航空券の手配をしないまま 連絡が取れなくなった旅行

国民生活センター相談情報部
航空券の手配をしないまま
連絡が取れなくなった旅行業者
旅行業者に航空券の手配を申し込み、代金を支払った
ものの航空券の手配はされず、返金を求めたが、連絡
が取れなくなった、という相談事例を紹介する。
収集を行い、旅行業法に基づき第3種旅行業者
相談内容
として、旅行業者の主たる営業所の所在地を管
インターネットで検索して見つけた旅行業者
轄する都道府県に登録があることを確認した。さ
に、往復の国内航空券を約 40,000 円で申し込
らに、同様の相談が寄せられている消費生活セ
み、代金は申し込み当日に、旅行業者の口座に
ンターと情報を共有しつつ、旅行業者が登録し
全額を振り込んだ。旅行業者のホームページに
ている行政の旅行業担当部署
(以下、担当部署)
は、出発の3日前までにeチケットが届くと書
より事業廃止にかかわる情報を把握した。これ
かれていた。しかし、出発2日前になってもチ
らをもとに、次の内容を相談者に伝えた。
ケットが届いていない。旅行業者に催促のメー
①この旅行業者は、既に担当部署において、営
ルを送ったが返信はなく、電話をかけてもつな
業保証金制度による旅行代金の返金の申し立
がらない。しかたなく別の旅行業者でチケット
て手続きの受け付けが始まっている。
②営業保証金制度や手続き内容については、担
を手配した。支払ったお金を返金してほしい。
当部署に問い合わせてほしい。
また、インターネットで検索すると、この旅行
業者について同様の書き込みがあり、詐欺では
③詐欺として扱われるかは警察の判断となるの
ないかとの書き込みも見つけた。詐欺だとして
で、居住地を管轄する警察に問い合わせてほ
警察に届けたほうがよいだろうか。
しい。
なお、相談が寄せられた翌日に、旅行業者が担
(20 歳代 女性 給与生活者)
当部署に廃業届を提出したことが分かった。翌
週、相談者より当センターに電話があり、担当
結果概要
部署に連絡したうえで営業保証金の還付手続き
をするとのことであった。このため本件相談処
相談を受け付けた国民生活センター
(以下、当
理を終了した。
センター)
では、まずこの旅行業者について情報
2016.1
国民生活
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①供託
旅行業者
⑧還付
旅行業協会
供託所
⑦還付請求
①弁済業務
保証金分担金 ②弁済業務
の納付
保証金の
供託
⑥認証
(JATA、ANTA)
⑤認証申し出
④還付の申し立て
⑤還付の権利および
金額の証明
旅行者
⑦弁済
(還付)
④旅行業者の債務不履行
③債務
不履行 ⑥還付請求
(保証社員)
③旅行代金の支払い
②旅行代金
の支払い
旅行業者
供託所
旅行者
登録行政庁
図1 営業保証金制度の概要
図2 弁済業務保証金制度の概要
JATA:㈳日本旅行業協会 ANTA:㈳全国旅行業協会
問題点
手続きの窓口となるのは、旅行業協会
(日本
旅行業協会:JATA、全国旅行業協会:ANTA)
本件では、営業保証金に基づく還付手続きを
相談者が行うことになった。旅行業法*では、営
で、それぞれの団体のホームページで、会員企
業保証金の供託と弁済業務保証金の供託が定め
業の検索機能を備え、保証金制度の手続きをし
られており、それぞれの保証金については次の
ている業者の案内がされている。また、会員を
とおりとなっている。
かたる旅行業者について情報提供しているケー
●営業保証金制度
スもある。
営業保証金制度は、旅行業協会の正会員でな
本件のように、旅行業者に航空券の手配を依
い旅行業者が、廃業届を出したり倒産したりす
頼した場合は、旅行業法に規定された手配旅行
ることにより債務不履行が生じた際に、法務局
の契約となり、旅行業者の定める旅行業約款に
に供託した営業保証金から弁済される制度であ
基づく契約となる。他方、航空券を購入する際
る(図1)。
に航空会社に直接申し込んだ場合は、航空会社
の定める旅客運送約款に基づく航空サービスの
手続きの窓口となるのは登録行政庁になり、
第1種の場合は観光庁、第2種と第3種の場合
契約になる。キャンセルや運航の変更等につい
は都道府県の旅行業担当部署となる。それぞれ
て、どのような取り扱いになるか契約前によく
の登録行政庁では、登録のある旅行業者の一覧
確認することが必要である。さらに前述した保
をホームページに掲載している。また、登録をか
証金制度は、申し出のあった金額が供託された
たる旅行業者について情報提供しているケース
金額を超えた場合、保証金額の範囲内で請求額
もある。
に応じて案分されることとなり、旅行代金全額
●弁済業務保証金制度
が保証されないこともあり得る。
弁済業務保証金制度は、旅行業協会の正会員
航空券に限らず、インターネットを介した通
が、旅行者(消費者)
と旅行業者との取引で発生
販では、
「契約が履行されない」
「契約先と連絡
した債権債務について、旅行業協会が供託した弁
がつかない」といった相談が寄せられる。本件
済業務保証金から弁済される制度である
(図2)
。
のような旅行契約の場合、旅行に行けないこと
だけでなく、付随する宿泊等にも影響する可能
性がある。また、契約先の旅行業者の実状につ
* ウェブ版
「国民生活」2015 年 9 月号「誌上法学講座」第 1 回「旅行業
法の概要と旅行契約の種類」
http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201509_15.pdf
いては確認が難しく、
慎重な契約が求められる。
2016.1
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