。
何で聞いたんだったか、思い出せないがリズムは思い出せる。
るようなの﹂
﹁うーん、いややっぱ聞こえる。なんかこう洋画とかで聞いたことあ
﹁へ
?
それを消せってのはなんでだ
しているような音だ。
そして││││、
﹂
痛いよ
にぎゃああああああああああ
!!!!?
あああああ
!?
そして最後には頭をぶつけた感覚と同時に視界が真っ暗になった。
全身を襲う痛みに俺は床を転がり悶える。
!?
突如鳴り響いた轟音。ヘリのローター音とガトリングでもぶっ放
しかし何故獣を消せと言ったのかすぐ理解できた。
?
無いとは思うが盗賊の人達が暴れ出した時用だ。
に残る二匹は念のため門の外で待機させてある。
確かに、炎龍は俺自身が変身していたから既に居ないのだが、確か
しまう。
そして次の瞬間には慌ててそう言う先輩。その姿に思わず呆けて
!
﹁痛たたたたっ 痛い
!!!!!!!!!!!!!!
930
?
最近こんなのばっかりだ⋮⋮。
931
﹂
﹃stage13:ちょろいぜ。甘いぜ。ちょろ甘で
すね﹄
﹂
﹂
﹁コウジュちゃんは何処から来たんですか
﹁えっと、あっちの方
﹁御好きなものは何でしょうか
﹁た、食べ物なら大抵好きかな⋮⋮﹂
第3偵察隊の面々の協力を仰いだ所為でそんな暇が無かったからだ。
まず何故連絡を入れることが出来なかったかというと、それは俺が
然出てくるが、その辺りは完全に俺の所為だったりする。
先輩に連絡入れろよとか、何で敵だと勘違いしたのかって疑問が当
フィードバックしてしまいあまりの痛みに気絶してしまったのだ。
俺 だ か ら 痛 み を 共 有 し て い る。だ か ら そ の 分 の 痛 み が 全 て 俺 に
バカスカ撃たれてしまった。そしてあの2匹は俺自身ではないけど
だったようで、砦の外に待機させていた大狐と大狼を敵と勘違いして
実 は あ の 時 聞 こ え て き た 音 楽 と い う の は 先 輩 が 頼 ん で い た 援 軍
その理由というのが何とも情けないものだったりする。
た。
盗賊達を捕獲した日、俺は唐突な痛みについ意識を手放してしまっ
わけだが、実はこの場所には先輩たちはもう居なかったりする。
まぁそんな理由で、ミュイちゃんから怒涛の質問攻めを受けておる
えてるんだけど⋮⋮。
つまり、なんか仲間意識が生まれたんだってさ。俺の中身40歳越
俺は幼女。彼女も幼女。
何この状況と思われるかもしれないが、まぁ仕方ないのだ。
て色々質問されている状態です。
現在俺はフォルマル領の御息女であるミュイちゃんに詰め寄られ
!?
初めに俺は町の人達からの協力を得ようとしたんだが、やはり炎龍
932
!?
?
を使役してるなんて話を信じてくれるはずもなく、仕方がないので
﹃恋するドラゴン﹄になった状態で町民の前で部分的に炎龍に変身し
た。
だがそれは失敗だった。その姿を見て事前に言っていたのにも関
わらず逃げるわ怯えるわでまったく協力を得られなかったのだ。
だから俺は第3偵察隊の面々の協力を得て作戦の準備に当たった。
砦周囲に穀倉地に燃え移らず、それでいて辺りを照らし、そして効果
的に盗賊達を囲う様な配置で液体燃料を設置してもらったのだ。
し か し そ の 範 囲 の 広 さ の 所 為 で 結 構 な 時 間 が 掛 か っ て し ま っ た。
敵に見つからないようにしながらだから余計にだ。
そ こ に 俺 が ギ リ ギ リ に な っ て 大 狐 と 大 狼 を 追 加 す る こ と に し
ちゃったもんだから、町の人達への説明のし直しとか色々してもらっ
た所為で援軍の人達に説明する暇も無く戦闘開始となってしまった。
俺 の 作 戦 な ら 死 人 が 出 な い だ ろ う と い う の も あ り 第 三 偵 察 隊 の
面々は精力的になってくれたのだが、最後の最後に俺が気絶したもん
おやっさん
だ か ら 謝 ら れ て し ま っ た。い や む し ろ こ っ ち が ご め ん な さ い で す。
でも桑 原さん撫でるのは勘弁してください。
次の、何故大狐と大狼が攻撃されたのかって理由だが、それも結局
俺が悪いのだ。
あの時、俺は﹃恋するドラゴン︵2Pカラー︶﹄の姿で先輩の横に居
たのだが、大狐と大狼は砦の外に配置したままだった。
それは何故かというと盗賊達の逃走防止の為だ。
何せ城砦都市一つ落とそうって盗賊共だから数が多い。一人一人
しっかりと捕縛しては砦の中に確保していたんだが、それなりに時間
が掛かった。
捕縛している間に逃げられでもすれば目も当てられないので、内側
は俺本体、そして外には2体の大獣という訳だ。
だけどその姿が援軍の人達には今にも人を襲い砦を破壊しようと
する怪獣に見えてしまったらしい。
まぁそりゃそうだよな。
砦の外から内側︵人︶に向けて唸ってる怪物が二匹居たら俺も攻撃
933
するよ。リアリティを出すために偶に唸らせたり歯を剥き出しにさ
せたりしてたから、それが余計に迅速な対応が必要なように見えたら
しいし。
ちなみにらしいというのは、その撃つのを指示した人から直接聞い
たからだ。
目が覚めた後のはなしだが、健軍さんっていう援軍︵第4戦闘団︶の
隊長さんが先輩に事情を聴いて謝罪しに来てくれた。
恋ドラの姿ではなく本来の姿のことまで先輩から聞いていたのか、
幼女姿に戻っていたにも関わらず直角に頭を下げてくれたのだ。
むしろこっちが謝りたいくらいだった。
と い う か 謝 っ た。俺 の 思 い 付 き に 付 き 合 わ せ て し ま っ た 所 為 で
色々とご迷惑をかけてしまった訳だし。
すると健軍さんは何故か漢らしい笑みを浮かべ、そして微笑ましい
ものを見る目をしながら俺の頭をぐりぐりと撫でてありがとうと
言ってきた。よくわからん⋮⋮。
とにかくそんな訳で、身から出た錆というか自業自得というか、俺
の思い付きの所為で気絶しちゃった訳だからちょっと恥ずかしかっ
た。それすらも暖かい眼で見られるんだからもうやだあの偵察隊。
というかむしろ気絶程度で済んだ自分の耐性にびっくりだよ。
ま ぁ ま だ 中 途 半 端 な 術 だ か ら 感 覚 系 し か 繋 が っ て な か っ た し
フィードバックが痛みだけだったってのが救いか。
それでも死ぬほどの痛みでショック死しなかったのは自分ながら
凄いと思う。
とはいえよくよく考えればFate世界で色んなもの︵UBWとか
王の財宝とか魔術の雨とかその他諸々︶を浴びている訳だから今更な
のだろうか。いやだなぁそんな殺伐とした耐久経験⋮⋮。
さておき話を戻すが、気絶してから数時間で俺は起きたらしいのだ
がその時点で第3偵察隊の帰還予定時間から大幅に遅れていたらし
く、先輩達は急いで帰らなきゃならなくなったのだ。
むしろ日が昇り切る前に帰還する予定だったらしいのだが、先輩が
怒られるのを覚悟で俺が起きるのを待ってくれていたらしい。健軍
934
さん達の方も同様に、事後処理やらなんやらと理由を付けて残ってく
れていたようだ。
だから先輩達は俺が起きるなり様子を見にきて、そしてそのままア
ルヌスの前線基地へと帰って行った。
じゃあ俺はどうして残っているのかというと、黒川さんが先輩にも
う少し休ませてあげて欲しいと伝えてくれたからだ。手をワキワキ
させて俺のケモ耳を見ながらだったので微妙な気分になったが、触る
ことよりも休ませてくれることを選んでくれたのだから本気で心配
してくれたのだろう。
ついでに言えば、捕えた盗賊達の監視役でもあったりする。
俺⋮⋮というか﹃恋するドラゴン﹄モードの姿の俺が居るだけで盗
賊達は暴れる気力を無くすようで、大人数を収容できるようには出来
ていないこの町にとっては大いに助かるそうだ。
そんなわけで、俺は先輩達にはついていかず、このイタリカに残存
しているというわけだ。
別に寂しくは無い。無いったら無い。
それに俺一人ならいざとなればアルヌスまでひとっ跳びだし、先輩
にはいざとなれば令呪を使って強制召喚するように言ってある。
正直言って令呪の存在理由って今の所無いしね。現状でいうと念
話を繋ぎやすくする程度だろうか。
本来、霊体であるサーヴァントを現界させ続けるために令呪が必要
だが、俺は元々生きてる状態だし、そもそもこの世界には契約前から
居る訳だから令呪が無くなってもデメリットは無い。
聖杯戦争中ならマスターとしての証だったりサーヴァントの強化
とか色々使い道があるようだが、よくよく考えれば聖杯戦争に参加し
てる時にそんなことに使われた覚えはない。イリヤがお仕置きと称
して遊んでたくらいのものだ。
強制召喚に関しても、原作でセイバーが士郎に令呪で召喚された際
は服が吹き飛ぶみたいなことが説明されていたが、最近来ている服は
地球産のものではなくいつものPSPo2服だ。﹃恋するドラゴン﹄
モードの時でも来ている服はPSPo2のブレザーだから何の問題
935
も無い。
ああ、そういえばその﹃恋するドラゴン﹄モードなんだが、それを
得るきっかけとなった大元の炎龍に関してだがまた一つ面白いこと
が分かった。
今まで俺はこの世界の人達の言葉が全く分からなかったし、こっち
の言葉も通じていなかった。
だがあれ以来何故か通じているのだ。
先 輩 も な ぜ か 頭 を 打 っ た 後 に 何 と な く 分 か る よ う に な っ た と か
言ってたが、それとは違って、自然に頭の中に溶け込んでくるように
なった。
だから喰らった時にその要素も俺は喰った為に言語を理
ひょっとすると炎龍ってのは人の言葉を理解していたんじゃなか
ろうか
解するようになったのかもしれない。
古龍とかってのはラノベ脳的に言えば言語を理解したり人の姿に
成るのは定番だ。
ひょっとするとあの炎龍も実は結構な知能を持っていて言語とか
解していたのかもしれない。
そういえば戦闘中も知能的な動きを見せていたしあながち間違い
ではないのだろう。
御陰で勉強しなくて助かったよ。
え、えっと⋮⋮﹂
まぁ文字は未だに分からないんだけどね。
﹁コウジュちゃん
﹂
﹂
その様子を見て自らの頬が引きつるのを感じながらミュイ吉と呼
かと焦ったミュイ嬢が涙目になっていた。
現実逃避から思考を戻せば、俺が黙っていたことで何か怒らせたの
!
﹁ミュイ吉
だ名というやつですね
どうぞお呼びください
〝きち〟というのが何かは分かりませんが、それはあ
﹁全 く 何 な の さ 落 ち 着 き な っ て の。ミ ュ イ 吉 っ て 呼 ぶ ぞ 仕 舞 い に は
!
936
?
﹁何でそんなテンション高いんだよこの幼女⋮⋮﹂
!
!?
!
﹂
べば何故か喜色満面の笑顔になったミュイ嬢。ちょろい⋮⋮、じゃな
くて何故喜ぶのか。
﹁ミュイ吉って呼んだ方が良いの
﹂
あだ名とは親しき間柄でのみ使われるものと聞き及んでい
部屋に来てるの
﹂
一応俺は敵国側の人間に当たる訳
?
うだ。
ミュイ嬢が親しくなることで力となってほしいという考えがあるそ
そしてメイド長としては、そんなイタリカを守る要となった俺と
盗賊達の護送の段取りが付くまで居ることになっているらしい。
いようにする為で、先輩達とピニャ皇女との間に結ばれた協定に則り
俺が未だにイタリカに残っているのも捕えた盗賊達が暴れ出さな
者である俺だということ。
えられており、さらに言えば炎龍を直接使役しているのは先輩の協力
今回のイタリカを守るための作戦を考えたのは俺だと先輩から伝
めるとこうだ。
そう思い問うたのだが、ゆっくりとミュイ嬢が語り出したことを纏
りもないが、些か不用心すぎる気がする。
幼女二人だから何かが起こる訳は無いだろうし俺自身起こすつも
人きり。
現在居る部屋は俺に与えられた客間だ。そこに、俺とミュイ嬢の二
﹁それは⋮⋮﹂
だけど、よくあのメイド長さんが許したなぁと思ってさ﹂
の土地の領主に当たる訳だろ
﹁いや別にそうじゃないんだけど、純粋な疑問だよ。ミュイ吉ってこ
何この罪悪感。
嬢。
再び涙目で、上目遣いで恐る恐るという風に俺の方を見るミュイ
﹁御嫌⋮⋮だったでしょうか⋮⋮
﹂
﹁んーまぁそれ自体は構わんがけど⋮⋮、てか今更だけどなんでこの
ます。なので私はミュイ吉で構いません
﹁はい
?
?
?
あとミュイ嬢自身から、若くして領主を引き継ぎ、それ以前からも
937
!
!
くだり
身分的に仲の良い同年代の存在が居なかったから仲良くしてほしい
のだとか。
ちゃダメだろう
う ん な る ほ ど。こ の 子 ポ ン コ ツ だ メ イ ド さ ん の 件 と か 言 っ
!
﹁はい
よろしくお願いします
﹂
﹁とりあえず、改めてよろしく⋮⋮かな
﹂
知りになってしまった以上、この子が傷つくところは見たくない。
ま、子ども同士の仲良くってのは流石に無理だが︵精神的に︶、顔見
人の諸事情とか理解しろってのは無理な話か。
って、そういえばこの子はまだ11歳だったな。そんな子に汚い大
!?
?
﹂
﹂
?
い事あると思う﹂
﹁よく解りませんが分かりました
◆◆◆
目の前で起こっていることに、俺は何という感想を言えば良いのか
﹂
﹁ちなみに文字は読まないようにね。身の危険が迫った時に読むと良
﹁これは、カード⋮⋮ですよね
﹁お、あったあった。これをお守り代わりに持っとくと良いよ﹂
最近実験中のある物が丁度ミュイ嬢を守るのに良いと思ったのだ。
言いながら、俺は懐に手を突っ込んだ。
﹁⋮⋮
﹁あ、そうだ﹂
守る、その単語にふとあることを思い出す。
守りたい、この笑顔。
邪気なものだ。
俺の言葉に嬉しそうに返すミュイ嬢。その笑顔は子どもらしい無
!
!
938
!
?
わからない⋮⋮。
何せ目の前では美人さん二人が黒い触手に塗れてあられもない姿
﹂
をさらしているのだ。どう反応すればいいのか⋮⋮、というかあると
ころが反応しそうで怖い。
聞こえないのか
いやだってこれ完全に薄い本展開だよ
こちらの非は詫びる
﹁フーッ⋮、フーッ⋮⋮﹂
﹁止めてくれ
!?
!?
あれだけ人に恐怖を与えていた炎龍に成れる後輩しな。
い。
どちらにしろ、後輩を傷つけるような存在が今のところ想像できな
るが正解だろうか。
後輩が死ぬような状況が今の所想像できない。いや死んでも生き返
正直なところ一人で残すことがちょっと、ちょーっとだけ心配だが
る。
だから一旦、俺から離れてゆっくりしてもらおうという魂胆であ
契約を結んでしまってからはそれが顕著だ。
後輩は元々誰かを守ろうとするきらいがあるのだが、サーヴァント
距離を置いてもらったのだ。
に最近の後輩は気を張り過ぎているような気がしたので一旦俺から
のための療養と盗賊達への監視の意味も確かにあるのだが、それ以前
何故後輩を置き去りにしたかというと、後輩自身に告げたように念
帰途へと付いた。
遡ること数時間前、俺は後輩をイタリカに置いたままアルヌスへの
なったんだよ。
目が覚めたらこんなことになってたんだけど、ほんとなんでこう
え込もうとするピニャ皇女殿下。
耐えるように蹲る後輩。その後輩を後ろから抱き付くようにして抑
そして厨二病を発症しているかのように片手を抑えながら何かに
!!
というか20ミリ機関砲を間接的にとはいえ気絶で済ませること
939
!
ができる後輩をどうにかできる存在が居るとは思えない。
そんなわけで、後輩を置いてアルヌスへと向かっていたんだが、そ
こで俺はとある集団に出会った。
端的に言えば薔薇だ。百合の可能性も微レ存。
とにかく女性だけの騎士団に俺達は遭遇したのだ。
しかしそこで問題が発生した。
掲げる隊旗からピニャ皇女から聞いていた薔薇騎士団だと判明し
たが、こちらの世界には遠距離での通信機器が存在しないため、彼女
た ち 騎 士 団 の 中 に は 俺 達 が ピ ニ ャ 皇 女 と 結 ん だ 協 定 は 存 在 し な い。
つまりその時点ではアルヌスから来た兵隊と言えば帝国と争う存在
なわけだから、彼女たちからしたら憎き怨敵になってしまうわけだ。
だから彼女たちは俺達の話を聞きそれに気づいた瞬間に剣を抜い
た。
当然そのままやられるわけにはいかないのだが、協定を結んだ手前
攻撃する訳には行かない。
だから、話を付けるために車から降りていた俺自身は仕方ないが、
問題を起こさないためにはそこから居なくなるのが一番と思い撤退
を命令した。
一人残される俺、自ら命令したとはいえやっちまった感が半端じゃ
なかった。
そしてそこからがまぁ地獄だ。
騎士のお嬢さん方は馬に乗ってるわけだが、俺は当然乗ってない。
乗せてくれるわけもない。
なので俺は走る馬⋮⋮、まぁ多少は速度を落としてくれてはいたが
それでも人の限界超えそうな速度で並走させられた。
それだけならまだ良かった。
その走り込みの最中に周りのお嬢さんからの熱いアタック︵物理︶
があるんだが、それが中々に堪えた。
しかも時折体勢を崩すほどの一撃とか足元を引っかけてくるから
転ぶわ怪我するわで大変だったよ。
この時ほど特殊作戦群とかに居たことを感謝したことは無い。い
940
ややっぱ今の無し。
とにかく心身共にボロボロにされながら何とか彼女たちの目的地
であるイタリカに到着した。
そこで限界を迎えた身体は思うように動かなくなり、お嬢さん方に
引きずられながらフォルマル亭へと引きずられながら再び戻ってく
ることになってしまった。
後輩は自分でいつでもアルヌスへ戻ってくることが出来るって話
だったので、イタリカに戻ってくるのは当分先の予定だったのだが、
あまりにも早い再訪問となってしまった。
そんなことを思っている間にも俺の意識は朦朧として来て、ついに
はシャットダウン。
﹂
そして次に目覚めた時には目の前でR18寸前の触手プレイが始
まっていたのだ。
だった。
﹂
極度の疲労とあんまりな眼の前の状況に全然気づかなかったがど
うやら俺の手当てをしてくれていたらしい。
﹁えっと、ちなみにこの状況は一体どういうこと⋮⋮
﹁あの馬鹿⋮⋮﹂
﹁恐らくそうでは無いかと﹂
﹁まさか俺の姿見てブチぎれた
﹂
瞬間にはああなっておりました。つい先ほどのことです﹂
﹁その、伊丹様があの女性騎士の方々に連れて来られた姿を見て、次の
?
そう思いつつも、俺の事でそこまで怒ってくれていることにどこか
しまったなぁ。あいつがここまでの反応をするとは思わなかった。
ふむ、現状の原因はどうやら俺にあるようだ。
?
941
﹁何⋮⋮この状況⋮⋮﹂
﹂
﹁お気づきになられましたか
﹁うお、メイドさん
!?
思 わ ず 漏 れ 出 た 言 葉 に 反 応 し た の は す ぐ 近 く に 居 た メ イ ド さ ん
!?
嬉しさも生まれてしまう。
慌てて顔を抑えると、メイドさんが首を傾げながらこっちを見てい
た。いえ何でも無いです。
さておき、どうやら様子を見る限り後輩は最後の一線を越えない様
に何とか踏み止まっているようだ。
その結果が触手プレイというのもなんともしまりが悪いが、後輩が
使っているのは例の泥だ。
このままもし泥が収縮したり剣の類いに変化しようものなら忽ち
にあの少女たちはR18Gに変化してしまう。
それだけは避けたい。
だが、近くにはあわあわ慌てているミュイ嬢も居るし、コウジュを
何とかしようとしがみつているピニャ皇女︵圧倒的に後輩の方が小柄
なのにビクともしていないが︶も居る。だから下手なことをしてしま
うと彼女たちを傷つけてしまうかもしれない。
﹂
是非よろしくお願いいたします
﹂
!!
でもごめんなさい。じつはそれほど大それたものではないんだ。
俺は重い身体をメイドさんに手伝ってもらいながらも動かし、後輩
の元へと向かう。
ピニャ皇女には悪いが、少し避けてもらって俺は後輩の耳元へと口
を近づける。
後輩は俺の事にはまったく気付いていない様で、目を瞑りながら
﹁考えるな考えるな﹂と呟き続けている。
結構まずい状況かもしれないな。
後輩は五感が昔からかなり優れている。今となってはビーストっ
て種だからと分かったが、昔は本気で驚いたものだ。
942
さてどうしたものか⋮⋮。
﹁あ⋮⋮﹂
﹁どうかされましたか
﹁それは真ですか
﹁いや、あの馬鹿を止める手立てを思いついたもので﹂
?
俺の思い付きに、眼を見開きながらお願いしてきたメイドさん。
﹁極めて了解、です﹂
!?
驚かせようと後ろから近づいても避けたり見る前から誰か気付い
たり、犬かと思うほどの嗅覚を披露したり、案外地獄耳だったり、色々
と五感が優れていることを何度も証明してきた。
しかし今は俺がこれほど近づいても自分の世界に入り込んでいる
かのように何の反応も無い。
今更になって俺の思い付きが通じるか不安になってきた。
だが、ここまできて止めるのもおかしな話か。
俺は、覚悟を決めて口を開いた。
﹂
﹁例のケーキ10個食わせてやるから落ち着け﹂
﹁まじで
ちょっろこいつ。
943
!?
﹃stage14:地球へ﹄
特地における自衛隊の前線基地、その中でも指令室に当たる部屋に
3つの存在があった。
﹂
中に居るのは伊丹耀司、コウジュ、そして特地方面派遣部隊指揮官
である狭間陸将の3名。
﹂
その3名を包む雰囲気はとても重苦しいものだ。
﹁伊丹二尉、もう一度聞こう。彼女の名前は
﹁えー、コウジュです﹂
﹁そうか、では君が懇意にしていたこの写真の少女の名前は
﹁コウジュスフィール・フォン・アインツベルンです﹂
﹁そうか。何とも面白い偶然があるものだな﹂
﹁あははは⋮、そうですね⋮⋮﹂
引き攣った笑いを浮かべる伊丹の横で、今まで沈黙を守っていたコ
ウジュがビクリと身体を振るわせる。
そのコウジュの表情は硬く、俯き気味だ。普段の彼女からは考えら
れない程に。
﹁コウジュ君、だったね﹂
﹁は、はいっ﹂
コウジュの姿を見て、嘆息する狭間。
狭間の姿に何か間違えたのかと怯え始めるコウジュ。
その姿を見て表情を渋くする。
﹁そう怯えないでほしい。何も君を取って食おうとは思っていないん
だ。ただ聞きたいことがあるだけなのでね﹂
取り直し柔和な笑みを浮かべる狭間の姿に少しだけ警戒を解くコ
ウジュ。
﹂
それでも未だに表情はどこか硬いものだ。
﹁聞きたいこと、とは何ですか
944
?
?
﹁君にも聞きたいのだ。この少女と君は何か繋がりが在ったりはしな
?
いかね
﹂
﹁えっと⋮⋮﹂
狭間の言葉にコウジュは言い淀む。
狭間が手にして見せている写真、そこに写っているのは明らかに銀
座事件の中で動いていたコウジュ自身の写真だ。ネット上に上げら
れている物とは違い鮮明に映し出されており、横顔ではあるがその容
姿は当然の事ながらコウジュに瓜二つである。
その写真を見せられたうえで、どう答えるべきか考える。
伊丹とコウジュの計画では、内部に協力者を作るのはもう少し後に
する予定だった。
しかし、アルヌスに戻り地球へと戻ろうとする寸前に狭間陸将から
の呼び出しを受けたためにここに来た。
そしてその時の呼び出しには、〝一緒に居る銀髪の幼い少女と共に
来るように〟との言伝が付属していた。
その言い回しから考えるに、コウジュと伊丹はバレていると悟っ
た。
ただ、何かの流れで火龍とのことを聞いただけの可能性もあるから
銀座での事との繋がりまではバレていないかもしれないなんていう
希望的観測も二人の中にはあった。まぁ今の言葉で確実にそれは幻
想だったことが証明されたわけだが。
そもそも何故秘密にしようとしているのかというと、一旦落ち着い
ているコウジュを捕獲しようとする動きが再び活発化しないように
だ。
確かに、正体を明かし自衛隊内の上層部で認められれば動きやすく
はなるだろう。
だが現状の子狐の状態でもそれほど不自由なく動けてはいるし、そ
れ以前にコウジュに関してはチートがあるため本気で逃げようと思
えば幾らでも方法はある。
だから正体を明かすことのメリットと言うと実はそれほど無いの
だ。
しかしここに来ての早い身元バレ。
945
?
コウジュは悪いことをした訳もないのに嫌な汗が流れていくのを
自覚する。
そんなコウジュを見かねてか、狭間がゆっくりと口を開く。
﹁関係が無いのならそう言ってくれれば良い。言いたくないことがあ
るのなら別に言わなくても良い。だが、これだけは言わせてほしい﹂
そう言いながら狭間は陸将としての表情を見せ、コウジュの目を見
ながら続けた。
﹁もし、もし君が銀座事件の少女と知り合いならばこう伝えてほしい。
我々の上層部は確かに君の存在を欲した。だがそれは本意ではない。
付け加えて言えば、あの日以来あの少女の事を行政機関などに聞いて
くる民間人が増えた。その人達は興味本位で情報を聞こうとしてい
るのではなく、感謝の言葉を伝えたいとの言葉が大多数だ。そして
我々自衛隊も、言わなければならない言葉がある。ありがとう、民間
人を救い我々の仲間をも救ってくれた少女に最大限の感謝を﹂
言わなくていいと言いつつ、その言い方は完全にコウジュが銀座の
少女と同一人物であると確信しているものだ。そして、同時に頭を下
げた。
その姿に、コウジュは戸惑う。
ここで偶然居合わせただけだと答えるのは簡単だ。
だがそれでは、狭間が気を利かせてくれている今までの言葉を無駄
にする。
コウジュは口を開いて閉じ、どう言葉を返せばいいか悩む。
チラリと、助けを求めるようにコウジュは伊丹を見た。
すると伊丹は静かに頷きながら笑みを返す。
それを見て、コウジュは言う言葉を決めた。
﹁その写真の少女とおr⋮⋮私が一緒かは分かりませんが、きっとそ
の子はこう言うと思います。たまたまそこに居ただけで助けること
が出来る術があったからそうした。自分がやりたいことをしただけ
で、感謝されるのはむず痒い、と﹂
コウジュの言葉に、狭間は笑みを浮かべながら会釈する程度にだが
再び頭を下げる。
946
しかしその会釈には最大限の感謝が込められているのを伊丹とコ
ウジュは感じた。
そして再び顔を上げた狭間は唐突に破顔した。
﹁何とも写真の少女は恥ずかしがり屋なのだな﹂
﹁そうみたいですね﹂
狭間の雰囲気が先程までとは違い比較的軽いものになったことで
伊丹とコウジュは胸を撫で下ろし、表情を釣られる様に柔らかくし
た。
しかし油断したところへ爆弾を落とされる。
﹁それにしてもこの写真の少女が銀座事件の裏の立役者だとよく知っ
ていたね。この精度の写真は一般には出回っていない筈なんだが﹂
ビキリと、伊丹とコウジュの表情が固まる。
そして二人一緒にたらたらと汗を流し始める。
その様子を見て、狭間は声を荒げて笑い出した。
﹁ははははははっ。すまない、冗談だ。許してほしい﹂
そう言いながらも笑いを我慢しきれないのか、その後も何度か笑い
声を漏らす狭間。
それを見て安堵の息を漏らす伊丹と、どこぞの魔女嫁さんのような
やり辛さだとジト眼を向けるコウジュ。
二人の様子を見てゴホンと狭間は咳払いを一つし、次の瞬間には真
剣な表情へと戻ったため再びこの部屋を重苦しい空気が包む。実力
でもって成り上がった老獪さを無駄な場所で示してみせた瞬間であ
る。
﹁嘘吐きになれとは言わんが、君達はもう少し感情が表情にでないよ
うした方が良いかもしれんな﹂
﹁大人って汚い・・・・・・﹂
狭間の言葉にうへぇとあからさまに嫌な顔をするコウジュ。
そんなコウジュを横目で見ながらボソリと伊丹は呟いてしまう。
﹁お前もう40越えてるだろうに﹂
その呟きを聞きコウジュはギンっと伊丹を睨む。
コウジュの耳は文字通りの獣耳。どれだけ小さかろうとこの距離
947
﹂
ではその呟きを拾ってしまう。
﹂
﹁誰がエタロリだごらぁっ
﹁誰も言っとらんわ
だの痴話喧嘩だった。
やれやれと首を振る狭間にも気付かず二人は舌戦︵
?
﹂﹂
その際に数人の死者が出ている。
丹率いる第三偵察隊が関わった炎龍討伐に関することだ。
内容は自衛隊の特地派遣に関するものだだろう。厳密に言えば伊
この後、伊丹は門を再び潜り参考人招致への参加が決定している。
ふむ、と狭間は思案する。
後々の為になる。
経 験 上 的 に も こ う い う 人 種 は あ る 程 度 自 由 に さ せ て お い た 方 が
いやむしろ変に考えると疲れそうだと心のどこかで囁いていた。
夫だと告げている。
今までにも何度となく世話になってきた直感が、この二人なら大丈
気がしてきたのだ。
しかし伊丹とコウジュの二人を見ていると案外何とかなりそうな
だった。
元々、狭間がこの場に伊丹と少女を呼び出したのは注意をするため
人あきらめにも似た納得をすることにした。
いつの間にか外野にされてしまった狭間は、これなら大丈夫かと一
﹁すまない私が悪かった﹂
﹁﹁痴話喧嘩じゃないですっ
﹁話を振っておいてなんだが、痴話喧嘩は余所でやってくれ﹂
だが流石にこれ以上は話が進まないと狭間は止めることにした。
ものへとシフトしていく。
それも次第に言う言葉が思いつかなくなってきたのか低レベルな
ていく。
︶を繰り広げ
ヘタレだのうっかりだのと罵りあってはいるが、狭間から見ればた
そうして始まったいつものじゃれ合い。
!
!
コラテラルダメージだと捨て置くつもりはないが、それでも炎龍に
948
!
関する報告書を見た上で狭間はよくやったとしか言えない。
ただ問題は報告書と実際が違うという事。
・・・
報告書では自衛隊の火器による成果となっているが、実際に見てい
た元コダ村住人からの情報ではとある少女が吹き飛ばしたとあった。
一応あまり言いふらさないようにと言われていたようだが、その情
報源の住人を責めることは出来ない。彼らも明日を生きるための糧
を欲しているのだから。
だがその情報が既に一部に出回ってしまっている。参考人招致に
おいてその辺りをつつかれるのは確実と言える。
狭間は考えを纏め、改めて二人を見た。
伊丹とコウジュの二人は一応の決着をつけたのか、双方ともに何故
か落ち込んでいた。どうやら互いに言葉のクロスカウンターを打ち
合い諸共に沈んだようだ。
その二人を見て、狭間はニヤリとした笑みを浮かべた。
・・
949
今から二人に伝えることはメリットデメリットの両方があるが、こ
の二人が上手く切り抜ければ色々と掃除が出来る。そしてそれが出
来ればこの二人も多少は生きやすい世の中になるだろう。
そんな思いから、少しばかり二人には苦労してもらおうと考え、狭
間は口を開いた。
﹂
﹄
﹁さて、話が付いたようなので少しばかり聞いてほしいことがあるの
だが良いかね
◆◆◆
﹂
﹃俺は、帰ってきた
﹁やかましい
!!!
?
!!
くー
と俺の頭の上で甲高い鳴き声を上げながら、念話でも叫ぶ子
狐状態の後輩。
久しぶりの地球だからってテンション上げ過ぎだ。
﹄と届くが知ったことではない。テュカの後
罰として俺は、後輩をテュカへと預けることにした。
念話で﹃裏切り者ー
さすがにそのままにするわけにもいかず話し合いをし、とりあえず
かったと思われたようだ。
話を聞けば、俺が断りに行ったことで謝罪を受け取ってもらえな
に行ったんだが、何故か泣かれてしまった。
なので俺はピニャ皇女にそんなことはしなくても大丈夫だと告げ
して欲しい。
しくない⋮⋮というかそんなことをされると殺されそうなので勘弁
何故ボーゼスさんが俺の部屋に来たかはまぁ察しが付くが、正直嬉
トラウマが生じてしまっているらしい。
すぐに帰ってしまった。どうやら後輩と恋ドラモード︵炎龍︶の姿に
た姿の女性が居る状態であったためボーゼスさんは見るなり慌てて
だがそこには後輩と、後輩が産みだした恋ドラモードと名付けられ
へと送り込んできた。
の言葉を告げると共に部下のボーゼスさんを際どい格好で俺の部屋
だから、イタリカで後輩が落ち着いてすぐにピニャさんは俺へ謝罪
てたらどうにかしないとまずいと思うよな。
だ。まぁ客観的に考えれば炎龍やその他を使役している幼女が怒っ
うやらピニャ皇女にかなりの焦燥感を与えてしまったからの様なの
それは何故かというと、イタリカで後輩がキレてしまったことがど
だったりする。
何故ピニャ皇女達がここに居るかというと、まぁこれも後輩の所為
たメンバーは門を潜り地球へと来ていた。
ピニャ皇女と御付として縦巻きロールが素敵なボーゼスさんを加え
さて、俺達第三偵察隊と後輩、テュカ、レレイ、ロゥリィ、そして
ろでは黒川も待っているから大人しくしてなさい。
!
お偉いさんの方と話を付けてもらうことにした。
950
!
人はこれを他人任せというかもしれないが、俺が決めて良い問題で
ないのだから仕方ない。いやー、ほんと申し訳ないなー、俺には決め
る権限が無いから上の人に任せるしかないんだよなー。
だがそれがピニャ皇女にはとてもうれしい事だったらしく、また泣
かれた。
上層部に直接話をさせてもらえるなんて何ともありがたいだとか
言われかなり良心が痛んだが、まぁ本人が喜んでいるのだから良いと
いう事にしておこう。
そんなわけで、ピニャ皇女はボーゼスさんと一緒にこちらへと来た
わけだ。
あとのテュカ・レレイ・ロゥリィの3人に来てもらったのは国会招
致で少し手伝ってもらおうと思ったからだ。
今回の国会招致では数人の現地住人を共に連れて来るよう言われ
ていた為、この3人に協力してもらうことにした。
最初は上手く後輩に演技してもらおうと思っていたのだが、狭間陸
将との話でそれはやめておいた方が良いと言われてしまった。
後輩の写真は狭間陸将だけでなく各国含めての一部上層部にも出
回ってしまっているらしく、別の問題が発生するだけだとのこと。
だが、その際に別の案を提示された。
内容に関しては未だに大丈夫なのかと思う部分もあるが、後輩に関
して大体の事︵報告書に書いていないことも含めて︶を言った上で提
案されたので恐らく大丈夫だろう。
一応狭間陸将からやりたくなければやらなくても良いと言われた
が、後輩自身がそれを了承してしまった為、俺からは何も言えなく
なってしまった。
しかし逆に考えればこのタイミングで特地における自衛隊のトッ
プを味方に付けることが出来たのはかなり大きいだろう。
俺自身が組織に属している以上、ある程度はその規律を守らなけれ
ばならないのは確かだ。
その辺りの便宜を狭間陸将自ら融通すると言ってくれたのだから
むしろ良いこと尽くめの気もする。
951
実際、後輩の事に関しても〝特地における協力者〟ではなく〝異世
界に関しての助言者〟として協力体制を敷くことが出来たと上層部
に上手く報告してくれるそうだ。
そして上手く行けば後輩も今より自由に動けるようになるし各国
さもない
の動きも多少牽制できるとのこと。そのためにも、国会招致で後輩に
は頑張ってもらう必要がある。
﹄
難しい顔してないでいつもの喫茶店行こうぜ
そう、狭間陸将は告げた。
﹃先輩
とモフられ過ぎて意識飛んじゃう
俺の思考を遮るように、後輩からの念話が届く。
とりあえず、前へと進む準備が出来たので︵若干2名の鋭い視線を
輩に持ち出すと若干難しい顔をするのだ。
ロゥリィ自身はコウジュの事に興味があるようだが、彼女の話を後
意識を持っているようだからやめておいた。
ロゥリィでも良かったんだが、後輩はロゥリィに少しばかりの苦手
話なので、とりあえずモフられる心配はないだろう。
レレイは後輩とよく話をしているしその中身は魔法がどうとかの
今度はレレイに預けることにした。
しかしながらこのままでは二人して全く前に進みそうにないので、
計にモフり倒したいのだろう。
ているので現在は子狐モードな後輩だ。だから久しぶりに触る分、余
た後輩だが、国会が終わるまでは暫く元の姿にはならない様に言われ
特地では狭間陸将との話以降は比較的元の姿で居ることが多かっ
なってほしいと告げていたりする。
ていると安心感が得られるそうで、暇があれば後輩に子狐モードに
黒川はともかくテュカに関しては何やら後輩︵子狐モード︶に触れ
良く後輩を弄りまわしていた。物理的に。
後輩の方を向けば、いつの間に仲良くなったのかテュカと黒川が仲
!
受けながら︶俺は敷地の外へと出るための手続きをしに行くことにす
る。
952
!
!
しかしそこで何やら近づいてくる人影があった。
﹁伊丹二尉、情報本部から参りました駒門と言います。皆さんのエス
コートを仰せつかっております﹂
その言葉と共に現れたのは何とも胡散臭い男だった。
恐らく、調査を主な仕事とする公安調査庁の人間だ。
﹃何この胡散臭い人﹄
お前も大概胡散臭いからな。
﹂
後輩の念話に頭の中でツッコミを入れながら、俺はその胡散臭い人
と話を続ける。
﹁おたく公安の人
﹁んふふ、分かりますか。さすが二重橋の英雄は違いますな﹂
﹁運が良かっただけだよ﹂
本当に運が良かっただけだ。
実際、ほとんどの敵兵を無力化したのは後輩だ。
俺は偶々目につきやすい位置に居た。それだけの話。
そこからは少し駒門さんと話をした後、いくつか情報交換をしてバ
スに乗り込んだ。
その際に駒門さんが調べた俺の経歴について栗林がSAN値を削
られたかのように騒いだが、まぁ置いておこう。
そのあとはバスに乗り込み、現在の服装のままテュカ達を国会に参
加させるわけにもいかないので近くのスーツと言えばなあの店で
テュカ用の服を買った後いつもの喫茶店へと訪れた。
﹁いやー、ここも久しぶりっすねぇ﹂
﹁まったくだな。あの日もここに来てたっけか﹂
感慨深げに言う後輩。
その姿は元のものへと戻っている。
この喫茶店へは昼食を取るために来たので、さすがに子狐状態のま
ま食べるわけにも行かず戻っているのだ。
﹂
﹁ちゃんとメールしといたんで、もう料理は出来てると思うっすよ﹂
﹁ちゃっかりしてるなぁ。でもひとり500円までだぞ
?
953
?
﹁あはは、残りは俺が出しますよ。地球にいらっしゃいませってこと
で﹂
そう言いながらがま口の財布を取り出す後輩。
お前はいつの時代の人間だ。
そうツッコミそうになるが不思議と似合っているので言葉にはし
なかった。
容姿は完全に日本人じゃないのになぁ⋮⋮。
﹂
﹁いらっしゃいませコウジュちゃん。準備は終わってるわよ﹂
﹁ありがとうございます
店の前に居たのに気づいたのか、いつもの店員さんが中から出てき
た。
後輩は我先にと中へと入っていく。
このままだと後輩に全部食べられてしまうかもしれないので、俺達
も続いて中に入る。
﹁へぇ∼、何だか落ち着く場所ねぇ﹂
﹁おいしそうな匂いがする﹂
﹁ほんとだわ。私お腹すいちゃった﹂
ロゥリィ、レレイ、テュカはそれぞれ感想を言いながら、店内に入
り周りを見渡しつつ俺に続く。
先導しながら奥へと進めば、後輩がカウンター席でマスターと楽し
げに話をしていた。
﹁あ、先輩こっちこっち。いつものテーブルに準備してくれてあるっ
てさ﹂
後輩の言葉を聞きいつもの席へと目をやればいくつもの美味しそ
うな料理が並んでいた。流石に一テーブルに全員は座れないのでそ
の隣の席などにも置かれている。
無意識に俺の腹が鳴る。
後ろには聞こえなかったようだが、後輩がニヤついていた。
この野郎、とジト目を向けると同時、全員に聞こえるほどにグゥー
と音が聞こえた。
見る間に真っ赤になる後輩。
954
!
とりあえずニヤニヤしておく。
帽子を深く被り顔を隠す後輩、その姿を微笑ましく見守っているマ
スターに顔を向けて会釈する。
﹁マスター、いつもすいません﹂
﹁いやいや、伊丹君とコウジュ君の頼みだ。いつでも構わないよ。そ
れにまだ準備時間だ。周りを気にする必要もない﹂
マスターをこそロマンスグレーと呼ぶべきだと思う。
歳は既に六十を超えているそうだが、顔に出来た皺は衰えを現すの
ではなく、過ごしてきた人生の重みを感じさせるものだ。
コーヒーを点てることが趣味だと言うマスターは、柔和な笑みを浮
かべながら親指を立てる。
後輩の紹介で訪れるようになった喫茶店だが、このマスターには頭
が上がらない。
今回も、人目に付かず食事する為に急遽お願いしたのだが快く了承
そう言ってくれるマスターに再び会釈。
それに対してマスターはニコリとするのみだ。
ちなみに、後輩曰くココアも絶品だそうで、いつも後輩はココアを
955
してくれた。
店の2階が家なのだそうだが、それでも開店前の準備もあるだろう
にほんと申し訳ない。
ただ、前に聞いたんだがこの店が潰れそうになった時に後輩が何か
手助けしたらしく、そこから家族の様な付き合いをしているそうで祖
父と孫のような関係になっているそうだ。だからマスター自身から
遠慮は無用とは言われている。
それでも気にしてしまうのが日本人というものだろう。 ﹂
﹁ほらほら、料理が冷めてしまうから先に食べてしまいなさい。食後
﹂
にコーヒーも淹れよう。お嬢さん方は紅茶の方が良いかね
﹁あ、俺はココアが良いです
﹁分かった。いつものだね﹂
﹁まったくお前は⋮⋮﹂
?
﹁ふふふ、構わないさ。普段頼ってくれないから嬉しい位だよ私は﹂
!
頼んでいる。
そしてその後輩は、カウンター席からいつもの窓際の席へと移動し
た。
マスターが言ってくれているのに続けるのも失礼なので、俺も皆を
適当な席へと誘導し、自身もいつもの後輩の前へと座る。
すると、奥から店員さんが残りの料理を持って来てくれた。
スープ等の温かいものは出来立てで食べられるようにしてくれた
ようだ。
そして準備が終わり、店員さんは礼をして奥へと戻った。マスター
も気を利かしてくれたのか、奥へと入っていく。
﹂
その二人に感謝しつつ、俺は後輩へと目を向ける。
﹂
﹁良いのか
﹁何が
﹂
皆、ここはコウジュの奢りだそうだ
﹁さて、腹も減ったし食べるか
!
﹁え、全 部 い や ま ぁ 良 い け ど ち ょ っ と 足 り な い か も ⋮⋮。ひ ー
﹂
から好きなだけ食べて良いぞ
!
誤魔化すように俺は声を上げた。
その言葉に、何やら俺も照れくさくなる。
﹁分かってるっすよ先輩。でも、ありがとう﹂
﹁無理はするなよ﹂
それに気づかなかったフリをして、俺は目線を外へと向けた。
なるほどただの照れ隠しか。
いや、よく見れば頬が微かに紅くなっている。
これだから残念娘と言われるんだ。
良い事言ってるのに目が料理にしか行ってないぞお前。まったく
るなら俺はするよ﹂
﹁うん、分かってる。でもこれで俺の周りの人に迷惑が掛からなくな
﹁まぁ、色々だよ。もう後戻りはできないぞ
?
他の席ではそれぞれ料理に舌鼓を打ちつつ食事を開始したようだ。
慌てて財布を取り出す後輩。そして中身を確認しだした。
ふーみー⋮⋮﹂
!?
956
?
?
えっと、いただきます
って熱っつぃ
俺も、目の前の料理へと手を付けていく。
﹁あ、ずるい
﹂
!?
国会でこいつの生贄になるのは誰なんだろうなぁ⋮⋮。
その姿を見て、俺は思う。
相変わらず食べ物に関してはいつも全力だよな。
それでも負けじと涙目でステーキを口へと運んでいく後輩。
お前また猫舌なのを忘れてたな⋮⋮。
しい音と匂いをさせているステーキプレート。
だが後輩が最初に口にしたのは現在進行形でジュージューと芳ば
いかけるよに箸へと手を掛けた。
財布から目を上げた後輩が俺達が先に食べ始めたのに気付いて追
!
とりあえず、被害が最小限になることを切に願う。
957
!
﹂
﹂
﹃stage15:ハナシアイ﹄
﹁あなたお馬鹿ぁ
﹁い、いま、なんと⋮⋮
﹂
﹁あなたはお馬鹿さんですかぁって言ったのよぉ、お嬢ちゃん﹂
﹁お嬢ちゃん⋮⋮ですって⋮⋮
をこそ教義としている。
在ではない。むしろいずれ来る死の瞬間の為に悔いなく生きること
ロゥリィが仕える死と断罪の神は決して命を否定し死へと誘う存
てきた存在だ。
醜い本性を現す。ロゥリィが何度となく見、そして何度となく断罪し
他を蹴落とすことでその場に居るような輩は総じて死を前にして
ぶっちゃけて言えばロゥリィからすれば嫌いな人種だった。
る。
答えでもって自分の言い分を通そうとしているのが透けて見えてい
て侮っている。第三に、どのような回答をしてほしいか、そしてその
まず第一に、見当違いの質問をしている。第二に、見た目で判断し
理由があって目の前の女に対して言い返すべきだと判断したが故だ。
だがそれは、ただ馬鹿にしている訳ではない。ロゥリィは純然たる
とした態度で目の前の女性を嘲る。
亜神たる彼女は、この場だけでも多数の人間が居るというのに堂々
主の名はロゥリィ。
そして大音量で以て本国の人間かと思うほど流暢な言葉で答えた
そんな中、とある議員の発言に対する答えが冒頭のものだ。
た。
的に行われているこの場の視聴率はかつてないほどに高くなってい
まれたから早数時間が経過したころ、公共のチャンネルを通じて義務
某巨大掲示板に置いて特地の人間が国会中継に出ていると書き込
?
しかし目の前の女は己を偽り言葉を偽り他者を貶める言葉を吐く。
958
?
?
これを前にしてロゥリィが黙って居られる筈もない。
﹁まったく、あなたのような輩が居るこの国の兵士は大変苦労してい
・・
るでしょうねぇ。彼らの自衛隊は勇敢に闘い撃破したわぁ。そして
彼女と共に村人を救った。確かに死者は出たでしょぉ。でもそれ以
上にぃ、炎龍を前にしてあれだけの命が残っていることこそを称える
べきよぉ。彼らが行ったのはぁ奇跡にも等しいということを理解す
るべきねぇ﹂
ロゥリィは予め言われていたことに気を付けながらも自身が感じ
たことをそのまま告げた。
それは紛う事なき本心だった。
はるか昔から炎龍は数多くの英雄を喰らい、貪り、その命を無へと
還してきた。
ロゥリィ達の世界において炎龍とは災害そのもの。災害を打破し
ようなど出来るはずもない。
持つフリップボードを叩くようにしながら放送機器に向かってア
ピールをする。
全国に放送されているこの場で少女に言い負けては自身の立場が
危うい。さらに言えばここで敵対している派閥にダメージを与える
ことができれば自身の立場は盤石となる。多少の不敬は大人らしく
大目に見て言い包めなければならない。
そう言った心情で以て言葉を続けた。
だがそこで女性議員は気づくべきだったのだ。
既にそのやり方は当人以外の全てに対して効果を齎してはいない。
そもそもその言葉は人の心に響いては居なかった。
当然だ。その場を見て当事者であり被害を被った人々と共にあっ
959
だがそれが行われたのだ。
褒め称えこそすれ、どうしてもっと上手くできたはずだと責められ
ようか。
﹂
﹁しかし彼らに死者は出ていないのに現地民にだけ被害が出ているわ
それが職務怠慢と言わず何と言うの
!
ロゥリィの言葉に女性議員は負けじと声を張り上げる。その手に
!
たロゥリィの言葉と、数字の話ばかりをして上げ足を取るだけの女性
議員。
この場の趨勢は決まっているようなものだ。
﹁ほんとぉにおばかさんねぇ。前線に立つ兵士が倒れてしまえば誰が
後ろに居る人間を守るのよぅ。あなたみたいな後ろで踏ん反り返っ
ているだけの人間がそんな言葉を口にできるのは前に立って守る人
間が居るからなのよぉ それを忘れて前の兵士を貶すだけでは誰
もそのうち守ってくれなくなるわぁ﹂
長い、この場に居る誰よりも長い生を生きてきた少女の言葉だ。
それはその可愛らしい見た目に反して重く人々の心に浸透してい
く。
﹁お、大人に対する礼儀を弁えていないようね⋮⋮﹂
だが目の前の女性議員には届いていなかったようだ。
言葉を拒絶し、自身の思惑通りに行かないこの場にただ憤っている
故に響きはしない。
そしてその在り様に、ついにロゥリィは断罪するべきかと己の武器
を握り直す。
持ち歩くと目立つという事でとある少女から渡されたカードの中
に収納していたが、正式な場という事で取り出していたのだ。布に包
まれているとはいえ巨大なそれに周囲は慄く。
しかし仕方ないのだ。
ルー ル
言って分からないのであれば魂となって浄化された方が早い。
それがロゥリィの関わる世界での教義。
敬虔な使徒であるロゥリィにとって眼の前の存在は害悪でしかな
い。
﹂
﹂
﹁少しお待ちください
﹁ちょ、ちょっとぉ
が居た。
伊丹耀司だ。
彼はロゥリィを押しのけるようにして前に立つ。
960
?
!!
しかしロゥリィによる断罪が行われるよりも早く、声を上げる存在
!
ロゥリィは仕方なく﹁良い所なのにぃ﹂と言い、手にしていたもの
を再び収納しながら与えられた席へと戻る。
常に傍に在った物が無くなるのはどこか落ち着かないが、伊丹に任
せるというロゥリィなりのアピールだった。
それを見てほっとっする伊丹。
そしてすぐさま、この場の皆を見回しながら再び口を開く。
﹁我々は門の向こう側に行き、様々なものを見ました。そして、こちら
の常識が向こうでは通用しないことを知りました。その一つが年齢
です。
私たちは日常の中で年功序列等と言う言葉を使いますが、その言葉
﹂
で当てはめれば、こちらに居るロゥリィ・マーキュリーはこの中で最
も敬われるべき存在です﹂
﹁ちょっとぉ、その言い方は無いんじゃないのぉ
ロゥリィから非難の声が上がるがその表情はニヤニヤとしたもの
に変わっていた。
ちらりとそちらを見た伊丹は心の中で最近増え気味な溜息をつき、
改めて前を見る。
どうやらロゥリィは直接を手を下すことをやめて場の成り行きを
﹂
見守る体勢に入ったようだと判断した伊丹は元々やろうとしていた
ことの為に軌道修正を図る。
﹁ロゥリィ、悪いが年齢を言ってくれないか
﹁まったくぅ。私は961歳よ﹂
ロゥリィが告げた年齢に場が騒然となる。
も何人いるかというレベルなのに、千に届こうかという年齢を言われ
てしまえば驚かざるを得ない。
﹁ち、ちなみに⋮⋮﹂
未だ伊丹の対面に立っていた女性議員が、何とかそう口にした。
完全に先の一言で場の流れを持っていかれてしまった彼女はそこ
まで言うのが限度だった。
しかし彼女の言葉と共に目を向けられたテュカは、その言葉の意味
961
?
しかしそれも当たり前だ。現代日本には100歳を超えるだけで
?
を理解して憮然と答える。
﹁165歳﹂
再び議事堂内が騒がしくなる。
女性議員はついに言葉を出すことも忘れて、その隣に座る少女へと
目を向ける。
目を向けられたのはレレイだ。
彼女もまた答える。
﹁15歳﹂
ホッと、その場に居た者たちがそう口にする。
別に見た目に反する年齢の何が悪いという訳でも無いが、レレイま
でもがありえない年齢であった場合には議員たちは放心してしまっ
ていただろう。
しかし、ホッとしたのも束の間、彼らは結局頭を悩ませることにな
る。
962
何故ならレレイの隣にはもう一人、銀色の少女がまだ座っているの
だから。
おれ
そして女性議員は、多少持ち直した心で以て何歳かとその少女に問
うた。
﹁ふふん、己は精々数日だな﹂
お前のようなゼロ歳児が居るか。
この場に居るものだけでなく、カメラを通したその向こう側の全員
が同時にそう思った。
なにせそう告げた少女、否、女性は女学生が着るようなブレザーを
おれ
着てはいるがモデルも斯くやと言わんばかりのプロポーションを
誇っていた。
﹁ああ、敢えてこう言おうか。己は数日前に一度殺され、そして再構成
されたのさ﹂
足を組み、尊大に座るその女性はその場に居るものを睥睨するかの
おれ
ように告げる。
﹂
﹁己はさっきからお前たちの話に出てくる炎龍だよ。マグロ食ってる
イグアナ擬きとは一緒にしてくれるなよぅ
?
◆◆◆
場の空気が凍った。
日ごろから空気を読む︵読み専︶ことに気を付けている俺じゃなく
てもそのことには皆気付いているだろう。
今俺の後ろで銀髪の女性が告げた〝己が炎龍〟だという言葉を聞
いたのがその原因だ。
︶が聞いていたとは誰も思わない
空飛ぶ戦車だとかタングステン並みの強度だとか色々とあれこれ
言われていたのをその本人︵本龍
だろう。
だが当然ながら実際には違う。ここに居るのは後輩が遠隔操作し
ている泥人形︵恋ドラver︶なのだ。
しかしそんなことここに居る人間には判断が付かない。
だからこそ、俺たち以外の人間は凍り付いたように反応できなく
なっている。
そしてこれで良いんだ。
この状況こそ、俺達の作戦への第一歩。
﹂
﹁皆さん驚くのは仕方ないと思います。しかし彼女が炎龍だというの
は確かです﹂
﹁ははは、昨今の自衛隊は演劇の練習もするのかね
引き攣った顔で、議員の一人がそう言いだした。
すことが出来る存在と協力関係を結ぶことができました﹂
て我々は、彼女を御すことが出来ています。いえ、正確には彼女を御
﹁いいえ、改めて言いますが彼女が炎龍だというのは本当です。そし
ならもう一手だ。
かったな。
さ す が は 古 株。こ れ だ け 場 を 掻 き 乱 し て も 再 起 動 す る ま で が 早
俺の記憶によれば結構な古株で各方面に顔が利く議員だったかな。
?
963
?
・・
﹁何を言って│││﹂
﹂
﹁失礼ですが これに気付くことが出来ていた方はいらっしゃいま
すでしょうか
古株議員の御陰で続いて再起動できたらしい女性議員の言葉を遮
るように声を上げて話す。
・・
進行係の人は既に混乱しているのだ。あとは残る議員の余裕を潰
すだけ。
その為に、俺は俺が立つすぐ横に在るモノを指さしながら告げる。
﹁何もないじゃないですか﹂
何を馬鹿なと鼻で笑うように言う女性議員。
ありがとう、と俺は心の中で言う。
全く以て予想通りの返しだ。
御陰で良い引き立て役だよ。
﹁いいえあるんです。認識できていないだけでここにはあるんです。
テ レ ビ で 見 て い る 方 な ら 気 づ い た 人 も 居 る か も し れ ま せ ん。直 接
・・・・・・・・・・・・・・
じ ゃ な い と 効 果 は 薄 い ら し い で す か ら。 だ か ら、 こ こ に
﹂
段ボール箱が不自然にあること に 気 付 い た 人 が そ ろ そ ろ 出 て く る ん
じゃないですか
﹁あ⋮⋮﹂
いや、無いな。
?
人が出てきた。
同時、ガバっと勢いよく段ボール箱が空に飛んだ。正確には中から
俺はボソリとそう口にする。
﹁後輩、出番だ﹂
さておき、ここらがいいタイミングだろう。
ているのだろうか
疑ってかかればまず見つけられない筈なのに案外純粋な心も持っ
驚くことにその中の一人は目の前の女性議員だったりする。
続けるように、周囲のあちこちから驚く声が聞こえはじめた。
に居る誰かが目にすることが出来たようだ。
知っていれば容易く意味をなさなくなるらしいこれ。それをこの場
そう漏らしたのは誰だったか、在るという前提で見るか在ることを
?
964
!
?
﹄
﹁待たせたなぁっ﹂
﹃
中から出てきた後輩の姿に、飛び上らんほどに驚く面々。
そう、恋ドラちゃんを操作する一方で、後輩は段ボールの中でステ
ルスモード︵子狐モード+畳︶になって隠れていたのだ。
その後輩が段ボールを脱ぎ捨てると同時に人型に戻って周囲へと
アピールする。
それが立て直され始めた人々の心へとダイレクトアタックする。
目の前の女性議員なんて大口を開けて阿呆面を曝してしまってい
る。俺が言うのもなんだが全国放送でその顔はマズいと思うの。
しかしそれだけ驚きに包まれ思考を停止してしまっているという
ことだろう。
よく見れば女性議員だけでなく周囲の何人もがそうなってしまっ
ている。
好機、かな。
﹁さて皆さん、ここに居る彼女⋮⋮コウジュこそが炎龍を御し、そして
あの銀座事件で活躍したもう一人なのです。どうしてこんなことを
したのか、そう疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。しかしこれは
ある話を聞いて頂くためのデモンストレーションなのです﹂
そう、俺は斬り出していく。
未だに頭の中が整理しきれない人物が数多く居る様で、俺の話を切
ろうとする者は居ない。
﹁今から数か月前、銀座に置いてある事件が起こりました。通称﹃特
地﹄と呼ばれる世界との間に門を介して繋がりが出来てしまい、そし
てその門から突如侵略者たちが現れました。
銃刀法という法があるこの日本において、それに対する手段などあ
りません。別に銃刀法がどうとか言うつもりは勿論ありません。た
だ、そんな平和な日本を脅かす存在に対してすぐさま対応できる人間
が居なかったのです。たった一人を除いて。
話は変わりますが十年ほど前、実は既に一人の異世界からの来訪者
は居たのです。その存在こそが銀座事件を最小限に留めた立役者な
965
!?
のです﹂
﹃ちょ、先輩
台本と違う
﹄
この辺りも陸将とともに作戦を詰めた部分だが、陸将曰く、
﹁デカい
け足された情報の信用度を下げる。
いていてもらう必要があった。そして先んじて言うことで、後から付
だからそれを最小限にするために、静かに頭の中を空っぽにして聞
そこに余計な前情報が入ってしまえば余計にだ。
捉え方も変わってしまう。
言葉というものは難しいもので、同じ言葉でも捉える人間が違えば
ろう。
御陰で今話していることはスルスルと頭の中に入っていくことだ
てもらう必要があった。
その為に、無駄にパフォーマンスをして全員の頭の中を空っぽにし
を提供すること。
あの人に言われた提案、それはこの場において先んじて後輩の情報
勿論情報源は狭間陸将だ。
ている奴が居るってことは。
プまで用意して銀座事件での銀髪少女に関してこの場で聞こうとし
知ってるんだよ。この中の誰かがどの派閥かは知らないがフリッ
そう、そのままで居てくれ。俺が全てを言いきるまで。
誰も彼もが聞くに徹している。
俺の言葉だけが場に響く。
面に立ち我々を守ってくれたのです﹂
が銀座事件でした。彼女は命を奪うことに忌避感を持ちながらも、矢
哲もないただの少女だったからです。しかしその認識が変わったの
女は少し目立つ容姿をしていますが、逆を言えばそれだけで、何の変
だ、彼女が異世界の人間であるという事を知りませんでした。何せ彼
﹁彼 女 と は 十 年 前 に ひ ょ ん な こ と か ら 知 り 合 い ま し た。そ の 時 は ま
しかし俺はそれを無視して続きを話す。
俺の言葉に後輩から念話が届く。
!!
衝撃を与えて頭の中が空っぽになっている状態の所に一石投じてや
966
!?
れば人間ってのはそっちに転んでしまうもんだ﹂だそうだ。そうする
ことで自然と群集心理ってのが働くらしい。
それを、俺達は狙った。
ま、少し勝手にアドリブを入れさせてもらうがな。
﹁彼女はコウジュ、コウジュスフィール・フォン・アインツベルン。コ
ウジュ以下の名前は貰い物だそうですが、都合この地球で3つ目の世
界となる異世界からのお客様です﹂
◆◆◆
先輩のセリフが台本と違う件について。
いやまぁ作戦に支障をきたすわけじゃないけど、何故それを言った
967
し。
アインツベルンまで言っちゃうと大きいお友達たちはすぐにどう
いう意味か気づくはずだ。
だってつまり俺は立場的に言えば3次元に居るオリ主だってこと
を日本全国のお茶の間に宣言されちゃうって訳だ。そんなのマジで
勘弁してほしい。
そんなの恥ずかしくて悶え苦し
いや、主人公ってわけじゃないだろうけど、それでも二次元に介入
した後だって言われるわけだぜ
むわ。
ねぇ
俺のリアル黒歴史を公開しちゃうのホント勘弁してくれませんか
らの都合が良い情報を叩き込むというものだったわけだが、ちょっと
元々の作戦でもインパクトを与えて呆けてもらっている間にこち
だ。
で も 今 は 普通ならありえない デ モ ン ス ト レ ー シ ョ ン を し た す ぐ 後
・・・・・・・・・
普通なら、そんなの信じる訳がない。
?
あー、別にあの世界に関わったことを恥ずかしいって思ってる訳
!?
じゃないけど、でもほら、ねぇ⋮⋮
銀髪ケモ耳紅目巨乳幼女な見
た目で、魔法とか使えることは銀座事件の事で一部にはばれてるし、
そこにしかもドラゴン倒せるとか言われると、ねぇ⋮⋮
先輩後で覚えてやがれ。
職業、そういう気質なのでしょう。
だが、その彼女を脅かそうとする存在が居ます
﹂
です。彼女が元々行っていた傭兵業も大まかに言えば人助けをする
件です。それ自体は彼女も言っていましたが後悔はしていないそう
﹁しかし彼女はまた事件に巻き込まれてしまいました。それが銀座事
最初の世界は普通の学生でした
てください。
ごめんなさい最初の方はそういう設定なだけなのでホント勘弁し
にこの世界へと来訪したのです﹂
事件に巻き込まれて、その後何とか解決に至りました。そしてその後
二つ目の世界へと渡ったそうです。二つ目の世界でも彼女はとある
していたそうですがとある事件に巻き込まれてそれを解決、その後に
作で産まれた種族らしいのです。そんな彼女は傭兵業営む組織に属
ビーストという種は、過酷な宇宙環境でも適応できるように遺伝子操
は幾つかの種族が居たそうですが、その中でも彼女と同じ種族である
﹁彼女は元々、宇宙進出を済ませた世界に居たそうです。その世界に
そんな風に一人復讐を誓っている間にも先輩の言葉は進んでいた。
?
﹂
!
作戦とは全く関係ない言葉だけど、現金なことに俺は内心溢れんば
先輩は、俺の為に怒ってくれているんだ。
その顔は怒りを浮かべていた。
途中から、敬語も無くなり感情のままにそう言った先輩。
りを狙い始めやがった。そんなこと許せるわけがない
まることなくこの場に居ます。しかしそいつらはその内こいつの周
いただいたように彼女は隠れることが得意です。その為に彼女は捕
とも知れぬ謎の組織達に狙われ続けています。しかしまぁ先程ご覧
・
﹁彼女はとある場所に住んでいたのですが、銀座事件の後、彼女は何処
待って、ねぇちょっと待って先輩。一体何を言うつもりなのさ。
!
968
?
!
かりに嬉しかった。
俺自身、自らがこの世界では歪な存在だと思っている。だから狙わ
れても仕方ないと諦めていた。
だけど、それが先輩には我慢ならなかったらしい。
当初の作戦はどこかに行ってしまったが、これだけの面々を前にし
て素の感情でらしくない言葉を吐く先輩は何処までもカッコよかっ
た。
ああ、確かに彼は英雄だ。
そんな英雄殿はつい声を荒げてしまった自分を少し恥じたのかコ
ホンと1拍置き、続けた。
﹁それでも彼女はその攻めてきた奴らを一人も殺しちゃいません。さ
すがに放置もできないからと捕えてあるそうですが、さすがに食費や
もっと良
らを維持するのが大変なのでそろそろ引き取ってほしいそうです﹂
俺の感動返して
待って、今いい話してたのに途端に安っぽくなったよ
い言い方ってものがあるよね
!?
俺の登場は予定にないから席も無いしで立っ
酷い先輩も居たもんである。
てないといけないんだけど、放置
え、俺はこのまま
そう言って先輩はマイクから離れて自分の席へと戻った。
一度、彼女たちへの対応を考え直して頂きたい。以上です﹂
持っています。勿論、扉を越えた向こうの世界もそうです。ここで今
術 あ っ て の も の。そ の 様 に 我 々 に は 予 想 も で き な い も の を 彼 女 は
を身に着けています。炎龍を我々と共に倒してくれたのも彼女の技
﹁さて、本題に入ります。彼女はいくつかの世界を渡り、幾つもの技術
で続ける。
しかし俺の内心など知ったことかと、先輩は無駄にキリッとした顔
!!?
正直助かった命が有るというだけでも嬉しかったが、こうやって身
近に俺について怒ってくれる人が居るというのはやはり何よりも嬉
しい。
対価が欲しい訳じゃないが、だからと言って良い様に使われるのは
969
!?
だけど、その先輩の御陰でなんだか少し救われた気がした。
?
?
まっぴら御免である。
その辺りの事を今回伝えようって最初は予定していたはずなんだ
が、どうやら先輩はそれだけでは物足りなかったようだ。
むむ、何だよ先輩カッコいいじゃないか。
俺はつい嬉しくなって、でも流石に自分では恥ずかしいので恋ドラ
﹂
ちゃんを使って先輩へとありがとうを伝えることにした。
﹁さっすがは己の英雄殿だ
ひとしゅ
勢い余って抱き付く形になってしまったが、まぁ仕方ないか。
人形とはいえ中身が無いだけで人種そのものの外側だから色々柔
らかい筈だけど俺そのものじゃないし、うん、気にしないでおこう。
さて、俺も本来予定していた行動へと戻ろう。
元々は先輩と共に色々話すつもりだったわけだが、先輩は勢いでそ
のまま席へと戻ってしまった。
今更こちらへ戻ってくるのも締まらないだろうし、ここからは俺が
がんばろうか。
折角先輩が気を利かせてくれたんだ。このまま世界へとアピール
しようじゃないか。俺達と敵対するよりも仲良くした方が利益があ
りますよってな。
元々が日本人なのもあって日本贔屓ではあるが、その上で攻めてく
るのならどこだろうと知ったこっちゃない。
俺自身に対してなら構わないが、周りにまで迷惑掛けようものなら
ボコボコにしてやる。
でもまぁ狭間さんが言っていたがこれである程度民衆を味方にで
きるそうだ。
そうすれば敵さんも動きにくくなるし、その分余計に俺自身を狙う
ようになるだろうとのこと。
難しいことはよくわからないが、そうなるのなら真正面から叩きつ
ぶすだけだ。
その為にも、俺自身の有用性をある程度伝えなければな。
さぁ、ここからが正念場だ。
970
!
﹂
﹃ってこら先輩ドサクサ紛れにどこ触ってやがる
﹁うおっ
覚が有ったので、恋ドラ人形で殴っておく。
﹄
操作の為に感覚共有を使っているから嫌なところに手が触れた感
!!
こ の タ イ ミ ン グ で ラ ッ キ ー ス ケ ベ と か ど こ の R I T O さ ん だ。
まったく⋮⋮。
971
!?
﹃stage15.5:
︵某掲示板での︶ハナシアイ﹄ ※注 掲示板形式
︻日本︼国会中継になんか来た︻始まった︼
1 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
なんか国会にエルフとか出てるって聞いて 2 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀1 立て乙
972
3 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀1 おっつおっつ
4 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀1 乙 んでその肝心のエルフって
気になってテレビ漬けたがまじだった
│:││:││ ID:││││││││
5 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
?
6 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀5 漬けんなwww
7 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀5 柴漬けか浅漬け、それが問題
8 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
973
﹀﹀5
不覚にも吹いたwwww
9 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ │
│:││:││ ID:││││││││
﹀﹀5
で、美味いのか
││:││:││ ID:││││││││
11 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 蛇さんはお帰りください
││:││:││ ID:││││││││
10 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
んで、結局どうなのよ。エルフマジでてるん
くっころされそうな感じ
││:││:││ ID:││││││││
13 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ってかめっちゃ美人やんwwwwww
マジっぽい。居るわ耳長いの
││:││:││ ID:││││││││
12 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
︵全裸待機
18 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 俺は奥の黒いロリさんが良いわ
││:││:││ ID:││││││││
17 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ しまっちゃいましょうねー
││:││:││ ID:││││││││
16 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 全裸待機
││:││:││ ID:││││││││
15 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ドブックはいつ
エルフと来たらすぐそっちに持っていくよなおまいら。で、ソリッ
││:││:││ ID:││││││││
14 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
││:││:││ ID:││││││││
974
?
あの銀髪少女が良いわ
19 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 少女ってレベルじゃねーと思うんだけ
││:││:││ ID:││││││││
あのスタイル抜群の子
ど
20 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
いやほら青みがかった銀髪の子。
なんかどこぞのパイロットみたいじゃん。
21 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀19
そうだよな。中学生以上はもう少女じゃないよな
22 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀21 通報した
23 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀21 通報した
24 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀21 通報した︵目反らし
25 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
975
?
﹀﹀24 も通報
それにしてもマジでエルフとかいたんだな。まぁあの銀座のやつ
でゴブリンっぽいのも居たし可能性は考えてたけど
26 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
ワイバーンとかも居たよな。転がる豚はたぶんオーク
ない
そういや今国会に出てる一人が銀髪だけど、姉妹だったとかて落ち
││:││:││ ID:││││││││
30 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ それもそうか。
││:││:││ ID:││││││││
29 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ てるよ
動画自体は本物だったらしいが、見つかってたらもっと祭りになっ
ああ、あのCGだの合成だの言われてたやつな。
││:││:││ ID:││││││││
28 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ だ
そういや一時期話題になってた銀髪幼女︵仮︶は結局どうなったん
││:││:││ ID:││││││││
27 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
いやいやいや、それは無いッて
││:││:││ ID:││││││││
31 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
976
?
32 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
ナイナイ
33 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
無いよな
34 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
銀髪姉妹は頂いていきますね︵キリ
35 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀34 裏切り者だ殺処分しろ
36 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 汚物は消毒だー
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀34
ヒャッハー
!!
39 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ wkwk
││:││:││ ID:││││││││
38 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ おい、そろそろ始まるみたいだぞ
││:││:││ ID:││││││││
37 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !
977
?
││:││:││ ID:││││││││
tktk
40 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
・・・古い。でもこのノリ嫌いじゃないわ
41 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
最初は、あの銀髪クール少女ちゃんか
42 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
ほむ、レレイちゃんね
43 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
プラグスーツ着てほしい
44 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀43 それ俺も思ったw
45 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
おまえらwwwと言いいつ俺も類友
46 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
まったく同じ思考の人間がこんなに⋮。こんな時どんな顔すれば
いいのかわからないわ。
978
!
47 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
・ω・`︶
﹀﹀46 ︵
48 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
︶
﹀﹀46 ︵`・ω・
って言いつつプラグスーツで雑コラ作ってくれてるんでしょう
﹀﹀51
││:││:││ ID:││││││││
52 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ おまいら49の冷静さを見習え
││:││:││ ID:││││││││
51 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ おしいww
﹀﹀47 ﹀﹀48
││:││:││ ID:││││││││
50 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ レレイちゃん日本語話せるのな
││:││:││ ID:││││││││
49 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ´
││:││:││ ID:││││││││
53 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
979
´
おい、なんかそのレレイちゃんが哲学的なこと言いだしたぞ
54 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
自由とはなんだ︵哲学
55 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀54
働かないこと
56 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
アッハイ
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀58
何回食うねん
60 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀58
980
57 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
ん、衣食住は分かるが後は何だ
衣・食・住・食・レイ
││:││:││ ID:││││││││
58 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
59 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
生きるのに必要なのが綾波レイかwwww
61 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
職じゃね
62 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
じゃあ﹀﹀55は駄目だな。ナームー
・
・
・
81 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
次エルフちゃんだ
82 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
テュカルナマルソーちゃんだってさ
83 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
テュカ・ルナ・マルソ│かな
││:││:││ ID:││││││││
84 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
981
?
テュカル・ナ・丸そーかもしれんぞ
85 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
どうでもいいわwww
86 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
テュカちゃんhshs
87 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
この子、あれだ、得るウィンっぽい
││:││:││ ID:││││││││
悪いがホモ以外は帰ってくれないか
91 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀90
間違えた。ホモは帰ってくれないか
982
88 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
シャニティアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
シャニティ アッー
││:││:││ ID:││││││││
89 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!!
90 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!!
92 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
お、おう⋮
93 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
アッハイ
巨
94 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││ ID:││││││││
それとも虚乳なの
てか、話し戻すけどそのテュカウィンちゃんは結局貧乳なの
乳なの
?
││:││:││ ID:││││││││
小さくは無いけどでかいってわけじゃないかな
なら横の銀髪美女がダントツ
?
小さいのはレレイちゃんか。ってか幼い
││:││:││ ID:││││││││
96 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ デカさで言う
95 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
99 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ また脱線してんじゃねぇか
││:││:││ ID:││││││││
98 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 乳に貴賎なし
││:││:││ ID:││││││││
97 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
983
?
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀97 せやな
100 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
耳
││:││:││ ID:││││││││
あ、おい
││:││:││ ID:││││││││
102 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ピクッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
││:││:││ ID:││││││││
101 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!
ア
ミミガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
││:││:││ ID:││││││││
103 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
アアアアアアアアアアアアア
キェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアウゴイタアアアア
!!!!!!!!!!!?
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
││:││:││ ID:││││││││
ミミガアアアアアアアアア
・
・
・
984
!
104 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!!!!!!
111 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ゴスロリ様だ。
112 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ゴスロリのロリ様が出てきた
ベール取ってくれないかな
!!!
︵難聴
││:││:││ ID:││││││││
うおおおおおおおおおおおお顔見たいいいいい
││:││:││ ID:││││││││
117 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
貴様にはTウイルスをやろう
﹀﹀113
││:││:││ ID:││││││││
116 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
傘の罠にはまってろ
﹀﹀113
││:││:││ ID:││││││││
115 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
114 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ゴリスが何だって
││:││:││ ID:││││││││
113 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
もちつけおまえら、ゴスロリ様が話すだろ
985
?
118 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
えっと、神官って言った
ローリーって名前か
││:││:││ ID:││││││││
120 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
じゃぁお偉いさん
││:││:││ ID:││││││││
119 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
ロゥリィ・マーキュリー
?
125 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
お、俺阪神⋮⋮
││:││:││ ID:││││││││
124 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
俺カープ派なんで
││:││:││ ID:││││││││
123 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
俺ヤクルト派なんで
﹀﹀120
││:││:││ ID:││││││││
122 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
発音的にロゥリィじゃね
││:││:││ ID:││││││││
121 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
986
?
33│4
126 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
阪神関係無い⋮⋮こともないか。
││:││:││ ID:││││││││
何でや
127 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
いやねーよ
128 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
俺、皆マーキュリーの方に反応すると思った
129 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ああ、水星を守護に持っちゃう感じ
IQ300な感じ
││:││:││ ID:││││││││
130 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
だな。ってかマジで何なのアレ
││:││:││ ID:││││││││
132 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
い件について
むしろ手に持ってる巨大なあれの所為で物理攻撃系にしか見えな
││:││:││ ID:││││││││
131 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
987
!
133 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
神官って言う位だし杖とか
それとも神に代わってお仕置
?
殴る系神父が出るゲームってあったっけ
││:││:││ ID:││││││││
138 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
おいw 完全にゲーム脳www
﹀﹀135
││:││:││ ID:││││││││
137 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
祈りが折りに見えたスマソ
﹀﹀134
なるほどな
﹀﹀135
││:││:││ ID:││││││││
136 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
︵物理︶って昔から相場が決まってるじゃないか。
何言ってるんだ。僧侶は殴る者、神父も殴る者、シスターは祈る者
││:││:││ ID:││││││││
135 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
きよ︵物理︶なの
アレが杖って、祈り︵物理︶なの
││:││:││ ID:││││││││
134 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
139 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
988
?
マジ狩る☆八極拳
140 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
外道麻婆のことかああああああああああああああああ
141 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
麻婆かww
142 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
じゃああのロゥリィちゃんが持ってるのって黒鍵的な何か
あ、ロゥリィちゃんがベール取ったぞ
││:││:││ ID:││││││││
145 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
本人も真っ黒なんですがそれは⋮⋮
││:││:││ ID:││││││││
144 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
確かに黒いのに包まれてるしな
││:││:││ ID:││││││││
143 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
いいいいいいいいい
146 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
989
!!!
めっちゃかわいいいいいいいいぶひいいいいいいいいいいいいい
!
││:││:││ ID:││││││││
何を言うんだろう
?
147 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
・ω・`︶豚は出荷よー
﹀﹀145
︵
・
・
・
167 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ロゥリィちゃんよく言った
ロゥリィ様だこのやろう
││:││:││ ID:││││││││
168 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
そらこんな少女にマジレスされたらキレるだろうさ。俺もスカッ
││:││:││ ID:││││││││
171 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
あ、おいあの襟キレてんぞww
││:││:││ ID:││││││││
170 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
様を付けろよデコ助野郎
││:││:││ ID:││││││││
169 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
!!
990
´
としてるけどさww
172 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
おこなの
173 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ヽ︵`Д
#︶ノ ││:││:││ ID:││││││││
ムカ着火ファイヤー
´
ドヤ顔可愛いいいいいいいいいいいい
││:││:││ ID:││││││││
178 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
煽りよるwww
││:││:││ ID:││││││││
177 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
お嬢ちゃんてwwwww
││:││:││ ID:││││││││
176 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
おww嬢wwちゃwwんww
││:││:││ ID:││││││││
175 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
煽り耐性ゼロかこいつwwww
││:││:││ ID:││││││││
174 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!
179 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
991
?
││:││:││ ID:││││││││
あ、伊丹氏が出てきたぞ
180 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
なんだなんだ
181 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
はっ
182 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ファーーーーーーーーーーwww
183 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
まじで961歳
││:││:││ ID:││││││││
え、まじで
!?
エタロリだああああああああああ
ロリBBAだあああああああああああ
186 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!!!
││:││:││ ID:││││││││
185 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!!
││:││:││ ID:││││││││
184 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
BBA
俺だ結婚してくれえええええええええええ
││:││:││ ID:││││││││
BBA
!!
!!
992
?
187 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
BBAって言ったやつ夜にお客さんきちまうぞwww
188 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
︵ガチ
││:││:││ ID:││││││││
ロリBBAに殺されるなら本望です
﹀﹀191 まじで
││:││:││ ID:││││││││
192 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
テュカちゃんも165歳だってよ
││:││:││ ID:││││││││
191 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
いやな名セリフの使い方だなぁおいww
││:││:││ ID:││││││││
190 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
わが生涯に一片の悔いなし
││:││:││ ID:││││││││
189 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!
││:││:││ ID:││││││││
まじまじ
194 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
れ、レレイちゃんもひょっとしてひょっとしちゃうんですか
!?
993
!
193 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
195 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀194 15歳
196 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
・ω・`︶
││:││:││ ID:││││││││
︵
197 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
・ω・`︶
││:││:││ ID:││││││││
︵
198 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
何でションボリするんだよwwww
199 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
そういやもう一人の銀髪美女は
えっと、生後数日
││:││:││ ID:││││││││
201 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
今から言うとこだ
││:││:││ ID:││││││││
200 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
202 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
994
´
´
って言ったよな
203 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
生後数日ってどういうこと
204 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
あの4人の中で一番育ってるじゃん。どこがとは言わないけど
205 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
いやほんとそう言ったんだって。
206 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
一度死んで生き返った炎龍
││:││:││ ID:││││││││
は
?
││:││:││ ID:││││││││
え、どういうこと
意味が解らないです
││:││:││ ID:││││││││
209 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
なんだってさ
あの銀髪美女が生後数日なのは一度殺された後に生き返ったから
││:││:││ ID:││││││││
208 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
995
?
207 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
210 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
段ボールがある
211 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
つまりどういうことだってばよ
自 衛 隊 が 倒 し た っ て
?
フ ァ ン タ ジ ー な 放 送 だ け ど 現 実 だ ぞ ちゃんと現実見れてるか
﹀﹀2 1 0 ど し た
どうもその炎龍らしい
││:││:││ ID:││││││││
214 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
﹀﹀210 何言ってんだお前
││:││:││ ID:││││││││
213 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
言ってたやつ
村 人 を 殺 し た っ て さ っ き 言 っ て た 炎 龍
││:││:││ ID:││││││││
212 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
?
向こうの世界って死んでも生き返れるの
いや、見間違いだったっぽい。すまぬ
﹀﹀213﹀﹀214
││:││:││ ID:││││││││
216 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
215 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
?
996
?
217 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀215
でもこの銀髪美女はそう言ってるぞ
218 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
村人殺しまくったんだろ
待て待てお前ら。それ以前にその炎龍っていうのが本当なら大丈
夫なのか
殺しまくったというか、されそうになった
昔からの分は知らんが
どういうこと
││:││:││ ID:││││││││
221 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
待った。炎龍って自衛隊だけで倒した訳じゃないっぽい。
││:││:││ ID:││││││││
220 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
219 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
223 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
んだってさ
炎龍を倒した時に協力してくれた人が炎龍を復元して制御してる
││:││:││ ID:││││││││
222 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
997
?
まじで
薄い本
あの銀髪美女って召喚獣的なさむしんぐ
薄い本
││:││:││ ID:││││││││
225 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
あ
エロいことし放題じゃないかヒャッハああああああああああああ
││:││:││ ID:││││││││
224 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!?
││:││:││ ID:││││││││
じゃあその炎龍ちゃんのご主人様に許可貰ってくる
ばくっと物理で食われるんだろうけどな
││:││:││ ID:││││││││
230 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
喰われる︵意味深
││:││:││ ID:││││││││
229 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
喰われるんじゃね
││:││:││ ID:││││││││
228 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
227 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
の関係も無いんだがな
まぁあの炎龍ちゃんが奴隷だろうとなんだろうとおまえらには何
││:││:││ ID:││││││││
226 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
?
998
!?
!
231 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
それ以前に自衛隊の武器がほとんど叶わなかった炎龍ちゃんを倒
すってマスターにどうやって許可貰うのか
232 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀231 土下座
233 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
それで貰えるなら俺がしに行くわwww
釣り
││:││:││ ID:││││││││
安っぽい釣りもあるもんだなぁ
237 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ちゃうって、伊丹氏が指さしてる足元にあるんだよ
238 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
999
234 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
段ボール
さっきから段ボールって何なの
?
236 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
235 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
あ、ほんとだ
239 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
え、何も無いぞ
さっきまで無かったのに
なにアレ幽霊
さ っ き 見 間 違 い っ て 言 っ た も の だ け ど ま た 見 え る よ う に な っ た。
││:││:││ ID:││││││││
241 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
あれ
││:││:││ ID:││││││││
240 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
これに気付いてたかって言ってるわけだし
少 な く と も 伊 丹 氏 は 見 え て る ん だ よ な
指 さ し て る わ け だ し。
││:││:││ ID:││││││││
242 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
245 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
段ボールの幽霊www ひもじいwwww
││:││:││ ID:││││││││
244 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
﹀﹀241 段ボールの幽霊って何だ⋮⋮
││:││:││ ID:││││││││
243 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
1000
?
﹀﹀244 は
段ボールがあれば
ダンボール舐めんなよ。なんでも作れるんだぞ
246 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
そうだな、家とか作れるよな
247 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
じゃなくて結局この段ボール何なの
いだし
認識阻害的な魔法とか
特地にはファンタジーがいっぱいみた
││:││:││ ID:││││││││
250 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
何これ
││:││:││ ID:││││││││
249 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
あ。俺も見えるようになった
││:││:││ ID:││││││││
248 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
252 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
認識阻害か、ありそうだな
││:││:││ ID:││││││││
251 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
1001
?
││:││:││ ID:││││││││
それあるー
!
253 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
まじでそんなのあるのか いやでも伊丹氏が言ってからいきな
り見える人増えたしなぁ
254 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
炎龍ちゃんが生き返ったらしいし、そういうのがあっても不思議で
はない。
とりあえず存在するなら覚えたいな
255 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀254
通報した
256 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
お兄さんに言ってみ
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀254 何に使う気だ
?
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀254
大丈夫、お前元々存在感薄いから
258 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
おいやめろ
1002
!?
257 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
259 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
俺が言われたわけじゃないのに、なんだろう、泣きたい
260 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
言った本人が言うのもなんだけど、ごめん、泣きたくなった
261 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
262 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
なんぞ
︵MGS感
・・・
││:││:││ ID:││││││││
266 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ちょ、実況してよ。テレビ見れてないんだよ
││:││:││ ID:││││││││
265 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
264 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
段ボールから幼女が生まれたwwwwwww
││:││:││ ID:││││││││
263 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
!?
1003
!
!
段ボールかてくる
267 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
意味わからんww ってかまじで蛇かこの幼女はwww
268 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀265
伊丹氏が指さす↓段ボール現れる↓中から幼女が
書いてる俺も意味が分からん
269 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀266
すわれ
﹀﹀267
なーでこーだYO│
それでこの箱からどうやったら幼女出せるんだろう
けだわwww
段ボールがあるだけで幼女が生まれるんなら今頃世の中幼女だら
││:││:││ ID:││││││││
271 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
座れww 俺が行って来るww
﹀﹀266
││:││:││ ID:││││││││
270 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
272 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
1004
!
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀271
おまえもおちつけ
273 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
伊丹氏曰くこの子はコウジュちゃんっていうらしい
・
・
・
││:││:││ ID:││││││││
くそがあああああああああああああああああああああああ
292 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
うわぁ、終わってるな。銀座救ってくれたのに襲うとかどんな神経
してるんだ
?
1005
289 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ちょっと国ぶっ壊してくる
290 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
紳士の風上にもおけんやつら
とりあえずバットを持ったがどこに行けばいい
こんな幼い少女の家を襲撃だと
だ
!?
!?
291 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
っ て か 銀 髪 幼 女 本 人 が 出 て く る と か 他 の ス レ で も 大 変 な 祭 り に
なってそうだな
293 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
いやそれも気になるけど、コウジュスフィール・フォン・アインツ
ベルンって言ったよな アインツベルンってFateのやつだよ
な
Noタッチいいいいいいいいい
││:││:││ ID:││││││││
Yesロリータ
!
298 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
そっくりだよな。
でもよく考えればカラーリングはあいんつべるんのホムンクルス
││:││:││ ID:││││││││
297 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
もしくはあの作品からこの世界での名前を付けたとか
何その二次SS展開。さすがにたまたまだろう。
﹀﹀293
││:││:││ ID:││││││││
296 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
世界から来ちゃった系
言ったよな。特地とは別の異世界って言ってたし、まじでFate
﹀﹀293
││:││:││ ID:││││││││
295 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!!!
294 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
?
1006
?
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀292 確か銀髪幼女専用スレあったで
︵*
ω
*︶
││:││:││ ID:││││││││
300 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ひらがなだとポンコツ臭い
﹀﹀297
まて、伊丹氏が紹介してくれるっぽい
││:││:││ ID:││││││││
299 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
あ、ケモ耳
││:││:││ ID:││││││││
305 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ケモ耳だああああああああ
││:││:││ ID:││││││││
304 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!
││:││:││ ID:││││││││
303 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
宇宙
││:││:││ ID:││││││││
302 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
シュタッ
││:││:││ ID:││││││││
301 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
'
?
1007
'
よーしよしよしよしよしよしよし
306 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀305 お帰り下さい
307 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ビースト
308 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
宇宙環境に適応するために産みだされた種族って⋮⋮
309 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ホムンクルスってのも大概な生まれだけど、そのビーストってのも
重いな⋮⋮
310 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
コウジュちゃん⋮
311 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
悲しい生まれだったんだな⋮。しかもその上人助けの職業なんて
すごいなこの子。
ただ、傭兵で段ボールって狙ってるとしか⋮⋮
312 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
1008
?
ってかこの地球で3つ目
ってことは2つ目は何処
?
・・・ナイよな
っすがにそれは想像力豊か過ぎるだろwww
﹀﹀313
││:││:││ ID:││││││││
314 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
シリアス吹っ飛んだじゃねぇか
﹀﹀311
レ存
つ目の世界がFate世界でそこで後半の名前を貰った可能性が微
そういやさっき、コウジュ以下の名前は貰い物って言ってたし、2
││:││:││ ID:││││││││
313 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
三度目に巻き込まれた事件︵銀座︶↑今ここ
待てよ、英霊って年取ったっけ
ひょっとしてこの子もエタロリですか
︵歓喜
││:││:││ ID:││││││││
316 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
二度目に巻き込まれた事件︵聖杯戦争に召喚される︶
一度目に巻き込まれた事件︵英雄化︶
││:││:││ ID:││││││││
315 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
2度目の事件が聖杯戦争だったとして、解決したってことは聖杯ど
││:││:││ ID:││││││││
317 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!?
?
1009
?
うなるんだ
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀316
言われてみればそうだな。幼女のまま固定ってことか
!?
323 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
\アッサシーン/
﹀﹀318
││:││:││ ID:││││││││
322 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
アサシンしかないじゃんさっきの見たら
﹀﹀318
││:││:││ ID:││││││││
321 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
そらアサシンだろう
﹀﹀318
││:││:││ ID:││││││││
320 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
︵渇望
319 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
う
その流れで行くとあのコウジュちゃんのクラスは何になるんだろ
﹀﹀315
││:││:││ ID:││││││││
318 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀318
1010
?
ライダーとかは
宇宙進出とかしてるって話だし宇宙船やら乗
れないときついんじゃね
324 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀318
アサシン⋮と言いたいけどイレギュラークラスの可能性もあるか
325 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀323
さっきまで乗ってた︵入ってた︶のは段ボールだけどな
326 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀318
炎龍を制御してるって話だし、
﹃テイマー﹄なんてくらすはどうだろ
う
327 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀323
どうせなら乗りたいな。もしくは乗られたい
328 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀327 お巡りさんこいつです
1011
?
?
クラス名はダンボ│ですね分かりますん
﹀﹀325
?
329 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀327
一回死んでみる
330 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀327
ちね
331 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀327
逝ってよし
・
・
・
337 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
紳士だ⋮。紛う事なき紳士だ
││:││:││ ID:││││││││
339 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
伊丹氏かっけぇwww 国会で吠えやがったwww
││:││:││ ID:││││││││
338 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!
1012
?
やるじゃない
340 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
ロリコンの鑑
341 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
紳士すぐるww
342 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀340
幼女の事で怒ってるからってロリコン認定はやめて差し上げろw
w
343 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀340
あれだけ熱く語れば仕方ないな︵確信
344 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
伊丹氏にこそロリコン︵紳士︶の称号は相応しい
345 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀344
せめてかっこの中身と外を逆にしてやれww 346 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
1013
!!
││:││:││ ID:││││││││
ちょw コウジュちゃん襲てきたやつ全部捕まえてるんだってw
ww
347 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
まじかww
348 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
引き取ってほしいんだってさ。食費とかが掛かるからwwww
349 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
www
││:││:││ ID:││││││││
ってかひょっとしてコウジュちゃんの手作りだったりするんかな
1014
食費wwwww
350 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
食費ってwwwwww
351 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
コウジュちゃんひょっとして御人好し
御人好し良いんじゃね
││:││:││ ID:││││││││
352 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
353 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
俺捕まりにいてくる
354 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀353
つ[レトルト]
355 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
形の崩れたおにぎりとかだと最高にうれしい
││:││:││ ID:││││││││
手作りだと
!
俺はちょっと焦げてるくらいのカレーかな
カツドゥーン喰いたい
││:││:││ ID:││││││││
357 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!
││:││:││ ID:││││││││
356 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!?
﹀﹀358
││:││:││ ID:││││││││
360 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
死ね。氏ねじゃなくて死ね
﹀﹀358 ││:││:││ ID:││││││││
359 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
コウジュちゃんを食べたい
││:││:││ ID:││││││││
358 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!
1015
!!
!?
よかろう、ならば戦争だ。
361 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀358 悔い改めろ
362 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
処す
﹀﹀358
処す
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀358
今からブッ殺しにいくぜ。小便は済ませたか
?
部屋の隅でガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK
?
神様にお祈りは
363 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀358
それ伊丹氏の前で言ったらぶん殴られるんじゃね
だってお
色々技術持ってるっぽいし、普通に協力関係にはなれんもんなの
すげぇな伊丹氏、結局言いたいこと言いきったよ。伊丹氏になら後
││:││:││ ID:││││││││
366 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
伊丹氏﹁ここで今一度、彼女たちへの対応を考え直して頂きたい﹂
││:││:││ ID:││││││││
365 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
1016
?
364 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
ろ差し出しても良いわ
367 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
最初の出だしが悪かったんだし、最悪コウジュ
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀365
難しいんじゃね
ちゃん帰るかもよ
368 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀365
微妙なところだな。法律的に明らかな武力を持った人間をどうす
るかってのが定められていない以上、国として外部の国に突かれたら
色々難しいんじゃないか
ロリコンに差し出しても貰ってもらえないぞ
﹀﹀366
││:││:││ ID:││││││││
370 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
絶対要らないと思う。てか帰れ
﹀﹀366
││:││:││ ID:││││││││
369 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
372 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
なんでホモが湧くんですかねぇ⋮⋮︵驚愕
﹀﹀366
││:││:││ ID:││││││││
371 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
?
1017
?
││:││:││ ID:││││││││
奴は敵だああああああああああああ
えええええええええええ
えええええええええええええええええ
ぶっころせええええええ
一人残らず
││:││:││ ID:││││││││
ラッキースケベは駆逐してやる
!!!
377 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
確かに許せんな
でもまぁロリコン︵紳士︶だと思っていたのにラッキースケベとは
この掌返しよwww
││:││:││ ID:││││││││
376 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!
375 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!
らっきすけべめええええええええええええええええええええええ
││:││:││ ID:││││││││
374 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!!!!!
││:││:││ ID:││││││││
373 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
いいいいいいいいいいいい
いたみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
!!!!!!!!!!!!
││:││:││ ID:││││││││
一般人
←
自衛隊員
←
英雄
1018
!!!!!!!!!!
←
紳士︵ロリコン︶
←
ラッキースケベ︵罪人︶↑今ここ
378 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀377
何処で何を間違えたらそうなるんだ⋮⋮
379 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││ ID:││││││││
﹀﹀377
伊丹許すまじ、慈悲は無い
ニンジャナンデ
││:││:││ ID:││││││││
アサシン疑惑の子が居るのにそっちより優先されて狙われる伊丹
氏ェ・・・・w
1019
380 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
ナンデ
!?
││:││:││ ID:││││││││
アイエエエエエエエエ
!?
381 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
!?
﹃stage16:○○ホイホイ﹄
﹁さぁおいでなすったぜ嬢ちゃん﹂
﹁嬢ちゃんはやめてくださいよ。歳、そんなに離れてませんし﹂
﹁ああ、そうだったな﹂
﹁とりあえず、やります﹂
﹁頼んだぜ。対象は後ろにピッタリ着いてきてるやつだ﹂
﹁了解です﹂
国会が終わり、移動のために乗り込んだバスの中で俺は駒門さんと
言葉を交わす。
俺の言葉にニヤリとする駒門さんは公安というところに所属して
いるらしいのだが、今回俺達の護衛を担当してくれている人だ。
いまこの車には俺達と駒門さん、そして駒門さんの部下が数人乗っ
ている。
何故そんなことになっているかというと、その答えは後ろから追い
かけてきている不届き者が原因だ。
国 会 議 事 堂 か ら 移 動 す る 際 の 諸 注 意 と し て 駒 門 さ ん か ら 各 国 の
エージェント的な人たちが追いかけてくる可能性が高いと言われて
いたんだが、やはり来たようだ。
本来であればバスを囮にして地下鉄で移動という話だったのだが、
先輩が何やら嫌な予感がすると言うので急遽予定を変更したのだ。
かといって追われる事が分かっているバスにそのまま乗るのもお
かしな話なので、俺が対策することになった。
俺は乗っているバスの窓を開け、屋根の上に飛び乗る。
どこぞの高校生みたいに足の握力で屋根を掴むことは出来ないの
で 影 を 屋 根 に 巻 き 付 け る よ う に し て 固 定 し、落 ち な い よ う に す る。
だって落ちた所でダメージ無いって言っても走ってる車の上怖いし。
身体が固定されたのを確認し、後ろから追いかけてきている車の運
転手たちを見る。
1020
驚きに目を見開いている彼らは、薄くスモーク乗っかっている為見
ずらいが明らかに日本人では無い容姿だ。
さすがにどこの国の人達かってのは分からんが、友好的な様子では
ないのは確実。
なら、自分の運命を呪ってもらうしかないだろう。
まぁ後続の車もあるしあまり派手なことをして関係ない人を巻き
込むわけにはいかないので手加減は当然するが。
﹁ミラージュストーム﹂
手を横に出し、俺は一本の杖を出す。
黄金の軸に、真ん中辺りに埋め込まれている翡翠を思わせる球体、
それを囲うように鳥が翼を広げた姿を思わせる形で装飾されている
紅い翼。
長杖系Sランク武器の﹃ミラージュストーム﹄だ。
﹁お疲れさん。良い夢みてくれよ﹂
1021
俺はミラージュストームを軽く振るう。
すると、杖が振られるのに合わせて周囲にいくつもの赤い羽根が宙
を舞い踊るようにして現れる。
これはゲーム時からあったエフェクトだが、当然羽がひらひら舞っ
てるところを見せるだけでは意味がない。
俺はすかさず手に持つ長杖に意識を向け、込められた概念を呼び起
こす。
系だ。
ミラージュストームが持つ概念は〝一陣の風と共に深紅の羽根が
舞い踊りあたりは夢幻の世界に誘われる〟というもの。
ぶっちゃけて言えば催眠系武器だ。いつから錯覚していた
避けることも叶わず、追跡者達は赤い羽根の中で夢幻の世界へと誘
ストーカー
舞い踊る羽が後ろを走る車へと殺到する。
けど、今はそれで十分。
効果時間も未だに短い。
現実からあまり外れた物を見せることは出来ない。ついでに言えば
ジ不足なのか、掛けられる催眠はあまり複雑ではない物に限られ、又、
ただし俺との相性があまりよくないのか修行不足というかイメー
?
われる。
﹁夢は、うん。目の前で追いかけていた車は炎龍が抱え込んで何処へ
イメージ
ともなく飛んでいったって感じで良いかな﹂
刷り込む夢幻を頭で作り出し男たちに魅せる。
途端に車は慌てるようにハンドルを切り、自ら何処へともなく走っ
ていった。
﹁ジャスト一分、良い夢見れたかよ⋮⋮って言いたかったなぁ﹂
あまりにもあっけない幕引きに、微妙に肩を落としつつ俺は再びバ
スの中へと戻る。
すると苦笑いした先輩がすかさずこちらへと近づいてきた。
﹁先に聞いてはいたが相変わらずエグイのが多いなお前﹂
﹁ひでぇっすねぇ先輩。でもまぁ否定はしないよ。未だ慣れてない幻
術でもこれだけ効果があるんだし。ただやっぱり慣れないことをす
ると精神的にめちゃ疲れる﹂
うへぇと俺が零せば先輩は俺の頭をポンポンと撫でる。
最近このパターンが多い気がする。
ただ恥かしいので俺が離れようとすると分かっていたかのように
先輩は手を止め自分から離れた。
むぅ、なんだか釈然としないが文句を言うのも変なので気持ちを切
り替える。
俺はこちらの様子を見ていた駒門さんへと顔を向ける。
﹁駒門さん。これで栗林さん達を迎えに行けるよ﹂
﹁いやはやお見事としか言いようがないねぇ。俺達の出る幕が無い﹂
﹁何言ってるんですか、俺は索敵とか情報収集が大の苦手だから駒門
さんが持ってる情報を頼りにしないと流石に難しいですよ。一人な
ら好き勝手出来るんですけどねぇ﹂
﹁はっはっは、俺としちゃ好きかってしてもらってもいいんだが、嬢
ちゃんも護衛対象なんでな。目を離すなって言われてるんだよ。申
し訳ないんだがな﹂
・・・
本当に申し訳なさそうに言う駒門さんにどう返したものか。
言われてるって言うのは当然上からだろう。
1022
それ自体は俺も覚悟の上だ。
ふむ、初邂逅時には胡散臭いと言ってしまったがなんだかんだと良
い人っぽいこの人に無駄な心労を負わせるのは流石に悪いよな。
﹁大丈夫っすよ、駒門さんは仕事をしてるだけなんですから。俺もあ
る程度は覚悟の上だし、直接被害が出てるわけでも無し。それに何か
あってもどうにかしちゃえますから。あと嬢ちゃんやめてってば﹂
俺の言葉に一瞬キョトンとするも、すぐに表情を苦笑へと変える駒
門さん。
むぅ、俺がフォローを口にすると苦笑する人が大半なのは何故だ。
﹁くくく、そこまで言われちゃ仕事しないわけにはいかねぇな。俺達
﹂
より強いらしいが、まぁ守られてくれよお姫様﹂
﹁そこを直すんじゃないよ
やっぱヤな人だ
ちなみに梨紗とは俺の元嫁さんの名前だ。
後輩も知る中⋮⋮というかしょっちゅう遊んでるし後輩も梨紗の
家には何度も来ている筈だからこの辺りの事はよく知っているのだ。
現在俺達はバスを適当なところで降り、バスの中に後輩が即席で俺
達に似せた人形を乗せて囮にして街中を歩いている。後輩の幻覚と
やらはあの赤い羽根を直接見た者にしか効果が無いらしく、バスの中
に幻を残すなんてことは出来ないらしいので代わりの影人形だ。
後輩は確か認識阻害的なことを出来た筈なので聞いてみたが、どう
にもあれは自分にしか行使できないそうで感覚を頼りに周囲を警戒
するしかない。地味に使えないよな後輩の能力。
しかし本来なら後輩が居なければもっと苦労していたところなの
1023
◆◆◆
!?
後輩が零した言葉に俺は軽く返す。
﹁そ、梨紗の家の近く﹂
﹁あれ、ここって⋮⋮﹂
!
だから贅沢は言ってられないと諦めている。
さておき、今俺達が歩いているのは都内のとある住宅街だ。
そして何故元嫁さんの家の近くに来ているかというと、勿論その元
嫁さんの家へと向かう為だ。
最近メールで水が止まっただのご飯が無いだのと来ていたので、少
しだけだが補給しに行くためにも寄ることにしたのだ。
本来ならこんなタイミングで行くつもりは無かったのだが、メール
の内容的にガチで危なそうなので仕方なしだ。
後輩の幻覚やら陽動やらでここまでの間に追手は振り切っている
し、バスの中で引き続き囮役をしてくれている駒門さんが頑張ってく
れているからバレていないとは思うしな。
駒門さん曰く、内部に裏切り者が居るのは確実らしいので本来俺達
に着きっきりになる筈の駒門さん自身が離れた方が安全とのことだ。
最初は後輩から目を離すなという命令を守っていたが、さすがに周
くらいしか思いつかなかったんだよ。それにほれ﹂
﹁うっわ。梨紗さんまた根詰めてるのか。懲りないなぁ⋮⋮﹂
俺が届いていたメールを見せながら言うと苦笑する後輩。
まぁそうなるよなぁ。
別れたってのは伝えてあるし、そのうえ前から後輩は梨紗の事につ
いてもう少し余裕を持った生活をすれば良いのにと苦言を呈してい
た。
普段は色々と波乱万丈というか滅茶苦茶な行動をしているように
思われがちだが、そういう所では普通にまともなことを言う後輩なの
だ。
﹁んー、とりあえずあの部屋で全員寝るのはギリギリだし、何とかする
1024
りの動きがきな臭くなってきたから現場の判断というやつで離れる
ことにしたそうだ。
一応いつでも連絡を取れるように後輩と携帯番号とかを交換して
この大人数で﹂
いたのだが、俺が言うのもなんだが大丈夫だろうか
﹁先輩、マジで寄るつもりですか
?
﹁マジだ。この現状で飛び込みで寝泊まり出来そうなところってここ
?
か﹂
﹂
﹁何とかって
﹂
?
﹁伊丹達に馴染み深い人って
﹂
﹁ここはまぁなんというか、俺と後輩に馴染み深い人が住んでてな﹂
はロゥリィだ。
その声にニヤついた笑みを浮かべながら答える後輩に質問したの
うなアパートだとは思わなかったようで驚いた栗林。
目的地を告げずに来たんだが、その行き先がこのどこにでもありそ
﹁うい。ここは俺もよく来るので﹂
﹁あなたはここが何か知ってるのぉ
﹁そうですよー。何でここかは後のお楽しみってことで﹂
﹁え、隊長ここが目的なんですか﹂
生きてるかな⋮⋮。
ムボックスの中に購入してあるし、後は中へ入るだけだ。
言われていた食料に関しては自分たちの分も含めて後輩のアイテ
ただ誤魔化されただけの気もするが、着いたのは事実だ。
ようだ。
いつものやり取りしている内に、梨紗の住むアパートへと到着した
﹁おい﹂
﹁っと、着きましたよ﹂
﹁お前ほどじゃないよ﹂
﹁先輩たまにかなり失礼っすよね﹂
﹁何でも良いが、ご近所さんに迷惑はかけないようにな﹂
ないのが何とも後輩らしい。
とはいえそういう時は大体誰かの為でもあるので怒ることもでき
るので勘弁してほしい。
よく分からんが、こういう時はたいてい後で溜息をもらすことにな
ビッと親指を立ててにかっと笑う後輩。
﹂
﹁何とかっす
?
ぞろぞろとアパートの階段を上がり、目的の扉へと向かう。
﹁あー、入ってから説明するよ﹂
?
1025
!
俺、後輩、栗林に富田、テュカ、レレイ、ロゥリィ、そしてピニャ
さんとボーゼスさん。結構な人数だが、まぁ何とかなるだろう。
最悪何人かは外に行くか。
﹁さてと、あいつは無事かな﹂
﹁まぁ無事じゃないでしょうね﹂
﹁だよなぁ⋮⋮﹂
鍵を開けながらつい口にした言葉にすぐさま帰ってくる言葉に納
得せざるを得ないのがなんとも言い難い。
俺は扉を開けて中へ入る。
暖房位着けろよな﹂
って、げ、コウジュちゃんも﹂
﹁梨紗ー居るかー。って寒っ
﹁せ゛ん゛は゛い゛ぃぃぃ
!?
愛想尽かされちゃうぞって。まったくもう、まったくもうです
だ。いや年齢的には合っていたってことなのか
昔からこの二人はどっちが先輩後輩なんだか分からない調子なの
相変わらずの様で妙に安心したよ。
をして謝る。
後輩は苦笑いをしながら梨紗に言い、当の梨紗はバツの悪そうな顔
まますぐ横に居た後輩を見つけて渋い顔をする。
立って歩く元気もない位なのか足元に這い寄る梨紗。そしてその
﹁うー、ごめんてばぁ﹂
よまったくもう﹂
ね
﹁げって酷いなぁ⋮⋮、ってかなんですかこの状況。俺言いましたよ
!!!
﹁ちなみにマジです﹂
﹁この人は、あれだ、俺の元嫁さんなんだ﹂
明は必要なので答えを言うことにした。
﹂
とりあえず、富田だけでなくその後ろで首を捻っている面々にも説
当然と言えば当然か。むしろよくここまで黙って来れたな。
についに質問してきた。
ここまで黙ってついてきてくれていた富田がこの混沌とした状況
﹁えっと、隊長にコウジュちゃん。この方って
ともあれ何かと梨紗を気に掛ける後輩なのだ。
?
?
1026
?
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁ええっ
﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
何故念を押した後輩よ。俺に嫁さんが居ると不思議だってのか
いや、それもそうか。全員驚いているのも仕方ない。 ﹂
?
﹁え
え
何この状況
﹂
﹁とりあえず奥に行くぞ梨紗。あと色々借りるから﹂
輩の存在にしか意識を向ける余裕が無かったのだろう。
リビングまでの廊下にぞろぞろと居る状況なのだが、よほど俺と後
傾げる梨紗。 今さらながら俺と後輩以外にも人が居ることに気付いたのか、首を
﹁今気づいたのかお前⋮⋮﹂
﹁あれ、この人達は
通とは違う夫婦だったのは確かだろう。
これもまた運が良かったからというべきかもしれんが、まぁ少し普
状況だよな。
自分で自分を客観的に見れば嫁さんが居たってのは割と不思議な
?
!?
!?
﹂
先輩はいつもので良いっすよね
?
ち着ける場所があると理解したようで着いてくる。
﹁皆何を飲みます
﹂
他の面々もイマイチ状況が分かっていないようだが、とりあえず落
くる。
俺は先導して奥へ向かい、後輩は梨紗を引っ張りながら後をついて
全員が座れる程度には場所がある。
なのでリビングまで行けば余裕があるとまでは行かないだろうが
イトの御陰か少しだけ広い部屋を借りることが出来ている梨紗。
元々借りる予定だったアパートとは違い後輩と共に梨紗がしたバ
もあれなので奥へと向かう。
状況が理解できずに居る梨紗だが、とりあえず立ったままというの
﹁何なのー
﹁とりあえずお邪魔します梨紗さん﹂
?
!?
そう言い残し、梨紗を放した後輩がキッチンへと消える。行くつい
﹁ういうい﹂
﹁よろしく。後の皆は無難にカフェオレとかにしといて﹂
?
1027
?
でに暖房をつけていく後輩にはグッジョブと言わざるを得ない。
まぁ何度もここに寝泊まりしているし勝手知ったるなんとやらだ。
なので飲み物は後輩に任せて、皆をそれぞれ座らせて話が出来る状
況を作る。
って何なのこの状況
﹂
﹁さて、とりあえず落ち着ける場所に来たわけだがまずは梨紗﹂
﹁は、はい
﹁落ち着いて聞いてくれ﹂
﹁えっと、うん⋮⋮﹂
﹂
﹂
元奥方とはいえ一般人の方を巻き込む気ですか
何が駄目だったんだろう。
﹁隊長
﹁だが行く場所が無いだろう
﹁ほれ﹂
﹁うわっと⋮﹂
﹂
一瞬で冷めた目に変わった梨紗に速攻で拒否された。解せぬ。
﹁⋮⋮あれ
﹁帰ってください﹂
﹁追われてるんだ、匿ってくれ﹂
改めて俺は梨紗を見ながら告げる。
ため温度を少し下げておく。
いく梨紗。若干頬が赤いのは暖房を一気に聞かせ過ぎたからか、念の
俺の言葉に何時にも無い雰囲気を感じ取ったのか、声を小さくして
言う。
いつもは絶対に出さないような真剣な声で梨紗を真正面から見て
!?
どうやら厄介な追手は予めの予定通りに会館へと行き問題を起こ
だ。
映し出したニュースは富田の言う会館が火事にあったというもの
何とか受け取った富田はそれを見て難しい顔になる。
出して放る。
きた富田だったが、俺は事前に調べてあった情報を携帯電話の画面に
流石に一般人である梨紗の家に止まるのは気が引けるのか言って
!?
1028
!
?
﹁会館があるじゃないですか﹂
?
!
してくれているらしい。
そ の こ と を 富 田 が 全 員 に 言 え ば 全 員 が 似 た よ う な 表 情 に な っ た。
﹂
﹁それじゃ、こんなきれいどころばっかりを連れてきた理由は何です
か
﹂
久しく聞いていない敬語でジト目をこっちに向けながら言う梨紗。
にょほぁああああああああ
この子達は特地の子だよ﹂
悪かったって、そう言いながら俺は説明を続ける。
﹂
!!!!
﹁ニュース見てないか
﹁じゃあコスプレじゃないの
﹁うん
﹁落ち着けって。とりあえずニュース見てくれ﹂
!?
?
﹁あれ、この炎龍の子は
﹂
様に昼間の国会に関してのニュースを見るように言う。
落ちつくように言うも無駄だと思うので、とりあえず分かりやすい
だ。
塚みたいな子たちが居ることにテンションが上がってしまったよう
俺と同じような趣味を持つ梨紗の為、明らかにエルフっぽい子や宝
!
﹂
﹁ってあれ、この子コウジュちゃん
え 段ボールから生まれた
のを解除しただけだ。場所を取るだけだなので。
実際のところこの場に居ないのは単純に後輩が具現化させている
化す。その辺りを梨紗にするには話が長くなってしまうからだ。
言いながらも画面から目を離さない梨紗に苦笑をしつつ、軽く誤魔
気付き質問してくる。
の中に出ている炎龍の子、つまり恋ドラモードの後輩が居ないことに
パパッと自分のパソコンで素早く情報を見つけた梨紗が、ニュース
﹁ああ、その子は、まぁ詳しくは言えないがここには居ないよ﹂
?
?
?
そういえば梨紗にはまだ後輩が異世界から来た存在だったことや
色々な能力を持っていることは伝えていなかった。
特地に行くことになったことやその後の色々があって伝えること
1029
?
﹁ああそうか、そういや梨紗はまだ知らなかったんだな﹂
?
﹂
が出来ていなかったのだ。
﹁お呼びですかな
﹂
﹁コウジュちゃんってソリッドなの
スのクローンだったの
リキッドなの
ビッグなボ
?
﹂
﹂
じゃあそれコスプレじゃなかったの
は協力してもらってるんだよ﹂
﹁ええ
﹁コスプレちゃうわ
﹁えぇ⋮⋮﹂
﹂
﹁後輩って実は特地とは別の異世界から来てたんだってさ。それで今
どこかで見たことあるやり取りだなと思ったら俺だった。
﹁それもう俺がやった﹂
﹁あ、そう﹂
﹁ただのアイテムボックスです﹂
﹁王の財宝
それを見て梨紗が驚きに目を見開く。
を取り出して机の上に置いた後輩。
何でも無い様に言いながら空間からお菓子が山盛りになったお盆
トがあれば何でもよかったし。あ、お菓子はこれね﹂
﹁一応、某傭兵さんじゃないよ。ネタであれをやっただけで、インパク
み物を渡していく。
それをさすがというべきかひらりと回避して、そのまま全員へと飲
梨紗。
タイミングよく飲み物を持った後輩が来たのだがそこへ突撃した
﹁うわお、危ないって梨紗さん﹂
!?
?
?
﹁とりあえず、黙っていてごめんなさい梨紗さん。実は俺、異世界から
たな。尽く拒否されていたが。
そういえば梨紗は何かにつけて後輩にコスプレさせようとしてい
梨紗はどうやらコスプレだと思っていたらしい。
闘服だっていう一般向けではない服に見えるそれを着てるのを見て
ここに来るときはいつもジャージ姿なことが多い後輩が今日は戦
!?
1030
!?
﹁何で残念そうなんすか⋮⋮﹂
!
!?
来た存在だったんだよ。特地に行く前に伝えられれば良かったんだ
けど⋮⋮﹂
言いながら頭を下げる後輩。
普通に考えて簡単に言えることでもないし仕方ないと思うんだが、
後輩的には黙っていたことに良心の呵責を覚えていたようだ。
相変わらず変なところで律儀な後輩だ。
そんな後輩に、梨紗は先程までの慌て様は何処へ行ったのか優しい
笑みを浮かべながら言う。
﹁気にしないで良いよコウジュちゃん。そんなこと普通は言えないっ
て﹂
﹁梨紗さん⋮⋮﹂
﹂
﹁それに言われてたら頭疑うだけだし。もしくは厨二病再発﹂
﹁先輩そっくりだよあんた
﹁どういうことだおい﹂
謂れのない被害を受けた気がするのでツッコムが俺の言葉など聞
こえないかのように後輩と梨紗は言い合いを始めた。
俺との言い合いとは違い可愛いものだが、まだ話の途中なのでとり
あえず止めることにする。
﹂
﹁はいはい、詳しいことはあとでだ。とりあえず寝る準備だけさせて
くれ。とりあえずテュカ達は休ませたい﹂
﹂
それとか使って何とかできないか
﹁うー⋮。でも先輩、布団とかどうするのよー
﹁寝袋もあったろ
?
?
俺 も 任 せ き り に す る の は 悪 い の で つ い て い こ う と す る が そ こ へ
待ったがかかった。
その手にはカードを持っており、何かをするつもりなのだろう。
そういえば家に入る前に何か言っていたな。
1031
!
どこだったかなと言いながら押入れの方へと歩いていく梨紗。
﹁それならなんとか﹂
?
﹁ふ っ ふ っ ふ お 待 ち な さ い な お 二 人 さ ん。俺 に い い 考 え が あ る
﹂
!
ニヤリと笑みを浮かべながら言うのは後輩だ。
!
それがこれか。
﹁こ ん な こ と に な る だ ろ う と 思 っ た よ。だ か ら 今 こ そ こ れ の 出 番 だ
﹂
﹂
これで俺の
これがあれば俺が行ったことのあるド
言いながら、後輩は手に持つカードを近くの扉へと叩き付けた。
﹁空間移動﹃どこでもドア﹄
アになら例えどんなドアでも繋ぐことが出来るのさ
部屋に行けば布団どころか余裕で寝られるスペースがあるよ
ドヤ顔で言う後輩。
の景色へと変わっている。
!!!!!!!!!
言いながら開けたドアの向こうは、確かにいつしか見た後輩の部屋
!!
!
!
お前それあるならここまで歩く必要なかったじゃねぇか
1032
!
﹃stage17:報われない男たち﹄
さいこーじゃないかー﹂
﹁たいちょー、私たちこんなことしてていいんですかねー
﹁いいんじゃないかー
﹁コウジュちゃん様様ですね﹂
だ。
﹁おー、蕩けてるねぇ。来て良かったっしょ
﹁もう働きたくないでござるー﹂
﹁﹁﹁うんうん﹂﹂﹂
﹂
﹂
ここに居る者の全員が程度の差こそあれ、皆が皆蕩けているから
しかし今この場にそれをあえて口にする者は居ない。
黒川を知る者が今の姿を見れば大層驚くことだろう。
になく、どことなく柔和な雰囲気を醸し出している。
その黒川にしても、いつもの凛とした大和撫子を思わせる姿はそこ
のは黒川だ。
栗林の間延びした言葉に、伊丹もまたのんびりと答える。同意した
?
然全員が水着だ。
そんな島の砂浜に、パラソルとビーチチェアを広げて寛ぐ面々。当
遊ぶことが出来る絶海の孤島なのだから。
なぜなら今居るのはとある常夏の無人島。誰の目も憚ることなく
しかしそれも仕方ない。
から、コウジュはいつもと逆だなと苦笑いだ。
この場には栗林や黒川以外にも富田が居るが皆揃って頷くものだ
ばかり。
即座に伊丹が答えるが、普段なら叱責する栗林たちもそれへと頷く
べながら話しかける。
そこへ飲み物を盆に乗せながら歩いてきたコウジュが笑みを浮か
?
耳に優しい波の音、適度に温かい気候、敵の心配をする必要が無い
環境。
1033
?
﹂
こんな状況で、蕩けるなという方が難しいだろう。
﹁えと、ミックスジュース誰だっけ
﹁あ、自分です﹂
﹁あいあい。えっと次は│││﹂
る。
﹂
こか納得してはいけないような気がしてもやもやとしたものを抱え
その辺りのことを幾らか知っている伊丹は、少し考えるもやはりど
いる部分もある。
を持つのなら結局新しい物を造られるだけではないかと半分諦めて
むしろ、変に消したところでこれほど自然に溶け込む情報操作技術
えて未だに保留とされている。
も当然のようにある戸籍を改竄するのも後々問題が出る可能性を考
コウジュの事を知った際に国はその辺りの事も知ったが、あまりに
システム上で言えば何の問題も無いうえにちゃんと認可されている。
どうやって用意されているのか、普通に考えれば矛盾だらけなのに
ので、不自然な程に自然な戸籍だ。
コウジュの戸籍はこの世界へ来た時点で何故か用意されていたも
うなものだし。ついでに言えば戸籍の偽造とか﹂
したし、そもそもそれを言いだすと俺自身が日本に不法入国してるよ
﹁えー、誰も使って無いし良いじゃないっすか。物は全部自分で用意
﹁さぁってお前、不法占拠かよ﹂
﹁さぁー、適当に飛んで見つけた所だから﹂
﹁結局ここってどこなんだ
その視線に気づいたコウジュは伊丹へと顔を向ける。
そんなコウジュへとすぐ隣で蕩けていた伊丹が目線を向けた。
める。
自分用に用意したオレンジジュースを一口煽り、身体を椅子へと沈
そして配り終えたコウジュは、空いている一脚へと腰掛ける。
きたものを順番に配っていく。
コウジュは持ってきたものの一つを富田へと渡し、そのまま持って
?
﹁確かにそうだけど、良いのかねぇー⋮⋮﹂
1034
?
﹁良いんじゃないっすか
・・・
閣下が言ってたんでしょ 箱根のあの
ろとは言ってなかったんでしょ
それに主目的は周りの鬱陶しい
旅 館 に 行 く よ う に っ て。ち ゃ ん と 行った じ ゃ な い で す か。そ こ に 居
?
為というのがほぼほぼ正しいだろう。
なぜそうなったのか、というのはいつものごとく大体コウジュの所
は似ても似つかぬ海が綺麗な島を満喫している所だ。
しかし、コウジュたちは今その旅館には居ない。山中にある旅館と
まれている。
計なお客さんをそのまま返すようなことにはならない戦力が放り込
敵が来ることが分かっている場所でもあるので現状はと付くが、余
とだろう。
展開されており、現状で言えば日本で最も安全な場所となっているこ
その旅館には元伊丹の同僚たちとなる特殊作戦群を中心に部隊が
勿論ただの旅館ではない。
館に行くようにというものだ。
さておき今回、その閣下が伊丹に直接出した指令の内容が箱根の旅
する。
より先に知って居る訳も無いので話の合う幼女と認識されていたり
ちなみにコウジュとも何度か会ったこともあるがその正体を伊丹
なっている特地問題の中心に居る伊丹と時折情報交換をしていた。
ひょんなことから学生時代の伊丹と知り合っていた彼は、今問題と
防衛大臣、そしてこの度、特地問題対策大臣に任命された男だ。
嘉納太郎。
地位にある人物だ。
しかしただのHNではなく、実際にそれなりのというのもおかしい
の様な物だ。
閣下、というのは伊丹がとある人物を呼ぶのに使うハンドルネーム
じゃないですか﹂
のをおびき寄せるための餌なんですし、疑似餌でも寄ってくりゃ十分
?
梨紗の家へと赴いた際、コウジュは思い出したかのように空間移動
をする能力を面々に教えた。
1035
?
それを暴露した際は当然の如く伊丹から何故早く言わなかったと
怒られてしまったわけだが、そもそもコウジュは伊丹と共に特地へと
赴いてからは伊丹と行動を共にするようにしていたわけだし、コウ
ジュの﹃どこでもドア﹄は知っている場所にしか移動することが出来
ない。だから頭の中からどこかへと飛んで行ってしまっていても仕
方ないのだ。
ともかくその能力の恩恵を得て、コウジュたちは南の島へと赴いて
いる。
勿論、コウジュが言うように罠や偽装工作をしたうえでだが、閣下
にメールを残して旅館から消えている。
問題があるとすれば、電波どころかガスも水道も無い南の島な為に
メールをしたは良いが返信メールを伊丹が受け取れない事態に陥っ
ているため、閣下はどうしたものかと頭を悩ませているくらいだろう
か。
1036
﹁それはそうだがなぁ。でもそれって俺が言えたことじゃないけど完
全に屁理屈だよな﹂
﹁くっふっふー、これくらいなら俺が理屈として押し通せば屁理屈も
理屈になるっすよ。それに、罠も張ってるし味方側は俺達の心配をす
る必要が無くなるって利点もあるよ。別に俺一人残っても良かった
んだけどねぇ﹂
身
伊 丹 の 言 葉 に ニ ヤ ニ ヤ と し な が ら そ う 言 う コ ウ ジ ュ に 伊 丹 は ジ
バーサーカー
トっとした目を向ける。
﹁やめろ戦闘狂﹂
﹁ひっどいなぁ。俺は別に命の奪い合いは好きじゃないですよ
で済むのもその加減だ。
耐久度が格段に上がっている。ヘリの機銃掃射を受けても痛いだけ
コウジュは以前に炎龍を捕食︵偶然の結果だが︶してしまった結果、
ジュの言っていることは正しい。
手をグーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返しながら言うコウ
そもそもただの銃弾なら痛いだけで済むようになってきたし﹂
体を動かすのが好きなだけです。それに無力化する練習になるしさ。
?
気を失ったのは痛さに転がった結果自らのチートスペックでもっ
て頭をぶつけた所為だ。
ちなみにコウジュの耐久力というのは概念的なものに近く、攻撃に
対して発揮されるだけでそれ以外の者にはわりかし適当だったりす
る。だからこそ某マスターのツッコミ等に対してはまるっきり効果
を発揮しないわけだが、本人は知らない部分だ。
﹁銃弾の効かない幼女が真正面から来るってどんな悪夢だよ。やっぱ
バーサーカー怖いわ﹂
うへぇと言わんばかりの伊丹。
そんな伊丹を見て、コウジュが再びニヤニヤとした笑いを向ける。
﹂
﹁ア ベ ン ジ ャ ー か っ こ わ ら い か っ こ と じ さ ん に は 言 わ れ た く な い
なぁ﹂
﹁貴様言ってはならんことを
そこからはいつものじゃれ合いになってしまった。
マスターだからなのか無意識のうちにコウジュ自身が攻撃と思っ
ていないからか、取っ組み合いを始めるコウジュと伊丹。
そこへ海に出ていたロゥリィ、テュカ、レレイの3人が丁度戻って
あきないわねぇ﹂
きて呆れた目を向ける。レレイに関してはほぼほぼ表情の動きはな
いが。
﹁またやってるのぉ
﹁ずるいわ﹂
娘も既に慣れたもので場の成り行きを見守っている。
なんだかんだとそれほど長くも無い日数の中で濃い付き合いをし
てきたものだから放っておけばすぐに終わることを理解していた。
3人もまた、空いているビーチチェアに腰掛ける。
ご丁寧にも傍に置かれた机の上には飲み掛けではあるがそれぞれ
の飲み物が置かれている。
これらすべてはコウジュが持ってきたものだ。
扉さえあれば見知った場所へと繋げることが出来るコウジュの能
1037
!!
テュカがどちらに対して言っているのかはさておき、この特地三人
﹁論点が違う気がする﹂
?
力の賜物である。
今はすぐ近くに扉だけが設置されており、それをマイルームへとコ
ウジュは繋げていた。
マイルームにはコウジュが心地よく生活を送るためのあれこれが
置かれているし、キッチン、バスルーム、トイレとその中だけで生活
できるものが充実している。
それを開けっ放しで置いてあるため、この無人島でもそれぞれが好
きなように過ごすことが出来ている。
世の物理学者やらが聞けば嘆きそうな異次元移動法の無駄遣いで
はあるが、コウジュに言わせてみればチートなど使ってなんぼであ
る。
マイルームにはドレッシングルームという設置されている倉庫︵据
え置き型のアイテムボックス︶に服を入れておけば一瞬で着替えられ
る便利な部屋︵何故かサイズも丁度になる︶もあるため突然このビー
チに連れて来られた面々も海を楽しむことが出来ている。
コウジュの甘言に乗せられて一緒に着いてきた3人娘もまた、そん
なチートを駆使されたこのビーチを堪能していた。
森を生活拠点としていたテュカは勿論の事、レレイも海は知識で知
る程度だしロゥリィもまた純粋に海で遊ぶのはほぼほぼ無かったの
だ。
ちなみにこのビーチには他にも梨紗やピニャ、ボーゼスもきている
が3人は事前に買っていたお宝、もといBLTサンドトマト抜き的な
本を見るために揃って木陰にある簡易の小屋の中だったりする。
﹁それにしても、便利よね﹂
﹁コウジュが言うには私やテュカの方が多様性に優れていると言って
いた﹂
﹁確かにぃあの子の能力って何というか尖ってるものねぇ﹂
テュカの言葉に捕捉するレレイとロゥリィ。
彼女たちはそれぞれがそれぞれ違う思惑でコウジュと話しをした
ことがあった。
地球の人々に比べて特地で出会った3人娘は比較的ファンタジー
1038
な住人な為、コウジュも貯まった何かを吐き出すべく話をすることが
何度もあったのだ。
その中で、それぞれが全てではないが自身の能力に関しての際に着
いて話をしたことがあった。
結果分かったことは極めて単純で、コウジュの能力はピーキーだと
いう事。ぶっちゃけて言えば振り回されている部分も多いようだが、
ロゥリィの言うように尖った能力が多いのだ。
何でもできるように見えて、出来ないことが多いコウジュの能力。
例えばこの島についてすぐ伊丹が認識阻害の結界を張っていたり
するのかなんて聞いたことがあったが、そんな便利なものがあったら
家を襲撃されてないなんて言葉が返ったこともあったくらいだ。
その割に炎龍を一太刀で叩き切るというか粉砕することもできる
コウジュを何とも言えない目で見てしまう3人娘の心情は何とも表
現し辛いものだ。
1039
﹁そ う い え ば ぁ、あ と 5 時 間 ほ ど で 向 こ う に 戻 ら な い と い け な い ん
だっけぇ﹂
﹁ええ、あの子が確かそう言っていたわ。あそこにあるトキィの針が
6と12の所に来る頃に戻るんだって﹂
﹁トキィではなく時計﹂
﹁日本語って難しいわ﹂
﹁でもおもしろい﹂
むむむと口を尖らせながら言うテュカにレレイが珍しく目を輝か
せながら言う。
その表情にこっちも相変わらずかと微笑むロゥリィはまた一つ思
い出したことがあった。
﹂
﹁ここに来るのにあの子の能力を使ったけどぉ、アルヌスへ直接飛ぶ
ことは出来ないのかしらぁ
﹁あ、そういえば﹂
かった﹂
を 渡 る の と は 違 う 技 術 が 必 要 と の こ と。詳 し く は 教 え て も ら え な
﹁すでに聞いたけどそれはできないらしい。なんでも、同じ世界の中
?
﹁ふぅーん、やっぱり変な所で偏っているのねぇ﹂
﹁でも何だかあの子らしい。それに何でもできちゃうより親しみやす
くて良いわ﹂
そのテュカの言葉にロゥリィは、何でもできちゃうと捕まえても逃
げられちゃうものねと心の中で呟いた。
そんな中、レレイはというと少し不満気な表情をしていた。
というのも、コウジュは伊丹が居ない時は代わりに様々なことを教
えてくれるのだが、たまにまったく教えてくれない分野があるのだ。
その一つが空間移動についての話だ。
世界を渡る技術というのは端的に言えば神域の話だ。
しかし、コウジュは技術としてそれを行使している。
魔法を学ぶ者であるレレイとしては、空間を移動する技術と世界を
移動する技術の違いはどこにあるのか、又、異次元の相より魔法とい
う力を導き出す魔導士としては異相へと直接繋げる技術がどんなも
1040
のであるのかが気になって仕方がない。
だがコウジュはいくつかの話題に関しては苦笑いしながら誤魔化
すばかりだ。
実際にはコウジュにも分からない︵感覚でやってるから︶ので仕方
ないのだが、当たり前のように目の前で行使されるとレレイとしては
気になって仕方がない。
﹂
あっちも終わったみたいだし、さっき聞いたスイカ割りを
﹁ま ぁ 仕 方 な い わ ね ぇ。と り あ え ず も う 少 し 遊 ん で い き ま し ょ う
かぁ﹂
﹁賛成
してみたいわ
﹁同意﹂
◆◆◆
所変わってとある箱根の旅館、その周囲に広がる森の中。
!
!
そこには悪夢が広がっていた。
パスパスと、短く破裂音が続いたと思えば続いて何かが倒れ伏す音
が何度もこの場では起こる。
倒れていくのはどれもが招かれざる客だ。
エージェント
故に、お客を出迎える側に躊躇っている暇などありはしない。
今、日本外の組織から派遣された部隊員たちは、南の島を満喫して
いる対象たちが進んだ先に居ると思い込み旅館を目指していた。
しかし、この場には事前に特殊作戦群を中心に部隊が展開されてい
る。
特戦群はホームで招かれざる客を順々に沈めていく。
だがそれなりに数が居るため休む暇もありはしなかった。
それもその筈で、この場所には米・露・中の各国から部隊が派遣さ
れている。
たとえホームとはいえ、静かにその全てを排除するのは容易ではな
どうしようもない。私だって悔しいんだ⋮⋮﹄
電話越しに震えている声が届き、本位︵総理︶にどう続ければいい
か悩んでしまう嘉納。
それなりに長い付き合いなのもあり知っているが、本位は向いてい
1041
い。
容易ではないが、それが与えられた命令だと特戦群の面々はそれぞ
れ自らの任務をこなしていく。
問題は、木陰に時折隠れながら進む彼らは偶然にも未だ他国の組織
とは鉢合っていないが、その内に出会ってしまう事。
偶々各国は違う方面から旅館を目指していた為このような事態と
なっているが、目的地は同じためいつかは出会うのが道理。
そうなれば、利益を求めてここへ送り込まれている部隊員たちが自
国の為に引き金を引き合うのもまた当然の事だ。
﹂
そこへ、特地問題対策大臣として作戦を統括している部屋へと来て
どういうことですかい総理っ
いた嘉納に連絡が届いた。
﹁作戦中止
!!
﹃仕方ないんです。ここまでこちらのスキャンダルを握られていては
!?
ないながらも特地問題が発生し内閣総入れ替えが起こった後の日本
を何とか繋ぎとめてきた。
だが、ここへきて今までのツケが回ってきた。
本井本人がどうという事ではないが、選んだ人間に有った事実は消
えない。
﹂
幾つかはハニートラップなどの罠でもあったのだろうが、今となっ
ては後の祭りだ。
﹁それで、どうする気なんだ
﹃何とか来賓を引き渡す約束は回避できました。あとは政権を投げ捨
てれば握られた秘密も無価値になる﹄
﹁そんなことをしたらあんたは⋮⋮﹂
続きを嘉納は口にすることが出来なかった。
責任を放り投げ総理を辞めるという事は当然のことながら二度と
総理になることは出来ないだけでなく、政治家としての一生を放り投
げるという事だ。
何故そんな事態になったかを国民が知る由もない以上、そうなるの
は当然の帰結。
それが分かっていて、本位は行うという。
﹃分かっています。これで終わりでしょう。けど、そこに意味がある
のならやってみせます﹄
声が震えながらも、本位の声には決断した意志が含まれていた。
﹃国を頼みます。心残りがあるとすれば、大人としてあの少女たちに
運命を任せてしまう事でしょうか。話を聞けば私よりも何倍も年上
の子がいるそうですが﹄
精一杯の冗談だろう。
だが、旅館のガードを解いてしまうざるを得なくなった自身の無力
感に溢れていた。
そんな本位に、嘉納は一つ助け舟を出すことが出来ることを思い出
した。
﹁それに関しては何とかなるかもしれねぇ﹂
﹃ああ確かに、あの銀髪の少女は隠れることが得意なのでしたか﹄
1042
?
そういえばと元居は思い出し、幾分か声に余裕が戻る。
とは言え特地からの来賓自身に結果の如何を任せてしまう状況は
変わらないので空元気も良い所だろう。
そんな本位に、嘉納は苦い笑いを零してしまう。
﹁いいや、そもそも彼女たちはあの旅館には居ねぇんだよ。どこだか
﹄
知らねぇが日本の外だそうだ﹂
﹃は
間の抜けた声が本位から出る。
﹁俺もよく分かってないんだがな、あの嬢ちゃんの力なんだそうだが
旅館に居るのはダミーなんだとよ。詳しいことを聞こうにも伊丹か
らの返事が無いから分からんが、最悪旅館にはトラップも仕掛けてあ
るからお客さんが来ても大丈夫だそうだ﹂
﹃は、ははは、それは嬉しい誤算ですね﹄
﹁だからお前さんさえ上手くやれば│││、﹂
上手くやれば多少は穏便に降りることできる、そう続けようとする
嘉納。
それは事態を後回しにするだけだというのは分かっている。
だが内閣の解散というのは持ち札として持っていて良い切り札と
はならない。
だからこそそう言おうとした。
しかし、言い切る前に本位は告げた。
﹃いえ、これで決心がつきました。今後この国を守るためには一度清
﹂
算が必要だ。それも早い段階での。これで後顧の憂いはなくなりま
した﹄
﹁あ、おい
確かに早い段階で清算することの意味はあるだろう。
つい零してしまう。
﹁あの馬鹿⋮⋮﹂
覚悟を、決断をした男の言葉だった。
最後の本位の言葉は吹っ切れた物だった。
嘉納が言葉を返す前に電話は切られてしまう。
!
1043
?
日本一つで国が回っていない現状、爆弾でもあり宝の山でもある特
地の対策を行う上でお伺いを立てなければならないというのは重し
にしかならない。
だから、お伺いを立てなければならない理由が一つでも早いうちに
無くなるのは理に適っている。
だが、その結果が一人の政治仲間を失うことと同義であるならば納
得し辛いのは当然だ。
とはいえ、もう本位は決断した。
なら、男の引き際を侮辱するのは同じ男としてできはしない。
任されたのだ、日本を。
そう無理矢理納得し、嘉納は口を開いた。
﹁作戦中止だ。上から通達が来た﹂
その言葉に、一瞬各部隊員は一瞬止まってしまう。 だがそれが命令ならば、そう行動しなければならないのが彼らだ。
次の瞬間には命令に準じた行動を取った。
勿論内心では不満が募っているだろう。
だから、嘉納は続けて告げる。
﹁来賓の心配はしなくていい。旅館には銀髪の少女がトラップを仕掛
けてあるそうだ。それに彼女たちは隠れちまった後らしい﹂
伊丹からのメールをそのままいう訳にもいかないので少しばかり
端折った説明だが、その言葉にあからさまにほっとした空気が流れ
た。
だが、現地に居る特戦群が離れた頃、再びそこには地獄が再臨した。
各国の部隊員が遂に出会ったというのもある、予想通りにそれぞれ
が潰試合を始め、形振り構わず銃を連射し始めた。
だが、その中に隙を見て旅館内部へと突入した男たちが居た。
その男たちが地獄を見ているのだ。
﹁あれがトラップだってか、あの嬢ちゃん中々えげつないな﹂
本位が零した言葉に、その場に居た面々は静かに頷く。
旅館内に設置されていたマイクから聞こえるのは、幾つもの悲鳴
だった。
1044
そして、中を映す画面には恐るべきものが映っていた。
﹁箱が⋮⋮食ってる⋮⋮﹂
そう呟いたのは伊丹に毒された内の一人だ。
馴染み深くなってしまったどこぞのアニメ内で言われたセリフを
思わず出してしまったが、その言葉はまさしく正鵠を得ている。
目の前の画面では、段ボールから出た何かが次々に人を取り込んで
いた。
名状しがたいその何かは、敢えて言うならば触手だろうか。
暗闇の中にありながらなお黒く、それでありながら存在感を持つそ
の触手は、先程まで本人と寸分違わない来賓たちの姿を取っていた。
動きはないが、生きているようにしか見えない人形だ。
違和感があるとすれば足元に転がっている段ボール位の物だろう。
ほど
しかしそれが招かれざる客を目の前にした時、水に濡れた泥の様に
解けたかと思えば、次の瞬間には人を襲い始めた。
ともすれば発狂してしまいそうな光景だが、幸いにもそんな人間は
出ていない。
その理由はやけにコミカルな光景だからだ。
ひょいぱくひょいぱく、一般男性より身長は高く体つきもゴツイ男
たちが質量を無視して段ボールに放り込まれていく。
放り込まれる男たちの表情は恐慌の一言だが、段ボール自体はトコ
トコと動き、まるで回収回収と言わんばかりに男たちを食べていく。
血が一滴も流れていないのもまた、コミカルな一因だろう。
そして何よりも、何故かどの箱も汚い字で〝一条祭〟と書きなぐら
れており、触手の一本が何を思ってか﹃おきゃくさまはおかえりくだ
ちい﹄と書かれた看板を持っていた。
恐怖のあまり銃を乱射する男も多く居たが、それすら漂う触手に飲
み込まれていく。
何とも見ている側からすればシュールな光景だ。
暫くして、招かれざる客たちは全て段ボールの中へと消えて行っ
た。
来賓たちに化けていたもの以外にも数はあったらしく、気づけば
1045
あっという間に跡形もなく男たちの姿は消えていた。
﹁あー、状況終了。後片付けだ﹂
嘉納が、ついつい気の抜けた言葉を発してしまう。
だがそれを誰が責められようか。
さっきまでの必死さは何だったのだろうか。 誰もがそう思ってしまう状況だった。
﹁俺達、居なくても良かったんじゃ⋮⋮﹂
誰かが言ったその言葉に、嘉納はついぞ答えることが出来なかっ
た。
1046
﹃stage18:遅かったな、言葉は不要か⋮⋮﹄
﹃こんにちはろはろー、かおすめーるな時間だよー
︵・ω<︶
﹁なんぞこれ﹂
ね
一条祭りがどうとかって書いてあるし普通に考えれば俺に能力と
いや誰ですかあなた。
明。
送信者は〝私〟さん。メールアドレスは文字化けしてしまって不
みれば変なメールが来ていた。
着信音的にはメールだったため一段落付けてから携帯電話を見て
ぶりに携帯電話が鳴った。
ビーチでの楽しい一時を終わらせ、片づけが終わったところに久し
!!
際にやったのはちょっと前だったけど言うの忘れてたんだてへぺろ
ぶっちゃけて言えば、君の特性を足しておいてあげたんだよん。実
元々素質は芽生えてたから、整えてあげたんだよ♪
まぁ弄ったと言ってもこちらが何かを加えた訳ではないのよさ。
君が作った一条祭りだけど、ちょっと弄っちゃったZE☆
らさっそく言おうかな
ほむ、とはいえ内容を言わないと褒めるものも褒められないか。な
てみたよ。褒めて褒めてっ。
やぁやぁ今回はちょいとお得な情報を教えようと思ってメールし
!
あ、中身がいっぱい入ってたしついでに整理整頓もしておいたよ
そんなわけで中の確認しておいてね
!
ではではあでゅーさよならまたらいしゅう﹄
!
1047
!!
それでこの人
かくれた神様になるんだろうけど、前にメールが来た時は〝エミリア
︵神︶〟が差出人になっていた筈だ。
が新しい担当になったとか
ひょっとして係長って言ってたし、左遷された
⋮⋮人
ふむ、よく分からん。
?
一条祭りなんて何故再現しようと思ったか昔の俺に聞いてみたい
るが、作った当初は思い付きで割かしなんでも行けた。
所為であまり根拠のない能力の発展性を出せなくなってしまってい
今となっては中途半端に自分の力量や創造性を自覚してしまった
異次元に飛ばしておけばいいんんじゃないかと考えた次第である。
防御とかが俺にはよくわからかったのでいっその事よく分からない
使うことが出来なくなるし、イリヤの城とかを使うにしても魔術的な
マイルームも一時的になら良いんだが、そうなると俺が中に入って
は持っていなかった。
作った当時は、いや今もだけど、捕まえた者を捕えておく場所を俺
と、その箱の捕獲︵捕食︶という部分に目を付けたからだ。
さておき、そんな一条祭りを何故再現しようかと思ったかという
らない終わり方だった。大体学級委員長の所為。
中で自我を持つようになるが最後もまぁギャグ漫画らしいよく分か
まぁ元々がギャグ漫画なので血なまぐさいことにはならないし、途
う特性を持っていた。
しかしこれはあらゆるものを吸収し、近くに居る者を捕食するとい
面白いことも無い代物だ。
媛みかんの段ボール箱に一条祭と書かれただけ見た目で言えば特に
そもそも、その一条祭りとは﹃ぱにぽに﹄に出てきた謎物体で、愛
き俺達の代わりに旅館で置いてきた数個だけだ。
今稼働しているのは知り合いの家に置いてきた何個かと、ついさっ
て、問題は書いてあった一条祭りに関してだ。
とりあえずこれ以上は考えても分からないし一旦置いておくとし
?
ところだが、でもこれはある意味中々に良い選択をしたとも思ってい
る。
1048
?
何せ俺の能力は想像したものを生み出す能力なわけだがデメリッ
トは〝出来ない〟と考えることで、中身がどうなっているかは特に関
係ないのだ。
つまり再現するために中身を理解する必要が無い。
原作ではなくアニメの方だが、俺が知っている知識と言えばそれで
見た描写されていたものくらい。
触手みたいなものが出る、外敵を排除する、吸収、ギャグなので死
なない、それらさえ分かっていればそれが全てとなって一条祭りは再
現されていた。ちなみに吸収はしない様にと考えながら作ったので
それは再現されていない筈だ。
しかし、だ。
ここに来て何やらそれが変化したらしいときた。
メールの内容を信じるのならば俺の特性を足されたらしい。
でも俺の特性って何だ
幼女、とか
獣
ておいてなんだがそれは無いだろう。
いやいや段ボール箱に幼女の特製されるって何だよ。自分で考え
?
あとは不死とか、幻想をの能力とか、最近分かった喰べる能力とか
おいこれどれも物騒じゃねぇか。
メールには中を確認しておいてってあったし、見ておいた方が良い
のだろうか⋮⋮。
﹁ふむ⋮⋮﹂
﹁どうした、段ボール箱と見つめ合ったりして﹂
﹁あ、先輩﹂
一人悩んでいると、ジャリジャリとビーチの砂を小気味よく鳴らし
1049
?
段ボールに獣が足されるという事は4足歩行するようになるとか
?
何それ怖い。
?
?
ながら先輩が近づいてきた。
片付けも終わりマイルームで順番にシャワーを浴びていたところ
だったのだが、俺は所有者だからと一番最初に入らせてくれたので残
りの皆を待っていた。
その合間にメールが来たためどうしようかと悩んでいたのだが、レ
ディファーストということでシャワー順を最後に回した先輩が暇を
持て余し俺の所へ来たようだ。
﹁ほい、冷たい物どうぞ﹂
﹁うい、冷たいものどうも﹂
マイルームの冷蔵庫に放り込んでおいた缶ジュースを持って来て
くれたようで、それを受け取りながらも目線は段ボール箱⋮⋮一条祭
りからは離さない。
スペルカードとして産みだしたこの段ボール箱︵一条祭り︶だが、俺
は謎空間に繋がっていると想像しながら造ったせいか、その謎空間は
別の一条祭りからでも同一の謎空間に謎空間に繋がっていることが
分かっている。
俺自体は中に入ったことは無いのだが、いつだったか物を放り込ん
だ時に別の箱から出てきたことから分かったことだ。
ついでに言えば俺のマンションとかを襲撃した犯人たちもこの中
に居たりするわけなのだが、それぞれ別の一条祭りに食われた奴らも
同じ空間に放り込まれたようなのだ。
銀座事件の後から俺を襲う奴が出てきたわけだが、俺はその捕獲し
た人達をどうするかかなり悩んだ。
その後も一条祭り祭り︵ちょっと自分でも行ってて意味が分からな
くなってきた︶をしていかざるを得なかったんだが、捕虜は増えるば
かりで一向にどうするかが決まらない。
そんなある日、一条祭りの中から食材やら生活用品やらが書かれた
メモ用紙が出てきた。
それは拙いが日本語で書かれた物や外国の物もあった。
よく分からないが、俺は中の人達の欲しい物だと考え、餓死されて
も困るのでとりあえず買って放り込んでみた。
1050
そしたらなぜか感謝のメモ用紙が返ってきた。
何だか釈然としないし、結構な量を買わなくちゃいけないため面倒
だったが放り出すわけにもいかないしなあなあで放置していた。
﹂
しかし、どうやらそのまま放置という訳には行かなくなったよう
だ。
﹁後輩、それって旅館に置いてきたやつ
﹁そうそう、俺達の代わりに置いてきたトラップっすよ﹂
﹁何でそんなもの出してるんだよ⋮⋮﹂
﹁何か異常が起きてたりしないか気になって﹂
メールの事を言うと俺が転生者だとか言わなくても良い事まで言
わないといけなくなるのでめんど⋮⋮もとい煩わしいので少しぼか
して先輩へと返す。
以前にも俺は突然地雷を出したこともあるため恐る恐ると近づい
﹂
てくる先輩は、見た目だけで言えば何の変哲もない段ボール箱を見て
首を傾げる。
﹁どう見ても段ボール何だが、違うんだよな
アニメではとある少年が一条祭りの中を興味本位で覗き感嘆の声
かないので俺は意を決してふたを開ける。
とはいえこのままずっと一条祭りとにらめっこしている訳にもい
うん俺も怖い。造った本人が言うのもなんだけど。
﹁何それ怖い﹂
﹁うん、何というかちょっと能動的なネズミ捕りみたいな﹂
?
を上げた後捕食されたが、制作者に対してはそんなことは無かったの
で大丈夫だとは思う。
1051
?
で も 未 知 に 対 す る 恐 怖 は 誰 で も 同 じ よ う な モ ノ の 筈 だ。ほ ん と
造った本人が言うのもなんだけど。
﹂
そして俺は、中を覗き込む。
﹁え
﹂
?
俺の声に疑問を持った先輩が同じようにソロソロと箱の中へと目
﹁どうした
思わず間の抜けた声が出た。
?
をやった。
﹁へぇ、こうなってるのか。ミニチュアみたいだな。しかも近未来的
で中々に男心をくすぐる仕様じゃないか﹂
そう、先輩の言う通り一条祭りの中は何故か近未来的な様相を呈す
ミニチュアサイズの広場が広がっていた。
そしてそこを小さな人が何人も歩いたり話をしたりと思い思いに
過ごしている。
どいつもこいつもガチムチな中々によろしい体系をしており、そし
てちらりと見ただけでもわかるくらい国籍にばらつきがある。
同じ人達も居るようだが、関係なしにそれぞれ過ごしている。
半分以上が迷彩柄やら軍服の様な物を着ていることから恐らく俺
を襲おうとして一条祭りに捕食された人達だと思う。
しかし俺はそんな事よりもその近未来的なと表現した広場に思考
がフリーズしていた。
何でこれが
そう何度も頭の中でリフレインするも、答えは出ない。
﹁どうしてこうなった⋮﹂
ほんと、ほんと何で一条祭りの中にPSPo2のシップロビーが広
﹂
がっているんだろうか
◆◆◆
﹁準備は出来たか
﹁﹁﹁はっ﹂﹂﹂
?
これから俺達は門を潜らなければならない。
輩。梨紗に関しては既に家に戻ってもらっている。
テュカ、レレイ、ロゥリィ、ピニャさん、ボーゼスさん、そして後
それを聞いた俺は、次に残りのメンバーに目をやる。
俺言葉に栗林、黒川、富田が敬礼と共に返事を返す。
?
1052
?
後輩の能力があれば門の周囲にある検問の内側に直接飛ぶことも
できるが、俺達に必要なのは門を潜って帰ったという事実だ。
その為には最後のチャンスと形振り構わずに来るであろう工作員
たちを振り切る必要がある。
だから梨紗には帰ってもらった。完全な一般人である梨紗にはこ
れ以上は危険が跳ねあがる。
ならそもそも何故梨紗の家に行ったのかと問われれば、以前に後輩
から理沙の家の周りにはわなを仕掛けてあると聞いていたし、度々送
られてきたメールの内容から死にはしないかと心配になったからだ。
しかし今から行く場所は敵が来ると分かっている場所だ。そんな
所へ連れて行くわけにはいかない。
その説明を梨紗にして渋々ながらに帰らせれば、後輩がニヤニヤし
た目でこちらを見てラブコメラブコメと煩くなるなんてこともあっ
たがそれはいいか。寸前まで段ボールを見て遠い目をしていたのに
元気なやつだ。心配して損をした。
そんなわけで俺達は今から銀座にある門を潜って特地へと戻らな
ければならない。
集まった俺達の前には門があり、その先は銀座からほど近い後輩の
マンションへと繋がっている。そこから俺達は銀座へと乗り込むの
だ。
銀座では、ただ通り過ぎるのではなく献花をする予定も盛り込んで
ある。
これは梨紗の案でもあるのだが、その情報を流して一般人︵大きな
お友達が中心だが︶を集めて工作員の動きを牽制し、更にはせめて来
た側である特地三人娘が献花をすることで心証の回復を図ろうとい
うものだ。
勿論特地の人間とはいえ直接攻めてきた軍の人間ではないが、ただ
通り過ぎるのとそういったことをするのでは全然受ける印象も違う
のは確かだ。
特に人というのはテレビ等に出てくる言葉が全て本当ではないと
思っていながらもその表現の仕方一つで影響をついつい受けてしま
1053
うものだ。在ること無い事書かれるよりは、良い事をしてその〝在る
こと〟を書かれた方が遥かにマシである。
まぁ、お願いした三人娘自身が乗り気だったのもある。
三人は既に帝国が日本へと攻めてきた結果が今の状況であるとい
う事を知っている。
直接関わりがある訳ではなくても、死者を悼む気持ちはあると言っ
てくれた。とても優しい子たちだ。
﹁よし、行くぞ﹂
俺はドアノブを捻り、歩を進める。
よくある空間を超えるような感慨も無く、容易く俺の足は後輩のマ
ンションへと乗り込む。
止まらずに奥へと進めば、続くように全員が入ってくる。
﹁土禁なんだけど、これだけ汚れてば一緒だなぁ﹂
少し寂し気に言う後輩に目を向けた後フローリングを見れば、幾つ
1054
もの足跡があり、綺麗だったであろう床は汚れている。
床だけではない。
高級マンションと一目でわかる景色と広さを誇っていながら部屋
の中は色々と荒らされていた。
本来であれば跡を残さずに色々とするのだろうが、事が事だけに形
振り構わずと言ったところか。
﹁⋮⋮とりま俺のコレクションに手を出した奴はぶん殴る﹂
部屋の端に落ちていたDVDのケースもまた、乱雑に扱われたから
か割れるまでは行かずとも汚れが目立つ。
あれは確か後輩が気に入ったからと初回特典版で購入していたア
ニメのものだ。
とりあえず心の中で手を出したであろう工作員と国に手を合わせ
つつ、窓から目的地である銀座を見る。
高層マンションとはいえ銀座の詳しい部分までは遠くて見えない
が、いつも通り、いや、いつも以上に賑わっていることだろう。
﹂
﹁うへぇ、めっちゃ居るっすねぇ﹂
﹁見えるのか
?
﹁ういうい、何せビーストだから﹂
ビーストってマサイ族的な側面もあったんだな。いやむしろマサ
イ族がビースト的な続面を持っているのか
ふと意味も無いことを考えつつ、そこまで混んでいるのならどうし
ようかと悩む。
ここから路地や人通りの少ない場所を通りつつ、最悪車を使って移
動しようかと考えたがどうにもそれは悪手にしか思えない。
込み入った裏路地まで行ってしまうと、何のために人を集めたのか
意味が分からなくなる。
いつもの喫茶店まで後輩の能力で跳べばその辺りの悩みも一緒に
吹き飛ぶのだが、正直に言えばあの喫茶店にこれ以上迷惑はかけたく
ない。
背に腹は代えられないのならそうするしかないが、さて⋮⋮。
そんな風にどうしたものかと頭を抱えていると、後輩がニヤリと良
い笑みを浮かべながらこちらを見た。
あ、これアカンやつや。
﹁先輩、俺に良い考えがある﹂
当確です。
何故かそんな言葉が俺の中で響いた。
◆◆◆
﹁やめろおおおおおおおおおおおおお
いっそ殺せえええええええ
﹂
﹂
﹁そりゃそうだよ。何せ今は、はるか上空1万メートルって所だしね﹂
﹁そんなことを死ぬだろおおおおおおおおおおおおおお
!!!!!!!!!!!????
1055
?
﹁あっはっは、それなら手を離せばいいじゃないか﹂
えええええええええええええええええ
!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
そう、俺達は今上空1万メートルの高さに居る。
俺が炎龍を出し、俺自身は大狐⋮⋮だと炎龍の迫力に負けちゃうの
でヤオロズ様というPSPo2iに出てきたBOSSの姿を取って
いた。悔しかったからとかでは断じてない。
ちなみにヤオロズ様というのは、PSPo2i内においてとあるク
エストに出てくるBOSS級エネミーだ。
ただ、エネミーとは言うが言葉を交わし、ガーディアンズに試練を
与え、その試練を乗り越えた者に褒美を与えるという比較的友好な存
在だ。
その正体について詳しいことは分かっておらず、クエスト名や話の
中で分かっているのは星霊という存在であるらしいことや神と崇め
られていること、他にも主観的なものだが結構強いのとレアドロップ
で神剣とかをくれることだろうか。
姿に関しては仮面を被った白い大狐で尻尾は三本。背には5重の
塔が背負われており、四肢にも仮面。そして各部にある荘厳な装飾
と、炎を思わせる半透明な紅い帯を漂わせている。
そんなヤオロズ様の姿になっている俺と、出した炎龍の背に分かれ
て乗る皆。
これなら安全に目的地まで行けるというのが俺の出した名案であ
る。
上空1万メートルというのは生身でいて良い場所ではないが、空気
圧などに関してはそこはエルフであるテュカちゃんと魔法少女なレ
レイちゃんの出番である。お、俺もできないことも無いから提案した
けど、安全性を考慮してってやつです。
風圧に関しては、俺は魔力を固めて空を歩けばいいし、炎龍は翼で
直接飛んでいるのではなく飛んでいるという結果を引き出している
のでゆっくり飛ぶのは比較的簡単だ。
ただ、問題が一つだけある。
先輩って実は高所恐怖症なんだよね⋮⋮。
だからこそさっきから先輩は叫びまくっているのである。
﹁はいはい先輩着いたよー。後は降りるだけだから黙っててねー﹂
1056
﹁まだめっちゃ高いじゃないか
﹂
﹂
﹁そらそうだよ。でも空挺徽章とか持ってるんでしょう
は気張りなよ﹂
﹁無理なもんは無理だ
﹁やれやれだぜ⋮⋮﹂
﹂
ちょっと
他 に も レ ン ジ ャ ー 徽 章 や ら 幾 つ か 取 っ
隊長って空挺徽章も持ってるんですか
﹁あ れ 知 ら な か っ た の
取っちゃったって何 そんなノリで取れるもの
ちゃったって言ってたような⋮⋮﹂
﹁取っちゃった
じゃないんだけど
﹂
!!?
ってかあの隊長が何でええええええええええ
俺はあまり知らないけど、エリートが取る様なやつだっけ
よく分からんが何故か栗林さんが煩くなった。
えええ
!?
﹁はぁ
俺は辟易としながら首を振ると、俺の言葉に声を上げた人が居た。
思ってんだが、ついこんな所で出てしまった。
や れ や れ だ ぜ っ て の は も っ と か っ こ い い 場 面 で 使 え る も の だ と
?
!!
◆◆◆
た。
そうして、俺は一歩一歩、空を踏みしめながら静かに大地を目指し
う。
仕方ない。このまま居ても煩いだけなのでさっさと降りてしまお
当の本人はというと別の意味で叫んで今のが聞こえていない様子。
ん、ほんと普段の先輩を見てると言われて仕方ないけどさ。
まぁ確かに先輩には似合わないもんだけど、酷い言われようだ。う
?
!?
?
︻美少女に︼異世界へと渡りたい︻会い隊︼︵15︶
1057
!!
?
!?
!!!??
660 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そういや伊丹氏がマスター疑惑ってどうなったん
661 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
あれってデマだって噂だぞ
662 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
この間あの騒動の流れを羅列した動画上がってたけど、最初に誰か
が伊丹氏の腕に包帯が巻かれているのを発見してからだってさ
663 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
wwww
なんでそれがマスターの証になるんだよwww
ただの中二病かもしれないじゃんか
664 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
国会に来てまで厨二病発症してる時点でオワテル
665 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
何故そこで厨二病www
ただのけがかもしれないだろうwww
1058
?
666 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀663
あれはな、コウジュちゃんって銀座事件で回復魔法的なの使ってた
らしいんだよ。なのに伊丹氏は仲が良いらしいのに態々包帯を巻い
てるのが怪しいって感じで令呪を隠してるんじゃないかって考えた
のが居たんだとさ
667 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なにそれこわい。包帯外すわ俺。
668 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
││:││:││
1059
﹀﹀666
あー、確かに言われいてみれば。
でもだからって飛躍しすぎな気もするが
669 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀667
ちゅに病さんチっすチーッす。今日の暗黒龍の具合はどうですか
││:││:││
﹀﹀670
それが過ぎに出てくるお前も⋮︵
´
671 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ;ω;`︶ブワッ
670 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
﹀﹀670
やめておけ、自分の傷口を広げるだけだぞ
葱の・・・
672 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
回復魔法ってあれでしょ
673 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
葱ww そう葱のやつwwww
674 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
あれなwwww
あれは今でも笑うわwwww
675 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
何故そこで葱
││:││:││
あの姿、まさしく葱
││:││:││
で、結局葱って何
││:││:││
知らないやつも居るのな。
1060
?
678 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
677 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!
676 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !?
一時期各地で葱が消えたのに
679 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
主に振るために
680 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀677
銀座事件の幼女の武器の一つが葱と判明したため
681 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ふぁ
682 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
あの事件に巻き込まれた人とかから流れてきた情報だっけ
683 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
緑 と 白 の ス テ ッ キ だ と 思 わ れ て た や つ が ま さ か 葱 だ っ た と は
なぁ・・・
684 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
葱だ葱だ騒いでいた奴も確かに居たけど、あの幼女が国会でのデモ
ンストレーションで本当にネギを出した時はたまげたよな︵ぶん
ぶん
!
1061
!?
685 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !
││:││:││
﹀﹀684
一体何を振ってるんですかねぇ・・・
686 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀684
お、ゴルフの練習ですか
687 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀684
シマッチャオウネー
688 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
話が流れまくったけど、何で幼女は葱を持ってたの
ないでしょう
だっておww
国会で聞かれてたけど、何でも葱を持ってても銃刀法違反にはなら
││:││:││
689 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
││:││:││
ホント確かに銃刀法違反にはならねぇわなwww
691 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
めちゃくちゃ強いのに銃刀法違反気にするなんてやだかわいい
1062
?
690 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
692 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
木材じゃダメなんだろうか
逆に言えば葱さえあればどうにでもできるってことだよな。
でもなんで葱
﹀﹀691
きもい
││:││:││
ほら、真ん中空洞じゃん
的な
そこに魔力を通してだな︵士郎の強化
694 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ キッとあの緑と白のコントラストが︵適当
││:││:││
693 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
││:││:││
知らないのか
ぬん
それより異世界美女たちが銀座に現れることの方が重要だ
葱の話はもうおいとこうぜ、前に散々話しただろう。
││:││:││
696 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 一部地域ではネギは魔除けとしてうんぬんかん
695 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
697 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
まさしく︵全裸待機
1063
?
?
698 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
シュタッ
699 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
まさかおまえそれ現地でやってるんじゃないだろうな・・・
700 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
お巡りさんあいつです
701 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀697
通報しますた
702 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
さすがに部屋の中だよwwww
703 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ちな俺現地︵ボソリ
704 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
オレモ⋮
1064
705 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀703 ﹀﹀704
裏切り者だああああああああああああああ
殴りに行くわ
ってかまだなん
││:││:││
708 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ それってお前も居るんじゃないのかwww
﹀﹀706
││:││:││
707 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 何処に居るの
﹀﹀703 ﹀﹀704
││:││:││
706 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!!!
んじゃね
いつ来るとかは決まってないみたいだし、数時間後ってこともある
││:││:││
709 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
││:││:││
まじかー。さすがにそこまで待ってられんわ
711 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
精進が足りんな。徹夜組
1065
?
710 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
712 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おい違反者くんな
713 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ・ω・`︶シュッカヨー
││:││:││
︵
714 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ・ω・`︶ソンナー
││:││:││
︵
715 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そもそも献花に来るってどこ情報よ。
716 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
さぁ
719 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ これで来ないとかいうオチだったら面白いなw
││:││:││
718 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 誰かがのつぶやきだって話だけど、よくわからん。出回り過ぎて
﹀﹀715
││:││:││
717 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
1066
´
´
││:││:││
まぁ確かにテレビでは何も言ってないし、まじであるかもなぁ
720 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
いいや来るね
726 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ せ、せやな
││:││:││
725 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ お、おう
││:││:││
724 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ﹀﹀722 誤字った 来てほしいから
││:││:││
723 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 俺が着て欲しいから
││:││:││
722 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ その根拠は
││:││:││
721 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !
││:││:││
アッハイ
1067
?
727 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
せやかて工藤
728 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
何でや工藤
﹀﹀722
一体何を着てほしいですかねぇ⋮⋮
729 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
メイド服が着たい
││:││:││
周りにおっきいおともだちいっぱい︵
││:││:││
よかったな仲間がいっぱいじゃないか
帰れ
・ω・`︶
733 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
一人ぼっちは寂しいもんな⋮
734 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 1068
730 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
おっさんのメイド服姿とか見たくないわ
!!
731 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!!!
732 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ´
││:││:││
おいやめろ
735 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
でもほんとおっきいおともだちばっかだわ。肉ばっかり
736 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
駄肉の分際で何言ってんだか
737 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
駄肉・・・そこはことなくエロいスメルが//
1069
738 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
R18スレ行け
739 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ここも腐界に沈むのか⋮⋮
740 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
そこまでだ
・
・
!!!!
・
983 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なぁ、なんか音がしないか
984 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
PCのファンの音しかしないが
985 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ニートはまず家から出ろw
現地の話だろたぶんw
986 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なんぞこれ
││:││:││
なぁ、上になんか居ない
││:││:││
上から来るぞ気を付けろ
││:││:││
キレイな青空だけど
1070
?
989 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!
988 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
987 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ?
上ってなんぞ
?
990 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
え、マジで何かいる。なにこれ。
991 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
﹀﹀988
マジで上から何か来てるんですが
992 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
親方ああああああああああ。空からなんか来たああああああああ
ああああああああああ。
993 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
なんかでかいの二匹居るううううううううううう
なにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれな
││:││:││
996 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ なんかおっきい狐っぽい何かも居るんだけど
││:││:││
995 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ 炎龍だああああああああああああああああああ
││:││:││
994 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ !!!!!!!!!!!!
にあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれなにあれえええ
えええええええええええええええええええええ
1071
!?
997 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
も、もちつけ、こんな時は素数をだな。1、2、3、4・・・・
998 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ってか次スレええええええええええええええ
999 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶ ││:││:││
ぎゃああああああああああああああああああああああああああ
1000 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││
あ、炎龍が美女と幼女になった
1001 名前:名無しの異世界帰り:││││/││/││︵│︶
││:││:││
このスレッドは1000を超えました。新しいスレッドを立てて
ください。
1072
﹃stage19:メイド服って⋮メイド服って⋮⋮
﹄
﹁らっしゃーせー⋮⋮って、ちっ先輩か﹂
というかお前も納得しただろうに﹂
﹁おいこらお客さんに向かって舌打ちするな﹂
﹁俺を売ったくせに⋮⋮﹂
﹁人聞きの悪いことを言うな
を稼ぐのに必死だ。
が無くとも生活を維持できるようにそれぞれが仕事を探し出し、日銭
る訳でも無く、配給自体も自活の目途が立つまでだ。だからその配給
彼らとて、自衛隊からの配給があるとはいえそれだけで生きていけ
いる訳ではない。
テュカ達と共に過ごしていた訳だが、その彼らも日々遊んで暮らして
なのでコウジュは伊丹が仕事中は専らコダ村からの避難民たちや
然ながら部外者が見て良い物ばかりではない。
が、幾ら裏切る可能性が無い存在だと言ってもそこは自衛隊内部。当
コウジュも、伊丹のサーヴァントである故にそれに付き合っていた
理に追われていた。
アルヌスへと門を抜けて戻ってきて暫く、伊丹は事後処理の書類整
自身の落ち度もあるが専ら伊丹の所為であるからだ。
それもその筈で、コウジュがここに居る原因となったのはコウジュ
そんなコウジュに伊丹は言い返すも強くは出れない。
訪れた伊丹に対して辛口で返したのはコウジュだ。
アルヌスにおけるPX︵売店︶のすぐ傍に設営された食堂、そこを
﹁それは⋮⋮まぁ﹂
でしょうが﹂
﹁分かっちゃいますけど、こんな服着ることになったのは先輩の所為
!
そんな中、コウジュは何もすることが無かった。
1073
!!!
確かにサーヴァント本来の役目で言えばマスターの守護ではある
が、伊丹を守ると言っても基地内では命に関わる事件が起こるはずも
ない。
だからコウジュは手持無沙汰になり、様々な場所を転々としてい
た。
仕事中の人達の邪魔をするほど常識外れでもないし、かと言って基
地内で歩くことをある程度許可されたとはいえ好き勝手出来るほど
ではない。
それから数日と経たない内にコウジュは猛烈に焦り始めた。
銀髪紅目幼女無職という肩書き、これほど不名誉なものは無いと気
づいたのだ。
実質的にはコウジュは既に自衛隊内で貴賓扱いとなっている。
というのも狭間が手を回してコウジュの肩書きを特地対策特別顧
問とし、協力関係であるとしていたからだ。
これが通ったのは伊丹とコウジュが狭間の案もあってだが大いに
暴れた国会生中継があったからこそだ。
実際にどうするかまで狭間は口出ししていないが、想定以上にア
ピールしてくれたおかげでコウジュという存在に対して日本を含め
て各国共に慎重にならざるを得なかった。
さらに言えば、門を通って帰るために炎龍一体だけでも自衛隊から
の報告書で常識外の存在であると分かっているのに、それを使役して
いるうえコウジュ自身も大きな狐となって銀座に現れていた。そん
なコウジュに対して下手な行動に出ようものならどうなるか分かっ
たものではない。各国が送り出したエージェントも生きたまま捕え
られていると言われてしまっては容易く動く訳には行かない。
さておきそのような過大評価を受け下手をすれば特地問題以上に
慎重に対応されるべき存在とされているが、しかしてその中身は元一
般人である。
貯金もあり、それなりの身分扱い︵これに関しては実はまだ理解し
ていない︶が、周りが働いているのに自分だけ何もしていないという
のはコウジュの心に来るものがあった。
1074
だからコウジュは、働く場所を探すために伊丹に相談をしに行っ
た。
しかしその結果が今コウジュがここに居る原因である。
現在、アルヌス駐屯地におけるPXは大いに人手不足だ。
というのも、ピニャ皇女から要請のあった語学研修が開始し、アル
ヌス駐屯地のすぐそばに設営された難民キャンプへと人が続々と集
まってきた。
同時に、龍の鱗を生活費へと当てることが出来るようになった難民
キャンプの人々はそれを元手にそれぞれ商売を開始した。自衛隊と
取引したものを売る者、仮宿舎を運営する為の人員となったもの、誰
もが手に職をつけることができた。
実はこの辺りは伊丹が忙殺される原因となった書類によってある
程度根回しされたモノでもあるのだが、そのおかげで﹃アルヌス共同
生活組合﹄として元コダ村の住人たちは安定した収入を得ることが出
来るようになった。
しかしそれは最初だけであった。
別に商売が破綻したわけではない。むしろ逆だった。
駐屯地内に設営されたPXでは物の流れなどを徹底的に書類を通
して行っており、それを煩わしく感じる者達が難民キャンプ内にある
PXまで通うようになる。そこに現在進行形で語学研修で来ている
人員も通うようになる。更に更に異世界からの珍しい物を手に入れ
ようと来る商人まで居る。
そしてその対応を任されたのが伊丹だった。
元を辿れば元コダ村の人々を招き入れたのは伊丹だ。一番現地住
民と接触を図っているのも又、伊丹だ。
と な る と、狭 間 が 伊 丹 に そ の 采 配 を 任 せ る の は 必 然 と も 言 え る。
ぶっちゃけて言えば自分の尻は自分で拭けってことである。
とはいえそう簡単に人員不足を解消できるはずもなく、伊丹はどう
するか悩んだ。
だがそこに救世主が現れた。
タイミングよく伊丹の元へ仕事を探して訪れたのがコウジュだっ
1075
たのだ。
そのコウジュを見て、伊丹はピースがはまったかのように天啓を得
た。
よくよく考えれば、何かあっても自力で問題を解消できて、地球の
事も異世界の事も知っており、地球と特地両方の言葉を話せるって後
輩って実はかなり優秀な人員なんじゃなかろうか、と。
それに思い起こせば後輩はバイト生活でコンビニ店員やらの接客
業もこなした経験がある。
これしかない、と伊丹はすぐさま書類を用意し、コウジュへと渡し
た。
コウジュはコウジュで、周りが働いているのに自分だけ働いていな
いという状況に危機感を覚えていた為にその書類へとすぐさまサイ
ンをしてしまった。
その結果、晴れてコウジュはPXの店員という職業を手に入れた。
とは言えコウジュもずっとそこで働いていられるわけもないので
増員は必要だ。だからそれまでの補助要員である。
だがここから、コウジュにとってだが悪夢が始まる。
PXに幼女店員が来た↓よく見れば噂の銀髪幼女↓一目見ようと
隊員たちが集う↓客が増える↓人員が足りない↓恋ドラ人形を増や
して慣れない並列思考しながらコウジュ頑張る↓美人が増えたから
客が増える↓売り上げが上がったので商材塔が増える↓人が足りな
くなる↓フォルマル伯爵家から補充要員↓ケモミミ娘が増える↓客
が増える↓人が多くなったので食堂立てる↓人手不足↓補助要員と
して夜だけだがコウジュが入る↓人手不足↓⋮⋮⋮以下繰り返し。
そんなわけで、コウジュは夜に食堂で働かなくてはならなくなっ
た。
しかし、元々職を探していたのはコウジュ自身の希望だ。それだけ
で文句を言われれば伊丹も堪ったものではない。
では何がコウジュをヤサグレさせているのかというと、冒頭にコウ
ジュが言った〝こんな服〟を着ることになったからである。
黒いワンピース、その上から白いフリルの付いたエプロン、フリル
1076
付きのカチューシャ、つまりはメイド服をコウジュは着ているのであ
る。
地球で過ごしていた際、サブカル文化においても意気投合していた
コウジュに伊丹、そして梨紗。
その中で、可愛い物好きな梨紗がコウジュへとコスプレをさせよう
としたことが何度もあった。
しかしコウジュはそれを頑として受け入れることは無かった。
梨紗にしてみればコスプレをしない方がおかしい位の可愛さなの
に、ついぞコウジュがそれを受け入れることは無かった。
それも当然で、コウジュは中身だけとはいえ男だ。
梨紗の言う可愛い子がコスプレしている姿を見るのは大変喜ばし
いというのも分からなくもない。
しかし自分自身がコスプレさせられそうなら話は別だ。何が嬉し
くて人格が男の自分がコスプレしなければならないのか。
ついには、コウジュはこの世界に来てもできるだけ使おうとしな
かったチートを駆使して逃げた。
そんな風に本気で嫌がってるコウジュに梨紗は仕方なしに諦めた。
そこへ来てのこれである。
コウジュがヤサグレるのも当然と言える。
勿論、当初はメイド服を使用する予定は無かった。
むしろ伊丹の采配で店員はメイド服着用とされていたならば伊丹
は今頃ボコスカとやられているだろう。
だから最初はコウジュも安心してそれなりにフォーマルな服の上
からエプロンを付けて作業をしていた。コンビニのバイトでも良く
していた格好である。
しかし人員不足によりフォルマル家から補助要員として送られて
きた人員が全てメイドさんだった。
彼女たちはそのメイド服こそがフォルマル家に所属するメイドた
る自分たちの誇りであり仕事着であり正装であるとメイド服で仕事
をすることになった。
そうすれば浮いてくるのがコウジュの姿だ。
1077
伊丹としては企業という訳でも無く、自活の為に難民キャンプでの
︶が届くようになっ
PXを立ち上げただけなので正直な話をすれば恰好など好きにやっ
てくれというものだ。
だが、暫くすると伊丹のもとに困った苦情︵
た。
﹄
﹃仕事着はちゃんと着るべき
積もる疲労もあってつい口にしてしまった。
﹃やってやろうじゃないか。メイド服で仕事をするんだ後輩
その瞬間、伊丹の手の甲から幽かな光が放たれる。
それを見てやっちまったと固まる二人。
﹄と。
それを聞き、いつもの掛け合いの如くヒートアップしていた伊丹は
﹃それほど俺にメイド服を着せたいのなら令呪でも使うんだな﹄と。
コウジュが告げる。
事態が動いたのはそれから暫くの後だ。
た。
メイド服をどうこうというしょうもない話は平行線のまま、続い
だがコウジュとて守りたい一線がある。
と説明をした。
当然コウジュからぶん殴られそうになった伊丹だが、諦めずに懇々
た。
そして最終的に、伊丹はメイド服を持ってコウジュのもとを訪れ
も又どんどん過激になる一方だった。
えていくこととなった。増えるだけならいいが︵よくはないが︶、文章
少数であれば伊丹も無視をするつもりだったが、それは日に日に増
た。
ないことに不満を持つ物たちによる抗議文が匿名で数多く届けられ
そうすべき﹄
﹃メイド服姿見せろや﹄等々、コウジュがメイド服姿では
﹃なぜ彼女はメイド服じゃないのか
?
ある。
o2内におけるメイディスーツ︵ミニスカメイド︶になっていたので
そして次の瞬間には、何故かコウジュが着る服はメイド服、PSP
!
1078
?
﹁うー、くそ。とりあえず注文は何なのさ﹂
﹁とりあえずいつもので﹂
ヤサグレたコウジュは、そのままでは仕事が片付かないからと一旦
自身の状況については置いておいて伊丹から注文を取ることにした。
伊丹は伊丹で、コウジュがメイド服を着る要因となったのが自分で
あるために申し訳なさそうに毎日のように来ては頼むものをいつも
の如く言う。
そんな申し訳なさそうな伊丹にこれ以上は流石に悪いかと苦笑い
しながら口を開く。
﹁はいはい。ったく、罪悪感で毎日様子を見に来るくらいならさっさ
と俺の任期を終わりにしてくれよ﹂
﹁すまん、もう少し頑張ってくれ。次の補助人員さえくれば終わりだ﹂
﹁はぁ、分かってるっすよ先輩。冗談ですからそこまで申し訳なさそ
1079
うにしないでください。これ以上は俺が悪者みたいじゃないっすか。
あれは事故と言えば事故だし、軽はずみな発言したのは俺も同じだ。
それくらいは待ちますってば﹂
思い返せば何故あのタイミングで令呪が発動したのか。
本来であれば令呪を発動させるためには魔力が必要である。しか
し当然ながら伊丹にはそんなものは無い。
しかし伊丹との契約自体が不思議なものであったし、何かが切っ掛
けだったのか、令呪を使おうと意識したこと自体がトリガーとなった
︶が付く謎の。
のか、試すわけにはいかないが推測しかできない現状ではどうしよう
もない。
そこでコウジュはふと思い出した。
そういえば俺、幸運:Eだった。しかも後ろに︵
おいてください。強制召喚は何かの役に立つかもしれないし﹂
﹁それについても言いましたけど、先輩のいざという時の為に取って
﹁ホントすまん、最悪また令呪を使って解除するからさ﹂
呪を見ながら言う。
そんな風に思い返していたコウジュに、伊丹は自身の一角掛けた令
?
﹁で も 聞 か さ れ て な か っ た と は い え 後 輩 に そ こ ま で 聞 く と は な ぁ
⋮⋮﹂
﹁うぐ、その御陰でイリヤにも弄ばれたことがあるんですから言わな
いで⋮⋮﹂
令呪とはそもそも聖杯戦争におけるマスターに与えられた契約証
明であり、三度だけ使える絶対命令権である。
ただ、これにも穴はある。絶対命令権とはあるが、必ずしも〝絶対
〟ではないのだ。
例えば、対魔力が高ければサーヴァントはある程度令呪を介しての
命令に背くことができる。重ね掛けすればその限りではないが、絶対
ではない理由の一つ。
他にも、曖昧な命令もまた令呪の効力を落とす。〝絶対に勝て〟だ
とか、〝死ぬな〟などの命令が叶うのであれば令呪は願望器にも等し
くなってしまうからだ。
だが、コウジュに関してはこれが当て嵌まらない。
いつだったかイリヤに〝女の子らしくするように〟という悪ふざ
けにも似た罰を与えられたが、これもまた令呪としては曖昧な命令で
しかない。
しかしコウジュはそれに背くことが出来なかった。
それもその筈で、コウジュは能力として自身の想像したもの具現化
するというチートを持っている。
だから、令呪によって命令されれば〝令呪はマスターの命令権〟だ
と認識しているコウジュは逆らうことが出来ないようにセルフで令
呪の効果をブーストしてしまうのである。
上手く使えばこれはメリットになるだろう。
曖昧な命令でも令呪自体が見た目に反した神秘を内包している為
にそれなりにサーヴァントへと恩恵を与える。
その為、もしもコウジュに対して〝絶対に勝て〟なんて命令でもあ
れば能力の特性上コウジュは大いに恩恵を得ることが出来る。
しかし、今回もまたマイナス方面で働くことになってしまった。
幸いにも、伊丹が間違って命令してしまったのは〝メイド服で仕事
1080
をしろ〟という部分な為、仕事中を脱すればメイド服は脱げる。
そんなわけで、コウジュは絶賛メイド服姿なのである。
﹁でもほらあれだ後輩﹂
﹁何すか先輩﹂
﹁似合ってて可愛いってかなり評判だし元気出せって﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁死んだ魚みたいな目になってるぞ﹂
◆◆◆
﹁緑の人に炎龍退治を頼みたいのだ﹂
なんかダークエルフさんが居る件。
くに徹する。
﹁俺も詳しく聞いたわけじゃないよ。というかあまり言いふらさない
1081
食堂にて、今日も今日とて店員をしていると何やら先輩とロゥリィ
さんが一緒に飲んでいた辺りがにわかに騒がしくなり、注文されてい
た物を持っていけば先輩達の代わりにダークエルフさんが居た。
いや訳が分からねぇよ。
周りの人に話を聞けば、どうやら先輩がロゥリィに無理矢理酒を飲
ませていると勘違いして斬り掛かりそうになったんだとか。
そんな危険人物が何をしにここへ来たのかと思って警戒しながら
も聞いてみれば先の言葉をダークエルフさんは告げたのだ。
﹂
﹂
そんなダークエルフさんに飲みに来ていたおっちゃん達が告げる。
﹁炎龍って退治されたんじゃなかったか
﹁そうそう、緑の人と協力関係にある人が倒しちまったって話だぜ
﹂
おっちゃん達の言葉に、眼を見開くダークエルフさん。
﹁その話は真か
?
?
と言う訳にもいかないので︵言いふらすことでも無いし︶、黙って聞
あ、それ俺です。
!?
様に言われてるって話だ﹂
﹁ら し い な。ま ぁ そ れ ほ ど の 重 要 人 物 を 言 い ふ ら す 方 が お か し い わ
な﹂
﹁そ、それでも聞かせては貰えまいか。2頭の炎龍に我々の村が襲わ
れているのだ。件の炎龍とは違って幾らか小さい為死に瀕するまで
は行っていないが時間の問題だ。風の噂でここに炎龍を倒せるもの
が居ると聞き、私は一縷の望みを託してここへ来た﹂
小さい炎龍ってワイバーンじゃないの
あ、でもそれなら2匹くらいじゃそこまでの戦力にはならないか。
しかし俺を目当てに来たってのは分かったが、どうしたものか。
助けを求めてる人が目の前に居る訳だし助けるのも吝かではない
けど、うーむ。
﹁はいコレビールね﹂
﹁ああ、すまない﹂
悩みつつも、仕事の手を止める訳には行かないので注文されていた
ものを置きに行く。
それは丁度ダークエルフさんの注文分だった。
テーブルの上に置き、チラリとダークエルフさんの方を見れば目が
合った。
するとダークエルフさんは痛ましい物を見る目になる。
﹁そんな年から働かなければならないとは、苦労しているのだな﹂
ピクリと、俺の頬が引きつる。
一応笑みの形は保っているが、保つので精いっぱいであった。
協
この容姿であるから幼女扱いされるのは仕方がない。気にならな
いわけではないが仕方が無いことだ。
だけどそんな目で見ないでほしい。
これでは俺がかわいそうな子じゃないか。
腹が立つ訳ではないが、なんかこう、悲しくなる。
しかしそんな俺には気付かず、ダークエルフさんは続けた。
﹁ところで幼子よ。炎龍を倒したという誰かを知りはしまいか
力関係にあるという緑の人でも構わない﹂
?
1082
?
﹁エット、ワカリマセン﹂
﹁そうか⋮⋮。いやすまない。子供に聞くことでは無かったな。仕事
に戻ってくれ﹂
﹁アッハイ﹂
何とか言葉を返し、その場を離れる。
恐らく、根は悪い人ではないのだろう。
幼いながらも働く子を見てあんな目を出来るのだから︵俺に関して
えん
ゆかり
は精神ダメージを与えるだけであったが︶。
だから、縁も縁も無いとはいえ助けてあげたいとは思う。
しかしそれは先輩の元を離れて行く必要があるだろう。
先輩はあと数日すれば別任務でまたこのアルヌスを離れる必要が
ある。
そして今はアルヌス共同生活組合に関しての書類仕事もある程度
終わり、次のその任務に関しての準備等を進めている所だ。
そこにこの厄介ごとを持ち込む暇はないだろう。
さて、どうするべきか⋮⋮。
1083
﹃stage20:俺は悪くねぇ
﹂
﹁君に一つ依頼がある﹂
﹁俺に⋮ですか
﹂
﹄
﹁な ん だ か 厄 介 事 の 臭 い で す ね。俺 だ け 呼 ん だ の も そ の 関 係 で す か
そして断っても良いよと言いつつ断れないのもまたよくある話だ。
決まっている。
古今東西遥か昔から、こういう前置きがある時は厄介事だと相場が
その言い方にコウジュは嫌な予感を覚える。
﹁先に伝えておくが、これを受けるか受けないかは君の自由だ﹂
た。
うも、聞かなければ始まらないかと思い直し、狭間へと目を向け直し
それが今になって仕事とは何だろうか。そうコウジュは疑問に思
られたことは無かった。
実際にその役職を与えられてから今日までに何か仕事を申し付け
のもので何かしなければならないというものではない。
名目上、コウジュは特地対策特別顧問ではあるが、それは名ばかり
その言われた少女、コウジュはその依頼について首を捻る。
前に居る少女へと重たくなっている口を開いた。
アルヌス駐屯地内における執務室、その部屋の主である狭間は目の
!!
るがね﹂
そう言いながら狭間は苦笑した。
そんな狭間を見てコウジュは少し考える。
厄介事というだけで嫌厭したが、狭間の言い方的にはその厄介事を
解決することで恩が売れそうではある。それでなくても基地内をあ
る程度自由に歩けるようにしてくれたりと便宜を図ってくれている。
他にも多くのことを狭間はしてくれていた。
1084
?
﹁そういうことだ。私個人としては受けてくれた方がありがたくはあ
?
それらの恩に報いるためにも内容次第では受ける方向で行くか、そ
うコウジュは考え直す。
コウジュが考え終わるのを待っていたのか、コウジュが目線を戻す
と狭間が続ける。
﹁さて、本題に入ろうか﹂
その言葉に、コウジュは思わずゴクリと生唾を飲み込む。
﹂
﹁今回お願いしたいのは、ヤオ・ハー・デュッシという女性からの依頼
が大元だ﹂
﹁ヤオ・ハー⋮⋮名前的に特地の人だとは思うのですが誰ですか
あのボンテージの
い出した。
﹁ああ
﹂
名前からは思い浮かばなかったが、そこまで言われてコウジュは思
食堂の方に入り浸っていると聞くが⋮⋮﹂
﹁君も目にしたことはあると思う。ダークエルフの女性だよ。最近は
?
﹂
この地に来たらしいのだがその辺りに関しては知っているだろうか
﹁恐らくその女性だろう。彼女はとある人物と緑の人とやらを求めて
出した服装と来れば目立たない方がおかしいだろう。
群で胸部装甲も立派である。そこへボンテージに似た肌が大いに露
褐色の肌にエルフのように長い耳、それでいてプロポーションは抜
う。
というよりも、あの姿で目立たない方がおかしいというものだろ
そんな彼女の名を、コウジュは今更ながら知った。
ジュは何度も見かけている。話をしたこともある。
も 来 て は 誰 か を 探 し て い る 様 子 の ダ ー ク エ ル フ の 女 性。当 然 コ ウ
コウジュがアルバイトをしている食堂だけでなく、PXなどの方に
!!
﹁どうやらそうらしい。そしてその目的が│││﹂
﹁炎龍退治ですよね。それも二体﹂
﹁うむ﹂
コウジュの言葉に、重々しく頷く狭間。
1085
!
﹁一応。探しているのは俺で、緑の人達ってのは自衛隊ですよね﹂
?
どうやら厄介事の正体は炎龍退治のようだ。
それに気付いたコウジュは途端に顔を顰めた。
半分はコウジュの所為とはいえ炎龍には一度殺されているし、眼の
前でコダの人々を襲われた身としてはどうにも炎龍に苦手意識が芽
生えていた。
炎龍に対して苦手意識だけで済んでいる時点であれだが、ともか
く、ファンタジーの代名詞だ何だと無邪気にその存在を喜べないコウ
ジュであった。
だから考える。
倒すだけで良いのならそれほど苦ではない。
2体という事だが、その分小さくなり脅威度も下がっているとのこ
と。それならば今のコウジュであれば何の問題も無い。更に言えば
守りながら戦う必要もないと来れば暴れ放題ではある。
﹂
しかし、コウジュには気になることがあった。
﹁ちなみにその間先輩は
マスター
﹁待 機 に し て お こ う。君 の よ う な 存 在 が 来 な い 限 り こ の 基 地 は 安 全
だ﹂
﹁それはありがたいです﹂
一番の懸念事項であった先輩の安全。それが簡単に保証されてし
まっては断る理由は無い。
ただ、もう一つコウジュが気になったことがある。
それは狭間が〝受けてくれた方がありがたい〟といった理由だ。
基地の近くどころか未だ自衛隊が至っていない地にて起こってい
る今回の炎龍騒動、それがどうして狭間が助かる理由に繋がるのかが
コウジュには理解できなかった。
﹂
﹁ではもう一つ。遠回しに聞くのは苦手なのでそのまま聞きますが、
どうしてその依頼が狭間さん経由で
聞けば既に40歳を超えているとのことだが、そういう種族なのか
は純真無垢な少女そのものだ。
狭間がチラリとコウジュの方を見れば彼女は首を傾げる。その姿
単刀直入に聞くコウジュに、狭間はどう答えたものかと逡巡する。
?
1086
?
何なのか、到底そうは見えない。
だからこそ、狭間は言い淀む。
かと言って言わなければ話が前へと進まないのも確かだ。
狭間は決心をして重い口を開いた。
﹂
﹁簡潔に言えば政治的理由という事になる﹂
﹁政治的
﹂
﹁そうだ。現在我々は恥ずかしいことに各国の要求を跳ね除けること
が出来ていない﹂
﹁あー⋮、旅館の事とか
ヤオロズ
は嫌な言い回しになるがその上で告げる。君は今各国にこの国にお
﹁君自身がどう思っているかは今は置いておこう。そして君にとって
に顔を顰めていく。
コウジュはその狭間からの話を聞くたびにうへぇと言わんばかり
その辺りの事をコウジュへと狭間は告げた。
し始めたのだ。
その為、各国は次の手段として政治的にコウジュを自国へ導こうと
怪物をどうにか出来る薬なぞ持っている訳も無かった。
質にし、そのまま連れ去ろうとする強行派も居たが、ビルほどもある
工作員たちの中には騒ぎを起こしてその隙に薬物などを使って人
ただ、その所為で各国の工作員たちも全く動けなかった。
であろう。
て次の瞬間には美女と美幼女になっていれば誰もが固まるのは当然
まぁ普通に考えれば突然ゴジラみたいな大きいのが2体も出てき
度はあまりにもあまりな展開に皆が凍ったように動けなくなった。
その結果銀座は混乱し、すぐさま変身を解いたコウジュだったが今
姿となって献花を行う場所まで赴いた。
銀座からコウジュたちが特地へと戻る際、コウジュは炎龍と大狐の
なったことなのだよ﹂
えてもらって構わない。問題はその後の銀座で彼らが後に引けなく
﹁その件に関しては向こうが焦ってという部分もあるのだが、そう捉
?
ける小回りの利く戦力だと捉えられている﹂
1087
?
﹁それは、まぁ、仕方ないです﹂
不承不承ながらそれに関して理解を示すコウジュ。
実際コウジュ自身もやり過ぎた感は感じていた。
しかしその場のテンションでついやってしまったものは仕方がな
いと割り切っていたのだが、そのツケがどうやら今回ってきた形の様
だ。
﹁実際問題として、空飛ぶ戦車と言われた炎龍にすらなれる⋮⋮のは
知られてないですけど、炎龍を使役しているというだけで過剰戦力で
しょうしね。それを倒せるっていう俺は他国からすれば目の上のた
ん瘤ってところでしょうか﹂
﹁そう言ってもらえて助かるよ﹂
コウジュが顰め面のまま言うものだから狭間は苦笑いしてしまう。
狭間からしてみれば、その炎龍だけでなく銀座事件の事や門を越え
てすぐにあった戦いでの〝小さな獣〟が成した惨状、空間を移動でき
1088
る不思議な扉や目の前に居ても気付くことすらできない隠密性、どれ
をとっても使い方次第で大きな被害が出る。むしろ炎龍の方が的が
でかい分どうとでもなると狭間は考えていた。
現状は目の前の少女がその全てを内包している訳だが、それがもし
各国に渡ったとなればどうなるかなど考えたくも無い。
しかし当然ながら各国は彼女を欲している。
特地と違い、コウジュはその全てを内包したまま移動できるのだ。
特地にある資源等も他国は欲しているが、すぐ近くにあるご馳走を
無視して手を伸ばす物ではないとどの国も考えている。
その結果が今回のお願いに繋がる訳だ。
﹂
﹁今回の炎龍討伐、その際には君は独断で行くという形にしてほしい﹂
﹁それはまた何でですか
﹁マジですか⋮⋮﹂
お迎えしたいそうだ﹂
し君の場合は何処にでも行けてしまう。だから他国から国賓として
特地は動かせない上に領土内にあると各国を突っぱねてきた。しか
﹁簡単な話だよ。特地は動かせないが、君は動ける。日本はこれまで
?
﹁すまないがマジだ﹂
途端に苦虫をつぶしたような表情になるコウジュ。
もう国ごと無くなればいいのに、と呟く。
出来そうだからやめてほしい、とそのコウジュの呟きが聞こえた狭
間は思ったが、実際は国どころか星を破壊するモノも持っているので
知らぬが仏というものだろう。
﹁勿論、我が国にとっても君は国賓だ。その要求に拒否もしている。
しかし如何せん我が国はそれら全てを突っぱねるほどの力がある訳
ではない。更に言えば、銀座でのこともあるからどの国も最上級の御
持て成しだとか色々とツアープランまで立ててくれている。表面上
﹂
とはいえそこまで条件を出しているのに突っぱねるのは痛くない腹
を探られかねないのだよ﹂
・・・
﹁なるほど、そこで俺に一芝居打てと
﹁そうなる。君が我々のお願いを聞かず、特地の問題を片づけに行っ
たとなれば我々は君に対してお願いをしても意味がないという事に
﹂
なる。それでも言ってくるような国には炎龍をどうにかしろとでも
言うべきかもしれないな﹂
・・
﹁ちなみにその炎龍はどこの炎龍ですかね
﹁ふむ、それは私にはわからないな﹂
ニヤリと二人して笑う。
先程まで見た目にそぐわぬ表情をしていたのに今や羞恥に顔を染
よくある例えでリンゴの様にだとか言うが、まさにそれだ。
になっているのだ。
そこで狭間は異常に気付いた。何故か目の前の少女の顔が真っ赤
を後付けすることも出来たが│││﹂
に向かわずに居てくれたものだ。まあ、そうなればそうなったで理由
﹁そういえば君は既にヤオ君の目的を聞いていたようだが、よくすぐ
と切り出した。
暫く二人して笑い、そこであることを思い出した狭間はそういえば
を見た者が居れば思い浮かべたかもしれない。
お主も悪よのういえいえ御代官様こそ、そんな光景をもしもこの場
?
1089
?
める幼子の様だ。
いかつい壮年の男性と羞恥で顔を赤く染める幼女が居る空間がい
つの間にか犯罪臭のする空間に成り代わっていた。
例え何年も人の荒波の中を泳いできた狭間であってもこの現状は
﹂
想定外で言葉が続いて出なかった。
﹁││どうしたのかね
暫くの間を置き、何とかそう口にした狭間。
もしもこの瞬間を部下の誰かが見たのならば、いつになく慌てた様
子が見て取れる︵それでも表面上は微々たるものだが︶狭間に驚くか、
狭間の前で恥かし気に少女が頬を染めていることに犯罪臭を嗅ぎ取
るか、どちらにしろ不名誉なものであるのは変わりあるまい。
しかしその均衡を破ったのは、その状況を作り出した張本人である
コウジュであった。
﹁いや、ごめんなさい。ちょっと思い出してしまったことがあってで
すね⋮⋮﹂
そ う 言 い な が ら も コ ウ ジ ュ の 頬 は 少 し マ シ に は な っ た が 未 だ に
真っ赤だ。
それに気づいたのか、コウジュは顔を隠すように被っていた帽子を
ずり下げる。
そして帽子で隠しきれていない口を開き続けた。
﹁前に彼女が食堂に来た時に依頼の内容を聞いたんですよ。その時に
は気になることもあったしすぐに名乗り出なかったんですけど、正体
を隠して事情だけでも聞こうとその後に聞きに行こうとしたんです。
だけど、その時にですね、えっと⋮⋮﹂
もごもごと、言い淀むコウジュ。
しかし少しの間を置いて決心がついたのか口にした。
﹁彼女を見かけたので声を掛けようと近づいたんですが、それより前
に男の人が声を掛けてですね、二人して路地裏の方へと入っていった
んですよ。何をするんだろうと、ちょっとした興味本意で見に行くと
ですね、えっと、男の人がズボンを脱いで、ですね⋮⋮﹂
言いながらどんどんと再び赤みが増していくコウジュ。
1090
?
隙間から見える口元や首を見るだけでも真っ赤なのが分かる。
男の人がズボンを脱いで
しかしそのコウジュとは違い、狭間は頭を抱えたい気持ちでいっぱ
いであった。
彼は事の真相を知っている。
だから頭を抱えたくなったのだ。
﹁いや別に最後まで俺は見て無いですよ
いるのを見た瞬間いままでにない位に力を駆使して逃げましたから。
ただ、そんな感じのが何回か続いてですね。見るたびにダークエルフ
さんは嫌がってる様子もないし、怯えて声を出せないという訳でも無
かったし。見かけた時は声を掛けようとしたんですが、その度に男の
人と路地裏の方に入って行って⋮⋮﹂
﹁ああすまないもう分かったよ。もう十分だ﹂
﹁はい⋮⋮﹂
はぁ、と狭間は深い溜息をついた。
そして狭間は思う、あのダークエルフの女性はなんて運が無いのだ
ろう、と。
どうやら狭間が思っていた通り、コウジュはその御人好しさを発揮
してヤオに声を掛けに行っていたようだ。だがその尽くがタイミン
グ悪く失敗に終わっている。
もしそれのうちどれかが成功していたのなら今頃炎龍2匹の首は
そこらに転がっていたかもしれない。
だが、そうならなかった。
故に狭間は彼女が運が無い、と嘆息した。
というのも、もしもコウジュが見かけたものが本当に情事に耽ろう
としていた所なら自業自得だと切り捨てるのだが、実際はそうではな
いのだ。
ヤ オ と い う ダ ー ク エ ル フ の 女 性 は 助 け を 求 め に こ の 地 へ と 来 た。
しかし噂を頼りにアルヌスへと訪れた彼女には誰がその噂の人物か
が分からない。そんな彼女を陥れようと声を掛けた者達が居た。そ
れがコウジュの話に出てきた男達だ。
ヤ オ は 見 た 目 で 言 え ば 一 級 品 で 男 好 き の す る 身 体 と 言 え よ う。
1091
?
ちょっかいを掛けようとする者は多く居た。
そして実際に声を掛けた輩も居り、その瞬間をコウジュは見てし
まったのだ。
何故これらが露見したかというと、ヤオはその輩を皆返り討ちに
し、その内の一人が腹を立てて警備に財布を強奪されたと密告したの
だ。
実際にヤオは返り討ちにした男が命欲しさに財布を置いていった
ため証拠を持っていることになる。
その為、彼女は一度アルヌスの警備に捕まっているのだ。
最終的には通訳として訪れたレレイや嘘の密告をしたものを捕ま
えたロゥリィたちの御陰で疑いは晴れたが、その裏で自分が追い求め
た 人 と の 邂 逅 が 無 く な っ て い た と 知 れ ば ど ん な 顔 を す る だ ろ う か。
正直に言って考えたくはない狭間であった。
ヤオ自身に言わせてみれば、礼を失しなければ肌を重ねるのも吝か
ではないのだが、そんな場合では無いのと、紳士然としたものが居な
かった為に全員が返り討ちとなったのであった。
狭間は一先ず、情事を見てしまったと恥ずかしがっている様子の幼
女へと誤解を解くために説明をした。そうすれば現状も変わるだろ
うと狭間は思ったのだ。
しかし、その説明を聞く途中で帽子を上げて狭間の方へと目向けた
が、暫くして幼女は再び違う意味で顔を赤くし始めた。
今度は自分が勘違いしていたことに顔を赤くしていた。
それはもう真っ赤で、更に言えば涙目にもなっていた。
先程より酷くなっただけである。
ただ、彼女が勘違いしたのも仕方ないのだ。
生前も今も無使用のままである彼女は情事に関しての知識に乏し
い。
現代では様々な情報媒体からそれらの知識も得られるが、知ってい
るのと識っているのでは意味が違う。
だから、男がダークエルフの女性を前にズボンを脱ぐ瞬間を見て脱
兎のごとくにげてしまうのも仕方ないのだ。次の瞬間ダークエルフ
1092
の女性が男を剣で返り討ちにしており、その瞬間を見ることが叶わな
かったのも仕方ないのだ。
﹁は、はは、何だそういう事だったんですか⋮⋮﹂
﹁う、うむ﹂
﹁お外走ってくるううううううううううううううううううううううう
うう﹂
◆◆◆
やぁやぁ、最近テイマーだとかサモナーだとか噂されているけど本
当はバーサーカーのコウジュですよ。
でももうすぐライダーやります。
本日は晴天、絶好の飛行日和である。
狭間さんとの話があった日から数日、俺はアルヌスにおける飛行場
へと来ていた。
そしてすぐ傍にはF│4EJとかいう戦闘機が2機、待機してい
る。
というのも、今から炎龍討伐に向かうからだ。
狭間さんと話した作戦を今から決行するのである。
それにしてもこの前は何ともひどい目に遭った。
まぁ俺の勘違いがわるいのだが、男女が路地裏に入っていって男が
1093
ボロンとナニを出してたら勘違いするだろ普通。する⋮⋮よな
でもまぁそれが勘違いだったわけで、俺は要らぬ恥をかいた。
思わず狭間さんの元を飛び出してしまったが、顔を真っ赤にしたま
ま幼女が飛び出した所為で暫く狭間さんに変な噂が立っちまったこ
とには申し訳ないと思っている。
さておき、だ。
今から作戦を開始する訳だが、内容はこうだ。
まず、恋ドラ人形を炎龍化させて俺が乗る。ヤオさんも乗せる。
そして基地を飛び立ち、現地まで一直線。
そんな俺達を戦闘機二機で追いかける。俺達を連れ戻すためとい
う名目だ。
だがそのまま俺が炎龍2匹を相手取り、派手に闘う。
その様子を、戦闘機から偶々中に置いてあったカメラで撮影して、
資料として提出。
数日すれば各国にそれが何故か流れて、日本のいう事を聞いている
訳ではない。自衛隊が越えられない国境すらも人助けの為にひとっ
飛びで行ってしまう。
│││といった感じだ。
その際に気を付けなければならないのが、俺自身の力はあまり派手
に使わないこと。
炎龍に関しては特地内で既に情報が出ており、それに関しては炎龍
戦の事やその後の聞き込みで得た物が世界に渡っている。
だから炎龍の力を使って幾ら派手に闘おうが痛くも痒くもない。
なのでこれ以上各国に要らぬ情報は与えないようにしながらも迫
力のある映像を取る必要がある。
そうすれば直接的、間接的に俺を引き抜こうとするのが減るだろう
とのことだ。
戦闘機に関しても、炎龍を倒すほどの戦力を越境させる訳にはいか
ないだけで、人の目の届かない空をたった2機が飛んでいても問題に
はならないとのことだ。
そんなわけで、俺は今から空の旅へと洒落込むわけだ。
1094
?
﹁準備は出来たぜ嬢ちゃん﹂
﹁だから、嬢ちゃん禁止ですって
ほぼ同い年ですからね
﹂
!
﹂
﹁ってこら、撫でないで下さいって
﹁ははは、悪い悪い﹂
﹂
!?
因みに絶賛彼女募集中らしい。
此の身はどうすればっ
そんな二人が今回俺に着いてきてくれる。
﹁こ、コウジュ殿
﹂
!?
﹁これでも着ている方なのですが⋮⋮﹂
﹁お、おう﹂
﹂
続いてヤオさんが恐る恐る俺の後ろの鞍へと座る。
ンライダーだ。騎士じゃないので竜騎士にはなれないのが残念だ。
事前に急ごしらえの鞍なども用意してあり、乗り込めばもうドラゴ
俺は前もって龍化させておいた恋ドラ人形へと乗り込む。
﹁さて、そいじゃあ行きますかね﹂
かんぬんと言われたが覚えてない。
本人曰く助けてくれる御身にその様な話し方をさせる訳には云々
なくても良いと言われているのだが、何とも慣れない。
本人よりヤオで構わないと言われており、ついでに言えば敬語じゃ
続いて声を掛けてきたのは件のヤオ・ハー・デュッシさんだ。
?
凄い人達らしいのだが、普通にしていればただの熱い人だ。
何でも、操縦経験1000時間を超える超ベテランだったりと色々
い。
他にも久里浜二等空佐とかも居て、航空自衛隊からの出向組らし
犯人の名は神子田2等空佐。
ところだった。
手串で整えながら犯人を見れば、後ろ手に手を振りながら搭乗する
されてしまった。 飛んでいかない様に帽子を脱いでいるせいで髪をぐしゃぐしゃに
手袋痛いし
﹁そ ん な こ と 言 わ れ て も な ぁ ⋮⋮。こ ん な タ ッ パ じ ゃ 説 得 力 な い ぜ
!
﹁えっと、うん、寒いと思うからもう少し着れば
!
1095
!
?
まぁ炎龍を討伐しに行くために炎龍に乗るのだから気が気じゃな
いのは仕方ないか。
﹁スカル1から各機へ、今から炎龍討伐に向かいます﹂
﹃スカル2了解﹄
﹃スカル3了解﹄
うむ、無線も良好と。
決めていた訳でも無いのについノリでマクロスパロをやったんだ
が、乗ってくれたので尚満足。
ではでは、空の旅へと向かいましょうか
!!
落ちないからそんなとこ掴ん
1096
落ちないから
!?
ひょえああああああああああああああああああ
!?
!?
ぬお、ヤオさん
じゃダメだって
!!!?
﹃stage21:いやぁ壮絶な戦いでしたね。まさ
に紙一重﹄
﹁いやぁ、今回の戦いは激戦だった⋮⋮﹂
﹁だな。すげぇ戦闘だったよ。小さいとはいえさすがは炎龍ってとこ
ろか﹂
﹁まさしく紙一重ってやつだったな。嬢ちゃんがあそこで気を引いて
くれなければ俺達は落とされていた﹂
﹁よしてくださいよー。むしろ二人があのタイミングで2匹の前へ出
てくれたからこそ俺はあいつらを倒すことが出来ました。もう一度
見てみたいものですよあの変態機動 戦闘機ってあんな飛び方が
まさか板野サーカスを自分ですることになるとは思
出来るんですね。ってか嬢ちゃん禁止﹂
﹁はっはっは
が あ ん な こ と が で き る 存 在 だ っ た っ て と こ だ。な ん だ よ あ れ。嬢
ちゃんが倒したやつより二回りは小さいって話だったが、まさかその
小ささと2匹であることを利用してあんな攻撃してくるとは思わな
かったぜ﹂
﹁ですねぇ。あれには俺も冷や汗を掻きました。炎龍だという事前知
識があったのは確かに要因の一つですが、流石にあれは驚かざるを得
まさか嬢ちゃんにあん
ません。隠しておくつもりだった奥の手の一つをつい使ってしまい
ました﹂
﹁そういえば嬢ちゃんのアレって何なんだ
なことが出来るとは思わなかったよ﹂
﹁あはー、そいつは企業秘密ってことで。あと嬢ちゃん禁止﹂
避けることが出来たが、あれはひでぇってもんじゃ済まないぜ﹂
﹁そうだ、あれ何なんだよ。巻き添え喰らわない様に警告されたから
?
1097
!
﹁ほんとあんなもん運が良かっただけだ。むしろ驚いたのはあいつら
わなかったよ﹂
!
よく分からないまま狭間陸将に待機を命じられていた俺は、後輩が
帰ってきたと同時に訳を聞かされ、一言モノ申すために後輩を出迎え
ればそんな会話をしながら帰ってきたところだった。
え、あんたたち何をして来たの
あまりにも達成感に満ちた晴れ晴れとした笑顔を浮かべ、見た目は
おっさん二人と幼女という組み合わせなのに戦友と言わんばかりに
楽しげに話して居るものだから、いつの間にか出撃していつの間にか
帰ってきた後輩に言おうとしていたことが全てどこかへ行ってし
まった。
狭間陸将曰く﹁心配性な先輩には伏せておいてほしい﹂と言われた
そうだが、先ほどやっと教えてくれたその留守の理由というのが炎龍
退治のためだったそうなのだ。
件の炎龍よりは小さいとはいえ炎龍だ。心配するなという方が無
理な話だ。いや、後輩が炎龍を倒すために周辺に被害を与えていない
﹂
かが心配なだけだが。
﹁あ、先輩
俺はその姿を見た後、その後方にいる二人に敬礼をし、その二人が
良い笑顔で去っていくのを見送った後後輩に眼を向ける。
後輩はと言えば俺に近寄った後は二人にバイバイと手を振ってい
た。
たまに思うが、テンションが上がるとお前って年齢相応︵見た目の︶
﹂
に成る時があるよな。
﹁ただいま
﹁おう、おかえり﹂
しまった。普通に返してしまった。
一言だけでも言ってやるつもりだったのに、楽しげな様子につい絆
されてしまった。
まぁ、いいか。
無事には帰ってきたわけだし、水を差すのも野暮って物だ。
1098
?
俺に気付いた後輩がスタタっと駆け寄ってくる。
!
!
﹂
﹁勝ったんだな﹂
﹁超余裕です
﹂
はいはい、とりあえずドヤ顔ダブルピースやめーや。
﹁でも苦戦がどうとか聞こえたんだが
のだ。 ﹁それで、俺に黙って行った理由を聞こうか
﹁うぐ⋮⋮﹂
﹂
まぁそれはさておき、先に聞くべきことがある。俺はその為に来た
ほんと嘘が付けない後輩だ。
何故ばれないと思ったし。
﹁何故ばれたし﹂
﹁ダウト﹂
かがあるのだろう。
らしいが、目を反らしながら言っているので恐らく誤魔化したい何
に気をつけていたらしい。
何かの拍子にやらかしそうだとは思っていたが、どうやら自分なり
諸共吹き飛ばすわけには行かないし﹂
だけって話です。ほら、さっきの二人とかダークエルフさん達の住居
炎龍達が必死にこちらに食いついてくる物だからちょっと苦労した
﹁いやいやアレはですね、戦力的に苦戦したのではなく、思った以上に
?
まぁ予想は出来ている。
﹁う、それを言われると辛いが⋮⋮﹂
そも先輩って高所恐怖症じゃないですか﹂
まぁ予想通りに行かず多少危ない目に遭っちゃいましたけど。そも
もらうつもりだったから本来の予定では危険は無い筈だったんすよ。
⋮⋮。一緒に来てもらったお二人は元々は離れた場所から見ていて
だったし、先輩を危険だと分かっている場所に連れて行くのは憚れて
﹁い や、言 う と 先 輩 は 着 い て く る で し ょ う
今 回 は 迅 速 さ が 必 要
苦言を呈するのは止めたのだから、これくらいは聞かせてほしい。
少し罪悪感が湧くが、これだけは聞いておきたいのだ。
俺の言葉に、途端にばつの悪そうな表情になる後輩。
?
?
1099
!
確かに俺は高所恐怖症だが後輩一人に押し付けるつもりは⋮⋮っ
て、俺がこう思うと分かっていたから言わなかったんだよな。
はぁ、予想通りに人の事ばかり考えやがって。
俺はポフリと後輩の頭に帽子越しに手を乗せ、少しだけ撫でる。
﹁ま、お疲れさん﹂
﹁う、うっす⋮⋮﹂
﹂
手が乗ると同時に少しだけ手をワタワタとさせるも、すぐに撫でら
れるままになる後輩。
暫く互いに無言のままそんな時間が続く。
﹂
﹁伊丹隊長、やっぱりロリコンだったんですか
﹁違うからな
どうやら俺が倒しに行った炎龍というのは、最初は番いかと思った
それはさておき、今回の戦いは中々に大変だった。
大人として流石に恥ずかしい。
言っておくがこれでも俺は40歳を過ぎているのだ。
人に見られると恥ずかしいものがある。
先輩に撫でられると何というか和むので好きなのだが、流石に他の
◆◆◆
はぁ⋮⋮。
か暖かい眼で見てるし、又余計な噂が立ちそうだ。
というか後輩もいつの間にか消えてるし、周りの他の連中もなんだ
失敗した。そういえばここはまだ航空機系の離着陸場近くだった。
断じて違う
いつの間にか近くに居た黒川に冷たい目と共に言わてしまったが
?
のだが双子だったようで、しかも例の炎龍から生まれた古龍の系譜で
1100
!?
!
ある幼龍だったようなのだ。
つまり、ただの炎龍ではなく知能が高いのだ。
バー
サ
ク
最 初 の 時 点 で は 何 や ら 空 腹 状 態 が 限 界 に 近 か っ た の か 完 全 に
暴走状態していたが、何度か俺が騎乗していた炎龍の一部を食われて
からは幾らか腹が満たされたせいで冷静さが戻り、そこからは中々に
激戦となってしまった。
あ、もちろんその時点ではヤオさんを下ろした後だ。
だが、これからは俺が炎龍を御している状態だということを対外的
に示せるように騎乗状態での戦闘が出来るようにと炎龍に乗った状
態で戦っていたのが仇になった。
幼龍2匹は果敢に、炎龍に乗る俺と、少し離れた場所を飛んでいた
神子田さんと久里浜さんを狙い始めたのだ。
俺が乗っていた同族である炎龍が、何やら人間に良い様に使われて
いるとでも思ったのだろうか。
その所為か幼龍二匹は俺達の攻撃にも怯むことなく攻めてきた。
御陰で騎乗戦闘なんて余裕がなくなり、俺自身が炎龍になった状態
で戦う羽目になった。
何故か余計に幼龍二匹の攻めが苛烈になったが、まぁ神子田さん達
の御陰でどうにかなった。
ほんと、あの二人の飛行技術は本当にすごいと思う。
俺が一匹を相手している間にもう一匹が向かったのだが、二機で交
互に翻弄して完全に手玉に取っていた。
聞けばギリギリだったとの話だが、その割には終わってから良い笑
顔をしていた。
まぁでもその御陰で範囲攻撃の準備が整って、最終的には二匹が二
機に向かった瞬間を纏めて落とせた。
とはいえ準備とは言ってもそれ自体は大層なものじゃない。
問題は被害が出る範囲とか自分自身の心配をしなければならない
所だ。
何せよくよく考えれば即座に出せる範囲攻撃というのを俺は持っ
ていない。
1101
スターライトブレイカー擬きはアストラルライザーが無いとでき
テ
ク
ニッ
ク
ないし、リインフォースみたいに地面ごと吹き飛ばそうものなら周囲
一帯が塵と化す。PSPo2魔法には杖が要るし、Fate世界で覚
えた魔術と言えば士郎のやつだがUBWとか詠唱してる間に二機が
落とされてしまうかもしれない。
それを二匹に掛けつ
だから即興で考えたのだが、自分ながら酷い発想だ。
覚えてしまったガソリンがあるじゃろう
つ撒き散らして気化していくところにブレス。
火に耐性があるらしい炎龍でもちょっと熱かった⋮⋮。
いや、思いついたのがそれだったんだよ。
正確には幼龍二匹が使った技を見て思いついた、だろうか。
今更だが、幼龍二匹は双子なわけだがそれぞれ紅と蒼の体躯だっ
た。
そしてどうやら母は炎龍だが父は水龍か何かだったようで、炎のブ
レスもだが水のブレスも吐いてきたのだ。
・・・
やはり古龍の系譜だからか器官としてブレスを吐くのではなく魔
法としてブレスを使っているようだった。
だから単純に紅が炎、蒼が水という訳ではなく、それぞれが両方を
使えるのだ。
しかもあいつら途中で水蒸気爆発を理解したのかブレス同士をぶ
つけたりなんかもしてきやがった。
闘えば闘うほどに攻撃が鋭くなっていき多様性も増すとかどんな
チートですか。
御陰で俺はともかく、二機がいつ落とされるかと冷や冷やものだっ
た。
うんまぁ二人も二人でドンドン変態機動に磨きがかかっていたけ
どさ。
さておき、そんな二匹を見て思いついたのがガソリン爆破だったの
だ。
元々の防御力に炎龍の鱗があっても熱かったからなぁ、至近で一緒
に喰らった2匹なんかズタボロでしたよ。
1102
?
ま、それでも生きていたのがさすがは龍種ってことなんだろうか。
そう、生き残ったんすよねぇあの二匹。
今はまぁ一条祭りの中だけど。
いや、なんか思惑があったわけじゃないんだけど、サイズもそこま
で大きくなかったし、気絶状態だったからつい捕獲しちゃって⋮⋮。
ああ勿論、今までに捕まえた人達とは別の区画にぶっこんである。
何せいつの間にか変わっていた一条祭りの内装、あれはリゾート型
コロニー﹁クラッド6﹂における中央ロビーだからだ。
リゾート型コロニー﹁クラッド6﹂はPSPo2において所属する
民間軍事会社﹁リトルウィング﹂が拠点とする巨大コロニーで、その
一部にマイルームもあるという設定だった。
そしてそのマイルームは勿論、居住区画にある一室という設定なわ
けだから他にも部屋はたくさんある。
一条祭りの中が何故かクラッド6の内装へと変化していると知っ
ひょっとしてマイ
1103
てからは幾度か中へと入ったからその辺りは事前に知っていたのだ。
だってマイルームってコロニーの一部だよ
一応隔壁とかの強度的には破れない筈だし、マイルームと同じよう
味は無いし。
度こそ死んでもらうしかないか。猛獣を危険だと知りながら飼う趣
ま、今はまだ気絶してるけど起きて暴れたり危ないようだったら今
だけどなんか放って置けなかったんだよなぁ。
というほど味わった。
なわけだし、親である炎龍を殺したのは俺なのだからその危険性は嫌
よくよく考えればダークエルフさん達を食っちまおうとした奴ら
うーん、今思うと何故助けたのか。
回復してあげた後ちょっとだけ食料を置いてきた。
一応怪我したままだと何だか可哀そうだったので死なない程度に
をぶち込んでおいたのだ。
だからその際に見たことがある巨大な格納庫みたいな場所に二匹
繋がっていた訳だが。
ルームと一条祭りの中が繋がっているかもと思うじゃないか。まぁ
?
に攻撃そのものが行えないようになっている。
だから中に住んでいる人達は大丈夫なはずだ。
そんな感じの人を見つけた。あ、勿論
そういえば、炎龍二匹を倒した後、住処らしき洞窟で白いゴスロリ
服を着た竜人でいいのかな
何故あんな場所に居たのだろうか⋮⋮、餌にされる寸前だったとか
らだ。
ちなみに、見つけたというのは何やら空腹のあまり気絶していたか
女性である。ゴスロリを着たマッチョとかいうオチは無い。
?
それなら間に合ってよかった。きっと空腹で倒れた所を頂かれそ
うになっていたのだろう。
あの二匹はダークエルフの隠れ家に着いてすぐに襲撃してきたと
ころをそのまま広い上空に誘き出して戦ったから、その後に喰う予定
だったのかもしれない。
ほんと、ファンタジーな世界ってのは怖いわ。
ちなみにダークエルフさん達は何人か食われた後だったが、二匹が
空腹状態であったのと、生まれてそんなに経っていないのか狩りとい
うものを上手くできずに居たようで、炎龍に襲われたにしては少ない
被害で済んだそうだ。
でもそろそろダークエルフさん達も蓄えや体力、精神的に追い詰め
られてそろそろ危なかったそうで、救出に訪れた俺を大層ありがた
がってくれた。
とりあえずお腹を空かしているようだったので食料を分けたのだ
が、そこへ2匹がやってきた。
そこから戦闘が始まったわけだが、展開が早すぎて結構疲れた。
まぁでも、お礼になんかでっかいダイアモンドみたいなの貰った
し、竜人さんを助けられたし万々歳かな。
マスター
それに何かあれば種族一同で助けてくれるって言ってくれたから、
俺は多分助けを求めることは無いので主である先輩に何かあれば助
けてほしいとだけ伝えた。
そしてその後は蜻蛉帰りだ。
1104
?
神子田さん達の燃料がギリだったのと、先輩をあまり待機状態にさ
F│4EJ
せ続けるのもできないので急いで帰った。
途中悪ふざけで戦闘機の上に仁王立ちしたりした。
神子田さんの方に乗ってたんだが、神子田さんもノリノリで曲芸飛
行をしてくれたもんだから中々に楽しかった。
一応泥を巻き付けて身体も固定していたんだが、気分は第4次バー
﹂って叫んだ俺は悪くない。曲芸した
サーカーだよ。いやまぁ操縦は神子田さんだけどさ。
思わず﹁小林ぃぃぃぃぃっ
のは中の人だけどさ︵大事なことなのでry
そう、この世界って第4次聖杯戦争を語ったFate/zeroっ
てやつが存在するんだよね。
いやぁ、初めて見た時はびっくりしたね。そんでもって泣いた。何
あの救われない物語。
ハッピーエンドが好きな俺としてはほんと見てられなかった。い
や見たけどさ。
物語としては確かに楽しめるけど、登場する何人かを知っている身
としては、どうにもねぇ⋮⋮。
まぁこの世界のFate/zeroが前の世界の10年前とな寺
かって言われると違う可能性もある訳だけど、俺が知る断片とは一致
していたからモヤモヤっとしたものが晴れない。
今ではネタとして扱う程度は出来るようになってきたが、読み直し
たらまた憂鬱になる自信がある。
っと止め止め、このまま考えてたら本当にテンションが下がる一方
だ。
気を取り直し、俺は与えられている一室へと向かう。
何故か未だに食
一応相部屋ではなく、それなりに豪華な佐官級クラス用の個人部屋
だ。
俺ってば腐っても名目上は特別顧問だからね
堂で働いているけど。
いや、俺も嫌ではないんですけどね。
何せ特別顧問って何か起こった時に相談に乗るのが仕事だからそ
!
1105
!!
れ以外は待機だし、それだけで給料を、しかも結構な額を貰うのは気
が引けるのだ。
だから未だに食堂の手伝いをしている。
売
店
手伝いというのは、俺は既に主戦力からは外れているからだ。
PX一本にしないのは常連さん達が辞めるのは止めてくれって泣
いて頼むから。
個人的には絶対辞めたいわけでは無かったから別に良いんだけど
さ。
まぁそんな訳で、今では食堂の給仕長はデリラさんというウサミミ
さんだったりする。正確にはウォーリアバニーとかいう種族だ。
色々聞いてきて、分からないこととか、日本の事にも興味がある様
で色々教えている内に仲良くなった。一緒にお酒も飲んだりする。
帰ったらまた色々教えて上げなければ。
次は何だっけか、日本の地理とか教える約束だったかな。
﹁っと、通り過ぎる所だった⋮⋮﹂
気づけば部屋まで辿り着いていた俺は、鍵を開けて中へと入る。
アルヌス駐屯地
中には持ち込んだ本類が本棚と共に立ち並んでおり、他には炬燵と
ベッド位。
一応佐官用の部屋ではあるが、こ こはあくまでも橋頭保でしかな
い。
今でこそそこそこに時間も資材もあるが、建物はほぼほぼプレハブ
だ。
そんな中に個人部屋というだけでも結構な贅沢というもの。
中でもこの部屋は狭い方らしい。
ちなみにこれは自分から申し出たことだったりする。
何せ俺にはマイルームもあるし、常に駐屯地内に居る訳でも無い。
勿体ないのもあるが、自衛隊内では部外者に近いので気が咎めたの
だ。
まぁそんな駐屯地内の俺の部屋、そこへと帰ってきた俺は炬燵を畳
んでアイテムボックスに放り込み場所を開けた。
そしてそこへと段ボール箱を置く。
1106
言わずと知れた﹃一条祭り﹄だ。
﹁さてさて、様子はどうかな﹂
以前に、一条祭りの中を覗くと中にミニチュアサイズのロビーが見
えた。
そこから俺は、ロビーだけじゃなく他の場所も覗けないか試したこ
とがあった。
結果はビンゴ。俺のマイルームまで覗けたのだからびっくりだ。
流石に他の人がそれぞれ個室にして割り振っているらしい部屋ま
で覗かないけど、たまに諍いを起こそうとする面々も居るから割と便
利なのだ。
諍いを起こしたメンバーは何処からともなく現れた触手にどこか
へと運ばれるのだが、俺は怖くてその先を見ていない。
さておき、その一条祭りからマイルームを見れるというのを利用し
ようと思ったわけだ。
1107
今はあの竜人さんが寝ている筈だ。
マイルームから出るには俺の許可が無いとできないし、多分移動し
ようにも文明レベル的に何が何やらでどこかへ行くことは出来てい
ないと思う。
女性が寝ている所を直接覗くというのはどうかとも思うが、いきな
り部屋へと入るよりは良いと思うのだ。
自分の部屋ではあるが、もしも着替え中とかだったら申し訳ない
し。着替えを持っているようには見えなかったから本当に着替えて
いるとは思えないが。
だからまぁ軽く様子を窺う分には仕方ないだろう。
﹂
﹁ありゃ、まだ寝ているのか。あ、食事は取ってくれているし、食べて
眠くなったのかな
クしてあった常温でも大丈夫な肉料理をいくつか一条祭りの中へと
かなりお腹が空いていたようなので、アイテムボックスからストッ
に食べてくれたらしい。骨すら無い。
竜人さんってことでお肉多めに置いておいたのだが、どうやら綺麗
どうやら一度起きた後の様だ。
?
落とす。
すると不思議なことに竜人さんが寝ているベッド横にある机上へ
と今落としたものが現れる。
いつ見ても不思議な光景だ。所有者は俺なのに、未だにこの理屈が
わからん。
まぁでも便利だし良いか。
テレビとかだって構造を理解して使ってるわけじゃないし。
﹁そいじゃぁ次だ﹂
次に見るのは幼龍2匹だ。
あの爆発攻撃の衝撃で気絶状態だった2匹だが、もう起きて暴れて
いるかもしれない。
それとも狭間さんか
あの巨体だし、食料的にも色々問題が出そうだし、飼い殺しにする
のも趣味が悪いから対応を考えないと。
一応先輩に相談した方が良いのだろうか
な
まぁ見てから決めるとしよう。
?
﹂
俺は一度蓋を閉めて、今度は2匹が居るであろう格納庫を想像しな
がら再び開ける。
居ない
だが│││、
﹁え、何で
!?
では一体どこに
そこまで考えて俺は首を振る。
そしてもし、もしここに居ないとなれば他の居住区画に│││、
人が来た瞬間に襲うとかもできるかもしれない。
それに、あの2匹はそれなりに知性もあるようだったから、隠れて
とはあるが、俯瞰的に見るのは初めてだし。
ひょっとするとどこかに死角があるかもしれない。中を歩いたこ
俺は念のため格納庫内を端から見て行く。
?
さがある身体では隠れることもできない筈。
それに倒した炎龍よりは小さいとはいえ、それでもそこそこの大き
嘘だ。いくらなんでもこの場所から逃げるなんてできない筈だ。
!?
1108
?
余計な想像は俺には致命傷となる。
まずは現状の再確認から。
緊急事態こそ焦ってはならない筈だ。
そして端から見ていき、とある場所へと目を向けた時、思わず自身
の目を疑った。
念のため、眼の間を揉み、もう一度見る。
見間違いでは無かった。
えっと│││、
﹂
1109
﹁│││何で幼龍の代わりに全裸の幼女が二人転がってるの
?
﹃stage22:幼女の正体﹄
﹁どうするかなぁ、これ⋮⋮﹂
あの要領を得ない待機中にこれ幸いと片づけるつもりだった書類
を前にして首を捻る。
待機の理由自体は後輩が遠出する間の俺を安全地に居させるとい
う契約の為だったと分かり、後輩と話も出来たからこっちへ戻ってき
たのだが、一難去ってまた一難というべきか。
なんとかロリコン疑惑を回避できたのに、次から次へと頭の痛い問
題が出てくる。
残った書類もこれが最後だというのに、面倒な⋮⋮。 アルヌス共同生活組合、コダ村難民を始めとしていつの間にやら肥
大したグループ。彼らはその名の通りにアルヌスにおける生活を相
互に助け合うことを目的にした組合である。
当初は家財道具すら無く自衛隊からの配給などによりその日を暮
らしていたが、飛龍の鱗などを譲り受けそれを売ることで資本金と
し、今では自衛隊と商取引した商品を売買している。自衛隊もまたそ
れによって得た特地の貨幣を元手に様々な方面へと手を伸ばすこと
が出来ている。
異世界同士、互いの世界に無い物を得ることが出来る中々に理に
適った取引だと言えるだろう。
だが、それが最近では問題となりつつある。
特地には無い斬新な商品、高い技術によって作られた品物が注目を
浴びて話題となっているのだ。
ダース100円で売っているような鉛筆一つとってもこの世界で
は考えられないほど高い技術で作られた品物となってしまう。ナイ
ロンでできた雨合羽など魔法の布扱いだ。言っておくけどそれも1
00円︵税抜き︶だよ。
故に、それらの品に考えられない値段が付く。
1110
自衛隊側から組合には人件費の利益や運送なども込みで多少高く
はなっているが、お土産価格程度の相場で売っている。
組合もまた買いに来た他都市の商人達に自分の利益は勿論出るよ
うにしてはいるがそれほど寝蒼上げて売っている訳では無かった。
しかし、需要に対して供給が追いついておらず、物によっては金に
糸目をつけない貴族が欲しがるために転売業者まで出る始末だ。安
いサテンでも、貴族の御令嬢からすれば自慢の種にするには充分な技
術が含まれているそうだ。
だから現状では一部だけに利益が出るのを防ぐために卸し量の調
整や金額も多少高値にするなどして調整している。
結果どうなるかというと、組合に入る金額が大きくなる。
自衛隊としても、特地で売れるものなどを常に調査して仕入れの数
を増やしたりと対応しているためその内に値崩れしてくるだろうと
は思うが、現状ではそれも見込めない。
それに対して商人は留まるところを見せず、次から次へと商機を見
出してアルヌスへと集まる一方である。
そしてさらに、それによって新たに生まれてきた問題がある。卸し
ている店の規模が集まる商人の数に対して足りていないのだ。
アルヌス内に作られたPXはちょっとした商店並みのサイズがあ
る。
だが、今の状況であればスーパー並みのサイズであっても良いかも
しれない。
何せ一部には路上販売までしている始末だ。
まぁ、実際にスーパー並みのサイズであったとしても次は店員が足
りないんだけどな。だからこそ後輩が出張っているわけだし。
﹁ここはやっぱり、例の帝都支店を視野に入れて行くしかないか⋮⋮﹂
ピニャ皇女の御陰で講和への布石は徐々に打つことが出来ている。
未だ帝国の中枢までは手が届いていないが、それももうすぐだ。
後輩の御陰もあって数多く居る銀座事件での捕虜、それを出汁に元
老院議員へと講和を持ちかけており、外務省の菅原さんがピニャ皇女
と同道して下地を作ってくれている。
1111
この待機明けには講和派を集いパーティを開くことになっており、
それが講和会議への第一歩となる。
それと同時に帝都内へ組合の支店を置き、文化侵略とまでは行かな
いがこちらとの取引で得ることが出来る物の覚えをしておく名目で
そこから品物を流す。
そうするだけでもアルヌスのPXまで来る商人の数は大分減るだ
ろう。
﹁うし、これで良いだろう﹂
帝都支店を視野に入れた組合の発展計画。それを書類に書き込み
印を押す。
ぶっちゃけて言えば後回しにしただけの内容だが、しかしそれ以外
ではどうしようもないのもまた事実。
あくまでも帝国と日本は未だ敵国同士でしかないのだ。
ふぅ、と一息つき肩を回す。
慣れない書類仕事にどうにも肩が凝って仕方がない。
そういえば後輩はマッサージが上手だったな。梨紗も良くしても
らっていたと記憶している。
後輩曰く、マッサージが上手な人は何処をマッサージされると気持
ち良いか体感して知っている人らしいが、後輩もマッサージしても
らったことがあるのだろうか。見た目でいえば幼女なので肩が凝る
ようには思えないが⋮⋮。
・・
しかしそこでふと後輩の一部について思い出す。
アレがでかいと肩が凝りやすいって話は迷信じゃなかったのかも
しれない。
﹁っと、疲れてんのかな。これ以上のロリコン疑惑は勘弁だ﹂
そんな独り言を呟いてしまっている時点でお察しだが、疲れている
時ほど自然と声が漏れてしまうのは誰しも一緒だろう。
幸いにも、俺の呟きを拾った人間は居ないようだ。
今更だが、今居る駐屯地内の事務所にはそれなりの数の隊員が居
る。
周りを見れば第三偵察隊の人間だけでなく、他の部隊の人間も書類
1112
仕事に勤しんでいる。
各自使用した物品・弾薬についての書類など、脳まで筋肉で出来て
いるような奴らは似合わないデスクで悪戦苦闘していたりする。
かくいう俺も脳筋では無いが違う意味で書類仕事は苦手な為、それ
なりに時間が掛かってしまった。
時計を見れば、後輩と別れてからそれなりに時間が経っていたよう
だ。
そろそろ夕食時だし、丁度良い。
提出するべき書類を纏めてファイルに入れ、席を立⋮⋮とうとして
違和感に気付く。
なんかこう、ドドドドドといった風に言い表すべき音が聞こえてく
る。
しかもそれがドンドン近づいてくる。
一体なんだ
いや待て、こんな非常識な音を立てながら近づいてきそうな人物に
一人心当たりがある。
そこまで思い至ったところで音は爆音に代わり、そしてバンッと音
を立てながら扉が叩き開けられた。
事務所内の全員が音に気付いていたようで、開く前から見ていたが
犯人を目にして各々が作業に戻った。
あ、後輩の扱いってもうそんな感じなのな⋮。
ともかく、入ってきたのは後輩だ。
息を荒くし、そして俺を見つけるとそのまま跳躍して天井を蹴って
俺の前に降り立つ。
無駄に身体能力使わず普通に来いよ。
どうしよう
﹂
しかし俺が文句を言う前に、後輩は俺の腕を掴んで震えた声で叫ん
出来ちゃった
!!?
だ。
﹁先輩
!!
いきなり何言っちゃってるんですかねこの子は
!?
1113
?
事務所内の全員が吹いてしまった。俺も吹いた。
﹃ぶほぁっ﹄
!
あ、いや、待て、真剣な顔で言うものだからつい出来ちゃったイコー
ルで赤ちゃんの方へ持っていったが、後輩の事だからただ言葉が少な
いだけかもしれない。
﹂
だから、思わず吹き出してしまった空気を取り戻すために深く息を
吸い、後輩に聞く。
﹁待て待て、出来ちゃったって何がだよ。また何か作ったのか
﹁いや、そうじゃなくて、子どもが﹂
ジーザス。
マジで子どもらしい。
﹄
﹂
?
れているが、それでも俺はやっていない。
﹂
何かの誤解だろ
なっ
﹂
!!?
﹁出来る⋮⋮
﹁後輩も何か言ってやれ
!?
昔から邪推するやつは数多く居るし、某掲示板でもなんか色々言わ
しかし、後輩とはそういうアレではない。
まぁ普通だろう。
童貞は捨てちゃっているが、結婚歴もある成人男性︵三十路︶なら
俺
いやでもほんと後輩とそんな出来るようなことをしたことないよ
上がって今にも俺を殺しに来そうな形相で見ている。
事務所内の屈強な男たちが一斉に立ち上がって、いや女性陣も立ち
﹁ちょ、待って、そんな出来るようなことしてないから
!!!!!
﹃伊丹ィィィィィっ
!!!!!
だ。
言ったが後輩と仲は良いが、それは単なる趣味仲間的なサムシング
子どもは可愛いとは思うがそういったアレではないし、さっきも
けは阻止しなければならない。
このままでは俺のロリコン疑惑が確定に変わってしまう。それだ
言葉が少なくてややこしくなっているだけのやつだ。
この反応は絶対違うやつだ。長年の経験から分かったが、やっぱり
い後輩は首を傾げながら疑問を口にする。
自分の発言から何故こんな状況になっているのか理解できていな
!
?
1114
!?
だから、慌てて後輩に言う俺。
だが、後輩は今更ながら自分が言ったことからどうしてこうなった
﹂
かを理解したようで、一気にその雪のように白い肌を真っ赤に染め上
げる。
﹁あ、いや、ちが、あの、ご、ごきゃいっす
噛んでる噛んでる
けど、でもそうじゃなくて││││﹂
説明が説明になってない。
というかそれだと余計に誤解が深まるだけなんだが
﹂
そうじゃなくて、そもそも俺達子ども出来るようなことし
てないよな
﹁後輩
!?
意図してできた訳じゃなくて、事故というか、いやでも可愛いんです
﹁子供が出来たというのはですね、なんかこうできちゃったというか、
しながら続ける。
表現をするなら目をぐるぐるさせながら、そしてワタワタと手を動か
でもそんな事にも気づかない位テンパってしまったのか、漫画的な
!!!
視線だけで人が殺せるのなら俺は今この瞬間に何回死んでいるだ
ろうか。きっと第5次バーサーカーがエクスカリバーで一気に命の
ストックを失ったが、それどころじゃない位に俺は殺されているに違
いない。
養豚場の豚を見るような目って表現があ
それくらいに今この事務所内の殺気が半端ない。
特にそこの黒川さん
るけどその目を俺に向けないでくれませんかねぇ
だから、縋る思いで後輩に言った。
!
﹂
そもそも俺まだ一回もしたこと
タするのを止めて、声を張り上げて言った。
そして後輩は、俺の言葉に天啓でも得たと言わんばかりに、ワタワ
!!?
!?
﹁│││っハ そ、そうっすよ
ないし
!?
1115
!
そう、それさえ言ってもらえればとりあえずこの場は収まる筈だ。
!?
!
!!!!!!!!!!
殺気が止んだ。というか時間が止まった。
何秒か、何分か、どれくらいかは分からないが、確実に全員の動き
が止まってしまった。
暫くすると、ただでさえ真っ赤だった後輩の顔は真っ赤なのはその
ままに涙目になり始めた。
そして、誰かが止まったままだった腕からペンをデスクに落とした
音が響く。
それと同時に後輩が回れ右してそのまま歩き出し、静かに扉の向こ
うへと消えた。
バタン。扉の向こうへ後輩が消えると同時に事務所内の時間が元
通りになり、全員が動き始める。
確かに俺の誤解は消え去っただろうが、どうしようこの空気。かな
1116
り居辛いんですが。
俺が手を出していないと分かりヤケににやけるごつい男たちが何
人か。お前らサムズアップすんな。
ほんとあいつは事あるごとに爆弾を落としていくから困ったもの
だ。
俺は、いつの間にか落としてしまっていたらしい書類を入れたファ
イルを拾い、歩き出そうとし⋮⋮たところで再びドアが開いた。今度
は静かに、立て付けが悪いのでキィと音は鳴るがその程度で、先程と
は段違いだ。
しかし、その音に再び事務所が一斉に静かになる。
そしてやはり、扉を潜って入ってきたのは後輩だった。
戻ってきた後輩は赤面したまま、何も言わず、今度は静かに歩いて
俺の元まで来て裾を掴んだ。
そして引っ張って歩き出す。
﹂
﹁あ、おい﹂
﹁良いから
﹁⋮⋮分かったよ﹂
!
その有無を言わせぬ在り様に、仕方ないと俺は着いてくことにし
た。
よくよく考えれば後輩はあまりこの事務所には近づかないように
していた。
仕事の関係では仕方ないが、やはり部外者である以上は気軽に入る
べきではないと自重していたのだ。
それに気を付けていた後輩があれほど慌てて入ってきたことを思
うと、何か理由があるのだろう。
そう思ったからこそ、俺は着いていくことに決めた。
後輩はなんだかんだとその辺りの通すべき筋は通す性格だ。
たまにうっかり忘れていたり、今回みたいにすっぽ抜けてしまうこ
ともあるようだが、内面に秘めたそれに対してかなり几帳面だ。
何気に、掃除洗濯料理と、一般レベルではあるようだが家事全般も
出来たりする高スペックだったりする。ちなみに、たまーにやたら美
﹁ホント童貞ちゃうから
﹁あ、うん、そうね﹂
いるに違いない。
﹂
そう思った今の俺の表情はきっと、今までにない位暖かい眼をして
どっちにしても、そういうことにしておこう。
性別的に確かにそうではないよな。
!
1117
味しい料理やお菓子が出てくるが、それは裏技らしい。
﹂
﹁先輩﹂
﹁何だ
軽く返す。
?
そう思ったが、どうやら違ったようだ。
おっと、さっきの説明か
引っ張りながら前を行く後輩が前を向いたままそう言ってきたので
事務所の扉を潜り廊下に出て暫くしたところで、後ろ手に俺の裾を
?
◆◆◆
うわあああああああああああああああああああ
いいい
あんな大勢の前で童貞です宣言とか恥ずかしすぎる
あ、いや今は性別が女だから処女
!!
恥ずかしい恥かしい恥かしいいいいいいいいいいいいいいいいい
!?
いつだかのように、部屋の中央のスペースを空けて、そこに例の段
俺は鍵を開け、先輩を連れて中へと入る。
さて、そうこうする内に俺の部屋まで辿り着いた。
恥ずかしさのあまり基地が吹き飛ぶとかシャレにならんぞおい。
はしてなかったしセーフだろう。
よく我慢できたものだ。それなりに叫んだ気がするが、壁が壊れたり
というかつい最近も似たような闘争をした覚えがあるが、あの時も
だから我慢。
まう。
何せドラゴンの因子まで手に入れたからマジ叫びが咆哮になっち
らね。
だってさ、今の俺が本気で叫んだなら物理的な攻撃になっちゃうか
かないので脳内で抑える。
とりあえずそんな叫びたい衝動をホントに外へと出すわけにはい
すぐ復活するけど。
なんかさっきから先輩の眼も生暖かいし、もうね、死んじゃいたい。
たことだが、ほんとそれくらい恥かしい。
なっちゃってたこととかこの間の国会で転生チート幼女だってばれ
他のランクインはアイドル擬きしちゃったりゲームのヒロインに
黒歴史に違いない。
く、黒歴史だ。これは間違いなく人生でベストテンに入るくらいに
いやでもどっちにしろ人前です面で言えることじゃねぇ
?
ボールを置き、挟むようにして座る。
1118
!!
!!!!!!!
﹁後輩、これっていつものやつだよな
る。
﹂
俺は一息ついて、段ボールの蓋を開ける。
見てもらうのは当然、例の幼女二人だ。
?
に居れて置いたらいつの間にか幼女になったんです﹂
﹂
﹁お前の段ボールって中に入れた生き物を幼女に変えるの
とはこの間の軍人もみんな幼女に
﹁いやなってないのこの間確認したでしょうが﹂
!?
俺。いやまぁ争い事は絶えそうだけど。
﹁ま、とりま行きましょうか﹂
実は先輩の所に駆けこむ前に、一度中に入って二匹と⋮⋮二人
話したのだ。
なんとこの元幼龍たちは人語を解すのだ。
だろう。
と
その理由は、百聞は一見に如かずってことで見てもらった方が早い
い。
そもそも、ただ幼龍が幼女になった程度ならあそこまで取り乱さな
言うよりは実際に二人の前に行って話した方が良いだろう。
それもまぁ、人型になったことに起因するのだが、ここであれこれ
?
筋肉ムキムキマッチョメンがいつの間にかみんな幼女とか嫌だよ
﹁それもそうか﹂
ってこ
﹁失敬な。この二人は討伐に行って捕まえた炎龍の二匹っすよ。ここ
﹁ほうほう、ってあれ、なんか紅と蒼の幼女が居るんだけど、誘拐
﹂
先程の事を再び思い出し顔に熱が集まるが思考をずらして阻止す
訳っすよ﹂
﹁うぃっす、この中に居る存在がさっきの、まぁ、子ども発言になる
?
﹂
俺は立ち上がり、ついでに先輩の袖を引張り立たせる。
﹁どこへだよ
﹁ここっす﹂
共に中へと入った。
1119
!?
言うが速いか、俺は段ボールを指さしながら倒れ込むように先輩と
!?
◆◆◆
﹂
﹁ほい到着﹂
﹁うおっ
気づけば後輩に御姫様抱っこで抱えられていたが、次の瞬間には地
面へと降ろされた。
段ボールへと突っ込んだと思いきや、次の瞬間にはこれである。
俺は一言言おうとするが、そこではたと気付く。
先程は狭い個室だったのに、いつの間にか体育館並みの広さへと変
わってる。
壁はSFチックな金属製のもので、光源はどこにあるのやら暑くは
ないが日の下の様に明るい。
よく見れば、アニメでよくありそうな巨大人型兵器でも置いてあり
﹂
そうな格納庫の様だ。
﹁ママ
﹁うおっと﹂
俺が辺りを見回していると、上から何かが降ってきて後輩へと飛び
ついた。
後輩は声とは違って、危なげなくその二つの影を抱きとめる。
紅と蒼の影、先程段ボール越しに見た元幼龍らしい幼女だ。
ただ、幼女が二人の幼女を抱きとめている訳だが、見た目だけでは
微笑ましい物なのに何やら二人が言った言葉がおかしいものだった。
今、後輩に向かって言葉は違うものの母だと言いながら飛びつかな
かったか
ちなみにママと言った方が紅い長髪に紅い裾が短い浴衣の様な物
?
1120
!?
﹁かあさま⋮⋮﹂
!!
を着ている見るからに元気が溢れているといった感じの幼女だ。
かあさまと物静かに言いながらもダイブした子が蒼い長髪に青い
同じような浴衣を着ている。
あ
それぞれ浴衣の下に薄いインナーと短パンを履いているようで、浴
衣の様な上着で動き辛そうに見えたが存外動きやすそうだ。
というかこれって、たまに後輩が自分の家で着てなかったか
﹂
お前がやったのか
﹂
しかしそれを聞く前に、二人が一斉にこちらへと牙を剥きながら威
どうしてこうも懐かれているのか。
辟易とした様子の後輩、その姿に思わず苦笑いだ。
﹁そうなんすよ、これがさっきの発言の原因っす﹂
﹁後輩、えらく懐かれてるな﹂
ということは、後輩が二人に着せたのだろう。
く着てたはずだ。ミヤビカタとか言っていたか⋮⋮。
いつは白だったけど、何だかジャージに次いで楽だからとちょくちょ
?
じさんは。
それにしても、幼龍とはいえ元炎龍だと聞いても幼女二人が威嚇し
てくるだけでは何も怖くない。
後輩があの姿で色々やらかしているが、どうもその本人の容姿も相
まってコミカルにしか見えないことが多いのだ。 ﹂
というか、この数か月で慣れてしまったのだろう。
﹁やめい
べちゃダメ。分かったか
﹁﹁分かりましたぁ⋮⋮﹂﹂
﹁ならよし﹂
﹂
おおぅ、これ本人に言うと殴られそうだけどめちゃくちゃ母親っぽ
?
1121
嚇してきた。
﹁ママが何だか辛そう
﹁かあさまの敵なら、食べて良い人間
!!
いえ駄目です。というか疲れてるのは君たちの所為だと思うぞお
?
!
﹁この人は俺の恩人だから、食べちゃダメな人間。というか人間は食
﹁﹁はーい﹂﹂
!
い。
歯をむき出していた二人がシュンと一瞬で沈んで大人しく後輩の
いう事を聞いた。
普段は粗野なのに無駄に女子力高かったりするし、割と向いている
んじゃなかろうか。
それにしてもなるほど、これが〝できちゃった〟発言に繋がる訳
か。
﹂
しかしなんでまたこんなに懐かれているのだろうか
﹁それで、何で後輩はこんなに懐かれているんだ
﹂
最初のママも好きだけど、おんな
じ匂いがしておんなじみたいな姿になるママの方が好き
味しいご飯もくれたから大好き
れないもん。でもママは変なのも一緒だったけど遊んでくれたし、美
﹁前のママ、私たちを置いて消えちゃったし、次のママはご飯を全然く
しかし説明したのにそれでも母親認定とはよく分からん状況だな。
とりあえず、人間では分からない匂いなのだろう。
見た目は幼女とはいえ女性にすることでは無いしな。
少しムッとする後輩に素直に謝る。 ﹁あ、すまん﹂
﹁さすがに恥ずかしいんでやめてほしいっす﹂
思わずクンと鼻で吸うがよくわからん。
﹁匂いねぇ⋮⋮﹂
だけど、匂いはするしご飯も上げたしで母親認定されたらしくて﹂
からあの炎龍の匂いがするらしい。一応俺は倒した方って言ったん
﹁それがどうも、例の炎龍がこの子達の母親らしいんすよ。そんで俺
?
シュンとしていた幼女たちが顔を上げて後輩へとそう言う。
たぶん、最初のママってのがその生みの親であり後輩が倒した炎龍
だよな。
でも次のママってなんだ
出来なかったのか、どちらにしろ考えても詮無い事か。
1122
?
﹁⋮⋮うん。美味しい、です。それに⋮⋮、お洋服面白い、です﹂
!!
!!
まぁご飯をあまりくれなかったって位だし、世話をしなかったのか
?
何せ後輩が帰って来てからまだ数時間しか経ってないのにこの懐
きようだ。よほど前の環境が悪かったのだろう。
それにしても困惑しながらも遊んであげるとは中々後輩も子ども
好きなのだな。本人も見た目は子どもだけど。
見た目が似たようなもんだからこそチャンネル的なものが合うの
だろうか
そんな本人に失礼なことを考えていると、後輩がジトっとした目を
こちらへ向けていた。
﹁言っとくけど、遊んだってのは討伐に行った時の事ですからね。途
中から俺自身が炎龍化して戦ったのがこの子達には遊んでもらった
ように感じたらしいんすよ。ご飯はまぁ、ついおいしそうに食べるの
を見て色々上げちゃいましたけど﹂
﹁⋮⋮なるほどな﹂
﹁おいこっち見ろや﹂
考えていたことが顔に出ていたのか、それを悟られたようで思わず
顔を背ける。
そんな俺の姿を見て、後輩は溜息を一つ、説明を続けた。
﹂
﹁次はこの子達がなんで人化したのかの話をしますね﹂
﹁あ、そうだよそれ。これもお前が何かやったのか
しかしあれがどうしたのだろうか。
様性だと俺は思う。
後輩曰くそれなりに制限があるらしいが、それを補って余りある多
前は燃料にもなっていたし、割と何でもありな不思議物質だ。
か。
変身する時に使ったりと後輩がよく使っているのを目にするアレ
﹁ああ、あの剣になったり触手になったり忙しいやつな﹂
﹁俺がいつも使ってる影みたいな泥みたいなのあるじゃないっすか﹂
俺が内心で首を傾げていると、後輩が再び口を開く。
何だか要領を得ない言い方だ。
味正解かも﹂
﹁いんや俺自身は何もしてないっす。でも、俺が原因ってのはある意
?
1123
?
﹁いやぁ、あれって聖杯の泥を俺がラーニングして願いを叶えるって
性質が滲みついちゃったみたいで、それがまぁ段ボールからたまに出
てる触手の正体でもあるわけで、それを食べちゃったみたいなんすよ
この子達﹂
﹂
それって滅茶苦茶危険な代物じゃないか
﹁はあああああああああああああ
聖杯の泥
今すぐにでも契約解消したいくらいなのだ。
をそのままにしているが、無くても後輩が居続けられるというのなら
建前上は令呪での制御が出来ているという上辺が必要だから令呪
後輩はサーヴァントかもしれないが奴隷じゃない。
﹁はは⋮、ですよね﹂
﹁っ⋮⋮、そもそも暴走しない様にしろ馬鹿後輩﹂
り強く受けるみたいなので、先輩が使ってくれりゃぁ大丈夫っすよ﹂
﹁大丈夫っす。先輩には令呪がある。俺は特性上令呪の効果を普通よ
る。
そう思ったのが分かったのか、後輩は苦笑いしながら説明を続け
でもお前バーサーカーじゃん⋮⋮。
限り泥が暴発することは無い筈です﹂
﹁大丈夫っすよ。それなりに理性はあるつもりだし、暴走でもしない
れた人が何人も居るが、何か異常が出た人を見たことは無い。
あ、でもよく考えれば後輩はあの泥を結構使っているし、実際に触
﹁ボソッと言ったの聞こえたぞおい﹂
すが﹂
ば純粋な力の塊なんですよ。⋮⋮まぁ俺が悪意持っちゃうとアレで
﹁あ、安心してください。元の悪性は取り除かれてるんで、言ってみれ
いや悪いとは思ってるから睨まないでくれ。
でも驚いても仕方がないんだ。それほど危険な代物なのだから。
あ、ごめん、幼龍の二人。驚かせちゃったな。
もろに穢れてるやつじゃないか
しかもこいつが参加した聖杯戦争って第五次だったよな
!?
それを知っているからか、後輩は俺が言う言葉に嬉しそうに笑う。
1124
!!!!?
!!!!
!?
!?
まったくこいつは⋮⋮。
それよりも問題は、その泥を食べたって二人だ。
触れるのはともかく、食べて大丈夫なのかそれって。
﹁まぁさておき、二人はその泥を食べてしまったわけです。ここの防
衛機構としていつの間にか働いてくれていた触手さんが、暴れようと
した炎龍達を抑えようとしたみたいなんですけど逆に食べられたっ
てのが顛末みたいっすね。んで、その後で格納庫に放置されたこの子
達 は ど う や ら そ の 方 向 性 の 無 い 泥 に 願 っ ち ゃ っ た ら し い ん す よ ね。
﹃人みたいな小さい姿ならここから出て行けるのかな。ママともっと
遊べるように人の姿にもなれるようになりたい﹄って﹂
﹁なるほどなぁ⋮⋮﹂
その願いを、叶えた結果がこれか。
でもそれでいくと食べてスーパーサ○ヤ人になりたいとか狙った
ら髪が黄金になるのだろうか。
1125
俺がそんなことを考えていると、静かにしていた幼女二人がガバり
と顔を起こして口を開いた。
﹂
﹁ママに遊んでもらってた時にママは二匹になったり人になったり龍
になったり楽しそうだったの
﹁⋮⋮実際楽しい、です﹂
かり忘れてたなぁと﹂
る女の人を見つけたんすよ。どうにもこの子達に掛かり切りですっ
﹁いやぁ、この子達を回収した後に住処にしてたっぽい洞窟で倒れて
﹁まだ何か問題があるのか後輩﹂
からこれ以上の厄介事は勘弁だぞ。
場合によってはこの子達の事を狭間陸将に伝えなきゃならんのだ
おい何やらかした。
たいな顔をしていた。
うと後輩へと顔を向けるが、当の後輩はなんというか﹃あ、やっべ﹄み
合点が行った俺は、これからこの子達をどうするつもりなのか聞こ
まぁでもこれで、子どもが出来ちゃった訳はわかった訳か。
驚愕すべきは後輩の泥の性能か、それともこの子達の発想か。
!
炎龍に襲われそうなところを助けた
一人きりで見知らぬ場所に放置とか大問題じゃないか
﹁それって結構不味くないか
!
﹂
﹂
おま、それ、ロゥリィみたいな亜神ってやつじゃないのか
!?
﹁えっと、竜人って感じの人ですね。あ、後なんか白ゴス着てた﹂
何故なら│││、
しかしその後輩の言葉に、俺は言葉を失った。
俺の言葉に、前を走る後輩が答える。
﹁ちなみにどんな人だったんだ
そこでふと、気になった問いが出てきたので聞くことにした。
そして慌てて二人して通路を後輩の先導で向かう。
を出る。
後輩は離れたがらない二人を何とか言い包めて、俺と二人で格納庫
﹁分かった。すぐに向かおう﹂
﹁ういです。ここから部屋はすぐなので一旦向かいましょうか﹂
﹁今から行くのか
え、帰って来てから結構な時間が経っている。
後輩は回復魔法的なのも使えるみたいだから緊急性は無いとはい
ろう。
要救助者を、空腹で倒れていただけっぽいとはいえ放置はマズいだ
まったくこいつは⋮⋮。
﹁やっぱ駄目っすかねぇ⋮⋮﹂
﹁それなら⋮⋮いや駄目だろう﹂
うんですけど⋮⋮﹂
きたんですよ。だから見知らぬ場所に混乱してってことは無いと思
いつの間にか起きてたみたいで無くなってたから結構な量を足して
﹁なんか空腹で倒れてたっぽい感じだったのでご飯を置いておいたら
にしても、流石に一人ってのは⋮⋮﹂
?
?
1126
?
﹂
﹃stage23:俺の女子力は53万です。いや嘘
ですけどね﹄
﹁えっと、こんばんは
﹁お、おう﹂
﹁あ、俺の名前はコウジュです。こっちは伊丹先輩﹂
﹁⋮⋮よろしく﹂
﹁あー、オレはジゼルだ﹂
コウジュのマイルームで行われている三者面談。その雰囲気は、留
年目前となった生徒を交えたモノの様に、決して良いとは言えないも
のとなっていた。
参加者はコウジュ、伊丹、そしてジゼルと名乗った深縹色︵やや紫
みを帯びた青︶の肌に入れ墨をし、白いゴスロリ服を豊満な身体に無
理矢理着ている女性。
コウジュと伊丹がマイルームを訪れた時には既にジゼルは起きて
おり、コウジュが用意した食事を食べ終わった所だったのかまったり
としていた。
しかし、コウジュが入ると同時にジゼルは何故か見るからに警戒し
た面持ちとなり、若干の怯えすらも見て取れた。
それに対してコウジュは首を捻るも、突然訳の分からない部屋に連
れて来られた所為なのだろうと無理矢理納得した。怯えられる理由
がそれくらいしか思いつかなかったからだ。
まぁ当然ながらそんな理由ではない。
なにせジゼルは亜神だ。ロゥリィ・マーキュリーと同じ、人ではな
い不死の存在なのである。
亜神の中では最も若いとはいえ、既に400年の歳月を過ごし、そ
れなりに多くの経験を経ている。
1127
?
では何故ジゼルはコウジュに対して警戒しているのか
その答えは至って簡単だ。
いつしかロゥリィがコウジュに対して感じた気配をジゼルもまた
コウジュから感じているからである。
コウジュ本人は若干忘れているが、コウジュが目指している物は神
化だ。
本人が望んでいるかはさておいて、着実に経験を増やしその道を順
調に進みつつある。
そして既に、神化は始まっている。
文字にすれば︵仮︶が︵見習い︶になった程度だが、コウジュから
滲み出る気配にはジゼルが主上と仰ぐものと似た気配が出ている。
空腹で倒れて意識を失い、気づけば見知らぬ部屋に居る上、何故か
ご丁寧にも食べて下さいと書かれたメモと共にあった大量の極上の
料理たちを平らげて落ち着いたと思いきや直属の上司と同じ気配を
醸し出す存在が部屋に入ってきた。
そんな状況の為、考えるよりも動くことが得意なジゼルは、とにか
く何かあればすぐ動けるように表面上警戒しているが、コウジュがも
しも敵性存在であれば詰みな状態の為に、ぶっちゃけて言えば内心で
涙目となっている。
そんなジゼルに対して、コウジュもまた内心で涙目となっていた。
ファンタジーの代表的な存在達、その一角を占める竜人を見て少し
ばかりテンションが上がっていたのだが、当のジゼル本人があからさ
まに警戒していては素直に喜べない。
〟にゃ〟が語尾の猫耳メイドさんやエルフさん︵モフられ過ぎて
ちょっと苦手意識が生まれてる︶達に出会えて生前から持っていた衝
動を刺激され、異世界最高と純粋に喜んでいたコウジュ。幾つもの悲
劇には出会った物の、異世界そのものを否定する気には到底なれな
かった。
そしてそこへ、久しぶりの新たな種族に出会えたことを喜んでいた
のだが、浮足立っていた心は現在急降下中である。
転生系小説の転生先としてもよくあげられる竜人種。
1128
?
マイルームへの移動中に伊丹から聞かされた亜神かもしれないと
いう言葉で多少気を引き締めたが、改めて目にするとなんとも厨二心
を擽られてしまった。
コウジュが生前よく見ていたweb小説サイトでは大体が通常の
人間に尻尾と翼が生えただけだとか龍に変身出来るだとか人間から
それほど逸脱した見た目では無かった。
しかしジゼルは肌の色からして肌色ではない。
と自分の事︵厨二カラーである事な
そのことに現代人の何割かは忌避感を示すかもしれないが、コウ
ジュはただファンタジーすげぇ
ど︶を棚に上げて嬉しく思っていた。
しかし悲しいかな、御対面はどうやら失敗したらしい。
更に言えば、今更ではあるがコウジュの中身は男である。
そして、ジゼルは肌の色を抜きにしても美人と言えるくらいに容姿
が整っていた。
白いゴスロリ服ではあるがその粗野な着こなしに些か野性味が溢
れすぎている気がしないでもないが、美人なのである。
そんな美女に警戒されているのもまた、コウジュとしては悲しかっ
た。
しかしだからといってそこで諦めるコウジュではない。
満足してもらえましたか
﹂
互いに切りだし辛くなっていたが、何かないかと視線の端で探し、
そしてそれを見つけた。
﹁そういえば料理はどうでした
た。
﹂
﹁お お あ れ か め ち ゃ く ち ゃ 美 味 か っ た
だったんだが最高だったぜ
腹 が 減 っ て 死 に そ う
その言葉に、今までの警戒は何だったのかとジゼルは目を輝かせ
?
貰えたようで良かった﹂
すげぇな
﹂
弓兵主夫に習って作ったやつとかなんですけど満足して
!
ウジュはアイテムボックスからとある弓兵お手製のお菓子等を取り
1129
!
?
﹁あれはあんたが作ったやつだったのか
!
﹁やった
!!
!
そこからは互いに料理に関して様々な話をし、気分が良くなったコ
!
!
出して更に話を盛り上げた。
そんな美女と美幼女の話し合いに入れなかった伊丹はボソリと呟
いた。
﹁⋮⋮同類だこの二人﹂
◆◆◆
いやー、警戒されてたけど料理話であそこまで盛り上がれるとは思
わなかったよ。
それに俺が作った料理を美味しいと言ってくれるものだからつい
つい秘蔵のアチャ男菓子を出してしまった。あの世界に戻れない現
状ではストックして置いたものにも限りがあるが、後悔はしていな
い。
たわけだけど、割と居るんだね亜神ってさ。
しかも亜神って皆不老不死らしいし、Fate世界では不老不死な
んて求めても容易く手に入るものでは無かったのに不老不死の大安
売りだ。俺が言えることじゃないかもしれないが。
さておき、現在は皇室庭園で行われている園遊会に俺は陰ながら参
加している。
参加していると言っても、メイドとしてだ。
1130
あ、そういえばそのジゼルさん自体は保護しただけだったのでもう
帰りました。
話の途中で微妙に引き攣った笑みを浮かべていたり、なんか用事を
思い出したと言っていたけどどうしたんだろう。炎龍を退治した当
たりの話だったと思うけど、それ関係で何かあるのだろうか
いや亜神だからなのだろうか
ジー。
だけど、料理を食べたら治ったそうだ。やっぱりすごいなファンタ
それにしても、飢餓状態からの回復って結構時間を要するはずなん
?
やはりというか、先輩の思っていた通りにジゼルさんって亜神だっ
?
メイド服を着ることに違和感が無くなってきた今日この頃だが、ガ
チメイドさん達が居る中でメイド服を着ることを恥ずかしいとは言
えないのだから仕方ない。
それに、メイド服を着ているとはいえ、俺が今やっているのは調理
の手伝いだ。
なにせメイド服を着る機会が増えたとはいえ所詮俺は紛い物。貴
族を相手にした作法など知る由もない。
かと言って先輩がやっているような、講和派に対する牽制でもある
自衛隊所有の武器に関しての説明やら演習やらの手伝いを俺が出来
る由もない。
そんな中、特別顧問として無理矢理割り込んだのに何もしないとい
うのも気が引けるので仕事を探した結果が調理の手伝いなのだ。
園遊会では、日本の事を知ってもらうと同時に日本に敵対しないよ
うにするため牽制と講和を進めることで得られる利益を餌とするた
めに様々なものを用意している。
先に言った武器の説明もそうだが、俺が手伝っている料理もまた餌
の一つである。
日本は飽食国家と呼ばれるほどに地球有数の食文化が発達してい
る国だ。
繊細な料理が多いと言われる和食もそうだが、各国の食文化も取り
入れてきた日本には多くの美食が集っている。
そもそもの日本食というのも、料亭で出るような料理から家庭料理
までで考えてもその幅は多岐にわたる。
そこへ各国の料理も混ざればレシピの種類は数千数万どころでは
ない途方もない数だ。アレンジも加われば言わずもがな。
そして、言っては悪いが特地の食文化はまだまだ発展しているとは
言い難い。
そもそもが保存一つとっても難しい特地において、味など二の次に
なってしまうのは無理もない。 貴族の食事情に関しては多少異なるが、聞けば豪勢な肉料理を贅沢
に用意することで貴族の威を示すのが基本なのだそうだ。しかも調
1131
味料が限られているから、味付けにはそれほど幅が無いとか。それは
それで俺的には胃を刺激する内容だが、ジャパニーズソウル的には
様々な味付けを楽しみたい。
まぁ俺の事は置いておいて、その日本の食文化というのもこの特地
では大いなる剣となるのだ。
見れば、用意された料亭料理や特地受けしそうな数々の料理を講和
派の貴族やその家族が食べて舌鼓を打っている。
さすがに料亭料理とか出来るわけがないので下拵えとかばかりだ
が、それでも作った料理に喜色満面の笑みを浮かべる人々を見るとい
うのは嬉しいものがある。
とはいえ、俺がアチャ男に教えてもらったものや自分で勉強した料
理は基本的に家庭料理なのだが、少しくらいは料亭料理とかを習って
おくのだったとこの光景を見れば少し後悔しないでもない。
俺はチラリと横に居る人を見る。
古田均さん。階級は陸士長だったか。
古田さんは元板前で、開店資金を稼ぐために自衛隊に入隊したらし
い。
そして先輩率いる第三偵察隊所属となったようだが、その経歴から
食事関連の仕事が回されることが多いようだ。
まぁそれも仕方ないだろう。
俺がバイトをしている食堂でもそうだが、今回の事に関しての打ち
合わせをする際にも俺は何度か古田さんの作ったものを食べたこと
がある。マジ最高でした。
アチャ男の料理や士郎、凛ちゃん、桜ちゃん、アインツベルン家で
食べた食事、どれも美味しいものだったが、有名な料亭の料理長の元
で修行してきたという古田さんの料理はまた別ベクトルの美味しさ
があった。
食レポなんぞできる能力は無い為に言葉には言い表し辛いが、鋭い
美味さがあった。いや何言ってるんだろう俺。
まぁ、そんな古田さんの横で大根の桂剥きやらをやっているのだ
が、所詮は家庭料理を作る程度の能力しかないので最初は戸惑ったも
1132
のだ。
だが、これでもチートスペックを持つ者だ。
少しずつだが古田さんのやり方を真似たり古田さん直々にアドバ
イスを貰って少しずつ技術が上がるのを実感している。難し顔をし
ながらも褒められるのが地味に嬉しいです、はい。
ただ、そんな俺でもここでは十分な戦力になるという現状は割と厳
しいものがある。
というのも、そもそもが自衛隊員は料理を学ぶために自衛隊員なの
ではないからだ。
バイト先やフォルマル家からの助っ人があるとはいえ、多少の知識
がある俺以上に不慣れな作業工程をしなければならないために、肝心
な部分はほぼほぼ古田さんが関わらなければならない。
今日の園遊会では料理長は古田さんだ。
自衛隊員としてここに居るとはいえ、作る以上は妥協する訳には行
1133
かないと古田さんにはかなり負担がかかっている。
ばれない様に回復を俺がしているが、肉体的な疲労は回復しても精
神的な疲労は回復することが出来ない。
見れば古田さんは自身も料理をしながら、各担当から求められる質
問にもアドバイスを即座に返し、貴族たちの腹に消えて行く料理を追
加していっている。
汗をかきながらも、決して集中を途切らせることなく、一つ一つの
工程を丁寧に、そして素早くこなしている。
﹁大丈夫だよ﹂
覗き見しているのがばれたのか、視線を手元から反らさずに古田さ
んがそう言った。
﹁すいません、よそ見してました﹂
﹁気にすることは無いさ。心配してくれた子を怒鳴るほど狭量じゃな
いつもりだ﹂
その言葉に少しだけ引っかかりを覚えてしまい、即座に返せないで
﹂
いると古田さんが不思議に思ったのか手を止めてこちらを見た。
﹁どうしたんだい
?
﹁いえ、あなたも俺を子ども扱いするんだなって。まぁ見た目があれ
なんで仕方がないんですけど﹂
俺の言葉に古田さんが苦笑した。
そして作業に戻りつつ、口を開く。
﹁子ども扱いというか、勝手に弟子の様な感覚で接しさせてもらって
いるよ。いつかは弟子を取ることもあるだろうしその予行演習って
所か﹂
﹁うーん、弟子かぁ。俺じゃ力不足だと思うっすけどねぇ⋮⋮﹂
そんな俺の言葉に、今度は笑みを零す。
食材の切り方一つとっても、誰かに言われた注意を思
﹁そんなことはないさ。恐らくだけど、誰かに師事したことがあるん
じゃないか
い出しながら丁寧にやっているように感じたけど﹂
何この人エスパーか何かですか
俺そんな顔してました
けど、料理する者としてのくだりを言った時に少しだけ眉が寄って
顔が熱くなるようなことがよく自然と言えるものだ。
というかこの人はサラッと何を言っているのだろうか。
?
事なものを君は持っているよ﹂
﹁や、やさ⋮⋮
﹁ああ﹂
﹁マジですか﹂
﹂
対してあれだけ優しい笑顔が出来るのなら、料理する者として一番大
﹁独学じゃできない動きをしていれば自然とね。それに、食べる人に
﹁よく分かりましたね﹂
それがどうやら古田さんには俺の作業を通して見えたようだ。
付いている。
しかしその間に教えてもらったアチャ男式主夫術の多くは俺に根
か気づけばアチャ男さんに作ってもらっては俺が食べていた。
といっても基礎も基礎だけだし、やはり俺は食べる方が好きだから
確かに俺はアチャ男さんに師事したことがある。
?
いやまぁ嬉しかったのは確かだけどさ。
そんな顔していたのか俺。
?
1134
?
難しい顔したのは何でだろうか
﹂
先輩は色々あって自衛隊にって言っていたし、その辺りに何かある
のかもしれない。
だけど、さすがに聞けるわけもないか。
﹁一応、褒められていると取っていいんですかね
るが、それも注視されれば解けてしまう。
かっており、受信機や俺のケモ耳も普通の耳に見えるようになってい
俺 と 古 田 さ ん の 耳 元 に は 俺 が 何 と か 習 っ た 認 識 阻 害 の 魔 術 が 掛
ためこちらからは俺が念話で返す。
そして事前に決めていた通りに、無線では同時に相互通信出来ない
古田さんの物にもそれは届いたようで、二人して顔を見合わせる。
︽後輩、緊急事態が起こったから離脱する︾
続けていると先輩から耳に付けていた無線に連絡が届いた。
と、そんな風に古田さんと共にたまに会話をしながらも料理を作り
れる人達の顔位ゆっくり見たいものだ。
それだけ作った料理を評価してくれているともとれるが、食べてく
でも本当に大人から子供まで、それなりの量を食べている。
んだから俺と比べたら比較するのにおかしいか。
俺と同じくらいの幼女なのに結構食べてるんだよね。あ、俺も食う
めていたと思う。
事前にしておいて運んできたが、正直に言ってこちらの人の胃袋を舐
比較的に作業の少ない料理を古田さんは選び、結構な量の下拵えを
というかやっぱり料理人が少ないと思う。
いうのに減るスピードと同じくらいだ。
地味に泥人形すら出さずにこの身一つに集中して作業していると
庭園に集った人数もあって料理が減るスピードは伊達じゃない。
﹁確かに﹂
ともあるけど、今はそんな場合じゃないしね﹂
﹁良いんじゃないかな。本格的に弟子になるのならもっと言いたいこ
?
だから何事も無いように俺達は作業へと戻りながら、俺が先輩へと
返す。。
1135
?
﹃俺もそっち行った方が良いですか
﹄
︽いや、よく分からない騎馬隊が来たからVIPを逃がすだけだ。見
る限りでは今すぐに抗戦するという訳でも無いが、いざとなったら決
めてあったように古田と共に離脱しろ︾
﹃了解っす﹄
先輩からの無線が切れたのを確認したと同時に念話も切り、古田さ
んへと静かに声を掛ける。
﹁お聞きの様に正体不明の騎馬隊が近づいてるようですけど、予定通
りギリギリまで俺達はここで続行という事で﹂
﹁了解﹂
今回の園遊会を開くにあたり、この会場周囲には特戦群により警戒
網が敷かれている。
勿論この世界の物とは比べようもないほどの距離を誇るもの故に、
その騎馬隊とやらが到着するにもまだ少しの猶予があるだろう。
そんな状態で料理関係の中心から俺達が抜ければ振る舞われてい
る料理に空きが出てしまう。
そうなれば貴族の園遊会としては見目悪く、招いた側としての風聞
に関わる。
講和派への剣でもあり飴でもあるこの園遊会は何としても成功さ
せる必要性がある。
出来れば先輩の方へついていきたいが、例の様に令呪があるし、何
かがある前に逃げるのだから差し迫った危機は無いだろう。
むしろここに残る方が危険度としては高い。
そんな場所に古田さんを置いていくわけにもいかないし、離れた場
所には外務省からの出向である菅原さんやピニャ皇女も居る。
最悪の場合は彼らの脱出に手を貸すのが俺の今回で一番重要な部
分だ。
﹁どうやら来たみたいっすね﹂
﹁あれか。馬に乗っているとはいえごついな﹂
﹁確かに﹂
暫くするとチート耳に聞こえていた蹄の音も近くなり、丘の上に騎
1136
?
馬隊が見えた。
一番前に居るのは、古田さんの言う通りに豪奢な鎧にマントを付け
﹂
た大男だ。乗っているのは立派な馬だがその大男が乗っていること
で小さく見えてしまう。
俺の倍からあるんじゃなかろうか
﹁物騒っすねぇ全く﹂
﹁コウジュちゃんは逃げてもよかったんだけど
辟易と、俺は思わず零してしまう。
そんな俺の様子を見て古田さんが言った。
俺は純粋に心配してくる古田さんにどう返したものか困ってしま
いすぐに言葉を返せなかった。
だって、大男とはいえ尊大に近づいてくる件の男に斬り掛かられて
もきっと俺は傷一つ付かない。
魔剣とかそういった類の物を持って居ればわからないが、それでも
ロゥリィさんクラスが出てこないと炎龍の鱗すらラーニングして防
御力が上がった俺にはそうそう怪我というものは無い。
だから古田さんの心配には意味が無い。
でも心配されること自体は嬉しいものだ。
﹁⋮⋮事前に決めたようにいざという時の脱出役ですってば。確かに
古田さん達が逃げる訳には行かないけど、何があるかは分かりません
から﹂
一先ずそう返すと、古田さんは難しい顔をする。
﹁年齢は聞いているけど、それでも君みたいな子を矢面に立たせるの
コウ
はどうにもまだ整理が付かないんだよ。それに隊長の大事な子が傷
つくと隊長が何するかわからないし﹂
﹁ちょ、大事なってっ﹂
つい大声を出しそうになるが何とか抑える。
先輩の大事な子って何ですか
﹁だって隊長があれだけ気に掛けているんだからそうだろう
約っていうには近しいでしょ。だから基地の皆はコウジュちゃんが
1137
?
?
ジュちゃんも隊長の傍を離れないし。契約どうこうは聞いたけど、契
?
!?
隊長の大事な人って認識だよ﹂
﹁何でさ⋮⋮﹂
古田さんの言葉に俺は思わずどこぞの英雄志望みたいに零す。
何でそうなるのさ⋮⋮。
確かに先輩とは仲良くさせてもらっているけど、どっちかというと
家族とか仲間って感じで接しているつもりだった。
実際に先輩とは趣味仲間だ。もしくは心友。
なのに周りからはそう見えていたってことか。
﹂
気を付けた方が良いんだろうか⋮⋮
﹁え、何で落ち込んでるんだい
?
﹂
になる前にそっちを噂にすべきでしょうが
態々言いふらすことでも無いってのは分かるけど、俺とのことが噂
って、何で知らないのさ。
俺もつい語気を強めに言ってしまう。
俺の発言に目を見開いて驚く古田さん。
﹁してるんですっ。だから俺は違いますっ﹂
﹁隊長結婚してるの⋮⋮
離婚状態だがどうせ元鞘だろうしそこは置いておく。
うか先輩結婚してるし﹂
﹁いや、先輩はあくまで家族みたいな友達って感じなんですよ。とい
俺の様子を心配して少し焦った様子で古田さんが声を掛けてくる。
?
の兄のようだ。
似てない兄妹だこって。
それにしても、兄ってことはあの人は王族なわけだよな
?
えっと、ピニャ皇女の言葉を拾うにどうやらあの大男はピニャ皇女
共に周囲にある料理へとむしゃぶりつく様に手を付け始めた。
そんな会話をしている内に、大男はピニャ皇女と話した後、部下と
﹁⋮⋮程ほどにね﹂
﹁⋮⋮帰ったらすることが出来ました﹂
はぁ、これは基地に戻ったら色々と修正すべきだな。
!
1138
?
何というか料理の食べ方が偏見かもだけど野盗っぽい。めちゃく
ちゃ粗野だ。
少なくとも気品よ言うものが感じられる食べ方ではない。
うんまぁ、ガツガツ美味しそうに食べてくれてるし、所作なんて俺
も偉そうに言えるこっちゃないけど、もう少し落とさないように食べ
てくれると嬉しいかなぁ⋮⋮なんて。
何とも言えない気持ちになりながらも俺は作業を続ける。
そのピニャ皇女のお兄さんと共に来た騎馬隊の人達が次々に料理
を食べて行くものだから減る速度が速まった。
﹁どうやらピニャ皇女のお兄さんみたいですね﹂
﹁⋮⋮ってことは皇子か。あまりそうは見えないけど﹂
﹁同感です﹂
見れば子どもたちが並んでいた、アイスクリームを出しているメイ
ドさんの方に行き、子どもたちを散らしながら順番なぞ知らぬとアイ
スクリームを食べに行った。
﹁⋮⋮﹂
﹁行っちゃだめだよ﹂
﹁さ、流石に行かないっすよ﹂
アイスクリームが気に入ったのか箱ごと持って行った皇子に一部
の子どもが泣き出す。
貴族として躾けられているからか喚く様なことはないし、近くに居
た 親 御 さ ん が 泣 き 止 ま せ る た め に 近 づ い た か ら 何 事 も 無 か っ た が、
ちょっとムカついた。
古田さんに止められたからではなく、流石にあのままあの皇子へと
物申しに行くようなことはしないが、気分が良くないのは確かだ。
だからジッと見ないでください古田さん。
でもほんと、気に入ってくれるのは良いが子どもの分まで取るなっ
ての。
ただ、それが王族故に当然の振る舞いだと言われてしまえば仕方が
ない。
王族として、誰かに気を使うようでは務まらないというのであれば
1139
あの振る舞いこそが正しいのだろう。
けど、やはり納得できるものではないな。
そう理論で行くとピニャ皇女はあまり王族らしくないのだろうか
だってピニャ皇女って先輩やら梨紗さんに色々〝お願い〟してい
る姿をよく見るし。
うーん、でもそうなると俺個人で言えば目の前で繰り広げられてい
るようなのが王族の姿だってなら勘弁だ。
それならピニャ皇女の方が断然いい。
ちょーっと最近BL本に傾倒しすぎな気もするし、俺経由で手に入
れようとするのは勘弁してほしいが、まぁその分身近に感じる。
﹁む、今度はお菓子まで﹂
﹁コウジュちゃん﹂
﹁だから行かないですって⋮⋮﹂
⋮⋮よっぽどのことが無ければ。
その言葉は口に出さず置いておくことにした。
1140
?
﹃stage24:悪所と前兆﹄
﹁あ奴め、餌を漁っただけで満足して帰ってきよったぞ﹂
﹁しかし無駄ではありませぬ。ゾルザル殿下があの場へ赴いた意味を
理解する者も居ましょう﹂
﹁ふむ、一先ずはそれで良しとしよう﹂
帝国内謁見室、その中でも最も高い位置にある玉座に座る男、現皇
帝モルト・ソル・アウグスタス。
そしてモルトに向かって膝を付き、忠誠を示しながら言を返すのは
その腹心たるマルクス伯。
ピニャの兄であるゾルザルが皇室庭園での園遊会に姿を現して暫
く、そのゾルザルを送り出したマルクス伯の報告が今行われていた。
﹁まったく忌まわしい限りだ。連合諸王国軍もまるで役に立たないと
はな﹂
﹁第一目標は達せられました。諸王国の軍は壊滅し、我らへと牙を立
てる力すらありませぬ﹂
﹁それを奴らに感謝するのは業腹だがな﹂
皇帝の言葉に、マルクス伯が静かに頷く。
連合諸王国軍、それは帝国に敗れ属国となった国々により組織さ
れ、自衛隊が特地へと訪れた際に戦った軍隊の事だ。
開門後、銀座事件が起こり日本は早急な対応が求められた。
そして、内閣に変動を起こしながらもついに自衛隊はついに門を潜
り特地へと渡った。
そんな橋頭保をアルヌスに作った自衛隊を襲ったのが連合諸王国
軍。
しかし彼らは、帝国の増援として呼ばれたわけでは無かった。
名目上は確かに帝国への増援ではあった。
だがその実態は、自衛隊に大敗した帝国が周辺諸国にクーデターを
起こされない為に兵力を削ぐことが目的だった。
1141
この際には帝国の大敗は知らせず、門からの侵略者として自衛隊と
戦わせるまでもを行った。
皇帝にとって属国や同盟などというものはどうでも良いのだ。
なにやら敵の兵器によって病
帝国を存続させるために有用であるかどうか、それだけが彼の中に
ある。
﹁それで、諸王国軍の様子はどうだ
に伏せるものが多数と聞くが﹂
﹁はい。突如地面が破裂するとともに浴びた黒い靄が原因と思われま
すが、毒の類いではなくありふれた病に罹ったものが数多く居るよう
です。現在では体調も改善しているようですが、体力の低下が著しい
とのこと﹂
﹁ふん、厭らしい手を使いよるわ。生きた怪我人ほど進軍の邪魔にな
るものはあるまいて。しかし幸いにもその黒い靄を浴びた者は我が
軍にはおらぬ。その靄への対抗策を考えておけ﹂
﹁御意に﹂
了承と共に面を下げるマルクス伯。
そのマルクス伯を見ながら、皇帝はさらに続ける。
﹁後は元老院だ。ニホンとやらは我が軍の者を捕虜として捉えている
と聞く。奴らは必ずそれを利用してくるぞ﹂
﹁でありましょうな。講和会議が始まれば尚の事でありましょう。元
老院の親族にもあの戦に加わって居た者が居る以上、軽く見積もって
も約半数が講和へと進むでしょう﹂
﹂
﹁会 議 な ど 踊 ら せ て お け ば よ い。そ の 間 に 元 老 院 ど も を 黙 ら せ て お
け﹂
﹁御意。では、ゾルザル殿下はどういたしますか
ろう。詳細は伯に任せる。余は1ビタの金も1ロムロの土地も渡す
んでいないようだ。アレが遊んでいるだけでも場を掻き乱せるであ
いいかもしれんな。どうやらニホンはこちらとの直接的な交戦を望
な。まあまた今回の講和派の元へ行かせたようにあやつを送るのも
くことなどできん。頭を使っているつもりになっているだけだから
﹁適当におもちゃを与えて遊ばせておけ。どうせあれは頭を使って動
?
1142
?
つもりはありはせぬ﹂
﹁はっ。御身の御心のままに﹂
◆◆◆
園遊会から数日後、俺は帝都に来ていた。
いやー、それにしても似てない兄妹もあったもんだねホント。
最後の最後まで料理を食い散らかして何か満足気に帰って行った
よピニャさんのお兄さん。
美味い美味い言ってくれるのは良いけど、兵隊さん共々散らかして
いくわ子ども泣かせていくわ、好き放題してくれちゃってまぁ。
まぁでも何とか無事に園遊会は成功に終わったし目的達成ってこ
とでいいのかな。
あの後俺は、講和派の人達をピニャさんのお兄さんに見つからない
ように送り出した先輩達と合流した。
その合流地点が帝都内にあるピニャさんの屋敷だ。
勿論、古田さんも一緒ですとも。
まぁ俺はあくまでメイド役としてあの場所に居たので、最後まで古
田さんの手伝いをして普通にあの場を辞した。やり切りましたよ俺。
手伝ってくれたメイドさん達にお菓子のお土産を渡したらめっちゃ
喜んでくれたし、割と楽しかったかもしれない。
あ、講和会議を進める役人として来ている菅原さんも最後まであの
場に居たので同道した。
ちなみにどこでもドアは使っていない。
緊急時は使っても良いけど、交渉相手である講和派とはいえ敵に
態々手の内を知らせる必要はないとの判断だ。
まぁよくよく考えればあれってかなりチートだしね。厳密には〝
どこでも〟ではないとはいえさ。
1143
だから俺と古田さん、菅原さん、そしてピニャさんは普通に馬車で
帝都内へと入った。
元々ピニャさんと行動を共にして講和派の味方を増やすべく挨拶
周りみたいなのを行っていた菅原さんはともかく、俺は帝都内へ赴く
のは初めての為ちょっとだけわくわくしていた。
そのためここ数日は帝都内を散歩するのが日課だ。
先輩と一緒に居なくても良いのかとも思うだろうが、例の如く便利
な令呪もあるし、それにほらなんというか⋮⋮いざという時に帝都内
の地理を理解していないと何かあった時に不利じゃん
ごめんなさい、ぶっちゃけ暇なだけなのですよ。
だってさ、皇女であるピニャさんの屋敷に居る以上おいそれとお偉
いさんであってもちょっかいはかけられず、先輩率いる第三偵察隊は
ピニャさんと菅原さんを警護するのが現在の役目なのだから俺は仕
事が無いのだ。
そのピニャさんと菅原さんにしても、園遊会も終わったところなの
で暫くは手紙などで外堀を埋めて行くのが中心となり暫くは屋敷内
にて過ごす予定だ。
警備をしても良いのだけど、御屋敷付きの帝国の兵士さんが居る
し、他にもピニャさん率いる薔薇騎士団の人達も居る。そして第三偵
察隊も居るわけだから、ぶっちゃけて言えば俺がうろちょろしても子
どもは大人しくしてなさいってなものだ。実際に俺の正体を知らな
い兵士さんに言われたし。
だから俺も暫くはピニャさんの屋敷内で大人しくしていたのだが、
ぶっちゃけて言えばすぐに飽きた。
この身体になってから、ジッとしているのがとても辛いのだ。
せめて娯楽の類いがあればいいのだが、そんな物すぐに底をついて
しまった。
漫画やらもアイテムボックスやマイルームにあるが、一度読んだ物
をまたすぐ読んでも仕方がないし、ゲームの類いも積んであった分は
既にやり終わった。
マイルームにはパソコンもあるからネット︵何故か繋がる︶をした
1144
?
りもしたが、それもずっとやっていたら飽きてしまった。出来ないこ
とも無いが特地に来てまでヒッキーは嫌だ。
例の如くPX帝都支店の手伝いに行こうともしたが、常駐する訳で
も無いのですぐに正職員が集まりお役御免と相成った。
そんなわけでとにかく何かして動きたかった俺は、帝都内を散歩す
ビースト
ることにしたのだ。
獣人だし仕方ない︵目反らし
というか、今まさに俺は今帝都内を歩いている最中だったりする。
帝都支店の周りからぐるーっと順番に実際に帝都内を歩いている
のだが、これが中々に面白い。
ファンタジートリップものでありがちかもしれないが、帝都の様相
は中世ヨーロッパの世界観と言えばそれで事足りるだろう。
だが、それは知識や映画などから得た認識でしかなく、実際にその
中を歩くとなるとまた違った趣がある。
例えば、この帝都にもコロッセオがある。
流石に中にまでは入らなかったが、外から見るだけでもこの世界の
技術でどうやって作ったのか、ちょっとしたスタジアムほどの大きさ
があるうえにその壁面には細かな彫刻が成されていた。
人も大勢訪れており、時折中からは身体に響くほどの歓声が聞こえ
てきていた。
他にもテルマエ⋮⋮じゃなかった、帝都民用の共同銭湯などもあっ
たし、帝都の外になってしまうが龍騎兵用の駐屯地とか、帝都の中を
走る大きな川なんかもある。
帝都の中でも一番大きな商店街なんかでは買い食いをしまくった
のは良い思い出である。
そして今日は、帝都に置いて悪所と呼ばれる場所に行くのが目的
だ。
悪所は、帝都に置いて一番低い位置にあり、貧民街と化している。
そして様々な種族が集まり人種の坩堝となっているここは、一般市
民は決して近づかない犯罪の温床と化している。
しかし、悪所は悪所なりのルールがあるらしく、そこに住む者や地
1145
元マフィアに筋を通して自衛隊はその中にも事務所を設立している
そうな。
今日の目的は悪所の中でもそこに行くのが目的でもある。
実はそこには第三偵察隊の中でも黒川さんをはじめとした数名が
仕事に赴いていたりするので、前々から見に行きたかったのだ。
というのも、これまたよくある話だが悪所は色町やマフィアもある
からか帝都内でも色々と噂が聞こえてくる場所らしく、低料金で検診
や物資︵避妊具とか薬らしい︶の提供などをすることで代わりに情報
を得ているのだとか。
先輩はそういう所にお前は行くなと言っていたが、行くなと言われ
れば行きたくなるのが世の常というものだ。
というか先輩はちょっと過保護すぎる。
確かに見た目は幼女だが、中身はこれでも四十過ぎなのだ。自分で
言って何やら悲しくなるが。
1146
だから奴隷やらその辺を見て正義感に溢れて色々暴れたりなんぞ
しない。しないったらしない。
確かに奴隷という身分に思う所はあるが、この世界には犯罪奴隷と
いうものもあるし、そうせざるを得なかったという人も居るだろう。
騙されて奴隷堕ちしたなんてのもあるだろうが、それが本当か判断
できない以上、下手に動く訳には行かない。
それにいち日本人︵内心では︶である俺が奴隷を持つ訳にもいかな
いだろう。
確か法律的に奴隷は駄目なんじゃなかったっけ
ているだけでしかないのだろう。
一応警備の兵士は立っているが、欠伸をしているくらいだから立っ
さて、そうこうする内に悪所へと繋がる門の所まで来た。
だから思う所があっても、事を荒立てる訳には行かないのだ。
いいかもしれないが根本的な解決にはなりゃぁしない。
そもそもそこで何かしても文化としてそれがある以上、一時的には
けにはいくまい。
まぁ何にせよ、折角うまく講和が進みそうなところで事を起こすわ
?
それに、なんだかんだと人の出入りは多く、しかも明らかに目つき
が怪しい奴も居るが完全スルーだ。
これなら俺が通っても何も言われないだろう。
ちなみに今の俺は変装の意味もあって恋ドラモードだ。銀髪美女
だぜ。俺自身なのでなにも嬉しくないが。
そしてついでに言えば、同行者が居たりする。
﹂
それが誰かというと│││、
﹁ねぇママ、ここで良いの
﹁臭う⋮、です﹂
﹁⋮⋮チビママ﹂
﹁でもママの正体も小さいよ
﹂
﹁いやだからここは子どもが来るところじゃないんだってば﹂
?
ってか小さい言うなし﹂
﹂
だが、その説得も中々に芳しくない。
して駄目なんじゃないかと思っているのだ。
⋮⋮教育ママ的な思考に陥っている気がするが、あくまでも大人と
目だろう。
人の生活を見せているのにここで奴隷やらを見せるのは教育的に駄
力があるが、先にも言ったが事を荒立てるわけにもいかないし、折角
戦力的な意味では俺含めての三人でこの帝都を落とせるくらいの
てる。
歩に連れていたのだが、さすがに悪所に連れて行くのはマズいと思っ
人の営みやら常識を知ってもらう為にも、ストレス発散ついでに散
動していた。
えまだ子どもな二人を放置する訳にも行かず最近の散歩では共に行
あまりマイルームの方にばかりいる訳にもいかないし、炎龍とはい
そう、例の幼龍の二人だ。
もだろう
﹁いやまぁそうだけど、中身は大人なの。でもお前らは中も外も子ど
?
﹁ママも、私たちを見捨てるの⋮⋮
﹁寂しい⋮、です﹂
﹁うぐっ﹂
?
1147
?
なにせこれだ。しかもめっちゃ涙目になるんだよ。
炎龍の姿のままだったらそれほど気にならなかっただろうが、流石
に幼女二人に泣かれたのでは堪ったものではない。罪悪感がぱない
の。
正確には古龍だっけか
というか、なんでこんなに感情豊かなのさ。
元炎龍でしょ
流石に自由にさせる訳には行かないから一条祭りから外へ出ると
いう訳じゃない。
食者のそれに近いが、俺に懐いてくれているし我が儘もこれと言って
幼龍とはいえ炎龍の為か少なくなってきてはいるが思考は未だ捕
正直に言って、すごく良い子たちなのだ。
ていない。
しかしそれが故に俺もこの二人に対しての距離感を未だ掴みきれ
いるのだろうか
ただ人の姿を取れるようになっただけでなく、人そのものに近づいて
というものの幅が広がった気がするらしいし、俺の泥を食ったことで
本人たちも言っていたが、人の姿を取れるようになったことで感情
だがそんな二人も、俺と離れることを極度に嫌がる。
はせず、普通に俺達が食べるような食事を共に食べている。
あと、第三偵察隊の人達に会ったら挨拶もするし、人を食べようと
噛みつこうとかはしない。パパと呼ぶのは勘弁してほしいが。
だから基本的に俺の言う事もちゃんと聞くし、最近は先輩を見ても
レベルの物はほぼほぼ終わってしまった位だ。
資として送られていた教科書とかを使って色々教えたのだが小学校
知能の方も結構高く、特地で現地民への教育等に使用するために物
どちらにしろ、これではもうただの幼女だ。
?
きは俺と一緒に行動を共にしてもらっているが、その時の二人の嬉し
思考が既に毒されている
!!?
そうな顔と言ったら思わず頭を撫でたくなるレベルである。
はっ
﹁どうしても着いてくるの
﹂
?
1148
?
?
けどこの二人の感情を無視して動くのもなぁ⋮⋮。
!?
﹁うん
﹂
﹁はい、です
﹂
俺の後ろで仲良く返事をする二人。
お揃いのデザインで色だけが違う、それぞれ赤と青を基調とした浴
衣なようなミヤビカタを着ているのだが、嬉しそうに飛び跳ねてい
る。
しかし着いてくるとなると、やはり俺一人はともかくこの二人を連
れて行くのは難しい。
﹁うーん、じゃああっちに行くのは止めようかなぁ⋮⋮﹂
悩んだ挙句に出た答えがそれだった。
だってこの二人を連れて行けないのなら行かないようにするしか
ない。しょうがないじゃないか︵ENR感
しかしその答えもまた幼女二人にはお気に召さなかったようで、途
端にシュンと落ち込む。
﹂
﹁私たちの所為で、行けないの
﹂
﹁私たち、邪魔、なのです⋮⋮
﹂
俺に
?
﹁うん
﹂
あかね
あおい
どうやら二人にはトワトとモゥトという名前があったようなのだ
層喜んでくれた。
見た目からあまりひねりの無いものを付けてしまったが、二人は大
紅音と碧依というのは俺が咄嗟に付けた名前だ。
﹁はい、です
﹂
﹁うし、行こうか紅音、碧依﹂
帰ろうか。
さっさと目的地である事務所内まで行って、あまりうろうろせずに
仕方がない。
しかし、言ってしまった手前もう行かざるを得ないだろう。
はどうもこの二人を裏切ることは出来ないです。
世のお母さんたちどうやったら上手いこと出来ますかね
即座に俺はそう答えてしまった。
﹁や、やっぱり行こうかな
?
!!!?
?
!
1149
!
!
!
が、それは二人目のお母さんが勝手につけたものらしく、あまり好き
じゃないとか。二人目のお母さんェ⋮⋮。
あ、語感的に某VOICEROIDを思い浮かべてしまうが、別に
どっちかが関西弁を喋ったりはしない。
色合いとかで咄嗟に思い浮かんで口に出してしまったものをその
まま二人が気にいっちゃったのだ。
漢字は違うし許してほしい。
まぁそんなわけで、紅音と碧依の二人とはぐれない様に手を繋ぎな
がら、結局俺は二人を連れて門を潜った。
・
・
・
ピニャさんの屋敷に戻ってきた。既に夜である。
いやぁ、途中で若干迷子になっちまったよ。
というのも、子連れの若いお母さん︵恋ドラモードなので普通に美
人︶がのんびり歩いているように見えたようで絡まれる絡まれる。誰
がお母さんか。
でもまぁ幼女二人も贔屓目に見てもかなり美幼女だ。
御陰で変な所を触られそうになったり変な薬嗅がされそうになっ
たり何やかんやと路地裏に連れ込まれそうになったり、色々と大変で
した。
ただまぁその辺の薬じゃぁ俺達には効かないし、そもそも臭いや気
配である程度は事前に察知できる。上手い事忍者みたいに忍び寄っ
て引っ張られそうになったこともあったけど、恋ドラモードな俺は体
重が数トンどころではないので引っ張った人の腕が脱臼した。
1150
あ、触 ろ う と し た 輩 は 咄 嗟 に 上 空 へ ぶ ん 投 げ て し ま い、慌 て て
キャッチしたが、漏らしながら逃げて行った。
そういったことが何度もあったために変な所へ迷い込んで、それで
更に絡まれたりしてと、結局何度か暴力沙汰になってしまった。
流石にそこらの人達に負けるわけもなく、無傷で事務所へと辿り着
くことが出来たが、その頃には既に辺りが薄暗くなり始めていた。
何気に今日一日で色々あったが、まぁそこそこ面白い場所もあった
し、途中から幼女二人も参戦してなんと手加減を覚えたので結果的に
︶を治療したりした。
はちょっとプラスだと思う。最初はスプラッタトゥーンになってい
たから慌てて被害者︵
そんなわけで、事前に先輩へと念話で遅れる旨を伝えたうえで漸く
帰ってきた。今も着くなり、念のための帰ったよ念話を送っておい
た。
俺の念話は一方的だから先輩の返事を貰えないのだが、何も言わな
いよりは良いだろう。
無線も事務所にはあったが、
﹃今から帰ります。少し遅くなります﹄
なんてものを任務用の物を使ってまで伝えるのもおかしな話だ。
そう思っていたのだが、何やら俺達が屋敷に着くなり先輩が慌てて
出てきた。
何だろうか
のは知っていたし遠慮してくれたのだろうか
着いてこれないからなぁ。
まぁともかく話を聞けばいいか。
そうこうする内に先輩は目の前だ。
﹁後輩っ、はっふぅ、地震、が、来るっ﹂
緊急転移に二人は
俺が疑問に思い首を傾げているのに気付いたのか、息を整えた先輩
でもなんでそんなことが分かったのだろうか
何とも物騒な話だ。
しかし地震とな。
全力疾走してきたからか息が切れている先輩。
?
?
1151
?
けど緊急事態時には令呪があるし⋮⋮あ、紅音と碧依が一緒に居る
?
が言う。
﹁悪 所 に 居 る ハ ー ピ ィ 種 の 子 が 地 揺 れ の 発 生 を 感 知 し た み た い な ん
そ の ハ ー ピ ィ の
だ。地元に火山があるらしく、その影響で揺れる前と似た感覚だと
か。だけどこの辺りには火山は無い﹂
﹁だから地震だと﹂
﹁そういうこった﹂
なるほどねぇ⋮。
ってあれ、悪所のハーピィって⋮⋮。
﹂
﹁ひ ょ っ と し て テ ュ ワ ル っ て 名 前 だ っ た り す る
子って﹂
﹁よく分かったな。知り合いか
何かに鋭敏なのだろうか。
﹁地震がいつ来るか⋮⋮までは分かんないよねぇ
﹂
のも目撃されたらしいし、第六感的に鳥類はそういった微細な振動か
そういえば、日本での大地震直前にも鳥が一斉に飛び立つなんても
の地震の予兆というのも感じたのだろう。
どうやら種族的にか、テュワルさんは感覚が鋭敏らしく、その為そ
も。
そのこともあって遅くなったのだが、確かにあの子ならあり得るか
子どもたちの良い話し相手になってくれた良い子だ。
ただまぁ最終的にはお菓子を上げたりしている内に慣れたらしく、
謝られた。大当たりです。
ば、ドラゴンを前にしたような恐怖を感じてつい怖がってしまったと
的な感じで自分含めて紅音と碧依は怖くないと伝えつつ理由を聞け
プルプルワルイヨウジョジャナイヨ︵俺は大人状態ではあったが︶
それが娼婦をやっているハーピィの少女、テュワルちゃんだ。
り怯えた子が居たのだ。
悪所にある自衛隊の事務所に行った際に、俺達が入った瞬間にかな
つい先ほどの話だ。
﹁それは⋮⋮、すごいな﹂
﹁うい。さっき知り合ってね。俺達が普通じゃないって気づかれた﹂
?
?
1152
?
﹁ああ。一応連絡が来てすぐに避難を開始したから大体が安全な場所
へと移動した後だ。悪所に居る黒川たちも避難が済んだらしいし、緊
急事態の為帝都内へ避難勧告も既に出し終わってるよ﹂
﹁ほむ、それなら安心っすね﹂
﹁だからお前らが最後ってこった﹂
それは悪いことをした。
遅くなるって伝えた後だったし普通に晩御飯を食べたり寄り道し
ながら帰ってきてしまった。
﹁そいつはすみませんっす。このまま避難場所に向かえばいいですか
﹂
﹁おう、俺も屋敷内のチェックとかは終わったから一緒に行くぞ﹂
俺達に言うと同時に、無線で恐らく避難済みの隊員の誰かに今から
向かうことを伝える先輩。
﹂
﹂
短く伝達を終えた先輩は改めてこちらを見る。
﹁走れるか
﹂
﹁最悪飛べるので大丈夫ですよ。乗ります
﹁あーばよとっつぁん
﹂
!!! ?
の横を並走するに切り替える。
そんなに俊敏なとっつぁんは勘弁だ
﹁待てぇールパーン逮捕だーって言うべきでした
﹁はっや
﹂
でもそれをしたおかげですぐに先輩に追いついたので、今度は先輩
地面と水平にした瞬間に空を蹴る。虚空瞬動擬きだ。
成り行きを聞いていた紅音と碧依を抱きかかえてジャンプし、身体を
とりあえず置いて行かれる訳には行かないので、大人しく横で事の
言った時には既に走り出している先輩。どれだけ嫌なんだよ。
!
?
?
だし。
流石特戦群ってことなのだろうか わりと先輩ってマッチョメン
結構な速さで走ってるのにツッコミを入れる余裕があるってのは
輩に苦笑しつつ返す。
俺が瞬時に追いついたことに驚きつつもツッコミを入れてくる先
﹁確かに﹂
!?
?
1153
?
﹂
なんて特戦群の人に失礼なことを考えていたら、先輩がボソリと言
う。
﹁そういやなんで悪所に居るはずの娼婦と知り合いになったんだ
﹁あ、えっと⋮⋮﹂
おうふ、気づかれた。
完全にジト目だ。
見た。
咄嗟に答えられずに居ると、走りながらも先輩はチラリとこちらを
れたもんだと思ってたのに。
俺もさっき普通に答えちまったけど何の反応も無いから、流してく
?
その目にさらされて、思わず冷や汗が出てくるのが分かる。抱えて
る二人ごめんね。
!!!
はぁ、これは説教コースだ。 で、でもここはとりあえず
﹂
1154
﹁あばよとっつぁーん
逃げることにした。
!!!!
﹂
﹃stage25:穏やかじゃないですね﹄
この世の破滅か
その日、帝都を地震が襲った。
﹁ほ、本当に揺れているっ
﹂
初期微動が長かったからかなり遠そうです
この世の終わりを幻視する最中にピニャへと声が届く。
﹁だってぞわぞわするし﹂
﹁ここで震度3か4ってところか。って後輩、浮くとか卑怯じゃね
が﹂
﹁震源は何処ですかね
た地面に蹲り何事かを懺悔している。
なんとか視界に入れた部下でもあるハミルトンを見れば、彼女もま
が過ぎ去るのを待つしかできなかった。
その結果ピニャは恐怖に包まれ、地に手を付き、ただただこの災厄
に体感するのでは全く情報量が違う。
事前に地震というものに関して聞いてはいたが、やはり伝聞と実際
ラーダは悲鳴にも似た声を上げた。
れるという現象。それを今まさにその身で感じ取っているピニャ・コ
20年程のの生においても体感したことが無い、地面そのものが揺
!!?
ないかとすらピニャは思った。
揺れる視界の中、彼女は声のした方を見る。
そこに居たのは菅原、伊丹、コウジュの三人だ。
その三人は声からも予測していたように平常通りの姿で地に足を
付けていた。いや、一人だけ宙に立っているが。
し か し ピ ニ ャ に と っ て コ ウ ジ ュ が 宙 に 立 っ て い る 程 度 は 今 に 始
まったことなので今は置いておく。つい最近、実は火龍だったとか、
いやいや火龍を基に火龍を造っただけだとか、色々聞いたがあまり考
1155
!!!
その声はどれも堂々としたもので、現状を理解できていないのでは
?
?
えないようにすることがピニャが心の平穏を保つために編み出した
秘訣だった。
さておき、彼女が気になるのは軍人である伊丹はさておいても、文
官である筈の菅原もまた平静を保っていることだ。
伊丹は、普段は飄々としているがピニャの部下である薔薇騎士団の
責めを受けても怒りすら見せず許せる度量もあり、又、コウジュとい
う存在の根幹もまた彼であることから地揺れなど気にもならないの
かもしれない。
だが菅原はどうだ。
ここ数日は彼女と共に講和派への根回しをしたが、動けないわけで
はなかろうが兵士とは言えない身のこなしであり、前線で戦うもので
はないと感じ取っていた。
だというのに、騎士としてそれなりの自負があるがピニャ自身は地
に手を付き揺れに対してどうすることもできないというのに余裕の
1156
態度。
ピニャは恐怖した。
コウジュという未知なる力をいくつも提示する少女も恐ろしい、そ
れを御す伊丹もまた恐ろしい、だが、真に恐ろしいのは文官までもが
地揺れ程度に恐れることなく立ち続ける人間を生み出す日本なので
はなかろうか。
﹂
地から伝わるものとは別に身震いする。
﹁ピニャさん、大丈夫
﹁ひぃっ﹂
コウジュはと言えばガチで怯えられたことにマジへこみしており
いたはずなのに彼女の身体が思わず拒絶してしまう。
ここ数日で、見に宿す力に反してやけに友好的な少女だと理解して
た。
ニャはコウジュから差し伸べられた手に思わず悲鳴を上げてしまっ
地揺れに心が弱り切って居た所へ嫌な想像をしてしまっていたピ
﹁いや、こちらこそ、す、すまない﹂
﹁あ、ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
?
若干涙目となった。
そんなコウジュを見て、罪悪感が途端にピニャを襲う。
思わず一度引いた手を戻して改めてコウジュから差し出された手
を握る。
それだけでコウジュはピニャへ笑顔を向けた。
その笑みを見て、先程まで感じていた恐怖が途端に無くなる。
ピニャには未だこの少女の本質が掴み切れないでいた。故にこそ
考えるのを止めた訳だが。
ただ、コウジュほど心強い味方は居ないことだけは確かだ。
問題があるとすれば優しすぎること。
恐らく心を寄せているであろう伊丹を攻め立てたピニャの部下で
すら、怒りに我を忘れている中でも殺しはしなかった。
﹂
しかしその優しさが故に│││、とそこまでピニャが考えた所で地
揺れが止まったことに気付く。
﹁ん、止まったみたいっすね。立てますか
﹁ああ、すまない﹂
ずっと握ったままだった手をコウジュが引き上げる。
体躯はピニャよりも頭二つ分ほど小さいというのに軽々と引っ張
られてしまう。
今は宙に立っている為、立ち上がってしまえば目線は同じだが、そ
の細い腕のどこにそれほどの力を宿しているのか。
﹁あー、立てなくなっちゃったー﹂
﹁立てぬ⋮⋮﹂
﹁ったく、ほら二人とも服が汚れちゃうだろ﹂
起こされたピニャを見て、地面に倒れるとコウジュに手を引いても
らえるのだと認識した双子龍が地面にワザとらしく寝ころぶ。
それを見てやれやれと言いながらも二人の元へ移動して引き起こ
すコウジュ。
その引き起こされた二人もまた炎龍だというのだから、聞いた当初
ピニャは頭を抱えざるを得なかった。
しかしそれもすぐに止めた。
1157
?
初めはコウジュ以外の全てに牙を剥いていた︵幼女姿でだが︶彼女
たちも、コウジュの言うことを聞きあまりにも子供らしくコウジュに
懐く姿を何度も見せられては警戒心も失せる。
どうにも日本に関わる幼女は変に考えるだけ頭痛の種が増えるの
だとピニャは無理矢理納得した。
﹁次はいつ来ますかね﹂
めんどくせぇ﹂
﹁それほど時間は無いだろうな﹂
﹁揺り戻しだっけ
﹂
些か遠い目をしていたピニャに、受け入れられない言葉が聞こえ
た。
﹁も、もう一度揺れるだと
﹁あ、じゃあ皆さんも空に上がりますか
﹂
ピニャの周囲に居るハミルトンや兵も絶望の声を上げる。
再び起こるかもしれないという事。
しかしそれよりもピニャに取って許容できないのは今の地揺れが
へと降り双子龍へと構っていた。
その指さされたコウジュはと言えば、揺れが収まったからか既に地
彼女、とコウジュを指しながらそう言う伊丹。
ものが起きるのです。場合によっては何度か﹂
﹁はい、大きな揺れの後には彼女が言っていたように揺り戻しという
!?
いた声しか出せなかったピニャ。
伊丹の言葉に頬を掻きながら苦笑するコウジュ。そしてそれに乾
﹁そ、そうだな﹂
﹁割と良い案だと思ったんだけどなぁ﹂
﹁このあんぽんたんめ﹂
ミルトンを始め帝国兵たちはすかさず距離を取った。
しかし、その恋ドラ人形が炎龍が人化した姿だと知らされているハ
る。恋ドラ人形だ。
言うと同時にコウジュの陰が膨れて、そのまま美女の姿へと変わ
コウジュが空を指しながら皆に言う。
パンが無ければケーキを食べればいいじゃないとでも言うように、
?
1158
?
実は恋ドラ人形の正体を軽くだが知らされているピニャはその案
に乗りたかったが、部下の引きように言いそびれてしまった。
炎龍とはこの特地においては災害に等しい超位存在だ。
幾ら安全だと言われても嵐の中に自ら飛び込むものは居ない。
だからハミルトン達の反応が普通なのだが、ピニャも常識の崩壊が
どうやら起こり始めているようだ。
さておき、今のやり取りの中で余裕が戻ってきたピニャは次の揺れ
が来ると聞き自らの父の事に着いて思い出した。
父、つまりは皇帝モルトだ。
ピニャは皇帝の娘であり、しかし同時に臣下でもある。
故に、この非常時において得た有益な情報を何よりも速く伝える必
要がある。
﹂
﹁ともかくこうしては居れん。父上にお知らせせねば﹂
﹁す、すぐに着替えを持ってまいります
ピニャの呟きに、すぐさまハミルトンが駆けだした。 続けてピニャは兵に皇宮へ行くと伝え、準備を進める。
﹂
なので我々
だがその途中でピニャは自衛隊の姿を見て驚く。撤退準備を進め
ていたのだ。
﹁い、伊丹殿たちは何処へ
﹁えっと、ピニャ殿下は皇宮へと赴かれるのですよね
﹂
は悪所の拠点へと戻ろうかと﹂
﹁着いてきてはくれぬのか
げた。
周 囲 に 居 る ピ ニ ャ の 護 衛 兵 も 縋 る よ う に 伊 丹 や 栗 林 達 自 衛 隊 の
面々を見ている。
しかしそれに対し伊丹は顔を引き攣らせる。
﹂
﹁でもピニャ殿下のお父上って皇帝⋮⋮陛下ですよね マズくない
ですか
よくよく考えなくても、日本と帝国は戦争真っただ中なのだ。その
?
1159
!
当然着いてきてくれるものだと思っていたピニャは驚きの声を上
?
!?
!?
その言葉にピニャはうっと息を詰まらせる。
?
帝
国
敵国へ日本の自衛隊が行くのは当然マズいどころでは済まない。
更に言えば、行くのは帝国のトップが居る場所である。
ここ数か月に渡りピニャと自衛隊は親しくしてきた。
だがそれは未だ内々の物であって、講和の見込みが付いてきていた
﹂
としても敵兵を自国の重要拠点へと自ら招き入れるなど以ての外で
ある。
だが│││、
﹁⋮⋮伊丹殿、どうか着いて来ては貰えぬか
﹁うっ、⋮⋮分かりました﹂
﹂
今俺が歩いているのは皇居における皇帝の居室近くだ。
おおぅ、何このお城すげぇ⋮⋮。
◆◆◆
もうピニャに怖いものは無かった。
ピニャにとってこれ以上ないほどの増援だ。
それにコウジュもまたピニャに着いていくという。
責めることもできない。
ましてや涙目でピニャに願われた伊丹が溜息と共に承諾するのを
しかしそれを誰も責められようはずもない。
ライドなぞ捨ててお願いするしかない。
ピニャにとって伝えに行かないという選択肢が無い以上、自身のプ
ピニャが取った行動は恥も外聞もなく伊丹に懇願することだった。
﹁か、感謝する
﹁俺も一応着いていくよ。恋ドラも出しとくし大丈夫でしょ﹂
?
ピニャさんを先頭に、まずは居室に居るであろう皇帝の元へと行く
ため歩いている。
1160
!!
流石に深夜だしね。いくら皇帝とはいえ寝る時間だよね。
それにしても、俺が知ってる王様と言えばあまり王様らしくないの
ば か り だ か ら ど ん な 人 か 気 に な る。セ イ バ ー さ ん と か 金 ぴ か と か
⋮⋮、あれ、王様の普通って何だ
ま、まぁそれはさておき、日本へと攻めるように命令したッぽい人
だから油断できないのは確かだ。
でも、ピニャさんみたいな面白い人の父親でもある訳だし、性格的
にはどんなものなのだろうか。
あまり受け入れられる内容ではないが、〝帝国〟である以上は他国
を責めることで得た利益で以て配下に報いなければならず、苦肉の策
として〝戦争〟というものを行っている可能性もあるにはある。
確か、戦争とは最も不利益な交渉手段とかって聞いたことがある。
負けたら負けたで搾取されるが、勝ったら勝ったで活躍した配下に
は報いねばならず、金しか掛からないとか。
うーむ⋮⋮。
とはいえ歩きながら周囲を見れば一つ一つが素人目に見ても高額
であろう品々だ。
歩いている廊下に敷かれている絨毯一つとっても汚れ一つなく、毛
は高いのに歩きにくくなく、むしろ柔らかさが心地よいほどだ。
少し離れたところにある壺など、蝋燭の明かりですら上品に反射し
てその意匠を見せてくれている。この特地にコンピュータ制御によ
り焼き後を付けるなど当然ながら無いし、職人が丹精込めて一つ一つ
描いたのであろう。
それらを始めとして、廊下の端まで綺麗にズラーっと彩っている。
イリヤの屋敷も大概だったけど、あっちは他人の目を意識する必要
が無いからか、完全に貴族の嗜みと言った程度だった。
でもここは訪れた者に帝国の威信を見せつけるためにか、一つ一
つ、その置き方から順番まで意識して飾られているのだろう。
こう、一般人視点だけど、すごいっぽい。
自分ながらなんて語彙の少ない表現方法だろうか。
でも感性は何処まで行っても一庶民なのだから仕方がない。
1161
?
そうこうする内に、居室に着いたようだ。
﹁近衛すら居ないとは何たる体たらく。帝国の近衛も質が落ちたもの
だ﹂
そう言いながらピニャさんは部屋の中へと、ノックの後に2、3会
ほう
話し入って行った。
◆◆◆
﹁ほう、その方らがニホン国の特使か﹂
﹁紹介します。ニホン国使節、スガワラ殿。そしてニホン国軍の者達
です﹂
﹁お初にお目にかかります陛下﹂
菅原さんが挨拶と同時にきっちり45度の礼をする。
それに合わせて俺達も敬礼を行う。
チラリと見れば後輩も、見よう見まねで恋ドラ人形と共に敬礼を
行っていた。しかしそれは海軍式だ。
さておき、場所は変わって皇宮内における謁見の間である。
寝所よりピニャ皇女と共に少ししてから出てきた皇帝は、やや疲弊
した感があるも流石は皇帝というべきか、威厳を漂わせながら俺達を
率いて謁見の間まで来た。
そして一番高い位置にある玉座に座った皇帝を上に見ながら、俺達
はピニャ皇女に紹介をしてもらったのが今という訳だ。
﹁して、このような時間に何用か使節殿﹂
﹁それに関しては私からお伝えしたいことがあります﹂
皇帝の問いに答えたのはピニャ皇女だ。
彼女は先程俺達から聞いた話をそのまま皇帝へと告げる。
大きな地震の後には揺り戻しと呼ばれる繰り返しの地揺れが起こ
る事。
それを聞いた皇帝は驚愕を露わにする。
1162
﹁それは真か
﹂
﹁彼らは地揺れに慣れており、助言を求めて同道しました﹂
﹁ふむ、この様な場でなければ盛大な宴で歓迎するが今宵は勘弁して
もらいたい﹂
﹁はい陛下。改めて我が国との交渉の場を頂きたく存じます﹂
ピニャ皇女の言葉に、続けて菅原さんへと声を掛ける皇帝。
すかさず菅原さんも皇帝へと言葉を返し、口約束とはいえ講和への
取っ掛かりを作っていく。
それから暫く、皇帝と菅原さんとの話が続いていく。
護衛として付いて来た俺、富田、栗林は無言のまま直立不動で菅原
さんの後ろに控えている。
流石に俺もこの状況でふざけることはしない。
後輩は⋮⋮、うん、寝てるわこいつ。
帽子が大きいから目元が見にくいが、身じろぎもせずどうやら夢の
中だ。恋ドラ人形の方は普通に立っているが、こっちは人形だし本体
が寝てるから電源offで動いてないだけなのだろうな。
と、その時、後輩がピクリと動いた。
﹂
そしてゆっくりと目を開けたと思えば、何やら不機嫌な顔となる。
どうしたのだろうか
すぐにこの場を離れましょう
しかしその答えはすぐにわかった。
﹁父上ご無事か
!!!
?
入ってくる者達が居た。
先頭に居るのは、確かピニャ皇女の兄だったか。
後ろには慌てて来たせいか鎧というには不格好な半裸のガチムチ
集団が居る。
恐らく皇子に召集され睡眠時にも拘らず来たためにそうなったの
だろうが、籠手だけ付けている奴とか何がしたいのだろうか。
その集団は俺達のすぐ傍まで来ると、皇子一人が前へ出て話を始め
た。兵は皆後ろに下がり控える。
その結果、入ってきた時は護衛に囲まれていて見えなかったが、後
1163
!?
大声を上げ、菅原さんと皇帝が話しているにも拘らず中へと大勢で
!!!
輩が何故顔を顰めたかの理由が分かった。
皇子は、全裸でボロボロの女性を何人も引きずっていたのだ。
皇子の乱入で会話が切れていた菅原さんが横で小さく舌打ちする
のが聞こえる。した理由は当然、その女性たちの扱いに関してだろう
俺も、舌打ちしたい気分だった。
恐 ら く 奴 隷 な の だ ろ う が、全 員 が 全 員、違 っ た 種 族 だ。そ れ ぞ れ
違った動物の特徴を体のどこかに持っている。
しかしそれも、切り取られたかのよう半ばから無くなっていたり、
傷だらけになっていた。
首元には首輪が付けられ、そこから鎖が皇子の手元へ伸びている。
そして彼女たちは、無理矢理引きずられたからか首が閉まり息も出
来なかったのだろう。誰もが空気を求めるように咳き込んでいる。
栗林と富田も、いくらか悪所で奴隷というものを見たとはいえ、目
の前でこれほどの暴虐を見るのは初めてだ。
俺同様、驚愕が過ぎればすぐに怒りへと変わっていく。
しかしここで動く訳には行かない。
この特地において、奴隷という存在は国で認められている。
なのに個人的な意思で事を起こせば内政干渉となり、講和も全て藻
屑と消える。
それにここで奴隷というものにムカついたからと異議を唱えても
意味は無い。
﹁⋮⋮動くなよ﹂
俺は小さくそう呟く。
それでも動きそうな奴が約2名居るからだ。
富田は大丈夫だろう。だが、後輩と栗林は分からない。
栗林も流石に命令違反はしないと思うが、後輩はどうだろうか。
﹃我慢する﹄
短く、頭の中へ後輩の言葉が届く。
チラリと見れば血が引くほどに手をぎゅっと握りしめている後輩。
そちらに目をやっている間に、栗林と富田も小さく了解と告げたの
が聞こえた。
1164
良かった。これなら何とか大丈夫そうだ。
俺達の使命を忘れちゃいけない。俺達はピニャ皇女と菅原さんの
護衛としてここに居るのだから。
そう思いながら、俺もまた我慢をしつつ事の成り行きを見守る。
﹂
﹁兄上、今は主だったものを招集中であり、それを待たずに移動したと
あっては│││﹂
﹁何を悠長なことを
皇帝を連れて行こうとする。
・・・
﹁地揺れがまた起こるとノリコが言っているのだ
ノリコ
﹂
﹂
しかしよく地揺れがまた起こるとご存知で
!
た。
﹁どけピニャ
﹁落ち着きなされ兄上
今すぐこの場を離れねばならん
しかし、その引っかかりに関しての答えは、皇子自らが教えてくれ
あえて言えばヨーロッパの者が近いだろうか。
特 地 に 来 て か ら 知 っ た 人 の 名 前 は ど れ も 外 人 に 似 た 韻 で あ っ た。
やけに効きなれた韻に、引っ掛かりを覚える。
!!!!
一刻の猶予も無いと言わんばかりに、ピニャ皇女を押しのけてでも
を荒げた。
ピニャ皇女の言葉に、皇子が怒気を孕みながら言葉を遮るように声
!!
その女性は、どう考えても日本人だった。
そしてその中に居る黒髪の女性。ノリコ。
を指さす皇子。
ピニャ皇女と話しながらも、指で引きずられてきた奴隷の女性たち
のでまた揺れるらしい。向こうで攫ってきた女だ。そこの黒髪だ﹂
・・・
﹁ふん、こいつが言ったのだ。ノリコが言うにはユリモドシとかいう
したな。我もそれを伝えに参ったのです﹂
!
!
1165
?
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■│││││││││
﹄
1166
地揺れにも似た咆哮が、皇宮を襲った。
!!!!!
﹃stage26:狂化の行方﹄
ああ、駄目だ。
黒く、意識が黒く染まっていく。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■│││││││││
自らの喉が激情を現すように咆哮する。
﹄
数十年生きて、先日見た先輩の怪我の時でも何とか耐えることが出
来ていたのに、結局何も成長できていなかったのかな⋮⋮。
でも、あんなものを見てしまったらどうしようもないじゃないか。
諦めた目。
全てに絶望した目。 死ぬこともできず、生きているだけの目。
あの子が時折見せる目と一緒だった。
・・
可愛いくてカッコいい俺の最初のマスターと同じ、冷めた目だっ
た。
だからそれを見てしまった時、俺の中で何かが外れた。
気づけば俺の影が膨れ上がり、身体を包み込む。
視界が紅く染まり、意識が薄くなっていく。
霞んでいく視界の中で、腕が大きく太く、そして大振りのナイフと
見紛う爪が生える。
視界そのものも高くなっていく。
ああ、もうダメだ。
狂うしかない。
自分で自分が抑えられない。
感情が次から次へと溢れ出し、ただ一つの目的を達成する為に意識
が染まっていく。
1167
!!!!!
コワソウ。
スベテヲコワソウ。
ゲンインモロトモ、スベテヲ。
違うんだ。
助けたいだけなんだ。
そんなものを俺は願っちゃいけないんだ。
泥は浄化されているとはいえ、俺が願えばまたナッてしまう。
だから、だから││││、
お願いだ、先輩。
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ││││
││
﹄
俺はもう一度、ナいた。
◆◆◆
皇宮中に響く咆哮。
それはすぐ横に居たはずの後輩が出したものだった。
部屋に居る者すべてが、その強大な咆哮に耳を抑えながらも原因で
ある後輩を見る。
後輩の影が膨らんで泥の様な厚みを持ち、後輩を包む。
それは何度か見た、後輩が変身する時に行っていたものと同じだっ
た。
しかし、今回は何かが違う。
肌を刺すような後輩の感情、それがこの部屋を満たしている。
そしてそれを表すように、膨れ上がった後輩の影は身体を包んだう
1168
!!!!!
えで大きくなっていく。
イタリカで見た大獣になるのか⋮⋮
そう思ったが、それも違うようだ。
﹄
なるほど、それがお前が狂戦士たる所以か。
バーサーカー
よろしくマスター﹄と、そう後輩はいつしか言っていた。
﹃サーヴァントバーサーカー、寄る辺とか特にないけど参上した。
いる。それもまた刃の様で、触れた地面は切り裂かれている。
両の肩から出る翼は、半透明な黒い何かが噴き出す形で形成されて
が紅く染まっている。
人など簡単に両断できそうな刃は、血が滴っているかのように刃先
だろうか。
そして、何よりも特徴的なのが両の前腕に生えた巨大な刃と黒い翼
だ。
など獣のそれとは違い、いつしか見た竜人のように長い円錐状のもの
は、元のルビーの様な赤ではなく、血の様な赫へと変わっている。尾
牙を剥き出しにする姿は狼のようだが、耳は狐の様に縦に長い。瞳
だが、近いだけで全くの別物と言って良いだろう。
いだろうか。
フィクションによく出てくるような狼男、それを真っ黒にすれば近
その姿になった後輩を改めて見る。
だが今度の咆哮は、どこか悲しげだった。
再びの咆哮。
││
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ││││
そして暫くして、ソレが現れた。
縮するように内へと入っていく。
次から次へと膨れ上がる影、いや泥は、3メートルほどになると圧
?
﹂
皇子が叫ぶと同時に、ドゴンっと岩石が砕けたような音が鳴り響
﹁ば、ばけも、ぐぁあああああああああああああっ
!!!!!!!!!!!?
1169
!!!!!
く。
そちらを見れば、近くに居たはずの後輩が皇子をその腕で壁に叩き
付けていた。
今の一瞬であそこまで
﹂
﹂
しかし│││、
﹁き、効かない
届かないぞ
﹂
そんな後輩へ騎士たちが剣を手に飛び掛かる。
であってほしいが⋮⋮。
手加減したのか、それとも一度で終わらせない為か、出来れば前者
ない様子だ。
ただ、幸いにも傷だらけで血を流してはいるが致命傷には至ってい
皇子は気絶しているのか、ぐったりとしている。
を容易くその手で持ち出てきた後輩。
崩壊した壁が上げる土煙の中から、2メートルはあるであろう皇子
く。
皇子の御付だろう騎士達が、果敢にも黒獣となった後輩へ走り行
﹁ゾルザル様
容易く崩壊した。
分厚い壁にはどんどんと蜘蛛の巣状の亀裂が走り、そしてついには
き怪力。
まったく見えず、音がして初めて気づくほどの速度。そして驚くべ
!?
また人を斬るために鍛えられた鋭い光を放っている。
剣を振るう騎士たちは誰もが鍛えられた身体つきをしており、剣も
だが、その全てが見えない壁に阻まれて無駄となっている。
き込む。
その間にも騎士たちはどうにか皇子を助けようと剣を後輩へと叩
いてくる。
黒獣は騎士たちの剣など意にも止めず、ノシリノシリとゆっくり歩
士たちの剣は届かない。
後輩に届く前に、その身体を覆うように透明な壁があるかの如く騎
!?
1170
!!!
﹁なんだよこれ
!!? !?
﹂
しかしそれを以てしても、黒獣には何一つ届いてはいない。
﹁これでも喰らえ化け物がっ
騎士の一人が、岩石程度なら砕けそうな大槌を後輩の背後から叩き
込んだ。
しかしそれも壁に阻まれ精々が軽く後輩の身体を揺らす程度に終
わる。
ただ、全く意味がなかったわけではないようだ。
今まで騎士なぞ居ないかのように振る舞っていたが、今の衝撃で黒
獣が騎士たちを認識してしまった。
顔を向けられた騎士たちが後退りする。
その表情はまさに怪物を目の前にし、今にも喰われるという自分を
予想する絶望そのものだ。
股の辺りが濡れだしている者も居る。
そして、一人が駆けだすと同時に全員が逃げ出した。
だがそれよりも早く、後輩は影から泥を生み出し、幾つもに分岐し
﹂
たそれはその先端を鋭く薄く、剣の様に変えていく。
﹁まずいっ
﹂
以前に見た炎龍戦、その時に後輩は泥を剣の様にして戦っていた。
ただその時に見た剣は炎龍に容易く折られていた。
あの後に本人に聞いた話では、泥を形にするにはそれなりに集中力
が必要で、咄嗟には炎龍の鱗を貫くほどの技物を構成できなかったら
しい。
炎龍には効かない鈍ら。
だが人が相手なら
あの触手が全て剣となっていたら
?
後輩は暴走しかけて、女性騎士たちを襲っていた。
士団に怪我させられた時。
そしてもう一つ思い出すのは、俺が行き違いの結果ピニャ皇女の騎
?
1171
!!!!
後ろから栗林が叫ぶが止まっている暇はない。
俺はすぐに走り出す。
﹁た、隊長
!? !
﹂
それらから、今から起こりそうな惨劇について予想が容易く出来て
しまう。
﹁馬鹿後輩
後輩を呼びながら、走り寄る。
そのまま俺は懐から短銃を取り出した。
﹄
流石に後輩を直接狙う訳には行かないので、ギリギリ掠らない程度
に足元を撃つ。
﹃■■■■■■■■っ
顔を向けられただけだ。
それなのに、この全身を襲う悪寒はなんだ
これが、あの後輩だっていうのか⋮⋮
か
十数年の付き合いになるが、こんなのが後輩の本性だとでも言うの
?
!?
ゾクリと氷柱を背に刺されたような感覚が走る。
そのものとなった顔を向ける。
そしてその音に後輩は意識を反らし、騎士達からこちらへとその獣
ガンと甲高い音を立て、予想通り後輩の障壁で弾かれる。
!!
あの馬鹿みたいに何でも楽し気にする後輩がこんなのを望むとは
思えない。
激戦の中でも、自分が不利になろうとも人を殺そうとしなかった奴
が、こんな簡単に人を殺そうとするのはおかしい。
こうはい
そう思い、自身を奮い立たせて黒獣と対峙する。
黒獣は、手に持っていた皇子をそのままにこちらへと近づいてき
た。
そして皇子を持つのとは反対の手を、こちらへと近づける。
誰であろうとお構いなしか。
それなりの知己であると思っていたが、今の後輩はどうやら誰であ
ろうと敵を排除しようとするらしい。
かといってこのままやられる訳には行かないので、向けたくはない
が小銃を先程とは違って直接当たるように構える。
1172
!!
違うはずだ。
!?
死にたくないのもある。
だが、何よりもこいつ自身が誰かを殺すことで自分を許せなくなる
のは明白だ。
うぬぼれる訳じゃないが、俺みたいな知り合いを殺してしまえば自
殺でもしてしまいかねない。
いつしか聞いた、後輩が第五次聖杯戦争を生き抜いた方法。その中
に、言峰神父をどうしたかというものがあった。
そこで後輩は言峰神父の性格そのものを改変することで、悪意その
ものをどうにかしたと言っていた。
言峰神父と言えば、ゲームで言う所のラスボスだ。
それを後輩は生かしたというのだ。
方法があるとはいえ、普通は生かす方向で対処はしないだろう。
この世界にも当然、Fateに関する二次小説︵SS︶がある。俺
も1ジャンルとして、たまに読んでいた。
そしてそれらの多くは言峰神父を排除するか、元々の性格がマイル
ドだったのだと改変することで成り立たせていた。
だが後輩は、それをした。
なのに、後輩は同時に後悔もしていた。
俺は言峰神父をこの世界での知識としてしか知らない。
でも、後輩の話を聞く限り外道なのは大して変わらないようだ。
そ ん な 言 峰 神 父 の 精 神 を 弄 っ た こ と に す ら 後 輩 は 自 分 で 疑 問 を
持っていた。
死んではいないだけで根本から変えてしまったらそれはもう別人
なのではないか、そういつしか口にしていた。
甘ちゃんだとか偽善者だとか、そう言われてもおかしくは無い思考
だ。
俺も危険が迫る前に必要なら排除したいと思う方だ。
なのにあの御人好しは、出来る限り生かすことを是とする。
馬鹿みたいだ。自分が損をするだけだ。力があるからって自分か
らそんなことをするのはただのマゾヒストだ。
だけど、そんな後輩が俺は嫌いじゃない。
1173
だから、こいつの為にも死んでやるわけにはいかない。
﹃セ⋮タス⋮⋮レイ⋮⋮⋮﹄
何かが聞こえた。
それは、脳内に直接語り掛けてくるような声だった。
せ、たす、れい⋮⋮
そう聞こえた。
だが何よりも重要なのはそこじゃない。
この脳内に直接聞こえてくる感覚に覚えがある事だ。
││念話。
最近とみに体験しているその超常的なモノ。
﹂
そしてそれを行使するのは│││、
﹁後輩⋮⋮、耐えてるのか⋮⋮
も。
とは無い〟と言っていた。ついでに言えば悪意を持たなければ、と
幼龍の双子を紹介された時、〝暴走でもしない限り泥が暴発するこ
まだ誰も殺していない。
・・・・・・・・・・
で も、 泥 を 使 っ て い な が ら 暴 走 を し て い る の に
思い違いかもしれない。そう思いたいだけなのかもしれない。
いのだろうか。
だがひょっとすると、この白こそが後輩が戻ろうとする兆候ではな
尾の先や耳の端などほんの一部。
そういえば、先程に比べて身体の一部が白くなっている。
取れる。
だが、先程までの猛り狂った激情の中に、僅かばかりの理性が感じ
その瞳は俺を見ているままだ。
いつしか後輩の歩みは止まっている。
?
じゃあ悪意を持って暴走したのにこの現状はなんだ⋮⋮
﹃レイ⋮ジュヲ⋮⋮っ﹄
?
1174
?
今度ははっきり聞こえた。
令呪を、と言っているのだと思う。
しかしそれが何を意味するのかが分からない。
ただ一つ言えることは、後輩はやはり耐えているという事。
﹂
後輩と向き合いながら、少しの間静寂が生まれる。
殿下には当てるなよ
だがそれもすぐに打ち破られた。
﹁弓隊構え
!!
﹂
来るぞ
﹂
﹁うおっ
﹁殿下
﹁構えろ
﹂
﹃■■■■■■■■│││
﹄
広間の入り口付近から弓を構えた兵士が何人も後輩を狙っている。
考えている間に、逃げた騎士たちが増援を呼んできたようだ。
!
!!
尾を横薙ぎに振り払った。
﹂
先程も壁を壊すほどの勢いで皇子を叩き付けたのに皇子自身が無
ただ、誰も死んではいない。
意は喪失している。
運よく尾の襲撃を免れた者も居るが、尻もちをつき、見るからに戦
を折られた者も居る。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられる者も居れば、持っていた弓ごと腕
﹂
!!!!?
﹁がああああああああああああああああああああああ
﹂
﹁腕が、腕があああああああああああああっ
﹁ひぃぃぃぃぃぃぃぃ
!!!!!!!!!?
後輩は次の瞬間には彼らの目前へと迫っており、身体を回しながら
しかしそれは後輩に対してあまりにも遅かった。
う動きをする。
け止めるもの、投げると同時に走り始めた後輩を警戒するものと、違
弓隊は驚き後ろへコケるもの、飛んできた皇子を受け止めようと受
弓隊へと放り投げた。
狙われていることに気付いた後輩が咆哮を上げ、持っていた皇子を
!!
!?
!
三々五々に薙ぎ払われる兵士たち。
!!?
1175
!!!
事だった。
壁を壊すことが出来るのなら人の身体なぞ風船の様な物だろうに、
だ。
今の尻尾を叩き付ける寸前にも、一瞬その凶悪な刃が付いた腕を振
り下ろそうとして止めたように見えた。無理矢理腕ごと身体を回す
ことで、結果尻尾で薙ぎ払ったような感じだ。
やはり後輩は人を殺さぬように耐えている。 問題は、少しずつだが出る被害が大きくなってきていることか。
その後輩は倒れ伏す兵士たちの中から先ほど投げた皇子を掴み取
り、再びその手にする。
鳴を上げる。
﹂
投げられた衝撃で目が覚めたのか、皇子が自分の状況を理解して悲
﹁ぐぅ、な、何が⋮⋮ひああああああああっ
!!!!??
俺はこの国の皇子だぞ 帝国の次期皇帝なんだぞ
その皇子を、後輩は目の前まで持ち上げる。
﹁や、やめろ
!!!
だがそれが届いているかは見るからに明らかだろう。
黒獣は皇子の言葉に何も反応を見せず、ゆっくりとその咢を開い
た。
﹁やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
喰う気か
﹂
!!!!!
まずい、まずいまずいまずい
このままじゃ本当に後輩が誰か殺してしまう。
!!!
ただ、先程の物に比べて一段と消え入りそうな声だった。
しかし効果はあるのか、再び後輩から念話が響いた。
ている。
やはりというか全く効いた様子は無い。寸前で打った弾は弾かれ
﹃セン│、パ││││﹄
ので足を狙って撃つ。
俺は短銃で、当てないようにだとか贅沢を言っていられなくなった
!?
1176
!
喚く様に、目の前に来た黒獣の顔へと訴えかける皇子。
﹂
!!!!!!
正直に言って殺しても良いような奴らだとは思う。
だけど、そんなやつらの為に後輩が苦しむところを見たくはない
だが手立てがない。
あるとすれば後輩がさっき言っていた令呪か
!!
を言った可能性は無いか
後輩が言うには回数制限がないらしいが、俺を安心させるために嘘
だけど、それは本当にそうなのか
確かに後輩は死んでも本当の意味で死ぬわけではない。
俺は今何を考えた。
俺はその恐ろしい考えを振り払うように首を振るう。
〝自害せよ〟、その一言で彼のサーヴァントは脱落した。
それは、Fate/Zeroにおけるランサーの最後。
そう考えると同時、ある事が頭を過ぎった。
ではどうするべきか。
だが令呪は確か曖昧な命令では効きにくい筈だ。
ただ止まれと命令すればいいのか
しかし令呪を使ってどうやって後輩を止めればいいのか⋮⋮。
?
する
普段は犬みたいなやつなのに、何だよその凶悪な姿は。
普段は尻尾が無いくせに嬉しい時には尻尾がぶんぶんと振るわれ
ているように幻視すらできるのに、実際に尻尾があれば一振りで人が
吹き飛ぶとは全く以てお前らしくないじゃないか。
狼とか猫とか狐とか、最近では龍に慣れるようになったとか言いや
がって。
いつもの犬っぽいお前に戻れよ。
どうすればお前を戻せるんだよ
後ろから、富田がそう言うのが聞こえた。
ますよ﹂
﹁隊長、拉致されていた女性の救助は終わっています。いつでも行け
!!
1177
?
?
それに自殺の場合発動しないなんてデメリットがある場合はどう
?
俺は改めて後輩を見る。
?
全く以て俺には勿体ない部下だ。
﹂
﹁お前たちは先に行け。各自の判断で撃ってよし。HMVも乗ってい
け﹂
﹁よろしいのですか
﹁構わない。俺はこの馬鹿をどうにかしてから行くさ﹂
﹁⋮⋮了解﹂
少し悩んだ感があったが、結局は指示に従うようにしたようだ。
後ろから二言三言聞こえた後、いくつかの足音が遠ざかるように耳
に届いた。
これで味方は俺と後輩だけだ。
いや実質一人か。
今にも引き金を引かなければならないかもしれないこの状況を客
観的に見た場合味方とは言えない。
そういえばピニャ皇女は味方と言って良いかもしれないが、根本的
に敵国の所属だ。
﹄
四面楚歌、そんな言葉が脳裏に走る。
﹃■■■■■■■■│││
わしく感じたのか、俺へと吠える。
ああくそ、冷や汗が止まらない。
向けられる殺意だけで心臓が止まりそうだ。
もう、時間は無いのだろう。
やはり自害を命じるしか止める方法は無いのか⋮⋮
ろだ。
まったく、どうすりゃ良いってんだよ
だが悩むも答えは出ず、無情にもタイムリミットが来てしまう。
!!
しかし悲しませないために本人を殺すなんて本末転倒もいいとこ
?
そんな後輩は、皇子を手にしながらもこちらを脅威と取ったのか煩
消え去り、全てを黒く染めた。
ついに後輩の意識が途絶えたのか、身体の一部にあった白い部分が
!!
1178
?
﹄
﹃■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■│││
後輩は床に罅が入るほどに踏み込み、こちらへと迫る。
これまでか。
今の後輩ならば数秒と掛からず俺へと至るだろう。
このまま何もせず居れば、晴れて俺は肉塊となる。
やはり命じるしか、無いのか⋮⋮。
俺は右手の甲に意識を向けながら││││││、
﹁││あっ﹂
唐突に、本当に唐突に今の後輩を殺すことなく鎮圧することが出来
﹂
るかもしれない言葉が思い浮かんだ。
﹁おすわり
某半妖の犬少年と巫女の生まれ変わりとの物語。
国民的アニメとも言えるその中での言葉だ。
1179
!!
!!!!
﹂
﹃stage27:一条さん﹄
﹁おすわり
その一言が響くと同時に轟音が謁見の間に響いた。
同時、狂化していたコウジュが地へと沈みこむ。
隕石でも落ちてきたかのようなクレーターを作りながら、その中心
﹂
で潰れたコウジュは一瞬光に包まれたのち、元の幼女へと戻る。
静寂に包まれる間。
この化け物めが
だがそれもすぐに終わる。
﹁く、そっ
と近づいた。
彼は剣を杖にしながら立ち上がり、足を引きずりながらコウジュへ
言いながら、ゾルザルが傍に落ちていた剣を拾う。
﹁ふ、ふん、こうなればただの小娘じゃないか﹂
る。
だが、彼は怒りのあまりに脳内物質が多量に出て痛みを忘れてい
片腕は折れ、両の足は傷だらけだ。
這う這うの体で這い出す。
そんな彼は悪態をつきながら、床より低くなってしまった場所から
た。
轟音を作るほどの衝撃の近くに居ながら致命傷を負うに及ばなかっ
そして運よく、コウジュがクレーターを作る直線に掴む腕が緩み、
ていたのだ。
その為コウジュが地に沈むと同時に彼もまた地へと叩き付けられ
彼はコウジュが無力化される時、その腕に捕まれていた。
ゾルザル・エル・カエサルだ。
あった。
意 識 を 失 い 地 に 伏 し て い る コ ウ ジ ュ。そ の す ぐ 傍 に 動 く も の が
!!
そして剣を無事な方の手で持ち上げる。
1180
!!!!
!
﹂
﹁お前には死すら生ぬるい。この俺をこうまでしたのだ。四肢を落と
し、懇願しようとも凌辱の限りを尽くしてやる
しまう。
﹁貴様ぁっ、なんのつもりだ
﹂
ゾルザルはすぐさま剣を弾いた相手に気付いた。
振り返り、激高する。
近衛兵
しかしそれに対して伊丹は静かに睨み返す。
﹁き、貴様も大罪人として処刑してやる
﹂
ザルとはいえ、軽くは無い損傷を負っているため簡単に剣を落として
2メートルを超す長身で自らも戦場に出るために鍛えていたゾル
少し離れたところから放たれた伊丹の銃弾だ。
ら剣が弾かれた。
しかしそれよりも早くタンっと短く破裂音が響き、ゾルザルの腕か
剣を振り落とそうとゾルザルが手に力を入れる。
!
ままに終わる。
かといってコケにされたままでは皇子としての名が軽んじられた
なのに重傷を負った自分の周りに味方が誰一人居ない。
この場所は帝国で、その皇宮だ。ゾルザルにとっての本拠地だ。
それに気づいたゾルザルは、頬を引く尽かせる。
られているからだ。
この間へと来ていた兵は皆、コウジュによって戦闘不能へと追いや
ただ、それに反応する者は誰も居ない。
にしておくわけにはいかないと伊丹を殺すために兵を呼ぶ。
だがそれもすぐにプライドが塗りつぶし、下民に睨まれてそのまま
ゾルザルは一瞬、伊丹の眼光に怯んだ。
!!
﹂
剣を持ってこい
﹂
それだけは許容できないゾルザルだった。
﹁ピニャ
﹂
﹁し、しかし兄上
﹁早くしろ
1181
!!
!!
!!
使えるものは無いかと周囲に目をやり、目に付いたのが皇帝の傍に
!!
!
﹁うっ⋮⋮﹂
!!!
突っ立っているピニャだった。
ゾルザルは見つけると同時にピニャの腰にある剣へと目をやる。
自分が持っていた剣を弾いた道具を伊丹が未だ構えていることも、
それの威力を知っているピニャがなんとか兄を窘めようとしている
のもゾルザルには関係なかった。
斬りたい人間が居て、斬れる道具がそこにある。それだけがゾルザ
ルの心を埋め尽くしていた。
そんな中、伊丹はどうにか後輩を救出する手立てを探していた。
思惑通りにコウジュを無力化できた。
後は逃げるだけ⋮⋮なのだが、その当のコウジュはゾルザルの足元
だ。
銃弾はまだ残っているし、強行突破できないことも無い。
だが、それをしてしまえば講和は完全に無くなってしまうだろう。
今更な気もするが、皇子の命を奪ってしまえば帝国が後に引けなく
1182
なってしまうのは確実だ。
現状では向こうの拉致が分かったこともあり、なんとかまだ互いに
譲歩することができるだろう。
しかしここで殺してしまえば、折角コウジュが耐えた意味も無くな
る。
皇子を殺されて動かないわけにはいかない帝国とも、再び戦端は開
かれるだろう。
伊丹はそう思い、銃口を僅かに迷わせる。
﹂
その一瞬の迷いが仇となる。
﹁兄上何を
ならば、後にするか
だがそんな判断が出来る状況にゾルザルはなかった。
?
かと言ってすぐには武器が手に入りそうにない。
石を使うなぞ王族のすることではない。
ルザルが落ちていた瓦礫を持ち上げる所だった。
そこにはいつまでも剣を渡しそうにないピニャに業を煮やしたゾ
ピニャの叫びに慌てて伊丹は目線を戻す。
!?
﹂
目の前に落ちている、自身をコケにした存在を傷つけられればそれ
で良いのだ。
﹁その身で贖え化け物が
ゾルザルが瓦礫を落とす。
片手を負傷しているとはいえ、それなりに体格が良いゾルザルが持
ちあげた瓦礫は人の手足位簡単につぶせそうな重量がある。
ただ、持ち上げるに精いっぱいで、落とすしかできなかった。
それでもその重量が1メートルちょっとの高さからとはいえ落ち
れば下にあるものはただでは済まない。
その塊が、ゆっくりとコウジュへと落ちていく。
銃では弾けないと伊丹が走り出した。
おれ
だが、走るよりも早く、瓦礫はコウジュへと辿り着いた。
﹁いやはや己を忘れて貰っちゃぁ困るなぁ﹂
声が響いた。女性の声だ。
それと同時に、離れた場所でドゴンと何かが壁にぶつかった。
それはよく見ればコウジュの上へと落とされそうになっていた瓦
礫だった。
そして落とされる筈だったコウジュはと言えば、そのすぐ近くにゾ
ルザルとは別の存在が立っていた。
それが先程響いた声の主だ。
その女性は足を蹴り抜いた形で居たのを正し、何事も無かったよう
に佇んだ。
この女性こそが伊丹よりも早くコウジュの元へと駆け寄り、瓦礫を
蹴り飛ばした正体だ。
伊丹はその女性を、何故と驚愕の目を向ける。
長い銀髪に勝気な紅い瞳、その瞳孔は縦に割れて肉食獣を思わせ
る。
肢体はモデルが羨むような凹凸の激しい身体。
1183
!!!!
しかし、服装は反して学生を思わせるブレザーを着ている。
そして、トレードマークなのか、頭よりも大きい丸い帽子を被って
いる。
そう、コウジュが恋ドラ人形と呼んでいた、動くはずの無い存在
だった。
◆◆◆
俺は目の前の状況に、悔いと安堵と驚愕を綯い交ぜにして動けなく
なっていた。
悔いは勿論、後輩の為に咄嗟に動けなかった事。
安堵はその後輩が一先ず助かったこと
何のつもりだ
﹂
!!
1184
そして驚愕は、動くはずの無いものが動いたこと。
改めて恋ドラ人形を見る。
今まで動くはずがないからと数に居れていなかった文字通り人の
形をしているだけの物の筈だった。
恋 ド ラ 人 形 は 完 全 に 後 輩 の マ ニ ュ ア ル 操 作 だ。そ う 後 輩 自 身 が
言っていた。
なのに今、後輩が気絶している今、恋ドラ人形は独自に動いている。
正直に言って、意識に中からすら抜けていたほどにその存在感は無
かった。他の者も見れば同じ様子だ。
だが、それが今になって動き出した。
何故⋮⋮
﹁小娘
後輩が操っている時には見られなかったものだ。
を浮かべた。
そんな俺を見て、恋ドラ人形は薄っすらと、妖艶にすら思える笑み
﹁ふふん、何やら訝しんでいるようだけど己は味方だぜぃ英雄殿﹂
?
自身が行ったことが成されなかったと今更ながらに気付いた皇子
!
が恋ドラ人形へと声を荒げる。
それなり以上ののプロポーションを持つ恋ドラ人形は身長も高い。
それからしても巨体の皇子が上から拳を振り落とす。
﹂
﹂
﹂
それを恋ドラ人形はポスンとコミカルにも思える軽い音と共に掌
で容易く受け止めた。
この俺を
﹁戦闘力たったの5か、ゴミめ﹂
﹁な、ご、ゴミ
﹁は、放せ
この
くそ
﹂
﹁良い身体つきだ、だが無意味だ﹂
それを皇子が外そうとするも、全く動く気配が無かった。
恋ドラ人形は受け止めた拳をそのまま掴んでいた。
﹁貴様⋮⋮、な
﹁あまり吠えるなよぅ。弱く見えるだけだぞ
!!?
!!!
﹂
ほれ﹂
﹁うおおおおおおおおおっ
﹁何だ放してほしいのか
!
それでも逃げられないで焦っている皇子の手を恋ドラ人形が少し
勢いを付けて放した。
﹂
すると軽い動作だったにも拘らず、皇子の身体は空を滑り暫くして
地へと転がった。
﹁お前、は、恋ドラ人形じゃない⋮⋮のか
だ。
﹂
その寝顔に少し引っかかる部分もあるが、今は恋ドラ人形に関して
顔で寝ている。
に服が多少汚れているだけで気が一つない後輩。実に幸せそうな寝
あれだけの事をして、あれだけのクレーターを地に作ったというの
俺は慌てて飛んできた後輩を受け止める。
﹁うおっと
抱き上げたかと思うと、それをこちらへと放ってきた。
それを聞いただろう恋ドラ人形は答えず、しゃがんで後輩の身体を
俺はそこに至ってやっと声を出すことが出来た。
?
1185
?
!?
!?
傷ついた足にも拘らず、皇子は身を振ってでも逃げようとする。
!!!?
?
!!
!?
動くはずの無い存在が、何故動いているのか。
後輩の泥からできている以上、敵ではないと思う。今の行動からも
そう思える。
だが、後輩の意思を越えて動いている以上、無視することは出来な
い存在だ。
﹂
﹁味方だと言ったんだがなぁ。そうでも無ければこんな面倒なことは
せんだろうよぅ﹂
﹁だが、自分では動けないと聞いていた。それが何故動く
﹁ふむふむ、確かにな。だが説明が面倒だ。オートモード的な何かだ
と思ってくれればいいさ英雄殿﹂
現状に似合わない、何の気負いも無いような笑顔でそういう恋ドラ
人形。
だが目が笑っていない。
それはまるで、仕方がないから居るだけで有象無象などどうでも良
いと言わんばかりに見る物に価値を見出していないような目だ。
後輩に対してだけは感情が籠っているような気がするが、少なくと
﹂
も英雄殿と俺を呼ぶくせにそうは確実に思っていないと目からわか
る。
﹁こ、の
いなかったようだ。
・・・・
だがそれを、恋ドラ人形は避けもしない。
・・・・・・
﹁今の己はドラゴンだ。その鱗を通したいなら聖剣でも持ってくるが
良い﹂
自身に当たっていた剣を軽くつまみ、指先だけの力で叩き折った恋
ドラ人形。
事ここに至って、皇子は自分が相手にしているものの強さを垣間見
﹂
たのか、今更になって後退りをする。
﹁お、お前は何なんだ
﹁そんな訳が│││﹂
﹁さっきも言っただろう。ドラゴンだと﹂
!
1186
?
そんな恋ドラ人形へと皇子が剣を手に斬り掛かった。まだ諦めて
!!!
﹂
﹁ありえないなんてことはあり得ないそうだぞ、人間。がおー
﹁ヒィッ
﹂
!!!!
﹂
が全く身体が動いていない。
﹁や、やめろ、俺をつぶす気か
﹂
﹂
﹁何だ、潰されるのがお好みかな
恋ドラ人形がススっと足をずらす。
﹂
何をするつもりだ
その先は、皇子の股の間にあるアレだ。
﹁おい待て止めろ俺は皇子だぞ
﹁何ってナニを潰されたいんだろう
﹁違うそうじゃない俺は│││﹂
﹁えい﹂
﹂
それだけで皇子は動けなくなったのか、ジタバタとその下でもがく
恋ドラ人形は仰向けに地へと倒れ込んだ皇子の腹へと足を乗せる。
だがその着地地点には既に恋ドラ人形が居た。
軽く飛ぶ皇子。
﹁ぐ、がぁ
そしてそんな皇子を恋ドラ人形が蹴る。
尻餅をついてしまう。
だが、目の前で恐慌に陥っている皇子にはそうでも無かったのか、
あるものだ。
恋ドラ人形が吠える。それは声を大きくしただけの可愛らしくも
!!?
⋮⋮ああ
﹂
﹁あっはっは、マジで潰すと思ったのか
かよぅ﹂
﹁あ、ああ、残ってる。残ってる⋮⋮﹂
?
実際にはやらなかったが、少し流れが違えば簡単にやってのけそう
だがそれを、恋ドラ人形は容易くしようとした。
それほどの恐怖。
皇帝も、若干広げていた足が閉じている気がする。
思わず俺は足を内股にした。
そんなばっちぃことする
﹁ぎゃああああああああああああああああああああああああああ、あ、
?
!!?
?
!?
?!
1187
!?
?
な目をしていた。
やはり、後輩らしくない。
それに後輩が作っていた〝恋ドラ〟というキャラクターとも何か
違う気がする。
一先ずは味方らしいとはいえ未だに警戒心を解けずに居ると、その
間にも恋ドラ人形はしでかしていく。
﹁ってうぇ、漏らすどころかこんなので興奮してんのかよ。変態だな
お前﹂
そう言って、恋ドラ人形は素早い動きでその場から離れた。
そして気づけば、俺のすぐ傍まで来ていた。
﹁恋ドラ人形、お前は本当に誰なんだ⋮⋮﹂
﹁しつこいなぁ⋮⋮。そうだな、己の事は一条とでも呼べ。それが今
マツリ
どこかで聞いたような⋮⋮。
の所一番近い。マツリちゃんでも良いぞ﹂
一条
だが後輩が言っていた〝一条祭り〟とは│││、
りがどうとか。
いや待て、後輩が似たようなことを言っていなかったか
一条祭
今の状況についていけないのもあって、頭の中が混沌としている。
だが思い出せない。
?
その姿を一条はチラリと見た後に鼻で笑った。
その姿には当初の傲慢さは欠片も見られない。
その目は何も映さず虚ろで、ぶつぶつと何かを呟いている。
皇子は自らの急所を押えながら呆然と床を見ている。
子である皇子へと目をやる。
皇帝は何とか憮然とした態度を取り直しそう言いながら自らの息
にしてそのまま返すわけにはいかぬ﹂
わけにはいかなくなった。こちらにも非はあろうが、王族をあのよう
﹁う、うむ⋮⋮。だがこちらとしてもこのまま其の方らをただ見逃す
ほう
﹁一先ずは脱出と行こうじゃないか。良いよなぁ、そこの人間﹂
かって交渉をしていた。 そう考えている間に恋ドラ人形││もとい一条とやらは皇帝に向
?
1188
?
﹂
﹁ふん、これだから人間は嫌いだ。己は許可を得ようとしたんじゃな
い。通告したんだ。お前は潰されたい方か
﹁い、いや、潰されたくはないが﹂
これじゃ強盗だ﹂
﹁ふん⋮⋮。良いよなぁ
﹂
﹁おい恋ドラ⋮⋮じゃなくて一条
それは流石に看過できないぞ。
ていた奴隷たちを飲み込み始めた。
そして、後輩がするように自身の影を広げ、その広がった影で転が
がって気を失っている奴隷たちへと近づいた。
一条はそんな皇帝にもゴミを見るような目を向けた後、地面に転
﹁ふん、最悪の気分だ。餌位は貰っていくぞ﹂
われれば冷静ではいられないだろう。
男である以上、あの光景を見て、次の標的が自分かもしれないと言
取っては居られず声が震える。
一条が牙を剥き出しにしながら言えば、皇帝も憮然とした態度を
?
た。
そんな中、ここまで傍若無人をそのまま形にしたような態度を取っ
だ。
倒れている兵や心神喪失状態の皇子は声を上げる余裕もないよう
ピニャ皇女や皇帝の声が響く。
﹁ぐ、こ、これかっ⋮⋮﹂
﹁ひいいいいいいいいい
﹂
そんな風に考えていると、すっかり忘れていた2回目の地震が襲っ
俺もそうだ。
確かに今までの流れを鑑みれば言う気も失せるだろう。
皇帝はもう何も言わぬと、諦めたように憔悴していた。
﹁⋮⋮構わぬ。その程度の奴隷好きにするが良い﹂
どうなるかと言わんばかりに鋭い目線を向ける。
そしてそのまま皇帝を見て、疑問形でありながらも言外に断ったら
一条は一瞬こちらを見るも、気に入らないとばかりに鼻を鳴らす。
!
てきた一条は、もう用は無くなったと出口へと歩き始めた。
1189
?
!?
そして出口近くになると振り返り、俺の方へと向いたと思えば早く
来いと顎をクイとやる。
俺は後輩を抱き直しながら、慌てて駆け寄る。
﹂
﹂
そこへ、皇帝が待ったを掛けた。
﹁待つが良い
﹁⋮⋮何でしょう
俺は振り返り、皇帝の方へと向く。
すぐに振り返れなかったのは、速く脱出したいのもあるが目の前の
一条が面倒だから殺すかと言わんばかりの目をしていたからだ。
だからそうなる前に俺が返答することにした。
﹂
﹁その女子がドラゴンと言っていたのは本当か 先程のばけ⋮⋮巨
躯へと変化した少女もまたニホンとやらの持つ力の一端なのか
揺れる最中、皇帝は意を決したようにそう言った。
それに対して俺はどう答えるか悩む。
確かに後輩は自衛隊へと協力してくれている。
だが、それは戦力としてではない。
言いながら口の端から炎を零れさせる。
も吐ける﹂
﹁己はお前たち人間が恐れる幻想種だ。それに違いは無い。ほれ、炎
そうして悩む間に一条が答えた。
だからそういう意味では、力の一端と言えなくもない。
あるのは確かなのだ。
益というのは確実に存在し、そしてそれに甘えてしまっている部分が
とはいえ、やはり後輩という存在が居るだけで得ることが出来る利
に使わなくてもこいつは普通に生活できていた。
ただ変な力を持っているだけで、今までだってそんな力を大っぴら
馬鹿やってるのが似合う、普通の少女だ。
そうは見たくない。
上からすればそう言った気持ちもあるのだろうが、俺個人としても
?
?
少し距離が離れているのに凄い熱量を持つのか肌がチリチリと焼
けるようだ。
1190
?
!
そんな一条の姿を見て皇帝は何かを悩むように口元を抑える。
一条は続ける。
﹂
﹁化け物を討つのはいつだって英雄だ。それは己も否定はしない。だ
がな、貴様らに打てるとは思いあがるなよ
﹁そんな気はせぬよ。早く行くが良い﹂
﹁ふむ、ではな人間﹂
言うが速いか、一条はそのまま歩いて行ってしまった。
俺もそれに追随し、宮殿を後にする。
その俺に、幽かに皇帝の声が聞こえた。
﹁我々は、龍の尾を踏むどころか招いてしまっただけだったのか⋮⋮﹂
1191
?
﹄
﹃stage28:己のターン
よぅ
それ以前にここは何処なのか。
って、もう終わりか
待て、そもそも何故自分を含めて気を失っていたのか。
失っている。
全員が全員とも、悪夢に魘されているかのごとく青い表情で意識を
だ。
彼女らを観察すると、どうやら目覚めているのは自分だけのよう
まぁこれも自分含めて、だが。
るのみ。
そしてその全員が薄汚れた薄い布で申し訳程度に身体を隠してい
自分も含めて、皇子の奴隷をしていたのだからそれも当然だ。
その内訳は全員が女。
のは既にいないのだが、それでも知らぬ中ではないのは確かだ。
仲間⋮⋮とは言うが、似たような境遇なだけで真に仲間と呼べるも
ぬ床に見知った奴隷仲間が数人転がっている。
覚醒しきらぬ頭で近くを見れば、金属のような白磁のような見慣れ
周囲の情報を取り入れてくれるようになった。
さて、水も欲しいが目覚めてすぐで光に慣れていなかった瞳が漸く
どうにも喉が渇いていて水分が欲しい。
思わず喉から出た声は言葉にもならぬ唸り声。
﹁う、うぅ⋮ん﹂
そうしてうっすらと開いた目には眩い光が差し込んでくる。
た。
仕方なしに未だ微睡の中に居たい自分にむち打ち起きることにし
冷たく固い床の感触が起床を急かす。
水底から浮き上がるように目が覚めるのを自覚する。
!
覚醒し始めた頭がやっと現状に対しての疑問符を上げて行く。
1192
!!
改めて近くではなく、その周りへと意識を向けると驚愕に包まれ
る。
先程認識した見たこともない床の材質もそうだが、壁そのものが光
を放っていたり、何かの魔術だろうか空中にそのまま文字や絵が浮か
んでいる。
そのどれもが見たことの無い程の技術レベルだ。
パッと見ただけでもそれだ。
見る限りでは扉が無い為ここから出ることは叶わないだろうが天
井も高く広い。
探せば更に驚くべき何かがありそうだ。
ただ、問題は何故ここに自分が居るかだ。
私は今、ゾルザル皇子の奴隷という身分にある。
その身分を認めたくはないが、それに甘んじる必要があるため心を
殺して努めてきた。
しかしここにはその皇子が居らず、この場所自体も帝国の何処にも
無い場所だ。
そもそもが皇宮などは切り出した大理石などを材料に作られてい
る。
だがこの場所は切れ目一つ無い鏡面とまでは行かなくとも不思議
な光沢を見せる床や壁を使用している。
城とはその国の権威を見せつけるための一種の道具であり、これほ
どの物を造れる者が帝国内に居たとするならばすぐにでも皇宮内は
この素材で一新されていただろう。
さておき、その帝国内で一番豪奢な造りをしている筈の皇宮が霞む
ほどの技術レベルが見て取れるここに何故居るかが問題だ。
当然ここに連れて来られた記憶など無い。
自分を拐かす理由も特には見つからない。
あるとすれば殺すために連れ去るだろう位だが、そうする位なら、
皮肉なことにその場合は見つかった瞬間に殺されているだろう。そ
れほどまでに私は恨まれている。
そもそも、自らの本来の身分を中心に考えた︵未だ引きずっている
1193
ことに自分で自分が嫌になる︶が、ここには私以外の奴隷も居る。
自分だけが目的で連れて来られたと考えるのは早計だろう。
他にありそうなのは皇子のまた新しい遊びだろうか。
ああ、その可能性が高くて吐き気すらする。
意識を奪ってまで見たことも無い場所に連れてくるなどあの皇子
のやりそうなことだ。
皇子は楽観主義が極限まで行ったような存在だ。
普通ならその時点ですぐに破滅しそうなものだが、身分が身分の為
にそれを成すだけの地位と金と周囲の力がある。
皇子が是と言えばそれがそのまま正解になってしまうのだ。
それによって歪められた回答など今までにどれほどあっただろう
か。
・・
ただ、これほど厄介な存在もないが故にこそ扱いやすい部分もあ
る。
1194
だからこそ私はアレの元に居るわけであり、父親が皇子を放置して
いるのも皇子に皇帝の座を渡しつつもその後ろで実権を握り続ける
ための傀儡要員としてだ。
脱線したが、その皇子は時に遊びと称して国一つを潰すこともある
ほどの人非人なのだ。
﹄
そう考えるとこの状況も皇子の所為の可能性が││││、
﹃■■■■■■■│││
﹁っ⋮⋮﹂
あの狂気を固めたような、殺意を形にしたような、ただ憎しみを前
そして聞いたのだ。
そうだ。意識を失う前まで私は確かに皇宮に居た。
それを抑えるため身体を抱きかかえるように抑える。
頭の中にこびり付いた咆哮に全身を寒気が走る。
!!
面に出した声を。
私はヴォーリアバニーという種族だ。
ヴォーリアバニーは雄が生まれにくく、それ故に他種族と交わらな
ければ種を存続できない。だから気に入った男が居れば行きずりの
関係でも交わることもある。
そしてそれ以外にも﹃首狩り兎﹄と呼ばれるほどの戦闘力も特徴だ
ろう。
私自身はそれほどある訳でも無いが、それでもそこらの人間以上に
は動ける。
というのもヴォーリアバニーは第六感を含めた感覚がヒト種に比
べて何倍も鋭敏なのだ。
他種族にもそういった種族は存在するが、危機感知に関しては一入
だ。
その感覚が、今でも私に怖気を走らせる。
1195
何なのだろうかアレは。
感覚的に亜神の類いの様にも感じたが、似て非なるものだと思う。
咆哮と共にあの部屋を埋め尽くした殺意。
そうだ、それから逃げたくて私は意識を飛ばした。
ただ現実を否定したくて⋮⋮。
しかし、あれは何処にいたのだろうか
は思えない。
しかし広い空間ではあるがあれほどの狂気を隠せる場所があると
あんな者が居れば嫌でも気づく。
だがあの様な存在は居なかった。
ボロになっていたからそれは仕方ない。
ようが無理矢理前へと走らされ、普段の生活状況から心身ともにボロ
皇子の屋敷からそれほどの距離は無いとはいえ転ぼうが怪我をし
かった。
謁見の間へと引きずられて行った時、確かに周りを見る余裕は無
?
そういえばあの時、皇帝に謁見している者が居たがあの中に居たの
だろうか
?
皇子であるゾルザルが地揺れについて知っていた黒髪の奴隷││
ノリコのことを皇帝に言った瞬間にアレは現れた。そしてゾルザル
を殺そうとした。
タイミングで言えばこれが一番当て嵌まりそうだ。
でも、あれを飼いならす
冗談ではない。
その一瞬だけで私は、私は⋮⋮。
﹁Did you wake up
﹂
?
ヒト種のようだが、何者達だろうか
?
は頭を掻きながら続けて話す。
﹂
﹁Can you speak English
﹁何を言っているの⋮⋮
﹁Oh⋮⋮﹂
﹁な、なんなのよ﹂
﹂
私が警戒心を露わに叫んだためか、最初に話しかけてきた先頭の男
?
そして後ろから来た男たちは茶色い箱の様な物を持っている。
やや黄色身を帯びた肌の男も居る。ただ一人だけだが女も居る。
よく見ればその後ろにも何人か連れている。白い肌の男も居れば
似合わない笑みを浮かべながら近づいてくる。
何を言っているか分からないが、その鍛えられた肉体と強面の顔に
ら黒い肌の男が現れた。
アレの恐怖を思い出していると壁だと思っていた場所が開き、中か
﹁だ、誰
﹂
アレの存在を感じたのは一瞬だった。
あんなものを戦力にするなんて正気の沙汰じゃない。
?
﹁くれるの
﹂
﹁Here it is﹂
めた後に後ろに居た白い肌の女へと何か言った後、後退した。
2、3話しても私が理解していないと気づいたのか、男は肩をすく
?
1196
!?
次に話しかけてきた女は箱から何かを取り出し私に渡してきた。
?
広げてみれば、透明な布の様な物に包まれた綺麗な生地の服だっ
た。
これをどうしろと
表裏と見回せば、透明な布に穴が空いている場所を見つけた。
そこから中身の服を取り出し、手に持つ。
驚くほどに滑らかな材質だ。そして柔らかくも軽い。
何なのだこれは。
この部屋もそうだが、貴族が見れば大金を払ってでも手に入れそう
な程の代物だ。
そんなものを私に渡してどうしようというのだろうか。
﹁Well⋮.There are clothes﹂
何を言っているのかは分からないが、身振りで服に袖を通すような
仕草をしている。
つまりはこれを私に着ろという事らしい。
どういう心づもりなのだろうか。
しかしこのよく分からない現状では逆らうわけにもいくまい。
﹂
What are you doing
﹂
私は着ていた粗末な服とも言えない布きれを捲り上げ│││、
﹁Wait
﹁な、何よ着るんじゃなかったの
何故か止められた。
!?
叫ぶ。
叫ばれた男たちは慌てて後ろを向いた。
そして女は私の方を押さえて真剣な表情で、何を言っているかは分
からないが色々と私に言う。
その言い方はどこか母が娘に言い聞かせるような調子だ。
察するに男の前で肌を曝すな的なことを言っているらしい。
何だそれは。
今更見られた程度で感じるものなど私のどこにも残っていやしな
い。
今までに殺しても足りない位に憎んでいる男に何度身体を開いた
1197
?
脱ごうとした物を上から下ろされ、女は後ろに居る男たちに何かを
!?
!!
と思っているのだ。
﹂
﹂
そんなもの、今更だ。
﹁っ
﹁何するの
今更な女の言葉︵推測でしかないが︶に思わず自嘲していると、女
は私を突如抱きしめた。
突き放そうとするが、無駄に鍛えられた女の身体は離れる様子が無
い。
戦闘が部族の中では苦手な方である私はこの体勢から女を除ける
ことが出来ない。
種族的にヒト族よりもある筋力で跳ね除けることもできるが、そう
するとこの女に怪我を負わせてしまう。
それだけはできない。
私は私の目的のために生き残らなければならない。
もし怪我をさせることでこの人間たちから敵意を向けられる状況
に陥ることは防がなければならないのだ。
だから、私は抵抗を止めることにした。
抱きしめられることを許容する程度で彼らの信用を少しでも得ら
れるのなら安いものだ。
でも、こうして敵意の無い人の温もりに触れるのはいつ以来だろう
か。
そう考えると多少はこれも悪くは無い気がする。
先程思い出したあの恐怖感が少しでも和らぐのならこれを甘受す
るのも吝かではない。
﹁Respect yourself﹂
暫く抱きしめられた後、女はそう言った。
流れ的に身体を大事にしなさいだとかそういうことを言っている
のだろう。
言われずとも分かっている。
私は私が一番大事だ。
守っていた国も、民も、私を見捨てた。
1198
?!
!?
むしろ私を憎んでいることだろう。
ならば私に残されたものは既にこの身一つ。
その最後の一つを、私の最後の意地を通してみせる。
とりあえず私は頷いて見せる。
そうすると女は微笑み、そして後ろの男たちがこちらを見ていない
か確認してから私の着替えを改めて促した。
着方が分からず少し手伝われながら着た服は手触り通りに肌に優
しい感触を与えてくれる。
感覚が鋭い為に肌も比較的敏感な種族としてはこれはありがたい。
それに、見たことが無い変わった様式の服だが、伸び縮みして動き
やすくありながらも貴族が着るような光沢もあり、もう着ることは無
いだろうと思っていた上等な服だ。
少なからず着ていて嬉しくもなる。 ⋮⋮いや嬉しくなんかない。こいつらが勝手にしているだけだ。
これまた変わった様式の裾は短いのに袖は長い服で、対照的な紅と
蒼の髪色に合わせてだろうか服の色もそれに合わせて赤味と青味を
それぞれ帯びた色合いだ。
1199
自分でもよく分からない葛藤を続けていると、女は先程の様に箱か
ら服を受け取り他の奴隷たちを起こしていく。
そして全員にゆっくりと身振り手振りで説明しながら服を着せて
いった。
服を着た子は、男たちから今度は食料らしきものを渡され、それを
食べていく。 全員が着替え終わった頃、再びあの壁の様に見えていた場所が開い
た。
やはりあそこは取っ手が無いが扉なのだろう。
ともかくその扉から新たなヒト種が入ってきた。
﹂
﹂
それと同時に一気に私の第六感が危険を告げてくる。
﹁終わったー
﹁起きた⋮です
?
しかしその第六感に反して入ってきたのは幼い子ども二人だった。
?
二人は双子だろうか、髪色に反してその顔はよく似ている。
ただ違うのは、紅い髪の少女は快活な表情をしており、蒼い髪の少
女は対照的落ち着いた物腰に感じる。
種族を越えても整っていると感じさせる容姿だ。将来は美人にな
る事だろう。
だが問題はその幼げな姿に反して私に今も警戒を呼び続けるこの
感覚だ。
気を失う前に見たアレ程ではないが、醸し出す雰囲気は私よりも圧
倒的な強者の物。
抑えることはできているが、何なのだろうかこの感覚は。
いや待て、それよりもこの少女二人の言葉が何故か分かる。
感じている恐怖感も気になるが、それよりも現状理解を進める方が
先決だろう。
それにヒト種には違いないようだし、数年の奴隷生活の所為で私の
周りのヒト種も、私が少女たちと会話出来ていることに気付いたの
か静観するようだし、今なら聞けるかもしれない。
﹂
他の奴隷たちに関しては渡された食料を食べるのに必死でこちら
には気付いていない。
今のうちに聞きたいことを聞いておくべきだろう。
﹁良かったわ。ここがどこなのか教えてもらえないかしら
﹁駄目よ﹂
﹂
﹁駄目、なのです﹂
﹁な、何故
?
しかし私の問いに彼女たちは拒絶するように否と答えた。
?
1200
感覚もガタが来てしまっているのだろう。
﹂
そう自分で自分を窘めながら、私は恐る恐る少女たちに声を掛け
る。
﹂
﹁言葉が通じている⋮⋮かしら
﹁ん
?
良かった。やはり聞き間違いなどではなかったようだ。
﹁通じてる、です﹂
?
﹁ママからここに関することを中の人に伝えないように言われている
のよ﹂
﹁母様、仲良くするように、言ってた。それから、手伝うようにも言っ
てた。でも、どういう場所か言っちゃ駄目って、言ってたです﹂
どうやらそう容易く教えてはくれなさそうだ。
しかし情報が一つ手に入った。
ここはこの子達の母親が関わる場所らしい。
ならばその母親とどうにか会話する機会を得られないだろうか
しらの理由があるからの筈だ。
﹂
﹂
そしてそれほどの対応を見るからに奴隷の私たちに取るのは何か
解できる。
場所を教えられないという事だが、これほどの設備ならばそれも理
いる訳ではないと分かる。
先程からのここのヒト種の持て成し方から、私たちは邪険にされて
?
きた。
よし、これならいけそうだ。
この子達のお母様がどんな奴かは知らないけど、私の目的のために
利用できそうならさせてもらおう。
ここに私が居る理由。
私たちを丁寧に扱う理由。
どうにせよ、皇子から私たちを奪うという事は敵対行動を取るとい
う事だ。
これだけの技術力があり、そして皇子に敵対行動を取ることが出来
る存在。
ああ、考えるだけでも面白い。
私は、ヴォーリアバニーの族長であったこのテューレは、何を利用
してでも絶対に帝国へと復讐するのだ。
1201
﹁なら、あなた達のお母様と少し話が出来ないかしら
﹁うーんと、どうだろう
?
紅と蒼の双子は見合わせながら可ではないが色よい返事を返して
﹁ちょっと聞いてみる、です。多分、大丈夫⋮⋮﹂
?
だから、悪いがお母様とやらには利用されてもらうわ。
◆◆◆
後輩の暴走から数時間が立ち、ピニャ皇女の邸宅にてアルヌスへ報
告を入れた俺は後輩が眠る部屋の前まで戻ってきた。
帝国に拉致された存在が居たことは日本にとって大きな問題であ
る為、寝耳に水とアルヌスを通して上層部は対応に追われているよう
だ。 そして決まったのが、示威行為として帝国元老院の破壊。
未だ夜は明けておらず、会議を行う為に存在する元老院に人はまだ
居ない。だが国にとっては重要な施設である。
そう言った理由で元老院が選ばれたわけだが、その辺りの話を詰め
るのに少し時間が掛かってしまった。
実質的には防衛省の大臣と狭間陸将との間で示威行為を行うこと
はすぐに決まったのだが、どこを破壊するかで少々時間が掛かったの
だ。
民間人に被害を出すわけにもいかず、さりとて重要拠点でなければ
いかず、その為に現地を知る人間として俺へと槍玉に挙げられたの
だ。
これも1部隊とはいえ隊長である故の仕事だ。仕方がない。
ただ、問題は後輩が皇宮内でしでかしたことに関してだ。
大暴れ、しちゃったからなぁ⋮⋮。
まぁ後輩の事が無ければ俺自身が拳をぶち込んでいたか、栗林辺り
がマックノウチしてたと思うが、立場が問題なのだ。
後輩は特地対策特別顧問という肩書を持っている。
だが、後輩は元とはいえ民間人なのだ。
今でこそ大手を振って俺達と共に行動しているが、訓練を受けた訳
でも自衛隊員でも無い。
非常勤の自衛隊員としての立場を与えることも考えられたが、そう
1202
なると〝命令〟というものの重みがのしかかってしまう。
そうなると、一枚岩ではない上層部や諸外国からの圧力が掛かった
際に面倒なことになる。
そう考えた狭間陸将によって今の位置づけとなった訳だが⋮⋮、く
そ、あの時せめて俺が動いていれば。
後悔するも今となってはもう遅い。
ただ、幸いにも後輩という存在を法的に認めさせるために嘉納さん
が動いてくれている。
今では内閣も森田内閣へと移行し嘉納さんも外務大臣へと肩書が
変わっているが、内部での信頼も厚いようで、今回の後輩の事に関し
てもうまく動いてくれると思う。
﹂
アルヌスに戻り次第連絡を取って情報交換しないといけないな。
﹁はぁ⋮⋮、よし
この数時間における報告の連続とこれからの事を考えると思わず
ため息が出る。
今回の事で講和会議は破談となる可能性が高い。
むしろ普通はなるだろう。皇帝の前で皇子をボコったのだから。
そうなると帝国との関係性は振出しに戻ると考えるべきだろう。
既に講和派が大半を占めているとはいえ、今回のことで主戦派の声
が大きくなることは確実。
再びの戦争、それも視野に入れておかなければならないかもしれな
い。
とはいえ、それも今すぐではない。
﹂
今は目の前の問題だ。
﹁入るぞ
る。
だが返ってきたのはある意味後輩以上にやらかしてくれた一条、も
しくはマツリと呼ぶように言った女の声だった。
一条の言葉を得て、一先ず俺は中へと入る。
1203
!
俺はノックをした後、声を掛けて後輩が眠る部屋の扉へと手を掛け
﹁構わぬよ﹂
?
中では後輩が未だベッドで寝ており、穏やかな寝息を立てている。
その後輩が眠るベッドの傍らに腰掛け、一条は優しく後輩の頭を撫
でていた。
その姿には慈愛が感じられ、整った容姿もあって一瞬見惚れてし
まった。
だがいつまでも見ている訳にもいかないので気を取り直して話し
かける。
﹁後輩はまだ起きてないのか﹂
﹂
﹁当然だな、己が眠らせている﹂
﹁⋮⋮どういうことだ
﹁この子の種族は特性として特殊な攻撃に弱いのさ。回避力は他種族
間でもトップなんだがなぁ﹂
俺の言葉の意味を理解しているのかいないのか、笑みを浮かべたま
まこちらも見ずにそういう一条。
﹁そういうことじゃないっ。お前が眠らせているのかって聞いてるん
だよ﹂
﹁ふふん、心配性だなぁお前は。まぁ安心するが良いさ。スペック頼
りに碌に寝ても居ない様だったから眠らせておるだけだよ﹂
﹁そう⋮⋮か﹂
少し声を荒げてしまった俺に漸くこちらを見た一条は先程までの
見る者に行きを付かせるような笑みではなく、どこか嘲るような笑み
を浮かべながらこちらへと振り向いた。
どうやら、こいつの言葉を信じるのならば後輩の身体を思って眠ら
せているらしい。
登場時の行動や先程の笑みを思うならばやはりこいつは後輩の味
方という事だろうか。
でも、なぜ今になって現れた
今までも恋ドラ人形は幾度となく後輩によって産みだされていた。
?
︶がオートモードの様な物と言っていたが真相は
1204
?
だが今の様に後輩の意思を無視して動いているのは当然初めてだ。
一条本人︵本龍
分からない。
?
それに、産みだした親に当たる後輩を既に寝ているとはいえ眠らせ
続けることが出来るというのはどういう事だろうか
のは分かった。さっきの後輩を見る眼差しを俺は信じるよ﹂
﹁事も無げに恥ずかしいことを言うなぁお前﹂
あんな目を見たら誰でもそう思うっての
!
﹂
後輩が取り込んだっていうアンリ
マユとかいうオチは無いだろうな
﹁それで、結局お前は何なんだ
あれは害する人間に対して向けられる瞳ではない。
だがその評価自体は本当に思ったから言ったのだ。
出てしまう。
流してくれれば良い物をそう言われてしまっては気恥ずかしさが
た。
拒絶はしないという意味で言った筈なのに何故かジト目で見られ
﹁う、うるせぇ
﹂
﹁とりあえず、お前が後輩に対してすぐにでも害を齎すわけじゃない
俺は一度深く呼吸をし、改めて一条を見る。
いや、俺が分かりやすいだけか。
俺の内心を見透かしたかのような言動。
﹁⋮⋮﹂
﹁くふ、英雄殿はあくまでも俺を許容しないか。まぁそれで構わぬよ﹂
だがこいつはそれを越えて何らかの能力を駆使している。
を吐ける程度という話だったはずだ。
後輩曰く、恋ドラ人形は元ネタ的に物理攻撃が中心の、後はブレス
?
﹂
?
して後輩の方へと向いた。
そう思っての質問だったが俺の問いに一条は答えず、慌てるように
う。
一条マツリと名乗るくらいなのだから、関係が無いことは無いだろ
俺が思いつける可能性で言えばこれくらいだ。
た通りに一条祭り⋮⋮あの段ボールが正体ってことか
﹁とりあえずは違うと認識しておくぞ。だがそうなるとお前が名乗っ
うとも言えるな。まー根源的な意味では全く別物だとは別物だよ﹂
﹁ふむ、泥を使ったからそう思ったのか。だがそうだとも言えるし違
?
?
1205
!
﹁おおぅ、もう喰われたか。致し方ないか﹂
それだけ言うと、一条は立ち上がりこちらを見た。
﹁他にも答えてやりたいのは山々だがどうやら時間切れだ。もうすぐ
⋮⋮言ったら潰す﹂
この子が目覚めそうだ。まだ己を知られる訳には行かないし、そろそ
ろ限界だから消えさせてもらおう﹂
﹁あ、ちょ﹂
﹁お前も己の事を言わないでくれよぅ
俺の言葉も聞かず、一気に捲し立てる一条。
というか最後だけ、今までのどこか演じるような話し方ではないガ
チな声だったような気が⋮⋮。
﹁ではな、名残惜しいがおやすみ英雄殿﹂
結局最後まで謎やら何やら残すだけ残して、身体を崩して黒い泥状
になった一条はトプンと音を立てながら床へ浸み込むように消えた。
どうするんだよ、結局何の疑問も解決しなかったぞおい。
1206
?
﹃stage29:それぞれの行方﹄
﹁皇帝陛下、この惨状をどうなさるおつもりか
老年の男の声がその場に響く。
男の名はカーゼル。地位は侯爵だ。
﹂
元老院議員である彼は、玉座に居る皇帝モルトに言葉を続ける。
﹁このような恥辱、帝国始まって以来のものでございましょう﹂
手を広げ、他にもこの場に居る元老院議員や有力貴族に改めて認識
させるように周囲を見る。
一言で言えば廃墟。
そう言い表すことが正しいであろう惨状の場所だ。
壁は風通りがよすぎるくらいに崩壊し、清々しい青空が視界いっぱ
いに見えるほど天井だったものは無くなり、そもそも中にあったはず
の調度品を探すことが困難な程に全てが瓦礫の下だ。
なんとか議員席を掘り越したが、それを議員席と呼ぶのは滑稽な程
に埃まみれだ。
ここは数時間前までは議事堂と、そう言い表されていたはずの場
所。
﹂
そしてつい数時間前に自衛隊航空部隊によって打ち砕かれた場所
だ。
﹁答えてはいただけないのですかな
﹁ならば私めが知る限りの成り行きを語りましょうぞ﹂
皇帝の態度を見てカーゼルは皇帝から直接成り行きを聞くのを諦
め、自分が集めた情報を他の議員へと語ることに決めた。
カーゼルは玉座を囲うようにして座る議員たちへと視線を送り、口
を開いた。
﹁事の始まりは我が帝国が門を使い戦を仕掛ける前、現地より幾人か
1207
?
しかし皇帝は黙して語らず、ただ鋭い視線を送るのみであった。
挑戦的に目を向けるカーゼル侯爵。
?
を連れてきたことが始まりだ。ご存知の通り門を建造したのは我々
帝国であり、事前に敵戦力を計るのは当然であろう。だから事前にそ
れを行った。しかし使節の者はそれを知るや否や化け物を謁見の間
で暴れさせ破壊し、それどころか陛下の御前で皇子殿下にすら手を掛
けたのだ﹂
カーゼルの言葉にその場に居た議員たちは息を飲む。
それが本当であれば下手人は当然の事ながらその一族郎党さらし
首にすらする必要があるからだ。
それは絶対王政を敷いているのならばどの国でも同じだろう。
国の象徴である存在が︵ゾルザルは皇子ではあるが︶害されたとな
れば国の威信に傷が付き、それを野放しにしたとあっては周辺諸国か
ら侮られる。
如何に周囲でも類を見無い程の強大な群を持っている帝国であっ
ても、いや帝国であるからこそ由々しき事態である。
﹁見よ皇子殿下の御労しい姿を。まるで幼子のようではないか﹂
そ の 声 に 合 わ せ て 議 員 た ち が 件 の ゾ ル ザ ル の 方 へ と 目 を 向 け る。
向けたくなかったが。
むしろ今まで意識して視界の外へと追いやっていた。
そこへ目を向けてしまった。
皇帝と同じ黄金の髪は老人のように白くなっている。
傲岸不遜な瞳は視点が合っておらず強姦された少女の様だ。
2メートル以上ある身体は恐怖に震え、自身の身体を抱きしめるよ
うに縮こめている。
そして何よりも、今までにも何人もの人間を容易く殺めてきた口
が、
﹃大丈夫、付いてる、まだ男だ、付いてる付いてる﹄と譫言の様に
呟いている。
もうダメだろうこれ、と全員が思った。
傍若無人が服を着て歩いているような存在であり馬鹿のフリをし
ているつもりになっている馬鹿という評価だったが、違う意味でバカ
になってしまったようだ。
皇帝もこれにはほとほと参った。
1208
何せ皇帝という座にはゾルザルを着かせつつも実権を後ろで握る
つもりであったモルトだ、
しかしこれでは対面的にも玉座にまともに座らせることすら出来
るか怪しいではないか。
﹁御労しや⋮⋮﹂
﹁どれほどの悪夢を見ればこうなるのか⋮⋮﹂
あまりにもあまりなゾルザルな姿に議員たちはそれぞれ呟きなが
ら目を反らしていく。
﹁ニホンの特使は帝国との講和を望んでたと聞く。会合も幾度と開催
されたそうだ。しかし自国の民一人のためにこれほどの所業はどう
何故ニホン国はたった一人の女の
いうことか。その奴隷が王族であったという事も無かろうに。誰か
事の次第を知る者は居らぬか
為に殿下を打擲するに至ったのか知る者が居れば是非説明していた
だきたい﹂
カーゼルの言葉に誰もが顔を見合わせる。
それも当然だ。
あの場に居た者でこの会議に参加できる者など限られている。
一人は黙して語らず、一人は茫然自失。
﹂
となると、最後の一人であるピニャの名が挙がるのは当然の流れで
妾が彼らについて知る事⋮⋮ですか
あった。
・
・
・
﹁は
?
に若干間の抜けた声を出してしまった。
めかけ
ピニャはこの議事堂へと訪れたのは生まれて初めての事となる。
皇位継承権も10位であり妾の子のため、国の中枢であるこの場所
へと入ることは叶わなかった。
1209
?
300人からの視線に晒される事となったピニャは、聞かれたこと
?
その為、議事堂へと召喚されたことに初めは何を問いただされるの
かと戦々恐々としていた。
実際にピニャとしても思い当たる節があるので余計にそう思った
のだ。
今回の事件に関して下手人であるニホンの特使たちを招き入れた
のはピニャ自身だ。
それも伊丹達自身から敵国の皇宮内へと入るのは大丈夫なのかと
事前に言われていたにも関わらず無理を承知で共を頼んでしまった
のだ。
しかし蓋を開けてみればニホンの者達に関しての情報が欲しいと
いうことであった。
それを聞き、一気に気が抜けてしまったピニャ。
本来であれば国の重鎮たちの目に晒され声を震わせてもおかしく
はないが、炎龍やその他の瞳に比べればひよこにも等しい優しい眼差
しでしかない。
ピニャは軽く咳ばらいをし、自身が辿ったニホンとの出会いについ
て語り始めた。
﹁彼らと出会ったのはイタリカが最初であった│││﹂
ピニャは語る。
イタリカのおいて何があったかを。
元々コウジュや伊丹の方から秘匿すべき情報とそうでもないもの
は教えられていた。
そのためピニャは自衛隊の戦力もそうだがコウジュの能力に関し
ても伝えることにした。
まず伝えたのは自衛隊の戦力に関してだ。
銃、戦車、戦闘機、帝国の戦力が如何に強大であろうともその常識
を覆す戦力がそこにはある。
ピニャの言葉に議員達も息を飲む。
しかしピニャから告げられる恐るべき真実はそれだけにとどまら
なかった。
炎龍を打倒し使役、それだけに留まらず大狼に大狐をも操る少女。
1210
その少女こそが謁見の間で暴れた存在だと言うではないか。
そしてゾルザルをアレにした存在は炎龍が化けた姿だという。
何の喜劇かと議員たちは鼻で笑う。
自衛隊の装備に関してだけでも理解したくはない話だ。
しかしそれに関しては園遊会で議員の中でも力を持つキケロ卿を
はじめ多くの者が体感している。
﹂
だがいくらなんでもその少女に関しては空想の話だと言うしかな
い。
それをピニャは乾いた笑みを浮かべてしまう。
﹁ピニャ殿下、何か可笑しな事でもありましたかな
だ﹂
瀕 死 の
﹁あの娘には剣は効かぬ、弓も効かぬ、斧も槍もトロルの一撃すら効く
そこに居るのはただの小娘ではなく、何かを乗り越えた者だ。
それは皇帝ですらも変わりは無かった。
そのピニャの姿に議員たちは圧倒される。
せる素晴らしい笑みを浮かべた。
ピニャは言葉と共に悟りを開いたかのような清々しさすら感じさ
﹁ああ、ならばあえて言おう。言葉が足らなかったな﹂
﹁⋮⋮言葉が過ぎますぞ
﹂
﹁いや何、知らぬというのはこれほどまでに幸せなのかと思っただけ
?
?
他には何があったか⋮⋮、ああ、そういえば恐ろしい
か は 分 か ら ぬ。聞 け ば 炎 龍 は 一 太 刀 だ と か。空 も 飛 ぶ ぞ
者を癒すぞ
をしていただけのお飾りの皇女はどこへ
﹁こ、これは⋮⋮﹂
それをカーゼル侯爵へと渡した。
そして言いながら懐から一冊の冊子を取り出す。
ピニャは議員たちの様子に気付かず続ける。
﹁これを⋮⋮﹂
議員たちはそう思わずにはいられなかった。
?
1211
?
皇子だけでなく皇女までどうしてしまったのか。あの騎士ごっこ
獣の姿にもなったな﹂
?
﹂
﹁今まで秘めていたことをお許しいただきたいが、それはニホン国に
﹂
見せてくれ
て捕虜となっている人物の一覧です﹂
﹁なんと
﹁わしの甥が出兵していたのだ
出来、あることに気付く。
﹁ピニャ殿下、一つお聞きしたいがこれら全てが捕虜なのですかな
﹁うむ。亜人部隊は抜かれているがな﹂
﹁何と言う数か⋮⋮﹂
?
我が子をこのまま見捨てよと
今この場を支配しているのはピニャと言っても過言は無いだろう。
ピニャの堂に入った姿に皇帝は感心する。
﹁ふむ⋮⋮﹂
致した者が居る様子ですのでその消息もお教え願いたく存じます﹂
﹁父上、講和を急いでいただきたい。それから他にもニホン国から拉
た。
それをヒラリと躱し、ピニャは自らの父、皇帝モルトへと顔を向け
!!?
しかし問題は我らが帝国は彼らの逆鱗に触れてしまった﹂
﹁で、ではどうするのですか
﹂
保 証 さ れ る そ う だ。故 に 彼 ら の 心 配 は 一 先 ず 置 い て お い て ほ し い。
﹁ニホンには奴隷という習慣は無く、身代金の有無に関わらず安全は
差があるという事。
つまりはそれだけの数を無力化されたという事。それだけの戦力
いる者の数は万は越えているように思える。
出兵6万、亜人部隊を含めると相当数に上る。しかし捕虜となって
そう、カーゼル侯爵が気付いたのは捕虜とされている者の数だ。
﹂
その中で、探す者の居ないカーゼル侯爵は冷静であり続けることが
涙を流す者と各々が一喜一憂していく。
探していた名がある事に安堵する者、幾ら名を探しても無いことに
そして奪い合う様にしてその冊子を見ていく。
持つカーゼル侯爵へと砂糖菓子を前にした蟻の如く群がった。
捕虜の一覧だとピニャが告げるのとほぼ同時に議員たちは冊子を
!!
議員の一人がピニャに掴み掛らんばかりに詰めよる。
!?
1212
!
!?
大胆不敵な笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ姿に今までの皇女とい
う肩書だけと言われた様子は微塵も見えはしない。
何がこうもピニャを変えたのか。 そして辿り着くのは当然ニホン国。
なるほど、類を見ない強敵を前にしてピニャは一皮むけるどころか
大いに成長したようだ。
モルトは半分捨て置いた自らの娘に再び関心した。
﹁良かろう、講和を進めるが良い。お主が中心に進めよピニャ﹂
﹁はっ﹂
皇帝の言葉にピニャはすかさず膝を付く。
後ろで騒いでいた議員たちも慌てて姿勢を正した。
﹄
﹁これ以上の戦は帝国に害を齎すのみである。其の方らも早急に対処
せよ﹂
﹃はっ
斯くして、日本と帝国の争いは終わりを見せ和平へと進み始めるこ
ととなった。
ただ、問題があるとすれば今回の会議において少しばかりのすれ違
いがあったことだろうか。
例えば、ピニャは別に成長したのではない。
ピニャを父としてよく知っていたならば皇帝は気づけたのであろ
うが、ピニャは周囲の議員を物ともせず微笑んでいたのではなくここ
最近の経験によって色々と諦めただけなのだ。
顔は確かに微笑んでいたかもしれないが、目をよく見れば遠い目を
していることに気付けたはずだ。
俗に言うレ○プ目である。
他にも本来のピニャから考えられない憮然とした態度に色々と勘
違いされているが、知らぬは本人ばかり。
そして、今回の事で議員たちはピニャの姿に未来を見てしまった。
現実を見、逸早く日本との懸け橋になろうと動いたピニャに議員た
ちは感嘆の声を上げるしかなかった。
実際問題として自らの血族を救うための手立てを持つのはピニャ
1213
!!
のみだ。
議員たちはピニャに頼らざるを得ない。
ピニャの投遣りな態度が奇しくも求めていた講和派を増やすこと
に成功したのだ。
しかし、それを面白く思わない存在が居た。
次兄、第二皇子たるディアボである。
彼は元々兄であるゾルザルが次期皇帝とされていることに疑問を
抱き続けていた。
その為、裏で議員達へと手を回し、自身も元老院議員となっていた。
そして後援者を集め、自身こそが皇帝にふさわしいと思っていた。
そこへ来てのこれである。
急遽元老院が開かれた際は何事かと思ったが、ゾルザルの様子に自
らの時代が来たことを感じたディアボであった。
しかし実際は後から呼ばれたピニャが思わぬ才覚を見せ、周囲を圧
倒して見せた。
これではまずいとディアボは考える。
場は既に講和派が主だ。
そしてその為には仲介役をしてきたピニャが中心となる必要があ
る。皇帝すらもそう口にした。
このままでは帝国を救ったピニャが皇女となる可能性が高い。
ディアボはギチリと噛み締める。
何か、何かないのかと、ディアボは必死に考える。
暫く思考を煮詰めて、ふと思い出した。
以前に怪しげな醜い男が声を掛けてきたことがあった。
その時はあまりのも胡散臭い姿に歯牙にも掛けなかったが、今は贅
沢を言ってられる場合では無い。
それに思い至ったディアボは、苦々しい表情を浮かべながら誰にも
悟られぬようにその場を去った。
1214
◆◆◆
ん⋮、んあ
目が覚める。
って、目が覚めるという事は俺は眠っていたのだろうか
目をシパシパと瞬かせながら、ぼやけていたピントを合わせる。
ふむ、やけに体が軽い。今なら空を飛べそうだ。いや飛べるのか。
それよりもここは何処だろう
﹂
しようかと思った。
﹁ってそうじゃなくて
﹂
﹂
カーテンから光が入ってきてるのは分かるが昼過ぎとかだとどう
ああよかった。
だ﹂
﹁疑問形にしなくてもちゃんとおはようで合ってるよ。今は朝の九時
﹁おや先輩、おはようございます
先輩は書いていた手を止め、こちらへと身体ごと向ける。
類仕事をしていたようだ。
先輩の前にある机には書類があり、俺が目覚めるのを待ちながら書
声のした方を見れば、すぐ近くに先輩が座っていた。
﹁起きたのか
どうやら寝ているのはベッドのようだが⋮⋮。
?
?
止めてもらった筈だ。
その後一体どうなったのだろうか
菅原さんや富田さん栗林さんは無事だろうか
﹁うわふっ、って、何するんすか先輩
﹂
そんなことを考えていると頭に突然衝撃が走った。 ?
自分の事で精いっぱいで、拉致されていた女性とか一緒に来ていた
?
そして薄らとした意識の中で色々殴り飛ばした後、なんとか先輩に
俺はあの女の人を見て暴走したじゃないか。
そうだ、何を寝ぼけたことを言っているのだろうか。
!
!
1215
?
?
?
﹁大丈夫だ。とりあえずは⋮⋮、まぁ、無事に全員脱出したから﹂
突然俺の頭を軽くチョップした後、そう優しく告げる先輩。
何かを言い淀んだ様子だったが、何かあったのだろうか
でも実際に俺はここに居て、先輩もここに居る。
﹂
それに先輩もこんなことで嘘はつかないだろうし、言ってる通りに
無地は無事なのだろう。 ﹁それよりも自分の事を心配しろ。アレの後遺症とかはないのか
﹁一応無い筈っすけど⋮⋮﹂
暴走、俺にとっての狂化。
それ自体にリスクは無い。
俺の能力は感情に左右されてしまう。
しかし今回は突発的な感情の揺れによってなってしまった。
そういう作戦も事前に立てていた。
以 前 に 使 っ た 時 は 理 性 を 吹 き 飛 ば し て も 止 め て く れ る 人 が 居 た。
実際に俺は暴走してしまったのだ。その事実は変わらない。
使うつもりは無かった、なんてのは言い訳に過ぎないだろう。
﹁というか、見られちゃいましたね﹂
ただリスクは無いが、それ以外の代償が大きすぎる。主に周囲の。
?
俺が出来ると思えばできてしまうし、出来ないと思えば簡単なこと
でもできないようになってしまう。
当初はチートを貰ったからと素直に喜んでいた。
しかし次際はどうだ。
俺は痛む頭を押さえながらすかさず下手人へと目を向ける。
すると下手人こと先輩は真剣な目でこちらを見つめていた。
﹁見られたからって何なんだよ。一人辛気臭い顔をして﹂
1216
?
少し能力を使い始めればすぐに気付いてしまう。感情如何で能力
はマイナス方面へも力が働く事は。
﹂
だから日頃から激情を持たない様に気を付けていた。
何するんですか何回も
なのに│││、
﹁って痛
!!
考え込んでいた頭に再び衝撃が走った。それも先程より強く。
!?
﹁いやだからですね、俺は暴走を⋮⋮﹂
﹂
﹁暴走したから何なんだ バーサーカーだから暴走するもんじゃな
いのか
ン叩くんすか
脳細胞が死んじゃうっすよ
﹂
!?
﹁叩けば治るかなって思ってな。というかお前不死身なんだろう
﹂
っ
?
!
﹁確かにそうですけど⋮⋮、あれ、脳細胞もふっかつするのかな
てそれは叩く理由じゃないっすよね
﹂
筈⋮⋮だと思ってたんですけどねぇ⋮⋮って痛 何でそうポンポ
﹁いやまぁそう言われればそうですけど、本来なら理性で抑えられる
?
目先の事に囚われず、事実をしっかり見ようと決めたじゃないか。
俺は前の世界で何を学んだんだ。
に気が回っていなかった。
俺は暴走してしまったという事ばかりに気が向いてあの女性の事
そして同時に恥かしくなってしまう。
してしまう。
俺はその事実を客観的に聞かされたことでつい間の抜けた声を出
そっか。無事だったのか。
﹁あ⋮⋮﹂
してたぞ﹂
女性は助かったんだ。望月紀子さんというらしいが、お前さんに感謝
もちづきのりこ
﹁だから気にするなって言ってるだろうが。それにお前の御陰であの
のに﹂
時とか完全に足手纏いじゃないですか。先輩は俺が守るって言った
﹁でもそれは先輩が止めてくれたからで⋮⋮。それに皇宮から逃げる
殺していないから気にするな。後はこっちで上手く処理するさ﹂
皇子を殴っていた。もしくは栗林がな。それにお前はあの場で誰も
﹁あのなぁ後輩。一つ言っておくがお前がしていなかったら俺があの
て俺は誰に良い訳してるのだろうか。
あ、可愛いってのはナルシ│的な意味じゃなくて比喩表現で⋮⋮っ
なんて先輩だ。可愛い後輩をポンポンと叩くなんて。
!?
?
!
そうして落ち込んでいると今度はポスンと、もはや被り慣れた帽子
1217
?
が乗っていない頭を先輩が撫でてきた。
﹁先に本部へ連絡して彼女について調べてもらった。どうやら望月さ
んが拉致されてから捜索願いが出されていたそうでな。御家族とも
連絡が付いた﹂
﹁そう、ですか。それは良かった﹂
﹁話はそれで終わりじゃないんだよ。あの日、銀座事件が起こった日、
あの場所で望月さんの御家族は行方不明の家族を探すビラを配って
いた﹂
﹁え、でもさっき連絡を取ったって﹂
﹁そう、あの日お前が救った人の中に望月さんの御家族も居たんだよ。
望月さんの事を伝える際に本部の人がお前さんが救ったと告げたら
﹄と言われたそうだ。正義の味方だな﹂
﹃家族で救われたことになります。直接感謝の言葉を伝えたいのです
がどうすればいいですか
﹁は、はは、俺じゃあ正義の味方には役不足っすよ⋮⋮﹂
でも、そうか。暴走してしまったのは変わりないけど、救えていた
のか。
﹁後輩の中で暴走というものがどういうものなのかは知らん。聞いて
な い か ら な。け ど お 前 さ ん が 持 っ て る 力 で 救 え た 命 は 多 い に あ る。
俺だってそうだ。だから辛気臭い顔をせずに胸を張れ﹂
そう言いながら先輩は笑みを浮かべた。
それを見て、俺も釣られてしまう。
﹁はは、ほんと成長しないなぁ俺は。学んだつもりだったのにまた教
えられてしまった﹂
そんな俺の言葉に、先輩はニヤリと笑う。
﹁俺は先輩だからな。教えて当然だ﹂
﹁当然っすか﹂
﹁おう、当然だ﹂
うん、暴走してボコボコにした人には悪いけど、それで救われた人
が居るのなら俺は謝る訳には行かないよな。
俺は正義の味方じゃない。
紅い弓兵の様に割り切れるほど器用でも無い。
1218
?
だから偽善と言われても救いたい人を救いたいと誓ったはずだ。
そうあの子に誓った。
世界が変わっても、俺がやることは変わらない。
﹁すまないっす先輩。ちょっと弱腰になってた﹂
﹁まぁあれだ。とりあえずもう少し俺に暴力のことを話してくれ。上
手く行けば今回の事も良い方向に持って行けるかもしれんしな﹂
﹁はいっす先輩﹂
色々と俺自身分かっていないこともあるから言っていなかったけ
ど、先輩にだけでもやっぱり言っておいた方が良いよな。
数も多いから使う時に言えば大丈夫かななんて思ってたけど、それ
だと今回みたいな場合に対処しきれない。
一つ一つの能力がチートだからと思考が偏っていた。
もっと柔軟に、多種多様な力を持った武器もあるんだから自重せず
に使わないといけないよな。
1219
やるならとことんだ。
﹂
﹁先輩﹂
﹁何だ
だからこそ、少しでも楽しく過ごせるように頑張ろう。
そもそも物語と違って終わりなんてものは無いんだ。
何を以てハッピーエンドかは分からない。
なら、先にやれるだけの事はやっておこう。
かも分からない世界だ。
前の世界と違って、事前知識がある訳じゃない。原作があるかどう
慣れないことはするものじゃない。
そんなの俺らしくないじゃないか。
最近は少し保守的だった気がする。
ここから先、今更だけど自重は無しだ。
俺は改めて決意する。
﹁そっか⋮⋮﹂
﹁俺もっと強くなるよ﹂
?
﹂
1220
﹁ちょっと待って、もう強くならなくてもいいんじゃない
﹁あの、俺の決意に水差さないで下さいっす⋮⋮﹂
?